機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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それぞれの再会を描いた話。
その中で不吉な組織の動きもあり――?


第二十話 再会

 

 セイントバードが日本に向けて航行している頃、ギリシャ、アテネ沿岸にて。

そこに、一人の男が漂着していた。新生連邦軍のパイロットスーツを着ている、男。彼は目を覚ます事なく、その場で動かない。

「……大変!人が……!」

それに気づいたのは一人の少女だった。急いで男の元へ行き、彼の容体を確認する。

 脈はあった。生きている。だが目を覚まさない。とにかく、ここに放置しては行けないと考えた少女は、自宅までその男を連れて行くことにしたのだ。

 

 

「……ぐ……うう……ハッ……!?」

やがて、男は目を覚ました。だがそこは、全く見覚えのない場所だ。目の前には白い天井。彼自身はふかふかの感触のベッドに寝かされている。そして、包帯で上半身を巻かれている。恐らく、誰かが処置をしたのだろう。

「あ……目が覚めましたね!」

少女の声が聞こえた。声の方向を、男が見る。

「誰だてめぇ!?」

そう言って、咄嗟に近くのテーブルに置かれていた銃を持ち構える男。だが、少女は恐れる様子を見せなかった。

「女……か?」

その正体を確認した時、男は銃を構えるのを止めた。

「その様子だと、動けそうですね。安心しました……」

少女は何故か、笑顔だった。恐らく助けた人間が目を開けた事に、喜びを感じているのだろう。

「お名前、教えて貰って良いですか?」

少女は全く男を恐れない。これは、男にとって奇妙な感覚だった。

「……クラリス・デイル。」

男はクラリスだった。先の地中海上空の戦いでレイの駆るアインスに撃墜された男は、今、ここギリシャ、エーゲ海沿岸のある一件家に住む、少女に救われたのだ。

 少女は水色の髪色をしていた。ロングヘアーであり、目が大きく、目元はやや下がっている目つきをしている。一見“穏和”という印象を受ける、少女。

「あんたの名前は?」

今度はクラリスが聞いた。

「アユ・ヒーストです。」

少女の名はアユと言った。

「アユ……日本人みたいな名前だな。」

「はい、私、日本とギリシャのハーフですから。」

「へぇ、そうかい……ん、ここはギリシャなのか?」

地中海上から墜落したクラリス。辛うじて生きていた彼が辿り着いた場所に、驚く様子を見せた。

「それより、ご飯、作りますね。お腹、空いていませんか?」

アユが覗き込むように、クラリスを見る。あまり女性と交際経験がないクラリスにとって、可憐に見えたこの少女に対し、僅かだが胸の高鳴りを感じていた。

「あ、ああ……」

と、クラリスは素っ気なく、言った。

(いや、明らかに俺より年下のガキだ……クソ、こういう時モテないやつは損だよな……)

彼は頭を横に振り、そっと深呼吸をした。

 

 彼の前に食事が出された。ムサカやホティアキサラダといった、ギリシャ特有の郷土料理が並ぶ。見栄えも整っており、悪くない。所謂写真映えがしそうなその料理に、クラリスはただ、呆然とする。

やがてクラリスはそのままそれらを食す。そして、僅か5分程でそれらを平らげたのだ。

「フフ、余程お腹が空いていらしたんですね?」

アユが微笑した。それに対し、クラリスはまるで睨むように彼女を見る。

「お気に、召しませんでしたか?」

恐る、恐る、アユは聞いた。

「美味い。」

そう言ったクラリスだが、素気のない態度を見せる。

「ああ、良かったです!」

再びアユは笑顔を見せた。

 この時、クラリスは違和感を覚えていた。何故このような可憐な少女が自分の為に世話などするのか……という、単純な疑問。そして、その少女はあまりに優しい。

 

バンッ

 

 この優しさに何故か、苛立ちを覚えたクラリスは、テーブルを思い切り叩き始めた。音に反応したアユはクラリスの顔を、じっと見つめる。

「お前……俺が怖くないのかよ。」

クラリス・デイルは性格が不器用な男だ。幼い頃から短気な性格であり、よく喧嘩をしていた。それ故に心を許せる友の数も少ない。

 彼にとって心許せる存在。それは母親だった。彼の母親は年齢を重ねた上で生んだ為、現在では高齢である。父は既に亡くなっている。一人っ子であるクラリスが心開いていたのが母親の存在だった。だからこそ、母親への想いは強いのだ。

 基本的に、心許せる存在以外には高圧的な態度を見せるのがクラリス・デイルの特徴だ。それは自身の部下にも表れていた。信用できない存在には高圧的な態度をとる。彼がレイに対して暴力行為を振るったりするのも、彼自身の気質から来ている所があった。それ故に上司からは問題児扱いされる事が多かった。優秀ではあるのだが時に勝手行動を起こし、それが災いして左遷される事等、日常茶飯事だ。それでも彼が新生連邦軍内で中尉と言う尉官で居られるのは、彼の実力が優秀であるという何よりの証だ。

 ところが、レイは彼の慕っていた部下二人を殺した。それが許せないでいるクラリスは、未だにレイという存在に執着を抱く。結果、敗北をしているのだが。

 そのような彼は、目の前にいる優しい少女、アユに対して苛立っている。妙だ。何故彼を助け、料理まで振舞う優しい少女に苛立ちなど覚えるのか。それは、彼自身も分からない。

人は、何らかの形で怒りの表情や厳しい視線を送る時、普通ならば嫌悪感や恐怖を抱く筈だ。だが、目の前にいる可憐な少女、アユはクラリスに対し、明らかに恐怖を抱いている様子ではない。これはクラリスにとって妙な経験であった。

「怖くないですよ?だって、倒れていた人を放って置けないじゃないですか。」

アユは堂々とした様子で言った。

「おい、俺は軍人だぞ?新生連邦のな!今までMSに乗って戦ってきたんだぞ?人だって殺しまくってきたんだぞ?」

何故だろうか、彼女に自らの事を話すクラリス。アユはそれを聞いて、静かに笑みを浮かべる。

「万が一貴方が私を殺そうとするなら、多分私にそんなこと、言わないと思うんです……」

「言わない……のか……?」

「私に本当の事を言うって事は、私に関心を抱いてるって事ですよね?クラリスさん。」

何故だろうか。アユ・ヒーストを見ているとクラリスは混乱していた。可憐であり、尚且つ穏和な印象を持つアユ。だがその一方で、軍人であるクラリスに対して堂々とした振る舞い。 

クラリスはこのような人間に出会った事が無かった。それ故に、困惑をしているのだ。

「こういう時、なんて言えばいいんだ?俺は人とあんまり交流した事ねぇしな。」

基本的に暴力で今まで解決してきた男、クラリス。粗暴な性格は対人関係において不利益しか生まないのである。それ故に、今この少女に対して言うべき言葉が見つからないのだ。

「貴方が率直に感じた言葉で良いと思いますよ?」

アユは、笑顔を浮かべた。

「クソ……言えねえ……あれだろ?謝礼っていうのか……」

言いたい事を分かっているのに、それを発せないクラリス。

「もっと、簡単な言葉があると思いますよ?」

「うるせえ!分かってんだよ!」

本来言うべき言葉が言えない彼は、ぷいとアユと目を合わせるのを止めた。

 

「あ、目覚めたの?この軍人。」

そこへ、もう一人少女が姿を見せた。アユと同じ、水色の髪。ポニーテールの少女。目は吊り目であり、第一印象は、アユの姉か妹の印象を受ける。

「なんだ、こいつは……?」

アユと違い、高圧的な印象を受けるこの少女。

「あんたさ、助けてもらった上にお姉ちゃんのご飯食べてお礼も言わないとか。軍人ってなんでそんな偉そうな訳?」

“お姉ちゃん”という言葉から、もう一人の少女はアユの妹である事が分かる。

「挨拶とかは人として基本以前、当たり前でしょ?そんなのすら出来ない人間が軍人やってるってあり得なくない?」

と、毒舌を話す少女。

「なんだこのガキ、偉そうにさっきから!」

気の短いクラリスは怒った。が、彼を怒らせた少女は悪びれる様子もなく、更に言う。

「軍人なのに今言われた事に対して怒るんだー。大人気なさすぎ!そんなだから撃墜されたんじゃないの?浜辺に落ちていた白いMSの残骸を見て思ったんだけどさ!」

クラリスに対し、皿に火に油を注ぐ。それを止めようとするアユ。

「てめえ、それ以上言うと酷い目に遭わせるぞ!」

再びテーブルを叩くクラリス。

「そうやってキレるって事はさ、図星って事じゃん。」

「大体お前、名前も名乗らないで偉そうによ!」

「リン。リン・ヒースト。」

もう一人の少女の名前はリンと言った。愛らしい姿とは裏腹、言葉に棘のある少女。姉のアユとは性格が正反対の印象だ。

「リンとか言ったかこのクソガキ!俺はクラリス・デイルだ!あんまり大人をからかうんじゃねえぞ!」

と言うクラリス。相変わらず高圧的であり、暴言で相手を追い込もうとする。

 しかしリン・ヒーストにそれは通じない。何を言われても彼女は堂々としていた。

「大人ってクソガキとか、そんな台詞吐くもんなの?馬鹿なの?あんた。」

姉妹揃って、クラリスという男を一切恐れていない。それどころか初対面にも関わらず話しかけてくる。

 性格が対照的な姉妹。だが、共通している事は、妙に話がし易い、という事だった。

「妹が失礼して……すみません、クラリスさん。」

「何謝ってんのよお姉ちゃん。助けて貰ってタダ飯貰って暴言吐く大人よこいつ?サイテー。」

何故だろうか、クラリスはリンの毒舌に対して、僅かだがたじろぐ様子を見せた。言われている事に、心当たりがあるのだろう。だからこそ、彼は次第に言葉を失っていくのである。

「それより、リン。学校は?」

「ああ、そうだった。こんな恩知らず相手にしてる場合じゃなかったわ!そろそろ行ってくる!あんたも身体治ったらさっさと去りなよ!タダ飯ら食いをうちにやるほど余裕ないんだからね!」

そう言って、リンは走って階段を降りていった。どうやら、彼女は学校に通う生徒であるらしい。

 

 リンが階段を降りた後、残ったのはアユとクラリスのみだった。リンと歳が近い筈のアユが何故学校に行っていないのかを、クラリスは聞いた。

「お前、学校には行かないのかよ。」

相変わらず不器用な口調だ。それに対し、アユは言った。

「私達は二人で生活してるんです。生活費は町に出て私が働いて、その上でお母さんから仕送りをしてもらってます。」

「へぇ、そりゃ大変だなぁ。」

その母親とは別居しているのだろうか。クラリスは考える。偶然助けて貰ったとはいえ、訳があるのだろうと、彼は考えていた。

「リンの言葉は気になさらないで下さいね。あの子、昔から口調は悪いのですが、決して悪い子ではないんです。思った事を素直に話してしまう子で……」

性格が正反対のこの姉妹。この時、クラリスは彼女等に対し、奇妙な縁を感じ取っていたのである。

 

「きゃあああ!?」

 

その時、一階から少女の甲高い声が聞こえた。リンの声だ。先程の毒舌を吐いていたとは思えない、叫び声。それに反応したのはこの部屋に居た、二人だ。

「リンに何が……?」

「ん……?どうなってやがんだ?」

と、クラリスはその場で起きようとした―

「グッ……!」

僅かに腹部が痛む。まだ、完治出来ていない傷が彼の動きを抑制した。しかし、それでも身体を動かすのだ。彼は銃を片手に持ち、急いで階段を下りた。

 

一階に降りると、二人の男が玄関の前に立っていた。リンは学校へ行こうとした時にこの男達に行く手を阻まれたのである。

「貴方達は……!」

アユが、男達を睨む。一人はスキンヘッドの男。もう一人はスーツを着て、眼鏡を装着した男だ。

 明らかに妙な組み合わせの男達。そして、その男達を見て、先程までクラリスに対して高圧的な態度をとっていたリンが恐怖している。

「おはようございます。集金に来ました。」

眼鏡の、スーツ姿の男が言った。

「お金、ちゃんと払わないで学校に行くのはおかしくねぇか?」

スキンヘッドの男が言った。体格は大柄であり、筋骨隆々なのが分かる。

台詞からして、恐らく借金取りか何かだろう。紳士的な様子の男と、強面の男という、妙な組み合わせ。そして、その男達に対してリンが怯えているという状況。

それらを見た時、クラリスは言った。

「お前等、何者な訳よ?」

包帯を巻いているクラリス。傷は痛むが、表情を一変する程ではなさそうだった。

「貴方こそ何者ですかね。私達はこの家に住む姉妹に用がありましてね。父上が残された借金の集金に参った訳です。」

父親の借金という単語が気になったクラリスは、アユの方を見た。アユの表情は、曇っていく。

「父は……一年前に亡くなってます。戦後の混乱で定職に就けなくなって、自棄になっていって……借金のみが残る状況になったんです……」

母親からの仕送りや、アユが働きに出るという理由が、今クラリスの中で理解出来た。この借金取り達が、父親の借金を娘達から取り立てようとしているのだ。

「普通は母親に行く筈だろ?なんで姉妹しか住んでいないここにこいつらが来る?」

「それは……」

アユの口からは、それ以上の言葉が出なかった。一方のリンも、言葉を開けることが出来ない。ただただ、男達を見て怯えているのだ。

「あんたにゃあ関係ない話だぜ。これはこの姉妹の問題なんだよな。」

スキンヘッドの男が、言った。

 

スタッ

 

その時、クラリスはスキンヘッドの男の前に立った。まるで、ヒースト姉妹を庇うかのように。その体躯差は歴然だ。クラリスの身長は180センチメートル程度。だがスキンヘッドの男は195センチメートルと大柄。その上筋骨隆々だ。その上クラリスは怪我をしている。仮に何らかの取っ組み合いになった時、クラリスの方が不利である。

「見たところ怪我をされている貴方。更に怪我、しますよ?その姉妹が早くお金を払うか、その“身体”を差し出せば良いだけの話なんですがね……十代の、発達している途中の美しい身体を……ね。」

眼鏡の男が舌で唇を舐めて放った言葉を聞いた時、クラリスは察したように男達を見た。

「ああ、そう言う事ね。大体の事情は分かったぜ。」

そう言ったクラリスの目は見開かれていた。そして、右手は握り拳を作っている。

「お前等、なかなかのクズだぜ。」

「クズ?借金を返さない方がクズ扱いだぞ。こいつらにそれを否定する権利はねぇぞ?というかお前は関係ないだろうが――」

「あるね」

クラリスが、スキンヘッドの男の言葉を遮った。

「こいつ等は俺を助け、飯を作った。それだけでも十分関係者になり得てんだよクソが!」

 

バキッ

 

クラリスは右手で、スキンヘッドの男を殴ろうとした。しかし、その手は男の左手に防がれてしまう。

 やはり力の差は歴然だ。ぐぐっと彼の右手を引き寄せ、腕を使えないようにしている、男。クラリスは苦悶の表情を浮かべ、もがき苦しむ――

 

ピシュンッ

 

「ぐおっ!?」

巨体の男の右肩から血が流れた。肩を抑え、後ろに下がる男。

 クラリスは銃を構えていたのだ。敵が攻撃してくるのを確認した時に、迷わず銃を放ち、銃弾が当たらないように狙い、掠めたのだ。銃はサイレンサー付きの物であり、音が響くことは、無かった。

「銃だと……?お前!」

眼鏡の男の口調が変わった。内ポケットを探り、銃を構えようとする男。だが―

「お前、誰に喧嘩売ろうとしてんだ?」

「は?」

「新生連邦の軍人に向けて喧嘩を売るってのなら容赦しねぇぞ。ええ、オイ?」

“新生連邦”という言葉は、男達を怯ませるのに十分な役割を果たした。この男達が何者であるのかは定かではないが、軍人に喧嘩を売るという行為はつまり、地球圏で大きな力を持っている新生連邦そのものに喧嘩を売るという事になる。そうなれば、彼等に勝ち目などある筈がないのだ。

「新生連邦……!?嘘だ、そんなの、聞いてないぞ!?」

「一回、引くしかねぇ……!」

先程までの男達の高圧的な態度はどこへ行ったのか。すぐに二人の男はヒースト家から去って行ったのであった。

 

 それは、クラリスの咄嗟の機転が利かせた出来事だった。借金取り達はヒースト姉妹の父親が残したものであり、その返済に明け暮れている状況であったアユとリン。母親はあくまでも仕送りをするに留まっており、現在は離れた場所で生活をしているという。

 本来、配偶者である筈の母親の所に借金取りは来る筈だ。だが、彼等はそれをせず、ヒースト姉妹の住むこの家に時折来ていたのである。

 理由は、彼女達の若さ、美しさだ。彼女等は十代の少女であるが、彼女等の年齢は借金返済する上で十分なビジネスとなり得た。所謂、人身売買だ。

 デウス動乱後の混乱期。こうした状況は世界各地で見られるようになっている。戦争により職を失い、貧困になった者に、更なる借金を背負わせ、その上でその肉親に更に金額を請求するという方法。それはかつての世界でもあり得た事ではあったが、厄介なのはその方法だ。

 ヒースト姉妹のように容姿端麗であればそれを利用したビジネスに悪用され、下手をすれば拉致され、最悪命を落とすか、廃人になって帰ってくる事も有り得るのだ。実際、この世界では報道されていない事実として、デウス動乱後、こうした人身売買の犯罪が後を絶たない。そして、人身売買は巨額が動くのである。

 このような犯罪が蔓延している事に対し、一つ理由があるとすれば、地球上の人口の減少が大きく関係していた。デウス動乱を経た地球圏は多くの犠牲者を出していた。その総数は全盛期の半数とも言われている程に。地球上の各地が戦場になった一方で、戦場にならず、平和のまま過ごすことが出来た地域も存在しているのが現状なのだ。人口の大半が減った世界で、人を扱う闇ビジネスが横行している現状。それは大きな問題であった。

 世界の中心の組織となっている連邦はこうした問題にも取り組むべきなのだが、新生連邦軍が力を持っている現状では連邦の権限でこうした事への取り組みは追いついていない。軍備増強を優先して、それを続けている状況。これが、今この世界で起こっている現実の一つなのだ。

 ヒースト姉妹は人身売買の被害に遭い掛けた。そこを、新生連邦軍のクラリス・デイルが助けたという事になる。

「ありがとうございました、クラリスさん……!」

アユは何度も、クラリスに礼を述べた。

「いや……俺はただ、助けて貰った仮を返しただけに過ぎねぇんだよ。こういうのはきちんと果たすのが、普通だろうって思ってるからな。」

それを聞いた、リンはクラリスを一度見た。そして目線が合った時、静かに、言った。

「べ、別に……感謝とかしてないんだからね……恥ずかしいとこ見られて……最悪よ……もう、学校行く!本当、最悪!」

そう言い残し、リンは学校に向けて走っていった。

「あの、リンはお礼を述べたかったんだと思います……あの子、素直じゃない所があるので……」

「多分、そんな気がしたぜ。まあ、こっちとしても助けて貰ったし、美味い飯も貰えた。それでな、こういう時にいう言葉、分かったんだよ。」

「それは、何ですか?」

アユは笑みを浮かべ、首を傾げて言った。

「……ありがとう……」

クラリスは、似合わぬ笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 セイントバードチームは、ユーラシア大陸の航行を経て、遂に日本へ辿り着く。

 日本。極東の国。主に四つの島国で形成されている国である。最大の特徴はその経済力にあった。

 日本という国は従来から観光業、エンターテインメント業に特化している国であり、その人気は世界中どころか、コロニー郡にも影響を与える程である。美しい国という比喩は間違っておらず、季節によって変化する情景や、観光地等、そして日本古来から伝えられている、侍、忍者といった存在。その上でのアニメ等のエンターテインメントはこの時代においても日本という国を成り立たせる上での基盤となっている。

 レイも日本のアニメーションは好きである。クラスメイトとその話になる事も、時々ある。

 そして、何よりも治安が良い。旧世紀の武家社会では武士が中心となっていた世界である上、合戦が続いていた為、治安が良いとは言えない状況ではあったのだがそれ以降の長きに渡る国内での内乱等がない事により、反乱などを起こす人間が次第に少なくなっていったのが事実である。

 これは、現代では新生連邦政府という強大な力が支配しているというのもあるのだが、それよりは日本人古来からの、個人の他者を思いやる気持ち等が大きく影響していた。

様々な国やコロニー間での移動が可能になっていき、国際社会となっている時代でも、この国の昔からの道徳精神は保たれ続けているといえる。

 こうした背景もあり、それ故にこの国で住みたいと願う人間は多い。そして、影響を受けている国もまた、多い。

 例として挙げるのならば、レイの故郷、カナダ等はその影響を受けている地方がある。彼の故郷であるモントリオールがそれにあたる。旧世紀ではモントリオールはフランス文化の影響を色濃く受けていたのだが日本の教育関係や文化等は、P.C歴の前にあたるC.W歴の時から次第に受け入れられるようになっていったのだ。これは当時のモントリオールこれは当時のモントリオール市長が日本という国の文化に触れ、それに感銘を受けた事がきっかけであり、それ以降フランス文化と共に定着するようになっていったのであった。

 小さい島国でありながら、経済力を持つ国、日本。現在では新生連邦軍の支配下に置かれている場所ではあるものの、エジプトと違い、内戦が起きている状況は、ない。デウス動乱後という不安定な世界であれど、観光等で訪れる人が後を絶たない。

 新生連邦軍によって支配されている現在でも、この国に関してはまさに、「奇跡の国」と言えた。

 

 セイントバードチームは東京の空港に降り立っていた。大都市、東京はこの時代になっても日本の首都として成り立っている。そこにいた、一人のジャンク屋の男、シュアー・ラヴィーノと会い、握手を交わすエリィ。

「お久しぶりです、シュアーさん。一年前以来ですかね?」

エリィの姿を見たシュアーは、異様な喜びを感じている様子で言った。

「いやぁー!相変わらず美しいなぁ!エリィはんは!もう、見ただけで疲れ吹き飛ぶわ!ほんま、最高やで!」

シュアー・ラヴィーノ。元々コロニー育ちの男であったが日本の魅力に取り憑かれた人間だ。C.W時代に日本に移り住み、そのままジャンク屋として働いている。外見は40代前半、僅かなほうれい線に左の頬にほくろが目立つ、剽軽な男。その特徴的な喋り方は、日本の関西地方の喋り方だ。彼は関西方面の喋り方が好きであり、一時期暮らしていた事があり、その結果、馴染んでいったのだという。

「早速やけど今夜飲みにでも行かんか?わしが奢ったるさかいに!あ、二人だけでよかったらー!」

この言葉に対し、エリィは

「えっと、色々と忙しいのでまたの機会に。」

と、苦笑いを浮かべて言った。

「そりゃないでー!またの機会にって大概縁ない時に言う台詞やんけ!」

遠回しに否定されているのにも関わらず、シュアーは笑顔だ。これも、彼なりのコミュニケーションの取り方なのだろう。

「艦長を食事に誘うならもう少し良い料亭とかの方が良いのではないでしょうか、シュアーさん。」

と、ネルソンが言った。

「おお、ネルソンはん、あんさんも元気かいな?相変わらず、渋い声やなほんま!」

と、彼の肩を叩き、シュアーは大声で笑う。

「ん?それと……見慣れん子がおるなぁ?なんや、女の子か?」

シュアーが次に見たのは、レイの姿だった。相変わらず少女のような容姿をしている彼は、ここでも性別を間違えられたのであった。

「あの、僕は男です……」

その、独特の喋り方に少し違和感を覚えていたのか、レイはシュアーに対し、緊張している様子だった。

「ああ、紹介します。レイ・キレス君です。色々と訳があってうちのMSパイロットを務めてくれています。」

と、今度はエリィがレイを紹介し始めた。

「レイ・キレスです、よろしくお願いします。」

「はい、どうもよろしゅうね。しかしこんな女の子みたいな子がパイロットやっとるんかいな。信じられへんなほんま。」

シュアーはじっと、レイを見て言った。あまりに顔の距離が近い為、レイは引き気味の様子だった。

「あんさんらは暫くここにおる予定なんやろ?しっかりと戦艦は直したるさかいに、観光とかしてきたらどないや?」

シュアーは、セイントバードチームのクルーに気を利かしている様子だった。キプロスからの航行で、疲労している様子のクルー達。せめてゆっくりとすれば良いと、彼は言った。

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいましょうか。レイ君。」

エリィがシュアーに礼を言った後、何故かレイの方を見た。レイは、何も言わず、ただ会釈をするだけだった。

 

「エリィさん、エリィさんじゃないか!」

と、一人の、若い男が駆け寄ってくる姿が見えた。それに反応したエリィ。そして、表情が変わっていく。

「あ!ガースト君じゃない!?久し振りだね!」

と、手を振るエリィ。だが、笑顔のエリィを見た男は一度立ち止まり、目を見開かせる。

「えっと……エリィさん?」

アレンの時と同じ反応だった。彼女に声を掛けたこの男も、恐らくデウス動乱時に彼女らと共に戦った仲間なのだろう。

「ん?どうしたのかな?」

と、エリィは首を傾げる。

「なんか、雰囲気変わりました?」

「私は私のままですよ?プレーンさんは元気かな?」

「ええ、まあ……」

と、ガーストという青年は明らかに戸惑っている様子だった。

「なんや、ガーストはん、知り合いやったんか?」

シュアーが、割り込むように言った。

「まあ、そうっスね。知り合いっていうか、戦前からの仲っていうか。」

レイには、これらの関係が全く分からなかった。今の状況を見て理解できるのは、エリィとシュアーが知り合いであり、ガーストと言う青年とも知り合いであるという事だ。しかし、どのような関係であるのかは全く分からない。

 その時、ガーストは覗き込むように、レイの姿を見た。レイは、またしても“少女”に間違えられるのだろうと、身構えていた時――

「なんで、こんな男の子がここにいるんですか?」

レイは、耳を疑った。まさか、自分が一目見て男だと分かる人がいるという事に、驚きを隠せない様子だった。

「まさか……まさか僕を男って一発で見抜いてくれる人がいるなんて!!」

と、感激しているレイは、思わずガーストの手を握った。一目で少年と言ってくれたガーストの存在が、レイにとっては輝かしく見えたのだ。

「ええっと……エリィさん、これ、どういう事っスか?」

初対面の少年に手を握られている状況に、ガーストは困惑する。

「レイ君は顔立ちが女の子みたいだから、よく性別を間違えられちゃうの。だからガースト君に男って見て貰って喜んでるんじゃないかなぁ?」

そう言う、エリィは苦笑いを浮かべていた。

「へぇ……まあ、そんなのどうでもいいや。ガースト・ピュアスだ。エリィさんとは戦前からの付き合いでさ。よろしくな。」

と、気さくな様子で挨拶を交わした。

 ガースト・ピュアス。デウス動乱時代にエリィ達と共に戦い抜いた人間の一人だ。端正な顔立ちで、金色の髪をしている。目元はやや鋭い。やや荒っぽい口調ではあるが、性格自体は丁寧な印象を受ける青年だ。背丈は170センチメートル程度だろうか。それ故に、戦後の今になってこうした挨拶が出来ているのである。

「はい!よろしくお願いします!」

レイはいつになく笑顔で、そして強く、ガーストの手をしっかりと握った。

「あの、エリィさん。この人とどんな関係なんですか?」

「ああ……ちょっと色々と複雑なんだけど……」

エリィは、ガーストとの関係について説明を始めていた。

「彼は元々デウス帝国軍所属で、元々は私達、戦ってたんだよね?」

「最初はそうでしたね。」

レイの理解が追い付かなかった。ネルソンもデウス帝国軍所属の軍人であったが、エリィ達と直接交戦した事は無い。

 だが、ガースト・ピュアスとはデウス動乱の際に交戦した事がある。つまり、元々は敵だったのだ。

「けどさ、大戦末期に上の連中が部下である俺らを切り捨てるような真似をしやがった。その結果、俺は連邦に寝返った。結果、エリィさんと合流した事になるんだよ。」

そう言われ、レイは少しばかり理解出来た様子だった。

「そんな、事が……」

今までレイが出会った人間はいずれもが元連邦軍やデウス軍といった人間ばかりであるが、いずれも直接の交戦経験はない。しかし、今回出会ったガーストは、初めてエリィ達が交戦したことのある相手であった。

 つまりは、一度は命のやり取りをしている者同士である。だが、ガーストは最終的に地球連邦軍に寝返った。そして、デウス動乱を戦い抜いたのである。

「もしデウス軍が勝っていて本国に帰っていたら俺は極刑だったって訳。まあ、もう俺は本国に帰る気はない。こうして、地球で暮らしている方が、気が楽だ。もう軍に入る事もないし、当たり前だけど戦争もする気はない。」

「凄い……アレンさんと、なんか違うな。」

アレンの場合はレヴィー・ダイルとは戦友だったが、今では敵対している。一方で、ガースとの場合は敵対していたエリィ達と、最終的には仲間同士になっている。こうした話を聞き、レイは関心を抱いている。

「アレン?今、アレンって言ったか!?」

 その時、レイの言葉に対し、ガーストが反応していた。レイの目を見て、近づき、迫る。

「え?えっと……知り合いですか?」

ガーストは、レイの両肩に触れ、揺さぶりながら言った。その時の表情は、満面の笑顔だった。

「知り合いも何も!あいつと直接戦った事があるんだよ!MSに乗って!デウス動乱中に!」

「え!?そうなんですか!?」

ネルソンとエリィのように所属が違う者同士が現代になって友情を築き、仲間になる事はあれ、戦時中に違う所属の者同士が直接交戦したという話はレイにとって初耳だった。

 一度命のやり取りをした筈の人間なのに、何故ガーストはアレンの事を聞き、笑顔になれるのだろうか。

「あいつは強かった!何度か死にかけた事もあったけど、俺は生き延びた!やがてはあいつと一緒に戦う事になったんだよ!!」

互いに戦い、交戦している筈なのに、その、相手と戦友になり、喜ぶという事。それはレイにとって、妙な感覚だった。

「てか、アレンの事をどうして知ってるんだ?あいつがデウス動乱の英雄とか言われてるからか?いや、それでもおかしい。まるで、会ってきたかのような感じで言うな、お前。」

「えっと、実は――」

レイは自身にあった出来事を説明した。アレクサンドリアの事や、先日の新生連邦軍との交戦した話等。

 それを聞いたガーストは、行方不明とされていたアレンが生きていたという事に対し、改めて喜びを抱く。

「そんな事があったのか……」

「だから今あの人がどこにいるのかは分からないんです。不思議な人でした。」

「まあ、あいつは確かに不思議な奴だ。お前もね。」

「はい……え?」

突如レイに話を振られた為、慌てる様子を見せた。

「新生連邦に襲われた云々の話で、なんでお前みたいな子供が戦ったなんて話をしてるんだ?アレンと共に戦ったとか言ってるけど、それ自身が不思議だ。お前こそ何者?」

レイは目をパチパチとさせ、どのように答えるべきか……と、考えた時――

「一度、ガンダムを見て貰う方が早いかも知れないわね。」

と、エリィが両者の肩をポンと叩いた。レイから見たエリィのこの仕草は見慣れた光景だ。

 しかし、ガーストにとっては違和感しかない。それはアレンが感じていたものと同じ光景だったからだ。

 

 セイントバードのMSデッキにガーストは誘われた。そこのラックハンガーに立っている紺色の巨人の姿を見て、彼は驚愕する。

「お前、ガンダムのパイロットなのか……?」

「はい、成り行きなんですけど……ね。」

レイ・キレスという存在に驚くガースト。この少年が一体何者なのか……と、彼は興味を抱く。

 デウス動乱のような大規模な戦争のない時代。その時代に何故、ガンダムに乗る少年がいるのか。そもそも、何故エリィが艦長を務める戦艦に、連邦のMSであるガンダムが存在しているのか。ガーストにとっては謎が多い事ばかりである。

「レイ君には助けて貰っているの。彼が居なければセイントバードは撃墜されている可能性もあった。まあ、本来はレイ君を故郷に送り届ける為に航行をしているんだけどね。」

「ん?どういうことですか?」

エリィはこれまでの経緯をガーストに語った。レイが元々普通の人間であるという事や、ガンダムに乗ってここまでの戦いを生き抜いてきた事など。

 それを聞き、ガーストはレイを見て言った。

「お前、家族も故郷もあって成り行きでMSに乗るなんて普通じゃ有り得ないぞ。実力あるとかないとかの話じゃないんだぞ?」

そういう、彼の口調は強い口調だ。初対面であるガーストではあるが、レイの経緯を聞き、どこかで苛立ちを感じたのだろう。

「僕だって……まさか、こんな風になるなんて思っていませんでした……」

「……お前、MSが元々好きだっただろ。」

「え?」

ガーストの言葉に、興味を抱くレイ。

「だから成り行きでそんな風にやってしまうんだよ。憧れのMSが目の前にあるから乗ってみようとか……そんな感じ。」

それは彼自身が実感している事だ。プラモデルなどで見るMSと、実際のMSは違う。実際のMSは人を殺す。それは、ここ一ヶ月半程で経験した出来事だ。

「お前さ、MSの整備ってした事ある?」

ふと、ガーストが言った。言われてみれば彼はMSの整備をした事がない。整備は基本、整備士に任せきりだ。彼はあくまでも、客として扱われていた為、そのような事をしなかったのだ。

「故郷まで送り届けて貰うまでとはいえ、MSの事は自分でやるべきだ。人手が足りないのなら、手伝えるようにはしとけよ。そうだ、せっかくだし俺が教えてやるよ。」

「え……良いんですか?」

ガーストは、少しだが笑みを浮かべた。

「お前と少し、喋りたいしさ。」

何故だろうか。ガーストの笑みがレイの中で印象に残った。目をパチパチとさせ、彼の方を見る。その様子は、まるで少女のようだった。

(この人、何だろう。不思議だ。なんだかエリィさんとかと同じような感じがする。)

それが何を意味するのかは、今の彼には分からなかったのである。

 

 アインスガンダムの整備を始めたガースト。それに付き添うレイ。ガーストはアインス全体を見ていき、その装甲や動力の確認を始めた。

「そもそもMSの動力源とか知ってるか?」

「ハイ・バッテリーシステムですよね。旧世紀のバッテリーをより長時間、尚且つ熱源として利用できるようにしたものですよね。」

 MSの動力源は、レイの言うように、ハイ・バッテリーシステムと呼ばれるシステムを利用している。その初期モデルは伝説とされているファースト・ガンダムに用いられていたとされており、当時のバッテリーシステムで連続して可動出来る活動時間は40時間程度であったとされている。

 現在のハイ・バッテリーは技術の進歩により、推進剤やビーム粒子の問題を別枠と捉えれば、ほぼ、半永久的な活動が可能であるとされている。だがこの恩恵を受けられるのはMSのみであり、一般家庭の家電や電気自動車等はこうした恩恵を受けられない。それは電化製品と比較してその出力や電圧そのものが段違い過ぎるという事と、ハイ・バッテリーが普及する形になれば、家電製品などの売り上げに大きく影響してしまうという企業側の問題が生じている為でもあるのだ。それらを普及させまいと、MSを開発する軍事企業の利権が横行しているのがこの世界の現状と言えるのである。

 核融合炉を利用した動力を用いる手段も検討されていたとされるが、その場合は地球環境への悪影響を懸念する声も上がっていた為、結果的にハイ・バッテリーを利用する事となったのである。

 元々ハイ・バッテリーはCメタルを合成し、元々の電気技術の問題を大きく解決した事が由来で存在している。存在そのものはエコロジーと呼べるものだが、一方でそれが利権によって戦争の兵器であるMSにのみ用いられているという妙な現象が起きているのだ。

「装甲は?」

「Cメタルですよね。確か民間輸送会社とか、国とかが地球と宇宙間でそれらを運んでいるんですよね。外宇宙から来たっていう、MSの装甲の材料で、それが日常でも使えないかって研究もずっと進んでいますけどなかなか発展していないとかって話は聞きますよ。昔に起きたCメタルの争いで第二次クリスタル・ウォー、別名Cメタル戦争があったっていうのも歴史で習いましたよ。」

Cメタル。それはC.W歴に移行する前に外宇宙から飛来したとされる特殊金属。現代のMSにも利用される装甲素材となっている素材。レイはMSマニアでもあり、こうした事情に関しては詳しい。

「フレームとかは?」

「ヒューマニアフレームですよね?確か本格的にMSの量産が進んでいくにあたって開発されたフレームだって聞いています。文字通り、電子機器の配線や動力パイプを人間の筋肉や血管に見立てて設計したとか。それが採用されて、今の時代にまで至るって話ですよね?」

いずれの質問も全て答えるレイ。この事から、彼は余程のMS好きである事が伺える。

「ただのMS好きで終わらせるには惜しいな。尚の事、整備の事知っていた方がいいんじゃないか?将来はMS工学を学んで、ジャンク屋とか、軍関係とかに就職出来たら安定かもな!」

そう、笑いながら言うガーストだが、レイの内心は複雑だった。

 彼は特別やりたいことが分かっていない。ジュニアハイスクールに通っていては分からなかった体験を、今、しているレイだが、将来的に何をしたいのかは彼の中で明確でないのだ。

 ガーストの言うように、MS工学関係の道に進むのが正しい道なのか……と、彼は考える。

「ガーストさんは、いつからMSに乗っているんですか?」

ふと、レイは聞いた。すると――

「十歳。」

「え!?」

レイは驚愕した。レイですら十四歳でガンダムに乗っているというのに、ガーストは十歳の頃からMSに乗っていたという。

「人材不足極まってたんだ。デウス軍に早くも抜擢された俺はMSに乗って、戦った。白兵戦とかはほとんどしていない。MSに乗って戦う事ばかりを強いられ続けた。」

「そう……なんだ。」

それが戦争の現実なのか……と、レイは感じていた。戦争を知らないレイにとっては、こうした話も新鮮に感じられるのだ。

「戦争なんて碌なもんじゃない。結局現場の人間が犠牲になり、指揮官や上層部は適当に指示を与えるだけだ。それで多くの人間が死んだ。無意味って言われている作戦にも付き合わされたり、犠牲を前提に戦線に投入されたりしたこともあった。」

戦争中の話を聞くのは、何度かあった。ネルソンの場合や、エリィの場合等。いずれもが悲惨な話ばかりなのだ。

「ま、こうして生き残れてるのは有難いんだよ。俺はもう戦争とは関係のない生活を送ってるし、何よりも日本は過ごしやすい。娯楽も沢山あるし、退屈しないしな。」

「なんか、良いですよね。そういうの。」

レイはアインスの右肘関節部の装甲の確認をしながら言った。

「レイ、お前はさ、故郷に帰ったらMSに乗るのか?」

ふと、ガーストはレイに聞いた。それを聞かれたレイは、考え込む。

 そもそもレイは今、セイントバードを守る為にガンダムに乗り、戦っている。彼が故郷に戻る事になれば、彼はMSに乗る必要はなくなる。敵との殺し合いもせずに済む。自分自身も助かり、元の生活に戻る。

 だが、何故か彼は素直に喜んでいない。そして、彼は同じような質問を以前エリィにされたのだ。

 

―――――――――――――レイ君にはあのガンダムは必要?――――――――――――

 

「必要がないなら、乗らないと思います。」

憧れの存在であった筈のMS。実際のそれは、人を殺す道具。その違いはレイを苦しめた事があった。それ故に、レイは“普通”でありたいと願うようになった。

 今回、レイはエリィに言われた時と比べ、迷う事がなくなっていた。今は今。先は先。そう、少しずつだが割り切れるようになっていたのである。

「それが良い。整備だけならするけど、あれは兵器だ。学校に行ったりしているお前が好んで乗るものじゃない。故郷に戻ったら、ちゃんと勉強に励むんだぞ。そしてMS工学を学んで、改めて整備士とかなっていったら良い。それだけ知識があればジャンク屋とかで働けるだろうよ。俺みたいにさ。」

「ガーストさんはどうしてジャンク屋をやっているんですか?」

何気なく、レイは聞いた。

「これが一番出来る仕事だからだよ。戦争ばっかりやってる人間が戦後になって働く手段って言ったらこれが一番当てはまる。世界中で起きている内乱やテロリストの傭兵になってくれって言われてもこっちからお断りだし。」

ガーストはアインスの手部の修理をしながら言っていた。

「それに、戦場で死んだらあいつが泣くから。」

「あいつ?」

「ああ、俺さ、同棲してるんだ。プレーンっていう彼女が居ててさ。巨乳の女の子。つっても同い年だけど。」

ガースト・ピュアスは日本で同棲している。

 彼の恋人の名は、プレーン・ミーン。戦時中にガーストと出会い、交際に至った。そして、戦後になって共に暮らしているのだという。豊満な乳房が特徴的だという女性。

「彼女さんが、いらっしゃるんですね。」

「まあね。可愛らしいんだけど、人前でもいちゃついてくるから正直困るっていうかさぁー。」

と、惚気話を始めたガースト。レイはそれを聞き、ただ、苦笑いを浮かべるだけだった。

 その時、ふと、レイは疑問に思った事を、言った。

「そう言えばガーストさんは僕の事、どうして“男”だと一目で分かったんですか?僕、今まで会う人に“女の子”と間違えられるんですけど……」

「え?そりゃ、胸見てるからな。お前全然胸ないじゃん。それは女とは言わないじゃん。男だろ。」

(顔じゃ、ないんだ……なんか胸の無い人に対して失礼な事言ってるような……)

ガーストにとっての性別の判断基準は女性の乳房なのだ……と、レイは密かに思っていたのであった。

 その後も作業は続いた。その間も両者は会話を続け、いつしか仲良くなっていったのであった。

 

 

 それから作業は一段落を終えた。ガーストとレイは仲良くなっており、互いに様々な事を喋る仲となっていた。

 休憩時間はそれぞれが自由な時間を過ごす。その中でも、特に多いのがEフォンを見る者が多い。

 Eフォンは連絡手段以外にもSNSを用いての膨大な情報ツールとしての利便性がある。これを使う事であらゆるコンテンツと繋がることが出来る。ある者はゲームを、ある者はSNSの投稿を確認、ある者は動画を見、ある者は曲を聞く。そして、ある者は教養の為にそれらを用いる。

 今、ガーストは動画を見ていた。投稿者が投稿する動画であり、Eフォンを使うユーザーの中でも人気のあるコンテンツの一つだ。

「何を、見てるんですか?」

レイがガーストのEフォンを、そっと見た。

「エレチャンネル。ハイスクールの女の子だけど結構編集が凝ってて面白いんだよ。」

ガーストが見ている動画。それは素人のハイスクールの少女が投稿している動画だ。動画の投稿主は芸能人でも何でもない存在ではあるが、定期的に動画を投稿し、その再生数や広告によって収入を得ている。

 “エレチャンネル”はある、一人のハイスクールの生徒が投稿している動画投稿者の事である。内容としては趣味の事や商品の説明や、菓子類の試食といった、至って普通の内容。だがそれは日本では爆発的な人気があり、再生数は常に7桁を超えるとされる。この時点でエレチャンネルに行く収入は膨大であり、今までアップロードした動画を全て含めるとその純利益は膨大であり、凄まじい人気を誇っている。

 そこに映る人物は、桃色の髪をしており、ツインテールで、白色のマスクをしている少女だ。彼女が、エレチャンネルの動画投稿主であるのだ。恐らく身元が判明しないように、マスクを付けているのだろうか。

「レイは?」

「僕は、ジャンヌ・アステルを聞いてます。やっぱり、素敵な声ですね……本当に。」

世界中で人気の歌手、ジャンヌ・アステル。それを聞いたガーストが、言った。

「SNSのフォロワーは億を超えてるんだよな、確か。」

「え、そうなんですか?」

と、レイはSNSを開き、ジャンヌ・アステルのページを開く。

 SNSにはフォロワーと呼ばれる項目がある。その数が多ければ多い程、ファンが多い事を指す。ジャンヌ・アステルはガーストの言うように、億を超えるフォロワーが居る。これは地球圏やコロニーを含めた数で考えると、如何に膨大な数であるかが分かる。

 一方のレイは登録のみしており、そのフォロワーの数は数十程度。友人関係しかフォローをしていない。世界的歌手であるジャンヌ・アステルとは雲泥の差だ。

「凄いな、やっぱりこの人は……」

「有名人だし、当然だろうな。そういや今度日本に来てコンサートするんだってさ。この前までアメリカでやったばかりなのに、忙しい事で。」

「そうなんですか!?そうだとしたら、凄い偶然だ……」

このように、何気ない雑談を交わす両者。そこに、戦争を経験したものとそうでない者という、垣根は無かった。仲の良い者同士は、例え立場や境遇が違えど、分かり合える“何か”があるのである。

 

 

 

 ……とある、場所にて。薄暗いビルの高層階に位置する場所。

いずれもが個性的な服装をしている。そして、会話の内容も物騒だ。何らかの組織の人間だろうか。

「上納金はしっかりと収めているという話だな。ボスにも届くだろう。」

「だが、支払うべき上納金を懐に入れている人間もいるって話だ。」

「そういうのは制裁が下るんじゃない?」

「まあ、下るだろうな。特に、うちのチームにはヤバい奴が何名かいるからな。まだ、来ていないみたいだが」

そこにいたのは三人の人間が会話をしていた。“上納金”“制裁”といった単語が羅列している。

 

ガチャ

 

そこへ、三人の人間が入ってきた。アレクサンドリアに居た、三人。ウネフ、ケネール、ミルフの三人である。

「来たか」

と言うのは、一番奥でソファーに座っている長身の男だ。

「武器はこっちに密輸して送らせてるとね。こっちは依頼の失敗があって嫌な気分とね。」

ウネフが言った。

「上納金の期限に間に合えば、それで問題はない。」

奥の、ソファーに座る人間が言った。

「これで六人。リーダー、何人に召集を掛けているの?」

一人の女性が奥に座る男に対して言う。男はこの“組織”を束ねるリーダーのようだ。

「八人だ。あと二人。どこで油を売っているのかは知らんが、もう少し待つ。“その時”はまだ来ないからな。」

ここに集まっているのは六人のメンバー。いずれもが、以前ミルフが言っていた、“氷河族”なのだろうか。

「あれ、ゼオンは良いの?」

ミルフが、言った。

「数は八人が丁度良いんだよ。目くらましはミルフだけで十分だ。子役の天才だからな。ゼオンは資金の調達に当たってもらう。奴はメンバーの中ではまだ、“見習い”だからな。」

どうやらこのメンバーとは別に、何者かいるのだろう。リーダーに該当する男が言っていた。

「ゼオン、あの子はなかなか行動力はある印象だけれども……実行部隊としてはまだまだ、甘いわね。ミルフの方が優秀ね。」

一人の女性はグラスに入れられたアイスティーを啜り、喉を潤す。すらりと長い背丈の、美女。冬場にも関わらず、彼女は氷の入った飲み物を飲んでいる。

「あはは、褒められた!」

「ま、ここにいる人間達も大概変な奴等ばかりだけどな。」

と言うのは、大柄な男だ。薄暗い部屋にも関わらず、サングラスをしている、男。

「リーダー。聞きたいことがあるとね。」

と、ウネフが言った。

「全員が集まるまでここで待機させる気とね?それは流石にフラストレーションが溜まるとね。」

「ああ、そう、ボスから指示をされているからな。」

「ボス……ね。」

ケネール・リックが呟く。

「そもそも顔も見た事のないボスって存在が、何者なのかも知らないのに、よく動けるもんだよな。俺達。」

「それが“氷河族”だからな。」

大柄な体躯の男が言った。

 彼等の言うように、氷河族には“ボス”と呼ばれる存在がいる。だがそれは何者であるのかは、メンバーは誰も分からない。もしかすれば親しい人間が“ボス”にあたるのかも知れないし、全く知らない人間であるのかも知れない。そもそも、“人”でないのかも知れない。

 ボスの存在を知る事。それは“死”に繋がる。今までも別のメンバーがボスの存在を暴こうとして、殺されたケースがあったという。

「今、私を含め六人のメンバーがいる。ウネフ・ミカハラ、ミルフ・ブラマンジュ、ケネール・リック、ニーア・アンジェリカ、ジュラード・メッサード、そして私、アルン・ティーンズ。」

今、リーダーであるアルンから六人の名前が告げられた。先程紅茶を飲んでいた女性はニーア・アンジェリカ。サングラスの男はジュラード・メッサードである。

「世間一般では戦後による混乱期を経ての不景気と言われているが、私達のような裏家業からすれば美味しい話だ。正直、無法地帯な一面もあるからな。今の世は。」

ワートン・ディアラが以前に言っていた、ギャングやマフィアに続く、新たなる組織が氷河族だ。そういった組織に続く犯罪組織である彼等。世界中に拠点を置き、その構成員の数は数十万を超えるとされる。

 治安の悪い場所と呼ばれる所は、住民の人柄の問題もあるが、それ以前に基本的に法整備が行き届いていない事が多い。又、警察組織と言った存在が成り立っていない事も多い。それは、こうした裏家業の人間やその関係者などが多額の資金を渡す事により、違法行為も揉み消されたりしているからだ。

 増して、現在はデウス動乱後の混乱期。法整備が整っていない地域では犯罪行為を起こした所で、簡単に警察組織に連行されることは無い。

 だが彼等は何故か日本と言う、治安も良く、法整備も比較的整っている場所に集まった。それは何故なのだろうか。

「んで、リーダー。残りの人間は誰を招集する気とね?」

ウネフの疑問に対し、リーダーであるアルンは答える。

「エレア・シェイルにメイド・ヘヴン。」

その言葉を聞いた時、メンバー全員がざわつき始めた。

「二人共、なかなかの要注意人物じゃない。」

ニーアが呟いた。そして、彼女はグラスに入っている氷を嚙み始める。

「特に、メイド・ヘヴンはヤバいな……あいつは人殺しを気まぐれで楽しんでいる。」

サングラスの男、ジュラードが言った。

「前の戦争で軍人さんやってた人……なんだっけ?」

メンバーの中で唯一子供であったミルフが、言った。

「正確には傭兵だな。当時から危険人物と言われていたが、そのヤバさは戦後になっても折り紙付きって訳だ。だから“パニッシャー”を務めているってんだろ。リーダー。」

ケネールが言った。

 パニッシャー。それは氷河族内における“断罪人”の事だ。組織内での不祥事やボスの存在に近づこうとする者や、知ろうとする者を、文字通り、“断罪”する者の事だ。この役割に、メイド・ヘヴンという男が該当しているという。

 他にもパニッシャーと呼ばれる人間は居るのだが、この組織内ではメイドという男の存在が際立っていた。

「奴は特別厄介な利益交渉をしてこない。単純に人を殺める事を快楽として生きている人間だからな。それでパニッシャーに選ばれたんだろう。」

アルンは暖かい紅茶をそっと啜り、フッと息を吐く。

「奴は、どこで油を売っているのか。」

彼等氷河族が日本に集まっている理由。その理由は一切不明だ。

 氷河族。いずれもが裏社会に暗躍している存在ばかりであり、危険人物と呼ばれる存在達である。その思惑はそれぞれあるにしても、“ボス”“リーダー”という存在がこれらをまとめ、束ねているのだ。

「今回の一件に関しても、ボスの指示だ。私も具体的な事は詳しくは聞いていない。メンバーが集まり次第、連絡が来るようだ。」

「ボス……奇妙な人間とね。姿を見せずに指示だけ出す。まるで、漫画で見るような奴とね。」

「あんまり悪口は言わない方が良いんじゃねえか。万が一盗聴されてたら“パニッシャー”に消されるかもよ。」

 彼等は、氷河族の“ボス”の指示で動いているに過ぎない。そしてそのボスは、こうした組織が稼いだ売り上げを貰う。貢献した組織にはそれなりの待遇が得られ、貢献しない組織にはそれ相応の扱いとなる。

無論、足を洗うといった真似は許されない。組織が常にあり続ける為には、ボスの命令は絶対であり、そして良い立場で居る為には組織への貢献が求められるのであった。

 氷河族。謎が謎を呼ぶ組織。今は全てのメンバーが集まっておらず、彼等が何をするかは不明だが、不穏な動きがある可能性は、高いだろう。

 

 

 

 日本にセイントバードチームが着いた頃、ある場所にて。そこには、輸送機でセイントバードから離れたアレンの姿があった。

彼が立っていたのは豪邸の前である。来る者を拒む荘厳な扉。その存在に、ただ、圧倒されるばかりのアレン。

 彼はEフォンのメールに記載されていた情報を見て、ここまで来たのだ。ここに来る為に、セイントバードから離れたと言っても過言ではない。それは彼自身、奇妙に感じている事だった。

 バンディットとして活動している彼へのメッセージ。アレン・レインドと言う名前は当然ながら伏せている。本名を知られる事は不利益になる事が多いからだ。

 だが、彼宛に送られたメッセージは、まるでアレンである事を知っているかのような内容なのである。それが気になった彼は、この豪邸の前までやって来たのだ。

「どのような要件か」

扉越しに、声が聞こえた。警備の者の声なのだろう。

「依頼主に用があり、こちらに来させて頂きました。」

アレンは言った。しかしこの言葉では、扉は開かない。

 この厳重な扉を開くには余程の“信用”が必要だろう。気軽な友人関係等が開くような、簡単な扉ではない。でなければ、目の前の扉が厳重である必要がないからだ。

「開けて下さい」

その時、一人の女性の声が聞こえた。それを聞き、明らかに動揺した声を出す警備兵。

「宜しいので?」

「私が招待したのです。なのに、門の前で立ち往生をさせる事は失礼に当たりますわ。」

 

ギイイ

 

と、重厚な音を立て、扉が開かれた。つまり、アレンは認められたという事になる。“依頼主”に。

 

 アレンは少しずつ歩く。そこに映る景色は紛れもない、“絶景”だ。庭園ではあるがいずの植物も手入れがされており、その上数多の彫刻が置かれている。見る者を魅了するその景色に、ただ心を奪われながらアレンは歩いている。

 やがて彼は玄関の前に立った。荘厳な門は見る者を圧倒する、魅力があった。

「凄い……」

と、アレンは思わず呟く。

「貴方は……」

すると、彼の前に一人の女性の姿があった。

 その容姿は“美しい”の一言で片づけられるものではない。金色の長い髪に、透き通った碧色の目をしているその女性。“絶世の美女”という言葉は彼女の為に存在していると言っても過言ではないだろうとされる程。

 女性は黒いロングドレスを纏っている。スリットから見える脚は見る者を魅了し、その整ったスタイルや顔立ち。全てが、“完璧”と呼べる女性が、アレンの前に立っていたのである。

「アレン!やはりアレンなのですね!?」

突如、女性は喜び始めた。その笑顔を見た時、アレンは反応する。

「やっぱり、依頼主は君だったんだ。ジャンヌ。」

その女性はアレンにとって大事な人の一人であり、世界中で有名な歌手であり、女優である女性、ジャンヌ・アステルであった。世界中でファンを持つ絶世の美女。彼女とアレンは一体どのような知り合いなのだろうか。

「本当に、お久し振りですわね……アレン。」

ジャンヌ・アステルは彼の手を握り、そして抱擁した。アレンもそれに対応し、笑顔を作る。

「君が俺を呼んだんだよ。しかし、よく分かったね。俺がバンディットって。」

アレンに対し、メッセージを送った主。それこそ、目の前にいるジャンヌだったのである。彼女はバンディットの依頼フォームを見て、それを察し、彼宛に連絡をしたのだ。

 つまり、アレンは世界的な歌手に直接連絡を貰ったという事になる。それを察した彼女の洞察力は、計り知れないと言える。

「中にどうぞ。貴方とお会いできるのを、楽しみにしておりましたわ。」

「俺もだよ。ジャンヌ。」

親しげに話す両者。この様子から、戦前から交流があったことが伺えた。

 

 ジャンヌ・アステルが住む豪邸。その広さは150ヘクタールにも及ぶ大豪邸だ。ジャンヌ・アステルはその令嬢にあたる人物である。

 アレンはジャンヌに招かれ、客室に案内される。そこで彼等は紅茶の入ったカップを渡される。

 やがて客室内は二人だけになった。アレンは、赤や金で彩色されている、美しくも妖艶な部屋を見て、見惚れていた。

「凄いや。コロニーにあった筈のアステル家は、今はここに拠点を置いているんだ。」

「ええ。デウス帝国軍が敗れた事により、私達はここへ引っ越しをせざるを得なくなりました。そこから地球での生活が始まったのです。」

アステル家。元々はデウス帝国が存在していたコロニー、Cコロニー14群の中の名門貴族である。だがデウス帝国軍が先の大戦によって敗戦し、本国の機能が失われた現在では地球にある別荘に住所を移している。 

「私達は兵器を作り続けてきました。しかし、それは多くの命を奪う結果になったのは言うまでもありませんわ。」

アステル家の最大の特徴は、独自の路線で築かれた、兵器の増設である。デウス動乱時代、数多くのMSを当時のデウス帝国に提供してきたのが、このアステル家なのだ。

地球連邦に戦力を提供した大半の軍事企業がアーステクノロジーとすれば、デウス帝国への戦力提供の一部は、アステル家が担っていたという事になる。

しかし戦後になってからは別の勢力に戦力提供をする必要はなかった。その為、現在ではMSの生産工場は止まっている状態である。

ジャンヌ・アステルが世界的に有名な歌手と言うのは仮の姿である。本当はMSの製造に携わっており、兵器の輸出を行っていた軍事産業に特化している一族であったのだ。

彼女の歌手としての活動は、彼女が見せる顔の一つに過ぎない。そして、ジャンヌ・アステルの真の姿を知る者は数少ない。彼女の本当の役割や、事情を知る者。それは、アステル家の者や、彼女を昔から知る者に限られる。ここでは、アレンを指す。

「戦後になって歌手活動をしているのは聞いていたけど、その家がこれ程の豪邸というのは驚いたな。てことは、今はローマに拠点を置いて活動している訳だ。」

アレンが居る場所。それはイタリアの首都、ローマである。ローマの郊外にある広大な土地を買い占めていたアステル家は、そこを別荘とし、MSの工場等を建てていたのである。

 やがて両者は会話を始めた。他愛のない会話や、簡単な世間話。現在の彼女の活動等。

「コンサートの為に世界中を回るという事は、大変ではありますがやりがいはあります。戦後、世界中が疲弊している中で、歌で癒す事が出来るというのは素敵な事です。」

「多くのファンがいるもんな、君は。」

そもそも彼等はどのように知り合ったのだろうか。

 それはデウス動乱の最中の出来事。地球連邦軍の特殊部隊に所属していたアレンはデウス軍のコロニーに潜入した際に彼女と出会う。それが、きっかけだった。

 それから何度か再会する事があり、最終的にはジャンヌはアレンの味方をした。本来ならば敵同士である筈なのに、彼を助ける事をしたのだ。

 そうした過去があり、現在に至るのである。

「そして、俺は激戦の果てに君の婚約者、アークを倒した。」

アレンの口から出た、“アーク”という言葉。それは、一体何を指すのか。

「アーク・レヴン。彼は最愛の人でした。ですが、一方で、戦いに身を投じ過ぎた人間でもありました。」

「あいつを止める為に、君は俺に協力してくれた。」

「戦禍の中で彼の心は壊れて行きました。私は、それを断ち切らなければならない、と考えていました。」

ジャンヌが言う、アークという男性。それは彼女が婚約する予定だった人物である。

 アーク・レヴン。デウス帝国本国のあるCコロニー14群にある名門一族、レヴン家の嫡男。麗しい容姿にMS技量も伴った、優秀な人物。当時の戦争の強力な戦力といえた人物だった。

 そして、ジャンヌ・アステルの婚約者でもあった人物である。アステル家とレヴン家の決定事項として、彼等は将来結婚する予定だった。

 アーク・レヴンは人柄も良い人間であり、ジャンヌは彼に心底惚れていた。だが、アークは長引くデウス動乱の中で次第に戦争の狂気に飲まれて行くことになるのである。

 

 

 デウス動乱時。当時クリスタルガンダムに乗っていたアレンはアークと対峙していた。アーク・レヴンはアレンの住んでいた故郷のコロニーを襲撃した張本人であり、仇とも言える存在だったのだ。

 しかし何度か交戦する中で次第に、互いに好敵手として闘う者同士としての感情が芽生えていく。

 だが、アークはデウス軍が行おうとしているある作戦の参謀を任されてしまう事になる。それは中立コロニーへの細菌兵器散布の作戦だった。

 それを実行すれば多くの人が死ぬ。それを分かった上での彼の行為。それを止めなければならないと、アレンは機体を駆る。

 ジャンヌはこれを機に、狂気に走ってしまった婚約者である、アークを止めなければならないと考えるようになった。

 デウス動乱の終盤。アレンはクリスタルガンダムに、アークは彼専用のディエルに乗り、交戦していた。

 だがこの時、デウス帝国軍は劣勢の状況だった。その中で、戦いに身を投じたアーク・レヴンはせめて好敵手であるアレンを倒さんと、全力で挑む。

 

「アレン、覚悟!」

「お前を止める!」

 

この戦いは相打ちという形で決着がついた。アーク・レヴンは戦死。そして、アレンも行方不明となっていた。

 

 

 

 そして現在。アレンはバンディットという裏稼業をして生計を立てている。かつて、デウス動乱の英雄と呼ばれた人間が、当時と違う事をしているという事実は、ジャンヌにとっては驚愕する出来事と言えたのである。

「貴方はあの戦いの後、行方不明と伺っておりました。貴方は一体どこに居ていたのですか?どうして、今はそのような仕事をしているのですか?」

ジャンヌのような華やかな世界で生きてきた人間からすれば、アレンのは明らかに立場が違い過ぎる。本来、立場の違いというのは、その違い故に格差を生む事が多い。

だが両者がこのように集まる事が出来るのは、両者が知人であるが故なのだ。

「俺は――」

彼は今までの経緯を説明した。戦後に元デウスの人間、ワートンに拾われ、共に過ごしていた事。その中で生活費を稼ぐ為にバンディットとして仕事をしていたという事。

 それらを説明した時、ジャンヌは言った。

「戦後にもっと、貴方と早く会えたら良かった……と思っていますわ、アレン。」

「どうして?」

「貴方がその仕事をする必要はありません。そう、考えるからですわ。」

ジャンヌは、紅茶のカップを皿に置いた。

「今、世界は混迷の状況に巻き込まれつつあります。」

その表情に、先程まで会話を楽しんでいた彼女の姿はなかった。真剣な眼差しはアレンの目を捉え、離さない。

「それは、分かる。俺もそれは見てきたから。」

「見てきた?どういう事ですか?」

アレンは、ここに来るまでにあった出来事について語った。

 新生連邦総司令、レヴィー・ダイルと対峙し、戦った事をジャンヌに伝えた時、彼女の視線はテーブルの方を見ていた。

「彼が、今の世界を作り出しているのですね……」

この台詞から、ジャンヌも総司令とは知人関係である事が分かる。

「あいつは変わってしまった。新生連邦は軍備増強を続けている。その結果犠牲者が数多く生み出されているというのに、それと向き合おうとしない。俺は戦った。そして、あいつが変わったのを知った……」

過去に共に戦った戦友が、戦後に連邦を統括する存在となり、その結果世界中で犠牲者が出ているという現実。それが、今の世界だ。

 戦争の反対は平和と言われている。だが、このような現実がある世界は果たして本当に平和と呼べるのだろうか。地球圏において、敵性戦力がいない現在。なのに兵器が行き届いている現状は、明らかに異常だ。それは、ジャンヌも理解していた。

世界に適正戦力がいない現状で、アステル家が兵器工場の稼働を再する必要はないとされた。しかし、新生連邦の戦力が今後増長し続ける事があれば、考えていかなければならない事もある……と、ジャンヌは考えていたのだ。

「アレン、少し庭園を歩きませんか?」

その時、ジャンヌは突然口を開いた。アステル家の広大な庭園に、アレンを案内しようというのだ。

「庭園に?どうして?」

「少し、場所を変えましょう。そして散歩をしましょう。歩きながら会話をすれば、もっと色々な話が浮かぶと思いますから。」

先程の真剣な表情を止め、ジャンヌはアレンに対して優しげな笑みを浮かべていた。

 その笑みに甘えるかのように、アレンもジャンヌと一緒に立ち上がり、庭園に出る。

 

 

 高い木々の隙間を木漏れ日が差す光景。季節は冬であるが、太陽の暖かな光がそれを忘れさせる。季節の花が咲いており、花の近くには小鳥がさえずりを鳴らしている。

 この庭園はアステル家の管轄ではあるが、一般公開もされている。その為、観光客や一般人もここに入り、皆がそれぞれの時間を過ごすといった事が可能だ。

「ジャンヌがここを歩いていて大丈夫?有名人なのに、騒動にならないのか?」

「心配は要りません。アステル家の敷地と皆が理解した上でここを利用しているのです。私は、彼等の挨拶に対して手をふり返すだけですわ。」

そう言いながら、ジャンヌは手を振る人々に対して手を振り返す。誰も、彼女を撮影しようとしない。隣にアレンが居ようとも、決して。そこにはマスメディアの存在もいないし、誰も彼女の存在に対してそこまで注目をしない。あくまでも、アステル家の令嬢としての扱いをするのだ。

 底流のゴシップ雑誌の記者等は有名女優やアーティストのスキャンダル等に対して過剰な報道をするものである。例えば、今の状況では世界的に有名な歌手であるジャンヌがアレンと共に歩いているというだけで、それはゴシップ雑誌に載る可能性があるのだが、彼女の場合は決してそのような事はない。

 それはアステル家に関するスクープ等はその財力を駆使し、揉み消す事が出来るからである。表向きには皆は穏やかな表情を浮かべているが、実際はその裏にある権力に怯えているところがあるというのが現状だ。

 最も、彼女は底流ゴシップ誌等に対し、決してそのような強硬手段に出る事はしないが。

「例えば有名人が外を歩くだけでスキャンダルになるという話ですが、そもそもそれ自体が人を見ていない証拠です。私だって、外を歩きたいですし、知人とこのような時間を過ごしたいのです。世界中の人々が、そうであるように。」

と、ジャンヌは言った。その言葉遣いは、どこか、暗い陰りが見えている様子だった。

(過去に何かあったのか?)

と、アレンは考えた。

 

 庭園の奥まで歩いた両者。草木がより一層生い茂るその場所。木漏れ日は少し遠のくが、木々の隙間から差す光は幻想的な光景を作り出す。

 路地は舗装されていた。散歩道という形で、客が歩けるようになっているのだ。

「戦争中という特別な状況でないにも関わらず、貴方はMSに乗って戦いました。本来、それはあってはならない事だと思いませんか?」

人通りが少ない事を確認してか、彼女はアレンが新生連邦軍と交戦した話を始めた。

「戦後になってもテロリズムや国の内乱は減るばかりか、新生連邦樹立に伴って増加しつつあるのが現状だ。俺はバンディットとしてそれを見てきた。」

「そしてレヴィー・ダイルにお会いしたのですね。」

「相手もMSに乗っていたよ。ガンダムタイプに。」

「ガンダムに……」

ジャンヌの表情に翳りが見え始めた。

 戦争の兵器、MS。平和な時代である現代で、何故それを増産する必要があるのか。それを増やし、無益な犠牲者が出ているという事実から目を逸らし、戦力増強を続ける新生連邦。

その愚業を許せないでいるアレン。そして、その現実を考える、ジャンヌ。デウス動乱と言う戦争を経験した者達は、戦後になっても続くこの状況を、変えたいという気持ちが、少しずつ強くなっていくのだった。

「争いを止めるには、力しかないのでしょうか。」

ジャンヌが静かに、口を開く。

「旧世紀でも、核兵器を止める為の抑止力の為に、核兵器を用いるという話がありました。その結果、ごく、小規模ではありましたが核兵器による攻撃は起きてしまったと、歴史では伝えられています。武力を用いての武力の抑止と言う、矛盾をするのも、また、人と言えるでしょう。」

人類の歴史は争いの歴史でもある。それにより、戦争が絶えず続いてきた。大規模な戦乱こそ近年のデウス動乱が新しいが、それ以前からも小規模の内乱、テロなどは繰り返し行われてきた。

 ジャンヌの言うように、人は矛盾をしている生き物と言える。例えばMSという兵器を止める為に、MSを投入するという事自体が、矛盾している。武力を武力で押さえつけるという、矛盾。

 アレンはそれを聞き、口開いた。

「答えはないかも知れない。けれど、強大な敵が立ちはだかるのなら、戦うしかないとは思う。相手が、レヴィーであろうとも……ね。」

そう言うアレンだったが、彼の顔色は暗い。

「アステル家は今、MSの生産を中止している状態です。しかし世界情勢によっては、それを再開しなければならない可能性も視野に入れなければ、なりません。」

この後、両者は少しの間沈黙した。彼等が話している内容は、答えのない話だ。

 戦争が終わったのにも関わらず、平和とは言えない状況が続いているという、世界の矛盾。

この大きな矛盾を、断ち切る事は果たして出来るのであろうか。それは、誰にも分からない事なのである。

「……そうだ、ジャンヌ。レヴィーと戦った時に、一緒に戦った少年がいたんだ。」

沈黙を破ったのは、アレンの方だった。

「少年……ですか?」

ジャンヌは首を傾げた。

「アインスガンダムっていう、最新鋭のガンダムに乗って新生連邦と戦ってた。可愛らしい顔をしてなかなかの腕だったよ。」

「戦後に、そのような少年が……」

ジャンヌは、それに対して興味を抱く様子を見せた。

「不思議な奴なんだ。戦争を全く知らないで育ったのに、何故かガンダムに乗って戦っていた。しかも、特殊な力を秘めている様子だった。シンギュラルタイプ……なんだろうけど。」

レイの話だ。アレンは先日の新生連邦軍との交戦の話の中で、レイの強さを目の当たりにしていた。

「興味が、ありますわね。」

ジャンヌは、何故か少しばかり笑みを浮かべていた。

「どうして笑うんだ?ごく普通の少年がMSに乗るなんて、考えられるか?それ自体が妙な話だよ。」

アレンが疑問に感じるのも無理はない。命のやり取りをする場に、民間人の少年が出る事自体が本来、おかしい話なのだ。

「力を持つ存在かも知れないという所に、私は興味を抱きました。」

「シンギュラルタイプって事に?」

「ええ。」

力を持つ存在、シンギュラルタイプ。その特性は様々だが、一貫しているのは、通常の人間よりも遥かに空間認識能力に優れるという所である。

 空間認識能力。物体の位置・方向・姿勢・大きさ・形状・間隔など、物体が三次元空間に占めている状態や関係を、すばやく正確に把握、認識する能力の事を言う。

 シンギュラルタイプと呼ばれる人種が常人と比較し、それらが優れているとは言われるものの、定義が不明確であり、今でも研究が一部では進められている。そして、それらは“人を超えた存在”とも言われる事があるのだ。

「フフ、もしかすれば、この混迷した世界を切り開く可能性があるかも知れませんわね。その少年は。」

彼女は、優しい笑みを浮かべながら言った。

「凄い事を言うな、ジャンヌは……」

「貴方がその少年から力を感じたのなら、間違いないと思いますわ。」

「何を?」

そう言っている間に両者は一本の大木の前に着く。その樹齢は何百歳程だろうかと言わんばかりの大木。

 散歩をしていて、少しばかり疲れを感じていたのか、ジャンヌは太い枝の所に腰を掛けた。そして、引き続き話を続ける。

「貴方は、アドバンスドタイプ。シンギュラルタイプを超えし者です。それは、私にも言える事です。」

 アドバンスドタイプ。それは、先の戦闘でレヴィー・ダイルがアレンに対して言った台詞にあった言葉だ。

 

―――――――――――アドバンスドタイプの力を持つ貴方なのに――――――――――

 

 それは何を指すのか。彼等は特別な人間である、シンギュラルタイプを超える存在だというのだ。

 ジャンヌにそう言われたアレンの表情は、僅かに曇る。

「そもそも、アドバンスドタイプって存在自体が未知過ぎる。君も同じ存在である事は、ある意味救いなのかも知れない……」

木々が生い茂る美しい自然と対照的な、アレンの悲観的な台詞。それに対し、ジャンヌは言う。

「分かっている事が少ないが故に、謎に思う事はあるでしょう。けれど、一つ言える事は、私達は、“人”である事に変わりはないという事です。」

と、笑顔を見せた。その美しい笑顔はアレンの表情を和らげるのに十分と言えた。

「美味しいものを、美味しいと感じることが出来て、美しいものを美しいと感じることが出来る。アドバンスドタイプが何であれ、それで良いと、私は思うのです。」

「……そうだね。」

それと同時に、やや寒気のある風が吹いた。だがその風も、どこか心地良さを感じていた――

 

バタッ

 

突如、何かが倒れる音が聞こえた。木々が生い茂る自然の中で聞こえた不協和音は、彼等に違和感として伝わるのに十分だった。

「何の音……?」

「近い、ですわね。」

耳に聞こえた音は近くである事を感じた二人は、その場からすぐに立ち去り、音が聞こえた場所まで近付く。

 

 大木から離れた場所。そこは更に木が生い茂る場所だった。ここまで来たらほとんど人の姿は見られない。観光客が立ち入る事がない場所だ。舗装された道もなくなっており、自然に出来た道であることが分かる。

「これは……」

そこで見たもの。それは、人の死体だった。美しい景観と全く異なる、恐ろしい光景が彼等の目の前に広がったのであった。

「そんな、どうして……」

そこに倒れている死体は、比較的若い男性だった。頭部を撃ち抜かれており、即死状態と言えた。

 だが、何故このような場所に若い男性の死体が倒れているのだろう。二人の散歩の時間は突如として奇妙な時間へと変貌を遂げた――

 

「手ェ上げろやァ!」

 

聞こえてきた、一人の男の高圧的な声。その瞬間、アレンは後頭部を銃で突き付けられていた。あまりに突然の出来事だった為、彼は対処する事が出来なかった。

「何……!?」

男の声の通りに、アレンは両手を上げる。

「いやいやぁ、まさか、こんな場所で出会うとは思わなんだよなぁ。その茶髪にイラつく顔付き。忘れる訳ねェよ!お前の事はよぉ!」

アレンに銃を突き付けた男は、鋭い目つきをしていた。髪色は赤茶色で、逆立っている。上半身を黒いジャケットで包み、下半身は白いジーンズを着用していた。

「まさか……貴方は……」

ジャンヌがその男の顔を見て口元を手で覆った。ジャンヌの顔を見た男は笑いながら言った。

「流石、力を持つオカルト人間!よく覚えてらっしゃるぜぇ……で、お前は俺の事覚えてんのか?アレン・レインドォ!?」

彼が世間ではスパーダ・スクードという偽名を使っているにも関わらず、本名であるアレンの名前を呼ぶ男。

「そ、そんな……まさか……お前は……」

「そう!オレだよ!メイド・ヘヴンだよ!!」

アレンとジャンヌの前に突如現れた、メイド・ヘヴンと名乗る、奇妙な言葉遣いの男。

両者はこの男と面識があった。だからこそ、より一層驚愕しているのであった。

 




第二十話投了。
群像劇の如く様々な話が入り混じってきました。この話辺りから様々なキャラクター達の描写が描かれていくようになります。
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