機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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第二種戦闘配備。セイントバード内に警報が流れ、クルー達は戦いを強いられる。
再び新生連邦との戦いに巻き込まれたクルー達。その中で、敵の中に一機のガンダムタイプが姿を見せた――


第十八話 邂逅、そして確執

 

 第二種戦闘配備の警報が鳴ったセイントバード内部。それぞれのパイロット達はMSの中で待機している状況だ。

 敵艦、ウイングイーグルは新型量産機体、ジョゼフが展開された。その数、十機。

 

ビゴォン

 

いずれもがモノアイを輝かせ、セイントバードへ迫る。ビームライフルを両手部で構え、バックパックのバーニアを展開し、迫る。

 その内の一機のジョゼフのパイロットが、一人、語っていた。

「こんな場所であいつに会えるとはな!理由はどうであれ今度こそ俺の手で墜としてやるだけだ!」

セイントバードにいる、一人の人間に対して執着している様子のその男。新型機体、ジョゼフに乗り、散開し、迫っていく。

 

 ジョゼフが展開されたのを確認したセイントバード。エリィは各員に発進指示を要請。それに従った各MSはそれぞれ、出撃した。

「ハルッグは応急処置を終えたばかりだ。MSで戦う事は難しい為、MA形態のみでどうにか切り抜ける。」

そう言って、ネルソンの駆るハルッグが発進した。

 セイントバードチームからはハルッグと、アインス、そしてアレンの駆るトルクスを含む、六機がSFS、ゾーリドに搭乗して出撃した。

「敵は新型か?あんな機体、見た事がないぞ……」

と、言うネルソン。その間にも、ジョゼフはビームライフルを構え、ハルッグに狙いを定め、射撃を開始した。それに気付いたネルソンは、すぐに回避運動を取る。そして、スイッチを押し、ロングビームライフルを放ち、一機のジョゼフを撃破した。これで、残り九機だ。

(あの戦艦に先程のガンダム三機が残っている事を考えると、無駄撃ちは出来んな。奴等がここに出現すると考えると、少しでもこの機体の数が減る方が良い……)

ネルソンは状況を見極め、周囲を確認し、セイントバードチームの全機体に対し、伝えた。

「この機体はそれ程脅威ではない。数こそ多いが、確実に狙い撃つことが出来れば倒せるだろう。問題は先程のガンダムタイプだ。いつ、奴等が出撃してもおかしくない事を念頭に入れるように。そして、死ぬなよ。」

セイントバードチームのMS乗り達にそう、伝え、ハルッグは戦場を駆け抜けた。

 

 ジョゼフ隊はトルクスと交戦している。単体で飛行能力を要するジョゼフ。機動性は高い。しかし、トルクスもゾーリドを駆使し、空中戦を戦い抜く。敵は新生連邦軍。今までの敵であったMS乗りのような勢力ではない、正式な軍だ。

 レイもアインスガンダムを駆使し、ジョゼフと交戦する。一機のジョゼフがビームサーベルを側腰部から展開し、迫ってくる。それに反応したレイは、アインスのマニピュレーターにビームサーベルを把持させ、ビーム刃を展開し、擦れ違う際に胴体部を切り裂き、撃墜した。これで残りは八機だ。

「アインスガンダム!元はと言えば連邦の物だろうが!!」

別の兵士が言った。ジョゼフはビームライフルを構え、アインスに迫ってくる。

「セイントバードはやらせないんだ!」

そう言って、アインスはビームライフルを構え、迫るジョゼフに対して射撃をし、破壊した。的確な、射撃だった。残りのジョゼフは七機。

(レイ……彼は、凄い人間かも知れない。あの的確な判断や、ライフルの射撃……本当に今まで何の経験もせずに日常生活を送っていた少年なのか?)

トルクスに乗っていたアレンは、アインスの活躍を遠くで見ていた。ビームサーベルの扱いや、敵機体を一撃で撃破するビームライフルの扱い。アインスガンダムを操るレイの、その力が今、遺憾なく発揮されている。それは、シンギュラルタイプの力なのか、彼自身の技量なのかは分からない。レイは、最初にアインスガンダムに搭乗し、戦った時よりも遥かに、強くなっていたのだ。

 

ピキィィィ

 

レイの頭に、電流が流れた――と、同時に、声が聞こえてきた。

「てめえ!見つけたぞ!!」

初めて出会うの敵の筈なのに、レイにとって聞き覚えがある声だった。特徴的な、粗暴な口調の、そのパイロット。レイの中の疑問が、やがて確信に変わっていく。

「クラリスさん!?」

クラリス・デイル。レイの故郷、モントリオールでレイを痛めつけた男。それから因縁を付けて何度も彼に関わってきた男。そして、レイがアインスに乗るきっかけとなった男。

 レイの通っているジュニアハイスクールの校庭でディーストに乗ってアインスと対峙して以来、姿を見せていなかったこの男だが、このような場所で姿を見せた。まさに、奇遇と言える出来事が、生じたのだ。

「てめえ、散々俺に屈辱を与えやがって!けど俺は運が良い!ここでお前を倒して、俺の屈辱を晴らせる時が来たんだからな!」

一方的な言いがかりだ。元々因縁を付けてきたのはクラリスの方であるが、彼にはその自覚がない様子だった。

「そんなの、知らないですよ!」

レイは反論する。しかし、クラリスは負けずに言った。

「お前があの時ガンダムを奪わなきゃ、こんな事にはならなかったんだよ!自分で撒いた種だ!覚悟しやがれ!!」

彼の駆るジョゼフがレイを襲う。ビームライフルを連射し、アインスに襲い掛かる。シールドで防ぎ、反撃でビームライフルを撃つが、回避されてしまう。

「元はと言えばそれは俺の機体だってのにさぁ!!」

クラリスの駆るジョゼフは、ビームライフルを腰部に収納し、側腰部にあるビームサーベルラックを抜き、ビーム刃を展開した。接近戦を試みるつもりだ。

 それに反応したレイは、すぐにビームサーベルをランドセルにあるサーベルラックを抜き、対抗した。

 

バヂィィィッ

 

互いのビーム刃が打ち合う。ビーム粒子が空中を舞い、散っていく。

「以前は市街地だったな!けどここじゃ遠慮なく戦える!今度こそ屈辱を晴らすぜ、レイ!!!」

モントリオールで、レイに四度苦汁を味わったクラリス。いずれも彼の一方的な因縁が原因ではあるが、クラリスは気にする様子を見せない。

 

ダダダダダダダダダ

 

ジョゼフは頭部機関砲を放った。接近戦である事を利用した戦法だ。

 アインスにとってこの攻撃によるダメージは僅かではある。しかし、装甲を傷つけるには十分な威力だ。

「そんなのっ!」

レイは、左手に把持しているレバーにある、スイッチを押した。

 すると、アインスの右肩部から小型のハッチが展開。そこからは小型のミサイルが一斉に展開された。空戦仕様に換装してから、追加された武装が展開されたのだ。

「ミサイル!?」

それに気付いたクラリスは、急いで回避運動を取る。

 間一髪ミサイルを回避したジョゼフ。だが、次にアインスのビームサーベルが迫る。

それにより、クラリスの駆るジョゼフは左手部を切り裂かれた。爆発を起こすジョゼフ。

 左手部マニピュレーターがなくとも、ビームライフルで迎撃しようと、腰部からライフルを構えようとした時だった――

「え―」

ジョゼフのモニターには、アインスガンダムの姿が。目の前で、その脚部が迫ってくるのが見える。

 避けようとするクラリス。しかし――

「邪魔、しないで!」

 

ガキィン

 

シンギュラルタイプとして、その力を開花させつつあったレイにとって、クラリスの駆るジョゼフは最早相手にならない存在だった。その証拠に、アインスはジョゼフを蹴りつけ、そのままジョゼフはコントロールを失う事になったのだ。

その時、クラリスの頬に切り傷がつき、そこからは血が流れた。いくらバーニアを展開しようとも、展開する様子を見せない。コントロールを失ったジョゼフは、そのまま地中海の海へと落ちていく――

「嘘だ……そんなコト……こんな……

こんな屈辱があってたまるかぁ!!!」

その言葉を最後に、クラリス・デイルの駆るジョゼフはそのまま姿を消した。これで、残るジョゼフは六機だ。

「もう、会いたくもない!」

大人しい性格のレイの口から出た、言葉。それ程に、クラリスの存在を毛嫌いしているのが分かる、台詞だった。

 

 

 

 ジョゼフが四機撃墜されたのを確認したウイングイーグル。セイントバードチームが善戦している光景を見て、ブリッジ内はやや焦りを感じている様子だった。

「総司令、あの艦はどのような形で残すべきと考えますか。」

元々ここにウイングイーグルを派遣した理由はセイントバードとアインスガンダムの奪還だ。つまり、セイントバードを撃墜してしまっては今回ここに来た目的が不明になってしまう。

「状況に応じて対応して下さい。場合によっては、あの艦を犠牲にする事もあり得ます。」

総司令は破壊さえやむを得ないと、判断を下したのだ。

「あの艦は元々新生連邦の艦ですよ?奪還ではなく、破壊もやむを得ないという事ですか?」

最初の時と、指示が変わっている。その事に疑問を抱くダリア。

「それはあくまで、可能であればの話です。先の戦闘で相手の動きが見えました。彼等が新生連邦の脅威になり得るのならば、その機体や戦艦も破壊対象にせざるを得ないでしょう。」

ダリアは、それを聞いて静かに俯く。

「何はともあれ、あの戦艦、運が良くて半壊状態が関の山といった所でしょうか。アインスガンダムの奪還も可能か、怪しいかも知れませんね。」

まるで、セイントバードやアインスの奪還を半ば諦めているかのような言い方だ。

「さて、そろそろ私も出撃します。私のガンダム、ナパームで。」

「総司令自らが出撃されるのですか?」

ダリアが言った。

「ええ。気になるものがありますので。」

そう言った直後、総司令は立ち上がる。

「指揮は任せました。敵艦への攻撃は、続けて下さい。」

ダリアにそう言い残した後、総司令はブリッジを去る。彼の専用期待、ガンダムナパームに搭乗する為に。

「敵艦へ照準を絞り、砲撃を開始!ビームキャノン発射!!」

艦長のダリアが指示を出し、それに伴って、ウイングイーグルからビームキャノンが放たれる。セイントバードと全く同じ武装。強力なビーム砲撃が、セイントバードに向けられるのだ。

 

 

 

 ウイングイーグルからの攻撃がセイントバードに向けられる。熱源を確認したブリッジ内は緊迫した状況に陥っていた。

「回避運動を!」

「回避出来ればラッキーって感じっスけどね!」

一方のセイントバードはウイングイーグルからの攻撃に対し、回避を試みるが限界があった。

 ビームキャノンは艦の右翼部を掠った。それに伴い、艦全体が揺れる。

「敵はセイントバードを返して欲しいと思っている筈……だったら、この艦を撃破するような真似はしない筈……!」

エリィはウイングイーグルの様子を伺っている。敵の狙いがセイントバードならば、こちらへの損害は最小限に留める筈と、考えていた。

「熱源来ます!ミサイル四!」

「機関砲で迎撃して!」

エリィの指示通りにセイントバードは、機関砲を放つ。ミサイルはセイントバードに直撃する前に爆発した。

「続いてビーム、三!」

「回避を!」

スラッグに対して回避するように促すが、セイントバード自体が巨艦であり、簡単に敵の砲撃を避けられなかったのだ。

 ウイングイーグルが放ったビーム砲はセイントバード前部に直撃。修復したばかりだった部分が、再びダメージを負う結果となったのだ。

(攻撃が激しい……どうして……?)

セイントバード奪還を目的とするならば、攻撃は最小限に留める筈……と考えていたエリィだったが、想定外の敵艦からの攻撃に対して焦りを感じている様子だった。

 

 

 

 総司令、レヴィー・ダイルはMSデッキへ向かっていた。その際、側近であるソフィアが彼に声を掛ける。

「出撃されるのですね、レヴィー様。」

その声色は、どこか寂しく、不安げだった。

「僕は必ず戻る。敵戦力の確認は、MSパイロットとして確認する必要があると考えているから。」

そう言って、ソフィアの髪を少し撫でた。

「お気をつけて、レヴィー様。」

「ありがとう、ソフィア。」

普段見せない笑みを、この時、彼は見せた。

 

 

 

 ウイングイーグルのMSデッキ内にて。総司令は自身の専用機、ガンダムナパームのコクピットに乗り込んだ。ガンダムタイプ特有の顔貌ではあるが、デュアルアイは鋭い目つきをしており、頭部アンテナは二本。バックパックには二つの巨大なナパーム弾が搭載されている、そのMS。

 

キシィン

 

ガンダムナパームは水色のディアルアイを輝かせた。総司令は左側のレバーを一度動かす。それに伴い、左手部マニピュレーターが指関節の如く、軽やかに動く。

 右手部にはビームライフルを所持しており、総司令専用のガンダムタイプが、今から動き出す。

「ガンダムナパーム、出撃します。」

カタパルトより、ガンダムナパームが出撃した。発信してから2,3秒後、ナパームはMA形態に変形し、セイントバードへ向かった。

 変形したナパームは、脚部にクローを展開している。それは、まるで怪鳥のようなシルエットを描いていた。

(この戦場に、もし彼がいるのならば……それは僕にとって幸運と言わざるを得ない。僕の力が、こんな所で役に立つとは……)

総指令が何を思っているのかは分からない。この戦場で居るとされる、“彼”とは何者なのかも不明だ。しかしこの時、彼はどこか、喜びに満ちた表情を浮かべていたのであった。

 

 総司令が発進した時、休憩室にてガンダムナパームの姿を見ていたスルース。それを見て、静かに笑みを浮かべていた。

「新生連邦の総司令である人間が戦場の最前線にてMSに乗って戦う……彼は正に、指揮官の鑑と呼べる人間かも知れないねぇ。お手並み拝見と行きましょうか、総司令。」

まるで総司令を試しているかのような発言だ。アーステクノロジーが開発した新型機体という事もあり、その活躍に興味を抱いている様子だった。

「こちらも再出撃の準備をしなくてはね。あの三人、もう少し頑張ってくれよ……クク、フハハハ!」

気味の悪い笑みを浮かべ、スルースは休憩室を後にした。彼が向かうのは、ウイングイーグルのブリッジだった。

 

 

 

 戦闘域にて。アレンの駆るトルクスはジョゼフと交戦している。ビームライフルを放つジョゼフに対し、迎撃を行うアレン。

 

バシュゥゥゥゥゥ

 

トルクスのビームライフルが連射されたと同時に、ジョゼフの左上腕部が破壊される。次に、反撃しようと右手部にあるビームライフルがアレンの乗るトルクスに迫る。

「やらせるかよ!」

セイントバードのMS乗りがビームサーベルを展開し、ジョゼフに迫った。銃口を向けられたアレンを守る為に。しかし――

「がら空きだ!」

新生連邦兵がトルクスの後方に回り、ビームサーベルを展開し、後面からコクピットを突き刺した。これによりトルクス一機が撃破された。セイントバードに残るトルクスは五機。アレンを守る為に行動した筈のトルクスの行動が、仇となったのだ。

「クッ!」

仇を討たんと、アレンはそのジョゼフに迫る。その際、彼はトルクスの操縦桿を引いた。その際、トルクスは乗っていたゾーリドから離れた。急な分離に戸惑うジョゼフのパイロット。

 

ガキィン

 

トルクスはそのジョゼフの後方から蹴りの攻撃を行う。その反動で、ジョゼフはコントロールを失った。そして、ビームライフルを放ち、ジョゼフは破壊されたのだ。

 これで、残るジョゼフは五機。ただし、トルクス一機を犠牲にした結果だった。ジョゼフを撃破した後、アレンの乗るトルクスはゾーリドに搭乗し、再び戦闘域を駆け抜ける――

 

ピキィィィ

 

その時だ。アレンの脳に電流が流れた。そして、彼は覚えのある、感覚に襲われる。

(なんだ、この、覚えのある感覚は……)

それは奇妙な感覚だった。危機を察知したと思っていたアレンだったが、それと同時に感じる、“覚えのある感覚”。

 

グォンッ

 

 その直後、彼の目の前を見知らぬMAが駆け抜けた。それは巨大な二基の爆弾を搭載している機体であり、尚且つ中心部はモノアイが輝いていた。そして、そのモノアイはアレンのトルクスを見るなり、視線を向けて来たのだ。

 やがてMAはトルクスの前で変形を行った。そして、ガンダムタイプ特有の顔貌が姿を見せたのだ。その機体こそ、総司令が駆る専用MS、ガンダムナパームであったのだ。

「ガンダムタイプ……!?しかしこの機体は……」

敵ガンダムの視線と、トルクスの視線が合った。その際、両機体の動きが止まった。

 互いに、“何か”を感じているのだろうか。互いのパイロットは、それぞれの機体を見つめ合う。

「お前は……?」

アレンにとっては初めて見るガンダムタイプの筈なのに、彼は妙な既視感を覚えていた。

 次に、ガンダムナパームのパイロットから声が聞こえたのだ。それに反応する、アレン。

「やはり貴方でしたか。アレン。」

新生連邦総司令、レヴィー・ダイルがアレンに反応した。

「レヴィー……なのか……?」

この時に、アレンは確信した。ガンダムナパームのパイロットが、彼の知り合いだという事を。その人間こそ、新生連邦総司令、レヴィー・ダイルなのだ。

 彼等はかつてのデウス動乱で共に戦った過去があった。彼等が所属していた、地球連邦軍第十三特殊部隊に、共に所属していたのが彼等だった。

 かつての戦友同士が、今この場で邂逅した。デウス動乱時は共にデウス軍と戦った彼等が、今では立場を変え、出会う。

「全機、一度攻撃を中断して下さい。」

と、総司令は新生連邦に攻撃を中断するように指示を出した。先程まで攻撃を加えていたジョゼフや、ウイングイーグルの砲撃が、止んだ。

 攻撃を中断した時、総司令はアレンに言った。

「ここに貴方がいるとは思わなかった。まさに、奇遇ですね、アレン。」

「俺だって、まさかお前に会うとは思わなかったよ。5年振り……だな。」

本来ならば再会を喜ぶべきところなのだろう。しかし、彼等は互いに喜ぶ様子を見せなかった。

「デウス動乱の後、行方不明になったと聞いていましたが、まさかここで出会うとは思いませんでした。どうして貴方がここにいるのですか?アレン。」

総司令の質問に、アレンは

「俺だって色々な事があった。一方のお前は随分出世したみたいじゃないか。今じゃご立派な、新生連邦軍の総司令か。」

と、言う。彼の台詞は、純粋に祝福をしているのか、皮肉なのかは分からない。

「僕は貴方が生きていてくれた事に感謝していますよ、アレン。」

総司令はアレンを受け入れるような台詞を言った。

「感謝……?」

「新生連邦軍は、今、軍備増強を続けています。少しでも軍備を増やし、その戦力を増やしていきたいと、考えています。」

自身の目的を語り出した総司令。アレンの表情の雲行きが怪しくなっていく。

「単刀直入に言います。今、僕は貴方の力が欲しい。」

「力だと……!?」

軍備増強を狙う新生連邦。その中で、かつてデウス動乱の英雄と呼ばれた人間であるアレンの存在は、新生連邦にとって強力な戦力になり得る存在だ。増して、彼等は戦友同士。そのよしみもあり、総司令はアレンを、この場で“スカウト”し始めたのである。

「貴方が今何をしているのかは分かりません。ただ、一つ言えるのは、貴方が所属しているその戦艦は、元々は新生連邦軍のもの。それに、あのガンダムも元々新生連邦のものです。」

敵対している存在の中に、かつての戦友であるアレンがいた事実。それに対しても総司令は冷静に対応する。

「貴方がそちらの味方をするということは、連邦への反逆行為をしている一派に加担していると解釈します。それがどういう意味かは、貴方も理解できる筈。」

アレンに選択肢は無いという事だ。確かに今のアレンは連邦に所属していない存在。その彼が、レイを通じて、デウス動乱を共に戦い抜いたエリィと共に行動している。

 総司令、レヴィー・ダイルは新生連邦の軍備増強の為にアレンという戦力を欲している。しかし、アレンの方はそれを望む様子では無い。

「戦後になってお前の活躍は陰ながら見てきたよ。戦争が終わったにも関わらず、軍備増強を続けて、その結果世界各地の治安が悪くなっていっているという事実をお前は知らないんだろうな!」

アレンはアレクサンドリアでの惨状を見てきたばかりだ。バンディットとして孤児院の子供達に勉強を教えたりする筈が、その中で反政府デモと政府軍の交戦に巻き込まれ、挙げ句の果てには新生連邦が子供達を狙うという状況になった。

 それも、全ては新生連邦の軍備増強が招いた結果だ。新生連邦軍が軍備を増強していけば、その弊害が生まれる。テロリスト等の武装勢力にまで、新生連邦の新型機体が出回っているのが何よりの証だ。

「仮にそうだとしても、軍備増強を徹底する事が今後の地球圏を統一する上で必要な方法ですよ。先のデウス動乱で多くの人が死に過ぎました。この悲劇は二度と起こしてはいけない。その為には絶対的な力が必要なのです。」

総司令の言葉。それはどこか冷たく、そして冷酷だ。

「それで、軍備を増強していって更に犠牲者が出ている現状には目を背けてるってのか!そんなのおかしいだろ!レヴィー!」

アレンが返答した時だった。

 

ゴゥンッ

 

と、ナパームはアレンの駆るトルクスのコクピットを向けてビームライフルを構えたのだ。

「貴方が僕の言葉に耳を傾けないのならば、僕は貴方を撃ちます。それだけでない、あの戦艦や、そのクルー達を躊躇いなく、抹殺する事さえ厭わない。」

総司令の、冷酷な言葉。アレンはそれに対し、憤りを感じていた。

「お前……やっぱり戦後になって変わってしまったのか……レヴィー!」

「僕は変わっていませんよ。連邦軍をより強固な組織に作り替えるには軍備を増強するしかない。どうするのですか、アレン。」

銃口を向けられているアレン。下手な言葉でアレンは撃たれる可能性がある。

「貴方に選択肢は無いと思いますが。そもそも貴方は元々連邦軍の人間。その人間が連邦に対して反逆をするという事自体、愚かな話です。」

「お前の思考の方が間違っている……お前の作り出した世界は、偽りの平和に他ならないんだよ!」

「やはり、貴方は愚かだ……」

総司令が、静かに呟いた――

 

バシュゥゥゥ

 

高出力の、ビームライフルが放たれる。ガンダムナパームのビームライフルだ。

 しかし、その砲撃は幸いな事に、アレンのトルクスを貫くことは無かった。彼のトルクスが撃ち抜かれる寸前に、レイのアインスガンダムがアレンを助けたのだ。

「レイ!?」

「危なかったです!」

アインスはアレンのトルクスのバックパックを把持し、その状態でゾーリドから離した。ゾーリドはそのまま直進し、移動するのだが―

「アインスガンダム。彼の危機を察知して移動したようだ。」

ガンダムナパームは腹部からビームキャノンを展開した。そのビームはゾーリドに直撃し、破壊されてしまう。これにより、トルクスは空中を移動する術をなくしてしまった。

「レイ、助けてくれたのは感謝するが、そのままじゃ二人共巻き添えを食らうだけだ。あのガンダムの相手は俺がする。レイは他の奴等を攻撃してくれ!」

「そんな、無茶です!トルクスは飛べないんじゃないんですか!?」

二人が会話をした時、再びビーム粒子の飛翔体が両機体に襲い掛かる。ナパームがビームライフルを構えて射出してきたのだ。

「短時間ならば空中は飛べる!あのガンダムは俺が相手する!」

その言葉を聞き、レイは頷き、トルクスのバックパックを把持していた両手部マニピュレーターを離した。それと同時に、トルクスはバーニアを展開し、ガンダムナパームに向かう。

「アレンさん!気を付けてー!」

レイが叫ぶ。それに対し、アレンが“サムズアップ”を行い、トルクスをそのまま移動させた。バーニアが展開され、短時間とはいえ空中を移動する。

 

 

 

 アレンは総司令と交戦する為にトルクスを駆る。だが、その機体性能差は圧倒的だ。

「全機、攻撃を開始して下さい。」

総司令が指示を出した――

「レヴィーッ!」

その直後、ビームライフルを構え、ガンダムナパームを狙い撃つアレン。

「ガンダムとその機体とでは性能は雲泥の差!それで勝負をする気ですか!いくら貴方が強力な力を持っていようが!」

デウス動乱で共に戦ったが故に、総司令もアレンの力の事を知っている。そして、その力を語る彼もまた、シンギュラルタイプの力を持っているのだ。

「お前のその考えは間違っている!俺はそれを止める!それには機体の性能なんて関係あるか!」

トルクスはビームサーベルを構え、ナパームに戦いを挑む。その間、バーニアの出力を最大限に活かし、接近戦を試みる。

 それに対抗する、総司令。ナパームは側腰部に備わっているビームサーベルラックを抜き、ビーム刃が展開され、両機体の打ち合いが繰り広げられた。

「貴方のその力を新生連邦の為に使えば、地球圏の統一に貢献出来ます!貴方の選択は誤ったのです!」

「戦争が終わったのに未だにこんな事をして!!」

「必要だから行うんですよ、アレン!貴方の言葉には何も感じませんよ!」

戦力増強しか視野にない総司令と、それを否定するアレン。アレンはアレクサンドリアでの現状を知っているからこそ、語れるのだ。

「世界中で起きている内乱やテロリズムは、お前の掲げる軍備増強によって更に生じているんだよ!その事から目を背けるな!レヴィー!」

「それが起きようとも、ならば更に軍備を増強すれば良い!僕は新生連邦の総司令だ!!」

やはりナパームのビームサーベルの出力は高い。トルクス程度のMSでは、歯が立たない。

 

ズバァッ

 

やがてナパームのビームサーベルは、トルクスの右手部を切り裂いたのだ。急いで左手部マニピュレーターでビームライフルを構えようとした時だった――

 

ガキィン

 

トルクスは、瞬く間に変形していたMA形態のナパームの、脚部のクローに、両肩部が挟まれる形となった。

 MA形態のナパームは両脚部からクローが展開されている状態である。MA形態でも使用可能な近接兵器であるそのクローは、このように敵機体を鷲掴みにするといった事が可能なのだ。

「何の真似だ、レヴィー!」

アレンが叫ぶ。だが、総司令は冷静な言葉で返す。

「武器を使えなくしました。その機体はもう、何の役にも立ちませんよ。」

両腕部がクローによって鷲掴みされ、一切の武器が使えないトルクス。その様子は、まるで巨大な鷹か鷲に、両腕を掴まれたような構図だった。

「かつての戦友としての、せめてもの情けです。もし僕と共に新生連邦に加入する事に同意するのなら、このまま貴方をウイングイーグルへ連れて行きます。」

「断ればどうなる?」

「このまま両腕を破壊します。そうなればその機体は海に落ちるでしょう。貴方に選択肢は、ありません。」

それは紛れもない、脅迫だ。かつての戦友に対する脅迫。アレン・レインドと言う人間を戦力にしようとする、新生連邦総司令の強引な方法。

 アレンはこれに対して必死に抵抗する。両腕部を離そうとするが、ナパームの脚部クローの握力はトルクスの動きを完全に封じている。

「アレン、貴方はその力の使い方を間違ってはいけません。僕は貴方と共に戦って、その奇跡的な強さを目の当たりにしていた。だからこそ、今の時代に貴方の力は喉から手が出る程に、欲しい……」

総司令の目つきが、僅かに優しい目になった。彼の水色の虹彩は、トルクスをじっと見つめる。

「お前は変わってしまった。俺はお前のやっている事に対して協力する気にはなれない。」

「何故?僕達は共に力を持つ者同士。それらが互いに力を合わせれば、より世界は良い方向に導かれる!アレン、貴方はどうして拒否をするのですか!」

アレンに拒否をされ、悲しむ総司令。彼の意志は、アレンに伝わらない。

 過去に仲が良かった者同士は、年月を経て道が分かれ、やがて互いに多くの経験を積む。その結果、再開した両者の思考や見解は時に対立する事がある。今の両者がまさに、その状態だ。昨日の友は今日の仇とは、よく言ったものだ。

「地球圏の統一とか言って、それが本当の平和に繋がるのか?現に犠牲者が出つつある世界で、お前は何を考えている?」

アレンの言葉が、響く。

「多少の犠牲というのはいつの時代も付き物です。それを考慮し続けていては、恒久和平の実現は夢のまた夢です。」

「お前!」

トルクスの腕部は、動く気配を見せない。ナパームのクローは、更に強く握力を強める。

「アレン、貴方の力が新生連邦の為に役立てないのは非常に残念です。僕達は力を持つ存在。その力は組織の為に貢献すべき力なのに……」

その時、ナパームのクローの出力がやや上昇した。トルクスは、抵抗しているが離れる様子を見せない。

「戦時中の貴方の奇跡ともいえる力……僕はそれに魅了された人間の一人なんですよ?貴方はシンギュラルタイプ……いえ、それを超える者なのに……」

シンギュラルタイプを超える存在と、総司令は言った。常人よりも優れた力を持つシンギュラルタイプを超える存在とは、どういった存在なのか。

「新生連邦の力にならない貴方は、不要だ……シンギュラルタイプを超える存在……

アドバンスドタイプの力を持つ貴方なのに!!!」

 

ブゥン

 

ナパームのクローの先端部から、ビーム刃が展開された。その瞬間に、トルクスの両腕部が引き裂かれた。刃の熱により、両腕が切り裂かれたのである。

「さよなら、アレン……」

この攻撃で、アレンの駆るトルクスはそのまま海に落ちていく。バーニアの推進力は僅かしか残っていない。その状態で空を移動など、出来る筈が無かったのだ。

「レヴィーッ!」

重力がトルクスを海へ引き寄せていく。それに対し、総司令のガンダムナパームはこの場を去って行く――

 アドバンスドタイプ。総司令、レヴィー・ダイルが残した台詞。アレンは確かに奇妙な力を持っている人物だ。しかし、その単語は一体何を意味するのだろうか。

 アレンの駆るトルクスは落ちていく。このままでは墜落し、破壊は避けられない。

「アレンさん!!!」

堕ちていくアレンのトルクスに反応したレイ。助け出したい気持ちはあったのだが、今からトルクスへ向かうには、距離がありすぎた――

 そして、その間にもジョゼフが邪魔をしてくる。この為、レイでは落ち行くトルクスを助け出す事は出来なかったのだ。

 

ガキィン

 

その時、彼を間一髪救出した機体があった。ハルッグである。

「ネルソンさん!」

「無事か、アレン!」

脚部を損傷しているハルッグはMA形態で運用している。バーニアの出力が充分でないハルッグだが、トルクス一機を救出する事は可能だった。

「その状態では戦えないな、一度セイントバードへ送る。」

「ありがとうございます!」

アレンはネルソンによって救出された。ハルッグは両腕のないトルクスを、一度セイントバードへ運んでいく。

 総司令とアレン。両者はこの戦場で邂逅し、そして互いに確執が生まれてしまった。今回の戦闘では総司令がアレンを破った。それは機体性能差であるのだが、アレンにとっては勝負に負けたという悔しさよりも、かつての戦友が変わってしまったという悲しさの方が、勝っていたのであった。

 

 

 ハルッグがトルクスを助け出したのを見届け、安心するレイ。そして引き続き、アインスガンダムはセイントバードに向かうジョゼフの迎撃を行っていた。ビームライフルのフォアグリップを握り、ビーム粒子の飛翔体を、ジョゼフに浴びせる。その一撃で、ジョゼフ一機が撃破された。これで、残るジョゼフは四機である。

 

ピキィィィ

 

その時、レイの脳に電流が流れる。それと同時に迫ってきたのは、ガンダムナパームだ。MA形態のまま、モノアイを輝かせてアインスに迫る。

 アインスに近づいた時、すぐに変形を開始。ガンダムタイプの顔貌を見せつけ、そしてビームサーベルを抜き、迫る。

「さっきのガンダム!」

レイはすぐに反応し、ビームサーベルで対抗した。ビーム刃同士が弾け、スパークを作る。

「その機体は返してもらいますよ、アインスガンダムのパイロット。」

声が聞こえる。やや低めの、女性のような声。総司令、レヴィー・ダイルの声だ。

(この人から感じる感覚……まさか、この人もシンギュラルタイプなの?)

レイがナパームから感じる力。それは、総司令がシンギュラルタイプである事を感じ取っていた何よりの証と言える。

「貴方からは力を感じます。けれどもそれは、未熟な力だ。」

総司令はレイの感覚を、未熟と侮る。

「しかし、ガンダムを奪ったという事に関しては感心しますねっ!」

次にナパームは、至近距離で腹部からビーム砲を放った。高出力のそれが、アインスに向けられた。

 それに反応したレイは、回避運動を取る。その後に、足元のスイッチを押し、背部のビームキャノンの砲身を展開し、ナパームへ狙いを定める。

 ビームキャノンは発射された。回避運動をとるナパーム。しかし、回避が遅れ、僅かだが左脚部が掠れてダメージを負った。

「今の反応の早さ……未熟と言ったのを、撤回した方が良さそうですね。」

未熟な力と侮っていた総司令だったが、ナパームに傷を付けられ、その目つきを変えた。

「その力は、新生連邦の為に役立てる事も考えてはどうでしょうか、アインスのパイロット!」

アインスのコクピット内に、総司令の声が響く。それに対し、レイは

「そんなの、嫌だ!」

と答えた。

(パイロットの声……少女の声……?いや、この感覚は少年の、若い感覚だ……)

総司令は直接レイの顔を見ていない。だが、彼のシンギュラルタイプとしての感覚がレイの存在を感知し、反応しているのだ。

「こちらも手段は選んでいられません。これを使ってあれを攻撃してみましょうか。」

すると、ナパームはMAに変形。その後、バックパックに搭載しているナパームランチャーを、一斉に発射したのだ。二基のそれらの質量はナパームの機体の八割程の大きさを占める。

 おおよそ15メートルもの質量が向かう先……それは、セイントバードだ。もし、そのような兵器が直撃すれば、撃墜は免れない。

「しまった!」

レイは焦った。こうなれば、ナパームの相手をしている場合ではない。急いでナパームの弾を止めなければならなかったのだ。

 総司令がセイントバードを半ば諦めていた理由の一つが、こうした実弾兵器を用いて、その性能を確かめるという目的があったからだ。ナパームによる砲撃……それは、彼の冷酷な一面が、このように合間見えた瞬間だった。

アインスはナパームから離れ、セイントバードにそれが直撃する前に撃ち落とそうと、ビームライフルを放つ。もし至近距離でもそれが爆発すれば、損傷は避けられない。

「あんなの、当たったら……!」

急ぐアインス。だが、それを邪魔するジョゼフ。アインスに向けてビームライフルを放ち、妨害する。これらを回避し、アインスはビームライフルでジョゼフを撃ち抜き、破壊した。

 巨大なナパーム弾はセイントバードに迫りつつある。ビームライフルの射程距離では、届かない場所にあるその質量。その為、違う武器でそれらを破壊する事を考えたのだ。

「お願い!当たって!」

セイントバードをやらせる訳にはいかない――その純粋な思いで、レイは足元のスイッチを押し、背部のビームキャノンを展開。狙いを絞り、放つ。

 高出力のビーム粒子は空中を駆け抜け、ナパーム弾二基に直撃。そのまま、爆発を起こした。爆風は衝撃を起こし、500メートル程離れていたセイントバードにも衝撃が伝わる。損傷こそなかったが、艦全体が大きく揺れた。

「間に合った……」

と、レイが安心したのも束の間――

 

ブゥン

 

ナパームが、ビームサーベルを構えて接近する。咄嗟にレイは反応し、これに対処した。再び、両機体は打ち合いを行った。

「素早い反応ですね!力を持つ存在というだけの事はある……!」

打ち合いを終えた後に、ナパームはアインスと距離を開き、ビームライフルを連射する。避けるアインス。避けきれないビームは、シールドで防御して耐え抜く。

「この人、強い……!」

ナパーム弾を撃ったガンダムナパームだが、その兵器がなくとも戦える。武装の数もアインスと違い、ビーム兵器が多い。

 ナパームは左前腕部に装備しているシールドを構えた。そして、その先端に2門搭載している砲門を開き、ビーム砲を放つ。それを回避し、アインスはビームライフルで迎撃。しかしその攻撃も、避けられる。

「アインスのパイロット、貴方は何者ですか?その力をそのような、ならず者の為に使うのは惜しいですね!」

総司令は、戦闘の最中レイに話しかける。

モントリオールでアインスが奪われたという情報は聞いていた。だが、その正体がレイのような少年であるなど、総司令自身、驚きを隠せない様子だったのだ。

「僕は守る為に戦っているんです!相手の機体がガンダムだからって!」

セイントバードを守る為、戦うレイ。アインスはビームライフルを構え、ナパームへ向けて連射する。

「貴方も、力を持つ者なら、もっとその力を有効活用すべきだ。貴方のような人材こそ、新生連邦に必要ですよ。」

総司令は、レイを勧誘するような発言をした。実力を認めたのだろう。しかし、レイはその勧誘に乗る筈がなく――

「嫌に決まっていますよ!」

「そう、それは残念です――」

 

バシュゥゥゥッ

 

総司令が言った直後だ。アインスの後方よりビーム粒子が駆け抜けた。それを急いで回避するアインス。

「三つの機影!?まさか!」

レイはすぐにモニターを確認する。そこにいた三機こそ、先の戦闘で猛威を振るった特殊強化モデルのガンダムタイプ達だった為である。

 スルース・ディアンが総司令の確認も取らず、独断で三機を再び出撃させたのだ。

応急処置を終えているとはいえ、いずれの機体も僅かな損傷が見られる。特にデスペナルティは左翼部が破壊されている状態での出撃となっていた。

「ディアン社長、勝手な判断を……まあ、いいでしょう。この場は任せます。」

そう言った後、総司令は去って行く。

「オラァ!アインスガンダム!」

その直後にアトミックガンダムがビームランチャーを構え、アインスに攻撃を仕掛ける。

「そんな、これじゃ……!」

最悪の状況だ。再び出現した三機のガンダム。圧倒的な性能を誇る三機のガンダムタイプに、総司令の専用のガンダムタイプ。そして、ジョゼフが四機。トルクスはまだ四機が残っているが、その性能差は圧倒的だ。

「レイ!」

今度はネルソンがハルッグで援護に駆け付ける。ロングビームライフルを放ち、ガンダムタイプに向けるが、回避される。

「蝿野郎!」

デスペナルティが二重大鎌を駆使し、その先端からビームキャノンを展開した。

「やれやれ。」

それに続くように、バイラヴァーも槍からビームキャノンを展開。幾つものビームの飛翔体が、一斉に迫る。

 辛うじてこれらを回避する二機。そして、その中にトルクス二機がビームライフルを放ちながら迫ってきた。

「無理だ!よせ!」

そう言うネルソンだが――

「雑魚が消えろってんだよ!」

と、デスペナルティは鎌を振るう。

 

ズバァッ

 

トルクスの胴体が切除された。これに伴い、パイロットも胴体を引き裂かれ、死亡。トルクスは爆発を起こした。

「面倒臭い奴だな。」

今度はバイラヴァーが槍を展開し、トルクスの後方に移動。バックパックに隠されている二基の隠し腕を展開し、槍を振り回した。そして、先端でトルクスの頭部から串刺しにする。そのまま、ビームを放出し、トルクスを撃破。

 この一瞬の出来事で、二機のトルクスを失う事になった。残るトルクスは、二機だ。セイントバードは危機的状況に陥ってしまっている。

「お前等。あの戦艦、やろうぜ。」

と、シエルが一言言った。そして、視線をセイントバードの方に向ける。

 既に損傷を受けつつあるセイントバード。もしこの三つの牙が向けられれば、無事では済まないだろう。

「もう少し楽しまねぇの?こいつらとのバトルをよぉ!」

ニッカが、言った。すると――

「お前、命令も聞けねぇのか?ああ?」

シエルが激昂し始めた。それと同時に、バイラヴァーのトリシューラランサーがデスペナルティに向けられる。

「シエルの言う通りやろうぜ。こいつキレたらめんどくせえんだよな。」

今度はハーディが言った。ニッカは舌打ちをした後に、セイントバードの方を見て、言った。

「ったくしゃあねえなあ!」

片翼のデスペナルティは、鎌の先端部からビームを連射する。いずれもがセイントバードに直撃し、ダメージを与える。

 攻撃はそれだけに留まらない。アトミックはMAに変形して、ビームランチャーやマシンガン等の武装を一斉に展開してセイントバードに攻撃。バイラヴァーもビームライフルと槍の先端からのビームを放ち、セイントバードに一斉に攻撃する。

 セイントバード側部はこれらの攻撃を受け、火が上がっていた。アレクサンドリアで修復をしたばかりのセイントバードは、これらの攻撃を受け、損傷が甚大に広がっていたのだ。

「やらせるかっ!」

そこへ再びハルッグが駆け付けた。ロングビームライフルを放ち、三機のガンダムに攻撃を仕掛ける。セイントバードを、守る為に。

「蝿野郎!ぶっ殺す!」

自分が囮にならんと、ハルッグが三機を誘導する。しかし性能差が圧倒的なこれらの機体と一機でやり合うには、無理があった。

「あいつは俺がやってやるんだよ!!」

ハーディが言った。そのまま、アトミックでハルッグを追跡し、砲撃を行う。

 

 MA同士のドッグファイトが始まった。武装の数は、アトミックの方が多い。後ろに突かれては、ハルッグが不利だ。

「一度旋回すれば……」

と、ネルソンが言った後、機体を旋回し、アトミックの後ろに突こうと狙っていた。

「無駄なんだよ蝿野郎が!」

だが、それを見切ったかのようにアトミックがビームランチャーを展開し、攻撃を加える。それは前方のみでなく、後方にも角度を調節する事が出来る。それだけでない、ガトリングやマシンガンといった実弾射撃も脅威となり得る。

 更に、ミサイルを展開してきた。これらの武器が、一斉にハルッグに迫る。

「避け切れない!?」

多数のビーム、実弾が襲ってきており、これらを回避し続けるには限界があった。

 ハルッグは何発かの実弾に当たってしまう。この際に爆発を起こし、左部のビームキャノンが使用不可能となってしまった。

「ぐうぅ!」

被弾しても、敵は止まる事を知らない。容赦のない攻撃が続く。

 

 セイントバードが襲われている最中、アインスがデスペナルティとバイラヴァーと交戦していた。多数の射撃兵器を持つバイラヴァー。先の戦いで行った一斉射撃を行った。

 避けようにも、間に合わない。この時、レイは一つの事を考えていた。

(ビームサーベルだって打ち合いになるんだ……じゃあ、キャノンだって打ち合いに出来るハズ……!)

これは彼にとっての賭けだった。ビーム同士が振れれば、それらが相殺されると考えたレイ。避け切れないのならば、こちらが攻撃をして防ぐしかない……と、考えた。

「出来れば確保と言っていたが!無理なら壊すだけだ!」

シエルがそう言った直後、バイラヴァーの全ビーム兵器が展開されようとしていた。両肩のビーム砲、腹部のビーム砲、そして左手部のビームライフル、右手部の槍の先端部。

 

ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ

 

一斉に展開されたビームは一つの巨大な光に収束する。

 一方のアインスはビームキャノンを展開し、その光に向けてビーム砲撃を開始した。

 

ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ

 

互いのビームが、交じり合う。

しかし、敵の一斉射撃の方が、火力が上だったのだ、幾分かビームを防ぐ事は出来たのだが、防ぎ切れない分はシールドで防ぎ、補った。

 しかしそのシールドの耐久値も限界だった。この為、シールドと共に左腕部は消失。その衝撃を、レイはまともに受けてしまったのだ。

「あああああ!」

激しいビームを受け、機体が揺れる。その衝撃でレイは再び頭を打つ。先程怪我をした部分から血が、再び流れたのだ。

「終わりだな、お前。」

ビームを放出したバイラヴァーが迫ってきた。トリシューラランサーはアインスを狙い、串刺しにしようと迫っている。

 

ピキィィィ

 

その時、レイには敵の動きが緩慢に見える現象に陥った。槍がこちらに向かってくるのが分かるのだが、その動きは遅い。後方へ移動すれば回避できると、考えたレイは、すぐに操縦桿を引き、アインスのバーニアを展開して後方へ移動した。

「今の動きを避けた!?」

確実に、仕留めたと思ったシエルは驚愕した。

 

 

 

セイントバード艦内は迫る敵機体を迎撃しつつ、後退していく。しかし敵の攻撃は激しい。MSだけでなく、敵艦、ウイングイーグルも容赦のない攻撃を続ける。この状況が長引けば、セイントバードが沈められるのも時間の問題だった。

「損傷甚大!艦長、これ以上は厳しいです!敵の攻撃が激しすぎて……クソッタレ!」

焦りつつもスラッグは懸命に艦の舵を取る。一方でインクが損傷について伝える。主砲の砲撃手達からも連絡が回ってきており、ブリッジ内はパニック状態だった。

「ど、どうしましょう!?これじゃあ……」

インクは冷静に艦の情報をエリィに伝えることも難しい程に焦っていた。そんな絶望的な状況の中、エリィは静かに口を開けた。

「最早手段は選んでいられません。スラッグ君、セイントバードを180°旋回。敵艦に向けて。」

「え、この状況で、ですか!?死に行くようなもんですよ!?」

現在、ウイングイーグルを背にセイントバードは逃げているような状況だ。しかしそれでも敵艦やMSは迫ってくる。このまま攻撃を受け続けては、セイントバードは海の藻屑に成り果てるのは時間の問題だ。

 そこでエリィは危険な賭けに出た。セイントバードを180°旋回するという、危険な行為。一見無謀な行為に見えるが、エリィには考えがあったのだ。

「指示には従いますけど……どうするんですか!?」

そう言いながらスラッグは舵を取り、セイントバードの旋回を開始した。翼を広げた巨体は大きく旋回する。接近していた機体は一度距離を取るなどの工夫をし、直撃しないように避ける。

「旋回した後でビームカノンを展開します。目標は、あの戦艦よ。」

エリィは、以前にビヤーバーンを撃墜した、セイントバード最強の武装、ビームカノンを使用しようと考えていたのだ。

「ま、マジっすか!?こんなにダメージ受けてるのに!?今あれを撃てば艦が持つか分かりませんよ!?」

損傷が激しいセイントバード。この状態で絶大な威力を誇るビームカノンを撃てば、スラッグの言うようにセイントバードがその反動に耐えられなくて崩壊してしまう危険性があった。

 やがて巨体は旋回を終えた。両艦は、まるで向き合うような構図になる。

「このまま逃げようとしても敵のガンダムタイプにやられるだけ……なら、あの戦艦に退場してもらうしかない!戦艦さえ損傷を受ければ敵は撤退せざるを得なくなる筈!」

エリィの意見は間違っていない。いくら強力な戦力が揃っていようとも、その母艦が破壊されれば全ては終わる。変える場所を無くしたMSは補給なども受けることが出来ない。そして、MSの推進力のみでは移動に限界もある。

 そうした敵の母艦を叩く事で、敵の撤退を狙うという、僅かな希望に、賭けるのだ。

「危険ですよ、艦長!」

スラックが心配をする。しかし、エリィはこれに対し、言った。

「大丈夫!セイントバードはそんなに柔じゃないわ。それに、あれを撤退させなきゃ本当に沈められてしまう!やるしかないのよ!」

エリィの声がブリッジ内に響く。それを聞き、皆が静かに、了承したのだ。

やがて、ビヤーバーンを破壊した時のように、セイントバードの上部から巨大な砲身が出現した。やがてそれはウイングイーグルに向けられ、徐々にエネルギーが蓄積されていく。

 

 

 

「敵艦、高エネルギー反応検知!」

ウイングイーグル内部はセイントバードの動向を見ており、その不穏な動きを監視していた。艦の先端部に集中しているビーム粒子の光を見て、ダリアは焦りの色を見せる。

「奴等、まさかビームカノンを撃つ気か?」

同型艦であるが為、武装も把握しているダリア。だが敵艦がその攻撃に及ぶなど、想像をしていなかったのである。

「おや、雲行きが怪しいですねぇ、艦長さん。」

休憩室から移動しており、ダリアの傍に居たスルースが、笑みを浮かべて言った。その時、何故か笑みを浮かべている。

「回避行動、取れ!直撃すればウイングイーグルとはいえ持たんぞ!」

その指示に従い、ウイングイーグルは回避運動を取る。しかし、巨艦であるそれが完全に回避するには、時間を要するのだった。

 

 

 

「充填完了しました、艦長!」

セイントバードはビームカノンの充填を完了させていた。もし、この砲撃を外せばセイントバードに後はない。大きな反動のみを残し、その後で敵に攻撃をされれば、それこそ撃墜は免れない。彼等の旅は、ここで終わってしまう。レイも故郷に帰ることが出来なくなる。

 この状況を打開するには、この一撃に賭けるしかない。エリィは、一度目を瞑り、そして、見開く。

「発射ぁ!!!」

彼女は指を指し、指示を出した――

 

ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

エリィの声と同時にそれは発射された。ガンダムタイプが放つビーム兵器とは比にならない、その火力。数多のビーム粒子の集合体が、一斉にウイングイーグルに向けられる。

艦内の反動は想像以上のものだった。セイントバードの装甲はいくらか剥がれ落ちる。激しく揺れる艦内。クルー達は何かにしがみつき、その身体を保とうとする。

一方のビームカノンは、ウイングイーグルの左翼部に直撃。これにより、ウイングイーグルは平衡感覚を失い、水平な航行が出来なくなったのだ。

「左舷エンジン大破!これ以上の戦闘では艦を安定した角度に保てなくなります!」

「クッ……やってくれるな……軍所属でないならず者と侮り過ぎたか……ここは引くしかないか……」

ダリアは潔く負けを認めた。現在出撃している機体は優秀でも艦が墜ちてしまえば話にならない。だから撤退せざるを得なかったのだ。

「へぇ、ただのMS乗りにしては優秀ですね。ここまで追い込むとは。」

母艦が被害を受けているにも関わらず、スルースは特に焦る様子もなく冷静にこの状況を見ていた。そんなスルースの様子が気に食わなかったのか、ダリアは言う。

「先程から気になっていましたが……自身の命は惜しくないのですか。」

「いや、惜しいですよ。けど敵もなかなかやりますね……と思いまして。フフ、あの三人の実践としては良い記録が残せましたよ。敵にありがとうございますとでも言っておきたいですね。」

まるで他人事のようにスルースは言う。この男の言動に、ダリアは苛立ちを覚えていた。

 

 

 

「艦が損傷を受けていては、撤退しかありません。総員、撤退を。」

戦場で総司令が指示を出したと同時に、残りのジョゼフと三機のガンダムは、中破したウイングイーグルへ帰還していく。

(また会いましょう。アインスガンダムのパイロット……そして……アレン……)

この戦闘の中で、彼はアレンや、レイと交戦した。そしてその実力を認め、それを認めた上で去って行くのだ。

 シンギュラルタイプ、特殊強化モデルといった力を持つ人間達が集った戦場。セイントバードにとっての壮絶な戦いは、ウイングイーグルの撃退という形で幕を下ろした。

 しかしセイントバードにとっては無事で済む状況ではない。もし何らかの一撃を受ければ、破壊は免れない状況なのだ。一刻の油断も出来ない状況が、再び始まったのである。

 当然ながら、三機のガンダム達も撤退した。撤退命令を聞いた三人は、悔しさに満ちた表情を見せながらこの戦場を去って行く。

セイントバードの行動が功を成し、彼等は奇跡的な勝利を収めた。ビームカノンを撃ったのにも関わらず、セイントバードは崩壊する事もなかった。だが、激しい損傷はまだ残っている。もし別の敵に出会えば、次こそは沈められる可能性が十分に考えられた。

「なんとか……撃退ね。」

「ふぅ~、危なかったぜ。本気で死ぬかと思った。」

「しかし、凄く丈夫ですね、セイントバードって。」

スラッグとインクの表情が、次第に解れていく。緊迫した状況が去った、何よりの証と言えた。

「そりゃあ……だってさっきの新生連邦の艦と同型艦だからね。敵のエース機体が一杯搭載されている艦が丈夫な戦艦でないと困るでしょう?それを信じたの。そしたらやっぱり、この通り!」

そして、先程までの険しい表情だったエリィに笑顔が戻った。

 強敵を撃退出来たという喜びと、それ以上の被弾を受けては危険と言う状況。現在、セイントバードは交戦中でないとはいえ、緊迫した状況であるのには変わりない。

「しかしこのままの航行じゃ確実に危ないわ。とりあえずどこかへ一度着陸させる必要があるわね……」

戦闘での損傷は甚大だ。航行出来ていること自体が、奇跡と言える状況。現在も応急処置として消火作業は行ってこそいるが、万が一何らかの砲撃を受ければ、それが致命傷になりかねない。

「艦長、ここからならキプロス島が一番近い陸地です。移動しますか?」

インクが言った。

 キプロス島。旧世紀ではEU加盟国だったその島。現在は中立国という立場にあるその島は、デウス動乱後はMS乗り等の補給箇所としての役割を果たすようになっている。だが先のエジプトやアレクサンドリアのような治安の悪さはなく、観光業として成り立っている島である。戦後の内戦等の報告はなく、安全な島と言える。

「ええ、そうしましょう。皆に伝えます。一度キプロス島へ!」

セイントバードはキプロス島へ向かうことになった。艦を、少しでも修理する為に。

 

 

 

キプロス島を目的地にした事をエリィは全員に伝えた。その間にも、先程の戦闘からパイロット達は全員帰還した。

この戦闘でトルクス三機が失われた。一機は機体そのものは存在しているが両腕部を無くした状態で帰還し、待機していた。アレンが総司令と交戦した機体だ。

「お疲れ様です大尉。やっぱり連戦はキツいですね……三人も、やられましたね……」

「……ああ……」

セイントバードを支える貴重な戦力であるトルクスが、三機も失われた事……それは、彼等にとって大きな負担に繋がるのである。

「にしても、合計ガンダムが四機……新生連邦、まじでヤバい存在ですね……」

「大きな戦争も敵勢力もない時代なのに、何故あのような兵器を作り続けるのだろうな……理解に苦しむな……」

シンのように、ガンダムと言う存在を神聖視している人間からすればガンダムタイプがこうも多く戦場に出る事等、今までありえない事だと考えていたのだ。それが先の戦闘で起きたという事実は、シンを驚愕させるのには十分と言えた。

一方で、帰還したレイはアインスから降りた。その際、既に降りていたアレン達と合流する。

「また、血が出ているじゃないか。」

「さっきの戦いで怪我しちゃって……痛っ……!」

バイラヴァーと交戦した時に、レイは最初の戦闘で出血した部分を、再び打ったのだ。その血はぽたぽたと、MSデッキの床に染みこんでいた。

「連戦だったからな……応急処置しか出来なかったのが悔やまれる。レイ、君は安静にした方がいい。一緒に連れて行こう。アレン、私がレイの容体を確認した後、君はレイと一緒に居てやって欲しい。」

「え、良いんですか?修理とか手伝わなくても……」

アレンが聞いた。それに対し、ネルソンは答える。

「看病というやつだ。怪我人には誰かが寄り添ってやる必要がある。修理は整備士の皆が頑張ってくれるからな。ああ、落ち着いたら君も休憩してくれ。せっかくここに入ってくれたばかりで何かを手伝わせるのも悪い。」

アレンはそれを聞き、静かに頷いた。

この後、戦闘がないと考えたネルソンは、アレンと共にレイを一度部屋へ連れて行くことにした。レイ自身の怪我は打撲からの出血。だが包帯を巻く程度の応急処置だけで戦闘を行うという危険を冒した為、念の為に医者であるネルソンが同行する事にしたのだ。

 

 

幸い、レイの怪我は軽傷だった。それを確認したネルソンは部屋を去り、MSデッキへ向かう。アレンはネルソンに言われたように、レイの看病を行う。

「痛っ……」

「大丈夫か?」

「はい……あの、ありがとうございます。」

「ネルソンさんに言われてるからな。看病してやって欲しいって。」

看病してくれているアレンに、気遣うレイ。その際、レイは先の戦闘でのアレンの行動に対して質問をした。

「さっきの、大きな爆弾を持ったガンダムのパイロットとは知り合いなんですか?会話してるようでしたけど……」

それは総司令、レヴィー・ダイルの事だ。

「かつての……戦友だな。あいつとは。」

「デウス動乱の時のですか?」

「ああ。」

アレンは、顔を俯き、レイに語る。

 これらの事を語り終えた時、レイは驚愕した。何せ、アレンと総司令が繋がりがあったという事や、自分が総司令と交戦していたという事実。それ等を知った為である。

「新生連邦のトップの人……レヴィー・ダイル……僕はそんな人と戦ってたなんて……それに、アレンさんも……」

総司令の名前は有名だ。メディアでも名前は聞く。日常生活を送っていたレイも、その名前は知っている。

金色の髪色をした、水色の眼をした容姿端麗な青年、レヴィー・ダイル。中性的な顔立ちが特徴的な若い彼は、新生連邦の総司令と言う重要な立場に居る存在だ。

「今のあいつは全てが間違っている。こんな世界を作り出して、何がしたいんだって話だ。」

「……それで、あの後で戦ったんですよね。」

その時、レイが一言、言った。

「それで、やられちゃったんですよね。」

彼の表情は険しい。アレンはそれを見て、瞬きをした。

「説得したかったんだ。でもさ、やっぱりあれじゃガンダムには勝てなかった。あいつの機体は新型機体みたいだからな。手強かったよ。本当に。」

アレンが言葉を発した時、レイは

「なんでそんな、平気な顔をしているんですか?」

「平気な顔?」

「全然、怖そうな顔をしていませんよ。まあ、仕方なかったって感じの顔をしてますよ。」

アレン自身、総司令に敗れた事に対して何も感じなかった。だがレイから見れば、明らかにそれは異質に見えたのだ。

「負けたなら負けた時だ。それが戦場だしね――」

その言葉を、レイが遮った。

「死ぬかも知れなかったんですよ!?」

と、声を荒げた。アレンはそれに対して、黙った。

「飛べない機体でガンダムに挑むなんて……あんなの、負けると分かっていて死に、行くようなもんですよ!僕はアレンさんに出会えて、良かったって思ってるのに……」

レイは悲しげに言った。レイの言うように、アレンは下手をすれば死んでいたかも知れないのだ。

悲しむのも無理はなかった。生きているのは救いだが、レイは彼の行動が心配でならなかったのである。そのような心境のレイに対して、アレンは言う。

「戦闘では負けた。トルクスも両腕を失った。けど俺は助けられて無事だった。その結果、生き残れた。」

「ネルソンさんが助けてくれたんですよね!?もしネルソンさんが居なかったら……」

「死んでたな。」

と、アレンは躊躇いなく言った。

「なんで、そう、平気なんですか!?死にかけて、怖くないんですか!?」

レイの言動が激しくなっていく。真剣な表情のレイ。死を恐れていない様子のアレンが、信じられないのだろうか。

「俺自身、戦争中で何度も死にかけている。だから、死に直面するってのは慣れ過ぎたのかも知れない。レイ、君は優しいんだな。その優しさは俺にとっては新鮮だよ。」

アレンはレイ以上に、死に直面する事が何度もあった。それは戦前、戦後共に経験をしてきている。それ故に、自身の命を粗末に扱う事に対して恐怖を感じなくなっていたのだ。

 だからこそレイの言葉が新鮮だった。これが、レイとアレンという、互いに立場の違う人間の価値観の違いだ。

 片や日常生活を送っており、死から遠い存在のレイ。片やデウス動乱と言う戦争を生き残り、戦後でもバンディットとして死と隣り合わせの状況で生きているアレン。互いの立場の違いが、死生観の違いを生み出したのだ。

「命を大事にして下さい!!生きる事を諦めるような言い方、しないで下さい……」

いつしか、レイは目に涙を浮かべていた。彼自身、ここまで人に対して命の大切さを言う事は無かった。アインスガンダムに出会ってからの出来事が、彼をそのように少しでも成長させたのかも知れない。

彼自身、死に直面する場面は何度かあった。だからこそ、自分が大切に思っている人間には絶対に死なれて欲しくないと思っている。だからこそアレンに対して説得したのだ。

「諦めている訳じゃないよ。誰だって死にたくないし、生きたい。でもそれはいつ、どうなるかなんて分からないんだよ。」

それはアレンが戦争を経験しているからこそ、語れる台詞なのだろう。

 

スッ

 

その時、アレンはレイの頭を優しく撫で、微笑む。

「レイは人の為に泣ける……それは優しさを持っているからだ。俺の行動に関しても心配してくれたし……レイの戦う目的って……多分、仲間を守る為に戦っているんだと思う。だからこそ心配が出来るんだよ。」

「心配……ですよ。本当に。」

レイの涙は、少しばかり落ち着いた様子だった。

「でもさ、だったら戦場に出るなって話になるだろ?けど俺達が戦闘に出なかったら、セイントバードは沈められていた。俺達やここのみんなが一緒になって頑張ったから、生き延びれたんだ。命を大切にするのは分かるけど、その為に戦わなきゃならないことだってある。」

「……」

レイ自身、今まで戦ってきたのはセイントバードやそのクルー達を守る為だ。彼が戦わなければセイントバードが沈められそうになる場面は何度かあった。砂漠の狩人との戦いや、先の新生連邦との戦い等。

「とにかく、今は休む事だ。人の心配より、まずは自分の心配をする事。自分自身が健康であれば、人に貢献出来る。無理したって、何も出来ないんだよ。」

「そう……なんですか……?」

命を大切にと言ったばかりなのに、今度はアレンに“無理をするな”と言われたレイ。彼の表情は、少しばかり暗くなっていた。

「あ、ちょっと待ってくれ。メールだ。」

その時、アレンは持参していたEフォンを確認した。ワートンの家から離れた事により、現在仕事をする上で役立つデバイスはEフォンのみとなる。今までは仕事の依頼はコンピュータで請け負っていたが、連絡手段はEフォンが頼りとなる。

「……これは。」

Eフォンに届いていたメッセージ。それを見た時、アレンの表情は変わった。

「どうしたんですか?」

「……いや、何でも。ごめん、少し部屋に行く。安静にしておいて。」

そう言って、アレンはその場から去った。レイは引き続き、ベッドの上で安静に過ごす事にした。この時、既に出血は止まっていた。

 

 

 

やがて夜になり、セイントバードはキプロス島へ辿り着く。島の港に到着した一行。

到着した後、エリィはネルソンやシン、アレンといったメンバーを集め、ブリッジ内で話をし始めた。中央のテーブルには、地図が広げられている。モントリオールへ行く方法を、彼等は模索していたのだ。

「応急処置が終わったらそのまま大西洋へ向けてモントリオールへ向かえば、レイにとっては良い事だな。」

と、ネルソンが言う。しかし、これに対してエリィが言った。

「大尉。それなんですけど……地中海沿岸や大西洋には新生連邦に関係する施設や基地が多いみたいです。」

エリィの言うように、ヨーロッパ諸国や大西洋上は新生連邦軍の勢力域になっている箇所が多い。中にはキプロスのような中立国や平和国が管理できている土地もあり、そこに関しては比較的軍備増強は進んでいないと考えられるが、総合的に見ても航行の危険が高いのだ。

「セイントバードのような戦艦がそんな所を飛んでいたら確実に目を付けられて集中砲火を浴びて撃墜されるのは目に見えています。それに昼間の戦力は、恐らく新生連邦の中枢に関係している部隊でしょう。つまり、彼等が欧米諸国の基地に何らかの連絡を取っている可能性が高いです。つまり、私達を真っ先に狙ってくる可能性が高い。」

エリィの意見は間違っていない。実際、ウイングイーグルは本部の戦艦だ。そこに戦力が集中するのは、至極当然と言える。

 本部の戦艦が奪われた同型艦と交戦し、その情報を近隣国の基地に知らせるのは当然だ。つまり、今のセイントバードはより危険な状況であると言えるのだ。

 その状況で、大西洋へ向けて航行をするのは危険である。ただでさえ損傷が激しいセイントバードが、安全に航空をするにはルートを考えなければならなかった。

「つまり大西洋へは抜けられない……か。」

ネルソンが言った。大西洋へ抜けることが出来なければ、ルートを大きく変えざるを得ないのだ。

 この時、エリィは地図をじい、と見ていた。現在のキプロス島から、より安全に行くことが出来るルート……それは大西洋のルートでなく、ユーラシア大陸を行くルートだ。

 やがてエリィは東の方の地図を見て、一つの島国を見つけた。それを見た時、エリィは目を輝かせ、急に声を上げた。

「よしっ決めた!日本へ行きましょう!!」

それを聞いたメンバーは、驚く者も居た。

「日本!?なんでまた!?」

スラッグが言った。

「さっきも言ったように、西側が危険である上に、私達の戦力補充をしなければならないんです。それにね、日本は私達にとって縁のある国でもあるの。ね、大尉。」

エリィはウインクをした。それと同時に、ネルソンは大きく頷く。

「確か日本にはシュアー・ラヴィーノさんがいたな。確か、彼は国内の政治家と通じていた筈だ。彼に連絡を取れば、セイントバードはきちんとした修理や、戦力補充も可能になるだろう。その上でモントリオールへ向かう方が、今のセイントバードにとって一番安全と言える。」

その、シュアー・ラヴィーノがいるという日本であるが、日本は世界の中でもトップクラスに恵まれている経済大国となっている。このため、日本の文化に影響されている国が後を絶たず、レイの住んでいるモントリオールも、日本の影響を大きく受けており、学校の学習形式も、日本の形式を採用されているのだ。

「これに異議のある人はいますか?」

エリィが言った後、誰も反対する人はいなかった。レイを送り届ける為には非常に遠回りになるのだが、航行の安全を考えれば、そのルートが最善と言えるのだった。

「じゃあ、決定です!まずは修復していかなきゃ……ね。せめて、日本までは問題なく航行出来るように。」

 やがてブリッジに集められたクルーは一度解散した。夜も遅く、それぞれの部屋に戻っていったのであった。

 

ウィィィィン

 

 エリィは、レイの部屋に入った。血は既に止まっており、痛みもなくなっていたレイ。この間にレイはネルソンによって包帯を取り換えて貰っており、既に包帯も血が滲む事がなくなっていたのだ。

 そして、エリィはレイに対し、セイントバードが日本へ向かう話をした。それを聞いたレイは最初驚く反応を見せるのだが、事情を聞き、少しばかり、納得した。

「そういう訳で、キプロス島での応急処置がある程度済んだのなら、セイントバードは補給と完全な修理の為に日本へ向かいます。レイ君、ごめんね、また貴方の故郷へ戻るのに遠回りする事になりそうで……」

エリィは内心、レイに対して申し訳がない気持ちで一杯だったのだ。早く返してあげたいと思う気持ちがある半面、現状の事を考えると、どうしても遠回りをせざるを得なくなってしまうのである。

 だが、一方のレイはそれを聞き、あまり悲しそうな表情を浮かべていなかったのだ。

「日本……かぁ。僕、初めてです!」

悲しむどころか、寧ろ、レイは日本へ行けることに嬉しさを噛み絞めていた。

経済大国である日本は豊かな国であり、日本に行くことは彼が幼い頃から憧れていたのだ。この機会に日本に行けることが、レイにとって嬉しさ以外の何者でもなかったのだ。

「レイ君には苦労を掛けるね。今回に関しても、頑張ってくれて……本当に、ありがとうね……」

 

チュッ

 

と、エリィは彼の柔らかい頬を両手で持ち、額にそっと、キスをする。その際、彼女の乳房がレイの目に触れた。

 それは彼女が寄った時に一度レイに対して行った事だ。その時ですらレイは恥ずかしい気持ちになったにも関わらず、またしてもそれをされた為、レイは思わず

「もう……恥ずかしい……です……」

と、顔を赤めながら言った。

「フフ、ご褒美が必要だ……って言ったでしょ?今回はそのお礼だよ。フフ……」

妖しくも美しいエリィ。彼女からの額への口付けは、レイにとって恥と共に、喜びを感じていたのであった。

「なんなら、もっと良い事してあげても良いかなーって……」

と、エリィは自身の着ていた上着のチャックを下ろし始めた。それを見たレイは

「もう!だからそういうのはやめて下さいよ!」

と、レイをからかうような態度を取り、レイを恥ずかしがらせたのだ。

「フフ、可愛いなあレイ君は!何はともあれ、今日は身体をよく休めてね。本当に、ありがとう。レイ君。」

そう言った後、エリィは去って行った。

 キプロスを去った後の次の目的地は、日本。レイの故郷からは遠くなっていくばかりではあるが、現在の状況を考えれば、それも仕方のない事と言えた。レイは静かに溜息を吐き、不満を口にせず、そっと深呼吸をして、部屋の明かりを消し、眠りに就いたのであった。

「やっぱり、変な人……」

そっと、レイは呟いた。

 




第十八話投了。

新生連邦軍との激戦をどうにか生き永らえたセイントバードチームは日本へ向かう為にまずは応急処置を済ませていくのでしたという話でした。
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