植物好き(仮)と麦わらの一味もどき   作:浅学寺のえる

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 この幕間は、ウソップの誕生日に投稿したものです。全編ウソップ視点でお送りします。
 ※モノローグの一人称は〝おれ〟 会話文では、基本的に〝ワシ〟です。


Interlude
〝EARLY DAYS〟


 ──時は戻って、バンジード

   エダが財布を盗まれた丁度その頃

   下町港に停泊しているメリー号にて──

 

 「ヒマだなー、ブルック」

 

 「ヨホホホ。()()()()()()()()()、襲撃は一度だけですからねェ」

 

 「その一度だって、相手は海賊だしなァ。なんつったか……イカ海賊団?」

 

 「えーと、確か〝クラゲ海賊団〟だったかと」

 

 「そう、それだ! 名前の通り、ホネのねェ連中だったぜ」

 

 「スカルジョーク!? ちょっと、ウソップさん! それは私の──」

 

 ははっ、愉快なガイコツだぜ。

 やっぱり海賊なんだから、これくらいノリが良くねーとツマらねェよな。

 あのクラゲ海賊団。ここへは〝貴族〟になるために来たなんて言ってやがったが……

 海賊が貴族なんて夢見てどうすんだって話だ。

 どうせ誰かに騙されてんだろうが……仮に平民の出で貴族になるんだとすりゃ、それは───

 

 「おや、ウソップさん。遠くを見つめてどうしました?」

 

 「いやなに、貴族について少しな」

 

 「ああ先程の。そうそう、実は私〝男爵〟なんです!」

 

 「な、お前もかよ!?」

 

 「ブギーさんの所では〝死体男爵〟なんてあだ名で……アレ? 先ほど、お前()と?」

 

 「また紛らわしい冗談言いやがって……まあ隠す程の事でもねェな。ワシも一応、貴族だ」

 

 「なんですってー!?」

 

 貴族って言っても騎士爵(ナイト)なんて微妙なモンだけどな。

 しかも一代限りって条件だから、ヤソップの奴に何か残る訳でもない。

 ああ、そもそも領地もねーし、もはや役目すらなかったな。

 今となっちゃ、故郷を護った功績として知らぬ間に与えられてた───ただの称号と同じだ。

 

 「ま、それは騎士()()()()の話だ。ワシは、海賊デラマンチャだからな!」

 

 「人に歴史あり。ヨホホホ、楽しいですねェ、人生は」

 

 「わっはっは、歴史って言うならブルックなんて、ワシの2倍生きてるだろ?」

 

 「そうですね……折角、騎士団の話題も出たので私のことも少し───」

 

 「これは驚いた! まさか、本当に海賊をやっていたとは……!」

 

 「ヨホ?」

 

 あん? なんだアイツ。

 ウチの船に勝手に乗り込みやがって……カウボーイハットで顔は見えねェが、服装は絵に描いたようなガンマンだな。

 おれに射撃で挑むってんなら望む所だが、一応忠告しといてやるか。

 

 「そこのお前、一つ言っておくぞ? 引き金に指をかける前に まず──」

 

 「まず命を賭けろか? そいつは断る。生憎とギャンブルは娘に止められてるんでな」

 

 「娘だとォ? あー、もういい。覚悟がねーんなら、帰った帰った」

 

 「久々に会った同志に、つれない事を言うな。()()()()

 

 「んっ!? お前! マスターソン!? ダディ・マスターソンか!」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 昔馴染みのコイツは、かつて同盟国側の騎士だった ダディ・マスターソン。

 当時から射撃の腕じゃ、おれと1・2を争っていた男だ。

 たまに会えば 的当て勝負に興じていたが、何度やっても互いに全弾命中。

 かといって、味方同士での決闘はさすがに御法度だ。

 結局 勝負が着かない内に……おれは頭を怪我して騎士を辞め、

 コイツも数年前に騎士を辞め〝西の大陸〟へ旅立った。なんて話を聞いてたんだが───

 

 「まだコッチに居たのかよ!? しかも、今は()()だと!?」

 

 「それはお互い様だろう」

 

 「ヨホホホ! 騎士から海賊への転身。割といるんですねェ、そんな人」

 

 「いねーよ! そうそうと!」

 

 「いえいえ、何を隠そうこの私も……元・騎士なのです!」

 

 「へー」

 

 「あ、ヒドイ! 信じてませんね!?」

 

 確かにブルックの剣技は騎士団のソレと似てるんだが……なんか違うんだよな?

 ま、おれは剣の方はサッパリなんで良く判らねェが。

 

 「んで? なんでお前は、ドレークの船になんて乗ってんだよ?」

 

 「お前こそ、この時代に〝ピースメイン〟などと……」

 

 「ヨホホホ。まあまあ、お二人とも! 積もる話は、飲みながらということで」

 

 「よし、ラウンジへ来いよマスターソン! お前の好きな〝JEREZ(ヘレス)〟もあるぞ!!」

 

 「そいつは楽しみだ」

 

 そういやコイツと初めて会ったのは、夜中にコッソリ駐屯地を抜け出した先の酒場だったなァ。

 だがもう、あの頃みたいに隠れて飲む必要はねェんだ。

 なんせ、おれ達ゃ海賊だ!! むしろ真っ昼間から酒を飲むのが仕事だぜ!

 

─────────

──────

───

 

 「ハッハッハッ! この船が、いつか言っていた〝夢の船〟だったか!」

 

 「お前こそ、娘のために騎士を辞めたなんて泣かせるじゃねェか……!」

 

 おれと同じく嫁さんに先立たれたコイツは、娘と二人で西の大陸(バリウッド)への移住を決めたらしい。

 銃の腕を活かして金を稼ぐなら、向こうは打って付けなんだと。

 だが、いざ〝船旅〟をと考えれば娘のキャロルが幼すぎたみてェだ。

 海王類もいる海だ。航海中の万が一を考えて、ある程度 娘が成長するまで渡航を見送ることに。

 

 それからは賞金稼ぎをやりながら、気長に成長を待つこと数年……

 今度は海の治安が悪くなり、西への船旅は以前よりも危険極まりないモノになっちまった。

 

 

 「そんな矢先に出会ったのが、私掠撰のドレークだ……」

 

 「『西回り航路で最果てを目指す!』だったか?」

 

 「ヨホホホ、私も知ってます。少し前に話題になりましたねェ」

 

 「おれとキャロルは、途中で下船する〝約束〟だがな」

 

 治安の悪い海なら、いっそ海賊船で渡りゃいいって考えか。

 その上、私掠撰は市民にとって英雄だからな。乗船経験があっても、無闇に罪人扱いはされねェハズだ。

 コイツなりに娘を考えての判断だろうが……どうにも腑に落ちねェんだよな?

 

 「なあ、賞金稼ぎでも十分に食ってけるんだろ? 今さら〝西〟にこだわる必要はねェハズだ」

 

 「ああ! おれも方針を変え、こちらで暮らすと決めていたんだ。くっ、アイツさえ居なければ……!」

 

 「落ち着けって! 誰なんだよ、そいつは?」

 

 「ドレークだ!」

 

 「んん?」

 

 「キャロルがアイツに惚れたせいで、乗船する羽目に……うぅ!」

 

 「おいおい、いつから泣き上戸になった」

 

 「パパ、パパと言ってたあの子が、『オイ、クソ親父。私はドレーク船長と一緒に行くから、オメーとはここまでだ』などと……!」

 

 大変だなー、娘がいるってのも。

 さっき聞いた、大陸へ着いたら下船するって約束も、娘と交わしたモノらしい。

 いい加減、子離れしろって話だが……今のコイツに言っても荒れそうだからなァ。

 

 

 「よし、ブルック! 酒だ! どんどん飲まして、ツラい事を忘れさせてやろうぜ!」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 〜 1時間後 〜

 

 「なっ!? 酒クセェ。なんだコリャ一体!?」

 

 「よォ〜、ナルトォ〜! わっはっは、帰ったのかァ」

 

 「ヨホ、ヨホ、ナルトさんの眉毛。いつも以上に、グルグルしてますねェ〜!」

 

 「してねェよ! 酔っ払いども! まず、そこで寝てるオッサンは誰だよ!?」

 

 「……キャロルゥ。ヒック」

 

 うっぷ。おれ達まで一緒に酔っちまったなァ。

 ナルトの奴、キッチンから調味料を持ち出して急いで行っちまった。

 料理勝負中とか言ってたな? 優勝すりゃ、食材がもらえるとかナントカ。

 どうせ帰ってきたなら、ツマミの一つでも作って欲しかったぜ!

 

 「おン? ブルックー、倉庫に酒がねェぞ〜?」

 

 「ヨホホホ、そこに無ければ無いですー」

 

 「わっはっは、そうか。無いのかァ」

 

 ……マズくね?

 年頃の娘の悩みなんて他人事だと思ってたが、ウチにも怖ェのがいるじゃねェか!?

 チキショウ! 酔いが完全に覚めちまった。

 ナミにバレる前に、どうにか酒を補給しねェと……確実に、しばき倒される!!

 

 だが、どうする!?

 おれの小遣いもトランプ勝負で消えちまったし───そうだ!

 ロビンが置いてってくれた、自由に使っていい金があったハズだ。

 あとは買い出しに行きゃ済む話だが、おれ達は船番を任されてる身だしなァ。

 よし!

 

 「起きろ! マスターソン」ザバァ

 

 「ぶはっ……水か!? なにしやがる、キハーノ!」

 

 「怒るなよ。銃は濡れてねェだろ? それで、一つ頼みがあるんだが──」

 

 コイツだって、相当な量飲んでるんだ。その分、きっちり働いてもらうぜ!

 なにしろ最初から〝(おご)る〟なんて、一言も言ってねェんだからな!!

 

─────────

──────

───

 

 「ダディさん、遅いですね〜」

 

 「千鳥足だったしなァ。だが、金を持ち逃げする様なヤツでもねェし、今は待つしかないな」

 

 急いでたのもあって、ロビンがくれた袋にいくら入ってたのか確認してねェけど。

 足りなきゃ、飲んだ分くらいは自腹で払ってくれんだろ。

 あとは、ナミが戻って来る前に───

 

 「ちょっとー! 副船長いるー? 縄ハシゴ降ろしてよ!」

 

 「ヒッ!?」

 

 「どうしましょう、ウソップさん!? ナミさん と ロビンさん ですよっ!?」

 

 「……ジョッキを持て、ブルック!」

 

 「はい?」

 

 酒の臭いは誤魔化しようがねェ! 飲んでた事は、絶対にバレる。

 だが、酒が尽きてるのさえ隠しとおせりゃ大丈夫なハズだ!!

 ジョッキに水を注いで、まだ酒盛りしてる風に装うんだ。これしか道はねェ……!

 

 「もう! 居るじゃないの。遅いから、エダにハシゴを作ってもらっちゃった!」

 

 「お、おう! 悪ィな。聞こえなかったぜ!」

 

 「ヨホホホ。と、ところで坊ちゃんもいるんですか?」

 

 「オレだよ」

 

 「「んっ?」」

 

 ああ、気配を読んだら確かにエダだな。またロビンに変身してるのか? コイツも好きだねェ。

 おっと、今はそれどころじゃねェんだ!

 

 「うわっ、お酒クサイ! ちょっと、アンタ達! 昼間から飲まないでよね!」

 

 「……わっはっは、ワシらは海賊! 昼から酒も飲むさァ!」

 

 「そうですとも!」

 

 「そうだぞ、ナミさん。海賊はこんなカンジだ。それより、荷物は部屋でいいのか?」

 

 「ううん。服も量が多いから、いったん倉庫に……」

 

 「いっ!? よーし、エダ。荷物はワシらが運んでやろう! こういうのは男に任せろ!」

 

 「オレも男だっ!」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ふィー。どうにか、倉庫を見られずに済んだぜ。

 だが、この2人が船に居座ってたら非常にマズイ。今、マスターソンが帰ってきたらお終いだ!

 都合よく、また買い出しにでも行ってくれねーかな……ん?

 

 

 「なぁエダ。ワシが頼んだ例の素材はどうした?」

 

 「あーっ! 完全に忘れてた。ゴメン!」

 

 「なにィ!? 今すぐ買ってくるんだ! ナミを連れて!」

 

 「素材って何よ? お腹空いてるし、何か食べてからでもいいでしょ?」

 

 マズい! つまめるモンも、全部食っちまってるんだ。

 どうにかコイツらを買い出しへ向かわせねェと!?

 

 「そ、そうだ! せっかくなんだし、外で食って来いよ。ほら、デートってヤツだ!」

 

 「なんか怪しいわね……」

 

 「デートかぁ。ならオレも部屋で着替えてくるよ」

 

 「はて、着替え? 坊ちゃんは、ポンッと着替えられるでしょう?」

 

 「それは分身の時だけなんだ。実は今──」

 

 なんかややこしいが……正真正銘、ロビンの身体でロビンの服を着てる状態って訳か。

 平然としてるけど、羞恥心とかないのかねコイツは。

 

 「だから部屋に行きたいんだ。どいてくれブルック」

 

 「いえ、どきません! 一つ、重要な確認をせねばなりませんから」

 

 「確認?」

 

 「先ほど街で、ロビンさんの服一式を、新調したんですよね?」

 

 「そうだけど?」

 

 「ヨホホホ、すると今は穿()いてるんですね! でしたら、パンツ見せてもらっても──」

 

 ブルックが消えた!?

 あ、ナミに殴られたのか……。く、スゲェ威力だが、この流れに乗ればきっと……!

 

 「よーし、エダ! ワシが頼んだ買い物を忘れた罰として、ここで着替えろ〜!」

 

 「ふんっ!!」ドゴォ

 

 「セクハラするからだぞ副船長……」

 

 「行くわよエダ。外で ご飯でも食べましょ?」

 

 「あ、ハイ」

 

 痛ェ……ちょっと悪フザケしただけで、この仕打ちだ。

 酒が無いことまでバレてたらと思うと、おそろしいぜ……。

 

 

 「ヨホホホ、ナミさんは怖いですねェ」

 

 「ああ。だが、ブルックの機転で酒の件だけはバレずに済んだ」

 

 「はて、機転とは?」

 

 「なんでもねェ。お前は、そういう奴だったな……」

 

 

 「買ってきたぞ。キハーノ!」

 

 お、マスターソンが帰ってきた! いいタイミングだ!!

 ってオイ!? 荷車に大量のタルを積んでるが、まさかアレ全部酒か!?

 あのヤロー、どんだけ買ってやがんだ! なんか、隣に猫っぽい奴もいるしよォ!!

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 「お前さん、ファウストって言うのか。ミンク族だってのがバレて、騎士団をクビにねェ……」

 

 てっきり猫の被り物かと思いきや、ミンク族とはなァ。

 コイツはホーキンスって男に拾われて、一緒に旅をしてるらしい。

 ドレークとホーキンスは同盟を組んで西へ向かう同志。その船員たちも、互いに交流を持ってる。

 元・騎士の縁からか、マスターソンとは何かと一緒になる機会が多いみてェだ。

 

 

 「酒の量が多かったのでな、手の空いていたファウストに手伝ってもらったんだ」

 

 「……」

 

 「ヨホホホ! 無口な方ですねェ〜」

 

 「そもそも、なんでこんな大量に買ってきやがった!」

 

 「お前が言ったんだろう。安酒でいいから、とにかく量を揃えろと」

 

 「にしても、多すぎるだろ!?」

 

 「お前の寄越した100万ベリー分、きっちりと買ってきたんだ。これで借りは返したぞ」

 

 「ひゃく、まん……!?」

 

 ロビンの置いてった金って、そんなにあったのかよ!?

 チキショウ! 安酒でいいなんて言わなきゃ、それなりの酒がいい塩梅に買えたじゃねェか!

 この量は流石に多すぎるぜ。船に積めなくもないが、まだ食料と弾薬も来る予定だしなァ。

 

 仕方ねェ……!

 

 

 「え〜、こうして元・騎士が揃ったのも何かの縁だ!」

 

 「ヨホ?」「何を言っているキハーノ?」「……」

 

 「酒は大量にあんだ! もう一度、酒宴と行こうぜ!!」

 

─────────

──────

───

 

 わっはっは、安酒は酔いが回るのも早いぜェ〜。

 騎士なんてお堅い連中が多いってのに、コイツらはみんなノリが良くて楽しいな。

 ファウストのやつも、酒が入ると良く喋る面白ェ奴だったし。

 いつの間にか宴に混じってた、この鳥もいい飲みっぷりで気に入ったぜ!

  クエ〜!

 酒の量も程よく減ってきたし、あとは──ん?

 

 「キハーノ。気付いたか?」

 

 「ああ。お客さんだ」

 

 「どうしたんです? お二人とも?」

 

 「向こうの家の屋根と、高台の物陰に1人づつ狙撃手が……あとは歩兵が20人って所か?」

 

 「えぇ!? 一体いつの間に!?」

 

 「アイツら、有利な高台に陣取ったと思って安心してやがるぜ」

 

 「呑気な連中だ。〝長鼻〟を一丁借りるぞ、キハーノ」

 

 「おう。屋根の上にいる奴は任せるぜ、マスターソン」

 

 おれ達が揃ってる船を狙撃しようだなんて、敵も運のねェ奴らだ。

 

 ダーン!
  
 ダーン!
     

 腕は衰えてねェな、マスターソン。同時に命中だ。

 おれの相手はカエルの格好をした変な女だったが、銃を向けてくる以上容赦はしねェ。

 きっちりと、お前の(たましい)を撃ち抜かせてもらったぜ。

 

 「おっと、銃声が開戦の合図になっちまったな。ゾロゾロと敵が出てきやがった」

 

 「どうするキハーノ? 戦術だけで言えば、連中に大砲をブチ込めばそれで終わりだが……」

 

 「〝私掠撰〟と〝ピースメイン〟が町を壊しちゃ、船長のメンツが潰れちまうからな!」

 

 「ヨホホホ、白兵戦ですね!」

 

 「ああ。酔い冷ましにゃ、丁度いいだろ! ブルック、ファウスト。前衛を頼む!」

 

 「待てキハーノ。ファウストは後衛向きだ」

 

 「そうか。じゃあ頼んだぜ! ブルック! 援護は任せろ!!」

 

 「あれ? 私1人だけ……?」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 「ぐはっ」

 

 「ゼェ、ゼェ、酔い冷ましの運動にしては、激し過ぎです!」

 

 やるじゃねェか、ブルック! おれ達3人で援護もしたが、ほぼ1人で全滅させちまった。

 それにしても、襲ってきた連中は一体なんなんだ?

 装備を見る限りだと、街のゴロツキじゃねェよなァ? かといって、警察や守備隊っていうにはガラが悪すぎる。

 

 

 「どうした、キハーノ?」

 

 「コイツらの装備が気になってな」

 

 「なかなか良い物を使ってるな。鹵獲(ろかく)しておくか?」

 

 「はっはっ! ここは海賊らしく、ぶんどるって言い方が正解だぜ?」

 

 だがまあ、ウチはピースメインだ。

 〝モーガニア〟以外から略奪したら、船長に顔向けできねェからな。

 戦利品は、マスターソン と ファウストで分けてくれ。

 剥ぎ取った装備を運ぶくらいは手伝ってやるよ。

 

 

 「ヨホホ! 敵さんの山が、一つ二つと」

 

 「おぞましい光景だな。別に死体って訳でもねーのによ……」

 

 「演奏で敵を眠らせて無力化とは。味方でなければ、恐ろしい技だ」

 

 「いえ、眠らない人も割と多いんです。私も、さらに腕を磨かなければいけませんね!」

 

 それは演奏の腕か? それとも剣技の方か?

 さっき、眠らなかった敵に使った剣技……あれは間違いなく、騎士団仕込みのモノだ。

 剣の苦手なおれでも知ってる有名な技〝ラバンドゥロル〟だ。本人は〝鼻唄ナントカ切り〟なんて言ってたがな。

 それにしても、おそろしい早ワザだった。おれでなきゃ、見逃し───ん?

 

 「おいおい、また一団の登場かよ。第二陣か? さっきのとは、若干 毛色が違うようだが」

 

 「! あの男は、異端審問官(インクイジター)!?」

 

 「知ってるのか、ブルック?」

 

 「ええ、少し因縁がありまして」

 

 「異端審問官(インクイジター)、能力者狩りのエキスパート集団か」

 

 社会に潜んだ能力者を見つけ出し、どこかへ監禁する連中だ。

 捕まった能力者は、生かさず殺さずで寿命が尽きるまで拷問を受け続ける……胸クソ悪ィ話だぜ、まったく。

 

 

 「これは丁度いい。騎士団の面汚しが勢揃いしてるジャナイ」

 

 「なんだコイツ? やけにデケェな」

 

 「油断しないで下さい、ウソップさん! この男は、空手が盛んなある島の〝王者〟……!」

 

 「よく覚えてたなガイコツ。そう、おれは〝ボクシングチャンピオン〟!!」

 

 「いや、空手やれよ!」ビシっ

 

 「敵のペースに飲まれるな、キハーノ! 手練れも何人かいる」

 

 「なら、()()()()は任せたぜ、マスターソン」

 

 「まかせておけ、得意分野だ」

 

 さすが、30丁拳銃のダディ・マスターソン。集団を相手取るのはお手のものだな。

 一度に使うのは2丁なんだが、リロードせずに次から次へと銃を取り替える戦法だ。

 まったく、贅沢な銃の使い方だぜ。

 

 おれはアイツみたいに連射で無双するタイプじゃない。

 なにしろ、おれのいた騎士団じゃ弾薬が自腹だったからな! 自然と節約思考にもなる。

 だから限られた弾数でいかに勝利するかを念頭に置いて、戦場を見極めなくちゃならない。

 

 現在……ブルックは因縁があるっていう、ボクシング野郎と戦いだしてるな。

 その戦闘に横槍が入らないよう、ファウストが上手く援護に入ってる。ありゃ、電気か?

 マスターソンは早くも敵を半分近く掃討してやがる。

 だったら、この戦場でおれの役目はやっぱり──

 

 「見たところ、お前が一番強そうだな」

 

 「フォー。フォー?」

 

 「他の連中は黒服なのに、お前さんだけ違う。指揮官か何かか?」

 

 「ち〜〜こ〜〜く〜〜し〜〜た〜〜……。だ〜〜け〜〜〜」

 

 「長ェよ! 最初のヤツらの仲間ってことで、結局 敵なんだろ!? とにかく、ワシが相手だ!」

 

 トロい野郎だぜ。武器は金属バットしかねェようだし、距離さえあれば狙撃手の敵じゃねェな。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

  カッキーン!

 

 「うぉー!? 危ねェ!?」

 

 「フォーー」

 

 なんつー奴だ!? 銃弾をバットで打ち返しやがった!?

 〝見聞色〟で避けなきゃ、テメェの弾で脳天ぶち抜かれるトコだったぜ!

 コイツ、言動はトロいが。反応速度はトンデモなく速ェ!

 おそらく銃口の向きから弾道を読んで、おれへ向かって飛ぶよう正確に打ち返してやがる。

 もしかしたら、ソッチに全ての集中力を使ってるから、言動がトロいのかもな。

 

 「苦戦してるな、キハーノ?」

 

 「おいおい、他の連中はもう全部片付いてんのかよ」

 

 「ヨホホホホ、ファウストさん! 一騎討ちを見届けて頂き、ありがとうございます!」

 

 「……」コクリ

 

 ボクサーの手足と、その周辺が凍ってやがる。

 どんな因縁かは知らねェが、キッチリと片をつけたんだなブルック。

 

 

 「敵は銃弾を打ち返すカウンタータイプか。手伝ってやろうか?」

 

 「待て待て。万が一、お前の30丁連射を跳ね返されたら全滅しちまうだろ!」

 

 「では、私が……」

 

 「いいから、ここは任せとけ。お前らは先に祝杯でもあげてろよ」

 

 狙撃手の天敵みたいな相手だが、攻略の仕方はいくつかある。

 奴は巨体の割に、その身体を支える足は細い──まずは、そこから崩す!

  ダーンッ! チュィィン!

 

 「フォ!?」

 

 「ほう、跳弾か」

 

 「ヤソップ(せがれ)の真似事だがな。さすがに、跳弾までは読み切れねェようで安心したぜ」

 

 「フォーーー」

 

 「膝をついたな。コイツでとどめだ! 打ち返せるもんなら、打ってみろ!!」

 

 「マズイです、ウソップさん! 相手は、あの体勢で打ち返す気ですよ!?」

 

 「大した野郎だが───()()の勝ちだ」

 

  ピシャン!

 

 必殺〝タバスコ星〟ってな。

 パチンコで打ち出した、強い衝撃で割れる〝特製弾〟。だから、打っても打たなくてもアウトだ。

 足をやられちゃ、避けることも出来ねェしな。

 さすがのアイツも、タバスコを顔面に浴びれば のたうち回るんだな。ゆっくりとだが。

 

 にしても、ナルトが唯一持っていかなかった調味料(タバスコ)……

 遊び心と酒の勢いで〝弾〟を作ってみたが、まさか役に立つとはなァ。

 

 「フォーー、フォー……ォ」

 

 「あの方、ゆっくりと気絶したようです」

 

 「どんな気絶の仕方だよ!」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 「オイ、クソ親父。こんなとこで飲んでたのかよ!?」

 

 「キャロル〜!! 迎えに来てくれたのかァい?」

 

 「ちげーよバカ! 船長の指示で、船を下町港まで移動させただけだ!!」

 

 あれから祝勝がてらに軽く飲み直してたら、マスターソンの娘が──

 いや、ドレークの船がやってきた。遅れてきたもう一隻は、ホーキンスの船か?

 中層に隣接してる〝貿易港〟の方へ停めてたらしいが、街で気掛かりな事があって移動してきたんだと。

 

 「おいオッサン。ウチの親父が世話んなったな」

 

 「わっはっはっ! 口は悪ィが、いい娘じゃねーかマスターソン!」

 

 「当たり前だ! キャロルゥー、パパと一緒に船へ帰ろうかァ〜」

 

 「いつまでも気色悪ィ絡み方すんじゃねェよ……まったく。ほら、ちゃんと歩けよ」

 

 なんだよ。話で聞いてたより、仲いいじゃねェか。

 マスターソンとは思わぬ形で再会したが、今日は意外な一面も見れて楽しかったぜ。

 

 

 「それじゃ、おれ達は帰る。またな、キハーノ」

 

 「あばよ、オッサン!」

 

 「おう! 西へ行っても仲良くしろよ、お前らァ!」

 

 「おっと、そうだった。言い忘れてたが、先ほど買い出しの途中で〝クリケット〟を見かけた」

 

 「クリケット!?」

 

 まさか、おやっさん までこの街にいるとはなァ。懐かしいなー。

 そう、あれは───

 

 「ウソップにゃん! 聞いて欲しいニャー」

 

 「お、おう。どうしたファウスト?」

 

 「オイラ実は、元々は〝白ねこ〟だったニャ。でも突然〝黒ねこ〟にニャっちまって!」

 

 いや、意味わからん。

 おれの回想を邪魔すんなよ。お前も、もうホーキンスの船に帰れ!

 

 「ウソップさん! 見ててください、私の頭!」

 

 「ぶっ! ブルック、お前!? 帽子の下はツルッパゲだったのかよ!?」

 

 「ヨホホ、恥ずかしながら。ですがそれも今日まで! 先ほど、あの男から()()()()()このアフロを──装・着〜!」

 

 「んん!? カツラを被ったって事か?」

 

 「いえ、ちゃんとくっ付いてますとも! ほら!」

 

 いや、おかしいだろ!? 第一、アフロを取り返したって何だよ!?

 さっきの教会ボクサーにアフロを取られてたのか?

 どっちにしろ、一度切り離した〝髪〟がくっ付くワケ……

 

 「強いんです。毛根」

 

 「どんな毛根だ!? そもそも、白骨に毛根ねーだろっ!」

 

 「ヨホホホ! 今日は最高の日です。一つ演奏でもしたいですねェ。何かリクエストあります?」

 

 「なんだよ藪から棒に。だが、まあ聴かせてくれるって言うならファミ……」

 

 「聞いてください〝眠り歌・フラン〟

 

 「おい! リクエストはどう、し……た……ぐー」

 

─────────

──────

───

 

 おやっさーん! クリケットのおやっさーん! なあ、もっとノーランドの話聞かせてくれよォ!

 

 ──また今度だ、ウソップ。おれァ、そろそろロマンを探しに海へ出なきゃならねェからな。

 

 なんだよー! ケチ!

           ブチッ

 ──そう怒るな。この〝栗〟をお前に預ける。いつか必ず返しに来い、立派な……

 

 

 「……プさん! ウソップさん、起きて下さい!!」

 

 「んあ? ブルック?」

 

 「坊ちゃん達が、帰って来ましたよ!」

 

 変な夢を見ちまったぜ。

 なんなんだ、あの捏造された少年時代は!

 よく考えたら、クリケットなんて現実じゃ会ったコトねーし!

 おやっさんに会ったのは、おれが頭をやられた時の妄想世界だからな。

 

 ロビンから聞いた物語とやたらと似てやがるから、最近よく思い出すんだよなァ。

 そういや、さっき戦った敵も見覚えがあったなような? モグラと犬もいた気がするが……

 

 

 「おや? 坊ちゃん と ナミさん。それにもう1人、女性がいますね?」

 

 「新しい仲間か? お前、パンツを見せろとか言うんじゃねェぞ?」

 

 「ヨホ!? 私の楽しみを奪わないで下さい!?」

 

 あの娘も見覚えあるんだよなァ……ダメだ。おかしな夢のせいで記憶が混乱してるぜ。

 そもそも、どっから夢だったんだ?

 眠り歌を聞く前から……黒ねこになったとか、アフロの装着とか、色々とおかしかったよな?

 やたら口が悪ィマスターソンの娘も、宴に紛れてた変な鳥も、エダがロビンに変身してたのも、全部夢か?

 

 

 「あ、ブルック! やっぱ帽子の下はアフロだったんだな!」

 

 「おや気付いてましたか! さすがは坊ちゃん!」

 

 「ガイコツが動いてる!? それにアフロ!?」

 

 「初めましてお嬢さん。ところで、パン……」

 

 おーおー、せっかく忠告してやったのに。

 ありゃ数秒後に、ナミに殴られるな。見聞色を使わなくても分かるぜ。

 

 気付けばいつの間にか、すっかり日が暮れちまってらァ。船番も無事に終了だな。

 酒のせいもあって、どこからが夢なのか分からねェままだが───これだけは嘘じゃねェ!

 

 おれも もう、立派な海賊〝ウソップ・デラマンチャ〟って事だ。偽名だけどな!


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