東方ヤンデレ物語   作:永遠の東方牢人生

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ヤンデレ早苗

大人になったら見えなくなると思っていた。そもそもしょせんは目の錯覚であり、プラズマ現象のはずなのだ。友達に聞いてもいるはずがないとみんな言う。それが当たり前であり、非現実的なモノに考えを割くほど暇なわけではないのに…なのにどうしてこんな目にあうのだろうか

 

「はあ…はぁ…クソッ」

○○は息をきらしながらひたすら走る。はたからすれば忘れ物をした高校生が遅刻しないために必死になっている、日常のとりとめのない一コマなのであろう。だが、本人にしてみれば非日常的な、いや、○○個人にとってはある意味日常的な危機が迫っていた。

(さ、最悪だ…なんでこんな田舎に引っ越したんだよ)

通勤通学でにぎわう小さな住宅街を駆け抜け、○○は目的の場所までがむしゃらに足を動かす。住宅街の奥、林の生い茂る所に差し掛かると目的の場所が見えてくる。最後の難関の階段を登ろうとした時、階段の上に緑色の奇抜な髪をした少女が立っているのを○○は確認する。

「東風谷さん!!」

「○○さん、はやく!!」

○○は階段を駆け上り、少女の横を過ぎ去る。その瞬間、鈍い音と得体の知れないおどろおどろしい断末魔が響き渡る。恐る恐る○○が振り返るとそこにはいつもと変わらない街並みと憎々しい程に綺麗な青空が広がっていた。

 

 

「ありがとう、東風谷さん。後ごめん、また僕のせいで遅刻に…」

「いいんですよ、○○さんのためなら。それに学校はあまり好きではないですし…」

○○は今、守矢神社の境内にある東風谷早苗の住む家の居間で休憩を取っていた。朝早くから走っていたので、汗だくになった○○は制汗剤を体にかけつつ、扇風機の前を占領していた。

「それにしても、もし東風谷さんがいなかったらと思うと…本当にありがとう」

「ふふ、どういたしまして。でもごめんなさい。その御守りあまり効果がないみたいで」

「気にしないで。この御守りのおかげであいつらも俺に手が出しにくいみたいなんだ。そんなことより学校は…どうしようか?」

「このまま午前中は休みましょう。それにそもそも○○さんなら授業を聞かなくてもいいじゃないですか」

台所から戻ってきた早苗は○○の前のちゃぶ台にコップを置き、お茶を注ぐ。○○は早苗に一言感謝を述べるとそのお茶を一気に飲み干し、言葉を続ける。

「確かに勉強だけは得意だからね。よし、じゃあ数学をしようか。教科書を開いて」

「はい、先生!!」

そうして2人は数時間ほどお互いにわからないところを教えあいながら、2人だけの時間を楽しんだのであった。

 

 

守矢神社で昼食を楽しんだ後、○○と早苗は高校へ向かっていた。高校は昼休みの終盤であったので生徒たちの笑い声が響き渡る。○○と早苗はその声を聞き、憂鬱になるが、玄関まで入ると靴を履き替える。

「じゃあ、また放課後に」

「はい…また後で会いましょう」

そういうと二人は別々の棟に向けて歩き出す。階段を上り、騒々しい廊下を歩き、2階の奥からに3番目の教室のドアを開ける。開けたとき何人かが○○の方を見るが直ぐに視線をそらす。○○はそんなクラスメイトを無視し、自分の席に着く。鞄を机の上に置き、教科書を机の中に入れ始めた時、○○の周りを何人かの生徒が取り囲んだ。

「彼女とイチャイチャしてから学校とはいい御身分だな」

○○の目の前にいる体格の良い男子生徒が声をかける。○○はそれを無視するが、その男子は構わず続ける。

「朝から走ってあのオカルト緑女の所に行ってやることやってからくる主席様がうらやましいんですよ」

男の言葉につられて取り巻き達が笑い出す。

「…」

○○は男の言葉に一切反応せず、沈黙をつらぬく。

「あれ?この前は自分の女のことでかっこつけてたのに、今日はなにもしないんだ。この前俺らにボコボコにされたから怖気ついちゃったかな」

「…何か用?」

耐えきれなくなった○○が周りを睨みながら言葉を発する。それを見て男達は笑いながら答える。

「いやいや、俺達は心配してるだけっすよ。あの神社の奥の山で、有名な漫画家が行方不明になってるし。あの神社がさらったって噂もあるし。俺たちは心配で心配で…」

「わかったからそろそろどいたら?授業始まるよ」

ちょうどその時チャイムが鳴り、先生が入ってくる。

「ちっ、覚えてろよ」

そう吐き捨てると男とその取り巻き達は○○の席から離れる。○○は横目で彼らを一瞥すると、深いため息をつくのであった。

 

 

放課後、○○と早苗は帰路につく。夕焼けが街全体を明るく照らしており、じめじめとした暑さが2人をむしばんでいた。

「○○さん、学校は大丈夫でしたか?」

「ああうん、いつも通りだったよ。東風谷さんは?」

「…私もいつも通りです。ごめんなさい、私のせいで○○さんまd…」

「東風谷さん」

○○が早苗の言葉を遮る。

「どうせこの体質のせいで遅かれ早かれ煙たがられるよ。今までもそうだったし。それにそもそも東風谷さんには沢山守ってもらっているから感謝しかないよ。僕と同じで見える人が君で本当に良かった」

「…私も、私も○○さんに会えて本当に良かったです。今まで人間の、ましてや男の子の友達なんていなかったから。本当に寂しくて」

早苗の言葉に○○は何も言わず、ただ耳を傾ける。

「○○さん、私達これからもずっと一緒にいれますか?」

○○は早苗の手を握り強くうなずく。

「うん、2人で頑張ろう」

お互いの絆を確かめ合う2人を夕陽が深紅に照らしていた。

 

早苗と別れた後、◯◯は1人誰もいない住宅街を歩いていた。風の音さえ聞こえず、ただ◯◯の歩く音だけが周りに響く。

(そういえばこの時間帯は「逢魔時」と言ってとても危険な時間だと東風谷さんが言ってたな)

早苗の忠告を思い出した◯◯は自然と歩みを速くする。早足で帰りながら◯◯はとあることに気づく。

(…おかしい。なんで誰もいないんだ。普通ならこの時間帯は他にも帰宅途中の人がいるはずなのに…)

異変を感じた◯◯は恐怖でいつのまにか駆け足になっていた。そしてそのまま全速力で家まで駆け抜けようとする。その時、◯◯は背後から何かとても不気味な気配を感じ取った。瞬間、◯◯の体は蛇に睨まれた蛙のように硬直する。もがいてもがいても◯◯の体は一向に動こうとしない。ただなぜか首だけは動かせるので◯◯は恐る恐る何かの正体を確かめようと首を後ろに向ける。背後にはいつも通りの風景が広がっていた。安堵した◯◯はいつの間にか首と一緒に後ろを向き、動かせるようになっていた体を前に向ける。

「こんばんは、◯◯♪」

「うああああああああああ‼️」

◯◯は飛び上がり、尻餅をついた。◯◯の目の前にいつの間にか少女がいたのだ。その少女は見たこともない奇抜な帽子を被った10歳程度の可愛らしい少女だった。顔は帽子でよく見えない。だが、◯◯はこの少女が今まで遭遇したどの怪異よりも恐ろしい物だと本能で理解した。尻餅をついた◯◯は少女の顔を見上げる形になった。◯◯とその少女の目が合う。その時、◯◯は少女の目が蛇のようなとてつもなく恐ろしい目をしていたのをはっきりと確認した。

「いやー私にやっと気づいたね、◯◯」

少女が◯◯に話しかける。しかし、あまりの恐怖に◯◯は何も答えることができない。

「あー恐怖で何も喋れないのか。相変わらず中途半端に見える人間はいい反応をするね。まぁ、安心してよ◯◯。別にお前を取って喰う気はないからさ」

少女が身を屈め、◯◯に優しく話しかける。不思議なことに少女の人間と同じような優しい表情を見た途端◯◯の恐怖心が和らぐ。

「あ、あなたは一体なんなんですか」

精一杯絞り込んだ声で◯◯は尋ねかける。

「私は洩矢諏訪子。お前さんと良い仲になっている早苗の神様さ」

「も、洩矢様…確か前に東風谷さんが前に言ってた守矢神社の御祭神の…」

「そうそう、覚えててくれて嬉しいよ◯◯。でも思ってたより早く私が見えるようになるなんて。予想以上に早苗との相性がいいのかな。それとも元々才能があるのかもね」

「な、なんの話を…」

「ん?あぁ、気にしなくていいよ。こっちの話さ。見えるなら話が早い。お前さんはさっき早苗のずっと一緒にいてほしいって願いに同意をしたよな」

いきなりの諏訪子の言葉に◯◯は困惑しつつも答える。

「は、はい。そのつもりですけどそr…」

「それならいいんだ。神前での誓いは絶対だ。もう取り消せない。これで遠慮なく向こうに連れて行けるよ」

「一体それはどういうk…」

◯◯が諏訪子に真意を聞こうとしたが、既に諏訪子の姿はなかった。

 

 

その夜、◯◯は自分の部屋のベッドの中で1人、諏訪子の言葉を思い出していた。

(向こうに連れて行くと言ってたよな…向こうってなんだ?それにあの雰囲気異常だった…まさか、僕はとんでもないことを言ってしまったんじゃないだろうか。東風谷さんは僕をあの化け物の生贄にするつもりなんだ。そうすれば辻褄が合う。きっとここに来てから襲ってきた妖怪も僕が東風谷さんを信頼するよう仕向ける罠だったに違いない…)

◯◯はことの重大さに気づき、独り恐怖で震える。

(逃げないと…今すぐ逃げないと殺される。でもどうする?きっと今も監視されている筈だ。…いややるしかない。自転車で駅まで行って、駅の朝一番混雑する時間に特急にのる。そして東京まで行き、そこから飛行機で大阪のおじいちゃんの家に居候しよう。高校は通信制で高卒資格さえ取ればなんとかなる。いざとなったら高卒公務員になればいいし。それだけの学力はある。僕ならやれる。やってやる)

覚悟を決めた◯◯は明日のための準備を急いで行い、英気を養うのであった。

 

 

次の日の朝、計画を悟られないために◯◯は学校へ行く時と同じ格好をしていた。だが、特急に間に合わせるためにいつも家を出る時間より早く出発しようとしていた。

「◯◯〜、行ってらっしゃい。学校を休むのも程々にしどきなさいよ」

「大丈夫よ、行ってきまーす」

(ごめん、母さん。だけどこれしか方法はないんだ)

家族に何も言わず大阪に向かおうとすることに◯◯は罪悪感を覚えつつも、◯◯の四肢は決意で満ち溢れていた。

ガチャッという音がした後、玄関のドアを開ける。◯◯は恐怖する体に鞭を打ち、希望を胸に秘めさせていた。だが、ドアを開けて広がる景色は容易に◯◯を打ち砕く。

「◯◯さん 」

玄関の先には東風谷早苗が満面の笑みで立っていたのだ。早苗を見た瞬間、◯◯は心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。

「聞きましたよ◯◯さん。諏訪子様が見えるようになったんですね。これで心置きなく◯◯さんを幻想郷へ連れて行けます」

◯◯は恐怖のあまり何も言葉を発することが出来ず、体は金縛りに襲われる。

「でも諏訪子様もせっかちですね。諏訪子様のせいで◯◯さんが変な勘違いをしてるじゃないですか。監視用の御守りがなかったら気づけませんでしたよ」

「お、御守り…まさかあれで⁉️」

「はいそうです。流石察しがいいですね。まぁそんなことはどうでもいいんです。◯◯さん、駄目じゃないですか。私達はずっと、永遠に一緒だって言ったのに逃げるなんて。でも今回は諏訪子様が悪いので許してあげますけど、もうこれ以上はいけませんよ」

「い、嫌だ。僕はまだ死にたくな…」

「安心してください。殺しはしません。ただ幻想郷でずうっと私と暮らすだけですから」

その日の朝、◯◯は行方不明になった。母親の証言と部屋の状況により、学校へ向かうと嘘をつきどこか別の場所に行くつもりであったが、目撃証言どころか付近の監視カメラにも◯◯の姿は映っていない。唯一の手がかりは玄関先に落ちていた守矢神社と書かれた謎の御守りだけであった。

 

 

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