今回だけ一時間開けての2話連続投稿です
野明は非番ということで街に出ていた。
用事もあったというのもあるが、旧電波塔がある押上に来ていた。
脱線事故が起きた北押上駅もここにある。
(ここがあの旧電波塔…本当に傾いてるんだ)
電波塔事件
10年前、東京を象徴する巨大タワー電波塔がテロリストによって占拠された事件。
当時の当局により解決したのものの電波塔自体が傾くという結果に終わった。
その後、在京局の放送送信設備は予備送信所であった東京都港区にある東京塔へ再移転。
現在は新たなるシンボルとなる634mの延空木が建設中であり、終了次第そちらが新たな電波塔の役割を果たす予定のようだ。
ちなみにバビロンプロジェクトは少子化傾向があった日本が再び出生率増加に転じたことによる人口増加による土地不足解消という理由があるのだが、その延空木の建設と同時に始まっている。
(10年前…あたしがまだ小学校のときだっけ。なんか報道されてるなって思ったけど、こんなんだったんだ)
その旧電波塔は今や日本を代表する平和のシンボルである。
原爆ドームや震災遺構などと同様に戒める意図もあり、あの悲劇を忘れないためにあるものでもある。
(そして駅は…)
北押上駅はまだ封鎖されているようで、警官達の見張りもある。
とてもじゃないが入っていけるようなものではない。
野明は警察官とはいえ、警備部所属であり、捜査する権限もない。
もちろんあったとしても入れるわけではないのだが。
そんな時…。
「あ、後藤さんのところの」
「あ!松井刑事!」
松井刑事
本名は松井孝弘、階級は警部補で後藤隊長の同期であり警視庁捜査一課の刑事である。
後藤には色々と頼まれごとをされていたりするのでいい加減に縁を切りたいと思ってるがそれは叶わぬ願いである。
「どうしてここに?」
「いや、ちょっと野暮用ついでに昨日の事故について見に来たんだが…どうにも入れてくれなくてね」
「松井刑事でも入れないんですか?でも松井刑事ってこういう捜査もするような…」
「いや…にっちもさっちも入れてくれないんだ。所轄の連中にも話を聞いたが、同じようみたいなんだ…」
「そうですか…」
そして松井はまた別の用事があるようで分かれるが、野明としてはまた疑念を強くせざるをえないものとなっていた。
(うーん…松井刑事も入れない現場かぁ……そんなに脱線事故って重要なことなのかな?国交省が出てきたとしてもそんなのって)
「あーん…さっき食べたばっかなのになんか小腹空いちゃった…なんか喫茶店とかないかなぁ…」
そうやって押上をトボトボと歩いてるとふと喫茶店が目に入る。
「ん?…喫茶…リコリコ?」
木造で少し和風な建物。看板には「喫茶リコリコ」と書いてあった。
「へーっ、こんなカラフルな店も東京にはあるんだ。入ってみよ!」
ファントム、廃棄物13号、グリフォンやらの騒動が続いたこともあり、外出することが少なくなってしまった野明にとってこういう店は始めてだった。
カランカラン…
「はい、いらっしゃーい!」
出迎えたのは赤い和装した女子高生くらいの女の子。
どうやら従業員である。
「お一人様?」
「あ、はい!」
「じゃあカウンターに座ってねー」
その女の子はとても元気そうであった。
「いらっしゃい」
カウンターに居るのは褐色の大男…と言っても野明にとって大男は見慣れているので今更驚くことはなかった。
「あ、はい。じゃあコーヒーと…これを」
「はいよっと」
「あれ?お客さん、先生のこと見ても驚かないんだねぇ」
「え?あー…あたしの同僚にこの人くらいの大男がいるから慣れてるんです」
(他にも色々とあったしね…)
「へーっ、そうなんですかぁ」
「はいよ。まずはコーヒー」
コトンとコーヒーが置かれる。
野明はそれを口に運ぶ。
「んんっ。おいしい!」
「でしょ?先生のコーヒーはめっちゃ美味しいから!」
「はい。隊で飲むあのインスタントなんかより全然」
「隊?お嬢さん、なんかそういう仕事についているのか?」
「あ、まあなんというか…」
(まあ隠してるもんじゃないし、見せたって良いよね)
野明は持っていた警察手帳を見せる。
そこには『巡査 泉野明 警視庁』と書いてあった。当然写真付きである。
「ほう、警察官か」
「へーっ、警察官?うちにも常連さんいるよ?どこの警察署?」
「えっと、一応警視庁の本部だけど…あの特車二課って言えばわかるかな?」
「あーあのパトロールレイバー隊の特車二課か。てことはお前さん特車二課の第二小隊か?」
「え?そうですけど」
マスターに言い当てられたのは少し驚いた野明。
それ当時にその女の子は急にテンションを上げた。
「ってことはあのパトレイバーの操縦?指揮?」
「操縦だよ?もしかしてレイバーに興味あるの?」
「うん!だってロボットだよ?ドシンドシンとかってかっこいいじゃん!」
どうやら馬があったようである。
そこにもう一人の従業員がやってくる。
「…千束?」
もう一人のほうは青い和装をしていて、黒い長髪だ。
いかにもクールな印象を醸し出している。
「たきな、見て。ついにうちにもパトレイバーのパイロットさんが来てくれたんだよ!」
どうやらその従業員はたきなと、赤いほうは千束と言うらしい。
「パトレイバー…ああ…どっちのですか?」
「あ、そうだ。どっちの?第一?第二?」
「えっと…第二小隊の……」
「ああ、あの『第二小隊が通った後はペンペン草も生えない』の第二小隊か」
マスターはポンと手をたたく。
模範的な第一小隊に対し、第二小隊は『独立愚連隊』『こいつ、おまわりさんです』とか言われるほどの問題児として有名であった。それでも数々のレイバー事件を解決した事実は揺るがないものではあるが。
「ああ、あの独立愚連隊の第二小隊かぁ。もしかしてバーンって撃ってるの?」
「いやそれは…もう一人のほうだよ?太田功さんって言って『俺に銃を撃たせろ!』なんてたまに叫んでるの、聞いたこと無い?」
「ああ!あの報道されてたほうね!なるほどなるほど」
太田の悪名は酷く。一時期は保険屋すら見直しかけてたほどである。
対する野明は比較的おとなしい。比較的だが。
「あははは…」
それに対して苦笑いするしかない野明であった。
だがそんなとき…。
ドシーンッ!
「!」
たきなはその音を察知し警戒し、千束は驚いている。
そして野明はこの音に聞き覚えがあるのだった。
「もしかして!」
野明は即座に店から飛び出した。
なおお金はちゃんと置いていっている。
「うわ、あのお客さんちゃんとお金置いてってるよ!」
千束はその意味でも驚いていた。
――――――――
そして通りへ出ると、案の定レイバーが暴走していた。
「うぃーひっく…課長がなんだってんだ…おりゃあレイバー運転できんだぞ…」
どうやら酔っ払いがレイバーで暴走しているようだった。
そのレイバーは菱井インダストリー製のヘラクレス21であった。
(やっぱりレイバーの暴走…というより飲酒運転!)
「そこの暴走レイバー!止まれ!」
「ういーっ…なんだよこの…ひっく…じゃまだぁ!」
腕を振り回している。幸い野明には当たらないが、代わりに街灯や木々が破壊されている。
「うわっ!もー危ないなぁ…」
(どうにかして止めないと…でもレイバーが…アルフォンスがないと…)
そう思ってると野明のスマホに着信が入る。
「あーもう!こういう時に…もしもし!」
『野明、聞こえるか!』
「遊馬?どうしたの、今あたし忙しいんだけど」
『確か今は押上辺りにいるんだよな?』
「いるけど…それが何?」
『ならよかった!あと数分でそっちにつくからイングラムに乗ってくれ!』
「ええ!?なんでアルフォンスが…というか遊馬も非番じゃないの?」
『非番だけど八王子からイングラム1号機を戻しに来たところだったんだよ。そんで警察無線でそっちのことをキャッチしたから思いついて隊長にも許可はもらった!第一小隊はまたなんか手間取ってるらしいからな』
「すごい行動力だね…」
遊馬は基本どこかいけ好かないが、こういうときの行動力はピカイチであった。
「…というか遊馬、運転中の携帯はだめだよ?それハンズフリーじゃないでしょ」
「…超法規的措置ってやつだ!」
その瞬間ピッと切れたのであった。
いつも通り、警察官らしくない警察官の遊馬であった。
――――――――
そしてキキーッとブレーキを掛けて、レイバーのキャリアが到着する。
「野明!乗れ!」
遊馬はヘルメットを野明へ投げる。
そして野明はそれを付けた後、足早にイングラム…アルフォンスへと乗る。
「遊馬、いいよ!」
「おう!デッキアップする!」
キャリアのレイバー載せている荷台が上へと上がり、イングラムが直立する。
そして拘束を解除し、イングラムが動き出す。
「よし。アルフォンスも元気みたい」
「そりゃそうだ。今のイングラムは新品ピカピカも同然よ!野明、いつも通りレイバー無力化だ!」
「わかった!そこの暴走レイバー止まりなさい!」
サイレンを鳴らしつつ、ヘラクレス21へと突撃をする。
「ひっくなんだぁ…特車かぁ…さつかぁ…」
「ほら!早く投降しなさい!」
野明は対レイバー用電磁警棒を装備している。
「くっ…うっせえ!サツごときがおれをとめれるかよぉ…!」
ヘラクレス21はすぐさまイングラムへと飛びかかる。
「うわっ!でも…!」
前の野明だったら慌てたかもしれない。だが様々なレイバーとの戦いを経験してきた今の野明は違う。
「そりゃあああ!」
「うわああっ!!」
柔道の一本背負いのように綺麗にヘラクレス21を地面へ打ちのめす。
「うぁっ…ひっく…」
「器物損害!道路交通法現行犯!」
鮮やかに抑えていた。
彼女の成長がよくわかる…が。
「あ!野明!そこには車が…!」
「あ!」
背負投げた際に無人の車を2つほど潰してしまっていたようだ。
オチをつけるのはやはり第二小隊らしい。
「あはは…また保険降りるかな?」
「そう願うしか無いな」
野明はガックシするのであった。
一方喫茶リコリコの二人もその現場の一部始終を見に来ていたようで、千束は目を輝かせて、たきなは冷静に見ていた。
「どうやらただの酔っ払いだったようですね」
「うわあ、すごい…AV-98イングラム…!生で見れるなんて…!」
「やっぱり好きなんですか…」
「いやぁ…だから私も操縦しようと先生にレイバーの調達頼んだのに駄目だって。駐車スペースがないからって」
「スペースあればいいんですか」
「らしいよ?あとたきな、制服姿以外じゃ銃持ち歩いちゃ駄目だって。どうせ使えないんだから」
「まあそうですけど…癖で」
天然具合はやはり抜けていないたきなであった。
そして野明はリコリコへ戻る。
「あはは…すみません。途中で飛び出して…」
「いえ、迅速な鎮圧。見事でした」
「うんうん!流石パトレイバー!私も乗ってみたいなぁ…」
「もしかして、レイバーに興味あるの?」
野明はぐんぐんと来る。
「うん!色々な機体を映像で見たけどかっこいいよね!ずかーんってどかーんって!」
「だよね!ちなみにどんな機体が好きなの?」
「うーん…そう言われると悩むなぁ…」
トントン拍子でレイバー談義が進む。
「……千束、そろそろ時間ですよ」
「あ、そうだった!すみません野明さん!また今度!」
千束はたきなに連れられて秒で制服に着替えた後、喫茶店を後にする。
「じゃあねー!千束ちゃーん!」
それを見送る野明であった。