東方ヤンデレ物語   作:永遠の東方牢人生

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ヤンデレこいし

「あはは!変なお姉ちゃん。彼に会いたくなったから行くね」

そうして私は能力を使い、この場から消える。本当は消えたわけではないけれども誰も私に気づかないから消えたのと一緒だ。机に座るお姉ちゃんに背を向け、私は執務室を後にする。毎回ドアを開けっぱなしにするのは私がここにいたという証明になる気がして好きだ。広い地霊殿の廊下を歩いているとペット達とすれ違う。私のコツコツとした足音は聞こえているはずなのに誰も私に気づくことはない。当たり前の話だが、目の前で手を振っても踊っても誰も何の反応を示さないのが滑稽で毎回飽きずに馬鹿なことをしている。そうこうしているうちに地霊殿から旧地獄に出た。ここはあそこと違ってとても騒がしいけど同じだ。鬼でさえも私のことには気が付かない。こんなに気付かないなら私でも鬼を倒せるんじゃないかとさえ思う。まあ、実際は鬼の頑丈な体を傷つけることなんてできないだろうけど。そんなことを考えているといつの間にか目的地についていた。無意識に足が私を彼の所まで運んだのは能力なのか愛なのかはわからない、なんて馬鹿なことを考える。変なことばかりを考え、必死にあのことを考えないようにしている自分を嘲笑いつつ彼の家の前に立ち、身なりを整え、いざ戸を開けようと…

「その気配…こいしさんかい?」

「○○!遊びに来たよー」

私が後ろを振り向くといつも通り土で汚れた、それでもかっこいい顔立ちをした彼、○○が立っていた。鼻のすぐ上まで伸ばした茶髪の髪が汗で湿っていることからも想像できるが恐らく先ほどまで仕事をしていたのだろう。お姉ちゃんが計画している旧地獄開発の現場責任者らしい。私は計画自体は興味ないから全く知らないけれど○○が現場で頼られているのはよく見ているから知っている。それに気づいているのは○○だけだけど。

「こいしさん、ぼうっとしとるけれど大丈夫かい?」

「あ、うん。考え事をしていただけだから」

「そうかい。ならよか」

「そんなことより○○。まだ私能力を解いていないのによくわかったね!!」

「そりゃあ、愛の力だって前にこいしさんが言っとったじゃなかか。今更よ」

「えへへへ、そうだったね。無意識に言ってた」

私と○○が笑いあう。私は毎回この瞬間に安堵する。

「真面目な話、俺のあらゆるものを感じ取る能力のおかげやね。俺達の種族は…もう俺しかおらんけど、地下に適応するために目を捨てたんやけん、それぐらいは出来んと…そんな話はどうでもいいんよ。さ、中に入ろう。こいしさんが好きなおかしがあるけん」

「わーい、やったぁ!!」

私は○○の腕を掴み自分の腕と絡める。○○は全く嫌そうな顔をせず、私を抱き寄せる。○○と私はそうして家の暗闇に姿を消したのであった。

 

 

それから数か月の時が流れた。私はお姉ちゃんに会うために自分の部屋から執務室に向かっていた。いつも通り能力を使いお姉ちゃんを驚かせようとしたのだが、執務室にお姉ちゃんの姿はなかった。最近拾った男の元に行っているのだろう。お姉ちゃんは心が見えるからマイナスな感情をとても嫌悪している。潔癖症だと自嘲するぐらいに。だから眠ったままの、手を握ると反射的に握り返すことしかしない生きた人形しか愛せないのだ。ただの人形だと本物の愛だと言えないけど、相手は生きてはいるのだ。眠っているだけだから何も考えない、ただ握り返してくれるだけの人形。それも一種の愛なのだろう。だが、私はそれがとても恐ろしい。自分もああなっていたかもしれないと思うと怖くてしょうがない。もしも目が閉じていなかったならばと考えてしまう。彼はそんなことを考えても仕方がないと前に言っていたけれども…いや、本当はそうではないのだ。私が本当に恐れていることはそうではない。お姉ちゃんを見ていると今の幸せがいつか壊れるのではないかと考えてしまう。私だけが幸せになるなんてことは絶対にあるわけが…

「こいし」

「お、お姉ちゃん。おかえり」

後ろを振り向くとドアの前にお姉ちゃんが立っていた。

「ただいま、ってただいまはあなたでしょ。彼の所に行っていたの?」

「そうだよー。そういうお姉ちゃんもでしょ」

「ええ、そうよ。そういえばこいし」

「なあに、おねえちゃん?」

「あなた、前に恋人ができたら心がポカポカすると言っていたわね」

「うん、言ったよー」

「私やっとその気持ちを知ることができたの。さとり妖怪なのに笑っちゃうわよね」

お姉ちゃんの心底幸せそうな笑顔に私は胸が締め付けられる。

「そうだね!でもお姉ちゃんが幸せそうでよかった」

「ありがとう、こいし」

「私そろそろ行くね、お姉ちゃん」

お姉ちゃんの言葉に耐え切れなくなった私は急いで部屋を出る。私は能力を使い認識出来ないようにした上で廊下の端にうずくまる。あんなものが幸せなはずがない。一緒にご飯を食べたり遊んだりできないなんて、ただ一方的に話しかけることが幸せなはずがない。でもそうするしか幸せをかみしめられないようにお姉ちゃんをしたのは私のせいだ。私が目を閉ざしたからお姉ちゃんの気持ちを本当に理解できないのだ。お姉ちゃんを一人ぼっちにしたのは私だ。だから私はお姉ちゃんに何も言うことなんてできない。それどころか私が幸せになっていいはずがない。でも○○のことが好きだから、どんな時でも私を見つけてくれる○○が大好きだから、彼と別れることなんてできない。彼との時間だけが嫌なことを忘れさせてくれる。でも私だけが幸せになるのもあっていいはずがない。私はこの思考をいつも通り無理矢理押さえつける。そしていつも通りのことを考えながら無意識に従い彼の元へ向かっていくのであった。

 

旧地獄街を通り抜け私は○○の元に向かう。その間私はなるべくお姉ちゃんのことを考えないようにするため、いつも通り周りの様子を観察しながら歩く。最初は現実逃避で始めたけれど今では趣味みたいなものだ。こうした見ていくとこんな薄暗い場所にも色んな妖怪がいることに気づく。ずっと酒を飲んで酔っ払っている鬼や借金取りに追われている小妖怪、仕事に精を出す○○みたいな真面目な妖怪等々多種多様だ。でも誰も私に気づかない。当たり前のことなのにどうしようもなく悲しくなる。始めたころはこんなこと考えなかったのに、どんどん考えるようになっている。いや、きっと気のせいだ。お姉ちゃんのことばかりが頭の中を占めるようになっているから、その不安感がそう思わせているだけに決まっている。彼に会えば、○○に会いさえすればこんな気持ちなんて忘れるんだ。ほら、もうすぐ○○の働いている工事現場に着く。そうすれば…

 

 

「○○~!!」

目的地に着いた私は○○の姿を目に捉えると声を張り上げた。○○は工事現場のことについて鬼である星熊勇儀と話しているようだった。聞こえていないようだったので再度私は声をあげる。

「○○~、○○…〇、〇…?」

私の呼びかけに○○が無視を、した?

 

 

なんで?なんで?ナンデ?ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ

 

 

「ん?こいしさん?」

「お、どうしたんだい○○?」

「いや、今こいしさんの声がした気がしたんよ」

○○はこいしの声がした方を振り向くが何も気配を感じなかった。

「あれ、おかしい。こいしさんを感じ取れないわけはないはずなんやけど」

首をかしげる○○を見た勇儀は○○に言葉をかける。

「○○、まだ休憩時間だからこいしに会いに行ってやりな。私と話すより恋人と話した方がお前さんも元気が出るだろう」

「勇儀さん、ありがとう。行ってくるわ」

「ああ、そうしな。それに…」

「それに?」

急に険しい顔になった勇儀を○○は不審に思う。

「なぜか、嫌な予感がする」

その瞬間、○○は駆け出した。

 

 

前から分かっていたことなんだ。私だけが幸せになれるはずがないということぐらい。お姉ちゃんを見捨てた罰が今当たっただけなんだ。私の声が聞こえなかったということは○○は私を認識できなかったのだろう。考えれば当たり前のことなのだ。私の無意識に今までたまたま○○が反応出来ていただけなのだ。誰ももう私に気づくことなんてない。もうこのまま消えてしまいたい。死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死に…

「こいしさん!!」

その時もう聞くはずのないと思い込んでいた私は振り返る。そこには全身汗だくで息を切らしている○○が私の目の前にいた。

「○○…な、んで?」

「やっぱりこいしさんやったか。すまんね、勇儀さんと話してて気づけんか…」

私は嬉しさのあまり○○に抱きつく。そして大粒の涙を流しながら泣いたのであった。

 

 

「俺が気づかなかったから、てっきり俺にも認識されないようになったと勘違いしたということか」

「うん…」

しばらく○○の中で泣いた後、私は○○に抱き着いたまま今の状況を説明していた。

「前に言ってたやないか。俺がこいしさんに気づくのは愛の力だって。忘れてたんか」

「ごめんなさい…」

「いや、責める気はないから安心して。こいしさんがどうしてこうなったんかはわかっとる。さとり様のことやろ?」

「…うん」

○○に本心を言い当てられて私の心臓をぎゅうっと握られる思いがした。

「こいしさんはなんも悪くなか」

「そんなことない!!私の、私のせいでお姉ちゃんは…」

「さとり様はご自分で幸せだと思っているんやろ。なら、それでよかじゃなかか」

「そんなことはないよ。あんなのが幸せなんて…」

「でもそれはこいしさんの意見やろ。それが正しいかは誰にもわからん。ばってん、何が正しいのかを決めるのはさとり様じゃ。こいしさんではないんよ。だから諦めよ」

「諦める?」

○○のその言葉を聞き私は顔を上げる。

「そう、諦めるんよ。そうしたら楽よ。何も不安になることもないし気楽に俺やお燐、お空とかと沢山遊べるけん。こいしさんもその方がいいやろ?」

○○からの悪魔の囁きに抗う程の気力を私はもう持っていなかった。

「うん、楽な方がいい」

私は半分無意識に答える。

「とりあえず今日は休むけん一緒に帰ろう。こいしさんの好きなおかしがあるけんさ」

そう言い私の手を取り歩き出す○○に私はただついていくことしかできなかった。

 

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