機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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エレシュキガルを巡り、集うそれぞれの陣営の話。


最終決戦編
第百四話 動き出す各陣営


 機動要塞エレシュキガル。新生連邦総司令レヴィー・ダイルが現在の新生連邦の状況が非常に不利である事を判断した為に月面を割って出現させた超大型の要塞である。出現した時は周辺の勢力から警戒をされつつも、これが新生連邦の宇宙での総司令部となるのだろうといった程度の認識をされてきた。

 しかし国連軍が艦隊を率いて総攻撃を仕掛けた時にそれは牙を剥く。要塞が大きく展開され、巨大な主砲、ネェルガルキャノンが20%の出力で発射された。この砲撃により、国連軍の艦隊は1/3は壊滅。国連軍は撤退を余儀なくされたのだ。この主砲の事実は国連だけでなく、デウス帝国残党やFPBにも衝撃を与えた。防御面では要塞の全てにバリアーフィールドジェネレーターが張り巡らされていてビーム兵器は一切通用しない。その上での巨大な主砲である。

 今、この要塞を巡って各勢力による最終決戦が始まろうとしていた。既に国連軍は体勢を整えて艦隊を再び形成。一方のデウス残党軍もアポカリプスを破壊されながらも残存勢力を集め、エレシュキガルのある宙域に艦隊を集結させている。

 これらが存在している中、エファン・ドゥーリアがエレシュキガルに帰還した。アルバトスに〝生存報告〟と名の打った挑発をしてから半日後の出来事である。

「既に国連・デウス残党が周辺に部隊を展開しているようだな。」

と、エファンが兵士に対して言った。彼は今、エレシュキガル内のMSデッキにいたのである。

「ハッ、その模様です。ですがまだ攻撃を仕掛ける様子は見られません。」

「成程、分かった。……で、私の機体は?」

彼は話題を変え、自分の機体であるカタストゥリアについて聞いた。

「それならば別室にございます。普通のMSと一緒では、あの機体を完成させるのは無理ですから。」

「だろうな。あの機体は最高傑作だ。普通のMSではない。」

その後、エファンはカタストゥリアが置かれている部屋に兵士と共に向かった。その間、シーアやクラリス、ダウーラはこの場に残される事となる。

 

カタストゥリアが置かれている部屋は普通の部屋とは違う。薄暗く、広い。そして機体の後面部に極太の黒いケーブルが幾重にも繋がっている。

「少佐ぁ!!」

と、エファンに声を掛けたのは女性整備士だった。その声に反応し、エファンは振り返る。

「ん……?ああ、確か……」

彼は以前にその女性に会った事がある。名前はヘリン・マディック。地球で新生連邦軍の整備長を務めていたのだが、現在の新生連邦の戦況の悪化により、宇宙に召集された。そこで彼女はカタストゥリアの開発に着手していたのである。

「覚えていますか!?覚えていられたら凄く光栄なんですけど!」

(確か……ああ、ヘリン・マディックだったか。)

会った事を忘れかけていたエファンは彼女の心を読み、名前を思い出す。そして、作り笑いを浮かべて話した。

「少佐の機体、完成しました!名前は……カタストゥリアですね!こんな機体、今まで見た事がありません!凄いっていうか……なんていうか……次元が違うっていうか!」

そう言った後、完成したカタストゥリアを見た。漆黒のフォルムに、尖った手部の爪部。そして背部の合計二十四基のブリッツファンネルに、新たに備え付けられた六つの砲門。この六つの砲門が、今回追加で設備された武装である。

 デウス残党が攻撃を仕掛けてきた際にカタストゥリアは出撃したが、その際は80%の状態だった。今回の完成により100%のカタストゥリアが誕生したという事になる。

「ブリッツファンネルのリゾネートエンジン、少佐が即席で考えられたものなんですよね!どうやってこんな物を作り出せたのかが不思議でなりません!」

カタストゥリアのブリッツファンネルには、ツヴァイガンダムと同様にビームリゾネートジェネレーターが搭載されている。だが、それはあくまでもツヴァイと交戦したダウーラが持ち帰ったデータを参考にして作ったものであり、その原理は全てエファンの脳内で考えられている。つまり、オリジナルのビームリゾネートジェネレーターとは異なる技術で、カタストゥリアのビームリゾネートジェネレーターが作られているという事である。

 極め付けはそれらを応用させ、宙域のビーム粒子を吸収し、再利用するというリゾネートアブソーバージェネレーターを独自に開発したと言う事だ。従来ならば不可能とされた技術を、男は成した。

「簡単な話だ。相手の機体の特色、特徴のデータを持ち帰り、それに似た手段を選べばいくらでも代用は出来る。カタストゥリアは様々な機体の戦闘データを基に作成した。だからこそ、私の最高傑作とも言える機体だ。」

あらゆる機体のデータを参考に作り上げたMS、カタストゥリア。エファンはこの機体を最高傑作と言う。これは最早人間を超越していると言っても過言ではないのだ。

それを聞き、ヘリンは感激していた。自分が憧れを抱くエファンの機体の開発に着手できたことが、嬉しくて堪らないのである。

「私!幸せです!ドゥーリア少佐の最高傑作の開発に携わる事が出来て!」

「そうか、まあ……良かったな。」

ヘリンは以前にエファンに会って以来、彼を憧れの対象として見ていた。だからこそ、今エファンの機体であるカタストゥリアが完成した姿を見て、非常に嬉しく思っていたのだ。

「それにしても少佐のような、力を持つ人って……本当に凄いですよね!」

憧れの眼差しでエファンを見るヘリンだったが、それとは裏腹、エファンは彼女の言葉を聞いて不快な思いをした。静かに舌打ちをした後で、彼はヘリンを睨むように見る。

「本当に凄いと思うか?戦争においてその争いの潤滑油として成り立っている力を持つ人間の存在が?」

「え……え……?」

「人間はデウス動乱をはじめ、戦争を繰り返してばかりか更にはそれをエスカレートさせている。その最もたる存在である力を持つ存在……不快だな。そのような存在を神聖視するのは。」

エファンに言われ、困惑するヘリン。彼女はただ自分の言葉を言っただけなのに、それを不快に捉えられてしまったのだ。しかしエファンの野望・目的等知る筈が無い彼女にとって、この言葉が何を意味するか等、理解できる筈が無かった。

「少し、取り乱してしまったな。私とあろうものが、情けない。」

と、突如彼は先程までの感情を訂正するかのように一度咳払いをした。それを見てか、ヘリンはそっと胸を撫で下ろす。

(気のせい……か。良かった……少佐に嫌われたかと思った……)

彼女はそう思った。しかし、その心境も全てエファンに筒抜けだ。

「安堵したようだな、ヘリン・マディック」

「ええ、少佐の怒った顔……とっても怖かったですから……」

シュンとするヘリンだが、エファンは逆にこれを面白く思っていた。この時、彼はヘリンを心の中でどのような人間であるかを見極めた。

(分かりやすい人間だな。このような従順な人間……この女の存在はある意味貴重と言えるのかも知れない。それにオールドタイプだ。殺す必要はないか……あくまでも力を持つ存在を崇拝しているだけ。ならば……)

そう思い、エファンはヘリンに突如近付いた。

「へっ?」

「君は、分かりやすい人間だな。分かりやすい人間は嫌いではない……」

 

                  チュッ

 

すると、エファンはヘリンに口付けをしたのである。一瞬だったが、彼女は憧れの存在であったエファンに口付けをしてもらい、嬉しさを体現した。

(あ……わわわわわわわわわっ!わああああああああ!!!ううううう嘘!わ、私……)

心の中で動揺するヘリンは、ただ茫然としていた。それに対し、エファンは静かに笑う。

(こういう人間は面白い。少し、遊んでみるのも悪くは無いか。)

彼はヘリンの心境を読み、わざとキスをしたのだ。エファンに憧れを抱いているヘリンはそれに対して大いに喜ぶ。一方のエファンはその喜ぶ姿を見て、ただ馬鹿にしていたのである。

 

ウィィィィン

 

その時、カタストゥリアが置かれているこの部屋に二人の人間が入って来た。一人は新生連邦総司令、レヴィー・ダイル。もう一人は側近であるソフィア・ブレンクスである。

「ここに居ましたか、ドゥーリア少佐。」

「ああ、これは総司令。いずれご挨拶に伺おうと思っていた所ですよ。」

総司令の表情は険しい。一方のエファンはまるで見下しているように総司令を見ていた。

「この要塞の事は伺っていますよ。国連の艦隊に大打撃を与えたとか――」

エファンの言葉を総司令の言葉が遮る。

「貴方は今まで何処に行っていたのですか。それを教えて下さい。エレシュキガルへの召集命令が下っていた筈です。」

「それを知ってどうするのですか。」

総司令の言葉に対し、エファンは全く躊躇う様子が無い。

「余りの貴方の身勝手な行動に対し、警告をしているのです。これ以上の勝手は許されません。これ以上勝手な行動が続くのであれば私の権限で貴方を軍法会議にかけさせてもらいます。」

総司令はエファンの存在に対し、憤りと恐怖を感じ続けてきた。しかし、今回彼が火星に行った件で彼の憤りは更に加速し、エファンを軍法会議にかけるとまで言い出したのである。

 総司令は事情を知らない。だが今までの報告の無い身勝手な行動から、また何かをしているに違いないと、考えていた。

「ほぅ、それは恐ろしいですね。じゃあ事情は説明せねばなりませんね。」

だがエファンの態度は相変わらず大胆不敵だ。この様子が、総司令にとって奇妙で仕方がない。

「私は火星に行っていたのですよ。ある、デウス帝国の男に誘われて。でも明らかに何かがあると分かっていたので、合流できるように味方を事前に呼んでいて、それでエレシュキガルに合流出来なかったのです。」

「火星に!?」

総司令はエファンを疑った。出鱈目を喋っているのではないだろうか、またしても適当な事を言っているのだと思っていた。

「今までも散々命令違反や身勝手な行動をしていて今度は何を言い出すかと思えば火星だと、思われていますね、間違いない。いや、絶対です。」

「また、心を読みましたか……」

以前に心を読まれた総司令。今回の件ではあまり驚く様子は無かったが、それでもこの男に違和感を覚えている。

「以前にもお伝えしましたが、正確には〝心が見えてしまう〟のが正しいかと。嫌でも他者の心の声が聞こえてくるんですよ。私の場合は。」

「ならば今戦力が集結しなければならない事も分かっていて、火星に行ったという事ですね。これは立派な命令違反。軍法会議にかけられても文句は言えませんね。」

今までの命令違反に関しては、エファンの功績を見て見送られてきた。だが今回の非常時の召集にも関わらず命令違反を行ったエファンに対し、総司令はこの男の身勝手をこれ以上許してはいけないものと判断した。

「私がいなければこの戦争に勝てる可能性は大きく下がるとしても、軍法会議に掛けられるおつもりですか?」

と、エファンは相変わらず強気だった。命令違反によって軍法会議にかけられる事は禁固刑が大半だがこの男の場合は死刑になる可能性も十分に考えられた。というのも、一度ばかりか何度も命令違反を繰り返してきたからである。そして勝手に戦闘をし、部隊を動かした。当然ながらそれは本来、あってはならない事なのだ。

「貴方の実力は十分に知っています。ですがそれと命令違反は関係の無い話です。貴方のその愚業は許されるものではありません。貴方は軍属なのにそれをご存じで無いと仰るおつもりですか。」

総司令の言葉に対し、エファンは全く動じる様子が無かった。

「質問を質問で返すようで申し訳がないのですが、総司令、貴方はそんな事を言っている場合なのですかな。」

動じないどころか、今度は自分という存在に絶対的な自信を持って接してきた。要するに、自分は優秀な人材だからこの切羽詰まった状況で禁固刑や死刑にして戦闘に参加させないでいる場合なのかと、エファンは言っているのだ。

「私はあくまでも次回以降に命令違反をすれば軍法会議にかけると言っているに過ぎません。この期に及んで貴方は何を言っているのですか。」

「今は貴方自身、一人でも戦力が欲しい状況の筈。それなのに私を禁固刑等にして戦闘に参加させない等と言うのは、この戦争は負け戦になるのは明確。私の実績を見て下さい。少なくとも新生連邦に打撃を与えるような真似はした覚えはありませんが。」

それは聞きとり方によっては命乞い、自己保守にも聞きとれる。何故ならば、自分の実績を見て今回の罪状を無効にして欲しいと言っているからだ。幸い、今回の事が直接軍法会議にかけられる訳ではないのだが、それでもエファンは自分を正当化しようとしている。

 しかし、エファンの場合は命乞いや自己保守ではない。あくまでも、総司令に提案をしているのだ。

「この場での貴方の言い分は自己保守にしか聞こえませんが。」

と、総司令が言った時、エファンは側近のソフィアの方を見始めた。ソフィアは突如感じたエファンからの目線を不穏に思っていた。

「成程……な。」

「突然何を言っているのですか。」

疑問を抱く総司令。すると、突如笑い始めた。

「クク……貴方の言葉とは打って変わって側近のソフィア嬢の心境は愛らしい。面白いと思ったのですよ。」

「面白い?どう言う意味ですか。」

ソフィアは表情を暗くした。エファンに心を読まれ、それを暴露されている感覚が不快に感じたのである。

「この男は信用出来ないがー今、本当にそう言っている場合なのだろうかーレヴィー様はどんな人間であれ、貴重な戦力を大切にする必要があると思うー何故なら全てはレヴィー様の為ー」

棒読みで、ソフィアの心境を静かに語ったエファン。全てを読まれたソフィアは明らかに動揺し、両手で自身の顔を覆った。

「あ……ぅぅ……!?」

「側近のソフィア嬢に随分と愛されているようですな総司令。彼女の為にも私を利用する必要はあるのでは?」

彼等の心境を読んだエファンはそれを馬鹿にするかのように微笑した。総司令は内心で怒るが、彼はそれを表面に出さない。しかしその怒りもエファンに筒抜けだ。憤りを感じる総司令は、この男に対して不信感を抱く。

 すると、彼は思いついたように言った。

「……では、貴方が本当に信用に足る人間であるかどうかをテストさせて頂きます。」

「ほぅ、テストですか。それは興味深い。」

総司令が言った、〝テスト〟。それは何を意味するのか、エファンは既に分かっていた。

「何をするかは心を読める貴方なら分かっている筈です。」

「フフ、そうですね。カタストゥリアを使い、周辺にいる勢力が攻撃を仕掛けてきたのならば真っ先に返り討ちにしろ……そう仰せになられるのですね。」

この時、総司令は再び苛立ちを感じていた。心を読まれているのは分かっているが、それでも総司令はエファンのこの力が不気味でならないのである。

「そうです。全ては私が思っていた事。貴方が本当に忠実に命令をこなすのかを見せて頂きます。」

「ご期待にお応えしましょう、総司令。」

そう言って、エファンは敬礼をした。しかしこの敬礼もエファンにとっては形だけに過ぎない。

「それにしても……この要塞の主砲、圧倒的ではありませんか、総司令。」

突如、エファンはエレシュキガルの事を口にした。それと同時に、総司令は明らかな動揺を見せる。

「たった20%の出力で国連の艦隊を壊滅させたと伺っております。これがもし100%の出力で放たれていれば、果たしてどうなった事でしょうね。」

エファンは明らかに総司令に対して挑発的だ。これには総司令も黙って見過ごすわけにはいかないと思い、口を開く。

「私の心境を読んだ上でそう言いますか。ドゥーリア少佐。」

「そうですよ。」

総司令はネェルガルキャノンを出来れば使用したくないと思っている。彼が想像する以上の破壊力を秘めているそれは、もし地球に向けてしまえば地球そのものを破壊してしまうかもしれない。そのような要塞を扱う事。つまり、彼自身の手によって地球に住む人々を滅ぼす事が出来るという事だ。それを総司令は恐ろしく感じていた。

一方のエファンは総司令の心を読み、あえて挑発するようにして言ったのである。何故彼がそのような態度を取るのかは定かではない。

「……貴方は……あまりにデリカシーが無さ過ぎる……!良いですか、貴方には命令を下しました。これが聞けなければ軍法会議にかけさせて頂きます。では。」

不快に感じた総司令はエファンに命令だけを与え、ソフィアと共にカタストゥリアが置かれているこの部屋から去った。その後ろ姿を見て、エファンは静かに笑っていた。

(余裕がない人間というのは、感情が溢れ出る。失敗したくないという焦り、不安。総司令、レヴィー・ダイル……今のお前に未来はあるかな?)

 

 

それから少し時間が経過した。総司令とソフィアはエレシュキガルの指令室にいた。エファンの事が気がかりであった総司令だが、今は来る国連やデウス残党軍、そしてFPBとの対決に備えなければならない。二人しかいないこの部屋で、彼は一度深呼吸をする。それは決戦に対する緊張を少しでも和らげるために実施しているのだろうか。総司令はソフィアだけをこの部屋に呼び、休憩している。

「すぅ……」

と、彼は一呼吸を置き、ソファに座る。その隣にはソフィアの姿が。

「決戦……ですね、レヴィー様。」

「……うん」

既に、エレシュキガルの周辺に国連とデウス残党軍が艦隊を展開している事は知っていた。本来ならば慌てて迎撃態勢を取らなければならない所だったが、何故か総司令は冷静な様子でじっと窓に映る宇宙空間を見る。こんな状況だからこそ、冷静でいなければならない……と、彼は思っていたのだ。

「新生連邦が国連に敗北するという、歴史的にはあり得てはならない出来事が起きた今、この戦いは決して負けられないものとなる。要となるのはこのエレシュキガル……これを死守する事が新生連邦の目的。これが破壊されれば、新生連邦は負けと同義だ。」

「月面基地は……?」

「月面の戦力も宇宙に出てからのデウス残党軍や国連の戦闘で消耗しきっている。頼れるのはやはりこのエレシュキガルだけ。」

「そんな……」

ソフィアは、まだ余裕があるものだとばかり思っていた。しかし彼女が思っている以上に、現在新生連邦は余裕が無い。追い込まれているのだ。

「だからこそ、負けられないんだよ。ソフィア。僕はこの戦争に勝たなければならない。この要塞の主砲を使い、敵の勢力を壊滅させてでも。その結果多くの命を奪う事になっても。連邦軍は地球になくてはならない存在だから。」

追い込まれている総司令、レヴィー・ダイル。これ以上の失敗は許されない。総司令という立場である以上、大敗する事があれば責任は全て自分に行く。彼の場合はその責任を取ることが怖いのではない。今まで祖父や歴代の総司令達が築いてきた、地球上における絶対的な勢力である連邦軍の存在が亡き存在となってしまうことを、彼は恐れていたのだ。

「レヴィー様……私も、サイコミュ・ルーラシステムで貴方に貢献したいです……」

以前デウス帝国残党軍と戦闘を行った際に用いられた、大量のブリッツファンネルのみを

動かすシステム。これにより、デウス残党軍は苦戦を強いられる結果となった。しかし、あまりの情報量を処理するが故にソフィア自身の脳を損傷しかねないというリスクもあるこの兵器。これにより、彼女は一度意識を失っている。

「ソフィア、無理強いはしない。前は意識を失った程度で済んだが、もし連続してあれを使えば君自身どうなるか分からない。」

彼女の身体を労り、心配する総司令。しかし、ソフィアはいつになく険しい顔をし、言う。

「大丈夫です……!私は貴方の為に!」

自身の身体がたとえ犠牲になろうとも総司令、レヴィー・ダイルに貢献する意思を貫こうとするソフィア。その姿は一途で健気にも見えるが、総司令からすれば出来ればそれは控えて欲しい事でもあった。彼にとって、彼女は存在するだけでも支えとなっている。

「正直……」

「はい……?」

突如、総司令は口を開いた。ソフィアは首を傾げる。

「君の力は是非使いたいと思っている。戦況が戦況だ。手段も選べない状況まで追い込まれて来ている。」

ソフィアをそのように認識したくないと思う総司令だが現実、彼はソフィアの存在を大いに使用したい気でいた。だがそれは彼女の身体に危険が及ぶ事と同意義。何が起こってもおかしくないのだ。

 だが健気なソフィアはそれでも彼に忠誠を誓う。全ては総司令の為に。

「私は貴方に全てを捧げたいです……!貴方の為なら、私は!」

「ソフィア、君の意思は確かか?」

かつてなく険しい表情で、総司令を見るソフィア。彼女は、彼の為に命を投げ出す気でいたのである。

「レヴィー様……私は貴方に以前お伝えしました。貴方が居なければ今私はここにいなかった……と。デウス動乱後、私は貴方の側にいて……でも何も出来ず……それが嫌でした……でも、もう私は……私は貴方の為に!!」

それはデウス残党軍が新生連邦に攻撃を仕掛ける前……ガンダムオラトリオと、サイコミュ・ルーラシステムの試験運用の前に彼女が言った言葉だった。過去に、強力なシンギュラルタイプとして、研究機関に盥回しにされており、そこを総司令に助けてもらった。以後、彼女は総司令の側にいる。総司令の為に役に立ちたいと思う彼女は、遂にサイコミュ・ルーラシステムを操ることで総司令の役に立てた。しかしその代償として彼女は気を失った。だが、それでも彼女はサイコミュ・ルーラシステムを恐れていない。

 彼女の強い意志を感じた総司令は、静かに口を開く。

「そうか……分かった。なら、君の力を頼らせて貰う。」

彼の言葉を聞いた時、ソフィアは笑顔になった。

「ありがとうございます……!」

「礼を言いたいのは僕の方だ。これで、新生連邦軍は少しでも戦える。戦力が一人でも多く欲しい状況だから……」

彼の言葉から、今が余裕の無い状況である事が分かる。僅かでも良い、戦力が欲しい。戦争に勝つ為に……代々続く連邦軍が敗れる事はあってはならないというプレッシャー。総司令はそれに押し潰されつつあった。その中で、ソフィアという存在は数少ない、貴重な戦力の一旦となっている。これは彼にとって非常にありがたい事であった。

「……すまない、ソフィア。少し部屋を出てくれないか。今は……一人になりたい。」

突如、彼は一人になりたいと言った。恐らく彼は相当緊張しており、今は一人で少し考えたいのだろうと、彼の心境を察したソフィアは静かに首を縦に振り、部屋から去る。

 

 側近、ソフィアが部屋から去った後、総司令は眼前に映る宇宙空間と、ガラス越しに映る自分の姿を見てそっと呟く。

「もう後戻りは出来ない……アレン、もし次の戦争に貴方が戻ってくるのならば、今度こそ決着を付ける……全ては新生連邦の為。歴史が覆される事は、あってはならない事なのだから……」

先のデウス残党軍との戦いで覚醒したアレンを脅威に感じていた総司令。この言葉を発する彼に、アレンをかつてのデウス動乱時の仲間だという認識はない。最早総司令にとってアレンは、連邦軍存続の脅威でしかない。

 脅威となる存在はアレンだけではない。国連、デウス帝国残党、そしてFPBが一斉に迫ってくる。彼等は彼等同士で対立し合うだろう。だが、新生連邦の敵である事に変わりはない。

「僕の失態で連邦軍が敗退し、地球圏の中心で無くなる事はあってはならない事……いかなる脅威を乗り越えていくには、何でも利用する……そう、何でも……」

彼は、〝何でも〟という部分を強調した。その言葉に何が秘められているかは定かではない。

「ソフィア、君を道具として使う事を許してくれ……」

側近ソフィアの前では打ち明けなかった言葉。それは、彼女を道具として扱うというものだった。それをもしソフィアが聞けば、当然ショックを受けるだろう。彼女を外に出したのには、こうした理由があったからなのだ。

 自分自身、それらは最低の行為である事は分かっている。分かっているからこそ、総司令は一人、悩まなくてはならないのだ。今まで軍に関する本音を打ち明けてきたソフィアにすら言えない事。彼は、今まで彼女が受けてきた仕打ちと同じ様な事をしようとしているのだ。彼女を苦しめ続けた実験ではなく、兵器として。

 

 

 ソフィアは廊下で待機していた。普段は常に総司令の側にいる彼女だが、総司令が一人になりたいと言う為、彼の為に部屋の外にいたのである。

 今、彼が辛い心境である事を察していたソフィアは少しでも総司令の為に役立ちたいとばかり考えていた。

(レヴィー様は今、苦しんでいる……戦争があるからレヴィー様が苦しむ……それさえ無くなればレヴィー様は苦しまなくて済む……)

自分が戦場に出て、総司令に貢献できる事を喜ぶソフィア。自分が道具として使われているとは知らず、純粋に彼の為に役立つ事を望む彼女。献身的な総司令への想いは儚く、空しいものがあった。いくら彼女が望んでも、結ばれる事の無い関係。どのような形であれ、総司令に貢献する事が彼女の幸せなのかは、分からない。

「ほぅ、総司令の側近のソフィア・ブレンクス嬢ではありませんか。」

「!」

急に、彼女は声を掛けられた。声の主は、先程総司令と会話をしていたエファンであった。

「珍しいですね。貴方が一人でここにいるのは……」

ソフィアの表情が一気に険しくなる。彼女にとって、この男は最も警戒するべき存在。何をしようとしているのか、何が目的で自分に近付いたのか……ソフィアは様子を伺う。

「分かりますよ、貴方が私に警戒しているのが。それも本能的に、私を恐れているのが分かる。」

心を読めるエファンは口を開き、ソフィアに言う。それに対し、ソフィアは

「何が……目的……ですか……?」

恐る恐る、口を開いた。ソフィアが総司令以外に口を開く事は、極めて珍しい事だった。

基本的にソフィアは単独で行動する事は無い。基本的に総司令の側にいる。例外だったのは以前に彼女が一度スナイパーによって撃たれた時と、サイコミュ・ルーラシステムを使用していた時。前者は救急隊によって運ばれた為、後者は総司令、レヴィー・ダイルの為に身を呈して稼働させ、総司令から離れていた。

 だがそれ以外では常に彼女は総司令と共にいた。その為、基本的に彼以外と接する事は無かったのである。今が彼女にとって、〝非常〟なのだ。

「目的?今偶然貴方に遭っただけでそのような扱いをされるとは……残念ですね。」

「違う……貴方は偶然ここに来て居ない……!」

彼女がそう答えるのには理由があった。何故ならば、ソフィア自身もシンギュラルタイプ。禍々しい力を持つエファンの存在を感知する事は容易であった。彼女は、エファンがここにわざわざ来たという事を分かっていたのである。

「貴方も総司令と同じ、シンギュラルタイプの力を持っているのならば私の事に気付くのは当たり前ですね。うっかりしていましたよ、ハハハ……」

彼女には分かっていた。〝うっかり〟で済ます筈がない、必ずこの男が自分に接してきたのには何か理由があるに違いない……と。

「……」

ソフィアは黙った。今は想い人である総司令の指示を待てば良い……ここにいれば良い、この男は無視すれば良いと、思っていた。

「新生連邦軍内で話題となっている、総司令の側近の謎の少女。その少女はあろうことか新生連邦総司令、レヴィー・ダイルに好意を抱いている……総司令以外の誰とも喋らず、コミュニケーションを図らない少女……貴方が心を開くのは総司令だけ。だから誰とも喋らない。どのような環境に置かれても。」

執拗に心の中を読むエファン。それに耐えるソフィア。

「私はその固く閉ざした心に強引に入って来ている時点で総司令に言われたように、確かにデリカシーの無い人間だ。だが今回、貴方に良い事を教えてあげようと思いましてね。」

心を読み、それを語るエファンはソフィアにとって不快以外の何者でもない。しかし、それでも黙り続ける。この男と会話をする気になれないからだ。

「貴方は総司令に愛情に近い……いや、同義とも言える忠誠を誓っている。しかし総司令の方はどうでしょうかね。」

「え……?」

思わず彼女は口を開いた。

「要するに、貴方の心境と総司令の心境は余りに違い過ぎると言いたいのですよ。」

「レヴィー様と……私の……?」

最早、黙ろうとしている彼女の姿など無い。そこにあるのはエファンの言葉に翻弄され、動揺する少女の姿だ。

「貴方は総司令を想っている。実に人間らしい、恋愛感情……それを抱いています。」

そう言われ、ソフィアは顔を赤めた。事実なのであるが、それを口にされると恥ずかしさが浮かぶ。

「しかし総司令の心境は貴方の心境とは全く違う。彼は今、連邦軍の事ばかりを考えている。そして……かけがえの無い存在である筈の側近である貴方を道具として利用しようとしていますよ。」

「私を……利用……!?」

エファンの言葉に、ソフィアは動揺を隠せない。一体何を言っているのかと、問いたい衝動に駆られた。

「先程も言ったように、総司令は連邦軍の存続の事しか考えていません。これが何を示すか……それは、如何なるものも利用してでも勝利を掴むと言う事です。そう、如何なるものを利用してでも。」

〝如何なるもの〟という部分を強調し、ソフィアを困惑させるエファン。苦渋に満ちていく彼女の表情。そして、エファンはそこへ追い込むかのように言う。

「確かに以前の彼ならば貴方に愛情や信頼を感じていたでしょうね。だが今、新生連邦そのものが存続の危機。果たして貴方を想っている暇はあるでしょうかね。人間は心に余裕がある時、他者を想う余裕が出来る。だから愛情が生まれ、その人間を尊重します。その最も足る例が恋愛、そして結婚等。ですが心に余裕がなくなれば……当然、自身の保身の事しか考えられなくなる。」

人間に考え得る心境を語るエファン。ソフィアは、そのような事信じたくないと言わんばかりに、首を横に振る。振り続ける。

「新生連邦の存続の危機……負ければその存在は歴史から消える。これはあってはならない事……ならば、勝たなければならない。自分を信頼してきた人間さえも利用してね。」

そう言ってエファンは少しずつソフィアに歩み寄って来た。彼女はドアの前いる。横は壁。逃げるにも逃げられない。この男の言葉が恐怖に聞こえてくる。

「でも大丈夫、少しは安心して下さい。総司令は貴方の事を多少は気の毒に思われていますよ。多少はね。しかしそれはあくまでも自己満足に過ぎない。とりあえず冷徹に他者を使い捨て、道具のように利用するよりは少しでも申し訳ないという風に振る舞えば相手も分かってくれるだろう……自分の罪も少なくなるだろう……と思えば良い。これで自己解決だ。他者を利用すると言う根本は同じなのだが……」

ソフィアは逃げる術もないまま、エファンの接近を許してしまう。ぐいと顔を近づけ、彼はソフィアの両肩を持った。

「よく、常に心に余裕を持てと言いますが……それは人間、個人個人が社会で貢献出来るようになる為に必要だからです。余裕の無い人間が社会に出たら、果たして社会でやっていけるでしょうか?行ける筈がない。他者を気遣う事が出来ない、自分の事しか見えない人間が社会に出ては干されるのは目に見えている。そして、それが組織のピラミッドの上に立つという事は、組織の崩壊さえ招きかねない。今の総司令はまさに、〝余裕の無い人間〟そのものです。それが総司令をやっているというのだから、恐ろしいものだ。」

「嘘……レヴィー様は……そんな事……違う……レヴィー様は……レヴィー様は……!レヴィー様は……!!」

彼女は必死に否定する。だが、エファンは追い打ちを掛けるかのように言葉を放つ。

「信じる、信じないは自由ですよ。ただ一つ言える事は……私は人の心を読む事が出来ると言う事、ただそれだけです。」

そう言って、エファンは彼女から離れた。絶対的に総司令を信頼していた彼女。それが裏切られたかのような表情を今、彼女は浮かべている。頭を抱え、床に顔を向け、首を振る。

 この男の言葉で、彼女の総司令に対する信頼が揺らごうとしていたのだ。

「まあ、私の言葉はあくまでも参考にして下さい。ただ、心を読める人間の言葉は……絶対的な信憑性があると思いますが。フフ……」

不敵な笑みを浮かべ、エファンはその場から去る。総司令を信頼し、愛情さえ抱いていたソフィアを残したまま。

「違う……違う……!レヴィー様は……レヴィー様は……!」

常に総司令の事を考え続け、側にいたソフィア。全ては彼の為。彼さえ良ければ、自分はどうなっても良いと言う献身の心はあった。しかし、それはあくまでも総司令に愛されたいと言う彼女の本望も併せ持っていたのだ。

 一方で、彼の心境は違う。彼女はただ利用される存在。そう思われている事が、彼女には辛くて堪らない。自分は総司令に好意を抱いている。しかし総司令の方は?自分は只の駒?戦力の一つなのだろうか?人間としては見られていないのか?結局、彼は自分を利用してきた研究者達と同じ考えであるのか?様々な疑念が彼女の中で渦巻いていた。エファンの放った言葉の一つ一つが、ソフィアを苦悩させていく。

 

 

 

 艦隊を展開しているデウス帝国残党軍。その中で、アルメス・ラグナが率いる特殊部隊、インベーションユニットは本隊とは別に離れている場所で艦を展開していた。

 インベーションユニットに所属するバディウス改級は五隻。これらに所属する機体は肩部に特別なマーキングが施されている。そして、これらの中にメイド・ヘヴンの駆るデスゲイズの姿もあった。つまり、メイドはインベーションユニットに所属しているという事になる。あくまでも、〝傭兵〟という形で。

 ある、バディウス改級のブリッジ内にて。その中にはメイドとアルメスがいた。アルメスはこの決戦で全てが決まると言わんばかりに緊張している一方で、メイドは前方に存在するエレシュキガルを見て、にやにやと笑みを浮かべていた。

「こーいう、いかにも最終決戦がはじまるって感じは昔から嫌いじゃねーわ。」

彼はこの状況に期待を膨らませていた。デウス動乱時も、デウス軍のコロニーカノンを巡る最終決戦を経験しているメイド。彼は当時の状況と今を照らし合わせていた。

「お前も思い出すんじゃね?デウス動乱を経験してるなら尚更。」

「ええ……思い出しますよ。当時をね。」

当時の地球連邦軍に負けた事を思い出したアルメスは、エレシュキガルを険しい表情で見ていた。

「しっかしあの要塞がまさか巨大な主砲になってたってのには驚いたぜ。まるで当時のデウスのコロニーカノンそのものじゃねーか。」

メイドは艦長席に、我が物顔で座り、後頭部で手を組み、寝そべる。その様子に疑問を抱く兵士がいたが、彼に逆らう事は危険であると知っている兵士はあえて黙った。

「戦後になっててきとーに生きてたけどさぁ、またこーしてデウスの傭兵として戦えるんならある意味本望だよなー。」

「しかし、ここに所属している以上は貴方の勝手でデウス軍が損害を被ることがあってはなりません。それだけは絶対にお忘れなく。」

アルメスは、最早メイドに呆れる様子を見せない。彼の身勝手な言動に対し、以前は何らかの反応を見せたアルメス。彼がそれを見せる余裕が無いと言う事……それはつまり、メイドの存在に気を遣っている場合ではないという事である。

「まぁー、任せろや。ワイがデウスの連中に損害を与えないようにすりゃいいだけの話やろ。んなもんチョチョイのチョイやでしかし!」

深刻な表情を浮かべるアルメスとは違い、能天気に身構えるメイド。来る最終決戦に対しても緊張する様子を見せず、寧ろそれを楽しむ勢いだ。

「にしてもさー、あの中二病要塞使い物にならんくなってんねー。アレン・レインドのガンダムが暴走してあのザマよ。」

メイドはアポカリプスの話を始めた。デウス残党軍の小惑星型要塞であったアポカリプス。しかしそれはアレンの駆るブライティスガンダムによって破壊された。現在展開している艦隊は、そのアポカリプス跡から脱出した艦隊が宇宙に漂っているだけであり、彼等には帰るべき場所は無い。彼等は最早、戦争をするしかないのである。そしてその果てに掴むべきは勝利。この戦争に勝つことで、彼等は地球圏に大きく前進し、デウス帝国による支配を望んでいる。

「最早、後には引けません。この一戦は極めて重要なものとなるでしょうね。」

「お前がそう思うんならそうなんだろう、お前ん中ではな」

「……何を言っているのですか?」

メイドの言葉に疑問を抱いたアルメス。これに対し、メイドは言う。

「お前と俺じゃ価値観が違うってこったよ。俺はのんびりまったり!」

能天気に構えるメイドと、それとは対照的に真剣な眼差しで宇宙空間を見つめるアルメス。この両者の対比を、艦のクルーは見ていた。そして、それを恐怖に感じる者もいた。

「ま、俺は戦争さえ出来ればなんでもええんやで。早く暴れたいぜ、デスゲイズでさぁ!」

メイドは笑みを浮かべ、ぐっと拳を作る。最早彼はある種の戦闘狂とも言えた。

「貴方は何故、それ程までに戦いを求めるのですか。」

突如アルメスが口を開ける。最初は金の為にデウス軍の傭兵になっていたメイドだが、いつしか彼は戦いばかりを求めている。

 これに対し、メイドは笑いながら言った。

「あれよ、人間刺激が必要だろ?生きててさー、何もないのは流石につまらんでしょ。つまりそーいうことな?だからギャンブルとかスポーツとかゲームとかがあるんじゃねーの?適度な刺激。んで、俺にはその中でMSに乗って暴れ回るという選択肢があったからそれをやってるだけにすぎねーんだよ。金はお前等がくれるからやりたいほーだいだしな。

もし俺からMSの技術を奪ったら俺はクッソつまらん、将来を約束されねぇクズニートか最低でもフリーターライフを送ってたかも知れねぇなぁ?」

彼には、彼なりの価値観はあるのだろう。しかしアルメスにそれが理解出来るとは思えない。

「だからリアルが充実しない奴は実体のいねぇ、いわゆるネット上の名無し人間か偽りネームの野郎共と架空の狩りとかに出掛けてさ、リアルが充実してる野郎はとーぜん、ちゃんと存在しているダチとかと遊びに行くんだろ?何もしねー、ただボー然と過ごすってのはな、結局妄想ばっかりしかしなくなるから暇でしゃーねー訳よ。」

「そうですか。」

と、アルメスはメイドを切り捨てるかのように冷たくあしらった。それを見たメイドは軽く舌を打つ。

「ラグナ中佐、皇帝からの無線が入っております!」

そこへ、アルメス宛てに無線が入って来た。すぐに、彼は繋ぐように命令する。

 

プチュンッ

 

モニターの起動音が聞こえたと同時に、姿を見せたデウス皇帝、ナジェラ・メリクリファーに対し、アルメスは敬礼をする。その姿を見たナジェラは、口を開いた。

「アルメス、準備は整っているか。」

「ハッ、皇帝陛下。我が部隊の準備は完了しております。」

「そうか。今回の戦い、負けは許されない。要塞アポカリプスを失った今、我々はこの戦争に勝ち、地球圏に再びデウスの栄光を取り戻さなければならない。ここに集っているのが、デウス軍の全勢力だ。」

「全勢力……」

それを聞き、アルメスは改めて決心を固めた。もう余力など無い。デウス動乱が集結してから要塞アポカリプス内で着実に戦力を広め続けたデウス軍。だがそのアポカリプスは先の戦闘でアレンによって破壊されてしまった。帰る場所が無いデウス残党軍。この戦いは、彼等にとって熾烈を極めるものとなるだろう。

「おーぅ、皇帝陛下じゃあーりませんか。これはこれはどうも」

敬意を示すアルメスとは違い、艦長席に寝そべった状態で皇帝、ナジェラに話すメイド。アルメスはこの姿に憤りを隠せず、彼を睨んだ。しかし、その顔はメイドには見えていない。

「メイド・ヘヴン……振る舞いはデウスの兵士としてあるべき姿とは言い難いが、その実力は紛れもないもの。この戦争では貴様に大いに期待している。この戦争でデウスが勝利すれば、莫大な報酬をやろう。」

「へぇぇ、そいつぁ、嬉しいですなぁ。人生金がなきゃ何も出来ませんからねぇ。俺は傭兵の立場でデウスに貢献して、それで金貰って好きなように生きれたらそれでええ訳ですからねェ?戦後ロクに生きてない人間からしたら、やっぱ刺激がねーとつまんねー訳ですわ。」

デウス動乱時に兄であるフロード・ヘヴンを亡くしたメイド。彼が唯一信頼していた人間である兄が死んだ事により、戦後彼は宛てもなく彷徨っていた。その中で彼はアルン・ティーンズが率いていた氷河族に興味本位で加入。しかし組織の一員として動く事はあまりせず、自作したMS、グラントロールを使ってやりたい放題暴れる。やがてグラントロールは破壊されるものの、デスゲイズを手に入れてからはグラントロールを操っていた時以上に暴れ回る。実際、セイントバードを沈めたのもこの男であり、更に国連の一部部隊とFPBの協定を破綻させたのもこの男である。

 今まで多くの人間を殺し、そして金を得てきたメイド・ヘヴン。兄を亡くした彼はただ、自分のやりたいように生きているだけ。今回の戦闘に参加するのもデウスの為などでは当然なく、単純に金が欲しい事と、デスゲイズに乗って暴れ回りたい……ただ、それだけなのだ。

「刺激……貴様は刺激が欲しい為に戦うのか。」

「そーゆーことですねぇ。」

メイドの言葉に、何故か関心を示す皇帝ナジェラ。デウス帝国の皇帝という立場の人間相手にも全く態度を改めないこの男を、ブリッジ内の全員が凝視している。強いて変えている部分があるとすれば、申し分ない程度の語尾の丁寧語ぐらいだろうか。

「まぁ、仕事はしますわ皇帝陛下!MSに乗って、破壊するというストレス解消にもなるし金も貰えるという楽な仕事!こういうのも一種のビジネスッスねー。やっぱ。」

「……まあ、期待している。」

そう言って皇帝ナジェラはプツンと回線を切った。アルメスは非常識極まりないこの男に対して怒りを剝き出しにしていた。

「メイド様。貴方に言いたい事があります。」

「ンゴ?」

アルメスはそっと口を開き、言った。

「いくら貴方が傭兵という立場とはいえ、相手は皇帝陛下。デウス軍を統一される御方。貴方の非常識の度合いには心底呆れましたよ。正直、殺したいほどにね!」

この時、アルメスの怒りが零れた。言葉からして、メイドに対する殺意が溢れ出ている。

「本音爆発しやがったなこいつ。爆発していいのはリア充だけなんだけどなぁ?まーいいや。仮にここで銃を発砲する真似してみろや。そん時はさぁ、ぜってー殺す!ぶっ殺す!!何が何でも殺す!!!」

メイドは大声を出したものの、表情自体は怒りに満ちていなかった。そして、次に続けて言葉を発する。

「まあ、せいぜいデウスがオワコンにならねーようにこっちも頑張るからさぁ……あんまりそういう殺意は見せるもんじゃねぇよ。はっきり言って不快極まりねェんだよ。」

メイドはアルメスに舌打ちをする。それに対し、アルメスは言った。

「全ては……デウスの再興の為です。貴方は刺激の為に戦場に出るようですが、許される場面と許されない場面を使い分けて頂きたい。増してや、皇帝にあの態度は許されるものではありませんよ。」

「こっちは金と刺激さえ貰えりゃなんでもいいんだよ。それに俺の立場は傭兵だぜぇ?デウスの皇帝を崇める宗教に入った覚えはねーなァ!」

皇帝ナジェラの前で無礼な態度を見せるメイドに怒るアルメス。一方のメイドは怒るアルメスに対して苛立ちを見せる。デウスの為に尽力するアルメスは手段を選んでいられない状況にあり、不安と知りながらも実力が伴っているメイドをあえて雇った。

「それにてめぇ等は手段も何も選べる状況じゃねーんじゃねーのか?だから俺みたいな悪党を雇ったんだろうがよ。デウスの思想とかどうでもよくて、単純に敵を攻撃すりゃいいわけでさー。いちいち思想がどーのこーのって……申し訳ないが面倒くせぇのはNG。」

「それは認めますよ。」

アルメスは額を少し掻きながら言った。

「何せ、〝余裕〟がありませんからね。」

その言葉は、メイドへの冷やかしのようにも取れる。その言葉の意味を察したメイドは軽く舌打ちをし、アルメスを睨みつけた。

「やっぱ人間心に余裕がないとなぁ!余裕が無いからどんなに優しい奴とかでも落ちぶれちゃーう。そー、崇高なデウス帝国様も俺みたいな暇潰し野郎ォを雇わなけりゃやってられない状況とかなぁ!」

アルメスは、自分の行動を見つめ直した。メイドを雇ったのは元々戦力補充の為。しかしメイドが余りに皇帝ナジェラに対して無礼を働く余り、彼を憎むべき存在だと認識してしまう。最初は彼にデウスの戦力を期待していたが、いつしか彼はそれよりも皇帝への忠誠を優先するようになっていた。アルメスはデウス帝国に代々仕えている家系の末裔。現状の戦況が悪化するに連れ、彼自身メイドの言葉に対する余裕が無くなってしまっていたのであった。

「余裕が無いから俺を雇うとか言っちゃってる割にはさァ、ちゃっかりデスゲイズみてーな高性能なMSくれてるじゃねェか。んで、俺の提案した友情消滅計画の案にも乗ってるし!その上で俺に対してキレるってどーよ?まさに矛盾!矛と盾!前にも言っただろーが。〝悪党の癖によ〟ってさぁ!俺の案に乗る時点でてめぇも俺と同類!暇潰し野郎と同類にされたかねぇから皇帝って言葉で逃げてるだけ!ならいっそ、んなもん捨てろって話なんだよなぁ。」

メイドの言葉を聞き、アルメスは静かに、心の中で語った。

(何にせよ、勝てばいい……手段など選べない……奴と同じというのが気になるが……しかし我が軍に当時のコロニーカノンのような兵器が無い以上、数で押すしかない……)

アルメスの心境は新生連邦総司令、レヴィー・ダイルと酷似していた。総司令の場合はソフィアを利用して、一方のアルメスは無礼を働くメイドを利用。何が何でも勝つというその姿勢は、最早新生連邦もデウス残党軍も大して変わらないと言えた。

 

 

 

 国連の旗艦であるアッサラームブリッジにて。そこにいたのは数多くの国連兵と、艦長席に座るウィレス・レイド・アース。そしてその隣にある司令官席に座るギルス・パリシムの姿があった。国連軍は先のエレシュキガルによる砲撃を受け、損害を被ったばかりである。

 戦力は削がれたが、現在国連の戦力はいつでもエレシュキガルに攻撃を仕掛ける事が出来る状態にまで回復していた。先程に比べると戦力の差はあるものの、新生連邦と比べれば数で勝る国連軍にとって、今の戦力でも十分と言えた。

「あの要塞による不意打ちには度肝を抜かれたが……しかし!あれにさえ気を付けてしまえば怖いものは無い!戦いは数!ならば、数で押せば良い!将軍、そうだろう?」

ギルスは強気だった。したり顔で、将軍であるウィレスを見る。

「確かに数は多い……新型MSである筈のハイエッジ……これが我が軍のほぼ全ての戦力を占めていると言う事に、驚きを隠せない。私自身も想像していた以上の国連の戦力に、驚いている。」

将軍である彼女は最高司令官の立場だ。しかし、彼女ですらハイエッジの配備数を把握出来ていなかったのだ。彼女が想像していた以上に、国連軍はハイエッジによる戦力の増強を行っていたと言う事になる。

「何にせよ、この一戦で歴史は変わる!連邦による腐った政治は終わり、新たに平和国による政治が始まる!そして世界は平和へと繋がる!」

自信ありげにギルスは言った。これを聞いていた国連兵達は皆誰もが黙っている。

「議長……ところで。」

ウィレスが、口を開く。睨むようにギルスはウィレスの姿を見た。

「この戦争に勝利したとして、貴方は平和国連盟の議長を続けられるのでしょうか。」

「……はぁ?何を言っているのだアース将軍?」

国連が勝利すれば、連邦に代わり、平和国が政治を行う事になる。当然、その中心となるのはギルスの筈である。が、ウィレスはあえてギルスに聞いた。

「私が議長を続けるに決まっているだろう?当然の事だ!」

「まあ、そうでしょうね。」

ウィレスは溜息を吐く。彼女の言葉に苛立ったギルスは再びウィレスを睨み、言った。

「アース将軍、貴方は私を信頼していないのか?武力による平和を勝ち取ると言う信念を貫く私を……まさか、貴方も武力による平和を否定しているのではないだろうな!?」

「まさか、そんな事は。私は平和国連盟のやり方にただ従うだけです。何故ならば国連軍は平和国の指示によって動く組織なのだから。」

ウィレスは冷静な様子で答える。これに対し、ギルスは明らかに冷静でなかった。

「そそっ、そうだな!ああ、安心した!ともかく!この戦いに勝利を収めれば平和国が政治を行う時代が来る!新しい時代の幕開けとなる!」

後が無い新生連邦軍とデウス残党軍と比べると、力押しをすれば勝てると過信する平和国連盟の議長であるギルス。国連にはこの戦争に勝てると言う見込みがあると言うのだろうか。

 自信ありげにしたり顔をするギルス。すると、ウィレスはそれを見て言った。

「議長、確認したいのですがこの戦争に勝利した暁には〝平和な世界〟が待っているのですね?」

「当然だ!その為には国連が勝利しなければならない!皆が幸せになれる、平和な世界を作る為にも!」

ギルスの言葉は一見、綺麗な言葉に聞こえる。しかし彼はギアによって曝されているのだ。平和な世界などではなく、〝ギルスの世界〟を作り出そうとしているという事を。その為か、この場にいるクルー達の中にはギルスを疑う人間も少なくなかった。この為か、彼の言葉は汚く捉える事も出来た。本音を隠した建前の言葉。それが今の彼から語られた、〝平和な世界〟である。

「皆が幸せになれる、平和な世界……素晴らしい響きですね。言葉だけを聞けば濁りの欠片もない。純粋潔白な言葉です。」

ウィレスはそれを感情を込めずに言った。言葉の抑揚がない為、ギルスはウィレスの言葉を疑っている。もしかすれば、彼女は自分を疑っているのではないか……と。

「私は、ただ議長の意向に従うだけです。その為にアッサラームは国連の旗艦として存在しており、私はその艦長を務めております。」

この時も、ウィレスは表情一つ変えずに言う。ギルスは彼女のその言葉が気になって仕方がない。見透かされているのか、それとも彼女のスタイルを貫いているだけなのか、それは定かではない。

「何にせよ、命令には従います。国連に逆らう存在は武力を持って排除する。それが貴方の意向ならば、私はそれを聞き入れ、指揮を執るまでです。」

「それならば良いのだ!世界を平和に導く為、国連は今から最後の戦場へ向かう!国連以外の勢力など、存在してはならないのだから!」

ウィレスは一貫して冷静さを保っている。ギルスにとってそれは不気味に感じていたが、アッサラームにいる以上、この場にいれば何も心配は無いと彼は思っていた。

「議長、これだけは言わせて下さい。」

突如ウィレスが言った。

「もし、平和国に対する脅威が現れるならば、如何なる手段を用いてでも私は敵を駆逐します。貴方のいう、〝平和な世界〟を作り上げる為ならば。」

「素晴らしい言葉!将軍の言う事はやはり違う!さあ、狙うとすればあの要塞の後方部!主砲を前にしては駆逐されるのが目に見えているからな!」

ウィレスの言葉に一喜一憂するギルス。が、それに対してウィレスは再び口を開く。

「申し訳ありませんが、艦の配置や攻撃手段等を考えるのは私の仕事です。議長はお静かにして頂きたい。」

ウィレスの言葉がギルスに突き刺さる。が、それは当たり前の話。彼は少し冷静になり、冷や汗を掻きながら言った。

「そうだったな……。失礼した。」

そうは言うものの、ギルスはウィレスに対して疑念を抱いている。自分の事を見透かされているのではないかという不安……ギルスはそれをウィレスから感じていた。もしウィレスに彼の野望の全貌が明らかになれば、自分はどのような立場に置かれるか分からない。

 平和を信じて行動してきた国連兵達。しかし彼等は所詮、ギルス・パリシムの先兵に過ぎない。ギアによって一度は公になろうとしていた事実だが、彼は隠蔽工作を図り、結果的に国連軍は勢力を維持している。それも、全て彼が平和国の議長と言う立場であるが為に、可能な事なのである。

 

 

 

 新生連邦軍、デウス残党軍、国連軍の各勢力が最終決戦を前に緊張態勢に入っている頃、火星から戻って来たアルバトスは旗艦であるシュネルギアと合流を果たしていた。無事に合流出来た事を喜びたい所だったが、今はそれどころではない。新生連邦の要塞、エレシュキガルが牙を剥き、国連の艦隊に大打撃を与えたという事と、今から新生連邦と国連とデウス残党軍の三大勢力が衝突しようとしている事……彼は、アルバトスに移動し、そのブリッジ内にてエレシュキガルについてジャンヌ達に話をしようとしていた。

「状況は良いとは言えない。モニターで見れば分かるが……」

そう言って、ギアは艦隊の様子が映し出されているモニターを展開するように国連のオペレーターに対して言った。彼の命令を聞き、オペレーターはモニターを開く。

「現状がこれだ。新生連邦のヴィッシュ級宇宙巡洋艦に国連のリューチェ級宇宙巡洋艦、そしてデウス残党のバディウスの改修型の級宇宙巡洋艦……これらが無数に展開されている。そしてこれらの中心に存在しているのが新生連邦軍の宇宙要塞だ。エレシュキガルと名付けられている。」

「エレシュキガル……シュメール神話に登場する闇の女神の名前ですわね。」

ジャンヌが言った後、エリィが言った。

「なんでまた、そんな名前を付けたんでしょうかね?」

「さあ。全ては総司令レヴィー・ダイルの思惑があるのだとは考えるが……それよりも、この兵器は非常に強力だ。情報によれば、要塞全体にバリアーフィールドジェネレーターが張り巡らされていると聞く。そして圧倒的な火力を誇る主砲。攻守共に完璧なこの要塞、放置しておけばどうなるか分からない。」

険しい表情でモニターを見るギア。新生連邦の要塞、エレシュキガルの周辺に展開しているのは新生連邦の艦隊。そして、それらを攻略しようと迫る国連とデウス残党軍。これらの勢力が衝突すれば、壮絶な死闘になるのは目に見えていた。

「この状況……この三大勢力が潰し合ってくれれば、私達は無理に戦わなくてもいいような……」

エリィの言葉に、ギアが突っ込んだ。

「いや、それは無理だ。我々の部隊には強力な機体が多く残っている。それらを所持している勢力を野放しにする程彼等も馬鹿ではない。確実に攻められるよ。結局はFPBもこの争いに巻き込まれるだろう。」

「四つ巴の戦いになるのですね……」

新生連邦軍、国連軍、デウス残党軍、そしてFPB。戦争をする気でいる彼等と、戦争をしなければならない状況に陥っているFPB。衝突が避けられないのならば、せめて被害が出ないように工夫をする必要がある……ギアは、そう考えていたのだ。

「戦いが避けられない……しかし、被害は最小限に食い止めたい。そこで、私は考えた。今回の作戦を。」

と、ギアが話を切り出した。一体何を言っているのだろうかと言った様子で、エリィはギアを見る。

「エレシュキガル攻略……これが、FPBの最終ミッションだ。」

「あの要塞の攻略!?」

エリィは驚愕した。何せ、全体がバリアーフィールドに覆われており、その上高出力の主砲を持つその要塞の攻略など、被害を減らすどころか下手をすれば増えてしまう可能性が十分に考えられたからだ。

「そんなの……滅茶苦茶過ぎませんか!?だってあの要塞は……」

エリィがギアの提案に疑問を抱き、口を挟もうとした時、ギアが言った。

「新生連邦軍の要であり、攻守共に完璧な要塞。そう言いたいのだろう?エリィ・レイス君。」

「え……ええ……」

「だからこそだ。だからこそ……あの要塞は攻略しなければならない。何せあれは完璧な要塞だからこそね。」

エリィは、ギアの言葉に困惑を続けている。しかし一方のジャンヌは彼の思惑を呼んでいる様子で言った。

「貴方の仰る意味、よく分かりますわ。ジェッパー代表。」

「ジャンヌ嬢は察しが良い。そう、エリィ・レイス君にも分かりやすく説明すると、全ての勢力はエレシュキガルを攻略する目的で侵攻しようとしている。当然、エレシュキガルを守る為に新生連邦軍は戦力を展開するだろう。その間、別の勢力はエレシュキガルの攻撃を続ける。そこを狙うのさ。」

ギアは、他勢力による攻撃によって戦力を消耗した所を、FPBがエレシュキガルに攻撃を加えると言う作戦でいこうと話していたのだ。いわゆる漁夫の利作戦であるが、FPBのクルーが確実に生還する可能性を考慮するのならば、他勢力の力を借りなければならない……彼はそう考えていたのだ。

「こんな戦いは早急に終わらせなければならない。各勢力があの要塞を攻略する為に集結しているのなら、集結する要因となっているあの要塞を攻略する必要がある。あれを制圧する事が出来れば戦況は大きく変わるだろう。あの要塞の攻略はただでさえ他勢力と比べて圧倒的に乏しいFPBの戦力を埋める、最大のチャンスでもあるからね。」

新生連邦以外の勢力はエレシュキガルを危険な存在として認識しており、これを攻略しなければ被害が及ぶ為、早急に破壊しようと戦力を展開している。しかしギアは、これを制圧しようと考えていた。そうすれば要塞を操り、他の戦力に対して有利に戦う事が出来ると、考えている。

「一度、召集をかけますか?」

ジャンヌの言葉に対し、ギアは言った。

「そうだね……ここで決定してしまっては私の独断になる。皆の意見が重要だ。あくまでも、私は案を出したに過ぎないから。」

「貴方なら、そう仰せになられると思っておりましたわ、ジェッパー代表。」

彼の言うように、これは一つの案に過ぎない。他にも方法はあるのかも知れない。だからこそ、一度メンバーを集める必要があった。

 だが、そうしている間にも他の勢力が今すぐにでも戦争を勃発させる可能性がある事……それが、ギアの内心を焦りで満たしているのもまた、事実である。出来る事ならば今すぐにでも準備をし、出撃態勢を整えたいと感じるギアであった。

 

 

 その後、ジャンヌはすぐにパイロット達をブリッジに集めた。この中にアレンの姿は無い。彼にこれ以上戦って欲しくないと言う彼女の考慮によるものである。

「火星までの長旅、本当にご苦労だった。しかし今はそれを祝福している時間は無い。先日話したように、各勢力が新生連邦の要塞、エレシュキガルに総戦力を集結しつつある。これはつまり、各勢力がエレシュキガルを攻略する気でいるという事を意味している。要するに、各勢力にとっての決戦という事だ。」

ギアは中央に立ち、その側にジャンヌがいる構図で皆がギアの話を聞いている。彼の言葉を聞き、ネルソンが口を開けた。

「決戦という事は、今度の戦いがそれぞれにとって最後になるということでしょうか。」

「そうだね。決戦……それも、各勢力の総戦力をぶつけ合う最終決戦が始まると睨んでも良い。」

ギアは一度息を飲み、再び言葉を発する。

「そして……我々FPBにとっても、次の作戦がラストミッションとなる。その中で、私は一つの作戦を提案した。それは、あの要塞、エレシュキガルを攻略し、要塞を奪う事。それによって我々の戦力を増強し、形勢逆転を狙う事……」

「あの要塞を!?」

ガーストが声を上げ、言った。信じられないと言った様子でギアに反発するように言った。

「本気であれを攻略する気なんですか?というか、そもそも俺達がこれ以上介入する必要って……?」

ギアの側にいたジャンヌが語り出す。

「ガースト、これは避けられない戦いなのです。FPBという組織である以上、私達に攻撃を仕掛けてくる勢力は必ず存在します。ですから、ただ新生連邦と国連とデウス残党軍の三つ巴を傍観するという訳には行かないのです。」

FPBは元々現在の、武力による平和を勝ち取ろうとする国連軍のやり方に反対する者達でギア・ジェッパーを中心に集まった組織であり、軍である。国連以外にもすでにその存在は認知されており、彼等は最早無視の出来ない勢力として存在しているのだ。

「私の下に集まってくれた同士達には感謝をしている。だがそれと同時に、君達は他の勢力にとっても見過ごせない存在となっている。それは、君達も覚悟している筈だ。我々は君達が以前にいた、MS乗りのような存在ではなく、軍である。」

ギアは鋭い目つきでガーストを見て、言った。

「戦う必要は、ありますわ。私達がFPBである限り。」

「あ……」

ガーストは自分の考えが甘い事に気付いた。国連、新生連邦、デウス残党軍のいずれの勢力もFPBに攻撃を仕掛けてきたという事を。特に、アレンが暴走した時の戦闘はデウス残党軍のインベーションユニットが新生連邦軍と戦わせるように誘導してきたのだ。いくらFPBの総戦力が他勢力と比べて遥かに劣るとはいえ、戦いは避けられないのである。

「まあ、私は反対意見もある事を見込んだ上で言っているよ。傍観者になれないのならば、やる事は一つ。あれを奪うしかない。」

ギアが語り終えた後、今度は再びネルソンが言った。

「何故、あの要塞を奪う必要があるのですか。下手をすれば無駄死にするだけの可能性もゼロではありません。」

ネルソンの言葉に対して、ギアは一度目を瞑って言った。

「君がそう言うのも無理はない。何せ相手は国連の艦隊を壊滅状態まで追い込んだ主砲を持つ、未知の要塞。しかし今回の戦場で各勢力があれに集結している……つまり、あの要塞はそれ程に重要なものであるという事だ。あれを我々が奪う事が出来れば、大きく戦況を覆す事が出来るかも知れない。私はそう考えた。」

ギアの提案した作戦に対し、ネルソンは無謀に感じていた。国連軍の艦隊に大打撃を与えた要塞を、国連軍よりも数で劣るFPBが攻略をするなど無理も良い所だ……と思っていた。

「無論、我々だけであの要塞を攻略するのは無理だろう。だからこそ他の勢力を利用する。彼等もエレシュキガルを狙うのなら、彼等の様子を伺い、隙をついて一点突破を狙う。これを見てもらいたい。」

そう言って、ギアはモニターを展開し、現在の勢力状況を簡易的に表示したものを皆に見せる。それを使い、今回の作戦の説明を始めた。

「現在、我々がいるのは要塞から東……つまりEフィールドの位置。そして国連軍は南西の位置のSWフィールド、デウス残党軍は西のWフィールド。我々とはほとんど正反対の位置に彼等はいる。しかし一方の彼等の位置は近い。だが国連とデウス軍は戦闘を行っていない。それ程にエレシュキガルを警戒していると見て良いだろう。」

「そして、この二勢力が攻撃を行っている最中を狙うと言う訳ですか。」

「そうだ。しかしその為には当然新生連邦軍の防衛網をどうにかしなければならない。その為には少しでも時間を置く必要がある。戦闘が始まってからしばらくした後、その時に出撃する。それが君達にとっての最後の出撃だ。」

出来るだけ被害を最小限に食い止めた上での作戦を提案するギア。三つ巴の戦いを行っている最中を狙うのは、味方にも多大な損害を与えないで済む可能性はある。

 だがもし真っ先にこちらが狙われれば、それだけで死の危険性が増す。そのリスクを考えたガーストは意見した。

「もし、こっちが狙われたらどうするんですか!?それじゃあ提案した作戦が全て水の泡になる……」

ガーストの意見に対し、ギアが静かに言う。

「いや、全てではない。可能性は減るが、ゼロにはならない。」

ギアが喋り終えた後、次に口を開いたのはジャンヌである。

「いずれにせよ、私達は戦わなければならないのです。私達がここに集まっている理由……それはこの戦争に勝利し、争いの無い世界を作る事です。それも、今のギルス議長のやり方とは違うやり方で。その為にはこの戦争に勝ち残る必要はあります。あくまでも、FPBとして。只の傍観者としてこの戦いを見るだけでは、意味が無いのです。このような戦いは今回で最後にしなければなりません。」

ジャンヌは、FPBとして戦い抜く事こそ意味があると言っている。彼女自身戦争に対しては反対であるがこの戦争で全てが終わるのならば、それもやむを得ないと思っているのだ。

(最後の戦い……これで全てが終わるの?もし、生き残って……そこから僕はどうなるのかな……いや、今は考えないでおこう……とにかく、次の戦いが最後になるんだ……気を引き締めなきゃ……)

ブリッジにいるクルー達の中で、レイは一人考えていた。この戦いが終われば、全てが終わる。だがその後はどうなる?普通の生活に戻る事が出来るのか?そもそも、生きて帰る事が出来るのかも分からない。死ぬかも知れない。だが自分はそれをも覚悟の上で宇宙に来た。この戦いを終わらせ、見届ける為に。

 

                ウィィィィィン

 

彼等が作戦について話し合っている時、突如ドアが開かれた。一斉に彼等がその方向を見る。

「アレン!?」

そこにいたのはアレンだった。先日まで寝たきり状態だった彼は身体を少しよろめかせ、部屋に入って来た。

 ジャンヌの意向により、アレンのみブリッジに集まる頃を知らせなかったFPBのクルー達。しかし異変を感付いたアレンは自力で部屋から出て、ブリッジまで移動してきたのである。

「明らかに……大事な話をしているみたいだ。戦争中の筈なのにここ数日間戦闘がないから違和感はあった。それにさっきから周りが静かだった。だから歩いてブリッジに来たら……こうなっていたって訳か。」

恐らく。いや、間違いなく彼女が自分に何も伝えないように配慮したのだろうと思い、彼はジャンヌを見た。ジャンヌはアレンを見て、言葉を発する。

「どうして貴方が……貴方は……」

「もう戦うなって言いたいのか?ジャンヌ。」

見透かされた気分になったジャンヌ。だがそれは事実だ。彼女は、アレンにもう戦って欲しくない。このまま、全てが終わるまで部屋にいて欲しいと思っていた。

「ジェッパー代表。この状況を見る限り、次の戦いの作戦を皆で話し合っている所のようですね。」

次に、睨むようにギアを見るアレン。その目を見て、ジャンヌはアレンに言った。

「貴方はまさか……次の戦闘に参加する気でいるのですか――」

ジャンヌの言葉を、アレンは遮る。

「やっぱりか。君は俺に戦って欲しくないんだね。ジャンヌ。」

「当然ですわ……あのような事があって……」

ジャンヌは思い出してしまった。先の戦闘でブライティスが暴走してしまった光景を。ココットが死に、それを煽られた為に暴走し、彼は生死を彷徨った。

 もうそのような事態になって欲しくないという一心で彼女はアレンに何も伝えなかった。だがアレンに、彼女の気持ちは伝わらなかったようだ。

 

タッ

 

すると、レイが大勢の中から姿を見せ、アレンの前に立った。アレンとレイ。両者が互いの顔を見た後、レイは

「もう、止めて下さい!」

「……!」

レイの一言でアレンは黙る。その時の彼の表情は、驚愕以外の何者でもない。まさか、レイにこのような事を言われるとは思わなかったのだ。

「ジャンヌさんがアレンさんを戦わせたくないの、僕はよく分かります……だって……あんな風に暴走して……動かなくなって……死ぬしかないって思ってたのに……でも助かったんです……火星に行く事で心臓を手に入れて!じゃなかったらアレンさんは死んでたんですよ!?皆、心配してたんです……アレンさんを助ける為に皆尽力したのに……なのにまた戦うって……それじゃあ僕達のやって来た事って……意味が……無いじゃないですか……」

レイの目には涙が浮かんでいる。アレンを思い、彼は涙を流していた。それを見たアレンは、生死を彷徨っていた時に聞いたココットの言葉を思い出した。

 

――――――――大切なのはたった一人の人間を支えにする事じゃない――――――――

 

――――――――沢山の友達とか仲間がいてこそ、人間っているんだと思う――――――

 

――――――――――アレンはまだやらなきゃならない事があるよ――――――――――

 

―――――――――――アレンを想ってくれる、仲間達と一緒にね――――――――――

 

「そっか……そうだった……仲間として、見てくれてるから……俺の為に、泣いてくれるんだな……レイ。」

アレンは笑みを浮かべた。そして、レイの頭をそっと撫でる。自分の為に命を掛けて救ってくれたレイ。

無論レイだけではない。他にも、様々な仲間達がアレンを想っている。だから自分を助けてくれた。そして、ジャンヌは自分にもう戦わせないように言った……彼はその事を理解した。

「アレンさんを助けようってなったのは……アレンさんがいなくなることで戦力が減るとか、そういう話じゃないんです。純粋に、仲間だから……僕はその一心で助けたいと思っていたんです!僕だけじゃないです。ジャンヌさんとか、エリィさんとかネルソンさんも……皆、そうなんです!」

仲間という、かけがえのない存在。彼はそれを再認識させられた。ココットが死んでから、彼は自分の感情を押し殺してきた。そして彼は共に戦う仲間に対し、冷たくあしらってきた。

 しかし今、彼は仲間の存在を再確認している。自分を想ってくれる人が、側にいる。彼は今まで自分の行動が余りに勝手過ぎた事を深く後悔した。

「みんな、本当に優しいんだ……俺は自分勝手過ぎたのかも知れない。」

アレンは静かに目を瞑る。この様子を見て、皆がアレンはもう戦わないのだろうと

思っていた。その為か、クルー達に自然な笑みが零れる。

「……でも、やらなきゃならない事は果たしたい。」

その言葉にレイは固まる。この人は何を言っているのか……と、彼は思った。

「ごめん、レイ。お前が心配してくれるのは嬉しいけど、ここにいる以上、俺も戦力だ。だから……」

「まさか、戦うって……言うんですか!?話、聞いてましたか!?皆が心配してるんですよ!?」

当然、彼はそう答える。これ程もう戦うなと皆にも言われているにも関わらず、アレンは戦うと言っているからだ。

「分かってる!分かってるんだよ……けど……聞いてくれ。」

レイが心配するのを余所に、アレンは語る。自身の気持ちと、しなければならない役目について。

「もう俺に戦って欲しくないって、思ってくれるのはとても嬉しい。けど……それじゃあこの艦に俺がいる意味ってあるのか?別に存在意義を示す訳ではないけど、俺自身、MSに乗って戦う事が出来る人間だ。そんな人間がただ、これから戦いに行くFPBのお荷物になる訳にはいかないだろう?」

自分は戦力。だから戦わなければならない。彼はそれを自覚しているからこそ、語る。

「今は一人でも多くの戦力が欲しい状況なのに、何もしないというのはおかしい話だと思う。心配してくれるのはありがたいけど、今はそれがまかり通る状況じゃないんだろう?状況を見て分かるよ。」

戦いが始まろうとしている状況を察したアレンは自分が戦わなければならない事について話し続ける。アレンの強い意志を感じているレイは、彼の言葉に何も言えない。

(死ぬかも知れない状況で戦うって決めるのって……それって僕も同じだ……僕もあの生活に戻れなくなる事を覚悟してここに来たのに、アレンさんを止める権利ってあるんだろうか?)

死んで欲しくないから戦わないで欲しいというのは短絡的過ぎるのかと、レイは考えるようになっていた。この場にいる以上、どんな人間だって死ぬ可能性は十分にある。当然、仲間は誰にも死んで欲しくない。アレンの意思を聞き、自分がもう戦わないで欲しいと言うのは勝手なのではないだろうかと、彼は考えていた。

 ではジャンヌはどうだろうか。彼女は少なくともアレンにもう戦って欲しくないと言っている。ブライティスガンダムの暴走という、あの恐ろしい光景が今でも思い出されてしまうからだ。レイは彼の言葉を聞いて一歩下がった。が、ジャンヌは下がる様子を見せない。まだ、アレンに戦って欲しくない様子だった。

「アレン、貴方に問います。貴方は戦いたいと思っているのですか。それとも、戦わなければならないと思っているのですか。分かっているとは思いますがこの二つは全く違う意味を成します。」

戦う意思を見せるアレンに、ジャンヌが問う。彼は戦いたいのか、それとも戦わなければならないと持っているのか。所謂、したいという意思と、しなければならないという義務の違いである。

「戦わなければならない……かな。」

と、アレンは答えた。

「今度の戦いは、貴方は戦わなくても良いのです。それなのに戦わなければならないと貴方自身が決める理由は何ですか。貴方は、本当は戦いたいと思っているのではないのですか。」

ジャンヌはアレンに詰め寄り、問う。彼は何故戦わなくても良い戦争に参加しようとするのかを。それは、彼女が本心から彼の事を心配しているが故であった。

「ジャンヌ嬢、割り込むようで申し訳ないのだが、少しアレンに聞きたい事がある。」

そう言ったのはネルソンだった。彼の言うように、ジャンヌの話を割ってアレンに質問をした。

「君が戦う意思を固めたのは分かった。そこで気になる事がある。何の機体に乗って戦う気だ?」

「機体……」

ネルソンが気になったのはアレンが戦う事になった時の機体だ。この台詞から、彼はアレンが戦闘に参加する事に批判的ではない事が伺える。ただし、条件付きとして。

「私は正直、戦力として君が加わる事に賛成だ。少しでも多くの戦力が欲しいこの状況で、君の様なエースがいる事は心強い。が、問題は機体だ。以前のあのガンダムに乗ると言うのならば話は別だ。あれは味方にも甚大な被害を及ぼす可能性がある。」

ブライティスは以前に暴走した際、味方のMSをも破壊した事がある。ネルソンはそれを考慮した上でMSについて発言したのだ。

「ジャンヌ、あのMS、まだあるんじゃないだろうな……?」

ガーストがジャンヌに聞いた。その際、三秒程の間が生まれる。すぐにジャンヌが答えないその様子を見て、ガーストは怒りを露にした。

「おい……どう言う事だよ!あんな危険なものなんで処分しなかっ――」

「危険じゃない!」

ガーストの怒りをアレンが遮った。彼に〝危険なもの〟と言われ、それを否定したのだ。

「お前……あれが危険じゃないって何を言ってるんだよ!?お前の命を蝕むかも知れないのに!」

当然、その質問になる。何せブライティスは戦場を混乱させた上に味方をも巻き込んだ機体。そして、彼自身を瀕死の状態に陥れた機体でもある。それらを兼ねている機体が危険でない等、ある筈が無いのだ。

「あのMS……ブライティスガンダムは俺が感情をコントロール出来なかったが為にあんな結果を招いただけに過ぎない。だったら……俺が感情をコントロールすればいい!今までだってそう!俺が冷静にあの機体を操っていたから、皆に迷惑を掛ける事が無かった!俺は今までと違う。もう、迷惑を掛ける事は無い!」

懸命に皆に訴えかけるアレン。しかし実際にブライティスは一度暴走をしている。その光景を目の当たりにしているクルー達。いくらアレンが必死に訴えても、それを簡単に信じる人間がいるとは考えにくい。

「アレン、君はあれに乗る気でいると言うのなら私は断固反対させて貰う。君の為ではない、ここにいる皆の為に反対する。」

ネルソンはアレンがブライティスに乗る事に反対する。それに対し、アレンは何も言わなかった。反対される事は分かっていたからである。

 だが彼は迷っていた。自分はブライティスに乗り、FPBの一員として最後の決戦に挑みたい。しかし一度ブライティスが暴走したという前例が彼の意思を阻害する。ネルソンはあくまでも味方に損害が及ぶ可能性があると言う事を考慮してアレンがブライティスに乗る事を反対している。それを心配する事は決して間違いではない。

「君があの機体以外のMSに乗るのならば話は別だ。私は構わないと思う。」

腕を組み、ネルソンは言った。

「僕も……それに賛成です。アレンさんが感じている、戦わなきゃならないっていう意思の強さははっきりと分かります……だから僕は貴方を止めません。けど、やっぱりあれに乗るのは危険ですよ!」

レイは、最初は彼にもう戦って欲しくないと言った。今はその意見を変え、今度は別のMSに乗って戦うならば良いと言っている。アレンの戦いに対する強い意志を受け、彼はそれに影響されたのである。

「ジャンヌさん、その……クリスタルシステムだけを外す事って出来ないんですか!?せめてそれさえ出来れば……」

ブライティスに反対する理由がクリスタルシステムによる暴走が原因であるとするならば、それさえ外す事が出来ればブライティスに乗る事が出来る……と考えていたレイ。

 だが、ジャンヌの次の言葉がレイに重く突き刺さる。

「残念ですが不可能ですわ……クリスタルシステムの運用目的の為にブライティスは存在しています。クリスタルシステムの中に、ブライティスの動力が組み込まれていると言っても過言ではありません……」

「そんな……じゃあ結局暴走する危険があるって事じゃないですか!」

レイの希望は断たれた。クリスタルシステムとブライティスは一心同体。切って離せるようなものではないのである。

「その心配はないよ。俺はもう、ココットに囚われない。以前に俺が暴走してしまったのは、俺の弱さが原因だ。」

アレンは言う。もう、決して暴走しないと。その表情に揺らぎはない。

 しかしその言葉を簡単に信用する者がいるだろうか。一度でも前例を出してしまった以上、その信頼を取り戻すのは難しい。今、クルー達はアレンの言葉を疑っている。本当に暴走しないのか、アレンの感情が宛になるのか……等。

「アレン、君の決意の固さは伝わる。しかしそれを信用出来るかが問題だ。」

ネルソンが言った。この場で、誰もが思っていた事を。

「人間は口だけなら何でも言える。当然、嘘もだ。現実ではあり得ない事も口でなら言える。君の場合は信用だ。一度起こしてしまっている現象に対し、それを修正するだけの技量が君にはあるか。」

アレンは少し黙った。やはりとはいえ、簡単に自分を信じて貰える筈がないと言う事が彼に重く圧し掛かる。

 だが、ここで彼は引き下がる訳にはいかなかった。ブライティス以外の機体に乗っては、自分の役割が果たせないと思っているアレン。彼は口を開き、ネルソンに言った。

「もし……俺が感情に殺されて、結果的に前の様な形でブライティスが暴走してしまうようならば……爆弾を設置し、爆発させて下さい。ジャンヌ、それは出来るね?」

「え……?」

ジャンヌは困惑していた。要するに、暴れ狂う前に殺せと言うのだ。確かに、暴走を止める手段として爆弾を内蔵しておけば、万が一暴走しようとした際でも爆発させ、機体を消滅させることで周りに被害が及ばない。だがアレンは、それをしても構わないと言っているのである。

「爆弾……か。成程、悪くはない。」

「代表!本気で言っているんですか!?」

ガーストが、ギアの言葉に異議を唱える。まるで人が死んでも良いと言わんばかりの言い方に対してガーストは怒っているのだ。

「ガースト、怒るなよ。実際これしか方法はない。FPBの戦力の一つとして役立つ方法。それは、俺がブライティスに乗って戦うという事だけだ。最終決戦である以上、自分の出来るベストを尽くしたい。」

しかしそれは暴走というリスクも伴う。だからこそ、ブライティスに爆弾を設置し、暴走したならばそれを爆発させて自分を殺せと言うのだ。

「ジャンヌ、それは出来るよね。」

「……はい。」

決戦までもう時間がない。ジャンヌは静かに頷き、言った。ガーストは納得行かない様子だったが、クリスタルシステムが外せない以上、彼が暴走という危険を伴ってブライティスで戦うにはこれしかなかった。

 爆弾を設置するという事は決定した。が、一つ問題がここで生じた。

「しかし……万が一ブライティスガンダムが暴走した時、あのMSを止めることが出来るのは誰だ?」

ネルソンが聞く。爆弾を爆発させるには誰かがそのスイッチを押さなければならない。つまり、アレンの命を握る者が必要になる。

「私がその役目を担おう。」

「代表が?」

名乗り出たのはギアだった。クルー達は一斉にギアの方を見る。

「理由は簡単だ。私が一番アレン・レインドと多く接していない。皆の場合は彼と共に過ごした時間が長過ぎる。いくら戦場では感情が邪魔とされているとはいえ、君達が彼を殺すのは流石に気の毒だろう。だから私が責任を持って爆弾のスイッチを預かろう。」

アレンはこれを聞いた時、安心した様子を見せた。ギアにならば自分の命を委ねられると、思ったのだろう。

「お前、本気で……」

「代表の言葉には一理がある。それとも、お前が爆弾のスイッチを押すか?」

ガーストは、これ以上何も言わなかった。アレンは全く動じていない。暴走する事は、即ち死であるという事を悟っていたからだ。

「心配してくれるの、ありがたいよ。レイもな。」

アレンはレイを見て言った。先程からアレンの事を見ているのに気付いていたのだ。

「アレンさん……」

「心配しなくていい。要するに暴走さえしなければいいんだ。後は俺自身の問題だから。」

アレンは笑顔を作る。しかし、それは明らかに無理をしている笑顔だった。それはレイにもはっきりと分かったのである。

「これで決定かな、アレン・レインド。」

ギアの言葉がアレンの耳に聞こえた時、アレンはすっと息を飲んで言った。

「はい。」

「では解散だ。ああ、各員には自由行動を許す……という事で。」

この言葉を最後に、クルー達はそれぞれの部屋に戻っていった。エレシュキガルに向かうまでの短い時間を過ごすように、ギアが配慮したのである。

 

 

 

 エレシュキガル内部にて。その一部のハッチが開かれた後、ある一機のMSが姿を見せた。それこそが、エファン・ドゥーリアの駆るカタストゥリアである。

 完成したそれは新たに六門の巨大な砲身をバックパックに背負っていた。

「ルイーナシステムは今回が試射となります。確認ですが、チェックはなされなくて宜しかったのでしょうか。」

チェックの心配をする兵士。だがエファンは一度兵士の目をちらと見て、言った。

「問題ない」

「は……?」

「問題ないと言った」

と言ってそのままエファンは回線を切断した。

「さて、いよいよか……今回の試射はどのように飾ってくれるのだろうな、カタストゥリアよ。」

 

ゴギュオゥゥゥゥゥン

 

カタストゥリアの紫色のカメラアイが輝いた。それと同時に、エファンは笑みを浮かべ、言った。

「エファン・ドゥーリア、カタストゥリア出撃する。」

エファンは操縦桿を思い切り引き、カタストゥリアを出撃させた。それと同時に六つの砲門が翼のように展開される。後部のバーニアも光を放ち、機体に付いていく。この時、カタストゥリアにはケーブルが備え付けられていた。その為に行動に制限が生じるのだが、それは今から行うカタストゥリアの行動に支障を来すものではない。

 

 

 エファンの見る先には国連とデウス軍残党の艦隊の姿があった。それぞれがエレシュキガルの出方を伺っており、様子を見ている。これらを見渡し、彼は静かに言った。

「この光景を見る度に思うな、人類は増え過ぎた……と。」

エファンはフンと笑みを作った……と、同時にカタストゥリアは両上肢部を広げ、両手指部を屈曲させる。同時に六つの砲門が一つ一つ前方に向けて展開され、艦隊を狙う。

「まるで、祝砲だな。」

この言葉が何を示すのかは定かではない。彼の奇妙な言葉と同時にカタストゥリアのカメラアイが再び輝き、六門の砲門にエネルギーが集まっていく。そして――

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 

砲門からはプラズマ粒子による砲撃が展開された。高出力のそれは容赦なく国連とデウスの艦隊に襲い掛かる。

 

「敵要塞より高熱源反応感知!これは……!」

「何だと!?まさか奴等はまたあのビームもどきを……?急いで回避を――」

「間に合いません!」

「馬鹿、な――」

それがある国連のリューチェ級のクルー達の最期の会話となった。カタストゥリアから放たれた光は瞬く間にこれらの艦隊を飲み込み、滅ぼしていく。

 光は彼等を回避させる余裕を与えない。国連の旗艦、アッサラームはこの砲撃を辛うじて回避することに成功していた。そして、アッサラーム艦内ではギルスが明らかに動揺した顔で言った。

「なんだあの光は!?奴等、またしてもあの主砲を……?」

「いえ……これは……間違いありません、熱源を確認した結果、MSによるものと判明!」

「馬鹿な!?あの要塞ならまだしも、ただのMSがあんなものを発射出来る筈がない!」

カタストゥリアの存在を前にしてその表情が苦渋に歪んでいくギルス。しかしそのような彼とは対照的に、冷静さを失っていないのは艦長であるウィレス•レイド•アースであった。

「追い込んだつもりになり過ぎていた……ということですね、議長。」

「奴等、隠し球をどれ程隠し持っているというのだ!?」

「被害は我が軍のみに及びません。近隣で展開していたデウス残党軍艦隊にも被害は出ているそうです。」

「クッ……こうなってはもはや手段は選んでいられない!全軍に伝えるのだ!あの要塞へ総攻撃をかける!これ以上奴等を付け上がらせるわけにはいかない!」

ギルスは全軍に、エレシュキガルに攻撃を仕向けるように命じた。軍人でない彼はウィレスを通じて命令するように言った。

「そう言えば艦長。鹵獲したガンダムタイプがこの艦に搭載されていたな。あれは使えるのか?」

「すぐに発進させましょう。」

〝鹵獲したガンダム〟という単語を出したギルス。その言葉は何を意味するのかは定かではない。

「利用出来るものはなんでも利用しなければな!そう、勝つ為に!」

彼のその言葉に対し、ウィレスは睨むように言った。

「議長。貴方は軍人ではない。この艦の艦長は私という事をお忘れなく。私が指示をしますから、議長は少し自重して頂きたいですね。」

カタストゥリアによる砲撃が行われる前に言われた言葉を、再び言われたギルス。まるで学習能力がないかのような扱いを受けたギルスは、彼女が自分の顔を見ていない事を良い事に、明らかに悔しげな表情を浮かべていた。

 

 

 

 カタストゥリアによる砲撃はデウス残党軍にも被害を及ぼしていた。彼等の間ではエレシュキガルの主砲が発射されたのかと思われたがそれは違い、解析をすると一機のMSからそれらが発射されたことを明らかにした。

「ラグナ中佐、熱源はMSによるものと判明しました!」

「たった一機のMSが、これ程の破壊力を見せるものなのか……?」

アルメス・ラグナが率いるインベーションユニットはその砲撃から免れており、艦にも損傷は確認できなかった。

「おい、見せろや。」

メイドはオペレーターを無理やり退かせ、モニターを確認する。そこに映っていたのはカタストゥリアだった。彼は見覚えのあるその機体を見て、笑顔を見せた。だがその笑顔は本心からの笑いではない。驚愕するものを見て、ただ唖然とする中で自然に出来た笑みである。

「おう……こいつァ……予想以上にやばそうだなァ。」

今までのメイドならば楽しそうにこれらを傍観するのだが、今回は明らかに違う。ルイーナシステムMk-Ⅱによる砲撃を目の当たりにし、カタストゥリアというMSが如何に危険であるかを本能的に察している様子だった。

「……分かるのですか、あのMSが。」

アルメスは冷ややかな目でメイドを見た。

「一回戦ったことがあるけどさァ、あの時よりやばいぞ、ありゃ。あんな兵器なかったからな。」

メイドはモニターを確認した後、オペレーターの頭を思い切りバンと叩いた。痛がるオペレーターを他所に、彼は口を横に広げながら歯を見せ、言った。

「戦じゃァ!戦の用意をするぞぉぉぉ!!」

と、急に自身で気分を盛り上げたメイド。唐突な出来事にブリッジ内は唖然とするばかりだ。

 やがてブリッジから去ろうとするメイド。この際、彼はアルメスの耳元まで近付き、囁いた。

「アレにはマジで気ぃ付けた方がいいぜ、お前。」

とだけ言い残し、彼はデスゲイズを稼働させるためにブリッジを去って行った。

「……忠告のつもりか?あの男は。」

メイドがいないブリッジで、アルメスは静かに言った。

「我々には、分かりません。」

「……そうか。まあ、あの男の好きにさせれば良い。我々は我々の戦いをすれば良いのだ。」

かつてのデウス帝国を壊滅に追い遣った地球連邦軍。それらは新生連邦政府と名を改めて現在彼等デウス残党軍の前に立ち塞がる。アルメスのような、デウス帝国に忠誠を誓う者からすればエレシュキガルのような要塞は脅威以外の何者でもないのであった。

 彼は覚悟を決めた様子で、前方を見る。そこに映るのは、新生連邦の要塞、エレシュキガルだ。

「全軍、出撃せよ!一気に畳みかけるのだ!」

アルメスの合図と共にデウス軍のMSであるディエルMk-ⅡやゴルモンテMk-Ⅱが一斉に出撃する。いずれもがモノアイを輝かせ、要塞を狙う為に武器を持ち、それぞれのバーニアの出力を上げて要塞に接近していく。

 

 

 

 国連軍とデウス残党軍のMSが一斉に展開され、それに対抗するように新生連邦軍もエレシュキガルから次々とMSを展開した。カタストゥリアの一撃が、この最終決戦を呼び寄せたのだ。

「これがドゥーリア少佐が開発したMSの、真の力か。フフ、彼には脱帽するよ。まさかこれ程の力を持つ機体を開発していたとは。」

エレシュキガルの司令室内にて、総司令が言った。傍には表情が曇っているソフィアの姿もあった。

「彼の事はずっと疑っていた……しかし、あのカタストゥリアは本当に強力だ。戦況を変える力があれにはある。素晴らしいよ、ドゥーリア少佐……」

「レヴィー様……?」

エファンの事を良く思っていなかった総司令。だが彼の表情は、今明らかに笑っている。その笑みの意味は、ソフィアにとってよく分かる。余裕がない状況だからこその、エファンが開発したカタストゥリアという希望に対する笑み。エファンがこの場にいない時に笑っている彼は、心の底からエファンに対して信頼を寄せているという事となる。

 

―――――――――――総司令は連邦軍の存続の事しか考えていません――――――――

 

エファンの言葉がソフィアの中で耳鳴りの如く繰り返される。認めたくない事実が、彼女を襲う。

 

―――――――――――――――如何なるものを利用してでも――――――――――――

 

(違う……レヴィー様は……!)

余裕が無い総司令と、その総司令を想い続けるソフィア。彼女は総司令を心から想っていた。だが今は違う。エファンの言葉により、その想いが少しずつ、揺らぎ始めていたのである。

 

 

カタストゥリアに乗って一つの仕事を終えたエファン・ドゥーリアは要塞へ帰還した。ルイーナシステムMk-Ⅱを放ったことにより、プラズマ粒子貯蔵タンク内の粒子が底を突いた為である。

「少佐!その、おかえりなさい……!」

彼を迎え入れたのはヘリン・マディックだった。エファンに対して恋心を抱いている彼女はカタストゥリアの前に現れ、真っ先にエファンの帰還を祝福した。

「少しだけ休む。」

カタストゥリアから降りたエファンはヘリンに対して笑顔を作った後、そのまま栄養ドリンクを待っていた兵士から受け取り、それを口に含みながらこの場から去る。その姿を、ヘリンは憧れの眼差しでじぃっと見つめていた。

 

ウィィィィン

 

エファンはとある部屋に入った。その部屋にいたのはシーアだ。シーアは最初に誰が来たのかを確認した上でドアのロックを解除し、エファンを招き入れたのである。

「少佐自らが私の部屋を来られるのは少し驚きました。いつもは自分から少佐の部屋に行っていたものですから。」

「部下の部屋に入ることはあまりないからな。それにもうすぐ決戦だ。心境を確認しておきたいと思ってな。」

「心境……ですか。」

そう言われ、シーアは少し考える仕草を見せた。右の示指を屈曲させ、口元に当てる。

「緊張……ですか?」

「そうは見えんがな。今もプラモデルを組み立てている男が何を言うか。」

「これは気を紛らわしているに過ぎません。僕は緊張するとじっとしている人間ではありませんから。」

「成程、人それぞれの気の紛らわせ方という訳か。」

エファンはちらとプラモデルを見て、再びシーアの目を見る。

「完成はするのか?」

「ええ。あと頭のパーツを付けるだけですから。」

そう言いながらシーアは完成しようとしているプラモデルの頭部を、胴体に繋げようとしていた。

 

カチッ

 

頭部パーツと胴体パーツが接続した音が、部屋に響く。彼が作っていたプラモデルが今、完成したのだ。

「ようやく出来ましたよ。最近出撃ばっかりで作れてなかったから、決戦前に出来て良かったです。」

と、満足そうに完成したそれを見て語るシーア。その表情は、戦場にいる時とは違う。あどけない子供のような表情。自身が趣味に没頭している時に見せる表情だ。普段滅多にその表情を見せないシーアは、今エファンの前で見せた。

(自分の好きになるものに夢中になる時の顔……それが、今のお前の顔という訳か。)

腕を組んでその様子を見ていたエファンはシーアの笑顔を、表情一つ変えずに見ていた。その目はまるで未来を見通しているかのようであり、シーアを憐れんでいるようにも見えた。

「しかし、少佐、あのMSの勇姿、この目に焼き付けましたよ。本当に素晴らしいですね、あのMSは!何せ単機で艦隊を壊滅させるなんて!」

シーアはプラモデルに触れながら言った。この時彼はエファンの目を見ていない。

「カタストゥリアの新型兵器を使っただけに過ぎない。あれは試射だ。」

「自分は生きている内にあのようなMSに出会えたことに本当に感謝ですよ。少佐は本当に素晴らしいお方だと、僕は考えていますよ。」

そういうシーアの目線はやはりプラモデルだ。一切エファンの事を見ていない。まるで、無関心であるかのように。言葉だけはやたらと褒めるのだが、全くエファンを見ないのだ。

「成程、お前は夢中になるものがありながらも人間を尊重する性格のようだ。」

普通ならば無礼な態度と貶されてもおかしくないシーアの行動だが、エファンは彼の心を読み、シーアを許すような言葉を言った。

「はは、やっぱり少佐は本当に凄いですね。本当に、完璧超人みたいだ。」

ようやく、シーアはエファンの目を見て話した。

「お前から見ればそうかも知れんな……さて、他の所に行く。ゆっくりしておけ。」

と、エファンはシーアの部屋を後にした。シーアの心境を確認した彼は、次に強化モデルであるクラリスの所へ向かったのだ。突如部屋を後にしたエファンを見送った後、彼は再び完成したプラモデルを見つめてはそれを動かし始めた。

 

 

 その後、クラリスとダウーラの部屋に訪れたエファンは彼等の心境を確認し、部屋を後にする。最終決戦が間近に迫っている為の、彼なりの気遣いなのだろう。

 やがて部下全員の部屋を確認した後、エファンは一人、廊下を歩いていた。やがて廊下の分岐部に差し掛かる所で、ガラス越しに宇宙空間を見た。既にエレシュキガルに迫ってきている国連やデウス残党軍。自分の引いた引き金で迫ってきている彼等。

「戦争を続け、その築いてきた文明を自ら滅ぼす……全く、人間は数が多いと厄介なものだな。」

一人その光景を見て溜息を吐くエファン。彼自身、それは悲しんでいるようであり、同時にこれからの戦いに対して喜んでいるようでもあった。

人間という存在に対し、時には見下し、時には関心を向ける男、エファン・ドゥーリア。今の彼の眼には何が映るというのだろうか。それは、彼自身にしか分からない。分かる筈がないのだ。

 

 

 エレシュキガルの外では国連軍とデウス残党軍が新生連邦に対して攻撃を行おうとしていた。これらの勢力に対して戦力を展開する新生連邦軍。要塞からは無数のMSが展開され、これらを迎え撃つ。ディエルやジョゼフ、エグゼマーやグランシェといったMSが一斉に展開され、各々の武器で迎え撃つ。

「なんだ、あのMSは……?ガンダムタイプ!?」

ある、ジョゼフのパイロットが小隊の仲間に対して無線で伝えた。

「いや、あの機体は……間違いない、新生連邦のガンダムだ……!」

彼等が目にしているのは新生連邦軍のガンダムである、アトミックガンダムだ。それは以前国連が決行した新生連邦本部攻略戦の際にデスゲイズによって破壊された筈のMS。しかし、その機体が何故か新生連邦の前に現れていたのだ。それも、国連のハイエッジに混じりながら。

「キキキキ……はははははははははははははははははは!!!」

「なっ……こいつッ!!」

パイロットはハーディ・クオレントだ。しかし彼は以前のように喋る事はなかった。ただ、奇声を上げながらジョゼフに襲い掛かる。

「新生連邦のMSを使ってでも勝ちたいってかよ!」

敵となったアトミックガンダムを見て怒りを覚えた兵士は、アトミックガンダムに襲い掛かろうとしていた。しかし、アトミックガンダムはMA形態に変形した後にバーニアの出力を上げてはモノアイを輝かせ、ビームランチャーを撃つ。パイロットのハーディの言動からは想定できないほど正確な射撃が、二機のジョゼフを狙った。内一機のジョゼフに攻撃が当たるも、シールドで防御する。

「馬鹿な!?」

シールドで防いだと思った瞬間、至近距離まで近づいていたアトミックは再びMSに変形し、ビームサーベルでコクピットを切り裂いた。この一撃で、ジョゼフは破壊される。敵討ちと言わんばかりにもう一機のジョゼフが放つビームライフルがアトミックを襲うも、これを回避。すぐにビームランチャーでそのジョゼフを撃破した。

「ハハハハハハハ!」

高らかに笑うハーディ。彼は次なる獲物を探す為、アトミックガンダムをMAに変形させてこの場から去る。

 彼の機体は新生連邦本部攻略戦でメイドに破壊された後、勝利した国連に鹵獲され、パイロットもそのまま強化された。以前よりも強化されたことにより、完全に言葉を失ってしまったが、その代わり戦闘マシーンとしての有能性は格段に上昇していた。武力による平和を勝ち取る為ならば手段を選ばない。現在の国連の代表、ギルス・パリシムのやり方が、ここにきて著明に見られるようになったのである。

 




第百四話、投了。
それぞれの陣営が最終決戦に向け、動き出していく。
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