この戦いの中で、エファンは“究極のMS”を展開させていく――
メイド・ヘヴンによる、国連とFPBの交渉決裂から三日が経過した。この一件を受け、国連軍は自軍の中に裏切り者がいないかを、徹底的に調べ上げていた。
「まさか、ギア・ジェッパーの言葉に感化されて私を信じないと言う愚か者がいると言う事に驚きを隠せないな。アース将軍、貴官はどう思う?」
ギルスは今、アッサラームのブリッジ内に居た。全長1キロメートル以上はある超大型戦艦の艦長を務めるウィレス・レイド・アース将軍と共に、ブリッジにいる。
今、国連軍はアッサラームを中心とした艦隊を形成していた。アッサラーム以外にはリューチェ級が数多く存在しており、更にハイエッジや少数のヴァントガンダムも展開している。
「私には何とも言えません。我々は国連の士官として、果たすべき役割を果たす。ただ、それだけです。」
「そう!この先平和な世界を作り出すには脅威を排除する必要がある!徹底的に攻め入り、そして敵を倒していくのだ!」
ギルスは熱烈に語るが、それに対してウィレスは冷静な様子だった。
「お言葉ですが代表。少し宜しいでしょうか。」
「ん?どうした将軍?」
突如ウィレスはギルスに聞いた。
「決して貴方を疑う訳ではありませんが、御伺いしておきたい事があります。貴方はこの世界をただ、自分の物にしたい――と言う訳ではありませんね?」
念を押すように、ウィレスは聞く。だが、ギルスは無表情でフン、と気味の悪い笑みを浮かべた。
「私は常に世界の事を考えている。今の混沌とした世界を救うには平和が必要だ。平和を作り出すには武力行使で、脅威を排除し、そして我々平和国が中心となるべきなのだ。」
「……分かりました。」
先程と言っている事があまり変わっていないギルスだが、ウィレスは彼の真意を確認する事が出来た。しかし彼女の目はギルスを睨んでいるようだった。まるで、心から彼を信頼していないように。
「さて、平和国を裏切り、ギア・ジェッパーなどという不届き者に寝返るなどと言う馬鹿げた考えを持つ人間は現在、いないだろうな?もしいれば即座に殺せ。平和を作り出そうとする者が裏切り等、あってはならない事だからな。」
「……ええ、そうですね……」
と、ウィレスは静かに答える。
「平和の脅威は新生連邦だけでなく、勝手に分裂したFPBとやらの勢力にデウス帝国残党軍……これは大規模な戦争が予想される。しかし勝たなくてはならない!平和を掴み取るには、必ず勝つ!それはこのアッサラームをはじめとした国連の大艦隊が成し遂げるだろう!」
と、独りで、大声で語るギルス。ブリッジにいた人間達は拍手をする者もいたが、あまり乗り気でない人間も数名いた。ウィレスは無表情のまま、ぱちぱちと拍手をした。
ギルスは〝平和〟という言葉を連呼しているが、実際は世界を我が物にしたいと考えている、エゴの塊である。ギアにその事をばらされてはいるが、彼は卑怯な手を使い、この出来事を隠蔽したのだ。その事実を知る者はこの場にはいない。皆、ギルスは平和の為に武力行使をしていると信じているのだ。つまり、この場にいる者は皆ギルスにとって捨て駒に過ぎない。勿論、アッサラームの艦長として平和国の為に戦うウィレスでさえも。
シュネルギアとアルバトスはアバドンコロニーにて戦力増強の為の補給物資の調達を終えたばかりであった。先日に起きたメイドによる国連とFPBの交渉決裂により、戦力の増強が不可能になってしまった以上、彼等は不足している戦力を駆使して戦う必要があるのである。
アバドンコロニー内で得られたもの。それは、輸送艦と、外部パーツの艦サイズに装着する大型バーニア程度だった。だが今の彼等にそれが何の役に立つのかは、分からない。
この時、ジャンヌやギアは新生連邦や国連、そしてデウス残党軍の動きを入念に確認していた。これらの勢力の動きを確認し、そこから強襲するか、様子を見るか、判断をする必要があったのだ。
「ジャンヌ様、国連軍、新生連邦軍共にそれぞれの旗艦を中心とした大艦隊を編成している模様です。」
「そうですか、分かりました。」
両者は前面衝突をしようとしているのか、それは定かではない。ただ一つ言える事は、いくらアバドンコロニーで戦力が整ったとはいえこれ程の艦隊を相手にするのは今のFPBの戦力では厳しいものがあった。
実際、FPBの戦力といえるのは数少ないリューチェ級が数隻とシュネルギアとアルバトスだけである。戦力は新生連邦や国連の方が圧倒的に上だ。今、彼等がこの艦隊を相手に勝てるとは、とても考えにくい。
「どうするんだい、国連か新生連邦に喧嘩を売るにはあの規模はあまりに無謀だと思われるが……」
「ええ、そうですわね……」
メイドの襲撃さえなければ彼等は新たな戦力を加え、多少なりとも戦えるだけの数は揃っていただろう。しかし現実は残酷である。メイドによる一件でFPBに心を預けようとしていた国連の兵士はFPBを目の敵にし、国連の兵士として戦う事を決意しているのだ。これ以上国連から戦力を引き抜くのは無理だと考えられる。
「ところで……デウス帝国の動きはどうですか。」
ジャンヌが兵士に聞いた。艦隊が形成されているのは国連と新生連邦だが、デウス残党軍の姿が見られない事に、彼女は疑問を抱いた。
「いえ……確認、出来ていません。」
「そうですか。」
国連と新生連邦と言う、強大な勢力が艦隊を編成している中、何故か姿を現さないデウス残党軍。恐らく何かを狙っているのだろうが、その狙いが何なのかは定かではない。
「恐らく、国連と新生連邦の両者が戦い、疲弊している所を攻撃してくる可能性が考えられるね。その為にどこかで待機している可能性が考えられる。」
「……分かりません……デウス軍が一体何を考えているのか……」
先の出来事により、デウス残党軍を一切信用していないFPB。彼等は次回以降、確実に敵勢力として襲ってくる。FPBはこれらに対しても対抗できる手段や戦力を増やす必要があるのだが、今現在、彼等の戦力は乏しいと言えた。
「ジャンヌ様!凄まじい熱源を探知!これは現在月面に向かっています!」
「熱源ですか!?」
オペレーターの兵士が確認したもの……それは戦艦以上に巨大な熱源だった。それをすぐにモニターで確認するオペレーター。
「これは……」
そこに映っていたもの……それは、デウス残党軍が拠点としている小惑星、アポカリプスだった。その小惑星はデウス動乱後、長らく現在の新生連邦の目に触れることなく存在していたが、デウス残党軍が以前に新生連邦の月面基地、シン・ナンナを攻撃した際に世間に公になって以来、デウス残党は攻撃的な姿勢を見せるようになった。アポカリプスが動き出したと言う事は、新生連邦に対して決戦を挑もうとしているのかもしれない。
「小惑星から多数の艦艇を確認!これはいずれもデウス軍のバディウス級の改修型と考えられます!」
「つまり、あれはデウス残党軍の拠点と考えられますわね……」
「彼等は決着を付ける気なのか?」
シュネルギアのブリッジにいた誰もが困惑していた。移動を始めた小惑星、アポカリプス。その目的地は新生連邦軍の月面基地、シン・ナンナである。以前にもシン・ナンナに侵攻した彼等だったが、今回は完全に制圧しようと目論んでいるのである。
「気になるのはこの状況で国連が動いていないと言う事ですね。あの小惑星が向かう先は新生連邦の月面基地、シン・ナンナ……国連が動く理由がありません。」
「今度は新生連邦とデウス残党の戦いになりそうだな……」
ギアは眼鏡をちらと動かし、言った。
「私達も今は様子を見た方が良いのかも知れませんわね。迂闊に動いては両軍の戦いに巻き込まれるだけですわ。」
ジャンヌは状況を見極める事にした。現在、新生連邦とデウス残党軍の衝突が始まろうとしている。これに首を突っ込む必要はないと、彼女は判断していた。
ジャンヌらが新生連邦とデウス残党の様子を見ている頃、アルバトス艦内をレイは移動していた。新造艦の構造を把握していなかった彼は時間があるうちに把握しておこうと判断し、一人艦内を移動していたのだ。
「レイ!」
彼が移動していると、少女の声が聞こえた。それはエレンの声であった。それに気付いたレイは振り返り、エレンを見る。
「あ……エレンさん。」
「良かった……会えて。この前も戦闘だったからレイ、疲れてると思って声を掛けなかったんだけど……やっぱり気になって。」
「あ……前の事……だよね。」
エレンは彼の気持ちを確認する為にレイを呼び止めたのだ。彼女が彼に声を掛ける理由はそれ以外にないとレイは分かっていた。
「多分、駄目なのは分かってるの。でも……確認したかったから……忙しいのにごめん、我儘な事、言って。」
エレンに告白された事は、彼自身正直嬉しい。しかしレイは素直に喜べない。というのも、リルムとの出来事があったからである。リルムに一方的に別れを言われ、衝撃を受けるレイ。今はその傷も少しずつ癒えつつあるのだが、まだ彼はリルムの事を断ち切れないでいたのだ。
「エレンさん、実は――」
思い切ってレイはエレンに自分に起きた出来事を話す事にした。地元で起きた一連の出来事。エレンはそれらを聞き、彼がリルムと別れた事を知った。
「そうだったのね……」
「エレンさんの気持ちはとても嬉しい。でも……ごめん、僕はまだ気持ちの整理が出来なくて……少し、待ってて欲しいんだ。」
どうしてもリルムが忘れられないレイは、いわゆる〝保留〟という形でエレン伝えた。それに対し、エレンは
「分かった。もし答えを言ってくれるなら教えて欲しい。出来るだけ近い内に……」
「えっ、それって……」
レイが首を傾げたその時だった。
ギュッ
「え……!?」
レイはエレンに抱き締められた。優しく、それでいて強く、彼女は抱き締めた。
「ごめん……でも……本当に早く答えが欲しいの……だってレイ、戦争して死ぬかも知れないから……それに私も……それが怖くて……」
彼女が自分の思いを伝えたのは、いつ死んでもおかしくない状況にいることを自覚していたからである。だからこそ彼に想いを伝え、答えを急かした。
「……ごめん……出来るだけ早く気持ちを整理するから……」
「お願い……私はレイのどんな答えでも受け止めるから……」
「ありがとう……」
そう言ってエレンは抱き締めるのを止め、そのまま去って行った。レイは彼女の後姿を少し見つめた後、この場から去る。
「……」
そして、この一連の様子を見ていた人影の姿がこの場所にあった。人影は彼等の抱擁を見届けた後、静かに去って行った。
デウス残党軍はアポカリプスを動かし、新生連邦の月面基地に向かっている最中だった。アポカリプスの中に搭載されている無数のバディウス改級宇宙巡洋艦。その中に、デウス残党の旗艦であるアシュタル艦の姿があった。
「勇敢なるデウスの兵士達よ、今こそ連邦軍に引導を渡す時が来た!奴等の攻撃の要とされる月面基地を叩き、連邦軍に壊滅的な打撃を与えるのだ!デウスに栄光の輝きを!」
そう言うのはアシュタル艦を指揮するナジェラ・メリクリファーである。現在のデウス国王である彼はデウス残党軍の艦隊を率い、月面に対して攻撃を加えようとしていた。
その中で、インベーションユニットは別の行動を取っていた。指揮をするアルメスは新生連邦を狙うのでなく、FPBを狙っていたのだ。
「次の戦いは連邦軍との壮絶な決戦となる。そうとなればデウス軍も只では済まないだろう。ならば……せめてジャンヌ・アステル等を巻き込み、奴等の戦力も削ぎ落す必要がある!行け!」
彼等は先の件でFPBとの交渉が滅裂になった後から根に持っていたのかは定かではないが、脅威となり得ると判断したアルメスは新生連邦とデウス残党軍との戦いにFPBを巻き込もうと作戦を練っていたのだ。その為に彼が率いるインベーションユニットはMSを展開し、FPBが現在いるアバドンコロニーに向かっていた。
「おーおー、あいつらに喧嘩売るんかよ。まあ、あいつの策略は間違っちゃいねえかもねぇ。じゃあ、いつ攻撃するか?」
ビゴォン
その中に、メイドの姿があった。彼はデスゲイズを駆り、そのモノアイを輝かせながら接近していく。
「今でしょォ!」
メイドは唇を舌で舐め回し、シュネルギアへ向かって行く。無論、メイド以外のインベーションユニットに所属するゴルモンテMk-Ⅱや、ディエルMk-Ⅱ等の機体も同様に。
「ジャンヌ様!デウス軍のMSがシュネルギア並びにアルバトスに接近中です!」
「そんな……何故……」
予想外の出来事に、ジャンヌは困惑していた。新生連邦軍とデウス残党軍の戦争だと思い込んでいた彼女だったが、デウス残党軍がこちらに攻撃を仕掛けてくるなど思いもしなかったからだ。
「デウス軍、侮れないか……どうする、ジャンヌ嬢?」
側にいたギアが静かに語った。
「……MS部隊を展開して下さい。迫ってくるならば、迎撃するしかありません。」
彼女は各MSパイロットに出撃命令を下した。今、デウス残党軍とFPBの戦いが始まろうとしている。
「ブライティスガンダム、出撃!」
「!?」
MSの発進命令を下した直後、アステル兵が言った。真っ先にアレンの機体が発進したと言う情報に、ジャンヌの目が見開かれた。
(アレンは……まさか……!?)
彼女はアレンに対し、ブライティスに乗るなと命じている。しかしブライティスが真っ先に出撃した。恐らく、それに彼が乗っている可能性は高い。
強化されたブライティスは強力な兵器を身に付けた。だが、より万全な状態となるには、搭乗者の感情が重要な因子となる。
(アレン、どうか……せめて感情だけは押さえて……)
ジャンヌは静かに両手をギュッと組み合わせ、祈り始めた。彼女は恐れているのだ。アレンの命が失われるリスクがある事に。もし彼女の言うように、アレンの感情が爆発すれば、ブライティスに何が起こるか分からない。彼の命を奪う出来事が生じる危険性も考えられる。それが何かは今の段階では分からない。
アルバトス艦内でもエリィが発進命令を下していた。アルバトス艦内に警報が発令され、戦闘準備に取り掛かっていた。
「総員第一種戦闘配備!」
「第一種戦闘配備!繰り返します、総員第一種戦闘配備――」
エリィの声に合わせるようにインクが各員に対して伝達している。他のクルー達の表情は真剣そのものであった。
「全く、勝手にこっちに来た癖に断った瞬間態度変えて攻撃を仕掛けてくるのかよ!デウスって戦時もこんな性悪かよ!大尉も大変だっただろうな!」
急なデウス軍の強襲に苛立ちを隠せないスラッグは言った。
「分からないけど今は戦うしかないわ!今はどんな勢力であれ、敵なら……」
エリィは艦長席に座り、静かに前方を見た。スラッグやインク以外の国連兵達は彼女の命令に従う為にいずれもがモニターの前で待機していた。
デウス残党軍とFPBの戦いが始まった。既にデウス残党軍はシュネルギアとアルバトスの両艦に接近してきている。これらに対して迎撃をするFPB。
「ハハー!」
接近するデウス軍の中にいるデスゲイズ。それは急に右前腕部に搭載されている有線式ビームサーベルを、ビーム刃を出さずに、そのまま上方に展開した。謎の行動に動揺するFPBの兵士。ヴァントガンダム達はその間にビームライフルやミサイルで攻撃を仕掛けるが、ビームはデスゲイズには通用しない。ミサイルも、器用にメイドは回避し続ける。その間、デスゲイズから展開されたケーブルはあろうことか、隕石にアンカーを刺すように刺した後、ヴァントガンダムに向けて攻撃をし始めた。
ギュルルルルルッ
「な、なんだ!?」
早過ぎる隕石による質量攻撃に対処出来なかった兵士達は、瞬く間に三機が撃破された。
「必殺メテオストライクゥ!遊ぶならアイデアって大事だしな!ん!?」
隕石を使った攻撃を行った後、熱源を感知したメイドはデスゲイズのモノアイを輝かせ、前腕部のビームキャノンを構えた。
「貴様、見ているな!」
その言葉と同時に謎のポーズを構えたメイドは、同時にビームキャノンを撃つ。砲口の先にあったのはスバキの駆るアインスガンダムだ。アインスはビームシールドを展開してこの攻撃を防ぎ、そのままビームピッカーを展開してデスゲイズに迫る。
「あいつ!セイントバードを攻撃した奴!絶対倒してやる!!」
意気込んでデスゲイズに向かうスバキ。だがデスゲイズには隕石攻撃がある。それだけではない。左前腕部の有線式ビームサーベルは右と違い、自由に動かせる。その為、デスゲイズはそれらを展開した。
「アホが!死に来てんじゃねぇぞガンダムさんよぉ!」
有線式ビームサーベルと隕石が一斉にアインスに襲い掛かる。それでも、アインスはバーニアをフルに稼働させてデスゲイズに向かって行く。
バシュゥゥゥゥゥ
「なっ!?」
「オォウ?」
そこへ一筋の光線がアインスとデスゲイズの間を通り抜ける。眼前のビームに動揺するスバキ。彼女はすぐに光線が放たれた方向を見て、何による砲撃なのかを確認した。
ビームを放ったのはハルッグだった。ネルソンはスバキの無謀に見える攻撃を見て、ロングビームライフルを撃つ事で無理矢理彼女を止めたのだ。
「何のつもりだよ!私を殺す気かよ!?」
「君こそ何のつもりだ!あの機体に単体で勝てると思っているのか!」
「倒さなきゃ駄目なんだよあいつは!」
デスゲイズに対し、執念を燃やすスバキ。一方でデスゲイズの強さをよく理解しているネルソンはスバキを止める。戦わせるのは危険だと判断したからだ。
「喧嘩してんじゃねぇぞオイ!」
乱入してきたネルソンを含め、再び有線式ビームサーベルを展開して攻撃を仕掛ける。それと同時に隕石攻撃も行う。
「隕石だと!?何だこの攻撃は!?」
にわかに信じられない攻撃方法に、ネルソンは驚愕した。どうにかしなければならないと思っていたネルソンは急いで回避をし、スバキにここから離れるように指示する。
「スバキ、君は別の機体を相手にしろ。この機体相手では分が悪い。」
「じゃああんたが戦うのかよ!?それこそ無茶じゃねえか!」
「……すまないが今は口喧嘩をしている場合じゃない!」
口論を繰り広げる両者に、容赦なくデスゲイズが迫る。デスゲイズはミサイルやビームキャノンを連射し、彼等を攻撃する。それらを回避し、ハルッグはロングビームライフルでデスゲイズを狙うが、機体全体を覆うバリアーフィールドジェネレーターに弾かれた。
「馬鹿な、狙ったのは機体の後面だぞ!後面にもバリアーフィールドが張られているのか!?」
戸惑うネルソンに、メイドが語りかけてきた。
「ビームなんざぁ無駄なんだよ無駄無駄!」
「ちぃっ!」
「お前、アルメスの部下だったんだろォ?」
「メイド・ヘヴン……!」
彼等は一度新生連邦本部攻略戦の際に対峙していたが、その時は両者共にどのような人間かをよく分かっていなかった。しかし先のデウス残党軍によるFPBへの交渉を経て、メイドはネルソンの事を知ったのである。
「あぁ~、それにお前あれだな!戦争中に女に告白した奴だ!それが元デウスかよ!ネルソン・アルビュースさんよぉ!!!」
メイドはネルソンと交戦し、地球での出来事を思い出した。エリィがセイントバードと共に散ろうとした時に彼はエリィに自分の思いを告げた際、そこへ介入してきたのがメイドである。
「あの時のアホみてぇな行動がネタとして見てて面白かったぜ!クッソ寒い茶番、提供感謝すんぜぇ!ネタとしては最高だなぁ!」
「貴様の為にセイントバードのメンバーの多くが失われたんだぞ!」
彼がエリィを説得する際、メイドは執拗に邪魔をした。その際に多くのアステリアやヴァントガンダムが、犠牲になっている。
「うっせえよ!それって戦闘中に茶番してる奴が抜かす台詞かコラァ!?」
「黙れ!」
ハルッグは肩部からミサイルを発射し、デスゲイズに向ける。だがデスゲイズはケーブルで繋いだ隕石を盾にし、ミサイルから機体を守った。
「ガラ空きィ!」
その時、ハルッグの後方から再び隕石が迫って来ていた。デスゲイズはミサイル砲撃を受けた際に左前腕部からのケーブルを別の隕石に接続し、それをハルッグに襲わせていたのである。
「うぐっ!?」
間一髪回避するネルソンだが、そこへデスゲイズが腹部からビームカノンを発射した。急過ぎる攻撃にネルソンは対処出来ず、右腕部が消滅した。その為、ロングビームライフルが使えなくなる。
「なんて卑劣な攻撃だ……!」
攻撃の手段を減らされたネルソンはデスゲイズの卑劣な攻撃に苦戦を強いられている。この状況は不利だと感じた彼は、どうするべきかを模索していた。
「卑劣だと?ふざけんじゃねーよ!?てめぇは正々堂々とした戦いなんてあると思ってんのかァ?」
「……あぁ……そうだったな……今は戦争。どんな手段を用いてでも敵を倒す必要がある場所……」
「ハハハー!分かってんじゃねえか!どんな手段を使ってでも勝ちゃあいい!そう!どんな手をつかおうが……最終的に……勝てばよかろうなのだァァァァッ!!」
次の瞬間、デスゲイズのモノアイが輝き、同時に有線式ビームサーベルがハルッグに迫る。
「ちぃっ!」
デスゲイズの相手をするのは危険だと判断したネルソンは一度ハルッグを変形させ、その場から離れようとする。しかしデスゲイズは追い打ちを掛けるように、ハルッグを攻撃し続ける。
「どうしたものか……奴の性能は私が思っている以上に高い……」
ハルッグに合わせるように、デスゲイズもMAに変形した。その際、隕石からケーブルを分離させ、ハルッグを追い始める。
「逃げてんじゃねえぞリア充ネルソンさんよォ!ハハー!」
負傷したハルッグを追い続けるメイド。しかし、彼が狙っているのはネルソンだけでない。レーダーを感知した機体に対し、有線式ビームサーベルを展開して攻撃しているのだ。その中にはアステリアに搭乗しているアイリィの姿もあった。FPBの一員となった彼女だが、現在まで目立った戦果を上げられないでいた。その中で、今彼女はデスゲイズに狙われている。
「あわわわ……や、やばいー!」
回避運動を行うにも、有線式ビームサーベルの動きは彼女の想定を上回っており、逃げ切れない。
「ヘハハハハハ!!死ね!死ね!死ね死ね死ね死ね死んじまえ!黄色い豚めをやっつけろー!!!イエッハッハッハッハ!!!」
怪鳥の強靭な爪がアイリィに迫る。このままでは彼女は殺されてしまう――
バヂィィィィ
すると、彼女の眼前で別のヴァントガンダムが有線式ビームサーベルによる攻撃を受けていた。それらは幸いコクピットには直撃していない為、パイロットは生きている。しかし突然の出来事に何が起こったのかが判断出来ないアイリィはキョトンとしていた。やがて彼女に回線が入った。それはファージによるものだった。
「ぼさっとしてんな!せっかく可愛い顔してんのに簡単に死ぬんじゃないぜ!」
「あぅぅ……ご、ごめんなさーい……あ……でももうその機体じゃ……」
ファージの心配をしたアイリィ。それに対し、ファージは
「一度帰還して別の機体を用意してくるから心配いらないぜ。それより生き残る事を考えろ!終わったら是非会おうぜ!」
と言った。
「は、はーい!」
アイリィの返事を聞いたファージは、アステリアを駆り、シュネルギアへと帰還していく。これを見て、アイリィのアステリアはデスゲイズから離れ、別のデウス残党軍の機体と交戦を開始した。
インベーションユニットはシュネルギアとアルバトスにビーム砲撃を行っていた。この時、彼等はある〝違和感〟を覚えていた。というのも、この砲撃は明らかに戦艦を狙う気が無いのである。
(妙ね……普通狙うなら堂々と船体に狙いを絞るはず。なのに何故?まるでどこかに私達を誘導しているみたい……デウス軍は何を考えているの……?)
アルバトス内で、エリィは疑問を抱いた。デウス残党軍の謎の砲撃に疑問を抱きつつも、回避する為に艦を前進させるように命じた。その際、後方へビーム砲を撃てるようにも指示している。
「エリィさん、大丈夫ですか。」
そこへジャンヌから通信が入った。エリィはそれに対し、
「はい。」
と頷く。
「敵の砲撃に違和感を覚えませんか?まるで……どこかに私達を誘導しているような……」
「それ、私も思っていました。でも何なのかは……」
両者が会話をしている時、艦が揺れた。デウス残党軍のMSが船体に砲撃を行ったのである。
「ぐぅっ……!」
「エリィさん、一度回線を切ります。また後程……」
ジャンヌからの回線が切れた。彼女はデウス残党軍の攻撃に違和感を抱きつつも、この攻撃を回避する為に行動して行くしかなかった。
FPBがインベーションユニットと交戦する中、デウス残党軍の本隊はアポカリプスと共に、新生連邦の月面基地シン・ナンナの攻略に向けて進軍していた。デウス軍はディエルMk-ⅡやゴルモンテMk-Ⅱといった機体を惜しみなく投入し、新生連邦軍にダメージを与え続ける。シン・ナンナの司令官である、フェイク・バリスタはデウス残党軍に対し、艦隊を展開させるよう、指示をしていた。
その中で、新生連邦軍の旗艦であるバンドレッドから一機の機体が発進されようとしていた。それに乗っているのは総司令である。彼はカタパルト内からバンドレッドを指揮するジーク・アルナスに対して言った。
「後は頼みます。私もオラトリオで出ます。」
「了解です、ご武運をお祈りします。」
「了解、ガンダムオラトリオ、出撃。」
総司令のガンダム、オラトリオが発進された。先日のテスト時とは違い、今回はバックパックが搭載されている。オラトリオは発進して瞬く間に戦闘宙域まで移動した。機動性の高さが売りとも言える機体であり、並みの機体ではその機動性についていけないのだ。
「まさかデウス残党軍が攻撃を仕掛けてくるとは……」
デウス軍の動きにやや焦りを感じつつも、これらに対して冷静に対処する。オラトリオは主武装であるビームサブマシンガンを展開し、ディエルMk-ⅡやゴルモンテMk-Ⅱに攻撃。ディエルMk-Ⅱはこれに負けじとビームディエルマシンガンをオラトリオに向け、更にシュート・シューターといった武器を展開。
だがそれらはオラトリオのビームサブマシンガンの前では無意味だった。高出力のそれに、ディエルMk-Ⅱは瞬く間に破壊される。次に、接近戦を挑んできた機体に対してビームサブマシンガンを変形させ、ビームセイバーを展開。高出力のそれは一瞬の内に相手機体のコクピットを切り裂いた。
「っ!」
そこへゴルモンテMk-Ⅱ四機が一斉にオラトリオに向けてビームバズーカを発射しようとしていた。
「死ね、ガンダム――」
ビームバズーカの引き金が引かれようとした時、ゴルモンテは謎の飛翔物体によるビーム砲撃を受け、いずれもが同時に破壊された。
「な、なんだ!?」
オラトリオが攻撃した訳ではない。明らかにどこからか別の攻撃――デウス兵達は謎の攻撃に周囲を見回すが、何処から放たれているのかは分からない。
「助かる、ソフィア。」
その中で、総司令はインカムを通じて側近であるソフィアに言った。
「私は……貴方のお役に立つことが出来ているでしょうか?」
「十分だ。」
ソフィアは今、サイコミュ・ルーラシステムを使い、無数のファンネルを自在にコントロールしていたのだ。それらは全て、エレシュキガルから放たれており、広範囲に渡ってファンネルによる攻撃が可能である。彼女のシンギュラルタイプとしての潜在能力は普通のシンギュラルタイプを遥かに凌駕するもので、その力を使い、新生連邦軍のサポートをしていたのである。
「ソフィア、僕の為に戦うのではない。新生連邦軍の為に戦って欲しい。それを分かって。」
「え?あ……はい……レヴィー様……」
ソフィアは何故か少し悲しげに返答した。彼女のサポートもあり、総司令をはじめ、新生連邦軍は強固な守りを手に入れていた。機体性能が優秀なものが多数を占める新生連邦と数で圧倒しようとするデウス残党軍。戦前から続く両者が対峙し、今、激戦が繰り広げられようとしていた。
その中で、ある一隻のヴィッシュ級艦内にて。そこにいたのはエファン・ドゥーリアだ。彼はシーア・マックスのみ同伴を許可し、クラリスやダウーラには出撃命令を出さなかった。以前の戦いでの〝罰〟の為である。
彼等は今MSデッキのカタパルト内で会話をしていた。シーアはカーティウスに搭乗しており、エファンは新型のMSに搭乗していた。
「僕にカーティウスを与えて頂いてありがとうございます、少佐。」
「私の新型機体も八割程完成したからな、丁度試験運用をしてみようと思った所だ。お前の実績を見込んでその機体を渡した。上手く扱えるかは分からんが、期待している。」
「ハッ、全力を尽くします。この素晴らしい機体……どのような性能なのか、楽しみですよ。」
シーアは敬礼をした後、カーティウスのカメラアイを輝かせ、発進した。それに次ぐようにエファンもその新型MSを動かす。
「エレシュキガル内のサイコミュ・ルーラシステムによって防衛機能を増したか……随分憎い道具を使ってくれるな、総司令レヴィー・ダイル……」
シンギュラルタイプ等の、力を持つ人間の抹殺を図るこの男はソフィアの存在も抹殺しなければならない対象であると感じていた。
「何にせよ、今はこの機体がどれ程活躍出来るかの実験がしたい。さあ、数ある機体のデータを寄せ集め、“永久機関”を実装した私の最高傑作……どこまでやれるか。」
エファンは静かに笑い、操縦桿を握る。
「エファン・ドゥーリア、カタストゥリア出撃する。」
ゴギュオゥゥゥゥゥン
ガンダムタイプのようなデュアルアイの輝きと共に、彼が開発した新型MS、カタストゥリアが発進した。
機体名、カタストゥリア。型式番号EMX-05X。エファンが独自に開発したMSの一つ。全身が漆黒に包まれているMSで、バックパックには大型のブリッツファンネルが多数存在している。機体のサイズもガンダムタイプと比べて遥かに大型である。エファンが最高傑作と呼ぶその機体。この戦場でどのような活躍を見せるのだろうか。
カタストゥリアとカーティウスがほぼ同時に出撃する中で、カーティウスは先行し、ビームランチャーをデウス残党軍に向けて発射していく。
「良い機体だ!これがドゥーリア少佐の……素晴らしいよ!軍の配属になってから今までに乗った機体の中で一番良い!」
カーティウスの性能に感激するシーア。そしてふと、彼がカタストゥリアの方向を見た瞬間、彼は驚愕していた。
「あぁ……!?」
両機が出撃して数秒が経過した時だろうか、シーアの周辺に広がるのはディエルMk-ⅡやゴルモンテMk-Ⅱの残骸だ。そして、その中央にはカタストゥリアが紫色のツインアイを輝かせている。
カタストゥリアはバックパックのブリッツファンネルを展開し終えた後、元の場所へ戻って行った。その数は大小合わせて二十四機。彼はその二十四基のファンネルを使い、デウス残党軍に攻撃を仕掛けていたのだ。そして瞬く間に二十四機のMSと、戦艦三隻の撃墜に成功。カタストゥリアは、その凄まじい性能をデウス残党軍に見せ付けたのである。
「凄い……これが少佐の機体の力……」
シーアはこの光景を見て恐れ慄いた。最早、一瞬とも呼べる出来事だ。これ程に素早くMSを破壊する事など、従来の機体では恐らく不可能だろう。しかし、エファンの駆るカタストゥリアはそれを成した。完全に、使いこなしている。
「ビーム粒子のアブソーバー機能も問題はないな。この機体の完成は近付いたと言えるか。」
更に、カタストゥリアが展開したブリッツファンネルは周辺にあるビーム粒子を吸収し、それを我が物にしているのだ。これこそが、エファンの言っていた永久機関なのだろう。従来の期待では成せなかった事を、この機体は実現したのだ。
「だが、これでもまだ完成度は八割……まあ、戦闘に関してはこの状態でも十分にこなす事は可能だが……まあいい。行くか。」
先の出来事を受け、焦る様子を見せるデウス兵達はこの漆黒のMSに恐れつつも、ビームバズーカ等を使って攻撃する。
「う、撃て!なんだあのMSは!?」
ビームはカタストゥリアに、確かに直撃している。が、カタストゥリアはデスゲイズと同様に、機体全体にバリアーフィールドジェネレーターを搭載している。よって、ビーム砲撃などは一切通用しないのだ。
グォンッ
その時、カタストゥリアの両手部の指間腔からビーム刃が展開され、そこからケーブルが展開された。それらはビームクローとして、ゴルモンテMk-Ⅱに迫っている。
「なんだあれは!?」
ディエルMk-Ⅱはその武器にビームディエルマシンガンを連射するものの、バリアーフィールドによって弾かれる。そして、ビームクローはディエルMk-Ⅱのコクピットを一撃で貫いた。
「つまらん。まるで相手にならないではないか。まあ良い。」
見下すように、ディエルMk-Ⅱの爆発を見るエファン。そこへシーアの乗るカーティウスが彼の元へ接近してきた。
「少佐、これらは全て少佐が?」
「ああ、そうだ。所詮は戦力の寄せ集め。我々が負ける筈が無い。シーア、戦え。思う存分な。」
「ハッ、了解です。」
エファンの命令により、シーアは回線を切り引き続きデウス軍に対して攻撃を行う。
「戦争において相手が弱い事に越した事はないが、こうも歯応えが無いのもな。行き過ぎた技術の集大成は人を退屈にさせるものなのかも知れん。」
デウス軍の量産機体では成す術もない、圧倒的な性能を持ったMSであるカタストゥリア。謎に包まれているこの機体だが、強力な機体であることは間違いないと言えた。
バンドレッド艦内ではジークが指揮をしている。彼が標的にしているのは、デウス軍の旗艦であるアシュタル艦だ。
「ビームキャノンをあの艦に砲撃。急げ。」
やられる前にやる。ジークは真っ先にアシュタル艦を撃沈しようと目論んでいた。
「あれが連邦の旗艦か。随分巨大な戦艦であるが……」
「皇帝陛下、如何なされますか。」
アシュタル艦を指揮しているのはナジェラ・メリクリファーだ。デウス帝国の皇帝である彼は前線に出て戦争をしている。彼が指揮をするアシュタル艦も新生連邦の旗艦であるバンドレッドを標的にしていた。つまり、今、両軍の旗艦同士の戦いが始まろうとしていた。
「ビーム砲で牽制せよ。MS部隊を我が艦の周辺に置く事を忘れるな。」
「了解。」
両艦は互いにビーム砲で牽制し合い、砲撃を行う。互いのビームは掠るように艦の表面を通り過ぎる。そして、両艦共に周辺にはMS部隊が展開していた。
「早めにケリを付けた方が良いかも知れんな。デウスの旗艦とされる、あの艦を沈めれば脅威は一つ減る事になる。」
ジークは、早めにデウス残党のアシュタル艦を沈めようと目論んでいた。国連やFPBといった勢力がいる以上、デウス残党相手にこれ以上時間を掛けていられないと判断し、彼はバンドレッドのメガプラズマカノンをアシュタル艦に向けて発射するように命令していた。
「連邦の旗艦か。ならばプラズマカノンを撃て。一撃で沈めてやる。」
デウス皇帝、ナジェラもジークと同様、アシュタル艦に搭載されている大型プラズマカノンを発射するように命令した。その命令に従うデウス兵達。
今、両軍の旗艦同士がそれぞれの必殺技とも言える武装で攻撃をしようとしていた。
バンドレッドとアシュタル艦のプラズマのエネルギーが吸収されて行く。そして――
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
両軍のプラズマカノンが同時に発射された。この壮絶な光景に両軍の兵士は一時的に戦いを止めていた。
バヂイイイイイイイイイイイイイッ
それぞれのプラズマカノンは互いにぶつかり合い、そして弾けて消えた。プラズマ兵器は同程度の出力で互いに衝突すれば打ち消される。バリアーフィールドで防ぐ事が出来ないこの兵器を防ぐ唯一の手段がこの方法である為、プラズマ兵器は重宝されるのだ。
「相殺したか」
ジークが言った。
「次のチャージまでどれぐらい掛かりそうか!?」
デウス皇帝、ナジェラが言った。
「約十五分は時間を要します!」
「ならば一度後退しろ。準備が整い次第奴等に攻撃を仕掛けるのだ。」
ナジェラの命令により、アシュタル艦は後退していく。その間、艦の護衛の為にゴルモンテMk-Ⅱが数十機、アシュタル艦の周辺をそれぞれがビームバズーカを構えて並んでいた。
新生連邦とデウス残党軍の戦いが行われている中、FPBはインベーションユニットによる強襲を受けていた。バディウス改級はシュネルギアとアルバトスに対してビームを撃つが、まるで当てる気が無い。まるで、どこかへ誘導しているような砲撃。エリィを始め、ジャンヌもそのように考えていた。
「ジャンヌ様!新生連邦軍のMS部隊がこちらに接近中!」
「やはり彼等の狙いはそうでしたか。」
彼女等は後方からのインベーションユニットによるビーム砲撃を避け続けた結果、新生連邦軍とデウス残党軍の艦隊戦に巻き込まれてしまった。インベーションユニットはこれが目的だったのだ。両軍の戦闘にFPBを巻き込み、三つ巴の戦いにして戦力を削ごうとする。それが、アルメス・ラグナの狙いであった。
「連邦がジャンヌ・アステルの艦に攻撃を仕掛けたようだ。いいぞ、奴等を巻き添えにする事が目的だから成功だ。」
アルメスは勝ち誇ったような顔をして、新生連邦に襲われるシュネルギアを見ていた。そして引き続きMSを展開してFPBを攻撃するように指示を下した。
「新生連邦が……なんで!?」
デウス残党と戦っていた筈なのにFPBに襲ってくる新生連邦軍に、レイは困惑した。しかしこちらに迫ってくるのならば倒すしかない。ツヴァイはブリッツファンネルを展開し、ファンネル同士を近付けて高出力のビームを発射し、接近してきたジョゼフ三機を破壊した。
ギュルルルルルッ
レイは後方から何者かに攻撃を加えられていると感じ取り、急いでそれらを回避する。その攻撃は、デスゲイズの有線式ビームサーベルだった。
「やっぱ戦うなら雑魚同然のオールドタイプよりシンギュラルタイプ以上の人間だよなぁ!ドーモ。クソガキ=サン。メイド・ヘヴンです。」
「あの機体は!」
漆黒のMS、デスゲイズ。パイロットは当然メイド・ヘヴンだ。狂気に満ちたパイロットに、強力なMS。まさに鬼に金棒といった強敵がレイの前に再び姿を現す。
「思えばよォ、お前らみたいな地球でプータローしてた奴等がこんな所まで来るってのが驚きだぜぇ?まー、それは俺も一緒か!」
彼の言う〝プータロー〟というのはMS乗りの事である。レイはこの男を相手に緊張し、激しく息を洩らしていた。
(この人は強い……言葉とかは変だけど、前もアレンさんのガンダムを奪ってそれを乗りこなしていた。実力も相当ある……)
今まで何度も苦汁を舐めさせられてきた強敵、メイド・ヘヴン。彼の為に、レイは一度生死を彷徨い、ジェルヴァチームに保護された。その後も何度か対峙したが、機体性能とメイドの技量が相まって、その度に苦戦を強いられてきた。
「クソガキ、殺すべし、慈悲はない!死ね!!!」
その直後、有線式ビームサーベルがレイに襲い掛かる。くねくねと、触手のようなそれは様々な方向へ展開し、レイを追い詰めて行く。
ドオオオオッ
そこへ、二機のMSが姿を見せた。それらはあろう事が、ガンダムタイプであった。
「アハハハハ!」
「フフフ……」
レイとメイドが交戦する中、チェーニ姉妹が現れた。それぞれヴェーチェルガンダム、エクルヴィスガンダムに搭乗し、レイの前に襲い掛かる。
「あのガンダム……フォリアさんにリンセさん……!」
咄嗟にツヴァイはブリッツファンネルを全基展開した。彼の前に強敵が三機もいる為、レイは気構えていたのだ。
「チッ、ガンダムが二機も来やがったか。めんどくせぇよなァ~」
チェーニ姉妹を相手に苛立つメイドは有線式ビームサーベルの矛先を姉妹のガンダムに向けた。これらの攻撃を素早く回避する姉妹。
バシュゥゥゥッ
そこへ、ビームライフルを発射したブライティスが現れた。それはデスゲイズのバリアーフィールドによって弾かれるが、メイドはブライティスを見て喜び始めた。
「おぉ、アレン・レインドの青羽ガンダム!こいつぁいい!」
歓喜するメイドは標的をアレンのみに変えた。アレンはそのまま別の場所に移動する。彼の動きに合わせるように、メイドはアレンを追った。
「どこかへ行ったみたいね。フフ、レイ……やっとじっくり相手が出来る。」
「久し振りだねー、あの子、いっぱいいたぶってあげるんだから!」
姉妹にとってメイドは邪魔以外の何物でもない。彼女等の目的はレイと交戦する事なのだから。
早速彼女等は攻撃に出たヴェーチェルはビームウィップを、エクルヴィスはデストロイウェブを展開し、ツヴァイに襲い掛かる。
「攻撃!」
彼女等の攻撃に対し、頭の中で電流が流れるのを感じたレイは攻撃を先読みし、これらの攻撃を全て回避する。この時にツヴァイのコクピット内に彼女等から回線が入った。
「随分久しぶりじゃない、レイ。また貴方に会えて私は嬉しいわ。」
「なんだか凛々しくなった気がするようなしないような~でも、やっぱり顔は可愛いね!」
「フォリアさん、リンセさん……」
レイを今までセイントバードチームと行動する原因を作った張本人ともいえる彼女等。彼と彼女等の因縁は深い。
「宇宙にまで来て会うなんて、何かしらの運命を感じるわね。やはり私達の小指は赤い糸で結ばれているのかもね。ウフフ……」
「キミとは本当に長いよねー。こんな所でも会うなんてさッ!」
エクルヴィスはメガビームカノンをツヴァイに向けて撃つ。しかしツヴァイの展開していたブリッツファンネルがそれを無効にした。
「何をやっているのよリンセ。ビームはあの機体には通用しないでしょう?」
フォリアは最初にツヴァイと交戦した事を忘れていない。その際に苦汁を飲まされた事も、全て覚えている。故の、アドバイスだ。
「ああー、そうだった!ごめんなさい、お姉様ッ!!!」
フォリアに謝った直後、エクルヴィスはカメラアイを輝かせ、腰部の隠し腕を展開してツヴァイに迫った。レイはそれらを対処する為にブリッツファンネルを向かわせるが、サイコミュ感知システムを搭載しているエクルヴィスはこれらの攻撃を軽々と回避し、やがてツヴァイに最接近し、隠し腕でツヴァイの腕部を掴んだ。
「しまった!?」
「ファンネルとかの兵器はあんまり当たる気がしないんだよー!」
無邪気に笑うリンセ。そこへヴェーチェルが対艦サーベルを展開し、ツヴァイに迫る。
「フフ、真っ二つ。」
両腕部を封じられているツヴァイはこの攻撃に対して抗う事が出来ない。何もしなければ、対艦サーベルの餌食となってしまうだろう。
バシュゥゥゥ
「チッ……!」
ツヴァイのブリッツファンネルの存在を感知し、フォリアは攻撃を回避した。だが回避しつつも相手が迫ってくるので、ファンネルは時間稼ぎにしか過ぎない。
「フフ、ファンネルは当たらないわ。時間稼ぎのつもりかしら?」
「時間稼ぎ……確かに……!」
レイは狙っていたようにツヴァイのプラズマカノンを展開させた。両腕部は身動きが取れないのだが、プラズマカノンは可動させる事が可能だったのだ。
「させないよ!」
プラズマカノンによる砲撃が展開されようとした時、エクルヴィスはヴェーチェルにプラズマカノンが当たらないように腕部を使って砲身の角度を変えようとしていた。
「ああっ!?」
リンセの行動により、プラズマカノンは発射された際にヴェーチェルに直撃しなかった。プラズマカノンが発射されたのを見届けた後、ヴェーチェルは再び攻撃を加える為に動き出す。
「よくやったわリンセ。さて、今度こそ!」
と、対艦サーベルがツヴァイの前で振り下ろされようとした時だった。
「やばっ……!」
ブリッツファンネルの矛先がエクルヴィスに向けられた。このままツヴァイを掴んでいてはファンネルがリンセを襲う。危険を感じたリンセは急いでツヴァイから離れ、デストロイウェブを放つ。しかし、ファンネルから放たれる高出力のビームはデストロイウェブを消滅させた。
「危なかったー……」
リンセは助かった。しかし、ツヴァイの腕部を離した事により、レイは身動きが取れるようになった。
「やはりファンネルが厄介ね。しかも前に戦った時よりも強くなっている……?」
フォリアはファンネルの動きや攻撃を見て違和感を覚えていた。ファンネル同士が連携し、それらが合わされば高出力のビームを撃つ事が出来る。以前に戦った時はそれらは無かった。彼女は、ツヴァイが強化されている事をこの時に見抜いたのだ。
(何にせよ、当たらなければ意味が無い!レイ、たっぷりと可愛がってあげる……そして今度こそ殺してあげる!!!)
レイに対する愛情や憎悪が混在するフォリア。不安定な感情を抱きつつ、彼女はこの宇宙でレイと戦うのであった。
アレンとメイドは交戦していた。メイドの駆るデスゲイズは脅威だが、アレンは顔色一つ変えずにこの強敵と戦っている。
「いつものてめぇと違うじゃねえか!まるで機械と戦ってるみてぇだぜ!?」
メイドも気付いていた。彼の動きの違いに。
「父さんを殺したお前は今はどうでも良い……正直邪魔なだけだ。」
「おーおー、言うじゃねえの。」
デスゲイズはMA形態の状態で有線式ビームサーベルを展開し、ブライティスに襲わせる。だが、ブライティスはこれらの攻撃を全て回避し、ブリッツファンネルを展開してそれらをデスゲイズに向ける。
「見えてんだよなぁ、全部なぁ!なぁ!?」
ブリッツファンネルはメイドに全て回避される。シンギュラルタイプである彼はサイコミュ兵器を見分ける事が簡単に出来たのだ。
「俺のター――」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオッ
彼が台詞を言おうとした時、突如熱源がレーダーに探知された。その熱源の正体はプラズマ兵器であり、それに反応したメイドは急いで回避し、攻撃源を確認する。しかし、そこには何もなかった。
「今のはプラズマ兵器だろぉ?なんだ今のは?」
ブゥゥゥゥン
次に、メイドはビーム刃が展開されるのを見た。レーダーに映ったそれを確認した時、急いで回避運動を行うがデスゲイズの右翼部が切り裂かれ、破壊された。
「見えない攻撃か?ほほぅ、こいつぁ新しい。」
突然の謎の攻撃にメイドは焦るどころか、笑っていた。と同時に、彼の脳内で電流が流れる。
「見えてんだよ!シンギュラルタイプクオリティぱねぇぜ!」
彼は何もないと思われる場所に二連装ビームキャノンを発射した。すると、そこにあった機体はビームシールドを展開し、ビームを防いだのである。
「……新型のガンダムタイプか。」
アレンが言った。メイドも突如出現したガンダムの存在に笑顔を絶やさない。
「糞敗北連邦はまーだガンダムを作る技術があったんですかねぇ?んなもんに金使う暇があればもっとさぁ、貧しい国に金を渡すぐらいの措置ぐらいしろや糞敗北連邦がよォ!」
デスゲイズは再び有線式ビームサーベルを展開。それと同時にデス・ランチャーも展開し、そのガンダムを狙う。
シュンッ
「アイエエエ!?」
その時だった。ガンダムが消えたのだ。笑顔だったメイドは流石に笑顔を作らなくなり、何が起きたのかを必死に判断している。
「消えるガンダムかよ……あぁ、ステルスか。こいつぁ面白ぇな!」
デスゲイズのモノアイが輝き、メイドは一度目を閉じた。そして、再び彼の脳内に電流が流れる。
「後ろォ!」
後方に向けて有線式ビームサーベルを六本全て向かわせる。しかしそれと同時にデスゲイズの左翼部が〝何か〟によって切り裂かれた。
「消える上に早いガンダムかよ、ハハー、新しいねぇ!良いねぇ!」
アレンとメイドの戦いに乱入するように現れた謎の消えるガンダム。メイドはそれに対して楽しそうに戦うが、アレンはこの攻撃が何なのかを見極めていた。
「……!」
その時、アレンの脳内で電流が流れ、急いでビームセイバーを腰部から抜刀し、それと同時に、ブライティスは後方を向く。
バヂィィィィィ
ブライティスは姿を現した新型のガンダムとビーム刃同士が弾き合っていた。彼は素早く反応する事で、新型ガンダムが展開したビーム刃による攻撃を防ぐ事が出来たのである。
「やはり大したものです、アレン。」
「レヴィー……」
新型ガンダムに乗っていたのは新生連邦軍総司令、レヴィー・ダイルだった。つまり、彼の機体はガンダムオラトリオと言う事になる。
「この機体は僕の新たな力だ。勝負だ、アレン!」
そう言った後、オラトリオは姿を消した。オラトリオに搭載されているステルス迷彩が機能したのだ。
「今はお前と戦う気はない……」
そう言った後、アレンは操縦桿を握り、思い切り引いた。するとブライティスのバーニアの出力が上がり、その宙域から去る。彼は新生連邦軍の艦隊の中心に単機で向かおうとしていたのだ。
「逃げる気……?ソフィア!」
総司令はソフィアに連絡した。そして、彼は命令する。
「あのガンダムタイプに向けてファンネルを展開!あの機体を撃墜する!」
「はい……」
ソフィアは通信で一言言った後、通信を遮断した。そして、オラトリオは機体を変形させた。
MAに変形したオラトリオは爆撃機のようなシルエットを描く。そして、先端部はモノアイが輝き、バーニアの出力を最大稼働させ、ブライティスを追う。それらはいずれもステルス迷彩が機体全体を覆っている時だった。
「アレン・レインドに総司令の糞ガキと、豪勢な面子と戦えるのはいいねー、ちょーイイ感ジぃー」
デスゲイズのモノアイが輝き、メイドも又、ブライティスの後を追うようにデスゲイズのバーニアの出力を上げた。
アレンが総指令やメイドと交戦している中、レイもチェーニ姉妹と交戦していた。二対一の戦いはレイにとって不利だったが、彼はファンネルを駆使して彼女等と戦っている。
「ファンネルは全て回避出来るのよ!さあ、そろそろ貴方の体力が持たないんじゃないかしら?」
「はぁ……はぁ……」
フォリアの言うように、レイの体力も限界に近かった。容赦のない彼女達の連携攻撃に、回避するだけで精一杯だったのだ。ファンネルを使うにも彼自身が疲労している為、上手くファンネルを操る事が出来ない。身体の疲労はサイコミュに大きく影響するのだ。
「あ……貴方達は……」
突如、レイは口を開き、彼女達に話し始めた。
「何故戦いを続けるんですか……?気になったんです、貴方達とはずっと戦ってきたから……ここまで来て、どんな目的で戦っているのか……」
彼はFPBの一員として戦う事を決めたからこそ、今宇宙にいる。だが彼女等はどういう意思で戦っているのかが、彼は気になったのだ。
「突然何を言うかと思えば……そんなもの、決まっているわ。お金の為よ。」
「お金ですって……?」
レイはFPBの一員として、この先の世界の行く末を見届け、そして平和を取り戻す為に戦っている。しかしフォリアは金の為だと行った。その意見はリンセも同様である。
「そーだよー!お金を貰うのが私達の目的!」
リンセはエクルヴィスを駆使し、肩部の追尾式ミサイルを展開し、ツヴァイに襲わせる。ツヴァイはこれらを回避した後、バスタービームライフルを構えて、撃つ。エクルヴィスはビームシールドでこれを防いだ。
「お金を貰う。その目的で戦う事の何が行けないのかしら?」
「だって……戦争なんですよ!?デウス動乱がやっと終わって、やっと平和が訪れようとしてた時に戦争して……沢山の人が死んで……みんな、命を掛けて戦ってるんです!なのにお金を貰う為だけに戦うって……そんなの、おかしいです!平和を願って戦う人だっているんですよ!」
この戦場に出ている以上、皆それぞれの理由があって戦っているのだろう。だがその目的として、金が絡むと言う事がどうしても今のレイに理解が出来なかったのだ。
「綺麗事ばかり言う子ね……良いわ、良い事を教えてあげる……戦争だってビジネス。会社で働くサラリーマンや病院で働く医療従事者と何ら変わらない、ビジネスなのよ。」
「ビジネス……?」
フォリアは語り始めた。金という存在の価値について。
「貴方は金の為に戦う事を汚く思っているかも知れない。でもね、戦争をして兵士として戦う事も立派な収入なのよ。私達姉妹はお金を稼ぐ手段がMSに乗って戦うことしか出来ない!だからこうして人を殺して軍から金をもらい、自分達の生活をする!」
「人殺しをしなくたって、お金を稼ぐ方法なんていくらでもあります!」
「世の中の仕組みを全然知らない坊やに言われる台詞ではないわね!!」
ヴェーチェルはビームウィップをツヴァイに向けて展開した。ツヴァイはメガビームセイバーでそれとビーム刃同士の打ち合いを行う。
「本気でお金に困った事のない君にね!言われる筋合いはないんだよー!!!」
リンセはエクルヴィスのビームサーベルを展開した後に、ツヴァイに襲い掛かる。
「じゃあ世界がどうなっても良いっていうんですか!」
エクルヴィスのビームサーベルに対しても、ツヴァイはメガビームセイバーで迫り合いを行った。
「そうだよ!」
姉妹は声を揃えて言った。
「私達にとっては生まれ育った地球がどうなろうと、滅ぼうが結局知った事ではないの!結局はお金を稼いで、住む場所さえあればそれで良い!何でもそうよ!世の中はお金があるからこそ回っている!どんな綺麗事を言っても、お金には変えられない!貴方にその大切さが理解出来て!?無理でしょうね!貴方には絶対に無理だと思うわ!」
「無理って……そんなの……」
ヴェーチェルはビームウィップの出力を弱め、言った。
「私達姉妹はずっと貧しい生活ばっかり送って来たから!周りに虐げられながら苦労して生きてきたのよ!!」
フォリアは攻撃を止めた。それと同時にリンセも攻撃を止める。レイは彼女等の行動に違和感を覚えたが、フォリアの言葉に静かに耳を傾ける事にした。
「貧乏で無一文の人間がね、暮らしていくにはどうしてもお金が必要だった。でもそれは一切ない!貧しい上に幼かった私達を雇う人間なんて皆無だった!居たとしても、酷い人間ばかり……労働に似合わない金額を支給する、禄でもない人間ばかり!」
「みんな悪い奴!生まれてからおかーさんもおとーさんも知らない!そして貧乏だから、学校にも行けない!」
明かされるチェーニ姉妹の過去。彼女等は貧乏な生活を送って来たのだ。その過去を、今レイに対して語り始める。
「大切な家族もいて、その中で育てて貰った貴方には絶対に分かりえない苦しみを私達は乗り越えてここにいる!幸い、MSの操縦能力が秀でていた事が奇跡的だった!」
「それを雇ってくれた人がいたんだよ!私達は十歳でMSに乗って傭兵として戦っていたんだよ!お金を稼ぐ為に!」
「十歳で!?」
レイが始めてMSに乗った時よりも四歳も若い。
十歳。それは物事の善悪を完全に判断しきれない年頃である。その年に、彼女等は兵士として戦っていたのだ。正式な軍隊で無く、傭兵として。
「それでも貰える給料は僅かだった!理由は少女だったから!」
「幼いからって給料は天引き!意味が分かんないのよ!」
「それでも耐えてきた!時には死に掛ける事もあった!
「そして生き延びてお金を貰って来た!私達にとってお金だけが生き甲斐だったんだよ!」
貧しい姉妹に残されていたMSの操縦という才能。MSを操縦する事において天才的な能力を見せたのはレイも同様だ。しかし彼の場合は恵まれた環境だった為、その力を発揮する必要は本来ならばなかったのである。
幼い姉妹は傭兵として十歳と言う若さでありながら各地を転々としていた。命を落としそうになった事もあった。だが彼女達は一切MSを操る事を止めなかった。それを止めてしまえば、金を稼ぐ手段が無くなってしまう為。姉妹は、理不尽な戦闘もこなし、金を得続けたのだ。
「所が私達を絶望の淵に落した出来事があったの……それはデウス動乱の終局!」
「デウス動乱が終わる事が……絶望……?」
レイには、その言葉の意味が分からなかった。
「傭兵にとって戦争が終わる事はね、金を得られなくなる事と同意義なのよ。」
「だから私達は身体を売ってお金を稼ぎ続けたんだよー!ホントに痛くて辛かったんだからさ!!!」
彼女等の言うように、傭兵として戦ってきた人間にとって戦争は絶好の稼ぎ場と言えた。だがその戦争が終わってしまえば傭兵に存在価値はなくなる。世界のどこかで紛争が起きれば傭兵の出番はあるだろう。
しかし戦後になって地球連邦軍が軍備増強に寄る紛争の弾圧を行うものだから、傭兵の出番は殆ど皆無だったのだ。テロ組織の所属や武装勢力を転々とする方法もあったが、彼女達はそれを良しと思わなかった。その為、彼女達は金を稼ぐ手段を失った。リンセの言うように、自身を売ることでどうにか食い繋ぐ事が出来たのだが、それも限界があった。
「女であり、若かった事が唯一の救いだった。もし私達が男ならば飢え死にしていたかも知れない……そう、死ぬような思いで戦後を生きてきたのよ、私達はね!戦争を望まない人間がいる……平和主義を延々と唱えている人間ってのはそうした人間を知らない奴等ばかり!私達が新生連邦軍の兵士となったのも、平和国のその鬱陶しさ極まりない平和主義とやらに苛立ったからでもあるのよ!入隊した当初は戦争が起こるなんて予想もしなかったけれども、国連と戦争が起きたのは非常にラッキーなのよ、私達にとっては!」
戦争はあってはならないもの。誰一人、幸せになれない。皆が平和でありたいと強く願う。しかし彼女等は違った。平和である事が彼女達にとって真の〝平和〟でないのである。戦後、戦争が起きない時期は彼女等にとって苦しみ以外の何者でもなかったのだ。
「今、私達は充実している!自分の求められた才能を活かしてお金が得られると言う喜びがそこにあるから!」
「私達の操縦技術を見込んで、氷河族がガンダムを提供してくれたのが不幸中の幸いだった!それを経て私達は新生連邦に晴れて入隊できたものね!」
明かされる事実。彼女達のガンダムは何処で作られたのか。その正体は、クレーディト社製のガンダムタイプであったことが明かされたのだ。
「君みたいに、〝平和の為に戦う!〟とか綺麗事言っている人間には一切分からないだろうね!」
「世の中は大半の意見が正義とされる。けどそれは私達にとっては余りに理不尽だわ。覚えていて欲しいものね。私達みたいな人間もいるという事を!」
チェーニ姉妹が戦う理由を知ったレイ。それは金の為。金を得て、生活をする為である。
「給料を受け取って、そして休日に好きな服を買ったり、買い物したり、趣味に使う!お金を稼ぐ手段が何であれ、結局は得る事が出来れば何でもいいんだよ!大事なのはお金そのものなんだからね!」
「さあ……お話は終わり。引き続き、戦いましょう、レイ!」
「!」
ヴェーチェルガンダムは手甲からビームシールドを展開した。これらはビームブレードとしてツヴァイに襲い掛かる。ビームブレードを振るい、ツヴァイに迫るヴェーチェル。ツヴァイはこれに対してメガビームセイバーで応戦する。
「そっちにばっか集中してたらダメだよ!」
「あっ……!」
エクルヴィスのカメラアイが輝く。リンセはニヤリと笑い、両掌部からデストロイウェブをツヴァイ目掛けて展開した。
「あああああああああ!」
姉のフォリアの攻撃に夢中になっていた彼はリンセの攻撃に対し、反応が遅れた。ツヴァイはデストロイウェブの餌食となり、電流を流され、機能を停止してしまう。
「フフ、いよいよ終わり――」
バシュゥゥゥゥゥッ
そこへ一筋のビームがヴェーチェルに向けて発射される。ビームシールドでそれを防いだヴェーチェル。ビームの先を見ると、そこにいたのはMA形態のハルッグの姿だった。
「ネルソン……さん……」
「大丈夫か、レイ!」
デスゲイズに右腕部を破壊されているハルッグだが、戦闘の続行に支障はなかった。彼はMA形態を駆使する事で、機動性で敵を翻弄する戦い方をする事にしたのだ。
「あの機体は……あれも随分しつこいわね。」
「何度も邪魔してくれたおじ様!今日こそ殺しちゃうんだから!」
エクルヴィスのカメラアイが輝く。そして、デストロイウェブをハルッグに向けて発射した。更に、メガビームカノンを連射し、ハルッグに意地でも当てようとする。
「当たらんな、そんな攻撃など!」
ハルッグはビームヒールを展開し、エクルヴィスに接近して切り裂こうと試みた。
「MAに対してクモの巣なんて、虫を捉えてるみたいだねー!」
デストロイウェブが再び放たれた。ハルッグはこれらを回避しつつ、エクルヴィスに迫る。
「リンセには近付かせない!」
ハルッグの邪魔をする為に、ヴェーチェルがビームブレードで切り刻もうと、ハルッグに迫って来た。
「ちぃっ、ガンダムめ!」
急にヴェーチェルが現れた為、回避せざるを得ないネルソン。急激に回避をするハルッグだが、ヴェーチェルはメガランチャーでハルッグを狙い撃ちする。だが、それはツヴァイのブリッツファンネルによって防がれた。
「ネルソンさん!」
「二対二ならば勝機はあるだろう。レイ、気を付けろ。」
「はい!」
チェーニ姉妹対レイとネルソン。二対二の戦いが繰り広げられている。金の為に戦うチェーニ姉妹と、平和を勝ち取る為に戦うレイ達。それぞれの戦争に対する価値観をぶつけ、両者は激突する。
新生連邦政府軍とデウス帝国残党軍とFPBの激戦は続く。現在の所、この戦況を制しているのは新生連邦である。一方でデウス残党は徐々に戦力を失い始めていた。何せ総司令の駆るガンダムを始め、エファンの乗るカタストゥリア、チェーニ姉妹のガンダム等。優秀な機体が集まっている上、エレシュキガルからのサイコミュ・ルーラシステムがデウス残党軍に襲い掛かる為、進軍する事が出来ないでいたのだ。
しかし新生連邦はFPBの存在にも気付き始め、そちらに戦力を投入するようになってきていた。その為、徐々にFPBの戦力も失われ始めてきている。このまま戦況が長引けばFPBが敗北してしまう可能性も十分高い。全てはデウス残党軍のインベーションユニットによる陰謀であるのだ。
その中で、アレンは総司令と交戦をしていた。ブライティス以上の機動性を誇るオラトリオはブライティスにすぐに追いつき、攻撃を加え続ける。いずれの攻撃も彼は回避し、ブリッツファンネルを展開するがオラトリオには当たらない。
「どうしましたアレン?何故貴方は僕を殺そうとしないのです?貴方の実力はこんなものではない筈だ!」
「……お前とは戦う気はない。」
「っ!ソフィア!」
彼がソフィアの名前を上げた瞬間、サイコミュ・ルーラシステムによるファンネルがアレンに迫って来た。ファンネルはビーム刃を展開し、アレンに襲い掛かる。しかし彼はこれらを軽やかに回避する。
「今までの僕と同じだと思わない事ですね!」
「邪魔をするな……!」
このファンネルに対し、ブライティスはブラスターファンネルからのビームを砲撃し、撃破する。しかしいくら撃破しても湧いてくるこの攻撃を相手にしていては埒が空かない。
「邪魔?その台詞を貴方が言うのですか?今まで新生連邦の邪魔をして来た貴方が僕を邪魔者扱いするなんて、おかしな話ですね。」
オラトリオのバックパックが分離され、姿を消した。そしてオラトリオはビームサブマシンガンをブライティスに向けて撃つ。無論、これらはブライティスの前腕部に備え付けられているバリアーフィールドジェネレーターにより防がれる。
「国連から独立し、戦火を広げるだけの組織に所属して……貴方は何がしたいのですか?」
総司令はアレンに聞く。だが、アレンは彼の質問に答えようとしない。その間にも無数のファンネルがアレンに襲い掛かる。
「本当に貴方は平和を願っているのですか。新たな勢力を作り、戦争をしている貴方が!」
「黙れ」
「ただ、貴方は戦争をしたいだけではないのですか!?」
「黙れ……」
「アレン、貴方は只の戦闘狂にしか見えません。もう、昔の貴方で無いのならば僕が――」
「黙れって言ってるだろう!!」
今まで感情を殺していたアレンは大声を出し、総司令を威嚇する。少し動揺した総司令だが、彼は再びソフィアにファンネルを向かわせるように指示し、アレンに襲わせる。
「何故、貴方は……」
「お前は邪魔なんだ!俺の前に現れるな!」
感情を露にして彼は言葉を発する。その間も、ファンネルによるビーム砲撃を回避し続けていた。
ドオオオオオオオオオオオッ
その時、プラズマ砲がブライティスに向けて発射された。アレンの脳内に電流が流れ、これを回避する。その攻撃はオラトリオのバックパックが分離し、姿を現したものだった。
「邪魔とは言わせませんよ、アレン。今の貴方は、只命令のままに動く機械人形のようです。戦い方や言動に生気が感じられません。何故、そのように変わってしまったのですか。新生連邦本部の時の戦いの時までの貴方はどこへ行ってしまったのですか。」
アレンと交戦しながら総司令は尋ねる。
「まるで、何か大切な物を失ったようだ。今の貴方は。」
「……!」
今の総司令の言葉がアレンを動揺させ、そして困惑させた。一連の言動や動きを見て、総司令は今のアレンに違和感を覚えていたのは何か大切な物を失ったのではないかと、読んだ。
「不快だ……!」
自身の心を読まれる事が、自分の憎むべき男であるエファンのように感じたアレンは、総司令に攻撃を仕掛け始めた。
「分かり易いですね!何を失ったのかは分かりませんが、これでまともに貴方と戦える!さあアレン、僕に力を見せて下さい!!」
アレンを挑発する総司令に、その挑発に乗るアレン。激怒と言う訳ではないが、アレンの感情は非常に不安定であった。もし、彼を刺激する何らかの出来事があればその感情は爆発してしまいそうな程に。
新生連邦軍とデウス残党軍の攻防戦が続く中、かつての仲間同士であった新生連邦総司令、レヴィー・ダイルとアレン・レインドが激突する。総司令の機体はエファンによって与えられた新たなるガンダムタイプ。機動性でブライティスをかく乱し、更にステルス迷彩によってトリッキーな攻撃を仕掛けてくる。
オラトリオは両膝関節部を屈曲させ、ビームブレードを両手部で把持し、下半身のみMAのように変形してブライティスに迫る。
「オラトリオは撃たれ弱いですが、機動性でカバーが出来ます。貴方のガンダムを今日こそ撃墜します!」
オラトリオが動いた。それと同時にブライティスもビームセイバーを腰部から抜き、切り払う。
「反応が早いですね!」
「レヴィー、今のお前は不快以外の何者でもない!あの男のように俺の心の中を覗いたような言葉を言ったから!」
許せない存在のように、自分の心をまるで読まれたかのように台詞を発したものだからアレンは総司令を不快だと判断していたのだ。
「怒りで我を忘れるなんて!まるでデウス動乱時の貴方のようだ!何を失ったのかは分かりませんが、それに囚われていては自分の身を滅ぼすだけ!」
オラトリオはテールユニットに存在している追尾ミサイルを展開し、ブライティスに襲わせる。それと同時に、膝関節を屈曲して出来た砲門からビーム砲を撃った。
「クッ……」
ブライティスは手部を差し出す事で、バリアーフィールドを展開し、ビーム砲撃を防いだ。
「さあ、力を見せて下さい!本来の貴方の力が僕は見たい!」
「うるさい!!」
ブライティスはブリッツファンネルを展開し、オラトリオに向かわせる。だがこれらのブリッツファンネルはサイコミュ・ルーラシステムによるファンネルによって破壊される。
「無駄です、この無数のファンネルは貴方のファンネルを全て防ぐ。」
「く……そ……!」
オラトリオと、無数のファンネルによる連係プレーに成す術もないアレン。彼の焦りと怒りは総司令に対しては空回りするばかりであった。
ギュルルルルルルル
「やっと追い付いたぜェ!雑魚狩りしてたら遅れちった!お前等まとめて覚悟しな!」
更にこの場にデスゲイズも出現した。八基のブリッツファンネルを失ったアレンではこの状況、分が余りにも悪い。
バシュゥゥゥゥゥ
更にそこへ無数の黒いブリッツファンネルがアレンを始め、デスゲイズにも襲い掛かった。ビーム砲やビーム刃が入り乱れるが、ブライティスとデスゲイズはいずれもこれらを回避した。そして彼等は黒いブリッツファンネルが元の場所へ戻って行く様子を確認する。
ゴギュオゥゥゥゥゥン
「うわぁ……、なんだこれは……。たまげたなあ」
「あの機体……新型か……?」
アレンとメイドと総指令が見る、先程黒いブリッツファンネルを放ったMS……それはツインアイを怪しく輝かせ、まるで見下すように彼等の機体を見つめているようだった。並みのMSよりも大型の手部に、機体の全高、そして漆黒のシルエットに独特の形状。この機体こそ、エファン・ドゥーリアが駆る新型MS、カタストゥリアだったのだ。
「アレン・レインドにメイド・ヘヴン……それに総司令か。力を持つ者が一気に集まったな。この状況、私にとって非常に好都合だ。」
「この声……エファン・ドゥーリア!?」
「あぁ、あいつかよ。随分大層なモンに乗ってるじゃねえかァ?」
アレンは分かった。自分の憎むべき敵が、漆黒の新型MSに乗っていると言う事に。
「アレン・レインド。あの時は仕留め損なったが、今度こそ引導を渡してくれる。力を持つ者は死ぬべきなのだ。」
次の瞬間、カタストゥリアは指間腔のビームクローを展開して手部をケーブルで飛ばし、ブライティスに迫った。
「エファン・ドゥーリアッッ!!!」
最愛の人を殺した男を前に、彼は戦う。ココット・メルリーゼの仇を討つ為に。
エファンとアレンが接触する少し前。チェーニ姉妹と交戦していたレイはネルソンと共に戦う。彼等が戦っている時、そこへスバキが乱入してきた。強敵であるチェーニ姉妹に対し、シールドに内蔵されている拡散ビームを展開する。
「あの機体!邪魔をする気!?」
この攻撃をビームシールドで防ぐ姉妹。その直後にアインスはシールドにエネルギーを集中させ、ビームピッカーとして姉妹に襲い掛かった。
「フン、そんな攻撃に私がやられると思って?」
「殺してあげるよ乱入してきたガンダムさん!」
エクルヴィスは再びデストロイウェブを放とうとした―――
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ
「きゃあ!?」
「何……?」
突然の高出力のプラズマ砲の存在に、この場にいた人間達は誰もが驚愕した。先程放たれたプラズマ砲はアインスを狙っていたが、スバキは間一髪この攻撃を回避する事に成功している。
プラズマ砲を放ったMSは高速で接近し、ビームセイバーを装備してツヴァイガンダムに接近してきた。
「わっ!?」
急激な攻撃に対し、後方に移動する事で回避する。
「やあ……レイ君。」
レイの名を呼んだその男はシーア・マックスだ。つまり、機体はカーティウスである。
「シーアさん……!」
過去に出会った事のある両者は、今は敵同士。シーアがレイの事をレイがシーアの事に気付いたのは国連による新生連邦本部攻略戦の最中である。モントリオールでのプチモビルスーツ大会で出会った両者は今、敵同士として殺し合いをしている。一方はジャンヌに与えられたガンダムタイプ。もう一方はエファンに与えられた強力なMSである。
「なんで……どうして……シーアさん……また……戦うんですか……?」
「躊躇わないでよ。俺達は敵同士だ。」
カーティウスはフェイスゴーグルを解除し、ビームランチャーを構え始めた。
「過去は過去。今は今だ。」
シーアはクスリと笑う。レイはシーアの存在に、明らかに動揺していた。
「面倒ね。私達の邪魔をしに来ているようにしか見えないわ、貴方。」
カーティウスにフォリアが回線を開いた。
「すいませんが、俺は貴方方の邪魔は一切したつもりはありません。」
彼が言葉を発した直後、カーティウスから高出力のビームが展開される。直線状にいたツヴァイはバリアーフィールドを展開して攻撃を防いだ。しかしツヴァイは反撃をしない。
「レイ、何をしてるんだよ!」
茫然と立ち尽くすツヴァイ。敵がいるのに何もしないレイに見兼ねたスバキが、アインスを駆ってビームライフルを連射した。本来のカーティウスならば前腕部を差し出してバリアーフィールドジェネレーターを撃つ事が可能であるのだが、今は両手が大型ビームランチャーによって塞がっており、回避するしか手段はない。
「あのガンダム……アインスガンダムをカスタムしたものみたいだけど……」
シーアは色が異なり、武装も変化したアインスガンダムの姿を見て一瞬で判断した。スバキの乗る機体がアインスガンダムであると。
「武装が随分変わっている……少し興味があるね。」
シーアはふぅん、といった様子でアインスを眺めた後、狙うようにビームランチャーを連射し始めた。スバキはこれを回避しながら拡散メガビーム砲で応戦するが、カーティウスはバリアーフィールドを展開してこれを防いだ。
「くっそ!どいつもこいつもビーム無効にし過ぎなんだよ!」
アインスの場合、主力兵器である拡散メガビーム砲が通用しない以上、上手く使うとすればシールドにビーム粒子のエネルギーを貯蓄し、ビームピッカーとして使用するしかない。幸いビームピッカーにはビームシールドとしての機能が備わっている為、ビームライフル程度の砲撃ならば防ぐ事が可能である。
「パイロットは男勝りの女の子みたいだ。面白い……!」
シーアは微笑した後、高出力のビームランチャーをアインスに向けて発射する。
「こんなもの……!」
ビームピッカーとしての役割を担うシールドを構えるアインスだったが、スバキが想像している以上にカーティウスのビームランチャーの出力は強大なものだった。たちまちシールドは貫通し、アインスガンダムの左腕部が消失したのだ。
「ああああっ!」
機体に揺られ、翻弄されるスバキ。そこへ新生連邦軍のグランシェ小隊が迫ってくるなど、彼女にとって分が悪い状況が続く。
グランシェ小隊はグランシェ一機にジョゼフ二機で形成されている。いずれもアインスガンダムを狙っており、一斉に攻撃をする。
「させない!」
レイはツヴァイを駆り、ブリッツファンネルを展開してこれらに対処する。これによってジョゼフ二機は一瞬の内に破壊されるがグランシェはその機動性を生かし、回避する。そしてアインスから目標を変更し、ハルッグに向かってきた。グランシェはビームセイバーを装備し、迫る。ハルッグも左腕部を駆使し、ビームサーベルを展開して対抗した。
「成程、私達も負けていられないわね。」
「え……ええ!お姉様!」
一連の様子を見ていたチェーニ姉妹は再び戦い始める。新生連邦軍と元セイントバードチーム。強敵が集う敵軍に、元セイントバードチームのメンバーは苦戦を強いられていた。
時間が流れ、エファンとアレンが対峙した頃。この場には総指令とメイドの機体の姿もある。その中でエファンが狙うのは当然敵軍に所属するメイドとアレンである。一方のアレンはエファンのみにターゲットを絞る。バスタービームライフルをカタストゥリアに向けて撃つが、ビームは弾かれた。
「バリアーフィールドか……!」
「今までお前は何を見てきたのだ?私が駆り、お前と交戦した機体には全てがバリアーフィールドを搭載していただろう。」
「黙れ!!」
冷静さを失うアレンは我武者羅にエファンに攻撃を加えるが、ビームライフルではエファンに通用しない。本来ならば彼がエファンに対抗できる武装は両腰部にあるブラスターファンネルのみだ。ブリッツファンネルは先程、カタストゥリアによって全て破壊されてしまった為である。
「お前の機体では私の機体に傷を付ける事すら出来んよ。頼みのファンネルは全て破壊してやったからな。」
アレンを見下すエファン。だが、彼のガンダムは強化されている。今まで使っていなかったプラズマ兵器が、ある。
だが照準が定まらない。カタストゥリアの動きは素早い上、無数のファンネルが躊躇なく迫る。ウイングを展開し、攻撃しようにも上手く狙いが定まらないのだ。
「ハッハッハッハ!面白いなお前!デスゲイズと同じじゃんお前!じゃあこいつぁ効く訳だ?」
カタストゥリアの機能を見て喜んだメイドはエファンに対して攻撃を仕掛け始めた。有線式ビームサーベルを一気に展開し、カタストゥリアに迫る。
「弱いな」
デスゲイズに対し、カタストゥリアはブリッツファンネルを一斉に展開した。合計二十四基もの飛翔体は一斉にビーム刃を展開し、デスゲイズに襲い掛かる。
「うひょう、これマジ!?」
「さあ、どうするかメイド・ヘヴン……総司令、この場は私に任せて下さい。貴方はデウス残党軍の相手を。」
「……ええ、お気遣い感謝します。」
総司令は回線を切り、オラトリオをその宙域から離した。これにより、この場にはカタストゥリアとデスゲイズとブライティスガンダムの三機が残される。
カタストゥリアとデスゲイズが交戦する中、アレンはカタストゥリアにのみ標的を絞る。彼はブラスターファンネルを展開し、エファンを殺そうと攻撃を試みる。
今、エファンを殺す為にアレンとメイドが望まぬ形で共闘している。無論、彼等は協力している訳ではない。
「アレン・レインドも攻撃を始めたか。武装だけを見れば奴が貧弱。まずは奴を倒すか。」
エファンはアレンに狙いを絞り始めた。カタストゥリアはファンネルを十二基に分散させ、更に手部から指間腔ビームクローを展開し、それらをブライティスに向かわせる。有線でそれらを飛ばし、ブライティスを襲う。
「クッ……」
数の多い攻撃に苦戦するアレン。ブリッツファンネルは大型が二基、小型が十基存在している。ブライティスはバスタービームライフルを連射するが、ファンネルにはバリアーフィールドジェネレーターが展開されており、ビームが効かない。
「無駄だ、この機体の武装全てにバリアーフィールドが備わっている。ビーム兵器は一切通用しない。」
「ハハー!」
ビームが効かないカタストゥリアに、容赦のない攻撃を続けるデスゲイズ。ブライティスは一度後退するのだが、彼等はアレンを逃がさない。漆黒のMS二機が、アレンに迫る。その間彼の表情は焦燥感に満ちているに見えたが、この時も彼は無表情だ。感情を押し殺しているようにも見える。
(成程、感情を殺しているのか)
(……!)
その時、エファンはアレンの脳内に語りかけてきた。
(その理由は自分の心の拠り所としていた人間が殺されたから。自分自身を押し殺し、他者と関わりを持たないでいようとした。全ては自分の大切とされる人間が死んだが故。)
アレンの心を読み、語るエファン。アレンの表情に変化が見られた。
「お前……!」
アレンの表情は怒りに満ちた。彼の最愛の人、ココットを殺したのはエファンだ。その男を目の前にし、更にココットを殺された事を他人事のように語るエファンに、彼は怒った。
その間にもデスゲイズとカタストゥリアはアレンに攻撃を仕掛けてくる。
「私に殺されたその女は私の目的の一つとして役に立ったよ。力を持つ者は全てを消さなければならない。如何なる人間であろうともな……」
「役に……立った……だと……?」
「ああ、役に立った。人間は死んで始めて役に立つ事もあると言う事だ。彼女は〝役に立てた〟と言ったな?それはお前の役に立てたのかも知れないが、私の為にも役立ったと言う事だ。一人の犠牲によって役立つのなら、死んだ彼女も浮かばれただろう。」
淡々と語るエファン。一方のアレンは歯を食い縛り、先程よりも更に怒りを剝き出しにしていた。
「許せないか。アレン・レインド。感情を剝き出しにし、私と戦う気でいるのなら掛かって来い。」
この言葉を放った後、カタストゥリアはブリッツファンネルをブライティスに向かわせる。これらを回避し、ブライティスはカタストゥリアに接近する。
「感情に翻弄されるか。所詮、たった一人の、無駄に力を持った人間如きが死んだからといってそれに固執する雑魚に、私は負ける気はしないがな。」
「!!!!!」
〝たった一人の、無駄に力を持った人間〟と発したエファン。その言葉が、アレンの怒りを更に引き出すのに十分だった。この時、アレンの怒りは最高潮に達していた。それと同時にブライティスの動きが停止した。カメラアイの輝きが失われ、一切動こうとしない。
「なんだ?急に止まりやがったぜこいつぅ!!!」
ブライティスの機能停止を好機に感じたメイドは有線式ビームサーベルをブライティスのコクピットに向け、展開した。このままではアレンは有線式ビームサーベルによる攻撃を受け、絶命してしまう。その距離がMS一機分程度にまで差しかかっても、アレンはまだ動こうとはしなかった。
デスゲイズが迫って来ている間、アレンは何を考えているのだろうか。恐らく、エファン・ドゥーリアに対する怒りだろう。最愛の人、ココット・メルリーゼを目の前で殺され、現在まで戦場では感情を殺し続けてきた。しかしエファンの姿を見た途端に彼の表情は変化を見せ、そしてエファンは捨て台詞を放った。
―――――――――――たった一人の、無駄に力を持った人間如き――――――――――
それと同時に、アレンに思い出されたココットの最期の台詞。
――――――――――アレンの……素敵なお嫁さんに……なりたかったな―――――――――
最愛の人を殺し、更にそれを侮辱したエファン。これらのビジョンが彼の中で広げられた時、それは起きた。
シュンッ
ブライティスが姿を消した。明らかに先程までデスゲイズが狙っていた筈なのに、急に姿を消したのだ。
そのような現象が起きる事など、果たして有り得るだろうか?MSが消える?それも、撃破された訳でもなく、突然?何が一体、どうなっていると言うのか?
「ファッ!?どこ行きやがった!?」
急激にデスゲイズを停止させ、辺りを見回すメイド。しかし、どこにもブライティスの姿は見当たらない。
「おいおい、手品か……?って上?」
ブライティスは上方に位置している事が分かった。モニターでその姿を確認するメイド。が、しかし。明らかにブライティスの様子がおかしい事に彼は気付いた。
今、ブライティスガンダムは機体全体が深紅に染まっている。それは以前にメイドがブライティスガンダムを奪った際にも同様の現象が生じたが、今回はその時以上に機体色が紅く変貌していたのだ。
――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――
――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――
――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――
――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――
――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――
――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――
――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――
――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――
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――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――
――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――
――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――
――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――
「うわあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
第九十八話、投了。
エファンの言葉を聞き、アレンの怒りが限界を超えたのか。