機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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最終話 光(レイ)

 アレンがメイドと交戦していた頃。レイは、ツヴァイガンダムを駆り、エレシュキガルとは違う方向へ向かっていた。

 一見すれば目的からずれている行動をしているレイ。しかし、彼には明確な目的があった。

それは、この状況を作り出したかも知れない男である、エファン・ドゥーリアを探す事だった。先程のルイーナシステムMk-Ⅱによる砲撃を見ていたレイ。その攻撃が、カタストゥリアから発されている事も分かっており、カタストゥリアを見つけ、エファンを止めなければならないと、レイは考えていたのだ。

 

『自分からこちらに来るとは。探す手間が省けるな』

 

レイの頭の中に、声が聞こえた。エファン・ドゥーリアの声である。

 

『そして、お前が私を探し出そうとしている、その目的も分かっている。』

 

レイの心を読んだエファン。

「……僕は、貴方に聞きたい事があります。」

ツヴァイは一度機体を止めた。そして、どこかで声を掛けているエファンに対し、話す。

 

「エレシュキガルのキャノンを地球に向けるように指示したのはエファンさんですか?」

レイが聞く。その二、三秒後にエファンが答えた。

『そうだ』

「あれを地球に発射するのは本当ですか?」

『そうだ』

この瞬間、レイの疑問は確信へと変わる。そして、レイは憤りを感じた。

「どうして……どうしてそんな事を!」

やはり、ネェルガルキャノンが地球に向けられ、そこから地球を撃つのは事実であった。

当然、そうなれば止めなければならない。

 しかし、レイはまず、エファンがそのような凶行に至った理由が知りたかったのだ。今までエファンは何か別の目的があって行動しているのは分かっていた。その、”真の目的”が何なのか……分からない。その目的が分からないのでは、相手と話す事も出来ない。

「人類と言う存在に、敬意を示しているからこそ、これを行うのだ。」

 

ゴギュオゥゥゥゥゥン

 

熱源反応を感知したと同時に、ツヴァイから見て十二時上方向に、カタストゥリアが紫のデュアルアイを輝かせていた。両指関節部を外転させ、まるでツヴァイを睨みつけるように立ち塞がる。

「貴方の言葉から、人を想うなんて言葉が出ること自体が信じられない……僕は貴方から感じるのは、悪意しかない!」

「“敵意”というのはその人間の思い込みによって生じる事だってあるのだ。お前から見た私は“悪意”を感じるのだろう。しかし私は他者から見れば、より良い存在に見られる事もある。何故か分かるか?」

「何故って……」

対立する両者の言葉。レイは、エファンにただ、翻弄されるばかり。

「答えは単純だ。人により、その接し方を変えるだけだ。それだけで人はその人間に対する印象を変える。それだけ。私の場合、お前に対しては悪意を見せるように、わざとしている。」

この男の言葉を、レイは理解できなかった。何故そのような事をする必要があるのかも分からない。

「敵意を見せるようにわざと……?そんな事をして、何の意味が!」

「お前の生存確率を減らす為だ。私に対する憎しみを抱く事。それは、お前自身の闘争本能を剥き出しにする。そうすればお前は感情のままに戦うだろう。感情のままに戦う人間は、脆く、弱いからな。」

エファンの言葉を聞き、レイは彼が以前に発した一つの言葉を思い出す。

 

――――――――――力を持つ者は、消さなければならないからな――――――――――

 

「力を持つ人に対して……その悪意を見せているという事……?」

「言っただろう。力を持つ存在は戦争における潤滑油。戦争をより拡大させる存在だ。それが、シンギュラルタイプ、強化モデル、アドバンスドタイプと言った存在。」

「そうとは限らない筈です!貴方は勝手に判断しているだけだ!」

「違うな。お前はシンギュラルタイプといった存在がどのように生まれたかを知らないからそのような事が言える。」

「違う……?」

エファンは達観した様子で、“シンギュラルタイプ”について語りだした。

「元々この世界にはそのような存在は存在していなかったとされている。しかし人々が宇宙に進出し、それからデウス帝国との長きに渡る戦争が始まった。宇宙に進出し、最初のデウス帝国との戦いが起きた。その後辺りか。シンギュラルタイプと呼ばれる存在がこの世界に出現するようになったのは。」

何故これ程までに彼は詳しいのかは分からない。まるで、今まで明かされなかった過去を語っているようだ。

「シンギュラルタイプは宇宙戦争における“突然変異”という説が今でも濃厚だ。しかしそれは違う。きちんと、理由があるのだ。戦争が活性化していくに連れ、人々はビーム兵器を開発した。そこで用いられるのが、ビーム粒子。これが大いに関係しているとされている。」

「そんな、粒子が関係しているってどういう……?」

「今の戦争は全てに於いてビーム兵器が主流だろう。それは、過去にデウス帝国と地球連邦軍がビーム粒子を兵器に転用したことがきっかけ。そして、人は極限状況に陥る事が多くなった。戦争という、愚業を繰り返すが故に。」

この時、レイは何かを察した様子だった。

「気付いたか?そう、戦争とは人々が死に一番近い状況、非日常。お前のように死と隣り合わせでない日常を生きてきた人間ではまず経験をしない出来事。その状況では脳が本能のままに生存を求める。そして、これと戦場を飛び交うビーム粒子……これらが一定の確率で、大脳の領域を広げるとされる。この奇跡が連続した状況……それが、シンギュラルタイプと呼ばれる存在が増えていったきっかけなのだよ。」

シンギュラルタイプは特殊な人類と呼ばれる存在だ。しかし、その多くは謎に包まれている。エファンは、この正体が極限状態で活性化した大脳領域を広げた存在であるというのだ。

 戦争と言う極限状況を、“生き残る”為に、大脳領域が広がった人類。そして、そこへビーム粒子と言う兵器が混ざり合い、一定の確率で発生する存在、それが、シンギュラルタイプ。

(じゃあ……今まで出会ったシンギュラルタイプの人達って……)

この時、レイは今まで出会った人々の事を思い出した。

彼が出会ったシンギュラルタイプと言われている人達……エリィ・レイス、スバキ・シンドウ、ガースト・ピュアス、ココット・メルリーゼ、マサアキ・アルト、メイド・ヘヴン、メナス・ジェイン、メナン・ジェイン、レヴィー・ダイル、ソフィア・ブレンクス。これらの共通点は、皆戦争の中で、一度極限状況を経験しているというものだった。

「シンギュラルタイプの覚醒する確率は低い。ある意味、奇跡と呼べるものなのかもしれない。しかしシンギュラルタイプと言われている人間達は戦争の中で目覚め、そして戦争を生き残る為に生き残ってきた者ばかり。」

(そんな事が……それが、シンギュラルタイプだなんて……)

無論、この世界にはシンギュラルタイプと呼ばれる存在はまだ居るだろう。しかし、その数自体は希少なのだ。

 かつてのデウス帝国はこの存在に着目し、一人の女性を火星に移動させ、シンギュラルタイプを上回る存在を作り、戦力増強の目的で作り出そうとEVEシステムを作り出した。それがアドバンスドタイププロジェクト。しかしこの計画は頓挫し、失敗に終わった。その中で、EVEシステムは最後のアドバンスドタイプ、エファン・ドゥーリアを生み出した。そして、今に至るという訳であった。

「これで分かっただろう?力を持つ存在の歴史を。全ては戦争があったが故に生まれたもの。人々が争い合い、その中で進化を促されたのがシンギュラルタイプ。そして、その力に自惚れた者、そして利用する者……いずれにしても、こうした存在はまた、新たなる戦争を生み出す!事実、シンギュラルタイプの力に感化された者達は疑似シンギュラルタイプと呼べる強化モデルの制作、果てはアドバンスドタイプ……私自身を生み出した!」

宇宙にその生活圏を移住させた人々が、戦争を起こし、ビーム兵器が発達していく上で出現したとされる、特殊な人類、シンギュラルタイプ。そして、その力に魅了された人々は、より優れた人類を作る為に、人工的に力を持つ存在を作ろうと試みた。結果が、アドバンスドタイプ、強化モデル。エファンが言うように、全ては、戦争が引き起こした副産物である。

「……だからって……それで関係ない人達まで抹殺なんて間違ってます!それに、貴方が行おうとしている事は力を持っている人達だけを巻き込むとか、そんな話じゃない事をしています!あれを地球に向けて、発射なんて……そんなこと、あっちゃダメなんです!」

「必要なのだよ。人が新しい文明を築く上でな!」

エファンの眼が、見開かれた。その時、レイは冷や汗を掻く。エファンから発されるプレッシャーを、感じていたのだ。

「戦争を続ける人類。しかし人類は一方で美しい建造物、文化、文明を築いてきた。私は一度世界中を旅していた時があった。世界各地の世界遺産、建造物、それぞれの国の文化、地域の伝統的な催し物、名物、アニメ、特撮、ドラマ、医療、エンターテインメント、社会活動、そしてその背景。それらに歴史があり、古い時代……そう、祖先とされるアウストラロピテクスの時代から代々伝わってきた歴史。その進化系が、この宇宙移民の際に作られたCコロニー。人類の文明の集大成ともいえるこの存在。宇宙にまで生活圏を移すことが成功したという歴史は私にとって非常に興味深いものがあった。」

戦争の愚かさと、人の素晴らしさという、一見矛盾を抱えた発言をするエファン。

「だが人は増え過ぎた。そして戦争が起きてしまった。戦争自体は旧世紀より今まで何度も行われてきた。戦争が起きては平和になり、また戦争が起きる。小規模な内乱、テロリズム等は旧世紀からずっと続いているが、そのせいで失われた命も計り知れない!人工知能の発達を抑制した結果、人口が増え続け、地球より、増えた人々を宇宙に進出することが出来てから百五十年以上の時間が経過した今の時代においても、このような戦争は続いている!人の数が多ければ多い程、様々な意見もあり、思想もある。だがそれが対立し、価値観を押し付け合う時や、それが正義と感じた時に戦争が起きる。互いを悪と見做した上で、戦い合う!そして築かれた文明は滅ぶ事もあった!戦争と言う、人間が起こした愚かな過ちのせいでな!」

レイがエファンから感じるのは、戦争に対する憎悪だ。だが彼自身も戦争の幇助とされる、MSの開発、制作を行っている。これもまた、矛盾だ。

「貴方は戦争を憎んでいて、それでMSに乗って戦っている……それも矛盾じゃないんですか?それって、おかしい事じゃないんですか?」

「ああ、おかしいな。このような兵器は存在などしては行けないのだ。だが私の計画の為には、必要悪だ。だから、利用できるものは利用する。そう、何でも……全ては、人類を統一する為に!」

エファンの言う、“人類の統一”という言葉は何を意味するのか……レイは、それが気になっていた。

「それに力を持つ存在は私一人で良い。比較的数が存在する、力を持つ存在はオールドタイプから見れば只の嫉妬の象徴になるだけ。奇跡的な力を持つ人間は、私一人だけで良い!そして、私が人類を統一し、新たなる歴史を築き上げていく!新たなる歴史はやがて新たなる文明、文化を生み出していく!それこそが、私の目的だ!」

この時レイはエファンが言った言葉を、一つ一つ整理した。

 まず、エファンは力を持つシンギュラルタイプ、強化モデル、アドバンスドタイプの抹殺を図っている。その上で、力を持つ存在は自分自身のみで良いと言っている。その一方で、人間を尊重している。しかし、人類が行う愚かな行為である戦争という行為を忌み嫌っている。そして、人類を統一するという目的。その上でのネェルガルキャノンの地球への砲撃。

 これらが統合された時、レイは答えを見つけた。エファン・ドゥーリアと言う男がこれから行う、真の目的の答えを。

 

「地球に住んでいる、人間の数を減らす為。それがあの要塞の砲門を地球に向けた、本当の目的……?」

 

レイの言葉に対し、エファンは突如、高らかに笑いだした。

「クク……フフ……ハハハハハ!伊達にEVEの力を引き継いだ、ニア・アドバンスドタイプではないようだ!いや、アドバンスドタイプEVEと呼ぶべきか?私を含めてな!」

男の放った言葉の中で、新たな造語が生まれた。アドバンスドタイプEVE。EVEシステムから引き継いだディヴァインセルを体内に宿す人間と、別の存在を区別する為にエファンが用いた言葉だ。

「そして、その察しの良さ!確実に覚醒しつつあるな、レイ・キレス!」

褒められても、別に喜びなど感じる筈がない。レイの言うように、エファンの最終目的が人類の減少だとすれば、これは、最早一刻の猶予もない。

「こんな事今すぐ止めないと!せめて中の人に伝えないと!この人の勝手で地球が攻撃されるなんて――」

 

ドバアアアアアアアアア

 

ツヴァイがエレシュキガルに向かおうとした時、カタストゥリアの指間腔ビームキャノンが展開される。高出力のそれは、ツヴァイの眼前を通り過ぎた。

「エレシュキガル内部の兵士を説得しようと試みたか?愚かだな。とうに死んでいるというのにな!」

「そんな……どうして!その人達は力を持っている人じゃない筈です!どうしてそんな!」

「余計な事にならないよう、必要な犠牲だ。これからの事を思えばな。これでもうエレシュキガルを内部から止めることは出来ない。あとは地球に発射されるのを待つだけ。さて、それまでの時間稼ぎ、相手をしてやろう、アドバンスドタイプEVE!」

遂にエファンがレイに牙を向く。先程まで自身の思想について語っていたエファン。男の真の目的にレイが気付いたのを機に、彼を抹殺せんと、襲い掛かる。

 まず、カタストゥリアは指間腔のビームキャノンを連射。その後手部をケーブルで伸ばし、ビーム刃を形成。ツヴァイを切り裂かんと、迫る。

 

ピキィィィ

 

レイの脳内で電流が走る。ブリッツファンネルが展開され、ツヴァイの本体を覆った。それらはビームバリアーの形状を取り、カタストゥリアの攻撃を弾く。

「大した芸当だ。やはり力を持つお前は殺さなくては行けないな。レイ・キレス!」

エファンの強烈なプレッシャーが迫る。今までのレイならばこれに飲まれていただろう。だが、彼は今為すべきことを成そうとしている。それは、地球に住む人々を救う事。目の前にいるこの男を、止めなければならないという事。

「シンギュラルタイプであろうと、アドバンスドタイプであろうと関係ない!僕は、僕なんだ!僕は認めない!そんな貴方の勝手な野望なんて!」

次に、ツヴァイのブリッツファンネルは共鳴し、ビームピッカーの形状を作り出す。円錐状のそれは合計六基展開。ブリッツファンネルと、ミニファンネルがそれぞれ共鳴し、カタストゥリアに迫った。

「私が、ネェルガルキャノンが撃たれた後の、地球上の生き残った人類を導く!その為に力を持つ存在は消す!ただ、それだけだ!」

カタストゥリアも四基の大型ブリッツファンネルを展開し、それに付着している小型ブリッツファンネルと共鳴。四つのビーム刃が展開され、ツヴァイに迫る。

「例え普通の人と違う力を持っていたって……人は人なんです!心も意思もあって、会話も出来て、普通に生活を送っていける……ただ違うのは特別な力を持っているだけ!それだけなのに!それだけなのに!どうしてこんな!」

互いのブリッツファンネルが衝突し合う。ビーム刃の光が、宇宙を照らす。その直後、カタストゥリアはビームクローでツヴァイに迫る。ツヴァイはこれに対し、ビームセイバーで弾く。

「力を持つ存在は戦争の潤滑油だ!力に自惚れ、余計に力を誇示しようとする!そして争いを求める!だからこそ私自身が人類の頂点に立ち、力を持つシンギュラルタイプ、アドバンスドタイプ、強化モデルを始末した上で支配する!そして人類の数を減らす!やがては力を持つ存在は私のみとなり、残された人類を導く!お前はその為の犠牲になってもらう!」

「貴方の言っている事はおかしいです!そんな理由で大勢の人を殺して良い筈がない!」

「この長い歴史の中で、シンギュラルタイプをはじめとした人類は自身の力にどれだけ溺れてきたか!覚醒した力を持つ人間は自身の力を誇示し、そして更なる争いの火種を生み出す!!事実、アドバンスドタイプもまた戦力として作成された力を持つ人間の一つ!それに絶望したEVEは私に全てを託したのだ!私はEVEの遺志を継ぎ!力を持つ者を抹殺し!そして人類の絶対数を減らし!その中で生き残った強者を支配する!」

「皆、それぞれ色々な事情があって生きているんだ!そんな、一人一人の考えを無視した世界なんて!たった一人の人間に支配される世界なんて、おかしいです!」

「それが人類をより質の良い存在へと進化させる方法なのだ!一人の支配者に導かれ、人はそれに従い、文明を築く!それこそが愚かと言われ続けてきた人類が再生していく為の道なのだ!だからその最初の段階として力を持つ存在の末梢!そして人類そのものの数の減少!!!それにより世界はより良い状況を生み出す!今はそれらの第一歩に過ぎない!!!権力を持つ者は混乱を利用して何十年もの時間を掛けて支配をしやすい基盤を作り上げてきた!私はこれから時間を掛けてそれを作る!」

激しく打ち合う、ビーム刃。両者の対立。エファンが語る想いと、それを否定するレイ。エファンの壮大な野望は、全てを滅ぼすことに繋がりかねない。だから、レイは戦う。自分も含め、それらを守る為に。

「僕は貴方の邪魔をします!貴方を止めないと、みんなが死んでしまうから!父さんも、母さんも、リリアお姉ちゃんも、ミィスも、リルムも、みんなも!貴方の勝手でそんな事、あって良い筈がない!」

「平凡な日常だけを生き、因果によって力を得たからといってつい最近になって戦争に参加しただけの存在が何を言う!やはり力は付いてきているようだが私には及ばないな!レイ・キレス!EVEの力を持つ、紛い物のアドバンスドタイプEVE!!」

あくまでも、人工的に生み出されたアドバンスドタイプとしてレイを見ているエファン。しかし、彼はそれでも戦う。最早、そこには“突然変異”と言われて傷を付いていた彼の姿はない。彼の精神は、間違いなく成長している。これまでの経験が、そうさせるのか。

「紛い物でも偽物でもなんでも良い!僕は僕だ!貴方の方がよっぽど危険だ!止めなきゃ……絶対に!!」

打ち合いが解除された。が、同時にブリッツファンネルとビームクローを共鳴させ、エレシュキガル内でツヴァイとブライティスを襲ったような、巨大なクローを作り出した。

「どの道もう時間は残されていないがな!間もなくネェルガルキャノンは発射される!それにより、人類は新たな一歩を踏み出せる!」

巨大なクローは一斉にツヴァイに迫った。危機を感じたレイは、ブリッツファンネル全てを展開し、バスタービームライフルを腰部にマウントし、側腰部からメガビームセイバーを二つ展開。そしてそれを連結させ、カタストゥリアのようにブリッツファンネルを共鳴させる。すると、巨大なビーム刃が出現。まるで長刀のような、巨大なエネルギーが出現した。

 やがてこれらのエネルギーが衝突し合う。カタストゥリアの肥大化したビームクローは、ツヴァイの巨大なビームセイバーを抑えるかのような構図になった。

「貴方は人を想う気持ちだってある筈なんだ……それだけ人が作った文化とかについて、語ることが出来るんだから……なのに、なのにどうして!!」

「これは結論だ!次に生きていく人類が、新たなる文明、文化を築き上げていく為の!エレシュキガルの存在はそれらを成す、手っ取り早い兵器だ!レヴィー・ダイルは役に立ってくれたよ。私の目的の為にな!」

「人を想いやれる人間とは思えない……そんなの、ただの自己満足だ!貴方に人を語る資格はないですよ!」

「人は試行錯誤して生きていく!年月を重ね、世界情勢や環境が変わっていきながらも、己の考えや価値観も変化していく!様々な価値観はその時のものだ!私の場合はその結果だ!」

「だからってその結果だけで地球にあんなものを向けて良い理由になんてなりません!貴方の勝手だけで成り立つ世界なんて長く持つ筈がない!」

「人を待ち続けた結果が戦争の繰り返しだ!美しい文明、文化を破壊してきたのが同じ人間による戦争だ!それを繰り返してきた愚かな人間はその数を減らし、新たなる指導者に導かれる必要がある!戦争を引き起こすもの、その潤滑油となる存在は全て滅ぶべき存在だ!だから、数を減らす!力を持つ存在を含めてな!!」

カタストゥリアは肥大化していたビームクローを一度展開するのを止める。そして、そのままブリッツファンネルを共鳴させ、大出力のビーム砲撃を行った。

「そんなの!!」

ツヴァイも急いでブリッツファンネルを展開し、ビームバリアーを作る。バリアーフィールドジェネレーターとビームバリアーが重なり、その砲撃を防ぐ事が出来た。

 しかしカタストゥリアの激しい攻撃は続く。合計二十四基のブリッツファンネルはツヴァイに向けてビームを発射し続ける。レイはこれらを見極め、回避しながら隙を見つける。

「ダメだ、一度場所を変えないと……!」

このままではカタストゥリアの猛攻に押されてしまうと判断したレイ。この時、彼はエレシュキガルの内部への突入を試みた。出入口を見つけたからである。

「逃すか。」

エファンはすぐにそれを追う様子を見せた。

 

 エレシュキガル要塞内部にて。両機体が通っているそこは通路であり、狭い空間だ。ブリッツファンネルが展開し続けられる空間ではない。その為、両機体は全ての武装を機体に戻し、移動していた。

 やがてツヴァイとカタストゥリアは対面する形をとった。ツヴァイは胸部のメガマシンキャノンを展開。同時に、カタストゥリアもマシンキャノンを展開する。

 狭い空間である為、互いに使える武装は制限される。その空間の中で、実弾の撃ち合いが、繰り広げられた。

「私はお前を殺した上で人類を導くよ。力を持つ存在は私以外に必要ないからな!」

「僕は死なない!貴方を止める為に戦う!そして帰るんだ!地球に!!その為にも!」

「全てが叶うと思うなよ!戦場という非日常は何が起こっても自己責任だからな!!五体満足で帰る事が出来るというその願望こそが甘えそのものだ!!」

日常と、非日常を行き来してきたレイ。この一年と少しの出来事は、レイにとって壮大な体験となった。この体験があったからこそ、今こうしてエファンと戦うことが出来るのだろう。戦場と言う非日常を経て、レイは次第にその才能や能力を開花させていく。その才能により、今は亡き新生連邦総司令であるレヴィー・ダイルからもスカウトされることもあった。

 彼の戦う動機はいつも、“守る為”だ。しかしエレシュキガルが地球に向けられている現状では、エレシュキガルから“地球を守る為”に、“攻める”戦いをしている。

「朝起きれば母親の作った朝食があり、学校があり、部活動があり、夜の寝床がある、そのような日常を送ってきたお前がこのような場所で私と殺し合いをしているというのも面白いな、レイ・キレス!」

戦いながらレイの過去を見たエファン。まるで挑発するかのようなエファンの台詞。レイはこれに対し

「貴方を止めなきゃそんな毎日だって迎えられなくなる!だから貴方を止めるんだ!」

と、反論した。

「日常を守る為に私と戦うか!面白い!」

日常の存在は、多くの人間が血肉を削った中で作られる。起床し、朝食を食べ、通勤、通学をし、就学、就業を行い、昼食を食べ、帰宅し、夕食を食べ、眠る。この一連の流れが出来るのは、日常生活を守る人間がいる事により、成り立っている。

 もし、エファンを止められなかった場合、その世界は成り立たなくなる。それだけは避けなければならない。地球圏に於ける日常を守るには、レイが戦うしかないのだ。ごく普通の日常を手に入れるには、エファンという最大の敵を倒さなければならないのだ。

 今まで、レイはいつも、守る為に戦ってきた。セイントバードチームを守る為、自分を助けてくれた人を守る為……今、彼は日常を守る為に戦っている。この、壮大な戦いの果て。それが、今の彼の最後の目的と言えるのだ。

 

 

やがて通路を抜けた先。そこで、カタストゥリアはすぐに六門のルイーナシステムMk-Ⅱを展開した。最大出力ではないが、高出力のそれは不意打ちとしてはあまりに強力だった。

「プラズマ兵器……!」

レイの頭の中で電流が流れる。すぐに、ツヴァイもブラスタープラズマカノンを展開し、迎撃する。

 しかしその出力の差は歴然だ。瞬く間にツヴァイのプラズマカノンは溶かされてしまったのだ。使い物にならなくなり、デッドウェイトとなったそれを、レイは急いで解除した。

「くぅ……!」

そうなれば、避けるしかない。機体の損傷はあれど、動力に問題はなかった。

 カタストゥリアのルイーナシステムMk-Ⅱは一度艦隊に向けて最大出力で放出しており、この攻撃により、エネルギー残量が空となった。従って、デッドウェイトとなってしまう為、この砲門を全て解除したのだ。

「互いにプラズマ兵器は使えないな。」

強力な兵器を無くした両者。しかし武装はまだ、ある。目の前にいる強大な敵を倒す手段を、レイは考える。

 この状況で先に仕掛けたのはレイだ。メガビームセイバーを展開し、正面からカタストゥリアに迫る。

「ほう。」

それに反応したエファンのカタストゥリアはビームクローを展開し、それを有線で飛ばす。

「行けっ……!」

次の瞬間、ツヴァイのブリッツファンネルがカタストゥリアの後面にビームを放った。しかし、ビームは弾かれる。バリアーフィールドジェネレーターによるものだ。

「そんな……!」

「分かっていたよ。お前の攻撃など!だから応じてやった。それだけだ!!」

レイの思考を読んだエファン。カタストゥリアに全面に展開されているバリアーフィールドジェネーターの存在にレイが気付いていないと踏んで、あえて正面からビームクローを展開したのだ。

 状況はレイにとって不利だ。機体性能もカタストゥリアの方が上。火力、機動性、装甲、防御面、全てにおいてカタストゥリアが勝っている。増して、パイロットも特殊だ。人の思考が読める上、力を持っている。空間認識力も常人を遥かに凌駕している存在。レイにとって、紛れもなく最大の敵……それが、エファン・ドゥーリアとカタストゥリアだった。

「普通でいたいとあり続けた少年、レイ・キレス。皮肉なものだな!お前の意志とは裏腹、お前自身は普通の人間とかけ離れていき、やがてはアドバンスドタイプEVEへと完全に覚醒した!お前は最早普通の人間でない!力を持つ存在になってしまったが故に私に殺される運命を辿るなど!」

エファンはまた、レイの過去を読んだ。

 レイはあくまでも、“普通”でいたい少年だ。だが彼の運命は皮肉にも、“普通”とはかけ離れた経験、やがては人間ですら“普通”とは言えない人種となった。その事は一度彼自身を自殺させるにまで追い遣ったのだが、彼を奮い立たせたのは父親の存在だ。

「僕は普通じゃないかも知れない!けど、それを認めてくれる人がいる!特別な経験、特別な人間であっても、人である事に変わりはないんです!」

「その結果が力を持つ人間とは皮肉だな!戦争の潤滑油となり得る存在、呪われた人類、シンギュラルタイプ、強化モデル、アドバンスドタイプ!それらは人類が新たな一歩を踏み出す上での阻害因子だ!」

「それらを排除して自分だけが生き残って何になるんですか!貴方の存在は遥かに人よりも優れているかも知れない!けど!たった一人で残った人を指導なんて無理ですよ!」

その時、カタストゥリアのブリッツファンネルが再び二十四基展開され、一斉にツヴァイに向けられた。これらをバリアーフィールドジェネレーターで守りながら、カタストゥリアに近づく。

「エファンさんが本当に人を愛してるのなら、こんな方法じゃなくても人の為に出来ることはある筈です!」

まるで説得するかのようにレイはエファンに言った。しかし、エファンはレイの言葉に耳を向けようとしない。

「だからこそその数を減らすのだ!人は数の多さを管理する為に人種を分け、国、その中の地方自治体を作り、そこで管理するように仕組みを作った!しかし結果、国の中での内乱やテロ、挙句の果てには戦争!そして宇宙に居住地を広げたかと思えばデウス帝国と言う国家と地球の戦争!繰り返す愚かな行為!その度に破壊される築き上げられた文明、文化!宇宙戦争で生まれた力を持つ存在は更に争いを生み出す火種になる!」

カタストゥリアのブリッツファンネルによる猛攻は留まる事を知らない。ツヴァイのブリッツファンネル自体にバリアーフィールドジェネレーターが張り巡らされていることが救いではあったが、このままでは防戦一方だ。

 両機体の致命的な違いは、バリアーフィールドジェネレーターの範囲による。ツヴァイは機体本体としては両前腕部のみに搭載している。しかし、カタストゥリアはデスゲイズと同様、機体全体にそれらが覆われているのだ。つまり、ツヴァイの場合はブリッツファンネルを展開して攻撃をした時、油断をすれば本体を攻撃される可能性がある。そうなれば、撃墜される危険性が増す。

「その争いの火種は止めなければならない!そして、ネェルガルキャノンがそれを遂行する!!」

「エファンさんは人を知った気になってるだけです!勝手に自分の中で解釈して、その価値観を押し付けているだけです!そんなの人を愛しているなんて言いません!本当の人の繋がりを知らない人がそんな事を言うなんて!」

レイは二十四基のブリッツファンネルの猛撃に耐えながら、懸命に語る。

「人の繋がり!確かに必要なものだ!人類はたった一人で繁栄しなかった!親子との会話、やりとり、そして友人を含む他者とのコミュニケーション!それらを経て人は繋がりを覚え、互いに助け合う!人を知って、人は発展して行った!いつしか人は近所付き合い程度のネットワークのみならず、その範囲を至る所でも交流が出来るようになっていった!顔を知らぬ人間との交流も気軽に出来るようになり、それらとも友人関係を結ぶことも容易になっていった!人の縁とは、不思議なものだ!」

二十四基のブリッツファンネルによるビーム砲撃。それらから機体を守るレイ。やがてそれらは砲撃ではなく、ビーム刃に変化し、ツヴァイに迫った。

 ビーム刃が一斉に迫っていては、まずツヴァイに勝ち目がない。これらを防ぐ為にツヴァイのブリッツファンネルも十八基全てビーム刃を展開。しかし、六基は抵抗できない。その分が、本体に迫る。

 メガビームセイバーを二つ展開し、これらと打ち合いを行う。数の多さで翻弄されるレイ。不利な状況が、続いていた。

(ダメだ……このままじゃ歯が立たない……どうすれば……)

レイは集中力をいつになく増し、この無数のブリッツファンネルに抵抗している。少しでも油断をすれば命はない。

「随分大変そうだなレイ・キレス!自身の命が迫る時程人はその集中力を増す!そして、更に脳を活性化させる!その境地を迎えた時……面白いものを見られるぞ!」

「何を……」

その時だ。突如、エファンは全てのブリッツファンネルを全て本体に戻した。突然の出来事にレイは目を何度も瞬きさせる。

 何故、このような真似をしたのか。エファンは本気で殺す気なのかも分からない。この男はレイに対して何をしたいのかも、分からないのだ。

「人が行うコミュニケーションの境地……せっかくだ、お前にも見せてやろう。」

「コミュニケーションの、境地……?」

エファンが放つプレッシャーは、いつしか光のようにも見えた。レイは、この光に包まれる感覚に陥る。しかし、彼はこの感覚に対し、恐怖ではなく、何故か“暖かさ”を感じていた。

 

 

 

 光に包まれたレイ。目を開けると、そこは先程までの戦闘空間ではなく、全く違う空間にいた。そして、そこは見覚えがあった。

(ここは……あの夢の場所……)

レイがエファンによって見せられていた悪夢の場所だ。何故、突然この場所に自身の身体があるのかは分からない。妙な感覚に、レイは陥っていた。

「気が付いたか。」

そして、目の前にはエファン・ドゥーリアの姿があった。パイロットスーツでなく、私服姿。いつも夢で、レイを殺す時の姿。一方のレイも、何故か学生服を着ていた。夢の中の服装と、全く一緒だったのだ。

「どうしてここにいるのか……といった様子だな。レイ・キレス。」

「今は夢を見ている訳じゃない……けど、どうして?」

不気味な感覚に陥ったレイ。一体何がどうなっているのか、彼自身分からないのだ。

「ここは所謂精神世界のようなものだ。先程の戦いで互いにその意識を肥大化させ、その結果、この空間で会うことが出来た。」

「精神世界……?そんな、そんな事なんて……」

信じられない様子のレイ。だが、彼は現実問題、エファンと喋っている。先程まで敵対していたはずの、エファンと。機体を介して互いに会話をしていた両者。しかし今は、まるで2メートル程度は離れているような感覚で会話をしている。本来初めての感覚である筈なのだが、レイにとってこれは初めての感覚でなかった。

(この感じ、どこかで……)

レイはふと、思い出した。スバキが死んだ時の感覚だ。エファンが作り出したこの場所は、あの時の悲しくも暖かな空間に似ていた。

「これこそが、人が行うコミュニケーションの境地。目の前にいる人間とのコミュニケーションが全てではない。人を超えた存在故に介入の出来る場所……と言うべきか。」

エファンが作り出したこの場所。夢を見せることが出来るこの男だからこそ、出来る事であるのかは分からない。ただ、彼は、この場所が“人を超えた存在故に介入できる場所”と言った。それは、力を持つ存在の事を示すのだろうか。

「人の脳は未だに全貌が解明されていない。多くの人間はその脳の機能を全て覚醒出来ずにその生涯を終える。例えば他者と会話をする時は大脳からの意志伝達、言葉、声等を使って言葉を発する。しかし言葉が通じない場合は人の場合は情報媒体……古くは紙や、電子媒体等を使って相手に意志を伝える。動物の場合は触るなど、直接的な介入によってコミュニケーションを図る。」

「それは分かります。Eフォンとかがその役割を果たすっていうのは。けど、ここは分からない……」

「ここは常人では踏み込めない場所だからだ。常人の域を超えている我々は、その意志の強さにより、こうした場所での対話も出来る。やがてその意志は夢と言う形となり、具現化する。それがお前の見続けた悪夢の正体。」

「貴方が悪夢を見せることが出来るって言うのは……僕の中にEVEのディヴァインセルが流れているからと言う訳じゃないのですか?」

「その因子は大きい。しかし、それ以外にもお前と言う人間だからこそ、出来るところもある。だからお前とこの空間を“共有”出来るのだ。最も、ここは現実にあった場所だがな……」

エファンの言う場所は、ダーウィンの廃墟の事だ。彼はそこを起点とし、レイに悪夢を見せ続けていた。その結果、現実となった。

「だがお前に見せていた悪夢は別の形でも現れたりしたようだ。それもまた、お前の中のEVEのディヴァインセルがお前に見せている力なのかもな。」

「別の形……?」

と言われ、レイはある夢を思い出す。

 

――――――――――――――――じゃあね、レイ―――――――――――――――――

 

リルムに言われた言葉。それもまた、現実のものとなった。

 しかしその通りになる事は結果的になかった。何故ならば、最終決戦の前に両者は会話を交わしたから。仲違いによる永遠の別れになる事なく、今に至る。

「お前の行動がそれを回避したと言うべきか。お前の中の信念がそうさせるのかは分からんが、やはりお前の力は並み存在を凌駕していると言うべきか。それが意志となって現れたのかも知れないな……」

全てを知るエファンは彼の事について語る。彼が見ていた悪夢は全て、予言通りになりつつも、その通りの顛末を迎える事は無い。その解釈は、眼前に居る男が行っている。

 それは事実かは分からない。だが、レイには以前以上に信念を宿している状態であるのは間違いないだろう。それが、意思の強さなのか。

「そんな事が……分からない、分からないです……」

当然の反応。だが、エファンは語り続ける。

「意志の強さが増幅すれば、それは死者とも対話する事にも繋がる。無論、それは常人には辿り着けない世界。この世界の常識ではまず考えられないとされる事。科学的根拠等存在しない世界。だからオールドタイプからは“オカルト”と一蹴にされるモノだ。古来から存在する霊媒師などと言った存在は、ある意味先駆者と言うべきか……」

レイ自身、幽霊などといった話は今までお伽話や映画、フィクションなどで聞く程度でしか感じたことの無いものだった。しかし、エファンはそれを語っている。それらは、意思の可能性によって対話さえも出来るものだという。

(もしかして……スバキと話すコトが出来たのは、もしかしてこの力があったから……)

レイはズハキの事を思い出した。クラリスによって殺されたスバキ。彼女は最期にレイにその想いを伝え、この世から去った。

「それもまた、意思の力だ。お前のように力を持つ者が望みさえすれば、死者との対話も出来るという訳だ。」

エファンは心を読んだ。しかし、レイもう、驚く様子を見せなかった。

「言霊という単語がある。言葉には魂が宿ると言われている。言葉はその発した人間の気持ちと共に現れる。一方、電子媒体や紙媒体でもそれらは文章となって現れる。そこに個人があれば、それは形のある、“言葉”となる……」

コミュニケーション、言葉について語るエファン。人が成り立つ上で欠くことの出来ない存在、言葉。彼は人を大切にしている。それ故に発した言葉なのだろうか。

「言葉は人を安心させる事もあり、人を殺める事もある。暴力や兵器とは違うが、扱いを間違えればこれ程脅威になるモノはないだろうな。よく、口は災いの元という言葉があるだろう。人はその発した言葉や文の解釈の仕方により、争いが生じる事もある。そして、その発した人間を徹底的に弾圧せんと、歪んだ正義感を持った者がその者を弾圧する。それも、完膚なきまでに。その結果待っているのはその者の死……歪んだ正義の結果、特定の人間に誹謗中傷され、心なき言葉を浴びせられ、死を選ぶ人間の存在。言葉とは、これ程恐ろしい物なのだ。」

「聞いた事があります。それで死人が出たっていう……」

レイ自身も日常生活の中で覚えのある出来事だ。Eフォンというデバイスにより、多くの人間と簡単に繋がる事が出来る時代。それによる、言葉の選択。顔が見えないが故の、容赦のない言葉。

「だが、言葉をはじめとするコミュニケーションは同時に人類の発展の為に必要な存在だ。そして欲望。人はそれらを実現する為に欲望と言う活動源、並びにコミュニケーションの力を発展させてきた。最も基盤となるのは人の三大欲求とされる食欲、睡眠欲、性欲。それらが満たされていくと、高次的な欲求……欲望を持つようになっていった。その欲望の果てが、文化、文明、芸術だ。それぞれの国の文化、文明はその国らしさを作り、芸術は音楽、ダンス等で心を躍らせる。それらは全て、欲望とコミュニケーションが合わさった結果生じたものだ。だからこそ、私は人を愛している。人は美しいものを生み出す力を持っている。それらは社会生活を送る上での多くの人々の助けとなっていった。」

この空間においてもエファンは人の事について語る。今回の戦闘でエファンが語った、“人を愛している”という言葉は紛れもないものであると、レイは感じていた。やはり彼は喜んでいる。人を語る事に、嬉しさを感じているのだ。

(この人から感じる暖かさは、やっぱり本物だ。でも……そんな人が、こんな恐ろしいコトをするなんて考えられない……)

先程までの、レイを殺そうとするエファンとは違う一面を見た。レイはこれに対し、不思議な感覚に陥る。

「やがて文化が発展していくに連れて、人々はあるモノを、求めるようになっていった。」

「あるモノ……?」

エファンは、先程の喜びの表情を変えた。

「“情報”だ。それは今までも、そしてこれからの時代においても重要な存在。それがなければ人は更なる発展を出来なかっただろう。」

いつの時代も人は“情報”を求めてきた。特に近代においてそれらは非常に大切な要素となる。エファンの言うコミュニケーション、欲望、そしてその先にある情報……

「しかしこの情報と言うのは量が増えれば増える程その真偽が不明となっていく。偽りの情報を悪ふざけと言わんばかりに発信する者、そして真実を伝えようとする者。それらを見極めようとする者。それらはネットワークの発達した時代などに置いても常に必須とされてきた。情報における弱者は金銭の損失や健康被害等、犠牲者となっていった。無論、それは人類が愚かな戦争をする上でも言える話だがな。」

情報は平穏な日常においても、死と隣り合わせの非日常である戦争においても必需品だ。正確な情報は人を豊かにする。しかし誤った情報は人を不幸にし、最悪死に至る事さえある。

「デウス帝国と地球連邦の戦争で情報は必需品だ。それ故に戦争は発展していった。死の商人と呼ばれる軍事産業の発達もしていった。その結果、多くの築き上げられた文明、文化は滅びゆく運命を辿っていったがな。」

エファンにとって、戦争は忌むべきものだ。人の生み出した美しい芸術、文化の一方で、戦争と言う愚行による、それらの崩壊。彼にとってそれは耐えられない物だったのだ。

「その、戦争の中で生まれた兵器、MSが人の形をしていると言うのはある種の芸術なのかも知れん。人のプリミティヴな感情の一つである、闘争本能の果ての姿。私の友人がよく話していたよ。彼の言っていたその台詞は、私にとって関心を抱くに値する台詞だ……」

エレグの事だ。エレグは人の存在に拘っていた。その事に、エファンはどこか、喜びを感じている様子だ。

「やがてその戦争の結果、人間の中でシンギュラルタイプといった人種を生み、戦局を泥沼化させ、現在にも至るのはもう語っただろう。」

この中でも、彼は力を持つ存在を許さない姿勢を見せる。ならば、何故彼はレイとこの場所で対話をしようとしているのか。

「しかし不思議なものだ。EVEのディヴァインセルを取り込んだアドバンスドタイプの突然変異であるお前とここで、まるで互いに喫茶店等で茶でも飲みながら話すように会話をするのも不思議だろう?」

「それが、“コミュニケーション”と言いたいんですか?」

レイの疑問に、エファンは笑いながら答えた。

「ハハハハハ!そう!そうだな!それこそがコミュニケーションだ。私はお前に殺意や敵意を向けている。お前はそれをずっとプレッシャーに感じ、ただ子犬のように怯えていた。だが今はこの場で対等に話している。それはお前自身が成長しているが故なのかも知れない。それもまた、コミュニケーションだ。面白いだろう?この場所ではそれだって出来るのだ。お前自身も経験の中で人を超えた。その結果がここでの会話という訳だ。」

エファンはこの会話を楽しんでいる。本来殺す対象であるはずのレイと。レイからすれば、何故これ程までにエファンが自分と会話をしようとしているのかが、全く分からなかった。

「僕は……貴方がやっぱり分かりません。僕を殺そうとしておきながら、こんな、不思議な場所で貴方は楽しそうに話をしている。そこに僕は暖かさを感じてます。でも、貴方の本当の目的は……」

「増えすぎた地球の人類を減らす事だ。その上で私は残された人類を導く。」

やはり、レイには分からない。そのような人間が、ここで自分と話をする理由が。

「矛盾だな。そう、これは矛盾だ。抹殺しなければならない人間とこのように長い会話を楽しむというのも、また、矛盾。人は矛盾を抱えながら生きていく。私も人智を超えた存在ではあるが、所詮は“人”という事だ。」

エファンが矛盾しているのは分かり切っていた。人を愛しているにも関わらず、人の数を減らすという事。レイは力を持つが故に抹殺しなければならないはずなのに、レイとの会話を楽しんでいるという、矛盾。

「お前も同じ矛盾を抱えているだろう?戦争に於いて。」

レイの矛盾とは、“守る為に戦う”というものだ。何かを守る為に、相手を殺す。レイはMSに乗り、今まで多くの人間を殺してきた。しかし、その上で日常生活を送っている。これもまた、エファンからすれば矛盾と言えた。

「僕も……矛盾している……」

「人は存在そのものが矛盾している。だからこそ、愛おしい。だからこそ、醜い。」

人の存在が矛盾という言葉。それは誰にも当てはまる事だろう。いくら彼等がオールドタイプと呼ばれる人々を遥かに凌駕する力を持っている人間であれ、結局は“人”なのだ。

「エファンさん、僕は思うんです。貴方のその力、可能性をどうしてもっと人の発展に活かすことが出来ないんですか!こんな空間で僕と話していて、笑っている貴方は今まで見たことがない……そこに、僕は暖かさを感じました!けど貴方の目的は人の数を減らす事なんて……貴方には心があるハズなんです!なのに、どうしてこんな選択をしてしまったんですか!」

レイの言葉に、エファンは答える。

「それが“結論”だからだ。私の中の、結論。その上で力を持つ存在を抹殺する。」

「その力を持っている人達だって、こうやって話し合う事だって出来る筈なのに!どうして!」

「戦争における潤滑油として働いている者ばかりだからだ!そのような存在に語り掛ける必要はあるか!」

「じゃあ僕は!?僕だって今までMSに乗って戦ってきました!どうして僕だけこんな場所に?」

それに対し、エファンが何故か優しそうな表情で浮かべた。それは、レイが最初に男に会った時の彼の表情に似ているように見えた。

「もしかすれば、戦争とは全く縁がない生活を送っていたお前が突然変異とはいえ、EVE由来の力を持った事対し、内心では興味を持った結果なのかも知れないな。“人を愛する”私が感じた。」

エファンのその言葉に、レイは疑問を抱く。

“人を愛する”とは、一体……?

「それってどういう意味ですか……まるでエファンさんの中にもう一人いるような言い方だけれど……」

「言っただろう。私は元々EVEシステムの意志を継いだと。だがその上で、私自身が生きていく内に、人の存在を愛おしく感じるようになった。これが私の中にある矛盾。戦争を引き起こす存在と化している人間の排除と、人を愛するという、相反する感情が私の中で常にあるのだよ。特に、お前に関してはな……」

エファンは元々はEVEシステムによって生み出された最後のアドバンスドタイプ。彼は最初、その遺志を継いでいた。

 しかし彼が地球圏に生活を移した後、彼は数多の“人”の文化に触れた。結果、彼の中で相反する感情同士が存在するようになったのである。

 それらがエファンの中で合わさった結果が、今回の計画という訳だ。彼は超越した力を持つ存在であるが、所詮は人間であり、様々な感情を持っている。それが人格を作っているのかは定かではない。

「人という生き物はな、興味のある存在には何らかの感情を抱くものだ。敬服・崇拝・称賛・娯楽・焦慮・畏敬・当感・飽き・冷静・困惑・渇望・嫌悪・苦しみ・共感・夢中・嫉妬・興奮・恐怖・痛恨・快楽・喜び・懐旧・情緒・悲観・好感・性欲・同情・満足。そしてそれらが相反したり、重なる事で無限大の感情をみせる。興味、関心のある存在にはそれ相応の態度を見せ、それが忌み嫌う存在であれ、相応の態度をとる。逆に興味のない対象に感情は湧かないだろう。それもまた、コミュニケーションであり、それが人という生き物だ。」

入り混じり合う感情。人という存在に対する嫌悪や愛情。それらが数多く混ざった結果の行動だと、エファンは語る。

しかしレイには納得が出来る筈がなかった。これ程に人を語る人間が、人を支配する為に人の存在の減少を考えるなど。

「お前と話していて色々と楽しかったよ。そろそろ戻るか。お前を殺し、人類を導く為に……」

「エファンさん――!」

レイが叫ぶ間もなく、その世界は光に包まれた。

エファン・ドゥーリアという危険だった筈の男が見せた世界。そこに、レイは入ることが出来た。そこで、彼の真意を理解する事が出来た。だからこそ、レイは困惑する。彼の結論が、“人の数を減らす”という事に対して。

 

 

 

 気が付けば、レイはツヴァイのコクピットの中にいた。先程の精神世界から戻ってきたレイ。そして、目の前にはカタストゥリアに乗っているエファンの姿が。

「お前とのコミュニケーションは終わりだ、レイ・キレス!」

先程までの暖かい感覚のエファンの姿はない。全力でレイを殺そうとする、恐ろしいエファンの姿がそこにはあった。

 

ゴギュオゥゥゥゥゥン

 

カタストゥリアのカメラアイが、輝く。それはまるで、ツヴァイという獲物を目の前にして、それを仕留める肉食動物のような眼光に見えた。

「貴方が……僕に向かうなら!僕だって貴方に向かいます!」

それに呼応するかのように、ツヴァイのカメラアイも輝いた。

 やがて互いにブリッツファンネルを一斉に展開。それらを共鳴させ、巨大なビーム刃を形成。両者はまたしても、衝突し合った。

「機体性能もその実力も私よりも劣るお前が立ち向かうというのは無謀以外何者でもない!」

「それでも!貴方を止めないと地球に住む人達が!」

「私を仮に止めたところでネェルガルキャノンはもう間もなく発射される!そうなれば最早この戦いに勝敗はない!!」

互いのビーム刃が激しくぶつかり合う。ツヴァイはメガビームセイバーを、カタストゥリアは指間腔ビームクローを、互いに展開し、戦っている。だが、出力の差は歴然だ。

「次は何をする!?何で私を攻める!?何をしようが私には筒抜けだ!お前の思考は全て分かっているからな!」

そう言いながら、カタストゥリアは大型ブリッツファンネルを二基、そこに随伴している小型ブリッツファンネルを十基、合計十二基を展開。それらを共鳴させ、大型のビーム刃を作りだした。ビームエネルギーの集合体はバリアーフィールドジェネレーターでは防ぐ事が出来ない。ツヴァイも反撃せんとばかりに、ブリッツファンネル半数を展開し、カタストゥリアと同様にブリッツファンネル同士を共鳴させ、ビーム刃を作る。

 ツヴァイとカタストゥリアが刃を交えている中で、それぞれの僕と言えるブリッツファンネルが分身の如く戦っている。白い刃と黒い刃。それぞれの刃が交わる。

「それでしか防げない!だから防戦一方だ!お前のパターンはワンパターン同然だな!」

圧倒するエファン。全力でレイを殺さんと、迫りくる。

「負けない……負けられない……!僕は絶対に負けない!」

そう言って、ツヴァイはメガマシンキャノンを展開。それすらも読んでいたエファンは一度距離を置く。それにより距離を取ることが出来たツヴァイは、一度この場から離れることを決めたのだ。

 先程エファンが放ったルイーナシステムMk-Ⅱは、外壁に穴を開けていた。そこからレイは一度逃げることを決めたのである。

「場所を変えるか、それも結構だな!レイ・キレス!」

カタストゥリアのカメラアイが再び輝く。ツヴァイを追う為、要塞外に出たのだ。

 

 

 レイとエファンが死闘を繰り広げている中。エレシュキガルのNフィールドではFPBが激戦を広げていた。新生連邦のMSは、ネェルガルキャノンが地球へ放たれる本当の理由を知らないまま、攻撃を続けている。表向きは平和国連盟本部へ向けることによる短期決戦。しかし最大出力で撃てば地球上の生命の大半が死滅する。新生連邦の兵士達はその先の事も分からないまま、戦っている、無知で愚かな兵士ばかりだ。

「エレシュキガルの砲身より膨大な熱源感知!」

「やはり……!」

ジャンヌは察した。やはりエレシュキガルは地球を狙っていた。脅しではなく、本気で。

 FPBの戦力はエレシュキガルに向かってはいるが、果たしてこのまま待っていて間に合うのだろうか。いや、分からない。もし間に合わなければ、地球は撃たれる。最早一刻の猶予もない。ジャンヌは、ある決断を下した。

「シュネルギア、最大船速。目標、エレシュキガル砲身、ネェルガルキャノン。」

「接近する気かい?ジャンヌ嬢。」

ギアは聞く。

「あれを破壊します。でなければ、地球は……」

「……そうだね。」

ギアはジャンヌの判断に従った。そして、彼女は他の艦にもエレシュキガルへ接近するよう、指示を出した。無論、それはアルバトスにも伝わる。

「エリィさん、よく聞いて下さい。もう、時間は残されていません。間もなくエレシュキガルは地球に向け、その光を放ちます。そうなれば世界は終焉を迎え、大地は崩壊します。それはあってはならない事……」

ジャンヌの言葉に、エリィも答える。

「分かっています。ジャンヌさん、アルバトスも向かいます!」

「では……行きましょう。」

「はい!」

FPBの旗艦である二隻が、エレシュキガルへ迫る。その脅威を破壊する為に。

 

 

 

 エレシュキガルの内部ではネェルガルキャノンのコントロールルームを、ガーストとアレンが探していた。アレンは先のメイドとの交戦で中破したブライティスを駆り、向かっている。

「早く……早くしないと……!」

一刻の猶予もない。とにかく、コントロールルームを探さなければならない。だが、その場所が見つからない。

「アレン、この扉は?」

すると、ガーストはとある一枚の扉を見つけた。それを見た時、アレンはすぐに残されたブリッツファンネルをビーム刃に変え、破壊した。

 そこに出現したのは、巨大な動力部らしき機械。周辺にケーブルが無数に張り巡らされ、中央には赤いコアらしき物体がある。

「今までの部屋にこんな場所は無かった……もしかしたら、これがコントロールルーム?」

「何にしても、これを破壊すれば!」

ガーストのハイエッジカスタムはその赤いコアに対し、可動式のビームキャノンを一斉展開した。

 

バイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン

 

しかしエレシュキガル全面に張り巡らされているバリアーフィールドジェネレーターがそれの邪魔をしたのだ。

「ビームが効かないのかよ!」

「ガースト、俺に考えがある。」

すると、アレンはブライティスが持っていたプラズマランチャーをハイエッジカスタムに渡したのだ。そして、そのままブライティスを赤いコア部に向かわせた。

「アレン、何を!?」

「これを破壊するには強力なエネルギーが必要だ!内部からプラズマ砲撃を一斉に行う!ブライティスの翼からプラズマを一斉に撃てば……」

「けど、そんなことしたらお前も持たないぞ!」

それは、危険な賭けと言えた。中破しているブライティス。辛うじて両翼は存在している。一度ブライティスはエレシュキガルから脱出する際に両翼からプラズマカノンを展開したことがあった。その時でも大きなダメージを負ったのに、今度それを行うという事は、リスク以外何物でもなかったのだ。

「もしもの時は、頼む。」

アレンは、静かにガーストに敬礼をした。彼の強い意志を感じたガーストは、静かに頷く。

「まさに、一か八か……!」

「頼む、ブライティスの最後の仕事だ!持ってくれ……ブライティス!」

ブライティスはそのカメラアイを輝かせた。そして、最後の砲撃を赤いコアに向けて発しようとしていた。

少しずつ、緑色のプラズマ粒子が蓄積されていく。アレンは、全てのエネルギーをこのコアに対してぶつける気でいた。

「ガースト、合図と同時に撃つんだ!全力で!絶対に!!!」

「ああ!」

そして、ハイエッジカスタムもプラズマランチャーを構え、コアに向けてエネルギーを蓄積し始めた――

「行けぇぇぇぇぇ!!!」

 

ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

強力なプラズマ兵器が一斉に展開された。凄まじい出力のそれらはコアを撃ち砕いた。

 しかしその代償は大きい。ブライティスガンダムの形状は崩壊していた。コクピットの中にいたアレンは爆発に巻き込まれた―かに思われた。

「アレンッ!!」

間一髪、ハイエッジカスタムが左手部マニピュレーターを駆使し、アレンの身柄を掴んでいた。そして、その爆風に巻き込まれない為に、その機動性を活かし、部屋から去った。

 

 

 アレン達がプラズマカノンを放った場所は、見事にエレシュキガルの砲身のコアの部分だった。激しい爆発が発生し、その爆発に連動するかのようにエレシュキガルの各場所が爆発を起こしていく。

 これだけ見れば、ネェルガルキャノンを防ぐことが出来たように見える。しかし―

 

「エレシュキガルにて爆発確認!しかし……熱源は以前変化ありません!」

「もう、臨界点だというのですか!?」

「恐らく……!」

最悪のシナリオだった。ネェルガルキャノンはもう、発射寸前のところまでその熱源を迎えていたのだ。現に砲口部は怪しげな輝きを放っており、そこからもうすぐ、光が発射されようとしていた。

「アレン達の努力は、無駄だったというのですか!そんなの……!いえ、もう手段は選んでいられません!プラズマカノンを展開して下さい!」

もう、手段は選んでいられない。エレシュキガルに向けて船速していたシュネルギアと、アルバトスはそれぞれプラズマカノンを展開。狙いはエレシュキガルの砲身だ。

 臨界点に達している光の位置をずらし、せめて地球に直撃するのを防ぐ。それが、彼女達の目的だった。

「シュネルギア!」

「アルバトス!」

「プラズマカノンを展開!発射!!!」

ビームを弾くエレシュキガル。それを止めるには、プラズマカノンしかない。そして、その砲身を地球に向ける訳には行かない。今まさに破滅の光が発射されようとしているネェルガルキャノンを止める為、両艦は一斉にその最強の武装で砲撃を行う。

 

ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

強大なエネルギーはエレシュキガル砲身に直撃した。しかし、皮肉なことにそれが崩壊する様子を見せない。火力が足りないのか?それは分からない。ただ、今は全力を出すしかなかった。

 

ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

すると、後方から別のプラズマカノンが放出された。まるで、それは二隻に協力しているかのようにも見えた。やがてそのプラズマカノンはシュネルギアとアルバトスと合流し、巨大な一筋の光を描いた。

 この勢いがあった為か、ネェルガルキャノンの砲身は、僅かに地球への直撃コースを外し――

 

ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

奇跡的だった。なんと、ネェルガルキャノンは発射されてしまったのだが地球にその光が向くことは無く経過した。最大出力のネェルガルキャノンは地球の衛星軌道上を逸れ、そのまま宇宙空間の彼方へ消えていったのだ。

「まさか……デウス軍が助けてくれた……?」

エリィは呆然とする。もし、二隻のみのプラズマカノンでは確実にネェルガルキャノンを止めることは出来なかった為だ。今、まさに奇跡と言える出来事が起きたのである。

「あの砲撃の元は、デウス軍のアシュタル艦……ですか?」

「まさか、彼等が協力をするとは思わなかったね……」

ネェルガルキャノンの二回目の発射の際、危険を察知したデウス残党軍は後方にて待機をしていた。しかし彼等はネェルガルキャノンが地球に向けられたのを機に動き出していたのだ。地球が破壊されるかも知れない状況。それは決してあってはならない。地球連邦は長年にわたる敵勢力ではあるが、母なる大地である地球に罪はない。それを決めたのは、皇帝、ナジェラ・メリクリファー自身だったのだ。

「ジャンヌ様、アシュタル艦より通信です。」

「回線を開いてください。」

後方にいたアシュタル艦から通信が入った。そこには皇帝ナジェラの姿があった。

「諸君らの行動に感謝をする。地球が撃たれる状況は我々としても避けなければならなかったからな。」

「いえ、こちらこそ感謝を致します。貴方方の行動がなければ、今頃地球はあの光に包まれていたでしょう。」

互いに感謝の意を述べる。そこに、戦争の意志があるとはとても思えなかった。

「この戦い、最早互いの戦力が争い合う必要はあるとは思えない。連邦軍が自らの星を攻撃するという愚行に出た以上、我々はそれを守る使命がある。どうだろう、もうこの不毛な戦いは終わらせはしないか。あの要塞さえなければ我々はもう、戦う必要などないのではないかと考えるのだ。」

皇帝、ナジェラはFPBに対し、停戦協定を申し込んだのだ。無論、FPB側もこれに応じた。

「……それは我々も同じ考えです。」

「我々は、もう戦う必要はない。戦わなくて良い……」

「……そうですね……ようやく、終わるのですね……戦いが。」

この瞬間、FPBとデウス帝国残党軍に停戦協定が確立した。これにより、残る勢力は新生連邦軍のみとなる。しかしネェルガルキャノンの機能を失ったエレシュキガルに、最早要塞としての機能は残されていないに等しかった。

 多くの犠牲者を生み出したこの四つ巴の戦いは終盤に差し掛かっていた。その中で、国連は自ら解体し、やがてはデウス残党軍とFPBが停戦協定を結ぶ結果となった。残る新生連邦軍は、残党勢力が僅かに抵抗しているが、その戦力が減っていくのも時間の問題と言えた。

(アレンは無事でしょうか、レイは……?)

ジャンヌは、一人彼等の無事を祈る。アレンの駆るブライティスはその形状を崩壊している。一方のレイの駆るツヴァイは、今も尚、エファンの駆るカタストゥリアと交戦を続けているからだ。今回FPBとデウス残党軍の連携により、ネェルガルキャノンの猛威は去った。しかし、戦いはまだ終わっていないのだ。

 

 

エレシュキガル外壁にて。死闘を繰り広げるツヴァイガンダムとカタストゥリア。互いのブリッツファンネルが展開され、両者はそれらからビーム砲撃やビーム刃を展開し、放つ。

 その最中だった。エファンがネェルガルキャノンが大爆発を起こしているのを目視したのは。

「ネェルガルキャノンがやられたのか……あと一歩の所を……!」

今までにない苦悶の表情を浮かべたエファン。握り拳を作り、そのままツヴァイを睨むように見た。

(あれが燃えてる……?じゃあ、あれは皆が止めてくれたの……?)

遠くで赤々と爆発を起こしているネェルガルキャノンを見て、レイは安心した。つまり、もう地球にあの光が向けられることは無い。阻止する事が、出来たと確認したのだ。

「良かった……本当に……」

レイの表情は安堵に満ちていた。自然と出た笑み。目元も心なしか、先程までの死闘と比べて優しく見える。皆のお陰で地球を救うことが出来たのだと、落ち着く様子を見せる。

 しかし彼は今、カタストゥリアと戦っている。最大、最強の敵が目の前にいる状況で、安心する事はまだ、出来ない。

「お前は良かっただろうな!私の計画は台無しだがなッ!!」

いつになく、怒る様子を見せたエファン。彼の最大の目的であった人類の統一が失敗した為である。

「だがまだエレシュキガルそのものがある!それを地球へ落とす事さえせめて出来れば私の計画は継続可能だ!」

彼が語るように、エファンの野望の炎は、まだ潰えていない。ネェルガルキャノンによる地球への砲撃の失敗があっても、今度はエレシュキガルそのものを地球に落とすという計画を企んでいたのだ。

「そんな事はさせない!貴方はもう戦う必要なんてない筈です!計画が失敗したのなら!」

レイは叫んだ。しかし、エファンの耳に届くはずがなく

「私はEVEの使命を果たすだけだ!彼女によって生み出された、最後のアドバンスドタイプEVEとしての使命!それが私の使命だ!」

「エファンさんの意志はないんですか!人を愛する意志があるならこんな事をするなんて考えられない!!」

レイは懸命に制止しようとした。しかしこの一言がエファンの逆鱗に触れたのだった。

「何度も言わせるなよレイ・キレスッ!!!」

カタストゥリアの右手部のビームクローが展開される。そして、その周辺にブリッツファンネル二十四基全てが展開される。やがてそれらは共鳴を開始。みるみる内にビーム刃は巨大化していき、その大きさはカタストゥリアの何倍もの大きさに変貌を遂げる。

 その巨大な手で、怒りのままにカタストゥリアはツヴァイを攻める。この攻撃を受ければツヴァイはひとたまりもない。しかし、逃げ切る事も出来ない。

「僕だって何度も言います!貴方のやっている事は無意味な事なんですよ!!」

「私の中で出た結論だ!!邪魔は絶対にさせんよ!!!」

「そんな自分勝手で人をまとめようなんて!!!」

レイはこの巨大な手から逃げきれないと感じたのか、ツヴァイのブリッツファンネルを全て展開。そして、右腰部からメガビームセイバーの出力を上げる。それらを共鳴させ、やがて、巨大なビームセイバーが完成した。この戦いの中で何度か行った事ではあるが十八基のブリッツファンネルを全て使うのは今回が初めてであった。

 巨大なビームクローと、巨大なビームセイバー。それらが激しい打ち合いを行う。まるでそれは、互いの信念の衝突し合いのようにも見えた。

 しかし、ビーム粒子を半永久的に補充可能なブリッツファンネルを持つ以上、出力はカタストゥリアの方が圧倒的に上だ。レイにとって不利な状況であるのに変わりはない。今は拮抗し合っている巨大なビーム刃同士。それがいつまで続くかは分からないのだ。

「地球はもう守られたんだ!なのに、どうしてまだこんな事を続けるんですか!意味のないコトを続けて何になるんですか!人を想うことさえ間違えなければ、僕達がこうやって戦う必要だってないのに!!」

「EVEの使命だからだよ!!!そして人を想った結果だ!!!その為ならば計画は続行する!!!このような小物の台詞は吐きたくなかったが、最早手段は選ばん!!!」

「貴方の意志がEVEの意志なのなら、僕の中にもEVEはいます!どうしても、どうしてもそれを続けるのなら!」

カタストゥリアの巨大なビームクローが徐々にツヴァイを圧倒していく。少しずつ、ビームセイバーの出力も落ちていくようにも見えた。

 しかし、これはレイの作戦だった。あえて出力を弱め、ブリッツファンネルをツヴァイの周辺に展開し、今度はツヴァイの前面にブリッツファンネルを展開して全面のみにビームバリアーを展開したのである。

「やはり覚醒しているな、レイ・キレス!どこまでその力が伸び続けるのかに興味が湧くよ!」

レイの心を読んだエファン。すると、巨大なビームクローを展開するのを止め、カタストゥリアのブリッツファンネルもツヴァイと同様、前面にビームバリアーを展開した。互いに突撃のし合いを試みたのである。

「相手も同じ攻撃!?」

「お前の誘いに乗ってやろうというのだ!!!」

両機体は、互いにブリッツファンネルを共鳴させ、まるでそれぞれビームのオーラを纏っているかのように機体を近づける。強力なエネルギー体と化したツヴァイとカタストゥリア。

 

ガキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン

 

それらはやがて衝突した。この時、両機体ともにダメージを負う。ツヴァイは左前腕部を、カタストゥリアは右前腕部を損傷した。

「ほぅ、カタストゥリアに傷を付けるとはな……大したものだよ。レイ・キレス!」

エファンはレイを褒めた。

「うあ……ああ……」

しかし一方のレイは身体にもダメージを負った。額から血を流し、青いな眼に血が付着した。

「どうやらダメージはお前の方が上のようだ!死ぬ時が来たな!レイ・キレス!!」

 

――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――

 

エファンが放った、“死”という言葉にレイは反応した。彼の目は深紅に染まる。そして、それと同時に碧色の光、イズゥムルートを放つ。

 この光は何を示すのか。今までは彼を苦悩に追い遣った筈の光が、今は彼を守る、純粋な光として機能している。それは彼自身の本格的な覚醒を示しているというのか。全てを受け入れ、自らの力を我が物に、しているというのだろうか――

「死期が訪れた時に生じる生への執着!その本能!!私もそれに応じてやろう!!私も生きて、為すべき事を為さなければならんからな!!!」

 

――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――

 

エファンもレイと同じ現象を発した。深紅の眼に染まる現象。互いにその状態になっている。これも、EVEシステム由来によるディヴァインセルが引き起こした力とでも言うのか。

 そして、エファンもイズゥムルートの光を放った。互いに光を放つ状況。もし、この周辺にアドバンスドタイプ以外の人間が居れば、たちまちその戦意を失う事だろう。

 力を持つ存在同士が干渉し合い、光を放っている。まるでそれは、互いの信念のぶつかり合い。それが具現化したようだ。一方は人工的に生み出されたアドバンスドタイプEVEである、レイ。もう片方は最強のアドバンスドタイプEVEとして生み出された存在、エファン。

「最早これは生きるか死ぬかの戦い!!勝者を決める戦いだ!!」

「違う!!貴方を止める戦いだ!!」

互いの信念が衝突する。それは最早、人智を超えた戦い。互いに常人の域を超え、死闘が再び始まる。先の光は、まるでオーラのように互いを包んでいる。

 先の攻撃でブリッツファンネルの数も互いに減少していた。ツヴァイは残り九基。一方のカタストゥリアは残り十五基。六基のハンデがある状況。やはり、現状はレイが不利と言えた。

「行け……!」

先に攻撃を仕掛けたのは、レイの方だった。ブリッツファンネル九基を全て展開し、それと同時に機体を接近させる。そのままメガマシンキャノンを連射し、牽制した。

 マシンキャノンの実弾はカタストゥリアのブリッツファンネルに当て、これにより三基が一度に破壊される。しかし、それでも三基のハンデがある。

「機体性能だけでなく、敵に対する距離感も私の方が上回っている!どこからでもお前を狩る事は容易い!」

そう言って、カタストゥリアは左手部のマニピュレーターをケーブルで展開した。有線下による、コントロールが可能な上での攻撃はカタストゥリアに有利だ。一方のツヴァイにはそのような、腕部を飛ばすといった機能がない。

 有線で繋がれたビームクローがツヴァイに迫る。そして、ツヴァイはこれに対してマシンキャノンを展開しながら、ブリッツファンネルを六基使い、それらを共鳴。再び打ち合いを行った。

「狙えるっ……!」

レイにとって好機が訪れた。ケーブルで展開されているビームクローとブリッツファンネルのビーム刃が打ち合いを行なっている最中。それは、ケーブルをメガビームセイバーで切り裂くことが出来るという好機。

 すぐに、ツヴァイはメガビームセイバーを展開し、カタストゥリアのケーブルを切り裂いたのだ。

「よし、これで……」

 

ズバアアアアアアアアアッ

 

「ああう!?」

突然の出来事だった。カタストゥリアの手部マニピュレーターを繋いでいるケーブルを切断したかと思った時。そのマニピュレーターが再び動き出し、ツヴァイの本体に向けてビームを放ったのだ。直撃ではなかったが、機体は大きく揺れ、レイ自身もダメージを受けた。

「なんで!?あれはもう使えない筈なのに!?」

動揺する深紅の眼のレイ。そこへ、エファンが高らかに笑いながら言った。

「愚か!愚か愚か愚か!愚の骨頂!!!ブラフだよ!ケーブルはあくまでも正確なコントロールをする為の道具に過ぎん!カタストゥリアの手部はケーブルがなくとも機能する!サイコミュがそれを成すからな!!」

カタストゥリアの手部のマニピュレーターは指間腔からビームキャノンやビームクローを展開することが可能だ。また、前腕部と有線のケーブルで繋がっており、遠距離攻撃を行う事も可能だ。そして、今回ツヴァイがケーブルを切り裂いたのは良かったのだが、それはエファンの言うように、ブラフだったのだ。ケーブルが切断されれば、コントロールは多少し辛さが生じるが、それでもエファンの脳波コントロールでこの兵器を操る事は容易い。

 つまり、ケーブルを切断しても指間腔ビームキャノン、ビームクローの脅威に何の変化もなかったのである。

「お前のお陰だよ!これで更に距離も増やす事が出来るようになったからな!」

と、カタストゥリアの左手部を無線のまま展開するエファン。その間、ブリッツファンネルの猛攻がレイを襲う。強力なビームの嵐。ツヴァイを守るのは右前腕部のバリアーフィールドジェネレーターと、自身の残り九基のブリッツファンネルのみ。

猛攻に耐えながら、再び防戦一方の状況に陥ったレイ。攻撃を加えようにも隙が見つからない。

「駄目だ、狙えない……こんなのって……!」

カタストゥリア本体をはじめ、その追随するブリッツファンネルや手部マニピュレーターも、全てバリアーフィールドジェネレーターが搭載されている。つまり、この機体を突破するにはビーム砲撃は不可能だ。となれば、ビーム刃で攻撃するしかない。

 しかし僅かな隙を見つけて攻撃できる状況でない。猛威を振るうエファン。レイを本気で殺めようとしているのだ。

 

ピキィィィ

 

レイの頭の中に電流が流れた――

 

ズゥン

 

と、レイの目の前に突如巨大な剣のような武器が出現した。それはカタストゥリアの手部マニピュレーターに装備されており、ツヴァイに容赦なく迫った。

すぐにメガビームセイバーを展開してこの武器に対応。レイはカタストゥリアのブリッツファンネルの猛攻を受けながらこの剣と打ち合いを行なった。

「剣!?なんでこんな!?」

「ガンダムオラトリオの実体ブレードだ!戦場では利用出来るものは利用しなければな!」

空間を漂流していたオラトリオの実体ブレードを回収し、それを利用してレイに襲い掛かったのだ。

ツヴァイはメガビームセイバーを展開し,この実体剣に抗している傍ら、カタストゥリアの左手部のみが打ち合いを行うという状況。当然、機体を自由に動かせるカタストゥリアは有利であった。

 

ガキィン

 

「あああっ!」

カタストゥリアはツヴァイに対し蹴りの攻撃を行なった。本体への直接的なダメージ。その上で迫る、十二基のブリッツファンネル。

「逃げられんぞ!レイ・キレス!!」

遠隔操作をする左手部マニピュレーターと、同じく遠隔操作でコントロールされているブリッツファンネル。エファンのアドバンスドタイプとしての技量、力が結集したからこそ為せる業。その上相手の心を読み、相手の行動パターンの把握も出来る。

 この最強とも言える敵とレイは戦っている。油断をすれば待っているのは死。しかし、彼自身死ぬ訳にはいかない。しかしツヴァイは今、先程の蹴りの攻撃によりエレシュキガル外壁に食い込む形となった。ダメージも大きい状況。レイに危機が迫る。しかし、彼は動けない。気を失っていた為だ。

 その上でオラトリオの実体ブレードを持った手部はカタストゥリアに戻る。そして、そのまま倒れているツヴァイに迫った。紫のカメラアイは、獲物を追い詰めたように睨みつけた。

「気を失っているのか。しかし、案外呆気ないものだな。お前を殺し、その上で私の計画は続ける。人生の終焉だ。十五年とは人の年齢にしては随分短い生涯だな。心配せずとも家族は弔ってくれるだろうよ。お前は愛されて育った。それ故に。」

実体ブレードはツヴァイのコクピットに突き刺されようとしている――

 

グォンッ

 

すると、ツヴァイもカタストゥリアの脚部に蹴りを与えた。それを受けたカタストゥリアはすぐにツヴァイと距離を取る。

「ほぅ……」

レイは間一髪で意識を取り戻したのだ。その為、エファンは彼の思考を読むことが出来なかった。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

レイの眼は、まだ深紅に染まっていた。

「死に損ないめッッッ!!!」

次にカタストゥリアは再びブリッツファンネルを全て共鳴させ、大出力のビームを放った。無論、これを直撃すればツヴァイの崩壊は避けられない。

 これに対し、ツヴァイは右前腕部を差し出した。この為、ビームを弾くことに成功するのだが、代わりに機体が激しく揺れる。

「くう……ううう……!」

耐えるレイだが、当然エファンがこの隙を逃す筈がない。オラトリオの実体ブレードで切り裂こうとする。

「!!!」

レイの眼が、見開かれた。すると、ツヴァイはメガビームセイバーでその実体ブレードを切り裂いたのだ。破壊されたそれを見て、カタストゥリアは廃棄した。

「こんなの!!」

ツヴァイのカメラアイが輝く。そして、残っているブリッツファンネル全てを展開し、カタストゥリアに向けて砲撃を行った。先程の逆の攻撃だ。

最大出力のブリッツファンネルと共鳴した砲撃。しかし、カタストゥリアにはバリアーフィールドジェネレーターが機体全体に覆われている。そのままの砲撃は、無意味である。

「読みは分かるぞ!なら、来るがいい!お前のやりたいようにやれば良いぞ!」

レイの心を読んだエファンだが、ブリッツファンネルの一斉砲撃を避ける様子を見せなかった。防ぎ切れると確信したのだろう。

 

ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ

 

大出力のビームがカタストゥリアに放たれる。しかし、カタストゥリアにビームが当たることは無い。バリアーフィールドジェネレーターにより、弾かれるからだ。

「機体は多少揺れるが……造作もない!!」

レイの行動を読んだエファンは焦る様子を見せない。カタストゥリアのコントロールは一時的に動けなくなるが、行動に支障はなかった――

 

ガキィィィン

 

「グッ!?」

エファンが初めて油断をした。というのも、ツヴァイが行った行動は意外なものだったからだ。

 それは、腰部にマウントしていたバスタービームライフルを構えたと同時に、銃口部を右手部で握り、そのままカタストゥリアに殴るという戦法を取った為である。レイは以前から奇抜な戦法を取る事が多々あった。今回、それが実施されたという訳だ。

 これが直撃したカタストゥリア。その結果、胴体部にダメージを負う結果となった。

「チッ、装置がやられたか!だがこの程度ではな……やられんよ!!!」

この一撃がカタストゥリアにダメージを与えた。宙域に漂うビーム粒子を取り込む為の装置が、ツヴァイによって破壊されたのだ。

 その後、再び互いのブリッツファンネルが一斉に展開し合う。再びそれらを共鳴させ、弾け合う。だが、ツヴァイのブリッツファンネルのビーム刃は出力が落ちてきていた。エネルギーを使い過ぎたのだろう。一方のカタストゥリアの方はまだ、エネルギーが残っていた。

 そしてブリッツファンネルは共鳴を停止。それぞれ一基ずつビーム刃を展開し、敵機体に向け一迫っていく。

 この衝突のし合いでブリッツファンネルは互いに潰し合った。残るブリッツファンネルの数は、カタストゥリアが二基、ツヴァイも二基だ。それぞれ小型のブリッツファンネルのみが残された状態となった。

 互いの機体の損傷は激しい。圧倒的だったカタストゥリアも、次第に追い込まれている状況だ。しかし、一方のツヴァイも最早限界だった。エネルギー残量も僅か。ビームを放つエネルギーはほぼ空に等しい。残る頼りは、ブリッツファンネル内に存在するビーム粒子ぐらいだ。

「お前との戦いもいよいよ終盤のようだな……なかなかに楽しいものだが、私には使命がある!そろそろ引導を渡す時が来たな!レイ・キレス!」

「僕は死なない!貴方を絶対に倒す……みんなの為にも!!!」

互いの信念がぶつかり合う。残された武器を駆使し、両機体が再び衝突する――

 

 先に仕掛けたのはカタストゥリアだ。バーニアの出力を最大にし、一気に間合いを詰める。同時にビームクローを展開。そして、前腕部から意識的に切り離した。一方のツヴァイは二基のブリッツファンネルを使い、守りに入る。だが、それを邪魔しようと、カタストゥリアのブリッツファンネルが迫った。

「貰った!!」

と、カタストゥリアのブリッツファンネルがツヴァイのブリッツファンネルを襲う。一基はこれにより撃破される。残すツヴァイのブリッツファンネルは一基のみ。しかし――

「掴んだ!」

ツヴァイはカタストゥリアのブリッツファンネルを掴んだのだ。右手部のみを使い、それをビーム刃として扱い、カタストゥリアのブリッツファンネルを一基破壊。そして、掴んでいたブリッツファンネルも、エレシュキガルの外壁に叩きつけたのだった。この時の衝撃で、カタストゥリアのコクピットの外壁にダメージが生じ、コクピットは丸見えの状態になった。

「味な真似を!!!」

「これでもうファンネルはありません!僕が倒す!貴方を!」

「サイコミュ兵器など手段に過ぎないのだよ!!」

「それは違う!!」

と、ツヴァイのブリッツファンネル一基がカタストゥリアに向けられた。エファンはそれに気づき、急いでビームクローで破壊を試みる。これにより、ツヴァイのブリッツファンネルも破壊された。この時、ツヴァイのコクピットもカタストゥリアと同様、丸見えの状態になる。

「はあああああああああ!!!」

「来るか!!!」

 

ガキィィィィィン

 

今度は、両機体共に頭部を自機体のマニピュレーターで殴りつけるという行動に出た。これにより、互いのカメラアイに損傷。モニターが正常に映らなくなった。

 こうなっては、もはや小細工なしの純粋なぶつかり合いだ。それも、互いにカメラアイが使えない。目視のみの戦い。互いに中破している機体同士の、決戦が始まる。

「早々にケリを付けよう。人を超えた存在同士の決着!その終着点が今、ここに!」

漆黒のカタストゥリアが、左手部を握り、ツヴァイに向ける。

「僕も貴方も人を超えているかも知れない……けど、僕達は人なんだ!人である以上、それ以上の考え方になんてなれる筈がないんだ!!!」

「人は神になれんよ!だからこそ最も優れた存在が導くのだ!!!」

「最も優れた存在は貴方が決める事じゃない!!!」

「私が決めるのだよ!全てに於いて優れている私の存在!常人、オールドタイプから見れば奇跡と呼べる存在!それが私だ!人はミラクルに弱い!だからこそひれ伏す!それが人という存在だ!!!」

「奇跡に弱いとかそんなの関係なく、中身は人間なんだ!僕達は人以上になれないんだ!」

互いの機体のバーニアが一斉に展開される。中破している両機体が、衝突し合う。

 カタストゥリアはビームクローを、ツヴァイはメガビームセイバーを装備している。恐らく、残されたエネルギー全てを込めているだろう。この一撃で、決着がつく――

 

 

 

「人を超えた存在は人を導く!!!」

 

「人を超えていても人は人だ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――

 

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3月1日0時に結末、更新しました。
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