※モノローグの一人称は〝おれ〟 会話文では、基本的に〝ワシ〟です。
〝EARLY DAYS〟
──時は戻って、バンジード
エダが財布を盗まれた丁度その頃
下町港に停泊しているメリー号にて──
「ヒマだなー、ブルック」
「ヨホホホ。
「その一度だって、相手は海賊だしなァ。なんつったか……イカ海賊団?」
「えーと、確か〝クラゲ海賊団〟だったかと」
「そう、それだ! 名前の通り、ホネのねェ連中だったぜ」
「スカルジョーク!? ちょっと、ウソップさん! それは私の──」
ははっ、愉快なガイコツだぜ。
やっぱり海賊なんだから、これくらいノリが良くねーとツマらねェよな。
あのクラゲ海賊団。ここへは〝貴族〟になるために来たなんて言ってやがったが……
海賊が貴族なんて夢見てどうすんだって話だ。
どうせ誰かに騙されてんだろうが……仮に平民の出で貴族になるんだとすりゃ、それは───
「おや、ウソップさん。遠くを見つめてどうしました?」
「いやなに、貴族について少しな」
「ああ先程の。そうそう、実は私〝男爵〟なんです!」
「な、お前もかよ!?」
「ブギーさんの所では〝死体男爵〟なんてあだ名で……アレ? 先ほど、お前
「また紛らわしい冗談言いやがって……まあ隠す程の事でもねェな。ワシも一応、貴族だ」
「なんですってー!?」
貴族って言っても〝
しかも一代限りって条件だから、ヤソップの奴に何か残る訳でもない。
ああ、そもそも領地もねーし、もはや役目すらなかったな。
今となっちゃ、故郷を護った功績として知らぬ間に与えられてた───ただの称号と同じだ。
「ま、それは騎士
「人に歴史あり。ヨホホホ、楽しいですねェ、人生は」
「わっはっは、歴史って言うならブルックなんて、ワシの2倍生きてるだろ?」
「そうですね……折角、騎士団の話題も出たので私のことも少し───」
「これは驚いた! まさか、本当に海賊をやっていたとは……!」
「ヨホ?」
あん? なんだアイツ。
ウチの船に勝手に乗り込みやがって……カウボーイハットで顔は見えねェが、服装は絵に描いたようなガンマンだな。
おれに射撃で挑むってんなら望む所だが、一応忠告しといてやるか。
「そこのお前、一つ言っておくぞ? 引き金に指をかける前に まず──」
「まず命を賭けろか? そいつは断る。生憎とギャンブルは娘に止められてるんでな」
「娘だとォ? あー、もういい。覚悟がねーんなら、帰った帰った」
「久々に会った同志に、つれない事を言うな。
「んっ!? お前! マスターソン!? ダディ・マスターソンか!」
昔馴染みのコイツは、かつて同盟国側の騎士だった ダディ・マスターソン。
当時から射撃の腕じゃ、おれと1・2を争っていた男だ。
たまに会えば 的当て勝負に興じていたが、何度やっても互いに全弾命中。
かといって、味方同士での決闘はさすがに御法度だ。
結局 勝負が着かない内に……おれは頭を怪我して騎士を辞め、
コイツも数年前に騎士を辞め〝西の大陸〟へ旅立った。なんて話を聞いてたんだが───
「まだコッチに居たのかよ!? しかも、今は
「それはお互い様だろう」
「ヨホホホ! 騎士から海賊への転身。割といるんですねェ、そんな人」
「いねーよ! そうそうと!」
「いえいえ、何を隠そうこの私も……元・騎士なのです!」
「へー」
「あ、ヒドイ! 信じてませんね!?」
確かにブルックの剣技は騎士団のソレと似てるんだが……なんか違うんだよな?
ま、おれは剣の方はサッパリなんで良く判らねェが。
「んで? なんでお前は、ドレークの船になんて乗ってんだよ?」
「お前こそ、この時代に〝ピースメイン〟などと……」
「ヨホホホ。まあまあ、お二人とも! 積もる話は、飲みながらということで」
「よし、ラウンジへ来いよマスターソン! お前の好きな〝
「そいつは楽しみだ」
そういやコイツと初めて会ったのは、夜中にコッソリ駐屯地を抜け出した先の酒場だったなァ。
だがもう、あの頃みたいに隠れて飲む必要はねェんだ。
なんせ、おれ達ゃ海賊だ!! むしろ真っ昼間から酒を飲むのが仕事だぜ!
「ハッハッハッ! この船が、いつか言っていた〝夢の船〟だったか!」
「お前こそ、娘のために騎士を辞めたなんて泣かせるじゃねェか……!」
おれと同じく嫁さんに先立たれたコイツは、娘と二人で〝
銃の腕を活かして金を稼ぐなら、向こうは打って付けなんだと。
だが、いざ〝船旅〟をと考えれば娘のキャロルが幼すぎたみてェだ。
海王類もいる海だ。航海中の万が一を考えて、ある程度 娘が成長するまで渡航を見送ることに。
それからは賞金稼ぎをやりながら、気長に成長を待つこと数年……
今度は海の治安が悪くなり、西への船旅は以前よりも危険極まりないモノになっちまった。
「そんな矢先に出会ったのが、私掠撰のドレークだ……」
「『西回り航路で最果てを目指す!』だったか?」
「ヨホホホ、私も知ってます。少し前に話題になりましたねェ」
「おれとキャロルは、途中で下船する〝約束〟だがな」
治安の悪い海なら、いっそ海賊船で渡りゃいいって考えか。
その上、私掠撰は市民にとって英雄だからな。乗船経験があっても、無闇に罪人扱いはされねェハズだ。
コイツなりに娘を考えての判断だろうが……どうにも腑に落ちねェんだよな?
「なあ、賞金稼ぎでも十分に食ってけるんだろ? 今さら〝西〟にこだわる必要はねェハズだ」
「ああ! おれも方針を変え、こちらで暮らすと決めていたんだ。くっ、アイツさえ居なければ……!」
「落ち着けって! 誰なんだよ、そいつは?」
「ドレークだ!」
「んん?」
「キャロルがアイツに惚れたせいで、乗船する羽目に……うぅ!」
「おいおい、いつから泣き上戸になった」
「パパ、パパと言ってたあの子が、『オイ、クソ親父。私はドレーク船長と一緒に行くから、オメーとはここまでだ』などと……!」
大変だなー、娘がいるってのも。
さっき聞いた、大陸へ着いたら下船するって約束も、娘と交わしたモノらしい。
いい加減、子離れしろって話だが……今のコイツに言っても荒れそうだからなァ。
「よし、ブルック! 酒だ! どんどん飲まして、ツラい事を忘れさせてやろうぜ!」
〜 1時間後 〜
「なっ!? 酒クセェ。なんだコリャ一体!?」
「よォ〜、ナルトォ〜! わっはっは、帰ったのかァ」
「ヨホ、ヨホ、ナルトさんの眉毛。いつも以上に、グルグルしてますねェ〜!」
「してねェよ! 酔っ払いども! まず、そこで寝てるオッサンは誰だよ!?」
「……キャロルゥ。ヒック」
うっぷ。おれ達まで一緒に酔っちまったなァ。
ナルトの奴、キッチンから調味料を持ち出して急いで行っちまった。
料理勝負中とか言ってたな? 優勝すりゃ、食材がもらえるとかナントカ。
どうせ帰ってきたなら、ツマミの一つでも作って欲しかったぜ!
「おン? ブルックー、倉庫に酒がねェぞ〜?」
「ヨホホホ、そこに無ければ無いですー」
「わっはっは、そうか。無いのかァ」
……マズくね?
年頃の娘の悩みなんて他人事だと思ってたが、ウチにも怖ェのがいるじゃねェか!?
チキショウ! 酔いが完全に覚めちまった。
ナミにバレる前に、どうにか酒を補給しねェと……確実に、しばき倒される!!
だが、どうする!?
おれの小遣いもトランプ勝負で消えちまったし───そうだ!
ロビンが置いてってくれた、自由に使っていい金があったハズだ。
あとは買い出しに行きゃ済む話だが、おれ達は船番を任されてる身だしなァ。
よし!
「起きろ! マスターソン」ザバァ
「ぶはっ……水か!? なにしやがる、キハーノ!」
「怒るなよ。銃は濡れてねェだろ? それで、一つ頼みがあるんだが──」
コイツだって、相当な量飲んでるんだ。その分、きっちり働いてもらうぜ!
なにしろ最初から〝
「ダディさん、遅いですね〜」
「千鳥足だったしなァ。だが、金を持ち逃げする様なヤツでもねェし、今は待つしかないな」
急いでたのもあって、ロビンがくれた袋にいくら入ってたのか確認してねェけど。
足りなきゃ、飲んだ分くらいは自腹で払ってくれんだろ。
あとは、ナミが戻って来る前に───
「ちょっとー! 副船長いるー? 縄ハシゴ降ろしてよ!」
「ヒッ!?」
「どうしましょう、ウソップさん!? ナミさん と ロビンさん ですよっ!?」
「……ジョッキを持て、ブルック!」
「はい?」
酒の臭いは誤魔化しようがねェ! 飲んでた事は、絶対にバレる。
だが、酒が尽きてるのさえ隠しとおせりゃ大丈夫なハズだ!!
ジョッキに水を注いで、まだ酒盛りしてる風に装うんだ。これしか道はねェ……!
「もう! 居るじゃないの。遅いから、エダにハシゴを作ってもらっちゃった!」
「お、おう! 悪ィな。聞こえなかったぜ!」
「ヨホホホ。と、ところで坊ちゃんもいるんですか?」
「オレだよ」
「「んっ?」」
ああ、気配を読んだら確かにエダだな。またロビンに変身してるのか? コイツも好きだねェ。
おっと、今はそれどころじゃねェんだ!
「うわっ、お酒クサイ! ちょっと、アンタ達! 昼間から飲まないでよね!」
「……わっはっは、ワシらは海賊! 昼から酒も飲むさァ!」
「そうですとも!」
「そうだぞ、ナミさん。海賊はこんなカンジだ。それより、荷物は部屋でいいのか?」
「ううん。服も量が多いから、いったん倉庫に……」
「いっ!? よーし、エダ。荷物はワシらが運んでやろう! こういうのは男に任せろ!」
「オレも男だっ!」
ふィー。どうにか、倉庫を見られずに済んだぜ。
だが、この2人が船に居座ってたら非常にマズイ。今、マスターソンが帰ってきたらお終いだ!
都合よく、また買い出しにでも行ってくれねーかな……ん?
「なぁエダ。ワシが頼んだ例の素材はどうした?」
「あーっ! 完全に忘れてた。ゴメン!」
「なにィ!? 今すぐ買ってくるんだ! ナミを連れて!」
「素材って何よ? お腹空いてるし、何か食べてからでもいいでしょ?」
マズい! つまめるモンも、全部食っちまってるんだ。
どうにかコイツらを買い出しへ向かわせねェと!?
「そ、そうだ! せっかくなんだし、外で食って来いよ。ほら、デートってヤツだ!」
「なんか怪しいわね……」
「デートかぁ。ならオレも部屋で着替えてくるよ」
「はて、着替え? 坊ちゃんは、ポンッと着替えられるでしょう?」
「それは分身の時だけなんだ。実は今──」
なんかややこしいが……正真正銘、ロビンの身体でロビンの服を着てる状態って訳か。
平然としてるけど、羞恥心とかないのかねコイツは。
「だから部屋に行きたいんだ。どいてくれブルック」
「いえ、どきません! 一つ、重要な確認をせねばなりませんから」
「確認?」
「先ほど街で、ロビンさんの服一式を、新調したんですよね?」
「そうだけど?」
「ヨホホホ、すると今は
ブルックが消えた!?
あ、ナミに殴られたのか……。く、スゲェ威力だが、この流れに乗ればきっと……!
「よーし、エダ! ワシが頼んだ買い物を忘れた罰として、ここで着替えろ〜!」
「ふんっ!!」ドゴォ
「セクハラするからだぞ副船長……」
「行くわよエダ。外で ご飯でも食べましょ?」
「あ、ハイ」
痛ェ……ちょっと悪フザケしただけで、この仕打ちだ。
酒が無いことまでバレてたらと思うと、おそろしいぜ……。
「ヨホホホ、ナミさんは怖いですねェ」
「ああ。だが、ブルックの機転で酒の件だけはバレずに済んだ」
「はて、機転とは?」
「なんでもねェ。お前は、そういう奴だったな……」
「買ってきたぞ。キハーノ!」
お、マスターソンが帰ってきた! いいタイミングだ!!
ってオイ!? 荷車に大量のタルを積んでるが、まさかアレ全部酒か!?
あのヤロー、どんだけ買ってやがんだ! なんか、隣に猫っぽい奴もいるしよォ!!
「お前さん、ファウストって言うのか。ミンク族だってのがバレて、騎士団をクビにねェ……」
てっきり猫の被り物かと思いきや、ミンク族とはなァ。
コイツはホーキンスって男に拾われて、一緒に旅をしてるらしい。
ドレークとホーキンスは同盟を組んで西へ向かう同志。その船員たちも、互いに交流を持ってる。
元・騎士の縁からか、マスターソンとは何かと一緒になる機会が多いみてェだ。
「酒の量が多かったのでな、手の空いていたファウストに手伝ってもらったんだ」
「……」
「ヨホホホ! 無口な方ですねェ〜」
「そもそも、なんでこんな大量に買ってきやがった!」
「お前が言ったんだろう。安酒でいいから、とにかく量を揃えろと」
「にしても、多すぎるだろ!?」
「お前の寄越した100万ベリー分、きっちりと買ってきたんだ。これで借りは返したぞ」
「ひゃく、まん……!?」
ロビンの置いてった金って、そんなにあったのかよ!?
チキショウ! 安酒でいいなんて言わなきゃ、それなりの酒がいい塩梅に買えたじゃねェか!
この量は流石に多すぎるぜ。船に積めなくもないが、まだ食料と弾薬も来る予定だしなァ。
仕方ねェ……!
「え〜、こうして元・騎士が揃ったのも何かの縁だ!」
「ヨホ?」「何を言っているキハーノ?」「……」
「酒は大量にあんだ! もう一度、酒宴と行こうぜ!!」
わっはっは、安酒は酔いが回るのも早いぜェ〜。
騎士なんてお堅い連中が多いってのに、コイツらはみんなノリが良くて楽しいな。
ファウストのやつも、酒が入ると良く喋る面白ェ奴だったし。
いつの間にか宴に混じってた、この鳥もいい飲みっぷりで気に入ったぜ!
クエ〜!
酒の量も程よく減ってきたし、あとは──ん?
「キハーノ。気付いたか?」
「ああ。お客さんだ」
「どうしたんです? お二人とも?」
「向こうの家の屋根と、高台の物陰に1人づつ狙撃手が……あとは歩兵が20人って所か?」
「えぇ!? 一体いつの間に!?」
「アイツら、有利な高台に陣取ったと思って安心してやがるぜ」
「呑気な連中だ。〝長鼻〟を一丁借りるぞ、キハーノ」
「おう。屋根の上にいる奴は任せるぜ、マスターソン」
おれ達が揃ってる船を狙撃しようだなんて、敵も運のねェ奴らだ。
腕は衰えてねェな、マスターソン。同時に命中だ。
おれの相手はカエルの格好をした変な女だったが、銃を向けてくる以上容赦はしねェ。
きっちりと、お前の
「おっと、銃声が開戦の合図になっちまったな。ゾロゾロと敵が出てきやがった」
「どうするキハーノ? 戦術だけで言えば、連中に大砲をブチ込めばそれで終わりだが……」
「〝私掠撰〟と〝ピースメイン〟が町を壊しちゃ、船長のメンツが潰れちまうからな!」
「ヨホホホ、白兵戦ですね!」
「ああ。酔い冷ましにゃ、丁度いいだろ! ブルック、ファウスト。前衛を頼む!」
「待てキハーノ。ファウストは後衛向きだ」
「そうか。じゃあ頼んだぜ! ブルック! 援護は任せろ!!」
「あれ? 私1人だけ……?」
「ぐはっ」
「ゼェ、ゼェ、酔い冷ましの運動にしては、激し過ぎです!」
やるじゃねェか、ブルック! おれ達3人で援護もしたが、ほぼ1人で全滅させちまった。
それにしても、襲ってきた連中は一体なんなんだ?
装備を見る限りだと、街のゴロツキじゃねェよなァ? かといって、警察や守備隊っていうにはガラが悪すぎる。
「どうした、キハーノ?」
「コイツらの装備が気になってな」
「なかなか良い物を使ってるな。
「はっはっ! ここは海賊らしく、ぶんどるって言い方が正解だぜ?」
だがまあ、ウチはピースメインだ。
〝モーガニア〟以外から略奪したら、船長に顔向けできねェからな。
戦利品は、マスターソン と ファウストで分けてくれ。
剥ぎ取った装備を運ぶくらいは手伝ってやるよ。
「ヨホホ! 敵さんの山が、一つ二つと」
「おぞましい光景だな。別に死体って訳でもねーのによ……」
「演奏で敵を眠らせて無力化とは。味方でなければ、恐ろしい技だ」
「いえ、眠らない人も割と多いんです。私も、さらに腕を磨かなければいけませんね!」
それは演奏の腕か? それとも剣技の方か?
さっき、眠らなかった敵に使った剣技……あれは間違いなく、騎士団仕込みのモノだ。
剣の苦手なおれでも知ってる有名な技〝ラバンドゥロル〟だ。本人は〝鼻唄ナントカ切り〟なんて言ってたがな。
それにしても、おそろしい早ワザだった。おれでなきゃ、見逃し───ん?
「おいおい、また一団の登場かよ。第二陣か? さっきのとは、若干 毛色が違うようだが」
「! あの男は、
「知ってるのか、ブルック?」
「ええ、少し因縁がありまして」
「
社会に潜んだ能力者を見つけ出し、どこかへ監禁する連中だ。
捕まった能力者は、生かさず殺さずで寿命が尽きるまで拷問を受け続ける……胸クソ悪ィ話だぜ、まったく。
「これは丁度いい。騎士団の面汚しが勢揃いしてるジャナイ」
「なんだコイツ? やけにデケェな」
「油断しないで下さい、ウソップさん! この男は、空手が盛んなある島の〝王者〟……!」
「よく覚えてたなガイコツ。そう、おれは〝ボクシングチャンピオン〟!!」
「いや、空手やれよ!」ビシっ
「敵のペースに飲まれるな、キハーノ! 手練れも何人かいる」
「なら、
「まかせておけ、得意分野だ」
さすが、30丁拳銃のダディ・マスターソン。集団を相手取るのはお手のものだな。
一度に使うのは2丁なんだが、リロードせずに次から次へと銃を取り替える戦法だ。
まったく、贅沢な銃の使い方だぜ。
おれはアイツみたいに連射で無双するタイプじゃない。
なにしろ、おれのいた騎士団じゃ弾薬が自腹だったからな! 自然と節約思考にもなる。
だから限られた弾数でいかに勝利するかを念頭に置いて、戦場を見極めなくちゃならない。
現在……ブルックは因縁があるっていう、ボクシング野郎と戦いだしてるな。
その戦闘に横槍が入らないよう、ファウストが上手く援護に入ってる。ありゃ、電気か?
マスターソンは早くも敵を半分近く掃討してやがる。
だったら、この戦場でおれの役目はやっぱり──
「見たところ、お前が一番強そうだな」
「フォー。フォー?」
「他の連中は黒服なのに、お前さんだけ違う。指揮官か何かか?」
「ち〜〜こ〜〜く〜〜し〜〜た〜〜……。だ〜〜け〜〜〜」
「長ェよ! 最初のヤツらの仲間ってことで、結局 敵なんだろ!? とにかく、ワシが相手だ!」
トロい野郎だぜ。武器は金属バットしかねェようだし、距離さえあれば狙撃手の敵じゃねェな。
カッキーン!
「うぉー!? 危ねェ!?」
「フォーー」
なんつー奴だ!? 銃弾をバットで打ち返しやがった!?
〝見聞色〟で避けなきゃ、テメェの弾で脳天ぶち抜かれるトコだったぜ!
コイツ、言動はトロいが。反応速度はトンデモなく速ェ!
おそらく銃口の向きから弾道を読んで、おれへ向かって飛ぶよう正確に打ち返してやがる。
もしかしたら、ソッチに全ての集中力を使ってるから、言動がトロいのかもな。
「苦戦してるな、キハーノ?」
「おいおい、他の連中はもう全部片付いてんのかよ」
「ヨホホホホ、ファウストさん! 一騎討ちを見届けて頂き、ありがとうございます!」
「……」コクリ
ボクサーの手足と、その周辺が凍ってやがる。
どんな因縁かは知らねェが、キッチリと片をつけたんだなブルック。
「敵は銃弾を打ち返すカウンタータイプか。手伝ってやろうか?」
「待て待て。万が一、お前の30丁連射を跳ね返されたら全滅しちまうだろ!」
「では、私が……」
「いいから、ここは任せとけ。お前らは先に祝杯でもあげてろよ」
狙撃手の天敵みたいな相手だが、攻略の仕方はいくつかある。
奴は巨体の割に、その身体を支える足は細い──まずは、そこから崩す!
ダーンッ! チュィィン!
「フォ!?」
「ほう、跳弾か」
「
「フォーーー」
「膝をついたな。コイツでとどめだ! 打ち返せるもんなら、打ってみろ!!」
「マズイです、ウソップさん! 相手は、あの体勢で打ち返す気ですよ!?」
「大した野郎だが───
ピシャン!
必殺〝タバスコ星〟ってな。
パチンコで打ち出した、強い衝撃で割れる〝特製弾〟。だから、打っても打たなくてもアウトだ。
足をやられちゃ、避けることも出来ねェしな。
さすがのアイツも、タバスコを顔面に浴びれば のたうち回るんだな。ゆっくりとだが。
にしても、ナルトが唯一持っていかなかった
遊び心と酒の勢いで〝弾〟を作ってみたが、まさか役に立つとはなァ。
「フォーー、フォー……ォ」
「あの方、ゆっくりと気絶したようです」
「どんな気絶の仕方だよ!」
「オイ、クソ親父。こんなとこで飲んでたのかよ!?」
「キャロル〜!! 迎えに来てくれたのかァい?」
「ちげーよバカ! 船長の指示で、船を下町港まで移動させただけだ!!」
あれから祝勝がてらに軽く飲み直してたら、マスターソンの娘が──
いや、ドレークの船がやってきた。遅れてきたもう一隻は、ホーキンスの船か?
中層に隣接してる〝貿易港〟の方へ停めてたらしいが、街で気掛かりな事があって移動してきたんだと。
「おいオッサン。ウチの親父が世話んなったな」
「わっはっはっ! 口は悪ィが、いい娘じゃねーかマスターソン!」
「当たり前だ! キャロルゥー、パパと一緒に船へ帰ろうかァ〜」
「いつまでも気色悪ィ絡み方すんじゃねェよ……まったく。ほら、ちゃんと歩けよ」
なんだよ。話で聞いてたより、仲いいじゃねェか。
マスターソンとは思わぬ形で再会したが、今日は意外な一面も見れて楽しかったぜ。
「それじゃ、おれ達は帰る。またな、キハーノ」
「あばよ、オッサン!」
「おう! 西へ行っても仲良くしろよ、お前らァ!」
「おっと、そうだった。言い忘れてたが、先ほど買い出しの途中で〝クリケット〟を見かけた」
「クリケット!?」
まさか、おやっさん までこの街にいるとはなァ。懐かしいなー。
そう、あれは───
「ウソップにゃん! 聞いて欲しいニャー」
「お、おう。どうしたファウスト?」
「オイラ実は、元々は〝白ねこ〟だったニャ。でも突然〝黒ねこ〟にニャっちまって!」
いや、意味わからん。
おれの回想を邪魔すんなよ。お前も、もうホーキンスの船に帰れ!
「ウソップさん! 見ててください、私の頭!」
「ぶっ! ブルック、お前!? 帽子の下はツルッパゲだったのかよ!?」
「ヨホホ、恥ずかしながら。ですがそれも今日まで! 先ほど、あの男から
「んん!? カツラを被ったって事か?」
「いえ、ちゃんとくっ付いてますとも! ほら!」
いや、おかしいだろ!? 第一、アフロを取り返したって何だよ!?
さっきの教会ボクサーにアフロを取られてたのか?
どっちにしろ、一度切り離した〝髪〟がくっ付くワケ……
「強いんです。毛根」
「どんな毛根だ!? そもそも、白骨に毛根ねーだろっ!」
「ヨホホホ! 今日は最高の日です。一つ演奏でもしたいですねェ。何かリクエストあります?」
「なんだよ藪から棒に。だが、まあ聴かせてくれるって言うならファミ……」
「聞いてください〝眠り歌・フラン〟」
「おい! リクエストはどう、し……た……ぐー」
おやっさーん! クリケットのおやっさーん! なあ、もっとノーランドの話聞かせてくれよォ!
──また今度だ、ウソップ。おれァ、そろそろロマンを探しに海へ出なきゃならねェからな。
なんだよー! ケチ!
ブチッ
──そう怒るな。この〝栗〟をお前に預ける。いつか必ず返しに来い、立派な……
「……プさん! ウソップさん、起きて下さい!!」
「んあ? ブルック?」
「坊ちゃん達が、帰って来ましたよ!」
変な夢を見ちまったぜ。
なんなんだ、あの捏造された少年時代は!
よく考えたら、クリケットなんて現実じゃ会ったコトねーし!
おやっさんに会ったのは、おれが頭をやられた時の妄想世界だからな。
ロビンから聞いた物語とやたらと似てやがるから、最近よく思い出すんだよなァ。
そういや、さっき戦った敵も見覚えがあったなような? モグラと犬もいた気がするが……
「おや? 坊ちゃん と ナミさん。それにもう1人、女性がいますね?」
「新しい仲間か? お前、パンツを見せろとか言うんじゃねェぞ?」
「ヨホ!? 私の楽しみを奪わないで下さい!?」
あの娘も見覚えあるんだよなァ……ダメだ。おかしな夢のせいで記憶が混乱してるぜ。
そもそも、どっから夢だったんだ?
眠り歌を聞く前から……黒ねこになったとか、アフロの装着とか、色々とおかしかったよな?
やたら口が悪ィマスターソンの娘も、宴に紛れてた変な鳥も、エダがロビンに変身してたのも、全部夢か?
「あ、ブルック! やっぱ帽子の下はアフロだったんだな!」
「おや気付いてましたか! さすがは坊ちゃん!」
「ガイコツが動いてる!? それにアフロ!?」
「初めましてお嬢さん。ところで、パン……」
おーおー、せっかく忠告してやったのに。
ありゃ数秒後に、ナミに殴られるな。見聞色を使わなくても分かるぜ。
気付けばいつの間にか、すっかり日が暮れちまってらァ。船番も無事に終了だな。
酒のせいもあって、どこからが夢なのか分からねェままだが───これだけは嘘じゃねェ!
おれも もう、立派な海賊〝ウソップ・デラマンチャ〟って事だ。偽名だけどな!