機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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日本に向かうまでの物語。SM姉妹との戦いもあります。


日本編
第十九話 日本への航路


 

アレクサンドリア。先日に反政府デモと政府との対立があった土地にて。そこではアレンの身柄の確保に失敗した三人の人間達がアレクサンドリア国際空港にて待機していた。

 氷河族と呼ばれる彼等。その目的は何なのかも不明である存在。構成されているメンバーも特徴的な人間ばかりである。

「以前上納金を差し出していた筈のアスーカル・エスペヒスモが蒸発しやがったから金銭の宛が一つなくなったとね。」

Eフォンを弄りながら言う、一人の女。ウネフ・ミカハラだ。

「その上アレン・レインドの身柄の確保も失敗か。何か言われるかも知れないな。リーダーに。」

ケネール・リックが言った。空港内では銃を持っておらず、キャリーケースのみを所持していた。

「それで、リーダーから日本に来るように招集されたんでしょ?なんでだろうねー?」

あどけない笑顔のミルフ・ブラマンジュが言った。彼女も今、ナイフを持っていない。

「何はともあれ、リーダーに呼び出されている以上は日本に行くとね。作戦会議でもやるかも知れねぇと。」

やがてEフォンを触るのを止めたウネフは、ガムを噛み始めた。ミント味のガムは彼女の口の中に残り、何度も咀嚼を繰り返した。

 氷河族と呼ばれる彼等。その全貌や、目的などは一切不明。ただ、一つ分かる事は、彼等もセイントバードチームと同様、日本へ向かうという事だけだった。

 

 

 

「う……ん……」

レイは今、うなされていた。彼は例の夢を見ているのだ。毎晩見るわけではないのだが、それでもたまに見てしまう、謎の悪夢。展開は毎度ほとんど同じ。自分が殺されかけるという謎の夢。何故自分はこの夢を何度も見るのか、そしてどうして同じ展開を迎えるのか。理解出来ないまま、いつも通りの映像が流れていく。

 

――――――――――――――――見たのか――――――――――――――――――――

 

――――――――――――――――えっ……―――――――――――――――――――

 

―――――――――――――悪い子だ。この子と一緒に死ななければ―――――――――

 

―――え……え……そんな……どうして……い、嫌だ……嫌だ……――――

 

――――――――――――――ダメだ。死ね――――――――――――――――――――

 

「はぁっ!!……またあの夢……か。」

死に直面する手前の場面で、目が覚めた。

レイが起きた時、時間は朝の六時を過ぎていた。まだ起きるには早いと思って再び眠ろうと目を瞑るのだが、どうしてか眠れない。

仕方がないのでレイは起き上がり、布団を畳んだ時だった。傷口は既に塞がっており、血も出ていない。鏡の前に立ち、包帯を取る。既に出血痕は奇麗に塞がっていた。

 

 

部屋を出て、廊下を歩いている時だ。その時に、アレンとエリィが会話をしている姿が見えた。首を傾げたレイは何を話しているのかが知りたくなり、密かに物陰に隠れて会話を聞いた。

「そう……もう行っちゃうんだ。」

「一日だけでしたけど、お世話になりました。」

かすかに聞こえる、両者の会話。レイは耳を立て、引き続き、聞く。

「ここにはまた戻ってくるのかな?」

「さあ、分かりません。あの、小さい輸送機ってセイントバードにありますか?」

「あるけど……輸送機で出ていくつもりなの?」

「ええ、MSを借りる訳にもいきませんから。」

会話の内容からして、アレンはもうどこかへ旅立つということが分かった。それを盗み聞きしていたレイは残念そうな表情で俯く。しかしこの時、うっかり足を前に出してしまったためにエリィに見つかってしまった。

「あっ!レイ君!起きてたの?」

「あ……エリィさん、アレンさん。おはよう、ございます。」

「おはようレイ。怪我、もう治ったんだな。包帯が取れてるよ。」

アレンは笑みを浮かべた。だが対照的に、レイの表情は悲しみに満ちている。

「アレンさん、まさか、どこかへ行っちゃうんですか?」

それを聞き、アレンは、静かに頷いた。

「そんな……もう、行っちゃうなんて……」

 アレクサンドリアで助けて貰って以来の短い期間ではあったが、こうして出会う事が出来たアレンがもう去ってしまう事に対し、レイは落ち込む様子を見せた。

「仕方がないよ、レイ君。アレン君にも事情があるんだから。」

共に行動出来ると思っていたのに、ここを去ると言うアレン。レイは悲しい目でアレンを見つめた。

一方のアレンはレイの頭を撫で、笑顔で言った。

「用事が済めば日本に行こうと思ってる。もしかすればそこでまた会えるかも知れないな。」

「用事って……何ですか?」

レイの言葉に、アレンは一度咳払いをして言った。

「昨日連絡が来た。バンディットとしての依頼……なんだけど、ちょっと気になる内容だったんだ。俺の事を、知っているかのような、不思議な内容。」

それは、アレンがレイの看病をしていた時。Eフォンに届いた一通のメールがきっかけだった。それを見て以来、彼の表情は一変する。

 それがどのような内容であるのかは不明だが、そのメールがきっかけでアレンは僅か一日でセイントバードを離れてしまう事になったのだ。

「たった一日だったけど、色々と話せて良かったよ。レイ、ちゃんとセイントバードのみんなを守るんだぞ。じゃあな。エリィさん、お世話になりました。」

「ええ、気を付けてねアレン君!」

エリィは笑顔でアレンに手を振る。しかしレイは手を振らなかった。アレンが出て行くことが辛かった為である。

「……さて、修復作業をしてくれているみんなの為に朝ご飯作らなきゃ。レイ君。そんなにアレン君と別れるのが寂しいなら見送ってあげたらどうかな?」

「見送りですか……はい、そうします。」

別れは辛い。しかしアレンが離れると言う以上はこれ以上引きとめることは出来ない。だったらせめてアレンを見届けたらどうかというエリィの考えに賛同したレイは、去って行ったアレンの後を追いかけた。

 

MSデッキにて。エリィの許可を得ていたアレンはシンに輸送機を貸して欲しいと言った。それを聞き、彼は喜んで貸し出す事を承諾した。

「しかし、もう行っちゃうんですね。用事なんですか?」

「ええ、まあ……」

その用事がどのような内容であるのかは、シンは聞かなかった。

 

タッ

 

そこへ、見送りに来たレイが来た。急いで走ってきた為、少しばかり息を荒げている様子だった。

「アレンさん!」

「レイ。わざわざ来てくれたんだ。」

「だって……寂しいじゃないですか。たった一日だけなんて。」

まるで、少女が悲しむような、表情を浮かべるレイ。アレンはそれを見て、そっと笑みを浮かべる。

「なんかさ……本当、女の子に呼び止められてるみたいだ。」

「それって、どういう意味ですか!?」

レイは立ち止まり、先程の悲しげな表情はすぐに変化した。

「それだけ、レイの見た目が女の子みたいに可愛らしいって事だよ。」

自分を助けてくれた存在であるアレンではあるが、そのように茶化した言い方をされるのは、レイにとっては心外だった。レイは頬を膨らませ、言う。

「見送りに来るの、止めときゃよかったです。」

そう言った後、アレンは苦笑いをした。

「そう、怒るなよ。ほら、男ってさ、女の子に見送ってもらえるのを凄く嬉しいって感じるんだ。レイがどうしてもそう見えちゃうから……」

「フォローになってないですよ!もう!」

アレンは気遣いが下手な人間だ。彼なりにレイを褒めようとしたのだが、そもそもレイは少女扱いされる事を嫌に思っている少年であるレイに、その言葉は相応しくない。

「ハハ、じゃあ、もう行くから。日本でもし、会えたらいいな。」

そう言って、アレンは輸送機に乗り込んだ。レイに対して敬礼をし、そのままデッキから輸送機を発進させたのだ。

 “見送らなければ良かった”と言っていたレイだったが、その表情は寂しげだった。その様子は、まるで、仲が良かった友が突然去って行くような感覚だった。

 束の間の時間でも、多くの事を話すことが出来た人間に対して、人は好感を抱く。その上で、もっと交流したいという希望を持つ。しかしそれが時に叶わなくなる時もある。それは戦場での死といった事もあれば、このように、僅かな時間を共にし、別れる時等。

 Eフォン等で連絡をすれば、文面上での交流は出来るだろう。しかし実際に出会い、話す感触とはまた違う感覚だ。やはり人は、直接的な交流を図らなければ分からない事も多々あるのであるのだ。

(女の子みたいって言ったけれど……あいつは男だもんな。何言ってるんだろう、俺は。昔の彼女の事を思い出したな。それよりも……気になるな、依頼主が。)

アレンは内心で思っている、“彼女”と言う単語。それは、誰なのかは分からない。彼は輸送機のエンジンを点火させ、やがてセイントバードのMSデッキから輸送機を使い、去って行ったのだった。

 

 

 

アレンが去ってから、昼になった。整備士達は交代しながら修理を行ったり、休憩を行っていた。クルーの中には休憩がてら、キプロス島の観光をしたりしていた。

一方のレイもアインスの修理に携わる。昨夜に整備士が修理をしてくれていた為、シールドさえ装着すればアインスは元の形状に戻ることが出来た。

それからレイは作業用MSに乗り、セイントバードの破壊された箇所の応急処置の手伝いを行った。元々プチモビルスーツを操る事が出来たレイは、少しでも手伝おうと考えており、クルーの一員として、出来る事をしようと考えていたのである。

「あくまでも応急処置だからな。とにかく今は、ちょっとのダメージでも耐えられるぐらいの耐久性が欲しいんだよ。修理前じゃ確実にちょっとのダメージで艦破壊確定だからな。」

作業用MSに乗る整備士の台詞に対し、レイは答える。

「は、はい……うぅ、セイントバードってこんなに大きかったんだ……」

改めて感じる艦の大きさに溜息を吐いた。朝から起きていたレイはずっとこの作業を行っていたので疲労が溜まるばかりである。

 

少しの時間が流れて昼の食事休憩時間になった。食事はいずれもエリィの手作りであり、この日の食事はカレーライスであった。作業をしていた全員は食堂にて食事を済ませる。その中にレイの姿もあった。この食堂はセルフサービスであり、自分でご飯を入れてカレールーを入れる仕組みになっている。ただし、この食器を洗うのは全てエリィの仕事だった。それを考えると、エリィは相当の働き者であることが分かる。レイは感心した。

(こんなに沢山の洗い物を一人で洗っているのかな?凄いな、エリィさんって……)

レイは水に付けられている汚れた食器の山を見て呆然と考えていた。

そんな時、彼は背後から肩を優しく叩かれる。何事かと思って振り向けば、そこにはエリィの姿があった。

「やっほーレイ君。修理作業ありがとう。手伝わせちゃって、なんだか悪いね。」

「いえ……人手が足りてないって聞いてますし、何かできる事をしたいと思ってましたから。」

修復作業自体、レイは初めてだ。先程整備士に教えてもらったばかりではある。だがその腕の良さに、整備士が感心していた。

「けど、ちょっと疲れちゃいましたね……」

朝から起きていて、アレンが去った後も修理を手伝っていたレイは疲労を隠せない様子だった。彼の白い肌にオイルの汚れが少し付着している。

「けど午後は交代だからレイ君はもう終わりでしょ?だったら一度シャワーを浴びて、観光にいかない?」

「え!?観光ですか……?」

エリィからの提案に、驚くレイ。

「カイロでも観光してませんでした?良いのかな……戦艦を修理しないといけない、大変な状態なのに。」

レイはエリィに気を遣った。

 セイントバードは発進する度に、何らかの襲撃に遭っている。砂漠の狩人や新生連邦軍等。

その度に生き延びて来たのだが、トルクスに乗っていたMS乗りは数名、亡くなっている。

 その状態で、観光といった、楽しむような事をして良いのだろうかと、レイは考える。

「私達はMS乗り。軍隊でも何でもありません。ちなみに、観光とは言ったけれど、その間に食材とかも買っておかないとね!そのついで観光だよ。前は、まさかのテロに巻き込まれちゃったけどね。」

エリィは以前にテロに巻き込まれた事を思い出していた。彼女はその際に頭部を怪我し、入院もした。その事もあり、観光と言っても油断が出来ない所がある。

「けど、今回はキプロス。ここは観光産業で成り立っている島だし、中立国でもあるの。だから、こうして観光客が入国出来るんだよ。」

「そうなんだ……」

以前のような事が起きないかと思っていたレイだったが、それを聞いて安心した様子だった。

「もちろん、日本に着いたら絶対に観光する予定だよ!日本はいろいろな名物があるからね、是非観光したいなー!」

“観光”と言っている時のエリィの笑顔は、戦闘中のエリィの表情とはまるで違う。ほんわかとした、優しい笑顔のエリィ。今の彼女の姿が、恐らく素の姿なのだろうと、レイは感じていた。

(でも、この人は変わり者でもあるんだよね……)

一方でレイを性的に誘惑するかのような言動をするのも、エリィ・レイスという人間だ。最も、それは彼にしか見せていない一面であるのだが。

「世界中を回っているからこそ、その土地でしか見れないものや名物は実際に見てみたいじゃない?写真とかネットではいくらでも見れるけど、実際に見たら感動もひとしお!だから観光をするの。楽しむ事を忘れては、人は生きていけない。私達は戦闘に巻き込まれながらも、そうやってきたの。」

(楽しんでるんだ、この人達は……何度も大変な目に遭っても、何度も辛い思いをしても……それを楽しむ事が、出来るんだ。)

この時、レイはセイントバードの強さを改めて感じ取っていた。クルー達は大変ながらも、皆が笑顔なのだ。それはエリィという艦長が、大変な中で楽しみを見つけ、それを楽しむというスタイルで今までやって来られたからなのかも知れない……と、思っていた。

「MS乗りって……戦闘さえなければ、こうやって楽しみがあって……それが続けば良いのにな……なんて思ったりします。」

レイは、何となく言った。だがエリィはレイの言葉に対し、笑みを消した。

「MS乗りって、本来こんなに気楽なものじゃない。砂漠の狩人の時でもあったように、いつ別のMS乗りに襲われて食われるか分からない。まさに食うか食われるかの状態に生きているのが普通なの。」

エリィの険しい表情。まるで、戦闘中の彼女の表情だ。

「先日までの戦闘でもトルクスのパイロットが殺された。セイントバードを守る為、命を懸けてくれたパイロット達が死んじゃったんだ。そんな、彼等の分も私達は楽しまなきゃならないの。それを分かって上で付いて来てくれているのがみんなだから。」

すると、エリィの表情に笑顔が戻った。

「それに、倒したMS乗り達のスクラップ等を売却して金にして生きる。それがMS乗り。その上で、観光を楽しむ気持ちを持っているのは、皆に辛い思いをして欲しくないと思っているからなんだよ。」

MS乗りの構図について、エリィは簡単に説明した。この説明を聞いた後、レイは少し恐怖を感じていた。

「じゃあ……もし強い敵に会えば危ないってことですよね。」

「ええ、そうね。例えば前の新生連邦みたいに。」

エリィは冷淡に言う。しかしその表情は先程のように深刻ではなかったのだ。

「でも、みんなが頑張ってくれてるからこうして生き残れてる。レイ君もその内の一人だよ!いつも、ありがとうね!」

笑顔でエリィは言った。この時、自分も戦力の一員として役に立てていると彼は認識した。

「レイ君!早くシャワーを浴びてきて!キプロス島観光に行こうよ!」

(メリハリが凄いなぁ……)

本来のMS乗りと言うのは常に危険と隣り合わせである。エリィの言ったように、MS乗りは時に別のMS乗りと交戦し、そこで得たスクラップ等をジャンク屋に売り、金を稼いで生きていく。だが、自分達以上に強い存在に遭遇すれば命の保証はない。

その代表的な例が新生連邦軍だ。特に昨日の特殊強化モデルが搭乗するガンダムタイプ三機や、新生連邦総司令、レヴィー・ダイルが駆るガンダムタイプがいるような敵相手では、撃退できたこと自体、奇跡と言えるのだ。

しかしそれを勝利へと持って行ったのがエリィである。彼女らがこのように、新しい場所に着く度に観光行くことが出来るのは彼女の判断やパイロット達が優秀だからこそ出来る事なのである。それを考えると、セイントバードは相当、優秀なMS乗りの集まりであることが改めてレイの中で認識できた。

「それにね、貴方は誰かと一緒じゃないと知らない人に襲われちゃうかも知れないんだから!レイ君は自分が思っている以上に女の子みたいって自覚した方が良いよ!」

「そんな事ないですよ!もう……」

エリィの言うように、実際にレイは少女に間違えられ、暴行を受けたことがあるのもまた、事実なのである。

 

やがてレイはシャワーを浴び終え、そして、エリィとキプロス島の観光へ出掛け始めた。地中海の右下に位置する島であるキプロス島は、地中海ではシチリア島、サルデーニャ島に次いで三番目に大きな島である。しかし日本よりも遥かに小さく、人口もあまり多くない島でもある。

「レイ君、アフロディーテの誕生って絵画は知ってる?」

「え?あ……あの、貝の上に女の人が立っている絵でしたっけ?」

「そう!それそれ!ここキプロス島はそのアフロディーテの生誕の地だと言われてて、それを目当てに観光に来る人も多いのよ。」

「詳しいんですね。」

「まあ、世界中を回っていたらその国や島の本当に有名な名物ぐらいなら自然に知識が入ってくるものなのよ。私がもし艦を降りても旅行のガイド役として活躍できるわね……フフッ!」

レイは苦笑いを浮かべた。その際、次のような事を考えていた。

(こんなに気楽そうに見えるのに、他のMS乗りとかに襲われても対処してるなんて……本当に凄いんだ、エリィさん。)

今回以前もセイントバードは様々な場所を観光に行っている。その一方で、敵に襲われた時は全力でセイントバードを守るために指揮を執る。非戦闘時は一人でクルーの食事を作り、掃除なども全てこなす。その上スタイルは良く美人である。

レイは、エリィが完璧超人に見えた。だからこそ人が集まり、誰も艦を降りないのだろう。そして、彼女を信頼して行動しているのだろう。

(たまにエッチな事を言うのがなければもっと完璧な人なんだと思うんだけど……)

レイは、考えていた。

 少し歩き、彼等はペトラ・トゥ・ロミウ海岸に着く。絶景が美しいこの海岸。アフロディーテの生誕の地と言われているこの地で、絶景を見ながら二人は歩いていた。

「奇麗だね……こうして世界各地を観光したりするのってね、デウス動乱時じゃ絶対に出来なかったことだしね……」

と、呟くエリィ。絶景に見惚れる姿とは裏腹、その表情は、どこか寂しげだった。

「エリィさん、何だか寂しそう……ですね。」

エリィの表情を見て、レイは聞いた。

「あの、僕なんかで良ければ、話なら伺いますよ?」

気を遣ってのレイの言葉に対し、エリィは思わず笑った。

「クスッ……レイ君にそんなこと言われるとは思わなかったな。」

「それはどういう意味ですか!?」

返って笑われたことにレイは怒った。彼にとって、せっかくの気遣いが無駄になった気がしたからだ。

「怒らないの。レイ君の気遣いは嬉しいよ。うん……」

やはりエリィの表情はどこか虚ろだ。それを見た時、レイは少しでも怒った自分が情けなくさえ感じた。いつもの明るいエリィの姿と比較しても、レイから見て明らかに違和感があった。

「戦闘でお世話になってるレイ君に、私の事、改めて教えちゃおうかな。」

まるで、“秘密”を明らかにするような様子だった。レイは海岸を背景にし、エリィの話を聞き始める。

「私はね、もともとCコロニーで育ったの。」

「え、コロニー育ちだったんですか?じゃあ、ネルソンさんと同じなんだ……」

エリィの過去が、少しずつ明らかになる。彼女が地球連邦軍所属だという話は聞いていたが、出身の話は聞いたことがない。

「そう。大尉とは違うコロニーだけれどね。しかしデウス動乱が始まった時、私のコロニーはデウス軍に制圧されたの。両親はデウス軍に殺され、当時子供だった私は大声で泣いていたの。よく覚えているわ。」

〝デウス軍〟という言葉がレイの中に印象に残った。両親がデウスに殺された過去を持つのなら、何故ネルソンとあれだけ仲良くできるのか、不思議で仕方がない。レイは聞こうとしたが、恐らく聞きたくないと思うだろうと判断した為、レイは口を閉じた。

だが、エリィにはレイの様子が見えていたらしく、先に口を開いた。

「両親がデウス軍に殺されたのに、どうして大尉とあんなに仲が良いか気になっているんでしょう?」

「え……え!?そんな、とんでもないですよ!」

「いいの、気にしないで。気になってるでしょう?」

レイは黙って頷いた。どうしても申し訳ない気持ちが彼を包む。

「私は確かに、両親を殺されたことは嫌だったよ。でもね、その時に殺した人間が大尉だったのかな?違う。デウス軍が殺したのは事実。でも大尉は、人殺しはしていない。私は人間を見るの。だから組織単位で憎むなんてことはしない。それにね、今更憎んでも仕方がないもの。」

「エリィさん……」

両親を亡くす事は普通、誰にとっても辛い。増してや、彼女の場合はデウス軍に殺されている。そして同じクルーの中に元デウス軍のネルソンの姿もある。それは無論、エリィにとっては許される筈のないことなのだが、仲良く二人は過ごしている。人間を憎む事のない、エリィの寛容さが現在のセイントバードチームを築いてきた要因の一つなのだと、レイは思った。感心している際、エリィは

「そこに当時の地球連邦軍の兵士がやってきてね、デウス軍との戦闘に巻き込まれかけた時にね、ある人物が私を助けてくれたの。」

「ある人物……ですか?」

レイは首を傾げる。

「名前はウィレス・レイド・アース。私にとって大事な人。その人がいなければ今の私は恐らく存在していないと思うの。彼女は当時連邦軍で医務チームとして働いていた。だから彼女は連邦のナイチンゲールと言われたの。知ってる?ナイチンゲールって。」

「ナイチンゲールって……確か、旧世紀のクリミア戦争の!看護の母って言われてた……ような。」

社会が得意科目であるレイは、この事についても詳しい。

「よく知ってるね。うん、そのクリミア戦争で戦場の兵士を看護したりした人だよ。白衣の天使って言われていた人。ウィレスさんもそう。その後にウィレスさんは医療チームを辞めて軍人として働くようになった。やがて功績を上げていき、中佐にまで位が上がったの。」

ウィレス・レイド・アース。エリィの恩人。地球連邦軍とデウス帝国との戦いに巻き込まれたエリィを助けた人物だ。

エリィの言うように、ウィレスは功績を残していき、地球連邦軍の第十三特殊部隊の戦艦の、艦長に任命された。それはかつてアレンやエリィ、そして、今の総司令、レヴィー・ダイルが所属していた部隊である。

「やがて彼女はある一隻の戦艦の指揮を任されることになった。私はね、ウィレスさんに助けてもらって以来、医療の事を勉強して彼女と同じ地球連邦の医療チームに入ったの。でも彼女が軍に入るって聞いた瞬間、後を追うように士官学校に入って、やがて軍に入隊することが出来たの。」

「え!?どうしてそこまでして……」

暗かった表情を一旦笑みに変えたエリィ。しかし、明らかに無理をしているのが分かる。

「あの人は、私を助けてくれた恩人ですもの。」

「恩人の為にそこまで出来るんですね……。」

「まあ……ね。その後でウィレスさんが艦長を任された艦のオペレーターとして働くことになったの。凄く嬉しかった。恩人の下で働くことができるんですもの。」

ウィレスと言う人物に対しての愛情が直接伝わる言葉だった。これ程に一人の人物に対して尊敬し、感謝する人間をレイは今まで見たことがなかった。そのためか、エリィが余計に凄い人物に見えた。

「アレンさんが言ってましたね。オペレーターをしてたって。」

その時のエリィの性格は、今とは異なる事も、アレンから聞いている。

「そう。やがて年月が流れて、色々な人が彼女の指揮する艦に入って来た。私がアレン君をはじめ、多くの人達と共に戦ってきたって話はしたよね?」

「はい。」

「その中に、一人の男の人がいたの。名前は、ディーン・アドル。」

その際に、エリィは口籠った。その人物には何かがあるのはレイにも分かったが、無理もせずに素直に落ち込んでいる姿が気になった。

「あの、無理をしなくても大丈夫ですよ。」

気を遣うように、一言。エリィはその一言のおかげで少しはましになったように見えた。

「ううん、もう過去の話だし、言っちゃおうかな。」

いつになく、悲し気なエリィの横顔は、一層美しさを際立たせる。不謹慎にも、レイはその姿に見惚れてしまっていた。

「長い戦闘の中のほんの少しの休息の時間。そう、丁度こんな奇麗な海岸線があった所だったな。その際、私はクルーの一人であったディーン・アドルさんに助けられたの。」

先程、その言葉を口にして口籠った〝ディーン・アドル〟と言う言葉が再び出てきた。

その人間に何か思いがあるのは間違いないとレイは確信する。

「束の間の休息で、皆が過ごしている際、まさかのデウス軍の強襲。急いで私はブリッジに戻り、状況をクルーのみんなに伝えたの。その時――」

 

 

エリィの回想にて。休暇を楽しんでいたクルー達だったのだが、その最悪のタイミングでデウス軍が襲って来たのである。MSパイロット達も艦から離れた場所におり、駆けつけるのに時間がかかった。その際にウィレスが艦長を務めていた戦艦が敵の機体に襲われ、ブリッジが狙われた。

 

――――――――――――――私……もう……ダメなの……――――――――――

 

ブリッジで、当時のエリィは死を覚悟した。パイロット達はまだMSデッキに向かっている最中。逃げようにも敵機体の攻撃の方が遥かにスピードが速い。

絶望的状況の中、一筋の光が戦艦を救った。

一機のMSが戦艦を襲うデウス軍の機体を破壊した。そこにいたパイロットこそ、彼女が最初に言葉を発するのに困惑したディーン・アドルという男性だったのである。

 

――――――――――――――――――大丈夫か――――――――――――――――――

 

――――――――――――――――アドル大尉……?―――――――――――――――

 

当時、ディーン・アドルの階級は大尉だった。これはデウス動乱時のネルソンと同じ階級である。エースパイロットだった彼のおかげで、エリィは無事救われたのである。

 

 

「それ以来かな。あの人の事が本当に好きになったのは……好きに……ね……」

回想を終えた後、エリィは徐々に表情が暗くなっていく。これ以上何かを言えば余計に彼女を傷つけるだけだと判断してか、レイは何も言わなかった。

そのディーン・アドルに何があったのかは、彼女は語りたくないようだった。しかしこの時、レイは察した様子で言った。

(多分……そういう事なのかな。)

レイも一緒に、彼女と暗い表情を浮かべる。語られたエリィの過去を聞き、その中で芽生えた愛情。そしてこの海岸線。恐らくそれらがエリィにとっての美しく、悲しい過去を蘇らせたに違いないと、考えていた。

 

「さて、お話はおしまい。要は、当時は色々とあったけれど今はこうして大変ながらに観光だって出来るようになったんだってお話だよ!」

エリィは表情を一変し、バン、と両掌を閉じた。

戦争という大変な時代を生き延びて来たエリィにとって、こうしてセイントバードのメンバーと観光等が出来る事は、何よりの喜びだったのだ。

「じゃあ、レイ君と記念撮影しようかな?キプロスに訪れた記念写真!」

「え……?写真ですか?い、いきなり!?」

エリィはそう言いながら、自身のEフォンを用い、カメラ機能を使ってレイと二人の写真を撮った。海岸線を背景に、二人は近い距離で並んで写真を撮る。エリィの距離感に対し、レイは躊躇っており、その際の表情がEフォンのカメラに映し出されたのだ。

「さて、この後はお土産でも買いましょうか。レイ君も良ければ買っていったら?観光ってのはそれが醍醐味!戦争中じゃこんな事、出来ないからね!」

(お土産……か。)

エリィに土産の話をされた時、レイの心境は複雑だった。

そもそも、彼は旅行目的でここまで来た訳ではない。チェーニ姉妹が襲撃してきた夜に、街を守る為にアインスガンダムを発進させ、それ以降からセイントバードチームと同行している。 

一度カイロで母親と話をしたが、事情を説明など出来る筈がない。それ以降連絡を取るのを止めたレイ。今頃、家族は自分の事を心配しているに違いない。そして、学校に不登校になった事によって友達が心配しているかも知れない。中にはそれを馬鹿にする人間がいるとはいえ、突然の不登校など只事ではない。

もし、今彼が自身の場所を言った時、それを信じる人間など居るだろうか?居ようはずが無い。何故ならば彼は今モントリオールから大きく離れた地中海の中にあるキプロス島にいるのだから。そしてその後はセイントバードの完全修理と戦力補充の為に日本へ行く予定である。

こうして各地を巡り、観光をしたとして、やがて故郷に戻ってから土産など平気な顔して土産を渡す事等、出来る筈がないのだ。

「もしかして、故郷の事を考えてる?」

エリィが心配そうにレイを見つめている。その目線を感じたレイは慌てた様子で言った。

「え?あ、えっと……そんな事、ないですよ?」

レイは取り繕うように笑顔を浮かべるが、明らかに無理をしているのが分かる。それに対してエリィは言った。

「うん……ごめんね。私……貴方の事考えずに、観光とかお土産とか言ってて、恥ずかしいな。」

エリィは謝り始めた。元々はレイの故郷へ返す為の航行なのに、何故自分が舞い上がっていたのだろうか……と、考えたのだ。

無論、レイを早く彼の故郷へ届けてあげたい気持ちはある。本来ならば地中海を抜けて大西洋を経由し、モントリオールまで向かえたのだが新生連邦の強襲により、地中海から大西洋へ向けて行くことが危険であることが明らかになった。

だからこそレイの故郷へ向かうという、本来の目的を達成するためには、遠回りであるがユーラシア大陸横断を選び、一度日本で補給を受けるというプランに大きく変更してしまった。

レイは、家族に会えないと言う不安も持ち合わせているがセイントバードの事情を知っているので何の文句も言わない。エリィは、レイの心境を考えずに、いくら迂回ルートを行くとはいえ、彼の心境を考えず観光を楽しんでしまっている事に対して申し訳がないと思っているのだ。

だが、レイはエリィ達セイントバードチームに助けて貰った恩がある。その中で、エリィが自分に感じていた心境を察したレイは、思いを打ち明けた。

「あの、僕……エリィさんに気を遣わせたくないです。僕なんかの為に皆さんを危険な目に遭わせたくもないです。だから……僕に構わないで下さい。例え帰るのが遅くなってもエリィさん達のせいじゃないです。」

レイの、精一杯のフォロー。それを聞いていたエリィの目は、何度か瞬きをしている。

「僕、嬉しいんです。だって助けて下さった上に、安全に行けるルートで航行させて下さるんですから。それに行きたかった日本にも行くことが出来るんですよ?僕のことなんて、構わなくて大丈夫ですから、ね?」

「レイ君……」

自分の為に危険な目に遭って欲しくない。自分に気を遣わないで欲しい。そして慌てずに航行して欲しい……レイは述べた言葉にその思いを乗せていた。何故ならば、自分の為にエリィに気を遣わせている台詞を聞くのが辛いと感じた為であった。

「帰るのが遅くなっちゃっても、構わないんだね?」

「……はい!」

彼女はレイの思いを受け止めた。どれだけ時間をかけようと必ずレイを故郷へ送り届ける……エリィはそのように決意した。

レイが思いを打ち明けた為、互いの気遣いはなくなった。その為か、両者は自然な笑みを浮かべていた。

その後、二人は海岸線を歩き続け、その絶景に癒された。昨日の激戦の疲れを取ることが出来た上、互いの内心に対して気遣う必要がなくなった事により、両者は心からこの観光を楽しむことが出来た様子だった。

 

 

 

やがて3日が経過した。セイントバードの応急処置は進み、敵の戦力にも寄るが数回の攻撃ならば耐えられる程度に修復出来ていた。セイントバードはそれからすぐにキプロス島を後にする。

短い時間ながらも、楽しめた様子の彼等。だが日本に着くまで常に油断はできない。別のMS乗りに遭遇する可能性だって有り得る。まして、新生連邦軍に遭遇する可能性も無いとは言えない。航行を始めて最初は警戒態勢を怠ることなく、セイントバードは日本までの航行を行う。

航行開始して3時間が経過した。現在セイントバードはロシアの上空を航行している。現在のところは何の問題もなく、順調に進んでいる。

セイントバードのブリッジに、ネルソンが入ってきた。そこでエリィとネルソンは、会話を交わす。

「今のところは大丈夫だな、艦長。しかし何が起こるかは分からない。すぐに対応できるようにしておかないと、やはり心配ではあるな。」

そう言って彼はコーヒーを一口飲む。

「確かにそうですけど、日本に着くまでの間ずっと警戒させておくのはやはり問題だと思います。皆、応急処置の疲労も溜まっているでしょうし。」

「だが、もし突然のビーム砲撃……特に戦艦の主砲クラスの威力なら今のセイントバードには脅威となる。それに対応出来るようにする必要があると思うのだ。」

ネルソンの言うように、現在のセイントバードは応急処置をしただけに過ぎず、耐久性に問題がある。戦艦の主砲のような高出力のビームをまともに受ければ沈められるのも無理はない。

「そこで、提案がある。MSデッキにビーム撹乱幕用のタンクがあっただろう?MAのハルッグの下部にタンクを固定し、敵機の襲来を確認すればそれを切り離してビームライフルで撃つ。そうすれば撹乱幕が完成してセイントバードはビーム砲撃を受ける心配がなくなると言う訳だ。」

ネルソンの言うように、セイントバードにはビーム撹乱幕タンクという、ビーム兵器を防ぐためのタンクが存在する。このタンクに向けて何らかの手段で破壊することで、アンチビームコーティングフィールドが発生し、ビーム砲撃を防ぐことが可能となる。ただし使用するには制限があり、5分程で撹乱幕は消えてしまう。

ネルソンは自身の機体のみを出撃させ、考えられるかも知れない敵機の強襲に対応しようと考えていたのだ。

「良いんですか?大尉だってお疲れだと思うんですけど……」

「心配してくれているのは嬉しいな。だがこの役目はハルッグじゃないと難しいと思うのだ。」

「無理しないで下さいね、大尉。」

そう言った後、ネルソンはこの場から去った。そしてブリッジ内で、エリィ達は引き続き警戒態勢を怠る事なく、過ごす事になるのだった。

 

 

やがてネルソンはMA形態のハルッグに搭乗し、ビーム撹乱幕が中に入っているタンクを機体の下部に接続してしようとしていた。一人、セイントバードに近付く敵機を見張る為に行動するネルソン。そんな彼の姿を見て、レイは言う。

「日本に着くまで護衛なんて……ネルソンさん、やっぱり休んだ方が良いと思うんですけど……」

「皆が行かないのなら私が行くまでだ。レイこそ休め。もし敵が出てくれば、君が戦力の要となるのだからな。私なら大丈夫、問題はないよ。」

「無理、しないで下さいね。」

一人セイントバードの護衛を行うために出撃するネルソン。レイは心配している様子だが、ネルソンは自身がセイントバードを護衛すると言って聞かない。

「心配は要らんよ。何度か仮眠をとっている。眠気ならば問題はない。」

「無事に帰ってきて下さいね……」

「女々しい事を言うな。ハルッグ、出るぞ。」

彼がそう言った直後、ハルッグは出撃した。と言ってもセイントバードの横側をMA形態のまま待機するだけなのだが。

だが、この護衛も楽ではない。日本に辿り着くまでMA形態のまま、セイントバードと共に航行しなければならないのだ。いつ敵が襲ってくるかも分からない状況である為、疲労が余計に蓄積されていく。

ネルソンは平気だと言ったが、実は彼自身疲労がピークに達していた。下手をすればそのまま眠りに就いてしまう恐れもあったが、ネルソンはどうにかそれらを堪えて護衛を務める。

 

ネルソンが出撃してから二時間が経過した。セイントバードは順調に航行を続けている。太陽の姿は見られなくなり、日の光が見当たらなくなった。その間、ネルソンはハルッグに乗って護衛を務め続けていた。何度かエリィから通信があったが、その度に彼は〝平気〟と一言述べるだけ。実際は肉体的にピークを迎えていたのだが、彼は護衛を続ける。

「大尉、やっぱり眠そう……さっきから欠伸が目立ちますよ?」

エリィが心配そうに言った。

「欠伸は脳への酸素不足から生じる生理現象だ。これがある限り身体を起こそうとしてくれているんだ……」

そう言ったネルソンは再び軽い欠伸をした。瞼が重く、今にも眠りに落ちそうだったが彼は強がりを言う。

「……やっぱり、一度帰還して下さい。ゆっくりと眠られた方がいいですよ!コーヒーも入れてあげますから!」

「有難いのだが、今帰っては何かあった時に大変な事になる。」

眠気と戦いつつも、軽くエリィの台詞に突っ込みを入れる。彼女の気遣いも構うことなく、彼は引き続き護衛を努めようとしていた。

 

ドォォォォォォォォォォォォォ

 

だがその時である。ハルッグのレーダーに近付いてくる熱源反応が確認されたのだ。同時にインクがエリィに対して言う。

「ね、熱源反応確認しました!高速でセイントバードに向かって来ます!」

「そ、そんな!?」

慌てるエリィ。

一方のネルソンはこの時を待っていたかのように冷静な行動力を見せた。まず、ハルッグ下部に備え付けられていたビーム撹乱幕を搭載しているタンクを切り離し、すかさずハルッグはMSに変形する。そして、ロングビームライフルでタンクを狙い撃ちした。

すると、ビーム撹乱幕が発生し、セイントバードをそれらが覆った。次の瞬間、レーダーで確認されていた熱源反応がセイントバードのエンジン部を狙うようにネルソンの視界に現れた。そしてすぐにエンジン部へ向かうのだが、撹乱幕のおかげでそれは弾かれた。それは大型のビーム砲で、もし撹乱幕を展開していなければセイントバードは間違いなく墜落させられていただろう威力を持つものだった。

「艦長、私の読みは当たったな。まさか本当に襲って来る敵がいるとは……おかげで目が冴えたよ。」

「流石です、大尉!皆に警告しますね!」

「頼む。」

そう言ってネルソンはエリィとの通信を遮断した。ネルソンはビーム砲撃を行ってきた敵を警戒しつつ、ハルッグを再びMAに変形させ、ロングビームライフルを構えてじっと待つ。

 

キシィン

 

次の瞬間、闇夜に不気味に輝くカメラアイの姿がネルソンの目に映った。

 二つのカメラアイを持つ機体が二機、彼の視界に映っている。対照的なカメラアイを持つ機体は、ガンダムタイプに限られる。

「あのカメラアイ……ガンダムタイプか?」

敵機を確認したネルソンはその方向へ向かう。その間にハルッグはロングビームライフルをいつでも発射できるように構えていた。

 

今回の敵、ガンダムタイプ。それらは二機存在している。所見では闇夜という事もあり、形状が把握出来なかった為、新生連邦軍の新型のガンダムタイプと思われた。

だが、実際は新型機ではなかった。内一機は空中を飛行しており、もう一機は新生連邦製のSFS、エンパワーに搭乗している。それらが二機、並列しているのだ。

「あの戦艦……ビームを弾いたわね、お姉様。」

「撹乱幕か何かを搭載しているのかしら?警戒をしていたと見えるわね。」

「しかも、なんか一機いるよ?早めに倒さないと!」

「ええ、そうね……そして、あの中に間違いなくいるとされるアインスガンダムを捕獲しなければ……ね。」

会話をする二人のパイロット。彼女等は、以前にアインスガンダムを奪取しようとしていたチェーニ姉妹だった。モントリオールでレイを襲った彼女等が、何故かこの場に出撃したのであった。

二人は新生連邦軍に入隊していたのだ。以前にスパイッシュによって雇われていた彼女等だが、その後様々な功績を重ねていき、やがて新生連邦軍に入隊する事になったのだ。

但し、彼女等はまだ見習い扱いだ。今、彼女等のガンダムは新生連邦軍の空中戦艦、“マドラ級”に所属している。そこの艦長がウイングイーグルからの情報を聞き、彼女等にセイントバードを襲わせるように指示を出し、その上でアインスガンダム奪還を命じたのである。

「これは神様が私達にくれた絶好のチャンスと考えるべきね、リンセ。」

「そうね、お姉様!ああ、早くお仕事を終わらせてお姉様の熱い鞭を頂きたいの……!」

フォリア・チェーニとリンセ・チェーニ。そして彼女等がそれぞれ操る、ヴェーチェルガンダムとエクルヴィスガンダム。これらが今度のセイントバードの敵として現れたのであった。

 

 

敵MSが出現したことで、セイントバード艦内はパニック状態に陥っていた。

エリィの指示によって、パイロットは皆それぞれのMSのコクピットへ向かう。それからハッチが開かれ、残されたトルクス三機がゾーリドカスタムに乗って出撃する。アインスも空戦仕様で出撃した。闇夜の戦いが今から始まる。

「ネルソンさんがいなかったら僕達、死んでいたんだ……けど、まさか敵が現れるなんて……」

レイはネルソンに感謝していた。だが今回敵が出現したことで、安心の出来る航行が出来ない事が判明した。それがレイにとっては辛かったのだ。

出撃して直後にアインスはネルソンのいる方向へ向かう。すると、そこには敵MSのビームサーベル同士で打ち合いを行っているハルッグの姿があった。撹乱幕の影響により、ビーム刃の出力が低下している。

「あ……あのガンダムって!?」

ハルッグと打ち合いを行っている、SFSに搭乗している水色の敵MSを見て思い出した。そして、もう一機。赤く、ウイングを展開しているMSは間違いなく、自分を襲った機

体である。モントリオールで二機と戦うレイだったが敗北し、瀕死の状態だった所をネル

ソンに助けられ、そして、今ネルソンはその二機の内の一機と戦っている。

 その中で、アインスはビームライフルを構え、放とうとした――

「レイか!セイントバードから離れてライフルを放つんだ!撹乱幕の影響でビームライフルの出力は十分に発揮出来ない!距離を取れ!

「えっ!?は、はい!」

ネルソンの言葉を聞いたレイは、一度セイントバードから距離を離した。バーニアの出力を上げ、セイントバードから距離を置く。

 そして、ライフルのフォアグリップを左手部で把持し、狙いを絞った。

 

 

バシュゥゥゥゥゥ

 

 

すると、水色のMSはビームを回避する為にハルッグから一度離れる。そしてアインスの方向を見た。

「お姉様!アインスガンダムだよ!けど装備が違うような……」

「いいえ、リンセ。あれは間違いなくアインスガンダム。さて、後は気になるのはパイロットね。」

パイロットがモントリオールでの時のままなら、間違いなくレイである。現在彼女らの前にいるアインスガンダムのパイロットはレイであるのだが、確認するまでは何者か、分かる筈がないのだ。

「アインスガンダムのパイロット!その顔を見せなさい!」

と、フォリアはモニター回線開示を欲求してきた。レイはそれに反応し、対応した。

「あ……貴方は……!」

続いて、リンセが回線を開き、レイの顔を見る。

「わあ!やっぱり前の子だ!」

「この人も……!フォリア・チェーニさんに、リンセ・チェーニさん……!」

レイは両者の名前を、覚えていた。当時の彼からすれば、敵機体がガンダムタイプだったということと、そして、そのパイロットが女性だったという事や、強烈なキャラクターであったという、三つの衝撃が相まって、彼の中で強烈に印象に残っていたのだ。

レイはこの時、怯えていた。まさか自分を追い詰めた敵に再会するとは思いもしなかった為である。

「久しぶりね、坊や。確か、名前はレイ・キレス……だったかしら。」

「どうして……こんなところに……!」

「だってね、私達新生連邦軍に入隊したんだから!」

「そしてウイングイーグルから連絡があり、近くを航行している可能性のあるセイントバードの中に搭載されているアインスガンダムを捕獲しろという命令が下った。だから今攻撃を加えているの。」

そう言った時、フォリアのヴェーチェルは腰部からビームウィップを展開した。ビームサーベル以上に長い射程を持つそれは鞭のようにしなり、アインスに襲い掛かる。

それに反応したレイは、アインスは背中からサーベルラックを抜き、ビームサーベルを展開してこれに応戦する。ビームウィップとビームサーベルの打ち合いが行われている最中、レイはある事を思い出した。

「そうだ……ギリアさん……あの人達に……!!よくも!!!」

ギリア・ノール……それはレイがアインスを奪ってから少しの間だが、友人から貰っていたMSデッキにアインスを格納してくれた男であった。チェーニ姉妹が襲ってきた晩にギリアはバズーカを持って二機のガンダムに応戦したが、リンセのガンダムの攻撃により、ギリアは死亡した。それを思い出したレイは、恐怖から次第に感情が怒りに変わっていく。

「この人達は!」

アインスはビームライフルを連射する。しかし二機のガンダムの動きは素早く、軽々と避けられる。この時、護衛に三のトルクスがゾーリドカスタムに乗り、ビームライフルを発射し、援護射撃を行うのだがこの攻撃も避けられる。

「先手必勝だぁ!」

リンセはそう言い、エクルヴィスの右手部マニピュレーターにサーベルラックを把持し、ビーム刃を展開。そのままアインスに襲い掛かる。が、アインスはこの攻撃の回避に成功する。

「早い!?」

攻撃を避けられて焦るリンセ。今の攻撃に対し、フォリアが言った。

「エクルヴィスは接近戦をあまりしない方がいいわ。一度離れて、遠距離からビームカノンを連射して。私はビームウィップで接近戦をメインに戦うわ。」

「りょ、了解、お姉様!」

そう言ってリンセは機体を後退させた――

 

バシュゥゥゥゥゥ

 

しかしそれを逃さないのがネルソンのハルッグである。

「遠距離からの砲撃を行う気か!邪魔はさせんよ!」

「ああもう!こんな時に邪魔が入る!」

苛立ちを覚えたリンセはハルッグにメガビームカノンを放出した。だがこの攻撃は回避される。そして、ハルッグはMAの状態からエクルヴィスに接近し、急にMSに変形してビームサーベルを展開した。それに負けず、エクルヴィスもビームサーベルを展開する。

再びこの二機の、ビーム刃同士の打ち合いが始まった――

 

グォンッ

 

その時。エクルヴィスは腰部の隠し腕を使ってハルッグの腰部を掴んだ。

「なっ!?」

「キャハハ☆捕らえた!!」

腰部を捕らえられ、身動きが取れないハルッグ。ビームサーベルを振り回そうとするがエクルヴィスがハルッグの腕を固定し、動かせない。

そこへ後方からフォリアのヴェーチェルがビームウィップを持って迫ってきた。ハルッグのコクピットを突き刺すつもりだ。

「フフ、前はよくも邪魔をしてくれたわね、あの変形MS!」

「ちぃっ!身動きが取れん……!」

「これでラストォ!!!」

姉妹の連携プレーだった。エクルヴィスの隠し腕がハルッグを捕らえ、その一方でヴェーチェルがビームウィップを所持し、動けない敵機を切り刻む。これにより確実に敵機を破壊する。身動きの取れないハルッグはフォリアからすれば格好の的であった。このままではハルッグはコクピットを貫かれ、破壊されてしまう。必死に機体を動かすが、エクルヴィスのパワーはそれを離さない。

「無駄だよっ!そんな華奢なMSでガンダムのパワーに勝てる訳ないじゃん!」

リンセは得意げになってネルソンを追い詰める。そして、フォリアは確実にハルッグを仕留めようとしていた――

だが、そこへ一筋の光がヴェーチェルを襲った。強力なビーム砲である。それを察知した瞬間、急いでヴェーチェルはこの攻撃を避けた。

「何!?」

すぐに彼女は光が放たれた方向を見る。そこにはメガビーム砲を展開していたアインスの姿があった。緑のカメラアイが、ネルソンを襲う二機のガンダムタイプを睨んでいた。

「く、いつの間にあんな武装が……」

「ぶっちゃけありえなーい……」

惜しくもネルソンを倒し損ねた姉妹。不機嫌な表情を浮かべて一度二機はその場から離れる。

 

グォンッ

 

しかし、そこへ、一機のトルクスが追撃を始めたのだ。SFSに乗ったトルクスが姉妹のガンダムに向け、戦いを挑む。

「よせ!何を考えている!?」

ネルソンが警告した……が、パイロットは言う。

「あんなのを逃がしたらセイントバードがやられちゃいますよ!トルクスだってやれるってところを見せてやりますよ!」

トルクスのパイロットが言った。だが機体の性能差がありすぎる。ゾーリドカスタムに乗って機動性が上がっているとはいえ、たった一機でガンダムタイプ二機に戦いを挑む等無謀としか言い様がない。

そのトルクスは姉妹のガンダムを追う。後方からの熱源に気付いたのか、姉妹のガンダムはカメラアイを輝かせてトルクスを睨んだ。

「今度は何かしら?」

「アインスでも変形MSでもない、雑魚MSだね!」

すぐに仕留めようと、エクルヴィスはメガビームカノンを放出する。しかしトルクスはゾーリドに乗ったままこの砲撃を避けた。そしてそのままエクルヴィスの懐に近付き、背中からサーベルラックを抜いてビームサーベルを展開し、エクルヴィスに切り掛かる。

「わぁお!」

急な攻撃だったが、エクルヴィスは隠し腕を展開し、そこにサーベルラックを持たせ、打ち合いを行う。

しかし敵はエクルヴィスだけでない。ヴェーチェルがトルクスの後方に向かい、ビームウィップを展開していた。それに気付いたのか、トルクスのパイロットはゾーリドカスタムから一度トルクス本体を分離させ、再びビームサーベルでヴェーチェルのビームウィップと打ち合いを行う。

 ビーム刃を駆使した攻撃。トルクスのパイロットはガンダムタイプ相手に善戦していた。

「このパイロット、中々出来るわね。まあ、所詮“中々”ってレベルだけれど。」

フォリアがそう言った直後、ヴェーチェルは腰部に備え付けられているメガキャノンを展開してそれを発射した。急な攻撃だった為、回避し切れなかったトルクス。この砲撃を受けて左腕部が融解してしまう。だが右腕部は残っていた。そこでトルクスはサーベルラックを捨て、機体の腰部にマウントしていたビームライフルを装備してヴェーチェルに向けて撃つ。

その光景を見て、ハルッグは援護射撃を行う。だがいずれも回避される。やがてトルクスはゾーリドカスタムに再び乗りこもうとした、その時だった。

 

ガキィン

 

「しまった!?」

後方にはエクルヴィスが隠し腕を展開してトルクスの腰部を固定していたのだ。身動きが取れないトルクスは危機的状況に陥る。

「お姉様、チャンスタイムだよ!」

「ええ、リンセ……」

フォリアが妖しく微笑むと、ビームウィップを展開し、トルクスに接近した。そして至近距離まで接近し、ヴェーチェルは赤いカメラアイを輝かせる。

 

ズバァァァ

 

次の瞬間、ビームウィップはトルクスのコクピットを貫通した。その瞬間にヴェーチェルトエクルヴィスはその場から離れる。それと同時にトルクスは爆発したのだ。

 善戦したトルクスのパイロットだったが、姉妹のコンビネーションを前に破れ去り、死亡したのだった。

「ちい……!」

ロングビームライフルで射撃を行うネルソン。だが姉妹のガンダムは素早い動きで翻弄してくる。

「雑魚の癖に調子に乗るからよ!」

「次はあの変形MSね。」

そう言って、姉妹は再びハルッグに標的を絞ろうとした――

 

ドバアアアアアアッ

 

そこへ、セイントバードが援護射撃を行ったのだ。両翼部に搭載されているビーム砲が、姉妹のガンダムを狙った。撹乱幕の効果が切れつつあった為、ビーム砲を放つ事が出来た。それに反応した姉妹は回避運動を行い、ビーム砲を避ける。

「ふぅん、一番狙われては行けない筈の存在が出しゃばるなんてね。」

フォリアに目を付けられたセイントバード。接近戦を好むフォリアは再びビームウィップを展開してセイントバードに近付く。

「それに、どうやら撹乱幕は切れてきたみたい。なら、狙うは戦艦……ね。」

もし今セイントバードに危害が加えられたら非常に危険だ。それだけは絶対に阻止しなければならないと思ったレイは、アインスのブースターの出力を上げ、ヴェーチェルの所へ向かう。

「セイントバードに触れないで!!!」

そう言ってアインスはヴェーチェルに対してビームライフルを連射した。その攻撃に気付いたヴェーチェルは素早い動きでそれらを回避する。

「女の子みたいな坊やが来た所で!」

「僕は男です!セイントバードは破壊させるもんか!」

「フフ……やっぱり可愛い。」

そう言った瞬間、ヴェーチェルは腰に収納していたビームライフルを連射した。

突然の攻撃に、アインスはシールドで防御を行う。それによってダメージを押さえることが出来た。

「さて、たっぷりと痛めつけてあげるわ、坊や!その愛らしい顔を苦渋に満ちた顔に染め上げてあげる!想像するだけで、ゾクゾクするわ……股間が濡れちゃいそうよ……!」

変態的発言。だが今のレイにそれを聞く余裕はない。ただ、襲い来るフォリアに対して攻撃を加えるだけだ。

「クッ!」

アインスもビームライフルを構え、射出する。正確な射撃。それに反応したフォリアは、すぐにビームライフルを構え、発射した。

 

バヂイイイイイッ

 

両者のビーム粒子が弾け、闇夜に一瞬の明かりを灯して消えていった。

「さあっ!」

次に、ヴェーチェルはビームウィップを両手部マニピュレーターで持ち、アインスに向けて襲い掛かった。二つのビームウィップに襲われるアインス。それに反応したレイは、対抗しようとアインスの背部のサーベルラックを二つ抜き、ビームサーベルを展開し、応戦した。

「ビームの剣と鞭とじゃ出力差は明らか!残念ね、坊や!」

「こんなのに負けないんだ!」

ビームサーベルと、ビームウィップの打ち合いを行う両者。

その時、ネルソンがヴェーチェルに攻撃を仕掛けるため、ハルッグをMAに変形させてヴェーチェルへ接近を試みていた。だが途中でリンセの駆るエクルヴィスに邪魔をされてしまう。

「邪魔はさせないよ!お姉様は守るんだから!」

そう言って兆発するリンセ。ネルソンは、レイの援護に回りたかったが、邪魔をされては援護など出来るはずがなかった。

「ちぃっ!邪魔をするな!」

「あんただってお姉様を殺す気なんでしょ?」

「それはそちらが襲ってくるからだ!貴様等の目的はセイントバードとアインスか!」

「そうだよ!その命令を受けているもん!だから命令には従うんだよ!」

「なら、こちらもやられる訳には行かないな!」

ネルソンはMAのハルッグのブースターの出力を上げ、エクルヴィスの眼前でMSに変形し、ロングビームライフルを撃ちこんだ。その射撃はエクルヴィスの右肩部に直撃し、被弾した。これによりビームカノンは使用不可能となった。

「あぁぁぅ!何すんのよッ!」

「ガンダムというMSの力を過信し過ぎているな。その程度では私はやられんよ。」

「う、うるさい!ガンダムでもないMSに乗ってて偉そうに!!」

怒ったリンセは肩のメガビームカノンを至近距離で発射しようと試みる。だが、両肩からその兵器を使用する事は出来ず、左肩のみしかビームカノンは射出出来なかった。右肩は先程ハルッグが攻撃を加えた為である。そのビームカノンも避けられてしまう。

その後、ハルッグはMAに変形してフォリアとレイが交戦している場所へ向かった。それを追いかけてくるリンセ。後方のエクルヴィスに警戒しつつ、ハルッグはレイの元へ向かう。だがこの時、リンセの目的はハルッグではなかったのである。

 

アインスとヴェーチェルは打ち合いを続けている。このままでは埒が空かないと察したレイは、再び右肩部にメガビーム砲を展開し、それをヴェーチェルに向けて撃った。

「チィッ!」

ヴェーチェルは急いで離れた為、直撃を受けることは無く、無傷だった。アインスはメガビーム砲の砲身を展開した状態で、両手にビームサーベルを所持している。そしてそれらを背中に収納し、ビームライフルを構えようとした――

 

ガキィン

 

突如、アインスは背後から何かに掴まれた。レイは動かそうとするが、全く動かない。両腕が何かによって固定されたのだ。

「うわっ!?」

背後を見れば、そこにはエクルヴィスがカメラアイを輝かせてアインスを睨んでいた。隠し腕によってアインスは捕獲されたのだ。

「お姉様!チャンス!」

「流石リンセ。さて、アインスは持ち帰らないとね。だけどその前に……」

フォリアはビームウィップを再び展開し、アインスのコクピットを串刺しにしようとしていた。パイロットを殺し、機体だけ持ち帰ろうとしていたのである。

「人が死ぬ瞬間を見るのはいつでもエクスタシーに達するわ!堪らない!特に貴方のような可愛い子が死ぬ瞬間を見れるなんて!!!」

サディズムに満ちた、女が発する台詞は狂気以外の何者でもない。このままでは、レイはこの女に殺されてしまう。

(この人……それより、どうすれば……!)

躊躇うレイ。だがこのままでは殺されるのが目に見えていた。

(足……?)

それは一瞬の閃きだ。モニターに映っていたアインスの脚部に着目したレイ。両腕部はエクルヴィスによって固定されているのだが、脚部は固定されていない。つまり、脚部を利用すれば生き残れる可能性はあると言うことだ。

それに気づいた時、レイはアインスの脚部を駆使して、エクルヴィスに向け後方に思い切り蹴った。その衝撃でエクルヴィスは隠し腕を離してしまいアインスを逃がしてしまう。

「あぁっ!しまった!」

「今だ!」

すると、アインスは再び背部に装備されていたメガビーム砲を展開し、それをすぐに発射した。

高出力の、ビーム砲撃はヴェーチェルの左腕部に直撃し、融解した。突然の砲撃に、明らかに動揺しているフォリア。この時、彼女は何度も瞬きをし、アインスの方向を見た。

「あんたねぇ!よくもお姉様を!!」

と、エクルヴィスがアインスに迫った時だった――

「撤退しましょう、リンセ。」

「ええ!?どうしてなの!?お姉様、まだ戦えるんじゃ……」

「今は身の安全を確保した方が良いわ。この戦艦、只者ではない、相当強いパイロット達が護衛をしていると認識して良さそうね。」

「けど……」

「無理して、死んだらお給料も何もないわよ?」

「はーい、お姉様……」

ヴェーチェルは左腕部を損傷。エクルヴィスは右肩部のメガビームカノンを損傷した。実際それらを破壊されてもまだ戦えたのだが、これ以上戦って下手に死ぬよりは撤退して次に備えた方が良いと考えたフォリア。リンセは姉の命令にただ従うだけだ。

やがて撤退する姉妹のガンダム。その光景を見たレイは、ただ襲ってきた敵を撃退した実感だけを噛み締めていた。

「大丈夫か、レイ。」

ネルソンのハルッグが近づいた。

「何とか……ですけれど。」

「君はよくやってくれたよ。」

チェーニ姉妹の強襲を受けつつも、辛くも勝利を収めたセイントバード。もしセイントバードにビーム砲撃が集中していれば間違いなく沈められていたに違いない。

今回幸いだったのは敵が2機だけだったということである。レイは、以前に倒された敵を撃退する事が出来て、少しだが笑みを浮かべていた。

 

 

先の戦闘から帰還したチェーニ姉妹。彼女等はマドラ級の艦長に先程の戦闘について報告していた。それを聞いた上官は不機嫌な様子で言った。

「何故まだ戦える力をもっておきながら、撤退したのだ?」

それに対し、フォリアは言う。

「命の保護が最優先だと判断した為です。アインスガンダムとその戦艦を奪還する事は別に私達ではなくてもすることは出来ます。ですが私達の命は私達だけ。私達は、安全に、そして確実に勝つことが出来る戦いを心掛けて戦場に赴いています。今回は敵側のパイロットに有能な人間が多い故に、命の危険を感じた為、撤退をさせていただきました。」

下手をすれば殺されたかも知れないと感じていたフォリアは、理由を説明した。その理由に関して、上官は眉間に皺を寄せている。

「作戦の失敗は死を意味するぐらいの覚悟が必要だ。例え、貴様らの片割れだけが生き残ったとしてもな。我が身恋しさに任務を放棄など本来は有り得んぞ?」

そう言って上官はMSデッキから去って行った。その後ろ姿を見て、リンセは言う。

「軍人って失敗したら絶対に死ぬ覚悟でやんないとダメなの?それってさぁ……人生損してる気がするのよね。」

「私達は別に根っからの軍人ではないわ。ただ、新生連邦軍に所属しているだけ。その中で、私達は、私達なりに戦果を上げればいいのよ。」

「さすがお姉様!私、やっぱりお姉様の考えの方が素敵だと思う!あんな堅苦しい軍人のおっさんの意見なんて聞いてらんないし!」

フォリアとリンセは、上官の言葉を聞く耳を持たなかった。彼女達の戦闘スタイルがある為、例え命令と言えど彼女等はそのスタイルを崩す事はしないのだ。

「それにさっきのあの子、本当に強くなっていたわ。」

「アインスの子?」

「ええ。あんなに可愛い顔してあの強さ……また会いたいわね、あの坊やに……本当、素敵な坊や……」

フォリアは不気味な笑みを浮かべていた。彼女は、レイという存在に対してどのような感情を抱いているのか……それは妹であるリンセにも分からず、フォリア・チェーニ本人のみにしか分からないのである。

 

 

 

 

 

 セイントバードに敗れたウイングイーグルは、ギリシャのアーステクノロジー本社に寄っていた。そこで修理を行っており、傷ついたガンダムタイプも全て修理を行っている。

「そのパイロット達の管轄は、以降は新生連邦軍にお任せしますよ。もし、何か不具合がありましたら私に一報頂ければ幸いです。では。」

そう言って、スルース・ディアンは研究者と共にリムジンに乗り、ウイングイーグルから去って行った。相変わらず特殊強化モデルを“物”として見ている男に、この場に居た誰もが不信感を募らせていた。

「総司令、宜しいのでしょうか。やはりあのような存在は、軍備増強と言えど……」

ダリアが言った。

「……少しでも、戦力増強になるのならば……これも手段の一つです。事実、彼等の力は強力なものだった。あの力は様々な環境でも役立つ事でしょう。」

総司令が言った。それを、傍にいたソフィアはそっと、見守っていた。

「総司令、ロシアにいるフーク・カズロブ大佐がダッゲインを日本へ搬送するという話が出ております。」

「ダッゲインを?何故?」

ダッゲイン。それはデウス動乱時に使用されたデウス軍の超大型MSの事である。大戦末期に用いられた機体であるが、本格的な運用が行われないままデウス軍は敗北し、現在は新生連邦の管轄に置かれている機体である。

「何でも、日本にあるシンギュラルタイプ研究所で、強化モデルのパイロットの情報収集を行いたいとのことです。」

「日本は特別な敵性戦力はいない筈ですが……余計な事をしなければ良いですが。」

「それは、私も同じ考えです。」

新生連邦軍と言う組織は広大な範囲に渡る。総司令であるレヴィー・ダイルに入る情報は僅かであることも多い。様々な人間が、それぞれの思惑の元、動いている。それらの把握は、彼に十分出来ていない。

 超大型MSが日本へ移送されるという事。それは、新たなる戦いの予兆に過ぎないのだった――




第十九話投了。
アレンと分かれ、セイントバードチームはキプロス島で修理をして――という話。明かされるエリィの過去といった話も入れてます。
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