「うおおおおおおああおお」
「先生、うるさいです」
ここは東京近郊にある(株)◯◯プロダクション。ここで1人の熱血漫画家が日夜命がけで原稿と格闘しているのであった‼️彼の名前は◯◯、週刊連載1本と隔月連載1本を持つまあまあ人気の漫画家である‼️そんな彼は今アシスタントのヤズと共に長野へロケに来ていた。
「先生、よかったんですか?今週は2本を編集者に送らないといけないのに」
ヤズは山の中を進みながら◯◯に問いかける。春特有の心地よい風や日差しを遮る木々のおかげで気持ちの良いハイキングを2人は楽しんでいた。
「それはわかっている。だがヤズよ、漫画家はモチベーションが全てだ。今は漫画を描く気にならない。だから、あえて取材にいっているのだ。これはいわば必要経費だ」
(まーた始まったよ、謎に説得力のある先生のこじつけ論が…)
ヤズはいつも通りの◯◯に呆れつつもこのハイキングを楽しんでいた。今回の目的は長野の奥にある古ぼけた神社だ。昔からその辺りでは神隠しが絶えないという伝説があるらしい。
「そういえば先生。なんでここに行こうと思ったんですか?先生の作品に神社はあまり出てこないのにどうしてわざわざ…」
「ふっ、ヤズよ。お前は分かっていないな。確かに俺の作風的に神社や寺はあまり出てはこない。だからこそだ。だからこそくる意味があるのだ。無意味だからこそ、そこに意味を生み出すのだ。それが漫画家という職業だ‼️」
「そ、そうですね。先生さすがです」
ヤズは考えるのをやめた。そうこうしているうちに一行は目的地の神社に着いた。その神社は今2人が登っている山の中腹にあるちょっとした平地にポツンと佇んでいた。山中を生い茂る木々がそこに生えることを躊躇っているかのように、神社の周りに木は生えていない。だからか、その神社には太陽の温かい光がめいいっぱい射し込んでおり、幻想的な風景を醸し出していた。
「す、凄いですね、先生」
「ああ、これは予想以上に良いインスピレーションが生まれそうだ」
その美しい風景にしばらく見惚れていた2人だったが、感動が収まる頃には自分達の目的を思い出していた。
「とりあえずヤズは周りを散策して写真を撮ってくれ。俺は境内に入って神社を観察するから」
「わかりました、先生」
2人はそれぞれの役割を果たすため、それぞれの仕事を始めた。
しばらく周辺を散策しある程度の枚数を撮ったので、ヤズは◯◯と合流することにした。
「先生ー、こっちはある程度撮ったので一度合流しましょう」
しかし、◯◯からの返事はない。
「先生?」
不審に思ったヤズが境内に入るとそこには◯◯が普段から愛用しているペンのうちの一本が落ちているだけであった。
「な、なんなんだここは…」
◯◯は困惑していた。なぜなら先程まで古びて今にも倒壊しそうだった神社にいたはずなのに、今はある程度綺麗に整備されている神社の鳥居の下にいたからだ。しかも少し先には掃除をしている紅白色の巫女がいる。普通ならあり得ない状況に◯◯は困惑する。
「ど、どういうことだ。ここはどこなんだ…」
思わず出た独り言に巫女が反応し、近づいてきた。
「あら、参拝客かしら。素敵な賽銭箱はこちらよ」
「あ、はいそうですか」
何食わない顔で賽銭箱に案内する巫女に思わず流されそうになる◯◯であったが、すぐに正気を取り戻した。
「いやいやいやいや、そうじゃない。いや、普通神社に来たなら賽銭はするけども。今はそんなことを気にする暇はない」
「何?参拝客じゃないのかしら。ならここから早く立ち去ることをオススメするわ 」
既に◯◯の目の前にまで近づいていた巫女の、目が全く笑っていない笑顔に萎縮しつつも◯◯は巫女に質問する。
「さ、賽銭は後でちゃんとするから。そんなことよりここがどこなのか教えてくれ。俺はさっきまで違う神社にいたんだ」
「あー、あなた、外来人ね。確かに変な格好してるし。ここは幻想郷よ。貴方達外来人の言葉だと異世界が一番しっくりくるらしいわ」
「げ、幻想郷?異世界だと…」
(いきなり何を言っているんだこいつ。頭おかしいのか。いや、だが先程までいた神社とは全く違う神社にいつのまにかいたことは事実だし。周りにヤズの気配はない。だが、それがここが異世界だという証拠には…)
「あれ?私の話聞こえてたかしら?」
いきなり黙り込んだ◯◯を見て霊夢は困惑した。
「いや、違う…」
「え?」
「俺は漫画家だ‼️ならば、人生の内に漫画のような展開に出くわすことだってあるかも知れない。いや、あるはずだ。そういうことにしておこう。今問題なのはここが異世界かどうかではない。俺がここを異世界だと認めるかどうかだ。そして、ここが異世界である以上俺のやるべきことは一つ。漫画のネタを探すことだ‼️」
「何いきなりこいつ…」
「そこの美少女巫女さん、名前は」
「は、博麗霊夢よ」
「俺の名前は◯◯。漫画家だ。早速だが博麗さん、あなたを取材させてくれ」
「し、取材⁉️何言ってんのよ、あんた」
「漫画家たる者、漫画のネタを放っておくことなどできん。幻想郷や巫女の仕事などなどなど教えてほしいことが山程あるのだ」
「わ、分かったから。外来人に幻想郷のことを教えてるのも博麗の巫女の使命だから、出来る限り協力するわ。だから離れて、暑苦しい」
とんでもない外来人がやってきたと思う霊夢であった。
「なるほど、つまり幻想郷には妖怪や神、妖精などの向こうでは忘れ去られた存在が集まる場所で博麗の巫女はそのバランサーとして機能しているということか」
「ええ、そういうことよ」
博麗神社の居間で◯◯は霊夢から話を聞いていた。
「あ、そういえば一つ伝え忘れていたわ。向こう側に帰る方法なんだけど…」
「お、向こう側に帰れるのか。よかった。で、どういう方法なんだ?」
「金」
「え?」
「お金よ、お金。日本に帰るためには私に通行料を払う決まりなのよ」
「ちょっと待ってくれ。確か話によるとここのお金は外とは違うんだろ」
「えぇ、だから人里で働いて稼いでもらうわ。悪く思わないでよね。こっちだって生活に困…」
「は、働けだとぉぉぉぉぉぉぉ‼️」
いきなり大声を出す◯◯に霊夢は驚くと共にドン引きする。
「い、いきなり叫ぶな」
「そんなことはどうでもいい。漫画家に対して働けだと。そんなことできるわけがなかろうが‼️」
「どうしてよ」
「漫画家はな、絵を描いて食っていってるんだ。つまりは趣味の延長でしかない。そんな大人になれきれなかった大人が漫画家なのだ。そんなやつが働けるわけなかろう‼️」
「な、何よそれ…」
「霊夢さ〜ん」
その時空から1人の妖怪が博麗神社に降りてきた。
「どうも毎度、清く正しい射命丸です。文々。新聞はいかがですか、霊夢さん。あややややや、これはこれは、新しい外来人の方ですか。取材してもいいですか?」
「まーた、面倒なやつが来た…」
ただでさえ暑苦しい外来人相手にうんざりしていたところなのに幻想郷トップレベルに騒がしい鴉が来て、霊夢は気が滅入っていた。
「あなたは妖怪なのか?」
そんな霊夢を尻目に◯◯は射命丸と名乗る妖怪?に話しかける。
「ええ、私は射命丸文。人里から離れた妖怪の山で鴉天狗をしている新聞記者です。あなたは?」
「俺は◯◯、外の世界では漫画家をしている者だ」
「ほうほう、漫画…漫画ですか⁉️」
漫画と聞き、射命丸文は飛びつく。
「聞いたことがあります。外の新聞には毎回漫画が載っていると…」
「ああ、4コマ漫画のことだな。確かに載ってるぞ」
「そう、それです。◯◯さんあなた、私の新聞に漫画を載せませんか?新聞自体は月に4〜5回程度ですし、あなたの好きなように描いてもらって構いません。給料も保障しましょう‼️」
「おおおおおおおお‼️本当か、それはありがたい。是非お願いしたい」
お互いの利益が一致した証に◯◯と文は固い握手を交わした。そんな2人を見て、霊夢は深いため息をするのであった。
◯◯が幻想郷に来て数ヶ月が経過していた。◯◯は今妖怪の山の文の家に居候して漫画を描いている。漫画の効果もあってか文々。新聞の購買数は以前より好調で◯◯の手元にもある程度の金子が貯まっていた。
(この調子だと後もう数ヶ月もすれば目標金額を達成するな。ここを離れるのは少しもったいない気もするが、日本に帰らないという選択肢はないしな)
「◯◯さーん、ご飯できましたよー」
「分かった、すぐ行くよ」
◯◯が居間に向かうと割烹着を着た文がご飯の準備をして待っていた。
「どうですか?漫画の進捗は?」
「まあまあだよ、そんなことより文の料理は相変わらず美味いな。いつもありがとう」
「そ、そんな。◯◯さんのためなら///」
◯◯の褒め言葉に照れる文。ここ1ヶ月ほどご飯の度に似た光景が繰り返されていた。
「文のおかげで日本に帰るための資金も順調に調達できているし。本当に文にはお世話になりっぱなしだ。もちろん、今書いている漫画が完結するまでは恩返しも兼ねて文の手伝いをするから安心してほしい」
「そ、そうですか…◯◯さん、その…外に帰らないという選択肢はないのでしょうか…?」
「いや、それはないな。向こうにも俺のファンはいる。彼らを裏切るわけにはいかない」
「そ、そう、ですよね…」
◯◯は文の顔が一瞬曇ったことに気づかず、文の作った料理を美味しそうに食べていたのであった。
その晩、文は自室で考えていた。
(◯◯さんは真っ直ぐで頑固だ。だから外へ帰ることを諦めたりはしないだろうな。でも、◯◯さんと別れたくない。最初はただ新聞の購買数をあげるために◯◯さんに協力を依頼しただけだったのに…あの時から私は◯◯さんのことを…)
文はとあることを思い出していた。それは◯◯が文の家に来てから1ヶ月ほどのことだった。
「文はいつも一人で新聞を書いているのか?」
「ええ、そうですが何か?」
「凄いな、それは」
「え?」
「いや、それはとても凄いことだと言っているんだ。向こうの新聞は毎日発刊されるし量は多いが、何百人もの人々が関わっている。だが、文はそれをたった一人でこなしている。これは並の新聞記者では決してできないことだ。いや、新聞記者だけではない。漫画家だって小説家だって1人で作品を作っているわけではない。どんなクリエイターだって本当に一人で作ることは少ない。それを文はたった一人でやっている。一人のクリエイターとして本当に尊敬する」
「そ、そ、そうですか////ありがとうございまひゅ/////」
(◯◯さんは私の新聞だけじゃない。新聞を作る過程や努力も見てくれた。そんな人妖、今まで誰一人としていなかった。好きになってしまった。でも◯◯さんはいずれ私の元からいなくなってしまう。一体どうしたら…いや違うでしょう、射命丸文。◯◯さんほど熱い人には私の熱い想いをぶつけるしかない。それだけしか方法はないのよ。もしそれでもダメだったらその時は…)
文の目には闘志に燃えつつもどこか暗く濁ったものが混在していた。
次の日、文は◯◯に自分の想いを伝えるべく◯◯の部屋を訪れていた。
「◯◯さん、少しお時間よろしいでしょうか」
「いいぞ、しかしどうした?こんな朝早くから」
「◯◯さんにどうしても伝いたいことがあるんです」
「なんだ?」
「好きです」
「へ///?」
「私は◯◯さんのことが好きなんです。私と夫婦になってはもらえないでしょうか」
いきなりの文の告白に◯◯は驚き気が動転する。
「お、俺のことが好きなの?」
「はい、大好きです。愛しています」
「そ、そうか…」
「それで返事は…」
「す、すまないが、向こうの読者を裏切るわけには…」
「そうですか、それなら仕方ありませんね」ボソッ
「文の告白は本当に嬉しいんだが…」
カチャッ
「え?」
「仕方ありませんね。なら強硬手段に移るだけですよ」
いつの間にか◯◯に首輪が嵌められていた。
「◯◯さん、勘違いはいけませんよ。私は妖怪ですよ。妖怪は欲しいものは力づくで手に入れる。◯◯さんには、はなから私と添い遂げる以外の選択肢なんてないんです」
「ちょ、ちょっと待って…」
「さあ、◯◯さん。私と一緒に夫婦になってから初めての新聞づくりをしましょう。共同作業ですね 」
「いや、まって、まっ…」アアアアアアア
ヤンデレ文に捕まってしまった熱血漫画家◯◯。彼はこれからどうなってしまうのか?(好評だったら続きます)