機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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エレシュキガルに突入するアレンとレイ。そこで繰り広げられる戦い。そして、真実とは――


第百八話 EVEの因子

 エレシュキガルを巡る四つ巴の激しい戦闘は混迷を極めていた。この戦いで多くの命が失われた。新生連邦、国連、デウス残党、FPBのそれぞれの勢力に所属した人々は、一つ、また一つ命を落としていく。

 その最中、国連の最高部隊の将軍であるウィレス・レイド・アースがギルス・パリシムを平和の逆賊と名指し、全軍にFPBに合流するように命令した。その結果、ギルスの逆鱗に触れ、重傷を負う羽目に。しかしウィレスはエリィに対し、アッサラームを撃つよう指示。結果、アッサラームはアルバトスとシュネルギアの連携により壊滅。ウィレスと共に、平和の敵であったギルス・パリシムは消え去った。

 その結果、現在は三つ巴の戦いになった戦場。しかしこれに危機感を抱いたのが新生連邦総司令、レヴィー・ダイル。彼はエレシュキガルのネェルガルキャノンを展開し、国連、デウス残党軍に対して発射。大打撃を与える結果となった。

 この危険な要塞は一刻も早く攻略しなければならないと判断したギア・ジェッパーはジャンヌを通じてツヴァイガンダムへ、エレシュキガルに向かうよう指示。が、そこへ立ち塞がるのはシーア・マックスが駆るカーティウスだった。

 激戦の末、レイは勝利を掴む。そして、シーアは自らの死を選んだ。悲しむ間もなく、レイはエレシュキガルへ向かうのであった。

 

 

 レイがエレシュキガルへ向かっている最中。新生連邦の旗艦、バンドレッド率いる艦隊がFPB艦隊の前に立ち塞がる。ジーク・アルナスが指揮するこの巨大戦艦はFPBの脅威として立ち塞がったのだ。

「一斉射撃を開始せよ!何人たりともこのエレシュキガルに近づけるな!」

ジークが指揮をした直後、艦隊は一斉にビーム砲撃を行う。

「こちらも負けてられないね、ジャンヌ嬢。」

「ええ、シュネルギアも応戦して下さい。」

シュネルギアのビーム砲が展開される。更に、それに続くようにリューチェ級宇宙巡洋艦がビーム砲撃する。この撃ち合いで新生連邦、FPB両勢力の艦は次々と撃沈されていく。

 

 後方で待機しているデウス残党軍の旗艦、アシュタル艦は新生連邦、FPBの艦隊の激突を静観していた。先のネェルガルキャノンの砲撃で大打撃を受けているデウス残党軍。国王の乗るこの艦が前進するのは、危険だと判断した為である。

「この状況は、不利か……」

デウス皇帝、ナジェラ・メリクリファーが静かに言った。

「あの要塞を攻略しない限りは我々に勝ち目はあるとは思えません……」

デウス残党軍は以前に新生連邦の月面基地、シン・ナンナに対して奇襲を掛けることに

成功している。が、奥の手ともいえる新生連邦の兵器、エレシュキガルが予想外の破壊力を持っていた為、迂闊に前線に出ることが出来なかったのだ。

「あの男はどうしている?」

“あの男”とは、メイド・ヘヴンの事だ。

「相変わらず、暴れまわっております。聞けば連邦の戦艦を既に三十隻は撃墜しているとか。」

鬼神の如きメイドの強さ。それを聞いたナジェラは

「恐ろしい男だな。やはり今はあの男がデウスの要か……」

デウス残党軍の傭兵として活動しているメイド。彼の駆るデスゲイズの凄まじいスペックは彼自身の破壊衝動と相まって、圧倒的な強さをこの戦場で発揮していたのだ。

「あの要塞の陥落を待つ必要があるかも知れんな。」

「あの男に託されるのですか?」

現状、デウス残党軍の主な戦力は数十隻のバディウスの改修型の巡洋艦とデスゲイズぐらいが主な戦力である。インベーションユニットの司令官であるアルメス・ラグナはネルソンとの激戦で戦死しており、その戦力も多くはなかった。貴重な戦力を、デウス軍としては展開する訳には行かなかったのである。

 

 両艦隊の撃ち合いが終わった後の事だった。

「中将!こちらに接近する熱源あり!」

「何!?接近を許したのか!?」

高速で接近する一機のMA。それは怪鳥の姿をしており、高速で接近していたのだ。

 やがてそのMAはMSに変形。獲物を捉えたかの如く、モノアイを輝かせた。

「大物ゲットォォォォォ!!!」

デスゲイズはそのまま腹部からメガビームカノンをバンドレッドのブリッジに放出。瞬く間にブリッジ内の人間達は光に包まれた。

「うぉぁぁぁぁぁ……」

新生連邦の旗艦、バンドレッドが破壊された。指揮官であるジーク・アルナスもデスゲイズの砲撃によって消え去ったのである。これにより、新生連邦軍の事実上の二番手とされる人物の存在が消え失せた。

「っしゃああああ!ボーナスもっと弾めよデウスさんよォォォォォ!!!」

戦いを楽しんでいるメイド。彼にとって、この戦場はこの上ない娯楽会場と言えたのである。

 

 

 エレシュキガルへ向かうレイ。その最中、彼は後方から迫る熱源を察知。識別信号は味方のものだ。

「レイ、大丈夫か?」

「アレンさん!」

ツヴァイに並ぶように、アレンのブライティスが並んだ。彼もこの激戦を戦い抜け、今レイと合流したのである。

「今エレシュキガルに行けるのは俺達しかいない。あの砲台のコアを破壊すれば、脅威は止まる。ツヴァイの左腕がやられているけど大丈夫か?」

「はい、なんとか……ファンネルも四基破壊されちゃいましたけど、まだやれます!」

「無理はするなよ、何かあれば俺がフォローするから。」

要塞内にはどれ程の戦力が備わっているのかは分からない。その戦力を、たった2機で突入するという状況は明らかに不利だ。しかしエレシュキガルは脅威の存在。この存在を止めなければ、勝利はないのだ。

 

ピキィィィ

 

「来る!?」

アレンとレイの両者の頭の中に電流が流れた。それと同時に、エレシュキガルから無数のブリッツファンネルが迫ってきたのだ。ソフィアによるサイコミュ・ルーラシステムであった。

「どこからの攻撃何ですか!?」

回避しながら、ツヴァイはバスタービームライフルで一基ずつ、確実に撃ち墜としていく。

「恐らくあの要塞からだ!レヴィーめ、まだこんな事をさせて……!」

アレンはこの攻撃が一人の少女によるものという事を分かっていた。だからこそ、余計に怒りを覚えていたのである。

「一斉に墜として中にいくしか……!」

アレンの頭に電流が流れた。そして、ブリッツファンネルとブラスターファンネルを一斉に展開。ビームを乱れ撃ちしたのだ。

 この砲撃により、ブリッツファンネルは破壊された。数が減ったことが機会となり、ツヴァイとブライティスは改めて、エレシュキガル内部へ突入したのである。

 

 

 エレシュキガル内部に突入したツヴァイとブライティス。中に武装はなく、通路を進んでいく両機体。目指すはネェルガルキャノンのコアユニットだ。そこを破壊すれば、ネェルガルキャノンの脅威は止まる。そうなればFPBに勝機はある。

 道中、新生連邦のMSが彼らの行く手を阻む。ディースト、ジョゼフ等のMSがビームライフルを構え、狙い撃つ。しかしこれらの機体ではツヴァイ、ブライティスに歯が立つはずがなかった。

「アレンさん、何か感じませんか?」

移動している最中、レイが言った。彼は、妙な感覚を覚えていたのだ。

「……ああ。レイの言いたいことは分かるよ。ずっと感じる、妙な感覚……悲しい感じだ。これは一体……?」

力を持つ者同士が感じる、“違和感”。そして、その感覚は同じ方向から感じていた。

「まずはそこに行ってみるか。何か、手掛かりが掴めるかも知れない……」

「はい。」

広大なエレシュキガル内を闇雲に移動してもどこにコアユニットがあるのかは分からない。両者が互いに感じる、“違和感”の正体を探る為、まずは移動を試みた。

 

 移動している最中も新生連邦のMSは迫ってくる。エグゼマー、グランシェといったMSが両者を襲う。しかし、ブリッツファンネルといったサイコミュ兵器がこれらを破る。

 しばらく移動していると、MSの格納庫らしき場所に辿り着く。彼等が感じる、“違和感”はMSでは入りきらない場所にあった。

 やがて二人はMSを降り、その先へ向かう。白兵戦も考えられた為、銃を持ち、移動する。途中、兵士が銃撃をしてくる事もあったが、アレンがそれを察知し、銃で迎撃。レイはその後ろを付いていく。

「この部屋か……?」

「僕も感じます。何だろう、この感じは……」

とある、一つの部屋に辿り着いたアレンとレイ。両者は静かに頷いた後、自動ドアを開いた。

 

 部屋の中は誰も居なかった。薄暗い部屋だ。太いケーブルらしき線が幾多に分かれている。何かのコントロール室のようなものか……と、アレンは感じていた。

「アレンさん……あれって……?」

「あれは……?」

目の前に広がる光景。それは、ある一人の少女が特殊な機械を頭部に付けられ、座っている光景。その周りにあるのは、幾多ものケーブル。そして、ケーブルは時折奇妙な光を発している。

「うぅ……!」

少女は声を上げた。僅かだが、苦しそうな声を上げる。

「とにかく、あの人を助けないと!」

そう言って、レイが走った時だった。

 

パァンッ

 

レイの足元を、銃弾が刺さる。急いで振り向くと、そこに居たのは新生連邦総司令、レヴィー・ダイルだったのだ。

「ソフィアには指一本触れさせませんよ。アレン。それにレイ・キレス。」

「レヴィー……」

先程宇宙で交戦していたアレンと総司令が、今度はエレシュキガルのある部屋にて対峙した。総司令は銃を構え、静かに狙う。

(この人が新生連邦総司令、レヴィー・ダイル……こんな端正な顔立ちの人が、どうして……)

レイは総司令と戦場で何度か交戦したり、会話する事はあった。が、彼が実際に生身で対面するのは初めてだった。この時、レイは総司令から感じる妙な焦りを感じていた。総司令の表情は無表情だが、その裏に感じる感情。これは、何を示すのかは分からなかった。

「彼女はエレシュキガルの要になっています。何をする気かは分かりませんが、邪魔はさせません。」

総司令は、銃を充填し始めた。

「あの子は何者なんだ?お前、一体何を考えている?」

総司令とアレンが交戦した時、声が聞こえた。総司令を呼ぶ、声。アレンはその声を聞いていた。だからこそ、彼はソフィアの事を分かっていたのだ。

「新生連邦の勝利です。その為に、エレシュキガルがある。そして、ソフィアの存在も……ソフィア、敵艦隊へサイコミュ・ルーラシステムを!」

総司令はソフィアに声掛けする。すると、頭部の特殊な機械が光を放つ。

「レヴィー、これは何なんだ?サイコミュ・ルーラシステムだと……?」

エレシュキガルを防衛する為の、ブリッツファンネルを稼働させる為の兵器、サイコミュ・ルーラシステム。そのコアユニットと化しているソフィア。

「まさか……まさかお前っ!」

アレンは察した。間違いなく、ソフィアは利用されていると。この時、彼は既視感を覚えた。

 以前に彼が交戦した、リノアス・クリストルである。ヴァイダーガンダムに乗って破壊の限りを尽くした少女。だがそれは、特殊強化モデルという悲しい事実があり、彼女もまた、新生連邦の高官に利用されていただけに過ぎなかったのだ。

 アレンはそれを思い出した時、怒りを感じたのだ。

「ふざけるな!!!お前、それでも人間かよ……何がお前をそこまでさせるんだよ!!!」

新生連邦の勝利の為にソフィアを利用する総司令。その為に使われるサイコミュ・ルーラシステム。

「これにより、無数のブリッツファンネルが展開されます。エレシュキガルの守りは完璧ですよ。この完璧な守りなのに、まさか侵入されるとは、思いませんでしたが。」

一人の少女が、機械と同化しているような形。それによるサイコミュ兵器の稼働。それは明らかに異質で、奇妙な光景だ。レイも違和感を覚えて仕方がない。やがて彼もアレンと同じように、怒りの感情が込み上げてきた。

「なんで……どうしてこんなことが出来るんですか……人間の扱いなんかじゃないですよ……こんな事、どうして平気で出来るんですか!?」

精一杯の怒り。が、総司令はそれをあざ笑うかのように言った。

「勘違いをしないで欲しい。彼女は自分の意志でそこに居るんですよ。新生連邦の勝利の為に。ねえ、ソフィア!」

総司令の声掛けに、サイコミュ・ルーラシステムを装着しているソフィアは、静かに頷いた。

「一度動きを停止した時は慌てましたが、鎮静剤を処方すれば再び稼働できました。やはり、彼女は素晴らしいシンギュラルタイプ。強化モデルの力を借りなくとも、純粋な力でこの要塞は保たれる!その力は絶対です!エレシュキガルはやらせない……絶対に!!」

「自分の意志とか関係なく、そもそもこんな機械に座らせる事自体がおかしいですよ!貴方の事を慕ってたんだと思いますよ、その人は……けど……けどね、それでこんなことをさせて、心が痛まないんですか!?人間の心は無いんですか!?勝つ為とか言ってますけど、貴方はその為に人間を捨ててますよ!!!」

レイの怒りの声が響く。が、総司令はそれをあざ笑うかのように言った。

「僕は今までの地球連邦軍の甘さ、愚かさが昨今のデウス軍のような地球の脅威を作り出したと考えています。先のデウス動乱では辛うじて連邦軍が勝利を収めました。しかし、地球圏にはいつ、何時その脅威が現れるか分かりません。その為には軍備を徹底的に増強しなければなりません。彼女もその為に戦ってくれている。」

総司令の言葉は冷たい。あくまでも、ソフィアは自分の意志で戦っているという事を強調している。

「今すぐこの機械を外して下さい!こんな酷いこと、許される筈が――」

と、レイが言った時だ。ある、一人の男の声が聞こえた。アレンでも総司令でもない、一人の男の声。

「その機械を外す事は許されない。でしょう?総司令。」

その男はエファン・ドゥーリアだった。銃を持ち、アレンとレイに向けている。

 エファンが部屋に入ったことにより、アレンとレイの両者は奇妙な感覚に陥る。

「エファン・ドゥーリア……!」

アレンにとって忌むべき敵が現れた。最愛の人を殺した男。パイロットスーツ越しとは言え、その鋭い目で両者を見る。

「彼女にはそこに居て貰う必要がある。」

「そうだ少佐!しかし貴方はどうしてここに?カタストゥリアは?」

総司令にとっては心強い存在であるエファン。が、何故ここにいるのかは分からない。カタストゥリアで交戦しているとばかり思っていた為、疑問を抱く。

「ソフィア・ブレンクスはそこで、その体力、精神が尽きるまで。つまりは死ぬまで動くことは許されない。新生連邦が勝利を収めるまで、サイコミュ・ルーラシステムは稼働をし続ける。違いますか、総司令?」

エファンは総司令に聞いた。この時、彼は何も喋ろうとしなかった。ソフィアの前で、何も話すことが出来なかったのだ。

「し……ぬ……?私は……?死ぬまで……?」

その時、機械に接続されていたソフィアが反応をした。その表情は次第に苦しく、やがて呼吸が早くなっていく。

「レヴィー……様……私は……役に立ててます……よね……?死ぬまで……なんて……?」

ソフィアは健気な少女だ。総司令の側近として傍にいた。その想いは恋に近い物があった。そして、添い遂げたいという気持ちさえあったのだ。

 だが、“死”という言葉を聞いた時に彼女の表情は一変する。エファンの冷酷な言葉にも反応しない総司令にも、彼女は違和感を覚えていた。

「レヴィー様……なんで……答えないんですか……私は……うう、私は……」

その言葉とともに、ケーブルが再び光を放つ。恐らく、外ではブリッツファンネルが荒ぶるように動き回っているのだろう。サイコミュ・ルーラシステムにより彼女の感情や意志が、そのまま外のブリッツファンネルの動きと連動しているのだ。

「レヴィー……はやく外せよ!彼女はお前の事をこれだけ想っているんだろう!?お前に人間の心があるなら、こんな酷い事をする必要なんてない!これでも彼女の意志でこの機械と繋がっているって言えるのか!?」

愛するココットを失ったからこそ、アレンの言葉は重い。総司令はこの言葉を聞き、歯を食い縛った。

「彼女の意志は新生連邦の為の意志だ!その為なら彼女は死ぬ事さえ厭わない!!!」

この台詞は、長い間傍にいたソフィアを裏切る言葉となる。エファンによって妙な煽り文句を言われ、冷静さを失っていた総司令。その中で出た言葉が、この、冷たい言葉だった。

「違う……私は……レヴィー様の為に……ああ……あああああ!」

困惑するソフィア。頭を左右に振り、苦しみ続ける。それに対しても、総司令は

「ソフィア!鎮静剤を飲むんだ!」

と、あくまでも彼女の事を想わない言葉を放つ。そして、鎮静剤を彼女の口に入れようとした時だった。

 

ガシッ

 

その手を掴んだのはアレンだ。彼は今、怒っている。これで明らかになったのは、総司令がソフィアの事を戦争の道具にしか見ていないという事だ。最終決戦の前にエファンがソフィアに耳打ちしていた言葉が現実となったのである。

「お前はもう、人間ですらなくなったか!」

「放して下さい!彼女は困惑している!だから鎮静剤を!」

「そのまま戦わせ続けるのかよ!彼女を!お前の事を想い続ける彼女は、お前に裏切られたんだぞ!!こんな悲しい事があってたまるか!」

「……戯言を!」

そう言ってアレンの手を振り払った。

「今は戦争です。貴方のそんな戯言など、聞く価値にもない!この状況下で己個人の感情で動くもの等必要ありませんよ!」

再び、総司令はソフィアの口に鎮静剤を含ませる。彼女は何も言わず、静かに飲み込んだ。

 完全に、総司令の道具と化したソフィア。総司令の事を慕っているという事実があるにも関わらず冷徹な様子で見下す総司令。アレンとレイは、この男の異常性に怒りを覚える。

「感情のコントロールが出来ない点ではソフィアは強化モデルよりも劣っている。“好意”等という下らない感情がサイコミュ・ルーラシステムの邪魔をするなど。いっそ彼女を強化するべきだったかー」

「ドゥーリア少佐……!?貴方、心を……?」

突然、エファンは総司令の心を読んだ。そして、あろうことかわざと口に出したのである。

「ぐううう……ぐう……あああああああああああああ!!!」

鎮静剤を処方したにも関わらず、ソフィアは更に苦しみ始めた。総司令の本心が、エファンを通して聞こえる。余裕のない総司令の冷酷な言葉は、彼女を更に追い詰めたのだ。

「どうやら限界も近いようですよ、総司令。いっそ違う人間を用意しますか?強化モデルは確か何人かエレシュキガル内に居たはずですが。」

まるで、煽るかのように総司令に声を掛けるエファン。

「いや、まだですよ!ソフィアはまだやれる……ソフィア!頑張れ!!」

今更のエール等、彼女に聞こえるはずがない。最愛の人間だった存在に裏切られるような言葉を聞かされたのだから。

「嫌……嫌……レヴィー様……レヴィーさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

その時、激しい光が機械を覆った。その直後だろうか。ソフィアは、ぐったりと動かなくなる。

「ソフィア!?」

俯いた状態のまま、動かないソフィア。特殊な機械を装着された状態のままだった。

「……脈がない……?馬鹿な!動け、ソフィア!この状況でどうして!?

この、重要な局面でこんな……この、役立たずが!!!

総司令、レヴィー・ダイルの為に自らサイコミュ・ルーラシステムを装着し、エレシュキガルを守っていたソフィア・ブレンクス。しかし実際は彼に戦争の道具としてしか見做されておらず、アレンとレイが潜入した際にも、ソフィアが聞こえているにも関わらず戦争の道具としての発言をし、最終的にはエファンによって心の内を暴露された。

結果、サイコミュ・ルーラシステムによって疲弊していたソフィアの精神は完全に崩壊。慕い、愛していた存在に裏切られた衝撃は計り知れないものだったのだ。

 そして、最終的に浴びせられた言葉は、“役立たず”。ソフィアの最期は、これ程までに悲しく、儚いものだった。

「サイコミュ・ルーラシステムはもう駄目か……クソッ!」

ソフィアが死に、防衛機能を失ったエレシュキガル。総司令は、次の行動に移る為、その部屋から去ろうとする。

「待て!レヴィー!」

アレンは、総司令を追い掛ける。だがその際、レイはエファンの方を見ていた。

「レイ・キレス。私に何の用かな?」

エファンから放たれるプレッシャー。それに緊張を感じつつも、レイは負けずに対応した。

「どうして、あんな事を言う必要があったんですか。あの人が酷い事を思っていたとしても、あれを言う必要なんてないです!貴方の目的は、一体何ですか……これじゃあ仲間を殺しているようなものですよ!」

今までのレイならばそのような発言はエファンに出来なかっただろう。が、今のレイはエファンに言葉を発することが出来る。それは、彼自身の成長があったからだ。

「それをお前に言って何になる?アレン・レインドが行くぞ。追い掛けなくて良いのか?」

「行きますよ。けど、貴方こそ僕をここで殺すんじゃないんですか?生身の僕を。」

以前ならば殺される恐怖に怯えていたレイだったが、今は違う。寧ろ、自分が死ぬ事も覚悟しているような口ぶりだ。

「お前はいつでも殺せる。ここで殺す必要はない。」

と言った時、レイが握り拳を作り、言った。

「僕は、貴方の本当の目的が知りたいです。何の為にこんな事をしているのか。同じ“アドバンスドタイプ”として。貴方の事が知りたい。それが僕の事にも繋がるかも知れないと、思うから……」

それは何を示すのか。彼はこの時、エファンが以前に言った言葉を思い出しながら言ったのだ。

 

―――――――――――お前の中に、EVEが居る事が憎くすら感じるよ――――――――

 

この言葉の真意が、知りたい。それは何を示すというのか――

 

ドオオッ

 

爆発の音が、聞こえた。恐らくこの場でエファンと会話をしている余裕は、ない。ならば急がなければならない。エファンとの会話をする事が出来ないまま、レイはこの場から、去って行く。

(すぐに分かるさ。もうすぐにな……)

この男が見せるこの言葉の真意は、果たして何を示すというのか。

(その前に、まとめて相手をしてやろう)

 

 

アレンは総司令、レヴィー・ダイルを探した。しかし、彼は見失ってしまう。やがて後ろからレイと合流した。総司令を見失った今、彼等はどうすれば良いか、迷う。

「今は脱出するしかないです。エファンさんにも見られた以上、ここに長居していても僕等が危ないです……」

レイはアレンに提案した。

「あの砲台のコントローラーがせめて見つかれば状況は変わったのに……」

元々エレシュキガルへ突入したのはネェルガルキャノンを止める為だった。しかし、彼等は違和感を覚え、その違和感の元へ向かった結果、ソフィア・ブレンクスが特殊な機械でサイコミュ・ルーラシステムを操っている光景を目の当たりにしただけだ。しかし彼女は精神的なショックを受け、死を迎えた。何も得られるものがないまま、彼等は一度エレシュキガルを脱出する事になる。

 

 銃を構える兵士達からどうにか逃げるアレンとレイ。そして、ツヴァイとブライティスがある格納庫まで戻ることが出来た。結局、彼等がエレシュキガル内で得られた情報は、サイコミュ・ルーラシステムが停止したという事だけだった。

各々のコクピットに乗り込み、エレシュキガルから離れる両者。しかし――

「熱源!?」

「速い!?」

一機のMSが、ツヴァイとブライティスに迫っていた。漆黒のMS、カタストゥリアである。エファン・ドゥーリアが生身の二人を見送った後、すぐに追い掛けてきたのだ。

「侵入者を片付けるには丁度良い。さあ、仕留めよう。ガンダムタイプを。」

 

ゴギュオゥゥゥゥゥン

 

カタストゥリアのデュアルアイが怪しげに輝く。指型のマニピュレーターを屈曲させ、

獲物を狩る為に、迫る。

 

指令室に逃げていた総司令はエファンに対して通信回線を開いていた。エファンの事を主力として扱っている総司令。最早、彼にとってエファンは頼れる戦力以外の何者でもなかったのだ。

「ドゥーリア少佐、彼等を追い掛けて下さい、私も後から追い掛けます!ネェルガルキャノンは次の充填を開始して下さい!サイコミュ・ルーラシステムがない今、あの砲撃で国連を……デウスを殲滅します。」

エファンは静かに頷き、対応した。彼に声を掛けた後、総司令はすぐに指令室から去る。彼の愛機、ガンダムオラトリオに搭乗する為だった。そのついでに彼は、再びあの恐るべき兵器、ネェルガルキャノンの展開を命じたのだ。

 

 カタストゥリアはブリッツファンネルを全て展開。一基ずつ、確実にガンダムタイプ達を襲う。エレシュキガル内を逃げるアレンとレイ。狭い環境の中、カタストゥリアのブリッツファンネルがビーム刃を展開し、迫る。

「この狭い要塞の中じゃ不利だ!一度宇宙空間へ逃げないと!」

容赦のない攻撃が迫る。辛うじて回避を続けるブライティス。

「逃がすな……と総司令から言われているのでなッ!」

カタストゥリアはブリッツファンネルを展開し、逃げる両機へ迫る。

 やがて逃げている時、ある、一つのスイッチを見つけた。迷わずアレンはそこへビームライフルを放つ。すると、扉が閉じられた。緊急時のシャッターとなっていたのだ。

「よし、今の内に!」

アレンはレイを誘導する。が、しかし――

 

ズバァァァァァァッ

 

あろうことか、そこにはシャッターをこじ開けようとするカタストゥリアの姿があった。自身の手関節マニピュレーターを使い、ググッとこじ開けようとする。そして、更に指間腔ビームクローを展開し、熱源を使ってシャッターを破壊したのだ。

「なんて奴だ……!」

「逃がさんぞ。お前達……」

恐るべき執念とも言えた、エファン・ドゥーリアのMS、カタストゥリア。オールレンジ攻撃も可能なそのMSは、彼等にとって脅威でしかなかったのだ。

 

 そのまま逃げ続けていると、ある広間に辿り着く。そこは出口がない、空間だった。所謂行き止まりである。元の場所へ戻ろうとすれば、カタストゥリアがいる。カタストゥリアを搔い潜って逃げることは困難に等しい。

「さあ、どうする?袋の鼠というやつだ。」

漆黒の大型MSに追い込まれたツヴァイとブライティス。カタストゥリアは合計二十四基ものブリッツファンネルを展開し、一斉に展開する準備をしている。

「破壊するしか……!」

ツヴァイはブリッツファンネルを全基展開し、やがてそれらを共鳴させ、高出力のビームを展開した。

 

バイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン

 

 しかし、それらのビームは全て弾かれてしまう。エレシュキガルのバリアーフィールドジェネレーターがそれらを無効化したのだ。

「ビームが弾かれる!?」

壁を破壊して逃げる事も出来ない。後方に迫るのはカタストゥリア。二機にとって、危機的状況が訪れる。

「まとめて相手をしてやろう、アレン・レインド、レイ・キレス!」

 

ゴギュオゥゥゥゥゥン

 

カタストゥリアのデュアルアイが輝き、それと同時に両前腕部からケーブルが展開。手部が伸びた。そしてブリッツファンネルは十二基ずつ手部の周辺に展開される。両手部に付いている指関節を全て外転させ、指間腔のビームクローを展開。と、同時にブリッツファンネルとビーム刃が共鳴した。

 カタストゥリアは、両手部のみが肥大化しているシルエットを描き、そのままガンダム達へ襲い掛かる。

 撃ち落とさんと、ビームライフルで連射するガンダム達だが、バリアーフィールドジェネレーターを展開しているそれらに砲撃は通じない。これを破壊するにはビームサーベルによるビーム刃か、プラズマ兵器しかなかったのだ。

「そう来るなら!」

それに対抗する為に、ツヴァイはメガビームセイバーを展開した。更にブリッツファンネルを展開し、メガビームセイバーと共鳴。やがてそれは巨大なビーム刃を形成する。

 巨大なビームセイバーとビームクロー。今、この状況を打開するにはレイが頼りだった。

巨大なそれらはやがて打ち合いを行う。カタストゥリアの片手部はツヴァイと鍔迫り合いを行い、もう片腕はブライティスを追いかける。

「面白い芸当だな、レイ・キレス!しかし一方のアレン・レインドはこれが出来ないようだな!」

確かに、ブライティスのブリッツファンネルには共鳴する機能は備わっていない。巨大なビーム刃の形成は不可能だ。

「レイ、俺が逃げ道を作る!もう少し踏ん張ってくれ!」

「は、はい!」

アレンはそう言って、カタストゥリアの手から逃げる。ツヴァイは巨大なビーム刃を形成したまま、拮抗する。

「戦争は人を変えてしまうようだな、レイ・キレス!このような状況下でなければそのような武器等使う事は無かっただろうに!!」

ビーム刃同士の拮抗の中で、エファンが言った。

「僕は戦争を終わらせる為に武器を使ってるに過ぎません!!」

レイも、負けずに言葉を発する。

「やはり力を持つ存在は戦争の潤滑油!滅ぶべき存在だな!」

「違う!その考えは間違っている!!」

エファンの言葉に、レイが反論する。

「では何が違うというのだ?ニア・アドバンスドタイプの力を持つお前は今、こうして私とMSに乗って戦っている!平和な日常を送る事が出来た筈のお前が!」

レイは自身の意志ではないにしろ、アドバンスドタイプの力を身につけた。彼は一度はそれを拒絶した。しかし、この力が今となっては助けとなっている。この力のお陰で今まで生き残ってこられたと言っても過言ではない。

 しかし、一方で彼は特殊な環境で育ってきた訳ではない。ごく普通の、平凡な環境を育ってきた。力を身に付けながらも、学校へ行き、部活動をし、家族、友達と何気ない会話をするといった日常を送ってきた。この状況下は、運命の悪戯と言っても過言ではない。

 対するエファンの言葉。それは力を持つ存在、シンギュラルタイプ、アドバンスドタイプは戦争を更に加速させる存在だという言葉。この時代における力を持つ存在の出現は、宇宙に進出した戦争が関係しているとされているが、謎も多い。一つ言えるのは、今までの争いで必ずと言っていい程力を持つ人間が活躍をしてきたという事だ。これもまた、事実である。

「僕だって無暗に戦いたい訳じゃない!貴方が僕を殺そうというなら、僕は守る為に戦っています!」

「それは当然だ!自身の命が危うい時、人はその身を守る。それが自然の摂理だからな!」

巨大なビーム刃同士は拮抗し合っている。しかし、ツヴァイの方のビーム刃は連戦の影響もあってか、少しずつ勢いが減りつつあった。

「僕は貴方の、本当の目的が知りたい!力を持つ人達を殺し続けて、その先に何があるんです!?前に言ってた言葉とどう関係があるんですか!?それに、EVEの事って……!?」

エファンが言った、台詞。それらが彼の中で思い出されていく――

 

――――――今後、人間同士による愚かなる戦争が起きないようにする為―――――――

 

―――――――――――お前の中に、EVEが居る事が憎くすら感じるよ――――――――

 

拮抗し合う巨大なビーム刃同士。その中で、彼等は会話をする。戦いの中での会話。これが、力を持つ者同士のコミュニケーションとでもいうのか。

「良い機会だ、答えてやろう!戦争という愚かな行為を繰り返す人類が、もう、二度と戦争が起きないようにする為に、潤滑油と化している力を持つ者を抹殺する為に、私は動いているのだ!」

まず、一つ目の質問の答え。だがレイはこれに対し――

「それだけじゃない筈だ!それ以上の目的を感じるんです!貴方から!」

納得していない様子だ。やはりこの男は何かを隠しているに違いない。

「それを知ってどうなる!?その目的を知ったところでお前に何の関係があると言うのだ!?」

エファンの強い口調に合わせるように、ビームクローの出力は増していく。次第に、ツヴァイのビーム刃は弱体化していく。

「貴方の思考には、僕にも関係がある……そんな気がするんです!だから!」

強力な攻撃に対し、抵抗するツヴァイ。その中で、エファンは口を大きく開き、笑った。まるでそれは、彼の言葉に対して呼応しているかのようだ。

「成程な!やはり、お前の中にはEVEが居る!EVEから引き継いだ純粋な細胞が私と呼応しているというのか!?」

「それは……どういう……!?」

すると、カタストゥリアのビームクローの出力が弱まった。これと同時に、ツヴァイの共鳴していたビームセイバーの出力も弱まる。まるでそれは、エファンがレイに対して話をしようとせんとする、対応だ。

「ダリオン・イブルークがお前に移植したディヴァインセルこそ、奴が火星に調査した際に持ち帰った、オリジナルのEVEに宿っていたディヴァインセルそのものだからだよ!」

「オリジナルの、EVE……!?」

エファンの言葉により、疑問が解けて行った。彼に移植されたディヴァインセルの正体。それは、火星にあったEVEのものを移植したものだと言う事だ。エファンは、これを知っていた。それ故に彼に悪夢を見せていたのだ。

「お前が私の悪夢を受け入れる事が出来たのも、お前の中にある、純粋なEVEのディヴァインセルが反応していたからだ!そしてお前は多くの体験をし、アドバンスドタイプへと覚醒した!その過程でお前が感じた現象は、全てがそこに由来する!自分特有の現象ではない、あらゆる現象がな!!!」

全てが、繋がっていく。レイが幾度か生命の危機や怒りに満ちた時に陥った、深紅の眼に染まる現象の事等の真実。それはエファン・ドゥーリア自身も発現出来る、力。

 それを引き起こせるのは、何故か。答えは、レイの身体の細胞内にはEVEシステム由来のディヴァインセルが備わっている為なのだ。

「ヤツがEVEの元に訪れたのはお前の生まれる一年前!デウス動乱が始まろうとしていた時だ!そしてその頃は、丁度EVEがその機能を停止した頃だ!故に火星の魔物はシステムとして部外者を攻撃する事なく、奴がEVEを調査することが出来た!そこで持ち出したのが、EVE本来のディヴァインセル!それを赤子のお前に移植した結果が、今のお前となったという事だ!」

本当に明かされた事実。ダリオンが語らなかった彼の起源。それが、今エファンによって語られた。

この事を知り、レイはどう思うだろうか。ショックを受けただろうか。

 違う。今の彼はそのような事で悩む事は無い。確実に力を付け、覚醒しつつある彼は、エファンから語られる真実に慄く様子は、全くないのだ。

「それで……例え、僕の中にEVEが居ようとも……!そんなの、関係ない!戦争を終わらせる為に今僕は戦っています!貴方みたいに人を殺す為に戦っている訳じゃない!」

と、言った時、再びメガビームセイバーからビーム刃を展開。ブリッツファンネルがこれに呼応し、粒子を集め、再び巨大なビーム刃を形成した。

「ほぅ、真実を知って苦悩していたあの時のお前はどこへいった?EVEのディヴァインセルがお前自身をそのような強靭な意志に変えたとでも言うのか……?」

この時、僅かばかりエファンは疑問を抱いていた。だが、レイは構う事なくエファンに迫る。

「貴方だって戦争を起きないようにする為に戦っているって言うのなら、こんな事をする必要なんてある筈がない!!」

懸命な攻撃を行う。しかしこれに対し、カタストゥリアはビームクローを展開し、メガビームセイバーに迫る。

 再び、互いのビーム刃が拮抗し合う。だが、力はカタストゥリアの方が上だ。

「しかし、お前がEVEの力を宿していようと関係ないな!私には私の目的がある!力を持つ人間をなくし、戦争の潤滑油を無くす!これは私の第一歩だ!邪魔はさせんよ!」

(第一歩……?)

レイは矛盾を抱えて戦っている。穏やかな日常を過ごせた彼が、エファンの言うようにEVE由来の力を持ち、最終的には自らの意志で戦っている。エファンからすればそれは戦争の潤滑油と批判出来るもの。しかし、レイにとっては戦争を終らせる為の力。互いの意見がぶつかり合い、戦う。

 その中で感じた疑問。エファンの目的とは、一体?

 

 

 

アレンは迫る巨大なビームクローに対抗できる手段が無い為、逃げるしか出来なかった。その間に逃げ道を探そうと、模索する。

(そうだ、ブライティスは強化されている!今こそそれを使う時だ!)

今のブライティスガンダムにはプラズマ粒子を貯蔵するタンクがある。それが内蔵されているならば、ウイングを上手く使い、プラズマ砲撃を行うことが出来る。

 以前その攻撃を行ったのは機体が暴走した時だった。だが、今のアレンの精神状態は、安定している。ならば、その攻撃も安心して行える筈だ。

「行けるか!?」

 

ガキィンッ

 

すると、ブライティスの両翼が展開される。以前暴走した時のようなフォルムに変形した。相変わらず禍々しい印象を受けるデザインではあるが、色素が変化するといった変化は見られない。

「行けっ……!」

 

ドバアアアアアアアアアアアアアアアッ

 

ウイングからプラズマが放出。それはエレシュキガルの壁を突き破った。眼前に宇宙空間が映し出され、アレンはレイに対して言う。

「レイ、逃げられるぞ!今は逃げるんだ!」

「は、はい!」

ツヴァイの展開した巨大なビーム刃は出力を弱めつつあった為、良いタイミングと言えた。宇宙空間へ脱出する為、二機は急いで空いた空間へ移動した。

「逃すか。」

すると、カタストゥリアは全てのブリッツファンネルを収納した。次に、背部の六門の砲台を前方に展開する。戦闘開始時に国連に対して打撃を与えた、ルイーナシステムMk-Ⅱである。最大出力で打てば艦隊への打撃を与えられる兵器であるが、その出力の調整は可能である。

 

ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ

 

前を飛ぶ二機のガンダムに向けてそれらを放った。艦隊へ向ける程の出力ではなかったが、それでもMSを殲滅するには十分な破壊力だ。

それはエレシュキガルの外壁に穴を開けた。更に、逃げた二機を迎撃せんと、向かう。

「ん……?」

その時、エファンはある一機のMSが迫っているのを目視した。それを見た時、彼は何故か、静かに笑みを浮かべるのだった。そして、二機のガンダムを追いかけるのを中止するのであった。

 

 エレシュキガルを脱出したアレンとレイ。周辺に敵機体はいない。二人は一呼吸を置き、そっと深呼吸をする。この時、アレンはレイに対して言った。

「レイ、一度帰還するんだ。さっきので大分エネルギーを消耗した筈。補給が必要だろう。」

「はい……あの、アレンさん。」

レイは、先程の戦いでエファンから感じた事を伝えた。

「エファンさんが言っていた言葉で気になる言葉が、いくつかあります。」

静寂な様子の宙域にて、レイがツヴァイを介して言った。

「まず、僕はEVEシステムのディヴァインセルを引き継いでいる存在という事が、分かりました。あの人が、言ってました。」

やはり冷静だ。今までのレイとは思えない程に落ち着いている台詞だ。

「お前はそれを知って、怖くないのか……?」

以前の、怯えている様子のレイを知るからこそ、今のレイの言動に驚愕しているアレン。

「今更、変わらないですよ。元々僕はディヴァインセルを移植されたアドバンスドタイプだから……それが何由来であろうと、そんなの変わりません。」

以前の、恐怖に怯えていたレイは何処に言ったというのか?これは成長と呼ぶべきなのか。それとも……

「それと、もう一つあります。僕達のような力を持つ人間をなくし、戦争の潤滑油を無くすことが第一歩って。」

「……どういう事だ?あの男に、その先の目的があるということか?」

「それは……分かりません。けど、あの人は何か良からぬ事を考えているのは間違いないと思います。」

エファン・ドゥーリアは紛れもない、“敵”だ。EVEシステムの意志を継ぐ彼の目的は、戦争の潤滑油と化している力を持つ存在の抹殺と言っていた。しかし、本当にそれだけなのか。それ以上の目的があるのではないか……と、レイは感じたのだ。

「前に火星に行った時、あの人は自分がEVEシステムを受け継ぐ存在と言ってました。それに則って動いていると言っていました。でも、やっぱり目的がしっくり来ないんです。やっぱり、何か大きな目的があってこの戦場にいるんじゃないか……と、僕は思ってます。」

「それがどれ程危険なものかは分からないけど、今は気に留めておくぐらいが良いのかも知れないな……」

エファン・ドゥーリアの野望は分からない。しかし、今は戦争中。アレンにとっても忌むべき敵ではあるが、今は戦争を終わらせる為、戦う。

 

ピキィィィ

 

「……この感覚は!?」

その時、アレンは近くに敵が迫る感覚を覚えた。が、レーダーにそれは映らない。

「レイ、近くに敵がいる!」

彼がそう言った直後だった――

 

ドオオオオッ

 

高出力のプラズマ砲撃が、二機を襲ったのだ。その時、一瞬だけだがその姿を見せた。総司令、レヴィー・ダイルの駆る、ガンダムオラトリオが急襲してきたのである。

「レヴィーが来た!あのMSはステルス迷彩で姿を隠せる機体だ!レイ、急いで補給を受けろ!こいつは俺が……!」

「は、はい!」

ツヴァイはシーアとの戦いから続く連戦で、このまま戦っては破壊される危険性もあった。その為、一度レイは母艦へ帰還する事とした。アレンは引き続き、この場に残り、迫る敵と戦う事にしたのだった――

 




第百八話、投了。
レイにはEVEシステム由来のディヴァインセルが備わっている事が明らかになりました。
そして、ソフィアの死に際して彼女を罵倒したレヴィー・ダイル……
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