ありふれない覚醒カウンターは世界最強 作:旧管理局
「それではハイリヒ王国にいきましょう。勇者様、使徒の皆様、私の後についてきてください。」
そう言ったイシュタルが先頭に立ち、聖教教会の正面門に向かう。
どうやら聖教教会は【神山】とやらの頂上にあるらしく、凱旋門もかくやという荘厳な門を潜るとそこには雲海が広がっていた。
クラスメイト達は太陽の光を反射してキラキラと煌めく雲海と透き通るような青空という雄大な景色に呆然と見惚れていた。
どこか自慢気なイシュタルに促されて先を進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。美しい回廊を進みながら促されるままその台座に乗る。
台座には巨大な魔法陣が刻まれていた。柵の向こう側は雲海なので大多数の生徒が中央に身を寄せる。それでもクラスメイト達は興味が湧くのは止められないようでキョロキョロと周りを見渡していると、
「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん――"天道"」
そしてその詠唱のような何かが終わったと同時に足元の魔法陣が燦然と輝き出し、まるでロープウェイのように滑らかに台座が動き出して地上へ向けて斜めにおりていく。
自分以外のクラスメイト達はキャッキャッと騒ぎ出す。雲海に突入する頃にはうるさいと怒鳴りたくなるほどだった。
そして雲海を抜けた先には大きな町――ではなく国が見える。巨大な城と放射状に広がる城下町は主要都市と言えるだろう…自分たちが乗っている台座は王宮と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上に続いているようだ。
こんな物をを見せられれば、それこそ『この街は魔人族に滅ぼされ、瓦礫の山となるでしょう。それを防ぐ為にはあなた方の力が必要なのです!』等と言っている様な物だ。
現に
もうそろそろ着くだろうと感じた時に、背中に背負っていたカバンから静かにマグナムと鞘に特殊な機能を付けた日本刀を取り出し、こっそりと身につける。
いざとなればクラスメイトを殺してでも生き残る為に。
そうして王宮に着くと、自分たちは真っ直ぐに王座の間に案内された。
それこそ教会に負けないくらい煌びやかな内装の廊下を歩く。
道中、騎士や文官のような者、メイド等の使用人とすれ違うが、全員が期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた視線を向けて来る。
特に自分には強い視線が集まっていた。最後尾で腰に日本刀を掛けているのだから当たり前ではあるが。
そうして歩き続け、美しい意匠に凝らされた巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士の二人が
「「イシュタル様、ならびに勇者様方がご到着いたしました!」」
とかなりの大声で告げ、中の返事を待たずに扉を開け放った。
イシュタルはそれがさも当然のように悠々と扉を通る。天之河達の様な一部例外を除いては恐る恐るといった感じで潜って行く。
扉をくぐった先には真っ直ぐ延びたレッドカーペット、その奥の中央に豪奢な玉座があり、その手前で立ち上がり待っている初老の男がいた。その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。
(面倒だな…)
そう心の中で呟く。
本来は王であろう初老の男が「立ち上がり待っていた」訳である。こうなれば狂信者が王より立場が上なのが大方想像できる。
そうして狂信者が玉座の手前に着くと、狂信者は私達をそこに止め置き、狂信者自身は国王の隣へと並び、そこでおもむろに手を差し出すと国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度にキスをした。
(…やっぱりな)
今ので判断材料は整ったわけである。この国を動かしているのはほかでもないエヒト神とその神を信仰する者である。
(良く出来た茶番劇だことで…)
そこからはただの自己紹介。
国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナという。
その他には、騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介も。
興味が無かったので聞き流したが。
その後、晩餐会が開かれ異世界料理を堪能した。見た目は地球の洋食とほとんど変わらなかった。たまにピンク色のソースや虹色に輝く飲み物に関してはクラスメイトは手を付けていたが自分は断った。何が入っているのか分からない物何ぞを体の中に入れるなんてごめんだ。
それにどうやらこの晩餐会にはそれなりの数の貴族等も参加しているようで、少しでも『神の使徒』である自分達にお近づきになりたいのか、生徒達に積極的に話していた。彼らも悪い気がしないのか、男子は可愛い令嬢に言い寄られ鼻の下を伸ばしていたり、女子はイケメンの貴族がスマイルを見せると顔を赤くしていた。
「…あほらしい」
クラスメイトや貴族たちとは離れたテラスから外の景色を見ながらそう呟いた。
自分にはこの晩餐会という名のパーティーが気に食わなかった。戦争中のはずなのに貴族はこのパーティーを楽しんでいる。何故かだか理解出来なかった。早く終われなどと考えていると…
「Прошло много времени, приятель, когда вы виделись в последний раз?」
聞き覚えのある、柔らかくも硬い、聞きなれたロシア語だった。
「Wann habt ihr euch das letzte Mal gesehen? Es ist fünf oder sechs Jahre her, Ljudmila.」
その言葉にドイツ語で返す。
「お前のそのドイツ語も久しぶりに聞いたな…まさかこんな再開をするとは思ってもみなかった…古鷹祐介。いや、こう呼んだ方がいいか?アドラー?」
普段の彼女ならば見せないような笑顔を作り出し、そう私のかつてのあだ名を呼ぶ女。リュドミラ。かつての旧管理局第9師団、メイズ戦隊の司令官を務めた優秀な砲兵だった。
「…やめてくれ。恥ずかしいだろう? 周りに人がいないからと言って、下手にそのあだ名を出さないでくれ」
「よく言うな、祐介? 実際、このあだ名を現役時代に好んで使っていたのは誰だ?」
「…私だな」
「ああ、そうだろう。どうせだ、これでも飲むか?」
そう言ってリュドミラが出したのは…――
「アブサン…か。また随分と懐かしい物を」
「お前がこういう宴会でよく飲んでいたのはこれだったろう?」
「まぁ…な?」
そう言って景色を眺めながら話し合っていると、背中のほうから若い女声が聞こえた。
「あの、パーティーには参加されないのですか?」
「「!?」」
急に声をかけられたせいでホルスターに収めていたマグナムを無意識のうちに引き抜き、構えていた。
「Scheiße, du hast mich zu Tode erschreckt.」
「…お前はその癖を直すべきだな」
ハァとリュドミラがため息をつきながら言う。
「俺はカウンターなんだぞ? それにこいつは体に染みついた癖なんだ、一体どうしろってんだよ?」
マグナムをくるくると回しながらホルスターに収める。
「で…あんたは……誰だっけ?」
「リリアーナだ…リリアーナ・シャルム・バーン・ハイリヒ。この国の女王だ。自己紹介を聞いてなかったのか?」
「…ああ。興味が無かったからな」
「えっ…?」
明らかに心に傷を負ったといわんばかりの声を上げるリリアーナ。
「き、興味がないって…そんな」
その場に膝から崩れ落ちる。
「そ、それよりもです! えっと…そのー…パーティーには参加されないのですか?」
直ぐに立ち上がり、そう質問する。
「あいにくだが俺は一人でこういう静かな所で酒を飲んでるのが性に合ってるんだ。それに、だ……わざわざ人様を戦争に引きずり込んだ連中と仲良くなんてしたいと思うか?」
「え? えっと…そ、それは…「別にいいさ、好きなように言え」…その…私は……」
何か言いたいのだろうが言葉が上手く出て来ずにもごつくリリアーナ。
「正直に言わせてもらう。俺は別だがそれ以外の奴はろくに戦ったことすらないただの学生なんだぞ? 適当な理由を付けて人様を別世界から拉致って戦争を強要させるだなんてあんたらは馬鹿かなんかか?」
リリアーナもリュドミラも口を閉じて黙って聞いている。リュドミラは止めに入らないし、リリアーナに関しては反論すらしてこない。
「おまけに俺たちを『選ばれた者』と呼んで持ち上げることで自分達は特別なんだと思わせようとしているだろう? おまけにあんたら上流階級は戦争を俺たちに丸投げする満々じゃないか! この世界の人々は本当に存亡の危機にあるとは一切思えんがな!」
「そっ、そんなことはありません! 実際私達は魔人の脅威に晒されていて「だったらどうして貴族共はあんなにも心の底からパーティーを楽しんでる!」っ…そ、それは…」
少なくとも自分はタスクフォースカンパニー所属のカウンターである。そうである以上他のタスクフォースカンパニーや国、企業主催のパーティーに嫌でも行く羽目になる。自分の先輩方から相手の考えていることがちょっとした仕草や目、口の動きで分かるように訓練を受けたからこそわかる。
「あんたらハイリヒ王国の連中はあんたら自身の問題を勝手に連れて来たただの学生に押し付けるつもりなんだろ?」
グラスに入ったアブサンを一気に飲み干して机の上に置く。
「これ以上言うと雰囲気がひどくなりそうだからここら辺で抜ける。用があるんだったら明日にしてくれ」
そう言ってテラスから矢継ぎ早に出ていく。
晩餐が終わり解散になると、それぞれの部屋に案内された。幸い、一人で一部屋を使うこともできるし二人で一部屋を分けて使うかどうかを選べたので一人一部屋の方を選んだ。
明日から始まる訓練のためにカバンから荷物を出し、まとめた後パジャマに着替え、普段の仕事で使う服を出した後、すぐさま眠りについた。