機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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宇宙に上がり、FPBと新生連邦軍が衝突する宙域に介入するレイ。
巨大MA、ディブロックとの死闘が始まる。


第九十六話 宇宙のレイ

 FPBと新生連邦が戦闘を行っている頃。国連の一部の部隊がある行動を起こそうとしていた。彼等はギルス・パリシムのやり方に反対している者達であり、国連を抜け出し、FPBとして戦って行こうと考えていたのだ。

「貴官は以前にギア・ジェッパーが言っていた言葉を覚えているか?」

それは国連軍の戦艦であるリューチェ級宇宙巡洋艦のブリッジ内で繰り広げられた。艦長の男と、モニター越しの指揮官の男が国連のやり方に対して不満を抱いている様子だった。

「ギルス・パリシムによる独裁……ですか。」

「あの演説の後、ギルス・パリシム議長は否定した。しかし……俺はどこかあの議長の言動が引っ掛かると思った。貴官はどう思う。」

「正直、あのギルス・パリシム議長には以前から疑問はありました。もしギア・ジェッパーの言葉が本当ならば、これは大変な事ですよ。国連を我が物にしようとする野心家。そのような存在が現在の平和国連盟のトップにいるという事は非常に危険な事ですからね。」

「そうか。なら、どうする。」

指揮官は艦長の男に判断を求めた。

「……我々はFPBの元へ、向かいます。」

「それが良いと、貴官は判断したか。俺と意見が一致したな。まあ、あそこにはアレン・レインドやジャンヌ・アステルといった人間がいる。若いながらに多くの戦場を生き残って来ており、国連に何度も協力してきた者達だ。ギルス・パリシム議長が怪しいと思うなら、抜け出すのもありではないかと俺は考える。」

「……意見が一致した事は良いと考えますが、この先我々はどうすれば良いでしょうか。」

指揮官の男は一旦目を瞑り、考える動作を見せた後、艦長の男に言った。

「艦隊を編成し、国連軍事基地から抜け出せ。追撃があればそれに応じるようにする必要がある。貴官らが先にFPBに合流し、俺も後から合流する。成功すれば連絡を寄越すように。」

「ハッ。」

この時、彼等はFPBに入隊する事を決心した。国連を裏切り、FPBと共に混迷の戦場を戦い抜こうと決めたのだ。

「では、手配を済ませる必要がありますね。」

「ああ、そこは頼んだ。健闘を祈るぞ。」

それから艦長の男は周辺のリューチェ級三隻に、これからFPBへ向かうという事を伝えた。それらに対して反対する者はほぼ皆無と言っていい程いなかった。彼等はFPBに寝返り、共に戦って行こうと決心を決めていたのである。

 

 だがある、宇宙空間にて。ある隕石の裏側に、一機の黒いMSが存在していた。その機体のパイロットはインカムを耳に当て、その動作をしながら周辺に敵機体がいないかを確認している。

「ハッハッハッハッハ……成程なァ……こいつァ結構、カオスゥな展開が期待出来ちゃーうかもしんねーなぁ!」

何故そのパイロットは笑ったのかは定かではない。彼はその隕石裏でインカムを耳に当てた状態で、待機していた。そのパイロットは何を考えてこのような行動を起こしたのか?

 

 

 

ツヴァイガンダムが戦場に出現し、ディブロックから放たれたミサイルを一瞬の内に葬り去った。その際ツヴァイはカメラアイを輝かせ、ディブロックの方を見る。

その時、ツヴァイのモニターに回線が入った。レイは回線を開き、そこにいた人物に対して応答する。

「こちらはエリィ・レイス。貴方、やっぱりレイ君なのね!」

「お久しぶりです、エリィさん。来ちゃいました……。」

新生連邦本部攻略戦の後、一度は仲間と分かれたレイ。しかし彼は様々な体験をした後に、エリィと再会する事となったのである。

「……でもごめん、今は再会を喜んでいる場合じゃないのよ。」

「分かってます。僕も、戦います!」

「戦いが終わればまた、話をしましょうか。」

そしてエリィとの会話は終わり、レイは再びこの戦闘中域で戦う為に行動を始める。ツヴァイが放ったブリッツファンネルは常にツヴァイの周囲を漂っており、いつでも本体であるツヴァイをビーム砲撃から守る準備が出来ていた。

 

 ツヴァイの姿を見たスバキの表情は笑顔だった。先程までの険しい表情はどこへいったのだろうか、そのまま彼女の駆るアインスはビームサーベルを展開し、先程戦っていたグランシェに対して攻撃を仕掛ける。

「あいつが戻って来たんだ!どういう理由かは分かんないけど!こっちもやる気が上がって来た!!」

アインスのビームサーベルに対し、グランシェもビームサーベルを展開して打ち合いを行う。この時、グランシェはビームケーブルも展開し、アインスに襲い掛かる。

「しまっ……!」

急な攻撃だった為、対処が遅れたスバキ。急いで回避を試みるが、ビームケーブルのスピードは彼女が予想する以上に早い。

「クッ……!」

ビームケーブルはアインスのコクピット目掛けて迫ってくる。だが今のスバキではこれを回避する事は難しかった。

 

                  バシュゥゥゥゥゥ

 

そこへ一筋の光の粒子が通過した。ビームライフルがビームケーブルを貫いたのだ。光線が放たれた先を見る。そこにいたのはネルソンの駆るハルッグであった。

「大丈夫か、スバキ。」

「あ……ああ……なんとか……」

ネルソンの援助により、再びスバキは戦う態勢を作る事が出来た。今度はグランシェの至近距離まで接近し、肩部に搭載されているミサイルを展開する作戦に出た。

「うおっ……!」

至近距離で展開されたミサイルに、グランシェは対処が出来なかった。その為、ダメージをまともに受ける。だが外部装甲が丈夫だった為、大きなダメージは受けていない様子だった。

 しかしグランシェのパイロットは油断していた。急なミサイル攻撃で動揺したのだ。その隙をスバキに突かれてしまい、シールドから展開される拡散ビーム砲の至近距離での砲撃を許してしまったのだ。

「う……わあああ!」

零距離ともいえる距離でそれらを放たれ、グランシェは破壊された。どうにか強敵を倒したスバキは、ネルソンに無線で連絡を取る。

「ありがとう、あんたがいなきゃ死んでいた。」

「無理はするなよ。」

「負けられないよ、あいつも帰って来てるんだ……こんな所で!」

レイがいる……それだけで彼女はやる気を出している。彼女は次の敵機を撃墜する為、アインスのバーニアの出力を上げ、この場から移動した。

「しかし……何故レイが……?」

残されたネルソンはディーストを撃墜しながら、この場に現れたツヴァイの存在に疑問を抱いていた。以前に分かれた筈のレイがこの場にいる……これは一体どういう事なのか、彼は戦闘に集中しつつも考えていた。

 

 レイの駆るツヴァイガンダムはカメラアイを輝かせ、アルバトスに迫って来ているエグゼマーの小隊に向け、ビームライフルを連射し始めた。高出力のそれらをまともに浴びたエグゼマーは一撃で破壊される。急な攻撃に気付いたその小隊のエグゼマーは、標的をツヴァイに変えた。

「ガンダムかっ!」

エグゼマーはビームライフルを撃つのだが、ツヴァイはブリッツファンネルを展開してバリアーを作り出す。それにより、ビームは弾かれた。ビームが弾かれたのを確認したレイは、そのエグゼマー部隊に対してファンネルから放たれるビームで攻撃した。 

その結果、一瞬でエグゼマー部隊は壊滅。ツヴァイは圧倒的な力を見せ付けていた。

「レイなんだろ!?」

その時、レイのコクピットに聞き覚えのある声が聞こえてきた。通信回線を開くと、そこにはガーストの顔が映っている。

「久しぶりじゃないか!まさかお前がここにいるなんて……」

「お久しぶりです、ガーストさん!怪我は治ったんですね!」

以前、ダーウィンでの戦いで重傷を負ったガースト。それから一度も彼はMSに乗っていなかったが、宇宙戦より、再び戦場で戦う事になったのである。レイは元気なガーストの姿を見て、一安心していた。

「機体も変わったんだよ!お前が来てくれりゃ、状況は変わる!なんでここにいるかは知らないけど、今はとにかく敵を倒すぞ!」

「はい……!」

そして通信は切れた。その直後にツヴァイはバーニアの出力を上げ、ブリッツファンネルを全て輪状に展開する。

「エリィさん達は僕が守る……!」

その時、彼の頭の中で電流が流れた。と同時に、全てのブリッツファンネルがエネルギー共鳴を開始した。

やがてエネルギーが十分に充填され――

 

「行けっ……!」

 

レイがそう言った直後――

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 

計十八基のブリッツファンネル全てがエネルギーの共鳴を行い、そこから高出力のビームが放たれた。その出力は戦艦の主砲レベルなど、容易く上回るレベルのものである。それ程に凄まじいビームが、前方にいたMS部隊に対して放たれたのだ。

 

「大型の熱源感知!こちらに向かってきます!」

「何!?各機、分散しろ!」

MS部隊の指揮者がそう言うものの、高出力のビームのスピードにMSの機動性が追い付かず、ビームに巻き込まれて消滅するMSが多数存在した。

「うわああああ!」

無数に広がる断末魔は宇宙に木霊し、散って行った。ツヴァイが放ったその一撃は新生連邦の戦力を大きく削ぐものとなったのである。

「凄い……あれにあんな武器あったか……?」

その様子を遠方で見ていたガーストは、ただ唖然としていた。明らかに今までのツヴァイガンダムとは違う。あれ程強力な武装は持っていなかった筈だ……と彼は思っていた。

 

 

 ブリッツファンネル同士のエネルギーが共鳴する事で放たれた、膨大なビーム粒子。この砲撃を見ていたエファンは先程まで浮かべていた笑みを消した。

「ん……敵も随分と大胆な攻撃をするな……どこからの攻撃だ?」

「そ、それが……MS単機による攻撃の模様です!」

「ほぅ、単機であれ程のビーム砲撃……か。」

一瞬でMSの部隊を壊滅に追い遣った謎のビーム。その正体が気になったエファンはモニターを確認した。そして、そこに映っていた一機の白いMSと、周辺に存在しているファンネルの姿を見て彼はニヤリと笑った。

「成程な、ファンネルの形状が変わっている。あれは粒子そのものを共鳴させているシステムのようだな……それにしても、久し振りに見るな……レイ・キレス。」

彼は一目見て、ツヴァイガンダムが強化されている事を見抜いた。それが出来た理由としては、彼自身がMSの開発に携わっている人間故の洞察力なのかも知れない。

 その時、エファンは一度眼を瞑り、数秒程経った後で再び眼を開けた。すると、急に口を開け、

「状況が変わった。ダウーラ。行け。」

それまで出撃の許可を出さなかったエファンだったが、ツヴァイガンダムの存在を見て急にダウーラに出撃許可を与えた。予期せぬ出来事にダウーラは最初動揺するが、次第に彼は満面の笑みを浮かべ、言った。

「おぉ……マジか……そいつぁありがたい……」

床に胡坐を掻いて座っていたダウーラは早速立ち上がり、その場から出ようとするが、エファンに止められる。

「だが条件がある」

「んだぁッ!?イラつくなァ!」

上機嫌で MSに乗ろうとしていた所を止められた為、ダウーラは睨むようにエファンを見た。

「お前が以前戦った白いガンダムタイプ。奴とのみ戦え。そして機体を破壊されないようにして生き残れ。必ず生き残って帰ってこい。それさえ守れば後は好きに戦え。もし守れなければ、どうなるか分かっているだろうな。」

ダウーラに好きに戦わせてやる代わりに、戦う相手は一人に絞るようにエファンは言った。

「ターゲットはあれのみ……か。悪くない。俺は強い機体と戦いたかったからな。白いガンダムは俺に屈辱を与えた……いいだろう、その条件で戦わせて貰うぜ。」

その直後にダウーラは走り去るように部屋から姿を消した。それを見送ったエファンは腕を組み、ドアの方向を見て考えていた。

(ダウーラがあのガンダムタイプと戦い、生き残ることで戦闘データを持ち帰る。そしてそのデータはあの機体に流用出来るからな。私が行けば早いのだが、奴が戦いたいという以上はそれを利用する他にない。所詮奴は使い捨てだ。私に害は一切ない。)

エファンはダウーラの心理を理解した上で彼に出撃許可を出したのだ。ダウーラは戦いたがっていたがエファンはそれを許さなかった。しかしツヴァイが新武装を持って現れた事で、その戦闘データを得る必要があると判断し、丁度戦いたがっていたダウーラを利用し、戦場へ送り込んだのである。上手くいけばデータが得られ、仮に失敗しても次回以降に入手すれば良いと、彼は考えていた。

「さて、運良く行けば儲けものだがな。」

エファンは、静かに呟いた。

 

 その後、ダウーラが整備士達を押しのけて、グランシェに乗り込み、勝手に出撃をした。

「行くぜェ……ガンダムゥ!」

 

ビゴォン

 

久しぶりの戦闘に、心を躍らせるダウーラ。彼の駆るグランシェはカメラアイが輝き、そしてカタパルトから発進した。彼はグランシェを駆るのは始めてであったが、一切躊躇う様子を見せず、テンションを上げた状態でFPBとの交戦に入ろうとしていた。

 

 

 

ダウーラが迫って来ているとは知らず、レイは懸命に新生連邦軍と戦い続ける。ファンネルを展開した状態のままこの戦闘中域に接近する敵MSに備えていた。

 その際にレイは見覚えのある機体を目撃する。それはアレンの駆るブライティスガンダムであった。今、ブライティスはブリッツファンネルを展開し、新生連邦のディーストやエグゼマーを尽く破壊していた。それだけでない。ブライティスのウイングから展開されるビーム砲を連射し、迫る敵機体にビームを浴びせ、接近戦を持ちかけてくる機体がいればそれに対してビームセイバーを展開し、あろうことかそれを敵機体目掛けて投げ出した。ビームセイバーを受けた敵機体であるジョゼフはダメージを負いながらも腕部グレネードでブライティスに応戦するが、それも無駄な抵抗であった。ブライティスはビームライフルをジョゼフの頭部に目掛けて撃ち、一撃で破壊したのである。

 その時、レイはアレンに対して通信を入れた。アレンは回線を開き、応じる。

「アレンさん……お久しぶりです!」

再び会う事となった両者。一度は対立した事もあったが、現在は共闘している。以前はレイがアレンを嫌っていたのだが、今は違う。レイは自分から通信回線を開く辺り、アレンに対して好意を示しているのだろう。

 しかし今のアレンはレイと再会した所で、喜ぶ事等、出来ない。彼はそれ以前に大きな悲しみを背負って戦っている為だ。

「レイか。どうしてここに。」

レイはアレンの異常を喋り方で判断した。明らかに喋り方や振る舞いが違う。この時レイは彼の事を不気味に感じた。

「あ……の……えっと……」

「戦闘中だから話しかけるな。気が散る。」

そう言ってアレンはレイからの通信を切った。冷たくあしらわれたレイ。自分の事を嫌っているのか?とレイは考えたが、その際に主砲クラスのビームがツヴァイに目掛けて放たれた。急いでブリッツファンネルを展開してバリアーフィールドを展開してビームを防ぎ、主砲を撃った相手を確認する。それはヴィッシュ級宇宙巡洋艦二隻だった。

(どうしてアレンさんがあんな態度をとるかは分からないけど……今は戦いに集中しなきゃ……)

アレンの妙な態度に違和感を覚えつつもレイは戦いに集中しようと意識した。彼はヴィッシュ級巡洋艦に対してファンネルを展開し、そこからビーム砲撃を行おうとした――

 

               ピピピピピッ

 

レーダーにツヴァイに接近する熱源の反応があった。そして眼前のカメラを見ると、青いMSが接近してきているのが見えた。それはモノアイを輝かせ、ビームケーブルを展開した状態でツヴァイに向かって来ている。

「クッ!」

その青いMS、グランシェはビームケーブルをツヴァイに目掛けて放出した。レイはビームディフェンスシールドを展開するようにツヴァイを操作し、この攻撃を防ぐ。だが次にグランシェはビームサーベルを展開して襲って来た。

「会いたかったぜ、白いガンダム!」

パイロットはダウーラだった。エファンの命令により出撃しているダウーラはツヴァイガンダムのみにターゲットを絞り、攻撃を加えている。

突然のグランシェの猛攻に戸惑うレイ。だがその間にもダウーラはツヴァイに対して攻撃を仕掛け続けている。グランシェはシールドからシュート・シューターを展開してツヴァイに襲わせていた。これらの攻撃は全てビームディフェンスシールドで弾くツヴァイ。

「前はよくもやってくれやがったな……だが今回はそうは行かねえぞ!」

機体性能はアーヴァインに若干劣るグランシェだが、ダウーラはそれを難なく乗りこなす。そして、この男から感じる奇妙な感覚をレイは感じていた。闘志のみをむき出しにし、ただ単に自分と戦う事だけを楽しむこの男の感覚はレイにとって気味が悪いだけだった。

「この感じ……前に感じた事ある……同じ人なの……?」

「楽しませろよ、ガンダム……!」

そう言ってダウーラはツヴァイに接近し、ビームサーベルを展開しようとした。

「熱源……あっ……!」

グランシェ以外に出現した熱源の存在を探知したレイは、急いでこの場から離れる。レイが離れてから数秒後に、ディブロックの巨大なクローアームがグランシェのいる場所に迫って来ていたのだ。

「逃すか、レイ!!!お袋とアユとリンの仇!!!」

相変わらず、レイが母親とギリシャで出会った少女達の敵であると思い込んでいるクラリス。正確には思い込まされているのだが。

「早い……!」

ディブロックから放たれる巨大なクローアームはツヴァイを容赦なく襲う。そして、そこへダウーラの駆るグランシェも迫る。一方が巨大なMA相手である為、レイは苦戦を強いられた。

「これで……!」

このままクローアームから逃げ続けていられないと判断したレイはブリッツファンネルをツヴァイの前面に展開し、先程のように一斉にビームを展開した。高出力のビーム砲が放たれた時、ディブロックのクローアームは跡形もなく消え去った。

「なんだ、あいつ……あんな武器があったか……!?」

以前のツヴァイと大きく違う、強力な武装。それはブリッツファンネルに新たに搭載された、リゾネートジェネレーターによるブリッツファンネルの強化によって齎されたものだった。予想外のツヴァイの戦法に驚愕するクラリスだが、彼の乗るMA、ディブロックはその脅威を遥かに上回る巨大MAに搭乗して戦っている。

「お前がいくら機体を強化していようが、ディブロックの方がパワーが上なんだよ!」

その直後にディブロックから無数のブリッツファンネルが一斉に展開された。そしてそれらは一斉にツヴァイの元へ向かう。無論、その途中に存在しているFPBの機体も巻き込むのだが、彼の狙いはツヴァイガンダムだ。大量のファンネルが、一斉にツヴァイに襲い掛かる。

 しかしその時。クラリスに通信が入った。エファンからのものである。

「こんな時に少佐が!?クソッ!」

宿敵であるレイを前に〝ツイていない〟と感じるクラリス。苛立った様子で彼はエファンとの回線を開いた。

「お前、何をしているか。あの機体には攻撃は加えるな。ダウーラのグランシェが今交戦中の筈。お前は手出しする必要はない。」

エファンはクラリスにツヴァイに手出しをするなと言ってきたのだ。それに対し、クラリスは

「何を言っているんですか!敵がいるんですよ!倒すのは当たり前の筈です!」

と反抗した。すると、エファンは笑みを浮かべて言う。

「所詮お前は私怨で戦っている存在だ。お前の倒すべき敵は確かにいる。だがそれに対して頭が一杯になっていてはやられる可能性も考慮せねばならん。それを忘れるなよ、クラリス・デイル。」

エファンは彼を怒るどころか、アドバイスを送った。その上でツヴァイと交戦をするなと言ったのである。

「以前からのお前の弱点だ。頭に血が昇るあまりに冷静さを失い、そしてやられる。今までそれで何度やられて来た?いくらディブロックが優秀であろうが、弱点を突かれればそれまで。今は、お前は敵の艦を狙え。邪魔をする者に対して容赦なく排除する事を考えろ。」

あくまでもダウーラにツヴァイと戦わせる事を推奨するエファン。その目的の意図が読めないまま、クラリスは仕方なしにツヴァイ以外の機体に対してブリッツファンネルを襲わせた。

(少佐が命令するならば仕方が無い……)

目の前にいるレイをみすみす見逃さなくてはならない事に不満を抱いたが、上司であるエファンに逆らう事は出来ないため、仕方なしにレイ以外のFPBのMSを狙い始めるクラリス。彼の駆るディブロックは多数のミサイルを展開し、再びFPBのMS部隊に襲い掛かる。

「ハハッハハハ!デカブツに邪魔をされなくて済むのは俺にとって幸運だな!」

エファンとクラリスの会話を聞いていたダウーラは嬉しそうにツヴァイに攻撃を加えていく。パイロットの技量もあってか、このグランシェがレイにとって強敵に感じられた。

「このっ!」

ツヴァイはバスタービームライフルをグランシェに放つのだが、いずれも軽々と回避されてしまう。

「死にな、ガンダム……!」

見下すようにツヴァイを見た後でダウーラの駆るグランシェはビームケーブルを再び展開する。それだけでなく、シュート・シューターやシールドに内蔵されているビーム砲等、あらゆる武装を駆使してツヴァイに攻撃をした。

「相手が違うんだ……だから当てにくいのかな……?うっ……!」

ダウーラから発せられるプレッシャーがレイを苦しめた。グランシェの性能も重なり、予期せぬ相手に苦戦するレイ。

 

                 ギュルルルル

 

その時、二本の有線に繋がれたビームの針がグランシェに目掛けて放たれた。ダウーラは急いでこれらを回避する。

「邪魔が入ったか!」

ダウーラがモニターで接近する熱源を確認すると、そこにいたのはハイエッジカスタムだった。それも、普通のカラーではない。エスディアと同様の、紺碧色のカラーリングだ。そしてその機体のパイロットはレイに対して通信を開く。

「大丈夫かレイ!?」

「あ、ありがとうございます、ガーストさん……」

味方……それもガーストが助けに来てくれたことでレイは安心する。だが一方でダウーラは余計な邪魔をされたことで苛立ちを感じていた。

「お前ェ……」

邪魔をしてきたガーストのハイエッジカスタムに対し、ビームマシンガンを構えようとするダウーラのグランシェ。しかし彼はこの時にエファンの台詞を思い出した。

 

――――――――お前が以前戦った白いガンダムタイプ……奴とのみ戦え――――――

 

「チッ……」

彼はハイエッジカスタムに攻撃を加えたかったが、エファンの命令がある以上、勝手な行動は許されないと感じていた彼は攻撃対象を引き続きツヴァイのみに絞った。

「わっ……!?」

その時、ディブロックから放たれたミサイルが一斉にハイエッジカスタム目掛けて飛んできた。焦りを感じたガーストはこれらに対して背部のビーム砲を展開するが、この数が余りに多過ぎる為、ビーム砲だけでは対処が出来なかった。

「クソッ、地味にホーミングタイプかよ……!」

更に厄介なのは、このミサイルが追尾式であるという事である。この為、ミサイルを撃墜しない限りは延々と追尾され続ける事になる。

「悪いレイ、一度離れる!」

そう言ってガーストはレイとの通信を切った。その直後にグランシェがビームサーベルを構え、ツヴァイに切り掛かる為、レイはそれに対して応戦した。

「ハハハハ!あいつも仕事するじゃねえか……これで心置きなく戦えるな……」

「あの巨大な機体のせいで……」

互いの機体が打ち合いを行う。レイと戦う事が出来て、ダウーラは不気味な笑顔を見せていた。一方のレイは予想外の強敵に苦戦していた。

「……行けっ……!」

打ち合いを行う中で、ツヴァイはブリッツファンネルを展開した。それらの標的を全てグランシェに向け、一斉射撃を行う。

「チッ……」

流石にファンネル相手では不利だと感じたダウーラは一度ツヴァイから離れた。そして、迫りくるファンネルに対してビームシールドを展開し、攻撃を防ぐ。その次にビームシールドから高出力のビームを放出し、ファンネルを撃破しようと試みるが、ツヴァイのファンネルは今、それぞれがバリアーフィールドジェネレーターを搭載しており、ビーム兵器は一切通用しない。

「何っ!?」

予想外の出来事に困惑するダウーラ。いくらビームシールドからビームを放っても、ブリッツファンネルはバリアーフィールドによって守られるばかり。

「やあああああああああ!」

更にそこへスバキの駆るアインスがシールドからビームピッカーを展開してグラン背に襲い掛かっていた。それに気付いたダウーラはビームケーブルを展開してアインスを追い払う。

「レイ、大丈夫かよ!」

スバキは嬉しそうにレイに回線を開いた。

「スバキ!あれ、その機体は……?」

「分からないのか!?アインスガンダムだよ!カスタムしたんだ!」

「えっ……それ、アインスなの!?」

かつてレイが搭乗していたアインスガンダムのあまりの変貌ぶりに驚くレイ。何せ、紺色だったアインスガンダムが白く彩られていたものだから、彼が驚くのも無理はないと言えた。

「ああ!火力も武装も前とダンチだよ!それよりも、お前がまさか帰ってくるなんて!ホントに驚いたよ!」

レイの存在に対し、大いに喜ぶスバキ。それはこの状況も去る事ながら、彼女の中にある好意がより、そうさせるのだろうか。

「まあ……色々とあったんだけどね……」

通信で会話を交わす両者だったが、その邪魔をするかの如く、ダウーラの駆るグランシェが二人に襲い掛かった。更に別のジョゼフの小隊がアインスとツヴァイに向かって来ている。

「あいつには悪いがな、俺をイラつかせる奴はお仕置きしておかないとなァ。」

そう言って、ダウーラはエファンの命令を無視し、アインスに向けてビームマシンガンを連射した。それと同時に別のジョゼフ小隊も腕部グレネードを展開して両者に襲い掛かる。

「ごめん、今は話している場合じゃないや!じゃあな!死ぬなよ!」

そして通信は途切れ、白いアインスはその場から去って行った。その後を、ダウーラの駆るグランシェが追う。

「スバキ!」

アインスの後方からビームマシンガンを連射するグランシェを見た後でツヴァイはブリッツファンネルを展開し、ビームマシンガンからアインスを守った。

「チッ……」

攻撃を防がれたことで、ダウーラは更に苛立ちを見せた。いくらビームマシンガンを連射してもブリッツファンネルに搭載されているバリアーフィールドジェネレーターがビームを防ぐ。

「スバキ、無事で居て……」

アインスがグランシェから逃げるのを見送ったレイは、ディブロックがいる方向へ向かう。FPBが苦戦している元凶であるその巨大MAに少しでもダメージを与える事が出来れば勝機が見えてくるだろうと考えた為だ。

だがこの行動には問題がある。それは彼の独断であるという事だ。ディブロックへ向かおうとするレイに対し、ネルソンが通信を入れた。

「レイ、何処へ行く?」

「ネルソンさん!」

再び会えたネルソンに感激するレイ。一方のネルソンはレイの行動に対して疑問を抱いていた。

「君が何故ここに居るのかは分からない。そして、今はそれを聞いている場合でもない。それよりも……今から単機であの巨大MAと戦う気なのか。」

「あれを倒せば勝機があるのなら、僕が行きます!」

「単機では勝機は無い!あの無数のミサイルやサイコミュ兵器はその機体だけで太刀打ち出来るものではないぞ!」

ディブロックによる一連の攻撃を見ていたネルソンは、ツヴァイガンダム単機で戦いを挑むのは余りにも無謀であると感じていたのである。

「でも……あれを倒さなきゃ皆がやられます!」

「なら、私もついて行こう。」

「え……!?」

ネルソンはてっきり自分に対して〝引き返せ〟と言うと思ったレイだったが、意外にもネルソンはレイについて行くと言った。

「止め……ないんですか……?」

予想外の言動にレイはネルソンに一旦確認した。だがそれでもネルソンは

「ついて行くと言った。」

と言う。

「一人では危険だからな。私もついて行く。機体性能だけならばツヴァイガンダムの方が優秀だ。私はあのMAの周辺兵器であるサイコミュ兵器やミサイルなどの相手をする。レイ、君は本体を叩け。」

「……はい!」

巨大MA、ディブロックは無数の兵器を搭載している。それ故にFPBの他のMSは近付かない。アレンの駆るブライティスもディブロックを攻撃しようとするが、無数のファンネルやミサイルがそれを妨げる。

「行くぞ、レイ。」

そして、ハルッグとツヴァイの二機はディブロックへ向かった。その時、それを察したかのようにディブロックから無数のミサイルが展開される。ミサイルに対し、ハルッグはロングビームライフルを撃ち、応戦する。一方のツヴァイはブリッツファンネルを展開し、それらから高出力のビームを放ち、ミサイルを消滅させた。

「数が多いッ……レイ、ビームの無駄撃ちはするなよ。粒子残量はどうだ?」

ツヴァイはここに来るまでに補給を行わず、大気圏離脱や戦闘を行って来た。故に、粒子の残量は減っている可能性があるのだが――

「まだ半分あります!」

幸いだった。半分も残っていれば戦闘を戦い抜ける可能性は十分考えられる。

「その半分もここで使い切る可能性があるという事だ。このミサイルの数は尋常ではない。その上他のMSもここに来ると考えると、エネルギーの消費には十分に気を付けろ。その為に私がついて来ている。君がどのようにしてここまで来たのかは分からないが、エネルギーは限度がある事を忘れるな。」

「はい!」

ハルッグとツヴァイはディブロックが存在している方向へ向かう。その間もディブロックからは無数のミサイルが発射され、更にそこへエグゼマー三機が彼等に迫っていた。

「ちぃっ!」

ハルッグのロングビームライフルはそのエグゼマー三機を狙っていた。照準を絞り、ハルッグはビームライフルを放つ。その砲撃により、三機の内の一機はコクピットを直撃し、破壊された。残りの二機はMAに変形してハルッグに迫る。それらはミサイルを展開し、ハルッグを追い詰めようとする。

「ネルソンさん!」

「心配するな、やられんよ。」

ネルソンは余裕の表情を浮かべてハルッグをMAに変形させ、二機のエグゼマーの陽動を行った。ハルッグに追いつこうとするエグゼマーだが、機動性が圧倒的に高いハルッグに、エグゼマーでは追いつけなかった。

 

               ギュルルルルルルルルル

 

その時、ツヴァイのレーダーに熱源が感知された。後方に存在している。すぐにレイは振り向き、熱源の正体を確認する。そこにあったのは、ディブロックの巨大なクローアームであった。その巨大なクローはツヴァイの全高をゆうに超え、今にもツヴァイを潰そうとしていた。

「!?」

それに反応したレイは急いでツヴァイのバーニアの出力を上げ、間一髪クローアームから脱出した。

「危なかった……もう少し反応が遅かったら潰されていたかも……」

安心するレイだったが、その瞬間にディブロックのブリッツファンネルがツヴァイに襲い掛かる。これらの攻撃に対し、バリアーフィールドを展開してビームを防ぐ。

「攻撃が激しい……これじゃ埒が空かない……!」

大型のクローアームに、ブリッツファンネル。そして無数のミサイル。ディブロックから放たれる無数の兵器がレイに襲い掛かる。無論、襲われているのはレイだけでない。ネルソンや他のFPBのMSも、ディブロックの兵器による攻撃に苦戦していた。

「あの機体から感じる……何だろう、覚えのある感じだ……」

『なかなかしぶといなレイ!だがこいつの前ではそんなモンは無意味だ!』

「クラリスさん!?」

彼の頭の中にクラリスの声が聞こえてきた。ディブロックのコクピットからレイに対し、クラリスが語りかけているのだ。

(僕の……頭の中に語りかけて来る……?それに〝こいつの前〟って……じゃああの機体に乗っているのは……)

『そうだよ、俺だ!今日こそお前を……』

クラリスは拳を握り、眉間に皺を寄せて言う。

『お前を殺してやるんだよ、レイィィィ!!!』

その時、ディブロックからプラズマカノンが発射された。そのターゲットは無論ツヴァイである。大型の熱源に気付いたレイは急いでそこから離れる。

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 

 ディブロックによるプラズマカノンの出力は凄まじいものがあった。ツヴァイはこの攻撃を回避するも、直線上にいたMS部隊はこの一撃で壊滅した。

「外したか!しかし他の武器で攻撃すればいいだけの事!ガンダム如きにディブロックが勝てる訳がねえんだ!」

「クラリスさんがファンネルを操ってるなんて!?どうなっているの……?」

疑問を抱くレイだったが、その時にディブロックのブリッツファンネルがツヴァイに対して襲い掛かった。ツヴァイだけでない。離れた場所で戦っているネルソンの乗るハルッグにも迫る。その上新生連邦のジョゼフやディーストまでも迫ってくる。ビームはブリッツファンネルに搭載されているバリアーフィールドジェネレーターで防ぐ事は可能だ。しかし使用出来るファンネルの数が減ってしまう。

「これが駄目なら突き刺してやる!」

「あっ――!?」

ディブロックに搭載されているブリッツファンネルがビーム刃を展開し、一斉にツヴァイに迫った。ビーム刃を防ぐ事はツヴァイには出来ない。バリアーフィールドで防ぐ事が出来るのは放出されたビームのみである為だ。

 

                バシュゥゥゥ

 

そこへ、FPBの他のMSが増援に駆け付けた。ヴァントガンダムが三機、ディブロックに搭載されているブリッツファンネルに向けて発射し、何機かを破壊した。そして、更にそこへアレンの乗るブライティスも駆け付けた。

「アレンさん……!」

アレンのブライティスはカメラアイを輝かせた後、一斉にブリッツファンネルを展開。それらをディブロックのそれと同様の形状にし、それぞれを突き刺した。

「アレンさん、ありがとうございま――」

駆けつけてくれたアレンに対して感謝するレイ。しかしアレンはすぐに通信を切った。一瞬映った彼の表情は暗く、悲しげだった。

(やっぱり聞いてくれない……)

助けてくれたのはありがたかった。しかし、アレンの奇妙な態度にレイは感謝をし切れず、複雑な心境だった。

「どいつもこいつも邪魔ばっかりしやがってぇぇぇ!!!」

怒ったクラリスはディブロックから再びミサイルを展開した。それと同時に先程のクローアームも展開し、ツヴァイに襲い掛かる。そのクローアームは高出力のビームサーベルを展開し、振り回す。

「ダメだ!あんなの受けたら……」

ディブロックの展開するビームサーベルを止める術はない。ただ当たらないように回避する必要がある。高出力のビームサーベル相手では仮に打ち合いを行っても出力で負ける。レイはこの巨大なビームサーベルに触れないように、ディブロックに少しずつ近付いて行く。

「行け……!!」

ツヴァイはブリッツファンネルを展開し、ディブロックから放たれるブリッツファンネルからのビームを防ぎながら更に前進する。

「ちぃっ!素早い野郎め!」

ツヴァイに攻撃が当たらない事で苛立ちを隠せないクラリスは、再び多数のミサイルを展開した。ミサイルはいずれもホーミング式で、ツヴァイに当たるまで追尾を続ける。それに加え、クローアームから展開されているビームサーベルを振り回し、ツヴァイを切り刻もうとする。

 狙いをツヴァイのみに絞ったディブロック。無数の兵器が一斉にツヴァイに襲い掛かる。

「せめて、ミサイルだけでも……!」

ツヴァイはブリッツファンネルを機体の前面に展開し、一斉に高出力のビームを放ち、ミサイルを撃ち落とした。だがその瞬間に、後方からディブロックのブリッツファンネルがビーム刃を展開し、ツヴァイの左脚部を串刺した。

「ああっ!」

衝撃がレイに伝わる。この時、少しの油断が命取りになる事を身体で感じ取った。

(このまま逃げ続けていたらいつかやられる……早くあれを倒さなきゃ……でも……近付けない……)

ネルソンは現在別の機体と交戦中である。他のパイロットも他の新生連邦の機体と交戦中だ。この状況を打開できるのは己のみ……レイは、そう判断した。

 

                 バシュゥゥゥッ

 

その時、前面から高出力のビームがツヴァイに目掛けて放たれた為、ツヴァイはブリッツファンネルを展開してビームを防いだ。それと同時にディブロックからプラズマカノンが発射される。それを間一髪回避した後、レイは最初にビームを撃った熱源の存在を確認する。

「宇宙戦艦……!」

レイを狙ったのは新生連邦の戦艦、ヴィッシュ級だ。更にそこからMS部隊が展開し、ツヴァイに襲い掛かる。

高速でツヴァイに接近する機体。それは、エグゼマーだった。エグゼマーはMAで急接近し、ツヴァイの眼前でMSに変形してビームサーベルを展開し、切り裂こうとしていた。

「やあっ!」

しかしそれよりも早くツヴァイは動いた。メガビームセイバーを展開し、エグゼマーの胴体を切り裂いた。

 

エグゼマーが破壊された頃、それを搭載していたヴィッシュ級のブリッジ内ではツヴァイを仕留める為に艦長が指示を与えていた。

「エグゼマー一機……いえ、三機が撃墜されました!」

「あの機体は侮れんぞ!ディブロックをやらせない為にも撃て!ビームが効かないのならミサイル発射だ!ミサイルによる弾幕で奴を蹴散らせ!ディブロックのミサイルも合わせればあの機体を沈められるだろう!」

「了解、ミサイル発射!」

ヴィッシュ級からミサイルが発射された。それと同時にジョゼフ等のMS部隊がグレネードを撃ち、ツヴァイに目掛けて集中砲火を試みる。脅威であると知っているが故に、新生連邦はツヴァイのみにターゲットを絞り、攻撃を行う。

「エネルギーはまだ……あるのなら……!」

これ程のミサイルは回避しきれない。ならば、ブリッツファンネルから高出力のビームを再び放ち、ミサイルを破壊するまで――そう考えたレイは、早速決行した。

「行け……!」

 

ピシュンッ、ピシュンッ、ピシュンッ

 

ブリッツファンネルを全基、前面に再び展開した後に高出力のビームを発射した。それらはジョゼフやヴィッシュ級のブリッジをも貫き、消滅させる。

「敵ガンダムタイプより熱源が!」

「何だと!?」

「回避、間に合いません!」

「ここまでか――」

高出力のビームを受け、バリアーフィールド等のビーム耐性を持たない機体がそれに耐えられる筈もなく、ヴィッシュ級は撃沈した。同時に無数のミサイルの数も減らす事が出来た。少しでもディブロックに近付く為、レイはツヴァイのバーニアの出力を上げ、そこへ向かう。

 

 

 

 ダウーラとスバキは交戦を続けていた。特殊強化モデルであるダウーラの技量はスバキを遥かに上回っており、スバキは苦戦を強いられていた。

「動きが早過ぎる!ただでさえやっと宇宙に慣れてきたばっかりだってのに!」

そうは言っても相手はスバキに対し、容赦をする筈が無い。何故ならば敵だからだ。

「弱いな……ガンダムの癖にな!」

機体性能は優秀なアインスガンダム。だが、スバキは宇宙戦にようやく慣れたばかり。一方のダウーラも宇宙戦は初めてなのだが、特殊強化モデルである事が、初めての環境でもすぐに適応させた。

「やあああ!」

アインスガンダムはシールド型拡散メガビーム砲を展開し、それをグランシェに向け、発射した。だがグランシェのビームシールドがそれを防ぎ、今度はシールドからビーム砲を放出。スバキはそれをシールドで防いだ。

「随分便利なシールドを持ってるな、そいつぁ!」

そのシールドのビームの出力を一点に絞り、ビームピッカーとして機能させ、アインスはグランシェに向けて突撃する。

「!」

様々な機能を持つシールドに、ダウーラは動揺した。回避を行う際、後方へ移動したのだがその際に左腕部をピッカーによってダメージを受けた。

「やってくれたな……ハハッ、戦いはこうでないとな!!」

アインスによる急な攻撃はダウーラを高揚させた。相手が強ければ強いほど、この男は喜ぶのである。

「なんだよこいつ……まるで楽しんでるみたいに動き回って!」

スバキも感付いていた。この男は楽しんでいる、殺し合いをしているという自覚が無いという事に。それが彼女を苛立たせ、更なる攻撃を行う。

「クソッ!」

シールドを使った攻撃ばかりでなく、ビームライフルを連射したり、ミサイルを展開してグランシェに攻撃する。だがグランシェはそれらを見切っているように動き、シールドで防ぎながらビームケーブルでアインスに襲い掛かった。

「しまっ……!」

ビームケーブルを防ぐ手段がなかったアインスは、その攻撃をまともに受けてしまった。

「うあああ!クソッ……このままじゃ……」

先程の一撃でアインスのコクピットに穴が空いた。そこから覗き込むようにグランシェのモノアイが輝く。

「おぉ、女か。ハッ、女が戦場に出るの、悪くないな!」

そう言ってグランシェのビームマシンガンをコクピットに突き付けようとした時、アインスはマシンガンを握り、それをへし折った。

「何!?」

意外な行動に驚くダウーラ。そして、アインスはそこからビームサーベルを抜き、ダウーラの両肩部を切り刻んだ。おかえしと言わんばかりにビームケーブルを展開し、抵抗するグランシェ。それらをビームサーベルで切り払い、スバキは更に向かう。

「でやああああ!」

武装が大きく削がれたグランシェ。ダウーラは何か武装を探そうとしていた時――

 

                 ピピピピピッ

 

通信が入った。エファンからである。

「撤退しろ。武装もないのに戦う気か。」

「まだ武装はある!俺に戦わせろォ!」

元々ツヴァイとのみ戦えという命令を完全に無視していたダウーラ。エファンは顔をしかめ、ダウーラに言った。

「お前は私の命令も聞けない存在だという事だな。ならそこで朽ち果てるが良いが。」

「チッ……ここで死んでは戦えなくなる……それは避けたいからな……お前の命令に従う。撤退だ!」

「どの道後でお仕置きは避けれないぞ。」

「糞がァァァ!!!」

敵を目の前にし、ダウーラはコクピット内部を思い切り殴った。直後にグランシェのバーニアの出力を上げ、アインスガンダムの元から去って行った。

「なんだよ、逃げたのか……?けどさ!」

逃げるグランシェに対し、スバキは追跡を行う為にアインスのバーニアの出力を上げようとした。

「おい!」

そこへ声を掛けたのはガーストだ。彼が彼女に声を掛け、止めさせた。

「何だよ!?逃げるだろ!」

「深追いして他の敵にやられたらどうするんだよ!罠って事もあるだろう!」

「……クソッ……」

ガーストの言葉を受け入れ、スバキはダウーラの追撃を止めた。そして、別の機体と戦う為にその場所から離れた。

「あいつ……無事かな?」

「あいつって?」

「レイだよ!」

「多分、大丈夫だと思うぜ。」

ガーストの憶測がスバキを不安に陥れた。居ても立ってもいられない衝動に駆られたスバキはMA、ディブロックの方向へ向かう。

「おい!」

スバキの勝手な行動に手を焼くガースト。彼は舌打ちをしながらハイエッジカスタムを操り、移動する。

 

 

 

ツヴァイはディブロックと死闘を繰り広げていた。ディブロックの付近まで接近する事が出来たツヴァイはビームライフルを連射するが、機体全体がバリアーフィールドジェネレーターに覆われており、ビームによる攻撃が一切通用しない。

「ビームが効かない……!なら、これで!」

ブリッツファンネルにビーム刃を展開させ、ディブロックのコクピットに向けさせた。その間もディブロックからはミサイルやファンネルが迫ってくるが、レイはこれらを回避し続ける。

 やがてディブロックのコクピット部分にファンネルが直撃し、ダメージを与える事が出来た。

「倒した……?クラリスさんは……?」

 

                バシュゥゥゥゥゥ

 

「えっ!?」

その時、コクピットから一筋のビーム粒子が発射された。コクピットにビーム兵器が内蔵されている等、考えにくい。

(コクピットからビーム!?どういう事なんだろう……?)

レイがそのように考えていた時、再びディブロックのブリッツファンネルがツヴァイに迫る。

(クラリスさんは生きている!?)

先程コクピットにファンネルを直撃させた筈なのに、何故攻撃が続けられるのか……レイは迷いながら攻撃を回避し続けた。

「あ――!」

ディブロックの攻撃を避け続けている中で、レイは後方からのファンネルに気付かなかった。彼は回避に集中をしているつもりだったのが、その攻撃だけは認知する事が出来なかったのだ。

 

                ドォォォォッ

 

「うぁっ!」

後方にバリアーフィールドを展開出来ていなかったツヴァイはバーニアを直撃してしまった。その為、ツヴァイの動きが鈍くなってしまう。その間にもディブロックからのミサイルやファンネルがツヴァイに襲い掛かる。このままではツヴァイは破壊されてしまう。絶命の危機がレイに訪れようとしていた。

 

――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――

 

レイの眼が、深紅に染まった。彼特有の現象が再び発動したのだ。

 これに伴い、周辺で戦っていた力を持つ人間達――シンギュラルタイプやアドバンスドタイプ達はそれぞれ頭痛を訴え始めた。その為か、ディブロックが放つファンネルの動きが鈍くなった。

 これを好機に感じたレイは、ブリッツファンネルを一斉に展開し、ビーム刃を展開してディブロックのブリッツファンネルを切り裂いた。これまでの戦闘でツヴァイのブリッツファンネルは一度も破壊されていなかった為、合計十八基のファンネルはディブロックに対して容赦ない攻撃を繰り出す事が出来た。ビーム刃により、ディブロックの機体が切り刻まれていく。

「……!」

そして、ツヴァイは機体前面に十八基のブリッツファンネルを並べ、更に肩部の拡散ビーム砲やバスタービームライフル、そして収束型ブラスタープラズマカノンを一斉に展開した。それらをディブロックのコクピットに目掛け、今から放たれようとしていた。そして――

 

     ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ

 

ツヴァイが展開した武装全てがディブロックに向けて発射された。バスタービームライフルに肩部拡散ビーム砲、腕部ビームキャノン、ブリッツファンネルからの高出力のビーム、そして収束型ブラスタープラズマカノン。これらを一斉に発射したツヴァイ。それらは全てディブロックのコクピットに向けて放たれる。

 やがてそれらはコクピットに直撃したのだが、その時にコクピットから何やらMSらしき影が姿を見せた。やがてそれはモノアイを輝かせ、ツヴァイに対して高出力のビームを放った後で下半身を変形させ、ディブロックを捨ててこの宙域から撤退したのだ。

 ビームはブリッツファンネルによって防ぐ事が出来た。ディブロックから出てきたMSの姿を見て、レイの眼は元通りに戻った。そして彼は、大規模な爆発を起こすディブロックの姿を見て、はっと息を飲んだ。

「倒した……の……?」

ディブロックは間違いなく倒された。この光景を見て、新生連邦の艦隊は撤退を開始した。新生連邦軍の切り札とも言える巨大MA、ディブロックが破れたという事で、彼等は一度撤退を余儀なくされたのである。

 結果、今回の戦闘はFPBが勝利を収めた。ディブロックという超大型MAを撃墜したレイの功績であるのだが、彼はそれよりもディブロックから出たMSの事が気になっていた。

「クラリスさんは……やっぱりまだ生きているんだ……でもMAからMSなんて……」

倒した敵機体の情報が分かっておらず、ただ、呆然とするレイ。

 

                  ピピピピピッ

 

その時、ツヴァイのコクピットに通信が入った。ネルソンからである。

「レイ、良くやったな。まさかあれを倒せるとは思っていなかったよ。」

「ネルソンさん……」

「一度艦に戻るぞ。今はセイントバードではないが、新たな艦、アルバトスへ君を招待しよう。そこで事情を聴かせて貰う。」

「あ……はい。」

敵を倒した……という実感が湧かないレイ。それはディブロックから出たMSの事もあるが、それよりもクラリスがファンネルを使い、自分の頭の中に語りかけてくるという事が彼にとって奇妙でならなかったのだ。以前クラリスと交戦した際に違和感を覚えていたレイだったが、今回の戦闘ではそれが更に顕著に認められた。

 レイはクラリスが強化モデルと化している事を知らない。それ故に、彼の疑問は膨らむばかりであった。だが今は、久し振りに会う元セイントバードのクルー達に会える事を喜ぶべきだと思い、その疑問は自分の中で留めておこうと思っていた。

 

 

 

 その後レイはアルバトスのMSデッキに辿り着いた。始めて見るその光景に、少しだけ目が眩みそうになる。しかしそこにいたミシェの姿を見て、少しばかり安心する。

 この時、クルー達の中にはレイを歓迎する様子を見せる者もいたが、中には彼の存在に疑問を抱き続ける者もいた。無理もない。本来ならば元に戻って日常生活を送っている筈の少年が何故かこの場所にいるのだから。レイはツヴァイを降りた後、ネルソンに誘導され、アルバトスのブリッジへ向かう。

「おい、あの子供って……」

「帰ったんじゃなかったのか……?わざわざこんな所に来たってのか……?」

レイの姿を見て、ひそひそと話しだすクルー達。彼は終始俯きながらネルソンについて行く。その間、ネルソンはレイにあまり言葉を掛ける事はしなかった。

 廊下を移動中、ネルソンが右端に備え付けられているレバーを握りながら移動しているのを見て、同様にレバーを持ちながら移動をすると、彼もネルソンと同様に移動する事が出来た。それ、そのものが初めてで、それが何かが分からないレイにはその存在に驚くばかりである。

「宇宙では重力がない。故に、廊下等を移動する際は備え付けのレバーを持ちながら移動する事。そうすれば身体が勝手に移動してくれる。」

「は、はい。わ、とと……」

慣れない動作にレイはただ、躊躇いを抱くだけだった。

 

 やがてブリッジに辿り着く。そこにいたのはエリィとスラッグとインクの他に、FPBの兵士達が多数いた。その光景に対して違和感を覚えつつも、エリィを見て笑顔を見せる。

「改めまして。レイ君。凄いよ、まさか宇宙まで来るなんて思いもしなかった。」

「はい!色々とありましたけど……やっぱり戦う事に決めました。なんて言うのかな……オチオチしていられないというか……」

ここに来るまでに様々な出来事があったレイだったが、それらを掻い潜って今ここにいる。彼は戦う事を決めた。今のレイの志は、非常に固い。

「レイ君、聞きたい事があるの。」

「何でしょう?」

「貴方、家族の方にはなんて言ってるの?やっぱり、誤魔化しているの?」

エリィの言葉に対し、レイは答える。

「いえ……正直に話しました。もう隠し事はしたくないと思いましたから。僕は、僕のやらなきゃいけない事をしないと、駄目だって思いました。」

クルーは唖然とした。今までごく普通に育ってきた人間が唐突にMSに乗って戦うという事を知れば、誰もが困惑するに決まっている。彼はそれを家族に告げたというのだから、驚くのも無理はなかった。

「それ程までして、覚悟を決めてここへ来たのね?」

「はい。」

レイははっきりと首を縦に振った。

「レイ、正直に言わせて貰って良いか。」

そこへネルソンが口を挟んだ。彼は咳払いをした後、レイを睨むようにして口を開けた。

「これから先、我々は戦争をする。その為に皆ここにいる。この場にいる者達はFPBという組織の名の下に行動を共にしている者達だ。何かに強制されているのではない。自分達の意思で行動しているのだ。君は、本当にここに自分の意思で来たのか?〝皆が戦っているから自分だけ何もしない訳には行かない〟という、考えで来たのではないだろうな?」

ネルソンから放たれた言葉は、彼が故郷に帰って来た際にずっと考えていた事だった。それに関しては一度エリィに電話をして話をしている。

「ち……違います。」

「本当か。」

「はい。」

と、レイが答えた時――

 

                 ウィィィィン

 

ブリッジのドアが開く音が聞こえた。それと同時に、パイロットスーツ姿のジャンヌがブリッジに入って来たのである。彼女はレイがこの宙域に来たという事で、何故ここに来たのかを確認する為にやって来たのだ。ジャンヌと共に、ギア・ジェッパーもこの場にいる。

「ジャンヌさん……」

「レイ。お久しぶりですね。」

そう言うジャンヌの表情は険しかった。まるで、レイという存在に対して疑問を抱いているかのように。

「先の戦いでの援護、感謝します。ですが、何故、ここへ戻って来たのですか。以前に貴方に問うたと思います。〝これからは攻める戦いを強いられる事になります〟と。それを覚悟でここに来たという解釈をさせて頂いて宜しいでしょうか。」

彼女の言う通りである。以前に、確かにジャンヌはレイに対してそう言った。これからの戦いは今までのレイの戦闘スタイルが一切通用しなくなる戦いであるという事。念を押したのにも関わらず、レイはここに居る。つまり、レイはそれらを覚悟の上で戦いに臨むという事になる。

 しかしレイはすぐに返答が出来なかった。ジャンヌに険しい顔をされているからではない。まだ、自分の中に流されているのではないかという考えがあったからであり、〝攻める戦い〟という言葉が彼の中で引っ掛かったからだ。

「既にご存じだとは思いますが、私達はFPBという組織を立ち上げ、平和国連盟に対してに宣戦布告をしています。FPBは偽りの平和を破る者達という意味です。私達は偽りの平和を作り出しているとされる現在の平和国連盟のやり方を反対する為に存在しているのです。無論、新生連邦や今後現れるかもしれない、デウス帝国残党軍とも戦う覚悟でいます。確かに、戦力は多い方が良いのです。ですが貴方は兵士でも何でもない、民間人。自分から戦争に行く必要は一切ないのです。でも貴方はここに来た。それは相手を一方的に殺し、そして一方的に撃たれる可能性がある。その覚悟があったからこそ、ここに戻って来たのですね?」

「は……はい。」

レイはコクリと頷く。だがジャンヌは彼の意思を認めなかった。

「では何故動揺する必要があるのでしょうか。貴方の中で、まだ覚悟が定まっていないからではないでしょうか。」

「それは……」

ジャンヌに言葉で責められ、表現を表出出来ないレイ。しかし彼が戸惑っているのは紛れもない事実だった。

「私達は戦争をする為に宇宙に居ます。戦争では多くの犠牲者が必ず伴う事になります。つまり、私達は死を覚悟した上で今の混迷の世界を変えて行こうと考えています。少なくとも、FPBの兵士達は皆がその覚悟で臨んでいます。」

「戦争を……する為に……」

レイは俯いた。覚悟は決まっている――決まっている筈だったのに、それを表出出来ない自分がここにいる。それは、まだ完全に覚悟を決められていない何よりの証拠だった。

〝戦争〟という言葉がどうしても引っ掛かるのだ。死は既に覚悟は出来ている。しかし意図的に殺し合うという行為が、レイを躊躇わせた。

「その様子では貴方は戦争をするという事に動揺されている様子ですわね。確かに、貴方達はMS乗りとして戦って来て、戦争をした訳ではないでしょう。ですがこれからは戦争に私達は身を投じて行く事になります。貴方が本当にそれを望まないのならば今からでも遅くはありません。シャトルを出して地球に戻り、故郷に帰る事は可能です。それをするか否かは貴方次第です。死は覚悟出来ても戦争は出来ないという、生半端な覚悟でFPBにいる事は許される事ではありませんわ。」

「生半端な覚悟って……そんな……」

ジャンヌの言葉がレイの心に突き刺さる。何故自分は覚悟を決められていないのか、そんな自分が情けなく感じた。

「ああ、成程。ツヴァイガンダムパイロットが君か。君なりの理由があって、ここに戻ってきた訳だね。先の戦闘を見る限り、技量は非常に高いと考えられるが、迷いは戦場では禁物だ。ジャンヌ嬢の言うように、よく考えた方が良い。君は民間人なのだろう?ならば、普通の生活をしても良いのだ。ここにいる皆は誰も止めないし、恨みもしない。」

ギアが言った。結局、覚悟のない人間はここにいてはいけないという事を言われ続け、彼は悩んだ。

 故郷で起きた様々な悲劇。自分自身が疑似のアドバンスドタイプであるということを知ってしまったという事、それによって家族を困惑させてしまった事、更には幼馴染であり、恋人であったリルムとの別れやその姉、ヒューナとの死別。これらを乗り越えてここに居る筈だ のレイだったが、まだ迷いを拭いきれないでいる。それが彼自身、悔しくて溜まらない。自分は一度死さえ考えた。しかし、結局死なないで今に至る。それは彼を励ます人間がいたからであり、自分自身が皆と共に戦いたいと思っているからだ。

 今までは戦争に巻き込まれ、それに対して自分やクルーの皆を守る為に戦い、相手を殺してきた。しかしこれからはどのような理由であれ相手を殺していかなければならない。つまり、以前彼がアレンを批判していた事と同様の事をしなければならなくなるという事である。

 しかし彼はもうこれ以上迷いたくない、悲しい思いをしたくない、覚悟を決め、前に進みたい。今、自分の出来る事、するべき事はただ一つ。FPBの一員として戦い抜く事……ならば、それをしなければならない。例え理不尽な理由で相手を殺す事になったとしても。  

レイはぐっと拳を作り、そっと息を吸って言った。

「僕は……FPBとして、戦います!覚悟は決めました!もう逃げません!今逃げても僕には何も残らないから!僕には力がある!なら、せめて自分に出来る事をしたい……僕はそう思ったんです!これが、僕の意思です!!!」

レイは自分の意思を伝えた。もう自分にはここから先に進むしかない、自分のするべき事はFPBの一員として戦い抜く事……その意思を、懸命にジャンヌに伝えた。

「……それが貴方の意思なのですね、レイ。」

「はい!」

躊躇う様子を一切見せず、ジャンヌの眼を見て今度ははっきりと言った。

「分かりました。貴方の意思、確認させて頂きました。レイ、貴方は今からFPBの兵士としてこの戦争を戦い抜かなければなりません。今からは戦場から逃げる、自分勝手な行動等は一切許されません。組織の一員であるという自覚を持って行動して下さい。」

「僕はもう決めました。逃げも隠れもしません。もう……決めた事なんです。」

これからは誰かを守る為に戦うのではなく、真の平和を勝ち取る為の戦い。例え犠牲者が多数出ても、最終的には勝利しなければならない。彼はFPBのクルーとして、宇宙での激戦に身を投じる事となった。

「では……ようこそ、FPBへ。」

すると、ジャンヌは急に笑顔になった。それは彼を戦う意思のある者であると認めた証だった。

「貴方の意思を確認する事は出来ました。そして、私は貴方がここに来ようとする事になったきっかけは、敢えて聞きません。様々な事情を抱えて来られたのならば、その意志を汲み取るだけです。」

ここに来るまでの経緯を聞く必要はないと、ジャンヌは判断した。彼が戦う意思を見せたのならば、その意志だけを汲み取れば良いと、考えた為だ。

 戦う理由や経緯は知っておくべき場合もあれば、そうでない時もある。レイの場合はそれを知らない方が良いとジャンヌは考えた。それは、アドバンスドタイプの事も関係していたからなのかも知れない。

その直後、ジャンヌはエリィの方を見て言った。

「エリィさん、私はシュネルギアに戻らせて頂きます。何かが決まり次第、連絡させて頂きますわ。」

「あ、はい!」

そう言って、ジャンヌが去ろうとした時――

「レイ、これを受け取って下さい。皆と何かあった時に連絡が取れるEフォンのアップデートです。落ち着いた時で良いですので、後で装着して下さいね。」

そう言って、ジャンヌはレイに特殊な機械を渡した。黒縁に覆われた、Eフォンより一回り大きなその機械。彼女が言うには、それをEフォンに装着すれば地球と宇宙と交信が出来る程に通信範囲が広がるものだという。それは、軍関係者が本来地球との交信用に作り出した特殊な機械であり、一般では流通していないものだ。

「あ、ありがとうございます。」

その直後、ジャンヌは笑みを浮かべた。

その後ジャンヌはギアと共にブリッジを後にした。と同時にレイは一気に力が抜け、無重力に身を任せて身体を浮かせた……と同時に、自分が浮いているという事に驚いていた。

「……あ……わ!?浮いてる!?」

「無重力だからな。というか、さっきの移動の際も身体は浮いていたぞ。」

ネルソンが微笑しながら言った。

「話を戻すが、ジャンヌ嬢に言いたい事を全て言われてしまったが……まあいい。レイ、覚悟を決めたからには頑張れよ。これからの戦いは自分の悩みや考えと無関係に熾烈を極める事になるだろうが、それでも弱音を吐く事は許されないぞ。」

「は、はい……わわっ……」

無重力という環境に慣れていないレイはこの感覚に違和感を覚えた。それを見て、その場にいた者達はどっと笑った。

 

 

 

 少し時間が経ち、彼は自分の部屋の場所を案内してもらう為にエリィに誘導された。始めてみる艦内。その廊下はセイントバードと比較にならない程綺麗で、清潔感があった。

「地球と宇宙は全然違うでしょう?私は元々宇宙育ちだから久し振りって感じで済むけど、貴方はずっと地球で育ってきたから……この感覚が変に感じるのも無理はないと思うよ。」

「確かに……凄い違和感があります。これが無重力なんですね……宇宙に初めて来た時も、身体がふわって浮く感じはしました。でも改めてコクピットから降りてみると変な感じ……」

「艦内はGを調整出来るの。調整次第では重力の設定を地球と同様にする事も出来るけど、移動の際を考えると今のGが丁度良いのよ。レバーを掴むだけでこんな風に移動できるからね。」

宇宙慣れしているエリィに対し、全く慣れていないレイ。この宇宙慣れしている感じが、レイにとって不思議でならなかった。

「でも、長い間地球にいたから宇宙にいると不健康になるってイメージが強いのよ。まあ、当然だね。元々、人間は地球で過ごすように身体が出来ているから。」

と、エリィが話をしているその時――

「レイ!本当にレイなのね!?わああああ!」

と、彼に声を掛ける、美しい容姿の人間がいた。エレン・ニーマードである。

「え、エレンさん!?」

と慌てるレイに、エレンが向かう。が、彼女も宇宙は始めてだった為、身体のコントロールが上手く出来ず、レイにぶつかってしまう。

「わっ……!」

「備え付けのレバー握って、エレンさん!」

と、エリィが優しく声を掛けた。

「は、はい!」

パッと、エレンは慌ててレバーを掴む。

「大丈夫?気を付けてね!地球とここじゃ、違うから。じゃあ、またね。」

エリィは笑顔で手を振りながら廊下を移動して行った。しかし、この時、エリィは一つ、疑問を抱いていたのだ。

(なんだろう、エレンさん異様にレイ君を見て喜んでいたな。何か、あるのかな。)

と、静かに疑問を抱くエリィ。しかしそれは本人達の話だ。自分が介入する事など、ない。

やがて、そのままエリィは去って行った。その後、ここにはレイとエレンの二人が残された。

「……レイ、地球から来たのね……ここまで、遥々と。」

「う、うん……色々とあって。エレンさんも、まさかここに居るなんて……」

「私も、皆と一緒に居たいって思ってたから。少しでも皆の役に立てたいと思ってたから。」

すると、エレンは少し恥じらう様子を見せながら言った。

「あのね……私、レイに会いたかったの。だからここに戻って来たって聞いた時、私嬉しかったの!」

「あ……そ、そうなんだ!あ、ありがとう……」

〝会いたかった〟と、自分の気持ちをストレートにぶつけるエレンに、レイは内心彼女の事に対して戸惑いつつ、礼を言う。

「ねえ、レイ。ここじゃ人が通るし、レイの部屋に行っていい?」

と、エレンが首を傾げながら突然言うと、レイは目のやり場に困った様子で

「あ……え……どうして?」

異様に積極的なエレンにレイも彼女と同様に首を傾げながら言った。

「レイと少し、話がしたくて……」

「話?」

「ええ!」

まるで主人に懐く犬のような眼差しでレイを見つめるエレン。何故これ程までに彼女がレイに対して話をしたいと言い出すのか、彼は分からないまま、先程エリィが言っていた部屋に、“二人”で入る事にした。

 

 

 部屋の中はセイントバードの固執と大きく異なり、広く、そして部屋全体が銀色に染まっていた。まるで、SF映画等のワンシーンに使われている様な部屋。レイはそのような印象を受けた。この部屋に来たことで、レイは改めて今、自分が宇宙にいるのだという事を感じ取った。

「凄い部屋でしょ?私の部屋はスバキと兼用なんだけど、それでも地球生まれからしたら本当にSF映画って感じ!」

「うん……本当に凄いや……」

部屋の内装に感心するレイ。しばらく茫然と眺めていると、エレンがレイの背中をぽんと叩き、その際にレイは我に返った。

「そんなに凄い?」

「あ……ごめん、ぼうっとしちゃって……」

「気持ちは凄く分かる。レイ、とりあえず座ろうか。」

「うん。」

エレンの提案で、二人は入り口から前方にあったベッドに腰掛ける事にした。腰掛けた後、両者は深呼吸を行う。レイは先程貰った機械をEフォンに装着。この時、Eフォンの電波アイコンが圏外から変わった。

その直後に、口を開けたのはエレンの方だった。

「私ね……もうレイに会えないと思ってた。でもまさかレイがここに戻るなんて夢にも思わなかったの!何回も言ってるけど……それ程に嬉しい事だからね!?」

嬉しそうに喋るエレン。まるで自分の気持ちをストレートに伝える、純真無垢な少女のように。レイとであった当初はあまり笑う事が無かった少女が、今は満面の笑顔を見せている。それはセイントバードクルーとの交流を経てなのか、それともレイにのみ笑顔を見せているのかは定かではない。

(エレンさん……もしかして、僕に興味があるのかな?でも……僕はどのように振る舞ったら良いか分からない……)

その時に、彼はリルムに言われた言葉を思い出した。

 

―――――――――――――――もうあんたの顔も見たくないのよ――――――――――

 

―――――――――――――――お願いだからもう構わないで――――――――――――

 

――――――――――――――――二度と近付かないで―――――――――――――――

 

リルムから発せられた数々の言葉。その言葉がレイに思い出され、脳裏に過る。

 悲しませる気など一切なかった。自分の正体を知って欲しくなかった。その結果がリルムとの別れや、ヒューナの死等の悲劇へと繋がった。リルムの事は忘れたいとさえ思っていた。だが、簡単に忘れる事は出来なかった。

「どうかしたの?」

リルムの言葉が思い出され、悲しむレイはエレンの存在を忘れてしまっていた。彼女の言葉で我に返ったレイは、首を横に振りながら言う。

「あー……ううん、なんでもないよ?」

「そう?……なんだかレイ、眠たそう。疲れているの?もしかして、無理しているの?」

彼は地球から宇宙に上がる間に様々な出来事があり、その間一切休息を取っていない。それ故に彼は眠気に満ちていた。

「う……ん……無理はしてる……のかな?ここに来るまでにいろいろな事があったから……」

「あっ、そっか……ごめん、休みたいよね?ベッドで横になる?」

エレンに言われ、レイはベッドに腰掛けている状態から仰臥位姿勢になり、天井を向ける姿勢になった。その間、エレンはレイを看病するかのようにレイの顔を見つめている。

「なんか……そんなに見つめられるとちょっと恥ずかしいな……」

「ご、ごめん!つい見過ぎちゃった……」

そう言いながらエレンはレイの目線を逸らした。

「私……迷惑ね……だってレイ、凄く疲れているのに部屋に入って……」

「そんなに気にしなくていいよ。でも……確かに眠たいとは思う……」

レイの眼は徐々に瞑られようとしていた。仰臥位になったことで、眠気が一気に感じられたのである。

「あの……レイ、正直に言って良い……かしら?」

急にエレンの口が開き、彼女は言った。

「?」

この後、10秒程度の時間が流れた。エレンはその間、顔を赤めていた。レイは〝もしかして〟と思いつつも、その間一切発言をしなかった。

 そして、彼女は喉に唾を通した後、言った。

「私、レイの事が……好きなの……なんていうか……男の人として……だからレイがここに戻って来たって聞いて、嬉しかったの。ずっと、気になっていたから……」

「あ……ちょ、ちょっと……待って……」

エレンはレイに告白した。レイは目をキョロキョロとさせ、目のやり場に困っている。好意はあるのではないかとは考えていたが、エレンがまさか告白をするとは思ってもいなかった。

「あ……ごめん……レイにはリルムが居たよね?でも……レイには本当にお世話になっているし、助けて貰ったし……優しいし……そこに魅力を感じたって言うか……なんて言うのか……ごめんなさい、無理なのは分かっているの!でも、私、自分の気持ちに嘘を吐きたくないって思ってるから……」

今、彼はリルムと分かれている。それも悲しい分かれ方だ。そのような中でエレンに告白され、レイは迷った。自分を大切に思ってくれるという事は、彼にとって嬉しい事だ。だが、今のレイにはそれに対してどう応えれば良いかが分からなかった。

「な、何言ってるんだろうね……わ……私……部屋、出るから!ごめん、今はゆっくり休んで!」

エレンはすっと立ち上がり、顔を赤めたまま部屋から出て行った。残されたレイは、ただ、呆然と目をパチパチとさせているだけだった。

「いきなり……告白って……え……!?僕は、どうすれば……?」

リルムと分かれたばかりにレイにとって、今エレンの想いを受け入れるべきか、彼は舞台を宇宙に移して、またしても悩む事となったのである。

 

 

 

 先程の戦いを終えたアレンはシュネルギアの更衣室にてパイロットスーツを脱いでいる途中だった。ココットが殺されて以来、一度も笑う事無く、表情を露にしないまま過ごしている彼。以前と異なり、一切他者と関わろうともしなくなった。

 

                   ポンッ

 

普段着に着替えようと上半身裸のアレンの背中を何者かが叩いた。その方向へ振り替えるアレン。

 そこにいたのはスバキにちょっかいをかけてきた男性パイロットであるファージ・ネイヴァンだった。悲しみに暮れるアレンに対し、気さくに声を掛けてきたのだ。

「よっ、伝説のパイロットのアレン・レインドさん。」

「……貴方は?」

「俺は元国連だった男で、今はFPBのファージ・ネイヴァン。気軽にファージって言ってくれて構わないぜ。歳はあんたよりも上だが、実力はあんたの方が圧倒的に上だからな。呼び捨てしてくれても構わない。」

ファージは笑顔で言ったが、アレンは無表情のまま更衣動作を続けた。

「おいおい、しかと?」

「すみません、今はちょっと人と話す気になれなくて。」

「おーおー、会話でのコミュニケーションは人間のみの特権なのにそれをしないのは駄目だぜ?俺はあんたが素晴らしいパイロットって聞いてるから、憧れをもって接してるのにそんな対応されちゃーなー……」

ファージは苦笑いを浮かべていた。そんな彼の様子を余所に、アレンは普段着に着替え終えてから部屋を出ようとした。

「お、おいおい!それは流石にひでえよ!」

「ですからすいません、今は……話す気が起きないんです。」

そう言って、アレンは更衣室から去って行った。ファージは頭を掻き、彼が去って行ったドアを茫然と眺めているだけだった。

 

 

 

 更衣室から出てきたアレン。その目は虚ろで、生気が感じられないように見えた。

「アレン」

彼の眼前にはジャンヌの姿があった。レイの覚悟を確認した後、彼女はアルバトスからシュネルギアに移動してきたのだ。

「ジャンヌ……」

彼女の姿を見た後、ジャンヌは、アレンの方に近付き、話し掛けた。

「貴方に問います。先程までの戦闘中の中で、貴方は何を思ってブライティスに乗り、戦っているのですか。」

「何を思うって……?」

「怒りですか?悲しみですか?それとも、機械のようにただ相手を殺し続けているのですか。」

ジャンヌの言葉に、アレンは彼女から目を背けるだけ。

「何が言いたい?」

「今の貴方がブライティスに乗るのは危険であると言いたいのです。」

「危険?何が?あれは俺の機体だ。俺は今、与えられた任務をこなしているだけ。特別な感情なんて――」

「本当に?」

ジャンヌは睨むようにアレンを見た。温和なジャンヌからは想像も出来ない、険しく、恐ろしい表情にアレンは黙る。

「戦場において、感情に翻弄されるままに戦う事は兵士として相応しくありません。それによって死のリスクが上がる為です。今の貴方のように感情を殺して戦場に出る事は兵士としては正しい選択です。ですが、今の貴方は無理をして感情を殺しているだけに思えます。」

ジャンヌの言葉は続く。その間、アレンは静かに握り拳を作っていた。

「自身の感情を無意識下でコントロールせず、意識が下で感情を殺していると言う事。それはいつか、感情を爆発させてしまう可能性が高い為、私は危険だと判断したのです。」

「だから、何なのさ……?」

ジャンヌの言葉に苛立ちを見せるアレン。アレンのそのような姿を見ても、ジャンヌは臆することなく語り続ける。

「ブライティスに乗る上で感情を爆発させる事は、貴方の生命を脅かす可能性が高い……それを伝えたかっただけですわ。貴方も分かっている筈です。ブライティスに搭載されているクリスタルシステムは、機体の性能を極限まで引き出すと同時に、感情によってそのシステムはコントロールされていると……」

クリスタルシステムは搭乗者の感情とシンクロしており、その中でも怒りの感情に過剰に反応する仕組みになっている。搭乗者が過剰な怒りを感じる事でシステムが搭乗者の脳血流量や自律神経の流れを読み取り、それによって機体にも変化が見られるという仕組みである。実際、デウス動乱時に投入されたクリスタルガンダムにもこのシステムが搭載されており、圧倒的な力を見せつけた記録がある。

しかしこのシステムは非常に強力な反面、搭乗者の命にも関わる危険なシステムでもある。というのも、システムそのものが搭乗者の血流量を過剰に促す為、搭乗者の循環器系統に凄まじい負担が掛かる。それだけでなく、普通の怒りとは比較にならない程の怒りをシステムが促す為に、怒り過ぎて搭乗者が精神崩壊を起こしてしまう危険性も備わっている。その為、全てにおいてオールドタイプやシンギュラルタイプを凌駕する存在であるアドバンスドタイプがこのシステムを扱うのに相応しいものだとされ、クリスタルシステムはデウス動乱時のクリスタルガンダムとこの機体以外では実用化に至っていない。開発した地球連邦軍ですら、このシステムのデータは抹消しており、日の目を見る事がないとされてきた。

だが、アステル家はこれを回収し、ブライティスに応用させたのだ。もし、クリスタルシステムが発動すれば凄まじい力を発揮するが、基本的には発動する事は余程の戦況で無い限りは厳禁とされており、基本的にブライティスに搭乗する時は、パイロットは自身の感情のコントロールが大切になってくるのである。

アレンはデウス動乱時にクリスタルシステムが生命を脅かす存在である事を知っている。それは、ジャンヌも同様だ。

「今、貴方と言う戦力を失う訳には行きません。それはFPBに多大な損害を与える事になる為です。クリスタルシステムに飲み込まれれば生命の保証はありません。」

警告するジャンヌ。だが、アレンは黙ったままだ。

「アレン。今アルバトスとシュネルギアが向かっている資源衛星にて、貴方のガンダムを強化しようと考えています。今後の戦闘では熾烈を極めていく事が予想される為です。ですが、今の貴方が例え強化されたブライティスに乗る事になったとしても、それは危険以外の何者でもありません。」

以前にミシェと話していた事だ。アレンのガンダム、ブライティスの強化。今後の戦闘で戦い抜く為の強化だ。

「私からのお願いです。ブライティスの強化が終わり、尚且つ貴方自身の感情が落ち着くまではあの機体に乗る事を避けて下さい。ただ、それがいつになるのかは分かりません。その為、万が一戦闘になった場合は、暫くは貴方にアステリアを用意させて頂きま――」

今の心理状態のアレンにブライティスを乗る事はリスクが高いと判断したジャンヌは彼に気を遣うように、アステリアに乗るように提案をした。それを、アレンの言葉が遮った。

「ジャンヌは分かっている筈だろう!俺が無心を演じなきゃダメな理由を!!!」

アレンの大声に、ジャンヌは黙った。

「クリスタルシステムの事はとっくに知ってる!あれが感情に左右されるって事も!でも今までは俺にはココットが居た!彼女が居たから俺の心の支えになっていた!ブライティスの機能が維持できたのも、俺の精神が保てていたのも彼女が居たくれたからだ!でも殺された……そりゃ、別の機体を用意すればリスクの問題は解決するかも知れない!でも今後戦闘は激しくなっていくのに俺がブライティス以外の機体に乗った所で本当に戦力になるのか!?」

アレンの支えとなっていた人が死んだ。だからこそ、宇宙に出てからの彼は感情を押し殺し、ブライティスの機能の維持の為に戦う事が出来た。今、彼はジャンヌに言われえて自分の中の感情を爆発させた。今だからこそ良かったが、もしこれがブライティスのコクピット内ならば取り返しのつかないことになっていたと考えられる。

「でも……それで貴方が死ぬという事になれば!」

「どの道変わらない!安全を考えて機体をアステリアに変えて、その性能を下げるか、リスクを考慮して高い機体性能を持つブライティスで戦おうが!」

ジャンヌは迷っていた。最愛の人の死を目の当たりにし、彼が困惑しているのは分かっていた為だ。ジャンヌ自身もその経験をしている。母、ターナの死の経験。だが彼女はそれを乗り越えた。そして、ココットの死も今は気にしていられない。シュネルギアの艦長として、指揮をしていなければならない為である。

 だが今、ココットを失い、心の拠り所がないアレンが無暗にブライティスに乗るのは、危険なのは間違いないのだ。

「悪いけど俺はどんな状況になろうともブライティスを降りる気はない。仮に怒りを感じて、生命の危険に陥ろうと……」

すると、アレンは何故か微笑しながら言った。

「今の俺はさ、心の支えも何もない、ただ敵を殺すだけの兵士なんだよ……ごめん、ジャンヌに当たってしまった……駄目だな、もっと感情をコントロールできないと……いっそ、感情なんて無くなれば良いのにね。そうすれば楽になれる……辛く、悲しむ必要なんてない……こんなのがあるから、ただ苦しいだけだ……まるで、リノアスってあの子と真逆の事を言ってるな、俺は……」

ヴァイダーガンダムの呪縛に囚われ、人の形すら保つ事を許されなかった少女、リノアス・クリストル。彼等は戦闘の中で何度か会話をした。その中でリノアスは感情を取り戻し、最期には解放された。

自らがそのように語る事で、少し冷静さを取り戻すアレンだったが、以前のような優しさは見られない。全てを諦めたかのように振る舞うアレン。それに対してジャンヌは言った。

「アレン……では……」

「……?」

「私が……貴方の支えになる事は駄目なのでしょうか……」

彼女は、今自分に出来る事はアレンの支えになってあげる事だけだと感じていた。その為、思い切って彼の自分の想いを伝えたのだがアレンは

「ジャンヌが俺の?……ジャンヌの事は好きだ。でもそう言う、愛情という意味の好きと言う訳じゃない。仲間として好きなんだ。それにさ……今の俺にはさっきのジャンヌの言葉がこれ以上俺が暴走しない様にする抑止剤のように聞こえて仕方が無いんだよ。」

彼女は実際アレンの事を想っている。しかしその想いは今のアレンには伝わらなかった。寂しげにアレンを見つめるジャンヌ。

「そんな……私は……貴方の事を本当に……」

「……本当に……?」

 

ガッ

 

ジャンヌの言葉はアレンを激昂させる。次の瞬間、アレンはジャンヌの肩を思い切り掴み、壁に両肩を押さえつけ、彼女の顔に自分の顔をぐいと近づけた。

「アレン……何を……?」

「俺の事を本当に想ってるってことはさ……俺の事を慰めてくれるってことなのか!?」

ジャンヌの心遣いが、アレンを一層荒れさせた。

 

チュッ

 

彼は強引にジャンヌの唇に接吻をし、その間にも彼はジャンヌの肩を押さえつけた。心地良くない、ただ空しさだけが残る行為を、彼等は行っていた。

「ん……んぅ……」

「……」

五秒程して彼等の唇は離れた。アレンはじっとジャンヌの顔を睨むように見ている。

「想っているのなら……受け入れてくれるんだろ!?俺を!こんな俺をさ!大切な人を失って、ただ無心に人殺しをし続ける俺を!!こんな生きる価値もないような人間を想ってくれるんだろ!慰めてくれるんだろ!!!じゃあ慰めてくれよ……抱き締めて……身体だけでも良い!!癒してくれよ!頼むから!!」

自棄になるアレン。蓄積していた感情をジャンヌに向けて爆発させる。それは彼女が親しい存在だからこそ怒りをぶつけているのだが、ジャンヌにとってそれは悲しみでしかない。

 アレンの言葉に最初は困惑するジャンヌだったが、彼女は覚悟を決めた様子で言った。

「……構いませんわ。アレン、貴方が私の身体を求めているのなら、私は受け入れましょう。それで貴方の心が少しでも癒されるのなら……救われるのならば……私は貴方に身体を預けます。」

ジャンヌは本気だった。アレンに身体を委ねても構わない。それによって彼が精神的に癒されるのならば、それを受け入れるべきだ――と、考えていた。

 しかしアレンは彼女の言葉を聞いて涙を流した。ジャンヌの両肩を離し、壁に向けて思い切り拳を叩きつける。

「……ごめん……ごめんよ……ジャンヌ……俺は……最低な屑だよ……自分の事しか見えてなくて……ジャンヌを道具のように見ていた……あんな事……してしまうなんてさ……」

「アレン……」

接吻の事を謝るアレン。それだけでない。彼女の身体だけを求めてしまった事も全て謝った。彼はこの時、改めて自分がおかしくなっているのだ……と感じてしまった。

「俺はもう行くよ……ジャンヌ、君は引き続きFPBを導いて。ブライティスの改修も任せる。けど、その間、俺は命令通りに動いて、MSにも乗る。与えられた命令ならこなす。だから……」

アレンは視線を隠すようにし、この場を去った。ジャンヌは胸元でぎゅっと指を握り、彼の悲しげな背中を見送った。

 最愛の人、ココットを失ったアレン。今、彼は誰とも交流をせず、黙々と戦い続けている。何故ならば、他者と交流すれば自分の中の感情が爆発し、その人を傷つけてしまうから――彼はそれを分かっていたのだ。だからこそ、誰とも接しようとしなかったのである。ジャンヌには怒りを爆発させたが、ジャンヌはそれを許した。アレンが苦しみ、悲しんでいる事を理解している為であった。

 

 

 

 エファンは作戦から帰還したクラリスとダウーラに対し、〝お仕置き〟を行っていた。それは服を脱がせた状態で、失神する寸前の出力の電流を全身に浴びせ、苦しめさせるというものだった。

「ぐああああああああああああ!!!」

「う……ぐううううううううう!!!」

両者が苦しむ中、エファンはニヤリと笑っていた。側にいたシーアは身体を震わせている。

 少し時間が経過して、二人は解放された。しかし身体を動かす事は、両者には出来なかった。

「よく、平気で命令無視を出来たものだな。反抗期のティーンエイジャーのつもりか?」

「も……申し訳ありません……少佐……」

クラリスはよろよろと、身体を動かしながら言った。

「糞……がぁ……」

一方のダウーラは反省する様子を見せず、エファンを睨みつけている。

「まあ、機体のデータを持ち帰って来た事は評価しよう。それだけでもお前達を出撃させた価値はある。」

「少佐……お言葉ですが、機体のデータを入手して何に使用される予定なのですか?」

シーアが言った。彼はエファンの目的を一切知らない。だからこそ、彼は聞いたのだ。

「機体のデータの使い道は山程あるだろう。特にあの白いガンダム。あれは以前よりも明らかに強くなっている。その理由となるデータを分析し、今後の戦闘の参考にする。それが目的だが?」

「ハッ、了解しました。」

シーアは敬礼した。

(これで私の機体は完成型に近付いた……しかし、もう少し調整は必要か)

エファンは何かの機体を作っている様子だった。電流を浴びて苦しむ両者を見て彼は再び笑みを浮かべた。シーアはエファンの表情を見て不気味に感じていた。

(この人、MSに関しては天才的で尊敬は出来るけれど、こういうところは悪趣味だな……僕は人の痛がる姿を見て喜ぶ気にはなれない……正直、気味が悪い……)

「そうか、シーア。」

「!?」

エファンはシーアの心の中を見抜いた。この時、彼はエファンが透視能力を持っている事を思い出し、後悔した。

「しょ、少佐、申し訳ございません!」

「何を謝る必要がある?普通人間の心の中は読めない。しかし私は読める。いや、読めてしまうと言うべきか。人間の心が読めると言うのは便利であり、非常に不便だ。少なくとも人間関係を築いて行こうとする人間が持つべき能力ではない。相手の本音が見えてしまい、それが自らに対する負の感情を抱いていると知った時、人間というのはその人間と関係を持ちたくなくなるものだからな。」

「いえ、決してそのようなつもりではありませんが……」

人間の心が読めてしまうエファン。彼の言うように、人間関係を築いて行く必要がある場合において彼の能力は厄介この上ない。人の心が読めると言う事は、相手の本心を知ってしまうと言う事だ。それを知ってしまう事で、例えば建前では友人だと思っている相手が実は嫌っていたという事も知る事が出来るようになってしまう。そうなってしまっては人間関係を構築する事に障害が生じてしまう。

「何かを考え、それを表出せずに心の中で隠し通す事は人の特権だ。だから私はそれに対しては何も文句は言わない。例え、それが私を誹謗中傷する内容であろうがな。」

「はあ……」

果たして、それは寛容であるといえるのかと、シーアは思っていた。無論、その考えもエファンには筒抜けであり、彼はエファンと行動を共にする際は迂闊に失言をするどころか、考えを思う事すら難しいものとなってしまった。

 

 

 その後、エファンはMSデッキにて自らの機体を眺めていた。従来の機体よりも一回り程度大型の、漆黒の機体。これがエファンの機体というのか。

 手部は他の機体よりも肥大化している。特徴的なブレードアンテナにデュアルアイ。それだけを見ればガンダムタイプのようにも見えるが、特徴的な口径部の突起が見られない。恐らく別物なのかも知れない。

 彼はやがてコクピットの中に入り、所持していた情報端末を接続し、情報を見る。それはダウーラがツヴァイと交戦した際に持ち帰った情報だ。そこに記載されているのはツヴァイガンダムの情報。新たにビーム粒子を共鳴させる機能が追加された、ブリッツファンネルの情報がそこに記されている。

「あのガンダムのサイコミュ兵器に搭載されているのはビーム粒子の共鳴、共振。これを応用させれば、理論上は“永久機関”を作り出す事も可能という事か……人間は兵器に於いてはこれ程に有益なテクノロジーを生み出す。それが人を殺める存在という、矛盾……だが、これは私の目的の為にも利用価値がある……」

彼の言葉は全てが意味深長だ。彼は端末を眺め、その頭脳を回転させていく。

「元来MSを運用するに当たってはビーム粒子の貯蔵タンクの存在が必須とされてきているが、もし戦場に飛び交うビーム粒子を再利用出来るのならばこれは有意義と呼べるか……なかなか、興味深い。」

戦場に散るビーム粒子。それらは貯蔵タンクから熱エネルギーとして生み出されるものだ。そして、放たれたビーム粒子は戦場に散り、地球上ならば大気に、宇宙ならば宇宙空間に留まる。それらの濃度が濃くなれば、Eフォンの回線などに障害を齎す。

 だがそれが再利用出来るとすれば?もしそうならば、MSはビーム粒子切れを起こす事はなくなる。エファンが語るのは、その事だ。

 従来のMSではそれらは不可能とされた。だが、今回ツヴァイに実装されたリゾネートジェネレーターはビーム粒子自体を共鳴させ、そしてその出力を高める効果を持つ。この共鳴する機能を応用させる事が出来るのなら……と、エファンは一人、考えていたのだ。

「私の機体の完成は、もう間も無く……か。スウィードさん、貴方が果たしたかった夢は間も無く、叶うよ。」

コクピットの中で、彼は静かに呟いた。

 




第九十六話、投了。
舞台は遂に宇宙へ。ここから物語は一本になって進んでいきます。
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