機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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FPBはジャンヌを救出する為にクレーディトメカニクス社に向かっていた。
そこで待ち構える敵を倒していき、彼女を救う為に行動して行く――


第八十八話 ジャンヌ救出作戦

 とある、薄暗い部屋にて。そこには若く、美しい容姿の女性がベッドの上で静かに眠っていた。やがて女性が目を覚ますと、彼女は部屋の様子を見回し、様子を伺った。

一見すれば小奇麗な印象を持つその部屋。どうやら彼女は、柔らかいベッドに眠らされていたようだ。部屋を見渡すと、中央には大型の液晶のモニターが備わっている。それ以外は清潔感のある、その部屋。

「う……ん……あ……ここ……は……?」

彼女が目を覚ました時、突如照明が部屋を照らした。そこは清潔な部屋で、彼女の眠っていたベッドも綺麗に整えられていた。

しかし彼女は突然の眩しい照明に対し、自身の腕で目元を覆った。その状態が数秒程続いた時、彼女の耳に一人の男の声が聞こえてきた。

「お目覚めですか?ジャンヌ・アステル嬢。」

その部屋で眠っていたのはグァンによって攫われたジャンヌだった。やがて部屋の照明に慣れてきて、腕を目元から外す。

 そこに映った存在。その存在に、ジャンヌは驚愕した様子で言った。

「貴方は……?」

見知らぬ男の存在に対し、ジャンヌは疑問を抱く。その直後に男は台詞を口にした。

 その男は、自動式の車椅子に乗っている。左フットレストの僅かな隙間に妙な突起がある、特徴的な形状をしている車椅子。そこで座位姿勢を取っている男がそこには居た。年齢は推定、四十代だろうか。浅黒い肌が目立つ、その男。見覚えのない存在に対し、ジャンヌは警戒心を捨てる事なく、じっと男を見ている。

「貴方は、足が不自由なのですか?」

事情を知らないジャンヌは男について聞いた。すると――

「全ては戦争のせいです。戦争があったから、私はこんな有様なのです。下腹部から下肢は完全脱失状態。けれど、それは扱う人間の仕業でもあると思っています。」

一体何を言っているのかが理解出来ない。この男は一体何者なのか。

「貴方は何者なのですか。」

ジャンヌは聞いた。目の前のこの男は何者かを。明らかに何かがあると、本能的に察したのだ。

「私は本来なら姿を見せる事はしません。ただ、アステル家……いえ、アステル・システムズの令嬢である貴方は特別です。我々にとって必要な人間ですからね。」

車椅子に座り、静かに語るこの男は一体何者なのか。一つ言えるのは、恐らく何らかの強大な影響力を持つ人間である可能性は高いという事だ。

 アステル・システムズ。アステル家の中にある軍事企業。それがアステル家の正式名称。だが“アステル家”という正式名称が有名になり過ぎたが故に、通称で呼ばれる事が多くなって行ったのである。この正式名称を言う者は、殆ど存在していないのが現状だ。

「私の名は、エレグ。エレグ・スウィードです。」

エレグ・スウィード。それは反社会組織、氷河族を操るボスと呼ばれる人間だ。表舞台に決して出ず、組織内の人間達にも顔を見せていないこの男が、今、ジャンヌの前に現れている。

 自身の事は勿論、情報の徹底を行なってきた筈のこの男は、何故ジャンヌの前に姿を見せたというのだろうか。

「エレグ・スウィード……?」

聞き覚えのない、その名前に戸惑うジャンヌ。

「直接こうして対面したので、貴方には隠す必要はありませんが、私は“ある”組織の元締とも呼べる人間です。この姿は“本当”に私に対して信用や、忠誠を誓っている人間にしか見せないのですよ。」

丁寧な印象を持つ一方、どこか影を見せているようにも見えるこの男。言葉の一つ一つが、不吉な印象を持つ。

「エレグ……貴方は何者なのですか。」

自身の置かれた状況を整理する為に、まずジャンヌは男の事を聞き出そうとした。

「言いませんでしたか?“ある”組織の元締だと。」

「組織……?」

「そう、貴方も一度は世話になっている筈の存在です。」

組織と言われ、思い当たる存在を思い返すジャンヌ。彼女が世話になった組織。それは恐らく、悪い意味を表すだろう。

 それには思い当たる節があった。恐らく、それは――

「氷河族……ですか?」

それは、以前にエファンがセントマリア号襲撃に使った存在達だ。上流家庭の人間達に恨みを持つ者達が集まり、あの凄惨な事件を引き起こした反社会組織である。エファンと結託し、罪なき人間達が巻き込まれ、大勢が死んでいったあの事件で動いていた人間達の黒幕と呼べる男。それが、エレグ・スウィードだ。

「その通りです。」

男は悪びれる様子を見せず、言った。

 男からは、特別な力を感じない。だが、どこか得体の知れない、黒いものをジャンヌは感じていた。底知れぬ闇という言葉が相応しいと呼ぶべきか。丁寧な印象の裏に、男が抱える闇とは一体、何か。

「では、貴方が私をここに連れて来たという訳ですか。」

小奇麗な印象を持つ部屋。だがそこは何処なのかは分からない。周囲を見渡し、ジャンヌは疑問を抱くだけ。この部屋は一体何処?

「何を言っていますか?私はこの身体です。ただ、命令を下しただけですよ。実行者に対してね。」

その実行犯というのは、グァン・ホーキーズの事だ。男がジャンヌに飴を口に含ませ、眠らせたのである。

「貴方はアステル家の令嬢だから、丁重なおもてなしをする必要があると思ってこの綺麗な部屋に貴方を寝かせておいたのです。特別待遇と言うやつです。でなければ私の顔を見た時点で貴方は消していますよ。」

「消す……?貴方は氷河族と言う組織の元締ですわね。それはどう言う意味ですか。」

ジャンヌの疑問に、エレグは答えた。

「組織の都合というやつです。氷河族は戦後に存在が大きくなり過ぎた。その構成員の数は推定十万人以上を上回る。私ですら把握出来ていない構成員も居る程に大規模になり過ぎた。」

この時、エレグは悲観しているようで、自らの力を誇示している様子だった。氷河族と呼ばれる組織の強大さを、見せつけんと、ジャンヌに話したのである。

「これ程巨大な組織となれば、ボスである私の座を奪おうとする人間もいつかは現れ、その資産を狙う者も出現するのも必然。故に、本当に“信用”に足る者を身近に置き、それ以外は全て顔を見せなかった。その上でこの不自由な身体です。悪質な人間がこれを見ればすぐに殺せると判断するでしょうね。」

男が語る、“信用”とは、彼にとっては顔を見せる事が出来る相手の事を指すようだ。

「私は御覧の通り、車椅子が無ければ生活が出来ない。就寝時はベッドへ移乗するのにもこの両手を始めとした、上半身の機能全てを駆使しなければならない。下半身の重さを代償する事は、私にとっては必要不可欠なのです。そして、一人で生活が出来ない事も知っている。故に、付き人の存在も必要です。人工知能の発達が止まった世界では人の存在は、必要不可欠……」

と言った時、エレグは車椅子の左側にある、ボタンを押した。

 

ガチャッ

 

すると、すぐに、一人の人間が部屋に現れた。その人間の性別は女だ。何故か、メイド服を着ている女。エレグの趣味なのかは不明だが、この奇麗な部屋に似合っているような、清楚な印象を持つ、女性だった。

「ボス。要件は。」

「客人に対して茶を用意してくれ。」

「了解。」

と言って、その女性は去って行った。

「……彼女は一体……?」

この光景を見たジャンヌが、ふと、疑問を抱いた。

「私が信用する人間ですよ。だから顔を見せられる。基本的には自分一人の力で生活はしていますが、やはり出来る事には限界がある。食事も機械よりは人の手で作らせた方が良いのですよ。」

恐らく、女性は使用人と呼べる人間だろう。それが出来るのも、エレグと言う人間の力の影響力が大きいのかも知れない。

「彼女にはここに住み込みで働いて貰っています。基本的に勤務は交代制。七人がここに住んでいる。皆女性だ。そして、皆にそれ相応の金額を渡している。無論、口外する事があれば刺客に殺させるが彼女達は絶対服従。私には逆らいません。」

その資金力は人を操っているのだろうか。圧倒的な金の力で自らの不自由な身体に対し、何らかのケアをして貰っている、エレグ。

「この身体故に不自由も多いのが現状ですよ。下腹部から両足の感覚も、全く感じない。そして、私は専属の医者に定期的に診て貰っている。その人間もまた、私が信用する人間だ。」

男にとって、“信用”と言う言葉は重要に思われた。何故ならば、先程からその言葉ばかりを口から発している為である。

「現代の医学では半身不随になった人間であれ、Cメタル製の機械の挿入を脊髄に挿入し、神経パルスの電導を促通するか、両下肢そのものの再生技術を行えば貴方程の資金力があれば治せるのではないですか?旧世紀ではコストの問題などもあり、そのような人間は居たとされておりますが、この時代に半身不随の人間の存在は、殆ど聞いた事がありませんわ。」

この時代は、医学の発達により、人は例えエレグのような脊髄損傷の完全損傷等が生じたとしてもそれを再生させる技術を得ていた。それも、コストも大きく掛かる事なく解決していったとされている。再生術さえ受ければこの男の半身不随は治せるのではないかと、ジャンヌは言ったのだ。

「私なりの拘りですよ。」

「拘り……?」

男はすうと、吸気を行った。後、そっと呼気を行う。

「私はね、人間という“形”に拘っているのです。人の形は非常に合理的に作られている。大脳からの伝達で人は動き、あらゆる行動を行う。そして、身体の一部が欠損しても、何らかの代償手段を用いて生活が可能となる。何らかの形であれ、“人”という形は残るのです。例え、生活が不便になろうとも。外部からの干渉は受けない。ありのままを受け入れているのですよ。」

人間の形?そこに拘る必要性とは、一体何か。

「私はね、例えば外科的手段を用いて人の形状が壊れる事は、私は好まない。いくら、外見が人の形をしているとはいえ……だ。ならば車椅子上の生活でも喜んで受け入れよう。その代わりにこの頭脳を用いて組織を操れば良いと、考えたのです。これが、私がこの生活に拘る理由ですよ。」

つまり、男は敢えてこの生活を選んでいるというのだ。人間は希望があれば、歩く事が出来なくなった場合、何らかの手段を用いてでも移動する方法を考えるだろう。だが男はそれを捨て、“形”に拘ったのだ。人と言う存在の形。これが、男のある種の信念や拘りなのだろう。

「自ら甘んじて、ハンディキャップを背負うという事なのですか……?その足が歩く事が可能になる技術が既にあるというのに……?」

ジャンヌはこの男に、どのような感情を抱けば良いか、分からないでいた。理解が出来ないと、考えたのである。

「ハンディキャップという解釈もあれば、人の形を残しているという解釈も出来る。私はそのままの生活を望んでいるに過ぎないのです。」

そう言った際、先程の女性が部屋に入って来た。そして、二人分の茶を用意し、会釈をした後に去って行った。

「さて、私の話はこのぐらいにしましょう。この場に貴方をお連れしたのには、勿論理由があります。」

この時、エレグは不気味な笑みを浮かべ、ジャンヌを見る。彼女はエレグの喋り方に違和感を覚えていた。

「ジャンヌ・アステル。我々と協力し、現在の国連に対するその、戦力を提供して頂きたい。」

「戦力を提供……?」

エレグの言葉に彼女は耳を疑う。ジャンヌはこの男の言っている事が理解出来なかったのだ。戦力?一体この男は何を言っているのか?

「何を仰っているのですか、貴方は……?」

「言葉通りです。かつてのデウス動乱でデウス帝国に戦力を提供していたアステル家の技術力は軍事兵器としての評価も高い。そして、先の新生連邦軍への攻撃にも国連側として加勢し、そこからFPBという組織に分裂しても尚、その組織の戦力提供を行っているアステル家。素晴らしい存在だ。それを放置など、私には出来ない。それこそ、まさに信用するべき存在。絶対的な力の一部と言えます。」

アステル家の力を利用するという男の意図が読めない。氷河族のボスと呼ばれるこの男の狙いが、分からない。

「アステル家は、今はFPBと協力関係にありますわ。貴方の目的は分かりませんが、FPB以外に協力する気はありません。」

ジャンヌは断言する。アステル家の技術は得体の知れない組織の為に使われるものではない――と。

「そもそも、貴方は今の世界情勢をご存知ですか?新生連邦が国連によって敗北した今、新生連邦による地球圏の支配は無くなり、今は国連が支配をしている状態です。しかし今の国連のやり方は偽りの平和そのものです。その為、私達は立ち上がりました。FPBとして。」

今度はジャンヌがエレグに、まるで説教をするように口を開いた。アステル家の存在を安売り等、する筈がない。だが――

「その、今までの功績があるが故に、我々としてはアステル家の技術力は欲しいのです。“信用”出来る存在だから。」

何をもってアステル家に対して信用と言う言葉を語るのか。男の見えない野望は何なのか。

「賢明な貴方にだからこそ語りますが、元々氷河族は信用無しでは成り立たない組織でしてね。それ故に、会社の名前も“クレーディト”と名付けたのです。クレーディト・メカニクス社。それがこの地にある会社の名前……そして、氷河族の本拠地。」

「!」

この場が何処かが分かった瞬間だった。この場所こそ、氷河族の本拠地と呼べる場所であり、クレーディト・メカニクス社の本拠地だったのだ。

 

ガチャッ

 

その時、一人の男が銃を持って侵入してきた。黒いハットを被った、長髪の銀髪が特徴的な男、グァン・ホーキーズである。エレグの丁寧な印象とは違い、好戦的な男が、ジャンヌの前に現れたのである。

「やっぱりジャンヌ・アステルは綺麗だねぇ。凛々しさと美しさを兼ね備えている上にそのプロポーション!おまけに世界が注目する歌姫であって、テニスプレイヤー。更には新しいFPBなんて軍隊のお手伝いまでしちゃうんだからさー大変!おぞましいんだよな、あんたは!まるで黒い!容姿端麗だが心の奥では腹黒さを抱えている麗しい令嬢ォ!」

グァンは白い歯を見せ、銃を持ち、ジャンヌに近付いた。得体の知れない男の存在に、ジャンヌは本能的に危機感を抱いている様子だった。

「この男が貴方を連れ去った人間ですよ。ジャンヌ・アステル。よく出来た部下でね、躊躇という言葉を知らない。これ程命令を忠実に聞く、優秀な人間は世界中を見てもそうはいない。私が最も信用する人間の一人だ。」

グァンがこの場に居るという事は、エレグが信用に値するという事だ。よりによって、この危険な男が、エレグが信用するという人間。命令とあれば、平気で同じ組織の人間であれ、残酷に殺害する男。それも、惨殺を行うのだ。

「ボスにはデウス動乱の時に助けて頂いた恩がありましてね。ボスの命令ならば喜んで聞きますよォ。そゆ訳で、アステルのお嬢様ァ!ボスの言う事を素直に聞かないとその綺麗な顔がズタボロになる可能性があるからな!」

舌を舐め回すグァン。対照的に、ジャンヌの汗は頬を伝っている。先程の状況と一転、緊迫した状況に包まれた。

「……エレグ・スウィード。これは脅迫のつもりですか。」

グァンの脅しにも屈する事無く、ジャンヌはエレグを睨み、口を開く。

「脅迫ではありませんよ。一種のパフォーマンスです。私……いや、俺の趣味だよ。この男の言うように、素直になった方が良い。氷河族に逆らう事はお勧めしないな。ジャンヌ・アステル。」

エレグの口調は先程までの口調とは一転し、まるで人を見下しているかのような口調に変貌した。自称も〝私〟ではなく、〝俺〟に変わっている。

 

ジャキンッ

 

その時、ジャンヌの首元に銃口が突き付けられた。グァンが突き付けたのである。行動が予測出来ない男は、彼女の人質に取り、冷静な判断が出来ない状況で話を進めようとする。

「下手な事を言えば銃弾が首を貫く。当然、簡単に殺すような真似はしないがアステル家として、取るべき行動はあると思うのだがね。」

何故エレグはアステル家を取り込もうとしているのかが分からない。それ故に、ジャンヌはグァンに脅されている状況であれ、否定をするのだ。

「例え貴方が私に対して暴力や拷問行為をしたとしても、私は貴方方の要求に応じるつもりはありません。私達は、一刻も早く平和の為に立ち上がる必要があるのです。ここを出して下さい。私には行かなければならない場所があります。」

グァンに銃を突きつけられてもジャンヌは強気の姿勢を見せる。今、自分はここにいるべき人間ではない――それを訴えたのだ。

だがエレグはそれを許さない。彼女の言葉を聞いた後でエレグは言う。

「平和の為……か。デウス動乱時にデウス帝国に対して戦力を提供し、戦火を拡大させていたアステル家……いや、アステル・システムズの小娘が何を今更偉そうに。それによっていくつの命が失われただろうな。かつてのデウス動乱で戦果を拡大させた分際で、何を偉そうに語るか。」

「それは……」

エレグの言葉はジャンヌを弱気にさせた。アステル家は軍事兵器を提供している一族。それによって戦禍を広げる事に一役買ったのは、紛れもない事実だ。故にアステル家の存在を恨む人間がいるのも、事実。

 

――――――――――――――アステル家は呪われた一族よ―――――――――――――

 

――――――――――――ジャンヌ・アステル、お前のせいだ――――――――――――

 

セントマリア号上での彼女に浴びせられた言葉が、思い出されてしまう。心無い言葉はジャンヌを包み、ジャンヌ自身を苦悩に追い遣っていく。

「平和、平和と言いながらその存在が矛盾している、アステル家の存在。それによって先の戦争では多くの人間が犠牲になった。恨まれるのも至極当然。アステル家の当主であるジンク・アステル。そして平和を勝ち取りたいなどと寝言を言って、己の立場を理解していないその娘のジャンヌ・アステル。表向きでは世界的な歌手であるお前は確かに才色兼備だが、その裏ではお前達が作り出した兵器によって血塗られているという訳だ。」

全て正論であり、彼女は反論する事が出来なかった。銃口を突き付けられた状態で、ジャンヌは寝かされていたベッドの上で俯き、握り拳を作った。

「アステル家にはお前達が製造した兵器によって死んで行った者達の怨念が漂っている。まあ、それは過去の出来事だ。今さら悔いを改める事は出来ない。だからこそ、その力を使って俺は氷河族と共に地球圏を支配しようと言っているんだよ。呪われた一族なら、呪われたままで良い。そのような過去を持っていながら、いつまでも奇麗事を述べられると思うなよ、ジャンヌ・アステル。」

エレグは世界の事情を知る男であり、アステル家の内部事情も知っている。情報流出を許さないアステル家だが、この男の前ではそれは無意味だ。多くの情報を、持ち合わせているのである。

「……それでも……私達は貴方方に戦力を提供する事は致しません!今はFPBとして、国連や新生連邦、そしてデウス帝国の残党軍と戦う必要があるのです!」

あくまでも自分達はFPBとして、戦うと言い張るジャンヌ。だが今の彼女の表情は、明らかに弱気だ。それを見て、エレグは微笑した。

「呪われた一族が何を言おうが説得力の欠片が無い。ならばFPBとやらに力を提供せず、我々氷河族に提供した方が良い。新生連邦や国連やデウス帝国は勝手に宇宙で戦わせておけばいい。我々は宇宙へ進出した新生連邦と国連の戦力の少なさを狙って行動を起こそうとしている。アステル家という、貴重な戦力を利用してな。それで奴らが三つ巴となってそれぞれの戦力を潰している間、我ら氷河族が地球圏を支配するに相応しい存在となる。俺はこの時をずっと待っていたのだ。だからこそ、協力して欲しいと思っている。」

この時を待っていたと言うエレグだが、男の目的が今一つはっきりとしない。この男の目的は、一体?

「でもジャンヌお嬢様はぜぇんぜぇんボスの言う事を聞こうとしない!でも、ちゃんと策は用意してるんだよ、ボスは!」

「グァン、“あれ”を見せろ。」

「了解です、ボス。」

その時、エレグはグァンに、命令を下した。

 

カチッ

 

すると、突如部屋の中央にあったモニターに、ある、画面が映し出されたのだ。

「え……?」

そこに映っていたのは、彼女の父親であるジンク・アステルだった。何故彼女の父親がそのスクリーンに映っているのかは定かではない。

「お父様が……どうして……」

ジャンヌの父、ジンク。彼がモニターに、何故映っているというのか。一体、これは何を示しているのか。

「お前を人質に取る方法は大きいが、それ以上に父親を脅すのもありだと考えた。アステル家の戦力はFPBとやらに集中している今、アステル家の警備は手薄であると判断した。案の定、そうだったな。」

「ちなみに、撮影してるのは俺の可愛い部下なんだぜ、お嬢様ァ!!」

「そして、“いつでも”ジンク・アステルを暗殺する事が出来るという事だ。」

「いつの間にそのような事が……まさか……?」

何故、ジンクが人質に取られている状況なのか。

 それは、シュネルギアがアステル家に向かっている最中にグァンの手下とグァンが襲撃してきた時の事だ。その時にジャンヌは連れ去られたのだが、その混乱に乗じ、彼の手下がシュネルギア内に残っていた。そして、混乱に乗じてアステル家に侵入したという事なのである。

つまり、彼等は彼女と、彼女の父親であるジンクも人質にとったと言いたいのだ。アステル家の中核を成す彼らを脅迫し、自分達の都合の良いように利用する彼らのやり方。結局は彼女自身に、エレグの要求に応じさせる為に首を縦に振る様に仕向けた出来事だったのだ。

「こんな……事……」

ジャンヌは絶望した。自らの父親が人質に取られているとは、思いもしなかった為である。

「ジャンヌ・アステル。お前に残された選択肢は一つしかない。FPB等という、余計に世界を混乱させる勢力に戦力を提供するぐらいならば混乱に乗じて地球圏を統一する方が良いだろう。俺はずっと、この機会を待っていたのだからな。」

「この機会……?貴方の目的は……一体……?」

語られていく、エレグの目的。それは、氷河族と言う反社会勢力の目的でもある。それは一体、何か――

「地球圏の支配だ。それも表向きでない、影から支配する。その為に今まで組織を動かしてきたのだから。」

今、男の野望が語られた。氷河族の真の目的。それは、地球圏の支配をするという大いなる野望だったのである。

「あの忌むべきデウス動乱が終結した。だが俺はこの身体になった。そこから俺は表舞台から姿を消し、元々のクレーディト社を更に大きくするべく、会社とは別に、氷河族を設立した。力を得る為には金銭が絶対必要だ。その為に多くの人間を利用し、組織を拡大させた。」

語られていく、氷河族の経緯。それは全て、マターリャが言っていた事と同じだった。

「戦後の混乱は組織を拡大させるのに好都合だった。俺に忠誠を誓う者を中心に組織を作っていった。忠誠を誓う者には相応の権力や安寧を与えた。一方でメンバーの中で連帯責任と言う取り決めを作った。そうする事で歯向かう者を減らしたからな。」

語られる組織の全貌。ジャンヌに対してこれらを語るのは、アステル家を氷河族に協力させるが為なのか。

「やがてある事件が起きる。アルメジャン紛争だ。ある、一部のメンバーが日本のフォン・ヤマグチの暗殺をし、それに乗じて各地のテロ組織、武装勢力に兵器を売っていった。」

「あの、片鋏のMS……」

兵器事情に詳しいジャンヌはすぐに反応した。MS、ファドゥーム。クレーディト社で開発されたMSだ。この機体を売る為、世界各地に兵器を製造したのである。

「ところで、同じく兵器製造に携わっているお前に問いたいのだが、MSの存在が何故人間の形状に拘って作られたのか……それに対する答えが未だに理解されていないのだよ。不思議だと思わないか?」

突然の話題にジャンヌは戸惑った。MSの形状の話?この場に於いて何故そのような発言が出るのだろうか。

「分かりませんわ。MS自体がそもそも、百五十年以上前に作られたファースト・ガンダムを祖として存在しているのです。何故MSの形が人でなければならないのかなど、分かりません。」

実際、この世界観でのMSの歴史の中で何故人間の形をしているという理由は、どの文献にも記載されていない。人の形に拘るエレグ。この疑問に答えられないジャンヌに対し、どこか、呆れている表情を浮かべていた。

「俺はね、人間という存在がプリミティブな感情のままに戦争を行う存在を体現した姿がMSであると考えているよ。だがそれ以外にも人間の筋骨格に酷似したヒューマニアフレームやその機能は全てが人間と同等に見えるような存在に思えた。MSに拘るのは、俺自身がこの身体である中で、人間の分身と言わんばかりのMSの存在に力を入れたいと言う希望もあるのかも知れないな。」

組織のボスとしてのMSに対する想いをジャンヌに語っていく、エレグ。

「そして、その人間は神の分身という話も神話ではよく聞く話だ。つまり、MSと言うのは原点としては、神そのものを模して作り出された存在と言っても過言ではないのかも知れないな。最も、俺達氷河族や、お達達アステル家も兵器として利益を上げる事しか考えていないがな。それぞれの、目的は別として。」

兵器を提供する者同士の話し合い。一方は強大な組織のボス。もう片方は製造している一貴族の令嬢。互いの価値観はそれぞれ異なる。

 先の話の中に、エレグの人間に対する、ある種の拘りが見えたようにも見えた。だが今はそれを考察している状況では、ない。

「話を戻そうか。やがて世界は冷戦状態になった。その間に各地で起きたテロや内乱は俺達にとって好都合と言えた。そして新生連邦は宣戦布告をし、やがては平和国連盟も最高議長が変わり、世界は戦争状態に突入した。軍事兵器を送り出す事は、更なる利益の加速に繋がる。その上での人間の欲に直結するもの……人身、麻薬、表向きには犯罪と呼ばれる行為。だがこれらは戦争の混乱で有耶無耶にされた。俺にとって、余りに好都合な世界が、作り出されていったという訳だ。」

この混乱は氷河族に莫大な利益を齎すのに十分だった。戦争行為により、利益を得て、最終的に地球圏を支配するのが、この男の目的だったのである。

「全ては人間が居るが故に成り立つという事。人でなければ人を統一できないのと同じ。だから俺は人に拘った。その結果が氷河族をここまで強大にした。絶対的な信用があるが故に、組織は大きくなれた。そして、次のステップに入った。」

「それが、アステル家を協力させるという事なのですね……。」

ジャンヌは唾を飲み、エレグを見た。

「まず、この国の支配者となり、その勢力を少しずつ拡大させていく。その為の一歩として、アステル家には貢献してもらう予定だ。邪魔な新生連邦、平和国連盟が混乱状況に陥っている今こそが、理想の状況なのだから。」

裏社会の全てを知る男、エレグ・スウィードにとって新生連邦や国連の存在は邪魔者でしかなかったのだ。表向きではクレーディト・メカニクス社を立ち上げ、その裏では氷河族を組織し、一部の組織を表面的に活動させて混乱を起こし続けていた。

そして新生連邦と国連が全面戦争をし、新生連邦が敗れた今は彼にとって絶好の機会であり、そこから更なる戦力を増強するにはアステル家の戦力が必要であると判断し、彼はこのように強引な手段に踏み切ったのである。

弱気になるジャンヌに対し、エレグは堂々とした振る舞いを見せる。まるでそれは、自身が身体の不自由な人間のように見えないのだ。

「貴方の中の何が……地球圏を支配するという野望にまで至らせるのですか。」

不利な状況の中で、ジャンヌは僅かばかり、聞いた。

「残念だがお前が俺達に協力すると誓約するまでは語る事は出来ないな。」

「そのような条件ならば、貴方の野望の本質について知りたいとは思いません。」

ジャンヌがそう言った時、グァンは銃を彼女の首元に更に近づけた。

「あんまり強がったら引き金引いてしまうかもな?なぁ、頼むよ~。ジャンヌ・アステルなんて美人を血まみれグロテスクにするのはちょっと気が引けるんだよ~。」

「……」

気味の悪い言葉を並べるグァンの言葉を聞き、ジャンヌは黙る。

「こいつは俺が許可をしない限り、お前に銃を撃つ事はない。だが許可をすれば即座にお前を撃つだろう。純粋無垢であり、絶対的な男だからな、こいつは。」

エファンがそう言った時、グァンが笑いながら言った。

「ハッハッハ!ジャンヌ嬢を殺す時は一撃で殺さないと!なんたってアドバンスドタイプですからねぇ!ボス!」

「あ……貴方はアドバンスドタイプをご存じなのですか……?」

グァンはアドバンスドタイプの存在を知っていた。世間一般では知られておらず、知る人ぞ知る存在と認識されているアドバンスドタイプを、何故この男が知っているのかに、ジャンヌは疑問を抱く。

「グァンは俺が教えたから知っているな。そして俺はよく知っている。俺はアドバンスドタイプをはじめ、どんな事情の人間も分かる。ジャンヌ・アステルがアドバンスドタイプの能力を持っている事もな。」

「裏社会の黒幕だから全てを知る……?貴方の話が分かりませんわ……」

アドバンスドタイプの事を知っているという両者。その事に彼女は驚いていた。

「アドバンスドタイプは死にそうになれば輝いて戦意を喪失させて気を失わせるっていうトンデモ人間らしいからな、あんたをさらう時は飴ちゃんが大いに役立ったってワケ。」

「飴……?」

グァンは全てを知った上で行動に及んだのだ。彼女の力はエレグから聞かされていたものであり、彼は自身のリスクを管理する為に特殊な飴を舐めさせて彼女を昏睡状態に至らせたのである。

「だから強気な態度を見せても無駄だ。我々はアドバンスドタイプを知っている。その弱点も全て。ジャンヌ・アステル。さあ、早く協力を。新たな世界の一ページを 我々と共に開いていこう。」

そう言ってエレグは手を差し出す。ジャンヌは首を振るが、それをするとグァンがニヤニヤと笑いながら銃で彼女の首を突き付ける。

「まあ、あんたを殺さなくたってあの厳ついあんたの親父を殺せば良いだけだしな!さあ、あんたの命を掛けるか親父の命を掛けるか!」

彼女が死ぬか、ジンクが死ぬかの二者一択のこの状況。しかしジャンヌにとって、これは選択肢など無い状況だったのだ。結局はエレグに戦力を提供し、彼の不明な野望の為に尽力をしろという要求を飲まなければならない。今はこのような時ではない時に訪れた最悪の状況。ジャンヌは首を縦にも横にも振らず、ただ俯くだけ。

(ダメ……ですわ……この状況は……ですが今は私もお父様も失う訳には行きません……今はただ、耐えるだけ……私は……絶対に首を縦に振るような事はあってはならないのですから……)

エレグと組む事を強いられている状況で、彼女はただ、黙って男からの威圧に耐えるしか出来なかった。どうにかしてこの絶望的な状況を抜ける必要があったが、今の彼女にその術は考え付かなかった。

自身がアドバンスドタイプである事、そしてそれの対処法を熟知されているこの男達を相手に、彼女はどうすれば良いか困惑を続けるばかりであった。

 

 

 

雪上にて。そこでは激戦が繰り広げられていた。ジャンヌを救出する為にグァンを追ってきたFPBと、氷河族の量産機体であるファドゥームによる戦い。しかし、戦力差は圧倒的だった。

 氷河族の機体はファドゥームのみ。しかしFPBはブライティスや改修されたハルッグ等といった優秀なMSが揃っており、その上パイロットの腕も精鋭揃いのFPBに、氷河族は成す術もなく、ただ、倒されていく。特にアレンの駆るブライティスは無頼の強さを誇っていた。

「行けっ……!」

 

ピシュンッ

 

アレンがそう言った時、ブライティスの背部に格納されているブリッツファンネル八基が全て展開され、雪上のファドゥーム八機を全て一撃で葬り去った。その間にアルバトスはジャンヌのいるとされる場所まで移動していく。

アルバトスブリッジ内にて。そこで、エリィはウィリアが指示した位置にアルバトスを動かすようにスラッグに指示した。

「見えてきたわね。……あれが、ジャンヌ・アステルがいるとされている場所……」

低空飛行で移動していたアルバトスは巨大な建造物を発見した。そこにあったのは,

全長3キロメートルはあろうかという巨大な円の形をしたシェルターの入り口のようなものがあった。

その周辺には工場が多数並んでおり、その周辺にはファドゥームが大量に配備されている。

「グァン……あの男は危険だわ……」

危険な男であるグァン。彼が厄介なのは、只の快楽殺人者ではないという点である。実際、彼はジャンヌの正体を知っていた。だからこそ危害を加える事なく彼女を昏睡状態にしたのである。

「この非常時にジャンヌさんを……と、とにかく助け出さないと!」

エリィが言った。そして、アルバトスを円形の形をした建造物の上まで移動させる。

その間にもファドゥームが、建造物を守らんとする為にアルバトスへ迫る。

 

 

 

「やらせるか!!!」

雪上の戦闘域にて。ネルソンの乗るハルッグがロングビームライフルを構え、ファドゥームを狙い撃ちした。

「くっ、糞がァァ!!!」

ファドゥームのパイロットは断末魔を上げ、その直後に機体が爆発した。ファドゥームに搭乗している人間は皆氷河族であり、彼らはこの場所守るミッションを受けている。それはボス、エレグの命令であり、その上で彼等はこの場所に自分達のボスがいる事を知らないで戦っていた。

 そして、この場所こそ、戦後に多数の武装勢力やテロリストに兵器を送り出してきたクレーディト・メカニクス社の本社だったのである。

「……熱源?」

その時、別方向から熱源を確認したネルソン。識別コードを確認するが、それは、ファドゥームでない事が分かった。

 やがて接近するその熱源の正体は、MSだった。それはジョゼフタイプの機体だ。新生連邦の残党部隊がこの戦闘に介入してきたのかと思われたが、何やら様子がおかしい。

「何だ、あの機体は……?」

確認しようと、ハルッグを変形させ、移動する、ネルソン。

 やがて接近し、その機体を確認する。ジョゼフではあるが、頭部には特徴的なゴーグルが備わっているのが見えた。そして、そのジョゼフは彼等対して攻撃を加える様子がない。

「そこの機体、大丈夫か?」

恐らく新生連邦のMSでないと判断したネルソンは、戦闘中ではあったものの、ジョゼフに対して声を掛けた。すると――

「その声、もしかしてセイントバードの男の人ですか?」

一人の少女の声が聞こえた。この状況にも関わらず、明るい印象を持つ少女の声だ。この間、ハルッグは迫るファドゥームに攻撃を加えながらジョゼフに迫っている。

「女の子か?下がれ!」

警告をするネルソン。しかし、パイロットの少女は言った。

「実はー、帰る場所を見失っちゃって……」

「何!?チッ……!」

少女の言葉にやや、苛立ちを覚えたネルソンだが、今は敵の攻撃を凌ぐしかない。だが敵機体は迫るばかりだ。どう、対処をすべきか。

 だからといってこの少女の乗る機体を放っては置けない。このままでは敵に攻撃されるのは目に見えている為だ。

 

ガキィン

 

すると、ハルッグはジョゼフの手部マニピュレーターを掴み始めた。やがて、そのまま引き込むように、機体の肘関節を動かしていく。

「一度その機体を艦に運ぶ!セイントバードの事情を知る辺り、敵でないと見た!」

「ありがとうございます!」

敵機体の攻撃が続く中、ハルッグはそのまま変形し、ジョゼフを機体上部に乗せた状態で移動し、アルバトスに戻って行った。

 この間、ブライティスがファドゥームの迎撃を行なっており、機体から展開されているファンネルが、雨除けの如く敵からの攻撃を守っているのだ。

 

 

 

 その後、アルバトスに迫った敵勢力は全て撃破に成功した。迎撃に出たパイロット達は一度アルバトスへと帰還する。艦は建造物の上に一度停止し、周囲に敵機体が居ないか、警戒をした状態で周囲を確認している。護衛のMSであるヴァントガンダムを数機配備した状態で、アルバトスは待機している。

 その中で、ネルソンが助け出したジョゼフのパイロットがコクピットから姿を見せた。その姿を見た時、ネルソンは驚愕した様子だった。

「ヒパック村の少女か……?」

彼女は、ヒパック村で短期間ではあるが交流をした少女だったのである。名は、シャルア・ジェインだった。

 この時、MSデッキにはエリィが姿を見せていた。互いに知人同士である彼女達は、予想外の再会に驚愕していた。

「シャルア・ジェインさん?どうしてここに?」

シャルアは、頭を抱え、言った。

「いやぁ、実はジェルヴァとはぐれてしまって……でも、まさかこんな所でセイントバードの人と再会出来るなんて偶然だなぁー!」

確かに、偶然だ。この再会も本来ならば喜ばしい事なのだろう。

 だが、アルバトスはそれどころではない。ジャンヌを助け出す為に、急がなくてはならない状態だったのだ。その中で、シャルアはふと、思った事を聞いた。

「あれ……セイントバードはそういえばどうしたんですか?」

この疑問に対し、エリィは答える。

「色々とあったのよ……本当に、色々とね。」

どこか、焦燥に駆られている様子のエリィを見て、シャルアは触れては行けない話題だと察した様子だった。

 幸い、シャルアは理解力のある人間だ。レイに対しては“奴隷”と罵るが、それ以外に関しては物事を察したりする少女である。

「シャルア・ジェイン。君が無事なのは何よりだが……今は少しばかり、それどころではないのだ。」

今の状況を話し始めたネルソン。それを聞き、シャルアは

「あの、敵が居なくなったのならあたし、ここを、去りますよ?あのジョゼフは別にダメージも負ってないですし。それに、早くキャプテンに合流しないと怒られちゃいますし。」

「すまないな……」

せっかく再会出来たのならば、何らかの交流をしたいと思っていた彼等。だが、今のアルバトスはそれどころではない。MSデッキ内全体から漂う焦燥感はシャルアにとって、場違いの環境に追い遣ってしまっていたのである。

 やがてネルソン達はここを去った。ブリッジに向かい、話をしなければならないと思っていた為だ。それを見たシャルアも、ジョゼフに乗り、近くにいる整備士に声を掛け、この場から離れようとした時――

「大変な状況になったなぁ。でも誰かがジャンヌ様を助けないと行けないし……」

「仮に助け出せたとしても戦力も心配だよな。あのレイって女の子みたいな子供が乗ってたガンダムもアステル家にある状態だしさ。」

「FPB発足してから災難続きというかねぇ。」

整備士達の何気ない雑談が、シャルアに聞こえた。その言葉に対し、シャルアは聞き耳を立てて居たのだ。

(ジャンヌって……ジャンヌ・アステルの事?それにレイはここに居ないんだ……なんか、本当に色々と事情を抱えてるみたい。あたしはお邪魔みたいだね。)

と、密かに思いながら、彼女はジョゼフに乗り込み、そのまま機体を発進させたのだ。幸い機体は無傷と言えた為、特別に整備をする必要なく、移動が出来たのだった。

 

 

 

その後、クルー達はブリッジにて次の行動の手段を話し合っていた。エリィやネルソン、アレンといったメンバーをはじめ、皆が話をしている。

 グァンが居るであろう場所に接近する事は出来た。恐らくその近くにジャンヌが居る筈だと皆が考える中、潜入するにはどうすれば良いかを考えなければならない。

「恐らくこの中にジャンヌさんがいることは明確です。大勢で救出に向かう事が理想ですが、何があるか分からない以上、出来るだけ少数で行動する事が理想であると考えます。」

エリィはクルーに対して言った。彼女の言うように、この建造物にはどのような罠が仕掛けられているかが不明な為、多くの人間を動員するのは危険である。その為、少数で行動する事が望ましいが、問題は誰を救出要員とするかである。

「じゃあ、私が必ず行かなきゃね。」

最初に名乗り出たのは、ウィリアだった。

「さっきの戦闘の間に、グァンに付いていた印の情報を元に、施設内の構造は把握出来ているわ。

後はジャンヌ・アステルを救出するだけね。」

「凄い……そんな情報まで分かるんだ……」

彼女が囚われている施設の情報までも把握しているウィリアを見て、呆然とするエリィ。その上で彼女は名乗り出たのだ。

「そして、ジャンヌ・アステルが囚われている施設の名は、クレーディト・メカニクス社なのよ。」

マターリャから得た情報を統合させ、ジャンヌが連れ去られた場所を改めて確認すると、そこはクレーディト社である事が判明した。

「どうして、その会社にジャンヌさんが……?」

疑問を抱くエリィに対し、ウィリアが答えた。

「色々と事情があるのでしょうね。とにかく、ジャンヌ・アステルを連れ去ったグァン・ホーキーズは危険人物だわ。あの男は何をするか分からない。だったら、少しでも手筈を知っている人間の方が良いでしょう?」

「でも、大丈夫なんですか?」

エリィはウィリアを心配しているが、彼女はエリィの心配とは対照的に、冷静な様子だった。

「平気よ。私に任せて。」

このように語る、ウィリアの厚意に皆が感謝していた。恐らく彼女が居なければジャンヌの救出は不可能だったのかも知れない。

「さて、流石に私一人では心細いわ。他に誰がジャンヌ・アステルの救出に向かうのかしら。」

一人で救出に行くのは、当然ながらリスクが伴う。そうとなれば、誰かが同伴しなければならない。敵の居る場所の潜入に適した人間はこの中に居るとすれば、誰か。

 

「俺が行きます」

 

そう言って手を上げたのは、アレンだった。だが彼が名乗り出た時、ネルソンが反対した。

「待て、アレン、君は今後の戦力の要となり得る。何があるか分からない場所で危険な目に遭わせる訳には行かない。ならば私が行った方が良い。」

「いえ……俺だからこそ行くべきなんです。俺はジャンヌと同じ力を持っています。その力で彼女のいる場所まで移動して、救出に向かいます。」

ジャンヌはアドバンスドタイプ。その力を持つ者同士であるが故に、アレンが参加する事は望ましいとされる。

「それに、俺だってバンディットですからね。ウィリアさんに色々と教えて貰った間柄ですから。」

バンディット。戦後に設立したとされる存在。その稼業をしていたアレンは、今回の救出作戦で久し振りにバンディットとして活動する事を選んだのだ。

「そう言えば君はバンディットだったな。その上で、力を持つ者特有の感覚か。そこまで言うのなら、行った方がいいかも知れない。その代わり、絶対に生きて帰って来てくれ。」

「勿論ですよ、必ず帰ります。ジャンヌと、ウィリアさんと一緒に。」

アレンの意思は固い。ジャンヌが連れ去られた事は彼にとって屈辱であったからだ。必ず彼女を取り返し、帰還する事をネルソンの前で誓った。

「宜しくね、アレン。」

これで二人が決まった。しかし二人だけでは救出には少な過ぎる。誰が他に行くべきか、クルーは考える。

「じゃあ、私が行きましょうか?」

次に名乗り出たのはエリィである。彼女は以前にスバキの救出の為に新生連邦の基地に潜入した事があった。

だが、彼女が名乗り出た時、ネルソンが猛反対した。

「待て!エリィにはアルバトスの艦長という役割がある。だからここで待機して貰いたい。」

焦るようにネルソンがそう言うと、エリィは笑みを浮かべて言った。

「もしかして、私に死んでもらいたくないから、心配してくれてるの?」

「……ああ、それもあるが……とにかく、君は待機していた方がいい。どうしても誰かが行かなければならないのなら、私が行く。」

「貴方に行かれても……困るわ……」

エリィとネルソンは互いを譲ろうとしない。その光景に、スラッグが呆れた様子で言った。

「あのね、こんな事俺が言うのもあれっスけどね、夫婦喧嘩は、今、するべき事じゃないでしょうが……」

その言葉を聞いた二人は黙る。その中で、アレンが更に言った。

「エリィさんもネルソンさんも待機されていた方が良いと思いますよ。最悪、俺とウィリアさんでなんとかします。」

その言葉に対し、エリィが言った。

「二人だけで救出なんて……駄目よ、危険過ぎるわ!」

ジャンヌが囚われている施設には何が待ち受けているのか分からない。その施設に、たった二人で潜入するという事。それは非常にリスクが高い。エリィは二人を心配するが、彼女の心配に対し、ウィリアが言った。

「心配ないわエリィ。私達は只の人間ではないわよ。私は情報分野に特化したバンディット。そしてアレン自身もバンディット。そして、聞いた話、ジャンヌ・アステルと同様の力を持つとされる人間だそうじゃない。私達が居れば恐れるものなんてない。クレーディト社の内部の情報も分かってるしね。あくまでも、目的はジャンヌ・アステルの救助だし。ね、アレン。」

ウィリアはアレンの顔を見た後に、ウインクをした。

「……ええ。大丈夫。必ず帰りますよ、エリィさん。」

心配するエリィを余所に、自信に満ちている両者。彼らの言葉を聞いて、ネルソンは言った。

「頼むぞ、二人共。」

「ええ……任せて。」

結局、アレンとウィリアの二人がジャンヌ救出へ向かうことになった。

アレンとウィリア。彼等が、今後のFPBの命運を握ると言っても過言ではないと言えた。

「行ってきます。」

アレンがそう言った後、ウィリアとアレンはブリッジを後にした――

 

タッ

 

その直後、突如ココットが席を立ち、アレン達の後を追うようにブリッジを後にした。

「ちょっと!どこへ行くの!?ココットさん!?」

エリィがそう言うと、ココットは慌てた様子で

「ごめんなさい、ちょっとトイレです!」

と言って慌ててブリッジを去る。誰もがその様子を不審に思ったが、誰も、彼女の行動を止めようとはしなかったのだった。

 

 

 

廊下にて、アレンとウィリアが歩いていると、後方からココットが走ってきた。

 

ギュッ

 

やがて、彼女はアレンに抱き付く。突然の行為にアレンは戸惑いを隠せない様子だ。

「ど、どうしたの、ココット……」

「アレン、お願い……私も連れて行って!一緒に……」

「な……え……!?」

一体、何を言っているのか?突然のココットの発言にアレンとウィリアは度肝を抜かれた。これから向かう場所は明らかに危険な場所だ。

そのような場所に対人戦闘の経験の無いココットを連れていく等、危険極まりない。

「何を言っているんだ!?危険過ぎるぞ!君は中に戻ってろ!」

とは言うが、ココットは引く様子を見せない。本気で、アレンと一緒に行こうとしているのだ。

「だって……だって……!アレンばっかり戦ってばかりで!私だって……アレンの為に戦いたい!私はずっとオペレーターばっかりやってて……でもアレンは戦場で命がけで戦ってる……そして今度はジャンヌさんを助ける為に生身で危険なところに行くなんて……それなのに、何も出来ないなんて、もう嫌なの!」

ココット・メルリーゼは、現在こそシュネルギアのオペレーターとして活動しているが、元々は民間人である。アレンと出会ったのはデウス動乱の最中で、その間も彼が所属していた第十三特殊部隊の艦に保護されているだけであり、彼女自身はアレンに守ってばかりの立場であった。

戦後になってアレンと再会した彼女だったが、彼と適度に交流しながら、日本で仕事をし、過ごしてきた。やがて彼女の中にあった強い信念は彼女を突き動かしていき、今となってはシュネルギアのオペレーターとして活動する事となる。

しかし彼女にとって、それだけでは不満だったのだ。命がけで身を投じているアレンに対し、自分は何もしていないと感じたココットは、今回は自分も連れて行ってほしいとアレンに懇願したのだ。

「アレンは私を女だからって甘やかしていない!?確かに私は女だよ!でもね……大切な人が戦場でずっと戦っている姿を見て平気でいられる筈がないんだよ……」

ココットは僅かに涙を浮かべながら言った。これ程に自分を思っていたという事を知り、彼は視線は下向けた。

「……ごめん、ココットはそう考えててくれたんだ……俺、君に最近何もしてあげられてないな……」

謝るアレンだが、ココットは首を横に振った。

「……うん、それもあるかも……でも、それだけじゃないからね。」

ココットの意思は強い。しかし、傍にいたウィリアは水を差すように言った。

「ココット・メルリーゼさん、ハッキリと言っておくわ。貴方が行っても足手纏いになるだけよ。実戦経験も皆無な貴方がこれから行く場所に行けば容赦なく殺されるのがオチ。私達だってどうなるか分からないのに、貴方なんて行くだけ犬死よ。」

突き放すように、ウィリアは言う。しかしーー

「でも……アレンの弾避けにはなれますよ!」

ウィリアに対してココットが反発した――

 

パシィ

 

その瞬間、アレンはココットの頬を叩いた。

「っ……?」

「ココット……まさか弾避けの為に俺達に付いていこうと考えたのか?だとしたら俺が許さない。居て欲しい人間がここにいるって事を分かってよ。俺は必ず帰るから、ココットはここにいて。」

「う……うう……私、また何もしてあげられないの……アレンの為に……」

彼女は自分の無力さを嘆いていた。ジャンヌやウィリアは力を持っている。それはアレンの為に役立つ力だ。しかしココットにはそのような力は持っていない。あるとすれば、シンギュラルタイプとしての力だ。彼女はただアレンの恋人であるという、立ち場以外に、何も彼の役に立てない事が苦痛で仕方がなかったのである。

以前にもココットはこの事で悩んだ事があった。その際アレンは彼女に対し、〝居てくれるだけで良い〟と言ったが、彼女はそれに納得が出来なかったのである。

「……じゃあ、見送って欲しい。俺達を。」

「え……?」

「俺達はMSデッキからこの施設の中に行って、ジャンヌを救い出す。ココットはデッキまで見送ってくれたらいいよ。うん……それだけでも俺はいい。俺はココットに危険な事は望まないから。危険な事をして欲しくないから……」

見送ってくれるだけでいいというアレンの言葉を聞き、ココットは静かに首を縦に振る。

「うん……」

「少し厳しい事を言ったけど、全部貴方の為でもあるの。それを分かって。」

ウィリアは笑みを浮かべて言った。それに対してもココットは静かに首を縦に振った。

「じゃあ、艦の入り口まで……」

 

 

 

やがて、三人は入り口に着いた。そこにいたミシェはアレンとウィリアに対して言った。

「絶対に生きて帰って来いよ。ここで死なれたら何の為のFPBだって話だからな。」

「はい……必ず。」

「ええ、必ず。」

ジャンヌを救出するという、その目的の為に動く彼等。間も無く、ジャンヌを救出する為の作戦が始まろうとしていた。

「アレン、ウィリアさん……帰ってきてね。」

ココットも二人に対して言った。

「勿論。必ず帰るから。」

 

チュッ

 

「……!」

アレンはココットの口唇に向け、接吻を交わした。突然の出来事だった為、ココットは顔を赤めていた。まさか、公然の前でその行為をされるとは思わなかった為である。

「オイオイ、見せ付けてくれるじゃねえか。そのまま殺されたらいいのに。」

「え……!?」

アレンはミシェの言葉に反応した。たが、ミシェは笑いながら言った。

「冗談だよ、必ず帰ってこい。」

「は、はい……」

「ウィリアもな。」

「ええ。」

大勢の整備士達に見送られながら、二人は入り口を降り、クレーディト社の内部へ向かっていく。

この先、彼らを何が待ち受けるのかは分からない。しかし彼等はジャンヌを救出する決意を胸に秘めていた。危険に立ち向かう二人を、ココットは静かに見守るだけである。

 

――――俺はココットに危険な事は望まないから。危険な事をして欲しくないから―――

 

アレンが言ったその言葉を信じ、ココットは二人の姿が見えなくなるまで見送り続けた――

 

バッ

 

しかし、二人がジャンヌ救出に向かった直後、甲板を凄まじい光が覆った。一瞬の出来事だった為、何が起きたのか、その場にいた誰もが理解出来ていなかった。

「なんだ!?眩しくて……見えない……!?」

突如発生した謎の光は整備士達の視界を奪う。彼等は目を閉じると同時に腕で目を覆う事で眩しさを抑えた。視界を奪われた彼等は眩しさを抑える事で必死だったため、身動きを取る事が出来なかった。

やがて光が無くなった頃、クルーは徐々に目を開けていった。彼等の視界が戻り、元の甲板の光景が見えた時、クルー全員が首をキョロキョロと傾げた。

皆、何があったのかと疑問に思うばかり。その中で、一人のクルーが異変に気付いた。

「あれ……さっきの子はどこ行った!?」

それはココットの事だった。先程までアレンとウィリアを見送っていた筈の彼女の姿がそこになかったのである。突然の出来事に、整備士達は躊躇った。

「なんだ……なんでいなくなった……?おい、お譲ちゃーん!!!」

そう叫ぶのはミシェである。しかしミシェがいくら叫んでも、ココットの声が聞こえる事はなかったのであった。

 

 

 

入口を降りた両者はまず、クレーディト社の入り口を探した。しかし直径3キロメートルはあろう、建造物の入り口を探すとなると、並みの人間たった二人では到底難しい話だ。しかし、それを可能にしたのがウィリアである。

「ここね、形状からして間違いないわ。」

アルバトスから降りてすぐの場所に、その入り口はあった。そこは倉庫のようになっており、扉が一つ備え付けられている。しかし、その扉を解くにはパスワードが必要だった。

ドアの横にはウィリアの掌程の大きさの機械があり、そこには零から九の数字がタッチパネル式で並べられていた。当然彼等はそれが何のパスワードかを知らない。アレンは戸惑ったが、ウィリアは微笑して言った。

「大丈夫、任せて。」

「え……?」

するとウィリアは持っていたポーチから黒い、機械のような物体を取り出した。彼女はそれをタッチパネルの上に被せるように置く。すると、ピッと音が鳴り、扉が自動的に開いた。

「えっ!?何をしたんですか?」

「どんなパスワードも私の前では無駄だということね。さ、気にしないで行きましょう。時間がないのなら尚更よ。」

そう言ってウィリアは走って、開いた扉の先へ向かって行った。それに続くように、アレンも扉の先へ向かって行く。

 

 

 

開いた扉の先には、すぐに階段が見えた。その階段を下る最中、ウィリアはアレンに言った。

「ジャンヌ・アステルを救出する前に貴方に謝っておくわね。ごめんなさい。」

「な、何ですかいきなり……」

ウィリアの急な謝罪にアレンは戸惑う。

「私が真っ先に救出の為に名乗り出た本当の目的を、貴方にだけ教えてあげるわ。同じバンディットの好としてね。」

階段を下りる音が、響く。その間に、アレンはウィリアの口から開かれる、彼女の〝目的〟を聞く事となった。

「正直に言うとね、ジャンヌ・アステルが攫われた事はね、私にとって願ってもいないチャンスだったのよ。」

「チャンスって……!?そんな言い方は……」

これからの作戦にジャンヌが必要となるのに、ウィリアの言い方は彼にとって非道なものに聞こえた。ウィリアは非難される事を覚悟で、引き続き喋る。

「だから最初に言ったでしょ、謝っておくってね。この後の言葉を聞いて、もし、貴方が私に殺意を覚えたのなら相手になってあげる。」

ウィリアはアレンの顔を睨むように見た。その冷徹な視線を感じたアレンは立ち止まる。

「……話して下さい。」

アレンは唾をごくりと飲んだ。それを見たウィリアは喋る為に再び口を開けた。

「彼女が攫われた時、あの男はなんて言ったか覚えている?」

「え……確か企業秘密がなんとかって……」

「いいえ、〝結構重要な事〟と言ったのよ。それがどういう事か……説明してあげる。」

アレンの眼に視線を向け、ウィリアは話す。グァンの事について。

「あの男は氷河族のボスである存在に仕えている人間なの。その男がここ、クレーディト本社にジャンヌ・アステルを連れ去った。そして、ジャンヌ・アステルはかつてのデウス動乱でデウス帝国に戦力提供を行っていた、アステル家の令嬢。氷河族とこの会社は元々は一つの会社。これが、示す事は分かる?」

語られる氷河族や、クレーディト社の事情。何故ウィリアがこれ程情報を知っているのかも気になる所だ。アレンにとっては、その意図は分からない。氷河族がジャンヌにどう、関係しているというのか。」

「いえ、分からないです。ただ、もしかすればアステル家が兵器の製造を行っていたという事から、何か関係しているとは思えますが。」

「まあ、大凡そんな所かしら。」

ウィリアは髪を掻き撫でてから言った。

「氷河族はね、元々クレーディト社から派生した組織なの。そして、ここはクレーディトの本社。」

クレーディト社と氷河族が関係しているという事実。これが示す事は、ただ、一つ。

「氷河族の本拠地って事ですか……ここが!?」

「ええ、そういう事になるわね。そして、ここには恐らく、氷河族のボスが居る場所と思われる。」

疑惑が渦巻いている会社、クレーディト・メカニクス社。ここが、氷河族のボスがいる、氷河族の本拠地であるとを、全く知らなかったアレン。その事に驚愕する彼とは対照的に、ウィリアは冷静な様子だった。

「でも、ジャンヌを攫ったあの男と氷河族のボスが関係する事が、貴方にとって何のチャンスですか。」

アレンは聞いた。その直後、彼女ははっと息を飲む。多少動揺する素振りを見せたが、やがて少しずつ口を開けた。

「私怨よ。」

ウィリアの言葉を聞き、アレンは戸惑った。

「私怨って……」

「クレーディト・メカニクスの社長であるノード・ベルンを裏で操っていた氷河族のボスである、エレグ・スウィードは私の敵。あの男は絶対に許せない。私の大切な物を奪った諸悪の根源。ジャンヌ・アステルが拉致されたのはこの場所というわけ。まさか、ここで奴と決着を付ける事が出来るなんて夢にも思わなかったわ。」

彼女は、クレーディト社の社長であるノード・ベルンに嵌められ、自分の弟を殺された過去を持っている。それ以来、彼女は氷河族と言う組織に対し、復讐する為に生きてきた。ノード・ベルンは以前、メイドと共にオークション会場近隣にて殺害をし、彼女はそこで倒れた。

本来彼女はそこで死ぬ筈だったのだが、倒れていた彼女を救出したのがレイとエリィであり、その結果現在まで生き延びる事が出来ていた。

「まさか、グァンがあそこに現われてくれたのは私にとって好都合だった。奴があの場で現れた時に私が貴方に、下手な事を言わないように言ったのは、仮にあそこでジャンヌ・アステルを殺されてしまってはせっかくのチャンスが無くなってしまうと思ったからなのよ。」

「そうなん……ですか……?」

「ええ、本当の事よ。そして私はあの男が組織の“印”を付けている事を見抜き、奴が持っていた発信機で情報を登録した。これで奴の後を追跡し、私が潜入し、エレグの場所を探して奴を殺す……これが私の本当の目的。後はジャンヌ・アステルがどうなろうが正直知った事ではないわ。私は私の目的が達成出来ればそれでいい。そういう女なのよ、私はね……」

自分の思いを伝えたウィリアは満足げに笑っていた。それは彼女がアレンに対して自分を偽る事無く、本心で自身の目的を語る事が出来た事を嬉しく感じていた事による笑みだった。

「ウィリアさん……貴方って……」

「最低な女だって思ったでしょう?ええ、思ってくれて構わない。実際、私の私怨で今まで多くの人を犠牲にしてきたから……時間を共にする内に、心惹かれた人も……ね。ケド、仕方が無かったのよ。」

自分の事を曝け出し、まるでアレンを挑発するかのように喋り続けるウィリア。更に彼女はアレンに対して言った。

「私は皆を利用していた。そう……今までだって人を利用して生きてきたわ……全ては敵討の為に。自分勝手で自己中心的な女なのよ、どう?許せないと、思ったかしら、アレン。」

アレンは握り拳を作り、手を震わせた。しかし、その手は静かに開き、彼は喋った。

「ウィリアさんは今までそうして生きてきたかも知れません。でも知っていますよ。リルムさんが連れ去られた時も助けに行ったんですよね。他人を利用する事しか考えていない人間がそんな事をするとは思えないですよ。」

「あ、あれは……」

ニーアと共に夜のダーウィンの道を車で救出に向かった時だ。結果的にニーアは殺されてしまったが、リルムとミルフを救出する事には成功した。但し、そのミルフは精神崩壊を起こし、戦禍の中で光に包まれてしまったが。

「それに貴方がそう思っていようと、結果的にジャンヌを救出する為に行動してくれているじゃないですか。動機が何であれ、これは俺達にとって有益なんです。それと、聞きたい事があります。どうしてそんな別に黙っていてもいい事をわざわざ俺に言ったんですか?」

アレンからの質問を聞き、ウィリアは答える。

「万が一の時、私を捨ててでもジャンヌ・アステルを連れてここを脱出して欲しいからよ。貴方は今後、世界の為に必要になるんでしょう?ならば彼女を救出して、とっとと逃げた方が良い。でも私はこの先、貴方達の行動に必要のない女。でも貴方は優しいから、私が危機的状況に陥ってでも私を助けるかも知れない。」

アレンの事を知るウィリア。それは、バンディットとしての師弟関係故に知ったのだろう。彼女がアレンをバンディットに育てた。故に彼の事は理解しているのである。

「そりゃそうですよ。ウィリアさんを見捨てるなんて出来る筈が――」

彼の言葉を、ウィリアが遮った。

「だから駄目なのよ。私なんか放って置かなければならないわ。自分のエゴでここまで来た私をね。私の事を、自分勝手な最低な人間と認識してもらえれば、貴方はジャンヌ・アステル救出に集中出来る。そう、考えたから言ったのよ。」

彼女は自ら本音を曝した理由は、アレンを裏切りたかったからなのだ。どのような事があっても、自分を捨てて逃げてもらえるように、あえて本音を言った。

 しかしそれはアレンの優しさを返って助長させてしまうものだったのである。

「ウィリアさんは甘いですね。必要、不必要なんて関係ないです。誰にも死んで欲しくないんです。貴方は本当に自分の敵討が目的だったとしても、そんな事がどうしたって話です。」

この時、ウィリアの中である言葉が思い出された。

 

――――――――――――ウィリアさんだって居て欲しいんです―――――――――――

 

レイがウィリアに対して言った言葉である。それを思い出した彼女は表情を曇らせた。同じような台詞をアレンにも言われ、複雑な心境に駆られたからだ。

しかし数秒後、彼女は目を見開き、突然行動を開始した。

「……そんな事無いわっ!」

 

ジャキンッ

 

ウィリアはアレンの喉元に銃を突き付けた。急な動きだった為、彼は彼女の動きを認知する事が出来ず、接近を許してしまった。

「なっ、何を……?」

「逆のパターンもあるって事、貴方は考えてなかったわね。」

「それはどういう意味ですか……?」

「貴方が殺されそうになって、私は目的を果たした場合……すぐにここから逃げるわ。貴方を置き去りにしてね。私は平気でそうするつもりよ。私は貴方みたいに優しくない。何故ならば、自分勝手な女だから。勿論、ジャンヌ・アステルもね。」

ウィリアはアレンの目を見て不気味に笑った。

「前から思っていたけれど、貴方は優し過ぎる……一度経験しておくべきよ。その優しさが自分を……いえ、自分達を窮地に追い遣ることをね。」

そう言ってウィリアは彼に銃を突き付けるのを止め、それを大腿のポケットに収納した。

「でも今は協力するわ。でも忘れないで。この先、何があっても私は自分の事だけを考えて行動すると言う事を……」

「……はい、肝に銘じておきます。」

「じゃあ、行きましょうか。」

そう言って両者は再び階段を下りていく。アレンは内心、彼女がそのような事をする筈がないと、疑う事を一切しなかった。彼女こそが優しい人間である……そう感じていたからだ。

(私は戦争を引き起こすきっかけを作り出してしまった……これは、そのせめてもの償いでもあるのよ……アレン。)

 

 

 

クレーディト社の中では激戦が続いた。しかしそのたびに彼等は襲い来る敵を倒していき、ジャンヌが囚われているとされる場所まで進んでいく。

グァンの印の情報を頼りに深部へ進んでいく両者。どのような仕掛けがあるかは、彼女が完全に把握しており、あとは侵入者を撃退する為に配備されている敵を倒して進んでいくだけだった。

ジャンヌが囚われている部屋にて。現在部屋にいるのはエレグとグァンとジャンヌだけであるが、そこへ新しく一人の男が入ってきた。

「おお、久し振りじゃないか、元気にしていたか?」

「ご無沙汰しておりますよ、スウィードさん。数少ない私の〝友〟ですからね、貴方は。」

「そ……んな……!?」

新しく部屋に入ってきた男の正体……それはエファン・ドゥーリアだったのだ。新生連邦が先の戦いで敗れ、宇宙へ逃げているはずなのに彼は何故かこの場所にいたのだ。会話の内容から、エレグとエファンは友人である事が分かるが、彼女にとってそれはどうでも良い事だ。問題は、この状況に更に厄介な人間が現れたという事である。

「……おや、随分とお久し振りですね。ジャンヌ様。」

彼女を挑発するようにエファンは言った。今、彼女は船上のパーティ以来、会わなかったエファンと再会した事となる。母親を殺害し、セントマリア号のパーティ会場を無残な光景に変えた忌むべき敵が目の間に居るのだ。無論、それは彼女にとって喜ぶべきものではない。

「エファン・ドゥーリア……何故貴方がここに……?」

「個人的な事情でここに来たまでですよ。ジャンヌ様。」

彼女の側近であった頃の振りをするエファンの言動に対し、不愉快に感じたジャンヌは彼を睨みながら言った。

「……その喋り方を止めて下さい。不愉快です。」

そう言った後、エファンはニヤリと笑みを浮かべた。

「だろうな。船上では散々な目に遭わされているのだ、当たり前と言えば当たり前だ。」

と、エファンは言う。が、この場に於いて気になるのはエレグとエファンが何故一緒に居るのかと言う事だ。アドバンスドタイプの男と氷河族のボスが一緒に居る状況。ジャンヌにはこれが理解出来なかった。

「エファン、ジャンヌ・アステルとは知人なのか?」

「大切な関係ですよ。一年程行動を共にしておりました、より、理解し合っている関係というべきでしょうか。」

嫌味を含むような言い方をしたエファン。ジャンヌを裏切ったのはこの男であるのに、それをあろう事か、堂々と振る舞っているのだ。その言葉を聞き、ジャンヌは睨むようにエファンを見た。

「貴方とエレグ・スウィードはどう言った関係なのですか。」

当然の疑問だ。これに対し、エファンは答えた。

「彼の独自の価値観、解釈は私に感銘を与えた。脊髄の完全損傷に対し、治癒する技術が既に有るにも関わらず自らの意志を貫き、半身不随となっても人の形に拘っている彼の考え方は人としての素晴らしさに関心を抱いたものだ。そこに共感し、私達は友人関係になった。」

明かされる二人の事情。エファンはエレグの思想に共感し、氷河族のボスと呼べる存在と友情を築いたというのだ。

「エファンは友として様々な行動をしてくれた。例えば空を飛ぶMS乗りの艦への攻撃や、MS乗りの排除を依頼した時も関しても喜んで行動してくれたな。」

「カイロ郊外の事ですね。そんな事もありましたね。あの空飛ぶ戦艦や砂漠の狩人とか言うMS乗りを攻撃したのも、懐かしい出来事ですね。」

空飛ぶ戦艦。それは、セイントバードの事だ。セイントバードを攻撃したのは、エファンの乗るアーヴァインだったのである。そして、砂漠の狩人の部下であるMS乗り達を攻撃したのもこの男だったのだ。

「あの時はアーヴァインの性能を試す良い機会ではありましたよ。あの機体が上手く稼働出来たのはスウィードさんのお陰でもある。」

砂漠の狩人のメンバー達が殺された理由は、アーヴァインの性能を試すという理由だったのだ。その結果、アスーカルは仲間を全て失い、路頭に迷う事となったのである。

「エファンの開発したMSのバックアップに回れるのは嬉しい限りだよ。これでも軍事企業の端くれだからな。技術的な部分には関心がある。お前なら、夢を見せてくれるかも知れんな……究極のMSの存在を。」

エレグが語る、究極のMS。それは、何を示すと言うのか。

「全面的にアーステクノロジーが協力してくれていますよ。その上でクレーディト社の協力も必要です。これらの技術が結集したとき、“あの機体”は完成します。」

「そうだな、あれは私の夢でもある……」

ジャンヌとグァンがいる前で互いに語り合うエファンとエレグ。何について語っているのかが、全く分からない。恐らくMSの事なのだろうが、真相は不明だ。

「さて、スウィードさん。どうやら外は大変なことになっているようですが。」

「ん……?それはどういう意味だ?」

エレグが口元に手を運び、言った。

「ジャンヌ・アステルを救出する為に、ここに侵入者が来ています。」

「侵入者……?」

エレグはそれを聞かされ、少し驚いた様子だった。

「何!?まさかFPBって奴等かよ!?クソ……にしてもなんで分かったんだ?」

エレグの側に居たグァンが眉を潜めながら言った。

(侵入者……?誰なのでしょうか……)

この会話を聞いていたジャンヌは当然ながら疑問を抱いた。

「原因はお前だよ。グァン・ホーキーズ。お前に存在している、“印”を宛にして来たのだよ、奴等はな。」

印の存在。それを知るのはこの場ではエレグとグァンだけだ。なのに、その情報を、グァンの表情一目見てエファンは理解したのである。

「……マジか……糞がぁぁぁッ!ボスゥ!申し訳ないですわあああああ!」

そう言ってグァンは、自らの印が付けられている右肩部に対し、所持していたナイフを持って、自ら傷付け始めたのだ。まるでそれは、以前にゼオンが氷河族で無い証明をする為の如き行為と言えた。

 血塗れになるナイフの存在と、飛び散る肉片。ジャンヌはこの光景を見て目を覆った。しかしその動作とは対照的に、グァンの表情は怒りに満ちている。彼にとって自らの位置を知られる事は、余程許せなかったのだろう。

普段は奇妙な程笑うこの男も、今回ばかりは焦っていた。会社に入れるのは限られた人間だけ。それ以外の侵入はエレグが絶対に許さない。彼はエレグに殺されるのではないかと思っていた。

「やはり大したものだエファン。印の存在に気付くとは。」

「何、単純に観察をしただけですよ。」

観察をしただけで発信機の存在を見破るこの男の異常さをグァンは疑問に抱いた。それが気に食わなかったのか、男は握り拳を作ってエファンに聞く。

「あんた、何モンだ?」

「エファン・ドゥーリアだ。お前の事は知っているぞ、グァン・ホーキーズ。思っていたより若いな。」

そう言って、エファンはまるで睨むようにグァンを見た。この時、グァンはエファンから感じる妙なプレッシャーに、緊張感を抱いていたのだ。

(こ、こいつ……なんかやべぇぞ……普通じゃない……なんだ、この感じは……?喧嘩を売るべきじゃねえ……こんな奴始めてみたぞ……)

グァンも感じ取った、エファンのプレッシャー。並みならぬ不安を覚えたグァンはこれ以上何も言わず、そのまま黙ってしまう。

(人間とは思えぬ外道をこのような所で見るとはな)

エファンは静かに、思ったと同時に、エレグを見て言った。

「それにしても良かったですね、私が来て侵入者の情報を知る事が出来て。さて、スウィードさんにして貰うお願いの代わりに、私もちょっとしたお土産を持ってきました。喜んで貰えるかは分かりませんがね。」

 

スッ

 

その時、エファンは、エレグ達から見て死角から何かを取り出すような動作を見せた。その後、彼等に一人の少女の姿が映った。

「ココットさん!?」

そう叫ぶのはジャンヌだった。エファンは、何故かココットをこの場所に連れて来ていたのだ。ココットは目を瞑っており、意識を失っている。何をされたかは、外見では判別できなかった。外傷が見られなかった為である。

「ほぅ、こりゃまた強引な事をするな。所で、何故その少女を?」

「もうすぐ分かりますよ。これから面白いものが見られます。確実にね。」

エファンは不気味に笑った。

「どうしてココットさんが……何故……」

アルバトス艦内居た筈のココットが何故ここに居るのか。ジャンヌはそもそも今、アルバトスが彼女を救出する為に動いている事を知らない。

「何が……どうなっているのですか……これは一体……?」

ジャンヌから見れば、理解の出来ない点が多過ぎる。何故かここにエファンがいる事、ココットがエファンによってこの場所に連れて来られたという事。全てが彼女にとって理解の出来ない事ばかりである。

 

ピキィィィ

 

その時、彼女の頭の中で電流が流れた。と同時に、ジャンヌの脳裏にある人間のイメージが浮かんだのだ。

(この感じは……アレン……!?アレンがここに来ている……?侵入者はアレン……?)

ジャンヌは悟ったのだ。アレンがここに来ている事を。自分を助ける為に、彼が来ている――ジャンヌはそう感じ取った。

「フン、近付いて来たか。」

そう呟いたのはエファンだった。この男もアレンの存在を感じ取ったのである。

「良かったな、ジャンヌ・アステル。お前を助ける人間が来てくれて。まあ、私には都合が良いだけの存在だが。」

エファンは微笑し、ジャンヌを見下すように見た。その一連の会話を聞いていたグァンは、彼等が何の話をしているかが分からない様子だった。

「オッカルト~。これがアドバンスドタイプの力ってやつですかい、ボス?」

「恐らくな。オールドタイプの俺達には分からない話だろうな。まあ、二人の会話から察するに、救出に来ている人間にアレン・レインドがいることが分かる。」

「マジですか?あの、アレン・レインドがねぇ……。」

感心する様子を見せるグァン。その時、エレグはエファンに対して言った。

「エファン・ドゥーリア。アレン・レインドが来て嬉しそうな顔をしているな。何か企んでいるのか?〝都合が良い〟という言葉がどうも気になるのでな。」

先程のアドバンスドタイプ同士の会話を聞いていたエレグ。その会話内容から、エファンはアレンを招いて〝何か〟をしようとしていた事が分かった。

「何、マスドライバーを貸して頂く際のちょっとしたお礼ですよ。貴方のような権力者に対して金銭の提供というのでは、貴方自身もつまらない筈。ならば、少し面白い人間劇を見せてあげようと思いましてね。」

この時、エファンは意味深な言葉を連続して語った。一つは、〝マスドライバー〟の話。もう一つは、〝人間劇〟。これらの言葉が意味するものは、何かは把握出来ている者はエファンとエレグぐらいであろうと予想された。無論、エファンの言う〝人間劇〟が何なのかは彼にしか分からない。

「んー、そうだな、それを見せてもらえたらマスドライバーを展開させてみるか。」

(マスドライバー……?)

ジャンヌはエレグの言葉に疑問を持った。軍事施設にしかないマスドライバーをこの男が持っていると言うのかと、彼女は思う。それについてエレグに聞きたかったが、この状況で変な質問は出来ないと、彼女は感じた。

「フフ、感謝します。……さて、楽しみだな。ジャンヌ・アステル。」

エレグと会話する時とジャンヌと会話をする時とでは表情に差があった。彼女と喋る際には不気味に笑い、エレグと会話をする時はほとんど表情を見せる様子が無かった。

「エファンが楽しみを作ってくれるそうだ。グァン、お前は侵入者を殺せる準備をして……」

エレグがグァンにそのように指示をした時、エファンは言った。

「待って下さい。指示を出すならばこうして欲しい。侵入者は二人いる。その内のアレン・レインドは殺さないように。もう一人の人間は殺してくれて構いません。グァン・ホーキーズ。そのようにしろ。」

エファンは侵入者の数も把握していた。そしてグァンに指示を出す。グァンは快く引き受けはしなかったが、エファンから発せられる奇妙なプレッシャーに負けて

「……ああ。」

と言って外へ出て行った。ここで命令を拒む事は、エレグの命令を否定する事と同意義となる為である。グァンは侵入者を抹殺する気でいたが、そう言われては迂闊に殺す事など出来る筈がない。

「何故、アレン・レインドを殺してはいけないのだ?」

「殺してしまうと人間劇が見られなくなりますからね、楽しみを奪ってしまってはつまらない。」

エファンは再び不気味な笑みを浮かべた。

(アレンが生きることで起こる人間劇……何を言っているのか……)

「何、今に分かる。ジャンヌ・アステル……」

そう言ってエファンはジャンヌの顔を見た。

「っ……」

心を読まれたジャンヌ。この時、エレグはエファンが何故ジャンヌの顔を見て話したのかが理解出来なかった。

 エレグとグァンによって軟禁されている部屋に、追い打ちを掛けるように現れたエファン。更にエファンはココットを気絶させてこの場所に放置した。奇妙な出来事が相次いではいるが、冷静さを忘れてはいけないとジャンヌは自身に言い聞かせた。

 

 

 

順調に会社の内部へ侵入していくアレン達。ウィリアの所持している機械の反応も強くなってきており、ジャンヌが近くにいることが分かる。もうすぐジャンヌを救い出せる……とう思った時だった――

 

ダダダダダダダダダダダダダダダダ

 

機関銃を乱射する音が聞こえた。それに気付いた両者は近くにあった柱に身を潜めた。

そこから様子を見る両者。少し柱から顔を覗かせた時、そこに映っていた人間を見て驚嘆した。

「グァン……厄介な奴が……」

グァンがそこにいたのだ。先程の銃の乱射は彼の気まぐれによるものだった。とはいえ、一番警戒すべき人間がそこにいるという事実は変わりない。

「あれの相手はしてられないわ。陽動用の手榴弾を投げる……」

そう言ってウィリアは上着の内ポケットから手榴弾を取り出し、糸を噛み切り、グァンとは正反対の方向へ投げた。

 

ドオオオオオオオ

 

 その直後に爆発が起こり、グァンはその方向へ走る。その隙に両者は奥へ進み、ジャンヌの居る部屋まで走っていく――




第八十八話、投了。
明らかになった氷河族のボス、エレグの正体。
彼の真意、目的は今の混沌としている状況を更に混沌とさせるものだった――
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