機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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SM姉妹登場回。それぞれが駆るガンダムタイプとの、戦い。


第七話 陰に潜む姉妹

 

 

日曜日。世間では学校も会社も休みにあたる日。

平日の疲れを癒す為に休む者、趣味活動に励む者、勉学に励む者……様々な人がいる日。

 しかしその平穏な日である筈の日曜日での新生連邦モントリオール基地にて。クラリス・デイルを左遷させた男であるスパイッシュ・カルディアムがある人物達と会話をしていた。

「初めに言っておくが参加報酬と成功報酬は別だ。成功報酬は参加報酬の三倍を出そう。お前達の実力は相当なものと聞いている。任せたぞ……」

と、モニター越しでその人物達に言った。モニターは切られた後、その人物達は突然両者共に抱き合い始めたのだ。

「新生連邦政府自らが私達に依頼をかけてくれるなんて、私達、名前も随分売れてきたわね。」

「これをきっかけにフリーを卒業して正規軍人として雇って貰えれば貧困も脱出だね!」

艶やかな雰囲気の女性と、幼げな雰囲気の女性。艶やかな雰囲気の女性は赤い髪色、幼げな雰囲気の女性は水色の髪色をしている。それぞれ特徴的な髪形をしている二人。

「今回の任務は奪われたガンダムタイプの奪還だって。お姉様。」

水色の髪をした女性が言った。この台詞から、二人は姉妹であることが分かる。

「軍が市街地へのMSの派遣を強引に行う事が出来ないから、フリーの私達を利用するという行動に出たという訳ね。新生連邦軍も手段を選ばないわね。」

赤い髪の女性が言った。姉の立場であるこの女は、妹であろう立場の女の頬を撫で、言った。

「そしてこれは軍に正式に入隊する絶好のチャンス。ここできちんとアピールをしておかないとね、リンセ……」

「そうだね……フォリアお姉様……」

嫌らしい目付きで妹を見る、赤髪の女、フォリア。そしてそれを受けて恍惚とした表情を浮かべる、水色の髪の女、リンセ。

 姉の名前はフォリア・チェーニ。妹の名前はリンセ・チェーニ。“チェーニ姉妹”と呼ばれるこの二人はフリーランスのMS乗りとして今まで戦場を渡り歩いてきた姉妹であった。

「リンセ、背中を出せるかしら?」

「お姉様……ああ、まさか、“アレ”をしてくれるのォ……?」

明らかに妙な雰囲気の両者。フォリアの艶やかな声に対し、愛らしい声のリンセは“何か”を期待している様子だった。

 やがてリンセは上半身裸になり、そのまま背中をフォリアに向ける。その背中は、何かで殴打されたような跡や、何かに叩かれたような跡が痛々しく残っている。まるで何者かに虐待されたような、残酷な跡。しかしリンセはそれを悪く思っている様子ではない。

フォリアはその、リンセの姿を見るなり舌をペロリと回し、やがて鞭を用意し、リンセの背中を思いきり叩き始めたのだった。

 

パシィ

 

部屋に、鞭の撓る音が響く。それと同時にリンセの高らかな声が響いた。

「ああんっ!お姉様の鞭……最高ォ……もっと……もっとしてぇぇぇ!」

「貴方の声も最高よ……リンセ!!!」

変態行為にも見える両者の関係。鞭で叩くフォリア・チェーニと、それを受けて喜びを感じるリンセ・チェーニ。彼女等の目的は恐らく、アインスガンダムだろう。

 だがどのような形でアインスガンダムの奪還をするのかは、分からない。只一つ言えるのは、彼女達は普通の人間ではないという事だった。

 

 

 姉妹と連絡を取ったスパイッシュ。彼は、指令室にて両手を組み、不敵な笑みを浮かべていた。

「腕は立つとされている上、ガンダムタイプを扱っていると噂の姉妹……妙な存在ではあるが役立てるのなら手段は選ばん。気になるのは、その性癖だそうだが……まあ、何でも良い。仕事は、早めに片付けなければな……」

怪しげな笑みを浮かべるスパイッシュ。この男の目的は、アインスガンダムの奪還ではあるがその為に何をしようと言うのだろうか。

 

 

 

 日曜日の昼下がり。天気は晴れ。モントリオール市内は大勢の人が歩いている。この日、レイはモークと買い物に出かけていた。モークが買いたいものがあるという事で、レイも付き添いする事になっていたのだ。

 昨日はリルムと出かけていたレイ。だがその時の彼の恰好は、女装であった。今日はモークとの買い物と言う事であり、堂々と普段着で移動する事が出来た。

「モークと出かけるのは久しぶりだね。」

普段から学校でも一緒の二人だが、休日に二人で出かけるのは珍しい事だった。

「誘ったのは俺からだからな。服、欲しいんだよ。けど一人じゃ分かんねえからお前誘ったんだよ。」

「モークが服を買うなんて珍しいね。」

モークとレイの仲はジュニアハイスクールに入ってからだ。サッカー部に入るときに意気投合し、それから昼食時に弁当を食べる仲となった。その関係は二年生になる現在でも続いている。

「けどどこも服屋高いんだよな。ジュニアハイスクールの生徒に優しいブティックってねーのかなぁ。」

と、モークはEフォンを開き、周辺の店について調べ始めた。

 

 やがて一段落したモーク。目当ての服を買うことが出来た彼は満足げだった。その際、彼は音楽ショップを見つけ、そこにもレイと入る。

「おぉ、ジャンヌ・アステルの新曲じゃん!見に行こ!」

ジャンヌ・アステルとは世界的に有名な女優であり、歌手である。美しい容姿に、透き通った声。音楽チャートは、世界総合一位は当たり前。又、彼女が出演する映画作品は全て軒並みヒット作品ばかり。まさに神に選ばれた女性と言っても過言ではない存在と言えた。

「僕も、興味はあるな。」

モークがはしゃぐのに対し、レイもジャンヌ・アステルの曲は好きである。彼と一緒に、新曲を聴く為に店に入ったのだった。

 

 

「はー、疲れた。休憩しよー!」

と、モークは満足げにベンチに座る。そこは市街の中にある公園。噴水が中央にあり、周りには犬を連れて散歩をする人や、ジョギングをする者もいる。その中で、レイとモークはベンチに座り、休憩をしていた。

 穏やかな日曜日の昼下がりの公園のベンチ。冬場ではあったが本日の気候は日差しもあってか暖かく、心地よい。レイもうんと欠伸をし、そっと休憩をする。

「ん?モークは何をしてるの?」

ふと、レイはモークのEフォンを覗き込む。そこには動画を見ているモークの姿が。先程音楽ショップで聞いていた、ジャンヌ・アステルの動画だ。

 金色のロングヘアーに、透き通った碧色の眼。全てにおいて美しいと呼べる、世界的歌手のジャンヌ・アステル。彼女の存在に虜になる男性は多いという。

「やっぱジャンヌ・アステルは良いよなぁ。あ、そうそう。お前さ、リルムの事どう思ってんのよ?」

突如レイに話を振ったモーク。それを聞き、びくりと反応した。

「え!?い、いや……別に……幼馴染だし……別にどうのこうのって訳じゃ……」

明らかに動揺しているレイ。それに対し、モークは

「お前さ、ぶっちゃけリルムとヤリたいって考えた事あるだろ?」

と、いきなり話題を吹っかけてきた為、レイの顔はみるみる赤くなる。

「な……ななななな!何を!何を言ってるんだよ!!!」

恥ずかしさのあまり、レイはモークの口を塞ごうとした。

「お前本気にしすぎ!キョドり過ぎなんだよむっつり!」

「だって!そんなこと言わないでよ……」

無理もない。ティーンエイジャーという時期にそのような過激な言葉。その上レイはリルムを異性として意識している。それらが重なった為、レイにとってモークの言葉は爆弾そのものと言えたのだ。

「まああの身体つきだもんなぁ。そりゃモテるよありゃ。」

「モーク、最低……」

レイは自分の顔を両手で覆い、恥ずかしさを感じた。

「そういうモークは、どうなのさ……」

お返しと言わんばかりにレイもモークに言った。

「ばーか。興味ねえよ。同級生はいらね。俺は年上がいいなー。例えば……」

と、モークはちらと右側に視線をやった。レイも同じように視線をやる。

 そこにいたのは長身の二人の女性だった。髪色はそれぞれ、赤と水色。黒いレザーパンツ、ボーダーのスウェット。そのスタイルの良さに、モークは見惚れてしまっていた。

「あんな奇麗なねーちゃん達なら歓迎かなぁ。」

「あんまりじろじろ見ない方がいいような……」

モークは笑みが止まっていない。その二人の美しい肢体は、モークの目を捉えて離さなかった。一方、レイは直視しないように、モークに注意をした。

 

 

 モークの視線を感じていたのは赤と水色の髪をした女性達である、チェーニ姉妹だった。視線を感じると思ったのか、一瞬だけレイ達の方に目線をやった。

「なんか見られてない?お姉様。」

「フフ、気のせいじゃないかしら?それより……」

と、姉のフォリアはレイの方を見た。

「あの女子……何か、面白いわね。」

「え?何が?」

と、妹のリンセが言った。

「隣の男子に対して友達なのかは分からないけれど、私達の方を見るのを止めるように言ってる。」

「すごーい、よく分かるのね!流石お姉様!」

と、リンセが喜びながら言った。

「まあ、視線を感じるのは昔からだけれども。それよりリンセ、引き続き買い物を楽しみましょう。ここにいるのも、今晩で最後になるのだから……」

「はーい、お姉様。」

不吉な言葉を言ったフォリア。それを無邪気に聞くリンセ。この姉妹はモントリオール市内で買い物をしている。しかしフォリアの言葉が何を示すのかは、まだ分からない。

 

 

 その後、レイとモークは駅にて別れた。その後、レイは帰路につかず、ギリアの工場へ向かった。毎日行っている訳ではなかったのだが、ほぼ何らかの用事の後には工場へ向かうようになっていたのである。

「おう、レイ。」

と、日曜日であるにも関わらず働いているギリアの姿があった。

「特に異常はありませんか?」

「ああ、全然何ともないぜ。もし何かあったら電話してやるから心配すんなって。」

「けど、やっぱり気になりまして。」

クラリス・デイルが一度校庭に襲撃してきたことがやはり気がかりだったレイ。それ故に、定期的にここを覗くようになっていたのだった。

「……あれ、ギリアさん、あれは……」

レイが見たもの。それは、バズーカらしき武器だった。

「ああ。退役前に使ってたやつよ。MSに乗ってただけじゃなくて、白兵戦もこなしてた。ま、今じゃこいつも使われる事ないままに放置状態だけどな。」

このような、“武器”を始めて見るレイ。以前にクラリスが拳銃をレイに突き付けたが、それ以上に大きな武器。そのようなものをここで見るとは、思ってもみなかったのだ。

「こういうのでMSと戦ってたりするんだぜ。局地戦ではデウス帝国の地上部隊とやりあったりした時にさ。人とMSの共同作業みたいなモンでよ。敵のMSを破壊する為に人が陽動を仕掛ける事だってあるんだよ。」

「凄い……」

今までレイは、MSはMS同士で戦うものだと思っていた。ギリアの言葉は、彼の価値観を大きく広げるものだった。

「MSの支給が届いていない現場では、武器をどうにか工面して戦うしかない場合だってある。しかし敵さんだって必死だ。こっちが生身の人間であろうとも遠慮なく殺しにかかってくる。ほんと、映画に出てくる怪獣に立ち向かう人間みたいなもんだったよ!」

と、腕を組んで、自慢げにギリアは言った。

「しかしMSには弱点がある。それはコクピットさえ狙い撃つことが出来ればその機能を失うって事だ。それさえやっちまえば生身でも勝算はある!俺はデウス動乱時に合計五機は生身で倒したことがあった!それが功を成して昇進したんだよなぁ。」

(やっぱりこの人、本当に凄い人だ。色々な経験をしている……)

一見すればギリアの台詞は自慢に聞こえる。だが何も知らないレイにとっては、これらの言葉は魅力以外の何者でもないのだ。

「まあ、ありえないとは思うけど、もし戦う事になったらサポートはしてやるからな!ハハハ!」

「ありがとうございます……」

MSカタログを読んでいても、白兵戦の情報はあまり乗っていない。プラモデル等を購入してもそのような情報は殆ど乗っていない。元軍人であるこの男だからこそ語れる、戦場の現実。それを生還してきている過去を持つギリア・ノール。レイは改めて、この男の凄さを体感するのだった。

 

 

 その夜。午後九時頃。明日の登校する準備を終えたレイはベッドに寝転がっていた。土曜日はリルムと出掛け、日曜日はモークと出掛けた。学校で会うクラスメイトの違う一面を両日で見たレイ。その時間は、かけがえのない時間だった。

 何気ない時間。友人と過ごす時間。それらは本来、楽しいものである一方で退屈な時間でもある。だがレイにとっては心から喜べる時間とも言えた。

 リルムと出掛けた時は女装するという出来事があったが、それでも彼はリルムの本心に気付けた気がした。それだけでも嬉しい。モークには冷やかされたが、その時間さえもレイにとっては恥ずかしながらも嬉しさを感じる。

「リルムとは指を絡めた……なんか、変な感触……」

共に写真を撮った時にリルムと手を組む構図をとったレイは、その時の感触を思い出していた。その時の高揚感は、今も続いている。彼女には、“幼馴染”と見られているだけかも知れない。それでも、彼にとっては嬉しさがあった。

(もう、戦わなくて良い日が来たらいいのになぁ……)

と、レイは静かに考え、やがてその青い目は少しずつ閉じられていく。ゆっくりと、ゆっくりと……

 

 

ピピピピピ

 

 

突然、Eフォンが鳴った。それによって目を覚ますレイ。目はうすらと開けられ、Eフォンに映っている時間を見る。午前二時。何故この時間にEフォンが鳴ったのかは分からない。

寝ぼけ眼でレイはEフォンを手に取り、電話を取る。その相手は、ギリア・ノールだった。

「レイ!今から急いで来れるか!?」

「はい……どうしたんですか……?」

「やられた……工場が……焼かれている!」

ギリアの言葉を聞き、レイの細かった目は少しずつ見開かれる。そして……

「何ですって!?」

と、夜中にも関わらず大きな声を出した。

今、ギリアは“焼かれている”と言った。そもそもこのような時間にギリアから電話が掛かってくること自体が異常だ。それを聞き、レイは迷わずに急いで服を着替え、そのまま階段を降り、家を出る。眠っているカレンとミィスに、気を遣いながら……

(すぐに、戻るから……)

異常事態だと察するレイ。急いでギリアの工場へ向かう為、彼は自転車を駆り、夜中の市街を自転車で走らせた。

 

 

 

 事の発端は十分前に遡る。皆が寝静まる頃。森林が多い公園にて。

「そろそろ、作戦を開始しましょう。」

「ええ、お姉様……」

「上手く行って報酬が得られたら、思いきりご褒美をあげるわね、リンセ。」

「あああ……お姉様のご褒美の為に!!!」

そこで会話をするのはチェーニ姉妹だ。両者はある、行動をしようとしていたのである。

 

キシィン

 

やがて森林の中で二つのカメラアイがそれぞれ輝いた。深紅のカメラアイと、紺碧色のカメラアイ。夜間という事もあり、よりそれらは不気味な印象を受ける。

「目的は、アインスガンダムの奪還……このガンダムで、すぐに終わらせましょう。」

「ええ!お姉様!」

やがてそれらのガンダムタイプは森林から姿を現し、それぞれ、バーニアを展開する。

「ヴェーチェルガンダム、起動!」

「エクルヴィス、ゴー!!!」

それらの言葉と同時に、二機のMSが飛び立つ。目的地はアインスガンダムが格納されているギリアの工場だ。

 ヴェーチェルガンダムとエクルヴィスガンダム。それらが、この姉妹の駆るMSの名称だった。

 XXMS03-VGヴェーチェルガンダム。デウス動乱後に制作されたであろうMSだが、その製造過程は謎に包まれている。深紅のカラーリングをしているMSであり、パイロットのフォリアの髪色に合わせているようにも見えるMSだ。最大の特徴はバックパック部に存在するウイング形状のバーニアであり、機動性に一役買っている機体でもある。

 もう一機のMSはXXMS05-EGエクルヴィスガンダム。下半身部が肥大化している機体であり、肩部に高出力のメガビームカノンを搭載している重MSである。フロントアーマー部に“隠し腕”と呼ばれるクロー型のマニピュレーターを搭載している機体である。ヴェーチェルガンダムと比べると機動性には劣るものの、その砲撃を使い、ヴェーチェルをアシストするMSである。

 ガンダムタイプが二機、モントリオールに出現した。平穏だった日常を脅かす存在となり得る存在。それらによる攻撃が、間もなく行われる。

 

 ギリアの工場の前にガンダムタイプ二機が降り立つ。深夜の閑静な住宅街に出現したガンダムはその眼光を向上に向け、すぐに攻撃を開始したのだった。

「手始めに……」

すると、フォリア・チェーニのヴェーチェルガンダムは側腰部から筒状の物体を引き抜く。やがてそれはビーム粒子を纏い、細長い鞭のような形状を作り出した。“ビームウィップ”と呼ばれるその兵器で、工場のハッチを切り裂いたのである。

 

ズバァァァァァァァァ

 

ハッチは一撃で破壊された。これにより、MSデッキが丸裸となったのだ。更にその衝撃で火災も発生。周辺の建物に被害が及ぶ結果となる。

「あいつら何者だ!?」

ギリアが反応した。夜間の突然の襲撃。しかもハッチを破壊されたことにより、周辺の建物に被害が及んでいる。そこに立っているのは見た事もないMS。ギリアはこの状況が、最初は読めなかった。

「へぇ、人がいるのね……」

「ちょっと脅してあげようかなっ!」

と、リンセ・チェーニがエクルヴィスガンダムを操る。

 

ドバアアアアアアッ

 

低出力ではあるが、市街地でメガビームカノンを展開したのだ。この砲撃により、工場より後ろの建物が破壊された。

 躊躇のない攻撃をする姉妹。ギリアはこの信じがたい光景を見て、ただ驚くばかり。

「新生連邦じゃねえな……あいつら何者だよ!!!」

所属不明のMSが現れ、ギリアは一人、臨戦態勢に入る。

「いや、まさかこれは……俺も、連邦から見捨てられたって事かよ!クソッタレ!!」

意味深な言葉を発し、ギリアは姉妹のガンダムに向け、バズーカを持ち、狙いを定める。

 しかし、姉妹にとってギリアは視界に入らない。彼女らの狙いは、アインスガンダムのみ。その為に無益な被害を出したのである。

「これがお目当てのガンダム……」

「思ったより、あっけないねー。」

「すぐに頂いちゃいましょうか。」

アインスガンダムを回収しようと、エクルヴィスガンダムの隠し腕が展開。それらでアインスの肩部を掴み、持ち帰ろうと試みる。

 

ガキィン

 

すると、突如アインスガンダムが動き始めた。コクピットにレイが乗り、辛うじて奪取されるのを阻止することが出来たのだ。

「パイロットが居たの!?」

「まさかの展開!」

フォリアとリンセは驚く表情を見せた。エクルヴィスの隠し腕から逃れたアインスはすぐに地上に出て、両機体と対峙する形となる。

「レイッ!」

チェーニ姉妹に奪われる間一髪のところを、レイが駆け付けた。バズーカを持ったギリアはアインスの方向を見る。

「嘘だ……こんなの、街が燃えてる……なんで……こんな……!」

アインスガンダムが立つ、後方にある建物が燃えている。いずれもチェーニ姉妹が行った攻撃によるものだ。市街地でビーム砲撃などを行うという、想定外の攻撃をした姉妹。レイはこの存在に対し、憤りさえ感じていた。

 

ピピピピピ

 

と、レイはEフォンに反応。声の主はギリアだ。

「聞こえるか……レイ!こいつ……らの目的は恐らく……そい……つだ!出来る……だけ市街地から離れ……て戦え!」

音声通話ではあるものの、音質が悪い。辛うじて聞き取る事こそ出来るが、どこか、途切れてしまう。先程エクルヴィスが放ったビームカノンの影響だろうか。

「俺もバズー……カで戦って……やる!頼ん……だぜ!町を守って……くれ……よ!」

そして、Eフォンは切られる。その直後、足元を見るレイ。すると、工場の地下の方から何やら発光するものが見えた。それは、ギリアがバズーカを持ち、姉妹のガンダムに撃っている姿だった。

「無茶ですよ!いくら経験者でもたった一人、しかも生身でMSに戦うなんて!」

レイが心配するのも当然だった。昨日の夕方に工場に尋ねてきた時に、生身でMSと戦ったことがあると言っていたギリア。それが今、まさか実現する事になるなど、思いもしなかったのだ。

「生身の人間がバズーカを撃っているわね、リンセ。」

「じゃあ、あの虫を黙らせちゃおっか!」

姉妹のガンダムに向けて放たれるバズーカは、コクピットに向けて狙っている。だがその堅牢な装甲は並みの弾で弾けるものではない。ギリアの応戦も空しく、姉妹のガンダムに傷すら付けることが出来ない。

 

ダダダダダダダダダダダ

 

エクルヴィスガンダムが、ギリアの方に向けて頭部機関砲を放った。生身の人間相手には、小型の実弾兵器で十分なのだろう。

「ガハッ……」

頭部機関砲は、MSサイズの存在が放てば大きなサイズの武器ではない。あくまでも、牽制用の兵器だ。しかしそれが生身の人間に当てられたとなれば、それは脅威となる。

 頭部機関砲を生身で受けたギリアは血まみれになった。胴体を吹き飛ばされ、おびただしい血液が溢れ出る。バズーカを持ったまま倒れ、彼は激しい呼吸をしていた。

 

「ぐ……う……ま……さ……か……こ……こで……レ……い……」

 

ギリア・ノールは息絶えた。チェーニ姉妹のガンダムによって、呆気のない死を迎えてしまったのであった。

「ギリアさん!!!」

レイはその光景を見ていた。彼の身体が吹き飛ぶのを見て、青ざめた。

 ギリア・ノール。元地球連邦軍少佐。デウス動乱終結後に軍を退役。その退職金でモントリオールに工場を建て、経営を行っていた人物。レイがプチモビルスーツ大会に参加する際にしぶしぶパワームを貸与した人物。それ以降レイと交流を深めていった。彼がアインスガンダムを奪った際も、持っていたMSデッキに格納し、レイとの間に秘密を持ち続けた人物。しかしその最期は、襲われている街を守る為に生身でチェーニ姉妹のガンダムに立ち向かった結果、機関砲で撃ち抜かれるという末路を迎えたのだった。

「こんな……こんなのって!」

呆気のないギリアの死に、レイはただ、戸惑う。先程まで会話をしていた人物の死。彼自身の悩みも聞いてくれていた人の、死。

「さて。アインスガンダムは動くみたい。大人しく持ち帰らせてくれれば良かったのにね。」

「本当ね!あんなグロいの見ちゃったからさっさと終わらせて……お姉様のご褒美が欲しいわぁ!」

ギリアを殺した張本人が、死者を弔わない台詞を吐いた。この事より、両者は人を殺し慣れている。そのような人間達であると言うことが分かる。

 

ブゥン

 

アインスガンダムはサーベルラックを抜き、ビームサーベルを展開した。武器はこれと頭部機関砲。状況は不利だ。しかし、ギリアを殺した存在を目の前にして、逃げ出す事はしない。

“許せない”という怒りの感情が、レイを突き動かした。

「よくも!よくもギリアさんを!!!」

怒るレイ。そのまま、チェーニ姉妹のガンダムへ向かっていく――

「あら、そんな貧弱な武器で戦いを挑むつもりなのかしら……」

と、ヴェーチェルはビームウィップを再び展開。鞭のように素早い動きでアインスに迫った。

ビームサーベルで受け止めようとするアインス。しかしサーベルとウィップではリーチの長さに差がある。ウィップの長さはアインスの胴体部にダメージを与えるのに十分だった。

「うあああ!」

アインスガンダムはその衝撃で後方に倒れる。すぐに立ちがろうとレイは操縦桿を握るが、そうはさせまいと、リンセのエクルヴィスが隠し腕でアインスの両上腕部を固定した。

それから、アインスに馬乗りになるような形で跨る。

 怪しげに青く輝くカメラアイ。そしてエクルヴィスガンダムの右部のマニピュレーターはコクピットをこじ開けんと、アインスガンダムに迫る。

「リンセ、そのガンダムのパイロットのご尊顔を拝ませて頂きましょう。」

「ええ……お姉様!」

このままではコクピットがこじ開けられてしまう……しかし、両腕は押さえつけられており、身動きが取れない。

 

ガキィン

 

と、アインスのコクピットがエクルヴィスによってこじ開けられてしまった。これで、コクピットを守る壁はなくなる。

 そして、この時に姉妹はレイの姿を初めて見た。パイロットの姿を見た両者は、声を揃えて言った。

「子供!?」

レイという少年の姿を見た二人はまさかのパイロットの正体に驚愕した。何せ、新生連邦の新型ガンダムを奪ったのはレイのような少年だったからだ。驚くのも無理はない。

「ガンダムのパイロットがまさかこんな女の子だったとはね!」

「どういう理由でそんなものを扱っているのかは知らないけれど、私達も任務があるのよ。命が惜しければコクピットを降りなさいな。」

パイロットがレイと分かった姉妹は、アインスに対して回線を開き、会話をする。無論、レイに彼女達の声は聞こえていた。

 しかし相手はギリアを殺した敵。レイがその敵に対し、大人しく従う筈がない。

「僕は……男だーっ!!!」

相手はこちらが子供だと思い、油断をしている様子だった。その隙を突いたレイはアインスの右脚部でエクルヴィスガンダムに対し、蹴りの攻撃を行う。鈍い金属音が辺りに響いた。

「わぁ!?」

と、隙を突かれたエクルヴィス。しかし機体の特徴である下半身部の重みのお陰でアインスのように後方に倒れることは無かった。

 蹴りを入れた事により、アインスは体制を立て直す事に成功。再び立位姿勢を取り、姉妹に対してどのように戦うべきかを考える。

「……良い……」

「えっ……?」

「良い!もっと虐めて欲しいのぉ!もっと蹴って欲しいの!ねぇ!そのガンダムで私を蹴りなさいよ!私を虐めて!もっと狂わせて!絶頂させて欲しいのよ!!!」

突然リンセが大声を上げる。卑猥極まりない声。彼女は重度のマゾヒストだ。機体越しでも自身にダメージを負うと、それに対して性的な興奮を覚える人物であった。

(この人……!)

奇妙な言動をするリンセ。レイはより慎重になり、戦う態勢をとった。

 

ガキィン

 

突如ヴェーチェルガンダムがエクルヴィスガンダムに対し、脚部で蹴った。リンセの欲求に、フォリアが応えた形となった。

「あああああ!お姉様ぁ!最高ぉ……」

再びリンセは恍惚とした表情を浮かべ、自身をぐっと抱き締める。

「リンセの声はそそるわ……」

と言うフォリア。彼女自身も異様に呼吸が早い。何かに対して攻撃を加える事に対する欲求があるこの女。リンセが重度のマゾヒストならば、フォリアは重度のサディストだ。

(この人達は何をしてるの……?)

味方を攻撃し、それに対する喜びを感じるリンセと、フォリア。レイからすれば、彼女達の行動が一切理解出来ない。

「こんな人達に街を壊されて……ギリアさんを殺されて……こんなの!」

姉妹を奇妙に感じているレイ。しかしそれ以上に、街への無差別攻撃やギリアを殺した事に対する怒りが込み上げて来た。

 再びアインスはビームサーベルを展開。目の前にいたヴェーチェルガンダムに向けて、攻撃を仕掛けていく。

「甘いわね!坊や!」

と、ヴェーチェルガンダムは再びビームウィップを展開。アインスに迫る。

 が、アインスはそれを回避。そのまま、ヴェーチェルの懐へ飛び込む。

 

ドバアアアア

 

「ああう!」

しかし、近くにいたエクルヴィスがメガビーム砲をアインスに向けて放った為、攻撃は届かないまま再び倒れてしまう。出力は機体を破壊する程では無かったが、アインスはダメージを負った。

「ナイスリンセ。それに……」

仰臥位姿勢で倒れるアインスガンダム。そこへ跨るような形でヴェーチェルガンダムが迫る。深紅のカメラアイが輝いた後、脚部を駆使してアインスの胴体部を連続で蹴り始めた。

 この連続した攻撃で、レイは身動きが取れないまま苦しむ声を上げる。

「ああっ!あああ!」

だがレイの声は、よりフォリアの嗜虐心を引き立てる。止めるどころか、その行為は更にエスカレートしていく。

「良いわ……貴方、男の子の筈なのにそんな可愛い声で喘いで……私、絶頂しちゃいそうよ……!」

「はぁあっ!いいなぁ!お姉様にもっと虐められたいのに……キミ、本当に幸せ者ね!」

そばにいるリンセは顔を赤めている。呼吸も早い。一方のレイはこの状況を脱出しなければならないと思い、揺られながらも次の手を考える。

「このぉっ!!!」

咄嗟に思いついたのは、頭部機関砲でヴェーチェルとの距離をとる方法だった。それに気付いたフォリアはすぐに反応し、アインスから距離を置く。

 その後すぐにアインスは立ち上がり、バーニアの出力を上げて一度この場から去るのだった。場所を変えて戦うつもりだ。

「逃がさない!」

「捕まえちゃうんだからー!」

フォリアとリンセは互いにガンダムを操り、アインスガンダムを追う。

 

 

 

 場面は変わり、川の中州にて。そこに降り立ったアインス。そして続くヴェーチェル、エクルヴィス。

 環境を市街地から変える事には成功したものの、不利な状況である事に変わりはない。緊迫した状況が続く。

 相手はガンダムタイプを駆る姉妹。その性格も常人とは思えない存在。機体もパイロットも得体の知れない存在ばかりの中で、レイは対処法を考え続ける。誰も巻き込まず、誰も死なせない……もう、自分にとって親しい人が死ぬのは見たくない……レイの想いは強い。

「面白い子ね。名前を聞いておこうかしら。」

フォリアが再び回線を開いてきた。それを聞いたレイは最初躊躇うが、冷や汗を掻き、口を開いた。

「レイ・キレス……」

「レイ……ね。素敵な名前ね……それより、貴方みたいな子供が何故そんな機体に乗っているのか、興味が湧くわね。」

フォリアの質問に、レイは答える。

「どうしてでしょう……僕にも分かりません……」

それを聞いたリンセが、突如激昂した。

「はあ!?ふざけんじゃないわよ!分かんないでガンダムに乗ったっての!?それでお姉様の攻撃を受けてあんなに喘いでさ!ふざけんじゃないわよ!!!」

リンセの怒りの沸点が明らかに異常だ。彼女は重度のマゾヒスト。フォリアがレイに攻撃を仕掛けているのに対し、嫉妬をしているのだ。

「リンセ。貴方の勘違いも甚だしいわ。あんまり私を苛立たせないで頂戴。」

リンセの言葉が癇に障ったようだ。リンセは、自ら言葉を慎む。

「私達の目的はあくまでもそのガンダムの奪還。貴方が邪魔をするのなら当然容赦しない。例え貴方が愛らしい顔立ちをした子供でも。」

「仮にアインスを貴方達に渡して、それで攻撃を止めてくれるっていう保証はあるんですか……?」

姉妹の目的はあくまでもアインスガンダム。もし自分が降りて差し出す事ができれば、被害を出さなくて良いのなら……と考えるレイ。

「私は貴方のその可愛い顔が苦痛に苦しむ姿を見る事が出来れば最高のエクスタシーを感じられる……つまりは貴方も一緒にガンダムと乗って来て欲しいと言うことよ。」

フォリアの答え。つまり、レイは無事で済まされない可能性が高いという事だ。

「ガンダムは新生連邦に渡して、パイロットを自由に使って良いのなら……貴方を愛玩具にしたい。私の望みはそれだけ。」

フォリアの言葉に対し、リンセは頬を膨らませていた。

「だったら、嫌ですよ!僕はおもちゃじゃないんだ!」

フォリアの歪んだ欲望は当然レイに拒絶された。

「それに、ギリアさんをよくも……許せない!」

このまま姉妹の言う通りにアインスを差し出しても無事で済む保証もない。増して、ギリアを殺した張本人達を目の前にして見逃す事も、許せない。

「さっきリンセが殺した男を慕っていたみたいね。」

「所詮虫だよ!生身でMSにバズーカ当てるとか何のゲームなのかなって思った!アハハ!!」

リンセがその言葉を発した時。レイは行動を起こした。アインスのビームサーベルをすぐに展開し、エクルヴィスに対して攻撃を加える。

「あんたねぇ!!」

と、怒るリンセ。エクルヴィスはビームサーベルを下半身のサイドアーマー側腰部から展開し、これに迎え打つ。ビーム刃同士の打ち合いを行う形となった両者。

「ギリアさんを虫扱い!そんなの!許される訳が!」

「うっさいのよ!大事の為には小事は切り捨て!そんなの仕事においては当たり前じゃない!」

「そんなので人を殺して良い筈がないんだ!」

MSに乗り、彼は初めて怒りを感じていた。目の前で惨殺されたギリア。その光景がレイの脳裏に蘇る。あの残酷な姿を見ても平気でいられるこの姉妹の残酷さに怒りを覚える。

「そんな子供の価値観なんて理解したくないのよ!世間知らずの子供が!」

と、エクルヴィスはアインスのビームサーベルを切り払った。

 

グォンッ

 

と、エクルヴィスは隠し腕を再び展開。今度は両脚部を固定した。身動きが取れなくなるアインス。

「しまった!」

「よーし、お姉様!チャンス!」

機嫌が戻ったリンセ。しかしフォリアはこの状況を見て、何故かニヤリと笑みを浮かべたのだった。

「レイとか言ったわね。ハンデをあげましょう。」

と、その時。突然、ヴェーチェルは腰部にマウントしていたビームライフルをアインスに向けて投げた。自身の武器である筈のビームライフルを、何故かアインスに渡すと言う行為。

「お姉様!?」

姉の行動にリンセは戸惑う。

「そのビームライフルでリンセのガンダムを撃ち抜きなさい。貴方の大切な人を殺した張本人を目の前で殺せるチャンスよ。リンセ、貴方も撃たれたいでしょう?」

フォリアの言葉を聞き、最初は戸惑う様子だったリンセ。だが、その“意図”を理解したのか、突如リンセも笑みを浮かべた。

「ああ……あはは!良いわね!ねえ君!撃ち抜きなさいよ!私を絶頂のままイかせてよ!!!」

と、リンセは呼吸を荒げる。再び顔を赤め、まるで変態のような形相だ。

(ビームライフルの引き金……もし、ここで撃ったらどうなる……?)

明らかな罠の可能性が高いと考えるレイ。彼の駆るアインスは今、エクルヴィスによって脚部を固定されている。身動き自体は取ることが出来ない。しかし角度としてはエクルヴィスのコクピットを狙う事は出来る。それを撃ち抜けば、エクルヴィスを破壊する事は出来る。

(いや、駄目だ……もしこれの火力が高かったら……後ろの建物まで壊してしまう!)

周囲を見るレイ。エクルヴィスガンダムの後ろに立つ住宅地。それをもしビームライフルで撃ち抜けば、敵ガンダムを倒すことが出来たとしても被害を拡大しかねない。

 恐らく、フォリアの狙いはそれだろう。怒りのままにリンセを殺すか、それとも周りを見てどのように行動するのか……それを彼女は試していたのだ。

「だったら!」

すると、アインスはヴェーチェルから預かったビームライフルの銃身をマニピュレーターで持つ。

 

ガキィン

 

それを、あろうことかエクルヴィスの胴体部に対して鈍器のように攻撃を加えたのだ。エクルヴィスを倒すことは出来ないが、市街地に被害を出さない方法。これがこの状況で出来るベストな方法だと、彼は考えていた。

「ああんっ!まさか殴るなんて!最高っ……!」

マゾヒストのリンセは想定外の行動に驚喜した。一方、フォリアはレイの行動を見てある判断をした。

(“守る”戦い方……ね。なら、この戦いはもう短期決戦で臨まなくてはね。)

フォリアの思考を他所に、アインスはエクルヴィスの隠し腕から脱出に成功する。

「あぁっ!?」

だがヴェーチェルがアインスガンダムの後方に密着を始めた。そして、ビームウィップの基部をアインスのランドセルに近づける。

「防戦一方では死ぬだけよ、坊や……さよなら。」

 

ズバァァ

 

アインスはヴェーチェルのビームウィップにより、コクピットごと貫かれた。ビームウィップの出力自体は大したものではないが、パイロットの機能を失うのには十分な威力。

「ぁ……!」

コクピット内はビームウィップの熱により、大きく損傷。レイ自身も重傷を負った。この攻撃により、アインスガンダムは膝から崩れ落ちる形をとる。

 レイは、この姉妹に敗北をした。二対一という元々不利な状況。その中で応戦をするレイ。だが、彼女らの巧みなコンビネーションや、その環境を活かした攻撃に敗れてしまったのだ。

 

アインスガンダムはその機能を完全に失った。コクピットも破壊され、パイロットもどうなったか分からない。任務を達成したチェーニ姉妹。彼女らのガンダムはそれぞれの兵器を元の場所に格納し、任務の仕上げに入る。

「思ったより呆気なかったわね。このまま回収するわ。」

「これで、お姉様のご褒美が貰える!アハハ!仕上げましょう!」

エクルヴィスは隠し腕を再び展開し、アインスガンダムの両肩部を固定。そのままバーニアの出力を上げ、持ち帰ろうとした―

 

バシュゥゥゥ

 

その時だ。二機のガンダムの後方より一筋のビーム砲撃が飛んできた。それを受けたエクルヴィスは衝撃で一度地上へ落下してしまう。

「ああう!このタイミングでの揺れは嫌いなのに!」

「レーダーに反応……この熱源は!?」

ヴェーチェルのレーダーに熱源の反応があった。その方向に向け、頭部機関砲を放つヴェーチェル。

 だが熱源はそれらの攻撃を素早く回避する。空中を旋回し、二機のガンダムに迫るその機体。

「鬱陶しいのよ!!!」

空中を飛ぶ機体に向け、エクルヴィスが肩のビームキャノンを展開した。だが、これらも回避されてしまう。

「あれは……モビルアーマー(MA)!?」

モビルアーマー(MA)。それはMSと異なる機動兵器。デウス動乱時代ではMSがMAに変形する、トランスフォーメーションモビルスーツ(TFMS)(可変型MS)という機体が試作的に導入されていた。MSとの最大の違いは、その形状にある。MSは一般的に人の形をした存在であるが、MAは人型とは異なる異形の姿。最も多いのは戦闘機等の機動兵器に似た機体が多い。

「どうしてMAがこんな所に!!!」

ヴェーチェルはビームウィップを展開し、そのMAに攻撃を仕掛ける。だが、MSであるヴェーチェルと違い、圧倒的な機動力でこれらの攻撃を避けるそのMA。

 やがてMAはアインスガンダムに近づいた。

 

グォンッ

 

すると、MAだったその機体は突如MSに変形した。頭部のカメラアイにはモノアイが輝き、肩部には二基の突起物、そして右マニピュレーターには長い柄のビーム砲。

「派手にやられたみたいだな……とにかく、回収する。」

その機体のパイロットが静かに呟いた。左手部のマニピュレーターを使い、アインスガンダムの肩部を覆った。そして、その状態から再びMAに変形。その上にアインスガンダムが乗っかったような状態で、この場から去っていく。

 

「やられた!!!」

「嘘、そんな……」

アインスガンダムのコクピットの破壊に成功し、機体を持ち帰ろうとしていたチェーニ姉妹。だが、予想外の可変MSの介入により、結果的に彼女達の任務は失敗に終わったのだった。

 夜間の激闘。ギリア・ノールはこの戦いにて亡き者となり、周辺の住宅は破壊される被害を出した。そしてアインスガンダムはチェーニ姉妹によって敗れる。だがそこへ介入した謎の可変MSがアインスガンダムを連れ去った。その機動性に太刀打ちできないチェーニ姉妹。彼女達は、その獲物を横取りされる形となったのだった。

 可変MSを操っていたのは何者なのか。そして、レイは無事なのか。分からないまま、時間は過ぎていく――




第七話投了。サディストのフォリア・チェーニとマゾヒストのリンセ・チェーニとレイの戦いでした。互いに相思相愛関係であるという一風変わった強敵との戦い。そして、相変わらず少女に間違えられるレイ……といった話。
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