そこで彼はジンクと対峙するーー
レイはジョゼフを駆り、戦闘中域から離れ、アステル家へ向かっていた。ジョゼフを操っている間、彼は涙を流していた。
「ゼルさん……クリアさん……僕……は……」
ジェルヴァチームのクルーの死は、世話になったレイにとって悲しみ以外の何物でもなかった。だが、ここで悲しんでいる場合ではなかった。ゲイルは彼に、アステル家へ行くように言ったのだ。全てはツヴァイガンダムを受け取り、再び戦場へ戻る為。ジェルヴァチームの努力を無駄にしない為にも、彼は今、全力でジョゼフを駆っていた。
ピピピピピッ
その時、レーダーに二つの熱源が映った。彼はバックモニターを映す。そこにいたのは、ジョゼフに対して追撃を行う国連の機体が、二機いたのだ。先程の国連の隊長機の命令を無視して、彼のジョゼフを追うハイエッジのパイロットが居たのである。
「追撃……!?」
今は国連を相手にしている場合ではない。彼はジョゼフのバーニアの出力を更に高め、全力で振り切ろうとしていた。だが、後方からはハイエッジのビームキャノンが彼に迫る。
それが直撃コースだった為、レイは急いでジョゼフのシールドを展開し、ビームを防ごうとするが、出力が高過ぎたためか、ジョゼフの左腕のシールドは破壊されてしまい、機体は激しく揺れた。
「あああああッ!」
その隙にハイエッジは更に迫り、カメラアイを輝かせた。それが見えた時、レイは急いで回避を試みる。だが、もう一機のハイエッジがそれを許さなかった。
ガキィン
そのハイエッジはレイの乗るジョゼフを思い切り地面に向けて蹴り飛ばした。その衝撃で、コントロールを失うジョゼフ。モノアイの輝きは失われ、レイ自身も頭部から出血をしていた。激痛の余り、レイは目を開ける事が出来ない。
「う……うぅ……こ……んな……」
――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――
次の瞬間、レイの眼が見開かれた。それと同時に、レイの眼は深紅に満ちた。そして彼はジョゼフの操縦桿を思い切り引き、体制を立て直した後にハイエッジに迫った。
「なっ!?早い!?」
「はああああああああああ!!!」
ジョゼフのモノアイが輝いた――と同時に、ジョゼフはビームサーベルを構え、ハイエッジのコクピットを突き刺した。これにより、ハイエッジのパイロットは即死し、機体は爆発した。
「あと一機……!」
レイのジョゼフは残ったハイエッジに対して接近し、頭部を鷲掴みし始めた。そして頭部を破壊し、次にハイエッジの腹部を何度も、何度も殴り始めた。
「ぐぅっ……ぐぅぅっ……さっきまでと……違う……ぞ……!?」
「ハアアア……」
まるで憎しみを込めているかのように、彼はひたすらハイエッジの腹部を殴り続けた。だがハイエッジも延々とやられ続けている訳ではない。ハイエッジもビームサーベルをすぐに構え、ジョゼフの両脚部を切り刻んだ。だが、ジョゼフはそれでもハイエッジを襲う。
「クリアさんを……ゼルさんを……返してよ!!!」
深紅の眼をしたレイは叫んだ。まるでそれは、ジェルヴァのクルーだったクリアやゼルを殺された恨み、憎しみを叫んでいるようだった。深紅の眼のレイは叫ぶ事は、今までなかった。しかし、今、初めて彼は叫んだのだ。そして―――
グチャッ
ジョゼフは手部マニピュレーターを使い、ハイエッジのコクピットを貫き、中にいたパイロットを潰したのである。ジョゼフの手部はパイロットの血が付着している。
この手応えを感じた瞬間、レイの眼は元の綺麗な青い眼に戻った。
「はぁ……はぁ……倒……した……の……いつの間に……?」
やはり、先程の記憶は無い。彼にのみ生じる、特有の現象。彼が疑似的なアドバンスドタイプである事と何か関係があるのかもしれないが、それはレイにも分からない事だった。
ハイエッジ二機を撃墜したレイはそのままアステル家へ向かおうとした。しかし、ジョゼフの様子が明らかにおかしい。先程無理をさせ過ぎた為に、異常を来していたのだ。
「ダメだ……思うように動いてくれない……」
バーニアの出力を上げようとするも、機体が言う事を聞かない。真っ直ぐに移動するにも、上手にコントロールが出来ない。
「ダメだ……このままじゃ……」
このままジョゼフを動かしていては、いずれは墜落する。彼は脱出用のパラシュート等を持っておらず、墜落する事は死を意味する。早くジョゼフから脱出する必要があったのだが、このままでは脱出する事が出来ない。
「そこのMS、聞こえるか。」
突如、レイの耳に男性の声が聞こえた。どこからか、通信が彼の乗るジョゼフに入って来たのである。
「貴方は……?」
「私はアステル家に仕える者だ。アステル家周辺にて戦闘が確認された為、調査の為にここに来た。」
やがてレイの乗るジョゼフに、アステル家のMSであるドラグネスアサルトが近付いてきた。アステル家の人間が来てくれたという事は、彼にとって非常に幸運な出来事であった。
「あの……お願いがあるんです!アステル家の人なんですよね!」
「あ……ああ……?」
必死な様子のレイの姿を見て、アステル兵士は首を傾げた。
「本当に突然で申し訳が無いんですが……僕を……アステル家まで連れて行ってもらえないでしょうか……?このままじゃこのジョゼフは爆発して……」
そう言った直後、ジョゼフの肩部が爆発を起こした。その衝撃で、レイは揺れた。
「うあぅっ!」
「お、おい!大丈夫か……?」
「お、お願いです……早く……!」
「し、しかしな……」
アステル兵は困惑していた。戦闘が確認された場所に行けば、そこにいたのは一人の少年が乗った、半壊状態のジョゼフの姿があり、少年はアステル家を求めている。何が原因でこのようになったのかは、兵士には分かる筈が無かった。
しかし、ジョゼフは間違いなく壊れようとしている。中の少年をこのまま見殺しにする訳には行かないと思った兵士はドラグネスアサルトのコクピットを開いた。そして、腕部をジョゼフのコクピットに差し伸べ、言う。
「早く乗れ!」
「あ……ありがとうございます!」
レイは急いでコクピットを開き、ジョゼフから脱出する。その直後―――
ドゴオオオオオ
ジョゼフは激しい爆発を起こし、そのまま落ちて行った。兵士はそれを見て、唖然とした。
「助けて、正解だったようだな……」
兵士にはこの状況が分からなかったが、レイは助かった。そして彼はドラグネスアサルトのコクピットに入り、少しの間兵士と時間を共にする事となる。
「一応助けはした。でもな、俺はお前を疑っている。」
コクピット内で、兵士が放った台詞だった。レイは一応保護はされ、現在は目的地であるアステル家へ向かっている最中である。その間の出来事だった。
「え……?」
「お前みたいな女の子がMSに乗ってあの状況……アステル家に刃向うテロリストの一員か何かか?」
そう言って、兵士はギロリとレイの顔を睨むように見た。
「ち……違います!それに僕は男です……僕がアステル家に行きたい理由は――」
レイは手早く理由を言う必要があると思い、これまでの経緯をあえて話さずに兵士に言った。
「ツヴァイガンダムに……再び乗る為です。」
「つ、ツヴァイガンダムって……お前、ツヴァイガンダムって名前を知っているのか!?再び乗るってお前、どういう事だよ?」
兵士の表情は驚きへと変貌した。保護した少年がツヴァイガンダムの事を知っている。それが、兵士にとって意外な事だった為である。
そして、レイはツヴァイガンダムを一度手放す事となった理由を説明した。一度故郷に帰ったが、自分のするべき事をする必要があると考え、今はツヴァイガンダムに乗って皆と戦いたいと言ったレイ。だが、兵士は言う。
「確かあの機体はバイオメトリックスが搭載されているって聞いたな。ああ、それでお前専用の機体って訳か。んで、さっきジョゼフに乗っていたお前がツヴァイガンダムに乗る為にわざわざ来たって訳だ。」
「はい……!」
どうやら兵士は彼の話を信じたようだった。ツヴァイガンダムはこれまで様々な戦場で活躍していた為、そのパイロットである彼を信じたいと思ったのである。
「でもな、あの機体、お前専用じゃなくなるんだよ。」
「……え……?」
兵士が口にした台詞は、レイにとって衝撃的なものだった。ツヴァイがレイ専用の機体でなくなる……それは、一体何を示しているのだろうか、今のレイに分かるはずが無かった。
「あれはアステル家が改修して、ブリッツファンネルを更に強化させ、それで宇宙で戦っているFPBに送り届けられる予定になっている。だから一度アステル家が改修したんだよ。」
「そんな……でも!それなら尚更僕が乗ります!僕がツヴァイに乗って、皆を助けるんです!」
兵士は最初、反対しようと思っていた。だが彼がツヴァイガンダムを知っている事と、ジョゼフに乗っていたという事実から、もしかすれば彼は信じられるのではないかと思い、兵士は口を開けた。
「じゃあ、一度行ってみるか。お前がもし〝本物〟のツヴァイガンダムのパイロットなら、FPBの戦力として是非戦って欲しい所だからな。」
「ありがとうございます!!!」
彼にとって、ツヴァイガンダムを知っているという事実が役立った。それが無ければ、彼はこのまま門前払いで帰らされていた事だろう。
遂に、レイはツヴァイガンダムが格納されているというアステル家に辿りつく事が出来た。それまでに多くの犠牲者が出たが、長い道のりの果てに、彼は戦う為の力を再び得る事が出来ようとしていたのである。
やがてレイはアステル兵によってアステル家に辿り着く。本来ならば外部の人間は一切中に入れてはいけないアステル家だが、レイがツヴァイガンダムのパイロットであると言う事で、兵士が領主であるジンクに連絡し、許可を得たのである。
だが地面に降り立った際、彼は早速入念なボディチェックをされた。銃や刀など、殺傷能力のあるものを所持しているのかを確認する事で、彼が嘘を吐いているのではないかを確認する為である。もし殺傷能力を持つ武器を持っていて、〝アステル家に行きたい〟と言う事は、ジンクを殺害すると疑われても仕方が無い。彼がチェックを受けたのはこのような武器のチェックだけではなかった。手や、口腔内や、臓器の中……それ等の中に何か危険物を持ち込んでいないか等、入念なチェックは更に続く。
やがてチェックは終わり、彼は何も所持していない事が確認出来た。だがそれだけではまだ信用されない。
「武器は無い事は確認した。だが、まだお前を信用していない。簡単にここに入れると思うな。」
「そんな……」
ここに来ればツヴァイに乗る事が出来る……と考えたレイだったが、その考えが甘かった。実際、ジャンヌやアレンといった人間なしでここに来た事自体がそもそも奇跡的なのだ。本来彼は迎撃されてもおかしくない立場にある。何故ならば、この場にジャンヌやアレン等の人間との繋がりを見せる証拠が無いのだから。
「随分と騒がしいようだな。」
落ち込むレイの前に、一人の威厳のある男が姿を現した。その姿を見た瞬間、兵士は敬礼をする。そして、男はレイの姿を見た。
「騒がしい原因はお前か。」
「あ……あの……貴方は……?」
兵士の様子を見るからに、間違いなくこの男はアステル家の中でも偉い人間に当たる存在だろうと、考えた。
「何者だと思うか。」
「あ……その……分かりません……」
偉い人間である事は分かる。だが、名前が分からない以上、レイに判断する事は出来なかった。
「ジンク・アステル。」
「アステル……あ……じゃあ……貴方が……ジャンヌさんの……そして……」
この男がアステル家の領主であると知った時、レイに緊張が走った。唾を飲み、冷や汗を掻く。自分は、偉大な人間を前にしているのだと、彼は認識した。
「話は聞いている。お前がツヴァイガンダムに搭乗していた人間だそうだな。名前は?」
「僕は……レイ。レイ・キレスです。」
レイは冷や汗を掻き、緊張した様子で言った。
「レイ・キレスか。先程一応ここに入る許可は入れたが……残念だがお前がツヴァイガンダムに乗っていたという証拠がない以上、簡単にここを通す訳には行かない。」
(そんな……)
ツヴァイガンダムに乗っていたという証拠……それは、今の彼には思いつかなかった。証拠が無い以上、彼が再びツヴァイに乗る事は難しい。
(証拠……)
彼の中で、〝証拠〟というキーワードが浮かび上がった。それと同時に、レイは何かを閃いた様子を見せた。そして、レイは口を開く。
「証拠ならあります!」
「ん?」
レイの言葉に、ジンクは反応した。
「ツヴァイは僕専用のMSでした。過去に搭乗した記録を調べれば、恐らく僕のデータが出ると思います!それに、貴方がジャンヌさんのお父さんなら、ジャンヌさんと連絡をとって下さい!それで僕の事が分かれば、それだけでも十分な証拠になります!」
「お前!口の利き方に気をつけないか!」
側にいた兵士が怒った。だが、それをジンクは止めた。
「そうだな。確かに搭乗者記録は調べようと思えば調べられるし、ジャンヌにお前の事を話し、それを知っているのならば紛れもなくお前がツヴァイガンダムのパイロットだ。元々ツヴァイはバイオメトリックスが搭載されているから、お前のデータが出れば確実だろうな。その為にはお前の身体の一部。例えば、髪の毛根が必要となる。」
「じゃ……じゃあ……!」
「調査ぐらいならしてやろう。あの機体は改修後、誰でも搭乗する事が出来るようにしてジャンヌらのいるFPBに送ろうと元々考えていた。そこへパイロットであるとされるお前が来た。もし出た情報がお前を示すものならば、乗り、戦え。」
「……はい!」
まだ彼がツヴァイに乗る事が出来ると確定した訳ではない。しかし、希望は見えた。これでレイが乗っていたと言う証拠が見つかれば、彼は晴れて、再びツヴァイガンダムに乗り込む事が出来るのだ。レイは自分の髪の毛根をジンクに差し出し、検証してもらう事となった。
それから少し時間が経過し、ツヴァイガンダムから搭乗者のデータが出た。結果、レイが搭乗していると言う明確な証拠が出た。念の為に、ジンクはジャンヌに連絡を取った。ジャンヌはレイの事を聞き、驚いた様子だったという。
この一連の流れにより、レイはツヴァイガンダムのパイロットである事が証明された。レイはそれを知り、一安心する。
「付いて来い。」
そう言ったのはジンクだった。レイは言われるままに彼に付いて行く。
ツヴァイガンダムが格納されているという格納庫までジンク本人が案内をしてくれる事となった。案内をするのはジンクだけではない。ジンクを守る護衛の兵士もいた。ジンクの身に何かが起きない様に護衛を付けるその姿に、レイは茫然とした。とは言えひとまず、ツヴァイに搭乗する事が出来ることが確定した為、レイは安心してジンクについて行く。
(思えば……僕は凄い人と一緒にいるんだよね……)
ジンク・アステルは世界的な貴族であるアステル家の領主である。普通の人間が彼に会う事は出来ない。だがレイはツヴァイガンダムのパイロットであると言う事でジンクと共に歩く事が出来る。それだけ自分の課せられた使命は大きいものなのであろうかとレイは考えた。
「レイ・キレス……だったか。お前に、二つ聞きたい事がある。」
「あ……はい……?」
急にジンクは立ち止まり、レイに話し掛けた。
「まず、何故ジャンヌと行動を共にしなかった。行動をしていれば、わざわざアステル家に訪れるような面倒な事をしなくて良かったものを。」
ジンクの質問は、今までツヴァイを乗っている事実がレイにあるのならば当然出てくる質問だった。今までツヴァイガンダムを乗っていたのに、何故FPB設立時になってツヴァイを手放す事となったのか。当然レイには事情があるが、それはジンクの知る所ではない。
「僕は元々一般人なんです。でも、色々な事があり過ぎました。自分の日常生活と、自分がするべき事を比較して、自分がするべき事を選びました。正直、自分勝手な話だと思います。でも……僕はするべき事をする為に、ここに来ました。」
「そうか。」
ジンクはレイにこれ以上聞こうとしなかった。悩んだ結果、自分の意思でここに来たと言う事を聞き、彼は次の質問に移った。
「二つ目の質問だ。お前は本当に後悔は無いのだな?」
「後悔……」
自分のするべき事をする為に、約束された筈の日常生活を自ら断ち切ったレイ。無論その日常から逃げ出したいと言う目的もあったが、今の彼の場合は、自分のするべき事を実行する為に、戦場へ戻る事を決意していた。
「後悔は、ありません。ツヴァイガンダムで、ジャンヌさんとか、皆を守れるのなら。僕は、自分の持てる力を発揮したいです。」
レイは答えた。すると、ジンクは彼の眼をじっと見始めた。まるで威圧を掛けられているようで、レイは緊張した。彼が緊張している間も、ジンクはレイの眼を見続ける。そして――
「随分と若いのに、意思はそれなりにしっかりしているように見える。しかし一方でまだまだ優柔不断な所や甘えが見られるようにも見える。しかし、お前がツヴァイガンダムに乗って戦い抜いていたのならば、その実力を存分に発揮するが良い。」
「……はい。」
そして、レイはそのままツヴァイが格納されている場所までジンクに案内される事となった。彼はツヴァイの下へ辿り着く間、緊張し続けていた。ジンクという、普通の人間が合う事が出来ない人間を目の前にしている事、そして、護衛の存在が今のレイにプレッシャーを与えていたのである。
ガチャンッ
やがてツヴァイが格納されている、格納庫に辿り着いた。そこに辿り着くなり、ジンクはすっと手を上げる。すると格納庫全体の照明が点いた。
「ツヴァイだ……」
レイは思わず言葉を洩らした。地球上での新生連邦との決戦まで乗っていたMS、ツヴァイガンダムが目の前にある……そして彼は今からエリィ達の所へその機体で向かい、共に戦う……そう思うと、レイは一層緊張した。
「……あれ……ファンネルが……大きくなってる……?」
レイはツヴァイガンダムを見て疑問を抱いた。以前見た時と違い、背部のブリッツファンネル六基が僅かだが大型になっているのが分かった。それに以前と違い、ファンネルに黒い一本線の模様が描かれている。
「気付いたか。まあ、パイロットならば気付くだろう。数日前にジャンヌ達から回収し、大幅に強化したのが今のツヴァイガンダムだ。先程も言ったが、あの機体は本来ならばデータを抹消してジャンヌ達の下に届けられる予定だったが、お前が乗るのならば、お前が乗り、扱え。」
ジンクが言うには、今のツヴァイガンダムは以前よりも遥かに強化されているという。
「大幅に強化ですか……。」
「ブリッツファンネルを重点的に強化した。……ああ、そうか。」
突如、ジンクはレイの姿を見た。急にジンクに見られたレイは、静かに首を傾げる。
「お前はシンギュラルタイプだな。でなければファンネルは扱えまい。」
「え……あ……はい……」
本当は、シンギュラルタイプでないと言いたかったが、話がややこしくなると判断したレイは、この場ではそれを肯定した。
「強化したツヴァイのブリッツファンネルは性能が非常に強力な分、使い手を選ぶ。シンギュラルタイプの中でも非常に強い力を持つ者でなければ扱う事は恐らく難しいだろうな。」
ジンクの言葉にレイは不安を抱いた。只でさえツヴァイに乗る事は久しぶりであるというのに、ましてや強化されたファンネルを扱うとなると、彼自身にも扱えるかは分からない。
そのファンネルがどの程度の強さを秘めているのかは分からないが、ジンクにそのような事を言われてはレイ自身が不安になるだけである。
―――君こそが世界で……いや、宇宙で唯一の、人工的に作られたアドバンスドタイプということだ――
その時、レイは思い出したくない台詞を思い出してしまった。レイを人工的なアドバンスドタイプに仕立て上げた人間であるダリオン・イブルークの台詞……以前のレイならばそれは頭を抱えるべき事だっただろう。しかし、今のレイはその言葉に嫌悪感を抱きつつも、静かに口を開いた。
「アドバンスドタイプなら……どうですか。」
先程シンギュラルタイプであると言ったばかりのレイだが、今度は“アドバンスドタイプ”について聞いた。
「アドバンスドタイプ……?ああ、ジャンヌから聞いたか。ジャンヌはアドバンスドタイプだ。今は亡き、私の妻の血を引いたんだろう。アドバンスドタイプの力は遺伝するというからな。で、何故突然アドバンスドタイプの話をした?」
レイは目を一度閉じ、そっと深呼吸した後で言った。
「アドバンスドタイプの力なら、その強化されたツヴァイが扱えるのかと、思いまして。」
「……まあ、可能だろうな。……正直、私もアドバンスドタイプの事は全く分かっていない。自分の娘がアドバンスドタイプであるという事しか、私には分からんよ。あれは謎が未知数だからな。」
自分の娘がアドバンスドタイプであるにもかかわらず、ジンクにもアドバンスドタイプの事は分からなかった。ただ、アドバンスドタイプが凄まじい力を秘めている人間であるという事しか、彼にも分からなかった。
「……信じて貰えないかも知れませんが……実は僕も、アドバンスドタイプなんです。」
ジンクは耳を疑った様子で言った。
「今、何と?」
「僕はアドバンスドタイプなんです。ジャンヌさん達みたいな、純粋なアドバンスドタイプではなくて……なんていうのか……人工的に作られたっていうのか……」
レイは自分の口から、自身の事を語った。それは、レイが自分をアドバンスドタイプであると認めた瞬間であった。以前の彼は間違いなく、否定していた事実。だがその否定したかった事実を、彼自身の口から発したのである。それは間違いなく、彼自身の成長を意味していた。
「人工的に作られたアドバンスドタイプ……だと……お前が!?」
「信じてもらえないのは分かっています。でも……僕はアドバンスドタイプなんです。多分、世界で初めての……人工的に出来たアドバンスドタイプ……それが僕なんです。」
何故、レイは自分からアドバンスドタイプである事を認めたのか。それには、彼に発せられた台詞が関係していた。
――――世の中にはな、もっと悩んでいる人間がいる。お前の悩みは贅沢なんだよ―――
―――――――お前は恵まれた環境にいるからそんな贅沢な悩みが出来る―――――――
―例えあんたが本当に身体が光るところを見ようが、全然私は動じないし、気にしない―
――――――――――――――あんたは私の知ってるレイだから―――――――――――
レイの父親であるジュナスと、ヒューナの台詞だ。彼がここに来る前に彼に発せられた台詞が、今になってレイの中で蘇り、自分自身の悩みは甘えだと、自分に言い聞かせたのだ。それがレイをアドバンスドタイプであると認めさせたきっかけだった。自分がアドバンスドタイプであっても、認めてくれる人間がいる。レイはそれを信じ、自分からアドバンスドタイプである事を認めたのである。
「本気で言っているのか、お前は……?」
「……はい。」
レイは決意に満ちた表情で言った。
「どういう由来かは分からないが、お前はアドバンスドタイプである……と?」
「……はい。」
唐突に〝自分がアドバンスドタイプである〟と言われて、誰が信じるだろうか。普通は疑う。疑って当然だ。ジンクは咳払いをし、言った。
「悪いが、根拠が無さ過ぎる。しかし今はお前を調べる時間が無い。とにかく、お前が今のツヴァイのファンネルを扱える事を信じるぞ。」
レイの言葉に疑問を抱くが、証拠が無い以上は何も出来ない。今はとにかくツヴァイをジャンヌらの元へ送る必要があると考えたジンクは、レイを急かすように言った。
「あの、所でジャンヌさんはどこにおられるか、分かりますか?」
これから合流するにも、彼女等の場所がどこにいるのかを把握する必要があった。レイはジンクに聞く。そして、ジンクは答える。
「宇宙だ。ポイントC-3宙域だったか……月面に近い位置にいる。そこにシュネルギアと新型の戦艦が合流していると聞いている。」
「分かりました……え……!?あれ……宇宙……ですか……?」
レイは耳を疑った。まさか、ジャンヌらがいる場所が宇宙だとは思いもしなかった為である。
「ああ。宇宙に上がった事はあるか?」
「いえ……初めてです……」
合流する先が、自身が上がった事すらない宇宙空間である事に、レイは戸惑いを覚えた。
レイにとっての宇宙は、無縁の場所であると感じていたからだ。地球で育ち、今まで何気ない日常生活を送って来たレイにとって宇宙は遠い存在である。しかし、ジンクの台詞により、今から彼は宇宙へ行かなければならない事となった。
(そんな、いきなり宇宙なんて……!上がった事すらないのに!どうしよう……)
躊躇うレイだが、宇宙へ上がらなければ皆と合流が出来ない。しかし宇宙は彼自身初めての空間だ。何が起こるか分からない。レイの中で、一気に不安が高まった。
「宇宙には始めて……か。無重力空間は地球とは全く異なる。MSの操作も、地球とは大きく異なる。それだけは留意しておけ。後は感覚だ。己の力を信じろ。」
「は、はい……!」
宇宙へ行かなければならないのなら、今は行くしかない。不安はあったが、レイは覚悟を決めている。ここで下がる訳には行かなかった。
(……あれ?どうやって宇宙へ行くんだろう?)
ふと、レイは思った。ツヴァイガンダム単体で、宇宙へ上がる事など出来るのだろうか――と。
普通、宇宙へ向けて大気圏離脱を行う為にはマスドライバー等の設備が必要となる。地
球上の戦艦が宇宙に向けて発進するときは、必ずマスドライバーを使う必要がある。そし
て、大気圏離脱の際の熱にやられないように、何らかの形で機体を保護しなければならな
い。
「宇宙へ行く方法が分からない……と思っているようだな。安心するがいい。ツヴァイにはMS用のロケットブースターを装着させる。」
「ロケットブースター……ですか?」
「今からそれを行う所だ。少し待っていろ。」
どうやら、ジンクが言うにはMS用のロケットブースターがあるらしく、それを使って今
からレイは大気圏離脱を行い、宇宙へ行くのだという。彼はツヴァイの脚部とロケットブ
ースターがドッキングするのを待つ為、レイは一度その場から離れる事となった。
30分後、改めてレイは格納庫に戻って来た。そこには、ロケットブースターが脚部に装
着されているツヴァイガンダムの姿があった。そしてそれはロケット台に装着されており、準備が完了していた。
「凄い……これを使って宇宙へ……?」
大型のロケットブースターの姿を見て、溜息を吐くレイ。その際、側にいたジンクがレイに対して言った。
「本当ならば大型シャトルに格納して宇宙へ上げる予定だったが、お前が乗るのならば
丁度試したい機能がある。あのファンネルを展開し、ビームのバリアーを作り、大気圏を離脱するのだ。
「……え!?最初からシャトルに乗せた方が良いんじゃ……?」
レイの言う通り言う事は正しかった。リスクを考えるのならば、どう考えても大型シャトルにツヴァイを格納させた方が良い。しかしジンクはあえてそれをしなかった。
「強化されたツヴァイのファンネルの力を試すいい機会だと思ったからだ。良いか、高
度75キロメートルの時点でファンネルを展開しろ。己の意思で、ツヴァイ全体を包むようにファンネルを動かせ。それで大気圏離脱が出来る筈だ。」
核心がある訳でもないのに、始めて扱う、強化されたファンネルの使用を強いられるレイ。この時、レイは更に不安を抱いた。
「嫌ならば降りても良いのだぞ。」
「……行きます。」
だがここで下がる訳にもいかない。レイはジンクの言葉を信じ、ツヴァイに乗り込む事
を決めた。高度75キロメートルでファンネルを展開という、その言葉だけを信じ、レイはごくりと唾を飲む。
「ああ、当たり前の事だが宇宙へ行くならばパイロットスーツの着用は絶対だ。増して
や、今回は大気圏離脱をする。少しばかりリスクが大きくなるから、特殊タイプのスー
ツを着てもらう。これで大気圏離脱時のお前の身体への負担は軽減される。」
そう言ってジンクは側近にパイロットスーツを持って来させた。
レイ自身、パイロットスーツには数回着用した事はある。だが宇宙に行くにあたって特殊なパイロットスーツを着用したのは初めてだ。その衣装は、古来の宇宙飛行士の宇宙服を想定させた。
やがてレイはそれを着用し、ツヴァイに乗り込む。バイオメトリクス認証を行い、網膜スキャンがレイの眼を照合する。
Scanning your eyes.
(宇宙に上がるんだ……これから……初めての……宇宙……)
いよいよ、レイは宇宙へ上がる。生まれて初めての宇宙。しかし、彼にとっての宇宙は
只の憧れだけではない。これから起こると考えられる、大規模な宇宙戦争。レイはその
渦中に向かい、仲間と共に戦うのである。
complete.
緑色のモニターが映し出された。この画面が表示されたという事は、ツヴァイは彼が動かすことが出来るという事になる。
ピピピピピッ
その時、ジンクから通信が入った。
「気をつけろ。ツヴァイの新型のファンネルは非常に強力だ。使いこなせるかは不安だが、とにかく、己の力を信じろ。後は健闘を祈る。」
自分の為にここまで準備をしてくれたジンクに感謝の言葉を述べ、レイはいよいよここから去ろうとしていた。
新生連邦との全面戦争が終わってから時間が経ち、その間にレイは様々な悩みを抱えてきた。それらの悩みをどうにか抑え込む事が出来たレイは、仲間と共に戦う為に宇宙へ向かう。その先に何が待ち受けていようとも。
ドオオオオオオオオ
やがて格納庫の天井にある自動開閉シャッターが開かれ、太陽の光が地下の格納庫を照らした。それと同時にロケットのエンジンに火が灯され、そして――
ゴオオオオオオオオオオオオ
エンジンの轟音が、辺りに響く。やがてツヴァイガンダムと連結したロケットはアステル家の格納庫から離れれて行く――
宇宙に上がるレイ。生まれて初めての宇宙だ。そこで何が待ち受けるのかは分からない。だが彼はこの先の世界を見る為に、行動に移した。自らの意思で、次の場所へ移ろうと決めたのだ。その決意は今までの物と比にならない。成り行きの世界とは違う、自分の意思の世界だ。
ここまで来た以上、彼は覚悟を決めなければならない。その覚悟が決まった時、レイの眼は開かれた。
やがて、高度が75キロメートルに差し掛かった頃、レイは一度目を閉じ、意識を集中させた。
(高度75キロメートル……そこで……ファンネルだ……行け……!)
ピキィィィ
レイの脳内で電流が流れた……と同時に、ツヴァイの背部に搭載されているブリッツファンネルが一気に展開され、更にミニファンネルも展開され、計十八基のファンネルがツヴァイの周辺を包んだ。
「今だ!」
ピシュンッ、ピシュンッ、ピシュンッ
レイが叫ぶと同時に、ファンネルは突如ビームの共鳴を開始した。近くにいたファンネル同士がビームバリアーを作り出し、やがてそれは同じように広がって行く。一度作り出されたビームバリアーは、更に別のビームバリアーと共鳴を果たし、やがて最終的には巨大なビームバリアーへと成長を遂げたのである。
その大きさは推定5キロメートルに及ぶ。超大型のビームバリアーが、この時点で完成されていたのだ。
「すご……い……これが……ツヴァイの……力なの……?」
レイは自分の目を疑った。今までのツヴァイにはなかった新たなる力。それはファンネル同士がビーム粒子の共鳴をする、ビームリゾネートジェネレーターによるものだった。ファンネル内部に存在しているビームリゾネートジェネレーターが、別のリゾネートジェネレーターと共鳴し、ビーム粒子の展開力を広げていたのである。その数はブリッツファンネルが六基、ミニファンネルが銃に基、合計十八基のファンネルに及んだ。それらが一斉に共鳴した為、巨大なビームバリアーを展開する事が出来たのである。
今、ツヴァイはそのまま大気圏を離脱しようとしていた。この時、ロケットブースター
は自動的に分離を開始した。そして――
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ
ツヴァイガンダムは大気圏離脱に成功した。十八基のファンネル達が、ツヴァイの機体を守ってくれたのだ。
この時、レイは無重力を感じていた。少しばかり放心状態になるレイ。思った以上に瞬く間の出来事であった為、レイは少し戸惑っていた。
「はぁ……はぁ……う……宇宙だ……凄い……これが……宇宙……」
レイは想像していた以上に、宇宙空間が何もない空間である事に驚いていたと同時に、その〝無〟とも言える何とも言えない空間を見てはっと息を飲んだ。それはどこか恐ろしく、そして、どこか神秘的だったのだ。
ふと、レイは背後を見た。レイの眼に映っていたもの。それは、先程まで地に足を着いていたであろう、地球であった。レイは宇宙から地球を見た事など、今まで一度もなかった。暗闇である宇宙空間の中で、青く、美しいその惑星の輝きは、レイを感動させた。
(僕がいた世界ですら広いと感じていたけど……宇宙は凄い……僕がいた世界が、小さく感じる……地球は青かったって台詞があるけど……本当に、青い……綺麗で……この星にいっぱい人が住んでいるんだ……)
始めての無重力、初めての宇宙、初めての宇宙から見た地球。これらを感じて、レイは自分自身が如何に小さい人間であるかを認識した。この時、レイは静かに目を瞑っていた。無事に大気圏離脱が出来た事による安心が、彼をそうさせたのだ。
彼が地球の姿を見て感動している頃、レイの乗るツヴァイの姿を補足した二隻の戦艦の姿があった。いずれも新生連邦軍の所属のヴィッシュ級巡洋艦であり、彼等は宇宙空間に位置機だけで存在しているツヴァイの存在に疑問を抱いていた。
「あれは……ガンダムタイプでしょうか?」
「あれには見覚えがある。国連との戦いで投入されていた強力なガンダムタイプだ。」
「あれがたった一機ということは、あれを破壊するか鹵獲するか。それによって戦況が変わるかも知れないですね。」
ヴィッシュ級の指揮官と艦長がブリッジ内で会話をしていた。その時、指揮官の男がニヤリと笑みを浮かべ、艦長に言った。
「よし、鹵獲だ。早速MSを出せ。最初に三機、そこから後続でMS隊を出す。」
「しかし、危険ではないですか?」
艦長の男が動揺しながら言った。
「あのガンダムは強力な力を秘めている。それを我が軍の物に出来れば我らが有利になるだろう。増してや、ガンダムは本来連邦軍の専売特許だ。それを奴に思い知らせてやれ。」
何故か強気のその指揮官。艦長はこの男の言葉に対し、静かに頷いた。
「最初の三機は陽動だ。後続の機体は各機捕獲用のビームネットを装備!奴が隙を見せた瞬間を狙え!」
指揮官が戦艦の中にいたクルーに命令した。それを聞いたパイロット達は出撃準備を始める。
そして、ヴィッシュ級のカタパルトからは陽動用の三機のMSが出撃した。指揮官機としてグランシェ、後続の機体としてジョゼフがモノアイを輝かせ、ツヴァイに迫る。
ピピピピピ
レイはツヴァイのレーダーに表示された熱源反応を知らせる音で目を開けた。レイはモニターを確認し、ツヴァイに敵機体が迫っている事を悟り、急いで操縦桿を引いた。
「あ……あれ……!?」
慣れない宇宙空間であるのか、思うようにコントロールが効かない。真っ直ぐに動いている筈が、何故かジグザグに動いてしまっている。武装を構える事は今まで通り可能なのだが、この状態では敵に接近する事が出来ない。
焦るレイ。しかしその間にも、敵は迫って来る。グランシェはモノアイを輝かせ、ビームケーブルを展開し、ツヴァイに迫った。
「クッ!宇宙に来た瞬間に敵と戦うなんて!」
慣れない宇宙空間の上、早速登場した新生連邦軍。しかしここでやられる訳には行かない。レイは一刻も早くエリィ達と合流しなければならないのだから。
「なんだこいつ、動きが……」
「どういうつもりかは知らんが!」
二機のジョゼフはビームライフルを構え、連射する。グランシェは左腕部のシールドから、シュート・シューターを展開し、ツヴァイに迫った。
「ううっ!」
ビームライフルはバリアーフィールドによって防ぐ事が出来た。しかし、実弾兵器であるシュート・シューターの砲撃を避ける事は出来なかった。若干のダメージを受けるツヴァイ。それと同時に、レイは操縦桿を引き、ツヴァイのバーニアの出力を高めた。
「こんなところでやられるもんか……!僕はやらなきゃならない事をするんだ!」
ピキィィィ
再びレイの脳内に電流が流れ、ブリッツファンネルが展開された。宇宙空間でのそれらの動きは、大気圏内でのファンネルの動きと違い、動きが素早く、そして扱い易く感じられた。
ビームリゾネートジェネレーターを搭載しているファンネルによるビーム砲撃は、非常に強力な性能を誇っていた。この高出力のビームにより、二機のジョゼフは瞬く間に破壊される。
「なんだと!?クソッ!」
残された隊長機のグランシェはビームマシンガンを連射した。だが、いずれもバリアーフィールドを展開しているツヴァイのブリッツファンネル、ミニファンネルによって無効化された。
「そこだっ……!」
再びレイはファンネルを動かした。そしてそれらは一斉にグランシェの元に迫る。逃げるクランシェ。レイはそれを見て追撃は止めようと思っていた。しかし――
「甘いな!」
グランシェはビームサーベルを腰から抜き、ツヴァイに対して接近戦を試み始めたのだ。移動する事は慣れていないレイ。このままではグランシェによって切り裂かれてしまう危険性がある。
「僕だって!」
その時、ツヴァイのカメラアイが輝き、右腰部に搭載されているメガビームセイバーを展開し、グランシェと打ち合いを始めたのだ。
「あえて下手糞を演じたか!ガンダム!」
グランシェは新生連邦の機体の中でも優秀な機体であり、いくらツヴァイとはいえ簡単に倒す事が出来なかった。外見は大型機体ではあるが、機動性が高い。ツヴァイがファンネルを射出しても、素早い動きで回避されていく。
「当たらない……!?」
ビームリゾネートジェネレーターを搭載しているブリッツファンネルだが、グランシェはこれらのビーム砲撃を全て回避し、ツヴァイに対してビームマシンガンで攻撃をする。ツヴァイは左腕部を差し出してバリアーフィールドを展開し、ビームマシンガンによる攻撃を防いだ。
「え……!?」
この時、ツヴァイのレーダーに別の熱源反応が映った。それを確認した後、レイは前方を見る。そこにはビームマシンガンを構えるグランシェの後方より、モノアイを輝かせたMS部隊が迫って来ているのが確認出来た。敵はたった三機だけではない事を把握したレイは、この状況を打開する必要があると考えた。
(このままここに居る訳にもいかない……早く……早くエリィさん達に……!)
宇宙に来てすぐに新生連邦と戦闘になったレイ。ただでさえ宇宙という、彼にとって異質な空間で不利な戦闘を強いられているのに、敵は数多い。その上機体はいくらバーニアの出力を上げても思うように動いてくれない。
しかし、幸いな事にファンネルの動きは大気圏内よりも動きが機敏で、彼にとって扱い易いと言えた。この状況を打開できる武器。この時、レイはそれがブリッツファンネルであると確信した。
(ファンネルの動きは地球にいた時よりも機敏だ……なら、ここを突破するには!)
キシィン
彼がそう考えた直後、ツヴァイのカメラアイは輝き、そのまま敵のいる部隊へ直進し始めた。
「自ら引っ掛かりに来るのか!?手間が省けるな!」
そう言うのは、ビームネットを装備した後続のジョゼフやディーストに乗るパイロットである。彼等はツヴァイを捕獲する為のビームネットを展開する装置を持っており、展開されるとビームネットが展開し、掛かった機体はネットから流れる電流によって機体の制御が困難となる仕組みとなっている。
飛んで火にいる夏の虫……今のツヴァイガンダムの行動を、その場にいた新生連邦兵は誰もがそう判断していた。
「行け……」
静かにレイはそう呟き、ブリッツファンネルを一斉に展開した。それらはツヴァイの周囲を取り囲んだ後、リゾネートジェネレーターにより、ビーム粒子の共鳴が生じ、巨大なビームサーベルの形状となって一斉にディーストやジョゼフに襲い掛かった。ツヴァイガンダムに搭載されているブリッツファンネルには、二基のミニファンネルが搭載されている。つまり、合計三基のファンネルが粒子の共鳴によってビーム刃の出力を上げ、新生連邦のMSを切り刻もうとしていたのだ。
その、出力は大気圏内で居た時よりも段違いだ。ビーム刃のサイズも大気圏内と比較しても比にならない。如何に大気圏内での戦いではビーム粒子が減衰していたのかが伺えた。
「なっ!?」
気がついた時にはもう遅かった。ビームネット発生装置を持ったディーストは次々とファンネルによって切り裂かれ、破壊されていった。焦りを感じた他の兵士はファンネルに対してビームライフルやビームマシンガンを一斉に発射する。だがそれらは全て弾かれてしまう。
「効かないだと!?ファンネルにもバリアーフィールドが張られているのか!?」
以前のツヴァイのブリッツファンネルにはバリアーフィールドジェネレーターが搭載されていなかった。以前のツヴァイが展開できるバリアーフィールドは両側の前腕部のみで、そこに存在するバリアーがビームライフル等のビーム兵器からの攻撃を防いでいた。しかし、今はブリッツファンネルにもバリアーが搭載されており、防御面においては大幅に上がったと言える。
ビーム兵器を一切受け付けないブリッツファンネル達。それらは仕返しをせんばかりに、高出力のビームを放出し、ビーム砲撃をした新生連邦のMSを倒していく。
「これじゃ打つ手が……」
「接近戦に持ち込めば良い!」
「ダメだ!接近戦に持ち込んでもあのファンネルが邪魔をしてくる!」
「あいつは化け物かよ!?」
「冗談じゃねえぞオイ!?」
新生連邦の兵士達が困惑する中、レイは飛翔体を巧みに操り、前進していく。段々と宇宙空間での操縦に慣れてきたレイ。それは彼自身のMSを操る才能の高さが、短期間での慣れの速さに影響しているのかも知れない。
ツヴァイのブリッツファンネルは六基。その取り巻きのミニファンネルは二基。計十八基のファンネルが存在している。レイはこれらのファンネルの内、半数をバリアーフィールド
用に展開し、もう半数は敵が迫って来た時の砲撃用として展開し、そのまま前進する。
ツヴァイの姿を確認したヴィッシュ級巡洋艦二隻は、ツヴァイに向けて一斉射撃を開始した。
「ガンダム、こちらに接近してきます!」
「突破されたのか!?単機でMS部隊を突破など……クッ!捕獲などと考えているのは間違いのようだな!奴を墜とせ!これ以上突破を許すな!ここで我々が食い止めるんだァ!」
指揮官は懸命に指揮を執り、ヴィッシュ級に搭載されている武装を全て展開して攻撃していく。しかし主砲のビームはツヴァイに直撃してもバリアーフィールドで防がれる。ならばと言わんばかりにミサイルも撃ち尽くす勢いでツヴァイを狙うが、ツヴァイの周辺を回っているブリッツファンネル達がミサイルを、ビームの共鳴によって出力の上がったビーム砲撃を行い、ヴィッシュ級から放たれたミサイルは全て消失した。
「ミサイル、全滅です!」
「馬鹿な!?」
「敵機、尚も接近!」
「ビームも効かない、ミサイルも効かない……じゃあ何で奴を止められるというのだ!?」
「わ、我が艦の武装では……恐らく止める事は――」
「ふ、ふざけるなァァ!!!」
困惑し、焦りを表情に見せる指揮官。その間にもツヴァイは更にヴィッシュ級に接近する。そして――
「ごめんなさい……でも……僕は……行かなきゃダメだから……」
そうレイが呟いた後、ブリッジと擦れ違う際にメガビームセイバーを腰から抜き、ブリッジを切り裂いた。
ズバァ
「無敵なのかあああああああああああアアアアア――!?」
ブリッジでは指揮官の断末魔が響いたと同時にヴィッシュ級のブリッジは破壊され、その後ツヴァイのファンネルが放ったビームが艦を撃ち抜き、破壊された。それは二隻共に同様である。レイは前進しながらファンネルを展開し、殆どをその力で新生連邦のMSを撃破したのである。
「エリィさん達が居る場所……探さなきゃ……」
瞬く間にヴィッシュ級宇宙巡洋艦二隻を撃墜したツヴァイ。ブリッツファンネルに搭載されたリゾネートジェネレーターは、彼が想像していた以上の猛威を奮ったのである。やがてブリッツファンネルは元の場所へ戻って行き、ツヴァイはそのまま宇宙空間へ消えて行った。
この時、アルバトスとシュネルギアをはじめとしたFPBは新生連邦軍と交戦していた。宇宙に上がった後に最初に国連軍と交戦し、勝利を収めたFPB。それから数日が経過した頃に、新生連邦の大型MAの存在が明らかとなった為、これを叩く作戦に出ていた。
そのMAの名前はディブロック。先のFPBと国連との戦いで砲撃を行った機体である。
「まさか新生連邦はあんな巨大MAを隠し持っていたなんてね……」
ギアが言った。その側にいたジャンヌは、ディブロックの姿を見て口を開く。
「あれを放置しておく事は危険です。先日の砲撃は恐らくあのMAから放たれたものでしょう。」
「戦力は地球での本拠地を叩いた時に削げたと思っていたが……考えが甘かったようだ。伊達に戦力増強を行っていないか、レヴィー・ダイル……」
ヴァイダーガンダムを叩いた後で、ロサンゼルスに位置する新生連邦総司令部を占拠した国連軍。これにより、地球での戦力は大きく失われ、宇宙へ脱出する事を強いられた新生連邦だったが、彼等は宇宙にも巨大な兵器を隠し持っていたのである。その内の一つがディブロックであった。
「各MSに伝達。巨大MAの射線上には絶対に近付かないで下さい。現在は動く様子を見せていませんが、いつ起動するのかは定かではありません。」
ジャンヌはFPBの戦士達全員に伝達した。その後静かに艦長席に座り、シュネルギアを前進させる。
ジャンヌの言葉を聞き、FPBの戦士達は新生連邦と戦い始めた。超大型MA、ディブロックは危険な兵器であり、それを破壊する事が今回の作戦の目的だ。
「俺の新しいMSのデビュー戦か……果たして、どうなるやら。」
ガーストが言った。彼の乗る機体は、ハイエッジカスタムである。国連が所持するハイエッジと違い、カメラアイはモノアイタイプを採用し、両肩には有線式のビームニードルが装備されている。カラーリングは、エスディアと同じ紺碧色系統のカラーを採用。完全に彼オリジナルのMSとして生まれ変わった。又、ビームライフルも元々の切り替え式ではなく、ライフルに固定。戦況に応じた戦闘は難しくなったが、その代わり高出力のビームライフルを撃つ事が可能となった。
「やっぱりデウス出身の俺にはモノアイMSがしっくり来るか……っ、敵か!」
ハイエッジカスタムの初陣であるガースト。彼が前方に移動していると、後方から熱源を探知。振り返ると、ハイエッジカスタムに迫って来ていたのはジョゼフが二機とエグゼマーが二機であった。
「いきなりだな……行けっ!」
ピキィィィ
ガーストの脳内で電流が流れたと同時に、ハイエッジカスタムの両肩に搭載されている有線式ビームニードルを展開し、新生連邦のMSに向けて襲い掛かった。それらは瞬く間にジョゼフ二機のコクピットを貫き、撃墜した。
「ナルホドね、こんな感じね。」
得意げになるガースト。更に彼の乗るハイエッジカスタムは高出力のビームライフルでエグゼマーを撃ち抜く。その一撃で、エグゼマーは破壊された。そして残り一機のエグゼマーに対してはビームサーベルで切り裂き、破壊した。
「軽い、軽い」
得意気になるガースト。彼は新たなる機体を操り、敵を倒す事が出来て満足している様子だった。
しかし、彼の前にブライティスガンダムが高速で過った。アレンが前に現れたのである。ブライティスはブリッツファンネルを八基展開し、一瞬の内に新生連邦のMSを破壊したのである。
「あいつ……またあの戦い方……」
ブライティスは容赦なく、新生連邦のMSを撃墜していく。ブライティスに迫るMSの姿もあったが、いずれもブライティスのブリッツファンネルの標的にされ、撃墜されている。
(今のあいつに話さない方が良いか)
ブライティスが敵を倒していることは、FPBにとって有利な出来事である。しかしガーストは、彼の友人であるが故に、それを誇りに思う事が出来なかったのだ。寧ろ、違和感しか残らなかった。
「やあああっ!」
同じ宙域の別の場所で、アインスガンダムを操っているのはスバキである。白く塗り替えられたアインスガンダムは強力な拡散ビーム砲を装備し、新生連邦のMSに立ち向かう。
彼女の前に、二機のディーストが出現した。いずれもビームライフルでアインスを狙うが、アインスは新武装である拡散ビーム砲を展開し、牽制する。そして接近戦を持ちかける為にディーストに接近し、擦れ違う際にビームサーベルを展開し、ディーストのコクピットを切り裂いた。
「よしっ!」
有頂天になるスバキ。だが、その様子を一機のジョゼフが狙っていた。前腕部のグレネードランチャーを発射し、アインスに襲い掛かる。死角からの攻撃だった為、レーダーに映る熱源を感知するまでスバキは気付かなかったのだ。
「敵!?早過ぎるッ!?」
急いで回避を試みるが、グレネードランチャーのスピードは彼女の想定以上に速い。このままではやられると判断したスバキは、本来であれば拡散ビーム砲である、ビームシールドを展開して、ミサイルを防ごうとしていた。
バシュゥゥゥ
その時、彼女の目の前でビーム粒子に寄る放物線が放たれた。静かに、目を開けるスバキ。そこにあったのはアステリアだった。そして、中にいるパイロットの台詞を聞き、彼女は驚く。
「よぅ、間一髪だったな。」
「お前……えっと、確か……」
「ファージだよ。ファージ・ネイヴァン。若いんだから名前ぐらい忘れないでくれよな。」
「あ……ああ……あのチャラ男か……」
スバキらが宇宙へ上がる前、デスゲイズとの死闘の際に果敢にも立ち向かった、お調子者の男、ファージ。彼は宇宙に上がってから本格的にアルバトスやシュネルギアを母艦とした部隊の人間として戦う事になったのである。
「良い機体なんだからさ、簡単に傷付けんなよ!俺だってやられる気はないけどな!」
ファージはそう言った後で通信を切り、敵のいる場所へ向かって行った。スバキはその後ろ姿を見て、唖然としていた。
新生連邦の月周辺の小惑星基地内にて。そこにいたエファンはディブロックに乗るパイロットに対して連絡を取った。
「そろそろ動け。その巨大MAの実力、奴等に見せてやれ。」
「了解です、ドゥーリア少佐。」
ディブロックに乗っていたのはクラリスだった。だが、約300メートルはあろうこのMAを一人の人間が操る事等、本来ならば不可能に等しい。しかしクラリスはこのMAを一度操った。以前はプラズマカノンの試射だったが、今回は実戦である。
「クラリス・デイル、ディブロック、行きます。」
ビゴォォォン
彼がそう言った直後、モノアイが輝く音が鳴り響き、ディブロックはその巨体を戦場に向けて発進した。
(さて、どこまでやれるか見物ではあるな。)
エファンは指令室で静かに、そして不気味に笑みを浮かべた。
「おい、何故俺を出さない!?」
そう言うのは、エファンの側にいたダウーラだった。彼はエファンに出撃の許可を与えられず、苛立ちを募らせていた。
「あのMAが少しでも苦戦をしているようならば出撃すると良い。」
「あのなぁ……俺は高みの見物に宇宙に来たんじゃねえぞ?イライラするんだよ……」
そう言って、ダウーラは壁を思い切り蹴った。それでも、エファンは動じる様子を見せず、ダウーラに言う。
「お前が今回搭乗するMSはグランシェだ。それに乗れ。」
「じゃあ早く乗せろ!!!」
「無理だ。簡単に戦力を失う訳には行かんからな。」
「ちぃ……!」
ダウーラは歯を噛み締め、悔しさを露にしたが、エファンに刃向う事は一切しなかった。彼は、エファンの恐ろしさをよく知っているからである。
(何も知らない人間に対しては容赦なく襲い掛かるこの男……しかし私には口だけは偉そうだが一切行動を起こさない。気は短くハタ迷惑に感じるが、自分より強い人間の事は理解しているな。最初は異常な人間だと思ったが、そう言った意味ではこの男は特殊強化モデルの中では成功の部類に入るのかも知れないな。)
エファンはダウーラの様子を見てそう思った。その間にも、ダウーラはエファンを睨んでいるが、それでも彼はダウーラを攻撃する事は一切しなかった。
エファンらが指令室で会話をしている頃、クラリスはディブロックを操り、FPBに迫る。
「動きだしたのか!?このMA!」
ディブロックの動く姿を見て焦りを覚えるFPBの兵士達。彼等の乗る機体はヴァントガンダムが大半を占めており、まともな武装を持った機体が少なかった。
ディブロックに向けてビームライフルを撃つ彼等だが、ディブロックには機体全体にバリアーフィールドジェネレーターが張り巡らされており、ビームは一切通用しなかった。
「効かねえんだよっ!」
その時、ディブロックから無数のブリッツファンネルが展開された。それと同時に、大量のミサイルが一斉に展開され、ヴァントガンダム達に襲い掛かった。
「う、うわああああああああ!!!」
無数のミサイルは熱源としてレーダーに映るも回避が間に合わず、ヴァントガンダムは次々と破壊されていった。無論ミサイルだけがディブロックの脅威ではない。五十基もの大型ブリッツファンネルから放たれる高出力のビームも脅威の一つだった。
「消してやる……!」
そう言うのは、ディブロックを操縦するクラリスだった。強化されている彼はエファンの操り人形となり、迫るFPBのMSを破壊していく。
その時、ディブロックのモノアイが輝き、それと同時に巨大なクローアームが二本出現した。直径にして20から30メートルはあろう、その巨大なクローは、前方に居たヴァントガンダムに対して襲い掛かり、掴まれた機体は爆散した。
「化け物め!ビームが一切通用しないなんて!」
FPBの兵士達は焦っていた。ビームが無駄ならばミサイルを撃つしかないと判断した、ヴァントガンダムに乗る兵士は脚部のミサイルを展開し、ディブロックに向けて集中砲火を浴びせようとした。しかし――
「小賢しいんだよ!全部消し去ってやる!」
そう言って、ディブロックに乗るクラリスは再びファンネルを展開し、ミサイルに向けてビームを放ち、それらを破壊していった。その場にいたヴァントガンダムは一度交代する為にディブロックから背を向けたが、その瞬間にファンネルから放たれるビームによって破壊された。
ディブロックの出現により、状況が不利になりつつあったFPB。アレンはその存在を脅威に感じたのか、ディブロックに向けてブライティスを向かわせようとする。しかし、彼の邪魔をするのが他の新生連邦の機体だ。ジョゼフやディーストなどといった機体がブライティスに接近し、ビームライフル等の攻撃を仕掛けてくる。
「邪魔だ……っ!」
これらの機体を一気に殲滅しようと考えたアレンは再びブリッツファンネルを展開し、接近する全てのMSに対してビームを撃ち、撃墜した――
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
「!?」
突如、巨大なプラズマキャノンがブライティスの前に迫って来た。今のブライティスにはこれを防ぐ術は無い。アレンは急いでこの攻撃を回避し、再びディブロックへ向かおうとするのだが、今度はディブロックから放たれる無数の飛翔体が邪魔をする。
「クッ……!」
あまりの数の多さに、流石のアレンも苦戦を強いられた。回避するだけでは限界だと感じたのか、バリアーフィールドを展開しながら彼は後退していく。
「クソッ、こんな奴に……!」
多量の兵器を搭載しているディブロック。中でもファンネルの数が圧倒的に多く、ブライティス自身の装備だけでこの巨大MAに挑むのは無謀とも言えた。
離れていても高出力のプラズマキャノンやクローアーム等の武器で攻撃してくる上に、近付こうにも無数のミサイルやファンネルといった武器が迫ってくる。様々な距離に対応しているこのMAは、今のFPBにとって最大の難関とも言えた。
超大型MAの存在を脅威に感じているのがアルバトスやシュネルギアである。今、これらの戦艦は新生連邦の宇宙戦艦であるヴィッシュ級との戦艦同士の戦いを繰り広げていた。ヴィッシュ級は大型ミサイルをこれらの戦艦に向けて発射する。一方でこれらに対し、ジャンヌはエリィと連絡を取って話し合っていた。
「エリィさん、敵艦のミサイル攻撃の後にミサイルを発射して下さい。私達もそれに乗じて相手の艦を叩きます。」
「了解です!」
ジャンヌの提案により、ミサイルによる迎撃を行う事になったアルバトスとシュネルギア。彼女等の乗る戦艦はこのミサイルに対して対空レーザー砲で迎撃し、次にジャンヌが提案した、ミサイルによる砲撃をヴィッシュ級に向けて実施した。二艦による多量のミサイルがヴィッシュ級に向けられ、これらに対してレーザー砲を撃つのだが、これらの攻撃だけで二艦のミサイル砲撃を防ぎきる事が出来ず、ヴィッシュ級は撃墜された。
「よし!」
ガッツポーズを小さく決めるエリィ。しかしそこへ新生連邦のグランシェがブリッジに姿を表した。モノアイを輝かせ、ビームマシンガンを向ける。
「しまっ――」
油断した――と思うエリィ。彼女は思わず、目を瞑った。
ガキィィィ
「!?」
「やらせるかぁ!!!」
アルバトスのブリッジに向けてビームマシンガンを構えていたグランシェに対し、アインスガンダムが突撃してこれを妨害した。急な攻撃に動揺するグランシェのパイロット。それに対し、アインスはビームライフルを連射した。しかしグランシェはビームシールドを展開してこれらを防ぎ、ビームケーブルを展開し、アインスに襲い掛かった。
「そんなモンに当たるか!!」
スバキはビームケーブルに対し、ビームサーベルを展開して切り裂こうとしていた。だが彼女が思っていた以上に、グランシェのビームケーブルの動きが早かった為、見極める事が出来なかった。その為、ビームケーブルはアインスの右脚部を損傷させる。
「ぐぅぅっ!」
調子に乗り過ぎた……と思うスバキ。しかし、グランシェは容赦なくアインスに襲い掛かる。今度はビームサーベルを展開し、接近戦を試みた。それに対し、スバキは
「まさかの接近戦か!でもそう簡単にはいかないんだよ!」
スバキは一度口周辺を舌で舐め、敵の行動を見た。グランシェはビームサーベルを持って今にも切り掛かろうとする。しかしスバキはこれを見ても逃げ出す様子を見せず、寧ろそれを狙っていたかのように悠然としていた。
「よし!」
そしてグランシェがアインスに大幅に接近してきた時、アインスはシールド型拡散メガビーム砲をビームピッカーとして展開し、グランシェを突き刺そうとしていた。しかし、グランシェはそれに気付いたのか、急いでシールドを構え、そのまま高出力のビームをアインスに向けて発射したのだ。
「う、うわああ!?」
急な攻撃に対し、シールドを展開するアインス。どうにかこの攻撃を凌いだが、反動があまりに大きく、少しの間機体が動かなくなった。
「く……うう……」
戦場で機体が動かなくなることほど危険な事は無い。彼女が反動によって苦しんでいる間にも、グランシェは彼女を殺そうと迫って来ているのだ。
「……!?ミサイル!?大量に!?」
その時、ディブロックから大量のミサイルが一斉に展開された。この周辺にいるFPBに向けて一斉に射撃を行ったのだろう。その数、実に二百五十基。一つ一つを迎撃していては埒が明かない数である。
「ジャンヌ様!大量のミサイルが一斉にこちらに向かってきています!」
「迎撃を!」
ディブロックから放たれる無数のミサイルはFPBを殲滅させる為に向けられている。当然抵抗するFPB。それらのMSはビームライフルで応戦するが、それでも撃ち落とせる数は限られてくる。戦艦の場合は主砲などを使い、ミサイルを迎撃していくも、更なるミサイルがディブロックから発射される為、埒が空かない。
「あのMAにはプラズマカノンがある筈なのに……何故一気に勝負を決めないのでしょうか?」
この時、ジャンヌは疑問に感じていた。こちらを狙うのならば明らかにプラズマカノンを撃てば勝負がつく。しかしディブロックはミサイルばかりを撃ち、プラズマカノンを撃たない。そのミサイルに対し、FPBはひたすら迎撃ばかりを行う。
「消耗を狙っている可能性があるかも知れないね。」
「消耗……ですか。」
「ひたすら迎撃をさせ、エネルギーを枯渇させた後で一気に勝負を決めてくる可能性があるかも知れない。」
ギアが言った。彼の読みが正しければ、ミサイルの為に主砲のビーム粒子を使う訳には行かなくなる。焦りを感じ始めたジャンヌは、このミサイルを迎撃する方法を考え始める。
(こちらの武器が消耗するように相手が仕向けているのだとしたら……厄介ですわね……)
彼女が考えている間にも、ミサイルはこちらに迫ってくる。だからと言って迎撃し続けていてはそれこそ相手の思う壺。彼女は、ただひたすら考えた。この状況の突破口を。
「ジャンヌ様!大型の熱源を確認!」
「熱源……ですか?」
シュネルギアのレーダーに、一つの熱源が映った。そして、そこから大型の熱源が確認された。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
一瞬の出来事と言えた。無数のミサイルを、一瞬で一筋のビームが消し去ったのだ。レーダーに映った熱源によるものなのだろうが、この時何が起きたのか、ジャンヌ達は把握出来ないでいたのだ。
「ミサイルが一瞬で……あ……あれは……?」
「ま……さか……?」
ウインドウに映る、機の白いMS……無論、その姿はシュネルギアからのみ見えるものではない。この宙域にいる者皆が、その白いMSの姿を見ていた。
「嘘……あれって……」
アルバトス内のエリィが言った。
「誰が乗ってるんだ?」
ガーストが言った。
「あれ、まさか……いや、そんな……?」
スバキが言った。
「一体誰が……まさか……?」
ネルソンが言った。
この場にいた誰もが驚愕したMS。その機体はブリッツファンネル同士を共鳴させ、高出力のビームを放ち、数え切れない程のミサイルを一瞬で、全て撃墜したのである。
「あのMS……まさか……あいつなのか……!?」
ディブロックのパイロットのクラリスはその機体を見て苛立ちを見せていた。出血しそうな程に手指関節を屈曲させ、その機体に対して怒りを露にした。
「レイ……!あいつ……!!」
クラリスがその機体を見て、レイと名前を挙げた。つまり、ディブロックが放ったミサイルを全て撃墜したのはレイのおかげと言う事になる。
今、この場に改修されたツヴァイガンダムが増援に駆け付けた。中にいるのはレイ・キレスである。ディブロックという名の巨大MAによって支配されたこの戦場に、白い光が介入するのであった。
第九十五話、投了。
宇宙に上がったレイ。新たに授けられたツヴァイはファンネル同士を共鳴させ、ビーム粒子の出力を増大させる、リゾネートジェネレーターを搭載している、ツヴァイガンダムだった。