各勢力がエレシュキガルに集結していく。国連、デウス残党、そしてFPB。エレシュキガルを死守せんとする新生連邦を含めた、四つ巴の戦いが始まった。
多くのMSがビームを撃ち合い、破壊されていく。瞬く間に散る命。今までの戦場でも見られた光景ではあったが、この決戦においてその数は今までの比にならなかったのだ。
とある国連軍のリューチェ級艦内にて。ハイエッジを展開し、新生連邦へ攻撃を仕掛ける彼等。
「なんとしてもあれを止めるのだ!決して怯むなよ!」
「艦長!当艦下方より熱源察知!急速に近付いてきます!」
「なんだと!?」
焦った時にはもう遅かった。熱源の正体はMSだ。そのMSは巨大なクローでブリッジを貫き、更に腕部のクローで艦全体を破壊した。艦の下部から突き破り、出てきたそのMSこそ、クラリス・デイルがエファンに与えられたMS、ディブロスであった。ディブロックのコアユニットであるそれは、従来のMSよりもはるかに大きく、そして武装も多数搭載されている。
「よくもっ!」
ハイエッジがディブロスに攻撃する。が、ディブロスは脚部のクラッシャークローを展開し、ハイエッジの胴体を掴み、そのまま潰した。パイロットは当然圧死。更に、ディブロスの脅威はそれだけでない。
「行けよ!」
ピシュンッ
ディブロスのシールドに搭載されている小型のブリッツファンネルが更に展開され、近くにいたハイエッジを蹴散らす。そして近付くMSには腕部のクラッシャーアームで頭部を鷲掴みにし、内蔵されているビームで射撃した。
その圧倒的な火力で他を寄せ付けないディブロス。そのパイロットは、エファンによって身体を強化されたクラリス・デイルであった。
更に別の場所にて。展開する数機のハイエッジを、プラズマ粒子の砲撃が葬り去った。巨大なプラズマカノンを持つMS、カーティウスがこれらを襲ったのだ。カメラアイを輝かせ、迫るハイエッジを迎え撃つ。
「やっぱり良い機体だ。負ける気がしない。しかしこればかり相手をするのはどうにも満足できないな……」
パイロットは先の戦いでも同機に搭乗していたシーア・マックス。彼は完全に与えられたカーティウスを乗りこなしているようだった。
バシュゥゥゥゥゥ
カーティウスにビームライフルの雨が迫る。しかし、カーティウスは前腕部を差し出すことにより、ビームを無効化する。
「こいつ、なんなんだ!?」
ハイエッジのパイロットは明らかな動揺を見せる。しかし戦場でそれを見せる事は直接死に繋がる。
ドオオオオオッ
三又に展開されたビームがこのハイエッジを狙い撃った。油断したが故に生じた悲劇である。
「とりあえず……エレシュキガルに近付けるなってことだからね。行かせはしないよ。」
舌をぺろりと舐め、シーアはカーティウスを駆る。巨大なプラズカノンを所持し、迫る敵を撃ちながら。
クラリス、シーアが国連と交戦している別の宙域にて。そこにはリューチェ級二十隻が一同に集っていた。エレシュキガルに向かう国連の艦隊である。
ところがこの艦隊の前に一機のMSが表れた。漆黒のMSであるその機体はこの艦隊を前にし、まるで見下しているかのようにカメラアイを輝かせた。
「あ、あの機体は……!?」
「さっき強力な砲撃をしたMSじゃないのか……?」
国連兵達は恐れていた。無理もなかった。何せ、彼等の前にいる機体。それは先程ルイーナシステムMk-Ⅱを使い、国連、デウス残党の両艦隊に甚大な被害をもたらしたMS、カタストゥリアだったのだから。プラズマ粒子の補充が完了したカタストゥリアはすぐに出撃し、戦闘宙域に現れた。
ブイイイイイン
やがてカタストゥリアは右指間腔からビーム刃を展開した。そして手部は有線で伸びていく。更に、その手部周辺にカタストゥリアが展開したブリッツファンネルが展開された。
すると、ビーム刃はみるみる内に巨大化していく。まるで互いに共鳴し合うかのように。
「な……これは……?」
「で、でかい……」
兵士達が驚いている内に、ビーム刃は更に巨大化した。
やがてその大きさはカタストゥリアの何十倍もの大きさとなり、機体の指間腔から出ていたビーム刃はブリッツファンネルによる共鳴により、まるで巨大な手が現れたかのような印象だった。宙域を待っている細かなビーム粒子を、ファンネルが吸収し、それを自らの力にしているのだ。
「蟻潰しだな、まるで」
エファンがそう呟いた直後、カタストゥリアは巨大なビーム刃を振り下ろした。戦艦の四、五隻サイズどころか、推定幅約1000キロメートルを軽く覆えそうな大きさであるその兵器は、触れるもの全てを破壊した。高出力のビーム刃であるそれはハイエッジのビームシールドも難なく突破し、破壊し尽くした。理論上ビーム粒子が存在する限り無限に広がり、地球上と違って大気圏内の減衰率を受けないこの兵器は、純粋に脅威以外の何者でもないのだ。
「グァアアアアアアアア!」
国連の兵士達の断末魔が聞こえた。しかし、その声が聞こえたのも僅か一秒にも満たない。まさに、一瞬の出来事だった。その一振りが、艦隊二十隻を一撃で沈めたのだ。そのようなことが、たった一機のMSによって成されたのだ。
最早これは単体で行える殺戮行為だ。ビームクローとブリッツファンネルが引き起こしたビーム粒子の共鳴は、一機のMSが行える力を遥かに凌駕している。そして、この機体が持つビーム粒子の永久機関は兵器としてのエネルギー問題を解決している。
従来のMSを遥かに凌駕する強力な性能を持つ機体、カタストゥリア。それに乗るのはEVEシステムの遺志を継ぐ男、エファン・ドゥーリア。鬼に金棒という諺を遥かに超えたこの組み合わせは、国連、デウス残党、FPBそれぞれの脅威の中で最大級の脅威となり得ると考えられた。
新生連邦を除く三大勢力はそれぞれエレシュキガルに向かう。そして新生連邦はこれを守る為にMSを展開し、死守する。
飛び交うビームによる粒子の光。その一瞬の光が、一人一人の命を奪っていく。互いのMSがビームを撃ち合い、撃破しては、撃破されるという、その繰り返し。
やがてそれにより、少しずつ各戦力の機体は減っていく。一部のMSを除いて。
「迫ってきているぞ、散開しろ!」
ネルソンが他のパイロットに命令した。それを聞くのは、ガーストとレイであった。
「はい!」
両者はネルソンの命令通りにそれぞれ分かれた。するとそこへ三機のMSが接近してきた。
「国連かよ!」
国連のMS、ハイエッジが迫って来ていた。同じ機体に搭乗するガーストはこれらを認識した後、ビームニードルを展開し、攻撃した。
素早い動きでビームニードルを避けるハイエッジ。それらは切り替え式ビームライフルを連射し、ガーストに迫る。
「やらせない!」
そこへツヴァイガンダムがガーストのハイエッジを守る為にバリアーフィールドを展開し、ビームを防いだ。次にブリッツファンネルを展開し、三機のハイエッジを瞬く間に撃破した。
「悪い、レイ。」
「いえ……っ!?」
笑みを浮かべたレイだったが、その直後――
ギュルルルルルッ
六本のケーブルがツヴァイに迫ってきた。レイはこれらを感知した時、急いで避けた。
有線式ビームサーベルを全て避けたレイ。この特徴的な攻撃をしてくる機体に、彼は覚えがあった。彼だけでない。傍にいたガーストも知っていた。
「早速面倒な奴が相手か……」
そっと、ガーストは溜息を吐いて言った。
「デスゲイズ……あの人だ……」
レイの前にいる、漆黒のMS。デスゲイズ。彼はその機体に一度敗れ、瀕死の重傷を負わされた。翼のようなバックパックの存在もあってか、ツヴァイガンダム以上にそれは大きく見えた。
「にゃんぱすー」
無線を介して発したメイドの奇妙な挨拶。何故か彼は右腕を上げ、面倒くさそうに言った。
「メイド・ヘヴン……」
ごくりと唾を飲み、レイの目つきが変わる。早速強敵を前にし、緊張が走った。
「さんをつけろよデコ助野郎ォォォ!!!」
デスゲイズのモノアイが怪しく輝く。獲物を見つけ、攻撃する為に。再び有線式ビームサーベルを六基展開し、全てをツヴァイに対して向けた。
「何度もこんなっ!」
同じ攻撃パターンだ……と思っていた。メイドはそれを見てにやりと笑う。触手のように迫るそれらの攻撃を避け、同時にメガビームセイバーを展開し、切り裂こうと考えていた。
「あっ……!」
しかしそこへ別のMSも迫っていた。ディエルMk-Ⅱである。デスゲイズの援護に来たのだ。ビームマシンガンを連射し、ツヴァイに襲い掛かる。
これらの攻撃が重なり、ツヴァイは攻撃を繰り出すのが難しい状況に追い込まれた。デスゲイズの攻撃も避けなければならず、更にはディエルMk-Ⅱの攻撃も防がなければならない。
「これで!」
しかしツヴァイにはブリッツファンネルが十八基ある。これらを全て展開し、ディエルMk-Ⅱをまずは撃ち落とした。次に三基のファンネルをそれぞれ近付け、先端部から巨大なビーム刃を展開した。それをデスゲイズに向かわせる。この攻撃に気付いたメイドはすぐに攻撃を止め、避ける事に専念した。
「ハハー、たーのしー!ハッハッハッハッハッハッハ!!!」
高らかに笑うメイド。一方で笑う余裕など一切無いレイ。デスゲイズを狙う為に攻撃し続けるが、外見からは予想できない機動性に翻弄され、苦戦する。
更に追い打ちをかけるように、ディエルMk-Ⅱが五機、この宙域に迫る。
「レイ、こいつらは俺に任せろ!」
と、ガーストがこれらの迎撃に向かった。レイはデスゲイズとの戦いに集中することになった。
「貴方みたいなふざけてる人が!なんでこんな所に!」
以前はメイドの事を恐れていたレイ。が、度重なる挑発のような奇声にいつしか怒りを覚えるようになっていた。メイドの気まぐれ、遊び感覚でセイントバードを破壊した時をはじめ、幾度となく彼等に立ち塞がったメイド・ヘヴン。その男を許せないと、レイは感じていた。
「じゃあおふざけやってる俺を倒してみろや!正義のヒーローさんよォ!」
逆上させる台詞を放った。デスゲイズのモノアイは輝き、今度はミサイルが発射される。
これらをブリッツファンネルのビームで砲撃し、迎撃する。
その直後、デスゲイズがツヴァイの前まで急速に接近してきた。そして、今まで見せなかった戦法をとる。
ギュルルルルルッ
有線式ビームサーベルの長さを短くし、ツヴァイガンダムとあえてビーム刃による打ち合いを行おうと考えていたのだ。すぐにツヴァイはメガビームセイバーを展開し、打ち合いを行う。
「良い事教えてやんぜクソガキ!俺みたいな悪役ってのは大人じゃねえと出来ねぇのよ!」
「何を……!?」
「てめぇみたいなガキは自分が正しいとかしか思わねぇ!正義のヒーロー全般に言えるけどどいつもこいつもアホしかいねぇのよォ!」
デスゲイズの有線式ビームサーベルが連結していく。そして、ビームサーベルの出力が上がって行く。
「てめぇドラマとかアニメで悪役って大抵大人で策士の連中だろ?そりゃそうだぜ。奴らは経験を積んでるからな!経験があるからこそ悪役を演じる事が出来んのよ!何の経験もなく、純粋無垢な奴は悪い大人に育てられた悪役になるが……それは悪役なんかじゃねェ!ただの操り人形!てめぇもその一人みたいなもんだぜクソガキィ!」
「黙って下さい!」
ツヴァイのメガビームセイバーも出力を上げ、デスゲイズに対抗する。
「てめぇが何の為に戦ってるかは大体分かんぜ……戦争を止めるとか、そーいう正義のヒーローもどきの台詞を吐くって予想がハッキリできんだねェェェ!」
「違う!僕は皆を守る為に!僕に出来る事をする為に!」
レイの懸命な言葉がメイドに伝わる。が、メイドは彼の言葉をあざ笑った。
「結局似てんだよォ!正義のヒーローもどきの台詞とさァ!」
デスゲイズはビームサーベルを全て一度戻し、ツヴァイの胴体部を思い切り蹴りだした。その反動により、機体が大きく揺れる。
「うぅ!」
「どいつもこいつも頭固いアホばかりだぜェ!いい年してアイドルの追っかけして、ライブ会場に毎回顔出して、〝この子は処女だー処女だからこんな可愛い笑顔が出来るんだーああ、最高だー〟って抜かしてるキモオタと何ら変わんねェ!!!固定概念!〝こうでなけりゃならない!〟そんなのばっかだろ?アホ野郎!」
レイを罵るメイド。それに負けじと、レイも反撃する。
「貴方は遊びで人殺しをしてる!そんな人間と比べたら僕の方がまだまともだ!」
「おうおう言うようになったじゃねーの女顔のガキ!今まで子犬みてぇに怯えてただけだったのに!」
デスゲイズは再び有線式ビームサーベルを展開し、ツヴァイに迫る。その後、MAに変形し、デス・ランチャーを高出力で展開。ツヴァイはこれを間一髪回避する。
「人殺しながら金稼ぐ!んで遊びの繰り返し!それがクズの生き方ってことは一つの生き方しか知らねェてめぇみたいなガキに言われんでも分かってんだよアホが!」
「戦場で人を殺すのは当たり前……それは分かってる……けど貴方はそれに対する弔いとか、そんなものを一切感じない!悪意そのものしか感じない!」
「だから俺は悪役っつってんだろ!だから大人なんだよ!頭固いキモオタとか宗教とかてめぇみたいなヒーローもどきと違ってなァァ!」
メイドとレイの激論が続く。ツヴァイとデスゲイズ、互いに攻撃を加えながら。
「んで、頭固い正義のヒーローもどきは信頼している奴等とかに裏切られた時に掌を返す!さっき言ったキモオタは勝手に信じていたアイドルを叩き出し!信仰していた対象に対しては殺意を持ってそいつを抹消しようとする!結局それじゃあ悪役と変わんねーじゃえーかって話だぜ女顔のガキぃぃぃ!!!」
有線式ビームサーベルが次々に迫る中、ツヴァイはこれらを辛うじて回避し続ける。
「お前の信じているお上の連中が仮にお前を裏切るようなことしたらお前はどーいう行動に出るだろうなァ?もしそうなら見てみたーい!君は掌返しを平気でするフレンズなんだね多分なァ!」
「そんなのっ!!!」
ギュルルルルル
そこへ、ガーストのハイエッジカスタムが援護に入った。ビームニードルでデスゲイズに攻撃をし、二人の間に入る。
「他の奴を片付けた!レイ、援護する!」
「ガーストさん!ありがとうございます……」
レイはどこかしら、疲れているような表情を見せた。メイドの口論と攻撃を避け続けた弊害だろうか。
「ガースト・ピュアス!てめぇ前は兄者を侮辱しやがって!」
メイドの標的は今度はガーストに移った。ビームの防御をする術がないハイエッジカスタム。それを知っていたメイドはデスゲイズの前腕部の連装ビームキャノンを連射し、迫る。
これらを避けるガースト。その間、レイはデスゲイズに攻撃を仕掛けようとするが――
「増援!?」
「こいつを守ってんのかこいつら!?」
「残念だなぁお前ら!俺はデウスの要なんでなァ!!!」
最終決戦という事もあり、デウス残党軍がメイドを守る為に行動している。デスゲイズを守る為、多くのディエルMk-Ⅱがビームマシンガンやシュート・シューターを展開し、二機に迫る。数の多さに苦戦する彼等。他の部隊も交戦中の為、今は自分達だけでこの状況を打開する術を見付けるしかなかった。
アインスガンダムに乗って新生連邦と交戦しているスバキ。強力なビーム兵器を多数内蔵しているアインスで、一機ずつ確実に敵を減らしていく。
「はぁぁぁぁぁっ!」
接近してくる機体に対してはビームサーベルで迎撃、砲撃の相手にはシールド型拡散メガビーム砲を展開して攻撃する。
ピキィィィ
「この感じ……!前にも!?」
彼女の脳内で電流が流れた。自分に近い感覚を感じ取ったスバキはその方向を見る。
そこにいたのはアーヴァインだった。かつてエファンが搭乗していたMSであり、現在は特殊強化モデル、ダウーラ・ダギオンの駆るMSである。
「ハハハ……こいつぁ良い……あの時のガンダムがいる……!」
「前に戦った奴……あいつか!」
スバキはアーヴァインを見るなり、迎撃態勢に入った。一回り大型のMSであるアーヴァインに対し、攻撃を仕掛ける。
アインスガンダムはビームライフルを連射し、攻撃を加える。それを前腕部のバリアーフィールドジェネレーターでアーヴァインは防ぎ、アインスに対してメガビームライフルを放った。これに対し、アインスはシールドを構え、防いだ。次にビームサーベルを構え、両者は互いにビーム刃を展開し、鬩ぎ合う。
「ハッハッハッハッハ!俺は今最高にテンションが上がっている!この上無くな!ハハハ!」
「機体のでかさで圧倒される……?ク……!こんなのに……負けるかァァ!」
負けじとバーニアの出力を発揮させてアーヴァインに向かうスバキ。
「この位置……いい感じだな……!」
と、アーヴァインは実弾キャノンをアインスに向けて放ち始めた。すかさず、それに反応し、アインスは回避する。続いてフロントアーマーからビームキャノンを連射。アインスを破壊せんと、攻撃をし続ける。
「こんなのにっ!」
高出力のビームをシールドで防ぐ。全体にビームシールドを張り巡らした為、攻撃を防ぐ事が出来た。だが攻撃は止まる気配がない。シールドを一瞬でも外せばビームが直撃し、アインスガンダムは破壊されてしまうだろう。
(なんだよこいつの攻撃……!ゴリ押しとか……そんなもの超えてる……!)
「前は途中で終わったが!今度はいつまでも攻撃しておいてやるからなお前!フハハハハハハハハハ!」
狂人の如く、アインスに攻撃を加えるダウーラ。ビームキャノン以外にもメガビームライフルでアインスを攻め続ける。
「……く……クソォォォ!」
どうしても隙を見つけ、攻撃を加えたいスバキ。だがアーヴァインは無数のビーム砲撃でスバキを襲い続けた。まるで、先日の戦いの鬱憤を晴らすかの如く。
「ゴリ押しするんなら……ゴリ押しだァァァァ!」
その時、スバキはバーニアの操縦桿を思い切り引いた。たちまちアインスガンダムはシールドを構えたままその出力を上げ、アーヴァインに近付いていく。
「おい……死ぬ気か?」
「死なば諸共だァァァァァ!」
無数のビーム砲撃を、ビームシールドのみで防ぐアインス。危機を察知したダウーラはすぐに攻撃を中断し、一度後方へ下がった。しかし――
バシュゥゥゥゥ
今度は国連の部隊がダウーラに迫っていた。三機のハイエッジがアーヴァインを狙い、攻撃する。
「糞共がァ!うらぁぁぁぁぁ!」
バシュゥゥゥゥ
バシュゥゥゥゥ
バシュゥゥゥゥ
メガビームライフルを連射し、で三機の内のハイエッジの一機を狙い、それはコクピットを貫いて破壊された。特殊強化モデルゆえの思考展開がこのように機動性の高いMSをも破壊したのである。
「……ハッ!?」
国連軍の乱入。それはスバキとの戦いにおいて邪魔以外の何者でもなかったのだ。ハイエッジとの交戦でアインスの接近を許していたアーヴァイン。アインスのシールドはビームピッカーへと形を変化させており、そのまま胸部を狙っていた。
慌ててビームサーベルを構えるアーヴァイン。だがビーム刃が展開されようとした時だった。
ズバァァァァァ
ビームピッカーによる一撃が炸裂。アーヴァインのコクピットにそれは直撃したのである。アインスは、アーヴァインに致命傷を与える事に成功したのであった。
「あ……ぐがぁ……があああああッッッ!!!」
叫び声か雄叫びか分からぬ断末魔。それが、ダウーラ・ダギオンのこの世で最期の台詞となった。特殊強化モデルの完成型としてエファンの僕と化したダウーラ。完成型の特殊強化モデルであったものの、戦闘狂という性格において問題がある特殊強化モデルとしてリリースされ、今現在スバキと交戦した結果、彼は特殊強化モデルという人生に幕を下ろす形となった。
やがてアーヴァインは爆発を起し、この宙域に散った。スバキは苦境から、国連の横槍のお陰で強敵を打ち取ることに成功したのだ。
「はぁ……はぁ……チィィッ!」
しかしスバキの目はダウーラと交戦した時となんら変わらっていない。何せ、今襲ってきているのは国連軍だからである。アインスガンダムを撃墜せんと、ハイエッジは猛攻を続ける。
レイはメイドと交戦を続けていた。ガーストも加勢し、メイドと交戦をするが、デスゲイズを守らんとばかりに、周囲のディエルMk-Ⅱがビームマシンガンで攻撃を仕掛けてくる。
「数が多い……!」
「一度引くべきか……?」
余裕がなくなる彼等。しかし、そんな彼等を他所に、デスゲイズは容赦なく攻撃を加え続けた。有線式ビームサーベルは触手のようにうねり、レイ、ガーストの両者に迫る。
「死んじゃうよー?オラオラー!」
「くぅ……!」
間一髪避けるツヴァイ。コクピットまであと50センチ程という、際どい所までビームサーベルは迫っており、下手をすれば死は免れなかった。
「レイ!クソ、流石ヤバい野郎だ……攻撃に躊躇いがない……!」
「まるで、ゲームをしているプレイヤーみたいな攻撃だ……」
人殺しに悦楽を覚える男、メイド・ヘヴン。その異常性はその攻撃に著明に表れていた。
デスゲイズの攻撃は有線式ビームサーベルだけでない。それらを展開した状態のままデスゲイズはMAに変形し、プラズマ粒子を使用した砲撃で、二機に襲い掛かる。
ドオオオオオッ
出力は抑えられているものの、機体を破壊するには十分な破壊力を持つ、デス・ランチャーを、有線式ビームサーベルを展開したまま放出するという芸当を見せるメイド。そして、更にデスゲイズはそのビームサーベルを近くの隕石に突き刺し、質量による攻撃をも行うのだった。
ガキィン
と、当たったのは近くにいたハイエッジだ。デウス残党軍と交戦しようとしていた国連兵が、デスゲイズの攻撃の餌食となった。
「悪趣味な上に器用な攻撃ばっかりしやがって!メイド・ヘヴン!」
辛うじてデスゲイズの攻撃を避けるガースト。デスゲイズ一機の攻撃パターンが多すぎて、迂闊に攻撃を仕掛ける事がままならない。
「どうにかして隙を見つけなきゃ……」
ピピピピピピッ
その時だった。ツヴァイガンダムのコクピットのレーダーに、一つの反応が高速で近づいてくるのを、レイは確認した。無論それはレイだけでない。その場にいた者皆が反応したのだ。
ドオオオオオオッ
その時だった。急に強大な熱源が放たれたのは。高出力のそれは、近くにいたディエルMk-ⅡやゴルモンテMk-Ⅱを巻き込み、破壊した。そしてその熱源は更に加速し、やがてレイの前に現れる――
「このガンダム……!」
レイは見たもの、それは真紅の翼を生やした禍々しいガンダムタイプのMS、ヴェーチェルガンダムであった。
「あ……ははは……ハハハハハハハ……
あーっはっはっはっはっはっははははははははははははは!!!」
突如狂気の声を上げるのは、パイロットのフォリアだった。
「会いたかった!会いたかったのォ!レイ!あああああ!とっても会いたかった!」
そう言った時、ヴェーチェルはカメラアイを輝かせた。真紅に染まったカメラアイはまるで獲物を捉えたかの如く、ツヴァイを見る。そして、対艦サーベルを構え、素早い機動性で翻弄し、迫る。
「貴方のぉぉ!貴方の身体が欲しぃぃぃぃぃぃ!!!」
「くぁっ!?」
急な攻撃に躊躇うレイ。そこへ有線式ビームサーベルがヴェーチェルに向けて放たれるのだが、前腕部のビームブレイドでそれらを弾く。
「邪魔なのよォォ!こんな触手モドキじゃ私の想いは打ち砕けないぃぃ!!!」
言葉が明らかにおかしいフォリア。その様子を見て、メイドも違和感を覚えた。
「こいつ明らかにやべーやつじゃねぇか!一旦下がるしかねぇな……」
すると、デスゲイズはMAに変形し、有線式ビームサーベルを全て元に戻し、この場から去った。ヴェーチェルガンダムの奇行を見て、一度様子を見る為に撤退したのだ。
「邪魔は消えたわぁぁぁ!レイィ!愛してるの!愛してるのよぉぉぉ!」
「フォリアさん……!おかしい……おかしいです!」
対艦サーベルをこれでもかと言わんばかりに振り回すヴェーチェル。ツヴァイはメガビームセイバーを展開し、これに応じる。だが出力は対艦サーベルの方が圧倒的に上。近距離では明らかに不利である。
「貴方がぁぁぁぁぁ!貴方が私を狂わせたの!あはははは!狂ってるわ私!貴方に!」
「この人……!」
コクピット越しで分かる、彼女の異常性。以前から彼女はレイに対して異常な愛情を見せる場面はあったが、今回は明らかにその上を行っている。
「貴方が欲しぃのォ!その可愛らしい顔!綺麗な髪!澄んだ眼!柔らかい唇!しなやかな手足!柔なようでたくましいお尻!そして男の象徴、ペニス!!!全て!全てなの!貴方の全てが欲しいのぉぉぉぉぉ!全力で抱き締めて!そして殺してあげるぅぅ!!!」
対艦サーベルで切り刻もうとする戦法なのか……と彼は考え、隙を見て離れる手段を考えたのだが、彼の予想は大きく外れる事となる。
シュンッ
「えっ!?」
すると、ヴェーチェルは対艦サーベルを一度収納し、今度は両前腕部のビームブレイドを展開し、再びツヴァイに襲い掛かった。
「お願いレイぃぃぃ!死んで頂戴!そして私も、私も死ぬの!」
「狂ってる……狂ってますよ!フォリアさん!」
「そうなのぉ!私は狂ってる!狂ってるのぉぉぉ!アーッハハハハハ!可愛いレイ!私を罵倒して!その可愛くて綺麗な声で私を罵倒するのよぉぉぉぉぉぉ!」
もはや、言葉に一貫性がない。唯一の肉親を失った彼女はレイに対してその愛を注ごうとしていた。しかしその愛は明らかに歪んでおり、レイ自身も脅威に感じていた。
「貴方しかいないの!もう私には貴方しかいないぃぃ!リンセが死んで私には貴方しかいないィィィィィ!」
ガキィィィン
と、レイは油断をしてしまったのか、ヴェーチェルガンダムに付け入る隙を与えてしまった。
やがて、ヴェーチェルガンダムはツヴァイガンダムを思い切り抱き締める形で胴体に前腕を絡ませるような恰好をとる。そして、そのままバーニアの出力を上げて近くの小惑星まで向かった。
「こ、このっ!」
急な行動で、躊躇うレイ。ブリッツファンネルを使おうにも、ヴェーチェルにバックパックも抑えられている為、展開が出来ない。
やがて近くの小惑星に二機は到着する。ヴェーチェルは両翼でツヴァイを覆うような恰好をとり、フォリアは口を開けた。
「コクピットを開けなさい……レイ!早く!」
「嫌……です!」
「何故ェ!?」
「普通は……開けませんよ!」
「どうしてもぉ!?」
ガキィン
「あうううううッ!」
レイの悲鳴がコクピット内に響いた。というのも、ヴェーチェルがツヴァイのコクピットを思い切り蹴った為である。頑丈な設計であるため、物理的に簡単に破壊はされなかったがその衝撃でレイは腹部に痛みを感じた。
ウィィィィン
「あ……しまっ――」
その衝撃で、不幸にもツヴァイのコクピットは開かれてしまった。当然フォリアはそれを見逃すはずもなく――
クイッ
パイロットスーツを着ていた彼女はすぐにツヴァイのコクピットに乗り込んだ。そしてすぐに彼女はコクピットを閉じる。
密室の中、密着する両者。フォリアはレイの首を絞めんとばかりに、両手の力を強めた。
「あの時もこんな感じだったわねぇぇぇ!ダーウィンでぇぇぇぇ!」
「あ……くぁぁぁ……!」
相手の侵入を許してしまったレイ。その上彼女は直に殺そうとしてくる。その力は明らかに普通ではなかった。
何とかしなければ自分が殺される。この戦場で、ここで死ぬ訳には行かないと考えたレイは少しずつ薄れゆく意識の中、対処法を考えた。
「こうして貴方の首を絞めて!苦しんでもがく姿はとても可愛くて可愛くて!最高なのよ貴方は!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!もう、ばらばらにしてあげるんだからァァァァァァ!」
と、フォリアは持参していたコンバットナイフをレイの首に向けて振りかざそうとした時だった――
パァンッ
パァンッ
パァンッ
「ァ――」
フォリアのヘルメットは真紅に染まった。やがて彼女の目は上を向き、口を開いたまま動かなくなる。レイに対して行われていた首を絞める為の腕の力も抜けていき、やがてぐったりと動かなくなった。
「はぁ……こうしか……なかったんだ……」
彼は、初めて銃で人を殺した。その感触は、MSで敵を倒した時とは比べ物にならないぐらい、奇妙で、不快な感触だった。その相手こそ、彼を今までMS乗りとして駆り立てた張本人、チェーニ姉妹の姉、フォリア・チェーニだった。
そして、何も動かなくなったヴェーチェルガンダムを、レイはツヴァイを駆り、メガビームセイバーで切り刻んだのだ。そのまま爆発するヴェーチェルガンダム。ここに、長きに渡る両者の因縁が幕を閉じたのである。最期は、ただ狂っただけのフォリア。自身を守る為にレイは、彼女を銃殺した。そうしなければ自分が殺されていたからだ。
チェーニ姉妹の上官にあたる、フーク・カズロブはフォリアの駆っていたヴェーチェルガンダムの反応が消えたことに気付いた。彼は今までの失敗の蓄積により、戦艦ですらもリューチェ級という、新生連邦の量産型戦艦の艦長を任される程度の評価を受けてしまっていた。
「ヴェーチェルガンダムの反応が消えた……?チ、妹が死んだから様子がおかしいとは思っていたが、こうもあっさりと死ぬとは不甲斐ない奴等だ。」
やはり、部下を冷徹に切り捨てるフーク。彼の言動に対し、反感を抱く人間も多い。
「さて、我々はこのままエレシュキガルに向けて後退だ。主力がやられた以上、防衛に徹するとしよう。」
部下を切り捨て、独自の判断で艦をエレシュキガルに向かわせるフーク。しかし、苦もない様子の彼とは違い、周りの士官や操舵士、オペレーター等の表情はそれとは大きく対照的だったのだ。
「か、艦長……!」
「なんだ……え――」
そこにいたのはアレンの駆る、ブライティスガンダムだった。ビームライフルの銃口をリューチェ級のブリッジに向け、そして躊躇いもなくビームを放ったのだ。
「うおおおおおおおおっ!!!」
呆気なく、フーク・カズロブという男は宇宙の藻屑となり果てた。
今までリノアス・クリストルを巨大兵器に乗せ、事ある毎に彼女を強化し続け、戦闘兵器として使い続けた男、フーク・カズロブ。信頼する人間は使えないと判断すれば容易に切り捨て、常に自己保身ばかり考えていた男。部下の信頼など得られずはずがないこの男の、あまりに惨めな最期だった。
アレンは別に、この艦を指揮していたのがフーク・カズロブだったからビームを撃ったわけではない。撃たなければ撃たれる戦場であったが為、彼は躊躇いなく引き金を引いたのだ。
ただ、その中身が偶然にも、本来心優しい少女を破壊兵器に変えた男だったという事だけであったのだ。
ツヴァイのコクピット内にて。そこにはパイロットのレイと、彼が殺した、フォリア・チェーニの遺体があった。自らの手でフォリアを殺害したレイ。今までのレイならばこの状況に悲しむ所だっただろうが、今の彼は不思議と、人を殺してしまったという罪悪感を抱かない。彼自身、何も感じなくなっている自分自身が怖いという感情はあった。しかし、今はそれらを考える余裕など、無いのであった。
「この人……いや、この人達とは色々な事があったけれど……せめて……」
妹のリンセは暴走したブライティスの翼に切り裂かれ、死んだ。それにより狂った姉、フォリアは愛おしいと言っていたレイの手により、殺された。ある意味、レイの人生を大きく変えた姉妹。彼女たちの存在が無ければ、彼はここに立っていなかったのかも知れない。
ウィィィィン
と、彼はコクピットを開いた。そして、両手に抱えていたフォリア・チェーニの遺体をそのまま宇宙に放った。
何も喋らず、ただひたすらにレイを求めたフォリアだった〝モノ〟は、物の数分もしない内にレイの前から姿を消した。この時、レイは何の感情も抱く様子を見せなかった。
「……行こう、ここで立ち止まっていられない……」
そう言って、レイは再びツヴァイガンダムを起動させようとした―
バシュゥゥゥ
と、レーダーに映る三機の機影。デウス軍のディエルMk-Ⅱがビームディエルマシンガンでツヴァイに襲い掛かる。連携すれば勝機があると思ったのだろう。それぞれが特殊な軌道を描き、攻撃を加え続けていた。
急いでビームディフェンスシールドで防ぐレイ。しかし多方向からのビームは防ぎきれない為、ブリッツファンネルを展開してバリアーフィールドを展開し、防いだ。
「デウスの敵、ガンダム!堕ちろ――」
戦争は彼に死者を弔う時間すら与えない。油断をすればやられる環境で、彼はデウス残党の攻撃に対し、レイは反撃を加えようとしていた。
ドォォォォォッ
そこへ無数のビーム砲撃が一斉にディエルMk-Ⅱを消滅させた。レイは急いで識別信号を確認。だがそれは味方の物でないと分かった時、彼の表情は険しくなる。
「このMS……間違いない……」
レイは確信した。一瞬で三機のディエルMk-Ⅱを撃破したMSのパイロットの存在を。直接見なくても分かる、異常なプレッシャー。それは彼が力を持つ人間であるが故に分かる、異常な重圧。その重圧が、今レイに襲い掛かろうとしている。
「生き残っていたか、レイ・キレス……」
怪しげに輝くカメラアイ。その眼はツヴァイを怪しく捉え、離さない。
漆黒のMS、カタストゥリア。単体で国連、デウス残党の艦隊に打撃を与えた驚異のMS。ツヴァイを見つけたと同時にそれは牙を剥いた。両指間腔のビームクローをすぐに展開し、有線で繋がれた手部をツヴァイに向かわせる。レイはバスタービームライフルで応戦するも、バリアーフィールドで守られているそれにダメージは通らない。
「ならっ!」
再びツヴァイはブリッツファンネルを展開し、カタストゥリアに向かわせた。ビーム刃を展開し、破壊しようと攻撃する。
「フフ……」
だが余裕を見せるエファン。レイは違和感を覚えた。
「ファンネル!?」
すると、カタストゥリアもブリッツファンネルを展開し、ツヴァイの物と同様、ビーム刃を展開した。そして、あろうことかそれらを使い、わざと打ち合いを行い始めたのだ。
「力比べという訳だ。サイコミュ兵器を使う者同士の。忌むべき、ニア・アドバンスドタイプであるレイ・キレスよ!」
ツヴァイと、カタストゥリアのブリッツファンネル。両者のパワーの差は歴然だ。次第にツヴァイはパワーに押され、ファンネルが負けそうになる。
「くぅぅっ!」
このままでは負けると判断したレイは、一度ファンネルを回収した。そして、接近戦を試みようとメガビームセイバーを展開する。
「戦争に於いて力を持つ存在は潤滑油でしかない!それを分かっているのか!レイ・キレス!!!」
荒げる口調でレイを恫喝するエファン。しかし、レイも負けじと反論する。
「違う!ただ力を持ったからと言って貴方に殺される理由なんてない!それが戦争を肥大化させるとか、そんな理由なんて貴方が勝手に決め付けているだけだ!!」
「違うな!事実だ!シンギュラルタイプ、アドバンスドタイプが居たからこそ、人間は自らの文明の発展を遮るような愚かな真似!戦争を拡大してきたことは歴史が何より証明している!」
「そう言って戦争に加担している貴方がそれを言うなんて!戦争を望んでいない人が喜んで戦争に加わるもんか!貴方は戦争を楽しんでいる!戦争を楽しんで人を殺して……人が死んでいくのを心から喜んでいる!だから……」
それは、先程のファンネルの打ち合いを意味していた。
「だから……さっきみたいな馬鹿にしたような攻撃が出来るんでしょう!?本気で殺す気なら徹底的に僕を殺す筈なのに!今までだって……今までだってそうだ……!」
彼はエファンに対し感情を露にした。今まで彼により、悪夢を見せ続けられたこと、死の恐怖を植え付けられたこと。しかし今は彼に恐怖などない。あるのはエファンに対する怒りのみ。
「小さかった頃の僕を殺すことだって出来たんだ!力を持つ人間が貴方の言う、〝脅威〟であるなら!でも違う!貴方はあえて僕を殺さなかった!それは僕の成長を待つという、試すような事をしたからだ!あんな、何度も悪夢を見せるような事をして!」
悪夢に対する怒りを、エファンにぶつける。レイの、精一杯の反論だ。
今までのレイならばエファンを見ただけでプレッシャーに襲われ、恐怖していただろう。しかし、彼は今、エファンに怒りをぶつけている。許せないとさえ、感じているのだ。
「貴方は結局、人を馬鹿にしているだけだ!自分が特別にEVEシステムによって生み出された、優秀な存在だから!だから見下して、馬鹿にしている!馬鹿にしていなきゃこんな事が出来るもんか!」
だがレイの言葉を聞いた瞬間、突如エファンの駆るカタストゥリアはビームクローの出力を弱めた。
「……お前は、大きな勘違いをしているな。」
「勘違い……?」
やがてカタストゥリアは棒立ちのような状態になった。不気味さを感じる今のエファンの行動に、レイ自身は怒りを失い、緊張が走る。
「私は優秀だからそれ以外の人間を見下している?違うな、私は人類を尊重しているのだよ。」
まさかと思われた、エファンから出た言葉。今まで戦争に加担し、力を持つ人間を殺す事を目的に暗躍していた男から出た衝撃の言葉。当然ながら、レイは困惑する。
「人類は四百万年前以上の祖先、アウストラロピテクスの時代から様々な美しい文化、文明を作り上げてきた。いずれもが本当に、息を飲むような芸術達だった。時を超えて文明が開かれ、国が作られ、社会が生まれていった。その中で人類は多くの物を作り出していった……」
そのように、人類について語るエファンは、今までに無い程に高揚しているように見えた。
「人同士から生まれた人類はその生涯の中で様々な事を学び、歴史を学んでいく。ある人は新しい流行を作り、そこから様々な芸術が生み出される。そして、より良い芸術、文化が生まれ続け、人は発展していった。その究極の形がコロニー。増えた人間を宇宙という環境で適応するために生まれたモノ……」
「何を言って……」
エファンの言葉はレイを惑わせる。かつて無い程に高揚するエファン。まるで、自分の夢を語る純真無垢な少年のように。
「地球以外に住む環境を変え、新たな新天地で暮らしていき、平穏な日々を送る筈だった人類……しかし人は愚かであった。結局、有史以来の争いは避けられないモノなのか……戦争は人類の遺産を悉く破壊していき、ついには文明をも滅ぼしかねない兵器を作り出してしまった。それは通称叡智の炎と呼ばれるものだ……」
今度はネガティブな発言が目立つようになった。
「それって、核兵器……ですか?」
「そうだ。旧世紀の時点で人は世界を、自分達を滅ぼす術を既に持っていた。しかしそれでも人は滅びなかった。やがて争いの兵器はMSという形となり、今、こうして我々が対峙する形となったという訳だ。」
人の作り出した文化、文明に希望を抱く一方、戦争という負の面に絶望を抱くエファン。今まで自分の事を語らなかった男が、この戦いの中で初めて自身の本音を語ったのだ。
「数多の人はそれぞれの人生を生きている。そして、それらは一人ずつ“何か”を生み出してきた。芸術や建造物……人や動物を治療する事……大衆に対し自身の訴え、音楽、そして映画を見せ、感動を与える事。そこに加えるものが経済。それらが全て組み合わされ、人という生き物は社会性をもって成り立ってきた。人類はそうやって発展してきたのだ。」
エファン・ドゥーリアという男は本気で人を好きなのだろうか。語っている時の彼の顔は明らかに意気揚々としていて、純粋に嬉しさを感じているようだった。
(違和感がある……この人が嬉しさを感じているなんて……)
レイは気味が悪いと感じた。エファンから感じられるプレッシャーと裏腹、語っている内容のポジティブな様子に対して。
「人の普段見られない表情を見られるのは貴重だぞ、レイ・キレス。増して、敵同士である我々がそのような会話を戦場でするなど普通ではありえない事だ。何故だろうな?お前は殺さなければならない存在の筈なのに、何故私は高揚しているのだろうな!?やはり、お前は特別なのだな!レイ・キレス!」
(駄目だ、この人のペースに飲まれては行けない……!)
レイは危険を察知した。このままではエファンに飲まれてしまう。この男の話を今、まともに聞こうとする事……それは死に直結すると感じたのだ。
「ほぅ、懸命だな」
レイの思考を見抜いたエファンはすぐにカタストゥリアの左右の指間腔からビームクローを展開し、ツヴァイガンダムに襲い掛かった。レイもこれに対し、メガビームセイバーを展開し、攻撃を仕掛ける。
「お前も以前より成長しているという事か。やはり、お前は……!」
「最初から僕を殺そうとしている人の言葉なんかに耳を傾けてたまるもんか!!」
「その通りだな。事実だ。お前自身がオールドタイプでさえいれば良かったものを!」
力を持つ人間、シンギュラルタイプ、アドバンスドタイプを優先的に抹殺せんと暗躍してきたエファン。この戦場においてもそれは変わらず、彼は力を持つ特別な人間を殺めんとせんと、カタストゥリアの漆黒の巨体を動かす。
「そして、人は戦争の道具を使って古来より戦争を続けてきた!戦争は人にとって一番あってはならない愚かな行為!!増して、只の民間人であった筈のお前がこうして戦っているのだから!」
「貴方がそうさせたんでしょう!僕に悪夢を見せて……何度も夢で殺して!」
エファンの見せた、悪夢。それはレイに恐怖を与え続けた。だがそれも、今は彼の怒りを引き出すのに十分と言えた。
「やはりお前は面白い存在だよ!出来る事なら話をしていたい気さえある!だが、それに関心を抱いていては私の目的は果たせない!!力を持つ存在は放置してはいけない!やはり、シンギュラルタイプ、アドバンスドタイプ等はこの世界に存在しては行けない……新たなる戦争の引き金となる存在だ!」
今度はエファンからは激しい憎悪の言葉が浮かんできた。どこか、矛盾している様子の男の言葉。
しかし、そう言い放ちながらも、カタストゥリアはブリッツファンネルを十基、ツヴァイガンダムに向けて攻撃する。
「こんなのっ!!!」
レイはこれらの攻撃に対して反応した。ブリッツファンネルから放たれるビームはツヴァイのファンネルに搭載しているバリアーフィールドが弾いてくれる。その為、彼は大きく焦る様子を見せないで対応出来た。
「レイ!!!」
と、そこへ駆け付けたのはブライティスガンダムだ。アレンがレイとエファンの気配を感じ、この戦闘宙域に介入したのだ。
そして、ブライティスは一斉にブリッツファンネルとブラスターファンネルを展開。カタストゥリアに直接攻撃を与えようとするが、バリアーフィールドで弾かれてしまう。
「クッ!」
ダメージが与えられない事にやや苛立ちを見せるアレン。そしてエファンはアレンの姿を見て、ニヤリと笑みを浮かべた。
「ここにもう一人アドバンスドタイプが来た。これ程私にとって都合の良い状況はない。」
力を持つ人間を殺す為に暗躍するエファン。しかし相手はアレンとレイ。いずれもガンダムタイプに乗っている。普通の状況ならば強敵が現れたと感じる場面であろうが、エファンにとってそれは違ったのだ。
「アレンさん!」
「こいつは一人では危険だ!協力して倒すぞ!」
「は、はい!」
アレンは自分からレイに協力を要請した。宇宙に上がった時にレイがアレンに声を掛けた時との違いがここで現れたのだ。
「戦争の象徴、ガンダムタイプが二機……か。」
すると、カタストゥリアは再び指間腔ビームクローを展開した。それだけではない。ブリッツファンネルも展開し、ビームクローは共鳴するかのように肥大化し、巨大な爪へと変貌を遂げた。
「来るっ!」
すぐにこの攻撃を感知したアレンはこれを回避。レイも同様に回避する。
「ビームが効かないんじゃ……接近するしか……!」
カタストゥリアの堅牢な装甲に、全身に搭載されているバリアーフィールド。ビームライフル等の砲撃は一切通用しないこのMSを倒すには、直接的な打撃を与えるか、ビーム刃による熱量の攻撃しかない。レイはどうにかして、この魔物とも呼べるMSに立ち向かうべく挑む。
しかしレイのその行動を、アレンが止めた。
「やめろ!死ぬだけだ!ブリッツファンネルを使ってビームを刃にすれば……!」
「そうか!それなら……!」
アレンの提案にレイは乗った。そして両者は眼を閉じ、再びブリッツファンネルを展開した。
ツヴァイの十八基とブライティスの十基のファンネル。合計二十八基。これに対するカタストゥリアのブリッツファンネルは合計二十四基。数では勝っているが、それらがどのような動きをするかは全く読めない。
バヂィィィィィィィィッ
それぞれのブリッツファンネルがビーム刃を展開し、弾け合う。ビーム刃の出力は互角といったところか。しかしファンネルのサイズによっては出力に圧倒的な差がある。
「戦争の象徴、ガンダムタイプめ!」
そう言った後、エファンはレイを標的とし、有線式の手部を展開。そしてツヴァイガンダムの後方に回り込んだ。そこからビームキャノンを展開する。ツヴァイには全体にバリアーフィールドを無いことを分かった上での攻撃だ。
「後ろから!」
モニターに映る前からレイはこの攻撃に反応し、避ける。高出力のそれをバリアーフィールド無しで防ぐことは出来ない。直撃は死を意味する。
「ほう、流石は力を持つ存在……」
エファンは余裕の笑みを見せる。そして、次のターゲットはアレンだ。
「クッ!」
ブライティスはビームライフルをカタストゥリアの分離した手部に向けて放つ。しかし手部にも展開されているバリアーフィールドジェネレーターはビーム攻撃など一切受け付けない。
「やはりあのケーブルを切断するしか……!」
カタストゥリアの猛攻を少しでも防ぐ為、ケーブルに対して攻撃を仕掛けようとするアレン。
ピピピピピッ
「高速で迫る機体……?」
その宙域に、二機のMSが迫っていた。いずれも機動性は高い。
ドオオオオオッ
更に、ブライティスに向けて高出力のビームが展開された。急いで回避を行うアレン。
ガキィン
もう一機のMSは実体のクローを展開した。それは、レイの駆るツヴァイに向けて襲い掛かる。
レイはこの攻撃を回避。それと同時に一度ファンネルを機体に戻した。この二機の出現により、カタストゥリアのブリッツファンネルによる攻撃が止まった為である。
「このMSは……」
「こいつは……」
アレンとレイ。それぞれに襲い掛かったMS。それは彼等が互いに知る者同士だった。
「ほう、これは……」
まるでこのタイミングを待っていたかのように、エファンは去った。そして、ツヴァイとブライティスに追い掛けさせる暇もなく、この宙域に現れた二機のパイロットが語った。
「見つけましたよ、アレン」
「遂に見つけたぞレイィィィ!」
ガンダムオラトリオのパイロット、新生連邦総司令、レヴィー・ダイル。ディブロスのパイロット、クラリス・デイル。いずれもがエファンが開発したMSを駆り、アレンとレイの両者の前に立ち塞がった。そして、それぞれに対して容赦のない攻撃を繰り広げ、戦力は分散させられてしまった。
まず、レイはクラリスと戦う事となった。エファンが開発したMSであるディブロス。それは通常のMSと比較しても巨大であり、その上武装も豊富である。
「お前が!お前さえいなければ!!!お前が俺の全てを奪った!絶対許さねぇ!!!」
ディブロスはクローからビームを延々と放出する。その上、小型のファンネルを展開し、ツヴァイを追い込む。
「クラリスさん!貴方は勘違いしています!!」
「何をほざきやがる!?黙れ黙れ黙れェェェ!」
まるで錯乱している様子のクラリス。強化されたが故に、感情のコントロールが出来なくなっているのだろうか。
(駄目だ、もうこの人は以前のクラリスさんじゃない……こんなに、ファンネルを使いこなしている時点で、恐らく……)
レイは悲しくなった。これもまた、戦争が引き起こした悲劇なのだろうか。両者は度々衝突はしていたがクラリスはレイに対し、これ程の憎悪を向けることは無かった。レイ自身、謂れのない憎悪だ。
激しい攻撃がレイを襲う。エファン・ドゥーリアが開発したディブロスは圧倒的な武装数でレイを翻弄する。両腕部のクローからのビームや小型のミサイル、シールドに搭載されているビーム、そして腹部のプラズマカノン。数多の兵器がツヴァイに襲い掛かる。回避し切れないビームはバリアーフィールドで防ぐ。しかしプラズマ兵器は防ぐことが出来ない。
「ダ……メだ……激しすぎる……!」
「このままくたばっちまえ!そしてアユやリン!お袋に詫びて死ね!」
「その人達は……僕は知らない……!」
当然レイからすればアユ・ヒースト、リン・ヒースト等知らない。だがクラリスは彼女らの命を奪ったのはレイだと言って聞かない。
完全に暴走しているクラリス。全く関係のないレイに対し、その怒りをただ、ぶつけるだけ。そこに理由はない。クラリスは、レイを憎んでいる。それだけなのだ。
ドオオオオオッ
そこへ一筋のビームが介入した。そこにあったのはアインスガンダムが構えているシールドだ。そのシールドから拡散ビームが展開されたのだ。アインスガンダムということは、パイロットはスバキだ。スバキが助太刀に来たのだ。
「スバキ!」
「大丈夫か、レイ!?援護するぞ――」
危機的状況だったレイをスバキが助けようとした時だった。
ガキィィィン
「うあああああああ!」
ディブロスはアインスガンダムを見抜いていたのか、脚部の大型クローをアインスの腹部にめり込ませたのだ。それにより、身動きが一切取れなくなるスバキ。
「スバキ!!」
レイはスバキを助け出そうとした時だった。ディブロスのクローに対してバスタービームライフルを構える。だが、クラリスはレイに対し、言った。
「この際だ!お前に見せ付けてやる!俺が味わった苦しみを!!このガンダムのパイロットを目の前で砕いてやるんだよぉ!」
そう言いながら、ディブロスのクローの出力を徐々に高める。アインスのコクピットはクローにより、徐々にそのスペースを無くしていく。隙間が無くなる事。それはつまり、スバキの圧死を意味する。
「やめて下さい!」
レイは決死の思いでクラリスに言った。だがクラリスは一切容赦する様子を見せない。
「黙りやがれ!あいつらやお袋は何も言わずに死んだんだぞ!俺の目の前でお前に殺された!お前も味わえ!俺の苦しみ!悲しみを!!!」
「あ……ぐぁ……ぁ……」
スバキの命は風前の灯だ。声にならない声を出し、苦しい声を出し続ける。
「レ……イ……」
「スバキ……?」
スバキは辛うじて腕を動かし、レイに対して回線を開いた。モニター越しに、レイと会話をするスバキ。
そこにいたのは口から血液を吐き、パイロットスーツが自身の血液にまみれてしまっていたスバキの姿だ。ディブロスのクローがスバキの肢体を貫いていた。
「そんな……スバキ!スバキ!!」
レイの声が響く。そして、その反応を楽しむかのようにディブロスのクローの出力を徐々に高めるクラリス。
「あ……ああああああ……!グ……ア……レ……イ……」
その声は少しずつ小さくなる。あまりに惨い光景を見せつけられるレイ。
「もう……やめて……やめてぇ……!止めて下さい……!」
レイは涙を流した。彼をこのような場所に身を差し出すきっかけとなった存在である筈のクラリスに懇願したのだ。スバキを苦しませないで欲しいと、精一杯の願いだった。
「き……聞いて……わ……た……し……レイの……こ……と……」
グシャッ
レイの目の前が真っ赤に染まった。“スバキだったモノ”はその原型を留めることなく、鉄爪によって崩壊した。そしてモニターにノイズが生じ、映らなくなった。
アインスガンダムはスバキと共に、死んだのだ。クラリス・デイルによる躊躇いもない攻撃によって。
「お前に見せたかったんだよォ!これが死ぬって事だ!お前が俺に見せた!!!」
「あ……あ……あ……」
レイは錯乱した……と、同時に、彼は震えた。心の奥が、抉られたような感触に陥った。
スバキ・シンドウ。日本で傷付いていたレイを助け、同時に彼女もレイに助けられた。そこからセイントバードチームと同行し、多くの敵と戦った。それと同時に絆を深め合った。
スバキはレイに恋をしていた。しかしレイに対して不器用に接していた。その結果、レイにリルムという恋人が出来た。それは彼女にとって悲劇だった。それでもスバキは一緒に時を過ごしたリルムに嫉妬することは無かった。寧ろ、優しく接した。友達として。
彼女自身、母親を亡くしている。そのような過去があるにも関わらず、他者に対しては積極的に仲良くなろうとしていた。そこがスバキの魅力でもあった。しかし恋に関しては不器用だった。結局スバキは最期の時までレイに率直な思いを伝える事が出来なかった。ディブロスに潰される間際に、スバキは精一杯の気持ちをレイに伝えたのだ。
「スバキ……?」
『レイ……』
スバキが死んだ時。いつの間にか、彼らは白い光に満ちた空間にいた。戦場であるにも関わらず、そこは時間が止まっているようだった。
互いに裸の姿で、対話をしている。すでにいないはずのスバキが、レイの前にいる。精神世界のようなものだろうか。彼自身、これは初めて味わう感触だった。
『ここなら思いっきりお前に打ち明けられるな。最期にお前に言いたかったんだ。好きだって事をさ。』
「スバキ……嫌だよ……死ぬなんて嫌だ!」
ディブロスに潰された一瞬しか分からなかったレイにとって、今の現状は受け入れられるはずがなかった。
『何甘えたこと言ってんのさ。私は死んだ。けど、最期に想いを伝えられた。それでいい。』
「ありがとう……本当に、ありがとう……けど……!」
何も出来ずに死んでいくスバキ。この精神世界で、レイへの想いをようやく伝えられたスバキの表情は、現実のスバキと違い、美しい笑顔だった。
「お前は生きるんだ……リルムが待ってるんだろ?必ず生きて、そして……」
スバキの姿は光の粒子となり、やがて消えていった。レイはこの世界で何も出来ないまま、ただ、涙を流すしかできなかった。
スバキを葬った後、再びレイに襲い掛かるクラリス。ディブロスのクローがツヴァイに迫った。
「今度はお前だレイィィィ!!」
クラリスの怒りの声がレイに聞こえてきた。その声に対し、レイの中の内なる“何か”が蠢いた。
――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――
レイの眼は、深紅に染まった。その眼の先に映るのは、ディブロスだ。
ズバァァァ
その時だ。ツヴァイはメガビームセイバーをクローに突き刺した。一撃でそれは破壊され、跡形もなくなった。
「早い……?それになんだこの感じは……?」
レイに対して怒りを見せていたクラリス。しかし今はどうだろうか。先程と状況が一転した。レイから発せられる異常なプレッシャー。クラリスは怒りを失い、今度は焦る様子を見せた。
(こいつから発せられる感覚はなんだ……?俺がこいつを恐れてるだと……?)
クラリスは、レイに対し始めて恐怖を感じた。今までの戦闘に於いても感じなかった、怒り。
レイは何も言葉を発していないが、異常な怒りがクラリスを包む。
「く、糞がァァァ!」
ディブロスは複数のビームをツヴァイに向けた。クローから発するビーム、ファンネルから
展開されるビーム。これら、全てがツヴァイに向けられる。
だが、ツヴァイは一切避けようとしない。寧ろ、防ぐ気でいた。ツヴァイは両手を展開し、ビーム砲撃を全て受け止めた。ディブロスのブリッツファンネルによるビーム刃も、ツヴァイがブリッツファンネルを展開する事で阻止出来た。圧倒的火力を見せるMS、ディブロスの弱点。それはカタストゥリアと違い、バリアーフィールドを展開することが出来ない事だった。
「な……ク、クソ……!」
まるで刃が立たないと感じたクラリスは一度その場から撤退する為、ディブロスを後退しようとしたのだが……
「何だと……?」
「……!!!」
静かに、クラリスに対して怒りを込めるレイ。いつしか、彼の駆るツヴァイはブリッツファンネル計十八基をまるで螺旋状に展開し、やがてそれら一つ一つがビーム刃を展開。全てが共鳴した。
それは巨大な円錐型を描いた。超大型の、ビームピッカーである。
「ふ、ふざけんな……!こんな……兵器が……!?」
ブリッツファンネル同士の共鳴による攻撃。そして、レイ自身の怒りがその出力を更に上げる。そのサイズは戦艦クラスに匹敵する。これ程大型のビーム刃を避ける事はまず出来ないと考えたクラリスは、更に機動を上げ、逃げる。しかしツヴァイはそれを追いかける。
「スバキは死んだ……あんな死に方をした!!!」
深紅の眼をしたレイは、泣いていた。怒りに震えるレイは、全力でディブロスを消すまいと、螺旋を描いたブリッツファンネルをディブロスに向かわせる。
「死ななきゃならないのは……お前だ!!!」
逃げるディブロスに、追うツヴァイ。だがディブロスの機動性ではツヴァイに追いつくのは時間の問題だった。大型のビームピッカーを防ぐ術など、クラリスにあろうはずが無かった。
「ぐ……あああああああ!!!」
やがてその巨大なビーム刃はディブロスの胴体を背部から貫いた。ビーム刃の光に包まれるディブロス。光の中で、その形状を崩壊させていく――
「俺は……何を――」
それが、クラリス・デイルの断末魔だった。その時の彼の表情は、憎しみに満ちておらず、まるで以前のクラリスのようだった。
クラリス・デイル。新生連邦軍中尉。レイとの因縁が深い男。レイがこの戦場に駆るきっかけとなった男。レイとは幾度も交戦してきたが、それぞれが憎しみ合う事はなかった。戦場で出てきた敵同士。それだけの存在であった。その筈だったのだが……
クラリスは変わってしまった。きっかけは母親の死、そして、彼を慕う姉妹、アユ・ヒーストとリン・ヒーストの死。それにより、彼はエファンに唆され、強化モデルとなった。力を得た彼は代わりに感情のコントロールが出来ない戦闘マシーンへと変貌した。更に、エファンによって記憶を改変され、レイが自分の大切な人を殺したという記憶にすり替えられた。
結果、彼は敵と思い込んでいたレイの仲間であるスバキ・シンドウを惨い方法で殺し、レイの怒りを買った。その結果、彼はレイに殺される末路を迎えた。
敵同士ではあったが、憎しみ合う事のなかった者同士の結末はあまりに救いがないものと言えた。大切な人達を殺されたと思い込んでしまったクラリスと、実際に仲間だった人を殺されたレイ。互いに怒り合い、結果はレイが勝利を収めた。
死の間際、クラリスは何を思ったのだろう。誰も思う人がいない彼を、誰が悲しむのだろう。分からないまま、この戦争は続く。
アレンは総司令、レヴィー・ダイルと交戦していた。デウス動乱時代は仲間同士だった彼等。今回の戦争では幾度も対立し、戦ってきた。
アレンはブライティスガンダム、レヴィーはガンダムオラトリオ。それぞれのガンダムタイプが激突し、交戦する。
「レヴィー!」
「ようやく会えましたね、アレン!!」
オラトリオの水色のデュアルアイが輝く。そして、アレンのブライティスガンダムに襲い掛かる。大型の実体ブレードに搭載されているビーム刃を展開し、迫る。
「こんな戦争を続けて何の意味がある!?」
ブライティスもビームセイバーを展開。互いに打ち合いを行った。
「以前の貴方に戻りましたね、アレン!」
まるで嬉しそうな表情を浮かべる総司令。が、当然アレンの方はそのつもりはない。
「俺は、お前を止めなきゃならない!こんな戦争を起こしたお前を!」
「デウス動乱後、地球に脅威を作り出してはいけない……僕は戦後、その思い一筋だった!今の新生連邦軍は、僕が作り出した軍だ!地球にデウス帝国のような脅威を、二度と作らないように!!」
「その結果がこの戦争だ!こんな戦争が続いて……意味がないんだよ!レヴィー!!」
脅威を作らない為に、異常なまでに軍の増強を続けた総司令。しかし皮肉にも、今、この場では四大勢力が殺し合い続けている。新生連邦の切り札ともいえる兵器、エレシュキガルを巡り。
「終いにはあの兵器だ!デウス動乱時のデウス軍と同じ事をして何になる!!」
「エレシュキガルは抑止力ですよ。僕だってあれを使うことはないと思っていました。しかし世界情勢は変わってしまった。国連のトップは変わり、武力行使を行うようになった。更にデウスの残党軍まで迫ってきた。そして、国連から分裂した、貴方が所属する組織、FPB!このような混沌とした状況は、打開する必要がある!」
オラトリオのスラスターの出力が上がった。ブライティスとビーム刃同士の衝突をしながらその出力で圧倒する。
機動性の高さが特徴的なガンダムオラトリオ。この打ち合いを行いながらも、ビーム機関砲をブライティスに向け、放つ。近距離兵器だ。
「その為なら僕は何でもします。どのような犠牲が伴おうとも……ソフィア!!!」
すると総司令は突如側近、ソフィア・ブレンクスの名を叫んだ。
そして数秒後、無数の飛翔体がエレシュキガル方面から迫ってきたのだ。
「以前の兵器か!」
アレンの脳内に電流が走る。無数のブリッツファンネルがブライティスを破壊せんと、迫る。
「貴方の敵は僕だけでない!僕のガンダムオラトリオと、エレシュキガルのサイコミュ・ルーラシステムだ!」
「誰が操っているかは知らないが……こんなものなんかに!!」
サイコミュ・ルーラシステムのブリッツファンネルに対し、ビームライフルを連射し、破壊する。一つ一つはバリアーフィールドが張られていない為、破壊するのは容易い。しかし問題は数だ。その数が多すぎるのだ。
「無駄ですよ。それでは僕達を止めることは出来ない!」
ブライティスのブリッツファンネルがガンダムオラトリオを捉える。それに対し、ソフィアが放ったブリッツファンネルが守る。オラトリオはバックパックを一度分離し、大型プラズマカノンを放った。
「なんて、火力の嵐だ……」
以前の総司令とは明らかに違う。彼自身が追い込まれているが故に、その戦力は圧倒的だ。
アレンの敵は総司令だけでない。その背後にいるエレシュキガル……ソフィア・ブレンクスもだ。厄介なのは、ソフィアはサイコミュ・ルーラシステムにより、遠隔操作でファンネルを操っているだけ。その膨大な、圧倒的な情報量はソフィアの脳に負担を与える。
「レヴィー様は私が……!」
エレシュキガル内部にて。ソフィアの頭には無数の装置が装着されていた。いずれもが長いケーブルで繋がっており、それはエレシュキガル全体に及んでいる。
この、巨体のサイコミュを操っているのは彼女只一人だ。ただし、無数の装置が共鳴し合っている為、実際の彼女の負担は大きくはない。だが長時間稼働していると脳の損傷は避けられない。その為、事前に彼女は総司令より適宜休むよう通達されている。
『只の兵器に成り下がってまでそれを動かすとは愚かしい事だ』
「!?」
ソフィアの脳内に、謎の声が響いた。気味の悪い感触が、彼女を襲う。
『兵器として生きることが貴方の望みなのかならばお笑いだな』
再び声が聞こえた。そして、この声には聞き覚えがあった。
「あの男の人……間違いない、あの……人……あああ……あああ!!!」
その男とは、エファンの事だ。エレシュキガルの外部より、エファンがソフィアに声を掛けたのだ。自身が兵器として利用されていると、囁いた。
ソフィアは動揺していた。それと同時に、アレンに向けて攻撃されているブリッツファンネルの勢いも弱まった。
「ファンネルの動きが……?チャンスか!」
それを機に、アレンの反撃が始まった。ファンネルは只の鉄塊と化し、いとも簡単に破壊することが出来た。だがその数は多い。そうとなれば、敵を絞る方が早い。アレンはブライティスのバーニアの出力を上げ、オラトリオに迫った。
「ソフィア!何故止まる!?動けソフィア!!」
焦る総司令。動かないソフィア。その間にもアレンはオラトリオに迫り、ブリッツファンネルを展開。一斉射撃を行った。
「ちぃっ!何故……!」
ブライティスによる砲撃を避ける総司令。バックパックを分離し、ブライティスの後方に向けた。そのままバックパックは宇宙空間と同じ色に染まり、獲物に近づいていく。
「レヴィー!!」
ブライティスはビームセイバーを展開。そして、オラトリオを捉えたと思われた。
ドオオオオオッ
オラトリオのバックパックからのプラズマ砲がブライティスの脚部を直撃。破壊されてしまった。
「クッ!」
「アレン、僕は負けていない!例えファンネルが役に立たなかろうが僕はやれる!貴方を倒して見せる!!」
互いに強力な武装を持つ、ブライティスとオラトリオ。幾度と交戦してきた両者。その性能はほぼ、互角だった。
『約に立たない……違う……!役に立てて見せる……!私は!!!』
「今の声は……?」
「ソフィア……?」
両者に聞こえた、少女の声。それは紛れもなく、ソフィア・ブレンクスの声だ。
アレンは初めて聞く声。何故この声が今聞こえたのかは分からない。無線回路でもない、互いの脳内に聞こえる、声だ。
「どうしたんだ、ソフィア!」
『私は役立たずじゃない!私は……レヴィー様の為に!レヴィー様の……!!!』
「そう……そうだ!君は戦うべきだ!この戦争に勝つ為に!!」
ソフィアに語り掛ける総司令。だが、アレンはこの言葉を聞いて激高した。
「レヴィー!まさかお前は……女の子を利用しているのか……?」
アレンの脳裏に浮かんだのは、ダーウィンにて彼が倒したヴァイダーガンダムのパイロット、リノアス・クリストルである。彼女も新生連邦の特殊強化モデルとして、只の兵器として利用されて死んだ。それを思い出したアレンは、このファンネル攻撃の裏にもしかすれば一人の少女がいるのではないかと考えたのだ。
「利用?違いますね!彼女は自分の意志で僕の命令に従っています!彼女の力は強大ですよ。エレシュキガルの戦力に彼女のシンギュラルタイプとしての力!まさに、鬼に金棒とはこの事です!」
高らかに語る総司令。その言葉が、アレンを更に怒りに駆り立てる。無論、怒りは極限には至らない。至ってしまえば、ブライティスの暴走……そして、暴走をすればギアによって爆弾を発動されてしまう。
「お前……本気で言ってるのか……!?」
「勿論ですよ。地球には軍が必要です。そして、最高の戦力も必要です。僕は絶対に勝ち、再び地球を統一します。その為にはどのような手段を用いてでも!!」
ガンダムオラトリオは再びプラズマカノンをブライティスに向け、砲撃を放とうとした時だった。
『レヴィー様の為に……私は!』
更に、エレシュキガルからのブリッツファンネルの攻撃が再開する。これらの攻撃を避け、一つ一つ、確実に撃破するアレン。
「お前はもう、おかしくなっている!お前の為に多くの人間が死んでいるんだぞ!」
「それは貴方も同じ事だ!先の戦いでの貴方の凶行でどれ程の犠牲者が出たか!アレン、貴方が僕を止めるというなら僕が貴方を今度こそ殺して止める!!」
『そして私もレヴィー様と共に!!』
総司令に呼応し、ソフィアの声も聞こえた―と同時に展開される、無数のファンネルによる攻撃。
先程の攻撃の中に聞こえた、ソフィアの声。アレンはその声に対し、答えた。
「ソフィアって言うんだろ?もうこんな事は止めるんだ!レヴィーは君を道具にしか見ていない!」
ガンダムオラトリオとエレシュキガルからのブリッツファンネルの猛撃を回避しながら呼びかけるアレン。しかし、アレンの声など届くはずがなく。
『私はレヴィー様の為に戦う!!』
最早妄信的なソフィア。こうなってしまっては、誰の声も届かない。
そしてこの状況こそ、総司令にとって都合が良かった。
「連邦の敵である貴方は徹底的に排除する!消えるがいい!アレン!!」
「ハッ!?」
ガンダムオラトリオのグリーンのカメラアイがブライティスを捉えた。巨大な実体ブレードをブライティスのコクピットに突き付け、今まさに攻撃を仕掛けようとしていた。
『いつまでも愚かだな……あの男はもうお前を何とも思っていないというのにな!』
その時だ。ソフィアとは違う、別の声が聞こえてきた。アレンと総司令。両者にとって聞き覚えのある、男の声。それはアレンにとっての紛れもない“敵”であり、総司令、レヴィー・ダイルも信用していない男―
「エファン・ドゥーリアの声か!」
「何故貴方が……?」
介入するエファン。しかしこの宙域にはいない。まるで、遠くからテレパシーでも送っているかのようだ。
『レヴィー・ダイル総司令。貴方のような余裕のない、連邦の総司令は滑稽ですよ。組織の頂点に立つ存在が暴走している事は崩壊の始まりに過ぎないのだから!!!』
「貴方はどこで何をしているのですか!?今は戦闘中で――」
『もっと周りを見るべきでは?その言葉は今の貴方にも当て嵌る……!』
「なっ……!?」
総司令が振り向いた時、アレンのブライティスがビームライフルを構えていた。その距離はわずか5メートル程。バリアーフィールドを持たないオラトリオでは防げない距離だ。
バシュゥゥゥゥゥ
高出力のそれは放たれる。これに対し、オラトリオは肘部のビームディフェンスシールドを展開して防いだ。
「アレン……!」
ビームディフェンスシールドを解除した瞬間にオラトリオは肘部からビームケーブルを展開した。秘策ともいえる武装であったが、アレンを倒す為に手段を選ばない総司令。
「ちぃっ!」
間一髪避けるアレン。近距離という事もあり、頭部機関砲と胸部マシンキャノンで牽制する。
「アレン!!!」
「レヴィーッッッ!!!」
そして両者は再び対峙する。互いの剣を抜き、打ち合いが展開される。
「僕はこの戦争に勝つ……!勝つべくして!どんな手段を使ってでも!ソフィア!」
またしても、ソフィアのブリッツファンネルを要請する総司令。
しかし今回、ブリッツファンネルが即座に飛んでくることは無かった。異変を感じた総司令。その間にもアレンは攻撃を仕掛ける。
「ソフィア!?返事をしろ!」
『ウゥ……あああああ……』
「クッ……どうなって……?」
焦る総司令。先程まで飛んできたファンネルは一斉に展開を止めた。
『遂に愛する側近、ソフィア・ブレンクスに遂に愛想を尽かされたようですな。』
エファンの声が総司令の脳内に響く。あざ笑うかのようなその声は総司令を怒りに駆り立てる。
「このタイミングで何を煽っているのですか!?ならば貴方が攻撃をすればいい!!」
『私は傍観者として見ていますよ。愚かな総司令、レヴィー・ダイル……!』
「黙れぇぇぇ!」
総司令はソフィア・ブレンクスの心配はしなかった。寧ろ、エファンに攻撃指示を出した。この行為が、エレシュキガル内にいるソフィアを更に苦しめることになる。それと同時にエファンの声も聞こえなくなった。恐らく、干渉しなくなったのだろう。
『レヴィー様……私は貴方の為に……あああ……アァァァァァ!』
完全に自分を捨てたと判断したソフィアはファンネルによる攻撃を止めた。頭を抱え、苦しむソフィア。
だが、総司令はソフィアの事を気にも留めない。ただ、目の前の敵であるアレンと、彼を煽るエファン。最早、彼は戦争の事しか考えていない。この戦争で勝利し、地球圏を収める事しか考えない。
「レヴィー!!」
ビームサーベルを展開し、ブライティスがオラトリオに迫る。空かさず打ち合いを行う両機体。
「お前からは只の焦りしか感じない!そんなに連邦の勝利が大事か!その先に何がある!?」
「貴方には分からないでしょう!組織の上に立ち、束ねるという事が!僕は絶対に勝たなければならない!ドゥーリア少佐もソフィアも宛にならないのなら、僕の力で制するしかない!!」
最早彼は戦争の妄執に取り憑かれているようなものだ。アレンには総司令の焦りが痛い程に伝わっていた。
それは、かつてのデウス動乱で戦った者だから分かる事なのかは分からない。いつしかアレンの言葉は総司令に対する抑制さえ感じられる。
「ソフィアという女の子が何者かは俺には分からないが、お前はその子を裏切っている!その上で危険なあの男の力を頼っている!それがどれ程危険なことか!?分かれよ!レヴィー!」
やがて互いのビーム刃による打ち合いが解除された時、総司令は再び攻撃を仕掛けようとした時だ。
カチッ
「エネルギーの使い過ぎか……?一度後退しなければ……!」
ガンダムオラトリオのエネルギーは枯渇した。その推進力だけを頼りに、この宙域から離れる。
「レヴィー……」
勝利の為に最早手段を選んでいない総司令、レヴィー・ダイル。暴走する彼を止めなければ、この戦争は終わらない。アレンは、この戦争で彼を倒さなければならない――と、強く誓ったのだった。
エレシュキガルのSフィールド周辺にて。このフィールドでは国連軍の中心部隊が展開されていた。国連軍の主力機はハイエッジであり、この、ハイエッジが新生連邦軍に攻撃を加えている。
ここSフィールドに、FPB旗艦、アルバトスが奮闘していた。無数のミサイルを展開し、国連の戦艦、リューチェ級宇宙巡洋艦と交戦している。
「エレシュキガルに対して攻撃さえすれば良いのに、国連軍が邪魔をしてくる……!」
「クソッタレ!」
インクとスラッグが歯痒い気持ちで話す。国連軍の数が多すぎるのだ。
「な……これは……艦長!超大型の熱源を感知しました!」
突如、モニターに大型の熱源が発生した。
「アッサラーム……!」
「まさか国連の旗艦がお相手とは……ねぇ……」
アルバトスのブリッジは戦慄した。国連軍との激戦を勝ち抜く中、彼らが対峙したのは国連軍の旗艦、アッサラームだ。
アッサラーム。国連の特殊部隊、最高部隊の旗艦。そして、国連軍全体の旗艦でもある。この超弩級戦艦を指揮するのは、ウィレス・レイド・アース。エリィ・レイスのかつての上司である。
「ウィレスさん、全力で叩き潰す気ね……」
アルバトス内は緊迫した空気に包まれる。国連の旗艦を相手に戦わなければならない現実。全てはエリィの指揮に掛かっている。彼女の判断ミスは、クルー達の死を意味する。
「艦長、どうしますか……?」
スラッグがエリィに聞く。正面にいるアッサラーム。まともに相手しては勝てる相手ではない。この強大な敵を倒すには死角からの攻撃が必要だ。
「……話がしたいわね……」
エリィから出た言葉。それはアッサラームの艦長であるウィレスとの対話だった。
動揺するブリッジ内。最初、それを止める者もいた。
しかし、実際はエリィとウィレスは過去に共に戦ったことがある者同士である。平和世紀になっても何度か交流をしていた両者。FPBという、国連から独立し、反旗を翻した立場である為、話し合いが通じる可能性は低いかもしれない。しかし、まともに戦っては太刀打ちが出来ない相手である。エリィにとって、これは賭けだった。少しでも相手が彼女に話を向けてくれることを祈る為の、賭け。
「将軍、敵艦、アルバトスより通信が入っています!」
オペレーターがウィレスに繋ぐ。
「アース将軍、確かアルバトスの艦長はかつてのデウス動乱で共に戦った仲間と聞くが?」
隣の席のギルスが確認をするように聞いた。
「……ええ、そうですね。」
「どうする気だ?」
「聞き入れますよ。アッサラームはいつでもあの艦を潰すことが出来ます。」
そう言い、オペレーターに回線を繋ぐよう指示を出した。
ブリッジにモニターが映し出される。そこに現れたのはエリィの顔だった。
「ウィレスさん、ご無沙汰しています。新生連邦の本部攻略戦以来ですね。」
一度、両者は対立している。以前はエリィが説得したのにも関わらず、新生連邦の戦艦と言う理由で砲撃を受ける羽目になり、アッサラームに攻撃を仕掛けられ、ただ、逃げるしか出来ない状況だったのだ。後に新生連邦本部攻略戦で共闘をしたものの、結局彼女と会話をする事は出来なかったのだ。
そして現在。エリィは所属をFPBへと変え、その状態でのウィレスとの対立となった。
「国連の敵として立ち塞がったか、エリィ。」
ウィレスの低く、それでいて女性らしさを残した声がエリィに伝わる。
「ウィレスさん、私は貴方と戦いたくない!」
懸命なエリィの声がモニター越しに響いた。
「何故だ。そんな甘い言葉を何故ここで吐く?」
かつての上司、恩人。だからこそなのか、エリィは今前にしているウィレスを見て、心を痛めつつも、懸命に言葉を発した。
「デウス動乱が終わってから私は連邦を辞めて、仲間を集めてMS乗りとして活動していた……貴方とは全然違う生き方をしてきました……」
「……」
ウィレスは、静かに聞き続ける。
「ウィレスさんが国連の将軍になったと聞いた時は、私は凄く喜びましたよ。尊敬する人がどんどん偉くなっていって、凄く誇りでした。私も、頑張ろうって思えたんです。
戦後になって再開した時に攻撃されたのは、正直ショックだった……けど……けどね……それでも私は貴方の事を尊敬していたんですよ!」
感情のままに、思いを伝える。戦場では本来ありえない光景だった。
「ウィレスさん、私、聞きたいことがあるんです。貴方は今、本当に自分の意志で戦っていますか?」
今度はエリィがウィレスに聞いた。ウィレスの“意思”についてである。
「この場にいて、アッサラームの指揮者としてここにいる。これは私の意志以外の何者でもない。」
冷徹な言葉が放たれる。
「エリィ、お前は甘すぎる。アッサラームとその艦では性能に圧倒的な差がある。勝ち目がないと見込んだ上でのその命乞いか!?」
「違う!命乞いなんかじゃありません!」
「じゃあ何だ!?」
「私は、ウィレスさんと戦いたくないだけです!それに、今の国連の為に戦う理由なんてないはずです!!」
ギルス・パリシムが指導者となっている今の平和国連盟。そしてそれに所属する国連。それは従来の平和主義と逸脱する考え、行動である。自ら侵攻をし、軍事力を持って制する国連のあり方。それがおかしい事であるが故にFPBという組織が生まれた。
エリィは、今の国連のあり方への不満と共に、ウィレスに国連に居て欲しくないという思いもあって、話し合いを行ったのだ。
「残念だがお前のその言葉等聞く気は毛頭ない。目の前の敵は排除するまで。各砲門開け、前方の敵艦へ攻撃準備だ。」
そしてモニターは切られた。同時にアッサラームの各武装が展開される。それは分かり合う気がないという何よりの証明だった。
「なんで……こんな……」
話し合いに応じる気すらないウィレスに悲しみを抱くエリィ。
「艦長、まずいですよ……このままじゃハチの巣ですよ!」
「一度後退して!後退しながら砲撃準備!各MSはアルバトスの援護を!」
結局、話し合いは出来ないまま両艦の牙が向いてしまった。
アッサラームの砲撃がアルバトスに向けられる。アルバトスは後退しながらアッサラームに向け、砲撃をする。主砲、副砲、ミサイル……数多の武装が宇宙を閃光の如く彩った。
「流石、アース将軍!相手がかつての仲間であろうと追い込む姿勢は最高部隊の将軍に相応しい!立派なものだ……」
圧倒的な物量でアルバトスを攻める中、ギルスはウィレスを褒めた。しかしウィレスはその言葉を一切聞かず、無表情のまま砲撃の指示を続けた。
「その冷徹さこそ戦場においては必須!国連の反乱分子など所詮敵ではない!このまま殲滅してくれる!」
ウィレスとは対照的に、残虐な笑みを浮かべるギルス。同じ空間を共にする両者の明らかな違いがこの場で目立ったのだ。
第百六話、投了。
命の奪い合いが行われる中、アルバトスはアッサラームと交戦するという状況に追い込まれてしまう――