機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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九十二話の続き。テロリストにやられそうになる瞬間、レイを救ったのはーー


第九十三話 再会の時

 

 

バシュゥゥゥ

 

ビームライフルが発射される音が聞こえた――と思われたが、それでもレイは目を瞑っていた。目を開ければそこはコクピットの中ではなく、恐らく別の場所にいるだろうと、思っていた。

 何故ならば、レイは死を悟っていた為だ。ビーム刃同士の打ち合いの際にもう一機の出来が迫って来ていた。逃げ切れる筈がない状況で、一瞬の死が彼を待ち受けていると、本能的に悟っていたのだ。

 しかし妙だった。急に風通りが良くなっただけで、彼は何も痛みを感じていない。レイは静かにと目を開ける。すると、彼はコクピットの内部がむき出しのそこに座っていたのだ。何が起きたのかが把握できないレイは、周囲を見渡す。モニターはまだ生きていた。

彼が見た光景。それは、謎のMSの一団がテロリストの機体を次々と撃破している光景だった。機体こそディーストやジョゼフといった新生連邦の機体だったが、いずれもカメラアイであるモノアイの部分にゴーグルが付けられていた。

「あれ……あれって……まさか……!?」

レイはそのゴーグルを知っている様子だった。彼のディーストは大破している上、武装も全て破壊されており、戦う力を持っていない。やむを得ず、レイはディーストを動かしながらそこから離れることにした。

 

 ゴーグルを付けているMS達は次々とテロリストの機体を破壊していき、やがてそれらを全て撤退させた。一方のレイは大破したディーストを動かしながら、家族がいる病院の方向へ向かう。

(あの人達は……何だったんだろう?)

レイは考えながらディーストを動かした。九死に一生を得たレイ。もし、そのゴーグルを装着した人間達が居なければ、レイは殺されていただろう。

 それからディーストは家族の前で膝立ち状態になり、彼はコクピットを開けた。家族はその光景に驚愕し、ミィスは泣き喚いていた。それを宥めるリリア。ごくりと唾を飲むジュナス。恐怖するカレン。それぞれがコクピットから出てくるレイの姿を見た時、誰もが目を疑った。

「え……」

「お兄ちゃん……?」

「う……そ……!?」

「……」

家族はそれぞれ別々のリアクションを取った。共通している事は、誰もがMSからレイが出てきた事に驚いていたのだ。

 レイはわざと、家族の前までディーストを動かし、そこから出て見せたのだ。自分が嘘吐きで無い事を証明する為に。

「多分……いや、絶対驚いたと思う。だって、僕がこんなものに乗って戦ってるんだもん。」

レイは淡々と述べた。真実であると、伝えたかったのだ。この時、レイは険しい表情で家族を見る。

「レイ……やっぱり……本当なんだね……本当に……ロボットに乗って……」

「どうしても……信じられないのなら……やっぱり見せるしかないと思って……戦った。みんなを守りたかったから……」

レイがそう言った直後、カレンは地面に膝をつき、頭を抱えながら言った。

「あ……あ……え……あ……な、なんなのこれ……わ、訳が分からない……わ……えっ……なんで……どうして……なんでレイが……嘘……でしょ……う……そ……あ……ははは……私、どうかしちゃったんだ……あああ、もう駄目だ……もーうだーめだー」

レイの言葉が出鱈目だと信じたかったと思う母親だが、現実を見てしまった以上、それを認める必要がある。しかし彼女はそれすらも認めない。気が動転してしまっているのだ。

この時、自分の妻の、気が動転した姿を見て、ジュナスは激怒した。杖をつきながら、カレンの頬を思い切り揺さぶった。

「いい加減にしないか!母親が自分の息子に対してそんな態度を取るな!」

ジュナスの行動で我に返ったカレンだったが、彼の行動に対して逆上したのである。

「何……なんで怒るのよ……自分の息子があんなのに乗ってて!なんで平気でいられるワケ!?貴方おかしいわよ!貴方だけじゃない!ミィスもリリアも!そしてレイ!おかしいわよ!どうかしてるわ、こんなの!!!」

混乱する母親の姿に、レイはショックを受ける。自分がMSに乗っているのは事実なのに、それを認めようとしないカレン。ジュナスはそんな母親叱咤するが、それでもカレンはレイを認めない。

「……レイ。お前、強いんだな。」

「そんな事ないよ。でも、このままみんなが死ぬのを見るのは嫌だったから……僕も戦いたかった……死に掛けたけど、でも……助かったみたい。」

彼を助けたのは見覚えのある、特徴的なゴーグルを装着したMS達。しかしレイはそれを思い出せないでいた。

「おーい!!」

その時だった。彼等の耳に少女の声が聞こえた。それはMSに搭載されているスピーカーを介して聞こえてきた。レイは声が聞こえた方向を見る。そこにいたのは、ジョゼフだった。ディープシーはレイの方向を見ていた。

「え……もしかして……!?」

レイは思い出したようにジョゼフの方向へ走った。その、レイの行動に対し、家族は誰も止めようとはしなかった。

 

 彼は少し走り、やがて止まった。それと同時にジョゼフの動きも止まる。やがてジョゼフのコクピットが開かれ、その中にいたのは――

「シャルアさん!?」

ジョゼフには笑顔で手を振るシャルアの姿があった。一時期世話になっていた時、散々にレイをからかっていた彼女の姿を見て、レイを助けたMS達の正体を思い出したのである。それは、ジェルヴァチームだった。

「まさか!!あんたがここにいるなんてね!てか、さっきあんた戦ってたでしょ!?」

「あ……え……な、なんで……?」

戸惑うレイ。その間に、シャルアはジョゼフから降りて来て、レイの元に走って来た。その勢いに負け、レイは逃げ出そうとするが、シャルアが大声で

「逃げんなバーカ!」

と言い、レイに向けて全力で走る。

「うわあああああ!!!」

そして、レイはシャルアに思い切り抱き締められた。約二ヶ月と、それ程時間が流れていないのだが、レイにとっては随分と久しぶりに感じたチーム……それが、ジェルヴァチームだったのだ。

「く、苦しい……です……」

レイはシャルアの肩を何度も叩き、苦しさを訴えた。それに気付いたシャルアは慌ててレイを離す。

「はぁ……はぁ……」

「あー、ごめんね、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃって!」

レイはシャルアの胸に締め付けられ、レイは激しく呼吸をした。

「てかさ、なんであんたここに居るの?」

シャルアは首を傾げ、レイに聞く。

「実は――」

レイはここ、ノルウェーに来た理由を彼女に説明した。父親のジュナスが何者かに撃たれて入院した為に、家族でここまで飛行機でやって来た事。それを説明すると、シャルアは軽く数回頷きながら言った。

「うんうん、成程ね。それでテロリストの連中が攻撃しているのを見て、守ろうとして戦ってたという訳だ。あいつら、まるで、ヒパック村を襲ってきた新生連邦みたいな事をしてるの見て、苛立ったわ。」

武装勢力や軍が医療機関を攻撃するのは倫理的な問題も去る事ながら、国際条約で禁止されている。しかしこうした勢力というのは、条約違反を平気で行い、見境なく攻撃を加えてくる事が多いのである。

「後さ、聞きたい事があるんだけど、どうして一度セイントバードのメンバーと分かれたの?」

「……え?」

言っても居ないのに、何故彼女からその言葉が出て来たのか。一体どういう事なのかが理解出来ない様子のレイ。

「どうしてそれを知っているんですか?」

「あー、実はね、先日にセイントバードチームの人に会ったのよ。」

「え?どういう事ですか!?」

レイの質問に対し、シャルアは自身が経験した事を話す。

 クレーディト社前での氷河族とFPBの戦いの際、ジェルヴァからはぐれたシャルアはネルソンの駆るハルッグに救助され、すぐにアルバトスから去り、今に至るという事。その際は本当に僅かな時間ではあったが、エリィ達と会った話を彼にしたのである。

「そうだったんですね……偶然だったんだ……」

シャルアがセイントバードのメンバーと会っていた。その事実はレイを驚愕させる。

 偶然が偶然を呼んでいる状況。まるで、運命が彼等を鉢合わせたかのような出来事と、言えた。

「あー、そうそう。そう言えばさ、あの時整備士の人が言ってたのをちらと聞いたケド、なんか、ジャンヌ・アステルの事で色々とあったみたい。そして、あんたの話もしてたなぁ。なんだっけ、確かあんたのガンダムがアステル家にあるとかなんとかって言ってたような。」

「え……!?」

その言葉はレイに衝撃を与えた。シャルアの言葉が真実ならば、彼の乗っていたガンダム、ツヴァイは今、アステル家に存在している事になる。

「それ、詳しく教えてくれませんか!?」

と、レイは思わずシャルアに詰め寄ったのだ。

「びっくりした、それ以上は知らないわよ!あたしだって聞いたぐらいしか分からないし……でも、なんかあんた随分とそれに興味津々な様子ね。」

シャルアの言葉にもあるように、レイは今、ツヴァイの存在が気になっている様子だった。彼の愛機として存在していたMSは、今、アステル家に存在している。もしそれがあれば、もしかすればエリィ達と共に戦う事が出来るかも知れないと、レイは考えていたのである。

この時、レイは父親に言われた事を思い出した。

 

―そんな事で迷った挙句死を選ぶぐらいなら、自分の責任を全うしてから死ねば良い―

 

―――――――――――――――お前自身が光なんだ―――――――――――――――

 

―――――――お前を動かすのは俺じゃない。母さんでもない。お前自身だ――――――

 

――――――今自分が本当に何をするべきか、自分で考えて、自分で決めろ――――――

 

――――――――――それが、責任の全うなのなら、果たすべきだ。―――――――――

 

ツヴァイガンダムの所在が明らかになった。それは、レイを分岐点に立たせる事と同意義となった。彼は今の日常に苦しんでいる。一度そこから離れ、自分がしなければならないと思っている事を遂行するべきか、今の日常に戻り、受験をし、ハイスクールへ行く為に勉強をするか。

「あのさ、あんたまさか、悩んでる?ガンダムに乗るべきか……とかそんな感じの悩みを抱えてるの?」

「え……それは……」

図星だった。ツヴァイがあれば新生連邦と戦う事が出来る。新生連邦だけでない。他の勢力とも戦う事になる。エリィ達と、再び戦い、この戦争の行く末を見守れる。だがそれは再び非日常へ自分の身を投じる事になる。命がけの戦争と言う非日常へ。

 しかし今の日常はレイにとって幸せとは言い難いものだった。リルムには絶縁され、ヒューナは自殺し、母親には口を利いてもらえない状況。その上で、怪我をしていた父親の言っていた言葉。その上で絡み合う、ガンダムに乗ってエリィ達と戦うと言う事が、日常と非日常の狭間に置かれるレイの選択肢の幅を狭めた。

そして今、彼はシャルアの言葉により、ツヴァイガンダムの存在を意識するようになっていた。

「おい、レイ!」

その時、そこへ現れたのはレイの父親であるジュナスだった。彼は杖を付き、撃たれた場所を押さえながら、歩いてきたのだ。

「父さん……」

「いきなりなんか声が聞こえてお前が走るから何事かと思ってな。ん……?」

レイと話している時、ジュナスはふとシャルアの顔を見た。

(見覚えがある……この子、どこかで……?)

ジュナスはシャルアに何かを感じていた。初めて会った気がしない、違和感。一方のシャルアも、ジュナスに同様の違和感を覚えていた。

(この人……前に会ったような……?)

互いにじっと見つめる両者。レイはそれを見て首を傾げる。それが十秒程続いた時……

「あっ!」

両者は思い出したように互いに指を指し合った。

「思い出した!確か……シャルアさん……だったか。」

「こっちも思い出した!確か……ジュナス・キレスさん!村に来てくれたジャーナリストの人!」

ヒパック村でのエピソードが繋がっていく。彼等は過去に出会っている。そして、レイはヒパック村に訪れ、その話を知っている。

 今、キレス親子を知るシャルアが、目の前に居る二人に出会ったという事になる。

「そう。覚えてくれて光栄だな。ジュナス・キレス。レイの父親さ。ん?レイ、どういう事だ?もしかして、知り合いなのか?シャルアさんと。」

「うん。確か二ヶ月ぐらい前に会ったんだ。」

レイがヒパック村に来たことを、ここで知る事になる。全くの偶然。そして、目の前に居る少女がその村に居た少女という事も、偶然だ。ある意味、奇跡的と言える出来事が続く。

「そうなのか……にしても、随分綺麗になったなぁ。四年前は結構愛らしい感じの女の子って印象だったんだけどね。」

ジュナスに〝綺麗〟と言われ、シャルアは少し照れた。

「い、いやぁ!そんな事ないですよォ!キャハッ!」

そう言いながら彼女は何故かレイをバンバンと平手で叩き始めた。突然の彼女からの攻撃にレイは痛みを訴える。

「い、痛い!や、止めて下さい!」

「ハッ、ああ!ごめんごめん!うわぁ、しかもレイのお父さんの前でこんな事しちゃうなんて!ごめんなさい、ジュナスさん!」

と、シャルアは頭を下げて謝った。

「いや、別に良いんだけどさ……」

と、ジュナスが頭を少し掻いていた時だった。

「ねえ……父さん。」

突然レイは真剣な表情でジュナスを見て言った。

「どうした。」

「さっき父さんは言ってたよね。“自分の責任を全うしてから死ねば良い”って。」

この台詞を聞き、ジュナスはレイが何をしようとしていると悟った。そして、口を開く。

「決めたのか。自分がしたい事……いや、しなきゃならない事。」

「……うん。決めた。」

レイは険しい表情で言った。

「僕は戦う。この戦争の行く末を見て行きたい。僕は、自分に出来る事をしたい。」

迷いに迷った結果、レイは戦いを選んだ。それは今の日常から逃げると言う事でもあった。それはレイの本心の一つでもあったが、やはりエリィ達と共に戦わなければならないと言う使命感が彼を行動に移させたのだ。

「……そっか。戦うんだ。レイ。」

傍にいたシャルアが口を開いた。

「あのガンダムの事言って、あんた悩んでたもんね。んで、戦う事を決めた――と。」

「はい……。」

レイが返事をした時、ジュナスが言った。

「そうか……行くんだな。分かった。でも、行くにしてもどうやって自分の機体を取りに行くんだ?宛てがある訳でもないだろう?」

「それは……」

確かに戦いに身を投じるとは言ったが、レイは肝心な事を忘れていた。アステル家に関係する人間が身近に居ないのだ。エリィに連絡を取る事が出来れば良いのだが、シャルアの証言があるだけであり、今、彼等がどこにいるかなど分かる筈がない。仮に分かった所で、わざわざ自分を迎えてもらうなど虫が良過ぎる。そして、もし彼等が宇宙に行っていたのならレイは動くに動けない。

「大丈夫ですよ。うちの艦長に言っておきますから!それでアステル家に向けてジェルヴァを動かすぐらいなら多分やってくれるわよ。」

「え……!?それ、本当ですか……!?」

レイは目を輝かせた。ジェルヴァが協力して彼の為に行動してくれると言うのだ。何という、僥倖と言うべきだろうか。

「あんたがそれを望むのなら、艦長に言ってあげる。で、どうするの?行くの?」

シャルアがレイに聞いてきた。ジェルヴァチームが協力してくれるのなら、彼はそれに対して言葉に甘えたいと思っていた。

「はい!」

「じゃあ準備しよっか。あ、その前に……ジュナスさんがあんたに言いたい事あるらしいよ。」

シャルアとの会話の様子をジュナスは見ていた。ジュナスはレイに対し、口を開く。

「宛が見つかったなら行ってきな。この先どんな事があるかは分からない。でも、お前が望んだ道だ。どんな危機的状況に陥ようとも、決して弱音は吐くな。自分が決めた道に、どのような困難があってもそれを受け入れる覚悟は必要になる。それこそが、“責任の全う”だ。」

「……うん。」

レイは静かに頷く。

「それと……お前は大切な家族だ。絶対に生き残って、必ず帰ってこい。家族五人がまた揃う日を楽しみにしているよ。暫くのお別れだな。」

「でも……さよならは言わないよ。絶対に帰ってくるから……」

「言うようになったな。それに表情も少し明るくなった。やっぱり、今のお前にはするべき事があると言う事だな。戦うと言う事が。それと、母さんにはお前の事を説明しておく。今、母さんは混乱している。常識では考えられない事が立て続けに起きているからな。でもお前は気にする必要はない。頑張れ、レイ。」

「……行ってくるよ、父さん。僕は、“光”だから。」

そして、両者は握手を交わした。ジュナスは優しく微笑み、レイも笑顔を見せた。

「ジュナスさん、レイは責任を持って預かります。だから心配しないで下さい。」

「……ああ、お願いするよ。レイ、行って来い。」

「うん!」

それからジュナスはゆっくりと去って行った。その場にはレイとシャルアの二名のみが残った。

「良いお父さん持ったじゃない。あんた。」

「はい……本当に、優しい父さんだと思います……」

「じゃ、行こうか。奴隷。」

(父さんが去った瞬間に奴隷って……)

レイは苦笑いを浮かべ、シャルアに連れられてジェルヴァへ向かう事になった。

 彼はこれからアステル家へ向かい、ツヴァイガンダムに乗る為に行動する。しかし問題があった。エリィが今どこにいるのかが分からないと言う事、そして仮にエリィが宇宙にいた場合、アステル家に入る為の宛てが無いと言う事。彼にとって都合が悪い事に、現在エリィは宇宙にいる。Eフォンは宇宙と交信することは、出来なくもないが、可能性は限りなく低い。無論、今のレイにはその事など知る由もなかった。何故ならエリィ達が宇宙で戦っている間、彼は悲しみに満ちていたのだから。

 

 

 

 やがて時間が経過し、レイはシャルアと共にジェルヴァに向かう事となった。その間にシャルアはジェルヴァの艦長であるゲイルにレイの事を連絡した。

そして彼等がジョゼフと共にジェルヴァのMSデッキに入ると同時に、他のジェルヴァチームのMSが帰還してきた。彼はシャルアに誘導され、艦長であるゲイル・ゼノイア・バーダの元へ向かう。ゲイルとはシャルア同様、約二ヶ月振りの再会だった。

「お~!なんだか懐かしいような……そうでもないようなー……とにかく、素晴らしいゲストが来たね!シンギュラルタイプのレイ・キレス君じゃないか!」

レイの姿を見るなり、異様に彼の顔に近付き、感激するゲイルにレイは苦笑いを浮かべた。

「お久しぶりです……ゲイルさん。なんて言うか……相変わらずっていうか……」

「いやぁ、俺としても君にまた会えるなんて思わなかったよー!なんか運命感じるな!あ!決して俺はゲイとかじゃないからね!そこ、勘違いしないでよ。」

「そ、それは分かってますよ……」

レイはまたしても苦笑いを浮かべた。

「まさかまた会えるなんて思わなかったなー!相変わらずなんていうかー、可愛いなー!レイ君~!」

彼の姿を見て手を振るのはニア・エグドナだった。その側には彼女と仲の良いクリア・ミーティの姿もあった。

「あ……え……と……どうも……」

「ニア、自重しな。」

クリアはニアの耳元で囁いた。

「あ、あー!ごめんね!でも可愛いってのはホントだから!」

フォローのつもりだろうが、彼女の台詞はレイを困らせるだけだった。

「久しぶり、レイ。生きてて良かった。」

クリアがレイに対し、笑みを見せた。普段、クルーの前では無表情の彼女。だがレイを前にすると、笑顔を見せるクリア。この珍しい光景に、その場にいたクルー達は違和感を覚えていた。

「あのクリアが笑うなんてー……レイ君やっぱり君、凄いよー!皆を笑顔にさせる天才だね!」

するとニアがレイの側に寄り、肩を思い切り揺さぶり始めた。レイはこれに対して何をすれば良いか分からず、ただ、されるがままだった。

「こら、止めろ。」

そこへゲイルがニアを止めに入る。彼女はゲイルに注意され、自分の行動を自重した。

「ニア、自分の部屋に戻って。」

クリアがそう言うと

「そんな!それはあんまりだよー!」

ニアが困った表情を浮かべてクリアに言う。この一連のニアの動作を見て、レイは溜息を吐いた。

(相変わらずっていうか……前にお世話になった時と変わらないんだなぁ……ここって……)

相変わらず個性的なメンバーが揃うジェルヴァチーム。彼自身、またしてもここに世話になるとは思っていなかったのだ。

「やあ、レイ君ね。実際に喋るのは初めてかな?」

声を掛けられ、レイはその方向を振り向く。次にレイの事を呼んだのは、ジェルヴァのオペレーターを務めるイヤー・メゾッソだった。彼女はレイの事を知ってはいたが、一度も会話をした事が無かったのだ。

「えっと……確か……イヤー……さんですよね。」

「おー、よく名前覚えてくれてる!良かったぁ!」

イヤーは彼に名前を覚えてもらっている事で、歓喜していた。レイはそれに対して首を傾げた。

「随分レイ君はうちの女性クルーにモてるね。」

「あ……いえ……そ、そうなんですかね……?」

個性的なメンバーが集まるジェルヴァチームの皆との再会はレイにとっては嬉しい事でもあり、複雑でもあった。彼の今の心境では彼等の明るい空気に交わる事は彼自身、辛かったのだ。自分の存在がこの明るい空気を壊してしまう様だった為である。

「あの……ゲイルさん、聞きたい事があるんですが……」

周りのクルーが浮かれる中、レイはゲイルに聞く。

「ん?どうした?」

「ジェルヴァは確かヒパック村周辺を移動しているはずですよね?どうしてオスロにまで移動してきたんですか?」

ヒパック村は首都オスロよりも遥かに北に位置する場所にある小さな田舎の村である。具体的にはオスロから約400キロメートル離れている。それ程の場所から彼等はここ、オスロまでやって来たのだ。何故その長距離を陸上戦艦で必要があるのか、レイは疑問を抱く。

「君は知らないかな?新生連邦軍が国連に負けた話。」

「いえ、知っていますけど……」

「それだよ。新生連邦が本部を占拠されただろ。それで敗退してさ、遂に脅威が去ったって事で、村はその時はお祭り騒ぎだったよ。んで、ジェルヴァチームこれからどうするかって話になった結果、旅立つって事になってさ。MS乗りとして、世界中を駆け巡るって事になったのさ!」

ヒパック村を支配していた新生連邦の脅威が去った今、彼等は世界中をMS乗りとして旅をしていた最中だったのである。その中で、彼等はオスロに向かい、そこで暴れていたテロリストを撃退したという訳である。

「そういう事だね。まあ、俺があの村からいなくなれば氷河族の連中もあの村に寄りつかなくなるし、それにみんな俺に付いて来てくれている。ありがたいね、仲間ってのは。まあ、その間にシャルアがはぐれちゃったんだけどね。そこでエリィさん達と会ったって言うもんだからびっくりだよねぇ。」

「はは……あの時はすみませーん。」

シャルアが苦笑いを浮かべ、言った。

「そうだったんですね……」

ジェルヴァチームの現状を知り、レイは安心した様子だった。彼はそっと胸を撫で下ろし、静かに溜息を吐く。

「心配してくれてたのかい?」

「え!?ええ……やっぱり一度お世話になってますから。」

「嬉しいねぇ。そう言われるとやっぱり人間って存在に感謝したくなるよ。いや、ホントに!」

ゲイルの言葉に対し、レイは少し考えた。 

彼は今、人間に翻弄されている。彼をよく見てくれる人間もいれば、彼を恐怖の対象として見る人間もいる。ここの人間は自分を迎えてくれるが、全ての人がここにいる人間のように暖かな人間という訳ではない。彼はそれをよく知っている。ゲイルはここのクルーを大切な仲間と思っている。周囲の雰囲気と一人合わないレイですらも、ゲイルにとっては、今は仲間なのだ。

「本当に、なんだか申し訳がないです……僕なんかを乗せてくれるっていうのが……なんていうのか……その……」

「なんか、元気無さそうだねレイ君。」

周りのテンションとの差が激しいレイ。それは、彼自身が家族との暫くの別れをしたが、まだそれに対する心の整理が付いていない為である。

「ごめんなさい、色々と有りすぎて……やっぱり迷惑……ですか?」

以前に会った時と、明らかに暗い言動が目立つレイ。それが気になって仕方がないゲイルは、レイの肩に左腕をそっと置いた。

「まさか、迷惑じゃないよ。旅の最中なのに。旅の友は多い方が良いだろう?」

「旅の、友……。」

この時、レイはゲイルが以前に言っていた事を思い出した。

 

――――いっそ、このメンバーで旅にでも出たいなぁとは思ったりするけどねぇ――――

 

(あの時の言葉は、実現したって事なのかな。)

旅。それは、ゲイルが望んでいた事だった。だが世界情勢が不安定な状況で迂闊な旅は出来なかった。しかし今、新生連邦と言う脅威が無い世界であり、尚且つ氷河族の攻撃も減少している状況は、彼等を旅立たせる機会となっていたのであった。

「俺さ、思うんだよ。世界を巡り、様々な場所を散策する旅。これって人生に似てると思ってさ。俺はそれに対して凄く興味を持ってるんだよ。」

「興味ですか?」

ゲイルは、突如自身を含めたジェルヴァチームが世界各地を巡る旅をする動機について語りだした。その時の様子は異様とも言える程に生き生きとしており、目を大きく輝かさせているのだ。

「旅をして、目的の物が見つかったりすれば当然嬉しいだろう。でも、それが簡単に見つかるとは限らない。さっきも言ったけどこれって人生と似通ってるんだと思うんだ。」

「人生と……似通ってる?」

「人生ってさ、なかなか自分の上手く行かない事が多いじゃない?けどさ、だからこそ刺激にもなるし、良い思い出にもなる。思うように行かない事も結局は自分の中の思い出ってこと。それが楽しくて、俺達は旅をするんだ。どんな困難が待ち受けているかも含んで、これから先に何が起ころうともそれを楽しむ気で、ワクワクしながらさ。退屈ってつまらないじゃないか。だからこそ、嬉しい事や悲しい事を含む刺激を求めるんだよ。それが成長に繋がる……って思うんだよね。」

彼は人生に於ける困難を刺激と捉えた。それは紛れもなく、心の捉え方だ。普通ならばネガティブに考えるこの言葉を、ゲイルはポジティブに捉えているのだ。

「まあ、要するに気にするなって事さ。俺達は迷惑に思ってない。寧ろ感謝しているよ。以前は君がいなかったらこの艦はやられてたかもしれないし。」

「感謝……」

ここに来て、レイを褒める言葉が羅列される。それは純粋にレイの壊れかけた心に響き、少しずつ修復されようとしていた。

「ゲイルさん……僕、少しですけど……元気が出たような気がします。」

これを聞き、ゲイルは笑顔になった。

「おっ、いいね。その意気だよ!よし、じゃあ以前にジェルヴァを守ってくれた恩返しと行こう!イヤー、全員帰還してる?」

突然、ゲイルはイヤーに対して言った。イヤーはMSデッキの状況をカメラで確認した後に、

「はい、全員無事です!」

と言った。

「よし、じゃあアステル家のあるローマへ行こうか。ジェルヴァ、最大船速で南下して行くぞー!」

そう言ってゲイルが手を天井に向けて差し出すと、彼に合わせてブリッジにいたクルー達は

「オー!!!」

と言った。

「ちなみに最大船速で南下すればシミュレーションなら二日ぐらいあればでローマに着くよ。トラブルとかなければの話だけど。」

(意外と速いんだなぁ、陸上戦艦って。)

彼等といると、レイは自分の悩みが馬鹿らしく感じられた。それ程にジェルヴァのクルーは明るく、そして楽しいのだ。ここにいても悪い気はしない……と、レイは感じていた。

「そうだレイ君。着くまでの間、部屋を用意させて貰うよ。シャルア、案内して。俺はここで指揮を執るから。宜しく。」

「あ、はーい!行くわよ!」

「あ……ちょっと……!」

シャルアはそう言ってレイの手をぐいと引っ張り、彼を部屋へと案内する。相変わらず強引なシャルアの行動に、レイは戸惑っていた。

 

 

 

 シャルアに案内され、レイは部屋に着いた。その部屋は彼にとって見覚えがあった。何故ならば、彼がジェルヴァチームに助けてもらった際に目を覚ました場所だったからだ。ビジネスホテルのような造りの、セミダブルサイズのベッドが置かれている、覚えのある、清潔感のある、部屋。

「さ、ここよ。前と一緒でしょ。覚えてるでしょ。」

「あ、はい。」

二ヶ月振りに入る、ジェルヴァの居住部屋。と言っても今は少しの間世話になるだけである。

彼がデスゲイズによって瀕死の状態になった時に助けてもらった際もこの部屋であり、これから約二日間世話になる場所もこの部屋である。レイはこの部屋に何らかの縁を感じていた。レイは首をキョロキョロと部屋を見渡していた。

「でも……前にここに来たのって二ヶ月前なんですよね――」

 

                   ドサッ

 

その時、レイはシャルアによって押し倒され、ベッドの上に仰臥位の状態になり、一方のシャルアはレイを覆う形となった。彼女はレイの手首をしっかりと掴み、離さない。まるで、少女が少女を掴んでいるような構図になっている。

「あ……え……?」

「ねぇ奴隷。この部屋、誰の部屋だと思う?」

「な、何を言ってるんですか……?」

急な出来事に、レイは戸惑った。シャルアは怪しい笑みを浮かべながらレイに対して言う。

「ここ、実はあたしの部屋なの。最近移動したんだ。」

「え……あ……え……!?」

レイは動揺したまま、言葉が出ない。何故シャルアはここを自分の部屋だと言うのか、そしてその部屋に何故自分が案内されたのか。彼は混乱していた。

「混乱してる?今日から二日程はここでルームシェアするのよ。あんたとあたしで」

「え……えええっ……!?」

これが意味する事……それは、彼はシャルアと約二日間程この部屋で一緒に寝るという事だった。この事実に、レイは戸惑いを隠し切れない。

 まさか、彼女とルームシェアをすることになる等予想すらしなかった事だ。実際、シャルアとレイは短時間とは言え同じ浴室で過ごした事のある関係。故に、レイはより、困惑している。

それと同時に、レイは疑問を抱いた。ここがシャルアの部屋ならば、何故ゲイルは彼にこの部屋を提供したのかが、理解に苦しむ。

「じゃあ、どうしてゲイルさんは僕にこの部屋を……?」

「だってあたし、艦長に言ってないもん。良かったねー、奴隷。あんたドMだから朝からあたしに弄られるわね!嬉しいでしょー!」

何故このような事になってしまったのか、家族から離れた途端にシャルアと部屋を共有する羽目になってしまったレイ。

シャルアは別に嫌いと言う訳ではないが、彼女の奔放で、自分を玩具のように扱う所が、彼は苦手だったのだ。

「じゃ、そう言う事だから宜しくね、奴隷!」

そう言いながらシャルアはウインクをし、レイの手を離す。何故彼女はレイを押し倒したのかは不明だが、とにかく彼は解放された。

「あ、そうそう。ここに居る以上はオナニー禁止だから。こんな美人が同室者だから欲情しちゃう気持ちはまぁ~、分からんでもないけどしたら追い出すから。」

「しませんよ!そんな事ッ!」

レイは顔を赤め、シャルアから視線を外した。シャルアはにやにやと笑うが、レイは恥ずかしくて堪らなかった。

「アハハッ照れてやんの!むっつりスケベ!あ、ちなみにベッドはここのみだから!もし嫌ならあんたが床で寝る!ルールはあたし!逆らえば追い出す!奴隷は奴隷らしく振る舞え!アハハハハハ!」

どういう訳かシャルアと部屋を共有する羽目になったレイ。相変わらずシャルアは彼の事を奴隷扱いし、それに対してレイは彼女に逆らう事が出来ず、レイはただ俯くばかりであった。

 

 

 

 それから時間が経過した。部屋にいる間、レイはシャルアに弄ばれ続ける。最早、この場に於いては、彼はシャルアの玩具も同然と言えた。

「あんたと言えば、女装だよねー!前の衣装以外にも色々あるのよ!さあ、着なさい!」

「嫌ですよ!そんなの!」

「はいはい、ツベコベ言わない!服脱いで!ズボンも!下着も全部!」

用意されている服は赤色のゴシックロリータの服だ。屈強な男性が着れば明らかに違和感のある代物ではあるが、レイの場合は違う。それらも違和感なく似合ってしまうのだ。

 シャルアが支配する部屋では彼女の命令は絶対。故に逆らえない。レイは目の前にあるその服を静かに手に取り、シャルアが見ている前で着替えさせられる。上着、下着も全て彼女が見ている前で着替えさせられるのだ。

 下着は黒のショーツ。どこか大人の色香が漂うそれの存在に、レイはただ、困惑するばかり。

「あ、ちなみに下着はあたしの貸してあげてるから!感謝しなさいよね!フツーは下着ドロボーとかが勝手に女の子の下着盗むけど、今回はあたし公認!サイコーでしょ!ねえ!」

「ふぇぇっ!?こんなの、僕が変態みたいじゃないですかぁ!」

「今更何言ってんのさ!!これだけ女装が似合う逸材なんていないんだから!」

(最悪だ……)

レイは最早されるがままだ。力を持つ存在であるレイであれ、シャルアのこの勢いには敵わないのである。

 

 やがてレイはゴシックロリータファッションに着替えた。着替えた後でシャルアによって髪飾りを付けられ、彼女はその、少女と何ら変わりのない格好にただ、感嘆の声を上げるばかり。

「やーん、やっぱり可愛い!やっぱりあんたサイコー!絶対SNSアップしたら“いいね”たくさん付くわ!この子実は男です!みたいな!?」

「そんな……それはやめて下さい!」

「はいはい、ツベコベ言わないの。」

そのまま写真を撮られ続けた。Eフォンのカメラ機能のシャッター音が部屋の中でただ、響く。その様子は、まるでモデルの撮影会のようだ。しかし彼の場合はモデルのように堂々とした振る舞いなど出来ない。自らが否定している女装姿を延々と撮られるというのはある種の屈辱である。それを延々とされているのだ。苦痛以外の何者でもない。

 

ウィィィィン

 

その時、入り口のドアが開いた。二人しかいないこの環境の中を何者かが入って来たのだ。それも一人ではない。二人である。

「シャルアー、来たよー」

「あれ……その子は……?」

そこにいた二人は、ニアとクリアだった。赤髪と青髪の対照的な髪色が印象的な二人が何故、この部屋を訪れたのか。

 更に悪い事に、今レイはシャルアによって女装させられている最中だ。これはレイにとっては最悪のタイミングと言っても過言ではない。

「えっ!?どうして……?」

明らかに狼狽するレイ。それに対して笑顔でいるシャルア。

「二人共タイミングバッチリよー!見て見て!こいつのファッションショー!女顔の男の子が女装して写真撮られてる構図!この見る者を魅了するルックス!おまけに下着も女物を履くという徹底ぶり!」

シャルアが高らかに言った後で、彼女はレイの着ていたゴシックロリータのスカートをふわりと捲り上げる。顕になる、黒い下着。そこに映る姿は違和感ない、少女のようなレイの姿だ。愛らしい衣装と身に纏っている下着のアンバランスさが、どこか対称的で艶やかな印象を抱くようだ。

「はわわっ!?」

感嘆の声を上げるレイと違い、ニアとクリアは興味津々の様子だ。

「すごーい!レイ君本当に女の子そのもの!前、写真見せてもらったけどこれは改めて凄い!凄すぎるよー!!!」

「レイ、可愛い……本当に、男の子?」

「や……あ……恥ずかしい……」

レイはただ、顔を覆う事しか出来ない。レイにとってこの時間は紛れもない屈辱の時間なのだから。

「何恥ずかしがってんのよ!良いじゃない、ドン引きされてないんだから!絶賛されてるのよ?もっと誇りに思いなさいよね!」

「誇りなんかじゃないですよ……うぅ……」

シャルアにだけ見られるのならばまだしも、よりにもよってクルーのメンバーにその姿……更に、下着を着けている所まで見られるという始末。言い表せない恥の感情がレイを包んでいく。

「あ、ちなみに下着はあたしの貸してあげてんの!凄くない?ねぇ!」

「えぇっ!?何を言ってるんですか!?」

あろう事か余計な事まで喋り出す始末。シャルアの下着を身に付けている。それだけ聞けば明らかにレイが変質者に思われても仕方がないのだ。

「えー、シャルアとレイってもう、そこまで関係進んでたの!?パンツを共有するぐらいに!?ズルい!」

「不衛生……だけどレイを独占……シャルア、ズルい……」

しかし二人の反応は予想外のものであり、この反応に対しても彼は驚愕していた。

「こいつのファッションショーの為なら手段は選ばないのよー!はっはっはー!さて、二人共リクエストはある??レイが何でも着こなしちゃうからね!」

更には彼の衣装に対するリクエストを募る始末。それを見て、考え込む二人。

「えーと、じゃあ〜」

「うーん、悩む……」

ニアとクリアの反応はまるで漫画のキャラクターのように見える。レイの女装姿を見たいが為に考える素振りを見せる、ニアとクリア。

 何故自分はこのような状況に置かれているのだろうか。最早されるがまま。衣装はまだしもシャルアの下着を着けさせられている状況。普通に考えれば変態と罵られても文句を言えない。なのに彼はそれをさせられ、更にはその姿を肯定されている。最早、滅茶苦茶としか言い様がない。

(なんだ……これ……)

恥と困惑が混じる。感情が暴走しているようだ。そして目の前には美少女三人。その中にいる、一人の女顔の少年。この構図が彼にとって謎としか言いようがないのだ。

 

「じゃあ、メイド服!」

「ナース」

「婦警さん!」

「セーラー服」

ニアとクリアがレイに着てもらう服をリクエストし、レイはそのままシャルアの命令通りに服を着る。そしてそれらの写真を彼女達は撮る。この謎の構図は何故か続く。

「うーん、完璧な程に似合ってて可愛いんだけど、どれも鉄板ネタねー。ありきたり。」

この様子に飽きている様子のシャルアが呟いた。

「シャルアさん……あの……」

その中でレイが言葉を発した。

「なんでこんなにコスプレ用の衣装を持ってるんですか!?普通持たないですよね!?メイド服とかなんて!?」

「あー。コレは趣味!けどまさかここまでこれらを着こなす男の子が現れるなんて思わなかったケドねぇー!アハハ!」

シャルアの新たな一面を見たレイ。恐らく彼女は自分でこれらの衣装を着て楽しんでいたのだろう。これも、彼女のナルシズム故に繋がる趣味なのかも知れない。

「シャルア。」

その中で、クリアが声を掛けてきた。

「その……黒猫のフードはどうかな……?」

彼女が指を指しているのは床に置かれている、黒色の猫耳が付いたフードだった。下半身部分は丈の短いスカートであり、脚を露出させる。レイは少年だが、女性と大差のない美脚をしており、この格好に関しても違和感がないと呼べるだろう。

更に特徴的なのは両手が隠れる様なオーバーサイズの袖となっているのが特徴的だ。所謂“萌袖”のような形状をしている。

明らかに日常で着る事はないような、衣装。強いて言えば部屋着で着るぐらいだろうか。

「あー、コレはありかも!クリア、ナイス!レイ、着替えなさい。」

「えぇ……そんな……」

否定するレイだが、シャルアの目力が服従させようとする。逆らえないその無言の圧力は、レイを屈服させるのに十分な力を秘めているのだ。

 

 結局レイはその衣装を見に纏う事になった。猫の耳を模したフードに、萌え袖、そして丈の短いスカート。明らかにアニメのキャラクターが身に纏う様なその衣装。

 それがレイには似合ってしまう。この衣装をシャルアが持っているという事にも驚愕だが、自らの姿が何故これ程違和感なく目に映ってしまうというのかも気になるところであった。部屋の中にある全身鏡に映る自分の姿に恥じらいを感じつつもそれを見てしまうのはある種の矛盾と呼べるものか。

「はぅぅ……」

レイの反応。恥じらう少女の様子だ。しかし――

「可愛い〜!!!」

三人が一斉に言った。黄色い声援というものか。だが、これもレイにとってはアイデンティティの否定に他ならない。

「ねー!なんかこのままお持ち帰りしたいぐらい!ねー、何か喋ってよ、レイ君!今の君は猫だから、言葉は一つだよね!?」

テンションを上げる、ニア。それに対し、ただ、躊躇うレイ。

「うん……何か、言ってみて。本当に、可愛い……」

いつもはニアの行動を止める筈のクリアまでもが彼の容姿に感銘を受けている。無表情でいる事の多い彼女が、僅かばかり笑みを浮かべている。

「さあ、何を言えば良いか!?分かるわよね!」

とどめと言わんばかりのシャルアの台詞。そして――

 

「にゃおぉん……」

 

恥を忍び、声を出す。高らかな声だが、どこか掠れている様な声。

 それを見たシャルアが顔を顰める。ずいと近付き、レイを睨む。

「は?声、小さ。もっと大きな声で!」

「にゃあああ……」

「もっと!!」

「にゃあ!」

「まだまだ!」

「にゃあああ!」

「もう一声!」

にゃおおおおん!!!

自分は猫。自分は猫とただ、心の中で言い聞かせて精一杯声を上げた。もう、どうにでもなれ――

「可愛いよー!レイ君!!」

この様子に感銘を受けたニアがレイに抱き付き始めた。愛らしい表情を浮かべ、レイの頬を自らの頬ですりすりと触れている。

「ムッ……」

今度はこの様子に対抗しようとクリアが動いた。レイの被っている猫耳フードの上から静かに撫で始めた。

 何だ、この状況は。一体何が起きているのか。これはどういう事なのか。レイはされるがままで、困惑するばかり。

「な、なんですかこれはぁ!?」

「フフ、あんたやっぱり気に入られちゃったね。良かったじゃない。ハーレム築いちゃってる。美女三人に囲まれてチヤホヤ。フフ、あたしが作り出したかった空間の一つよー!」

「えぇ……!?」

これもシャルアの思惑だというのか。となれば、この女は一体何がしたいのかが理解出来ない。完全にレイを玩具扱いしている。

「ホントシャルアとレイ君の関係はズルいなぁ!進み過ぎだよぉ!」

「シャルアだけ、ズルい……私だって、こんなに可愛いレイを独り占めしたいのに……」

「クリアもライバルだね!負けないよぉ!」

「ムッ……」

互いに友人関係である筈のニアとクリア。なのにレイを巡って見えない火花を飛ばしている。それを見て、シャルアはただ笑うばかり。

「あーはははは!最高!はい、写真撮るわね!」

 

パシャッ

 

シャルアは更に、この状況をEフォンで撮影したのだ。黒猫のフードを被る、萌袖姿の少女のような少年を、二人の少女が取り合っているという妙な構図。これがシャルアの目的と言うのか?

「SNSに上げちゃって!シャルア!」

「駄目、シャルア、SNSに上げるのは……」

ニアとクリアの互いの意見が分かれた。そして、この中で一番困惑しているのは、レイ本人なのである。

(滅茶苦茶だよ……)

困惑する中、眼前の鏡に映る自らのその姿にどこかやるせない表情を浮かべるだけの、レイ。ジェルヴァに世話になる事で、まさか自分がこのような目に遭うとは予想だにしなかったのだった。




第九十三話、投了。
ジェルヴァチームとの再会、そして女装シーン再び。
今までの状況と大きく変わる環境にレイは困惑しつつも安らぎを覚えていた。
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