アッサラームから放たれたビーム砲が数発、アルバトスに命中した。艦は大きく揺れ、側部は被弾した。
「左舷エンジン被弾!」
「火力がダンチすぎんだよ!」
「消火急いで!」
ブリッジからクルーに指示が出る。この砲撃で怪我人も出ている。容赦のないアッサラームの砲撃が、アルバトスクルーを襲う。
ピピピピピッ
と、そこへ通信が入った。識別信号は味方のものだ。回線を開くと、そこにはハルッグの姿があった。
「ネルソン!」
「大丈夫かエリィ、援護する!」
ハルッグはMA形態のままアルバトスへ向かい、援護に駆け付けようとした――
バシュゥゥゥゥゥ
「なっ――」
一筋の光がハルッグに向けて放たれた。ビームライフルだ。それも高出力の。
すぐに回避するが、また二、三発、ハルッグに向けて放たれる。
「ちぃっ!」
MSへと変形し、周囲を見るハルッグ。そして、レーダーに映るその機体を確認した。
「ディエルMk-Ⅱ!?カラーが青?ワンオフ機か?」
通常のディエルMk-Ⅱはカラーがグリーンだ。しかしネルソンが遭遇した機体はブルーのものである。その上、武装も通常機と異なっていた。
ディエルMk-Ⅱという事は、デウス残党軍である。専用機に乗るパイロットがこの宙域に現れたという事になる。
「デウスに栄光の輝きを!!!」
声を荒げ、戦場に現れたのはアルメス・ラグナだ。そして、更にそれに続くようにデウスの艦、バディウス改級の巡洋艦が三隻迫っていた。デウスの精鋭部隊、インベーションユニットがこの宙域に出現したのだ。
大型のビームマシンガンを連射し、迫るディエルMk-Ⅱ。他にもゴルモンテMk-Ⅱがビームバズーカを連射し、容赦のない攻撃を続ける。
「邪魔はさせんよ!!」
この宙域に出現した脅威を倒さんと、ネルソンはデウス軍に攻撃を仕掛ける。ハルッグのロングビームライフルはいずれもディエルMk-Ⅱに直撃し、撃破していく。
「デウスの艦にも砲撃を仕掛けろ!邪魔をさせるな!」
アッサラームはアルバトス以外にも、バディウス改にも砲撃を向ける。無数のミサイルが一斉に迫った。それと同時に、アッサラーム所属のハイエッジが数機、迎撃に向かった。
混戦状況の戦場。FPB、国連、デウス残党の三勢力が入り混じる戦場。いずれもが敵であり、殺すべき相手。その兵士達は、ただ己の信じる道のみを信じ、戦い続けている。デウス残党軍はデウスの栄光の為に、国連は平和の為。FPBは、真の平和の為。
しかし、今回デウス残党軍が仕掛けた相手が悪かった。国連の旗艦の戦力は圧倒的であり、三隻のバディウス改の内、二隻が沈められた。その上、ネルソンが次々とデウスのMSを殲滅していく。
「エリィ、聞こえるか!?すぐに合流するからそれまで持ちこたえられるか!」
「え……ええ!ネルソン、どうか無事で……」
「すぐに向かう!」
敵を撃破しながら、エリィと回線で話した。愛する者が待つ母艦を沈める訳にはいかんと、奮闘を続けるネルソン。
ビゴォン
そこへ、先程ネルソンを狙った青いディエルMk-Ⅱがレーダーに映った。通常のディエルMk-Ⅱと違い、大型のビームライフルを所持していた。怪しげに輝くモノアイが、ハルッグを睨む。
「ネルソン・アルビュースだな!」
「アルメス・ラグナか!」
アルメスはハルッグの動きを見てネルソンがパイロットであると見抜いた。かつての上官、アルメス・ラグナがこの戦場で敵として立ち塞がる。しかし、今のアルメスはネルソンにとっては只の邪魔者でしかない。ここで早くアルメスを倒し、急いでアルバトスに合流する必要があるからだ。
「デウスに戻る気がないと知ってからは貴様の事等気にも留める気はない!」
「私もだよッ!!」
先に仕掛けたのはハルッグだ。しかしその青いディエルMk-Ⅱは明らかに動きが違う。ビームライフルの砲撃も素早く回避され、すれ違う際にシュート・シューターをハルッグに向けて放つ。
「ちぃっ!」
今度はショルダービーム砲六門を一斉に放った。が、この砲撃も回避される。
「デウス帝国の裏切り者には死を!」
再びシュート・シューターをシールドから放つディエルMk-Ⅱ。至近距離であったため、急いでショルダービーム砲六門を放ち、破壊した―
ブゥゥゥゥン
その時だ。ビームサーベルを持ったディエルMk-Ⅱが至近距離まで迫ってきたのである。危険を感じたネルソンはハルッグを急いでMAに変形し、距離を置こうとした時だった――
ガキィィィン
ディエルMk-Ⅱのマニピュレーターがハルッグの背部を掴んだ。逃さんと、強い力で引き寄せてくる。
「くぅぅぅ!」
「デウス帝国の裏切り者には死をォォォ!」
逃げられない状況。ディエルMk-Ⅱはビームサーベルをハルッグのコクピットに突き刺そうとした――
が、ハルッグはビームヒールを展開し、打ち合いを行った。
「お前にはもう未来はない!デウスを敵に回した時点でその罪は重い!死ね!ネルソン・アルビュース!」
「私は……死ねないッ!私には愛する人がいる!その人がいる場所に帰る義務がある!貴様を倒し、そこに向かわなければならないのだ!」
「世迷い事を抜かせェェェ!」
愛する人、エリィの元に戻る為、その障壁となっているアルメスを倒さなければならないネルソン。だがアルメスはその邪魔をし、ネルソンの抹殺を図る。デウスの裏切り者と見なしたアルメスの猛攻は凄まじい。
激しいビーム刃同士の打ち合いが続く。少しでも出力を緩めれば、機体に傷が付くのは避けられない。
「デウスの再興の為に私は生きてきたッ!全てはデウス帝国の為に!あらゆる手段を使ってでも勝たなければならないのだ!貴様のような裏切り者等始末してくれる!!!」
「貴様はデウスの呪縛に囚われているだけだ!そんなものに何の価値があるというのだ!」
「デウスは死なんよ!神の国デウス!地球連邦の腐った連中は粛清され、新たなる時代をデウスが作り上げる!その為にはこの戦争に勝たなければならんのだ!!」
「デウスの亡霊め……!」
ビーム刃が激しく輝きを放つ中で両者の叫びが轟く。かつてデウス帝国に所属し、今は新たな未来を歩もうとするネルソンと、未だにデウス帝国に縛られているアルメス。かつての上司と部下の関係は、今や敵同士。過去の思想と、未来の思想のぶつかり合いと言えた。
バヂィィィィッ
その時、ビーム刃が弾けた。と、先に攻撃を仕掛けたのはハルッグだった。
ハルッグのビームサーベルが展開され、ディエルMk-Ⅱに向けられた――
バシュゥゥゥゥ
咄嗟に、ディエルMk-Ⅱがビームライフルを放った。その攻撃を見抜き、回避した直後――
「ぐあああああああああああッ!!!」
素早い動きで、ビームサーベルをハルッグのコクピットに突き刺していた。その勢いで、ハルッグの左上腕部を破壊した。
「う……ぐああ……」
激痛に苦しむネルソン。無理もなかった。
何故なら彼の左腕では、もう消滅していたからだ。
「間一髪避けたか!次は無いぞ!!」
しかし今は戦場。痛みに悶える事すら許されない。ビーム刃によって溶かされた左腕。本当ならば右手で押さえたい程に激痛である。だが、彼は右手の操縦桿を離す事は無かった。
「私は……死なない……!絶対に死ぬ訳には……いか……ないッッッ!!!」
ネルソンはハルッグの操縦桿を思いきり引き込んだ。
ビゴォン
ハルッグのモノアイが、ネルソンの声に反応したかのように輝く。せめて、目の前の敵を必ず倒さんと、獲物を捕らえ、迫る。
ロングビームライフルを槍状に変え、ディエルMk-Ⅱに迫る。しかし、この攻撃もすぐに回避される。
「そんな攻撃などッ!」
そして、ハルッグに向けてビームライフルを放とうとした時だった――
ズバァァァァァ
ロングビームライフルを捨てたハルッグが、すぐにビームサーベルを構え、間髪を入れずにディエルMk-Ⅱのコクピットを切り裂いたのだ。
「デウスに……栄光の……光……を……」
ハルッグのビーム刃を受けたアルメスは、その光に飲み込まれ、この世界から姿を消した。ネルソンは、左腕という大きな犠牲と引き換えに、アルメス・ラグナを倒す事に成功した。
「はぁ……はぁ……ぐぅぅぅ!」
失った左腕。激痛が彼を襲う。コクピットの隙間からは宇宙空間が見えている。ハルッグはほとんど機能を失っていた。もう、戦闘能力は皆無に等しかった。
「私は死ぬ訳には……行かない……クゥ……!」
戦闘機能を失ったハルッグに、左腕を失ったネルソン。この状況はどう見ても絶望的としか言いようがなかった。助けを求めるにも、ここは戦場。下手な信号を打つことは、敵にも居場所を教えることになる。そうなれば、自身の死にも繋がる。
「……ダメか……エリィ……私はもう……ここまでか……」
ネルソンの意識が、少しずつ薄れていく。いつ爆発してもおかしくないハルッグの中で、激痛に耐えるネルソン。呼吸は次第に荒くなっていき、もう、考える事すら出来ないでいた。
ネルソン・アルビュース。デウス動乱にてデウス軍のエースパイロットとして活躍していた彼はその戦いの中でシュリィという名の恋人を失った。
時は流れ、平和世紀になり、彼はエリィ・レイスと出会った。MS乗りとして行動していき、やがてセイントバードチームとして行動していく。その時からだろうか、エリィの事を意識するようになったのは。
彼がエリィに対して想いを伝えたのは国連による新生連邦本部攻略戦の時。セイントバードが炎に包まれ、朽ち果てようとした時。エリィが艦と共に命を共にしようとした光景を見て、想いを伝えた。結果、彼等は互いに愛し合う関係となった。
ネルソンとエリィ。両者共に、デウス動乱時に恋人を失った者同士。その彼等が現在は惹かれあい、添い遂げようとしていた。だがこの四つ巴の戦いが彼らに大きな試練を与えた。
今、エリィは国連の旗艦、アッサラームと戦っている。一方のネルソンは、アルメス・ラグナによって致命傷を負う羽目になった。辛うじて敵を退けたネルソンだが、その代償はあまりにも大きい。
「感覚もなくなってきたな……ぼうっとするな……これが……死……か……」
やがて痛みの感覚もなくなってきた彼は、自身の死を受け入れる準備を始めていた。
「……さん――」
「……ん……」
「ネル……さん――」
「……?」
「ネルソンさん――」
その時、かすかに音声が聞こえた。聞き覚えのある声。若い、男性の声だ。
朦朧とする意識の中、彼は耳を立てる。そして、目を少しずつ開ける。
「ネルソンさん!無事ですか!?」
そこにいたのは、ガーストだった。ダメージを受けていたハルッグの残骸を見て、すぐに反応したのだ。
「ガースト……か……」
「左手が……クッ……!」
戦闘の犠牲の象徴を見てしまったガーストはただ、歯を食いしばるしかなかった。やがて彼の駆るハイエッジカスタムはハルッグのコクピットに近づき、声を掛ける。
「こっちに来られますか?ハイエッジのコクピットに!」
「……どうやら、助かったのか……私は……?」
「助かったんですよ、ネルソンさん……」
「そうか……すまないな……ガースト……」
残っている意識を辛うじて奮い立たせ、動き出す。同時に、左腕の痛みが再び感じるようになった。
「ぐぅ……!」
「大丈夫ですか!?」
「ああ……何とか……」
ネルソンはハルッグのコクピットを開け、ハイエッジカスタムの右腕に乗り移る。ガーストは、そのままネルソンをコクピットに回収した。
「大丈夫……じゃなさそうですね……」
「君が来てくれなければ、私は死んでいただろう。まだ死ぬなという事なんだろうな……」
「そうですね……エリィさんにも会わないと行けないでしょ?」
「フ……そうだな……」
「ハルッグはもう駄目ですね……せめて、アルバトスに送りますよ。」
ガーストから“アルバトス”という単語を聞き、ネルソンの目は大きく見開かれた。
「……あ……あぁ……!ガースト、すまない!急いで戻れるか……!?」
「あ……え!?」
急に声を荒げたネルソンを見て、ガーストは驚いた。
「今、アルバトスがアッサラームに襲われている!まともに相手しては勝ち目がない相手だ!急いで戻って援護してくれ!頼む!」
「え!?そんな!急ぎますよ!」
「出来るだけ、早くな……!ぐぅぅ!」
声を荒げようとすると、ネルソンの左腕が疼く。消滅した左腕。何の処置もしていない状態でこの中にいる為、痛みが抑えられない。
ネルソンの言う通り、急いでアルバトスへ向かおうとするガースト。ハイエッジのスラスターの出力を上げ、この宙域から離脱しようとした時だった。
ドォォォォォォォォォッ
一筋の光線がハイエッジカスタムの前を通過した。それと同時に、ハルッグの残骸が破壊された。
デウス動乱後のネルソンの愛機。それが今、瞬く間に爆炎に包まれたのだ。
「何だ!?」
ガーストが反応した直後、更にミサイルが迫ってきた。避け切れない為、ビーム砲を展開してミサイルを撃破する。
「新生連邦の核持ちガンダムか……!」
「クソッ!このタイミングかよっ!」
眼前に現れたのはアトミックガンダムだ。
「キキキキキキキ……カカカカカカカカカカカ……!」
アトミックガンダムのパイロット、ハーディ・クオレントは奇妙な笑みを浮かべる。目には無数の毛細血管が映り、明らかに“異常”と言える表情をしていた。
「今はアルバトスに向かう事を優先します!」
「それが正しい!頼む、ガースト!」
ネルソンの身体の状態や、アルバトスがピンチの状況を考慮し、ガーストは急いでハイエッジをアルバトスに向かわせる。しかし、アトミックはこれを追いかける。
国連の刺客として迫るアトミック。MA形態に変形し、ハイエッジカスタムに迫る。
そこへ、新生連邦のディースト、ジョゼフが現れた。各二機ずつ、合計四機。増援に囲まれたハイエッジカスタム。
「こんな奴らの相手をしてる場合じゃ―」
すると、この四機は次々とに姿を消した。アトミックのビームランチャーによって撃ち抜かれた為である。この光景に、驚きを隠せないでいたガーストとネルソン。最初、誤射かと思われたが違う。的確な射撃で、これらを破壊したのだ。
「こいつ!味方を狙っている!?」
「訳が……分からないな……どういう意図だ……?」
「ク、とにかく今は逃げるしか……!」
この時彼等は知る由もなかった。アトミックガンダムは国連の所属になっていたことを。目の前で起きたことに対する混乱はあったが、この場に留まる方が危険だ。今は早くアルバトスに合流する必要があった。
アルバトスはアッサラームの猛攻から逃れつつ、様子を見ていた。デウス残党軍の介入があったが為に、彼等はどうにか、追い込みをかけられずに済んでいる。
しかしこのままアッサラームを敵に回していてはまず、勝ち目がない。対抗できる数少ない武装とすれば、艦下部に搭載されているプラズマカノンぐらいか。
「大尉は大丈夫なんスかね……全然戻ってくる気配がないですけど……」
「とにかくMSを集めなきゃ……ウィレスさんは全力で潰そうとしている……援護がないとまず勝てないわ、あの戦艦には……」
先の攻撃で分かった、ウィレスの本気。それを感じ取ったからこそ、エリィは恐ろしさを感じている。そして、彼女の中にあった淡い期待も消えつつある。
「艦長!援軍です!シュネルギアが来てくれました!」
「ジャンヌさんが!?良かった……!」
不幸中の幸いだった。この宙域にシュネルギアと合流することが出来た。シュネルギアはこの戦いが始まるまで新生連邦の艦隊と戦い続け、どうにか生き延びていた。
「エリィさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫……とは言えないですね……見ての通り、アッサラームに襲われてます。」
状況は不利であることに変わりはないが、シュネルギアという頼もしい味方が加わったことはエリィにとって非常に大きい。
「シュネルギアはアルバトスを援護して下さい。ミサイル、展開。二時方向へ移動しつつビーム砲を発射。」
ジャンヌの指示通り、シュネルギアはミサイルを発射し、その上で両翼のビーム砲を放つ。
これらの砲撃はアッサラームから展開されるハイエッジに直撃。破壊されていく。
「MSの数が多すぎて……」
「怯む暇はありません。砲撃に集中して下さい。少しでもアッサラームの戦力を削ぐことを優先します。エリィさん、行けますか!?」
「あ、はい!行けます!」
シュネルギアとアルバトスはほぼ同時攻撃の形でミサイル、ビームを展開した。これらの砲撃はアッサラームに対する牽制には十分と言えた。
「艦が増えたところでアッサラームの敵ではない!砲撃を怠るな!ハイエッジ隊もビームキャノン一斉展開!てーッ!」
二対一の状況であったがウィレスも負けていない。アッサラームはその物量を活かし、無数のビーム、ミサイルを放ち続ける。
それに続くハイエッジ。しかし、ビームキャノンを展開している最中の事だった。
ズバァァァァァッ
そのハイエッジを切り裂く一機のMSが。アステリアだ。パイロットは、ファージ・ネイヴァン。混戦の中を辛うじて生き延びていた彼は、母艦の危機に気づき、急いで戻ってきたのだ。
「随分やばい事になってんな!FPBと国連とのぶつかり合いかよ!」
そう言いながら、ファージはFPBの艦に対して砲撃しているハイエッジを攻撃したのだ。そして、更にロングレンジビームライフルを連射し、攻撃をする。
国連のハイエッジとは比べ物にならない猛撃で、一機ずつ、確実にハイエッジを破壊していく。僅かではあるが、FPBの脅威を一機ずつ破壊していく。
バシュゥゥゥゥッ
別方向からビームライフルの光が。放たれた光の先にいたのはツヴァイガンダムだ。
「アルバトスが襲われてる……!早く戻らなきゃ……!」
先程クラリスとの交戦を終え、この宙域に戻ってきたレイ。今はアルバトスを守る為、彼は動く。
「女顔の少年か!無事で何より!」
ツヴァイの存在に気付いたファージは回線を繋ぐ。
「ファージさん……ですね……」
「名前も覚えてくれて結構!とりあえず母艦を守ろうぜ!あのデカブツ戦艦に襲われてるって話だからな……」
迫るアッサラームと、国連のMS。ツヴァイはブリッツファンネルを再び展開し、これらのMSに対して一斉に砲撃した。国連のハイエッジは次々と破壊されていく。
「なあ、レイ。あのお嬢ちゃんと仲が良かったんだろ?無事ならいいけどな……」
“お嬢ちゃん”とはスバキの事だ。ファージの言葉を聞いたレイは、俯く。レイの表情を見たファージは表情を変え、その心境を察した。
「チ……クソ……」
スバキが生前に数回程度だが交流をしていたファージ。無事でいて欲しいと願ってはいたが、その願いは叶わなかった。スバキはクラリスに殺され、そのクラリスも、レイに殺された。戦争が引き起こした幾つもの命のやり取り。この場にいる彼等も、それは例外でない。
ピピピピピッ
「ん!?別のMSが来てるだと!?」
「他のMSよりも速い機体……?」
その時、レーダーに一つの熱源反応を感知した。その熱源はアルバトスの方向へ向かっている。それを阻止しなければならないと思い、ファージのアステリアは向かった。
この宙域に現れたMSは、アトミックガンダムだった。アトミックはガーストのハイエッジカスタムを追ってここまで来たのである。アトミックの狙いは、FPBの艦だ。MA形態のままビームランチャーを連射し、砲撃を行う。
「アルバトスには合流出来そうだな……!こいつはここで倒す!」
ハイエッジカスタムは逃げる姿勢を止め、ビームニードルを展開した。それらはアトミックガンダムに向けて放たれるが、それに反応したハーディはすぐに回避行動をとった。
「キキキカカカ!」
言葉を発しない存在に成り果てたハーディだが、その的確な判断は残存していた。それは、今は無きデスペナルティ、バイラヴァーにも搭載されていたFLCシステムによる恩恵と言えた。
「待て……ガースト……様子がおかしい……まさか……!?」
「え!?」
その時だ。アトミックはMS形態に変形した。と同時に、胸のハッチを開く。
それが意味するもの……それは、核ミサイルの発射だ。しかも、ここは戦場の真ん中。ここで核ミサイルを撃つという事は、甚大な被害が及びかねない。
「チッ、させるかよ!!」
ファージは先行し、核ミサイルを撃ち落とそうと、ビームライフルを連射する。
しかし、それはあまりに危険な行為だった。
「ファージさん!待って!あのガンダムは――」
レイがファージを止めようとした時だった――
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
遅かった。大規模で、丸く、赤い光が激しく輝いた。この凄まじい爆発は敵味方関係なく巻き込む。国連側のハイエッジ、FPB側のMS達も被害が及ぶ。そして、近隣にいた新生連邦のMSも爆発に巻き込まれたのだ。
眼前に迫る赤い光。それはツヴァイガンダムも飲み込もうとしていた。急いで逃げなければいけないのは分かっていた。だが、身体が動かない。動いてくれないのだ。
ガキィン
すると、ファージのアステリアがツヴァイを蹴った。その反動で赤い光の爆風から逃れることが出来た。
しかし、その代わりにファージが犠牲となる事になる。
「絶対生き残れよ……ナ……お嬢ちゃんに会ってくるぜ……」
アトミックガンダムの情報が入っていなかったが故のファージの敗北。最期はレイを爆風から退ける代わりに自身が爆風に巻き込まれた。無論彼の身体一つ残らず、この世から去ったのだ。
「ファージさん……!」
短い付き合いであったが、レイの中で、ファージ・ネイヴァンという男の存在が確かに刻まれた。身を挺して自分を助けてくれた事は、忘れることは無いだろう。
アトミックガンダムが核ミサイルを使ったことにより、甚大な被害を出した国連軍。アッサラーム艦内ではギルスが、舌打ちを打っていた。
「こんな所で核ミサイルを使うとはな……あれはエレシュキガル攻略の際に利用できた兵器だというのに。所詮は新生連邦の強化モデルか。」
アトミックガンダムの核ミサイルの情報はギルスにも伝わっていた。それが強大な破壊力を秘める機体という事も。だからこそ、核ミサイルはこのような場所で使いたくなかったとギルスは言った。
「元々は新生連邦のMSとパイロットです。情報によればあれは核ミサイルの発射を理性でコントロールする為の試験用の機体であり、そのパイロットだったとか。」
「何にしても戦力であることに変わりはない!戦力は多い方が良い!さあ艦長!ドンドン攻めていこう!」
ギルスは笑みを浮かべる。ウィレスはその笑顔を見ることなく、前方に映るアルバトスとシュネルギアに攻撃をするよう、指示をした。
ファージ・ネイヴァンを失ったFPB。だが悲しみに暮れている余裕はない。その間も国連軍は砲撃を続けていたからだ。
この時、レイはガーストと合流していた。ガーストはレイに対し、指示を出す。
「レイ、俺はアルバトスに戻る。ネルソンさんが怪我をしているからな。」
「ネルソンさんが、中にいるんですか!?じゃあ、ハルッグは……?」
レイは事情を知らないままこの宙域にいた為、ハルッグが破壊されたことなど知る由もなかったのだ。それと同時に、モニターが開く。ガーストが気を利かせ、回線を繋げたのだ。
「ネルソンさん!え……腕が……」
戦争が引き起こした悲劇はここにも影響した。スバキをはじめ、既に彼の知る人達は多くの人が犠牲になっている。ネルソンは生きてこそいたが、その代償に左腕を失った。
「レイ……見ての通りだ……ガーストに運んでもらう。君はどうにか持ちこたえてくれ……アルバトスを……エリィを守ってほしい……」
レイの口からは言葉が出ようとしていた――が、止めた。そして、静かに頷いた。
「……頼む、レイ。」
そう言ってモニターは切れた。ガーストは、すぐにハイエッジカスタムをアルバトスに向かわせた。一方のレイは目の前にいるアトミックガンダムと戦う事を選んだ。
国連とFPBの攻防が続く。物量は国連が圧倒的に上だ。その上、国連の旗艦であるアッサラームは鉄壁の要塞。並の兵器では通用しない。攻撃し合っていては消耗戦になるだけだ。
「弾幕を張って下さい。その後ミサイルで広範囲に射撃を!」
「アッサラームにプラズマカノンを展開して!」
アルバトスは最強の兵器であるプラズマカノンを向けた。
「敵艦にプラズマカノンを展開しろ!」
互いの戦艦の最強武装が向かい合う。両艦にエネルギーが蓄積され、やがて放たれた。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
互いのプラズマ砲が衝突し合うが、アッサラームのプラズマカノンの方が威力が上だ。
プラズマ兵器をやり過ごすにはそれ以上の威力のプラズマ兵器をぶつけるか、回避するしかない。アルバトスのプラズマ兵器は相殺され、アッサラームのプラズマ兵器がアルバトスに向けられた。
「回避を!!!」
「了解!!!」
大出力のプラズマ兵器がアルバトスの右翼を通過する。その破壊力は凄まじく、後方のFPBの艦隊を巻き添えにし、破壊した。
(ダメ……やはりアルバトスじゃアッサラームには勝てないの……?)
圧倒的な力で迫るアッサラームに成す術がない状況。彼女は、心底絶望した。どうすればこの状況を抜け出せるのか――懸命に考える。幸いなのは、この宙域をレイが守ってくれているという事ぐらいか。レイがいなければこの宙域を守る機体は限りなく限られてしまう。
ピピピピピッ
「艦長、通信が!ガースト機からです!」
アルバトスに着艦したガーストからの通信だ。エリィは回線を繋ぎ、モニターを開く。
「エリィ、無事か!?」
声を出したのはネルソンだ。エリィは彼の無事を見て安心した。
しかしその安心はすぐに絶望へ変わった。左腕を無くしたネルソンの姿を見て、口を両手で覆ったのだ。
「ネルソン……貴方……腕……が……あ……ああ……」
ブリッジ内は陰鬱な雰囲気に包まれる。スラッグとインクの両者も変わり果てたネルソンの姿を見て、落胆した。
「何を悲しんでいる……私は君の無事が見れた。それだけで良い……私はもう戦えない。あとはガーストに任せる。すまないな……役立たずで……」
と同時にモニターが切れた。
辛うじてネルソンは生きていた。しかし変わり果てた姿だった為、エリィは心底動揺した。
(こんな事はもうあってはならない……やっぱり止めなきゃ……!)
戦争では五体満足で生きている事が奇跡的と言える。ネルソンも、本来ならば死んでいてもおかしくない状況だったがガーストによって救われた。
エリィは動揺している。しかし、ネルソンは生きている。今はそれを嬉しく思わなければならない。彼女が動揺している間も、一つ一つの命が亡くなっている。そう思った時、エリィはある決断をしたのだ。
「インク、アッサラームに回線を。」
「え……?なんで……?」
「いいから!」
エリィは命令した。再びウィリアとの話し合いを試みようというのだ。
「ウィレスさん!やっぱりこんなのは間違ってます!」
突然のアルバトスからの回線を受け取ったウィレス。彼女は一度アルバトスの砲撃を止めるよう、命令した。
「どういうつもりだ?命乞いのつもりか!?」
「違います!ウィレスさん、もう一度話を聞いて下さい!!」
エリィはウィレスに再び話し合いを試みようとした。この、砲撃が始まっている最中に。無論、この場にいた誰もがエリィを止めようとした。スラッグ、インク共にエリィを止めようとするが、彼女は止めない。懸命に、ウィレスに自身の想いを伝えようとしていた。
「こんな意味のない戦いなんてする必要がないんです!貴方は腐敗した国連の指揮官として戦って何も感じないんですか!?私は悔しくて堪らないです!その、側にいる人が放った偽りの言葉!貴方はそれに従うんですか!?貴方のような偉大な軍人が、どうして……こんな腐敗した国連に所属をしているんですか!?」
エリィの目からは涙が溢れていた。止まらない、涙。恩師であるウィレスを想うが故の、涙。
「偽りの平和なんて私にはいらない!真の平和の為に私はMS乗りを捨て、今ここにいる!貴方は偽りの平和と共に戦っている!そんな事をしても貴方自身何にもならない!」
対するウィレスは歯を食い縛り、黙っている。握り拳を作り、エリィを睨むように見ていた。
「偽りの平和があるなら、私達は戦う!どれだけ多くの血が流れても!それでも偽りの平和に味方をするのなら、ウィレスさん!私は覚悟を決めて敵になります!貴方を全力で倒します!!!」
エリィの声は渇いていた。はぁはぁ、と途切れる声。掠れる声。それ程にエリィは声を出していたのだ。
「真の平和の為だと!?笑わせる!お前達の存在が今の平和国の敵だ!ギア・ジェッパーの演説に踊らされた愚かな人間め!アース将軍!敵は宣戦布告をした!なら、全力で叩き潰せば良い!」
ギルス・パリシムは握り拳を作り、テーブルを叩く。それに応じるかのように、ウィレスはアルバトスに対し、砲撃命令を下した。
「目標敵艦!砲撃用意!」
ビーム砲をアルバトスに向け、一斉展開した。アルバトスとの距離は近い。このまま一斉砲撃を受ければ、アルバトスは破壊されてしまうだろう。避けるにも間に合わない距離だ。絶望の状況がエリィ達を襲った。
「これでFPBの戦力を削れる!私の敵が消える!終わりだFPBの戦艦め!ハハハハハ!」
ギルスは高らかに笑った。勝利を確信した男の、奇妙な笑み。
「これで私の時代が近付く!残る敵は新生連邦とデウス残党!敵性戦力は排除だ!
私の時代の邪魔をする者は排除だァ!!!!!」
「砲撃を止めろ!」
「!?」
ギルスは一瞬、何が起きたか分からない様子だった。ウィレスが命令したアルバトスへの一斉砲撃を止めたのは、辛うじて理解できている様子だった。
「そして、エレシュキガルの宙域にいる全ての軍へ回線を繋げ!!」
「アース将軍、何を……?」
ギルスの疑問に答える事もなく、ウィレスは回線を繋げた。そして、彼女は全軍に対して次の発言をするのである。
「全軍、攻撃を中止せよ!!!」
あろうことか、ウィレスは全国連軍に対して戦闘の中断を指示したのである。あまりに突然の事に、国連は勿論、FPB、新生連邦、デウス残党軍が驚いた。やがて、この言葉を聞いた全てのパイロットは、一時的に攻撃を停止したのである。
「ここ、アッサラームに平和への逆賊が出現した!名は、ギルス・パリシム!平和国連盟最高議長である!!!」
ウィレスは全軍に対して回線を繋いで叫んだ言葉は、ギルスを敵と見なす発言だった。あまりに突然の事で、ブリッジ内は勿論、国連軍の兵士達は耳を傾けた。
「あ……アース将軍……何の冗談かな?貴官が何を言っているのか私にはサッパリなのだが?」
ギルスは目を何度もパチパチとさせ、何が起きたのかを把握しようとしていた。その額からは冷や汗が浮き出ており、ただ、動揺していた。
「ギルス・パリシムは平和国連盟の最高議長でありながら、自己の欲の為だけに組織を私物化しようとしている!先の発言にある、“私の時代”という単語が何よりの証拠である!」
前代未聞のその様子は、モニター越しにエリィ達にも伝わっていた。エリィはすぐにFPBに攻撃を停止するよう要請。その状況に違和感を覚えた新生連邦、デウス残党軍も各々が攻撃を停止するように指示した。
ウィレスの発言により、この場にいた全軍の攻撃が一時的とはいえ、停止したのである。
「議長、私はこの戦争が始まる前に貴方に言いました。もし、平和国に対する脅威が現れるならば、如何なる手段を用いてでも私は敵を駆逐します……と。それが、今だと判断しました。」
「平和国に対する脅威が……私だと……?何を言っている!?気でも触れたか!?私は平和国連盟最高議長なんだぞ!?」
あくまでも自分が最高議長である事を誇示するギルス。しかし、ウィレスは言い続ける。
「議長、貴方は言いました。“皆が幸せになれる、平和な世界”と。その世界の果てが、貴方の世界という解釈で、宜しいですね?」
「な……んだ……と……!?」
そう、ギルスは自身の発言で墓穴を掘ったに過ぎない。彼の発言が引き金で、FPBが創設された。しかし、それは彼自身によって隠蔽され、現在の、国連とFPBが対立する状況を作り出した。その時のギルスの発言を疑問に思う人間は居ただろうが、それを確信にする証拠がなかった。隠蔽された為だ。
だが今のギルスは愚かにも、自ら墓穴を掘った。自軍の脅威となっている敵艦を排除できるという最高潮のタイミングで、彼は本性を現してしまったのだ。これ程に滑稽で愚かな事は果たしてあり得るだろうか。
「平和国連盟の規定した平和条約にはこのような事項があります。“如何なる時でも私利私欲の為の平和行使はあってはならない”と。独善な考えの平和は独裁者のそれと変わりません。政治家は勿論、数多の民衆の意見を反映していき、法律は決定されます。貴方の今の発言は明らかにそれらとは逸脱している。その独善的な発言。まさに、平和を望む人類に対する、“人類の癌”と言っても過言ではない!!」
「人類の……癌だと……!?」
ギルスの表情は苦悶に満ちていた。自らの墓穴の結果、受ける屈辱。彼は今、ウィレスに対する憎しみを向けていた。
その様子は、アルバトス艦内は勿論、シュネルギア艦内にも映し出されていた。全クルーが見守る中、ギアは一人、内心で笑みを浮かべていた。
(こうも簡単にボロが出るとは……ギルス・パリシムは所詮小物だったという事だ。あとはあのアッサラームがどう出るか……我々にとって状況は、有利に傾くか?)
ギルスは気分が高揚した時にその本性を現すのはギアは知っていた。まさか、このような形で彼の本性が暴露されることは想定外だったが。それでも、FPBにとっては状況が変わりつつあるのには間違いなかった。
騒然とするアッサラーム艦内。ウィレスの一連の言葉に対し、ギルスは
「軍のトップが私に歯向かう事はあってはならない事だ!私はギルス・パリシム……平和国連盟の最高議長だぞ!国連は私の一存で成り立っている組織だ!アース将軍、貴官は所詮は軍属!軍属の貴官は私に逆らう事はあってはならないのだよ!!」
錯乱するギルスは両手で頭を抱え、歯を食い縛り、言った。
「確かに国連は平和国連盟の所属する軍です。しかし勘違いしないで頂きたいのは、この艦の責任者は私だという事ですよ、議長。」
「何をする気だ……貴官は……」
自身の野望を暴露され、目の前にいるウィレスを恨む様子のギルス。
「アッサラーム全クルー、並び国連全軍へ通達。我々はこれより平和の敵であるギルス・パリシムから離反する。合流先は、FPB。元国連の人間達が集まる場所。そこへ合流しろ。」
あろうことか、ウィレスは全軍に対し、国連を離反しろという命を下した。これは事実上の国連の敗北を意味する。それは彼女の権限によって成り立つものだった。
「き……きききききききききき……貴様ァァァァァ!!!」
後がなかったギルスは、遂に発狂。しかしウィレスはそれに構うことなく、全軍へ伝える。
「平和の逆賊がいる以上、国連がギルス・パリシムの為に戦う必要は一切必要ない。我々はFPBと合流し、エレシュキガルを止める任務がある。さあ、行け!お前達もここを離れろ!」
アッサラームクルーは困惑するばかり。そこへ、ギルスが言う。
「こいつの命令はとち狂っている!!!私は議長だぞ!?国連の上に平和国連盟があるんだぞ!?その議長が私なんだぞ!?どちらの立場が上か分かるだろう!?お前達は当然、議長の命令に従うだろう!」
ウィレスとギルスの意見が分かれた。騒然とする艦内。しかし、ある一人のクルーが声を上げた。
「アース将軍、貴方の命に従います!」
その言葉に続くように、他のクルー達も発言した。
「私も!」
「そうか、なら行け!ここに残るのはギルス・パリシムと私だけで良い!」
ここで、人望の差が明らかになった。ギルスを疑問に思う人間達がどれ程多かったことか。今回のウィレスの言葉で明らかになったのである。
パァンッ
だが、一人のクルーが突如凶弾によって倒れた。銃弾を放ったのは、あろうことか、ギルス・パリシムだったのだ。
「平和国への反乱は許さんぞ……軍は私の指示通りに動けば良いのだよ!この女の命令に従う者は殺すぞ!」
錯乱したギルスは銃を構え、クルーを脅す。もはやその光景は議長の姿ではなく、只のハイジャック犯と変わらなかった。
「逆賊め!!!」
と、ウィレスがギルスの腕を抑え付けた。
「貴様ぁ!!」
「全クルーは退避!国連軍はFPBへ合流!アッサラームは国連の戒めとして残す……」
それがウィレスの意志だ。ギルスという平和の敵をこの艦に残し、アッサラームのみを敵に仕向けるというのが、ウィレスの目的だった。
やがてクルーは皆アッサラームから脱出。残ったのはギルスとウィレスのみとなった。
「こんな事をして只で済むと思ってるのか……ウィレス・レイド・アース!!!」
「只で済む?そんな訳がないでしょうね。私も貴方に加担した存在。ならば責任は果たす必要がある!平和への逆賊として、貴方と共に沈む責務がある!」
彼女の目的は、平和の敵を作り出すこと。この場にいるギルスをはじめ、今まで偽りの平和を作り出してきたギルスに加担していたのは自分。だから、その責任を果たさなければならないという、ウィレスの目的。
だから、彼女は国連軍全体に命令した。残る敵はギルスと自分だけで、良いようにする為に。実際、アッサラームクルーの中でギルスに心酔する者は誰一人としていなかった。ギルスの人望のなさが、ここに現れたといえる。
ウィレスの発言を機に、国連軍は事実上の崩壊を始めた。いや、正確にはFPBと統合を果たしたと言うべきか。これにより、この戦争の流れは大きく変わっていくこととなる。
パァンッ
「グッ……!?」
ウィレスの肩を激痛が襲った。ギルスが、彼女の肩に対して発砲したのである。
「私を愚弄するからこんな目に遭う!ただでやられる気はないぞ……アッサラームは私が動かす!せめてさっきのアルバトスは沈めてやる……!」
と、ギルスは中央のコンピュータを触り始めた。
「何のつもり……だ……ギルス・パリシム……!」
「そこで見ているがいい!アッサラームは私の城として利用してやる!もし邪魔をするのならば今度は殺すぞ!ウィレス・レイド・アース!」
肩の負傷が酷い。思うように動けないウィレス。彼女はギルスの行動を、許してしまう形となったのだ。
アッサラームから多数のミサイルが発射される。これは、全てギルスが操っている為だ。FPBだけでない、あらゆる方向にミサイル砲撃が行われたのだ。
「狂乱したか、ギルス・パリシム。」
「アース将軍とギルス・パリシム議長が対立している……という事でしょうか。」
「あそこから放たれるミサイルは恐らく、あの男が操っている。中で何が起きているかは分からないけどね。一方の、アース将軍がどうなっているのかが気になるが……」
中の様子は分からない。ただ、狂ったようにミサイルを放ち続けるアッサラームは、先程までの明確な射撃を出来ないでいた。最早それは、只の壊れた要塞でしかなかった。
「もしこちらに照準が向けば……ジャンヌ嬢。君はどう指揮を執る?」
「出来れば、ブリッジに当てないようには砲撃命令を行いたいところですが……」
アッサラーム内にウィレスとギルスがいる状況では、彼等も攻撃に躊躇いが生じる。
何度かウィレスとは交流しており、窮地を救ってもらったこともあった。いわば恩人である彼女を撃つことは、とてもではないが出来ないのだった。
「ハハハハハ!まだまだ弾薬はある!クルーがいなくても私が操る!私の世界を作り出してやる……このアッサラームなら出来る!」
狂乱するギルスはあらゆる方向へミサイル、ビーム砲を放つ。その巨体故、エネルギー源並びに弾薬は多数搭載されており、容赦のない砲撃を繰り返す。
(このままこの男の勝手を許す訳には……)
肩を手で覆い、痛みに耐えるウィレス。その手を止めなければならないと、彼女は考えた。
(奴は最早平和の敵……私の手で……)
そう言って、彼女は取り出したのは銃だ。遂に、ウィレスはギルスに対して牙を向けることになったのである。
「貴様ァ!」
パァンッ
異変に気付いたギルスは再びウィリアの方に目掛けて銃を放った。今度は右腹部。多量の出血をするウィレス。
「ぐぅ……ぅ……」
「さあ……次はさっきの艦だ……今度こそ沈めてやる……!」
次にギルスが標的にしたのは、アルバトスだ。ギルスはコンピュータを操作し、再びプラズマカノンを展開し始めた。
「させるか……!」
が、しかし。ウィレスはそれを身を挺して止めた。上半身を使い、ギルスの腕を覆いかぶさる。それと同時にアルバトスへ回線を繋げた。
回線を受けたアルバトス。インクはすぐに傍受し、エリィに繋ぐ。
「エリィ、聞こえるか……?」
「ウィレスさん……?その姿……?」
先程と変わり果てたウィレスの姿に驚愕するエリィ。この戦争により、彼女にとっての、大切な人達の変わり果てた姿を二度も見ることになった。そして、その姿を見てギルス・パリシムに撃たれたという事がすぐに認識できた。
「アッサラームを……撃て……ギルス・パリシムの横暴を……これ以上許す事は出来ない……」
モニター越しに、出血しながらエリィに指示をするウィレス。エリィは涙を流し、答えた。
「出来ませんッ!そんな事……なんでウィレスさんが……こんな……」
デウス動乱時に、ウィレスに救出してもらった過去があるエリィ。その時にウィレスについていくような形で旧地球連邦軍へ入隊した。
戦後になり、彼女らはバラバラになった。ウィレスは国連軍に入隊し、今では将軍を務める程に。エリィはMS乗りとして世界を駆けていた。
戦後になり、両者は再会した。だがその時はエリィ達は国連の捕虜のような扱いを受けていた。立場の違いはエリィを傷付けていたのである。
再び会う機会があるとされたが、それは新生連邦本部攻略戦の時だ。その際、エリィはウィレスに会う事が出来ず、また、セイントバードのクルーの扱いの理不尽さに対し、平和国連盟への不審を募らせてしまう事になった。
ようやく会話が出来たと思えば、そこは戦場。増して、エリィは国連から独立した、言わばテロリストのような存在であるFPBの所属。両者は結局、互いに共闘する事なくこの状況を迎えてしまったのだ。
「平和に対する脅威は消えるべきだ……私も含めて!エリィ!早く撃て!」
「邪魔をするな!貴様ァァァ!!!」
ギルスはウィレスの後頭部を銃で殴りつける。その衝撃の余り、彼女は床にひれ伏す形となってしまった。
ただでさえ出血多量だったウィレス。追い打ちをかけるように容赦のない暴力を受けた彼女はそのまま動かなくなった。
「ウィレスさん!」
モニター越しで、自身の恩人が惨い事をされているにも関わらず、何も出来ない悲しみと、やり場のない怒りに駆られたエリィ。
やがてモニターはギルスによって消され、そのギルスは、コンピュータを使い、もう一度プラズマカノンを展開し始める。
「……撃つしかない……アッサラームを……撃つッ!」
エリィは、覚悟を決めた。自身の手でウィレスを、そしてギルスを葬ろうと、決意したのだ。
「プラズマカノン展開!目標、アッサラーム……」
「艦長……」
エリィの心境を察したスラッグは静かにスイッチを押す。アルバトス下部のプラズマカノンが展開され、もう一度アッサラームを狙い始めた。
「ハハハハハ!私の時代を邪魔するなら消えてなくなれェェェ!」
一方のギルスもスイッチを押す。アッサラームからプラズマカノンが展開され、エネルギーが蓄積される。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
まずは、アルバトスのプラズマカノンが放たれた。しかしアッサラームに直撃する前に、アッサラームもプラズマカノンを放つ。出力はアッサラームの方が圧倒的に上。このままでは相殺されるどころか、返り討ちにある。そうなればアルバトスは宇宙の藻屑と成り果てる――
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
アルバトスの後方から、もう一隻の艦がプラズマカノンを放った。シュネルギアだ。ジャンヌが機転を利かし、砲撃を指示したのである。
二つの閃光が戦場を駆け巡る。アルバトスとシュネルギアの放った閃光。これらはやがて一つになり、大出力のアッサラームのプラズマカノンを打ち破ったのだ。そして――
(そうだ……それでいい……エリィ……生きろ……)
「なにぃぃぃ!?う、うわああああああああ!!!」
二隻の、合わさったプラズマカノンの出力に負けたアッサラーム。その閃光はブリッジを突き破り、その巨体を貫いたのである。あまりに愚かなギルスの断末魔。それに対し、ウィレスの表情は、どこか、安らかだった。ギルス・パリシムの愚業を間近で見続け、それに苦しんだが故の、彼女の安らかな表情だったのだろうか。
アルバトスは勝利を収めた。国連の旗艦、アッサラームのブリッジは崩壊。鉄の要塞だったその艦は跡だけが残った。
これにより、FPBにとって状況は有利になっていく。国連軍が次々と合流を開始。先程まで敵対していた両者は味方として闘っていくことになる。戦況は、大きく変わっていった。先程まで四つ巴だった戦場は実質三つ巴に。新生連邦、デウス残党、FPBの三勢力が渦巻きあう状況となったのだ。
「ウィレス……さん……」
エリィはただ、悲しんでいた。自らの手で恩人を殺めてしまった事。それがあまりにも、悲しくてやるせない。しかし今は戦場。まだ敵勢力が残っている状況。涙を流す暇など、無かった。
「熱源接近!」
インクが喋る。それと同時に出現したのはアトミックガンダム。アッサラームの混乱の最中、レイがアトミックガンダムと交戦していたのだ。
アトミックガンダムは、あと一つ核ミサイルを搭載している。核ミサイルを残しているこのMSを迂闊に破壊すれば、大爆発は免れない。そこを考え、レイは周囲を見ながら交戦していたのである。
「キキキキキ……ククククク……」
しかし迂闊だった。そのアトミックガンダムはアルバトスのブリッジに向けてビームランチャーを構えている。接近を許してしまったのだ。
ズバァァァッ
しかし、それを防いだのはガーストのハイエッジカスタムだ。ネルソンをアルバトスに送り届けた後、すぐに再出撃をしたガースト。ハイエッジカスタムのビームニードルを使い、アトミックガンダムの肩部を突き刺す。
「お前の相手は俺だ!」
「ガーストさん!」
「こいつは俺に任せろ!もう、倒しても構わないからな!」
「気を付けて下さい……」
「こんな奴に殺されるかよ!」
そう言ってハイエッジカスタムはビームニードルをアトミックの肩部に突き刺した状態のまま、アッサラームの跡まで引き付けた。
ハイエッジカスタムはアッサラーム跡のMSデッキ内に辿り着く。それに引き寄せられるアトミック。ビームニードルのアンカーは強力で、何度も逃げようと試みるが、ガーストはそれを逃さなかった。
「カカカカカ!」
言葉をしゃべらないハーディ。しかしその行動は対照的に至って計算されていた。MSデッキ内の電子機器に対してマシンガン、ビームキャノン、ミサイル等の武装を一斉展開し、爆発を起こした。
やがて爆風が巻き起こり、ハイエッジカスタム内のモニターは爆風で敵機体が視覚で見れなくなる。
「ビームサーベルで来る気か!」
ガーストの頭の中で電流が流れる。そして、ビームサーベルを展開した。
彼の読み通り、アトミックガンダムはビームサーベルを展開。両機体は打り合いを行う。ビーム粒子が散り、弾けている。
「こんな奴に……負けられるかよッ!!!」
先に打ち合いを止めたのはガーストの方だ。そして、ビーム砲を一斉に展開する。だが間一髪のところを回避され、次にアトミックは胸部ハッチを展開した。
「核ミサイル……!」
ハーディはガーストを抹殺する気でいた。しかも、打ち合いをした直後の距離だ。今爆発すれば確実に死が待っている。
「逃走経路を図りながら奴を破壊するしかねぇ……ハイエッジ、付き合えよ!」
周囲を探り、僅かな隙間を見つけ、ハイエッジカスタムはスラスターを全力で展開した。それと同時に、核ミサイルは発射される。
ハイエッジカスタムは、そのミサイルに対し、ビームライフルを連射したのだ。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
核爆発による強大な爆発がアッサラーム跡の中で起きた。赤い光はMSデッキを壊滅させる。ガーストは、アトミックガンダムが核ミサイルの爆発で破壊されるように仕向けたのだ。
「ぎ……ゃ……ぁ……」
ハーディ・クオレントの断末魔はあまりに小さいものだった。瞬く間に核ミサイルの爆発に飲まれたアトミックガンダム。この瞬間、新生連邦が開発したFLCシステムを搭載しているガンダムタイプは全て破壊された事となる。その最期は、国連に利用され、その挙句、自らの切り札に巻き込まれるというあまりに呆気のない最期であった。
これと同時に、アッサラーム跡は宇宙の残骸と成り果てる。“平和”という意味の巨大戦艦は平和とは対となる存在である“核”の爆風に巻き込まれたのである。
「……間一髪……か。」
ガーストは生きていた。しかしハイエッジカスタムもダメージは負っていた。スラスターは無理をさせすぎた影響か、半分が破損している。このまま戦場にいては狙い撃ちにされると判断したガーストは、一度アルバトスへ帰還する事にした。
国連の崩壊に伴い、戦局は大きく変わる。次々とFPBへ投降する国連軍。ウィレスの意志を継ぐ彼らは、すぐにFPBの戦力として加わる事となる。
FPBに戦力が加わっていく。状況はFPBにとって、少しずつ有利に傾いていく。元々は新生連邦、国連、デウス残党の三大勢力が叩き合う中をエレシュキガル攻略をするという目的だったが、予想外の出来事により、国連の旗艦は陥落。
この状況を快く思わなかったのが新生連邦軍だ。総司令、レヴィー・ダイルはエレシュキガル内にて指示を出した。ガンダムオラトリオのエネルギー供給の最中、国連の突然の全軍停止を見て、新生連邦が不利に働くと判断した彼は、暴挙に出る。
「ネェルガルキャノンを再充填開始!50%の出力で!戦力の削減を図ります!」
彼の指示通り、ネェルガルキャノンのエネルギーが少しずつ蓄積されていく。
「充填完了!」
「発射!」
指令室にいた人間達は一斉にレバーを引き。総司令は中央にあるグリップを握り、思い切り引いた。
ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
一度放たれたネェルガルキャノンが、再び放たれた。今度は以前の比にならない威力で、新生連邦に敵対する戦力へ向けられる。
「ジャンヌ様!シュネルギアより強大な熱源を感知しました!これは……」
「全艦、射線上から離れて下さい!」
危険を予知したジャンヌはFPBの艦隊に指令を出し、ネェルガルキャノンの射線から離れるよう指示をする。エレシュキガルは国連の艦隊が集まる方向に砲身を向けており、その、7キロメートルに渡る砲門をいつの間にか向けていたのである。
FPBの艦隊は大打撃を受ける。それと同時に、デウス残党軍の艦隊も。緑色をした閃光は多くの命を吸収していく。数多の艦隊や人を殲滅するその兵器は最早、人類にとって驚異的な存在と言えた。
「国連が陥落したかと思えばこれか……厄介な要塞だよ、あれは。」
「一刻も早くあれは攻略しなければなりません。」
合流した戦力の大半を失ったFPB。一方の新生連邦の艦隊は健在だ。デウス動乱後に戦力増強を志したレヴィー・ダイルの底力を、彼らは目の当たりにすることになった。
「あの要塞の動力部に近付く事さえ出来れば……」
「近づいても、新生連邦の艦隊が張り巡らされています。」
ジャンヌの言葉に対し、ギアは目線を下に向ける。
「ここはデウス残党軍を利用するしかないか……」
「ですが、デウス残党軍も打撃を受けています。立ち直るのに時間を要するでしょう。」
「エレシュキガルの一番近くにいる機体は?」
「ツヴァイガンダムです。」
「彼に頼るしかないか。」
アトミックガンダムとの戦いの後、宙域を離れていたツヴァイはエレシュキガルの近くまで接近していた。エレシュキガルによる砲撃は全ての戦力にとって脅威となる。それを止める為にも、ここで一番近くにいるレイに希望を託すしかなかったのだ。
「レイ、聞こえますか。」
ジャンヌはレイに回線を繋いだ。
「ジャンヌさん?」
「エレシュキガルの入り口に向かうことは出来ますか?あの砲撃を止めなければ、全てが終わります。あれを止めることを優先して下さい。」
「はい……止めます!絶対に!」
ジャンヌの言葉がレイに響く。レイ自身も先程の恐ろしい閃光を見ていた。全てを包む、破壊の光。あれは撃たせてはならないと、レイ自身も直感で感じていた。
(あんな恐ろしい兵器を使わせちゃ駄目だ……あれは人を……全てを壊す光だ!止めなきゃ、僕が!)
多くの人の命を一瞬で奪う光。そのような兵器など、平和世紀と呼ばれる現代では絶対にあってはならない。今こそエレシュキガルは止めなければならない――と、レイは感じていた。そして、ツヴァイのスラスターを展開し、エレシュキガルへ近づいていく。
ツヴァイはエレシュキガルを止めんと、向かっていく。一方の新生連邦軍はそれを止める為に戦力を展開する。ディースト、ジョゼフ、エグゼマー、グランシェ。これらのMSは一斉に武装を展開するが、ツヴァイガンダムは全て破壊する。共鳴したブリッツファンネルは高出力のビームを展開し、全てを葬る。以前のレイならばまずしなかったであろう、“攻める”戦い。だが今は、攻めなければならない。そうしなければ、多くの人の命が奪われる可能性があるからだ。今のレイは、“守る”為に、“攻める”のだ。
「熱源!?」
そこへ、一筋の熱源反応があった。熱源から避けるレイ。その際、大出力のプラズマカノンがツヴァイの真横を通り過ぎたのだ。
この砲撃を避けた後、レイはモニターを見る。そこにいたのは、エファン・ドゥーリアが開発したMSである、カーティウスだった。
「やあ、レイ・キレス君。」
颯爽と出現した機体に乗るその青年。彼の声には覚えがあった。
「その声は……シーアさん?」
「そうだよ。シーア・マックスだよ。」
眼前に現れたMS、カーティウス。そのパイロットは、過去にレイと共にモントリオールのプチモビルスーツ大会にともに出場していた青年、シーア・マックス。レイは、出来ればこの男と交戦をしたくない。過去の事があるからだ。
「そこを退いて下さい!あの要塞をなんとかしないと……」
闘いたくない意思を見せるレイはシーアに訴え掛ける。
「それは君の意志かな?それとも上の命令?」
「何を言ってるんですか……?」
妙な言葉でレイを翻弄するシーア。
「いや、ちょっとね。レイ君の気持ちが気になったんだよ。俺は今は軍属で、軍の命令に従って行動している。だから、エレシュキガルを守らなきゃならないんだ。」
冷淡な言葉でレイに言うシーア。表情は常に一定で、思考を読むことが出来ない男、シーア・マックス。レイはシーアの質問に対し、答える。
「僕は……僕の意志で動いてます!」
「へぇ、それは立派だね。」
彼の言葉には抑揚がない。まるで、関心を持っていない様子だ。
「それよりもそこを退いて下さい!あの光を見た筈ですよ!シーアさん!あんなものを放っておくわけにはいかないんです!あれは全てを破壊します!そんなの……あってはならないんです!」
ネェルガルキャノンの閃光は全てを葬る。当然恐ろしい兵器だ。最早人類が扱うにも持て余す兵器と言っても過言ではない。
「退く訳ないじゃない。さっきも言ったけど、俺はここの護衛を任されてるの。軍の人間として。敵である君をみすみす通すなんて、そんなことしたら命令違反になるじゃん。」
シーアは正論を言う。が、レイはエレシュキガルの危険性を伝える。
「あんな、簡単に多くの人を殺す兵器を守るのがシーアさんの役目なんて、そんなのおかしい……おかしいです!シーアさんこそ、自分の意志でそこにいるんですか?あれが危険だって分かっていて、それでも?」
懸命にレイは伝える。シーアとの付き合いはそう、長いものではない。彼の故郷、モントリオールでのプチモビルスーツ大会で僅かな時間の中で趣味の話をした程度。
時は流れ、両者は敵同士となった。幾度か交戦し、そして今ここエレシュキガルで最終決戦を迎える。互いの戦う動機を確かめ合う両者。しかし、その差は余りにも大きいものがあった。
「危険だとは思ってるよ。重々承知。けどね、俺は新生連邦軍の所属なんだ。君みたいな子供じゃ、分からない事情があるんだよ。」
「それは何ですか?その、事情って……?」
シーアは無表情のまま、語る。
「生活、趣味、これからの人生の為に必要なモノ……それはお金。俺は生活費や趣味、それら諸々の為に軍に所属し、任務を果たしてるってワケ。」
「そんな……そんな事情で!?」
目の前の恐るべき兵器を守る理由が、“金”という発言をしたシーア。あまりにシンプルな理由に、レイはただ、驚愕する。
「レイ君。君は子供だからエレシュキガルを止めなきゃいけない、だから俺に退いてくれなんて奇麗な言葉が言える。そうだよねー、俺の所属している新生連邦のお偉いさんがこんな恐ろしいもの開発してるんだもん。誰だってドン引きするよね。」
「だって……お金って……そんなの……」
「けど生きていく上で必要じゃない。お金。俺は君の生活背景云々は詳しくは知らないけど、君だって人の子として育ってきただろう。その為に両親はお金を稼いで、生活費を稼いできた訳だ。その上で君は趣味を持っている。当然趣味をするにもお金は必要だ。俺、プラモデルは大好きだからね。」
シーアの言葉は冷たく感じられる。だが、それらは全て正論だ。しかしこの場においてこの台詞はレイにとって明らかに“異質”だった、
以前にも、金を動機に戦い続ける者達がいた。チェーニ姉妹だ。彼女らは元々貧しい生活を強いられてきた者達だ。では、今目の前にいるシーアはどうなのか。レイは聞く。
「シーアさんも昔は苦労されたんですか?ずっと……苦しんでいたんですか……?」
「え、全然普通だよ。」
シーアの返答はあっさりとしたものだった。
「別に俺は貧しい家庭に育ってもないし、金持ちの家庭で育ったわけでもない。本当に普通に育ったよ。別にデウス動乱に参加したわけでもない。本当に普通。工業学校を出て、作業用MSの操縦のバイトをしていたらなんか楽しくなってさ。」
(じゃあ、僕と同じなの……だったら、どうして……)
レイも、ごく普通の家庭で育てられた。今敵対しているシーアも、ごく普通の家庭で育ってきたという。では何故、このような意識の差が生まれるのだろうか。
「MSに興味が湧く内にプラモデルとかを沢山買うようになってさ。けどそれじゃ生活が成り立たない。この腕を活かせないかなーって思ってたら君と出会ったあの大会があったワケ。」
「そこから新生連邦にスカウトされて……?」
「うん、あれは本当に良かったよ。才能のお陰であの連邦軍にスカウトしてもらえるんだもん。お金はしっかりと貰えるようになったし、何よりも今は優秀な人の下で働けてるからね。」
“優秀な人”という言葉を聞いてレイは違和感を覚える。
「エファン・ドゥーリア。俺はあの人の部下だ。」
「エファンさんの!?」
思わず発してしまったレイ。シーアは、にやりと笑みを浮かべた。
「どうやらご存知みたいだね。有名な人だし無理もないか。あの人は凄いよ。心を見透かされてる事を言われることはあるけど、それよりも、今までに見たことのないMSの開発も出来るし、腕前も見せてくれる。それにあの人もMSの事が詳しいから、話していても飽きない。」
互いにMSに乗っていない状況ならば、この会話もそれ程違和感のないものだっただろう。増して、エレシュキガルという大量破壊兵器を目の前にしなければ、この場より平和な場所。例えばカフェテラス等でこのような会話が出来たのなら、恐らく平和的な話が出来たのだろう。
だが、今は違う。互いにMSに乗っている。そもそもMSに乗って世間話自体がおかしい話なのだ。
「ドゥーリア少佐は部下をよく見ているよ。傍に居てても思う。俺は崇拝するとかそういう感情って好きじゃないんだけど、あの人の下ならば働き続けてても良いって思えるんだ。良い上司の下で仕事が出来るのはとても幸せな事なんだよ?だから俺は命令を守ってるんだ。軍の命令を、しっかりと。」
シーアから見たエファンは憧れの象徴だ。だが、対照的にレイから見たエファンは危険の象徴。何度も命を奪われかけた。その上、多くの人間を不幸にしてきた、敵だ。
「ま、要するに俺は生活と趣味の為でもあるし、MSに乗って操縦して撃ったりして自分の才能が発揮出来るこの環境がとても合ってて幸せって事。有休消化も出来るし、しっかりと身体もリフレッシュできる。だから好きなプラモデルも作れる。尊敬できる上司もいる。実力さえあればホワイト企業だよ?新生連邦って。レイ君も才能があるんだから、改めて軍に入ればそれなりの待遇もされただろうにね。」
金。それは生きていく上で必要不可欠な存在。人々はその多くの時間を金に換える為に労働をしている。金がなければ人は生活も出来ない。シーアの言う、趣味活動さえも出来ない。
だがエレシュキガルを前にして平然と、まるで他人事のように“自分の生活”の話が出来るシーアが異様に思えたレイ。以前に出会った彼と違うのかとさえ、思えてきたのだ。
「今は明らかに普通じゃないですよね?それでもそんな話が出来るなんて!シーアさん、おかしいです!」
「俺から見たらただ働きで“使命感”の為だけに戦ってる君の方が異質に見えてしまうな。」
シーアは、“大人”だ。だがそれはあまりに“大人”でありすぎる。大量破壊兵器を前にしても自身の生活、趣味などの話を延々とできるシーア。それは普通に、生活しているだけならば何ら違和感のない言葉だが、この戦場では異質だ。
一方のレイは、“子供”だ。レイはかつて自分を“子供”扱いされるのが嫌いだった。それは、彼自身が“大人”を理解できていなかったから。様々な経験を経てここにいるレイは、しなければならない事の為に、戦う。
「だから、君に退いてくれって言われて、“ハイハイ、退きますよ”なんて言えないんだよ。」
「どうしても……退かないのなら……!」
レイは躊躇ったが、今はエレシュキガルに行かなければならない。シーアがその障害となるのならば倒さなければならない。ツヴァイはメガビームセイバーを展開し、カーティウスと戦う姿勢を見せた。
「当然、そうなるよね。」
シーアは舌をペロリと舐め、カーティウスも腰部からビームセイバーを展開した。デュアルアイは桃色に輝き、ツヴァイに迫る。
バヂィィィッ
やがて両者は打ち合いを行った。ビームセイバーの出力はツヴァイの方が上。しかし、シーアの場合、それは技量でカバーをすることが出来た。
「言っとくけれど俺から振り切ろうなんて考えは無理だからね!」
レイの考えは見透かされていた。隙を見つけてエレシュキガルへ向かおうと考えていたのが、彼の作戦だったのだが、シーアは分かっていたのだ。
「なら!」
レイの頭の中に電流が流れる。ツヴァイガンダムはそれに呼応し、ブリッツファンネルを十八基全て展開した。そして、それらを一斉に展開してカーティウスを砲撃する。
「ビーム砲撃……なら!」
ファンネルの砲撃に気付いたシーアはビームセイバーの展開を止め、両手部を差し出す形をとる。その構えにより、拡散されたビーム砲は全て防がれた。カーティウスのバリアーフィールドジェネレーターだ。
空かさず、カーティウスは腰部に搭載していた大型プラズマカノンを展開し、低出力ではあるものの、ツヴァイに向けて放つ。
熱源を察知したレイはこの砲撃を回避。だが、カーティウスは更にプラズマカノンの砲身を収束させ、ビームランチャーを連射。避けきれないと感じたレイはツヴァイの左前腕部を差し出し、バリアーフィールドジェネレーターで防いだ。
「もういっちょ。」
これもシーアの計算の内だったのか、再びプラズマカノンを低出力で展開。レイは、これもビーム兵器だと錯覚してしまい、再び左前腕部を差し出す形をとった。
「あああっ!?」
不覚だった。この砲撃を受け、ツヴァイの左前腕部は消失。ビームディフェンスシールドも破壊されてしまったのだ。
「確かカーティウスはそのツヴァイガンダムを基に作ったって少佐が言っていた。ある程度武装が似通っているところもあるってことだね。」
シーアはMSをよく観察している。何度かツヴァイと交戦した時も、彼はその全ての動きを観察していた。だからこそ、先程のような不意打ちをすることが出来たのだ。
(やっぱりこの人は強い……けど、この人からは特別な力を感じない……純粋な強さだ。)
シーアは力を持たない人間だ。しかしその技量はレイをも凌ぐ。純粋な強さがレイを襲う。
「ならっ!」
レイは次の一手を打つ。今度はブリッツファンネルからビーム刃を展開し、それら全てをカーティウスに向け、放つ。
「撃って、狙えって事か!」
次にカーティウスはプラズマカノンを展開。ビーム兵器でなく、あえてプラズマ兵器を撃ったのだ。
(見破られてる!?)
今のツヴァイガンダムのブリッツファンネルにはバリアーフィールドジェネレーターが展開されている。RBFカスタムとなっているツヴァイガンダムのブリッツファンネルはビーム射撃を弾く効果がある。が、シーアはこのファンネルに対し、プラズマ兵器が有効であることを見抜いていたのだ。
発射されるプラズマ兵器。この一撃で、ブリッツファンネル四基が破壊される。
「ビンゴだね。しかしビームが通じないサイコミュ兵器ってのは厄介だ。プラズマ兵器は大切に扱おう。」
バリアーフィールドジェネレーターを唯一貫通する兵器、プラズマ兵器。バリアーフィールドジェネレーターを持つMSの弱点と言えるそれだが、エネルギー消費も激しい。広範囲への砲撃が出来ないカーティウスは、武装面ではツヴァイと比較してハンデがあると言える。
(隙を見つけて、距離を離そう……シーアさんは強いけど、あの要塞を止めることを優先しなきゃ……)
レイはシーアとの交戦を極力避けたかった。そこには様々な思惑もあるのだが、何よりも優先するべきなのは目の前に広がるエレシュキガルを止める事。何らかの武装を使い、カーティウスの動きを止めなければと、考えていた。
(これなら……!)
その時、レイは閃いた。本来ならば、ここで使いたくない兵器、収束型ブラスタープラズマカノンを使う作戦だった。その破壊力を駆使し、シーアの目を欺く戦法を取るのだ。
ツヴァイのカメラアイが輝く。それと同時に、背部の砲身が前面に展開され、二門のそれはカーティウスに向けて放たれた。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ
「まさか、そんなっ!」
急な砲撃に困惑するシーア。急いで避けるが、左腕を掠れてしまい、破壊されてしまった。
そして、その隙にツヴァイはエレシュキガルへと向かったのである。
「レイ君、逃げられると思わない事だ。」
シーアの目つきが変わる。カーティウスはプラズマカノンを展開、それも最大出力で放出使用していた。狙いをツヴァイガンダム一機に絞り、狙い撃った。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ
「後方から!?こんな、短時間で!?」
怯ませたはずなのに、すぐにプラズマカノンを放ったカーティウス。シーアが上手くコントロールをし、狙い撃ったのだ。
幸い、この砲撃を回避する事は出来た。しかし、その隙にツヴァイはカーティウスを、至近距離まで接近を許してしまう事になる。
「隙アリだ!」
カーティウスのディアルアイが輝く。ビームセイバーを展開し、一気にツヴァイへ迫った。
「クッ……!」
空かさずツヴァイもメガビームセイバーで応戦。再び両機体は鍔迫り合いを行う。
が、今度はカーティウスが攻めた。両足部のクローを展開し、至近距離からのビーム砲撃を行ったのだ。
「ううっ!」
ツヴァイガンダムの両大腿部にダメージを負う。トリッキーな攻撃を続けるカーティウスに、レイは苦戦していた。
「カーティウスは零距離でもその強さを発揮するんだよ。砲撃用武装ばかりじゃないってコトだ。」
「こんな……こんなのに!」
振り払おうとするツヴァイ。しかしカーティウスは攻撃を止めない。
「ああ、楽しいよレイ君!俺、凄くやりがいを感じてる!仕事する上でこれだけやりがいを感じて仕事できるなんて俺は幸せ者だ!」
「シーアさんはただ、楽しんでるだけだ!この状況でそんなのはおかしいです!」
「おかしくなんてないよ!俺は正常だ!MSに乗っての戦い、そして互いのMSの駆け引き!武装の見極め!これこそがMS戦の真理!」
両者は戦っている内に、シーアは気分が高揚していた。この気分の高揚は非常に危険であり、レイにとっては命を奪われる危険さえ感じていた。
「それに俺が勝てばあの人も喜んでくれるしね!少佐の傍で更にやりがいのある仕事をしたい!そして、MSをもっと知るんだよ!その為にも君にはここで死んでもらうからね!レイ君!!」
死。よりにもよって、かつて仲良く話していた人間によってもたらされたその恐ろしい言葉。レイはより一層、意識をした。
―――――――――――――君にはここで死んでもらうからね――――――――――――
シーアの言葉がリフレインされる。“死”という、言葉が、何度も。
――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――
レイは覚醒した。死を意識したからか、彼の眼は深紅に染まる。それと同時に、レイ自身の身体が輝きだした。イズゥムルートによる輝きである。
「ぐうう!?何だ、気力が……なんで、こんなの!?」
シーアはMSの観察は得意であり、機転を利かした攻撃を得意とする。しかし、彼はパイロットの特性等を見ることに対しては不得手だった。レイがアドバンスドタイプの力を持っているという事は、彼は知らなかった。それ故の、信じ難い光景。
「レイ君……君は何者なんだよ!?シンギュラルタイプってやつなのか……?これが……」
“シンギュラルタイプ”という言葉は比較的有名だ。戦争などの非日常の経験や、死に直面した経験のある人間が何らかの形で覚醒する事があるというのが通説とされている、シンギュラルタイプの存在。レイはシンギュラルタイプではなく、それらを凌駕するアドバンスドタイプの力を持つ存在ではあるが。
シーアはこの時、初めてレイに恐怖を抱いた。自分を困惑させる力を持つレイの存在。今までにない奇妙な感覚。シーアは、冷や汗を搔いていた。
「た……例え君がシンギュラルタイプだったとしても!俺は!」
明らかに先程よりも焦りが見られるシーア。その証拠に、彼は一度ツヴァイから距離を置く事にしたのだ。
彼の場合、碧色の光を浴びても完全に戦意が失われていない。もしかすれば、それは個別性によるものかも知れない。通常の人間とは異なる特性、ある種の特異体質の持ち主だからこそ、完全に戦意を失われていないのかも知れない。
しかしこの光による影響を受けてしまっていたシーアは、ツヴァイのブリッツファンネルが後方から射撃を行った事に、一瞬判断が遅れてしまった。
「武器がっ!クソッ!」
腰部にマウントしていた唯一の射撃武装が破壊された。これで、カーティウスの武装は本体に内蔵している兵器のみとなる。
「武装が減れば機動性も上がるんだよ!」
と、カーティウスは足部を変形させ、ビーム砲撃を行った。それに反応したレイはツヴァイの右前腕部を差し出し、バリアーフィールドジェネレーターを展開。ビームを無効化する。
「近付いたっ!」
接近戦を試みたシーア。足部のクローにビームセイバーを二つ装備し、ツヴァイへ迫る。
近接戦闘になる為、まずツヴァイは牽制用にメガマシンキャノンをカーティウスに撃つが、カーティウスの装甲ではダメージを与えられない。
「今度こそ……貰うよ!」
足部クローに装備しているビームセイバーで、ツヴァイガンダムに攻撃を仕掛けようとした時――
ズバァァァァァ
二基のブリッツファンネルが、ビーム刃を展開し、カーティウスの脚部を破壊。更に、ツヴァイはメガビームセイバーでカーティウスの両肩部の切断も成功した。
そして、全てのブリッツファンネルを展開し、その砲門をカーティウスの本体へ向ける。達磨状態になったカーティウスは、もう、何も出来なかった。
「ハッ……!」
この時、レイの眼が元に戻る。気が付いた時、勝敗は決したようなものだった。
何故ならば、カーティウスの周りをブリッツファンネルと、コクピットの前をツヴァイのメガビームセイバーが展開されていたからだ。
「はは、完敗だ。一瞬の隙を突かれたね。達磨になっちゃ何も出来ない。」
シーアは、笑いながら両手を上げた。
「機体云々よりさ、君自身の強さに俺は負けちゃったな。あーあ、あの変な力みたいなやつは反則だよね。」
やれやれ、と言った様子でシーアは語り続ける。
しかし、ツヴァイは全てのブリッツファンネルを元の基部に戻した。同時にメガビームセイバーの展開も止める。
「あれ、殺さないの?敵だよ?俺。」
シーアの問いにレイは答える。
「嫌です……シーアさんを殺したくない……」
レイは、涙を浮かべた。堪えていた思いが、溢れ出てきたのだ。
「だって……シーアさんは軍の命令でこれを守ってただけでしょ……今、その機体は僕が壊した……もう、無駄に殺すとか、そんな事する必要なんてないですよ!」
敵同士だった両者。しかし、僅かな時間でも同じ趣味を通して語り合ったことのある両者。それを思い出していたレイは、シーアを殺すという選択肢を取らなかった。
「生きていれば、またプラモデルだって作れますよ……ここで負けたって、生きていたら……だから僕はシーアさんを殺さない。シーアさんには趣味を楽しんで欲しいんです。僅かでもあの時喋った時間は楽しかったから……」
モントリオールのプチモビルスーツ大会での一時でしか出会わなかった彼等。その時の思い出が今、鮮明に蘇る。
「甘いね、レイ君。そんなのでよく今まで戦い抜けられたね。」
シーアは下を向きながら、静かに口を開いた。
「戦場において敵を前にしての逃亡ってさ、普通は死刑なんだよね。君という敵を前にして、みすみす生き残っても結局俺はいずれ軍に捕まって殺されるんだよ。」
「シーアさん、何を言ってるんですか……?」
シーアの言葉がレイに突き刺さる。
「君に負けた時点で俺に未来はもうないって事さ。プラモデルも作る事さえもう許されないって訳よ。」
カチッ
そう言ってシーアはスイッチを押した。その瞬間、カーティウスのモニターにタイマーが表示される。“10”と記載されているそれは一体それは何を示すのか。
「君は俺に勝った。なら、その先に行く権利がある。行くなら行けばいいよ、エレシュキガルに。」
「シーアさん、さっきから何を言ってるんですか!?」
シーアの言葉の理解が出来ないレイ。シーアは、静かに笑いながら言った。
「カーティウスはもう間もなく爆発する。敗者の末路ってやつさ。」
「え……なんでそんな……そんな事する必要なんて!」
「だから言ってるじゃん。敗者は死ぬしかない。それが戦争なんだよ。俺の未来はもう決まった。だから、潔く死ぬ。もう間もなく爆発するよ。じゃあね、レイ君。幸運を祈ってるよ。」
それと同時に、カーティウスはツヴァイの後方へとバーニアを展開し、移動した。まるでそれは、爆発にツヴァイを巻き込まないようにする為の配慮にも見えた。
「シーアさんッ!」
彼の気持ちに呼応するかのようにツヴァイも右前腕部を伸ばした。が、既にカーティウスは彼の視界から届かない場所に居たのだ。
そして、カーティウス“だったもの”は瞬く間に光を放った。爆発し、宇宙の藻屑と成り果てたのである。
「こんな状況じゃなかったらさ……もっと……仲良くしたかったなぁ……」
それが、シーア・マックスの最期の台詞となったのだった。
辛うじてシーア・マックスの駆るカーティウスを撃破したレイ。だがレイは悲しみに暮れていた。本当に、シーアは死ぬ必要があったのだろうか……と、ただ、思い続けた。
「僕は……僕は……行かなきゃならない……みんなの為にも……シーアさんの為にも……」
シーアが最期に放った言葉を思い出すレイ。
―――――――――君は俺に勝った。なら、その先に行く権利がある―――――――――
―――――――――――――じゃあね、レイ君。幸運を祈ってるよ――――――――――
シーア・マックスは死んだ。戦争の犠牲者となったのだ。レイは、改めてこの戦争を早く終わらせなければならないと、決意を固めた。悲しみを糧にし、レイはツヴァイを駆り、エレシュキガルに突入を開始したのであった。
平和世紀と呼ばれたこの時代ですら、人々は戦争をし、命のやり取りをしている。この戦争の結末は、どのような形を迎えるのか。地球圏の勢力が揃った最後の戦いは、まだ終わりそうにない。
第百七話、投了。
ギルス・パリシムは馬脚を現して倒され、そしてレイはシーアとの決着を着けた――