レイが去った後、MA形態の爆撃機のようなシルエットを描くオラトリオがアレンに接近してきた。総司令、レヴィー・ダイルがこの戦場に再び出現したのである。
「アレン!今度こそ、決着をつけます!」
オラトリオはMSに変形。グリーンのデュアルアイが輝く。
「レヴィー、もうお前は倒す!俺がお前を止める!!」
総司令自ら戦線復帰をし、アレンを倒さんと迫る。
ガンダムオラトリオは強敵だ。数多の武装が備わっているMSであり、その上圧倒的な機動性を誇る。更には先程のように、ステルス迷彩を搭載している。攻撃の際のみ姿を見せるという厄介なMSだ。
すると、オラトリオは後面腰部に搭載されているテールユニットバックパックホーミングミサイルシステムで、二十基のミサイルを一斉展開。全てをブライティスに向けて放つ。やがてそれを切り捨て、バックパックを分離。それをステルス迷彩で姿を消した。
ブライティスはこれらのミサイルに対してウイングビームキャノンで一斉展開し、破壊。しかしこの隙を突くように、オラトリオは近接戦闘を試みる。
オラトリオの武装にある、大型実体ブレードでブライティスに迫る。それに反応したアレンは、ブライティスのビームセイバーで拮抗した。
「お前は最早、平和の敵そのものだ……だったら、俺が、この手で……!」
「貴方にはやられない!ソフィアがいなくなっても、僕は戦い抜く!」
デウス動乱後になって、彼等は対立を続けていた。はじめはセイントバード追撃の際に、総司令がガンダムナパームに乗って、アレンと戦った。その後は何度か会う事もあったが、一度もかつての、“仲間”として会話をすることは無かった。かつてのデウス動乱では仲間同士だった者達の悲しき戦いの末路。それは、どのような形を見せるのか。
「見えないところからの攻撃……!」
分離したバックパックからプラズマカノンが展開。一瞬だけ姿を見せる。それに気づいたブライティスはすぐに回避運動を行う。だが、回避した直後、オラトリオは機体本体に内蔵されている武装を一斉展開した。実体ブレードを変形させたビームマシンガン、膝部のニービームキャノン、そして、ビーム機関砲に、マシンキャノン。比較的近距離でそれらの砲撃を一斉に受けそうになったアレンは、すぐにバリアーフィールドジェネレーターを展開した。
どうにか攻撃を防ぐ。が、今度はオラトリオのバックパックが再びビーム砲撃を行う。
有人機と無人機の連携。これが、ガンダムオラトリオと言うMSだ。総司令、レヴィー・ダイルは全力でアレンを叩く気でいる。
(機動性も圧倒的……これが、あいつの本気……!)
オラトリオとは何度か交戦をした。しかし、これ程強いオラトリオは初めてだ。次第に彼は追い込まれていく。
(いや、待て……何故あそこまで動き続ける必要がある?あのMS、もしかして装甲は脆いのか?だとすれば……!)
すると、アレンは一度ブライティスの動きを止めた。急な行動に疑問を抱く総司令。怪しいと感じた彼は、ブライティスと距離を保ち、様子を伺う。
(その間にバックパックで仕留めれば……!)
オラトリオのバックパックは総司令の意志で動く。サイコミュによる動きだ。彼は本体の攻撃を行いつつ、サイコミュでバックパックを操っていたのだ。総司令もシンギュラルタイプ。その空間認識能力は非常に高い。
(そこっ……!)
総司令の眼が見開かれる。と同時に、バックパックから高出力のプラズマカノンが展開されようとしていた。
「それだっ!」
ピキィィィ
アレンの頭の中で電流が流れる。まるで、見切ったかのように。
バシュゥゥゥゥゥ
バックパックはブライティスの放ったビーム粒子により、破壊されてしまったのだ。一撃で破壊される程の装甲。これが、ガンダムオラトリオの弱点であった。
「なっ……クッ、こんな……!」
武装のほとんどを担っていたバックパックが破壊された。そうなれば、残るはオラトリオ本体のみ。その機動性を活かし、再びブライティスへ迫る。
「行けっ!」
ピシュンッ
アレンはブライティスのブリッツファンネルを一斉に展開。両側腰部のブラスターファンネルも展開。合計十基全てがブライティスの周りに展開されている状態となった。
「ファンネル、サイコミュの代名詞……けれど、僕には当たらない!」
オラトリオの弱点、それは装甲の薄さ。ブリッツファンネルから放たれるビーム砲でも数発当たれば致命傷となりかねない。が、彼はこれらを避け、アレンに直接攻撃を仕掛けようと考えていたのだ。
(アレン、今度こそ決着を!)
総司令は一度深呼吸をし、そっと、吐く。それと同時に彼は行動を開始。ステルス迷彩で姿を消し、十基のファンネルの中を移動し始めたのだ。
(来る……どこから……?砲撃は難しいのなら、来るとすれば近接武器……)
アレンも思考を探る。総司令の攻撃手段は、どのようなものかを、考えながら。
オラトリオが姿を消し、数秒が経過。アレンはアドバンスドタイプの力で、気配を感じることは出来る。しかし、肝心の機体の居場所が分からない為、正確な射撃が出来ないでいたのだ。
「ハッ……!」
再び、アレンの頭の中に電流が流れた。そして――
「アレンッ!!!」
アレンの読み通り、実体ブレードで迫る総司令。すぐにブリッツファンネルを一斉展開するが、総司令もその攻撃を読んでいたのか、ビームシールドで防御しながら近づく。その上機動性も伴い、攻撃が当たらない。
バヂィィィィィ
実体ブレードが、ブライティスの実体式ビームシールドに直撃。展開する間もなく、それは破壊された。
「レヴィーッ!!!」
アレンは姿を見せたオラトリオにすぐにファンネル砲撃を行った。この砲撃が二発程直撃し、オラトリオは脚部を被弾した。
「うあああっ!く……こんな……!」
動きを読まれたのか、油断をした総司令。しかし武装はまだ生きている。彼は、アレンを倒す為に動く。
「まだ、僕はやれる……新生連邦の勝利の為に!」
すると、総司令は操縦桿を思いきり引き、ブライティスへ急接近する。そして前腕部のビームケーブルをブライティスに向けて展開し、両上腕部に向けて攻撃を行った。
「しまった……!」
「アレン、今度こそ決着です!さあ!」
アレンも不意打ちを受けた。オラトリオの武装により、身動きが取れなくなったのだ。
だが、オラトリオは突如、カメラアイの輝きを失った。それだけでない。いくら操縦桿を引いてみたり、スイッチを押しても全く反応しなくなったのだ。
「何!?そんな、馬鹿な!」
ケーブルはブライティスの両上腕部に展開されたまま。動くことが出来ない。何度も、操縦桿を引いても、動かないのだ。
「どうしてだ!?どうして!この局面で!何故!まさか……ドゥーリア少佐……」
何が起きたかは分からない。ただ、一つ総司令が疑ったのは、このMSがエファン・ドゥーリアが開発したものだという事だった。確かに圧倒的な性能を持つガンダムオラトリオ。しかし、エファンは力を持つ者の抹殺を目論む存在。総司令はその存在を何度か怪しく思う事はあった。今、新生連邦が窮地に立っている状況ではエファンを疑うような事をすることは無かったのだが。
「動け、オラトリオ!アレンはもうすぐ倒せる!そうすれば新生連邦の勝利は――」
「レヴィー、もうやめろ……」
動かなくなったオラトリオを見て、攻撃をするのかと思われたが、違った。アレンは攻撃せず、寧ろコクピットから話しかけたのだ。
「何故それが止まったのかは分からない。もしかすれば、俺を罠に嵌める為なのかも知れない。」
総司令は、アレンの言葉に耳を傾けつつも、操縦桿を何度も引く。しかし、一向に動く気配がなかった。
「……なら、貴方にとってこれはチャンスですね……オラトリオを破壊する、絶好の……」
アレンは総司令を許していない。それ故に、彼は撃墜される覚悟をした。
「それを破壊なんてしない。レヴィー、話が、出来るか?」
総司令にとって、予想外の言葉がアレンの口から発された。“話”がしたいというアレン。
「話ですって……?何故この状況で!」
警戒をする総司令。だが、アレンは静かに喋る。
「お前が行った事は許される事じゃない。お前の起こした行動で多くの人が死んだ。この戦闘だけじゃない。新生連邦の存在によって平和だったはずの世界は狂って行った。」
「今更許しを請う気はありませんよ。僕はもう、後戻りは出来ない!貴方が何を言ったところで!」
「その結果、もうお前には何も残っていない。」
アレンの言葉が総司令に突き刺さった。
「違うか?お前は新生連邦樹立に伴って大切な物を失い続けた。かつての仲間や、お前を信頼していた人達。お前が軍事力の強化を掲げた結果が、“今”なんだよ。」
「説教のつもりですか!僕はもう、何にもなれない!貴方と戦うだけだ!そして決着をつけて……」
そこでオラトリオの操縦桿を握るも、やがて握るのを彼は止めた。そして、静かにそれを離した。
「つけて……それで……新生連邦は勝利を……勝利……を……」
「その先に何がある?」
先程まで殺し合った両者。しかし、今、アレンは優しくも厳しい言葉で総司令に話しかけている。
「何もない。その果てに未来なんてないんだよ。新生連邦は多くの人間を不幸にし過ぎた。そんな組織に未来なんてあるはずがない。お前はそんな、何もない未来の為に生きてどうする?何に繋がる?」
「僕に……未来はない……?何もない……の……?」
彼は頭を抱え、苦悩する。アレンの言葉が重く圧し掛かる。
「繋がらない未来を見て、どうなる?お前はそんな未来に生きて、何がしたい?そんな、明確なものもないまま戦って……何になる?俺も色々なものを失った。でも、仲間がいる。信じてくれる仲間が。けど、お前には何がある?」
アレンと総司令の違い。それは背負う物の重さと、人の繋がり。彼等はデウス動乱時は確かに“仲間”だった。戦友とも呼べる存在だった。しかし時が経ち、デウス帝国に勝利した地球連邦軍は新生連邦へ名を改め、軍備増強を行っていった。その中で、総司令は多くのものを失った。かつての仲間、人々。そして得たものは、利権や利用をしようとする邪な感情を持つ人間達ばかり。いつしか彼はその力に飲まれていった。新生連邦の勝利と言う、未来のないものに囚われていたのだ。
結果、戦後の彼を慕う唯一の存在であるソフィア・ブレンクスでさえも無下に扱うようになってしまった。その結果が彼女の精神崩壊。そして死。後がない彼は、エファン・ドゥーリアという怪しげな存在さえも頼らざるを得なくなってしまった。
「俺は、お前を止めたかった。お前を殺したくない。かつての仲間だからだし、何よりもお前さえ考えを改めてくれればこんな争いなんて起こらずに済む。」
総司令は、何も言わなかった。ただ、アレンの言葉を静かに聞くばかりだった。
「なぁ、レヴィー。先のない未来に向かってどうするんだよ。誰も得をしない。誰も救われない世界が待っているだけなんだよ……もう、止めよう。もう俺達が戦う必要なんてないんだ。過去は変えられない。けど、未来は変えられる。レヴィー、もうその機体から降りるんだ。これ以上戦う必要なんてない。そうなれば、あの要塞だって必要なくなる。」
アレンはエレシュキガルの方を見て言った。確かに、総司令がエレシュキガルの存在の破棄を認めれば、この戦いは事実上、終わりを迎える。エレシュキガルを巡る攻防が無くなるからだ。
「ダメだ……ダメなんだよ、アレン。僕にそんな優しい言葉を掛けないでくれ……」
「レヴィー……?」
総司令は苦悩した。今まで行ってきたことが、今になって彼の頭にフラッシュバックされてきたからである。
「僕はたくさんの人を殺してきた……新生連邦の総司令として。けど、それで世界が動くのなら、それで良かった……戦力増強の為ならばあらゆる手を尽くした……MSの大量生産、強化モデル用のMSの試験、虐殺、そして国連、デウス残党軍との戦争……そして、これらに勝利をしなければならないという心境。けれど、貴方の言うように、僕は人との繋がりをなくしていた……いつしか、僕の周りには人はいなくなった。そうだ、僕は……ソフィアをも手駒に扱ってしまっていた……僕は……彼女に……取り返しのつかない事を言ってしまったんだ……」
新生連邦軍の総司令として在り続けた彼。そんな彼を唯一支えたのが、ソフィア・ブレンクス。だが戦況が不利になっていくに連れ、彼女を兵器の一つとして見做し、彼女に対する冷たい言葉を掛けた彼。もう、後戻りが出来ない。彼女に対する罪。
彼は、涙を浮かべた。総司令として冷徹であり続けた彼が流す涙。それは、彼自身が今までの愚業を思い出したが故に生じた涙だった。
「アレン……僕はどうすれば良い……?もう、僕は……」
取り返しの効かないところまで来てしまった、彼の罪。どうすれば良いか分からない彼は、かつての戦友であるアレンに聞いた。
「こんな戦争を終わらせるんだ。今なら、まだ間に合う。お前ならそれが出来る……だから……」
アレンは、優しく言った。
「戦争を……終わらせる……そうだね……もう、終わらせよう……。この戦いの先に未来はない。なら、停戦協定を結べば―」
ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ
ガンダムオラトリオが“在った”場所に、強大なビーム砲撃が襲い掛かった。その時だ。アレンの目の前から、総司令、レヴィー・ダイルの姿が消え失せたのは。
それは、瞬く間の出来事だった。新生連邦総司令、レヴィー・ダイルはそのビーム砲撃に巻き込まれ、その姿を現世から消したのである。
「れ……レヴィィィィィー!!!!!」
このような悲劇があって良い物か。何故、レヴィー・ダイルは突然死ななければならなかったのか。何が彼を襲ったのか。突然の出来事はアレンを困惑させた。
やがて、アレンはビーム砲撃が行われた方向を見る。そこにいたのは、漆黒のMS、エファン・ドゥーリアが駆るMS、カタストゥリアだった。カタストゥリアの指間腔ビームキャノンが、ガンダムオラトリオを跡形もなく消し去り、レヴィー・ダイルをも消滅させたのだ。
「ガンダムオラトリオには致命的な弱点がある。それは、オーバーロードを起こすという事。薄い装甲の代わりに得た機動性。しかしそれらは余りに推進力を使いすぎる。その結果、冷却機能を強制的に働かせる必要がある。パイロットがいくら優秀であろうと、機体の特性としてそのようなデメリットがある……レヴィー・ダイルには伝えていなかったが。」
エファンは、それを分かった上で総司令にオラトリオを渡したのだ。このような状態になる可能性を、見込んだ上で。
「まさか欠陥のあるMSを送り込むなど普通は考えないだろう。そこがレヴィー・ダイルの甘さ……所詮奴は総司令の器ではなかったという事か。」
腕を組むエファン。そこへ、ビームセイバーを展開したブライティスが、迫った。
「何故だ!何故殺した!?自分の所の総司令だった人間を!!何故!?」
やがてカタストゥリアはビームクローを展開し、ブライティスと打ち合いを行う。
「言わなかったか?奴も力を持つ存在だからだ!それに、大切な事だからだよ。今後の行動の為にもな……」
(今後の行動……?)
エファンの語る言葉に疑問を抱くアレン。
「今、お前の相手をしている時間はない。お前は後で消すつもりだ。」
そういった後、指間腔ビームキャノンを放出して、カタストゥリアはこの宙域から離れた。
「何だ、奴は一体、何を考えている……?」
自らの手で総司令、レヴィー・ダイルを殺害したエファン。この男の次なる目的が、始まろうとしていたのである。
エレシュキガルに接近するカタストゥリア。そして、エファンは新生連邦全軍に対し、次の言葉を述べるのだった。
「全軍に通達。レヴィー・ダイル新生連邦軍総司令は、たった今、敵に討たれた。」
あろうことか、エファンは新生連邦全軍に対して総司令、レヴィー・ダイルの戦死を伝えたのだ。無論、彼に留めを刺したのはエファン本人である。
「私は最期まで総司令と共に戦っていたが、敵機体の不意打ちに遭い、名誉の戦死を遂げられた。だが、これで敗北ではない。私は総司令から伝言を引き継いでいる。」
エファンは、一度笑みを浮かべ、言葉を放った。
「“ネェルガルキャノンの照準を、艦隊ではなく、地球の、平和国連盟本部へ向けろ”と。総司令は短期決戦を望まれている。もう一度言う。“ネェルガルキャノンの照準を、艦隊ではなく、地球の、平和国連盟本部へ向けろ”だ。」
この言葉を聞いた、エレシュキガル内部のクルー達や、新生連邦の全兵士は困惑した。
まさか、ネェルガルキャノンを地球に向けるという指示が出るなど、思ってもみなかったからだ。
「おい、これは本気か……?」
「しかし、それが総司令の指示だとしたら……」
「いや、脅しで使うつもりかも知れないだろう?実際に地球にあんなものを撃ったらどうなるか分からんぞ……?」
「脅しも何も、もうネェルガルキャノンの充填は始まっていますよ!」
「じゃあ、本気なのか……?」
「総司令自らが、先程命令されましたからね……まさか、戦死されるとは思わなかったけど。」
ネェルガルキャノンはその膨大なエネルギーを溜めた状態のまま砲身を変えることが出来る。兵士達は困惑する様子を見せたが、恐らくこれも総司令の策略なのだろうと思い、エファンの言葉に従ったのだ。
やがて、先程まで国連、デウスの艦隊へ向けていたネェルガルキャノンの砲身は地球に向けられた。それは無論、エファンの思惑通りだ。この戦争における彼の本当の目的が、徐々に明らかにされようとしていたのであった。
総司令、レヴィー・ダイルとの死闘を終えたアレン。彼はエファンを見失い、一度補給に戻る為、母艦であるシュネルギアへ帰還していた。アレンはその際に、ネェルガルキャノンの砲身が地球へ向けられたことを知る。一方のレイも、アルバトス艦内にてツヴァイの応急処置を行っている。予備パーツやファンネルの追加を終え、いつでも出撃できる状態にあった。
シュネルギアのブリッジにて。エレシュキガルの砲身が地球に向けられたのを確認したギアは、目を疑った様子だった。
「どういう事だ!?あの兵器の矛先が変わった?」
「間違いありません!」
低出力であっても、艦隊を壊滅させることが出来る恐ろしい兵器、エレシュキガルのネェルガルキャノン。この砲身が地球へ向くという事が、どういう事か……ギアには、理解が出来るようで、出来なかった。
「何故あれが地球に向く?レヴィー・ダイルは何を考えている……?」
冷静である筈のギアの表情は険しかった。まさか、自らの地球を撃つ気なのか……と、さえ、考えた。
「いえ、それはないと思いますわ。ジェッパー代表。そのような事をしても、彼等自身に何の得もありません。寧ろ、損害を広げるだけですわ。」
「じゃああれは何だ……?脅しなのか?我々に対する……」
ブリッジ内は騒然としていた。何の目的があってのネェルガルキャノンの矛先の変更なのか。それは、この時誰も分かる筈がなかったのである。
その様子はアルバトス内でも確認できた。何の目的があって砲身を地球に向けたのか……謎が深まるばかりである。
「分からない……なんで、地球にあんなものを向けたの?」
「脅しっスかね?さっきまでピュンピュン跳ねていたファンネルみたいな兵器も飛ばなくなりましたし、徐々にあの要塞も力を失ってきてるような気はしてましたけど。」
「そんな卑怯な手をあの新生連邦がするとは思えないけどね……何だろう、嫌な予感はするけど……」
ごくり、とエリィは唾を飲む。気味の悪い行動に、この場にいた誰もが驚くばかりだ。
この様子は後方で待機をしていたデウス残党軍の旗艦、アシュタル艦からも見ることが出来た。皇帝、ナジェラは地球に向けられたネェルガルキャノンの姿を見て、首を傾げる。
「どういう事だ、あの兵器を地球に向ける……?」
「分かりません。まさか、あれを地球に撃つ気では……?」
「それでは自らの星を破壊するも同然だぞ?そんな事をするメリットが連邦の連中にあるとは思えんが……」
やはり、信じられない様子だ。新生連邦が起こしたこの、謎の行動に、この戦場にいた誰もが疑問を抱く。
各勢力が疑問に抱く中。シュネルギアのMSデッキ内部にて、アレンはネェルガルキャノンについて、疑問を抱いていた。
(どういう事だ?レヴィーはエファンに殺された……なのに、何故エレシュキガルの砲撃が地球に向ける必要がある?一体、何がどうなっている?新生連邦内部に誰か、他に支配している人間がいるのか?)
コクピット内部にて、アレンは考えていた。レヴィー・ダイルが事前に指示をしていたのも考え辛い。目的が不明の、ネェルガルキャノンの照準変更。これは何を示すのか……
「いや……待てよ……これは……」
その時、何かを閃いたかのようにアレンの眼が見開かれた。それと同時に、彼はコクピットから姿を現し、そのままシュネルギアのブリッジへ向かったのである。
シュネルギアブリッジ内で、ジャンヌはエレシュキガルに対して通信を試みた。ネェルガルキャノンが地球に向けられたその真意を確認する為である。
「こちらはFPBのジャンヌ・アステルです。そちらの行動の真意を問います。何の為の行動なのか、教えて頂く事は出来ますか。」
ジャンヌは総司令、レヴィー・ダイルに対してその言葉を発した。しかし、エレシュキガルから反応がない。それだけじゃない、誰からの反応もないのだ。
「おかしいね、どういう事だ?」
「妙ですわね。何故反応がないのか、気になりますわ。」
新生連邦軍の戦力が一斉に集まっているはずの要塞、エレシュキガルからの通信の返信がないという奇妙な状況。この時彼等はその真実に気付かないでいた。
ウイイイイイイイン
その時、アレンがブリッジ内に入ってきた。
「ジャンヌ、聞いてくれ!」
「アレン!?」
ブリッジ内に入ってきたアレンは、ジャンヌに言った。
「レヴィー・ダイルは戦死した。エファン・ドゥーリアに殺害された。」
この言葉はクルー達に衝撃を与える。新生連邦の総司令が死んだという情報。そして、その犯人がエファン・ドゥーリアであるという事。
「それは、一体どういう事ですか?」
「分からない。ただ、一つ言えるのは、奴がレヴィーを殺害した後であの兵器は照準を地球へ向けた。」
アレンから語られる情報に対し、ジャンヌは右手を自身の口唇の前に持っていき、思考を巡らせ、考えた。
「レヴィー・ダイルが戦死する前に、既に地球へ向けるように指示をしていた可能性は考えられませんか。」
ジャンヌはその真剣な眼をアレンに向けた。
「それはない。あいつは……戦う事を止めようとしていたから。最期に俺はあいつと話した。あの様子から、あいつがエレシュキガルの砲門を地球に向けるなんて事をするとは思えない。」
「これはもしや……エファン・ドゥーリアが関係している可能性は考えられますか。」
アレンは、静かに頷き、言った。
「可能性は高いだろうね。エファンがレヴィーを殺害して、そこから新生連邦に何かしらの言葉を伝えている可能性だって考えられる。」
エレシュキガル内での一連のやり取りを見ていたアレンは、レヴィー・ダイルが亡くなってからエファンが何かをするだろうという可能性が高いと考えていた。
――――――――――――――やがて人類を一つにする―――――――――――――――
火星にてエファンが言った言葉。その言葉が今になって、ジャンヌの中で思い出される。
地球に向けられた、エレシュキガルのネェルガルキャノン、そしてエファンの意味深な言葉。これらがジャンヌの中で整理され、ある、一つの仮説が生まれた。
「もし、彼の最大の目的が人類を一つにするというものだとすれば……アレン、そうなれば一刻の猶予もありません。」
「ジャンヌ?それは一体どういうこと?」
ジャンヌは、彼が昏睡状態にある時に火星であった事を話した。明かされたエファンの出生と、その目的。その中で一つだけ明らかにならなかった、意味深な言葉。
意味深な言葉はそれだけでない。エレシュキガル内でレイがエファンと交戦していた時も、別の言葉をレイから聞いていた。
――――――――――――戦争の潤滑油をなくすことが第一歩――――――――――――
それだけでない。エファン自身もアレンに対して言った言葉がある。
―――――――――――――――今後の行動の為にもな―――――――――――――――
「あの男が言っていた、今後の行動って言葉とか、第一歩という言葉。」
「それに、人類を一つにするという、意味深な言葉。」
それらが合わさった時、ある一つの仮説が生まれた。
それは、地球にいる人々に向けてネェルガルキャノンを放つという事だった。
「エファン・ドゥーリアの人類を一つにするという言葉は何を示すのかは分かりません。しかし、彼が意図的にこの状況を生み出したことを仮定すれば、ネェルガルキャノンの目的は地球。そして、地球に住む人達に向けるという事になります。」
「もし、それが現実になれば……取り返しのつかない事になるとか、そんな話じゃなくなるぞ!」
レヴィー・ダイル亡き新生連邦がネェルガルキャノンの砲身を地球へ向けるという事はまず、ありえない。恐らくレヴィー・ダイルを殺害したエファンによる陰謀。
それらの話を聞いたギアは言った。
「これは、一刻も早くエレシュキガルを止めなければならないね……」
この仮説に根拠はない。だが、万が一地球にネェルガルキャノンが向けられれば、その瞬間に地球に住む人々は大半が死滅する結果となる。もし、この状況をエファン・ドゥーリアが望んでいるとすれば、それは非常に危険な事である。
やがてジャンヌはFPBの全軍に対して回線を開いた。そこには、先程まで国連として敵対していた勢力もいる。彼等は旗艦アッサラームが失われ、ウィレスの意向を継ぎ、FPBと合流していたのだ。
「全軍に告ぎます。一刻も早く、私達はエレシュキガルの攻略をする必要があります。あの砲身が地球へ向けられました。これは、最悪の場合、地球に住む人々に向けられる可能性があり得ます。そのような事は、決してあってはなりません。これは可能性でありたいと信じておりますが、もし、地球に向けてあの光が放たれるのが事実であるのならば……
最早、これは戦争ではありません。地球を……いえ、人々を救う為の、最後の任務です。」
確証はない。が、万が一ネェルガルキャノンが地球へ向き、その光を放つことがあれば、それは人々の生活の崩壊を意味する。それと同時に、地球上に住む大半の人々や生物が死滅する事になる。
「最後の、戦い……」
「あれを止めないと、下手したら地球がやばいって訳か……」
アルバトス艦内でもジャンヌの言葉は、聞こえていた。最初は“脅し”と認識していた彼等だが、実際に地球にそれが撃たれると考えると、恐ろしいという話どころではない。
レイもジャンヌの言葉を聞いた。“地球が危ない”という、まるでSF映画でよく聞くような言葉。まさかその言葉をジャンヌの口から聞くことになるとは、思いもしなかったのだ。
しかし現実、ネェルガルキャノンは地球へ砲身を向けている。それは紛れもない事実。破滅の光がもし地表に向けられたら、どうなるのか。彼の故郷、モントリオールは?そこに住む人々は?それだけではない。今まであってきた人々は勿論、世界中の様々な場所で暮らす人々。それぞれの生活、それぞれの時。これらが一瞬の内になくなる可能性が、今、現実に起こり得ようとしていたのである。
「そんな……こんな事って……絶対あっちゃ駄目だ……地球が撃たれる?そんな、映画のような事……なんで、こんな……こんな事が現実に……?」
レイはツヴァイのコクピット内で頭を抱える。彼のように、今まで平凡な生活を送ってきた人間が、いざ実際に地球の危機と言う、非現実的な場面に出くわした時。混乱し、錯乱するのは無理もなかった。
当然ながら、脅しであってくれればそれは良い。しかしその可能性も分からない。レイは、ただ、困惑するばかりだ。
ジャンヌの言葉が全軍に伝えられた直後、通信が入った。アルバトス内にて待機中の、ツヴァイガンダムからである。
「ジャンヌさん、今のって……そんな……そんな事、あり得るんですか!?」
レイは明らかに錯乱している。呼吸が早くなり、震えが止まらない。
「可能性の話ではありますわ。ですが……レイ、貴方は以前エファン・ドゥーリアの言葉を聞きましたね?」
火星でのエファンの言葉、“人類を一つにする”という、言葉。その言葉と今回の出来事が示すものは分からない。しかし、今のエレシュキガルの権限がエファンによって成り立っているとすれば、危険である可能性は十分に考えられる。
「まさか、それに関係があるんですか……?」
「断定は出来ません。けれども、一刻も早く止めなければならないのは間違いないでしょう。」
「……そう……ですか……それなら……それなら……」
と、レイは回線を切った。それと同時にレイの眼が大きく見開かれる。それはまるで、覚悟を決めた様子だった。
ツヴァイガンダムのコクピット内は静かだ。その中で聞こえるのは、レイの呼吸音のみ。すぅ、と、はぁ、という吸気と呼気。それは、覚悟を決めたレイの、真剣な呼吸。
ここに来るまでに、本当に様々な出来事があった。平凡なジュニアハイスクールの生徒だったレイはアインスガンダムと出会い、成り行きで搭乗。そこからセイントバードチームの面々と行動していく。何度か故郷、モントリオールで、親元で生活をしていたりもしたが、その内にツヴァイガンダムへと搭乗機を変え、それに伴うように、世界情勢は不安定になっていく。幾つもの戦場を生き残ったレイ。そして地球上の決戦で生き延びた彼は再び故郷へ。
しかしそこでレイは迷う。その迷いの結果、宇宙での戦場に赴くことになった。そして、迎えた最終決戦。その最後の任務が、地球を救うというものだった。
彼自身、これまでの行動を振り返った時、最後の最後で地球を救うという壮大なミッションに立ち向かうという状況に陥っており、困惑、錯乱さえした。しかし、目の前に見える蒼く、美しい星、地球。これが今、危機に陥っている可能性があるという現実。ならば、向かわなければならない。戦争をするのではなく、地球を守るという、任務を遂行する為に。
そして、一連の出来事の中でレイは真実を知っていった。自らの体内にある、ディヴァインセル。ダリオンが移植したその物質の正体は、EVEシステム由来のもの。彼が火星に調査に行った時に持ち帰り、それをレイに移植したもの。
しかしもう、それを恐れない。恐れている場合ではない。真相を知ったとしても、彼は動くのみ。最後の戦いの為に、ただ、行動あるのみなのだから……
「各機、発進準備を!」
インクの声が、聞こえる。それと同時に、レイにエリィから通信が入った。
「レイ君、これが本当の、最後のミッションです。絶対に生き残ってね。地球に住む、家族さんの為にも……ね。」
エリィの言葉は今のレイにとって励みだ。レイの青い眼はすっと、前のエレシュキガルを見ている。その後で
「はい!」
と答えた。そして――
「レイ・キレス、ツヴァイガンダム、行きます!」
今、アルバトスからツヴァイガンダムが、最後の出撃を行った。戦争をしに行くのではなく、地球を守る為に。
エレシュキガルに向け、一斉にFPBのMSが展開される。ハイエッジやヴァントガンダムといったMS。それに対抗するのは新生連邦のMSだ。残存戦力のディースト、ジョゼフといったMSが迎撃する。
新生連邦の兵士達は、ネェルガルキャノンが地球へ向けられている本当の目的を知らない。その状態で、今、FPBと戦っている。真実を知らないまま、命を落としている人間もいるのだ。
『アレン、レイ。お伝えしておきたいことがあります。』
ツヴァイとブライティスに向け、ジャンヌが通信で伝える。
『エファン・ドゥーリアには気を付けて下さい。もし、彼が今回の件に携わっているとしたら……それは、最早恐ろしいという話では済みません。』
「了解。ジャンヌ。気を付けて行くよ。」
この時、ブライティスはビームライフルではなく、ハイパープラズマランチャーを装備していた。バリアーフィールドジェネレーターを搭載している兵器にも対応できるようにする為である。
「はい……けど、まずはあれを止めなきゃ……」
ツヴァイのブリッツファンネルと、左前腕は修復されていた。応急処置ではあるが、戦闘に支障はない。
前方から新生連邦のMS部隊が展開される。グランシェを筆頭に、ジョゼフ等のMSがビームライフルを構え、発射する。いずれも、エレシュキガルの実情を知らない兵士達ばかりだ。
(出来ればこの人達を攻撃したくない……だって、今はあの要塞をなんとかする必要があるから!)
状況が変わった以上、新生連邦の兵士を攻撃する必要はない。しかし新生連邦のMSの数は多い為、どうにかこの状況を逃げる必要がある。
そこへ、ガーストのハイエッジカスタムがビームニードルを展開し、ジョゼフ二機の胴体部を貫いた。
「一刻も早く行かなきゃならないんだろ!ガンダムの方が火力もあるからな!俺は援護に回る!アレン、レイ!お前らで行ってくれ!」
「ガースト……ありがとう。」
「ありがとうございます!」
フォローに回るガーストに感謝をする両者。少しでもエレシュキガルに近づき、ネェルガルキャノンを止める為、彼等は向かう。
ギュルルルルルッ
六本のケーブルが、二機のガンダム目掛けて展開された。見覚えのある兵器だ。この宙域に、メイド・ヘヴンの駆るデスゲイズが出現した。
戦闘狂ともいえる男、メイド。エレシュキガルを止めなければ地球が危険な状況にも関わらず、この男はMSを破壊し続ける。
「メイド・ヘヴン!このタイミングで!」
アレンはメイドの存在を感じた。彼の脳は、メイドの悪意を感じていた。
「こにゃにゃちわ~ハーハハハハハハ!!!」
台詞とは裏腹、デスゲイズのビームキャノンが展開され、周囲のMSは破壊されていく。躊躇いもない攻撃。この男を象徴する、危険な攻撃が展開される。
「レイ、こいつは俺が引き受ける!先に行くんだ!!」
「はい!」
メイドの狙いはアレンかレイだった。そこで、アレンがメイドと戦う事を決めたのだ。レイはそのまま、エレシュキガルへ向けて移動する。
その頃、エレシュキガルの前でカタストゥリアが紫色のデュアルアイを輝かせ、前方に広がる艦隊を見ている。やがてカタストゥリアは六門のルイーナシステムMk-Ⅱを全て展開。開戦時に放ったその兵器を再び解き放とうとしていたのだ。
「悲願が達成されようとしているのに邪魔などさせんよ。消え失せろ。」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
六門のそれらは、FPBの艦隊に向けて放たれる。一射目と同様、その凄まじい破壊力でリューチェ級巡洋艦が次々と破壊される。
対艦隊迎撃システムという名は、その名の通り艦隊に対して圧倒的な破壊力を示す。ネェルガルキャノン程ではないが、たった一機のMSで艦隊を壊滅させる力があるカタストゥリア。エファン・ドゥーリアという男が作り上げた究極のMS。恐らく、この男との戦闘は避けられないだろう。この男を倒さない限り、エレシュキガルは止められないのだろうか。
アレンとメイドの攻防が始まった。有線式ビームサーベルを展開するデスゲイズ。それを避けるブライティス。触手のようなそれらはブライティスを捉えんと、襲い掛かる。
「エレシュキガルを見なかったのか!地球に向けられているんだぞ!あれが撃たれたら地球に住む人達が死ぬんだぞ!それを分かってて邪魔するのか!」
アレンは激高した。地球の命運がかかっている時に遊び半分でこの戦場を暴れているこの男。恐らく、この男はそのような事よりも戦場で暴れる事を選ぶだろう。
「邪魔も何もよォ!こんな楽しい遊びを楽しむなってのかよォ! 冗談じゃねぇぞこのやろォォォー!!!」
相変わらず奇妙な言葉で返すメイド。
「ふざけてる場合か!本気で地球が攻撃されるかも知れないんだぞ!」
アレンは怒っている。止めなければならない要塞を前に、“遊び”で戦場を駆るメイド。両者の心境の違いが、より著明に出ていた。
「あのぶっといのが地球に向けられてんのは知ってんだよなぁ!けどな、俺には何にも関係ない訳でよォ!」
「関係ないだと!?」
ブライティスはブリッツファンネルを展開。一方のデスゲイズはMAに変形し、デス・ランチャーを低出力で展開した。ブライティスは急いでこの砲撃を回避する。
「地球が攻撃されようとさァ!コロニーがあるじゃねぇか!何の為に宇宙に進出したって話なんだよなァ!オイ!!!」
まるで他人事だ。この男は、事の重大さが全く理解出来ていない。
「どうしてお前はそんな平気でいられる!?地球が攻撃されたら何の罪もない人達が死ぬんだぞ!お前のその行為は何にも繋がらない!邪魔をしているだけだ!」
アレンの言葉を聞いたメイドは怒る様子を見せた。
「はぁ?うっせぇうっせぇうっせぇわ!正義のヒーローみてぇなクッソくっさい台詞吐いてんじゃねェよ!!!」
有線式ビームサーベルが、ブライティスに迫る。辛うじて回避しつつ、ハイパープラズマランチャーでデスゲイズを狙い撃つアレン。しかしこの砲撃も回避される。やがて有線式ビームサーベルは、一度デスゲイズ本体の下に戻っていった。
「こんな状況で正義も悪もあるか!メイド・ヘヴン!」
「関係ねぇんだよな!俺にはよォ!しっかし糞敗北連邦もアホすぎ!追い詰められたら自殺かよ!かまってちゃんのメンヘラ連邦って名前にでも改変してろやってなァ!」
再び展開される有線式ビームサーベル。だが、今回はいつもの攻撃だけじゃない。三本のケーブルがまるで絡み合うように繋がり、やがてビーム刃の出力を強めた。巨大な二本のビームサーベルが、出現したのだ。
「名付けてハイパービームサーベル!アレン・レインドォ!くたばれや!」
迫りくる巨大なビームサーベル。本数は少ないが、その出力は強大だ。ブライティスのビームセイバーだけで防ぎきれるような代物ではない。
この攻撃に対抗する為、ブリッツファンネルは全てをビーム刃に変え、デスゲイズに一斉に迫る。機体の全領域にバリアーフィールドジェネレーターが展開されている為、砲撃ではまず攻撃が通らない為だ。
「ンなもんぶっ壊してやんぜェ!」
有線式ビームサーベルは、八基のブリッツファンネルの内、四基を一度に破壊した。強大な出力を誇るそれは、更に勢いが衰えることなく、ブライティスを攻撃する。それだけではない。ビームサーベルは周囲にいたハイエッジ、ヴァントガンダムにも攻撃を行い、同時に五機が一斉に破壊された。
(この状況でこいつを放置するのは危険すぎる!こいつは、ここで倒さなきゃならない!)
アレンは、メイドを完全に“敵”と見做した。今まで、何度か交戦してきた彼等。しかし、地球に危機が及んでいる今の状況ですら“遊び”としか見ていない人間、メイド・ヘヴン。今のアレンに躊躇いはない。目の前で殺戮を楽しむこの男を、必ず倒さなければならない……と、誓ったのだった。
「アレンさん!援護します!」
その戦闘宙域に、一機のMSが。アステリアだ。パイロットはアイリィ・トゥール。四つ巴の戦況を今まで生きてきた彼女は、アレンがメイドと交戦しているのを見て、駆け付けてきたのだ。
「アイリィ!?危険だ!やられるぞ!」
今回の敵は相手が悪すぎる。メイド・ヘヴンという凶悪なパイロットと、そのMS、デスゲイズ。まず、機体性能の時点で量産機体であるアステリアでは勝ち目があるとは到底言えなかった。
「雑魚モビが一機戦場に~!ぶっ壊してやんぜェ!」
デスゲイズのモノアイが輝く。狙いを付けたのはアイリィのアステリアだ。
先程五機のヴァントガンダム、ハイエッジを破壊した有線式ビームサーベルが、アイリィのアステリアに迫る。
「あわわわわ!」
急いで回避をするアイリィ。辛うじて回避を行うが、今度はそれらが再び三つに分けられ、波状攻撃を行ってきた。触手のようにそれらを展開し、串刺しにせんと、迫る。
「そんなの!やばいってぇ!」
アイリィはこれらの攻撃も回避し続ける。アレンはそれを見て、ビームセイバーを展開。デスゲイズの攻撃がヴァントガンダムに向いている隙を突き、ケーブルに攻撃を加える。
「コソコソやってんじゃねぇよ!アレン・レインドォォォ!!!」
勘付かれたアレン。モノアイを輝かせたデスゲイズが別方向の有線式ビームサーベルをブライティスに向け、展開した。三つに合体した有線式ビームサーベルは再び三つに分離し、迫った。
「アレンさん!!!」
アイリィのアステリアが、ビームシールドを構え、ブライティスの前に浮いている。アレンを守る為に。
「死ねやァァァァァ!」
ズバァァァ
アイリィのアステリアはそのシールドごと、串刺しにされた。三本の有線式ビームサーベルは胴体、顔面部の、計三箇所を突き破った。
アステリアはそのまま爆発。身を挺してアレンのブライティスを守り、散ったのだ。
――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――
その時だ。アレンは目の前で起きたこの惨状に対し、無意識的に反応した。その際、彼の眼は深紅に変色した。
それは、今までならばレイとエファンのみに見られた筈の現象。しかし今、彼にもそれは発現している。力を持つ存在を圧倒し、苦しめ、苦悩させるその未知なる現象が、何故アレンにも発現したのか。
「ぐえええ!?なんやこいつ!?まるであのショタガキのような……!?」
メイドもこれには焦りを感じている。この現象が生じるのは、何故……?
もしかすれば、EVEの心臓が関係しているのか。EVEの力が引き起こされたが故に深紅の眼に染まる現象が生じるのならば、これに対する説明がつく。彼の入れ替わった心臓が、この現象を引き起こしているのだとすれば……
「メイド・ヘヴンッ!!!」
アレンは怒りを感じている。しかし、その怒りは以前にブライティスを暴走させた怒りではない。自分を守ろうとしたアイリィ・トゥールのアステリアを目の前で破壊された事に対する怒り。それは、以前アレンが経験した、ココット・メルリーゼがエファンに無残に殺された時とは訳が違う。
それ故にブライティスガンダムのクリスタルシステムが暴走することは無かった。しかし、感情によって機体のポテンシャルを高めるこのMSは、先程より機動力を上げた。それは、今の現象と相性が余りにも良すぎた。暴走とは違う。理想の覚醒の形と呼べるのかも、知れない。
「ぐええ……コイツ、さっきよりスピードが上がってやがる!?」
快楽のまま戦場を暴れていたメイドが、明らかに焦りを感じている。今まで見せなかったアレンの力に翻弄されているのだ。
「ああ、てめぇもオカルトパワーを発動したって訳かよ!おもれェぞアレン・レインドォ!!!」
が、メイドはすぐに落ち着きを取り戻した。戦闘狂故の対応力なのか。
「お前の遊びは最早地球にとっての害悪でしかない!!!」
ブライティスはデスゲイズを翻弄し、狙いを絞り、プラズマランチャーを構え、狙い撃った。
「プラズマかよォ!」
メイドの頭の中で電流が流れる。その兵器がプラズマ兵器であることを見抜いたメイドは、すぐに回避運動に移った。
しかし、デスゲイズはその体躯の大きさが仇となる。左翼部にプラズマ兵器は直撃し、ダメージを受けた。
「糞がッ!ビームが効かねェからってそう来やがるか!」
再び有線式ビームサーベルを六基全て展開。そして、これらをあろうことか、全て合体させる。先程メイドが“ハイパービームサーベル”といった物よりも遥かに大型のビーム刃が展開される。デスゲイズの両手部型マニピュレーターは連結しており、前腕部の行動は制限されるも、その巨大なビームサーベルは、敵MSを殲滅するのに十分な破壊力と言えた。
「めェん!つきィ!!どォォォォォ!!!」
ケーブルが伸び、それに伴ってブライティスに目掛け、ビーム刃が迫る。直撃すれば間違いなく破壊は避けられない、凶悪な兵器だ。それは、デスゲイズの有線式ビームサーベルの特性を最大限活かした武装と言えた。
「一か八かで行くしかない……!」
極太のそれはアレンに避ける余裕を与えない。迫るビーム刃。アレンは、賭けに出た。
再びプラズマランチャーを構え、ビーム刃に対して砲撃を放つ。それも高出力で。
不幸中の幸いだった。ビーム刃に向けて撃ったプラズマランチャーはその形に穴を開けた。ブライティスは、ビーム刃による直撃を回避できた。
「だからどうだというのだ?それで撃ち抜いて避けたからどうだというのだって話なんだよねェ!!!」
大出力のビーム刃の攻撃を掻い潜ったアレンだが、有線式ビームサーベルはそれらを分割し、ビーム刃の出力を突如解除した。そして、そのままブライティスの両上腕部、両下腿部に合計六本のケーブルが巻き付けられた。
やがて電流が流される。以前、レイも受けた電流攻撃だ。
「うあああああ!く……う……!」
不意打ちと言えた攻撃。メイドが繰り出す奇抜な攻撃は、どれも厄介と言えた。
「んでから切り刻むまでよォ!!!」
ケーブルはビーム刃を再び展開し、先程巻き付いていた部分に対して展開する。この攻撃を受ければ、ブライティスは非常に不利になりかねない。
ズバァァァァァァァ
しかし、先に攻撃を仕掛けたのはブライティスの方だった。ブリッツファンネルのビーム刃が巻き付いていたケーブルを、全て切り刻んだのだ。デスゲイズのアイデンティティと呼べる武装の撃破に成功したアレン。一方のメイドは舌打ちをし、苛立つ様子を見せる。
「やらかした……クッソがァ!」
近接武器を無くしたデスゲイズ。これをチャンスと判断したアレンは近接戦闘を試みた。
ビームセイバーを展開し、迫るブライティス。デスゲイズの至近距離まで追い詰めた時――
ガキィン
デスゲイズは手部マニピュレーターを駆使し、ブライティスの前腕部を止めた。この時、互いが取っ組み合っているような構図になる。この衝撃でビームセイバーはブライティスのマニピュレーターから離れてしまった。
「思えばよォ、てめぇとの因縁はデウス動乱以来だよなァ、アレン・レインドォ!」
「戦後になってお前が生きているなんて思わなかったよ、メイド・ヘヴン!」
「兄者を殺しやがってよォ!この際敵討ちが出来るのなら一石二鳥なんだよねェ!」
「お前こそ!俺の父さんを殺した癖に!」
この両者は、デウス動乱時に互いに肉親を殺されている同士だ。その彼等が、今、地球の危機と言う状況を前に戦っている。
「けど、今はそんな事を互いに言っている場合じゃないんだよ!地球が危ないって状況なのに……お前のその行為はただの殺戮行為だ!兄の為の行動とか、そんなもんじゃないんだよ!」
アレンの方がメイドを父親の敵として闘っているわけではない。戦っている場合ではないという状況にも関わらず、殺戮をしているこの男が危険だから、倒さなければならないと思い、戦うのだ。
「てめぇのせいで兄者がいなくなっちまってよォ!こうなってんのはてめェのせいでもあんだぜ!?俺をこんなヤケクソ人生にさせてんのはてめぇの責任でもあんだぞ!そういう事言えんのかよてめェ!!」
鬱屈しているメイドの言い分。彼の場合は、暴れる為の言い訳にアレンを利用しているだけだ。
「状況が分かっていないで、ただ暴れまわる人間は、今この場において必要な訳がない!俺はお前を倒す!父さんの敵を討つ為じゃない!地球の脅威として!」
ブライティスガンダムに乗っているアレンが暴走するほどの極限の怒りを感じない理由。それは、彼が今為すべきことを理解して動いているからだ。
一方のメイドは状況が分かっていない。只の傭兵である彼は今までも散々戦場を暴れまわり、多くの犠牲者を出してきたメイド。その目的は、己の悦楽。彼等では、その背負っている物の重さが雲泥の差があったのだ。
「てめぇだって戦争で散々人殺ししまくってるじゃねェかよォ。そーいうのが一番むかつくし腹立つんだよォ……
正義のヒーロー気取って臭い台詞吐いてる偽善野郎さんよォ!」
両機の押し合いが、加速する。取っ組み合いは更に激しさを増す。
「兄者を侮辱するだけじゃなく、俺の生き方まで否定しやがるてめェは只じゃすませられねぇよなぁ!」
「俺はお前の兄に対する感情は何もない!お前自身を倒さなきゃならないから、動いているだけだ!」
「クソ野郎がァァァ!」
最早、メイドに会話は通じない。彼は今アレンに対する怒りを感じている。兄、フロード・ヘヴンをアレンに殺された事。その怒りが今のメイドを覆っていた。
「あの時の十五のガキにまた殺されかけるかよ……今度は俺がてめェのタマを貰う番だぜおらァァァァァ!」
ズバァァァァァァァ
「うぼああああああああ!!!」
今度は、両側腰部のブラスターファンネルのビーム刃がデスゲイズのウイングを完全に貫いた。それだけでない。怪鳥のシルエットを描く上で必要なバックパックも破壊する。それだけでない。残りのブリッツファンネルが両脚部、股関節部を直撃し、破壊したのだ。
これにより、デスゲイズはMA形態に変形する事が出来なくなった。残りのパーツは、上半身、両上腕、両前腕、頭部のみ。
「ぐ……ぎ……て……めえ……!!!」
メイドがここまで追い込まれているのは初めてだ。アレンの想いの強さが、この状況を作り出していると言える。
「殺ス……殺ス……殺ス……殺ス……殺す!!!!!」
その時、デスゲイズの腹部が輝きを放った。腹部メガビームカノンを、目の前にいるブライティスに向けて放とうとしていたのだ。
「させるかァァァァァ!!!」
ガキィンッ
腹部メガビームカノンが展開される前に、デスゲイズの右前腕部を振りほどいたブライティス。そして、所持していたプラズマランチャーを、腹部に対して向けたのだ。
「行けぇぇぇぇぇ!!!」
「オラァァァァァ!!!」
互いの咆哮が、この宙域に響く――
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
デスゲイズは腹部メガビームカノンを放った。が、同時にブライティスガンダムも、プラズマランチャーをデスゲイズの腹部に向けて放った。ブライティスはこの砲撃を受け、下半身部が消失。
一方のデスゲイズは、胴体が完全に貫かれた形となったのだ。
「兄……者……ァ」
メイド・ヘヴンのヘルメットは割れており、頭部からは多量の血液が。意識が朦朧とする中、彼は、兄を呼んだ。手を差し伸べるメイド。しかし間もなく、彼は力尽く。この時、彼は一瞬だが兄の姿を見たような感覚に陥っていたという。
そして、デスゲイズは爆発を起こした。ブライティスは、辛うじてこの死神を倒すことが出来たのであった。
メイド・ヘヴン。デウス動乱時はデウス軍の傭兵として兄、フロード・ヘヴンと共に暗躍していた男。この時にクリスタルガンダムに乗っていたアレンと交戦。倒されたかに思えたが、生きていたこの男。
P.C歴となった現在も生きていたメイドは、氷河族等の組織に入りつつも好きなように戦場を荒らし回ったり、活動資金を稼ぐ為に傭兵として活動していた。最終的にはデウス帝国の残党軍に傭兵として雇われ、強力なMSであるデスゲイズを授かり、より戦場を荒らしまわる事や、多くの犠牲者を出すことにその生きがいを覚えていた。しかし兄を失ったこの男の行動理念は、“自暴自棄”以外に思い付かないだろう。
凶悪な男であったメイド・ヘヴン。今、ここにアレンによってその生涯に終止符が打たれたのだ。
「はぁ……やったのか……けど……これじゃ戦えないな……」
デスゲイズを撃破した代償は大きい。ブライティスガンダムの下半身は消し飛んでおり、ファンネルもあと四基しかない。ウイングも損傷している。プラズマランチャーはまだ使えないことは無かったが、今の状況でエレシュキガルへ向かうのは無理があった。
この時、アレンの眼は元の色に戻っていた。敵を倒したという確かな事実が、彼の中で残っていたのだった。
「時間がない、このままでもエレシュキガルに突入するしか……!」
ブライティスの機体は半壊しているが、地球が危機的状況に陥っている。このまま、戦いに参加するのは危険ではあるが、背に腹は代えられない。アレンは、そのままエレシュキガルへ向かった。デスゲイズが強襲してきた際に分かれた、レイの心配をしながら。
(レイ、無事ならば良いけど……)
第百九話、投了。
※次回は最終話となります。2月28日投稿予定。