機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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場面は変わり、レイの置かれた環境はMS乗りの戦艦の中へ。大きく変わった環境で、彼は何を思うのか。


砂漠の狩人編
第八話 セイントバードチーム


 

 あの出来事から十日が過ぎた。新生連邦が依頼したフリーのMS乗りであるチェーニ姉妹に敗れたレイ。そして、更にそこへ現れた謎の可変MS。そのMSはチェーニ姉妹のガンダムタイプから逃げ切り、アインスガンダムを連れ去った。突如、レイは故郷であるモントリオールを後にすることになったのである。今まで平穏な日常を過ごしてきたレイの物語は急変を見せた。

 

 

 

 この十日の間に世界で少しだが動きがあった。新生連邦総司令、レヴィー・ダイルと、平和国連盟の最高議長、チャール・ポレクが会談をしていたのだ。時期は十二月二十五日。クリスマスの日であるこの日、彼等は平和国連盟の本部があるニューヨークにて会談を行った。

「新生連邦軍は現在、軍備の増強を更に強めているという話を聞きます。しかし地球圏ではデウス帝国といった脅威の存在しない現状でそれ程までに軍備増強を行う必要性はあるとは私には考えにくい。貴公のその具体的な目的を教えて頂く事は出来ないでしょうか。」

平和国連盟の最高議長、チャール・ポレクが言った。

新生連邦政府と平和国連盟。それらは今の世界の秩序を保つ為に必要不可欠な存在だ。新生連邦軍が世界の政治のトップを務め、加盟国に軍備等を派遣する。その一方で、新生連邦の行動を監視しているのが平和国連盟である。新生連邦は軍部が実権を握っているのが現状であり、それらが平和行為から逸脱していないのか、平和国連盟はその行動を監視する必要がある。

では、何故旧地球連邦から平和国連盟が独自の立ち位置を作り出すことが出来たのか。それは、総司令、レヴィー・ダイルの祖父……つまり、デウス動乱時の地球連邦軍の総司令、ダディー・ダイルとチャール・ポレクによって結ばれた密約が関係していた。

ダディー・ダイルは荒廃していく地球圏の存在に疑問を抱き続けていたという。その中で、当時国際平和機関の代表を務めていたチャール・ポレクに対して連邦組織の監視を依頼。その上で当時の国際平和機関内でチャールと協力関係にあった国々の代表達が協力する形となり、今の平和国連盟が存在した。これが、平和国連盟の設立の由来であり、尚且つ新生連邦の監視を目的とした組織の誕生となっていたのだ。

 デウス動乱後の地球圏は、この二大勢力が存在しているのが現状だ。それらが存在している中で、地球圏の安寧は保たれていると言える。最も、これは表向きの話だが。

今の地球圏には新生連邦に加盟している国と、平和国連盟が加盟している国が、それぞれある。それらは、国の自治体によっても異なる。同じ国でも、新生連邦と平和国の統治がなされている国が存在しており、これが非常に複雑に入り組んでおり、それが、今の世界の状況を生み出していた。何故このような形になったのかと言えば、デウス動乱によって世界が混乱状態に陥っている為である。

例えばレイの住むモントリオールは新生連邦の支配下にある都市ではあるが、同時に平和国の管轄でもある。基本的に平和国の一部代表がいる国では新生連邦の勝手な武力行為は行われない。平和国連盟が新生連邦を監視している役割を担うからだ。無論、紛争、テロ等の反社会活動が起きれば話は変わってくるのだが。こうした事情により、秩序が保たれている所もあるのである。

レヴィー・ダイルは新生連邦の総司令ではあるが、同時に連邦政府の最高議長という立場でもある。つまり地球上に於けるあらゆる政策等の権限は、彼に委ねられるのだ。

 そして、平和国連盟には所属している独自の軍隊である、“国際平和連合軍”がある。通称国連。ただし、現在では平和国の議長、一部代表の権限が上であり、国連の人間はその指示に従わなければならない。今ではチャール・ポレクが平和主義を唱えており、平和国連盟の加盟国内では、決して国連軍は自ら、国の内乱等での軍の派遣等は出来ない。

 では、何故平和国連盟は国連という軍隊を所持しているのか。それは、平和国があくまでも新生連邦軍の補助の立場であり、尚且つ、国連に戦力を提供している、軍事企業、サイラックス社の関係もあった為である。そして、何よりも災害地派遣やテロリストからの防衛目的と言う大義名分が存在している。

国連はサイラックス社がメインスポンサーとして成り立っている組織であり、それ等から戦力を提供され、そして資金を支払っている。これによって、国連の存在が維持されているのだ。更に、加盟国の企業や人間から税金として維持費を徴収している現状も、ある。

 平和国連盟には本部を取り締まる最高議長や、それぞれの国の代表を務める“一部代表”の存在がある。それらが中心となり、国連軍が成り立つ仕組みとなっている。

 表向きには災害地派遣、テロリスト防衛の為の組織が国連ではあるが、問題となっているのは、国連に存在している兵器の数が、明らかに、主な使用目的から逸脱して、多いのである。

「チャール・ポレク最高議長。確かに貴方が仰せられるように現在の地球にとって脅威と言える存在は、表向きには存在しておりません。ですが現在も世界中で紛争やテロリズム等によって罪のない人々が亡くなっている。それらを抑止する為には連邦政府軍としての軍備の増強は必須です。戦力増強は必要な物であると、私は考えています。そして、この考えを変える事はないでしょう。」

「成程、承知致しました。」

と、両者は握手を交わし、この会談は終了した。外には厳重なガードマンが無数に存在している上、MSの数も数機存在していた。

 

「平和国連盟は新生連邦に軍備増強をされるとやはり困るようだ。」

と、会談後に静かに口を開くのは総司令だった。

「そう……ですか。」

と言うのは側近であるソフィア・ブレンクス。総司令の存在を静かに、見守っている。

「平和国連盟。彼等もまた国連という軍隊を所持している。僕達が軍備を増強しているのにも理由はあるのに、彼等が災害地派遣や対テロ対策としては余りに逸脱している数の、兵力を持つという事もまた、恐らく意味があるのだろう。しかし彼等の場合は矛盾が過ぎる。」

「矛盾……ですか。」

総司令はそっと息を飲む。

「“平和”と謳っておきながら実際は軍隊と言う存在を抱えている矛盾。その真なる目的は不明だが、新生連邦への抑止力のつもりなのだろうけど、僕は止まる気はない。今も紛争は続いている世界の状態。それらは力で捻じ伏せなければならない。」

総司令は自分の右手を見て、何かを決意した様子を見せていた。

 

 

 

「ん……」

レイの青い目は開かれた。しかしそこは見たことがない場所。自分はベッドに寝かされており、右側には床頭台がある。そして、自身の身体を確認する。胴体には包帯が巻かれており、下半身には柔い素材の白いズボンが着せられている。

この時、レイは起きようとすると激痛が走った。

「うぁ!」

彼の記憶は暫く無かった。フォリア・チェーニの駆るヴェーチェルガンダムによってコクピットを貫かれた。それ以降の記憶は一切、ない。

 この不思議な状況にレイは、ただ困惑する。

 

ウィィィィン

 

「あ!やっと気が付いたみたいだね!」

レイの眼前には見た事のない、若く、美しい女性が立っていた。女性はレイよりも遥かに背が高い。すらっとした脚に胴の短さ。それでいて胸の美しい形状。俗に言う、“モデル体型”の女性が、レイの前に現れたのである。

「あ……の……ここは……?」

何が起きたのか分からない状態のレイは、ただ、呆然としている。自分はもしかすれば、死んだのかとさえ錯覚した程に。彼の疑問に対し、女性は優しい笑顔で答えた。

「ここはね、セイントバードの中。」

「セイント……バード……?」

聞き慣れない言葉。それは何を指すのだろうか。

「正確には連邦軍が所有していたヒエラクス級の戦艦の三番艦なんだけどね。って、君みたいな子があまり知る筈がないよね!」

と、女性は少し慌てた様子で言った。

「連邦軍の……ヒエラクス級三番艦……えっ!?艦!?ということは……戦艦の中って事ですか!?」

ヒエラクス級。それは新生連邦軍が所有する大型空中空母。名称の由来はギリシャ神話の鷹の神が由来。新生連邦が保持する内の数少ない大型空母だ。戦後になり、開発された大型戦艦の一つであり、その搭載量は規格外と言える程に、大きい。

「まさか、じゃああれから僕は新生連邦に捕まって……捕虜って事……そんな……」

彼にとって、〝戦艦〟と言う存在=新生連邦と言う事だった。そう言った固定観念を持ってしまっているレイに対して、女性は慌てつつも言った。

「ち、違うよ!ここは新生連邦じゃない。」

「え?じゃあここは……?」

一旦咳払いをして、女性は答える。その姿はどことなく年上の面倒見の良い“お姉さん”のような人物を思わせた。

「MS乗りがいる場所。どこの軍にも属していない。」

「軍じゃない……?でもここは戦艦の中なんですよね?」

レイにとって、この場所にいると言う事自体、訳が分からなかった。MS乗りという言葉はギリアから聞いたことがあるものの、その彼等が何らかの戦艦を所有しているということは全く知らなかったのだ。

 MS乗りはデウス動乱以前にも存在していたが戦後になって爆発的に数が増えた。その主な目的は様々なMS等のパーツやスクラップをジャンク屋に売り、収入を得て世界中を巡る事である。当然MS乗り同士でも戦闘は行われ、勝った方が負けた方の戦艦やMSを奪い、それらを金へと変える事も出来る。今、レイはそのようなMS乗り達がいる戦艦の中にいたのである。

「ええ。」

「けど、この戦艦って新生連邦の戦艦ですよね?え、でもMS乗り?よく分からない……です。」

女性が言う言葉にレイは混乱する。新生連邦の戦艦に乗っているが、ここは軍ではなく、MS乗りが居る場所という事なのだが、そもそも新生連邦の戦艦に何故MS乗りが乗っているのかが理解できない。

「あー……うん、これに関してはまあ色々と事情があってね!それよりも、目が覚めて良かった……もし死んじゃってたらどうしようと思ってたから……」

「あ……あぁ!そっか……助けて貰ってるんだ……!あ、ありがとうございます!」

レイは慌ててお礼を言った。何度も、ペコペコと感謝の態度を取る。

「ううん、例には及ばないよ!」

「本当に……ありがとうございます。」

 

ウィィィィィン

 

と、二人が会話をしている時に、突如、一人の男が入ってきた。男の方は若さを残しているようで、どこか年輩の雰囲気を醸し出しているように感じられた。体格も良く、顔付きも良いのだが、レイにとって若干恐怖はあった。

「おお、目を覚ましているな。」

と、男はじいっとレイの顔を見た。突然現れたこの男に、レイは少し戸惑う様子を見せる。

「表情も問題なさそうだ。手は動かせるか?」

「あ……は、はい。」

と、レイは男の言う通り手指を動かした。

「後遺症等も特に無さそうか……安心した。」

と、男は一度咳払いをし、改めてレイに言った。

「君は十日も眠っていた。正直、私は死んだと思ったよ。だが君は生きていた。奇跡的……と言えるな。」

「え……死んだと思ってたんですか……?」

「あぁ。そりゃあずっと目を覚まさないのだから無理もない。」

レイからすれば、そもそもこの場所自体が未知なる場所。そこの居るのは見知らぬ男女。ただただ、彼は困惑するばかりだった。

「その様子だと明らかに困惑しているな……まあ、目覚めたばかりならば無理もないか。そう言えば私の名前を名乗るのを忘れていたな。私は――」

男が名前を名乗る前に、女性が遮った。

「あ、私が紹介しますよ。彼はネルソン・アルビュース。ここのMS乗りです。」

男の名前はネルソンといった。女性に紹介された後、レイの手を握り、握手を交わす。

「よろしく。君は?」

握手をしながら、レイも答えた。

「あ……僕は、レイ・キレスです。」

「レイ君……か。」

レイの自己紹介の後、女性が自己紹介を始めた。

「そう言えば名前を名乗ってなかったね。私はここの艦長を勤めるエリィ・レイスです!」

「エリィ……さんですか……ええっ!?艦長さんですか!?」

この、目の前に居る綺麗な女性が艦長を務めているということに驚くレイ。そんなレイを見てエリィは笑った。

「アハハ……驚いた?私のような人が艦長なんて思えないかな?まあ……無理もないか。というか、この状況の把握は……難しいよね?」

エリィの言う通りだった。レイは平然と眼前にいる男女と喋っているが、実際は何が何やら分かっていない。ただ分かっているのは、ここが戦艦の中だということだけだった。

しかしこのような女性が艦長を務める艦だということを考えると、レイはそんなに恐怖を抱く事はなかった。

「確かにまだ……分からない事は多いです……けど助けてもらってるのは間違いないですから、それには感謝しています。」

とにかく、自分は生きている。それが救いだった。あの時殺されるかと思ったのだが、それを助けてくれたのが彼女だとするのなら、今の彼には感謝の言葉を述べるしか出来ない。

「お礼なら、大尉に言った方がいいかもね。」

「大尉……ですか?ええっ!?それって軍人さんじゃないですか!?ど、どなたなんですか……?」

大尉……それは本来軍関係の人間が与えられる称号である。そう呼ばれている人間がいるのなら、やはりここは軍の中なのではという不安が蘇る。

「私だ。」

そんな時、ネルソンが言った。彼こそがエリィの言う、〝大尉〟なのである。

「そ、そうなんですか……って!やっぱりここは軍じゃないですか!MS乗りじゃないんですね……」

嘘を吐かれたと思い、落ち込むレイ。だがネルソンは少しばかり慌てた様子で言った。

「はぁ、だからこの言い方は誤解を招くからあまり言わない方が良いのに……」

「あぁ、やっぱり大尉=軍人って認識されますよね……当たり前か。」

「えっ、どういうことですか?」

レイには何が何やら分からない。エリィは一度咳払いした後でゆっくりと説明をした。

「ネルソン・アルビュースさんは元々デウス軍の大尉として活躍された元軍人なの。その名残で、うちのクルーから大尉って呼ばれてるの。まあ、名残なだけなんだけどね。からここはMS乗りの戦艦です!軍じゃないよ?」

「まあ、正直その呼び方はあまり好きではないのだがな……」

呆然とするレイ。しかし事実を知ったレイはひとまず安心する。ここはやはりMS乗りの戦艦で、軍ではないのだ。

「そう言えばネルソンさん……が助けてくれたんですね、ありがとうございます。」

レイは決して〝大尉〟という呼び方をしなかった。初対面なのに愛称で呼ぶのは失礼にも程があると思った為だ。

「ガンダムタイプの機体があそこにあったからな、噂では聞いていたが、まさか新生連邦のガンダムが何故あの場所にいるのかは分からなかったが、とにかく敵のMSに襲撃されている姿を見て、私がMSに乗ってガンダムの回収を行った。その後にコクピットを確認したら、中にいたのが君だったと言う訳だ。」

「そ、そうだったんですか……それにしても、アインスガンダムを知ってるんですか?」

「新生連邦軍が新型のMSを開発していたと言う噂を聞いていたからな。そんな兵器をまさか操っていたのが君だとは思わなかったが。」

ネルソンは感心した様子で言う。その隣で、エリィは自身の右示指を口元に運び、レイの顔をじっと見ていた。美人に見つめられてレイは戸惑っている。

「あ……え……?」

「うーん、しかし貴方のような女の子があのガンダムを扱うなんてねー。」

じっと見た後でエリィはレイに対して〝女の子〟と言った。しかし〝女の子〟の単語が出た時、レイは思わず反発した。

「ぼ、僕は女の子じゃありません!男です!というか、さっきから僕は自分の事を僕って言ってるじゃないですか!」

エリィはレイを少女と間違えたのだ。顔付きが少女と間違えられてもおかしくない、レイがよく経験するトラブル。それが性別の間違いである。

が、相手は自分を助けてくれた。それを考えるとレイは先程の反発に対して謝る。

「あ……ご、ごめんなさい……助けてもらったのに、なんて事を……」

「いえいえ、こちらこそごめん!いや、自分の事僕っていう女の子っているから、レイ君はそんな子なのかと思って……しかし男の子なのね……凄い、どう見ても顔は可愛らしい女の子にしか見えないんだけどね。」

謝りつつも、エリィは笑っていた。しかしその傍らでネルソンが静かに呟く。

「ところで、ここにいる以上は君は故郷に戻ることは出来ないぞ。ここは君のいた所とは違う。今は上空高度500メートル付近ぐらいか……。今、セイントバードはエジプトのカイロに向けて移動中だからな。」

「高度……エジプト……え!?」

レイは慌てて起きようとするが、激痛が襲う。腹部を抑え、抱えた。

セイントバードは現在エジプトのカイロを目的地として移動している。つまり、彼は十日間寝ている間に、故郷のモントリオールから離れてしまったのだ。

「そ、そんな……!?なんで!?どうしてですか!?」

ネルソンは再び口を開く。

「君を保護したのは良かったのだが、こちらにも事情があってな……すまないが、君は当分故郷に帰ることが出来ない。君は恐らくモントリオール出身だろう。あの場所でガンダムを回収したからな。」

レイは衝撃を受けた。助けてもらったのは良い。だがその代償として彼は故郷へ戻る事が出来なくなったのだ。

「じゃ、じゃあ学校は!?定期試験だってあったのに!それだけじゃない、家族だ!母さんが心配する!友達だって……リルムだって……!」

慌てふためくレイ。しかし、慌てたところでどうする事も出来ない。

「君のEフォンはこれか。」

と、ネルソンはレイにEフォンを渡す。急いで彼は家族と連絡を取ろうとするが――

「圏外!?」

生憎だった。Eフォンの電波は届いていない。つまり、連絡を取る事が出来ないのだ。

「そんな……これじゃどうすれば……」

恐らく今頃彼の家族は探し回っている事だろう。家族だけでない。学校もだ。定期試験も有ったにも関わらずそれを受ける事すらできない。そして、現在地は圏外。自分の安否を知らせる手段がそもそもない。無論、これだけ離れてしまっては、学校に通うなど到底無理な話だ。レイは溜息を吐く。そんなレイの目からは静かに涙が二粒溢れ出た。

「すまないな、だがあのまま放置するわけにはいかなかった。放っておけば君は間違いなく命を落としていたからな。」

「それは……分かります……けど……」

自分の意思でない故郷との分かれ。レイのように、普通にジュニアハイスクールに通っている少年からすれば、これ程辛く悲しい話はない。だからと言って今すぐ故郷へ戻れとなど、言える筈がない。今はセイントバードの都合に付き合うしかできないのだった。

「レイ君、君の容体が安定するまではここで保護させてもらう。そして容体が安定すれば君をモントリオールまで送ろうと思う。」

「か、帰れるんですか?!」

「ああ、とにかく今は君の回復を待つだけだ。それが良くなり次第君を送る。ただし、その際ガンダムはこちらに預けてもらう。本来あれは君のような少年には不要なものだからな。」

「あ……は、はい……」

故郷に帰る際にはアインスは預けるという条件で、レイはしばらくここに留まることになった。意識が回復したレイを待っていた現実……それは認め難い事実であった。幸いなのはここがMS乗りの艦であり、彼の容体さえ回復すれば彼は故郷に帰り、再び家族に会えて学校へ行くことが出来る。つまりいつもの日常へ戻ることが出来るのだ。それが出来るのならば、今のこの状況も我慢しなくてはと、レイは思った。

「あ、そうだ……仕事に戻らなきゃ。レイ君、またここに来るから安静にしていなきゃダメだよ?」

「私も、機体の整備を手伝わなくてはな。」

そう言ってエリィとネルソンは部屋から去った。

二人が去った後、レイは故郷に戻ることが出来る希望について考えていた。容体さえ回復すれば戻れる……故郷に帰り、いつもの日常へ戻りたいと強く願うレイ。だが彼の意思とは裏腹に、今少しでも体を動かそうとすれば激しい痛みが彼を襲った。

「あうう……いた……い」

痛みの中でレイは別の事を考えた。結局これから自分はどうなるのかが分からない。ただ分かっている事は、ここの人間に悪そうな人間は居ないということと、向かっている先がカイロだということだけだった。寝起きに比べればパニック状態は緩和されているが、それでもまだ彼は落ち着くことが出来ない様子でいた。

(それに、僕はこれからどうなるのだろうか……こんなの、いきなり過ぎる……)

チェーニ姉妹との死闘に敗れ、気が付けば戦艦の中。彼自身、今この身に置かれている状況が謎に包まれている。その上腹部の痛みも取れず、ただ、彼は安静に過ごすしか出来なかった。

 

 

それから時間が経ち、ネルソンは自分の機体を整備していた。

セイントバードの中にあるMSはトルクスという名のMSが数機存在していた。

型式番号EMS-009C、トルクス。当時の地球連邦軍のMSであるジャスティスをセイントバードのクルーが独自に改修した機体である。その数、八機がこの艦に搭載されていた。

その中で、ネルソンが乗る機体はトルクスではない、専用のMSであった。

機体名称ハルッグ。型式番号DMS-T87。ハルッグは、ネルソン・アルビュースの乗る、彼専用のMSである。カラーリングは、白系統。MAに変形可能な可変MSであり、状況に応じて戦い方を変える事が出来る機体である。チェーニ姉妹にアインスガンダムを回収されそうになった時、レイを助けたのはこの機体なのだ。

今、ネルソンはアインスガンダムのコクピットに入り、そこからデータを抽出していた。アインスガンダムはどのような機体であるのか、どのような目的で制作されたのかと言った事等を調べる為に、彼はデータを確認している。

「成程。この、アインスガンダムは元々ビームライフルを装備する予定だったはずなのか。」

武装について解析をしているネルソン。実際、今のアインスの武装は頭部機関砲とビームサーベルしかない。この事にネルソンは疑問を抱く。

「開発途中に何者かが奪ったのか?奪ったとなれば……まさかあの少年が奪ったのか!?」

彼等が助け出したレイはアインスガンダムに乗っていた。どういった理由でレイがアインスに乗っていたのかは定かではないが、ネルソンにはそれが信じられない様子だった。

「……まさかな、仮にそうだとしても、あの少年はあの身なりで何らかの工作員か何かか?いや、あの反応からしてそうは思えないが……うーん、よく分からんが……それにしてもこの機体は武装が少な過ぎる。最低でもビームライフルはつけておきたいな。……そして試しに私が乗ってみるか?」

アインスガンダムのデータを見ながらネルソンは独り言を呟く。

「大尉!」

そこへ、一人の人間がネルソンの名前を呼んだ。名前はシンと言う。優秀な整備士で、若くしてここのメカマン達全体に命令を下している、整備長を務めている。その腕は優秀で、今までセイントバードの機体の修理を幾度も務めてきたのである。

「大尉、何やってるんですか?」

「シンか。このガンダムにはやはりビームライフルを付けるべきだと思わないか?」

「え?いきなり言われましてもねぇ……。」

「武装面で飛び道具がないのがとても辛い。確か試作型のビームライフルがあったはずだ。それを付けてみるか。」

「大尉が言うなら、やりましょうか。あれはトルクスのやつのビームライフルを改造したやつですからね。丁度良かったですよ。」

そう言ってシンはアインスにビームライフルをつけるように他のメカマンに命令した。整備長の命令に従い、メカマン達はデッキの端部分に置かれていたビームライフルをアインスの右部マニピュレーターに装備させる為、作業用のプチモビルスーツを使ってビームライフルを運び出す。

「しかし、この艦はやっぱり優秀ですね。整備室に工場があるからジャンクパーツを加工して武装に変えたりも出来ます。やっぱりセイントバードで良かったと思いますよ!」

この艦、セイントバードは只の大型空母だけでない。艦内には居住区をはじめ、武装を加工できる工場が備わっている。その上でMSデッキも多数搭載しており、彼等のようなMS乗りにとってはいわば“天国”と呼べるような環境なのだ。

「何にしても、ガンダムが戦力に加わるのは心強い。もう少し解析を進め、今後の為にも武装展開できるならばそれ用にジャンクパーツを加工しても良いかもな。」

「そうですねぇ!にしてもガンダムかぁーまさか実物を生で見られるとは!」

シンはガンダムの存在に高揚している。彼自身MS好きであり、生のガンダムタイプの姿を見ることが出来て、喜んでいた。

 MS乗り。そう呼ばれる者達。彼等にとってのジャンクパーツというのは、MS等の兵器のスクラップを拾い集め、それらを上手に利用したりして戦力の確保や賃金を得る為の貴重な資源。デウス動乱時に世界中に散らばったスクラップは、彼等のような存在にとっては宝も同然なのだ。

整備士であるシンは装甲の素材、そして機体の仕組み等に精通している。元々MS工学を学んでいた彼はデウス動乱を経験し、今ではMS乗りのクルーとして今、セイントバードチームの一員を担っているのである。

 

 

 

セイントバードの外ではある一機のMSがセイントバードの後方を移動していた。大型のMSで、怪しくモノアイが輝いている。まるで、セイントバードを追跡しているかのような行動だ。

 

バシュゥゥゥ

 

やがてそのMSは巨大なビームライフルを構え、それをセイントバードのエンジン部分に向けて発射した。ビームライフルはセイントバードのそれに直撃し、その機体はモノアイを輝かせてそのまま姿を消した。あまりに的確すぎる射撃。それは、まるでセイントバードの構造を理解している者が行っている行為に見えた。

その機体はすぐにその場から去る。まるで、任務を遂行し、逃げ去るように……

 

 

 

その衝撃は艦内にも響いていた。艦内は激しく揺れ、MSデッキにいた人間達は全員揺れに翻弄された。

「うわぁっ!」

「なんだ!?」

突然激しい揺れが襲いかかった。ネルソンは急いでブリッジにいるエリィに連絡した。

「艦長、どう言う事だ!何があった!?」

「今確認しました!エンジン部分がダメージを受けています!」

「なんだと!」

MSデッキはパニック状態だった。大きく揺れた艦がどのような状態になっているのかも分からない状態であり、皆が焦っていた。その時、ブリッジにいるオペレーターのインクが言う。

「航行エンジン大破!このままではセイントバードが墜落します!」

ブリッジにはエリィを含め三人がいた。オペレーターを務めているのがインクであり、操舵を行っているのがスラッグである。

そして、今インクが言った航行エンジンの大破。それはすなわち、航行不可能を意味していた。その上この原因が謎の機体のビームライフルによるものだということを彼等は知らないのだ。原因不明の事故により皆が慌てる中、エリィは冷静に指揮を執る。

「セイントバード下部にクッション展開、衝撃に備えて!スラッグ君は艦の角度を水平に保つように!艦が前傾したまま地上に落ちると爆発する可能性があるからお願い!」

「りょ、了解ぃぃ!クソタレー!!!」

エリィの指示により、操舵士であるスラッグは思い切り舵をとり、それを引いた。

エリィが指示した後にセイントバーの下部に巨大なクッションが展開された。弾力性に非常に優れ、墜落による爆発を防為のものである。

(落ちる先は最悪ね……)

今セイントバードが落ちようとしている場所。それは、サハラ砂漠だった。アフリカ大陸北部にある広大で、果てしない広さを誇る砂漠。地形のほとんどは砂や岩場のみの環境であり、人が住むには劣悪と言える環境。

例え艦が爆発しなくても最悪の環境でしばらく過ごさなければならなくなる。状況は悪くなるばかりだった。

その時、エリィは閃いたようにブリッジを後にする。

「艦長、どこへ行くんですか?」

「ちょっと彼の様子を見てくる!」

そう言ってエリィはその場を去った。残ったインクとスラッグはそれぞれの仕事を懸命に努めていた。インクは情報を艦内に伝え、スラッグは艦全体を安定させる為に懸命に舵を取る。

 

「レイ君!」

走ってレイの部屋の中に入るエリィ。その時すでに息が荒く、明らかに焦っている様子がレイからも見て分かった。

「どうなってるんですか!?さっき凄く揺れましたけど……」

「レイ君、落ち着いて聞いて。この艦はね、今墜落の真っ最中なの……」

揺れによって驚いていたレイは、エリィの言葉を聞いた5秒後に段々と目が見開かれ、やがて声を上げた。

「え……えええっ!?じゃあ……木っ端微塵じゃないですか!」

あまりに突然過ぎるトラブル。故郷に帰れる希望が見えたかと思えば今度は艦の落下。レイは戦艦にいることの危険性を理解できていなかったのだ。このようなことがあり得るなど予想していなかったレイは焦りを隠せない。

「だ、大丈夫。艦の下部にクッションを展開したし、この艦を運転する人が頑張ってるから、仮に地上に落ちても爆発は無い筈。これで衝撃は緩まる筈だけど……。ああ、もうだめだ……もうすぐ落ちるかも。」

「そ、そうですか……?うわぁっ!?」

 

  ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ

 

次の瞬間、セイントバードは大きく揺れた。遂に落ちてしまったのだ。しかしクッションを艦の下部に展開していた上、急激な速度で墜落しなかった為被害が最小限に済んだ。爆発も起こらなかった。

「た、助かった……の?」

「……恐らく助かったかも……」

「よ、良かった……」

とりあえず生きていることに安心するレイ。しかし、エリィもこの謎の事故に関しては理解出来ていない様子だった。

「怪我は?」

「大丈夫です、ちょっと痛みますけど……」

「良かった……あ、そうだ……ブリッジへ行かなきゃ、状況がどうなっているのかを確認しないと……」

そう言うとエリィは部屋を後にし、急いでブリッジへ向かった。忙しそうなエリィの姿を見て、ただレイは次の言葉しか言えなかった。

「次々と、色々な事が起こるなぁ……」

無事で済んだのは良かったのだが、セイントバードは不時着してしまっている。この先どうなるのか……レイはそれが心配になった。

 

 

エリィはブリッジに向かい、艦全体に対して全員が無事かどうか、モニターを通じて確認した。

「各員、怪我はありませんか?」

エリィの言葉に対し、MSデッキにいたネルソンは言った。

「大丈夫だ。デッキの面子に怪我はない。しかし厄介なことになった。カタパルトが先程の衝撃で電気系統がショートして機能しない。これでは素早くMSを発進出来ないな。」

カタパルトはセイントバードの下部に存在しており、そこからMSが発進する。しかし今回エンジンを何者かに撃たれて不時着し、その衝撃でカタパルトを起動させる電気がショートしてしまい、機能出来なくなってしまったのだ。

「万が一敵が現れれば後方のハッチから出撃しなければならなくなる。しかしハッチを開けるのには時間が掛かるから、ハッチは開けたままにしなければならない。厄介な事になったな。」

MS乗りであるセイントバードのクルー達にとって素早く戦力を展開する事は必要な事だった。その為にもカタパルトは機能するべきなのだが、機能しない以上、ハッチは出来るだけ開けておいた方が良い。ネルソンはシンにハッチを開けておくように命令し、そして後部のハッチが開かれる。

「よりにもよって砂漠のど真ん中に落ちるとはな……」

「最悪……ですね……。しかもセイントバードは今、武装のエネルギーも切れてますから、万が一の時はMSしか頼れないですよ。」

エリィは溜め息を吐いた。今、セイントバードの武装は使えない状態だ。その上での不時着。もし何かあったら彼らにとって不利な状況となる。彼等は元々カイロにて補給を行う目的で航行していたのだが、攻撃を受けたことにより、それが出来なくなった。

やがて、ネルソンは開かれた後部ハッチから見えた光景を見て、その場所を把握した。

「厄介だな。しかも見た所近くに都市らしいものもない。ここに長居は出来ないぞ。」

ネルソンは溜息を吐いた。よりにもよって不時着した場所が砂漠の、しかも周りに都市が見えない場所だったのである。現在夕日が沈もうとしている時間だった為、この時間の砂漠の光景は美しいものがあったがそれを美しいと感じる余裕等、彼等には無かった。

「後で私がエンジンルームを見ます!どこに原因があるか調べないと……」

そう言ってエリィはネルソンとの通信を切った。

「最悪ですね、砂漠なんて。しかもど真ん中。」

「全くだな。」

シンとネルソンは広大に広がる砂の大地の光景を見て、ただ唖然とするしか出来なかった。

 

 

 

セイントバードが不時着した頃、その近くでなにやら不気味な影が多数潜んでいた。双眼鏡でセイントバードの姿を確認し、それぞれが笑っていた。まるで獲物を狙うハイエナのように。

「ずいぶん大きな物が落ちてきましたね。」

「こりゃあいい。随分でかい獲物だな。久々に狩人の血が騒ぐってか?」

男達がセイントバードを見て何やら会話をしている。その時、丁寧な言葉でもう一人の男と話をする男が言った。

「あ、待って下さい。あれって確か新生連邦軍の戦艦じゃないですか?しかも最新鋭の空中戦艦……」

セイントバードは元々新生連邦軍の戦艦であり、その姿を見て、新生連邦軍が不時着したと思う彼等であった。

「新生連邦の戦艦?じゃああれは軍なのか?」

「恐らくそうでしょうね。アスーカルさん。」

「じゃあ尚更だ。中には新生連邦のMSもいるだろう。それを奪ってやれば高値でジャンク屋に売れるってもンだ。クク、本当にでけェ獲物だな。」

アスーカル・エスペヒスモと言うその男は、別名砂漠の狩人と呼ばれている。大柄な体格に日焼けした肌。突出した三角筋の大男。狙った獲物は逃さないのが彼の戦闘スタイルで、広大なサハラ砂漠の、主にエジプト国のカイロの西部を縄張りとしている。MS乗りの間では有名な人間であり、今までに数多くのMS乗り達が彼によって殺されている。砂漠に迷い込んだ獲物は彼率いる砂漠の狩人を中心としたMS乗り達が容襲い掛かり、その異名の通り、狩りを行うのだ。

その時、アスーカルの部下が大きな声を上げてやってきた。名はパゴーダ。アスーカルと違い、体格自体は大柄ではない男。アスーカルと同様、日焼けしている肌をしている。赤いバンダナをしているのが特徴的な男である。砂漠の狩人のサブリーダーと呼べる人間である。

「アスーカルさん!」

「おお、パゴーダ。どうしたンだ?」

「あの戦艦とライブラリの照合データを合わせました。間違いありませんよ、あれは連邦のヒエラクス級です!大当たりですよ!」

パゴーダは嬉しそうにアスーカルに対して言った。

「やっぱりな!ここで新生連邦の巨大戦艦が不時着してくるとは思わなかったぜ!デウスの旧式ポンコツMSよりは新生連邦の最新鋭の方が金になるしな。さて、奴等が新生連邦である以上は性能もダンチの機体が出てくるだろう。その前に奴等を一気に叩くか!奴等のブリッジを壊せば勝ちだ!これより俺達は奇襲をかけンぞ!」

そう言ってアスーカルはその場から姿を消した。それに合わせるように、アスーカル以外の人間も姿を消す。

 

 

その後、アスーカルは自らの母艦に帰り、MSデッキにて作戦会議を始めていた。これから行う狩りの内容を明確にしているのだろう。

「目標はあくまであのヒエラクス級のブリッジ。恐らく連邦の奴等が落ちてきたンだろうな。こちらはそれなりの戦力はあるが迂闊に近づくのも危険だ。なぜなら敵は連邦軍!軍隊だ。俺もディザートディエルに乗って奇襲を掛ける。」

ディザートディエル。それはかつてのデウス帝国軍が使用していた量産型MS、ディエルの砂漠仕様の機体。型式番号はDMS-81D。全体的にサンドブラウンのカラーリングで固められている機体だ。砂漠と言う環境に対応する為、ビームライフルなどのビーム射撃兵器よりは、実弾兵器を所持している。

「俺が率いる部隊は直進し、あの戦艦のブリッジを狙う。MSを展開されては厄介だから、それらを迎撃する為にA隊は右回り、B隊は左回りに回りこめ。A隊とB隊が敵のMSを相手にしている間に俺達がブリッジを叩く!」

アスーカルはクルーのMS乗り達全員に対して命令を下す。相手が新生連邦軍の戦艦と言う事もあり、皆がやる気に満ちていた。この作戦が成功すれば彼等は新生連邦の最新鋭の戦艦のパーツ等を奪う事が出来、それによって収入を得る事が出来ると思っていたからだ。

「よし、総員!俺に続けよ!」

アスーカルがそう言った時、MS乗り達は一斉に手を上げ、

「オーッ!!!」

と気合の入った、威勢の良い声を上げた。

 

それから彼等のMSが所属戦艦のカタパルトから射出されようとしていた。

「遅れをとるな!目的は敵のヒエラクス級だ!敵もMSを出してくるだろな!MSはコクピットを狙え!最新型なら金になる!腕でも脚でも顔でも十分だ!美味い酒が飲めンぞ!」

そして、アスーカルの乗るディザートディエルが発進された。それに続くように、他のディザートディエルも発進される。

 

 

 

ウゥゥゥゥゥゥ

 

インクがセイントバード艦内全体に対して音声を流した。非常事態を告げる警報である。

「熱源感知!多数見られます!艦長!至急ブリッジまで戻ってください!」

「マジかよ!?不時着でパニクってる時にMSだと!?データ分かるかインク?」

操舵士のスラッグが焦りながら言った。それに対してインクは慌てて機体のライブラリを確認し、データを確認する。

「照合あった!MSはディエルタイプだ!昔デウス軍が乗ってたやつ!」

ディエル。型式番号DMS‐81。かつてのデウス帝国軍が使用していた主力MS。汎用性に優れる機体であり、地球圏でも多数が使用されたMS。現在の地球圏においてもその汎用性や操作性の高さから、MS乗り等をはじめとした集団によって乗り回されていることが多い。

「てことはMS乗りか!なんでこうも急に襲ってくるんだよ!」

その時、エンジンルームにいたエリィがブリッジに戻って来た。急いで戻ってきた為、彼女は息を荒げている。

「はぁっ……なんなの?敵なの!?何処の所属?」

「多分、MS乗りかと思います!」

「MS乗りが来たのね……各パイロットに発進させて下さい!大尉にも連絡しないと!」

そう言ってエリィは艦長席に座った。迫るディザートディエル部隊に対し、迎撃する為に彼等は戦う。

今から、セイントバードと砂漠の狩人と呼ばれた男、アスーカル・エスペヒスモ率いるMS乗りとの戦いが始まろうとしていたのだ。

 

 

MSデッキにいたネルソンはエリィの指示を聞き、MSに乗ろうとしていた。その際アインスの姿を見て、ふと思う。

(試しに乗ってみるか……)

彼はアインスガンダムに乗ってみて、敵と戦おうと考えていたのである。新生連邦の最新鋭機がどのような機体であるのかが知りたくなり、彼はアインスに乗り込もうとしていた。

「先にトルクス隊はハッチから出撃しろ。私はガンダムで出る。」

ネルソンがそう言うと、他のパイロット達は彼の言葉に従い、トルクスに乗って先にハッチから出撃した。そしてネルソンはアインスガンダムのコクピットの中に入り、起動させようとするが……

「パスワード!?ロックが掛けられているのか!?チッ、分からない……仕方がない、ハルッグで出るしかないか……」

アインスにはパスワードが掛けられている事を知らなかったネルソンは諦めてアインスから降りる。その姿をシンに見られ、シンは声を掛けた。

「どうされたんですか?」

「どうやらアインスガンダムにはパスワードが記載されていてな、分からないのだ。今は非常時であるから今回はハルッグで出る。」

「パスワード……?わ、分かりました!健闘を祈ります!」

ネルソンは急いでハルッグのコクピットへ向かい、乗り込み、起動させる。するとハルッグの頭部のモノアイが輝いた。

 

ビゴォン

 

「ネルソン・アルビュース、ハルッグ出るぞ。」

そしてハルッグは既に空いているハッチから出撃し、すぐにMAへと変形した。これから彼は敵であるディザートディエルの迎撃に向かう。

 

 

 

砂漠の狩人率いるディザートディエル隊とセイントバードのMS乗りの戦いが始まった。前者はセイントバードのブリッジを破壊して艦としての機能を失わせる為に戦い、後者はセイントバードを守る為に奮闘する。

「出てきやがったか!予想より動きが早ぇな新生連邦め!」

アスーカルはディザートディエルのバーニアの出力を高め、所持しているディエルマシンガンをトルクスに向けて連射する。一方のトルクスはビームライフルをディザートディエルに向けて撃つが、アスーカルの乗るディザートディエルはこれらを軽々と回避する。

「当たらないね!……ン、新生連邦の機体にしては噂のモノアイタイプじゃない?こいつら何者だ?」

アスーカルは彼等に違和感を覚えていた。彼が知っている情報では、新生連邦のMSはディーストといった、デウス帝国の技術が使用されている機体の筈である。だが彼等が戦っているのはトルクスという、砂漠の狩人達にとって見た事のないMSだったのだ。ジャスティスと同様のバイザー型のカメラアイ。だが見た事のないMSの存在。疑問を抱きながらも、砂漠の狩人は迫ってくる。

「よし、各機撃たれるなよ。」

一方でネルソンがハルッグからトルクス達に指示を出した。直後にハルッグはMSに変形し、装備されているロングビームライフルで敵のディザートディエルを狙い撃ち、撃破する。

「う、うわああ!」

高出力のそれは一撃でディザートディエルを仕留めた。しかしそのパイロットは間一髪コクピットから脱出している。が、仲間が倒されたと思っていた他のディザートディエルが躍起になり、腰部に搭載しているジャイアントバズーカを装備し、撃ち始めた。

「あのモノアイ可変機!あいつらのエースと見た!奴は俺が相手する!お前らはブリッジを狙え!」

アスーカルは他の機体に指示を出した後、ハルッグに向かい始めた。

「了解!」

他のディザートディエルはセイントバードを狙う為に行動する。セイントバードを攻撃させない為、トルクス達はディザートディエルを攻撃し続ける。だが砂漠仕様であるそれらの機動性はトルクスと比較して段違いであり、簡単に回避される。トルクスは空中戦を行う事が出来ない為、砂の大地という過酷な環境で苦戦するばかりである。

「クソッ相手は旧式の機体なのに!」

一人のトルクスのパイロットが、ビームサーベルラックを背部から抜き、ビームサーベルを展開した。そして眼前にいるディザートディエルに向かって切り裂こうとする。

「甘いねェ!」

するとディザートディエルは腰部からビームトマホークを展開し、トルクスの右腕部を切り裂いた。直後に頭部機関砲を撃つが、これも避けられる。

「クッ、あいつら!」

苦戦するトルクスいくら攻撃を加えても、砂漠という環境で有利なディザートディエルが機動性で彼等を翻弄する。

 

バシュゥゥゥ

 

その時、ロングビームライフルによる射撃が得意げになっていたディザートディエルを撃ち抜き、またしても撃破した。ネルソンのハルッグである。

「大尉!」

「砂漠は我々にとって不慣れな環境だからな。やられないようにだけ気をつけろ。」

「はい!」

そう言ってハルッグがその場から離れようとした時だった。

「直々始末してやる!!エース野郎!!!」

アスーカルの乗るディザートディエルがハルッグに迫って来た。ジャイアントバズーカを持ち、連射した後にそれを捨て、ビームトマホークで切り掛かる。ハルッグは急いでMSに変形し、ビームサーベルを展開し、互いに拮抗し合う。

「なんだ……?この機体だけ動きが……!?」

その時、アスーカルがネルソンに対して通信回線を開いた。ネルソンはアスーカルの姿を見て、驚愕する。

「その顔、見た事があるな……砂漠の狩人か!」

「ほぉ!新生連邦に俺の事が知られるとは光栄だな!相手がエースだろうから顔を見てみたが、なかなか強そうだ!」

砂漠の狩人はMS乗りの間では有名な存在である。砂漠を拠点に活動し、他のMS乗りを強襲してはその残骸を奪う、危険な存在。その為MS乗り達はセイントバードのクルー達が現在いるカイロ西部周辺のサハラ砂漠には出来るだけ近付かない様にしているのである。 

新生連邦にも砂漠の狩人の存在は知られていたが、新生連邦は狩人を脅威に思う事は無く、野放しにしているのである。

 やがて両者は一度離れる。その瞬間にハルッグはロングビームライフルをディザートディエルに撃つが、それらは回避される。

「ちぃっ!」

「機体も強いし、腕もいいな!新生連邦のエースさん!」

アスーカルがディエルマシンガンを構え、発射しようとした時、ネルソンが言った。

「残念だが我々は新生連邦とは違う!」

「なっ……?じゃあ……お前ら何者だ!?」

「我々も貴様達と同じであろう、MS乗りだ!」

ハルッグは頭部機関砲を撃った。急な攻撃だった為、アスーカルの乗るディザートディエルはダメージを受ける。

「へぇ……それは面白い!只のMS乗りが連邦のヒエラクス級を持っているのには訳アリだろ!?」

「敵に教える義理は無い。それよりも、手加減はせんよ!砂漠の狩人!」

ハルッグのビームサーベルが光った。それを見たアスーカルはディザートディエルのビームトマホークを装備する。

「砂漠の狩人である俺を知っていて果敢に立ち向かうとは上等だな!面白い!」

ハルッグはビームサーベルを構えながらバーニアの出力を上げ、アスーカルの乗るディザートディエルを切り裂こうと心掛けたが、それは無駄だった。相手に動きが見切られたのである。

「当たるか!」

「ちぃ!」

そしてディザートディエルのビームトマホークは再び展開され、ハルッグに迫る。

「砂漠の狩人である俺が、お前なんぞに負けるはずが無いンだよ!!!なめンな!!!」

その瞬間、ディザートディエルのモノアイが怪しく輝いた。

「流石に異名を持つだけの事はあるか……!」

「俺がお前らを殺して金にしてやるってンだよ!」

「残念だがそうはさせんよ!セイントバードは守る!」

「どうかな!?」

アスーカルの言葉に違和感を覚えたネルソンは、セイントバードの方を見た。すると、一機のディザートディエルがジャイアントバズーカを構え、ブリッジを狙おうとしていたのだ。

「クッ!」

慌ててロングビームライフルを構え、急いでそのディザートディエルを狙うネルソン。だがその行為が仇となった。

「うわっ!」

アスーカルの駆るディザートディエルに蹴り飛ばされ、砂漠の大地に叩き付けられたのだ。

「油断したな!さて、とどめを刺してやる!」

ディザートディエルはビームトマホークを展開し、ハルッグのコクピットを切り裂こうとしていた。

「チィッ……」

すると、ハルッグは両肩に搭載されているショルダービーム砲を展開し、ディザートディエルに目掛けて撃った。それに気付いたアスーカルは素早くそれらを回避する。その際にハルッグは再び立ち上がり、急いでMAへ変形した。

「野郎、逃がすか!」

慌ててディザートディエルのバーニアの出力を上げ、空中に浮こうとしたーー

 

                ズバァァァッ

 

MAとなっていたハルッグは高速でアスーカルのディザートディエルの背後に回り、MSに変形。その直後にビームサーベルを展開し、バーニアを切り裂いたのである。そして爆発が生じ、ディザートディエルは動きを停止した。

「ちぃっ……油断した!全員帰還!一旦引き揚げンぞ!」

アスーカルが他のMS乗り全員に対して引き上げるように言った後、一人のMS乗りが言った。

「え、もう少しでブリッジを狙えたのに!?」

「こういうのはな、行ける時には行って、無理な時は引くのが鉄則なンだよ!」

メンバーの一人に、アスーカルは言う。熱のこもった、言葉だ。

「それに砂漠の狩人の俺がやられたらお前ら全員解散だぞ!解散したらそれからどうする?アホで学力のないお前らがどこかの企業に就職する宛てあるか?どうせMS乗れるからそれを生かした運び屋とか下手な傭兵ぐらいしか出来ないだろうが!それだったら今みたいにMS乗りで稼いだ方がよっぽど良いだろ!大人しく俺に従え!」

「すいません!分かりました!全員、帰還!!」

やがて、砂漠の狩人達は撤退していった。突然の強襲に対し、突然の帰還。余りに潔く、素早い敵の動きに、残されたセイントバードのMS乗り達は唖然としていた。

「突然の引き上げ……か。」

ネルソンは安心したのか、静かに溜息を吐く。

「とりあえずは助かったのでは?」

「そうだな。引き上げるぞ!各MS、遅れるなよ。」

ハルッグは変形し、セイントバードへ帰還した。ネルソンに続くように、トルクス達もセイントバードへ帰還していく。

 

 

 

突然の砂漠の狩人の襲来から時間が経過し、夜が更けてきた頃。皆落ち着きを取り戻し始めた頃。再びエリィはエンジンルームにいた。今度はネルソンも一緒である。

「砂漠の狩人ですか。」

「機体自体はデウス動乱時のMSだから性能は高くは無い。だがパイロットの技量が高い。おまけに相手は砂漠に特化している。また襲われたら厄介だぞ。他のMS乗りが恐れるのも分かる。」

「また襲われない為にも急いでエンジンを直す必要がありますね。原因さえ分かればそこを修理すれば良いだけなんですけどね。」

会話をしながら両者は奥へ進む。その時、ネルソンが口を開けた。

「艦長、正直思うのだが……」

「はい?」

エリィは首を傾げる。

「艦長がこのような場所にいる必要はないと思う。このような場所では何が起こるか分からない上に……その……貴方は女性だ。女性がエンジンで汚れる必要はないと思うのだが……」

何故かネルソンは言葉を詰まらせながら言った。エリィはそれに対し、笑顔で答える。

「あ、気を遣ってくれてるんですね!ありがとうございます!でも大尉、この艦は私にとって家族も同然なんです。クルーも同じで。だからこそ、この艦のトラブルは艦長である私が原因を探してあげないと……と思いまして!」

彼女の言葉から、それ程にセイントバードの事を大切に思っている事が分かる。ネルソンもエリィと同様に笑みを浮かべ、言った。

「貴方が死ぬ時はこの艦と一緒だな。なら、この艦を余計に守る必要があるな。」

「え、縁起でもない事言わないで下さいよー!」

エリィは慌てた様子で言った。

「冗談だ。」

「もう……大尉ってばー!」

仲の良い両者。しかしそのような事を言っている場合ではない。今はセイントバードのエンジンを修復させ、一刻も早く砂漠の狩人が潜むこの砂漠の大地から脱出しなければならないからだ。このまま放置していてはいつ敵が襲ってくるか分からない。砂漠での戦闘が不慣れな彼等にとって、この大地にいる事は非常に危険なのだ。今回は偶然にもネルソンのハルッグが活躍をしてくれたが、次も上手くいくとは限らないのである。

 

 

 

 砂漠の狩人は撤収していた。そこで、彼は部下達の人数の確認を行っていたのである。

「全員無事みたいだな。」

砂漠の狩人率いるMS乗りは、全部で十三人。その内二機のディザートディエルが破壊されたが、全員が無事だったのだ。

「機体はこの際仕方ねえ。命があってナンボの戦場だ。残り十一機のディエルで、あれを襲えるかは怪しいレベルだけどな……」

彼等から見たセイントバードは宝の山である一方で、脅威である。新生連邦の最新鋭の空中戦艦。やはり一筋縄ではいかないといった様子だった。

「メンバーが無事なら良かったですよ。今は休んだ方が良いですよ。ね?」

サブリーダーである、パゴーダが言った。

「まあ、そうだな。今日は全員休め!奴らも恐らく疲弊しているはず。まさか奴等から襲ってくることはねぇだろ。」

アスーカル・エスペヒスモ。砂漠の狩人の異名を持つこの男は部下想いの男でもあった。彼は先の戦いで出撃したメンバーが皆無事だったことを、心から喜んでいたのである。

 

 

 

その頃、レイはベッドで横になっていた。この時、レイは不安を抱いていた。何故ならば見た事も無い場所にいるからである。一体自分はなぜこんな場所に来てしまったのか……。どうして自分はこんな事に巻き込まれているのか……理解などできる筈の無いレイだった。

その考えを止めるかのように、今度はレイに頭痛が襲ってきた。

「うぅ……!」

レイは傷を抑え、痛みを和らげようとした。しかし原因不明の痛みはレイを襲い続ける。今までに無い出来事、これからどうすればいいのか分からない不安、そして死ぬかも知れないという恐怖、更には痛み。幸いなのはここのクルーが優しい人ばかりという事。しかし全く知らない環境に置かれたという事が彼にとってあまりに辛い状況だった。

(これからどうなるんだろう……僕は家に帰る事が出来るの?きっと、母さん達は心配してる……)

母親に迷惑を掛けていると感じているレイは、頭痛を抑えつつ、少しでも自分を落ち着かせようと深呼吸をするが、結局落ち着く事は出来なかったのである。 

 

ウィィィィン

 

その時、エリィがレイの部屋に入ってきた。エンジンのチェックが終えた為、レイの様子を見る為に入って来たのである。

「やっほー、レイ君!はー疲れた!」

レイに挨拶するなり、彼の眠るベッドに腰掛けるエリィ。彼女はうんと欠伸をし、両手を組んで前方へ伸ばし、背中のストレッチを行う。

「……なんか臭います……」

ぼそっとレイが呟くと、それにエリィが反応した。

「気付いた!?結構レイ君って鼻が敏感なんだね。」

「どこかに行ってました?」

「そう!エンジンルームにね。さっきエンジンが大穴空いているの見つけちゃって。でもどうにか修理が可能な範囲だから、みんなで協力して直していく予定だよ。」

「直るんですね!良かった……」

エンジンが直る……それはつまりレイが故郷に帰られるという事だ。あまりに突然のトラブルに不安で一杯だったレイだが、エリィの言葉を聞いて安心した。

 だがその直後、再び頭痛がレイを襲った。治まったかと思えば再び痛みだす頭。思わず彼は痛みが出る部分を押さえつける。

「あぅ……」

「あ、レイ君大丈夫!?ちょっと待ってて!」

突然エリィは立ち上がり、部屋の棚を開けた。そこにあった頭痛用の冷却シートを取り出し、レイの額に当てる。

 エリィがレイの額に当てている……魅力的な容姿のエリィが彼の前にいるという事実が、レイの顔を赤く染めさせた。

「……。」

「あ……あら?大丈夫?少しでも痛みがましになるかと思ったんだけど?」

「だ、大丈夫です!ありがとうございます!忙しいのにこんな事してもらえるなんて……」

レイは申し訳が無い気持ちになった。先程の戦闘で恐らく慌てていた上にエンジンの修理の為にエンジンルームに見に行ったエリィ。彼女は多忙なのだ。その中で自分の為に時間を割いてくれる事が嬉しいと同時に、複雑だった。

「へぇ、礼儀正しいね、レイ君って。」

「そんなことないです……迷惑を掛けてるだけですし……」

「ううん、そんな事無いよ。気にする必要なんてない。貴方はお客さんだしね。それより、こっちこそ迷惑をかけてしまったわね。」

「迷惑……?」

エリィは表情を暗くした。

「砂漠に落ちてしまった上にいきなり戦闘だなんて……。本当に申し訳ないわ。」

「え?いや……謝られても……まさか敵が襲ってくるなんて思わないじゃないですか。」

レイは彼女をフォローしたが、彼女は自分を責めた。

「今回戦っていた相手はね、MS乗りって言って、私達と同じ立場の人間なの。私達が不時着した所を狙ってきたのよ。弱っている獲物を仕留めるハイエナみたいな感じ。無理もないのよ。だってこの戦艦、設備も最新鋭だしMS乗りからすれば高額で売れるようなパーツを多数搭載している訳だから。狙われるのは当たり前。今回はどうにかなったけど、次はどうなるか……」

エリィは不安な様子だった。MS乗りの中でも厄介な敵である砂漠の狩人と戦う事になってしまったセイントバードのクルーは、エンジンが直るまでは警戒態勢を怠る事が出来ないからだ。

「だから早くエンジンを直さないと駄目なの。相手は砂漠の狩人という男が率いる、悪名高いMS乗り。レイ君を守る為にも早く……ね。それにこの艦をやらせたくないし。」

「エリィさん……」

彼女の言葉により、今回襲ってきた敵は厄介な敵である事が分かった。それならば、せめて自分もガンダムに乗って戦う事が出来れば……と彼は思うのだが、それは恐らく彼女が許さないだろう。彼は行動を慎む事にした。

「さて、仕事、仕事!エンジンを直さないと!レイ君は大人しく寝ていてね!貴方はこの艦の事を気にする必要はないの!安静にしていてね!お休み!」

「あ、おやすみなさい……」

エリィは部屋から出た。この時、彼女は非常におせっかいで、尚且つ艦の事を考えている優しい人間であると、彼は認識した。

「エリィさん……か……」

優しくも美しいエリィに看病されたレイは嬉しそうな表情を浮かべる。そして、レイは安心した様子で静かに目を瞑った。気持ちだが、頭痛も少しだけ緩和されたような感覚だった。

 

 

 

一方、新生連邦政府軍のクラリス・デイルはスパイッシュに左遷され、カナダ北部、アラスカ付近の部隊と合流していた。アインスガンダム奪還に失敗したクラリス。その左遷先は、このような極寒の地だったのである。

今、彼は新型の水中用MSの試験運用テストの為のテストパイロットを務める為に、オタワから派遣されてきたのである。

「ちっ……こんな場所でどう頑張ればいいんだよ……。寒い!何て寒さだ!寒過ぎる!」

左遷された上、このような地で試験テストという扱い。クラリスは、自身の不幸を呪った。

そして、クラリスはこの寒さに対して苛立ちを感じていた。

「スパイッシュめ……あいつ、絶対いつか痛い目見せてやるからな!」

右手で握り拳を作り、左手でそれをガツンと力一杯叩いた。それを見ていた兵士が言う。

「落ち着いて下さいよ!あんまり上官の悪口は言わないで下さい!」

「うるさい!あのデブ野郎むかつくんだよ!無能の癖に口だけはイッチョ前!あのクズ野郎さっさとくたばらねえかな!?大体……」

スパイッシュ・カルディアムの悪口を延々と言う。兵士は呆れて言葉が出ず、彼が落ち着くのを待つばかりだった。

 やがてスパイッシュへの悪口が終わった時、クラリスは息を切らしていた。それ程に彼に対する不満が溜まっていたのだろう。

「なんとなくだが……この先もいろんなMSに乗せられそうな気がするぜ。まあ、それはそれでいいんだけどさ。」

クラリスの言葉に呆れた様子の兵士は、話を進めようと口を開いた。

「さて、中尉。貴方に乗って頂くMSはこの近くにありますよ。行きましょう。」

「お前話遮ったろ。まーいいけどさ。」

話を聞いてもらえないクラリスは舌打ちを打ちながら兵士の後をついて行く。不機嫌な様子のクラリスを後ろに、兵士は嫌そうな顔をしていた。

 

 兵士とクラリスは基地の中に入った。引き続き兵士はクラリスにテストパイロットを務めてもらう機体に乗ってもらう機体のある場所へ案内する。

 やがて5分程度歩いた先に、その機体はあった。ディーストに形状は似ているが機体色は青く、海水に浸かっているMSであった。

「水中実験機です。この機体での貴方の戦闘データによって、水中用の機体が量産される予定です。ですから、今から行うテストは非常に大切な物となります。」

「武装は?」

「魚雷、フォノンメーザー砲です。今からこれらを使って、海中に配備されている無人MSを攻撃してもらいます。攻撃はしてきません。あくまでも的です。」

「……やってみっか。」

クラリスは両側に首を側屈させ、コキコキと鳴らし、すぐに水中実験機のコクピットへと搭乗し、起動させた。

 その後、クラリスは水中実験機を操縦し、海中に存在するMSを撃墜していった。いずれも正確な狙いで魚雷やフォノンメーザー砲を撃ち、確実に撃破していく。その試験は15分程度で終了し、水中実験機はクラリスの戦闘データを得る事が出来た。これが、今後新生連邦軍の新たなるMSに使用されるという。

(俺が今後どんな機体に乗るかは分からねえ。しかし、どんな機体に乗ろうとも、また、いつかあいつ……レイの奴に会う事があれば、必ず俺の手で……!)

密かに抱く、レイへの復讐心。彼に煮え湯を飲まされ続け、クラリスは怒りを抱いているのであった。

 

 

 

一方で、エリィはブリッジにいた。そこにはオペレーターのインクと操舵士のスラッグがリラックスしていた。

 セイントバードのブリッジは大人数ではない。オペレーターのインク、操舵士のスラッグ、そして艦長のエリィ。非常事態の時も普段の時も三人だけしかここにはいないのだ。他にも人が入るとすれば、たまにネルソンがエリィに連絡をする為に部屋に入ってくる程度である。

今、エリィは艦長席に座っている。エンジンルームにて、エンジンが大破した原因を追及する為に一日中歩き回っていた為、疲れている様子だった。

「艦長眠そうですね。お疲れ様です。」

オペレーターのインクが言った。

「ふぁぁ……もう眠たくて……。今日は色々な事があったからね……」

「でも夕方の時の奴等がいつ襲ってくるか分からねえんだろ?警戒態勢は怠る事は出来ねえよな。」

「ホントそれ。砂漠に不時着した上にMS乗りに襲われるなんて、ホントツいてないよねー。」

インクはスナック菓子を食べながら言った。一方のスラッグは自身のEフォンを弄っている。

「お前お菓子ばっかり食べてたら太るぞ?」

「うっさいわね。警戒態勢なんだからカロリーは必要なのよ。それに若いし。あんたと同い年だけど。」

このように、スラッグとインクは仲が良い。喧嘩もする事はあるが、非常事態の際には艦長であるエリィの指示に従い、的確に仕事をこなす。だが非戦闘時では彼等は常に喋っている。

「二十代じゃ代謝もいいし、太りませんよね!艦長!……艦長?」

インクがふと後ろを向くと、そこには艦長席で眠りに就いているエリィがいた。すやすやと寝息を立て、腕を組みながら眠っている。

「寝てますな。インク、俺も仮眠取るわ。流石に眠くてたまんねぇよ。」

「えー!?もう少し起きててよ!」

インクがスラッグを起こそうとするが、スラッグはそのまま椅子の上で腕を組み、眠り始めた。ブリッジの中で一人起きているインクは寂しそうな表情で自身のEフォンを弄り始めた。

 

 

 セイントバードのMSデッキではネルソンとシンが会話をしていた。夕方の戦闘でダメージを負った機体の修理の為、メカマン達は総動員で修理を行っていた。

「砂漠の狩人が近くにいる以上、眠りに就く訳にはいかない。奴等がいつ来ても良いように準備をしておかなければな。」

「そうですね。それより大尉、アインスガンダムはパスワードって話ですけど……」

夕方にネルソンがアインスを起動させようとした時、パスワード認証画面が現れ、彼が動かす事が出来なかった。その事に疑問を抱くシン。彼の疑問に対し、ネルソンは口を開けた。

「パスワード認証という事は、それを知っている者しかアインスには乗れないと言う事だ。つまり……レイ・キレス……あの少年がパスワードを知っていると言う事になる。やはりあの少年が新生連邦の最新鋭MSであるアインスガンダムを……」

「奪ったって事になりますね。」

「……信じられん。」

ネルソンは納得が行かない様子だった。無理もない。レイのような少年が新生連邦のMS……増して新型機体であるガンダムを新生連邦から奪うのだから。この時、ネルソンはレイに対して興味を抱いていた。何故ガンダムを奪う事が出来たのか?それが知りたかったのである。

「今日はもう遅い。明日、何事もなければ彼に事情を聞いてみる必要がありそうだな。」

「でも今日は徹夜で修理ですよ。また砂漠の狩人が襲ってきたらたまったもんじゃありませんからね。」

「交代制にしよう。半数が修理をし、半数は仮眠を取る。早くセイントバードのエンジンを直さなければな。」

ネルソンの提案により、MSデッキにいた半数のメカマンやMS乗り達はそれぞれトルクスの修理をする事にし、半数は仮眠を取る事にした。1時間半毎に交代という、ネルソンの案に皆が賛成し、彼の指示に従った。

 セイントバード。元々新生連邦軍の大型空中空母であるそれは、何故かエリィをはじめとするMS乗り達によって運用されていた。だが謎の攻撃によってエンジンを破壊され、砂漠の大地に不時着する。レイは予想外のこの状況に、ただ困惑する事しか出来なかった。この先どうなるのか、一体何が待っているのか?レイは不安に満ちていた。レイだけでない。このセイントバードのクルー全員が不安だったのである。




第八話投了。
戦艦の中で目を覚ましたかと思えば何者かによって撃墜され、更に敵のMS乗りに襲われるという二転三転の話。砂漠の戦闘の描写って難しいです。
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