東方ヤンデレ物語   作:永遠の東方牢人生

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ヤンデレさとり

生きとし生ける者全てにおいて共通の心理がある。それは、「精神に一片の曇りのない生物など存在しない」だ。人や妖はもちろんのこと、私の愛するペット達でさえそうだ。あんなにいい子達にすら、負の感情は存在する。読み取ることはできないが、私の妹にもあるのだろう。それは生物として当たり前の機能であり、それそのものを嫌う私は一種の潔癖症なのだろう。しかしながら、いたしかないことなのだ。なぜなら、見えるのだから。見えてしまうのだから。この第三の目(third eye)という私の分身が生き物の真実を否応なしに伝えるのだから。私には本当の意味で家族を、友人を、愛することなどできているのか。そんなことまでも考えてしまう。そんな私にましてや恋人なんてものなど…

 

「お姉ちゃん!!また小説書いてるの?」

「こいし、いつからいたの?ノックぐらいはしなさい」

「はーい!!」

旧地獄の奥にある地霊殿、そこには地底の管理を任されている妖怪である古明地こいしとその姉である古明地さとり、そしてペット達が住んでいる。

「そんなことよりお姉ちゃん。その小説読ませて」

「…まだ途中だから書き終わったらね」

「わかったよお姉ちゃん。じゃああそぼ!!」

「全く、しょうがない子ね。いいわよ」

「わーい‼」

無邪気に喜ぶこいしを見てさとりは呆れつつも、こいしの頭をなでるのであった。

「それはそうとお姉ちゃんにいいたいことがあるの」

「なにかしら?」

「好きな人ができたの!!」

「…そうなの。頑張ってね」

こいしの唐突な発言に内心驚きつつもさとりは平静を装う。

「今度お姉ちゃんにしょうかいするね!」

「楽しみにしておくわね」

さとりは妹の成長をうれしく思いつつも、どこか暗い気分に襲われる。

「こいし…」

「なあに?お姉ちゃん」

「ひとを好きになるってどういうこと?」

「ポカポカして楽しいよ。お姉ちゃんにもわからない気持ちがあるんだね」

「どういうこと?」

「お姉ちゃんは人の心が読めるじゃん。私の心は読めないけど、恋してる人なんていっぱいいるよ。サードアイを使えばすぐわかるのに」

「…確かにそうね。忘れていたわ」

「あはは!変なお姉ちゃん。彼に会いたくなったから行くね」

そういうとこいしは執務室からまるで最初からいなかったかのように消えていった。いつの間にか半開きになっているドアを確認した後、さとりはため息をつく。

「読めると理解は違うのよ」

さとりの苦悩が執務室にこだまするのであった。

 

それから数日後、さとりはペットの火車妖怪である火焔猫燐のもとへ足を運んでいた。

「お燐」

さとりの声が聞こえるとお燐は死体運びを中断し、後ろを振り返る。

「あ、さとり様。どうかされましたか。要件があるならあたいがさとり様のところまでいったのに」

「そんなこと気にしなくていいのよ。それよりも仕事は順調かしら」

「はい。今日も死体をバンバン運びますよ」

元気そうなお燐を見て安心したさとりはお燐のそばまで近づき頭をなでる。顔をほころばせるお燐を眺めていたさとりだったが、ふとお燐が運んでいた死体達に視線を向ける。その時さとりは違和感を覚えた。

「…生きている」

「はい?」

「そこの一番上の死体よ。さっき少し動いた気がしたのよ」

「…本当だ。確かに生きていますね。どうしますかさとり様?一緒にすてちゃいます?」

「いえ、連れ帰りましょう。このまま捨てるのは可哀想ですし」

「わかりました。とりあえず手当をして客間のベッドに寝かせておきます」

「お願いね。お燐」

お燐は生きた人間を担ぐと客間へ歩いて行った。さとりはお燐を見送った後、自身の仕事をするために執務室へ戻っていった。

 

それから数日後、さとりは午後の業務を終わらせ件の居間に向かった。先程お燐からまだ目覚めていないという報告を受けていたが、暇だったので観にいったのだ。その男は客室のダブルベッドに静かに横たわっていた。

「意外と綺麗な顔立ちをしているわね」

お燐が看病したときに顔を拭いたのだろう。先程の薄汚れた顔は丁寧に手入れされており、端正な顔がのぞかせていた。直ぐそばにさとりがいるにもかかわらず、全く起きる気配がない。

「心の声が聞こえてこないということは夢を見ていない。このままなら永遠亭に行く必要もあるわね」

睡眠ではなく昏睡状態であると判断したさとりはベッドに腰掛ける。

「あなたは一体どうしてあんな所にいたのかしら。ふふっ、聞いたところで答えてくれるわけではないわね」

そうつぶやいたさとりはなんとなく男の手を握ってみる。握った瞬間男の手に力が入ったのをさとりは感じ取った。

「まさか目が覚めたのかしら?」

しかしながら男の反応はない。

(そういえば本で読んだことがある。意識はなくとも体が反応することがあると)

だがなぜか男が自分の話に返事をしてくれたような気がしたさとりは思わず笑みを浮かべたのであった。

 

それからさらに数か月の時が流れた。その間男が目覚める気配はなかった。だがさとりは2日に1度は男のもとへ足を運んでいた。客間の扉を開けて男の隣に腰掛ける。

「○○、今日はね、お空が間違って死体を丸焼きにしちゃったのよ。死体はエサや肥料になるって何度も言ってるのによ。○○はどう思うかしら」

さとりは男の手を握る。そうすると反射的に手が握り返される。

「そうよね、おかしいわよね。でもそこがお空のかわいいところでもあるのよ」

「そろそろ仕事に戻らないといけないから帰るわね。また今度来るから」

こうして○○との会話を楽しんださとりはベッドから立ち上がり、部屋から出る。そうして執務室に戻る途中、さとりは廊下の端で壁に寄りかかっているお燐を見つけた。

「どうしたのお燐?」

「さとり様…最近のさとり様はおかしいです…」

さとりはサードアイを使い、お燐の言いたいことを把握した。

「ああ、なるほど。○○と私がしゃべるのが気に入らないのね。大丈夫よ、あなた達のことをないがしろにするつもりはないわ。○○というのはあの人の名前よ。私が試しに呼んでみたら気に入ってくれたみたいで、いい名前でしょう。でね、○○ったらこの前…」

「さとり様!!!」

廊下にお燐の声が響き渡る。

「あの人間はずっと寝たままなんですよ。よく来てくれる獣医さんどころか永遠亭にも治療させないで…それなのにさとり様はずっと話しかけてる。正直に言って異常です。いっそあたいがあのお…」

「お燐」

主人の聞いたことのない威圧的な声にお燐は戦慄する。

「嘘でも○○さんを捨てるなんておもってはいけないわ。いいわね?」

「…はい」

「じゃあ、わたしは業務に戻るから。お燐も無理はしちゃダメよ」

そういうとさとりはお燐の横を通って執務室に戻っていった。さとりがいなくなったのを確認したお燐は緊張が一気に解け、その場に座り込む。そのまま体操座りで頭を抱え込んだお燐は一人考える。

(さとり様…本当にどうしちゃったんだろう。)

「お姉ちゃんはね、生きたお人形さんが欲しかったんだよ」

その時、突如聞きなれた声が聞こえてくる。お燐が見上げるとそこにはもう一人の主人である古明地こいしがかおをのぞかせていた。

「こいし様…」

こいしは言葉を続ける。

「お姉ちゃんは優しいから人の嫌なところは見たくないの。でもお姉ちゃんはそれを見ちゃう。それに自分の嫌だと思ったことを相手に話すこともできない。話したら相手を嫌な気分にさせちゃうから。だからお姉ちゃんには返事だけする生きたお人形さんがね、必要なの」

「でもあの男は返事なんて…」

「嘘でもいいの。お姉ちゃんにとっては握り返してくれるだけで十分なの」

「そ、そんなのって…」

こいしの話を聞き、お燐は胸が張り裂けそうなほど悲しみに襲われる。

「とにかく私達にできるのはお姉ちゃんを見守ることだけだよ。」

「…わかりました」

お燐はこいしの言葉にとりあえず納得し、さとりを見守る決意を固める。ふとその時、一つの疑問が生まれる。

「こいし様はどうしてさとり様のお考えがわかるのですか?こいし様は心がよめるわけではないのに」

「んーそれはね、お姉ちゃんの「小説」を読んだからだよ」

そう言い残すとこいしはまたまるで最初からいなかったかのように消えたのであった。

 

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