「美鈴、起きなさい。美鈴!!」
「ん、あ…さ、咲夜さん!寝てないです。私寝てないですよ」
「はぁ…もういいわ。はいこれ、お弁当よ。これを食べたらもう寝るんじゃ…」
「うわああ。今日のお弁当もとても美味しそうですね。ありがとうございます、咲夜さん」
「もう、本当にしょうがないわね。これで私の何十倍も生きてるなんて…とりあえず私はお嬢様の所に戻るから後は頼んだわよ」
「はい!ここはこの紅美鈴にお任せください」
「はいはい、お嬢様にもそう伝えておくわ。それじゃあね、美鈴」
そう言うと咲夜さんはその場から消えた。
「相変わらず便利な能力ですね。それはそうと早速お弁当をいただきましょう」
おにぎりを手で掴み、口に運ぶ。
「咲夜さんは本当に料理上手になりましたね。私が教えていた、よく失敗していたころが懐かしいな」
既に1個目のおにぎりはお腹の中におさめていたので、2個目に手を伸ばそうとする。その時、紅魔館へ向かって響いてくる足音が美鈴の耳に入った。
(何者だろう?気配はそんなに強そうじゃないけど)
顔を上げ、相手を視界に入れる。まだ門からは遠いが美鈴には相手の姿がはっきり見えた。
(妖怪の子供ですかね?見た感じそんなに強くなさそうですし、警戒する必要はないですね)
そう結論づけると、手に持っていたおにぎりを再び食べ始める。全部のおにぎりを食べ終わる頃には、その小妖怪は美鈴の目の前に来ていた。
「ここは紅魔館。吸血鬼である、レミリアお嬢様の住まう館です。ここにどのような用件で来たんですか?」
「あなたが紅美鈴さんですね。僕の名前は◯◯と言います。僕を弟子にしてください‼️」
「えっ!?」
「それで連れてきたというわけね、美鈴」
「は、はい。お嬢様」
いきなり弟子入りを志願した◯◯の対処に困った美鈴は自身の主人であるレミリア・スカーレットの指示を仰ごうと◯◯を伴い、主人のいる執務室に訪れていた。
「…ほう」
レミリアは◯◯を一瞥するとまた美鈴の方へ顔を向ける。
「いいのではないか、弟子をとっても」
「本当ですか‼️」
美鈴の隣にいた◯◯はその言葉に嬉しさを隠せずにいたが、当の美鈴は困惑していた。
「え、いいんですか?」
「ええ、許可するわ。あなたはどうなの?弟子をとりたいの」
「そうですね、武術家としていずれはとらなければならないと思っていたので、いい機会だとは思っていましたが…まさかお嬢様の許可をいただけるとは思っていませんでした」
「心外ね。私は別にちゃんと門番の仕事さえ勤めれば他は自由にやっていいとかねてから伝えていたはずだが」
レミリアは美鈴にジロリと鋭い視線を向ける。
「た、確かにそうでしたね。あはは」
冷や汗をかきながら、レミリアの目線から顔をそらす。
「はぁ…とりあえず、咲夜」
「はい、お嬢様」
「こいつ、◯◯に一つ適当な部屋を与えてやれ。衣食住は基本的に妖精メイドと同じ扱いにしなさい」
「かしこまりました、お嬢様。では◯◯さん、こちらへ」
「わ、わかりました。あ、あの…レミリア様‼️」
「ん、なんだ」
咲夜に連れられ、部屋から出ようとした◯◯はドアの前に立ち止まるとレミリアの方へ体を向けた。
「ありがとうございます」
そういうと、頭を深く下げた◯◯に一瞬目を向けたレミリアは少し笑みを浮かべる。
「気にするな。お前が美鈴の弟子になるのも私にとって利になると判断したからだ。ここにいる以上、最低限の仕事もさせるから咲夜に聞いておけ」
「は、はい!!よろしくお願いします」
意気揚々と部屋から出ていく◯◯がドアを閉めた後、美鈴はレミリアの方へさらに一歩近づいた。
「お嬢様が許可なされたということは、◯◯には才能があるということでしょうか。先程運命を見てましたよね」
「ああ、いや見ての通りあいつにそんなものはないわ。それに関してお前の方がわかるだろう」
「ええ、まぁ…そうですけど。それではどうして◯◯を弟子にとることを許可したのですか」
「…気まぐれよ。そういうお前はどうなんだ?どうして才能のかけらもないやつを弟子にとろうと思ったんだ」
「かつての私に似てたからでしょうか。私もよく師匠に才能がないとどやされていたものでして」
「そうか、まぁ何にせよ退屈凌ぎにはなるだろう。楽しませてもらうわ」
「ギャァァァァァァァァ殺されるゥゥゥゥゥ」
「何を言ってるんですか、◯◯。まだまだ行きますよー」
「いっそ、殺してくれええええええええ」
そう叫ぶ◯◯の声はだんだん小さく、低くなっていき一度聞こえなくなる。次にどんどん大きく、高くなってゆく◯◯の声が聞こえたと思うと数秒後、地面に何かがぶつかる鈍い音が聞こえてきた。
「大丈夫ですかー◯◯」
「だ、大丈…夫じゃ…ない…で、す…」
「うん、大丈夫そうですね。よし、じゃあ組手は終わりにしましょう。もうすぐ咲夜さんがやってくるので」
「来たわよ、美鈴」
いつの間にか、美鈴の横に立っていた咲夜が声をかける。
「…相変わらず凄まじいわね。妖怪とはいえ、よく死んでいないわ…」
「安心してください、咲夜さん。この程度じゃ死にませんよ」ギリギリダケド
「ぜん、ぜん…安心できません師匠。後聞こえてますから」
立つことができないのか地面を這いずりながら◯◯は2人の元へ向かう。今にも死にそうな◯◯を見て、咲夜は内心ドン引きしながらお弁当を広げる。
「相変わらず、咲夜さんのご飯は美味しいですね。◯◯、沢山食べなさいね」
「はい、師匠」
そう言いながら大量のおにぎりや肉を頬張る◯◯を見て、咲夜はふと思ったことを口にした。
「それにしても、もう半年は経つのよね。◯◯、よく持っているわね。正直最初あなた達の修行を見た時、すぐ逃げ出すかと思っていたわ」
咲夜の言葉に◯◯は苦笑する。
「確かに、何度も逃げ出そうと思いました。でも…この厳しい修行には師匠の僕への思いやりが見えるから、辞めることは決してできません。僕はいつか、師匠を守れるくらい強くなって一緒に門番をしたいんです」
◯◯の誠実な言葉に咲夜は思わず笑みを浮かべ、美鈴は顔を赤くしながら頬をかいていた。
「いやーその…と、とりあえずご飯を食べましょう。そ、それにしても咲夜さんのご飯は美味しいなー」
「師匠、さっきと同じこと言ってますよ」
(弱いけど努力する鈍感系主人公と強いけど守ってもらいたいヒロイン…王道ですわね)
最近読んでいる小説の内容と今の状況を重ねる咲夜であった。
コンコン
「いいわよ、入って」
「お邪魔しまーす。夜遅くにすみません」
「気にしないで、それにしても美鈴が私に相談事なんて珍しいわね。◯◯のことかしら」
「あはは、やっぱり気づいてましたか。咲夜さん流石ですね」
咲夜の座る席の反対側の椅子に座った美鈴は言葉を続ける。
「私今まで面と向かって守るなんて言われたことないんですよね。どちらかと言うと誰かを守る側…まぁ、妖怪なんで奪う側でしたし。だから言われた時とても嬉しかったし、毎日そのために修行をしていると考えると…いやー好きになっちゃいますよ」
「なるほどね。私としては美鈴からそんなことを聞けただけで結構満足なんだけど、惚気にきたわけではないでしょ?」
「咲夜さんの知恵を貸していただきたくて。私、今までこういう経験をあまりしたことがないので、恋愛小説を沢山読んでいる咲夜さんなら何かいい方法を思いついてくれないかなと…」
「ふふ、そう言われると思って準備しておいたわよ。とっておきの物をね」
咲夜は手元にある本を美鈴に手渡した。
「ありがとうございます。流石咲夜さん。話が早いです。それでどんな内容なんですか?」
「貴方達と同じようなものよ。いじめられっ子が道場に入門して、師匠の娘と恋に堕ちるというね。娘はひたむきに頑張る主人公が好きになるのだけれど、当の本人はそれに気づかずにいる。そして時が経ち、主人公は立派な武術家になり武者修行の旅に出ようとするの。でも娘はそんな危険な旅に主人公を出したくない」
「それで、どうしたんですか?」
「不慮の事故を装って主人公との組手中に怪我をしたのよ。武術生命が断たれるほどのね。それに責任を感じた主人公は武者修行に行くのをやめ、ヒロインのそばに一生いることを誓うのよ。」
「なるほど、いわば主人公を精神的に閉じ込めたというわけですね」
「ええそうよ。後、その主人公は作中でヒロインに対して「将来貴方を守れるぐらい強くなる」と言っているのよ」
「へーかっこいいじゃないですか」
「でも、最終的にはヒロインを置いて旅に行こうとする。美鈴、◯◯は今は将来は一緒に門番をしたいと言っているけれど、いざ強くなった時本当にその気持ちをまだ持っているのかしら?」
「そ、それは…」
「この本だけじゃないわ。私が今まで読んできた本には多くのヒロインが出てきたけど、みんな主人公の鈍感さに苦労しているのよ。でも安心しなさい、最後には全部ハッピーエンドで終わっているわ」
「どんな方法を使ったんですか?」
「色々よ、監禁して自分だけのものにしたり、既成事実を作って逃げられなくしたり、中には心中したりするのもあるわね」
「な、なるほど…確かにそうすれば好きな人とずっと一緒に入れますね」
「でしょ。私もこんな情熱的な恋をしてみたいわ。美鈴が羨ましいわね」
「えへへ、そうですか」
「美鈴」
咲夜は席に座り直し、目を見据えながら言葉を述べる。
「本当に◯◯のことが好きなら、絶対に逃しちゃダメよ。必ず手に入れなさい」
「わかりました、ありがとうございます」
美鈴は立ち上がり部屋を後にした。
廊下を一人、歩きながら美鈴は考える。
(咲夜さんの言う通りだ。◯◯は今は弱いけど、いずれ立派な武術家になる。その時に、門番をするだけの仕事に甘えるわけはない。武術家なら世界中の強者と戦いたいと思うのは当たり前。でもそうしたら、私と◯◯は離れ離れになってしまう。それを阻止するには…)
「美鈴」
「お嬢様」
考え事をしていたからか、主人の接近に気づかなかった美鈴は咄嗟に体を壁の方に寄せ、道を開ける。
「申し訳ありません。考え事をしていたもので」
「別に構わん。それに今は勤務外だからそこまで畏まる必要もない」
「そうですか、それなら遠慮なく。それにしてもレミリア様は何をしていたんですか?」
「吸血鬼が夜に散歩するのに理由がいるか?」
「確かにそうですね。すみません」
「まぁ、実のところお前に用があってな」
レミリアからの用件に思わず身を固めたが、それは一瞬で解かれる。
「私にですか?一体どのような…」
「◯◯ことだ。あいつとどのような関係になっているのか気になってな」
「え、レミリア様も気づいていたんですか⁉️」
「当たり前だ。ここ最近暇だからな。お前達のやりとりは見ていて飽きないわ」
「…その、一つよろしいでしょうか?」
「私はネタバレは嫌いよ。だから見ていないわ」
「そ、そうですか…なら、運命は決まっていないからどのようにもなるということですね。頑張ります」
「ふっ、期待しているわ。お前達の運命が一体どうなるのかをね」
そう言い残すとレミリアはこの場を後にしようとする。その後ろ姿を見た美鈴は前々から思っていたことをレミリアに告げる。
「レミリア様はとても優しいですよね」
「は?」
運命を読んでいなかったのか、予期せぬ言葉にレミリアは思わず振り返る。
「私達のことを考えてくれていますよね。咲夜さんもパチュリーさんも、フラン様も、みんなレミリア様に感謝しているんですよ」
「な、何を言っている////私を照れさせる暇があるなら、◯◯を堕とす算段を立てろ。この居眠り門番が」
そう言い捨てるとレミリアは半ば逃げるように美鈴の元から消えていった。
「美鈴師匠、話とは一体なんなのでしょうか?」
次の日の夜、いつも通り門番の仕事をこなしつつ修行を終えた後、美鈴は自身の部屋に◯◯を呼び出していた。
「単刀直入に言いますね。私は◯◯のことが好きなんです。弟子としてではなく、恋愛的な意味で」
「え////いきなり何を言って…」
突然の美鈴の告白に◯◯は混乱する。
「貴方はどうですか?私の事をどう思っていますか?」
「い、いきなりそんなことを言われても…僕は師匠のことを尊敬していますが、恋人とか考えたことなくて…」
「ですよね。でも、私は◯◯を逃すつもりありませんから」
椅子から立ち上がった美鈴は一歩ずつ◯◯に近づいていく。
「その、逃すつもりがないとは、一体…」
既に目の前に立っている美鈴を◯◯は見上げる。目があった時、◯◯は美鈴のどこか暗い、覚悟の決めた目に見つめられ身動きが取れなくなる。その瞬間、◯◯の腹にとてつもない衝撃が走った。
「ガハッ、アアァァ、な、なにを…するんで…」
「考えたんです。◯◯を手に入れるための方法を。そこで思いついたんです。弱いうちに◯◯を調教して、私に絶対逆らえないようにする。逆らおうとすることを心身ともに拒否するほど◯◯を調教すれば、どんなに強くなろうとも私から逃げようだなんて思わない。それに、修行にもなりますしね。まさしく一石二鳥です 」
「し、師匠…やめて、くださ…」
「大丈夫です。絶対に殺しはしないです。◯◯には将来的に私のお婿さんになってもらいますからね。でも、早めに諦めることをお勧めしますよ。私も本当は◯◯を、痛めつけたくないんですからね。それにいざとなったら、パチュリーさんの薬やお嬢様の運命を操る程度の能力に頼ればいいですし」
「や、やめ…」
「◯◯、これからもよろしくお願いしますね 」