警官というより正義の味方と裏の彼女達   作:モンターク

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なるだけ抵触しないように執筆中



黒と白

 

『たかが脱線事故で一ヶ月も不通とか馬鹿にしてるのか!』

 

『半蔵門の脱線事故だけで京成と都営浅草線まで封鎖とは何を考えている!』

 

『代行バスは都営、京成、東武三社の運行でも手一杯なんですよ!早急に復旧を願いたい!』

 

『本当に重ね重ね利用者の方々には本当に申し訳ない…』

 

後藤隊長が聴いているラジオには東京地下鉄の社長の記者会見が流れている。

一ヶ月も通勤の足を止められて怒らないやつはいないのは言うまでもない。

 

「後藤さん、何聴いているの?また競馬?」

 

「いや、ニュース聴いてたらまた地下鉄の社長が記者会見開いてたらしいからそれ聴いてる。謝り倒したところでこの社長さんは悪くないのに」

 

「恐らくその社長さんも引責辞任の結末になるんでしょう?あの組織はそういう尻拭いまではしてくれないのね」

 

「ま、事件を事故に変えれるなら、表の人間のクビが飛ぼうとなんとも思わないさ。さてと…そろそろ」

 

「やっぱり競馬じゃない」

 

「当てたら奢るよ?デアリングタクトが1番取ってあの馬がくれば…」

 

「そういう問題じゃなくてね…」

 

引き続き昼行灯な後藤に頭を抱える南雲であった。

 

 

――――――――

 

その日の夜。

 

『支援したのは今や匿名支援の代名詞であるアラン・アダムズという謎の人物』

 

『まさに人の善意によってこのたびの歴史的快挙がもたらされたのである』

 

『またしてもですか。人の善意が歴史を作ったのですね』

 

『アランの支援を受けた者の共通点はこのチャームのみ。スポーツ選手以外にも研究者や芸術家など世界中で様々な分野の天才がアランの支援を受けており…』

 

特車二課の休憩室でテレビがついている。

それを遊馬と野明が見ている。

 

「ねえ遊馬、アラン機関っていわゆるあしながおじさんってことだよね?」

 

「まあ端的に言えばそうだな。アラン・アダムスってのはよくわからんがまあ相応の金持ちだろうな。つまり金持ちの道楽よ。俺らみたいな凡人なんか目もくれない」

 

「だよねぇ…でも人のためにお金を使うなんてすごいよね」

 

「いやいや…どうせなんか裏があるに決まってる。人の善意なんてそう簡単にあるか?どうせなにかしらの見返りがあるからやってるんだろ?その天才が成功して金が入ったら何%かはアラン機関にやるとか」

 

「もー、身も蓋もないこと言わない。まあでもそういう感じだろうね」

 

遊馬は親が親であるために金持ちに対しては妙に手厳しい。

野明もそれを知ってるために同意している。

そこへ後藤がやってくる。

 

「おお、篠原ここにいたか。ちょっと頼みたいことがあるんだが」

 

「なんですか隊長?」

 

「いや、男子トイレの電球が切れちゃってね。予備も探したんだが見つからないからちょっとコンビニに買ってきてくれないか?進士や太田はまだ忙しそうだし、山崎は仮眠してるし、女性陣をこんな真夜中にほっぽり出す鬼にはなりたくないし」

 

「ええ!?ここから歩いてコンビニに!?」

 

「何言ってるの。指揮車くらいは使っていいよ。まああとお釣りでなんか好きなの買ってきていいよ

 

遊馬に1000円渡す後藤隊長である。

 

「お、ラッキー!珍しいですね隊長!」

 

「そんなに珍しい?」

 

 

『やはりアラン機関は…』

 

 

――――――――

 

「ありがとうございましたー」

 

「都内にゃコンビニは大量にあるのに、あの孤島はちょっと行かないと無いとかどんないじめだ…しかも電球売ってるコンビニは更に少ねえし…」

 

そう言いつつ電球と飲み物やらの袋を後ろのスペースに置くとエンジンを掛け、指揮車を動かす。

パトカーがコンビニに止まり、警察官が買い物するというのは一昔前は色々と言われたが現在は防犯にもなるということで許容されている。もっとも一部は相変わらずクレームを入れるが…。

 

「窓はあけて…はぁっ、いい風だなぁ…」

 

昼間は物凄く暑いか夜はまだマシであるがゆえに遊馬は窓をあけて風を感じつつアクセルを踏んでいる。

いかにもいつもの遊馬であるが…。

 

 

パンッ!

 

「!?」

 

一発の銃声

しかもかなり近い場所での音だ。

 

パンッ!パンッ!

更に複数の銃声が響く。

 

(こいつは…銃声!)

 

遊馬は指揮車を止めて飛び出す。

 

(こっちのほうからだったな…しかしあの音ならレイバーではなく拳銃…何があったんだ…?)

 

 

――――――――

 

「はぁっ…はぁっ…」

 

そして制服姿の彼女…つまりサードリコリスの一人。

遊馬が先日送ったその子であった。

どうやら再び任務に入ったが失敗し攻撃を食らってしまったのだろう。

肩に銃撃を受けており、血も流している。複数のかすり傷もある。

そしてよほど走ったのか披露は限界のようだ。

 

(このままだと…見つかる…!)

 

だがそこへ遊馬がやってくる。

 

「あれ、この前の送ってやった……ってなんだその血は…!?」

 

「あ、あなたは…」

 

「誰にやられたんだ!?」

 

そして遊馬が周りに目にやると拳銃が落ちていた。

グロック17。グロック社が開発した自動拳銃だった。

 

「モデルガン?いやこの匂いは…」

 

「こっちだ!」

 

「!?」

 

そして敵らしき男達が向かってくる。

遊馬としてもこの状況をなんとなく理解した。

 

「おい、はやく逃げるぞ!」

 

「で、でも…」

 

「いいから!殺されるぞ!」

 

そして遊馬は彼女を急かすように走らせて、停めていた指揮車に乗らせ、サイレンを鳴らし即座に走らせる。

 

「緊急車両が通るぞ!」

 

シートベルトなんかする余裕もなく走り去る。

 

そして後ろの男たちは…。

 

「真島さん!リコリスを逃しました!またサツが!」

 

「チッ…悪運の強いやつだ…」

 

真島はバツが悪そうな表情でそうつぶやいた。

 

―――――

 

「隊長!隊長!」

 

遊馬はすぐさま隊長に直接電話をした。

 

『どうした篠原、電球見つかったか?』

 

「それどころじゃありません!銃撃による負傷者1!ベージュの制服姿の女子が銃撃された模様!」

 

『なに!?』

 

「どこか病院に送りたいんですが、隊長の方から消防に!」

 

『…わかった。城南港病院に移送しろ。俺の名前を出せばすぐにやってくれる。後で俺もそっちに行く』

 

「了解!」

 

「はあっ…くっ…!」

 

「大丈夫だ。もうすぐで病院につく!おらおら!国家権力のお通りだ!」

 

サイレンが鳴り響きながらそのまま進んでいくのであった

 

―――――

 

城南港病院に後藤以下第二小隊がついたのは数時間後だった。

だが後藤は院長に話を通すためか熊耳、野明、山崎、太田、進士が先に遊馬と会っていた。

深夜ということもあり、病院の待合室は小さい明かりがついているだけでほぼ無人である。

 

「篠原巡査、説明をお願いします」

 

「はっ!指揮車で二課棟に帰還中に突如として銃声が数発ほど近くで起こり、その銃声が聞こえたほうへ駆けつけたところ少女が血を流して倒れておりました。そこで彼女を抱えて指揮車に乗せ、隊長の指示に従い病院へと搬送しました。そしてこれが彼女が倒れていた現場の近くに置かれていた拳銃です」

 

遊馬は拳銃を取り出す。

 

「間違いなく本物です。念の為火薬は抜いておきました」

 

「これは…」

 

「グロック社製のグロック17じゃねえか!なんでこんなもんが…」

 

銃が大好きな太田が真っ先に食いつく。

 

「この拳銃であの子が撃たれたってこと?」

 

「それはわからない。だが後ろに何人かの男に追われていた以上、追われていた存在であることは確かだ。ヤクザの娘辺りかそれとも…」

 

「おお、ここにいたのか」

 

遅れて後藤がやってくる。

 

「隊長!なにか重大事件の予感です。すぐに手配を」

 

「まあまて。まず篠原、その拳銃で撃たれた少女はこういう制服を着ていなかったか?」

 

後藤はスマホを操作し写真を見せる。テレビのキャプチャ画面のようで、中継の際にその制服の子が写ったのを後藤は保存しておいたようだった。

 

「あ、はい。間違いありません。薄いベージュ色でリボンは…」

 

「ちょ、ちょっと待って!これってあの連続出動中止の時に必ず居た制服の…!」

 

野明は一ヶ月前のことを鮮明に思い出した。

出動した所、必ず制服姿の子がいて、その後に出動が取りやめられた事。

 

「本当か?野明」

 

「う、うん!間違いないよ!でもなんで…」

 

あまりにも不自然なものが重なった。

出動中止の裏に必ずいたその制服姿の子。

そして今回銃撃されたのも同じ制服の子。

偶然にしてはあまりにも出来すぎているものだった。

 

「これって……うわあ!」

 

だがそれを考える隙間はなかった。

何故なら次の瞬間、その待合室に黒服の男達がなだれ込んだからだ。

 

「これは何事ですか!」

 

「な、何だお前ら!警察に対して何するんだよ!」

 

「…ああ…やっぱり来ちゃうか」

 

熊耳が驚き、遊馬が文句言う中、後藤はこれを予想していたように嘆く。

そして後藤は口を開く。

 

「…もしかして俺たちの記憶消去しにきたかい?『DA』さん」

 

「………駒の回収だ」

 

他の黒服は何も聴いていないかのように動かないが黒服のリーダー格と思われる男だけは口を開く。

 

「やっぱりか。まあそれに関してはいいんだが」

 

「いいんだがってなんですか隊長!だいたいこいつらは一体何者なんです!」

 

「まあまあ篠原。銃を持っている相手には逆らわないほうが吉だ」

 

黒服たちは隠してはいるが、拳銃を持っているのは明白である。

後藤は「銃は持たない 銃を持っている相手には逆らわない」主義というのもあるが、後藤は遊馬を抑えている。

 

「ねえ、君たちのボスとお話できないかな?」

 

「……」

 

「これは後藤喜一としてのお願いなんだが…聴いてくれないかな?何、君たちの邪魔をする意図は一切ないよ」

 

「……まて」

 

その男は携帯電話で通話し、何かを話した後、その携帯電話を後藤に手渡す。

 

「はいはい。もしもし?後藤」

 

『ふっ…その気の抜けた声。後藤か」

 

「久しぶりだね、楠木さん…いや今は楠木司令だったかな」

 

『後藤喜一…あの件で首を突っ込みすぎたが故に特車二課に飛ばされたが、そのカミソリ具合は直っていないようだな』

 

「この具合は生まれつきなもんでね。それより、今回の件は感謝してよ?殺されそうになったところを助けてあげたんだから」

 

その話す姿は警備部長へ話すような口調ではなく、南雲と話すようなタメ口である。

 

『余計なことを…。最近嗅ぎ回っているようだが、今度は城南島ではなく南鳥島か沖ノ鳥島に飛ばしてほしいのか?』

 

「何言ってるの。君たちの任務の邪魔はしてないよ。第一ああいう女子高生にあんなことさせてるなんて。仮に気づいたとしても君たちはもみ消すしダークネットでも笑い話にしか扱われない。警視庁の鼻つまみ者が何を言ったって本庁の連中は笑うし、知ってる上の連中は黙殺する…君が一番良く知っていることのはずだ」

 

『……』

 

この具合で二人の話は続けている。

なにか重大なことを言っているようだが、遊馬達には訳が分からないことしか聞こえない。

そして数分後。

 

 

「うん、わかったわかった。じゃあ」

 

そして後藤は携帯電話を再び黒服の男に手渡す。

 

「司令…え?このまま…ですが…はい…はい…わかりました」

 

そして黒服の男は携帯電話の通話を切ると他の男達に撤退の指示を出し、この場から黒服は引き潮のように消えていった。

 

「………」

 

第二小隊の面々は唖然としていた。

特に野明は文字通り口をあんぐりと開いていた。

 

「た、隊長!一体どういうことですか!説明してください!」

 

遊馬も隊長の胸ぐらをつかむほど混乱しており

熊耳は察して苦い顔をし、進士や山崎はまだしも太田も珍しく言葉を失っている。

 

「…本当は巻き込みたくはなかったんだが……仕方ない」

 

いつもは部下すら誘導して操作する後藤ですら今回の件に関しては偶然が重なった結果のようで、本音でため息を付いていた。

 

「…今から話すことは一切他言無用だ。話した場合は命がない物と思え」

 


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