そして、迫って来る敵勢力にも対抗していく。宇宙での戦いが、始まる。
月面基地シン・ナンナにて。無数の新生連邦軍の基地が存在しているその場所は新生連邦軍の宇宙部隊の要となっている場所である。
地球上での国連との対決に敗れた新生連邦軍の部隊の大部分がこの基地に終結しており、それぞれの戦艦やMSが、補給を受けていたのだ。
その時、月面が大きく割れようとしていた。と言っても、何らかの衝撃によって月が割れるという意味ではない。月面の表面が割れ、中から何か巨大な物が姿を現そうとしていたのである。
「最早手段を選んでいられません。エレシュキガルを起動させて下さい。」
「宜しいのですか?」
「ええ。構いません。国連、デウス残党……それらを迎え撃つにはこれが要となるでしょう。デウス動乱後から制作し続けていた機動要塞エレシュキガル。今、それを出す時です。」
そう言うのは新生連邦総司令、レヴィー・ダイルだった。国連に敗北し、宇宙へ追い遣られた新生連邦軍は今、新たなる兵器を出現させようとしていたのである。
隣に居たのは先のデウス残党軍の強襲を受け、壊滅的な打撃を受けたシン・ナンナの司令官、フェイク・バリスタだ。基地の陥落は辛うじて免れたものの、危機的状況であることに変わりはない。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
月面の表面が割れ、そこから巨大な要塞が出現した。
機動要塞エレシュキガル。それは新生連邦がデウス動乱終結後から制作し続けていた、正八角形の形状をした決戦兵器である。この要塞から放たれる主砲は周辺のコロニーの崩壊はもちろん、仮に地球に向けられればその衝撃だけでこの世界の約1/3の人口を消滅させ、更に二次災害などが加われば目も当てられない程の犠牲者が出る程の超大型機動要塞。それが、新生連邦軍の切り札である、この、エレシュキガルなのである。
新生連邦が切り札であるこの兵器を出した。それは、新たなる戦いが始まる事を意味していた。
地球から離れた場所にて。FPBは宇宙に上がる事に成功して、既にこの時、ギアが先に宇宙へ上がっており、先行部隊と合流し、戦力の補充を行っていた。やがてその後でジャンヌ達はギアと合流。この日は、あの惨劇から三日が経過した日だった。
ここに来るまでに、彼等は尊い仲間が殺されている。特にアレンは、最愛の人であるココットを惨殺された。彼は人と会う時はその悲しみを隠すようにしているが、部屋で一人になるとココットが死ぬ際に言った言葉を思い出し、涙を流す。
――――――――――アレンの……素敵なお嫁さんに……なりたかったな―――――――――
「ココット……」
自分を守る為に犠牲になったココットの事が忘れられないアレン。彼にとっては戦後以来の久しぶりの宇宙空間だったが、その懐かしさを感じる暇等、今のアレンにはなかった。
今、アレンはシュネルギアに戻っている。ギアと合流を果たした為、アルバトスに居る必要が無い為である。
『アレン、MSデッキに来て下さい。メンテナンスをお願いします。』
「あ……ああ……分かった。」
彼の部屋に通信が入った。ジャンヌがMSデッキから彼を呼び出していたのだ。その際の彼女の口調は普段通りではあったものの、表情はどこか冷たく、悲しげであった。
MSデッキにて。整備士達がパイロット達の乗るMSの整備をしている中、アレンが姿を見せた。アレン以外の他のパイロット達は自分の機体のチェックをしていた。その中にはガーストの姿もあった。彼の傷は、完治こそしていなかったが、既に身体を動かす事が出来る程に回復していた為、彼もMSデッキに来ていたのである。ガーストの場合、所属はアルバトスにな筈だったが、アレンの事が心配だった彼はシュネルギアに来ていたのだ。
「アレン。その……大丈夫か?」
今の彼の心境を知っているガーストだったが、彼はあえてアレンに声を掛けた。
「平気。それより俺もMSのチェックを行わないと。いつ敵が来るか分からないから。」
「そ、そうだな……」
あまりに淡白な会話内容に、ガーストは困惑した。普段のアレンならばもう少し話に乗るのだが、今の彼は話に乗ろうとしない。
「ガースト」
その時、ガーストに声を掛ける人間があった。ジャンヌである。FPBの為に整備士として各々の機体の整備をしている彼女はガーストに声を掛けた。
「ジャンヌか。なんか、随分久しぶりな気もするなぁ。」
「ええ、そうですわね。それよりも、今はアレンにはあまり触れないであげて下さい。」
ガーストがアレンに接する事は決して悪い事ではないのだが、恋人がいるガーストが傷心のアレンを慰める事はまるで何かの嫌がらせのようにも捉えられるかも知れないと彼女は判断し、ジャンヌはガーストに伝えたのだ。
「今会話を終わった所だから……それにあいつがあの様子じゃこっちも喋る気起きないし。」
「そうですか。それは良かったです。」
異様に冷淡なジャンヌに、ガーストは違和感を覚えた。明らかに、表情を隠しているように見える。
「それよりも、貴方は自身のMSは破壊されたとお聞きしましたが。」
以前のダーウィンでの戦闘で彼のMSであるエスディアは破壊された。その際に重症を負ったガーストだが、辛うじて一命を取り留めた。しかし今の彼にMSはない。
「今はないな。だからせめてチームの一員として役立てるように、メカニックに専念でもしようかなって思ってるんだよ……出来れば戦場に出て戦いたかったけどな。」
搭乗する機体が無い以上は何も出来ない。彼は諦めた様子でそっと溜息を吐いた。
「ガースト、貴方に授けたい機体があります。」
「え?」
ジャンヌがMSの話をすると、ガーストは食いついたように言った。
「FPB設立の際にギア・ジェッパー代表がある程度確保していたMSである、ハイエッジです。国連軍の最新鋭機体で、ヴァントガンダムに代わって国連に配備されつつある機体ですが、それらを数機確保する事が出来ました。」
ハイエッジ。それは国連の最新鋭MSである。初陣は新生連邦本部攻略戦で登場し、ヴァントガンダムに代わって大きく活躍した機体である。ガーストはその機体の事を詳しく分かっていない。
その最新鋭機に乗らないかとジャンヌに言われ、ガーストは言った。
「どんな機体か見たい。ここにはないのか?」
「ここにはありません。アルバトスへ行く必要があります。」
「じゃあ行く。案内してくれるか。」
「ええ。」
その後、ガーストはアルバトスへ戻る為に、一度宇宙空間に出た。パイロットスーツのバックパックに備え付けられているウイング型バーニアをコントロールし、両者はアルバトスのMSデッキへ向かう。
アルバトスのMSデッキにて。ガーストはそこで国連のMSであるハイエッジの姿を見た。
現在ハイエッジはギルスがFPBに対して機体を譲渡しない様にしている為、FPBに回って来たハイエッジの数は限りなく少ない。従って、FPBの主力量産型機体はヴァントガンダムと、アステリアということになる。
このMSを見た後、ガーストは言った。
「良い機体だとは思う。でもこのままじゃ国連が襲ってきた時にこれに乗って戦うと味方に間違えられるかもしれない。というか、色そのものを変えた方が良いんじゃないか?」
「ええ、勿論です。特にガースト。貴方が望むのなら貴方専用のカラーリングに仕立て上げる事も出来ますが、いかがされますか?」
ジャンヌに聞かれ、ガーストは少し考えた様子を見せて言った。
「……ああ、頼む。」
彼に与えられた新しいMSである、ハイエッジ。彼はこの機体をどのように乗りこなすのであろうか。
「お、お前ここにいたのか。元デウスのエースさん。」
その時、パイロットスーツを着たミシェが彼等の所へやって来た。
「ミシェさん……ですよね。そういやあんまり喋ってないような……」
ミシェとガーストは然程会話をしていない。シンが殺された時にチームに加わったミシェだが、その後のセイントバードに様々な事が起こり過ぎたのである。故に、クルー同士の交流というのは少なくなっていったのだった。
「そうだな。この際覚えといてくれ。ミシェ・ジンバルドだ。」
と言って、改まった様子で彼等は握手を交わした。
「それと、ジャンヌ・アステル嬢。どうしてここに?」
ジャンヌはシュネルギアの艦長を務めるべき人間である筈なのに、彼女がここに居るという事に対してミシェは疑問を抱く。
「MS整備士の免許は私も持っていますの。貴方のお話は伺っておりますわ、ミシェ・ジンバルドさん。」
ジャンヌに名を覚えて貰っているという事は、ミシェにとって光栄だ。自然な笑みを浮かべる、ミシェ。
「世界的歌手に名前を覚えて貰えるのは光栄だねぇ。嬉しい限りだ。」
そう言ってミシェは手を差し伸べた。それを見たジャンヌは笑みを浮かべ、ミシェと握手を交わす。この時、ガースとは自分とジャンヌとでは対応に差があると言う事を痛感したガーストであった。
「で……だ。実はジャンヌ嬢の話を少し聞いていたんだが、あのMSにお前が乗るのか?」
「はい、エスディアが壊された以上はもう新しい機体に乗るしかないと思いまして。」
「そうか。」
ミシェは手を腰に当てながら言った。
「ミシェさん。その事なのですが、彼専用のカラーリングにしようと思いまして。お願いがあるのですが、手伝って頂けないでしょうか。」
カラーリング変更の為に、ジャンヌはミシェに懇願した。相手は世界的歌手という事もあり、彼は快く引き受けた。
「勿論可能だが、ちなみにお前のイメージカラーって何色だ?」
イメージカラーと言うのはパイロットにとっては非常に重要なものになる。機体への愛着や拘りがあればそのイメージカラー=本人という認識を、持って貰える為だ。所謂パーソナルカラーとも呼べるそれは、パイロットにとっては欠く事の出来ない存在と言えるのである。
「エスディアと同じ色にして貰えたら幸いです。紺碧色ですね。」
ガーストの機体はデウス動乱時から紺碧色のカラーリングの機体を駆っていた。彼はエースパイロットであるが故に、パーソナルカラーを与えられていた。シュアーに与えられたエスディアのカラーも紺碧色であり、まさに、ガーストをイメージするカラーリングと言えたのだ。
「分かった、そうするか。さて、作業にかかるか。人手が必要になるな。」
そう言って、ミシェはガーストのハイエッジを塗装する為に他の整備士達を呼ぼうとした。
「塗装以外にも、使えそうなパーツは確保させて頂いております。FPBの一員となった以上は様々な勢力と戦って行かなければなりません。出来るだけ、戦力の強化をお願いします。」
「了解だ、その辺りはうちの艦長とかパイロット達と相談していく予定だ。幸い、今のところは周囲に敵はいない様子だしな。というか……ジャンヌ嬢が助言をくれなくても既にこっちはMSの強化に手を付け始めているよ。」
「そうですか。それを聞き、安心しましたわ。」
アステル家とセイントバードチームが手を組み、FPBという組織となって戦争の終結の為に戦う。今は想定されるであろう激戦に対して機体の強化を行う必要があった。
ミシェはジャンヌに対し、既にMSの強化を始めていると言った。それを聞いた彼女は首を傾げる。
「おぉっ!これがアインスなのか!?……わぁっ……!」
その時、MSデッキに一人の少女が姿を見せた。そこにいたのはスバキである。彼女は生まれて初めて宇宙に上がり、今自分のMSであるアインスガンダムを見に来たのだが、慣れない無重力に困惑していた。
「おいおい、大丈夫かよ。」
ミシェがスバキを支えた。スバキは彼に対して礼を言う。
「ありがとう。宇宙は初めてだから、慣れなくてさ……それよりさ、アインスの印象、随分と変わったなぁ!」
そう言われ、その場にいた全員がアインスガンダムの姿を見た。
そこにあったもの。それはアインスガンダムの特徴であった紺色ではなく、真っ白に染まったMSであった。宇宙戦を意識して制作されたアインスガンダムのコズミックカスタム。良く見ればその顔貌はアインスガンダムのものである事が分かるのだが、何せ色合いが変わってしまっている為、全く違う機体の印象を受けた。この場にいたミシェとスバキ以外の人間は、この機体を全く別の機体だと勘違いをしていたのだ。
(アインスガンダムを、この方が改修したという事ですのね。それも、僅かな期間に……)
と、ジャンヌは静かに、白系統のカラーリングに変更していたアインスの姿を見て、関心を抱いている様子だった。
「俺は二十代の頃に一度だが宇宙にいたことがあってな、宇宙空間ではどんな機体が良いのかってのを考えていた事があった。元々こいつを強化しようとは考えていて、宇宙でギア・ジェッパーと合流した際に、即、改修した。ジャンヌ嬢、事後報告になって申し訳ないが、余ってるパーツとかデブリとかを勝手に使わせてもらったが、構わないよな?」
ミシェはジャンヌに言った。彼女は快く、大きく首を縦に振った。
「ええ!」
ジャンヌは笑った。ココットが死んで以来、ジャンヌが笑ったのは久しぶりである。皆が彼女の険しい表情ばかりを見ていた為、その場は少し和んだ様子だった。
「さて、このアインスは宇宙戦用だからな。勿論武装も全然違ってくる。宇宙では地球と違って戦い方も何もかも変ってくる。お前がガキの頃とかに多分見たかも知れない、宇宙戦争が現実になるんだからな。」
「宇宙戦争……か。そっか……駄目だ、私には想像も出来ない……」
現在に至るまで地球で暮らしていたスバキにとって、宇宙は何もかもが新鮮で、斬新だった。宇宙に上がることなどこの先無いものだと思っていた彼女は、外の暗黒の空間を見て最初は感動していたという。
そして何よりも、無重力と言う未知の感覚に違和感を覚えていた。今までに感じた事のない、身体がふわりと浮く感覚。スバキ自身はこの感覚に慣れておらず、身体のコントロールが出来ない事が多々あった。
「武装の説明をするぞ。まずはこの拡散ビーム砲だが――」
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
その時、艦内で警報音が鳴った。セイントバードのものと異なる音が、艦全体に響く。
「熱源多数確認!所属、国連軍です!各パイロットは搭乗機にて待機して下さい!」
インクの声が響き、それを聞いたパイロット達はそれぞれのMSに搭乗し始めた。シュネルギアとアルバトスの存在に気付いた国連軍が攻撃を仕掛けてきたのである。
「武装の説明する暇もないってか!スバキ!ぶっつけ本番だがお前ならやれるだろう!」
そう言って、ミシェはスバキの背中を思い切り押した。デッキ内は無重力状態だった為、身体のコントロールが出来なかった彼女は、宙に浮きながら慌てた様子で両腕をバタバタと振った。
「わわっ……わあー!」
慌てつつも、スバキは白く変貌を遂げたアインスのコクピットに掴まり、そこからコクピットのハッチを開け、中に入った。
「国連軍、攻撃開始!各機出撃お願いします!」
その言葉を聞いたと同時に、全員が出撃を開始した。ガーストの機体であるハイエッジは塗装を行われていない為、フレンドリーファイアに気を付けなければならない。
「識別コードは書き換えておきますから!」
と、ガーストはハイエッジ内で言った。
戦後以来、地球上でMS乗りとして戦い続けてきた今は無きセイントバードチームにとって、この宇宙戦は初めてのものとなる。宇宙の存在を久方ぶりと思う者もいれば、スバキのように宇宙空間そのものが初めてと思う人間もいた。
「私はシュネルギアに急いで戻ります。健闘を祈ります。」
「了解だ。」
そう言ってジャンヌは笑顔を作り、そのまま去って行った。ミシェはその姿を見届けた後、他の整備士達に対して言った。
「俺達も仕事をするぞ。大破した機体が帰ってきたら即座に修理だ。」
「了解!」
元セイントバードチームの整備士達も気合が入っていた。初めての宇宙戦に、興奮する者が多かった為である。
今回の戦闘では国連が先に仕掛けてきた。機体はいずれもがハイエッジで、ヴァントガンダムの姿は見当たらない。最新鋭機体でFPBを仕留めようという魂胆なのだろうか。
「うわ……わっ!?」
FPBの各機が警戒態勢で居る中で、スバキの乗るアインスは姿勢を落ち着かせられずにいた。初めての宇宙空間での戦闘である為、彼女は操作に困惑していたのだ。
「来るぞ。迎撃しろ。」
そう言うのはネルソンだった。彼自身も宇宙戦は戦後以来ではあるが、余り動揺している様子ではなかった。過去の経験や感覚が冷静さを作り出していると言うのだろうか。
彼が指示しているのはガーストやスバキ達といった元セイントバードチームのメンバーである。と言っても、トルクスのパイロット達は既に居ない状況だった為、彼が指揮しているメンバーは限られてしまう。その上、正規の軍人でない彼が元国連のFPBの兵士達に対して命令を下す事など出来ない。
やがて国連のハイエッジ達が一斉にバックパックと、腰部のビームキャノンを展開し始めた。高出力のビームがFPBに迫る。
しかしそのビーム粒子の光を回避し、接近する機体の姿があった。アレンの駆るブライティスである。
「……!」
ブライティスはその華麗な動きで国連のハイエッジの背後に移動し、そのままビームライフルをコクピットに突き付け、破壊した。続き、ウイングを展開し、多方向にビーム砲を撃ち、これらをハイエッジ達に向ける。
「クソッ!アステル家のあのガンダム!反逆者のテロリストと共に行動するか!」
国連の兵士がそう言った直後、ネルソンのハルッグがロングビームライフルでその兵士が乗っていたハイエッジを撃ち墜とした。
「アレンにばかり活躍はさせん。」
ネルソンはそう言った後、ハルッグを変形させて敵陣に向かう。それを見た二機のハイエッジはハルッグの方向へ追う。
スバキはと言うと、まともに白いアインスを動かす事が出来ずに困惑していた。慣れない宇宙空間での戦いは、彼女を危機的状況へ追い遣る。
「もらった!国連の裏切り者が!」
その時、一機のハイエッジが彼女の元へ現れた。ビームライフルを構え、コクピットを撃ち抜こうとしていた。
「や、ヤバい……!!このやろぉ!」
自棄になったスバキはレバーを引き、ハイエッジに向かって体当たりを行った。急な攻撃に対し、ハイエッジは素早く回避を行い、再びビームライフルを構えようとした時――
ドオオオオオ
「ぐ……わあああ!」
彼女が目を瞑っている間に、ハイエッジは破壊されていた。そして目を開けると、レーダーに映らないハイエッジの姿に彼女は違和感を覚えた。
「あ……れ……?いつの間に!?」
この時アインスガンダムが使用した武装は、新武装であるシールド型拡散メガビーム砲だった。その武装は実体のシールドの上から張るようにビームシールドとしても運用が可能な上、シールド内部にある砲門を展開させれば拡散ビーム砲としての機能を兼ね備えている。出力は高く、アインスガンダムの新たなる強力な武装として宇宙に上がった際に、臨時でミシェが開発した。とは言え、その完成度は非常に高い。
「あのおっさん、大したもんじゃないか!やってやる!」
偶然とはいえ、敵機体を倒す事が出来たスバキは少し調子に乗り、敵のいる宙域へアインスを動かした。
ガーストは数年越しの宇宙空間での戦闘で若干ながら苦戦している様子だった。というのも、ダーウィンでの戦闘以来彼は一度もMSに乗っていない。増してや久しい宇宙での戦闘という事もあり、調子を出し辛い様子だった。更には今彼が乗っている機体も、今まで乗って来たエスディアとは異なる機体であり、戸惑いが見られるのも無理は無かった。
「宇宙戦のブランクとか言い訳にしたくはないけど……やっぱり言い訳にしたくなるぐらい思ったよりキツい……でも相手と俺の機体が同じなら……実力を見せてやらないとな!」
ハイエッジにはどのような武装が搭載されているかは分かっていない。その為、全く同じ機体である敵のハイエッジの武装を見て、見様見真似で彼はハイエッジの武装を遣って行こうと考えていた。
「え、ライフルがマシンガンに変わったのか!?」
その時、敵のハイエッジが持っていたビームライフルの出力がライフル特有の収束型ではなく、いつの間にかマシンガンのような散弾型に変更されていた。その状態のまま、ガーストの乗るハイエッジに向けて発射される。それを見たガーストは、ハイエッジの左腕に搭載されているビームシールドを展開し、自機を守る。
「どうやって武装を変えるんだ……ってそんな事気にしている場合じゃないか!」
ガーストは操縦桿を引き、ハイエッジのビームサーベルラックをマニピュレーターを駆使し、腰部から抜いた後に国連のハイエッジに迫って行った。それを見た国連のハイエッジもビームサーベルラックを抜き、ビームサーベルを展開。やがて両者は打ち合いを行った。
「クソッ、やっぱり相手の方が慣れてる……」
ピキィィィ
その時、ガーストの頭の中で電流が流れた。それと同時に、敵機体が次にどのような行動をするのかというヴィジョンが、彼の頭の中で浮かんだ。
「ヤバい……避けないと……!」
彼の頭の中に浮かんだヴィジョンは、ハイエッジ同士がビームサーベルによる打ち合いの最中に敵のハイエッジが腰部からビームキャノンを発射するというものだった。そうなってしまっては自分のハイエッジは破壊されてしまう……ガーストはそう思い、相手よりも先に腰部のビームキャノンを展開し、敵機体に向けて射出した。
「読まれた!?こいつ、シンギュラルタイプか!?」
そのビームは敵のハイエッジの左脚部を直撃した。それを確認したガーストはそのハイエッジに向けてビームライフルを連射し、胸部を撃ち抜いた。
ガーストに対して成す術もなく、国連のハイエッジは太刀打ち出来ずに破壊された。破壊した際、ガーストの乗るハイエッジのカメラアイは、宇宙空間の暗闇を背景に静かに輝いていた。
「……感覚は掴めて来たか……久し振りだもんな、宇宙は。」
同型機との戦闘でどうにか勝利を収めた彼だったが、戦闘はまだ続いている。彼の乗るハイエッジはブレードスラスターの出力を上げてその場を後にした。
宇宙に上がってから初めて戦うFPBと国連。FPBは宇宙慣れしていないパイロットも多かった為、国連の機体に圧倒される人間も多数いた。
今アステル家の機体であるアステリアに乗って戦っているアステル兵もまた、国連のハイエッジに苦戦を強いられている者の一人である。
「くそっ!なんて早さだ!」
一機のアステリアがロングレンジビームライフルをハイエッジに向けて連射するが、ハイエッジはいずれも素早い動きで回避をする。そして、脚部からミサイルを展開してアステリアに迫る。
バシュゥゥゥ
と、そこへ一機のヴァントガンダムがビームライフルを撃ち、ミサイルを全て撃ち落とした。元国連で、今はFPBとして協力している兵士である。
「大丈夫か!?」
「すまん、助かる!」
その光景を見た国連の兵士は怒った様子でそのヴァントガンダムに対してビームマシンガンを連射した。ヴァントに乗るFPBの兵士はシールドを構え、ビームサーベルラックを抜いてハイエッジに切り掛かる。
「新生連邦がいなくなって国連が地球圏を統一しようとする時に新たな軍隊の設立など!」
「ギルス・パリシム議長は嘘を吐いている!騙されているんだお前達は!」
元国連であり、現在はFPBの兵士と国連の兵士が対立し、戦っている。国連の兵士はギルスが嘘を吐いている事など知らず、ギアが嘘を吐き、世界を混乱させている存在だと言い張る。
「ギア・ジェッパーは新たな戦争を生み出した権化だ!それに従う裏切り者など!」
「ギルス・パリシムの私利私欲の下に戦う事が本当の平和とは思えない!」
「新生連邦を宇宙へ追い遣る事が出来たのはあの方の武力による平和を行使した賜物だ!」
「違う!ギルス・パリシムは自分にとって都合の良い世界を作ろうとしているだけだ!」
性能差は歴然であるが、両者の乗るヴァントガンダムとハイエッジは激戦を繰り広げている。互いにビーム刃同士の打ち合いで、一歩も引く様子を見せない。
「貰った!」
その時、ハイエッジのパイロットが腰部と背部のビームキャノンを一斉にヴァントガンダムに向け、発車しようとしていた。それに気付いたFPBの兵士は一度その場所から離れようとするが、既に彼はハイエッジに狙われており、危機的状況だった。
「ん……熱源……?」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
「うわあああああああああああ!」
その時、突如出現した凄まじい出力のプラズマ砲撃が彼等の機体を跡形もなく消し去った。
あまりに高出力のそれが破壊したのはヴァントガンダムとハイエッジだけでない。他にも国連の宇宙戦艦であるリューチェ級がこの謎の一撃によって一瞬で崩壊したのだ。あまりに突然の出来事に、その場にいた人々は困惑する。
「なんだ……?」
茫然と、熱源が発射された方向を見るFPBと国連のパイロット達。その先に見えたもの。それは、月だった。
月周辺の小惑星型基地にて。そこは新生連邦の月面基地シン・ナンナから派生して出来た軍事基地である。
基地周辺に新生連邦軍のMSであるディーストやジョゼフが並ぶ中で、一機、超大型MAの姿があった。その機体は横幅に広く、中央部には大型の砲門が存在している。頭部と思われる部分にはモノアイタイプのカメラが搭載されており、そのMAの異様さと不気味さをアピールしていた。
「プラズマカノンの試射、完了。」
「出力、試射後の冷却機能に異常なし。」
兵士達がそのMAの武装に関するチェックを行い、ある人物に対して報告をしていた。
「感想としては凄まじいの、一言だな。それにしても、いつの間にこのようなMAを開発されたんだ、ドゥーリア少佐は……」
兵士達はエファンに対して感嘆の声を上げていた。その超大型MAを制作したのは、その男だったからである。
「開発に時間を掛けたMAだからな。簡単に壊れて貰っては困る。その火力を見せしめる事が出来たのは大きな一歩だよ。」
軍事基地内の管制塔にて、エファンが腕を組み、そのMAのプラズマカノンの試射を見ていた。この男はクレーディト社内のマスドライバーを使い、宇宙に上がった後にこの基地に移動し、ここにいる兵士達と合流をしていたのである。
エファンはニヤリと笑みを浮かべ、その後で彼は通信を行った。
「どうだ、その機体は。使い勝手は良いと思うがな。」
エファンはある人物と会話をしていた。その人物は、そのMAのパイロットである事がエファンの台詞から分かった。
「今のはプラズマカノンの試射ですが、他の武装がこのデカブツをフォローしてくれるのなら頼もしい限りです。この機体を俺に与えて下さり、ありがとうございます。」
「何、使えるものはどんどん使ってもらわなければ困るからな、クラリス。」
そのMAに乗っていたのは、クラリス・デイルだった。彼はエファンにMAのパイロットを任命されていたのだ。
「ハッ、有効活用できるように尽力します。」
「任せるぞ。ディブロック。それがその機体の名前だ。」
ディブロック。型式番号、EMA-01X。エファン・ドゥーリアが開発した超大型MAで、横幅だけで300メートル以上はある機動兵器である。そのパイロットに、クラリスは選ばれたのだ。エファンが何故クラリスをディブロックに乗せたのか、その理由は不明である。
「横幅300メートル以上という大きさを誇る機体だ。普通に考えれば格好の的だがこの機体は全身にバリアーフィールドを張り巡らせているからな、ビーム粒子が存在する限り、ビームは一切通用しない。」
「自分も、この機体で早く実戦を経験したいと思っております。」
「良い心意気だ。」
そう言ってエファンはクラリスとの通信を切断した。そして、再び彼はディブロックのある方向を見て思う。
(エレシュキガルが動いた……か。これで目的にまた一歩近付く。良い傾向だ。流れは私にある。)
エファンは静かに笑みを浮かべ、腕を組んだ。周りの兵士達は彼が笑みを浮かべている事など知る由もなかった。
月方面からのプラズマカノンの存在を見ていた国連とFPBは、一時的に戦いを中断していた。しかし、国連軍のハイエッジの突然のビーム砲撃により、再び戦いが始まった。
だが、FPBの方が機体のバリエーションが多い上に高性能機体も数多く存在している分、この戦況はFPBが制しつつあったのだ。
敵の戦力が多数存在する宙域にて。そこには単機でブリッツファンネルを展開するブライティスの姿があった。八基のファンネルはそれぞれハイエッジのコクピットを的確に狙い、周辺にいた八機ハイエッジを瞬く間に、撃破した。
淡々と、まるで作業をこなすように次々と国連軍の機体を破壊していくブライティス。ハイエッジ達の撃墜を確認したアレンは、次にリューチェ級の破壊へ向かう為、ファンネルを展開したまま移動し始めた。その様子を見ていたガーストはアレンの行動に疑問を抱く。
「あいつ……なんかおかしいぞ……?」
躊躇う様子もなく、あっさりと敵を倒していくアレンの姿が奇妙に思えて仕方がなかった。ガーストはアレンの後を追うようにハイエッジのブレードスラスターの出力を上げ、移動した。
アルバトス周辺ではハイエッジによる猛攻を食い止める為に、スバキ達が奮戦していた。宇宙用に強化されたアインスガンダムは新武装であるシールド型拡散ビーム砲を展開し、ハイエッジに向けて発射した。高出力のそれは直撃しただけでハイエッジの腕部や脚部を破壊した。だが敵はまだ破壊されていない。
その時、ハイエッジがビームサーベルを展開してアインスに迫って来た。それに気付いたスバキは素早く反応し、アインスのカメラアイを輝かせる。
「やらせるかぁぁ!」
その時、アインスが持っていた拡散ビーム砲の砲門が閉じられた――と同時に、シールドの先端部分にビーム粒子が集まり、エネルギーが形成されていった。
ブイイイイインッ
やがてそれは巨大なビームピッカーへと変貌し、ハイエッジに向けて突き刺した。突き刺した瞬間、ハイエッジは爆発した。彼女は自分の力で新兵器を発見し、実用に至ったのである。
「凄い……今までのアインスと比べ物にならない……」
機動性も上昇し、尚且つ武装も強化されたアインスガンダムのコズミックカスタム。宇宙戦そのものが初めてだったスバキだが、この機体に乗って戦う内に彼女本来の調子が戻って来た様子だった。
そこへ二機のハイエッジが迫って来ていた。熱源に反応する、スバキ。いずれもビームライフルを連射し、アインスに迫る。アインスはビームシールドを展開してこれらの攻撃を全て防御する。
「ビームはもうアインスに効かないんだよ!食らえぇ!」
そう言ってスバキはアインスのビームライフルを構えるように動かし、発射した。そのビームライフルは一回のスイッチで三連射する事が出来るようにカスタマイズされていた。この攻撃に対し、ハイエッジ二機はビームシールドを展開してビームライフルを弾く。
「やあああああ!!」
その瞬間、再びアインスはビームピッカーを展開し、ハイエッジに迫っていた。急激な攻撃に戸惑うハイエッジ二機は回避運動を試みたが、既に遅かった。
ズバァァァ
二機のハイエッジは折り重なるようにビームピッカーの餌食となり、破壊された。ハイエッジの撃墜を確認したスバキは、周囲に迫るハイエッジがいないかを確認する為、レーダーを確認した。
「これなら負けない!負けてたまるかよ!」
宇宙に上がる前にデスゲイズに敗れそうになったスバキは、その屈辱から強くなりたいと思っていた。宇宙用にカスタマイズされたこのアインスガンダムは彼女の願いに応えた事になる。
そして、新生連邦本部攻略戦に於いて彼女を消耗させて殺そうとした国連に対する復讐も、成す事が出来たと言えるのだ。
「はぁ……これなら……もしかしたらあいつを守れるかも知れない!レイ……今頃平和に暮らしてるのかな……?」
呼吸を荒げながら、彼女はレイの事を思い始めた。彼が故郷へ帰った事は、実は彼女には大きな衝撃だったのだ。今、ここに居ないレイの事を想いながら、スバキは国連軍と戦っているのである。
国連のリューチェ級に接近するブライティス。彼はその周辺にいるハイエッジに対し、ブリッツファンネルを展開して強襲させる。そのファンネルの動きについて来られない国連の兵士は我武者羅にビーム砲を連射するが、ビーム砲はファンネルに当たらない。ファンネルから放たれるビームはハイエッジを狙うが、いずれもハイエッジのビームシールドによって弾かれる。
八基のファンネルに翻弄されるハイエッジ達は、これらの破壊をする為に攻撃していた。
だがアレンの目的はハイエッジの殲滅ではない。リューチェ級の破壊である。
「ガンダムタイプ、こちらに接近中!」
「仮にも同志だったんだぞ!?それにあのガンダムが簡単に人を殺すなど!?」
リューチェ級のブリッジ内は騒然としていた。ブライティスが展開したファンネルを、護衛に回っていたハイエッジ達が相手をしている間に、ブライティスの突破を許してしまったのだ。
やがてブライティスがブリッジの前に辿りついた時、リューチェ級の士官がアレンに対して通信回線を開いた。
「や、やめないか!アステル家のガンダムだろう!私はよく知っているぞ!」
命乞い同然のその行為。しかし――
「すみませんが、今は“敵同士”ですので」
アレンがそう言った直後、ブライティスはビームライフルを構え、躊躇いなくブリッジを撃ち抜いた。中にいた人間は全員死亡。更にブライティスはウイングを展開してビーム砲を斉射。それによってリューチェ級は完全に破壊された。それと同時にブリッツファンネルがブライティスへ戻って行く。
ブリッツファンネルはハイエッジの陽動の為に展開し、彼は淡々と本命であるリューチェ級を撃墜したのだ。FPBとしては敵である国連軍を倒す事は正しい事ではある。しかし、今までのアレンでは考えられない戦法だった。この戦法にいち早く疑問を抱いたのはガーストである。彼はアレンに対して通信回線を開いた。
「おい、アレン!」
「ガーストか。」
アレンは無表情でガーストの回線に対応した。
「なんか……変だぞ……戦い方って言うか……全てが!」
「何が。」
「ダーウィンでのお前の戦い方と明らかに違うんだよ!淡々とファンネル動かして敵破壊して終わりって……何かが違う!」
アレンにはガーストが何を言いたいのかが分からなかった。ガーストは、アレンの余りに冷淡な戦略に疑問を抱いただけなのだが、それに対してアレンは言った。
「効率の良い戦法を取る方が被害も最小限に済む。俺はそれを実行しているだけ。ガースト、お前は俺が躊躇いなくあの戦艦を墜としたことに対して異議を唱えたいだけなのか。」
「そう言う訳じゃない!でも……違うんだよ!お前らしくない!」
「俺らしく?何を言っている。」
アレンの言葉は正しかった。戦争をするならば、味方が勝利する為に尽力するのが普通である。それに対し、ガーストは彼の戦い方をおかしいと言ったのだ。」
「戦争に〝らしさ〟なんて必要?俺はそうは思わない。戦争は命の奪い合いなんだ。ただそれだけ。」
「確かにそうだけど!そうだけど……お前……いくらなんでも変わり過ぎだろ……」
「話はそれだけ?悪いけど集中しているから。じゃあ。」
そう言ってアレンはガーストの回線を切り、その場を去った。一方のガーストはアレンの冷淡な口調に疑問を抱いていた。
「あいつ……やっぱりココットが死んでから変わって……」
今のアレンは、まるで流れ作業のようにただ目の前に迫る敵を倒す事だけを考えていた。
それは今までの彼の戦闘スタイルでは考えられないものだった。ガーストの言うように、ココット・メルリーゼの死が今のアレンに大きく影響しているのだろう。
エリィが指揮をするアルバトスに三機のハイエッジが迫って来ていた。新造艦のアルバトスの武装の全てを把握出来ていないエリィだが、幸いクルー達は武装を理解しており、それ等に対して指示を与える事が出来た。
「艦長!熱源三機急速に接近中!」
「弾幕を張って!アルバトスに近付けないで!MS部隊を護衛に回すように!」
「了解!」
セイントバードの時と違い、ブリッジにいるのはインクとスラッグだけではなかった。元国連兵の人間の姿が多数見られ、いずれもエリィの指示に従っている。
正規の軍人である元国連兵達がMS乗りであるエリィの指示に従うのには訳があった。ギアが彼女を艦長に選抜した為である。FPBの代表であるギアが選んだ以上は、それに従う必要がある為、彼等は従っている。その上エリィの指揮は的確で、その指示の上手さにFPBの兵士は感心している様子だった。
「5時方向からミサイル多数、来ます!」
「迎撃用にこちらもミサイルを発射されますか?」
「多数のミサイルに対してならばビームで砲撃した方が良いです!何か、高出力のビーム砲はありますか?」
「大型主砲、あります!」
「それらをミサイルの方向に向けて発射!!」
「了解!」
彼女の指示により、アルバトスから主砲が発射された。この指示により、アルバトスに迫って来ていたミサイルは全て消滅。だがその隙に三機のハイエッジの侵入を許してしまった。
「熱源三!更に接近!」
「弾幕は!?」
「張っていますが突破されています!」
「厄介ね……」
そのハイエッジのパイロットは優秀なのか、アルバトスが発射する弾幕を軽々と潜り抜け、ブリッジに向けて行動しようとしていた。
「……スラッグ君、アルバトスを下方に移動させて。」
「え、下にですか!?」
急なエリィの指示に戸惑うスラッグだったが、エリィの表情は真剣そのものだ。彼女の言葉を聞いたスラッグは、指示通りにアルバトスを下方へ移動させる。
アルバトスを下方に移動したアルバトス。当然ハイエッジはアルバトスのブリッジに向けて下方へ移動する。
「ブリッジの前面に向けて主砲展開!一気に叩くわ!」
エリィは迫ってくるハイエッジ三機を倒そうとしていたのだ。彼女が艦を下方に移動させたのは、主砲による狙いを的確にするためであった。
やがて主砲が発射され、この3機の内の2機が主砲をまともに受け、破壊された。残るは一機。だが、その一機もネルソンの駆るハルッグと交戦し、やがて破壊された。
「大した指揮ですね。流石代表が見込んだだけの事はある。」
一人のFPBの兵士が言った。
「ありがとう、でも気は抜けません。戦闘が終わるまでは。」
兵士の言葉を流しながらエリィは真剣な眼差しでモニターを見ていた。いつ、どのような敵が迫ってくるかわからない。彼女は常に警戒していた。
「ルックスも良くて、しかも指揮もしっかりしている。こりゃ人気も出る訳だ。艦の士気も上がる。このチームが今まで生き残れた理由の一つかもな。」
一人の兵士が隣の兵士に対して言葉を洩らした。その言葉はエリィには聞こえておらず、彼女は常に真剣な表情で前方のモニターを見ていた。
この宙域で戦っているFPBの勢力の中に、アイリィ・トゥールとファージ・ネイヴァンが居た。両者共に与えられている機体はアステリアであり、アステル家の最新鋭機体である。
デスゲイズがユーラシア北部のノリリスクにあったマスドライバーを破壊し、シュネルギアを強襲した時にファージはアステリアを駆った。だが、この時は大気圏内という事もあり、十分な実力を発揮出来ないでいた。だが今は宇宙空間である。アステリアにとっては本来の力を発揮できる環境と言えた。
「食らえよ!」
ファージの駆るアステリアはフレキシブルビームキャノンを展開。ロングレンジビームライフルと組み合わせ、その火力を見せ付ける。
ハイエッジは機動性に長けている機体だ。だがアステリアも引けを取らない。互いにその性能を生かし、この宙域で戦う。
ファージは旧連邦軍出身という事もあり、宇宙戦も慣れている。かつてのデウス動乱でも戦い抜いた男だ。新型機体であるアステリアの操作も彼にとっては知れているのだ。
一方のアイリィは、初の宇宙戦闘だった。ヴァイダーガンダム侵攻時に初陣を飾っていた彼女に与えられた最新鋭機体は、乗りこなすのに時間を要していた。
「あわわわ……シミュレーションはしていたのにぃ!実戦辛い!」
新生連邦本部攻略戦でヴァントガンダムでカーティウスを破壊するという偉業を達成アイリィ。しかし不慣れな宇宙戦である上、今回の敵はかつての同胞とも呼べる、国連軍なのだ。様々な感情が彼女を覆うのである。
「国連と戦うなんて、したくないのにぃ!」
戦いの中で困惑しているアイリィ。だが、その間にもハイエッジは迫り来る。
「そうだ!話せば分かるんだ!」
その時、彼女はアステリアの武装を突如解除し始めたのである。戦場でその行動に及ぶ事は、愚業でしかない。だが敵がかつての同胞である以上、躊躇いが見られるのは当然と言える。」
「話を聞いてくださーい!私、戦う気ないんです!」
彼女の駆るアステリアは両腕を広げ、迫る国連兵に対して言った。しかし――
「ふざけているのか!貴様ぁ!」
当然とも言える反応が返ってきた。と、同時にハイエッジはビーム砲撃を放つ。敵側は躊躇がない。だが、それも当然の事。
FPBは反乱軍であり、テロリストのような存在だ。それを黙認するような事は、国連が許す筈がないのである。
「ギルス・パリシムって、あの人がおかしいんですよ!あの人は自分の事しか考えていない人なのに!」
偽りの平和を掲げる存在、ギルス・パリシム。FPBはそれを打開する為に存在している。そこに立ち塞がる国連軍は当然敵勢力。しかし、かつての同胞を傷つける事はアイリィとしては避けたい。何故ならば、ギルスの下で戦っている兵士達自身に、罪は無い為である。
「楯突くならば倒すだけだ!国連に抵抗するテロリストが!!」
「テロリストだなんて……!」
この間にも敵のハイエッジはビーム砲撃を行う。それを守る為に、ビームシールドを展開して機体を守る、アステリア。
「テロリストなんかじゃない!私は武器だって持ってないのに!」
いくらアイリィが言おうが、相手には伝わらない。国連の兵士は戦う気でいる。FPBという敵勢力を叩く為に――
「はっ……」
だが、奇麗事は通用しない。目の前に迫ったハイエッジはビームサーベルを展開し、アステリアに攻撃を仕掛けようとしていた。いくら強力な武装や性能の持ち主であれ、パイロットに戦意が無ければそれは只の的に過ぎないのだ。
(やられる――!?)
アイリィが目を閉じる。説得は、無駄なのか?ここで死ぬのか?
ズバァァァ
だが、破壊されたのはビームサーベルを展開していたハイエッジだった。突然のビーム刃による攻撃を受け、ハイエッジの胴体はコクピットごと、破壊されたのである。
アイリィは助かった。彼女を助けた存在。それは、アレンだったのである。
「アレンさん……?」
ブライティスがカメラアイを輝かせ、その場を鮮やかに去る。だが、その後ろ姿はどこか寂しげで、ただ、淡々と任務をこなしているように、アイリィには見えたのだった。
それから暫くして、国連軍の戦艦であるリューチェ級から黄色の信号弾が発射される。それと同時に、宙域に展開していたハイエッジ全てがスラスターを展開し、撤退して行ったのだ。
「国連軍、撤退していきます!」
その時、インクがレーダーを見て言った。そこには、撤退していくハイエッジの型式番号が描かれており、アルバトスやシュネルギアから離れていくのが確認できた。それと同時に、ブリッジ内の緊迫とした空気は和らいだ。
「ふぅー……なんとか勝てたみたい……」
そう言って、溜息を吐くエリィ。宇宙での指揮は初めてだったため、彼女は真剣に艦の状況を見極めて指揮を執っていた。その努力が実ったのか、アルバトスの被害は最小限に留められたのである。
「大したものですよ。それだけ的確な指揮が出来る腕がありながら軍属じゃないなんてもったいないぐらいだ。」
一人のFPBの兵士が立ち上がり、エリィを褒め称えた。その兵士は、先程彼女を褒めていた兵士であり、戦闘が終わって改めて彼女を褒めたのだ。
「ありがとうございます!あ、あの……先程は冷たい態度を取ってすいませんでした。何せ、戦闘中でしたもので……」
「いやいや、こちらが悪いんですよ。気になさらずに。これならば安心して貴方に艦長を任せられますね。これからも宜しく頼みますよ。」
「ええ、ありがとうございます!」
エリィは笑顔で言った。その表情と先程の険しく真剣な表情ではあまりに差が激しかった為、兵士は違和感を覚えた。
戦闘は終了した。FPBと国連の衝突。それに生き残る事が出来た者と、死んだ者がそれぞれ居た。元々同胞とも呼べる者同士の戦いは、互いに複雑な感情を抱く結果となったのだった。その中で、アレンは流れ作業の如く、同胞とも呼べた国連軍を狩っていた。この事が、FPBのメンバーからすればどこか、恐怖に感じられたのだった。
ガーストが問いかけたように、今までの彼の戦術とは違う、的確に敵を殲滅させることを考えただけのような奇妙な戦術。それは、ココットの死が彼にそうさせているのかも知れない。
この戦いが終わり、一日が経過した。その間、幸いにもFPBは敵勢力と交戦する事なく過ごす事が出来ている。
この時、ミシェは一人、シュネルギアに来ていた。昨日の戦闘で猛威を振るったブライティスガンダムを確認しようと、MSデッキに移動し、確認していたのである。既にこの頃にはガーストのハイエッジの改修は完了しており、色も彼のパーソナルカラーである紺碧色に塗り替えられていた。その上で、新たな武装も搭載されたという。
「これがあいつのガンダムタイプか。新生連邦と交戦していた時から気になってはいたが、なんていうか、何処か特殊な印象を受けるっていうか。」
整備士であるミシェはMSに関心を持つ。中でもガンダムタイプには特に目がない。ガンダムと言う存在は、整備士の間ではある種、神格化されている部分もある。例えるならば民間に流通しない高級車を、自動車整備士が憧れるようなものだろうか。
「あら、ミシェさん。」
そこへ、彼に声を掛ける人物がいた。パイロットスーツ越しでも麗しい印象を崩さない女性が一人。ジャンヌである。
「ああ、これはどうも。まさかジャンヌ嬢に声を掛けて貰えるたぁ光栄だ。」
ベテランの整備士であるミシェだが、ジャンヌ・アステルのような人間に声を掛けて貰える事に内心、喜びを感じている。そして、名前を覚えて貰っている事に対しても喜んでいるのだ。
「ブライティスに興味がおありなのですか?」
ジャンヌが、聞いた。
「興味っていうか。前からこのガンダムタイプは気になっていた。あのデウス動乱の英雄が乗っている機体ってだけで興味はあるし、この機体自体もどこか、普通のMSとは明らかに異なるものを持っているような気がしてな。整備士としちゃ、こうした機体を弄りたい気持ちがあるものだぜ。」
ミシェは腕を組み、言った。彼はセイントバードチームの機体の改修等はしてはいるが、アステル家の機体に携わった事は無かったのである。
「改めて見ると、アステル家の技術は相当なものだねぇ。今まで旧式の機体しか殆ど見ていなかったからこそ、よく分かる。流石デウス帝国に戦力を提供していただけの事はあると言うべきか。」
ジャンク屋を営んでいたが故に、物珍しい機体に目がない様子のミシェ。それを聞き、ジャンヌは口を開いた。
「ミシェさん。昨日、アインスガンダムの改修を短期間であそこまでされておりましたね。武装もパーツを利用して大きく改修し、その上でカラーリングまで変更されておりましたね。」
「ん?ああ、そうだが?」
この時のジャンヌの視線が、ミシェには気になった。明らかに何かがあると、思ったのだろう。
「実はその事でお願いがあるのです。ブライティスを、改修したいと考えておりますの。」
「このガンダムの改修……?」
まさか、ジャンヌのような人間に依頼をされるとは思わなかった。故に、彼は驚愕している様子だったのだ。
「今後、FPBは様々な戦いを強いられる事になるでしょう。その為には少しでも戦力を増強しなければなりません。アレンはFPBの要とも呼べる人間です。彼のガンダムを少しでも強くしたいと考えております。」
そう考えるのは自然な事と言えるだろう。中核を成す存在の機体を強化しようと考えるのは、当然だ。
「貴方は短期間でアインスガンダムの改修を成功させました。貴方の腕を見込んで、是非、お願いしたいのです。ブライティスの改修を。」
ミシェからすれば、頼られる事は有難いという言葉以外に見付からない程に喜ばしい事と、言えた。人間は何かを頼られる時、その力を普段以上に発揮するものなのだろう。増して、それが世界的歌手であり、絶世の美女と呼べる存在が言うのならば尚の事だ。
「そんな大きな仕事を任して貰えるのなら、俺は喜んでやるぜ、ジャンヌ嬢。で、具体的にはどのようなプランを考えている感じなのか、教えて貰えるか?」
「ええ。実は――」
MS整備士の免許を持っているジャンヌ。それ故に、両者の会話はスムーズに成り立つ。彼等の間で話は進み、ブライティスガンダムの改修プランは、少しずつ進んでいく事になる。
少しして、話は終わった。今後、ブライティスは強化改造を施されていく事になる。だがこの時、ジャンヌは一つ、不安を抱いていたのだった。
(ブライティスの強化が行われるのは良い事です。しかし、今のアレンの状況が続く事はあってはなりません。あの戦い方が続いた時、何かの拍子に彼の感情が爆発する可能性が考えられるのならば、それは絶対に避けなければ……。)
それは、ブライティスのシステムの事を指していた。クリスタルシステム。ブライティスに搭載されている機体そのもののポテンシャルを上げるシステムだ。デウス動乱時にアレンが乗っていたクリスタルガンダムに搭載されていたシステムをアステル家が抽出し、それをそのまま、ブライティスに使用している。
システムを左右する存在。それは、“感情”だ。感情に左右されてしまう事はあってはならない。それ故に、アレンには絶対的な平静が求められる。その心の支えとして存在していたのが、ココットだった。
だがココットを失ったアレンは、今、何が心の支えとなるのだろうか。先の戦闘で彼は淡々と、国連の機体を確実に撃破して行ったのだが、それも恐らく、感情を押し殺している結果と言えるだろう。
ジャンヌはこの時、アレンの感情が何処まで抑制出来るのかについて、一抹の不安を抱いていたのであった。
第九十一話、投了。
FPBの、宇宙での戦いが始まりました。
あけましておめでとうございます。本年も、どうぞよろしくお願いします。