機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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アルバトスはジャンヌ達を追う為に火星へ向かう。
その一方で新生連邦軍の機動要塞エレシュキガルが国連の艦隊に向けて光を放つ――


第百一話 エレシュキガルの一撃

 アルバトスはジャンヌ達が乗っている高速艦に続き、火星に向かっていた。その間、艦内は深刻なムードかと思われたが、違った。エリィの提案で火星に着くまでは皆がリラックス出来る空間を作ろうと、居住区の一室にある大部屋でパーティーを行う事にしたのだ。このまま何もせずに、緊張した空気が漂う状態が続くのは精神的に良くないと、エリィが判断したのである。

 アレンが息を吹き返さない状況で、尚且つジャンヌ達が何をされているか分からないこの状況でこうしたパーティーをするのはあまり良くないと思うものも少なからずいたが、概ねこのパーティーは好評だった。戦い続きでリラックスが出来ていないクルー達にとってこの気分転換は良いものとなった。

「宇宙に来て随分と酒を飲んでいなかったから、これは良いかも知れねえな。」

と、言うのはミシェである。精神的な疲労を感じていたミシェは酒を飲みながら静かに溜息を吐いた。

「エリィ、君らしい提案ではあると思う。しかし……やはり不謹慎な気がしてならない。」

そう言うのはネルソンだ。彼はこのパーティーに反対している人間の一人だったのだ。

「ネルソン。確かに不謹慎かも知れない。でも、これ以上皆の疲労が続くのを見ていられないと思ったの!ほら、貴方もお酒飲んで!私も飲むからね!」

「ま、待て!エリィ!君が飲むのは……!」

ネルソンはエリィを静止した。というのも、エリィの酒癖の悪さを理解していたからである。しかし時は既に遅かった。エリィは日頃の鬱憤を晴らすが如く、ビールを一気に飲んだ。そして彼女は豹変した。自分から来ている服を脱ぎ、ブラジャー姿のままネルソンに迫る。

「うふふふふ~さぁ~大尉~!飲んで飲んで飲んで飲んで飲んで飲んで飲んで飲んで飲んで!飲んでっ!」

「や、やめないか!」

豹変したエリィ。いつしかネルソンに対する呼び方も彼がエリィに告白する以前に戻ってしまっていた。

「あーいいっすねー……あの二人……」

「ほんと、大尉は幸せ者ですよー」

「末永く爆発して下さいよ大尉!」

そう言うのは、元セイントバードチームの整備士達である。ネルソンを冷やかすように、彼等は酔いながらも2人を祝福した。

「随分、仲が宜しい事で……ハッ……」

その様子をミシェは静かに酒を飲みながら見ていた。彼は笑顔だったのだが、どこか寂しげな表情を見せた。

「ウィリア……せめてお前が生きていたらこの酒も旨かっただろうにな……」

ミシェはウィリア・ラーゲンの事を思っていた。彼女の死を悲しむミシェ。そんな彼女の事を思いながら、ミシェは静かに酒を飲む。

「ミシェさん」

そこへ声を掛けてきたのはガーストだった。彼はプレーンと共にカシスオレンジを片手にミシェに声を掛けたのである。

「カシスオレンジかよ……ガキ臭いモン飲んでるんじゃねえよ……」

「まだ、そんなに強い酒は飲めないんですよ。ただ、こいつには控えさせるようにしてますけど。酒癖、凄く悪いから。」

〝こいつ〟とはプレーンの事だ。エリィと同様、酒癖の悪いプレーン。以前日本で寄ったあまりに口に含んだ酒をレイの口に移した事があった。それ程に彼女は酒癖が悪いのだ。

「ミシェとちゃんと喋るの、始めてかもネ!」

「そーだな。あんまり面識なかったからな。でも飯が上手いのはよく知ってるぜ、お嬢ちゃん。」

プレーンはセイントバードでは食事や家事を任されており、彼女が作った料理はクルー達に非常に評判が良かった。最初はガーストの為ばかりに食事を作っていたプレーンだが、ガーストが教えたことで、ようやくクルー達に対して食事を作る事を覚えた様子だった。

「今日の料理も私の手作り!どんどん食べるネ!ガーストももっと食べるネ!」

「あ、ああ……そうだな……」

ぐいぐいと腕を引っ張られ、仕方が無くガーストはプレーンの料理を食べながら、カクテルを飲む。この様子を見て、ミシェは言った。

「ガースト。恋人がいるって、幸せか?」

「え……?あ……まあ。」

急な質問に困惑するガースト。彼は分からないまま、ミシェの質問に答えた。

「そうか……ま、幸せにしろや。戦場で、絶対に死ぬなよ。増してや不倫なんて馬鹿な事……絶対にするんじゃねえぞ……」

と、ミシェはぽろぽろと突如涙を流し始めた。ガーストはそれに対し、気を遣うように言う。

「あの……大丈夫ですか……?」

彼がそう言った時、ミシェはブンと大きく腕を振った。まるで、ガーストを拒絶するかのように。

「うるせえ!お前はもうどっか行ってろ!クソッタレ!!」

酒に酔っているのかは定かではなかったが、ミシェの様子がおかしいのが彼にも分かった。

仕方なしにガーストはプレーンと共にミシェから離れる。酒を飲んでいるから感情的になったのだろう……と、彼は思っていた。

「ふざ……けやがって……」

自棄酒と言わんばかりに酒を飲み続けるミシェ。今の彼の様子を見て、近付こうとする者はこの場に誰もいなかった。

 

 ミシェの側から離れたガーストとプレーンは、部屋の端にて会話をしていた。

「何カ!ミシェ、いきなり怒るなんて感じ悪いネ!」

突然怒り出したミシェに怒りを露にするプレーン。一方のガーストは、ミシェの様子を見て少し溜息を吐く。

「馬鹿だったな……今の俺にミシェさんと喋る資格なんてないのにさ。」

「え、どういう事カ?」

プレーンは首を傾げた。

「少しは察せよな、お前。それと、空気も読めよ。」

「ン……?」

ガースト達は恋人同士である。好きな者同士が一緒にいる光景を、現在好きな人がいなくて、寂しげに酒を飲んでいるミシェに見せるのはまずいと判断したガーストはミシェと距離を置く事にしたのだ。

「それより……あいつ……本当に目を覚ますかな……?」

「アレンのコト……カ……?」

「そう。十日後にあいつは死んでしまうんだ。もたもたしてはいられない。だから、レイとジャンヌに頼るしか今は……」

ガーストはアレンの事を非常に心配していた。一時期は険悪な関係になっていた両者だが、現在はその仲も戻っていた。しかしココットが死んでからガーストはアレンとまともに会話をしていない。そして、アレンは暴走して現在に至る。アレンがこのような状態になっても、ガーストは彼の事を心配し続ける。それ程に、彼等の絆は固いのである。

戦友の危篤状態に、落ち着かないガースト。そんな状態のガーストに対し、〝大丈夫〟と声を掛け、ガーストを励まし続けるプレーン。ガーストは、いくらアレンを心配しても何も起きない事は分かっていた。

「俺が行きたかった……でも……俺は所詮シンギュラルタイプ。せめて、アドバンスドタイプだったらなら……」

アレンを心配するあまり、自分が高速艦に乗り込めたらと、〝もしも〟の話を始めたガースト。それを思っても無駄なのは分かっていた。分かっていたのだが、どうしても不安だったのだ。

 

 大部屋で大人達が酒を飲み、緊張が和らいでいる頃。エレンは食事を食べていたその時、スバキがエレンの眼前に現れた。この時、エレンにはスバキの表情が曇り掛かって見えた。

「隣、良いか?」

「あ……うん。」

そう言ってスバキはエレンの隣に座った。その際、スバキはエレンに対し、何かを言いたそうな表情を浮かべていた。

「あのさ」

「え?」

スバキはこのまま言葉を続けずに、少し間を空けた。何故か、緊張しているのだ。何か言い辛そうにしているのかは分かるが、エレンにはスバキが自分に何を伝えたいのかが分からない。

「どうしたの、スバキ?」

「あのさ!」

数秒間沈黙が続いたものだから、エレンが先に口を開けた……と同時に、スバキも口を開けた。

「あ、ごめん……言って。」

「あ、ああ……」

言葉が同時に被った為、少し気まずい思いをするスバキ。この時、スバキは頭を掻き、そして言葉を発した。

「私さ……見てたんだよな。実は……」

「何を?」

「エレンがさ、レイに……抱き締めてたから、それを。」

アレンが暴走する前、エレンはレイを抱き締めた。この様子を、スバキは見ていたのである。スバキは

「見てたのね……」

「前も見たから、同じだろ。それで、お前から抱き付いたんだろ………」

両者は一度沈黙した。その間、互いにジュースを飲む等をしていたが、それらが美味しく感じられる事は無かった。

「やっぱり、気持ちは変わらないんだな。」

その言葉に対し、エレンは首を、縦に頷いた。

「実は……さ、私も……なんだよ。」

「うん、それは知ってた。」

「知ってた?」

意外そうな表情を浮かべる、スバキ。

「だって、前に話した時にそんな感じしてたから。」

エレンはスバキの心境を察していた様子だった。

彼女は以前から、レイに好意を抱いていたのだが恋人であったリルムの存在もあり、何も言えずにいた。諦めようと何度も努力をしたが、それでも彼女は諦め切れていない。

「ほら、あいつってさ……男って感じじゃないし、頼りない所はあるけど……優しいんだよ。人を思いやれる所があるし、助けようと思ったら絶対に助ける。それに、皆を守る為に全力になる。あいつのそんな所に惚れたのかな。」

「優しい所かぁ。うん、私もそこに惚れたのかな……」

「あいつ、モテモテじゃねーか。ホントにさ……」

本当は自分のものにしたいと思う、スバキ。だがエレンは彼に恋人が居る事を分かった上で行動を起こせる。スバキにない勇気を持っている、エレン。この事に、彼女は動揺を隠し切れていない。

「てか、あいつリルムって彼女がいるじゃねえか。なんでまた……」

スバキはあくまでも遠くで見ていただけの為、レイの真相を知らない。今、彼がリルムと仲の良い関係ではないと言う事を。

「それは……実は……」

エレンは静かに口を開け、真相を話した。

真相を聞いたスバキは衝撃を隠せない様子だった。レイとリルムが仲の悪い状況……つまり、これはスバキにとって絶好のチャンスだったのだ。しかしそれをエレンに先越されてしまった。スバキはそれがショックで、ならなかったのである。エレンは、スバキの心境を知っていた。それ故に、正直に話したのだ。事実を知らない状態で、ただ、一途な想いを寄せるだけなのは見ていられないと、思う彼女なりの配慮だった。

やがて、再び両者は沈黙する。互いにレイが好きなのは知っている。問題は、リルムの事情を知った上でエレンが先にレイに想いを打ち明けたという事なのだ。スバキからすれば、どういう風に会話をすれば良いかが分からなくなってしまったのだ。

二人共、似たような境遇という事もあり、仲は良い。だが今回、レイを巡って両者は対立してしまう事になるように思われたが、違った。

「聞きたいのだけれど、スバキはいつから?」

エレンが先に口を開け、沈黙を破った。

「いつって?」

「いつからレイの事好きだったの?」

「あぁ……あれは……私が新生連邦のサイコミュ兵器の試験の時……だったかな。全てが嫌になってた時に助けに来てくれた時……あの時から……かな。で、結局今に至るまで告白出来てないんだよ……情けないよなぁ……私。なにやってんだか。」

スバキは両手を後頭部で組み、溜息を吐いた。

「これでもアピールはしてたんだぜ。でもさ、あいつ草食なのか鈍感なのか知らないけど結局リルムに行って……最初はショックだったけど、結局あいつは好きな人がいたって訳だしさ。文句なんて言える立場じゃねーよ。」

そう言いながら、スバキは眼前にあるサラダをそっと一口食べる。トマトの特有の酸味が口内を刺激した。

「ま、未練はあると言えばあるかな……」

「そうなんだ……私以上にレイの事を想ってたのね……」

エレンは眼前に置かれているフライドチキンを口元に運び、一口齧った。さくさくとした衣と肉の食感が、彼女の口内を支配した。

「私ね、答えが聞きたかったの。」

「答え?」

エレンは少し俯きながら、悲しげに話す。

「私はレイに告白した。でも、レイはまだ気持ちの整理が出来ていないって言った。だから、出来るだけ早く答えが欲しいって言ったの。でも……今レイは連れて行かれて……」

答えを聞いていないままレイは火星に行ってしまった。アルバトスも火星に向かってはいるが、高速艦の方がスピードが圧倒的に速い。この先、何が起こるのかが分からない事を考えると、最悪レイが死んでしまっている可能性も考えられる為、エレンは不安で仕方が無かったのである。

「答え聞いてなくてもさ、想いは伝えたんだろ?だったらいいじゃねーか。」

すると、スバキは突如椅子から立ち上がった。

「私なんかと違ってエレンは勇気あるし、それは良い事だと思う。あいつが付き合っているのにも関わらずそれ、普通出来ねーよ。」

と、スバキは笑顔で答えた。

「悪い、少しトイレ行ってくる」

「え?ええ……」

レイに告白をしたエレンと、リルムの存在を考慮してその想いを伝えられていないスバキ。彼女は笑顔を作っていたが、その笑顔もどこか寂しげだったのだ。

 

 トイレに着いたスバキは洗面所の鏡を見る。そして、自分の姿を確認したその時、手を震わせながら静かに涙を流した。

「何やってんだ私は……ホント……なんでこんなチャンス、逃すんだよ……好きだって……そう言えば良かったのにさ……なんで……」

好きだった少年は、別の少女に先に告白された。その答えはまだ聞いていないとはいえ、先を越されたのは事実。少年に想いを伝えられないまま、スバキはただ涙を流す。レイは、リルムと付き合っている……そうとばかり思っていた。だから彼女は手を出さなかった。しかしエレンはレイが付き合っていると思い込んでいた上でレイに告白した。それが、悔しくてたまらないのだ。自分に出来なかった事をされた……ただ、それが悔しいスバキ。

 けれども後悔してももう遅い。レイは今高速艦の中。エレンは先に告白し、自分は何も出来ていない。

「情けないってレベルじゃ……ねーよ……クソッ……クソォ……!」

何も出来なかった悔しさ、エレンに先を越された悲しさが今、スバキを包む。何故何もしなかったのか。何故、勇気を出して告白出来なかったのか……彼女は、ただ一人涙を流した。

 

 

 

 丸一日が経過した。アルバトスとダリオンの提供した高速艦が火星に向かっている頃、国連軍はアッサラームを中心に艦隊を形成し、戦力を削がれていた新生連邦軍に対し、総攻撃を行おうとしていたのである。先の新生連邦とデウス残党軍との戦闘を見て、甚大な被害を被った新生連邦。そこを叩くという、今回の国連軍の作戦。彼等の目標は、新生連邦の要塞であるエレシュキガルである。国連軍はMS、ハイエッジを大量展開した。いずれもビームライフルやビームキャノンを展開し、一斉に攻撃を行う準備を行っていた。

「今こそが好機!新生連邦軍を殲滅し、勝利すれば地球圏の脅威は一つ去る!その為には今攻撃をするしかない!FPBやデウス軍などいくらでも倒そうと思えば倒せる!数で圧倒すれば良い!」

そう言うのはアッサラームのブリッジ内で指揮官席に座るギルスだった。彼は軍人ではない。しかし、艦長であるウィレスを差し置いて国連軍全体に命令を下している。最早、彼の命令こそが軍の命令と相違無いと言えた。

無数のリューチェ級から発進されるハイエッジ。そしてアッサラームからもハイエッジが出撃する。MSのバリエーションは新生連邦軍程無いとはいえ、国連軍はその数で圧倒しようとしていたのだ。

「目標、新生連邦要塞!全艦一斉射撃だ!」

そう言うのはアッサラームの艦長、ウィレス・レイド・アースだ。彼女はギルスの命令のまま、全艦に命令を下し、一斉射撃を行おうとしていた。

「てええええッ!!!」

彼女の声と同時に、ハイエッジとリューチェ級からビームが一斉に展開された。それらはエレシュキガルと、周辺にいる艦隊に向け、一斉に襲い掛かる。高出力のビーム群が要塞、エレシュキガルに向けられる。これらを全て受けてしまえば、エレシュキガルは壊滅的なダメージを受けると思われた。

 

 

 

 エレシュキガル内の指令室ではレヴィー・ダイル総司令が苦い表情を浮かべて国連による攻撃を見ていた。その傍らにはソフィア・ブレンクスの姿もある。

 先の戦闘でサイコミュ・ルーラシステムを用いた彼女の実力を確認した総司令は、安寧の表情を浮かべている。彼女は疲労回復の為に先程まで眠っていたのだが、目を覚まし、今に至る。

「ソフィア、君は本当によくやってくれている。先の戦闘でも十分な活躍が出来ていた。サイコミュ・ルーラシステムは君に託して間違いなさそうだ。」

先程の戦闘でサイコミュ・ルーラシステムを使用していたソフィア。ゆうに七十基を上回るブリッツファンネルを、一人の脳波コントロールのみで操るという離れ業を成し遂げたソフィア。彼女のその強さを、改めて再確認した総司令は彼女の存在を、より意識するようになっていた。

「レヴィー様の、お役に立てて光栄です……ですが、この要塞は今……」

国連に艦隊を展開され、不安を抱くソフィア。心配する彼女の表情とは裏腹、彼はそんな彼女を宥めるかのように、優しく言った。

「大丈夫だソフィア。この要塞はビームでは絶対に墜ちない。今に分かる。」

実際、このエレシュキガルの存在は公になっていない。それ故に、新生連邦内でもこの要塞の存在や構造を知る人間は限られている。何せ、デウス動乱中に本来ならば投入される予定だった機動要塞なのだが、その巨大さの為か建設が間に合わず、戦後になっても総司令の意向で建設が続けられ、完成した。この要塞にはどのような武装があるのかは、新生連邦内でも知る人間は少ない。と言うのも、総司令の言うようにこの要塞は切り札である為である。公にしてしまうと、スパイ等がいた場合に構造を知られてしまう危険性が高い為であった。

 

 そして国連が放ったビーム群により周辺の新生連邦軍の艦艇は撃沈され、ビームの勢いがエレシュキガルに迫る。

「勝ったな!」

そう言うのは、ギルス・パリシムだった。これだけのビームを浴びて損傷を受けない筈がない――そう思っていたのだ。

 

バイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン

 

この時、国連軍の誰もが目を疑った。エレシュキガルはこれ程のビームを浴びても傷一つつかなかったのだ。と言うのも、この要塞全体にバリアーフィールドジェネレーターが展開されていた為である。総司令が余裕の表情を浮かべたのは、この為であった。

「全ビーム、消滅!あの要塞にはバリアーフィールドジェネレーターが展開されている模様!」

「何だと!?」

予想外の出来事に対し、動揺するギルス。対照的に、その傍にいたウィレスは冷静な様子だった。

 

 ハイエッジやリューチェ級、そしてアッサラームによるビームの一斉射撃はエレシュキガルには通用しなかった。指令室にいた総司令はビームを撃ち終えた国連の艦隊を見て、笑みを浮かべている。

「エレシュキガルにビームは一切通用しない。さて、反撃だ。」

「艦隊を発進させるのですか?」

エレシュキガルにはいくつもの艦艇が要塞内に収納されている。ソフィアはこれらを展開させるのだと思っていたが、総司令は彼女の言葉に対して言った。

「いや……MSだ。待機しておいたMS部隊を一斉に展開し、敵の艦隊に攻撃する。」

指令室にいたのはこの二人だけでない。エレシュキガルの運用を行う為、何人もの人間がこの場所にいたのだ。

 そして総司令は右腕を上げ、その腕を前に差し出した。

「MS部隊、一斉発進!」

 

               ビゴオオオオオオオオオン

 

総司令、レヴィー・ダイルの声と共に、エレシュキガル内のカタパルトから大量のMSが出撃した。ディースト、ジョゼフ、エグゼマー、グランシェ。これらのMSが一斉に武器を構える。グランシェはビームマシンガンを、ディースト、ジョゼフ、エグゼマーはそれぞれビームライフルを構える。それ以外にも、グランシェの中にはシールドに内蔵されているシールドメガビームキャノンを構えている。

 いずれもがモノアイを輝かせ、国連の艦隊に対して武器を向ける。そして――

 

 ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ

 

一斉に各々の武器からビーム等が発射され、それ等は全て国連の艦隊に直撃する。突然の新生連邦軍のMSによる一斉射撃。何の情報も得ていなかった国連軍は予想外の攻撃に、回避する隙すらなく、これらの攻撃をまともに受けてしまう。

「クソッ、こんな攻撃をするなんてな!」

「撃て!撃て!!!」

MSの攻撃に対し、反撃と言わんばかりに国連軍もビームを撃ち返す。新生連邦軍のMSが一斉に攻撃してきた程度では、彼等は怯む様子を見せなかった。

 

 新生連邦のMS部隊と国連軍の艦隊による戦闘が行われている中、総司令は新生連邦のMSや国連軍のMSや戦艦が破壊されて行く様子を、ただ静かに見ていた。

「頃合いか……。」

すると、総司令は静かに口を開く。彼の言葉と同時に、ソフィアは彼の顔を見つめ

た。

「レヴィー様、〝あれ〟を……?」

「そう、〝あれ〟を使う。その為にエレシュキガルを出したのだから。本当は使う予定ではなかったけれど、これ以上の戦力に余裕はない。彼等を黙らせる為にも、使わなければならない。」

彼等の言う、〝あれ〟とは何なのか。この二人の言葉を聞いても、動じる様子を見せない指令室の人間達。彼等はエレシュキガルに備わっているとされる〝あれ〟の事を知っている様子だった。

「実際に撃つのは今回が初めてです。試射と言う事で、最大出力の20%程度で展開して下さい。」

「了解しました、総司令。」

総司令は指令室にいた人間達に命令を下した。彼の命令を受け、彼等は一斉にコンピュータの操作を始めた。

 それと同時に、エレシュキガルは正八角形の形状を変形させていた。指令室がある上部と、MS発進用のカタパルトが搭載されている下部が分かれ、そこから巨大な砲門が姿を現したのである。

 その砲門だけでも直径、推定7キロメートルはあった。あまりに巨大なその姿に、国連軍は皆警戒する姿勢を見せる。

「なんだあれは!?」

「気を付けろ、何かをする気だぞ!」

「構わん、撃て!」

巨大な砲門に対し、国連軍は一斉にビームを展開する。だが砲門にもバリアーフィールドが張られており、ビーム兵器が通用しない。

 

 この様子を指令室から見下ろしていた総司令。彼は無表情のまま、無謀な国連軍の攻撃を見ていた。

「エネルギー充填完了!」

「発射です。彼等を殲滅します。」

彼がそう言った後、指令室にいた人間達は一斉にレバーを引いた。その後で、総司令は中央にあるグリップを握り、思い切り引く。

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ

 

総司令がグリップを引いた時、砲門から緑色をした粒子が広がり始めた。やがてそれらはエレシュキガルの砲門全体に広がって行く。明らかに、何かを発射しようとしていたのだ。

それを見て回避行動をとるように命じる者や、そのまま攻撃を加え続ける者等、様々な人間がいた。

 国連軍が得体の知れない兵器に対して攻撃を加えたり、回避行動をとっている中、それは放たれる。

 

ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

その砲門から、凄まじい勢いで光線が発射されたのだ。プラズマ粒子で出来ているそれは瞬く間に国連の艦隊を飲み込んでいく。そして、飲み込まれたリューチェ級やハイエッジは消滅し、跡形も無くなった。

「いいい今の一撃で我が軍の1/3の艦が消滅!!被害、尚も増大!」

「なんだと!?」

アッサラームのブリッジ内ではギルスが血相を変えていた。何せ、機動要塞だと思われたエレシュキガルから凄まじい、高出力のプラズマ粒子の砲撃が国連の艦隊を瞬く間に消滅させたのだ。アッサラームはこの砲撃の射程から外れていた為、当たる事は無かったのだが、艦隊は壊滅的な被害を受けている。

「全艦、後退せよ!一度退け!!」

ウィレスは国連の全艦にそう告げた。が、ギルスがそれに対して言った。

「何を言っているか!あれを叩かなければまたしても撃たれるぞ!新生連邦め、あんな野蛮なものを開発していたなんて!」

「議長は味方を犬死させたいのですか。」

と、ウィレスはギルスを睨むように見て言った。

「このままあの未知なる兵器に攻撃しても埒が空きません。一度後退した後に分析をするべきだと、私は判断したのです。」

「……クッ!」

ギルスはそれ以上何も語らなかった。今はウィレスの言葉を聞き入れなければならないと、男は思った為だ。

 

 エレシュキガルに搭載されていた、巨大な兵器。それは瞬く間に国連軍に甚大な被害をもたらした。これを見て退散していく国連軍。その様子を、総司令は指令室から見ていた。

「たった20%の出力で……デウス動乱時のコロニーカノンに匹敵するパワーとは。僕が予想していた以上にエレシュキガルは恐ろしい切り札だ。」

「これが……20%……」

彼の言うように、エレシュキガルから放たれた砲撃は最大出力の20%で発射された。それだけでも国連の艦隊に被害を与える事が出来たのだ。もしこれが100%ならば、どれ程の出力だったのだろうか……と、彼は少し考え、溜息を吐いた。

「ソフィア、もし、このネェルガルキャノンが地球に向けられたらどうなると思う?それも、100%の出力で。」

総司令からの突然の質問に、ソフィアは動揺した。

「レヴィー様、それは……?」

「答えられないかな。僕もだ。僕も、想像出来ない。もしかすれば、地球上の地表を削り取ってしまうかも知れない。いや……あるいはそれ以上か。やろうと思えばそれだって出来てしまう。」

エレシュキガルに搭載されている兵器、ネェルガルキャノン。それは彼自身も想像していなかった威力であり、その破壊力に関心を抱くと同時に、それを恐れた。

「エレシュキガルは地球という、何十億年の歴史を持つ惑星の存在を消し去ることが出来るかも知れない程の強大な力を秘めている。僕は連邦による地球圏の統一を目指し過ぎたが為に、結果的にその統一するべき地球そのものを破壊してしまうかも知れない兵器を作り出してしまった……」

彼の言葉を、ソフィアは黙って聞いている。

「ソフィア、君は僕に失望した?」

「え……?そんな……何を……」

急に話を振られ、ソフィアは明らかに動揺していた。彼女の答えを聞く間もなく、総司令は口を開く。

「デウス帝国や地球連邦反乱軍。こうした地球への脅威に対抗する為に僕は今まで新生連邦軍の勢力を拡大してきた。その究極とも言えるのがこのエレシュキガル。しかしこれはあくまでも切り札として使う予定であり、本来なら使うつもりではなかった。でもこの状況に追い遣られてしまった。だから使わざるを得ない。ただ、あくまでも抑止力としてね。」

エレシュキガルはあくまでも抑止力と言い放つ総司令。戦争や紛争行為、そして敵勢力への脅迫的存在として存在している。それはまさに、旧世紀の国防の為の核装備と同様だ。発射されれば全てが滅ぶ、まさに戦略兵器。その破壊力はコロニーカノンを凌駕している。

「そして、万が一あれを攻略されれば新生連邦に後はない。僕達はこう見えても追い詰められているのだから。」

総司令はソフィアに語り続ける。彼女は彼の言葉に対し、何も言わず、ただ静かに聞くだけ。

「それにしても、要塞の切り札とも言えるネェルガルキャノンは僕が想像していた以上の破壊力を秘めた兵器だった。僕自身、驚いているんだ。こんな兵器を作り出してしまった事に。人間は技術が発達していき、世界を滅ぼす力も得てしまった。切り札とは言え、このような兵器を作るように指示を出した僕は最も危険な人物だと言えるだろう。ソフィア、君は僕を軽蔑する権利がある。人類が宇宙に進出する基盤を作り出した母なる星を裏切り、焼き尽くし、破壊さえ出来てしまう兵器を作り出すように指示をした僕をね。」

エレシュキガルはデウス動乱初期から月面内部で密かに建造が進められていた。それは以前の地球連邦総司令、ダディー・ダイルが計画していたものだ。だが戦争が難航して建造は思うように進まず、結果的にデウス動乱は終結し、エレシュキガルの建造は中止になるかと思われたが、レヴィー・ダイルはこれを進めるように指示を出した。戦後になった連邦軍に敵はおらず、建造のスピードはデウス動乱中とは比較にならない程進んでいった。

 そしてエレシュキガルは完成した。だがあくまでも切り札として温存する形をとる事にした総司令はこの要塞をそのまま月面内部に隠す事にしたのである。

「レヴィー様は、この兵器で地球を攻撃する事をお考えなのですか……?」

ソフィアがそう言った。地球を破壊する事が出来るかも知れないと言った、彼の真意を確かめる為だ。

「まさか。何故地球を攻撃する必要がある?この兵器はあくまでも宇宙にいるデウス軍等の脅威に対して迎撃をする為に建造したものだから、そのような事はしない。あれは抑止力だ。そして、戒めの象徴でもある。」

「そうですか、レヴィー様……」

彼の言葉を聞き、まるで安心したようにソフィアは目を瞑り、そっと胸を撫で下ろす。

「僕としてはネェルガルキャノンは多用したくはない。だが新生連邦に刃向う勢力が存在するのならば、僕は容赦しない。」

「私も、レヴィー様の為にお役に立てるように尽力を尽くします……」

彼女の言葉を聞き、総司令は少しばかり俯いた。

「念の為に聞くが、サイコミュ・ルーラシステムは……ソフィアの身体に負担になっていないか?」

ソフィアが総司令の役に立ちたいと言うものだから、彼は先の戦闘で使用されたサイコミュ・ルーラシステムの事について彼女から聞いたのである。多量のブリッツファンネルを操る為、身体への負担も相当なものであると想像できた為、心配になった総司令がソフィアに聞いたのだ。

「大丈夫です……少し、疲れる事はありますけど……」

「……なら、良いんだ。」

総司令は彼女の肩を静かに叩いた。一度目を閉じ、次に目が見開かれ、彼女に言う。

「軍の為にも君の存在は、必要だ。」

そう、優しく彼は声を掛けた。そう言って彼は指令室から姿を消した。ソフィアは、総司令の後姿を見て悲しげな顔をしていた。

(軍の為……私は……軍の為に……?)

ソフィアは総司令、レヴィー・ダイルの為に尽くしたいと思っている。だが、総司令はソフィアを軍の為に役立てと言わんばかりの台詞を発した。この台詞が、ソフィアを困惑させ、苦悩させた。

(私は……違う……私はレヴィー様の為に……)

彼女はあくまでもレヴィー・ダイルの為に戦い、そして役に立ちたいだけ。ソフィアにとって、新生連邦よりも総司令の存在の方が大切なのだ。今、後がないこの状況で自分が総司令に対して言葉を発する事は間違いである事は分かっていた。分かってはいるのだが、どうしても納得が出来ない。

自分は、ただ総司令の為に役立ちたいだけなのに……軍の総司令を務める男を想う少女は、彼が残した言葉をどのように解釈すれば良いか分からず、困惑していた。

 




第百一話、投了。
ガンダムシリーズあるあるの、決戦兵器の牙が向けられた回でした。
戦略兵器の存在はいつの時代も圧倒的ですね……
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