機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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ガンダムに乗ってしまったレイは軍から兵器を持ち出した事や、人を殺めてしまった事について苦悩する話。


第五話 苦悩

 新生連邦のモントリオールの基地を脱出したレイ。だが、彼はアインスガンダムに乗ったまま移動している。レイは帰宅しようと考えるも、どうすれば良いか分からない。

Eフォンの時間を確認すると、現在の時間は夜の八時頃。辺りは暗い。住宅街は家の中に明かりが灯っている時間だ。

しかし普通に考えて、MSが市街地を徘徊しているということ自体がおかしい話だ。もし街中をMS……ましてガンダムタイプが動いているという事実があれば、間違いなく大きな騒ぎとなる。彼としては、出来れば騒ぎを避けたい。

「どうしよう……完全に勢いで出て行ってしまった……それに……僕は……」

レイは二重に悩んでいた。一つはガンダムタイプを持ち出したという事。そしてもう一つは、人を殺めてしまったという事。

 無論、後者は不本意だ。だが、あのまま何もしなければ彼自身が死んでいたかもしれない。しかし、彼は事実、人を殺している。その罪悪感は、拭えないものがあった。

「今は……どうするかを考えよう……どうするかを……あれ?」

アインスガンダムの視界に映ったのは、見覚えのある工場だった。そこは、プチモビルスーツ、パワームの練習をした工場だったのだ。

 この時、レイはある人物を思い出した。ギリア・ノールだ。彼はMSデッキを持っていると言っていた。この時間に工場にいるのかは分からない。しかしこのままガンダムをおいて置く訳には行かない。レイは一度、その機体を木の多い公園の中に隠す事にした。

 幸い公園は薄暗い明りがある程度で、着地した程度ではそこまで目立つことは無い。機体色も紺色という事もあり、夜中では大きく目立たない。それが幸いしたのか、大きく目立つことは無かったのだ。

 アインスを木の中に隠し、レイは一度Eフォンを手に取り、ギリアに連絡した。

「おお、どうした?何かあったのかよ?」

「ギリアさん、今どこにいますか?」

「俺は工場でまだ残業中だけど?どうしたよ?」

「実は――」

レイはこの後諸事情を説明した。当然ながら、ギリアは耳を疑うような声を出した。

「は?」

「ですからMSを――」

「いや、は?」

「僕はMSに乗ってるんです!けどこのままじゃ見つかっちゃうかもなんです!」

「いや、え?は?」

三度も疑うギリア。無理もなかった。先日MSデッキを紹介した少年が、少し期間を空けて電話を掛けてきたと思ったら今度はMSに乗っていたという謎の状況。ギリアに信じられる筈がなかったのだ。

「信じて貰えないですか?でも、本当なんです……証拠、送りましょうか?」

「お、おう……頼むわ。」

きょとんとしている様子のギリア。レイは彼に言ったように、Eフォンのカメラ機能でコクピット内を撮影。そしてそれをギリアに送信した。

 数秒後、ギリアの第一声は

「来い」

と一言だった。

「ありがとうございます!」

感謝するレイ。そして、再び彼はアインスガンダムを起動させ、急いでギリアの工場に向けたのだった。

 

 

「ま……ま……ま……ま……まじ!?」

ギリアの工場に着いたレイ。彼はアインスガンダムをしゃがみ込むような格好で入った。

 本物のガンダムタイプ。それも、新生連邦が極秘に開発していたというもの。それを見て、目を疑わない筈がなかったのである。

そして、ギリアは念の為にそれに触れた。やはり本物だった。機体の感触が彼の手に伝わったのである。

「いや、本物だ……そりゃ、そうか。おい、急いで格納するぞ。」

「え……あ、はい!」

ギリアの言う通りにレイは従う。彼は地下に移動し、スイッチを押し、ハッチを開けた。それにより、MSデッキが出現。これにより、地下にMSを収納することが出来た。

「とりあえず、早くこれに格納しろ!」

「は、はい!」

そう言って、レイはMSデッキに入るようにアインスガンダムの体制を変えた。垂直に機体を向け、そのまま静かに、デッキの中に入れていく。

 

 やがて、アインスガンダムはギリアのMSデッキに収納する事に成功。その後ギリアはハッチを閉じた。これにより、表向きからは全くガンダムの存在の判別をする事が難しくなったのだ。

 格納に成功したのを確認すると、レイはコクピットから降りてきた。目の前にはリフトがあり、それを使ってゆっくりと降りてくるレイ。

「あの、ありがとうございました……本当に、ギリアさんが居なかったらどうなっていたか……」

レイは会釈をする。しかしその後、ギリアは言った。

「あのさ、お前って何者?」

「はい?」

「いや、お前さ、最初に会った時は自分の左腕を切ったじゃん。それからプチモビの練習をしてさ、翌日には準優勝。そして後日には新生連邦のガンダムタイプをかっさらう。色々と突っ込みどころがありすぎて訳わかんねぇよ……」

少女のような顔立ちの少年が見せた数々の出来事はギリアを困惑させる。しかしこれはレイ自身にも説明の出来ない事だった。

「まあMSデッキを持っていた俺も俺だけどさ……いや、マジで訳分からん。まさか趣味で持っていたこいつを活用する日が来るとは思わなかった。しかも新生連邦のガンダムだぞ!?」

ギリアは、手を振るわせていた。

「けどお前、ヤバいものを持ち出しやがったな。まさかガンダムを持ち出すとは思ってもみなかったぜ。けど、何故お前みたいな奴がガンダムなんて代物を持ち出したんだ?」

レイは、びくりと震えた。しかし、ギリアは迫真の表情でレイに迫る。

「教えろ。理由によってはガンダムを差し出す。俺だって基本的に軍の機密なんてものをずっと持っておきたくねえからな。」

普通に考えれば、MS……増して、新生連邦の新型ガンダムを持ち出すということ自体本来はありえない事だ。それが発覚した時、下手をすれば処刑される可能性だってある。

 だがレイはこれに対し、ありのままを伝える。実際彼自身も被害者ではあるのだから。まさかガンダムを自分が操作し、それを奪う事になるとは思わなかったと言うが。

「その軍人がお前を拉致監禁したからお前はあれに乗って逃げた……と。」

「はい。」

「……本当に、偶然だったんだな。」

ギリアはレイの言葉を半信半疑で聞いている様子だった。しかし語るレイの目は、本気の目。彼自身今日あった出来事に驚いてばかりなのだ。

「……よし、お前を信じよう。あのガンダムは匿ってやる。」

「本当ですか……!?」

ギリアは、何故か堂々としていた。

「まあ、お前のミラクルを見続けてるんだ。何かあっても俺は黙っておいてやる。俺はお前を売る事はねえよ。だから安心して、今日は帰れ。」

「あ……あああ……ありがとうございます!」

レイは、ギリアの手を握り、思いきりお辞儀をした。もし、彼がレイを認めなかったらどうなっていただろう。彼ごと新生連邦に差し出されていたら、どうなっていただろう。考えただけで恐怖が止まらなかった。

「いいか、念の為に言っておくが、お前は家に帰ったとしても何事もなかったと振舞え。あとEフォンとかデバイスにこいつの情報に関係するものを一切残すな。軍は絶対にこのガンダムを探す。俺はこいつを隠し続けてやるから、お前は今まで通りに過ごせ。何事もなかったように家に帰れよ。分かったな!」

念を押すギリア。当然だ。もし発覚すれば何をされるか分からない。新生連邦軍は間違いなく、アインスガンダムの捜索に掛かるだろう。

 幸いなのはギリアのMSデッキが万全だったという事だ。彼が友人から趣味で貰った旧式のMSデッキがこういう形で役立つという、まさにレイにとって奇跡と言える出来事。もしこうした奇跡が無ければ彼はどうなっていただろうか。想像すら出来なかった。

「ギリアさん、僕、何度かここに来ます。様子を見に……」

「それ自体は構わねえけどさ、大事には絶対にすんなよ。これは俺とお前の秘密だ。」

と、ギリアはレイの右肘関節部を、自身の右肘関節で組むような形をとった。

 互いに秘密を作ってしまった両者。増して、レイにとっては人生で最大の秘密である。

 朝にリルム・エリアスの姉、ヒューナ・エリアスとその友人、アムン・ディースにアニメキャラクターのコスプレをさせられたレイは、昼過ぎにクラリスに拉致をされ、夕方に新生連邦の新型MSを奪取。夜にギリアの工場で格納と言う、にわかに信じがたい体験を、今日一日でしたレイ。

 アインスガンダムはどうにかここで格納される形となった為、それは一安心だった。だが、彼にはもう一つ、重大な秘密を隠している。

(僕は……あれで人を殺した……)

様々な出来事の中で、彼を大きく悩ませるのがこの問題。無我夢中だったとはいえ……自分が殺されるかもしれないとはいえ……彼は、人を殺した。それも、初めて扱ったMSに乗って。

 

 

レイが家に帰る頃には夜の十時を回っていた。家族に心配されたレイだったが、彼はヒューナと遊んでいたと言って誤魔化す。

 やがて入浴を終え、自分の部屋に戻るレイ。彼はこの時も、様々な秘密に対して不安を抱いていた。

(ガンダムに乗って……人を殺した……こんな……こんなのって……)

逃げる為にガンダムを奪い、正当防衛とはいえ結果的に人を殺した事は彼を苦しめる。彼は、この時誰にも言うことが出来ない重大な秘密を作ってしまう事となったのだった。

(アニメとかの話じゃないんだ……現実に人が死んだのを、感じたんだ……僕は……人殺しだ……)

人には誰にも言えない秘密と言うものがある。それは他者から見れば、大した事のない秘密だったりする。

 だがレイの場合はどうだろうか。彼は軍の新型兵器を奪った上に人を殺めている。それが、仮にテロリストや新生連邦に敵対する組織などが行ったのならばそれは英雄的行為として認められるだろう。だが彼は、ごく普通のジュニアハイスクールの生徒。今でも学校に通い、こうして母親の待つ家で暮らすことが出来ている。そのような少年がMSを操るという事自体が、そもそも在り得ない話と言えるのだった。

 

 

 

その出来事から数日が経過した。アインスガンダムを奪われたという事実は瞬く間に新生連邦の上層部に知られる。そして、その責任をクラリス・デイルが負う事となったのだ。

彼はモントリオール基地の上官室にて呼び出され、上官であるスパイッシュ・カルディアムによって叱責を受けていた。

「新型のガンダムは確か貴様に与えられる筈だったな!それを民間人に奪われただと!?貴様の頭は湧いているのかよ!!!」

クラリスは、あえて奪った人間の事を言わなかった。まさかレイのような少年に奪われたと知られれば、それは恥だと感じていた為である。

「申し訳ございません……全ては私の失態です……」

「失態なんて問題じゃないぞ貴様ァ!!!」

 

ドゴッ

 

クラリスの顔を、鈍い音が響く。スパイッシュはクラリスの顔面を思いきり殴ったのであった。

「お前は自分が優秀だと驕って、その結果こんな事態になったのだろうが!お前それでも軍人か!!!何を考えているんだ貴様!!!」

 

ドゴッ

 

再び、クラリスは顔面を殴られた。

「今回の件を総司令に報告した結果、お前にチャンスをやれと言って下さったそうだ!」

「チャンス……ですか。」

口から血を流しながら、クラリスは聞いていた。

「そうだ!恐らくガンダムはそう遠くに行っていない筈だ……と!徹底的に探し出せと!お前の管轄だけで動け!そもそもあれはお前に与えられた機体だろう!だったら手前の失態は手前で挽回するもんだ!あれが万が一武装勢力等の手に渡ったらそれこそ面倒なことになりかねないのだからな!!!」

「ハッ……!」

その後スパイッシュは部屋から姿を消した。それを見届けたクラリスは、握り拳を作り、床を見ている。そして、歯を食い縛り、怒りを露わにしていた。

「メンデルやアーネストへの哀悼は一切なしかよクソデブ野郎……!あのレイって奴のせいで二人が犠牲になったんだぞ……!こんなの、屈辱なんてレベルじゃねえぞ……!」

部下想いだったクラリス。それをレイによって殺された。それが彼の中で怒りの炎を燃え上がらせる。

 クラリスの勝手な行いが招いた事ではあったのだが、想像以上のレイの実力に完敗したクラリス。そして失った部下達。怨念の炎の矛先は、レイに向けられる事となる。

 

 

 

 クラリスに間接的にアインスガンダム奪還の機会を与えた総司令。彼はスパイッシュの報告をモニターで聞いており、そして了承していた。

「あのガンダムは確かに新生連邦樹立と共に制作された記念すべきMSではある。けれど、血眼になってまで捜索する程の機体ではない。けど、今回の件に対してどのような行動をとるのかは面白そうだ。」

ある場所の大部屋。そこでは総司令、レヴィー・ダイルが側近のソフィア・ブレンクスと共に過ごしていた。

「聞いた話ではガンダムを奪って二機のジャスティスを撃墜したという話がある。これが本当なら、寧ろパイロットの方に興味がある。ガンダムは優先度としてはそこまで高くない。さて、どう動くかはお手並み拝見といった所……かな。」

「レヴィー様。宜しいのですか?」

朱色の髪をした美しい少女、ソフィアが言った。

「構わないよ。今新生連邦が為すべきことはMSの増産。ガンダムは強さや戦争の象徴であれど、奪われた程度でその人員を割く程ではない。それにガンダムに乗るべきだったクラリス・デイル中尉がどのように動くのかも気にはなる。それを見守ってみる必要も、有だとは思っているからね。」

「はい……レヴィー様。」

美しい顔立ちをした青年、総司令、レヴィー・ダイル。その腹に抱える野心は、果たして何なのか。それは謎に包まれている。

 

 

 

二日後の月曜日。レイは学校を休んだ。やはり、先日の出来事が忘れられない為だ。

自分を守る為とはいえ、“人殺し”をしたレイ。彼は自分の部屋のベッドで、ただ、寝転がる。

 その罪悪感がレイを襲う。ただ、身を守る為に必死だった。だがその代償として、人を殺めた。その事が、レイ自身に降り掛かっている。人を殺したと言う確かな手応えは、レイから離れない。

「人殺し……人殺しなんて……」

目を瞑った時、最初に浮かぶヴィジョンはあの時ビームサーベルでジャスティスのコクピットを刺した場面。それしか、浮かばなかったのだ。

「僕は……僕は……」

頭を抱え、悩むレイ。それを、誰にも言うことは出来ないまま、時間だけが過ぎていく――

 

 

 やがて翌日になった。流石に母親を心配させる訳には行かないと思ったレイは気持ちを無理に整え、学校に通学していたが、やはり先日の出来事が忘れられない様子だった。明らかに表情が暗いレイ。クラスのメンバーと会話をしていても、あまり弾む様子はない。

 今は社会の授業中。担任教師であるリアン・マーキュリーが世界情勢の説明を行っている最中の時間。クラスメイトの中には睡眠を取るものや隣の席の者と静かに喋る者もいる。

「四年前に終結したデウス動乱の後、地球連邦政府内に存在していた国際平和機関は、その後地球連邦政府から独立し、平和国連盟へと名称を変えました。そして、平和国連盟は国際平和連合軍、通称国連という軍隊を設立しております。その目的は、現在の新生連邦の監視というものです。簡潔的に述べると、新生連邦軍が何らかのトラブルを起こした際には、平和国連盟が待ったをかけるという状況が今現在の世界情勢と言われておりますね。」

社会の担当であるリアンは現在の世界情勢を簡潔的に述べていた。

 かつてのデウス動乱が終結した後、新生連邦政府が樹立。それに伴い、新生連邦の行動を監視する目的で当時の国際平和機関が平和国連盟へと名を変えたのだ。

「あと、MSという兵器はデウス動乱以降、増産傾向にあります。これは現在の新生連邦軍の意向と言われております。世界中で起きている紛争やテロリストへの対処の為という事ですね。また、モントリオールに於いては市街地等へのMSの取り扱いは民間の企業がきちんと政府より許可を得て使用しなければなりません――」

“MS”という言葉に、授業を聞いていたレイは反応した。まさか、自分が先日にMS……しかもガンダムタイプを奪い、操っていたなどこのクラスメイトが思う筈がないだろう。

(僕は人を……)

やはりレイはこの事ばかりが脳裏に過る。しかし一方で、自分を守る為に仕方なかったという、気持ちも中にあったのは間違いなかった。

 その様子を、授業をしながらリアンは不安げに見ていたのである。

 

 

「レイ・キレス君。ここ最近はどうしたの?」

この日は担任教師との面談の日でもあった。二者面談で両者は机を挟み、喋る。

「え……いえ、何でもありません……よ?」

レイは作り笑いを浮かべた。しかし、リアンには明らかに無理をしているように見える。

「部活にはちゃんと参加しているみたいだけど……体調不良?」

ここ数日、レイは遅刻の数も増えている上、急な休みも増えていた。それを心配する担任のリアン。

「風邪……だと思います。寒くなってきましたし、多分それで……」

当然、それは嘘。本当の話など出来る筈がなかった。

「うーん……貴方は特別成績が悪い訳じゃないし、勉強もちゃんとやってるし……クラスの子とも話しているし……けどね、やっぱり先生の目からいつも、元気でいる人が突然元気じゃなくなるってのはね、担任としても心配なのよ。」

リアンの言葉は至極まともな言葉だ。それだけに、今のレイに突き刺さる。

「家庭環境とかは問題ない?」

家族の事について聞かれた。レイは、静かに頷く。

 本来なら何の変哲もない二者面談。だが、ここ数日の出来事が大きく影響し、それがレイ自身を不審に追い遣る。

「いえ……」

とレイは静かに言った。明らかに暗い表情。リアンは、そっと深呼吸をし、目を見開き、言った。

「社会の授業を担当するとね、社会情勢とか色々な事を勉強するの。個人的に気にしてるのが、貴方達のようなティーンエイジャーが色々な犯罪に巻き込まれたりしないかなっていう心配があるの。」

「心配……ですか。」

「特にデウス動乱以後は混乱状態が続いていてね、世界情勢はとても不安定なの。そうなったら犯罪率って上がっていくの。そうなった時、巻き込まれるのは少年少女だったりするのよ。だから、もし何かあったら遠慮なく先生に相談して欲しいの。それだけは言っておくわね。」

普段、リアンとはそこまで会話をしないレイ。二者面談というのはこのように、担任と生徒が会話をする貴重な時間である。彼は、不思議な感覚に陥っていた。

(先生って、結構考えてるんだな。)

授業中の先生の姿と、担任としての先生の姿。それぞれの違いがある。レイは、それを見て関心を抱いていたのだった。

 しかし、彼の奥底の悩みは到底担任の教師とは言え、伝えられる内容ではないのだが。

 

 

 放課後。レイは元気が無いなりにサッカー部に出席し、練習を行っていた。今日はイースが居なかった為か、気持ち的には楽な様子だった。

 シュート練習の時間。彼の番が来た。しかし、上手く狙いが定まらず、違う歩行に蹴ってしまう。その後のティルが真っ直ぐゴールにシュートを決め、部員から拍手が鳴った。

 やがて部活終わりの時間。モークと帰路を共にしているレイ。

「なんか最近元気ないな。そういや面談だったんだろ?成績の話されたのか?」

「ううん、そんなんじゃないよ。」

寧ろ、心配された。その本当の理由など分かる筈がないのだが……

「あー、二人共!今帰り?」

と、後ろから愛らしい声が聞こえてきた。リルム・エリアスである。彼女は生徒会の集まりの帰りだったのだ。

「おう、リルム。」

「やあ……」

レイは一人、元気がない。

「あ、そうだ。せっかくだしさ……カラオケでも行かない?」

「おー、いいじゃん!レイは行くだろ?」

正直、行く気になれない。気分が乗らないからだ。人殺しをした事ばかりが、彼の脳裏に過る。

「最近レイ元気なさそう。色々疲れてるんじゃないのかな?だったらさ、カラオケで曲でも歌ってスカッとしたらいいと思うよ!」

これは彼女なりの提案だったのだ。最近落ち込むレイの姿を見て、少しでも元気になってもらおうという案。

 レイはこれを汲み取ったのか、静かに頷いたのだった。

 

カラオケ店というのはこの時代においても大衆娯楽として成り立っている。歌を歌うという行為は人を心地良くさせる。又、聞いている人間もその歌声に癒されたり、感動したりする事さえある。

三人はそれぞれ部活動や生徒会等、行事がある為、なかなかこうして集まる事も少なかった。今回三人が集まるのは久しぶりであり、リルムが気を利かしてカラオケ店を選んだのである。

 リルムは三人分のドリンクを用意し、カラオケルームに入る。皆、それぞれのドリンクを手に取り、飲んだ。

「私はパインジュースね!」

そう言ってリルムはストローでパインジュースを飲む。

 この時、レイは彼女の口元をじいっと見ていた。愛らしいリルムの口元。何故だろうか、彼等は幼馴染であり、今までそのようなものは意識さえしたことがない。しかし、レイは不思議と、彼女のジュースを飲む姿を意識していた。

(わっ……リルム……口元可愛い……)

レイはその、青い眼をぱちぱちとさせた。

「ん?どうしたの?何かついてる?」

「え!?あ、いや……」

レイは慌てて用意されたオレンジジュースを、ストローで飲んだ。

 

 それから三人はそれぞれの歌を歌う。流行りの曲から懐かしの曲。有名なアーティストの曲やアニメソング等、それぞれの時間を謳歌した。

「やっぱりレイって声奇麗だよねー!」

「こいつマジで性別間違えたんじゃねーのかってぐらい女声だもんな。」

「モーク!そういうの良くないよ!」

いつしか、レイは自然に笑うようになっていた。先程までの悩みも、少しだが解消された気持ちになれた。

 モークと談笑するレイを見て、リルムは笑顔だった。最近のレイの表情に不安だったリルム。カラオケで皆が笑う姿を見て、心底安心していたのだった。

 モークがカラオケで歌っている。その際、リルムはレイの膝をとんとんと、指でつつき、Eフォンをこっそりとレイに見せた。何事かと思うレイ。やがて、そこに映っている写真を見て、レイの表情はみるみる赤く染まっていく――

「これ……なんで……リルムが……」

「お姉ちゃんが……ね?なんか、レイ、可愛かったから……さ。」

それは、以前のコスプレイベントでレイが女装させられた時の写真だ。顔を赤め、恥じらうレイ。

「嫌……嫌あ……!僕は男なのにー!」

モークが歌っている間、レイは、顔を手で覆い、ひたすら悶えていた。リルムは、そのようなレイを見て、クスクスと、笑っていた。

 その後、彼等はカラオケ店を出た。この時、勘定はレイが全て一人で出したという。

 

 

 

 新生連邦軍はアインスガンダムを探す為に捜索を続けていた。自らの失態を挽回する為、クラリス・デイルが指揮し、消息を絶った場所を捜索している。

 だが、何故だか一向に消息は掴めない。遠くには行っていない筈のアインスガンダムの姿が簡単に消えるなど、ある筈がない。探し続けるも、見つかる様子がなかったのだった。

「ありませんね。MSサイズが市街地にあるならば目立つ筈ですが。」

一人の兵士が言った。

「厄介なのはモントリオールは市街地以外にも森林のある公園とかもある。そこに隠されてる可能性だって否定できねぇ!運が悪いってのはこういう事かよクソッたれ!」

クラリスは自らの左手を、右手で思いきり殴りつける。レイと言う少年に逃げられた屈辱と、部下を殺された恨み。二重の怒りが彼を包んでいた。それに対してただならない殺気を感じる兵士。

「中尉はパイロットと顔馴染みなのですか?」

「まあ、色々とな……まさかあんな風になるとは思わなんだけどな……」

苛立つ様子を見せるクラリス。しかし苛立った所で、アインスガンダムが見つかる筈がない。それはギリアの工場の地下に、格納されているのだから。

 その時、クラリスはとある学校を見つけた。遠くに見える学校。彼はそれを見て、ニヤリと笑顔を浮かべた。

(確か、奴の生徒手帳に記載していたよな……学校の名前は、確か……)

この時、クラリスが何を考えていたのかは分からない。ただ一つ言えるのは、予期せぬ事を考えているのは間違いないと言えた。

「おい、この辺りの学校の数を伝えろ。その上でデータを見せろ。」

「ハッ……?何故?」

「いいからやれ!」

クラリスの威圧に負けた兵士は、命令に従い、コンピュータで解析をする。

 結果、五校が該当。そして彼はレイを尋問した時の制服のデザインを思い出す。

「ああ、そうだ。思い出した。ベレーナジュニアハイスクール……間違いねぇ。」

クラリスは、握り拳を作りながら笑みを浮かべていた。恐ろしく、不気味な笑みであった。

 

 

 

 翌朝。レイは目を覚ました。幸い、悪夢を見ることなく起きる事が出来たレイ。彼は母親に朝の挨拶をし、用意された牛乳とヨーグルト、トーストを食べる。

「少し、表情がましになった?」

「え……?」

母親に言われ、レイはきょとんとする。

「最近、元気なさそうだったから。なんか今日はましな感じがする。」

「そう……かな。」

トーストを一口、かじったレイ。焼きたての、サクサクとした感触。それが舌を通り、喉を通る。

「いじめとかじゃないわよね?」

恐る恐る、カレンは聞いた。

「そんなの!ないよ!」

あたふたとするレイ。この時だけ、声を大きく出した。

「なら、良いんだけどね。今日も遅くなるの?」

「うん、部活もあるし。」

レイはテーブルに置いていた牛乳を飲み、ヨーグルトを食べ、椅子からそっと立ち上がった。

「じゃあ、もう行くね。」

「はい、気を付けてねー。今日は買い物もたくさんしなきゃならないし、忙しいのよー。」

「ご馳走、楽しみにしてるよ!」

「はいはい。」

何気ない、家族との会話。それはかけがえのない日常。ここ数日の出来事はあまりにそれらから離れていた。だからこそ、こうした日常が愛おしいとされ、レイは少し感じるようになったのだ。

「ふぁぁ、おはようお兄ちゃん。早いね……」

遅くに起きてきたミィスが、兄に挨拶した。

「ミィスも、気を付けて行ってきてね。」

「はーい。」

レイはそっとミィスの頭を静かに撫でた。

「じゃあ行ってきます!」

レイは靴を履き、玄関を出た。

「……お兄ちゃんあんな事してたっけ……?」

ミィスは兄を送り出した後、首を傾げた。

 

 

 学校に着くレイ。そこでリルムと目が合い、挨拶を交わした。

「おはよう、レイ。ちょっと元気出た?」

「おはよう。うん、ありがとう!とても楽しかったよ。」

「お金も出してもらって、何だか悪いなぁ。」

「いえいえ。」

彼が昨日のカラオケの代金を出したのには理由があった。一つはリルムに対する感謝の気持ち、もう一つは、ヒューナと出かけた時に得た金銭を何かで消費したいという気持ちがあったからだ。

 だが、カラオケ店の中でリルムに自分の女装した写真を見せられ、恥ずかしい気持ちになっていた。その事もあり、一刻も早く忘れたいと感じていたのである。

(リルムは僕の事をどう思ってるんだろうか。可愛いとか言われるの、なんだか嫌だな……)

レイの女装は似合っている。本当の少女に間違えられてもおかしくはない。だが彼は男だ。その不安定な感情が、彼の中で交差している。

「はい着席して。出席取りますよー」

やがて担任の教師であるリアンが教室に入る。この時、レイと目が僅かに合った。そして、自然に笑みを浮かべていたのだった。

(先生も大変なんだ。僕も、自分の事を精一杯やろう。)

先日からの一連の出来事もあれど、彼は仲間達と共に生活を楽しんでいる。朝の学校、授業、昼食の時間、部活動。帰宅時の会話。全てが彼にとってかけがえのない日常。レイは、これらを改めて楽しむ気持ちでいた。

 

 

やがて昼食の時間になる。いつも通りレイはモークと食事をしている。食事を終えた後、彼は手を洗いに廊下に出た。その時、別の友達と食べていたリルムに会う。

「ねえレイ。家に行く件なんだけどさ、今週の土曜日って空いてる?」

「え!?あ……ああ……」

彼は動揺した。それと同時にリルムが家に来るという話を思い出した。

(前に言ってたね……確か。)

先日の出来事等、様々な出来事が重なりすぎてその事を忘れていたレイ。それと同時に、彼は目をぱちぱちとさせる。自身の中で脈拍が早く動いているのも感じていた。

(リルムが家に来る……リルムが……)

ここ最近、レイはリルムの事を意識するようになっていた。きっかけはフィジットの告白からだ。フィジットはリルムに振られた結果となったが、レイにとっては何故かそれが嬉しく感じられた。何故なのかは彼自身、分からない。

「レイ、どうしたの?」

「えっ!?あ、いや……」

そっとレイは呼吸をした。

「じゃあ、私ミアーと喋ってくるから!」

と言いながらリルムはレイに手を振った。レイも、リルムに手を振り返す。

(楽しみだな、今週の土曜日……)

それは何が楽しみだったのかは分からない。ただ、レイの中で胸が高鳴る感覚があったのは、間違い無かったのだった。

 

 昼休みも終盤に差し掛かった頃。レイは席に着き、窓を見ていた。空は青く透き通っており、快晴と言える天気。遠くに見える川を眺め、肘をつき、ぼうっと見るレイ。

(……あれ?あれって……)

ふと、彼は川の方向に見える“物体”に着目した。街の一部の景色となっている川。そこに一つ、違和感のある物体があるように、レイには見えたのだ。

(MS……?まさか、ね?)

幻覚なのか……とレイは考えていた。通常,街中にMSがあるなどあり得ない話だ。

 だが、その物体は確かに存在している。その証拠に、少しずつ接近しているのが見えてきたのだ。次第にそのシルエットは大きくなっていく。まるで、こちらに近づいているかのように。

(いや、あれって……来てる!?こっちに!?)

レイが見たら物体。それは人型をしており、全体的なカラーリングとして白緑色をしている。武器らしきものは所持していない。頭部はかつてのデウス帝国軍が用いていた機体と同様の、“モノアイ”と呼ばれる桃色の一つ目。それはまるで、ファンタジー等で見る、“サイクロプス”のようなシルエットだった。いや、明らかに“サイクロプス”よりも巨大だ。

 やがてクラスメイト達もその存在に気づき始める。MSと呼ばれる兵器が、窓の外にいるという事実。それは誰もが驚愕した出来事であった。

 

ズゥン

 

やがてそのMSは校庭に着地した。全高18メートルはあろうそのMS。桃色に輝くモノアイが、どこか不気味に見える。

「おい、なんかでっかいのがいるぞ!」

「すっげえ!マジかよ!!あれってMSじゃねえの!?」

驚愕するクラスメイト。恐怖する者も居れば,それに対して興奮する者もいた。

「何かのイベント?」

「サプライズ過ぎん?」

「怖いよー……」

クラスメイト達はそれぞれの反応を示す。その中で、レイは只一人、何故MSがこの場にいるのかが理解出来ないまま、ただ、呆然としていた。

 

 明らかに非常事態の為、午後の授業は中断。やがて生徒達をはじめ、教師達も、誰もがMSの前に集まり始めた。何故ここにMSがいるのかは分からない。この中で、何かのイベントだと思って喜ぶ者が大半を示した。

「先生何か始まるんですかー?」

「いえ、そんなのは聞いてないけれど……」

別のクラスの授業を請け負おうとしていたリアンは、不安げな表情を浮かべた。

 騒然とする校庭。やがて全校生徒がその存在に何らかの関心を示す。この中に、レイの姿はあった。生徒の波を潜り抜け、そのMSの近くに迫る。

「見たことがないMSだ……何だろう?分からない……デウス帝国の機体?いや、でもこんなのは知らない……」

かつてのデウス動乱でデウス帝国が使用していたMSは、今回校庭に降り立った“モノアイ”タイプのMSが主流だった。しかし地球連邦軍に敗北したデウス帝国はこの地球圏にはいない筈だ。ならば、その流用機体か?しかしその機体の形状は見た事がない。一体これが何を示すのかも分からないのだ。

 そして、そのMSのコクピットは、何故か開かれていたのだ。

(けどなんでここにMSが?どうして――)

混乱する状況の中、レイはそこから突如姿を消した。だが、皆がMSに興味津々であり、レイが消えた事に気付く者はいなかったのだ。

 

「よう、クソガキ。」

校庭の端。草木で隠れている場所にて。レイはいつの間にかそこに連れ去られていた。そして、そこに居たのはまたしてもクラリス・デイルだったのである。

「クラリスさん……!?どうして……」

今度はこの男は銃を構えている。小型の拳銃だ。無論、それが発砲されれば怪我は免れない。

「手を上げろ。お前の通ってる学校を探し出すのに時間が掛ったぜ。けどようやく会えたな……」

クラリスに言われ、レイは両手を上げた。

「まあ、お前が下手な事をしない限り殺しはしねぇ。俺は殺したい気持ちがあるけどな……」

脅されているレイ。しかし誰からも見えないその場所で、レイはただ、沈黙するしかできない。

「単刀直入に言う。アインスガンダムの場所を吐け。」

何故レイの学校がこの男に分かったのかも分からない。そしてこの男は、奪われたアインスガンダムを奪い返そうとしていたのであった。

「どうして……僕がここに通ってるって分かったんですか……?」

ごくりと唾を飲み、レイは聞く。

「お前の制服。そしてアインスガンダムが消息を絶った場所。全てを照らし合わせて学校を絞った。そしたら候補が何個か上がってさ。んで、俺が覚えている情報を確認したらビンゴ!ここ、ベレーナジュニアハイスクールだったって訳でさァ。」

最初に彼等が会った時、レイは学生服だった。それを鮮明に覚えていたクラリスが探し出した結果だというのだ。

「登校時間、下校時間……お前の場合は部活もありか。それらを計算して、ベストな時間でお前を探し出す必要があったっつー訳よ。それが今の昼時の時間。校庭でMSがあれば嫌でも目立つだろ?その際にお前からアインスガンダムの場所を聞き出せば良いって話だよ。」

「その為に、わざわざ……」

手を上げながら、その目でじいっとクラリスを見る。

「いくら情報化社会とはいえさ、個人情報は完全に守られる時代。だから簡単にアクセスなんて出来ねぇ。となりゃこうしてやるしかねー訳よ。わざわざ新型機体まで出してきたんだぜこっちはよッ!」

そう言って、クラリスはレイの左肩に拳銃のグリップパネル部分を振り下ろした。

「うぅぅっ!」

痛みがレイを襲った。

「つー訳だ。早く場所を吐け。そしたら命だけは助けてやる。本当なら部下の命を奪いやがったてめえはこの場でハチの巣にしてやるんだけどな!!!」

レイは左肩を抑え、痛みに耐える。逃げようにも、クラリスは銃を持っている。

 そして、クラリスの言葉はレイに重く圧し掛かった。アインスガンダムを奪った際に二人の命を奪ったレイ。クラリスは今、その復讐心に燃えている。レイは先日までの悩みを再び吹き返す形となった。

「人殺し……僕が……」

「そうだよ!てめえは殺したんだよ!ジュニアハイスクールのガキが人殺しなんてしやがる!MSに乗って!許さねえのさ、俺はてめえを!けど殺さないでいてやるんだよ!早く吐けクソガキが!」

罵るクラリス。戸惑うレイ。恨みを買ったという事実は余計にレイを苦しめた。

「もし吐かねえのならてめえを殺す前にあの生徒を殺すことだって出来るんだぜ?機密を守る為なら軍は何でもやるんだからな!!」

「!」

それを聞いたレイは衝撃を受けた。自分の返答一つで、もしかすればクラスメイトや学校の関係者達が傷付く可能性がある。

 完全な脅迫。しかし今のクラリスはやりかねない。自分の部下をレイに殺されているからだ。あのMSがもし動き出し、暴れるようなことがあれば死者も出る可能性がある。自分の友人達や、なによりもリルムが傷つく可能性がある状況。彼は、それだけは避けたいと考えていた。

 しかしクラリスにアインスの場所を伝えても、今度はギリアが危ない。身を挺してまで守ってくれた彼を売るような真似は出来ない。レイは、懸命に考えた。

「……クラリスさんは、ガンダムがあれば良いんですね?」

「それが目的だからな!さあ、早く吐けよ!」

レイは握り拳を作り、言った。

「僕が……僕が直接アインスガンダムをここに持ってきます。それで、一緒に連れて行ってください。そうすれば良いでしょう?」

彼は、自分を差し出す条件を話した。皆を巻き込みたくないという一心が、彼を行動させたのだ。

「へぇ、面白い。場所は言わねえ代わりにここに持ってくると?」

「……はい。」

と、クラリスは銃をポケットに収納し始めた。

「ハハハ!こりゃ傑作じゃねえか!いいぜ。ただし、制限時間は三十分だ。ガンダムは恐らく学校の近くにあると睨んでるんだよ。それ以上経過する事があればMSはクラスメイトを殺すぞ!」

脅しをかけたクラリス。レイは静かに、頷いた。

「俺はMSの中で待ってやる!来たらそのまま合流だ。一分でも遅れたら殺してやるからな……」

そう言われ、レイは急いでそこから去る。一目散に、アインスガンダムを隠しているギリアの工場へ、向かうのだった。

 その後、クラリスは生徒達をかき分けて乗ってきたMSに搭乗。声を掛けられたりもしたが、恫喝して待機する。その間、校長先生等がクラリスにその目的を聞いてきたのだが一切応じることは無かった。という。

 

 クラリスに宣告された三十分の間に、レイは一目散に走り、ギリアの工場に辿り着いた。そこで彼はギリアに諸事情の説明をする。ギリアもこれには驚く様子だった。

「新生連邦、なかなか卑劣だな!で、お前はガンダムを差し出すのか?」

「ええ……」

ギリアはレイの肩をポンと叩き、言った。

「奴等、校庭にMSを置くような真似をする連中だ。あいつらについて行ったらお前、何されるか分からねえぞ?」

「でも、僕はギリアさんも、学校の皆も巻き込みたくないんです!だから……」

「……そうかよ。じゃあ、行けよ。天井は開けるからな。」

何故か、ギリアは堂々と言った。もしガンダムが格納されていると知られれば大変なことになる筈……と、レイは内心疑問を抱く。

「ありがとうございます。もし、無事に戻れたらまた戻ってきます。」

そう言った後、レイはアインスガンダムのコクピットに搭乗した。パスワードを入力し、カメラアイは起動。レイは先日の感覚を思い出し、アインスガンダムをゆっくりと、操る。

(無事に戻れたら……?どういうことだ?)

この時、ギリアはレイの発した言葉に対し、疑問を抱いていた。

 

 

「もうすぐ三十分……あいつ、逃げたか?我が身可愛さに逃げやがってよ!!!」

苛立つ様子のクラリス。モニターで熱源を確認するが、全く反応がない。この頃になると、生徒達はMSから距離を置くようになっていた。教師達に危険だと知らされたからである。中にはいう事を聞かない生徒もいたが、それどころではないと説明し、無理にでも距離を置くように言った。

 

ピピピピピ

 

するとモニターに熱源反応が感知。その方向を確認すると、そこには紺色のMS、アインスガンダムが姿を見せた。

「来やがったか!」

バーニアを展開させ、校庭に向かうアインス。

 

ズゥン

 

と、重い音が鳴り響く。突如現れたもう一機のMSの存在に、驚愕する者と、興奮する者、恐怖する者がそれぞれ居た。

アインスガンダムと、クラリスが駆るMS。これらが、まるで対立しているような構図になったのである。

「きちんと来やがったか。約束は守るみてえだなッ!」

 

ダダダダダダダダ

 

その時だ。クラリスの駆るMSは突如、頭部機関砲をアインスガンダムに向け始めたのだ。何故攻撃されるのかが分からないレイは、ただ困惑する。

 学生服を着たまま、ガンダムを動かすレイ。攻撃をされるとは思ってもみなかった為、驚きを隠せない。その際の弾が地面に落下。生徒達は離れていく。

「どうして攻撃をしたんですか!どうして!」

「アインスガンダムの装甲がどれ程頑丈か試してやったんだよッ!」

まさかのクラリスの行動。レイは信じられない様子だった。

 約束は守った。アインスガンダムを駆り、そのまま新生連邦の基地に向かうと思っていた筈の段取りはクラリスによって崩された。恐らく、レイに対する復讐心がそうさせたのだろう。しかしそれは同時に他者を巻き添えにする危険性のある行為だ。クラリスの勝手な行動が友人や学校関係者を傷つけることがあってはならない――そう考えた時、レイは迷いを止めた。

「僕は人殺しをするんじゃない!守る為に、戦うんだー!」

そう言って、アインスは背部ランドセルのビームサーベルラックを抜き、ビームサーベルを展開した。桃色のビーム刃は垂直に展開される。まるで、そのMSを攻撃せんとばかりに。

「ほう、てめえ俺とやろうってのかよ!」

レイの行動に激高したクラリスも、それに合わせるように、MSのビームサーベルを展開した。

「このディーストの性能を試す時だ!相手が皮肉にもガンダムなのは気に入らねえが乗ってる奴を殺せるなら丁度良い!コクピットを狙って殺してやる!!!」

クラリス・デイルが駆るMSはディーストと言った。それは新生連邦軍が樹立してから、大量に生産が開始されたMS。先日にも新生連邦総司令、レヴィー・ダイルが試験運用を行った事がある。コスト面、汎用性共に優秀なそのMSが、今回レイの通うベレーナジュニアハイスクールに出現したのだった。

 互いにビーム刃を持つ者同士が睨み合う。この様子を、生徒達はEフォンを持って撮影していた。

「はああ!」

アインスはビームサーベルをディーストに向かわせる。右前腕部を内側へ振り下ろすように。一方のディーストは右前腕部を外側へ薙ぎ払うように光刃を展開した。これにより、打ち合いが発生。熱が弾けるような音が、辺りに響く。

(出来れば校庭から離れるようにしよう……こんなところで戦ってたら学校が壊れちゃう……!)

MSという、巨人同士が戦うという事は周辺の建物にも影響しかねない。それを危険だと判断したレイは一度ディーストから距離を置くことにした。

 そして、バーニアで校庭から去る。一方、ディーストもそれを追いかけるように移動した。

 

 

 

 場面は変わり、人気の少ない河川の近く。アインスガンダムとディーストはバーニアを使い、着地。互いに武装は頭部機関砲とビームサーベルのみ。校庭から離れることが出来たレイは一安心するが、敵はまだいる。

「付いてくる気がねえなら殺すまでだ!そいつを奪ってな!」

ディーストはモノアイを輝かせ、再びビームサーベルを展開。アインスガンダムに迫っていく。

(この人は僕を殺そうとしている……だったら、守らなきゃ……守らなきゃ、やられるから……!)

レイは、“守る為”にクラリスと戦う事を決めた。確かにこのまま同行すれば良いかも知れない。しかし、今のクラリスはどうあがいてもレイを殺すだろう。現に、不意打ちと言わんばかりに頭部機関砲を展開したクラリス。卑怯な手を使うこの男に、レイは信用する事を無くしたのであった。

 アインスはディーストとの間合いを詰める。距離を確認し、頭部機関砲を連射。ガンダムのこめかみ部から実弾が連射される。

「チッ、糞が!」

ディーストはこれを避け、更にアインスに接近。ビームサーベルによる攻撃を行うのではなく、前腕部を駆使し、殴打するという攻撃に至ったのだ。

 

ガキィン

 

と、鈍い金属音が辺りに響いた。

「ああう!」

操縦桿を握ったまま、アインスは地面に倒れ込む。“ズシン”と重い音が響いた。

「貰った!コクピットを突き刺して終わらせる!」

 

ビゴォン

 

と、ディーストのモノアイが再び輝く。まるで、獲物を仕留めようとする為に。

 ビームサーベルを展開した後に、サーベルラックの基部を小指側で把持するように持ち替え、アインスのコクピットを突き刺そうとしていた。

「やら……れる……?」

危機的状況。このままでは自分が殺される。レイにピンチが迫る――

 

ピキィィィ

 

その時、レイの頭に電流が流れる。以前に初めてアインスガンダムを駆った時の感覚と同じ、不思議な感覚。その時、レイは敵の動きが緩慢に動いているように見えたのを感じた。

(動きがゆっくりと見える……?)

またしても感じたその感覚。それを感じた時、レイは躊躇うことは無かった。

 アインスの胴体を回旋させ、ディーストのビームサーベルを回避。そして、アインスはビームサーベルでディーストの胴体を縦に切り裂く。これにより、小規模の爆発が生じた。

「うおおおお!これ以上はまずい!クソ、一度後退するしかないのか!アインスガンダムを目の前にしてぇ!!!こんな、屈辱があああ!!!」

一度ならず、二度もクラリスはアインスガンダムに敗北する結果となった。その後ディーストはそのままバーニアを展開し、撤退を開始したのだった。

「はあ、はあ……なんとか……勝ったの……?」

レイは呼吸を荒げる。アインスガンダムは片膝立ちをするような形で、立っていたのだった。

 やがてビームサーベルラックを背部ランドセルに収納。その後、彼は急いでギリアの工場に戻る事にしたのだった。

 

 

 

ギリアの工場に戻った後、すぐにMSデッキにアインスを格納するレイ。しかし今回は以前のように夜でなく、昼間の戦闘だった為、間違いなく目撃者は多い。レイは只、それが気がかりだった。

「てか、お前、無事でよく帰ってこれたな。」

労いの言葉を掛けるギリア。レイは静かに、頷く。

「けどな、お前が何となくやった事って言うのはな、とんでもない事なんだよ。軍の機密をその辺の奴が扱うってことは、本来絶対にあっちゃ行けねえんだよ。」

ギリアはレイに 責した。レイは、何も言えないまま、黙る。

「そして、これからどのような形で軍が来るかは分からねえ。しかし今回やらかしたのは学校の生徒とかを脅すような汚い奴とはな……。」

「……すみません。でも……僕は守りたかったんです。みんなも、ギリアさんも。」

自分の勝手な行動から、校庭にMSが出現するという事態に発展してしまった現状。それに、今回の事はメディアにも知られる形となる。MSが戦っているという事が知られれば、いずれはギリアにも迷惑が掛かる。そして、やがてそれはレイ自身も苦境に追い遣る事に繋がるのだ。

「しかしお前、なかなか筋が良いというか、やっぱり天才かも知れねえな。ガンダムをあんな手足のように扱えるなんて普通じゃねえぞ。あんなの並みの軍人ですら時間かかるのに……」

ギリアの言葉に、レイは口をぽかんと開けた。

「僕が天才……ですか?」

「そんな逸材は軍にもなかなか居ねぇよ。大したもんだって話だぜ。」

腕を組み、ギリアはレイを褒め始めた。しかしレイが気になるのは、まるで何かを知っているかのようなギリアの口ぶりだ。

「ギリアさんって、凄くMSの事とか、軍の事とか詳しいですよね。まるで、只のマニアとか、そんなレベルじゃないぐらいに。」

ギリアは太い指で額を掻きながら言った。

「そりゃそうよ。俺、元連邦軍だからな。」

「え……えええ!?」

ギリアの口から発された言葉。それは、彼が元連邦軍人だという事実だった。

 だがそうなれば辻褄が合う点も多い。ガンダムの情報を知っていたという事、軍の整備士の友人がいるという事、そしてMSデッキ。これは本人の趣味もあるのだろうが、恐らく彼は軍を辞めた時の退職金で購入したのだろう。そして、以前に言っていた“何かあっても黙っておいてやる”という台詞。レイがアインスガンダムという新兵器を持ち出したにも関わらず、堂々とした振る舞い。

「ちなみに、俺が民間だったらアインスガンダムを格納した時点で間違いなくアウトだぜ。軍も節穴じゃねえからな。ちなみにな、元軍関係者ってのはある程度既存の連邦軍からフォローされる。だから新生連邦はここを襲うような事はしなかった。恐らく、調べた連中が俺が元連邦の軍人だってことを知ってたからだろうな。」

 普通、新生連邦軍が介入する事があれば捜索の際に強制介入になる。民間人ならばそのような言い訳は通用する筈がない。だからこそ、ギリアはそのような言葉を吐いたのだ。

「そうだったんですか……」

「じゃなかったら速攻でバレて何らかの形で俺は拉致か拷問をされてるんだよ。ただ、ガンダムの位置はもうバレてるから、次は連中がどのように動くかは分からねえ。一つ言えるのは、ガンダムを取り返す為だけに市街地で大規模な攻撃をするといった事はしないだろう……という事だ。」

「それってつまり……」

「新生連邦はその気になれば“いつでも、ガンダムを取り返せる”って事だよ。」

となれば、クラリスは何故レイを脅す為に学校を利用しようとしたのか……と言う話になる。新生連邦がギリアの工場の存在を知っており、尚且つアインスガンダムを格納している事を知っているのならば、わざわざMSを駆り出してまで捜索する必要などない筈だからだ。

「じゃあ、ギリアさんが元連邦軍でアインスガンダムがここにあるという事を知っている筈なのなら、どうしてあの人は襲ってきたんですかね……?」

ギリアは太い指で髪を弄りながら、考えた。

「それは知らねえな。上の人間はあえてその軍人を試した可能性はある。そして今回の件は軍人の個人的な感情での行動……の可能性は有り得るか。」

「そんな……それって……」

やはりレイがアインスを奪った時に二人を殺した事が関係していた。クラリスはその恨みを晴らさんと、あえてこのような行動をしたと考えられる。

「しかし新生連邦もアインスガンダムを奪い返すならもっと賢いやり方をしろって話だぜ。感情に任せた結果失敗してやがる。まるでその軍人の出方を見ているような感じだな。奇妙ではあるが、軍そのものがお前をマークすることは無いだろう。問題はその男ぐらいか……」

レイは、下を向き、そっと溜息を吐いた。

「しかし厄介な軍だぜ、新生連邦は。血眼になってガンダムを探すんじゃなくて、あえて泳がせておいて、それをどのように見つけ、回収するのかを見物しているようだな。まるで、その軍人の腕を試す試験のように。まあ、街中にMSを駆り出してる時点でもう、先がないだろうよ。」

「ギリアさん、凄く詳しいんですね……」

レイは、この男の連邦軍の内部事情の詳しさに驚くばかりだった。

「あー、これでも少佐だったんだぜ。まあ、デウス動乱が終わってからもう軍に所属する必要なんてなくなっちまったからな!がっはっは!」

(え、この人本当に凄い……)

思えばギリアの事をよく分かっていなかったレイ。まさか元少佐という、左官であるという事実を知り、より、彼は驚いていたのだった。

「俺が軍を辞めた時に佐官で良かったと思うのはこうして工場を経営出来るだけの金が貰えるって事と、ある程度今の新生連邦軍が大目に見てくれるって事だ。だから俺がアインスガンダムを匿っても強制捜査されない。まあ、泳がされてるのは分かっているけどな。だから俺の所に置いといたら安全なんだよ。ハハハ!」

(お金そんなに貰えたんだ……え、じゃあ前のプチモビの修理費も賄えたんじゃ……?)

レイは、静かに疑問に抱いた。そのような疑問とは裏腹、ギリアは、高らかに笑った。そして、煙草を吸い始める。

「けれど、なんだか変な話です。」

「ん?どうしたよ?」

ギリアはライターで火をつけ、そっとそれを吸い、そして吐く。灰色の煙が、宙を舞い、消える。

「そんな手間のかかる事をして、新生連邦に何の得があるのかが分からないです。だって、僕がアインスの場所をここに隠した時点で普通なら回収するハズですよね?」

「恐らく、今のトップはガンダムが一機奪われた程度じゃあんまり関心が無いんじゃねーのかな。何せ戦後になってデウス動乱時以上に軍備増強している連中だ。戦時中でもねえのによ。ガンダム一機より、どんどん兵器を増産したいんだろう。その中で、自分所の軍人がどう動くかの見物……まあ、こんな所か。」

元少佐であるギリアの見解。それはレイから見て的確に思えた。

「けど、まあこれで何かあったら一応はガンダムをここから出せるっていう事になる。あんまりお勧めはしねぇけどな。」

そう言われ、レイは突如、下を向き始めた。

「僕は……出来れば、ガンダムには乗りたくないです。あれで人を殺してしまうのが怖い……ギリアさん、実は僕――」

レイは、ギリアにのみ自分の心境を打ち明けた。元軍人であり、佐官であるという事を知り、必然的に話をしたいと思ったのだろう。

「おー、MSに乗りゃ人を殺すのはそりゃあるあるだわな。お前、前にMSについて熱く語ってたけどさ、あれは兵器だぞ。敵のMSを……人を殺す兵器だぞ?サバイバルゲームで使うモデルガンと、戦争で使う本物の銃を一緒に語るようなモンだぞ。」

レイはそう言われ、更に視線を下に向けた。

「まあ、俺だって現役の時は人を殺しまくった。戦争だったからな。けど、お前の場合は自分を守る為だったんだろ?」

「はい……けど、やっぱりあの感覚は怖いんです。けど、さっきはアインスで出ないとみんなが危なかったし……」

彼は今混乱している。レイが抱える苦悩。人を殺してしまった事と、人を守る為に戦ったという事。それが相反する形で、存在している。

「じゃあアインスガンダムを大人しく返したらいい。けど、新生連邦はどのように動くかは分からねえ。軍の人間をこうして試すような事をしやがるかも知れない。そればかりは俺にも分からない。」

「返す……か。」

レイの中で、アインスを新生連邦に返還すれば良いという、安易な気持ちが芽生えて来た。しかし――

「だが、新生連邦は黒い噂が絶えねぇ。お前さんが仮にアインスを返還したとして、その後、新生連邦にどのような惨い仕打ちを受けるのかは想像すら出来ない。半殺しか、あるいは抹殺か……」

それを聞いたレイは、ビクリと反応した。

「そんな……だったら……せめて、ギリアさんの一声で、止めさせてもらう事は出来ないんですか……?元連邦軍なら、どうにか……」

それを聞いたギリアは、レイを睨みつけるように言った。

「退役軍人の言う事をはいはいって聞く軍がどこに居やがるって話だ。俺にも今の軍のやり方は分かんねえんだよ。結局、お前が持ち帰った以上は、万が一何かあったら出撃できるようにするしかねえって事だ。」

この矛盾した感情に対する答えは見つけられなかった。彼は人を殺した事実と、何かがあった時に守らなければならないという矛盾を抱えている。それが今のレイを一層苦しめる。

「一つ言えるのは……お前はこれからガンダムに乗っていたという秘密を抱えて生活を送っていく必要があるって事だ。あんなものに乗っているって身近な人間にバレたらそれこそ大変な事になる。お前、それだけは隠せよ。人を殺した云々の話は、お前がもし心に溜め込めなくなったらまた聞いてやる。親には言うなよ。親が苦しむ。無論友達にもな。」

レイは、何も言葉を発する事がなかった。

「仮に罪の意識から、警察に自首しに行ってもお前の年じゃただの妄言扱いされるだけだからな。お前が殺したのは軍人だ。軍人は常に生死と隣り合わせでナンボの人間。自首したって結局お前は捕まらねえよ。罪を償うなんてことは、出来ない。」

ギリアの言葉の一つ一つが、レイに突き刺さる。自分が人を殺したという事実。

 しかし、ギリアと言う存在は彼の苦悩を少しでも和らげるかも知れない存在と言う事も、今回理解する事が出来たのだった。

 

 

 

 結局、学校は午後から休校と言う形となった。部活動も当然無し。そのままレイは家に帰宅した。レイはテレビを確認し、ニュースも確認するが、昼間の出来事に関するニュースは一切報道されていなかった。

「レイ、怪我はなかった!?なんか、MSが街中に現れたって噂を聞いたから……しかもベレーナに来るなんて……」

カレンは知人の話を聞いてその出来事を知ったという。彼は、この時疑問を抱いた。

(あれ、あれだけ話題になる筈なのにニュースにも乗っていない。SNSにも……)

それが、不思議だった。昼間の市街地……増して校庭にMSが現れるという事件。これは普通ならば大事件であり、メディアも報道する筈の内容だ。

「うん、怪我はなかったよ。あれは本当にびっくりしたなぁ……」

アインスガンダムに乗っているのがまさか自分等と、カレンには分かる筈がなかった。

「その噂を聞いてね、私の所も午後から授業中断しちゃったんだよー。お兄ちゃん。」

既に家に帰っていたミィスが言った。

「そうなんだ……本当、何だったんだろうね。」

レイは苦笑いを浮かべていた。

「……まあ、怪我がなかったのならいいわ。今日は奮発したから、しっかり食べて!」

そう言って、カレンは食卓をレイとミィスに見せた。

 そこにあったのはローストビーフをはじめとした、普段の食事では食べられないようなご馳走だった。空腹だったレイ達はこれを見て心底喜びを抱く。

 自分は人殺しと、悩んでいたレイ。しかし今日の出来事により、誰かを守る為に戦うという事も必要であることを学んだ。それをギリアに打ち明けた時、彼なりのアドバイスをレイに言った。根本的な解決には至らないかも知れない。しかし、今はこのかけがえのない幸せを噛み締めたいと思い、彼は今日のご馳走を静かに、味わうのだった。

 




第五話投了。苦悩する中で幼馴染のリルムが気を利かせてカラオケに連れて行ってあげるなど、人の優しさを感じている、レイ。しかし家族や友人にも言えない秘密を抱えてしまってどうしようと苦悩する彼の話でした。
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