「こうり〜ん」
「いらっしゃい魔理沙」
つい先日までの豪雨から一変、快晴が何日も続く幻想郷。炎天下にもかかわらず、魔理沙は連日香霖堂に足を運んでいた。
「相変わらずここは涼しいな、確かエアコンだったか?」
「無限塚で拾った物を河童達に頼んで修理して貰ったんだよ」
「ほうほう、それはそうとして相変わらずうるさい所だぜ」
「ん?ああ、一週間の命を懸命に生きているのだろうね」
「ん?何を言ってるんだ。鳴いているのは閑古鳥だろ」
「はは、相変わらずだね。魔理沙は」
「それほどでもあるんだぜ」
「…褒めてないんだが。それはそうと冷たいお茶でよかったかな?取ってくるよ」
「よろしくなんだぜ〜」
霖之助は立ち上がると奥の居間へ消えていった。魔理沙は霖之助の背中を見つめた後、近くにあった椅子を霖之助の椅子の向かい側に運ぶとそこに座る。
「持ってきたよ」
「よ、待ってました」
両手にコップを持ちカウンターまで戻ってきた霖之助は右手のコップを前に置くと、魔理沙の真正面に座る。
「魔理沙…何度も言っているが…」
「どうせ誰も来ないんだから、邪魔にはならないんだぜ」
「…会計する時はどいてくれよ」
「はいはい」
魔理沙の悪びれもしない笑顔に内心ため息をつく。だが、その屈託のない笑顔を見るとどうしても怒る気になれないのだった。
「どうしたんだぜ?ニヤついてるぞ」
「そうかな?自分ではわからないものだが」
「この幻想郷一の超絶美少女、魔理沙ちゃんと2人っきりだからしょうがないことだけどな」
「ふふ、そうかもしれないね」
「な////からかうなよ‼️」
「いや、君が先に言ってきたんじゃないか…」
しばらく他愛のない話をしていた2人だったが、ふと魔理沙はあることに気づく。
「そういえば、最近品数が少しばかり減ってないか?」
「ああ、実は最近客は増えているんだ。本当に少しなんだけどね」
「本当か?見たことないんだぜ」
「タイミングの良いか悪いかちょうど魔理沙が来る前や帰った後に来るんだよ。最近暑いからね、涼しい時間帯に来るんじゃないかな?昼は仕事もあるだろうし」
「なるほどな。で、どんなやつらが来るんだぜ?」
「外来人だね。ほら、守矢の宮司さんや人里の鈴菜庵の婚約者の人とか、様々だね。やっぱり懐かしいものが欲しいようだよ。最近こちら側に来たゲームやその付属品を河童に修理してもらって売るのが結構儲かるんだよ」
「早苗や小鈴の所か、ほうほう…確かに最近にとり達が外の人間となんか作ってるとは聞いていたが、香霖も一枚噛んでいたのか」
「僕はただ拾って渡して貰って売るだけだからね。楽なもんさ」
「そ、そ、それはそうとさ…香霖…」
「ん?なんだい?」
いきなりソワソワし始めた魔理沙に霖之助は首を傾げる。
「その外来人達って大抵付き合ってるやつが多いだろ…香霖は、その…付き合いたいとは思わないのか?」
「ん?どうして彼らに恋人がいることと僕の恋愛が結びつくんだ?それを言うなら魔理沙はどうなんだい?魔理沙の方が可能性があるだろう」
「…それは、こ、香霖しだい、なんだぜ…」
「…」
顔を真っ赤に染めながらも、真っ直ぐ霖之助を見つめる魔理沙に思わず目を逸らす。
「魔理沙、どうして僕次第で魔理沙の恋愛が決まるんだい?変な冗談はやめて、好きな人間を早く見つけるといいよ」
「…そうか、邪魔したな」
そう告げると魔理沙は勢いよく立ち上がると脱兎の如く香霖堂から出て行き、箒に乗って飛んでいった。
「僕は最低だな」
カウンターに落ちてある2つの雫を見ながら、霖之助はそう言葉をこぼした。
「最低ね」
「そうね、最低だわ」
香霖堂を飛び出した魔理沙はそのまま紅魔館の大図書館へと足を運んだ。無事たどり着いた魔理沙は読書を嗜んでいた魔女仲間のアリスに抱き着いた。いきなり甘えてきた魔理沙に困惑しながらもアリスは自分のスカートが濡れていることに気づき、魔理沙を慰めていた。その場にいたもう1人の魔女のパチュリーも加わり、魔理沙は2人に先程の顛末を話したのだ。
「香霖は…グスッ…私のこと、嫌い…グスッ…なのかな…」
「それはないわ、アリスもそう思うでしょ」
「ええ、そもそも嫌いならもてなしたり長々と話したりすることはないわね。そんなことよりも重大なのはあの男は魔理沙の気持ちを知っていてああいう態度を取っていることよ」
「魔理沙の告白同然の言葉に言葉を詰まらせた後、目を逸らしたんでしょ。その上で断るでもなく、朴念仁風な言葉を吐くなんて確信犯(誤用)としか思えないわ」ムキュ!
「しかも魔理沙に告白させるように誘導させてもいるわね。なにが「それを言うなら魔理沙はどうなんだい?魔理沙の方が可能性があるだろう」よ。120%分かってて言っているわよ、この男」
「…どうして香霖は私と付き合いたくないのかな」
「半妖と人間だからそもそも無理だとでも考えているんじゃないの?でも満更でもないから、昔から自分を慕ってくれた魔理沙にNOと言えないのよ。それが魔理沙を一番傷つけているのを知らずにね」
「今回ばかりは魔導書を貸してあげるわ。半妖の精神を操る魔法と半妖を犬同然にする魔法、どっちがいい?」
「それならいっそ人形にする?手伝うわよ、魔理沙」
「…ない…」
「「え?」」
「許さない‼️」
唐突に立ち上がり、図書館から駆け出す。あっけなくとられた2人だったが、すぐに魔理沙を追いかけ始めた。
「魔理沙、どこに行くのよ」
「もちろん、香霖の所だぜ」
紅魔館から飛び出した3人は空を飛び、一直線に香霖堂を目指していた。
「香霖は、私の気持ちを知ってたんだろ。しかもそれを踏みにじった…絶対に許さない」
「まさか、殺すつもりかしら…」
「分からないわ。でも、いっときの感情で殺してしまったら後で後悔するはずよ。いざとなったら紅魔館に監禁して、魔理沙が落ち着いた時に渡せばいいわ」
「そうね、その時は霖之助さんをお願い。私は魔理沙を止めるから。そうこう言っているうちに着いたわよ」
直前まで全速力で来た魔理沙は急ブレーキをかけるが、そのまま残った慣性力で香霖堂のドアを突き破った。
「香霖‼️出てこい」
「な、なんだい魔理沙。いきなり現れて、しかもドアをこ…」
「うっさい、出ろ‼️でないとここでぶちかます」
魔理沙は霖之助に既に魔力が暴発しそうなほど込められている八卦炉を突き出す。
「わ、分かったから。出るよ」
只事ではないと判断した霖之助は魔理沙を刺激しないよう、指示に従い外に出た。
「あ、アリスに紅魔館の魔女さんじゃないか。これは一体…」
「誰が他の女と喋っていいと言ったんだ」
「ま、魔理沙どうしたっ…」
「香霖は私の気持ち気付いてたんだろ。それではぐらかしたんだろ」
「う…」
図星をつかれて押し黙る。
「…それについては申し訳ないと思っている。でも、僕は半妖だ。魔理沙には人としての幸せを…」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい」
「ま、魔理沙…」
泣きじゃくりながら改めて八卦炉を構える。
「うるさい、今すぐ決めろ。私と付き合うか、マスタースパークで心中するか」
「し、心中‼️止めるんだ魔理沙」
「なら私と付き合え。できないならお前を殺して私も死ぬ‼️」
何も言えなくなった霖之助は魔理沙の後ろに佇むアリスとパチュリーに助けを目線で求めるようとする。
「なに、他の女を見てるんだ。ふざけるのも大概にしろ」
「そ、そんなつもりは…」
魔理沙は霖之助に近づき、八卦炉を霖之助の体に当てながら叫ぶ。
「いいから決めろ。決めないなら一緒に死んでやる‼️」
しばらくの沈黙のうち、霖之助は言葉を絞り出す。それを聞いた魔理沙は嬉しそうに狂気染みた笑みを浮かべるのだった。