早朝のアレクサンドリアを、アレンとレイが歩いている。レイにとっては不思議な光景だ。
ごく普通の家庭で育った少年と、デウス動乱の英雄の青年という組み合わせ。過ごしてきた環境が違う両者。それらが出会い、そして共に行動している。このような事は、果たしてあり得る事なのだろうか。
「あそこです!」
レイが指差す先に、セイントバードの姿があった。港で停泊しているその姿。二日振りに見てその姿は、大きく修復しているように見えた。
「あれに、エリィさんが居るのか……」
アレンは嬉しそうな表情を浮かべている。
「あれは……新生連邦のヒエラクス級?」
セイントバードを含む、ヒエラクス級は軍関係者では有名な戦艦だ。戦後に開発された大型空中空母。大型の輸送機としての役割を十二分に果たすその戦艦。まさか、それを目の当たりにするとは思っても見なかったアレンだった。
「どうしてそんな戦艦をあの人が……」
「僕も、詳しいことは分からないんですけど……」
アレンは硬直した。新生連邦の最新鋭艦の存在を目の当たりにして、呆然と立っていた。
「アレン……さん?」
「……ああ、ごめん。少しぼうっとしてた。」
相当な衝撃だったのだろう。何せ新生連邦軍の最新鋭艦が眼前にあるのだから、無理もない。
(これを、あのエリィさんが……?)
エリィとアレンにどのような過去があるのかは定かではないが、新生連邦の戦艦を我が物にしているという事実が、アレンにとって衝撃だったのだ。
「あれあれ?レイ君かな!?レイ君だ!!!」
突然の出来事だった。セイントバードの前に居たエリィが姿を見せたのだ。そして、レイの姿を見るなり走り出した。
「エリィさん!!」
レイは笑顔を見せ、手を振った――
ギュッ
「へっ……!?」
レイはエリィに思い切り抱き締められた。まるで、迷子になっていた子供を抱きしめるかの如く。
「バカ!!なんで急に居なくなっちゃったのよ!心配したんだからぁ!!本当に……」
抱き締めながら、エリィはレイの頭を撫でる。急な出来事に、レイはただ、戸惑うばかり。
(苦しい……)
レイの目の前にはエリィの乳房が当たっている。だが今の彼はそれに対して喜びの感情を抱く余裕はなかった。
やがてエリィは抱き締める行為を止めた。彼女はレイの両肩を持ち、しかめた表情を浮かべた。
「貴方は家に帰るんじゃないの!?皆探していたのよ!本当に……」
怒るエリィ。その表情は真剣そのものだ。本気でレイの事を叱っているのが分かる。
2日前、セイントバードクルーの酒の飲み会で泥酔し、眠りについていたエリィ。そして、それに対して呆れていたレイ。その2日後に、今度はその同一人物に怒られる経験をするレイ。しかし今回はレイの方に問題があった。幸い無事に戻ってきたのは良かったが、もしレイの身に何かあり、帰ってこない事があればどうなっていた事だろうか。
「レイ君Eフォン忘れてどっか行っちゃうんだから!このご時世でそんな事、しちゃ行けないんだよ!分かったぁ?」
エリィは示指をレイの額に当て、言った。
「は、はい……すみません、エリィさん……」
と、レイは答えるしかなかったのだ。
心配していたエリィと、心配を掛けたレイ。彼の中で申し訳ないという気持ちが渦巻いていた。
しかしこの光景に対して驚愕している人物が、一人。アレンである。レイへの抱擁に夢中になっていたエリィは、最初アレンの存在に気づく事がなかった。しかし、ふと目が合った後、エリィはアレンをじいっと、見つめる。
どこかで会ったような……エリィはそう思いながらアレンを見ていた。
「あの……エリィ・レイスさん?」
そっと、アレンは聞いた。
「え……はい。私はエリィですけど……あれ、もしかして貴方……まさか――」
エリィの表情が、変わっていく。そして――
「レインド少尉!?いや、アレン君か!!!凄く久しぶりだね!!」
エリィはようやく、思い出した様子だった。
デウス動乱で共に戦い抜いたかつての仲間、アレン・レインドとエリィ・レイス。今、両者はレイという共通の人間を通して、再会したのである。
だが、アレンの表情は笑顔ではない。寧ろ、驚きを隠せない様子だった。
「あの、失礼ですけど……本当にエリィさん?」
何故、彼はそこまで確認するのだろうか?レイは疑問に感じていた。
「え?私はエリィ・レイスですよ?貴方と同じ、元地球連邦軍、第十三特別部隊のオペレーター、エリィ・レイスですけど?」
その部隊こそ、かつてアレンとエリィが所属していた部隊だ。かつての地球連邦軍の特別部隊。それは、彼らのように力を持つ人間達で主に構成された部隊だ。
その類稀な才能や、空間認識能力は戦場で活かされてきた。故にデウス動乱を生き残る事が出来た部隊。その部隊のメンバーが、アレンやエリィといった人間なのである。
しかし、アレンは彼女の発言に対して疑問を抱く。
「えっと……エリィさん、なんか性格変わってません?」
「えー、そうかな?私は私ですよ?フフフフフ!」
エリィは口元に右手を当てた。愛らしい言動ではあるのだが、どうしても、アレンにとっては納得出来ない様子だ。
その時、アレンはエリィに断りを入れ、物陰にレイを呼び出し、言った。
「レイ。聞きたい事がある。」
「どうしました?」
「エリィさんって、こんな性格なのか?」
「え、そうだと思いますけど……」
まるで念を押すように、レイにも確認するアレン。それ程に今のエリィに違和感を覚えているのだろうか。
「いや……そんな感じなのか……?」
明らかに不審な様子のアレン。改めてエリィを見て、首を傾げた。
「いや、あの容姿は確かにエリィさんだ。けど、あんな性格だったっけ……?」
疑問を抱くアレン。過去の彼女を知る人間として、違和感は拭えない様子だった。
「あの、逆に聞きたいんですけど、昔のエリィさんってどんな性格だったんですか?」
疑問を抱いているアレンに対し、今度はレイが質問をした。
「うーん、まあ、一言で言えば“内気”“大人しい人”って印象かな。まさか五年でこんなに変わるとは思わなかったけれど……」
「え、本当ですか!?」
過去のエリィを、知る人間と、今のエリィしか知らない人間。この五年で変化した、エリィ・レイスの性格。
年月が経てば、人は変わる。幼児ならば身体や言葉の成長、少年期ならば背丈や思考が青年へ。青年ならば社会生活の為に生きる社会人へ。壮年期ならば老年期へ。それは性格も一緒だ。
エリィの場合、アレンが言うには内向的な性格だったという。だがレイから見たエリィは、天真爛漫な美女。内向的とは思えない性格の女性だ。
両者は、この五年間で一体何があったのだろう……と、疑問を抱いた。
「とりあえず二人共、中に入りましょう!みんなが待ってるし!」
エリィが二人に近づき、二人の肩をポンと触る。レイからすればいつものエリィのスキンシップ。だが、アレンから見れば特殊なスキンシップに思えた。
「事情は中で聞きますから、ね!」
やがて、三人は修理が完了したセイントバードへ入っていく。
デウス動乱の英雄、アレン・レインドから語られるエリィの過去。それもまた、レイにとっては意外な真実と言えた。
艦内にて。戻ってきたレイと、同行しているアレン。最初、クルー達は誰が来たのか、と動揺していた。
やがてブリッジに着く。そこにはネルソンやインク、スラッグといった面々が居た。
「レイ君が、帰ってきましたー!」
と、笑顔で喋るエリィ。ネルソンはレイの顔を見た時、静かに笑みを浮かべた。
「無事だったか。良かったよ、レイ。」
レイはネルソンに怒られるのではないか……と思っていた。すぐに戻ると言っておいて、帰ってきたのが2日後。その上彼は連絡用の為の、Eフォンを忘れるという失態をしている。
「ネルソンさん、その……ごめんなさい。」
何かを言われる――そう思ったレイはすぐに謝る。
「本当に、心配したんだよ!無事だから良かったけれど……」
エリィはネルソンの前でもレイを叱責する。
だが、これに対してネルソンは怒る様子を一切見せなかったのだ。
「レイ、何を謝っている?元はと言えば私が悪いのに。」
「ええっ……?」
エリィが驚いた様子を見せた。何故ネルソンが罪悪感を抱くのか。この場にいたエリィとレイは疑問を抱く。
「恐らくだが君は“何か”に巻き込まれたのだろう。こうして戻ってきたのは幸いだが、元はと言えば私が悪いのだ。アレクサンドリアの情勢を理解できていなかった私が……」
すぐに戻ると言う約束で、彼を一人にしたのがまずかったと思うネルソン。
エジプト首都、カイロの治安の悪さは知っていた。だが地中海に面した美しい町、アレクサンドリアの情勢を、彼は把握出来ていなかったのである。その結果、レイは悪党に襲われ、アレンと出会い、今に至る訳ではあるが。
「お言葉ですが……アレクサンドリアの情勢悪化は最近の事なんですよ。新生連邦樹立をしてから、軍備の増強が進んでいくようになってからです。」
と、近くにいたアレンが言った。
「君は?」
疑問を抱くネルソン。それに対し、アレンは言った。
「スパーダ・スクード……と名乗りたいところではありますが、自分の名前はアレン・レインドです。貴方はエリィさんの仲間とお見受けしました。」
「艦長の知り合い……?それに、その名前は……?」
と、ネルソンは一度エリィの姿を見る。そして、彼の名前を聞き、耳を疑った。
「あの、アレン・レインドなのか!?」
その名前はかつての軍関係者ならば有名だ。それは連邦軍、デウス軍関係なく、その名は知られているのである。
デウス動乱中、クリスタルガンダムと呼ばれる機体を操り、当時の地球連邦軍の勝利に貢献した存在。そして敵勢力であったデウス軍からも脅威と認識されていた存在。半ば伝説的存在と言われても過言ではない青年が、目の前にいる。その事は、ネルソンを驚愕させた。
「まさか、こんな所でガンダムのパイロットに会えるとは思わなかったよ。私は元デウス軍ではあるが、その活躍は噂では聞いていたよ。」
と、ネルソンはアレンに対し、握手を求めてきた。
「元デウス軍ですのに俺を憎いとは思わないんですね。」
アレンは、ネルソンの行動に対して意外な反応をした。
「それはかつての話だ。今はこうして艦長と共にMS乗りとして共に行動している。それに私はデウス帝国に盲信していた訳ではないよ。」
軍や組織に所属する人間は、その所属先の為に貢献し、盲信する者が多い。それらが形となり、兵士達は戦う。
デウス動乱時、敗戦によって滅んだとされる、デウス帝国の為に多くの兵士達が死んでいった。全ては、デウス帝国という国家を守り、讃える為。
それは地球上の国でも同様の事が言える。その国の為に命を捧げる人々もいれば、己の為に戦う人も居る。何かの為に戦う時、人は底知れぬ力を見せる。それが一人でなく多数になった時、それは敵勢力にとって脅威となる。
だから組織の上層部と呼ばれる存在は部下を洗脳の如く鼓舞する。部下の士気が落ちぬように、果てはその組織が滅びないように。
しかし、ネルソン・アルビュースはそれらの対象とは違っていた。彼は別に、デウス帝国の為に戦い続けていた訳では無いのだ。
「そういう人が居るの、とてもありがたいです。」
そう言って、アレンはネルソンと握手を交わした。その様子を見ているレイ。彼等はかつての戦争を経験した者同士だ。レイに、それを理解するのは難しかったのだ。
「大尉とアレン君は別に戦時中に戦っていた訳ではないの。でも、所属は違っていた。けど、こうして時が経って、違う所属だった人間同士が握手を交わす事が出来るのは、とても良い事なんだよ?」
と、エリィはレイの両肩に触れ、言った。
「例えるなら、サッカーの試合で、互いのチームの選手が試合後に握手を交わすような感じですか?」
レイは言った。
「まあ、分かりやすく言えばそんな感じなのかな?アハハ!」
人はこうして分かり合えるのだと、レイは理解出来た様子だった。
(こうやって、あの人とも分かり合う事が出来たのなら良かったのにな……)
レイは、アスーカルの事を思い出していた。最後まで敵同士となり、彼を殺める結果となった事。それはレイの心に大きな影響を与えていたのである。
「アレン……と呼んで良いか?」
「はい、大丈夫です。」
アレンとネルソン。この両者は、改めて握手を交わしたのであった。
「しかし気になるのは、レイ。君が何故アレンと一緒に戻って来たのかだ。」
ネルソンがいった。それについて気になるのは、至極当然の事と言える。
「それ、レイ君から教えて欲しいなー。」
エリィが笑顔で聞いてきた。
「実は――」
レイはこの二日間にあった事を全て話した。
暖かく、優しい感覚に導かれている時に悪党に襲われた事、それをアレンが助けた事等。そして反政府デモが活発になり、外出が難しくなった事等。
「それで、エリィさんがこの近くにいるって聞いて、こここに来たんですよ。」
アレンが言った。
「アレン君はアレクサンドリアに住んでいたって事なの?」
エリィが聞く。
「そうですね。戦後に色々とありまして。」
「そう、なんだ。」
エリィは、近くに置いていた水を一口飲み、言った。
「所でアレン。君は今何をしているんだ?軍には所属していないだろう?」
と、ネルソンが聞いた。それに対し、アレンは答える。
「実は――」
今度はアレンが事情を説明した。今は裏稼業であるバンディットをして金銭を稼いでいると言う事。しかし、昨夜に氷河族の名乗る組織に襲撃され、同居人、ワートンの身を守る為にも自身が去る必要があったと言う事。そこへ、レイがエリィと知り合いという話を聞き、同行する事になったと言う事。
「バンディット……か。」
戦後に出現した裏稼業、バンディット。かつてのデウス動乱の英雄がそのような仕事をしているなど、ネルソンからすれば想像すら出来ない様子だった。
「それに、氷河族……」
アレンを襲った謎の組織、氷河族。その際の構成員は三名。いずれもが特徴的な容姿をしている者ばかりだ。
普通、何らかの組織が行動を起こす時、目立つ格好等はしない。任務遂行の際は相手にその姿が割れぬようにするものだ。しかし彼等はあえて、組織の名前を言った。それらの目的も、全てが不明だ。
(あの人達、氷河族って言うんだ……)
アレンとワートンが襲われていた時、押し入れに隠れていたレイ。その際に見た、ウネフの姿。そして今のアレンの発言。これにより、ウネフは氷河族に所属している人間であるという事が判明した。
「厄介な連中に目を付けられていたんだな。」
と、ネルソンは言った。その様子から、何かしらの事を知っている様子だ。
「大変だったんだね、アレン君……」
エリィも、氷河族の事を何か、知っている様子だった。
「それでエリィさん。お願いがあります。暫くで良いんです、一緒に行動させてくれませんか?」
一方的な依頼である事は理解していた。だが彼は氷河族と言う組織に追われるかも知れない身。ワートンをはじめ、周りの人間に迷惑を掛けたくない……と言う意思が、彼にはあった。
セイントバードは空中戦艦。それに同伴すれば、同じ場所で過ごすという事はなくなる。そうなれば彼自身も組織に追われるという事は無い。
「え、アレン君が良ければうちは歓迎だよ?」
と、エリィはあっさりと受け入れた。
「うちはそもそも人手不足だし、私とアレン君のよしみでもあるしね!」
セイントバードチームはこのように、新たなメンバーが加わる事に対して寛容だ。その上、加わるメンバーがデウス動乱の英雄、アレン・レインド。彼等にとっては心強い仲間でもある。
「ありがとうございます!」
この瞬間、アレンはセイントバードチームのメンバーとなった。想定していた以上にあっさりとしたメンバー参入に、アレンは嬉しさを感じていた。
「アレン君、一つ聞きたいんだけど良いかな?」
「何でしょうか?」
「戦後になってMSに乗ったりはしてた?」
「え?はい。まあ……」
その時、彼は昨日の出来事を思い出した。
バンディットとしての仕事として孤児院の仕事をした時に、反政府デモ隊や新生連邦軍の挟撃に巻き込まれ、孤児達を守る為にMSに乗った。旧式のMS、ディエルに乗って最新機体を撃破したアレン。その際も、技量を駆使して敵を倒した。
実力は残っている。だが、彼にとってはその力は大人しく喜べる力ではない。
「レイ君から聞いているかもだけど、私達はMS乗り。もし有事があればアレン君の力を頼らせて貰うかも知れない。それだけは、宜しくお願いね!」
エリィは左目をウインクしながらアレンに言った。
(やっぱりこの人、本当に性格が変わったな……)
と、アレンは今のエリィを見て改めて驚くばかりだった。
「あと、お金はどうしようか。」
「え?金ですか?」
「ええ。貴方も生活があるでしょう?あれだったら、バンディットの依頼として、MSに乗るってのは、どうかな?」
エリィは提案した。あくまでもMS乗りの助人として、それをバンディットの契約としてセイントバードチームに参加するという条件をエリィがした。その活躍によって報酬を与えるという形をエリィは取る事にしたのだ。
「せっかくの提案ですが、お断りします。」
だが、アレンはそれを拒んだ。
「え、どうして?」
「もしバンディットとして契約するって事になると、報酬金を得たとしてもその15%の手数料を取られます。だったら、ここには傭兵……いや、フリーのMS乗りという形で居させて貰う方が良いです。」
アレンの言うように、バンディットは報酬の15%を運営元に徴収される事で成り立つ仕組みだ。そうした条件はあるものの、基本的に仕事内容は何でも良いというメリットがある。依頼さえ入り、報酬を得られればそれで契約が成り立つ。
一方、フリーのMS乗りや傭兵といった職業は依頼元に対して交渉次第で報酬は得られるが、場面が戦場に限られる。つまり、戦争や紛争がデウス動乱時よりも減少している現代では需要があるとは言えないものになる。
だがアレンが見てきたように、新生連邦軍によって軍備は増強されつつあるこの世界。この先、アレクサンドリアのような反政府デモや政府との衝突といった、紛争がいつ起きてもおかしくない世界になりつつあるのである。
「成程ね、じゃあ、そうしましょうか。」
交渉は成立。アレンは、フリーのMS乗りと言う形でセイントバードのクルーに加わったのであった。
「なんか、凄い人と話してるみたいだな、艦長。」
「凄いなんてもんじゃないわよ!デウス動乱の英雄って、ガンダムに乗ってた人間よ!?」
「え、なんでそんな人が!?」
「あんた聞いてなかったの?昔の大戦で艦長と同じ所属で戦ってたって、言ってたじゃん!」
ひそひそ、とインクとスラッグが、話していた。仲間に加わった人間がかつての大戦で活躍した人間と言う事実は、二人を驚かせるには十分だったのだ。
少し時間が経ち、セイントバードはアレクサンドリアの地を後にした。両翼が左右に展開され、バーニアの出力を上げ、空を舞う。やがて高度を次第に上げていき、地中海上空を飛び立った。
行先はレイの故郷、モントリオール。大西洋のルートを通り、そのままカナダに上陸するルートで移動する。その間に敵襲に遭う事が無ければ、このまま問題なく移動する事が出来るだろう。
航空している間、レイとアレンはネルソンにMSデッキに誘導される。そこにはアインスガンダム、ハルッグ、トルクスが六機に、SFSであるゾーリドが六機。合計十四機の兵器が備わっていた。
(あれって、もしかしてガンダム……?)
アレンはじいっと、その方向を見る。彼の知るガンダムは白い色が特徴的な機体。だが今アレンが見ているのは紺色の機体だ。珍しい色合いの機体を見て、見間違いなのか……と、思っていた。この時、アレンの目には、ガンダム特有の特徴的な頭頂部や顔貌が映っていなかったのだ。
ネルソンは整備士達にアレンを紹介する。その際、誰もが彼の方を見た。特に、整備士長であるシンは目を大きく輝かせ、アレンに握手をしたのである。
「あのクリスタルガンダムを操ったっていう、アレン・レインドですか!?マジで!?光栄ですよ!いや、本当に!」
シンはアレンより年上ではあるが、丁寧な言葉で接していた。アレンが如何にデウス動乱で活躍した人間であるかが、分かる。
「それは過去の話ですよ。今の俺はバンディット……じゃないや、MS乗りとしてここに居させて貰ってるだけですし。」
謙虚に振舞うアレン。しかしデウス動乱の英雄という肩書は、やはり一目置かれるものである。
(やっぱり、この人って凄い人なんだ。)
アレンの隣にいたレイは、アレン・レインドという人間の凄さを改めて感じ取っていた。
「アレン、君が機体に乗るとすれば、このトルクスになる。」
ネルソンはアレンに説明した。
セイントバードチームオリジナル機体、トルクス。いずれもが旧連邦軍のジャスティスを改修した機体だ。ここには六機存在している。砂漠の狩人率いるMS乗りとの交戦で、既に二機が破壊されているのだ。
武装はオードソックスなビームサーベル、ビームライフルに頭部機関砲。アレンはこの機体を見て、納得している様子だった。
「問題なく戦えると思います。ちなみにですけど、セイントバードは今までどのような敵に襲われてきたんですか?」
アレンの問いに、ネルソンは答えた。
「主には我々と同じMS乗りが多い。機体もかつてのデウス軍の量産機体が多かったな。」
「成程……」
と、アレンは納得している様子だった。
「ああ、レイ。君の機体も少しばかり変更しているぞ。」
そう言って、ネルソンはレイをアインスの前に誘導した。
今のアインスの姿。ランドセルがあった部分にはフライトユニットと呼ばれる、空中用のバックパックが装着されており、脚部のバーニアも大型のものに変更されている。そして、左後部には巨大な砲塔のようなものが存在している。
「また、姿が変わった……」
と、レイは呟いた。
「名付けて、アインスガンダム空戦仕様! これからセイントバードは大西洋を渡るからな。データを解析してこれが適任と思って、アレクサンドリアで改造してたんだよ。」
シンが嬉しそうに言った。やはりガンダムに触れることが出来るのは彼にとって喜びなのである。
しかし、レイに対してこのような説明をしている傍ら、アレンは驚愕した様子で言った。
「この顔立ちは……間違いない、ガンダムだ……え……レイ、君はガンダムに乗るのか?」
アレンは知らなかったのだ。レイがガンダムのパイロットという事を。
「はい。これが僕のMSなんです。アインスガンダムって言います。」
戦時中にクリスタルガンダムと呼ばれる機体に乗り、連邦軍を勝利に導いたアレン。まさか、戦後になり、このような場所でガンダムに会うとは、思わなかったのだ。その上そのパイロットがレイであるなど誰が予想できたことか。
(戦争を知らない筈だろう……どうしてこの子がガンダムに?)
疑問を抱くアレン。無理もない。レイのようなあどけない少年がガンダムに乗る。それは、デウス動乱でアレンがガンダムに乗った時と同様だ。
アレンは十五歳の時にクリスタルガンダムに搭乗し、地球連邦軍の所属としてデウス動乱を戦い抜いた。そして、連邦軍を勝利に導いた。レイは、その再来だとでも言うのだろうか。
「なあ、レイ。君は何故ガンダムに―」
と、アレンが聞こうとした時だった。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥ
警報音が、セイントバード艦内に鳴り響いた。
「緊急事態!後方より大型の熱源反応をキャッチしました!こちらに向かってきてます!」
突然の警報。そして、インクの声。その上得体の知れない熱源反応。航空を開始したばかりのセイントバードに、緊張が走った。
「モニター拡大、出来る?」
ブリッジにてエリィがインクに対して言った。
「画面、出ます!」
モニターが展開され、後方に映る“物”の画像が映し出された――
そこには、セイントバードと同型の戦艦の姿があった。
「同型艦一隻……?どういう事……?」
「あれ、もしかして新生連邦じゃないんですか!?」
緊迫した状況。その上で後方にいるのはセイントバードと同型のヒエラクス級戦艦。そうなれば、勢力はただ、一つ。新生連邦軍以外に考えられない。
ヒエラクス級は新生連邦の数少ない大型空中空母。つまり、敵の主戦力が乗っている可能性が高いと考えられる。
「艦長、逃げましょうよ!新生連邦なんて関わらない方がいいですよ!あいつら多分大量の機体を持ってますよ!絶対勝ち目ないですよ!」
スラッグは懸命にエリィに言う。それに対し、エリィは口を開けた。
「戦う気は毛頭ありません。それに相手はこちらを補足しているだけかも知れないですし。」
新生連邦軍が相手である以上、敵から逃げる事が最善策だ。現在のところ、こちらに攻撃を加えようとする様子は無かった。
セイントバードの後方に位置している新生連邦軍の戦艦。名はウイングイーグル。ヒエラクス級戦艦であり、セイントバードとは兄弟関係にあたる戦艦だ。
その戦艦は新生連邦軍の士官であるダリア・ローゼントが艦長を務め、その上総司令レヴィー・ダイルにアーステクノロジー社長のスルース・ディアンも同乗していた。
先日にロサンゼルスの太平洋沖にてアトミックガンダムの試験テストを行い、そのまま航行を続けていたウイングイーグル。今回、その獲物であるセイントバードが遂に発見したという事になる。
「カイロ基地の情報通りでしたね、総司令。」
「……ええ。」
スルースの笑顔と違い、総司令は真剣な眼差しでセイントバードを見ている。
「どうしましょう?せっかく見つけた獲物です。すぐにでも奪い返す方が私は良いと思いますケドね?」
スルースはハットの“ツバ”の部分を指先で触りながら言った。
「ローゼント中佐、貴方はどう動きますか?」
今度は総司令が言った。標的は目の前だ。すぐにでも攻撃を仕掛けるのか、どうするのかは様子を見るようだ。
「恐らく敵はこの艦を見て逃げ腰になると予想します。敵には戦闘行為をする理由がないからです。」
セイントバードは元々新生連邦軍の戦艦だ。ここで敵が攻めてくるとは思えないと、ダリアは考えていたのだ。
「ならば、“お試しキャンペーン”、しちゃいますか?」
「お試しキャンペーン?」
スルースは、椅子から立ち上がり、高揚した様子で言った。
「文字通りの意味です!特殊強化モデルのガンダム達を導入して、相手の出方を見るんですよ!」
総司令であるレヴィー・ダイルを差し置き、彼は自身が作り出した特殊強化モデルが搭乗するガンダム三機を導入しようと提案していたのだ。
「あの戦艦……セイントバードと言いましたかね。その戦力が分からない以上余計な戦力を投入する必要はないでしょう。ならば、あの三機を試験的に導入する良いきっかけかと思いますケドね、総司令?」
スルースはアーステクノロジーの社長であり、決定権は、本来はない。だが総司令はそれに従うように、言った。
「そうですね……三機の試験導入はアリかも知れません。」
そう言う総司令は、まるでスルースの言いなりのようだった。
「総司令からも許可が出ましたね!フフ、遂にガンダム達三機がお披露目です。楽しみですねぇ。ハハハハハ!」
スルースは、高らかに笑った。
「ディアン社長、あくまでも目的は艦の奪還です。その上であの艦の中に搭載されているとされる、アインスガンダムも奪還。ですから、極力、破壊行為はしないようにして下さい。」
目的はセイントバードとアインスガンダムの奪還であり、破壊ではない。総司令はスルースに対し、念を押すように言った。しかし、彼の言葉はどこか、弱々しい。
「ええ、出来るだけの指示は与えますよ。まあ、彼等が言う事を聞いてくれればね……」
スルースは怪しげに言った。これに対する総司令の表情は、固い。
そして、彼は三機のガンダムに対して指示を与え始めた。ブリッジ内のマイクでMSデッキにいる三人に連絡を取り、言う。
「どうも、ご機嫌いかがですか?三人共、今から貴方方の初実戦ですよ。楽しみですねぇ。ただし条件があります、あの戦艦は出来るだけ破壊しないように。また、恐らくあの中に搭載されていると思われる紺色のガンダムタイプである、アインスガンダムも破壊しないようにして下さいね。ニッカ・ドレイク、ハーディ・クオレント、シエル・ホーンド。」
優しいようで、どこか不気味なその言葉。これに対し、デスペナルティガンダムのパイロットであるニッカが喋った。
「あぁ?じゃあ殺しちゃダメだってのか?」
「いえ。機体さえ残っていれば良いのです。コクピットは破壊しちゃっても構いませんよ。」
それを聞いたアトミックガンダムのパイロット、ハーディが喜びの声を上げた。まるで性格の悪い子供のようであり、口調が悪い。
「OK!OK!OK!ぶっ殺しまくってやろうぜぇ、お前等ァ!」
その中、冷静に対応するのはバイラヴァーガンダムのパイロット、シエル・ホーンドだった、
「お前等の言動にはうんざりさせられる。」
「はぁ?優等生気取ってんじゃねえよクソが!」
ニッカが言った。彼等の言動を見るに、まるで、喧嘩をしているようだった。
「……さて、“正義”のガンダム達、デスペナルティ、アトミック、バイラヴァー。その正義を、“悪の軍団”に向けて、正義の怒りをぶつけてやって下さい。ああ、そうそう。ビーム粒子が切れたらその場で撤退しましょう。これは命令ですよ。」
まるでガンダムを駆る自分達が正義と言わんばかりの台詞。それを聞いた三人は、静かに頷いていた。
ウイングイーグルの前方下部に存在しているハッチが開かれる。そして、新生連邦軍の新型ガンダムである三機が、カタパルトから出撃しようとしていた。セイントバード、アインスガンダムを捕獲する為に。それと、実践テストを兼ねる為に。
キシィン
三機のガンダムの、デュアルアイが輝く。デスペナルティは朱色に、アトミックは緑色に、バイラヴァーは水色に、それぞれ輝いていた。
やがて三機のガンダム達は出撃した。セイントバードチームに、新生連邦軍が作り出したガンダムタイプ三機の脅威が、迫ろうとしていたのである。
「艦長、戦艦から三つの熱源反応あり!これは……間違いありません、ガンダムタイプです!え、てか三機のガンダム!?嘘、有り得るのこれ!?」
インクが目を疑った。新生連邦軍は三機、ガンダムタイプを導入してきたのである。宣戦布告も全くせず、一方的に刺客を送り込んできたのだ。
「セイントバードがMS乗りの戦艦って知ってるから、警告とかなしで襲ってくるって訳かよクソタレ!」
操舵をするスラッグが汗を流し、言った。
「とにかく、こちらもMSを発進しないと!各パイロットは機体に搭乗し、待機をして下さい!それと、ブリッジ格納準備を!」
緊迫した状況。戦闘態勢に入った事を意味する。セイントバードのブリッジは格納され、その後にエリィはMSデッキに対して連絡を取り、各パイロットにMSのコクピット内に入るよう、要請した。
三機のガンダムタイプは散開し、セイントバードに近付く。デスペナルティガンダムは巨大な、二つの刃が同方向に備わっている二重大鎌を所持している。アトミックガンダムは右手部に大型のビームランチャー。バイラヴァーガンダムは右手部に槍状の兵器、トリシューラランサーを所持している。
異形な姿をしている三機のガンダム達。それらはセイントバードを捕捉した時、バイラヴァーのパイロットであるシエルが言った。
「ハーディ、お前がそれで攻撃しろ。」
命令するシエル。だが、ハーディは対抗した。
「はぁ?何命令しちゃってんの?てめぇ?」
と、反抗した。
「俺等の場合は手の内を見せる訳には行かねえんだよ。早くしろ、そのランチャーで撃つんだよ。」
「ったくしょうがねぇなあー!!!」
反論しながらもシエルの命令に従うハーディ。
そして、アトミックガンダムはビームランチャーを構える。それと同時に、アトミックの頭部ヘルメットがデュアルアイを覆い被さるように展開し、そこからモノアイが展開された。
「オラァ!!!」
ハーディの掛け声と共に、ビームランチャーが展開される。高出力のビームの飛翔体が、セイントバードの左翼部に直撃した。
敵の攻撃を受け、艦内は揺れる。先制攻撃を仕掛けられた事により、彼等は様子を見る必要も無くなった。
そして、機体がカタパルトより射出されようとした時だ。
「敵戦力はそれだけとは思えません!大尉とレイ君、アレン君のみが出撃して下さい!敵戦力の様子を見る必要があります!」
と、エリィが言った。
彼女の判断は的確だ。同型艦である以上、戦力を隠し持っている可能性は高い。今回は三機の新型ガンダムタイプが出撃したが、それ以上の戦力を隠し持っている可能性がある。
それを聞いた三人は、それぞれの機体に搭乗しており、やがて出撃する準備を開始した。
最初にハルッグが、そしてそれに続いてアレンの乗るトルクスが出撃する。SFS、ゾーリドカスタムと共に、地中海の1500メートル上空を駆け抜ける。
「アインスガンダム、行きます!」
最後にアインスガンダム空戦仕様が出撃。SFSに頼らなくとも、単体で空中を移動することが出来るアインスガンダム。それは、セイントバードにとっての新たな戦力となり得た。
新生連邦軍の新型ガンダム三機と、セイントバードチームのMS三機の戦いが始まった。
「み~つけたぁ!あれだろ?紺色のあいつ、アインスガンダム!」
「目標を速攻見つけられるなんて流石だよな俺ら!」
デスペナルティとアトミックは標的を見つけ、早速行動を開始する。
そして、先にデスペナルティが鎌を振ってアインスに襲い掛かった。
「ガンダムが敵なの!?それも三機も!?こんなのって!」
「死ねや!」
鎌がアインスに迫る。それに反応したレイはビームサーベルで応戦。互いに拮抗し合った。
「ちぃ!ふざけんじゃねえぞ!」
そこへ、モノアイヘルメットを被ったアトミックがビームランチャーを、デスペナルティに向けて放出した。それに反応し、回避運動に映るアトミック。ニッカは突然の出来事に驚愕する。
「てめぇ何しやがる!?」
「うっせえんだよ!こんなんに苦労してんじゃねえって!」
今度はアトミックがアインスに向けてビームランチャーを連射する。それに反応したレイは、急いで回避運動を行った。
初めての空中戦。慣れない状況で、敵機体はガンダムタイプという二重苦。その厄介な状況で、レイはアインスを乗りこなす。
バシュゥゥゥ
今度はシエル・ホーンドの駆る、バイラヴァーガンダムが、右手部に把持しているトリシューラランサーを駆使し、攻撃を開始した。三つ又の先端部からはビームキャノンを展開。だがこの攻撃を、仲間である筈のデスペナルティに対して行うのだ。それを見切ったデスペナルティは回避した。
「シエル!!!てめえ!!!」
怒るハーディ。今度はデスペナルティの鎌の柄の先端部から、ビーム砲撃を開始。それをバイラヴァーに対して撃ったのだ。
(この人達、なんで味方同士で攻撃してるの……?)
レイは疑問を抱いた。目の前で、三機のガンダムが、味方機体に対してビーム砲撃を行っているのである。
「はいはい、お前等仲間割れしてんじゃねえよ。何やってんだかッ!」
そう言いつつ、ハーディの駆るアトミックガンダムは味方を狙わず、ビームランチャーの標的を、MAに変形しているハルッグに絞った。
「ロックされたのか!?」
突然の攻撃に翻弄されるハルッグ。この砲撃を回避する事には成功する。しかし――
グォンッ
アトミックガンダムは、突如変形を開始した。可変機構を兼ね備えていたのである。
「馬鹿な、変形するガンダムタイプだと!?」
焦燥に駆られるネルソン。まさか、狙われたガンダムタイプが可変機だとは想像もしていなかった様子だった。
「死ねっ!蝿野郎!」
そう言いながら、背部に移動したビームランチャーでハルッグを狙い撃った。武装はビームランチャーだけでない。バックパックにはMA形態で使用可能な、先端部に搭載されているノーズビームキャノンや、ウイングガトリング、ヘビーマシンガンといった武装も搭載されている。
ビーム兵器と実弾による二重攻撃。これが、ハルッグに迫り来る。
「ちぃっ、こんなにガンダムタイプが……敵で相まみえる事になるとはな!」
ハルッグを動かしながら、ネルソンは考えていた。彼は元々デウス帝国の人間であり、それ故にガンダムと言う存在に対して警戒心を抱いていた。デウスにとってガンダムは脅威以外の何物でもない。しかし彼の前にはその脅威が三機もいるのだから、厄介極まりない。
その間もアトミックはビーム兵器と実弾兵器を連続で放つ。
「あのガンダム、モノアイのヘルメットと使い分けているのか……チッ、そっちがその気なら!」
反撃と言わんばかりに、アトミックに向かってハルッグはロングビームライフルを撃つ。しかし、その攻撃も簡単に回避される。
「ヘタレ!!」
そう言い放ったと同時にビームランチャーを再びハルッグに向けて発射。高出力のそれを辛うじて回避するハルッグ。
そのビームを避けた後、ハルッグはMS形態に変形。敵機体との距離を見計らい、MA状態のアトミックの上に機体を乗せた。
「なんなんだよお前!なんで乗ってるんだよ!降りろよ!うぜえんだよォ!」
機体を揺らし、アトミックは必死に振り落とそうとしている。だが、ハルッグは離れようとしない。必死にしがみつき、ロングビームライフルをアトミックへ向け、貫こうとしていた。
「これで終わりだな!」
と、言った時だった。
バシュゥゥゥゥゥ
別方向から、ビーム粒子の飛翔体が飛んできた。それに反応したハルッグはすぐに回避し、MAへ変形する。
シエル・ホーンドのバイラヴァーガンダムのビームライフルが、ハルッグに目掛けて放ったのだ。幸いこの攻撃を回避する事に成功したハルッグ。だが――
ドバァァァッ
今度は槍の先端部からのビーム砲撃が襲ってきた。急な攻撃に、回避が間に合わない。
「くっ!?」
ビーム砲撃の直撃は免れた。だが、ハルッグのバックパックはダメージを負う結果となった。
「それだけと思うなよ、蝿野郎が。」
シエルが呟いた――と同時に、バイラヴァーの武器である槍が、ハルッグに目掛けて投擲された。突然の攻撃に避けようもないハルッグは、それの餌食になった。
「しまった!?」
バイラヴァーの槍攻撃を受け、ダメージを負うハルッグ。そして、そのままコントロールを失った。
地中海に落ちていくハルッグ。このままでは墜落は避けられない。
「ネルソンさん!」
その時、間一髪アレンの乗るトルクスが、ハルッグを助ける為に駆け付けた。SFS、ゾーリドで落ちていくハルッグを補助し、墜落を防いだのだ。
「アレンか……助かった。感謝する。」
「あのガンダムタイプ、俺が相手になります!」
と、アレンの駆るトルクスはバイラヴァーに向け、ゾーリドの出力を上げ始めた。
「いや、考えがある。挟み撃ちをすれば良い。奴は今、槍を拾いに行っている。その隙を狙う。君は後方から攻撃してくれ。出来るか?」
「……了解!」
ネルソンの言うように、バイラヴァーは投擲した槍を拾う為に行動していた。それを見ていた彼は、ハルッグを変形させ、バイラヴァーに向けて移動した。
バイラヴァーは槍を拾う為に降下している。それに対し、ハルッグがMA形態のまま急降下をし、両機体が並ぶように動いた。そして、すぐにハルッグをMSに変形し、そのマニピュレーターを駆使して取っ組み合いを行おうとしていた。
「チッ、こいつ何のつもりだ……?」
シエルが舌打ちをし、ハルッグの方向を見て言った。
「さっきの槍は回収させんよ!」
マニピュレーターを使い、バイラヴァーの両手部マニピュレーターを防ごうという作戦だった。その隙に、アレンの駆るトルクスがバイラヴァーを攻撃するという、ネルソンの思惑。
ガキィン
ハルッグとバイラヴァーは互いのマニピュレーターを取っ組み合う事に成功。これにより、バイラヴァーガンダムは武器を扱う事が出来なくなる。
「お前、馬鹿だろ。」
「何……?」
「こっちには武器はいくらでもあるんだよ。」
シエルは怪しく笑みを浮かべた―と、同時にバイラヴァーの腹部が光り輝くのを、ネルソンは確認した。
「まさか、ビームか!」
それに気づいたハルッグはすぐに変形をし、回避行動に移る―
ドバアアアアアッ
バイラヴァーの腹部からビーム砲が放たれた。その出力は甚大であり、ハルッグのロングビームライフルの比にならない程。
間一髪回避に成功したハルッグだが、もし直撃していれば死は免れなかっただろう。
「背中ががら空きだ!」
と、アレンの駆るトルクスがバイラヴァーの後方に回り込んだ。そしてビームサーベルラックを構え、展開し、攻撃を試みる――
グォンッ
バイラヴァーのバックパックから、突如二つの“腕”が出現した。それは手部と同様の形状を作り、その上ですぐにバイラヴァーのバックパックに搭載しているビームサーベルラックを展開し、ビーム刃を形成した。
「なっ……!?」
つまり、バイラヴァーガンダムは今、四基のマニピュレーターを展開している事となる。
アレンは急いでそのビーム刃を回避した。SFSのゾーリドは無傷で済んだ。直後、バイラヴァーは槍の回収に成功するのだった。
バイラヴァーガンダム。通常は従来のMSと同様、二つのマニピュレーターが展開されている機体。だが後方からの攻撃に対処できるように、バックパックには二つのマニピュレーターが搭載されているのだ。
合計四基のマニピュレーターを持つバイラヴァー。そして、その機体は槍状の兵器、トリシューラランサーを持っている。そのシルエットは、まるでインド神話に出てくる四つ腕の神である、シヴァ神のようだった。
「こいつらよりも、アインスガンダムを狙わないとな。それが命令だからな……」
と、バイラヴァーはアインスガンダムの方へ向かった。バックパックのバーニアを展開し、空中を舞う。そして、ハルッグとトルクスはそれを追い掛ける為、バーニアの出力を上げ、移動した。
アインスはデスペナルティと激戦を繰り広げていた。鎌を持つガンダムと言う、異様な姿の機体。その戦法に翻弄されつつも、彼は善戦している。
(強い……それに、この人達……妙な感じがする……!)
シンギュラルタイプとしての感覚が、脳に伝わってくる。相手の戦意、そして殺意。その目的や手段も、レイに伝わる。
彼は確実にパイロットとして成長していた。戦場に出て戦う度、レイは相手の行動を少しずつだが、見抜くことが出来るようになっていっている。そして、相手の意志を感じることが出来るようになっている。
今回の敵は特殊強化モデル。人為的に作り出された、“力を持つ存在”だ。
(一回距離を置いて……鎌が武器なら距離が離れれば!)
と、アインスは一度デスペナルティより後方に移動した。
「てめええええ!逃げてんじゃねえよ!」
高圧的な態度で迫る、ニッカ。
(鎌は強力だけど、相手は近距離攻撃しかできない……これなら!)
レイはデスペナルティとの距離を取り、その際に所持しているビームライフルで攻撃を行おうとしていた。
近接用の武装しかないと考えていたレイ。それならば、ライフルを放てば攻撃が出来ないだろうと、考えたレイだった。
ジャキン
「えっ!?」
デスペナルティのバックパックの、漆黒の翼部から突然巨大なビーム砲が出てきたのだ。それはすぐに発射される。
急な攻撃に対し、回避が間に合わない。急いでシールドで防ぐのだが衝撃が激しく、レイは頭を打ってしまった。
「ぐうっ!ビーム砲があったなんて……。」
不意打ちを受けたレイ。頭を打ったダメージが残る。後頭部から僅かだが血が流れており、ズキズキと、痛む。
「オラァァァァァ!」
その際にデスペナルティは鎌を振り下ろす。気付いたレイはアインスを急いで回避行動した。
次に、鎌の柄の先端部からビーム砲を放つデスペナルティ。あらゆる箇所からのビーム砲撃に、アインスは成す術もない。
(強過ぎる……これじゃあ、勝てない……!)
圧倒的な力。アインスガンダムの比にならない性能を持つガンダム達。いずれもが特徴的な武装を持っており、そして、強い。
「ハーディ!撃てよ!」
突如、ニッカがそう叫んだ。その際に、アトミックはMA形態のままアインスの方向へ向かってくる。
「言われなくても撃ってやるよ!」
アインスの四時方向に一度アトミックが止まり、それと同時にMSに変形。それと同時に、モノアイを輝かせる。
「これであの世行き!ストレス解消ってね!ひゃーっはっははははははは!」
ハーディはコクピット下部にある、“DANGER”と描かれたボタンを躊躇なく押した。
ガバッ
やがて巨大な胸部ハッチが展開され、見慣れない、大型のミサイルが展開されようとしていた。
「あのミサイルは……形が違う……?」
彼はそれが一目見て危険な存在であると判断した。が、それに気づいた時、ミサイルがアインスガンダムの方に迫る。
(ダメ……避けなきゃ……!)
本能的な危険を察知したレイは、ミサイルから少しでも距離を置く為、その場から離れた。
しかしミサイルのスピードは速い。このままでは追いついてしまう。
「レイ!」
それを見ていたのはアレンだ。ミサイルに対し、トルクスはビームライフルを構え、発射したのである。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
次の瞬間、ミサイルはビームに撃ち落された……が、甚大な爆発が発生し、戦闘域は赤い光に包まれた。
特殊核による爆風。これによる放射能汚染はないとされているが、その破壊力は凄まじい。
以前に太平洋沖でアトミックが放った、核ミサイルだ。
幸い、アインスガンダムは無事だったが、この赤い光を見てレイは呆然とした。近くにいたネルソンも。
「何という爆発力だ……まるで、旧世紀の核爆弾のような……」
特殊核の技術は極秘裏に進められていた為、この兵器が放射能汚染を撒き散らさない核兵器という事を、彼等は、知る由もなかったのだ。
凄まじい爆風を見たレイはただ、唖然としているばかり。そこへアレンの駆るトルクスが現れた。
「大丈夫か!?」
「あ……アレンさん……」
「こいつらは強い。只者じゃない……言動だけ見れば高圧的だが、それとは裏腹、奴等の行動は的確だ。」
アレンは三機の行動を見ただけで、行動パターンを読んでいた。FLCシステムを搭載しているこれらは闘争本能を引き出しつつ、前頭葉の活性化により、状況判断を行う事が出来る。
彼等の言動は“凶暴”と呼べるものだが、その一方で行動は的確だ。それがより、脅威となって出現している。
「僕、この人達から怖さを感じます……戦わされているような、楽しんでいるような変な感じ……怖い……!」
「最初に奴等、互いに攻撃し合っていただろう。恐らく、遊びながら任務を遂行しているんだ。こんな奴等、今まで出会った事がない……」
レイとアレンは三機のガンダムから恐怖を感じている。力を持つ者であるが故に、その感覚を感じる事が出来るのだろう。
「奴等も力を持っている人間達って事か……けど、この感覚はやはり妙だ。」
同じく力を持つ人間であるアレンも、三機から嫌な感覚を覚えていた。
特殊強化モデルと呼ばれる人種。人為的にシンギュラルタイプに近づけられた存在。それ故に情緒は不安定であり、闘争本能が剥き出しの存在達。戦闘の為に生み出された哀れな存在であるのだが、敵対する以上、それは脅威でしかない。
両者共に、この三機のパイロットから感じる狂気を感じていた。まるで人間とは思えない、普通ではない気迫が彼等を襲う。彼らが力を持つ人間であるが故に、敵の狂気を感じ取れたのだ。
「動きを見ている限り、奴等の目的はそのガンダムだろう。俺が囮になって一機を引き付ける。レイ、一旦二手に分かれるぞ!」
「は、はい!」
アレンの作戦はこうだ。敵の狙いがアインスならば、その戦力を分散させる必要があると考えた。SFSに乗るトルクスが三機のガンダムの内の一機を攻撃し、囮になるというものだ。
「アレンの作戦には賛同だ。君が狙われているのならば我々は奴等の邪魔をしなければならない。」
「ネルソンさん!」
ダメージを負っていたハルッグだが、合流することが出来た。これにより、ネルソンとアレンはレイのフォローに回ることが出来る。
やがて三機は分かれた。だが、敵のガンダムは目的であるアインスガンダムを狙ってくる。いずれもがビーム兵器を持ち、アインスを狙う。
必死に追いかける三機。そこへ、ネルソンの駆るハルッグが邪魔をするかのようにロングビームライフルを構え、撃つ。それらにより、三機にダメージを与えていく。
「邪魔すんじゃねえよ!」
これに怒ったハーディ。アトミックはハルッグに向けてビームランチャーを連射した。これらの砲撃を全て回避するハルッグ。それを見て、怒りが込み上げて来たハーディ。
アトミックは標的を変更し、ハルッグと的を絞った。
「可変機には可変機だ……まずは一機、引き付けられた!」
囮作戦は成功。だが、残り二機をアインスから離す必要がある。その為にはアレンが健闘する必要があった。
アインスを追い掛けるデスペナルティとバイラヴァー。その際、バイラヴァーのカメラアイにはセイントバードが映った。それと同時に、パイロットのシエルはアインスではなく、セイントバードの方へ向かった。
「シエル!?てめえどこへ行く!?」
「あの戦艦も標的だろう。分散するぞ。」
「そうかい!じゃあ紺色ガンダムは俺が相手してやるぜ!」
特殊強化モデルの、彼らなりのチームワークだ。デスペナルティは引き続きアインスを追いかけ、バイラヴァーはセイントバードへ向かった。
やがてバイラヴァーは左手部マニピュレーターに装備しているビームライフルで、セイントバードを攻撃しようとしていた。
「敵ガンダムタイプ接近!」
「迎撃して!」
接近を許した為、近接武器でしか対応できないセイントバード。機関砲でバイラヴァーへ攻撃を行うのだが、いずれも回避される。
そして、ビームライフルのエネルギーが溜められ、一発が撃たれた。
ドオオオオッ
艦は激しく揺れる。バイラヴァーガンダムの放つビームライフルの威力は、トルクス等とは比にならない程に高威力だ。
「もう一発……」
再びビームライフルを放とうとした――
ガキィン
しかし、そこへアレンの駆るトルクスが駆け付け、ゾーリドそのもので物理的にバイラヴァーへ攻撃を加えたのであった。
「ちぃぃ!」
突然の攻撃に翻弄されるシエル。
「エリィさん、大丈夫ですか!?」
「アレン君!助かった……。」
トルクスにより、艦が攻撃される事はなくなった。セイントバードを守ったアレン。それに対し、エリィは感謝を述べる。
「ありがとう、アレン君。だけど……その機体と敵のガンダムじゃ機体性能に差がありすぎるわ!無理はしないで……!」
エリィの言うように、トルクスのような、量産機体では強さの象徴と呼ばれるガンダムタイプと比べても差がありすぎる。いくらアレンがデウス動乱の英雄と呼ばれたパイロットでも、機体性能に翻弄されるのではないかと、エリィは心配していたのだ。
だがこれに対し、アレンは言った。
「機体の性能だけが勝敗を決める訳じゃないんです!今までだってやってこれた!連邦がガンダムをいくら作ろうが、そんなもの、関係ない!」
と言った。それだけ、アレンは彼等と対等に渡り合う自信があると言う事である。
やがて、バイラヴァーはトルクスを追いかける。それを挑発するかのように、トルクスは去る。エリィは彼の自信に対し、ただ、唖然としていた。
その一方、デスペナルティと交戦するレイ。鎌以外の砲撃が猛威を振るうデスペナルティに対し、ビームライフルを構えて射出するが、機動性の高さに翻弄され、回避される。
(駄目だ、当てられない!このままじゃ、やられるのを待つだけだ……!)
ビームライフルを連射しても、狙いが絞れない。それに対して鎌からのビーム砲や、両翼部からのビームキャノンが執拗に放たれ続ける。
このままでは埒が明かないと、そう感じていたレイ。
ガキィンッ
「うわぁっ!」
更に、後方からバイラヴァーがバックパックの二つの隠し腕を使い、アインスを固定した。表向きではトルクスと交戦しているバイラヴァー。しかしその、背部に二基搭載されているマニピュレーターを駆使し、アインスを固定する事に成功したのだ。
危機的状況に陥ったレイ。この時、デスペナルティは鎌を構え、アインスに接近した。
「え……これ……なんだろ……?」
その時、足元にあるスイッチの存在に気付いた。今までのアインスにはなかったスイッチ。何なのかは知らないが、今の状況を考えれば迷う時間も惜しい。
やがて、そのスイッチを押したレイ。その時、アインスにある変化が訪れた。
「わあ!?」
それは巨大な砲門だった。アインスのバックパックより右肩部にそれは展開される。この動きにより、バイラヴァーの固定していたマニピュレーターは離れた。
「何の真似だてめぇ!!!」
動揺するデスペナルティ。だがそれとは対照的に、レイはスコープを覗かせていた。
Lock on
対象をデスペナルティに設定し、その表示がされた――
ドバアアアアアアアアッ
すると、砲身から強力なビーム砲が展開された。ビーム粒子は直線状にいるデスペナルティを狙う。回避運動をとるにも、間に合わない。
「ぐわあああああ!!!」
デスペナルティの右翼部が破損。これにより、左右のバーニアのバランスが崩れた。
単体で飛行能力を持つデスペナルティガンダムだが、翼部のバーニアが破壊されてしまうと、そのコントロールを失う。常に左側に傾いた状態での戦いとなってしまうのだ。
「ふざけた真似を!!!」
後方より、バイラヴァーが槍を持ち、アインスに迫った。しかし――
ドオォォォォォン
ゾーリドに乗ったトルクスがミサイルを放ち、バイラヴァーにダメージを与えたのである。
突然の攻撃に、予想外のダメージを受けたバイラヴァー。シエル・ホーンドは攻撃を加えて来たトルクスに対し、怒る様子を見せたのだ。
ウイングイーグル内ではこの戦闘を観察していた。三機の実力の披露が出来、満足げなスルース・ディアン。
「ははははは!あーっはははははは!面白い!核ミサイルのタイミングも今回は良かった!只のならず者達が、初陣とはいえデスペナルティ、アトミック、バイラヴァーとやり合うなんて!これはなかなか面白いですねぇ!」
前回はアトミックガンダムが核ミサイルを撃ったことに対して激高したスルースだったが、今回は称賛していた。その光景とは裏腹、ウイングイーグルのクルーは喜んでいる様子は無かった。
しかしこの中で、総司令は一人、疑問を抱いていた。先程の特殊核による核ミサイル。何故、そのような危険な兵器をあえてハーディ・クオレントにさせる必要があるのか……そこに疑問を抱くのだ。
「ディアン社長。何故アトミックガンダムのパイロットをシエル・ホーンドにしないのですか?彼ならば三人の中では比較的穏健派の印象を受けます。ならば、先の強力な兵器は彼に取り扱うべきだと思いますが。」
その疑問に対し、スルースは言った。
「確かにごもっともな質問です。ですが、今に分かりますよ。シエル・ホーンドでは適任ではないという事にね。」
スルースは、まるで分かり切っていたかのような発言をした。これに対しても総司令は首を傾げた。
(それに、あの、ジャスティスのような機体の動き、あの動きはどこかで……?)
それと同時に、彼はトルクスの動きを見ていたのだ。ガンダムタイプ相手に拮抗しているトルクス。只の量産型機体とは思えない動きに、関心を抱いている様子だった――
ピキィィィ
その時、総司令の頭の中に電流が走ったのだ。
(……?この感覚は……あの機体から感じる……?)
この時、総司令は“妙な感覚”を感じ取っていた。それはレイやアレン、エリィと同じような感覚。
彼は〝何か〟を感じ取っていた。それは得体の知れないものでもない、彼にとって、どこか覚えのある感覚であった。
「ちぃ……野郎ォ調子に乗りやがって……!!」
機体の翼部を破壊され、ダメージを負ったデスペナルティ。そして、その隣にはトルクスによってダメージを負ったバイラヴァーの姿。
その時だ。ニッカ以上の怒りを露にしている者が、大声で叫んだのだ。
「死ねよてめェェェェェッ!!!」
その大声を出したのは、シエル・ホーンドだった。三人の中では比較的冷静だったこの男が、突如激昂し始めたのである。
そのまま槍からビーム砲撃を続けるバイラヴァー。連射攻撃はトルクスにとって猛威だ。何度か交戦し、邪魔をされた事への怒りなのだろうか。
「死ねって……何度言ゃ分かるんだよ!?」
冷静な判断力はどこへ行ったのか。バイラヴァーは機体に搭載されているあらゆるビーム砲撃を、トルクスに対して一斉射を開始した。
バイラヴァーガンダムには両肩にビームキャノン、腹部にメガキャノン、そして、ビームライフル、トリシューラランサーといった武装を所持している。これらから放たれる一斉射撃。消費するビーム粒子量は多いが、もし当たれば撃墜は避けられない。
幸い、これらを回避するトルクス。そして、二度目の一斉射撃が行われようとした時だった――
「ビーム粒子が切れただと!?退却しろって事かよ……チッ!」
バイラヴァーはビーム砲撃を続けるがあまり、粒子を枯渇してしまったのである。
そうなってしまっては戦えない。シエルは独自の判断で、撤退する事を決めたのだ。
「お前らもビーム粒子が切れたら撤退しろ!粒子が切れたら撤退って言ってただろ。あいつ……」
シエルは残る二機に対して言った。彼はスルースに言われていた事を守ったのである。
「逃げた……?」
引き際の良さに、驚くアレン。これで、この場にいる残りの機体は二機となった。
その近くで、ニッカが激昂していた。二重大鎌を振るい、攻撃を仕掛けてくる。アインスは間一髪でこれを回避していく。だが、連続攻撃を加え続けるデスペナルティ。その際、一度だけ鎌の攻撃を受けてしまった。
「アウ!」
敵の攻撃を受け、翻弄されるレイ。そして、ニッカは更に言う。
「ヘタレシエル!ビーム粒子切れなんて簡単に起きねぇんだよ!さてと!舐めた真似してくれやがって!お前等全員死刑だよ!!」
先程シエルが一番激昂したのに対し、今度はニッカが怒りを露わにしている。
「レイ!」
そこへ、先程までアトミックガンダムと交戦していたネルソンが駆け付け、デスペナルティに攻撃される直前でレイを助けた。ハルッグのビームサーベルが、二重大鎌の刃を切り裂いたのだ。
「ネルソンさん、ありがとう……ございます……」
一応度後頭部を打った時の痛みが再び広がる。血は、容赦なく彼の頭から流れ続け、レイ自身も苦しい状況が続いていた。
この時、ネルソンはデスペナルティの姿を見て、考えていた。
(相手は鎌状の兵器を持っている……相手が近接用の機体ならば距離を置いて戦う必要があるな。)
そう考えたネルソンは、デスペナルティから少し離れ、そこから肩部のビーム砲を連射した――
ピキィィィ
レイの脳に、電流が走る。そして、咄嗟に叫んだ。
「ネルソンさんダメです!その距離が一番危険なんです!」
「な……!?」
ニッカの顔が微笑んだ。まるで獲物がかかったような顔をして。
「よっしゃ!!!引っ掛かりやがった!!!ざまぁ!!」
そう言った時、左翼部から展開されたビーム砲を発射した。不意打ちともとれる砲撃。ネルソンは突然の攻撃を受けてしまい、被弾してしまった。
「油断……したか……!」
ハルッグはこの時、左脚部を破壊されてしまった。近接戦闘を行う機体と考えていた事が、裏目に出た瞬間だった。
その時だ。デスペナルティはバイラヴァーと同様、ビーム粒子を切らしてしまった。この状態になると言う事は、デスペナルティのウイング内部に搭載されているメガビーム砲が撃てなくなったと言う事である。それに気付いたニッカはコクピット内でコクピットの右側を思い切り殴り、歯を食い縛った。
「糞がッ!ビームが撃てないんじゃ役に立たねえんだよ!てめえら!今度会ったら絶対ぶっ殺すからな!」
捨て台詞を吐いて、ハーディの乗るデスペナルティは撤退していった。右翼部が被弾した漆黒の機体は、セイントバードチームに背を向けたのだ。これで、残る機体は一機のみ。特殊核を持つMS、アトミックガンダムのみとなった。
バシュゥゥゥ、ダダダダダダダダダダ
先程までネルソンと交戦していたアトミックはMA形態のまま、接近してくる。躊躇のないビームランチャーの連射や、実弾攻撃。いずれもがネルソンが被弾している所を、狙ってきている。
「この状況は不利だな……!」
可変機同士の戦いが再開した。だがハルッグはダメージを負っており、今攻撃を受ければ撃墜されかねない。
ハルッグは回避運動を行いつつ、アトミックにビーム攻撃を仕掛ける。しかしこれらは全て回避され、敵ガンダムのビームや実弾兵器が躊躇なく襲い掛かる。
この光景を見ていたレイ。その時、彼に一つの提案が浮かんだ。
(もう一回あれを撃てば!)
ネルソンと交戦しているアトミックに対し、デスペナルティに撃った右肩部のビームを放とうと、考えていたのだ。
アインスガンダムの背部メガビーム砲は直線状の機体に対して絶大な火力を誇る。強力な三機のガンダムタイプを倒せるかも知れない、切り札ともいえる武装だ。デスペナルティにもダメージを与える事が出来たその兵器ならば、ガンダムタイプを撃墜することが出来るかも知れない。全ては、皆を守る為に。
レイは先程と同様、スイッチを押し砲身を展開した。右肩部にそれは固定され、再び装備される。そして、スコープを覗かせ、狙いを絞った。
「ネルソンさん、避けて下さい!」
と、言った直後に狙いを絞った。
Lock on
再び、高出力のビームが放たれた。が――
「見えてんだよ!」
まるで、力を持つ者達と同様の反応をしたハーディ。脳内に電流が流れ、ビーム砲撃を回避したのだ。
「反撃してやるよ!おうおう!」
そして、今度は狙いをアインスに絞り、ビームランチャーを放出しようとした時だった―
カチッ
ビームランチャーを放つ事は出来なかった。先の二機と同様、ビーム粒子が枯渇してしまった為である。
「ちきしょお!もう粒子がねぇのかよ!てめえ!次は絶対ぶっ殺すぞ!てかなんだよこのMS!なんでこんなに弾切れが早い訳!?」
命令に従ったハーディは、機体を後退させた。
不幸中の幸いと言える結果だった。三機ともビーム粒子を枯渇させ、その結果の撤退。不利な状況だったセイントバードにとって、これ程幸運な出来事は無いだろう。
「去ってくれた……?」
レイは、その様子をただ、呆然と見るだけだ。
「あれが、今度の敵か……厄介この上ないぞ……」
ネルソンが、言った。
彼の言うように、今回の敵は新生連邦軍だ。その上、新型ガンダム三機を所持している。これらの実力は今まで彼等が戦ってきた砂漠の狩人等とは比較にならない戦力だ。
「無事か、レイ!」
そこへゾーリドに乗っていたトルクスが。アレンである。彼の乗るトルクスは、ダメージを負う事無く、無事に生き延びることが出来たのだ。
「一度我々も後退しよう。ここにいる理由がない。」
ネルソンが提案し、アインス、ハルッグ、トルクスの三機はセイントバードへ帰還していく。
一時的な危機は去った。だが、まだ敵は同じ宙域にいる。同型艦であるウイングイーグル。その中に搭載されている戦力は、未知数なのだ。
三機のガンダムが着艦したウイングイーグル内部。そこのブリッジにて、スルースが笑っていた。その光景はあまりに不気味で、ブリッジ内のクルーの中には引きつった表情を見せる者もいた。
「まあ、ビーム粒子貯蔵量が残量30%での出撃ではやはりこの程度の時間しか持たないですね。まあ、仕方がありません。ですが上出来ですよ。」
何故彼等のガンダムタイプがすぐに粒子切れを起こしたのか?それは、スルースが意図的にビーム粒子残量を減らしていた為だ。この事より、改めて、この三機は戦力でなく、ただの実戦テストとしてしか扱われていないことが分かる。
スルースが不気味な笑みを浮かべていたその時、近くに居た艦長のダリアが言った。
「しかし思ったよりも敵は善戦していたようですね。敵側も実力者揃い、といった所でしょうか。」
隣の艦長席で座っていたダリア・ローゼントが、言った。
「それに、気になった事があります。アインスガンダム、いつの間にか形状が変わっていました。あれは彼等が独自にあの形状を作り出したという事になりますね。」
傍にいた総司令が、言った。
「ああ、確かに。以前に確認した時はあのようなビーム砲は無かった筈ですからね。」
ダリアが言う。
「それとディアン社長。先程シエル・ホーンドのガンダムがまるで発狂したかのような素ぶりを見せていましたが、もしかして、アトミックガンダムのパイロットが適任でない理由というのはそれが原因ですか?」
戦闘中に総司令が抱いた疑問。核兵器のような強力な兵器を持つガンダムを、何故リーダー格であるシエルに任せないのかという、疑問だ。
「シエル・ホーンドは確かにリーダー格としては適任なのです。しかし彼は予想外の出来事や激しい怒りを覚えた時、他の二人以上に“暴走”に近い状況に陥ってしまいます。」
「感情の起伏は、三人共大きく変わりない様に見えますが……」
すると、スルースは一つの小型コンピュータを総司令に見せた。
三つの脳の画像が映し出されている画像。その脳の周辺には線が幾重にも重なり、データとして映し出されていた。
「これは脳波の情報です。闘争心が剥き出しになれば、値が上がります。先の戦闘で三人のデータを計測していましたが、やはりシエル・ホーンドは激しい怒りを感じた時にその冷静さを失ってしまうようだ。」
そこに示されている画像と数値を見て、総司令は納得した様子を見せた。
「その中で、ハーディ・クオレントが数値としては規定内に収まっている……という事ですか。」
「先日に彼が太平洋に向けて核ミサイルを撃った後に調整した賜物ですよ。三人共、激情的な性格ではありますが、中でもハーディ・クオレントが実は一番判断に優れているという事です。そして、その傍ら任務を確実にこなしている。今回の核ミサイルの見せ場としては先のタイミングは良かったです。出来るだけ誰も被害を出さず、敵への脅威を見せつける。それも狙いでしたから。」
放射能汚染のない、特殊核。その破壊力を試す実験でもあったこの戦場。
今回の戦闘では、三機の機体データ以外にも三人の特殊強化モデルの動き方や武装の扱い、そして的確な判断が出来ているかを確認する為のテストだったのだ。
「随分と、危険な“賭け”をされますね。ディアン社長は。」
総司令が放ったその言葉に対し、スルースは言った。
「対象が“人間”ですからね。イレギュラーも起こり得ます。ですが今回の実験は人でなければ成立しなかった実験ですよ。」
FLCシステムを搭載した三機のガンダムタイプ。大脳の、前頭葉のコントロールが問われる戦術。的確な戦法に、闘争本能を剥き出しにするという、一見矛盾しているこれらの要素を合わせたシステム。それらを最大限に生かす為には、搭乗者が“人間”でなければならないのだという。
「機械や人工知能というものが機体を操っていては一定のデータしか取れません。それでは意味がないのです。」
スルースは、両手を横側に背屈させ、ふぅ、と溜め息を吐く。
「総司令、一つ伺いたいのですが、人工知能がこの時代において広く栄えなかった理由をご存知でしょうか?」
話が総司令に振られた。
人工知能。それは言語の理解や推論、問題解決などの知的行動をコンピュータに行わせるというもの。それらが発達し、人々の生活は豊かになっていく予定だった。
「人工知能が発達すれば、それらが意志を持つ可能性があり、やがて人類を抹殺する可能性があったから……でしょうか。」
バン、と、スルースは両手を合わせて言った。
「ご名答ですねぇ!!そうです。意志を持った機械が出現してしまえばやがて人類は滅ぶ危険があった。だからこの世界において機械の発達は、日常生活を快適にする程度までで、最小限に留められたのです。こうした背景もあり、人工知能はシンギュラリティ(技術的特異点)に至る事はありませんでした。」
スルースの言うように、人工知能の発達は、いずれ生みの親である人間を滅ぼす可能性が考えられた。それを危惧した、この世界の旧世紀の人々は人工知能の発展を抑制するように調整していったのだ。
その結果が、この世界観である。故にMS等の兵器に関しては、地球圏においては有人機が普及する結果となった。
「人間には個人差、個別性があります。研究などで大半の情報が明らかになる一方で、個別性に関しては明らかになっていない部分が多い。今回はその、前頭葉を用いての理性コントロールがどれだけ彼等に出来るかを確認する為の実験でした。」
「まるで、モルモットのような扱いですね……」
総司令の言葉は、どこか冷たかった。
「機械じゃありませんからね。故に可能性が広がったと解釈して頂きたいものですね。」
特殊強化モデルの三人は、身体だけでなく、脳も強化されている。空間認識能力は常人を遥かに凌ぐ存在だ。そうした存在が生まれることが出来たのは、彼等が、“人間”であるが故なのである。
「だから総司令、三人の中で一見安定しているように見えるシエル・ホーンドが核ミサイルの抑制に使えるとお思いでしょうけれど、実際は違いましたね。主観的な情報と客観的な情報が不一致となった良い例です。」
そう言って、スルースはコンピュータを片付けた。
「さて、少し長いお話はおしまいです。彼等には少し休憩してもらい、また状況を見て、再出撃の為の調整に入ってもらいますよ。私も、少し休憩を頂きます。」
そう言った後、スルースはブリッジを後にした。残された総司令と、ダリア。
スルースを見送った後に、総司令はダリアに指示を出した。
「ローゼント艦長、引き続き彼等を追跡して下さい。状況によっては私も出撃します。」
その言葉に、ダリアが驚いた様子だった。
「総司令自らが?」
「ええ。あの機体……ガンダムナパームの実力も試せるチャンスですしね。」
そう言いながら、彼はセイントバードの方向を見ていた。
(それに、あの覚えのある感覚……もしかすれば、“彼”が居るのかも知れない……)
この時、彼は何を感じていたのかは分からない。ただ、次の出撃では総司令、レヴィー・ダイルが戦いに参加する可能性があるという事があった。
セイントバードのMSデッキにて。急いで機体の修復作業を開始する整備士達。
「作業急げよ!にしてもなんだよあのガンダム三機は!?ガンダムがこんなにあって良い筈なんてないのによ!!いずれも気味悪い形してやがるしさ!!あんなの、ゲテモノガンダムじゃねえか!」
と、不満を漏らす。ファースト・ガンダム至上主義の彼にとって、今回のような出来事は納得していない様子だった。
その傍ら、ネルソンはアレンの行動を称賛していた。飲料水を飲みながら、アレンに対して握手を交わす。
「アレン。君の実力も大した物だ。初めて乗ったトルクス。その上あの敵相手にあそこまで戦えるとは。」
「いえ、たまたまですよ。必死でしたから、俺も。」
(これも、若さ故なのかも知れないな……戦後になってもあの動きが出来るというのは、やはり英雄と呼ばれただけの事はあるな……)
と、ネルソンは考えていた。
「それよりも……新生連邦があんなガンダムを開発していたなんて……」
アインスから降り立ったレイが言った。
三機のガンダムタイプは確かに強敵だった。もし、ビーム粒子切れを早く起こさなければ、恐らく倒されていた可能性があった。
その時、アレンはレイの後頭部から流れる血を見て、言った。
「と言うか頭から血が流れている奴が何を言っているんだよ。」
「あ……そうだった……痛っ……!」
ネルソンは溜息を吐き、所持していた包帯を、レイの頭に巻いた。
「応急処置だ。本来ならば安静にしたいところだが、敵はまだ去っていない。敵が再び来る可能性もある以上、油断は出来ない。」
包帯を巻き終え、レイは
「ありがとうございます。」
と、礼を言った。
「しかし、相手の動きを見ているとまるでアインスガンダムのみを狙っているように見えました。やっぱりあいつら……」
アレンが言った。新生連邦のガンダムは執拗な程にアインスガンダムを狙っていた。その次にセイントバード。彼等は奪われた物を奪い返そうと、動いていたのだろう。
「まあ、奪い返そうとするのは仕方がない。今回は相手が悪いとしか言いようがない……それにその内の一機のガンダムタイプ、あれは脅威だ。まるで旧世紀から禁じ手とされてきた核兵器を思わせるような……」
「あの、兵器……ですか。」
三人が目の前で見た、赤い光。それは旧世紀の核兵器を思い出させる兵器。
アトミックガンダムが放った、特殊核による核ミサイルだ。絶大な破壊力を誇るそれは、三機のガンダムタイプの中でも最も厄介な存在と言える。
「もしまた戦闘になっても、またあの兵器が使われる可能性がある。それには注意が必要だ。」
「はい。」
アレンとレイ、二人が同時に返事をした。
「各員へ通達です!パイロットはそのままコクピット内で待機してください!もし敵が再び迫ってくれば、第二種戦闘配備が必要です!」
そう言うのはインクだ。先程の戦いが終わって間もない状況。敵艦はセイントバードの後方に常にいる状況。緊迫した状況は、まだ終わってはいないのだ。
「……という事だ。少しでもいい、コクピット内で休むように。」
そう言って、ネルソンは自身の機体であるハルッグに戻っていった。
コクピット内で待機中。アレンとレイは短い会話をしていた。
「なかなかやるじゃないか、レイ。ガンダムに乗ってあんな風に戦えるなんて。」
「いえ……必死でした。でも、セイントバードを守ることが出来た……それだけでも、僕は嬉しいです。」
傷を負ったレイだったが、彼は自然な笑みを浮かべていた。
「それよりさ、どうしてガンダムに乗っているんだ?さっき聞こうとしたけど、結局聞けなかったけど……」
レイは、少し黙った。五秒程時間を置き、言った。
「成り行き……でした。僕自身も、今となっては分かりません。でもそれから色々とあって、ここで一緒に戦う事になったんです。」
「成り行き……か。昔の俺みたいだな。」
「アレンさんも、そうなんですか?」
アレンは、少しだが笑みを浮かべた。
「なんか、同じような感じだな。レイも、俺も。」
デウス動乱と同じ理由でガンダムに乗って戦った……それは偶然なのかも知れないが、レイは奇妙な運命を感じていた。
「ガンダムって、成り行きで乗るMSなんですかね?」
何気なく、レイは言った。
「MSは兵器だよ。本来は簡単に乗って良い代物じゃない。そして、あんな風に恐ろしい人間が乗るべき兵器でもない……と考えているよ。」
アレンの表情から、笑みが消えた。先の戦闘で出現した三機のガンダムタイプ。
その事を思い出したレイは、少し、俯いて言った。
「アレンさん、僕、さっきの相手から怖さを感じました。あの気迫……普通の人間では出せませんよ。いくら怖い性格の人でも。」
「それは俺も感じた。さっきの奴等からはとてつもない戦意を感じる。それに、あの感覚は自然の物じゃない。人為的なものだ。」
力を持つ者同士の会話。ワートンの家で少し会話をした程度の両者だったが、この場においてその話が広がりつつあった。
「人為的な力?そんなの、有り得るんですか?」
レイが聞いた。
「憶測の話にはなるけれど……強化モデル……かも知れないな。奴等は。」
「強化モデル……な、なんだろう……?」
アレンの口から出た言葉、強化モデル。この時、レイにはそれがどのような人間なのかが想像できなかった。
この時、レイは何らかの手段を用いて超人に変身する、特撮ヒーローのイメージをしていた。レイが幼い時から見ていた、変身する英雄、特撮ヒーロー。その亜種のようなものなのかと、レイは考えていた。
「単刀直入に言うと、強化された人間の事だよ。」
「強化された人間?そんなの、有り得るんですか?」
強化モデルと言った存在など、世間で認識されている筈がない。レイのように戦争のない環境で育った人間からすれば、尚の事知る由もないのだ。
「シンギュラルタイプを人工的に作り出した人間。それが強化モデル。」
自分自身にも関わる話であるシンギュラルタイプ。その存在を真似たような人間が強化モデルだと言いたいアレン。この事は、レイにもそれは伝わった。
「強化モデルと言うのは普通の人間でも、ある手術を行えば誰でもなれる存在の事を言う。パイロットとしての技術や、シンギュラルタイプと同様の感覚や空間認識能力を得ることが出来る。その上身体能力も大幅に上昇。並の人間よりも強くなれる。但し、強化された人間は皆情緒不安定に陥る。個人差はあると言われているが、総合的に見ても、組織の為の、戦闘マシーンに成り果ててしまうんだ。そこに個人の意思なんて、ない。」
先程までレイが思っていたイメージは拭われたが、それに対してレイは困惑した表情を見せた。
「そんな、そんな事、有り得るんですか……」
「有り得るよ。デウス動乱の最中はデウス帝国も強化モデルを戦力として使っていたけどね。俺も、そんな奴等と戦った事があったな。」
デウス動乱を勝ち抜いたアレンだからこそ、言える言葉だ。先程の三人のパイロット達は、その時に感じた感覚に似ていたのだという。
「強化モデルって……そんな、人間のやる事じゃないです……こんな、こんなのって……」
レイは悲しんだ。どういった経緯でそのような存在が生まれたのかは知らないが、人として生きている筈なのに、まるで兵器のような扱いを受ける人間、強化モデル。
そのような存在が現実にいるという事が、レイを困惑させる。
「それにな、あの三機から感じる殺意は戦時中俺が戦った奴等と同じか、それ以上のものを感じるんだ。」
「じゃあやっぱりさっきのパイロット達は……」
「察しの通り、その“可能性”が高いって事だ……」
アレンは新生連邦の行動に理解に苦しんだ。デウス動乱時は、デウス帝国が強化モデルを投入し、戦力として使用した。が、今の時代は平和であり、大きな戦争も何もない。
新生連邦軍は軍備増強を続けている。その中で、何故強化モデルという存在が新生連邦に必要になるのかが、分からなかったのだ。
(あいつの目的が分からない……奴は何故このような事をするんだ……?)
アレンは、“誰か”の事を考えているようだった。
一方、レイは強化モデルの存在に対して納得がいかない様子だった。話を聞いただけでも、そのような人間が居るという事自体が悲しい事実だ。そのような人間は人間と呼ぶべきなのかも怪しい。最早只の戦闘マシーン。シンギュラルタイプのような、力を持つ存在に強制的に進化した人種。何故このような存在が出現するのか……レイは、ただ、それが悲しく、悔しい様子だった。
「なんで……なんでそんなことを平気で出来るんですか!?強化モデルなんて……」
まるでアレンに当たるように、レイは言う。
「俺にも分からないよ。そんな存在が生まれるという事自体が、おかしいんだからな――」
ウゥゥゥゥゥゥゥゥ
アレンが話そうとした時、艦内で警報が鳴り響く。そして、インクの声が聞こえた。
「総員、第二種戦闘配備!同型艦、近づいて来てます!」
「来たか……レイ、行くぞ。」
「はい……」
後方より迫る新生連邦軍の戦艦、ウイングイーグル。そして、そこから展開されるMS部隊。
地中海上空にて、新生連邦軍との二度目の戦いが始まろうとしていた。