機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

101 / 125
囚われたココット。そして、アレン達は救出に向かう。

しかし――


第八十九話 悲哀

 手榴弾による爆発はジャンヌ達が囚われている部屋にも聞こえてきた。何事かと疑問を抱いたエレグ。その爆発の音により、意識を失っていたココットは目を覚ました。

「う……ん……?」

彼女が目を覚ますと、その隣にジャンヌがいた。そして辺りを見回す。何が起こったのかが分からないまま、ココットは動揺していた。

「あ……え……!?ジャンヌさん!?」

「目が覚めたのですね、ココットさん。」

「ていうか……私……なんでここに……?あ、手が動かない……縛られてるの……?」

「紐で結ばれていますわね、解いてあげますわ。」

そう言ってジャンヌがココットの手首に結ばれている紐を解こうとするとエレグが言った。

「何をやっている?勝手な真似をするなど――」

その時、エファンがエレグの言葉を遮って言った。

「解かせてあげて下さい。寧ろ、自由にさせてあげた方がいい。その為に、“わざと”すぐに解ける紐にしたんですよ。是非、貴方に見せたい“人間劇”の為にもね。」

エレグはこの時、エファンの思考が理解出来なかった。一体何を言っているのかと、疑問を抱くエレグ。

「まあ、それは楽しみにとっておこうか……」

エレグは静かに、言った。

「……さて、私は外の様子でも見てきましょう。何があったかを確認してきます。」

「そうか……分かった。」

そう言ってエファンは部屋を去った。部屋に残されたのはエレグとジャンヌとココットのみとなった。

「はい、解けましたわ。」

エレグが見逃した為、ココットの手首に縛られていた紐は解かれた。これにより、彼女は身体が自由となる。

「あ、ありがとう……。さて、脱出しないとね。」

「いえ……そうも行きませんの……」

「え、どうして!?」

説明をすれば長くなると思ったのか、ジャンヌはあえて説明しようとしなかった。しかしココットは疑問を持つばかり。彼女からすれば、何故出来る事をしないのかが理解出来なかったのだ。

「そこの女性には関係のない話だ。なあ、ジャンヌ・アステル嬢。」

氷河族とアステル家が協力関係になる事を望んでいるエレグ。ジャンヌは拒み続けるが、下手に拒めば彼女の父親に被害が及ぶ。彼女は〝はい〟とも〝いいえ〟とも言えない状況に追い遣られていたのだ。だから彼女は沈黙を続けるしかなかった。下手な回答は出来ないと判断したからだ。

 

バンッ

 

その時だった。その部屋にアレンとウィリアが現れたのは。両者は銃を持ち、エレグに向けた。

「ジャンヌ、無事か!?……えっ、どうしてココットが!?」

「アレン!来てくれたんだね!」

「アレン……よく無事で……」

ジャンヌが囚われているのは分かる。しかし何故ココットまでもが囚われているのかが理解出来なかった。

「……この男が……まさか……!?」

ウィリアは男の姿を見て衝撃を受けた。グァンを陽動に掛ける事に成功し、そのままジャンヌが囚われている部屋に来た思えば、そこに居たのは車椅子姿の男。

 だが男の振る舞い、その雰囲気等から物々しい印象を受ける、ウィリア。やがて彼女は察する。この男が、氷河族のボスである、エレグ・スウィードであると。

「ウィリア・ラーゲン。組織の人間でありながら印を付けていなかった人間だな。よくもまあここまで独自の力で辿り着いたものだ。」

組織の部下とも呼べる人間に姿を見られた事は本来ならば消さなければならない。だが、エレグは異様に冷静な様子を見せていたのである。この時、ウィリアはアレンに指示を出す。

「二人を連れて早く逃げなさい!こいつは私が!」

「は、はい!」

そう言って、アレンはジャンヌとココットに立つように言った。ウィリアの言う通り、それから彼等は部屋から脱出する。その時、アレンはウィリアに言った。

「戻って来て下さいね……必ず!」

アレンはそう言い残した後で、三人はその場を後にした。 

この時、この場に残されたのはエレグとウィリアのみとなった。氷河族のボスと、組織の一メンバーである彼女との対立。

彼女にとって、ここまでの道のりは非常に長いものと言えた。弟がノード・ベルンに嵌められ、組織に殺害された事から彼女の復讐劇は始まった。氷河族のメンバーとして、バンディットとして情報収集をしていき、多くの人間と交流して来た。その中でノード・ベルンの殺害に成功したのは良かったが、これを機にグァンという名のパニッシャーを呼び覚ます事になる。

だがその中でボスの存在が最も忌むべき存在だと考えていた彼女は、失った仲間の分まで、いつしか仇を取ろうと考えていたのである。

「間違いない……こいつがエレグ・スウィード……!」

氷河族という巨大な闇の組織を率いて来た組織の長、元締、首魁と呼べる存在が目の前にいる。その男は足が不自由な男。そして、自ら希望して車椅子の生活を行っているという、男である。

「ゲーンも氷河族を知った事で制裁を受ける事になった……そして、貴方が部下を使って抹殺した……その部下の一人がノード・ベルン。そして、それらを全て操っていた存在、エレグ・スウィード!今まで多くの人間を利用して来た罪!ここで償ってもらうわ!!」

氷河族のボス、エレグが居る。戦争を引き起こす引き金を引き、多くの人間を利用し、私利私欲の為に巨万の富を築いた男、エレグ・スウィード。この男の存在は、ウィリアにとって諸悪の根源と言っても過言ではない。

「復讐の為に組織に入ったという訳だな、ウィリア・ラーゲン。お前のような存在が一番組織に害を与える存在だ!!」

 

ダダダダダダダダダダダダダ

 

すると、エレグの車椅子の左フットレストの側方部より、突如銃弾が連射された。機関銃のようになっているそれは、彼を守る為に存在している護衛用の、搭載式の自動銃だったのである。

それに対してウィリアはすぐに反応した。急いでベッドの下に隠れ、様子を伺う。ベッドの固さが幸いし、ウィリア自身にダメージを負う事が無かったのである。

(まさか車椅子に機関銃を仕込んでいるなんて……!)

氷河族のボスと呼べる人間は、敵に対する用意も周到だ。油断をすれば全身に穴を空けられる事だろう。

「ウィリア・ラーゲン。お前は大人しく俺の下で働いていりゃ良かったんだよ。弟の敵討ちか知らんが、大人しく私情を挟まず、お前のその、情報判断能力を活かして組織の為に貢献すれば相応の地位を与え、穏やかで幸せな人生を歩めたのにな。ノード・ベルンの殺害と言った、余計な事をするから寿命を縮めるのさ。“周りの人間”も巻き込んでな。」

それは死んだギィルや他のメンバー達の事を指していた。グァンによって殺されたメンバー。全てはウィリアの招いた出来事だ。

「お前は……!」

だが、全ては目の前に居る諸悪の根源が招いた出来事だ。彼女自身の復讐劇を終わらせる為には、目の前に居る悪意の源を倒さなければならない。

戦争による影響を受け、脊髄損傷になっていたとしてもこの男が組織を動かしていた。その目的は、自らのエゴの為。その為に組織内の人間すら犠牲にし、更に世界を混乱に陥れたこの男は、間違いなく許されざる存在ではない。

 今、ウィリアは怒りに感情を支配されている。いつもの冷静な彼女の姿はいない。目の前にいる男が全ての根源と知った時、抑圧されていた感情をコントロールする事は難しいのだ。その証拠に、ベッドに隠れながらも声を震わせている。

「余計な情報を知り、下手な感情を抱くか!バンディットとして、動いた結果多くの情報を拾い、その牙を俺に向けたという訳か!ウィリア・ラーゲン!」

煽るエレグ。これに対し、ウィリアは声を荒げ、言った。

「お前を殺すのはゲーンの為だけじゃない!私の友や仲間を、グァン・ホーキーズを使って殺させていた癖に!お前が動かしていた組織の中で、多くの人間が犠牲者になった!諸悪の根源よ!お前は!!!」

「余計な事を知って、愚かな人間だな!」

車椅子上と言うハンディキャップを背負っているにも関わらず、堂々とした振る舞いをしているエレグ。この男の余裕は、やはり信用している人間が居るが故に成り立つのか。それとも巨万の富を築き、国を作り出そうとする器量から来る余裕だというのか。

「知って何が悪い!?その真実を知らないで、何も罪のなく死んで行った人間だっているのに!自らの秘密を隠す為にそれに近付いた人間を、部下を使って殺してきたお前の存在!許される筈がない!!」

この男が組織した氷河族。それにより、多くの犠牲者が出たのは事実である。氷河族による犯罪行為によって殺された民間人、そして組織内でも、情報を知ろうとする人間の殺害、そして、アルン・ティーンズがリーダーを務める一部組織が連帯責任という理由での抹殺。全ては、この男が根源であった。

「私がお前に対して憎しみを抱き、殺す気でいるのは皆に対する弔いよ!!特に、ゲーンの!確かに私は自分勝手に生きてきた!そうなったのもお前に人生を狂わされたからなのよ!!!」

「自ら事業、組織を興してすらいない、それに追従して便乗するだけの寄生虫が偉そうに!」

ベッドに隠れながらも、エレグの言葉に耳を傾け、怒りを感じているウィリアは口唇を震わせながらも、喋る。その怒りの口調は留まる事を知らない。

「弟を殺されて、復讐の為に組織に入って……多くの人間を利用して……やがて一人の男に辿り着いて……更にその復讐の為に私は人を利用して……その人が殺されて……それでも私は復讐の為に生きて……結果的に多くの犠牲者が出た……全部、お前のせいだわ!」

“その人”と言うのは、ギィルの事を示していた。ノード・ベルン殺害の為に協力をしていたギィルは、彼女に協力する過程でノードに殺害された。この悲劇も、エレグが全て引き起こした弊害であると彼女は言いたいのだ。

「それは自分の非を他人に対して八つ当たりしてるだけにしか聞こえんなぁ?」

八つ当たりと言う言葉は厳密には違う。諸悪の根源は間違いなく、この男である事に変わりはない。

「私は情報を常に得て来た!バンディットとして!多くの情報を得て、お前に辿り着いた!そして、今まさにそれを成す時だわ!」

ベッドに隠れながらも怒りを隠さないウィリア。感情だけが吐露している状態だ。それは、彼女にとって危険極まりない状態と言える。

 だがエレグは近付く事なく、まるでウィリアを迎え入れるかの如く、次に発する言葉は衝撃を与える事になる。

「情報に拘るお前に耳寄り情報だ。”バンディット”という立場の時点でお前は俺の手の内に踊らされていたに過ぎないんだよ。」

「え……!?」

デウス動乱後、ある人物が運営するSNSのサイトから始まったとされる、裏家業である存在、バンディット。バンディットに登録している人間は様々な仕事を請け負う。探偵業や殺し屋と言った職業を始め、様々な稼業を行ってきた。

 この男が言う、〝手の内で踊らされていた〟とはどういう事なのか、それは今からこの男の口より明かされる。

「バンディットは戦後、氷河族結成の後に俺がSNS上で事業として始めたものだ。」

「何ですって……!?」

バンディットと氷河族には共通点があった。それは、元締を知ろうとすると何らかの形で制裁を加えられるという事だった。つまり、その元締が同一人物であるならばその説明が付きやすいという事だ。

「そう。全ては俺が元締と言う訳だ。氷河族の傍ら副業でバンディットを行う人間も居たが、皆いずれもが元締が同じと知らずに行動しているよ。そしてその真実に近付いた者は皆が消される。俺の信用する人間、パニッシャーによってな!」

結局、ウィリアは二重の意味で男に踊らされていたという事が今、明らかとなった。氷河族とバンディット。同じ元締。故にそれを知ろうとした者は消される。徹底した秘密主義。自らが信用する人間しか受け入れないこの男の掌に踊らされた事実は、ウィリアを更なる怒りに駆り立てた。

「エゴの極み……どれだけ人を犠牲にすれば気が済むの……?」

手が、震える。怒りを抑えられない、ウィリア。今にも彼女はエレグに向けて銃を構えたくて、仕方がない。いっそこの銃を男に向け、放つ事が出来ればどれ程、楽か。

 しかしエレグの車椅子には機関銃が仕込まれている。下手をすれば撃ち抜かれるのが目に見えているのだ。

「お前を始め、情報を知りたがる人間と言うのはな、その秘密を明かされたくないと願う人間からすれば迷惑極まった存在だよ。奴等はその情報を餌にしてネット上等に拡散させ、広めようとする。新生連邦の情報、平和国連盟の情報……それらは情報部によって隠蔽されてこそいるが、それでもジャーナリストと言った存在が何らかの形で明かすよ。何故だと思う?」

人間や組織には必ず、“秘密”がある。それ故に人は生きている。

 だがその秘密は明らかになっては行けないものも、中にはある。それが公になった時、個人、組織に悪影響を及ぼすものもあるのだ。それを守秘する為に、新生連邦や平和国連盟には情報部が存在している。組織にとって都合の悪い情報の隠蔽を徹底し、世界を管理している者達だ。

 だがその秘密はFPBを設立したギア・ジェッパーによって暴露されたのだ。世界中に明かされた事実に対して怒る平和国連盟と国連軍。その怒りの矛先は、FPBに向けられている。戦いの部隊が宇宙に移行していく中、FPBに寝返った元国連軍に対する報復は、今も続いているのである。

「それが、どうしたと言うの!?」

今、その状況でそのような話をして何になる?忌むべき敵が居る状況で、そのような話等聞く耳を持つ筈がない。その中でも、エレグは静かに語り続ける。まるで、ウィリアのような存在に対し、呆れて果てているように。

「大半の意見として挙がるのが、諸悪の根源を突き止めた事による英雄的感覚に酔い知れるか、あるいは情報を突き止めた事に寄る下らない金を得るかだ。ジャーナリストやお前のような存在と言うのはな、所詮は隙間産業モドキの事しかしない連中ばかりだ。お前自身は真相を突き止めた気になっているかも知れんが、結局どいつもこいつもエゴそのもの。お前は俺の事を憎んでいるかも知れんが、所詮は同じ穴の狢!」

あざ笑うエレグの声が響く。歯を食い縛り、ウィリアは口唇と、手を震わせているのだ。

「確か、お前の弟は金を得る為に氷河族の情報を知りたいと、偽りの情報に嵌められたとか言ってたな。あれも所詮は金銭を得る為のエゴに過ぎんのだよ。金銭を得る理由がどうであれな。」

金銭を得るのにはそれぞれの事情がある。遊び金の欲しさ、学ぶ金の欲しさ、生活費等様々だ。だがそれに引っ掛かれば、そこに待ち受けるのは死、そのもの。それが氷河族と言う名の組織なのだ。

「そしてその遺体はビジネスに利用させてもらったよ。人の身体はその存在そのものがあらゆる需要を持つ。こうして世の中は回っていく。これ以外にも、各地で起きていた紛争やテロ行為等の幇助は大きなビジネスとなり得る。国同士の戦争や組織同士の抗争に於いてもそれを幇助する事されすれば莫大なビジネスチャンスとなる。そして、現代のMS事業の存在は大きな利益を組織にも、会社にも、もたらしたという訳だ!」

あらゆる手段を用いて金銭を得た男、エレグ。その目的は世界を裏から操るという事。裏社会の絶対的な支配者となる事が、男の最終目的。

 この男が氷河族を通じて行ってきた非人道行為や戦争幇助行為は数知れない。例を挙げるならば、ある一つの国家が氷河族に金を出す事で、その国家が侵略しようと考えている国に対して様々な策を練る。そして、その為に彼が組織した人間を派遣し、侵略しようとしている国を混乱に陥れ、侵略し易い状況にするといった行為も今までして来た。

又、侵略とは異なるが、アルメジャン紛争を起こすきっかけとなった、フォン・ヤマグチの暗殺を引き起こす根源となったのは、紛れもない、この男である。彼が首相を務める日本は新生連邦にとっても、平和国連盟にとっても経済的な面で重要な拠点となっており、互いに表面化では協力関係を築かざるを得ない状態だった。その中を、アルン率いるメンバーがフォンを暗殺し、世界情勢を不安定に陥れたのだ。

デウス動乱後の、世界の裏で隠された多くの事件。その大半に関係しているのは、間違いなくこの男が作り出した組織である、氷河族が関係していると言えたのだった。

「よくも、よくもゲーンを!!!」

弟を侮辱したエルグの言葉に対し、遂にウィリアの怒りが限界を超えた。煽るエレグの口調が不安定だった彼女の感情を爆発させるのに十分な着火剤の役割を果たしていたと言えたのだ。

 やがて、ウィリアは銃をエレグの眉間に構えた。姿を見せ、すぐにでも決着を付けようと試みた時――

 

パァンッ

 

「あああああああああああっ!!!」

ウィリアの右大腿部が、突如撃ち抜かれた。激痛を訴える彼女は立っていられず、床に座る形を取らざるを得なかった。その勢いは凄まじく、銃弾を浴びた箇所からは血が、溢れ出る。

 痛い。尋常とは言えない痛みが、彼女に伝わっていく。予想外の疼痛は、予測された疼痛よりもより過敏になっているように感じられた。筋性の痛み?骨性の痛み?それらを恐らく凌駕するような激痛がウィリアを襲うのだ。

「良いタイミングだグァン。流石だな。」

「いやぁ、ギリギリでしたね。申し訳ありません、ボス。てかウィリア!お前わざわざ会いに来てくれたのか!嬉しいなぁ!」

彼女を撃ったのはグァンだった。激痛に苦しむウィリアはグァンを睨むように見る。

「グァン……っうあああ……!」

「大したもんだなウィリア!こんな場所にまで来ちゃうんだから!でもそれももう終わり!俺はお前よりボスの方が大切だからな!」

 最悪の状況だ。よりによってエレグの救援に駆け付けたのがパニッシャーであるグァンだったのだ。残酷な男がこの場に現れ、ウィリアは危機に陥ってしまう。

やがて、グァンがウィリアの頭部に銃を構えたその時――

「まだ撃つなよ。こいつは自力で俺に辿り着いた。せめてもの情けをかけてやろうと思ってな。」

エレグの言葉が男の凶行を止めた。

「了解です、ボス。」

と言って、グァンは銃をポケットにしまう。それと同時に、車椅子に乗りながらも堂々とした振る舞いを見せるエレグは、血を流し、身動きが取れないウィリアに対して言った。

「動機がどうであれ、バンディットとして、氷河族とバンディットを掛け持ち、組織の為に貢献した事は間違いない。ならばせめて俺の思惑を知ってから死ぬのも悪くないだろうに。」

「思……わ……く……?」

激痛の為、言葉をまともに発する事が出来ないウィリア。そしてエレグは自分の口から野望の事を語り始めた。

 それは、ジャンヌに対しても言ったように、地球圏の支配をするという事が彼の目的。その第一歩として、まずは今支配下に置いているこの北欧、ノルウェーの地を支配し、勢力を拡大していく。その第一歩として、アステル家に脅迫する形で協力させ、その力を付けて行くという事がこの男の目的だ。

 多くの出来事に翻弄されながらもウィリアはエレグ・スウィードという人間に辿り着いた。その褒美として、エレグは情けを掛けるかの如く、彼女に情報を与えたのだ。

 全てが、繋がっていく。戦後になり弟を嵌められ、殺されたあの時から、今に至るまで、全てが。ウィリアは全てを知り、そして、改めてエレグに対して怒りを見せていた。

「だから……お前は……ジャンヌ・アステルを……うぁぁっ……!」

反抗しようにも、激痛が彼女を襲う。言葉も、途切れ途切れになっていく。

「グァンから聞いていたよ。お前もジャンヌ・アステルの居る戦艦に同伴していたという事はな。」

車椅子上で、右大腿部から血を流して倒れているウィリアを見下すエレグ。その側には、忠誠を誓っている危険な男であるグァン・ホーキーズ。危険な男二人が、彼女を見つめている。

「……ふざけている……!自分自身がただ、支配者となって権力を掴みたいだけ……そんなエゴの塊……そんな人間が世界の権力を握るなんて……!」

「俺は大真面目だ。だから戦後、俺はこの頭を使って常に部下を使い、動かしてきた。クレーディト社だけでなく、氷河族やバンディットを操り、そして今に至る!!」

その時、エレグはグァンの方に視線をやった。と同時に、グァンは静かに頷き、笑みを浮かべ、笑みを浮かべ、ウィリアに対し――

 

パァンッ

 

「あああああ!!!」

今度は、グァンは彼女の左肩を撃ち抜いた。再び襲う激痛は、ウィリア自身を苦しめていく。

「惚れた女を撃っちまうなんて俺ァなんて幸せな男なんだぁぁぁー!勃っちまうよォー……」

狂気の男、グァンの股間部は怒張している。相手が痛みに悶え、苦しむ姿を心から笑っている危険な男は、相手を傷つける事で喜びを感じる。その喜びは自らの象徴に現れている。歪んでいる象徴と言わざるを得ない。この男は、紛れもなく危険だ。

「お前の弟を殺した時も苦しそうな声上げてたからな!両腕を全てチョンパしてよォ、肉を焼いて骨を骨粉にしてよォ、そこからライブ映像配信!最後はコンクリに埋めて窒息死ィ!ヒャハハハハハ!」

「な……に……?」

明らかになった事実がもう一つ。ウィリアの弟、ゲーン・ラーゲンを直接殺害したのは、グァン・ホーキーズである事が明らかになったのであった。

 彼女に送られた謎の映像。そこに映ったゲーンの死の瞬間。それを撮影していたのはこの男である。グァンは、自らの悦楽の為にグァンを殺し、そしてその遺体はビジネスに利用されたのだ。

「その姉が今度はボスを殺そうとしてやがるって話だモンな!恨む相手を間違えてんじゃねぇか!?ウィリア!お前が本当に恨むべきなのはな、ノードの社長さんでもボスでもねぇ!俺だったのよォ!ヒャハハハハハ!」

疼痛の閾値が下がっている状況で、痛み刺激が全身に伝わる中、ゲーンを殺害した真犯人の事を聞かされたウィリア。この復讐劇の黒幕の一人が、彼女を撃った男という訳だ。

 悔しい気持ちが、再び。以前ノードと対峙した時に感じた感覚なのだろうか。その際も銃を撃たれ、意識を失い掛けた。だがメイドが来てくれて、結果的にノードを殺すことが出来た。だが、それで全ては終わった訳ではなかった。本当の黒幕は、この部屋に居る二人。そして、本当に倒すべき敵は、ただ、一人。

「……やはり……お前は殺すわ……エレグ・スウィード!!!」

彼女が選んだのは、実行犯ではない。諸悪の根源であるエレグだ。今の彼女の中にある想いは、ゲーンだけに留まっていなかった。多くの人間達を巻き込み、そして殺されていった諸悪の根源を倒さなければならない。一番倒すべきなのは、車椅子に座している、目の前の男だ。

 ウィリアは痛みに悶えながらも、懸命に動く。銃を構え、エレグを狙い撃たんと、迫る。この男は倒さなければ。諸悪の根源である、この男を。全ての決着を今、着ける為に――

 

ダダダダダダダダダダダダダ

 

「ぅぁ――」

ウィリアの銃弾が放つ前に、車椅子に搭載されている自動銃の方が弾丸の発射が僅かに早かった。そして、弾の数も段違いだ。

 容赦のない弾はウィリアを襲う。避け切れないその数は無慈悲にも彼女の腹部に迫って行った。無情な弾丸を浴びたウィリア。

 やがて、そのまま地面に倒れてしまう。数多の血液がエレグの居るこの部屋を汚していく。まるで、諸悪の根源であるこの男の喉元を喰らいつくように。

「お見事です、ボス。」

グァンが、静かな拍手を送った。自らを殺そうとする存在に対し、打ち勝った事に対しての賞賛だろう。

「弱さが露呈したな。怒りに任せればいくら冷静に分析出来る人間であれ、我を忘れてしまう。悲しいものだ。」

と、言いながら目の前で倒れているウィリアの姿を見て、どこか憐れむ様子を見せたエレグ。

「あーあ、ウィリア。今のお前は血生臭いグロテスクな得体の知れないクリーチャーだよ。人間ってのはどんなに綺麗だったとしても撃たれたら血まみれになるんだから怖ぇよなー。俺の恋心が冷めちまうからな。糞が。」

好きな人間である筈のウィリアに対し、罵声を浴びせるグァン。彼女への愛情より、ボスへの忠誠心が勝り、ウィリアに対して暴言を吐く。この男には、本当の愛情というものはないのだろう。ただ君主の為に己のままに、悦楽に生きる危険極まりない男、それがグァン・ホーキーズなのだ。

「さて、俺はエファンの所へ行く。グァン、お前は他の侵入者が居ないかどうかを確認しに行ってくれ。……その前に“マスドライバー”を起動させておく必要がある。あいつはあいつなりに新生連邦内で暗躍しているという話だからな……万が一、俺に何かあったとしても、エファンを宇宙に逃す為にな。」

マスドライバーの起動。今から、この男はそれを行おうとしている。一体、何の為に?

ウィリアが倒れ、動けなくなった姿を見届けた時、エレグは部屋にある、一つのスイッチを押した――

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

その時、部屋が大きく揺れ始めた。その部屋だけではない。この施設全体が揺れている。一体何が起きているのか、それは今、クレーディト社から脱出しているアレン達には分からない事だった。

 

 

 

地上ではクレーディト社そのものが半分に割れ、中からマスドライバー施設が出現していた。突然の出来事に、アルバトスのクルー達は驚愕していた。

全長推定3キロメートルはあろう、その施設。レール長だけでも2キロ以上はある。レールの途中からは大気圏離脱の為に角度が急に近い角度を作り出し、物質を放り投げるように存在しているその施設。人類が宇宙に進出する為に必要不可欠なその存在はこの地に於いて異様な存在感を放っていた。

この間、氷河族の構成員がファドゥームを駆り、アルバトスに攻撃を仕掛けている。左腕部の鋏部分からはビーム粒子を展開し、攻撃を加える。迎撃に向かうのはハルッグやヴァントガンダムと言った機体だ。

「マスドライバー……?一体、どういう事だ……?」

戦闘中、その異様な光景にネルソンは、ただ疑問を抱くだけ。その間に迫るファドゥームを撃墜しながら、アルバトスを守る。中ではどうなっているのか?ジャンヌは無事に助け出す事が出来ているのか、気にしながら。

 

 

 

 アレン達は地上へ向けて脱出している最中だった。先程の揺れを感じたアレン達は驚くが、揺れが収まったと同時に再び地上へ向けて走り出す。しかし――

「力を持つ者が三人も、地上へ向けて脱出しようとするか……面白い光景だな、アレン・レインド。」

「エファン・ドゥーリア……!」

彼等の前にエファンが現れた。アレンはエファンの事を、脱出の最中にジャンヌから聞いていた為それ程驚きはしなかったが、実際にこの男が眼前に出現するとプレッシャーを感じ始めた。

「この人……怖い……何なの……この感じ……」

ココットが、エファンに対して怯えている。男の放つプレッシャーがそうさせるのだろうか。

「大丈夫、俺が守るから……」

怯えるココットを庇うようにして、彼女の前に立つアレン。

「ほぅ、勇敢なものだ。自分が犠牲になる気で来るとは。」

「どうしてここに貴方がいる!?」

「個人的な理由だ。彼とは友人なのでな。答えるまでもない。」

「個人的な理由なら俺達は関係ないだろう!そこを通せ!」

アレンがそう言って一歩前に進もうとした時――

 

パァンッ

 

エファンは所持していた銃を、彼の足元に向けて放った。銃声が周囲に反響し、聴覚に対する鋭い刺激となっている。

「どうして撃つ必要がある!?関係が無い筈だ!」

「何を言っている。私的な理由があるのでな。お前達のようなシンギュラルタイプ、アドバンスドタイプの抹殺。これが私の目的という事を忘れた訳ではあるまいな!?」

「なっ……!」

エファンは残虐な表情を浮かべ、ほくそ笑む。

「力を持つ人間は邪魔な存在……ここに三人もそれが集まる事は私にとって有益な事だ。何よりもジャンヌ・アステルがこの場にいる事は非常にありがたい事だ。」

エファンは再び銃を構え、アレンの頭部に銃口を向けた。

「まずは一番厄介なお前を殺さなくてはな。“あの時”のように、今回は焦らさない。確実に葬ってやろう。」

そう言ってエファンは引き金を右示指で触れていく。

 

ピキィィィ

 

アレンの脳内で電流が流れた。銃弾の軌跡が、見えるようだ。彼はそれを見た後、エファンの放つ弾丸を回避する事に成功していた。

すぐに彼はエファンの手から銃を離そうと、彼の銃に目掛けて銃弾を放つ。幸いにもそれは直撃し、エファンの所持していた銃が弾かれ、床に落ちた。

「痛み……か」

その衝撃はエファンの右手に直に伝わる。痛みがこの男を襲う。

それが好機と判断したアレンは、ココットとジャンヌに対し、急いで逃げるように促した。激痛に悶えるエファンを後にし、脱出する三人。しかし……

「私は両利きの人間なのだよ、アレン・レインド!」

そう言った直後、エファンは左手に、既に予備の銃を持っていたのだ。やがてそれは、すぐにアレンに目掛けて発砲した。弾丸が発射された位置は非常に正確で、それは確実にアレンの頭部を狙っている。

「あっ……!?」

銃弾が迫ってきているのに気付いた時には既に遅かった。彼が振り向いて、避けようとするにも銃弾は早過ぎるのだ。アレンは目を瞑り、直撃を覚悟した――

「ダメぇぇぇぇぇ!!!」

 

ドサッ

 

アレンが目を瞑った時、その声が聞こえた。と同時に何かが倒れる、鈍い音が聞こえた。そして彼が目を開けると、そこには……

「ココット!?」

胸から血を流して倒れているココットの姿があった。彼女はアレンを庇い、自らが銃弾の犠牲になったのである。

自らを守ってくれたココットに感謝するアレン。それと同時にエファンに対して怒りが込み上げてきた。

「目を伏せろ!」

と、同時に、アレンは所持していた閃光弾エファンの方向に投げた。やがて激しい光が辺りを包み、エファンの目をくらませた。その間に、三人は別の場所へ逃げる事を選択したのだ。

「エファン、どうやら逃げられたようだな、残念だ。」

そう言うのはエファンの後ろから現れたエレグである。

「いや、こんなものは子供騙しに過ぎませんよ。私には位置が分かる。せっかく貴方に人間劇を見てもらいたいのに、こんな所で失敗はしませんよ。」

「では、俺はお前について来たらいいのか?」

「そうですね、それが確実ですね。」

エファンは笑みを浮かべ、三人を探し始めた。この男達の気味の悪い笑みは、何を示すというのか。

 

 

 

 先の場所から逃げてきた三人。そこは、倉庫らしき場所だった。アレンは怪我をしたココットを負ぶってそこまで走った。ココットの脈拍は更に上がっていき、呼吸も激しさを増していく。その中で、激痛に悶える。

「はぁ……はぁ……」

「ココット……どうして……」

「だって……アレンが死んじゃうの……嫌だから……でも……アレンと……あの、ウィリアさんが……ここに行く前に……言ってた事……実現できたね……アレンの弾避けになれた……」

「何を言ってるんだ!大体、ココットがどうしてここに居るのかも分からない!それでどうして君が傷を負わなきゃ駄目なんだよ!?」

全てはエファンが仕組んだ事なのだが、ココット自身もそれは分かっていない。だが彼女は痛みと戦いながらも笑みを浮かべ、涙を流した。

「でも……アレンが死んじゃうかも知れないって不安に思った時にね……さいつの間にか意識を失ってた……。でもね……それって、今思えば悪い事じゃなかったのか持って思うんだ……」

「もう……喋らないで……血が……出続けてる……」

両者は涙を浮かべる。アレンは悲しみの涙、一方のココットはアレンを守れたと言う嬉しさと、死んでしまうかも知れないと言う悲しさが入れ混じった涙を流しているのだった。

「アレン……ジャンヌさん……私を……置いて逃げて……ね……どうせ……もう私は助からないから……」

胸を撃たれ、一歩も動く事が出来ないココット。彼女は置いて逃げろと言うが、そのような酷な真似を、アレンに出来る筈がない。

「何を言ってるんだ!?死ぬなんて意味が分からない!なんでココットがこんな目に遭わなきゃならないんだ!!滅茶苦茶だ……」

「そうですわ!ココットさんも一緒に……」

アレンとジャンヌが説得するが、ココットは諦めた様子で言う。

「致命傷だって……自分で分かるから……。それにね……私……やっとアレンの役に立てたって思うから……」

「役に立ったって……意味が分からない!」

「居るだけの……女なんて……嫌だったから……どうしても……役に立ちたかったから……」

「言っただろ!君がいてくれるだけでいいって!それで幸せなんだって!!」

アレンの必死の言葉も、今のココットには全て嬉しく感じられた。自分のしたい事が出来たという事で、彼女は笑顔になり、アレンと話す。

「そう言ってくれて嬉しい……でもね……私も……アレンを……守れて良かった……でもね……やっぱり残念だなぁ……」

ココットは涙を流しながら、優しくアレンを見つめた。

「あのね……私は……アレンがね、誰よりも……大好きだから……」

「え……?」

段々と彼女の目が細くなっていく。そして――

 

 

「アレンの……素敵なお嫁さんに……なりたかったな……」

 

 

それがココットの最期の言葉だった。その後彼女の目は完全に閉じられ、安らかに息を引き取ったのである。

「嘘……だ……嘘だ……嘘だろ……これ……」

「ココット……さん……お願いです!息をして下さい!う……うぁぁ……どうして……どうして貴方がぁぁ!?」

デウス動乱内でアレンとココットは出会った。戦いが続く内に互いに惹かれ合い、そして戦後になって彼等は再開し、行動を共にし続けてきた。アレンにとって彼女はかけがえのない、支えとなっていた人間だったのだ。

 ココット・メルリーゼ……フランス、パリ出身の女性。身長はアレンよりやや低く、顔つきは愛らしく、目も大きい。茶色の髪色は肩まで掛かっているのが特徴的だ。性格は大人しく、目立ちたがりという訳ではないが、他者に対し、意見を言う時は言う、しっかりとしている一面も持っていた。

そして、何よりもアレンと同様、優しい人間でもあった。優しい人間同士が惹かれ合い、付き合うまでに至り、両者は何度も愛し合った。今、アレンの中で彼女との様々な思い出が蘇る。それと同時に、彼女がアレンに対して残した台詞が、次々と思い出されていく――

 

―――――――――――――アレンの事ずっと思っていたい―――――――――――――

 

―――――――――――――役に立つ為に私も行動したいの―――――――――――――

 

―――――――――――――私も、サポートするからね―――――――――――――――

 

――――――――――――――アレンの事が、とても愛しいの――――――――――――

 

―――――――――――私だって……アレンの事誰よりも心配なんだよ―――――――

 

――――――――――私……アレンの役に……立ってるのかな――――――――――

 

―――――――――――――アレンが死んじゃうの……嫌だから――――――――――

 

―――――――――――やっとアレンの役に立てたって思うから―――――――――――

 

 

 

――――――――――アレンの……素敵なお嫁さんに……なりたかったな―――――――――

 

 

「嘘だぁぁぁ!!!目を開けてよ!ココット!なんで!どうして死ななきゃならないんだよ!一番戦争と無縁の君がどうして!なんで死ななきゃならないんだ!!!うぅ……ああああああああああああああああああ!!!」

最愛の人物の死はアレンを絶望の淵に追い遣る。だが彼がいくら嘘だと言っても、ココットは決して目を開ける事はなかった。 

ココットの最期の死に顔は見る者をどこか、優しい気持ちにさせるような、笑顔だった。

しかし、アレンとジャンヌにとってはその笑顔を見ても、悲しみしか抱かない。もう、決して動く事はない彼女。それでもアレンは、彼女の遺体を抱き締めた。そして涙を流し、悲しみに暮れた。

「ココットさんが……こんな……事……うぅっ……うぅっ……」

「うわあああ……あああ……」

涙を流す両者。二人は、もう動かないココットの遺体の前で、涙を流し続けていた。

 アレンにとっては最愛の人として、ジャンヌとしては友人として、戦後の世界を共に行動してきた。まさかこのような形で彼女の人生が終える事になるなど、誰が予想出来ようか。余りに突然過ぎる出来事は、彼等を現実から遠ざけた。現実感のない感覚を、味わっている二人は目の前で動かないココットの遺体を見て、涙を流すしか出来ない――

 

パァンッ

 

その時だった。一回の銃弾の音が聞こえたのは。その銃弾は、死んだココットの遺体の側頭部を撃ち抜いた。まるで、追い討ちを掛けるかのように……。

涙を流していたアレンはその方向を見る。そこにはココットを殺した張本人、エファンの姿があった。

「シンギュラルタイプの人間の感覚が完全に潰えた。呆気なかったな。」

そう言って、エファンは更に銃口をココットの遺体に向けた。だが、この間にもアレンは手を離す事はない。彼女を殺した張本人であるエファンに対し、眼を濡らし、睨む。

「アレン・レインド。そのように感情を剝き出しにする男がガンダムに乗って戦うとはな。愚かの極みというべきか。所詮失われたのは一つの命。まあ、お前にとってはそれがどんなものかは、大方予想は付くが。」

エファンは平然としていた。最愛の人の遺体に追い討ちを掛ける為に頭部を撃ち抜き、余計に惨い姿へ変えるこの男……眼前でココットの遺体を傷つけられたアレンの怒りが収まる筈がない。

しかしエファンは彼の怒りを余所に、語り続ける。

「命の価値は人それぞれだ。この女も、お前にとって赤の他人ならば何も感じなかっただろうにな。だが、それが、人と言う存在だ。今回起きたのは、只の悲劇。悲哀。お前にとってのな。ただ、この出来事は私には、必要な事ではあるがな――」

「うるさい黙れぇ!!!」

エファンの言葉を遮り、遂に、アレンは悲しみを超え、怒った。怒りを露にしたアレンは銃を構え、エファンに向けて銃を連射した。しかし、エファンは何度も銃弾を浴びているのにも関わらず、たじろぐ様子を、全く見せない。

「お前が!お前が、ココットを!!!ココットをぉぉぉ!!!」

目の前でココットの遺体に銃弾を放たれては、彼が怒らない筈がない。ジャンヌもエファンの行動に怒りを感じており、アレンを止める事はしなかった。

しかしいくら彼が銃を撃っても、エファンは倒れない。というのも、忌むべきこの男は全身に防弾仕様のアーマーを着用しているからだった。

やがてアレンは銃弾が空になるまで銃を撃ち続け、銃の弾が切れてしまった。

「やはり、怒りは人を狂わせるな。死んだ女も哀れだな。力さえ持たなければこのような末路を迎えずに済んだのにな。」

煽るように発言するエファン。しかし、この言葉がアレンの怒りを更に引き出させていく。

「お前の勝手な考えで、なんでココットが殺されなきゃならない!?勝手な理屈ばかり述べて!ココットを殺して良い事に繋がる筈がないだろうがぁ!!!」

許せない。最愛の人を殺され、その遺体の頭部を更に撃ち抜くという追い討ち。ここまでされ、アレンは怒る以外に選択肢がある筈がない。この男は、倒さなければ。絶対に、確実に。

「良いものを見せてくれた。これがお前の言っていた、人間劇か、エファン・ドゥーリア。」

その時、更にその場に現れたのはエレグだ。ココットの死によるアレンの発狂が、エファンの言う、〝人間劇〟だったのである。先の光景を見て感心している様子のエレグに対し、エファンは言った。

「愛する者との死別……こうした人間関係というのは、非常に考えさせられますね。人間とは、本当に興味深い存在。私が貴方に関心を抱いたのは、私と価値観が似ているからなのかも知れない。」

「互いに良き友であれた事は光栄だよ。エファン。人間の存在を考える者同士故にな。」

この悲惨な状況にも関わらず奇妙な友情を語るエファンとエレグ。この異常さが、どこか恐怖にさえ感じられるのだ。それも、エファンがココットを殺害した張本人であるのにも関わらず、まるで第三者の視点からの如き口調で語っているのだ。

「さて、私としても美しい光景を見せる事が出来て満足です。それでは、この男にもう用はない。消えて貰おう。」

 

ジャキンッ

 

そしてエファンは銃を構えた。怒り狂っているアレンはこの男の構える銃が見えていない。ジャンヌはアレンを止めようとするが、エファンを殺そうとするアレンに聞こえる筈がなかった――

 

パァンッ

 

エファンが銃を発砲する前に、更に後方で銃声が鳴った。その銃声が聞こえた直後、エファンの左手は血を流していた。

「ん……?」

彼を撃ったのはアレンではない。銃弾は切れていた為、彼にはエファンを撃てない。では、誰だ。

エファンが視線を送る先に居たのは、赤い血で染まってしまっているウィリアだった。腹部に機関銃弾の雨を浴びたにも関わらず、彼女は生きていた。右足を引きずるように動きながら、動きながら、ウィリアは銃を構えており、アレンに言った。

「アレン……逃げ……なさい……早く……!」

「ウィリアさん!?」

重傷のウィリアだが、彼女はその状態にも関わらず、二人に対して言った。

「早く!ココットさんの分も貴方達は生きなさい!ここで無駄死にする気なの!?貴方達は必要なんでしょう!!!今後の為にっ!!!」

血に塗れているのウィリアを見て、思わず彼は目を逸らした。ジャンヌはアレンに急いで脱出するように言う。

 この時、せめてココットの遺体を回収したいと思っていたアレンだったが、今はそのような余裕等ない。頭部と胸部が赤く染まったココットの遺体をここに残し、彼等はやむを得ず脱出する事を決意したのだった。

「ほぅ、邪魔をしてくれたな女……お前からは何も感じない。所詮はオールドタイプか……フン……」

左手から流れる血を見て、苛立つ様子を見せるエファン。一方のウィリアはもう、いつ倒れてもおかしくない程の血液を全身から流している。まさに、瀕死の状態だった。

「だが、お前に構ってなどいられるか……奴等を逃す訳には行かんのでな……!」

そう言ってエファンはこの場から去った。 

だがこの時、ウィリアは追撃の為に銃を撃たなかった。何故ならば、彼女の本命が眼前にいた為である。

「事前に着込んでいた防弾アーマーが役に立った……わね……さて……お前だけは殺すわ……エレグ……」

ほぼ全身を撃たれても彼女が立てた理由……それは防弾アーマーによるものだった。それでも痛みを感じる事に変わりは無いのだが、全く立てない程の怪我と言う訳ではなかったのである。彼女の執念が、そうさせるのだろう。

「やれやれ、死に損ないが!」

車椅子上というハンディを背負いながらも怪我一つしていないエレグと、全身から血を流しているウィリア。だが痛みが伴っている分、ウィリアの方が不利である。幸いとすれば、グァンのような危険人物がこの場にいないという事だろうか。

「……これで決める……お前を殺すわ……!」

そう言って、ウィリアが取り出した“もの”。手掌で覆えるようなサイズのそれを持ち出し、ウィリアは残る力を振り絞り、動き出す。

「ボロボロな身体でご苦労な事だ!」

彼女自身の意識は薄れている。その中で、目の前の闇を倒さんと、行動する。彼女の全力の行動が、今行われようとしている。

 

パァンッ、パァンッ

 

ウィリアはエレグの車椅子に対して銃を連射したのだ。その車輪を止める事が出来れば、エレグの動きを止められると考えたのだろう。

 

キィンッ

 

だが、それは徒労に終わった。男の車椅子は対銃弾処置を施されており、並の攻撃を受けない。足止めを行おうにも、無意味なのだ。

 ならばとエレグの胴体に向けて銃を放つ。この時、二発。車椅子を駆使し、咄嗟に回避運動を取る、エレグ。男にとって車椅子は足同然。動きを行う等、容易いのだ。

「終わりだ!」

エレグの攻撃が行われる。車椅子に搭載している機関銃が放たれる。

 

カチッ

 

「何ぃ!?」

何故?何故、機関銃が発射されない?撃ったとすればウィリアを狙った時だけ。弾は十分にあった筈。エレグはこの時、初めて焦りの色を見せた。

そして、この焦りこそ、ウィリアにとって絶好の好機と言えたのだ。精一杯の力を振り絞り、痛みに耐え、エレグに接近していく。右手に持っている、“もの”をエレグに対して投げた。

それは、車椅子に当たった時、粘着物質が展開された。やがて装着したそれは、赤色ランプの点滅を開始したのである。それと同時にウィリアは出来るだけエレグから距離を置こうと、全力で走り去ろうとしていた。

「お前の、負けよ……一発の銃弾が機関銃の機能を壊した……そして、それももうすぐ機能する……車椅子を足にしていた事が……仇となったわね……」

「お……前……まさか……!?や……めろ……!!!」

エレグにとって嫌な予感が過ぎった。間違いない、これは危険なものだ。本能でそれを感じ取った。反社会組織、氷河族のボスである男の第六感がそう告げている。離れなければ、死ぬ――と。

 だが、逃げられない。半身不随であるエレグは車椅子を捨てるという選択を出来ないのだ。車椅子から離れるのに時間を要す。瞬間的に動ければ良いのだが、きちんとした手順を踏むのに常人の何倍もの時間を要す。

 普段の生活ならばそれで良かった。だが今は敵と交戦している非常時。非常時に、基本動作に時間を要す事、それはつまり――

 

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ

 

死を、意味するのだ。ウィリアによって装着したものの正体は、爆弾であった。

その火力は凄まじく、距離を置いた筈のウィリアですら爆風によって身体が飛ぶ程だ。 そして、この爆弾を間近で受けていたエレグの身体はどうなったのか。当然ながら、バラバラになっていた。彼の肉片が倉庫内に飛び散り、赤色に染まっていた。車椅子自体の構造は対弾構造になっており、爆弾の影響を受けなかったのだが、彼の身体があった部分は赤い肉塊のみが残っている状態だったのである。

 氷河族の首魁、エレグ・スウィードはこの瞬間、ウィリアによって倒されたのだ。皮肉にも、男の生活を支える車椅子は無傷であったのに対し、肝心の男の姿は原型を留めていない。

人の姿に拘った男は人を操り、巨大な組織を作り出した。しかしその一方で多くの人間を不幸にし続けた。多くの人間の不幸の果てが莫大な資産を築き上げた。男の野望は国を作り、やがて世界を裏から支配する事だった。その大いなる野望は、復讐者であったウィリア・ラーゲンによって阻止されたのであった。

「やった……遂にやった……あいつを……倒したんだ……はは……あはは……」

忌むべき敵、エレグ・スウィードをこの手で殺害したウィリア。彼女は満足そうに天井を見上げ、これまでにエレグによって犠牲になってきた者達を思い出し、涙を流した。

「敵……討ったよ……ゲーン、ギィル……もう、これで思い残すことはないよ……」

戦後発足した反社会組織の元締めであり、黒幕である男は死んだ。この瞬間、氷河族と言う組織やバンディットは機能を失う事になるが、その情報が広がる事は当分先となるだろう。

 

パァンッ

 

次の瞬間、天井を見上げて笑っていたウィリアを銃弾が襲った。その銃弾は側頭部から脳を貫いており、彼女は頭から血を流して倒れ、意識が、次第に失われていく。

 彼女を撃ったのはグァンだった。エレグが殺された事で怒りを感じたグァンは、躊躇う事無く、ウィリアに対して銃弾を浴びせたのである。

 

(あぁ……私、死んじゃうんだ……レイ君、ごめんなさい……駄目だった、私……)

 

消えていく意識の中で、最期にレイが言った言葉を思い出す、ウィリア。

 

――――――――――――ウィリアさんだって居て欲しいんです―――――――――――

 

だが、その言葉が叶う事はなかったのだった。

ウィリア・ラーゲン。弟を殺され、その仇を討つ為に氷河族に加わった女。あらゆる情報を集め、ギィル・オカザキと結託してノード・ベルンの殺害に成功。だがその事が機となり、連帯責任としてアルン達がグァンに追われ、やがて殺されていった。その中でも、彼女は生き続けた。せめて、恩人たちの為に……と。

 しかしその最期はあまりに呆気のないものだった。一度は死んでもおかしくないと思われた彼女。だが、レイが彼女を助けた。そこから氷河族に追われているメンバー達の事を知り、再び氷河族を倒さなければならないと思った彼女は、その機会を待った。 

やがてセイントバードチームはFPBに加わり、その際に連れ去られたジャンヌの救出の為に動いた。氷河族と言う組織そのものへの復讐を果たす為に。

 しかし彼女は決戦の地、クレーディト社内において、今、エレグ直属のパニッシャーであるグァン・ホーキーズによってその命を終える事になったのである。彼女の弟を直接殺した男は、今度はその姉にも手を掛けたのだ。

「死に損ないの赤グロ糞虫がボスを殺しやがった!ボスぅ!ボスゥゥゥゥゥ!!!」

その言葉に、ウィリアに対する愛情は一切無い。躊躇なく彼女を殺めた狂気の男の台詞だけだ。

「糞がぁぁぁぁぁ!どいつも、こいつもォォォォォ!!!気持ち悪い姿見せてんじゃねぇよォォォォォ!!!」

苛立った男はあろう事か、この部屋に存在している遺体に向け、所持していた銃を連射し始めたのである。何発も、何発も。

ココットの遺体や、ウィリアの遺体、そして、エレグの肉片。自暴自棄とも言える行動だ。原型を留めている遺体に対しては、頭部は勿論、腹部や下腿部等も延々と撃ち続けた。

最早、この行動そのものが異常だ。すでに死んでいる遺体に対して容赦なく銃弾を撃つこの男の奇行。それが、グァン・ホーキーズという男なのだ。

「ハー、ハー、糞がっ!糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞ォ!」

銃弾が放たれ、倉庫内に金属音があらゆる箇所に響く。無意味な行動は更にエスカレートしていく。

やがて、弾は切れた。その間も引き金を引き続ける、グァン。狂気の行動は、止まらない。

男の崇拝する存在は死んだ。それがこの男を狂気に駆り立てる。元々狂っている男は更に暴れ、非合理的な無意味な行動を取っている。何の為に?己が満足する為に?

その際、男が見たのはウィリアの遺体だった。血化粧によって赤く彩られている、麗しかった女性。もう、それは決して動く事はない。見開かれたその眼は何を見ているのだろうか。

「ウィリア〜本当にお前は残念だったよなぁ〜。せめて、お前だけは後で綺麗に洗って持って帰ってやるからな〜。ボスは身体が飛んでいっちまったしなぁ〜。」

と、言った後。突如グァンはウィリアの遺体を、突然背負いはじめた。この男の意図は全く不明な上、掴めない。男の目的は一体?ただ、この男は間違いなく狂気に包まれている。でなければ、このような行動などする筈がないのだ。

 これから男は何をするのか、それは分からない。血生臭い死体だらけの部屋からウィリアの死体だけを運び出すグァンは、ただ、行動するばかりなのだった。

 

 

 

 アレンとジャンヌはクレーディト社から脱出した。亡きココットを置いていき、そのまま両者は走っていく。しかし、後方からはエファンが迫ってきていた。左手から血を流しながら、二人を殺さんと、男は迫っていく。

「逃さんぞ。」

不敵の笑みを浮かべるエファン。このまま両者に接近するかと思われたが――

 

グォンッ

 

そこへ、一機のヴァントガンダムが立ち塞がった。ジャンヌの存在を確認したFPBの兵士がエファンの邪魔をせんと、立ち塞がったのである。

「ジャンヌ様!ご無事で!ここは私が食い止めます!」

兵士の声を聞いた両者は彼の存在に感謝しつつ、移動する。

今、FPBと氷河族の構成員が戦闘している。だがFPBの攻撃が功を成し、敵戦力は最早風前の灯火とも言える状態と言えたのだ。

「やれやれ、面倒だな。仕方がない、あの二人はまたの機会にしよう。マスドライバーを使い、先に軍と合流をするか。」

目の前にいるヴァントガンダムを見て、諦める様子のエファン。その間も、ヴァントガンダムは、そのデュアルアイでエファンの方を睨んでいる。ジャンヌに迫った敵と、認識しているのだ。

「その前に、その“やる気”を損なって貰わねばな。」

 

――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――

 

その時、エファンから碧色の光が放たれた。本来ならば生命を守る為の光である、イズゥムルートが発現したのである。この男は意図的にその力を発動させる事が出来る。その対象は、目の前で自らを睨み付けているヴァントガンダムだったのだ。

パイロットは次第にその気力を失っていく。碧色の光は人の戦意を失わせる効果がある。エファンは、それを意図的に操る事が出来るのだった。

 この後、エファンはそのまま自らが操縦してきた輸送機に移動。その間、クレーディト社が戦闘に巻き込まれる事は、なかったのである。そして、先にマスドライバーを使い、大気圏を離脱したのであった。

 

 

 

 雪降る環境の中、アルバトスへ向かっているアレンとジャンヌ。だが、アレンの表情は険しいままだ。無理もない。目の前で最愛の人を殺され、彼は意気消沈しているのだ。どうすれば良いか、分からないでいるのだ。

(アレン……)

側にいるジャンヌは本来ならば救出の対象だ。だが、予期せぬ出来事が起きた。それこそ、ココットの死である。更に、バンディットの師とも呼べる存在のウィリアも殺されている。

 ウィリアが戻ってこない様子から、恐らく彼女はもう、殺されたのだろうと察するアレン。彼は今、二重の意味で苦悩を味わっているのだった。

 ジャンヌは助かった。その代わりに最愛の人と恩師と呼べる存在を失ったアレン。彼の表情から、笑顔が消えた。もう、どのように他者と接すれば良いか分からないで居たのである。

 

その後、彼等はアルバトスへ戻った。ジャンヌの存在を確認したミシェ達が、MSデッキにて祝福しようとするが、両者の様子のおかしさに気付く、特に、アレンの表情は明らかに険しく、ただ事ではないのは皆が察している様子だった。

「と、とにかくブリッジへ向かいましょうぜ、ジャンヌ嬢。」

と、ミシェが気を利かすように言った。

「ええ、分かりましたわ。」

ジャンヌは、今は落ち込んでいる場合ではない事は分かっていた。しかしココット・メルリーゼの死は彼等に大きな衝撃を与えたのである。だが、ジャンヌの心境はまだ、揺れているばかり。

アレンに至っては、平然を装うとすらしていない。彼の異様な雰囲気に、整備士達は誰もがアレンから離れた。

「エファン・ドゥーリア……!!!許さない……殺してやる……あいつだけは……!」

エファンに対する憎しみに満ちているアレン。〝殺してやる〟という言葉自体彼から聞かれる言葉ではなかった為に、その怒りがどれ程なのかが、誰にも分かった。

(やばそうだな、ありゃ……)

傍に居たミシェは一人、静かに思った。

 

 

 

ジャンヌがブリッジに戻って来て、クルーは歓喜していた。しかしジャンヌの表情は険しく、それを見たクルー達は黙ってしまう。明らかに、クレーディト社内で何かがあったという事は、彼女の表情から伺えるのだ。

 

ピピピピピピピピピピピピ

 

その時、アルバトスのブリッジに通信が入った。回線を開くと、そこにいたのはギア・ジェッパーだった。彼の指揮するシュネルギアはデスゲイズの強襲に遭ったが、幸いにも彼等は宇宙へ向かう事が出来たのである。

「無事のようだね、ジャンヌ嬢。救出作戦は成功とみて良いのかな。」

ギアの言葉に対し、ジャンヌは平静を装い、答えた。

「ええ。皆様には本当に感謝をしています。ですが、今は時間も惜しい状況です。」

彼女の中にはココットの死の衝撃が残っている。しかし今はそれを悲しんでいる場合ではないと思っていたジャンヌ。

「ジャンヌ嬢が救われて良かったのだが……今、世界中で厄介な事が起きている。宇宙へ行く為のマスドライバーがある男によって次々と破壊されている。早く活動しなければマスドライバーが壊滅させられてしまう可能性がある。出来れば急いで欲しい。そして、宇宙で再び合流しよう。」

「分かりましたわ。」

それからすぐに、ギアの通信が切れた。ギアの言う事は大切な事だ。故に、すぐに動かなければならない。

「皆さん、急ぎましょう。あのマスドライバーは恐らく使える筈ですわ。」

ジャンヌが言っている。だが彼女の心境は立ち直ることが出来ていない。だがそれでも、シュネルギアの艦長である彼女は、動かなければならないのだ。

 

ウィィィン

 

その時、ブリッジのドアが開いた。アレンが入って来たのである。その瞬間、誰もが彼が入ってきたドアに着目した。

 アレンの目は怒りに満ちていた。それはココットを殺したエファンに対する憎悪であろう。だが彼の表情は平静を保とうと、努力をしていたのだ。しかし、彼から発せられる異様な怒りや悲しみに満ちた感情は、隠し切れるものとは言えなかったのだ。

「アレン君……何か、あったの?」

エリィがアレンに声を掛けようとした時――

「ココットが、殺されました。」

「え――」

その一言は、ブリッジ内のクルーに大きな衝撃を与えた。何を言っているのかと、疑問を抱く者も、中には居た。

「そんな……嘘……」

エリィは口元を覆い、ショックを隠し切れない様子だった。

「本当です。この目で、見ました。」

この時、誰もがアレンが感情を押し殺しているのは分かっていた。ココットという、最愛の人を殺された憎しみ。皆が、アレンからそれを感じ取っていたのだ。

「正直こんな事になるなんて……思ってませんでしたよ。ココットだけじゃない、ウィリアさんも戻らない……恐らくは……」

「まさか、彼女も死んだのか……?」

ネルソンがアレンに聞いた。

「はい……」

「……」

アレン達はウィリアの死を直接見た訳ではない。だが、一向に戻ってくる気配のない彼女の様子から、殺された可能性が高い事を察した。

それを受け入れたくないと思ったネルソンは、念の為彼女に連絡を取ろうとEフォンで電話を掛ける。しかし――

「繋がらんな……何度掛けても無駄だ……認めたくなかったのだが……クッ……」

「ウィリアさんまで……こんな……」

エリィ達を動かすきっかけとなったウィリアが死んだという事実は、彼等を余計に悲しませる事になる。

バンディットとして戦後、活躍をし、アルン・ティーンズの率いる氷河族にも所属しなが

ら活動を続けた彼女。様々な人間に影響を及ぼした彼女はグァンによって殺された。しかし、実際に直接殺された様子を見た者はこの中にはいない。

「……馬鹿野郎が……」

ブリッジ内に居たミシェは歯を食い縛り、俯きながら静かに言った。

「ミシェさん、仕方が無いです……こうなる事も予想出来またよ。だから、覚悟はしておく必要があった。動揺する気持ちは、痛い程分かります。」

ネルソンはミシェを慰めるも、本人も暗い表情だった。

「エリィさん、早く宇宙へ上がりましょう。ギア・ジェッパー氏を待たせては駄目ですよ。」

その時、アレンが言った。彼の発言は明らかにエリィに対して宇宙へ急かさせるものだった。

この時、エリィはアレンからプレッシャーを感じていた。怒りに満ちているアレンの発言はどこか恐ろしく、そして悲しかった。一刻も早く宇宙へ行き、ココットを殺した男……エファンを殺したい一心で、エリィに宇宙へ行くように勧める。

 だがクルー達も心の整理が出来ていない状況だ。それなのに早く進めるのは無理があるという者だ。

「アレン、落ち着かないか。慌てる気持ちは分かる。しかしクルーの事も考えろ。いきなりここにいたクルーが二名も死んだ。誰だって動揺する。気持ちの整理を付ける事は大切だ。だから――」

ネルソンがアレンに対して説得をしようとした時――

「あいつを殺さないと駄目なんですよ!!!エファン・ドゥーリア!あいつだけは絶対に許しちゃ行けないんですよ!!!奴は先に宇宙に上がった!奴を殺さなくては!!!」

今までのアレンからは考えられない発言が、彼の口から出た。この言葉を聞いたネルソンは黙ってしまう。

「……すいません……俺とした事が……クッ……」

「……厄介な状況だな……ジャンヌ・アステル嬢を救出したかと思ったら……こんな出来事が起こるのだからな……」

 

ピピピピピピピピピピピピ

 

アレンとネルソンが会話をしている最中、再び通信が入った。それを受信するインク。そこでモニターに映し出された映像には、ジンク・アステルが映っていたのだ。

「ジャンヌ、無事のようだな。ギアから聞いている。ご苦労だったな。」

ジンクは氷河族の人質となっている状況だった。だが、この場でジャンヌ達とモニターを繋げることが出来るという事は、彼は無事だったという事が明らかとなったのだ。

「それと、氷河族の人間が敷地内に居るという情報が入ってな。警備兵が捕らえた。心配はもう、不要だ。」

「お父様……」

肉親の存在は彼女を安心させた。今のジャンヌにとって、ジンクのその厳かな顔貌は心の支えとなっている。

 ジャンヌにとって近しい存在であった、ターナとココット。この両者は、あろう事か同一犯によって殺害された。その犯人は、かつて側近だった男、エファン・ドゥーリア。母の死を経験したジャンヌ。その上での友人までもが殺されるという、絶望的な状況を経験した彼女。だが今は、それに対して悲しんでいられない。今は一刻も早く宇宙に上がり、ギア達と合流しなければならないのだ。

「ジャンヌ、様々な事があったとは思う。だが今は立ち止まっている場合ではない。お前は行かなければならない。検討を、祈っている……」

モニターが切れた。ジンクからの言葉は比較的淡々としている内容ではあったのだが、今のジャンヌには大きく揺さぶられる言葉と言えた。

 ジンクの存在はジャンヌの支えの一つとなっている。母、ターナを失い、一度は絶望の淵に追い遣られたジャンヌだったが、その際にも彼女は戦う為に行動した。今回の悲劇も悲しきものである事に変わりは無いのだが、進まなければならないのは、事実。ならば進もう。宇宙へ――

「皆さん、アレンの言うように、私達はここで立ち止まる訳には行きません。参りましょう、宇宙へ。エリィさん、指示を。」

悲しみを内に秘め、ジャンヌが言った。その際の表情は、険しい。

一方のエリィも、落ち込んでいられないと思い、密かに溢れ出そうになっていた涙を指で拭い、クルーに対して指示を出した。

「アルバトス、マスドライバーに装着!」

「了解!」

今は宇宙へ向かわなくては行けないという、その使命感が彼等を動かした。いや、動かなければならなかったのだ。

 

 

 やがて、遂にアルバトスはマスドライバーへ向かう。皮肉にもジャンヌを連れ去り、結果的に二人の命を奪ったエレグが残したマスドライバーで宇宙へ上がる準備をするアルバトス。クルー達は複雑な心境の中、混迷の宇宙へ向かう。

「全員パイロットスーツは着用しているな?」

一人のクルーが確認の為に言った。それは整備士やパイロットだけでなく、エレン等の一般人にも確認をとっている。

「マスドライバーのレールに接続、確認!」

「アルバトス、いつでも発進出来ます!」

「よし……アルバトス、宇宙へ!」

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 

アルバトスはマスドライバーのレールの上を高速で移動し、そのまま宇宙に向けて移動した。ジャンヌを取り戻した彼等はギアと合流すべく、新たなる戦いの地、宇宙へ向かった。この、雪が深々と降り積もる地に、ココット・メルリーゼ、ウィリア・ラーゲンという犠牲者を残して。

 

 

 

 アルバトスが宇宙へ向かった後、グァンがウィリアの遺体を担いで地上に現れた。その直後、グァンは遺体を放り投げるように雪上に置いた。目が見開かれた遺体は、痛々しく赤く彩られている。その為、グァン自身の衣装も赤く染まっていたのだった。

「クソ重てぇ。人間って筋肉が働かないと重いからなー。うーん、マグロ拾いって大変そうだなぁー。給料は良いらしいけど。」

そのような言葉を気楽に言うグァン。この台詞から、この男が如何に下劣な存在であるかが分かる。

 

ギュオオオオオ

 

その時、グァンの耳にバーニアの音が聞こえてきた。それと同時に風が靡く。何事かと思い、その方向を見るグァンの目に映ったもの、それは――

「MS?なんでこんなとこに?にしてもなんだこいつ、見たことねーなこれ。」

MSだった。ファドゥームと比較すると一回り大きな機体であるその機体は全身が黒く輝いていた。やがてコクピットから一人のパイロットが姿を現す。

「マスドライバーみーっけ。でも誰も居なさそうだからちょっち休憩ー……ん?」

独特の口調で喋るパイロット……それはメイド・ヘヴンだった。つまり、グァンが見たこのMSはデスゲイズと言う事になる。

 彼はグァンの姿を見た。同時にグァンもメイドの姿を見る。彼は、グァンにじいと見られる事に対して不快感を抱いていた。

(何あいつガン見してんの?気持ち悪い。訴訟。)

メイドはグァンを無視し、そのままコクピットから降りる。それを見ていたグァンは、ウィリアの遺体を雪上に乱暴に置き始めた。遺体内にあった血が白い雪を赤く彩り、惨い光景を作り出している。

 

パァンッ

 

その時、グァンはメイドに向けて発砲した。その弾はメイドには当たらなかったが、撃たれたことによってメイドは苛立っている様子を見せた。

「お前、何なんよ。何も知らん奴に殺される覚え、ねーんだけど?」

「てめぇは知らなくても良いからな。今は亡きボスにお前を殺す事、任されてるからな!」

と、今度はメイドがグァンの銃に目掛けて発砲した。的確な射撃で、グァンの手にあった銃は雪の上に落ちた。

「うぐっ……!」

突然の衝撃にグァンはやや、動揺している様子だった。

「ボスっつーのは氷河族のボスか?奴さん死んだンかよ。」

事情を知らないメイドはグァンの言葉から、エレグが死んだ事を知った。本来ならばこうした内容は極秘なのだが、ボスを殺された動揺から、男はつい、口を開いてしまったのである。

「てめぇ!軽々と死んだとか抜かしてんじゃねぇぞ!」

怒るグァン。だがそれに対し、眉を潜め、メイドは言った。

「つーか名前名乗れや。クッソだせぇハット帽なんか被りやがってよォ。」

メイドの言葉に軽く苛立ちを覚えつつも、グァンは言った。

「グァン・ホーキーズだ!お前、メイド・ヘヴンだろ!同じ氷河族のパニッシャーだろ!?だから撃ってやったんだぜ!あと、お前はアルンの所の所属だったよなぁ!?」

グァンはエレグから得た情報を全て把握している。この男のリサーチ力は相当なもので、それ程にボス、エレグを信用している事が分かる。

「俺はとっくにこんな組織辞めたんだよなぁ。てめぇ、何過去の情報言ってんの?」

メイドが言った後、グァンが笑みを浮かべ、言った。

「過去もクソもないからな!お前等殺すようにボスから命令されてたからな!この際だ、亡きボスの意思は継ぐ!ついでに殺してやるからな!」

そう言って、グァンは予備の銃を構えてメイドに向けて撃とうとした時だった――

 

パァンッ

 

先にメイドがグァンに対して発砲した。しかしグァンは倒れる様子を見せない。防弾アーマーを着用していたである。

「無駄!死ねメイド・ヘヴン!」

グァンが銃を構え、発砲しようとした時――

「はい、ストーップ。」

「は?」

急にメイドに言われ、グァンは銃の手を止めた。

「お前の後ろの赤い死体、何の死体?教えて、エロい人!」

「は?意味分かんねーけど……俺が殺した、女の死体だよ。それが何か?」

「誰の?」

メイドは淡々と述べた。

「お前の仲間だよ!ウィリア・ラーゲン!こいつを殺してやったのさ!こいつぁ元々凄い美人だった癖にさぁ、今じゃ赤い血まみれの糞虫だぜぇ!?でもしっかり洗えばまだ“使える”から、利用させて貰うからな!」

この言葉の意図は不明だが、明らかに何か不吉な事に使われるのは間違いない。既にこの世に居ない、“人間だった”存在を邪険に扱おうとしているこの男は明らかに常軌を逸している。

「てめぇのところのメンバーは殆ど殺させて貰ったからな!ヒャハハハハハ!」

エレグから命じられている、アルン・ティーンズ率いる氷河族のメンバーの抹殺。彼はそれを、あらゆる手段を用いて殺してきた。その中には無抵抗な人間や、何も出来ずに死んだ者もいる。多少抵抗した人間もいたが、叶わずに殺される事もあった。

「つーかウィリアの奴生きてたのかよ?」

メイドからすれば驚愕の事実だ。オスロのオークション会場で彼女の死を見届けた筈。実はウィリアが生きていたという事を、彼は今、知ったのだ。

「生きてたも何も、さっき俺が殺してやったけどな!今やこいつぁグロ糞虫!でも洗えば利用出来る!」

“利用”。その言葉の意図は不明だが、メイドの眉が僅かに動いたのが、この時確認出来た。

「へぇ、お前そういう趣味があんのかよ。つーかてめー、あの組織に所属していた奴を殺したって言うけどさ、子供とかいたろー?あいつらも殺したのか?」

グァンは大笑いをし、上を向きながら言った。

「あーっはっは!そうだぜ!何せ、ボスが命令したんだ!特にミルフっていうメスガキは結構楽しめたぜ?麻薬漬けにして、犯しまくってやったからな!精神崩壊してよォ!楽しかったよなぁー!ヒャハハハハハ!」

アルン・ティーンズ率いる氷河族のメンバーの抹殺を目的とはいえ、余りに外道な行動を行うグァン。そして、それを堂々と語るのだ。まるで自らの反人道行為を武勇伝であるかの如く。

 高笑いするグァン。しかしメイドはそれを見た時、突如彼以上に大声で言い出した。その際、目を見開かせ、口元を大きく開け、グァンを見下すように言った。

 

「俺さぁ、お前みたいな外道超大好きぃ!」

 

「は……?」

戸惑う様子のグァン。だが構う事なく、引き続きメイドは語る。

「だってさぁ、外道には感情込めて遠慮なく殺せるモンなぁ?人間感情込めて人殺しした時の爽快感は尋常じゃねぇんだぜェェェェェ!?ハッハッハー!」

「チッ、ざけんなよ!」

 

パァンッ

 

次の瞬間、グァンは先にメイド目掛けて銃を放ったが、彼はすぐに回避した。そして、メイドは銃をグァンの眉間に向けて発砲した。それを察知したグァンは素早く避け、メイドに向けて銃を向けようとした時、メイドは持参していたクローワイヤーをコクピットに向けて発射した。そして、彼はデスゲイズのコクピットに乗り込む。

「逃げる気かよ!」

グァンがコクピットに向けて発砲しようとした時、メイドが素早くグァンの右腕に向けて発砲した。その銃弾はグァンに直撃する。腕からは血が流れるが、致命傷には至っていない。

「ぐっ……チィッ!あんな奴に!MS探してあいつとバトルしねぇと……」

慌ててグァンはMSのあるとされる格納庫まで走り去ろうとした――その時だった。

 

ビゴォン

 

デスゲイズのモノアイが怪しく輝く音が聞こえた。その音を聞いたグァンは振り向く。

「嘘……ちょっ、早過ぎ……」

デスゲイズはグァンに向けて二連装ビームキャノンを放とうとしていたのだ。それを見て、慌てたグァンは偶然にも傍に落ちていた拡声器を拾い、メイドに対して言った。

「ちょっと待て!さ、流石に人間相手にMSはねーだろ!?ここは正々堂々とMSで戦わねーか?なあ、ちょっとぐらい待ってくれよ!」

すると、メイドはグァンに対して言った。

「3分間待ってやる!」

そう言って、デスゲイズを動かさなかった。グァンはその隙にファドゥームを探す為に、近くにあるとされる格納庫へ向かっていく。

(馬鹿が!まさか言う事を聞くとはな!どんだけアホなんだよあいつ!噂程でもない!どんな機体であれコクピットを狙えば殺せる!丁度いい、MS戦は久しぶりだからな、覚悟しやがれメイド・ヘヴン!)

得意気な顔でグァンは格納庫へ向かって走った――

 

ドォンッ

 

「!?」

突如、グァンの右大腿部に穴が開き、夥しい量の血液が溢れ出た。突然の出来事に、彼は倒れてしまう。

何が起きたのかと、デスゲイズのいる方向を確認するグァン。

「マジ……!?クソッタレ……!」

そこには、スナイパーライフルを持ったメイドの姿があった。彼はコクピットハッチを開け、グァンの右大腿部を狙い撃ちしていたのだ。

「外道狩りは楽しいよなぁー!?それに、俺は兄者と違ってよく嘘を吐く!残念でした!」

そう言って、再びメイドはライフルのスコープを覗き――

 

ドォンッ

 

またしてもメイドはグァンを狙い撃った。今度は左大腿部だ。この調子で、身動きの取れなくなったグァンをメイドは容赦なくスナイパーライフルで撃つ。だが、彼は決して頭部を撃たない。まるで急所をわざと外しているかのように。

「クッ……ソ……あんな……野郎に……!」

雪上を這いつくばり、辛うじて動く左手で体を動かそうとするグァン。メイドの所持していたスナイパーライフルで撃ち抜かれ、身動きが取れないで居たのだ。

 

ゴォォ

 

 しかしその時だった。グァンの周辺を黒い影が覆ったのは。それはデスゲイズが飛び立った影であり、その異変に気付いたグァンは空を見た。

「ひぃっ!?や、止めろ……止めろォー!!!」

彼が見たもの……それは怪しく赤く輝くデスゲイズのモノアイだった。そして――

 

バシュゥッ

バシュゥッ

バシュゥッ

 

「うわああああああああああああぁぁぁ……」

 

デスゲイズは前腕部の二連装ビームキャノンをグァン目掛けて発射した。一発だけではない。何発も、何発も撃ったのだ。当然グァンは最初の一撃でビーム砲撃を浴び、その時点でグァンは蒸発して即死なのだがメイドは止めようとはしない。

「事前に粒子を補給しといて良かったぜェ。にしても、なんか足んねえよな。」

 

ギュルルルルル

 

更にデスゲイズは有線式ビームサーベルをグァンのいた場所に目掛けて展開した。全てその位置に直撃した事を確認すると、次は留めと言わんばかりに腹部のビームカノンを放出しようとしていた。エネルギーが吸収され、デスゲイズは腹部ビームカノンをグァンがいた場所に目掛けて放出した。

その出力は凄まじく、周辺の雪が一瞬で融解してしまい、そこは荒れ地となり果ててしまった。やがてグァンは跡形もなくなった。しかしそれと同様に、ウィリアの遺体も跡形もなくなってしまった。

「ウィリアー、今度こそ、成仏しなよ。なんかつまんなかった。仕事しよ。」

デスゲイズを使い、殺人鬼グァン・ホーキーズを跡形もなく消し去ったメイド。しかしその時彼は笑っていなかった。ただ、彼は静かに溜息を吐いた。

 グァン・ホーキーズ。ノード・ベルンが殺された後にエレグ直属のパニッシャーとしてアルン率いるメンバーの殺害に乗り出した、残虐な男。メンバーを始め、多くの人間を巻き込んだこの男の最期は、デスゲイズによって徹底的に叩きのめされるという末路を迎えたのだった。

 次に、デスゲイズの次のターゲットを見る。それはエレグが独自に作り出していたマスドライバーである。デスゲイズはモノアイを輝かせ、その破壊活動を開始したのだった――

 

 その後氷河族という組織は、ボス、エレグ・スウィードが死去した事により、事実上の崩壊を始めていく事になる。反社会勢力として存在してきており、戦後の世界で急速に勢力を拡大し、その影響力を高めていた存在、氷河族。それは裏社会に生きる人々のある種の希望であり、戦後の世界に於ける恐怖の象徴であった。それが今、崩壊した。トップに君臨する人間が死亡する事により、その組織と言うのは成り立たなくなる。これは、事実上、数多くの武装勢力に戦力増強を促してきた、クレーディト・メカニクス社の崩壊を意味しているのだった。

 




第八十九話、投了。
アレンに降りかかった悲劇。多くの犠牲を払いながらも、FPBは宇宙へ向かう。混迷の状況を、変えていく為にも……
そして、氷河族は事実上崩壊を迎える事になりました。一つの勢力との決着が、今回着きました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。