機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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もう一人の主人公、アレン・レインドのMSがジャンヌより渡される話。


第二十一話 アレンのMS

 

「あんまりこーいう銃突きつけるシチュ好きじゃねーんだけどてめーは特別だぜオラぁ!!」

アレンは後頭部に銃を突き付けられている状態だ。彼の後ろには、メイド・ヘヴンという、奇妙な男がいた。ジャンヌと共に庭園を散歩していたアレンだったが、ここにきて状況が一変したのである。

「随分久しいよなあ。アレン・レインドにジャンヌ・アステル!4、5年ぶりか?ハハー!」

奇抜な言葉で気味の悪い笑みを浮かべるメイドは、まるで獲物を狙ったかのような目付きでアレンに銃を突きつける。銃を持つ手には血管が浮かび上がっていた。

「メイド・ヘヴン……!」

アレンの額から、冷や汗が垂れる。彼は、この男から感じる狂気を、直に感じ取っていたのだ。

「てめぇには戦前散々苦汁を飲まされ続けたんだよなぁ!まさかこんな所で会うとは思いもしなかったけどなァ!」

そう言いながら、メイドは近くの木に、彼の頭を衝突させた。この時の痛みで、アレンは思わず声を上げる。

「クッ……!」

「こちとら、仕事してたらまさかこんな場所でお前らに会うなんてなぁ!巡り合わせってやつかよ?ハハハー!!!」

突然迫った危機。そして、彼等は何らかの知り合いであることが、一連の言葉から分かる。

「どうして……お前が……生きているんだ……!いや、お前だけが!!」

銃で突き付けられている状況で、アレンが口にした。

「知るかよ。てめェ兄者を殺しておいてよくそんな事言えんなオイ!!!」

メイドの目つきが豹変する。瞳孔が小さくなり、紅い瞳がアレンを睨む。

「貴方の凶行は、デウス動乱時でも許されるものではありません。そして、この男性を殺害したのは貴方ですか。」

ジャンヌが問う。すると、メイドはニヤリと笑みを浮かべた。

「おう。こいつらを殺す仕事してたんだよなぁ!」

「何故、そのような事をしているのですか。メイド・ヘヴン。」

男性を撃ち殺したのはメイドである。しかし、メイドはそれを笑っている。この異常な状況に対し、ジャンヌは引く事なく、言ったのだ。

「金が貰えるからなぁ!そんなんより、今はこいつだよ!アレン・レインド!!」

と、メイドは銃口を更に強く、アレンに突き付ける。

「俺の兄者がこいつに殺されているのにさぁ、それを許せる超絶お人よし野郎なんざこの世に居る訳がねぇだろうがジャンヌ・アステルぅ!」

 

ピシュンッ

 

その時、銃から弾が発射された。しかし、弾はアレンに直撃することは無かった。近くの木に、それが直撃したのである。まるで、わざと外したかのような対応をしたのだ。

「お前……いや、お前達だって俺の父さんを殺した!お前等兄弟に、殺されたんだ!無慈悲に、理不尽に!」

そう言うのは、アレンである。

 アレンとメイド。両者はどのような関係だったのだろうか。互いに何らかの事情を抱えている者同士が、今この場で再会してしまったのである。

「デウスの傭兵やってたら任務を果たすのが当然だろうがよォ!てめぇこそ俺の兄者を殺しやがってボケナスぅ!」

そう言って、メイドは床に伏せたアレンを蹴り始めたのである。

「うぅっ!」

と、声を上げるアレン。ジャンヌがそれを止めようとするが、メイドはジャンヌに向け、銃を構えたのだ。

「ジャンヌ・アステルゥ!今や世界的歌手になってるなぁ!フォロワー億越えの超人気者インフルエンサー!あんな戦争経験しておいてよくのうのうと歌えるよな、てめぇもなァ!」

メイドの表情は、明らかに笑っている。それは嘲笑の笑みなのだろうか。

「メイド・ヘヴン。貴方は……!」

個人的な話をされたのか、ジャンヌの表情に陰りが見え始めた。

「俺は、別に父さんの仇を取る為にお前達と戦い、倒した訳じゃない……!戦争だったから、その脅威を倒さないと行けないと感じたから、倒した……それだけだ!」

蹴られたアレンが、言う。それを聞いたメイドは

「あの時俺も死んでりゃ良かったんだけどなぁー!結局生きてんのは俺だけなんよなぁ!理不尽極まってんぜ糞がッ!」

 メイド・ヘヴンには兄が居た。名は、フロード・ヘヴン。彼等はかつてのデウス動乱の最中、デウス帝国軍の傭兵として活動していた。姓が“ヘヴン”という事もあり、その優秀な能力も相まって、彼らは通称、“天国兄弟”と呼ばれていた。デウス帝国軍内でもその実力は全軍に伝わる程の腕前だったという。

 アレンとは何度か交戦をした。その能力で彼の駆る、クリスタルガンダムを追い詰める事もあった。だがデウス動乱の終盤で、兄弟諸共、アレンに倒された筈だった。

 メイドの言うように、兄はアレンに殺された。だが、弟のメイドは奇跡的に生きていたのである。

「お前達兄弟は危険すぎた……倒さなきゃならない存在だったんだ……!」

「誰がそれを決めんだオイ?てめぇが勝手に決めたんだろうが!変な正義感気取ってンじゃねーぞオラァ!」

 どうにか、隙をついて離れようと考えるアレン。だが後頭部には銃口が突き付けられている状況だ。まして、その相手は危険人物であるとされる、メイド・ヘヴンである。下手な事をすれば自身の命も危ない。しかしその近くにいるジャンヌは、今のアレンを助け出す事が出来ない。彼女自身、武器を持っていないからだ。

 過去の戦争で戦った者同士が、現代で対立する状況。人は、全ての人が分かり合える事はないのだ。

 アレン・レインドはデウス動乱中に様々な人物と交流している。最初は敵だった人間が、仲間になる事もあった。日本にいる、ガースト・ピュアスがこれに該当する。しかし、戦時中は味方だったが、現代では敵になる事もあった。レヴィー・ダイルがこれに該当する。

 そして、戦時中でも現代でも敵同士の人間がいる。メイド・ヘヴンがこれに該当するのだ。

互いの肉親を殺された者同士の対立。そして、メイドは明らかに狂気を放っている。

「……はぁ、けどさぁ、よく考えたら仕事じゃねぇのにこいつ殺しても意味ないんだよな。」

 

スッ

 

と、突如メイドは銃を突き付けるのを止めたのだ。自身の銃をジャケットの内ポケットに収納し、近くの木に腰掛ける。

 明らかに、殺す事が出来た筈の状況であるにも関わらず、何故引き金を引かなかったのか。アレンは疑問を抱く。

「どうして……?」

「てめぇは確かに兄者の仇だが、一方的に殺せるやつを殺したってさぁ、つまんねェんだわ。戦後になって世の中がつまらなくなりすぎやがった。戦争中は良かったぜェ。遠慮なく戦場を暴れ回れるんだからよ。」

こうした発言より、この男が戦闘狂であるかが分かる。自身を戦禍に置かなければ、落ち着かない男、メイド・ヘヴン。

「やっぱりなぁ、生身で戦うよりもMSに乗って暴れてぇなあー。テロや内戦じゃつまんねェ。あんなのじゃ刺激にすらなんねぇ。だから毎日が暇過ぎんだわ。兄者もいねぇしよォ。」

彼にとっての心の在り処は兄の存在だったのだろう。しかし、現在はその兄がいない。ただ、何気なく生きるだけの存在となっている。

「ところでさぁ、SNSでのインフルエンサーって奴いるじゃん。ジャンヌ・アステル様とかみたいな、フォロワーがめっちゃ多い連中。」

突如、話題を変えたメイド。その言葉と同時に、ゆっくりと、立ち上がった。

「ああいうのが突然SNSの更新を止めたらフォロワーの連中ってどんな反応するんだろうなァ?」

と、メイドはその鋭い目付きをジャンヌの方に向け、

言った。

 

ダッ

 

 それと同時に、アレンはすぐに反応をした。床に伏せていた彼は一目散にジャンヌの元へ駆け抜ける。

「ジャンヌ!」

彼が名前を読んだ時、既にメイドの手には銃が握られていたのだ。その標的は、目の前にいるジャンヌであったのである。

 ジャンヌは突然の出来事に対処が出来なかった。自分がに、銃が向けられているにも関わらず、身動きが取れないジャンヌ。そして、その凶弾が彼女の胸に向けて放たれようとしていた。

 

ピシュンッ

 

弾のスピードは速かった――

 が、間一髪、アレンがジャンヌを覆い被さる形で、彼女を守る事に成功した。弾は彼女に当たる事なく、地面に当たるだけだ。

「おっしかったなぁー」

と、とぼけるようにメイドが近づいて来る。

「お前、まさかジャンヌを殺す事が目的だったのか!?」

怒る表情をメイドに見せるアレン。ジャンヌは彼に守られている状態で、メイドの方を見ている。

「目的も何も!俺は仕事以外は気紛れだからな!気の向くままにやりたいようにやる!戦争が終わってからこんなんだから刺激が欲しいンだわ!はーははは!」

そう言いつつ、再びメイドはジャンヌに向けて銃を向けた。

「気紛れで人を殺めるという事……理解の範囲を超えています。貴方は先の戦争で何を学んだのですか?メイド・ヘヴン。」

ジャンヌは恐れる様子を見せない。寧ろ、怒る様子を見せている。この男の人を殺す動機は明らかに自分勝手だ。

 人を殺すという行動そのものが、そもそも異常である。平時では犯罪者とされ、非常時では時に英雄扱いされる行為ではある。しかし道徳的な問題を考えれば、人を殺める事に対して罪悪感を何らかの形で覚える筈だ。

 しかし状況によっては任務であったり、私怨である時に人を殺める事もある。そして報酬が発生する事もある。裏社会ではよくある、殺し屋等が該当する。そして、日常の何気ない場面でも恨みを買う人間が、殺される場面があり得たりする。

 要は、何らかの動機があって人を殺めるという行為をするのだ。平時ならば許されない行為ではあれど、人類史はそれを繰り返し、現代まで人々は生活をしてきた。

 だがこの男はそれをしない。そればかりか、人を殺すという行為を愉悦としている。それが世界的歌手であるジャンヌ相手でも、躊躇を一切しないのだ。それは、何よりも危険であると言えた。

「ジャンヌ・アステル様の命乞いかぁ?素直に“助けて下さい!”とか言やあ分かりやすいのになぁオイ!」

「命乞いをする必要もありません。己の快楽のままに人を殺める行為をする事に何も感じない貴方の異常性に私は怒りさえ、覚えます。」

そう言った時、ジャンヌは立ち上がった。アレンはそれを止めようとするが、構う事なくメイドの方へ近づく。

「俺はてめぇの命云々はどーでも良くて、てめえが死んだ時にフォロワーが怒りまくって、殺した人間に対して罵詈雑言吐く光景を見てえだけなんだよなぁ!!仮に特定されて襲撃されても俺がそいつらを返り討ちにすりゃ、良いんだよなぁ!」

「なら、撃ってみますか。」

彼女は強気だ。凶悪な男を前にしても、決して、怯む事はない。

「その凶弾で私を撃ち抜き、貴方自身が束の間の悦楽に満たされるのならば、貴方にとっては良いかも知れません。しかし、貴方のような危険な人間は必ず制裁を受ける事になりますわ。」

睨むようにメイドを見るジャンヌ。しかし、メイドには彼女の言葉は通じない。

「そーいうインガオホー論唱えんのかよ!アステル家のお嬢さんはよぉ!」

再び、メイドは銃を構えた。そして、今度はジャンヌに近づき、彼女の眉間に銃口を近づける。

「よせ、ジャンヌ!挑発するな!」

アレンが制止した。だが、ジャンヌは口数を減らすことは無い。

「貴方の気紛れで私を殺すのなら、そうなさい。出来れば……の話ですが。」

何故、彼女はここまで強気でいられるのだろうか。銃口を突き付けられており、尚且つ、その相手は気紛れで人を殺める事がある危険な男だ。

「普通のクッソつまらねぇ人間だったら、それを言われて止めるんだよなぁ」

そっと、メイドは呟いた。

「んでさ、精神論みたいな事言われて、俺が間違ってましたー!みたいな感じで俺が膝まずくんだよなぁ。んで、逮捕されるのがセオリー。漫画やアニメ、ドラマじゃ鉄板ネタだよなぁ。」

そう言った時、メイドは一度視線を下向ける。はぁ、と溜息を、二回程呼気、吸気を繰り返した――

「けどさァ、そんなテンプレ展開じゃつまんないんだよねぇッー!!!」

メイドはすぐに動きを見せた。銃を構え、ジャンヌに対し、引き金が引かれる。凶弾がジャンヌの額に向けられる――

 

――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――

 

ジャンヌの身体が美しい碧色に輝いたのはその時だった。

 それは、アレンが以前にアレクサンドリアで氷河族に襲われた時に放った光と同じだ。不思議な光はジャンヌ自身を包み込み、近くにいたメイドを巻き込んだのである。

「ぐうぇぇぇ!?クソが!意識が……!」

薄れゆく意識の中で、メイドは逃げるアレンとジャンヌの姿をぼんやりと見る。視界が揺らいでいる状況で、彼は戦意を喪失していたのだ。

「ほんま……ない……うげぇ」

 

 

 彼女の“力”で危機を脱したアレンとジャンヌ。この時、アレンの身体には何の異変もなかったのである。一方のジャンヌは、少しばかり苦しげな表情を浮かべていた。

「大丈夫か、ジャンヌ。」

木陰に隠れ、ジャンヌを抱え、彼女を心配するアレン。

「ええ……やはり、この力は強い副作用がありますわね……」

彼女は全身から倦怠感を感じていた。先程の光は、身体そのものに対して強いエネルギーを発生するのだろうか。

「こればかりは、神様がくれた力としか言いようがないな……」

光る、人。それは、現実にはまず存在しえないとされる人種である。どのようなメカニズムで、光るのか。何故、輝きを放つことが出来るのか。それを理解している者はいない。

 だが彼等はそれを可能とする人間達である。彼等に共通している事。それは、“アドバンスドタイプ”と呼ばれる人種であるという事だ。

 シンギュラルタイプと呼ばれる人間はこれまでに居た。しかし、アドバンスドタイプはそれらとは全く異なる人種である。

 アレンとジャンヌは同じ場所で育った訳ではない。彼等の故郷はそれぞれ、違う。となれば、環境因子でその力を引き継いだ訳ではないという事になる。

 ならばこのアドバンスドタイプは何者なのか。そもそも、何故そのような呼び方をされているのか。謎が、謎を呼ぶばかりである。

「とにかく、今は逃げるしかない。まさかあいつに出会うなんて、思わなかったけれど……」

戦前、何度も交戦したとされる男、メイド・ヘヴンと出会い、そして命の危機を感じたアレンとジャンヌ。

「ええ……」

そう言う、ジャンヌの表情はやや、弱っている様子だった。

 

 やがて辛うじて彼等は豪邸まで戻ってくる事が出来た。歩いている間に、ジャンヌの倦怠感は少しずつ取れてきた為、途中から走ることが出来たのだ。

「アレン、ごめんなさい……私が散歩をしましょうと提案したばかりに。」

ジャンヌは部屋に入るなり、彼に謝った。

「ううん、君は何も悪くない。あいつがあそこにいるなんて、思いもしなかったから……」

アレンは、優しく言った。

 ジャンヌはメイドの前では強い態度を見せていた。しかし、内心ではやはり死の恐怖を感じ取っていたのだろう。今も、彼女の手は僅かながら震えている。恐らく寒気のようなものではないと、アレンは思っていた。

「イズゥムルート」

「うん?」

ジャンヌは、突如口を開いた。

「そう、呼ばれているようです。私達が発する光は……」

それは、ロシア語でエメラルドの意を持つ言葉である。その由来等は全く持って不明。だが、彼女はその単語のみを知っていたのである。

「初耳だな。イズゥムルートなんて言葉。」

「不思議ですわね。人の身体は。特に、私達の身体は……」

ジャンヌの口調は、やや暗い。

「その秘密、知りたいような、知りたくないような……」

そう言う、アレンの口調も暗い。

「しかし、今は自分達が無事である事に感謝しないとね。しかし、アステル家の敷地にあんな男が侵入して、大丈夫なのか?」

ふと、アレンが聞いた。

「私が先程知らせました。アステル家の警備兵が間もなく、彼を捕獲するでしょう。場合によっては射殺も、やむを得ません。」

そう言う彼女の目つきは、明らかに動揺している。彼女の瞳は僅かに、潤っていた。

「ジャンヌ、君はもしかして……怖かったのか?」

彼の言葉を聞いた時、ジャンヌはその姿勢を崩すように、彼に抱きついたのだ。

「恐怖……そうですね……怖かったに決まっていますわ!!!」

感情が、爆発した瞬間だった。そのままジャンヌはアレンを壁の方に寄せ、近づけた。

「銃を突き付けられて、躊躇いもなく撃つ人間が居て、怖くない筈がないでしょう!?私だって、人間なのです!だから恐怖も、しますわ……」

「ジャンヌ……」

ジャンヌは涙を流していた。先程までの勇敢な彼女の姿はやはり、仮の姿と言えたのだ。

 やがてジャンヌは泣き止み、残った涙を拭った。

「……取り乱してしまってすみません、アレン……私とあろうものが、こんな……」

「ううん、君は強いよ。戦前から思っていたけれど、君には芯がある。その強さは、本物だと思う。」

「そんな事はありません。このような姿を見せる人間は、貴方か、アークしか居ませんでした。私は……本当は弱い人間なのです。」

アドバンスドタイプと呼ばれる人種であれ、死への恐怖は感じるものだ。彼女の場合、特にそれが著明に現れる。アレンは戦争を経験している人間であり、死への恐怖はそこまで大きくない。

 両者の違いはそこにあった。ジャンヌは直接戦闘経験をしていない。一方のアレンは、何度も戦闘経験がある。感情を吐き出すジャンヌと、そうでないアレン。力を持つ人間と言われようと、彼等は、紛れもない、“人”であるのだ。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

突如、警報音が鳴った。それに反応した両者は何事かと思い、急いで外に出た。

 

アレンとジャンヌが見たもの。それは、MSの姿だった。グレーベースのカラーリングに、所々が黒く彩られている、暗いカラーリングが特徴的な、独創的なMS。頭部には牙のような装飾がしており、胸部には一つ目のような装飾がされている。そして、両手部マニピュレーターは通常のMSよりも遥かに肥大化している、その機体。どこの所属かも不明な、得体の知れない機体が、アステル家の庭園に出現したのである。

「何故、MSが……?」

 

ズシィィィン

 

そう言った時、二機のMSが姿を現した。いずれもが小紫系統のカラーリングをしている。バックパックはウイングが装備されている、その機体達。頭部カメラはモノアイタイプを採用している。

 機体名、ドラグネスアサルト。型式番号DMS-98A。それはデウス動乱の後期でディエルの後継機として製作された、量産型MSである、ドラグネスを、アステル家がカスタムした機体である。両機体共にビームアサルトライフルを構えており、これが主武装となるのだ。

「これは?」

「アステル家のMSです。現在、アステル家は工場こそ停止しておりますが、万が一の時に備えて機体数は確保しております。これらは敷地内に侵入した機体の、迎撃用の機体です。」

ジャンヌが解説している時、ドラグネスアサルトは黒いMSに対してビームアサルトライフルを放とうとした――

 

ドバアアアアッ

 

一瞬の出来事だった。黒いMSはマニピュレーターを展開し、そこからビーム粒子を展開して放ったのである。たちまち、一瞬で融解するドラグネス。

 もう一機がビームサーベルを展開し、迫る。だが、黒いMSは右のマニピュレーターで動体を鷲掴みした。

 機体がメキメキと、音を立ててその形状を崩壊させていく。パイロットは、逃げようにも逃げられない。

 

ズバァァァァッ

 

やがて、マニピュレーターからビーム刃が展開され、もう一機のドラグネスも破壊されてしまったのだ。

「よーしパパ襲っちゃうぞー!ハハハハハァ!」

そして、黒いMSからは聞き覚えのある、狡猾な声が。

「メイド・ヘヴン……?」

「あいつ、あれに乗ってるのか!?」

先程ジャンヌを殺害しようとしていた、メイドの声だ。

「鬱憤晴らしの怪獣ごっこは楽しいなぁオイ!もっと出て来いや!倒し甲斐ねぇんだよオラァ!」

そう言いながら、ズシン、と重い音を立て、アステル家の豪邸に迫ってくる、そのMS。

 どこでその機体を調達したのかは不明であるが、一つ言える事があるとすれば、このまま放置していてはアステル家を破壊されてしまう可能性が高いという事だ。

 観光客達は皆、逃げている。予想外のMSの襲撃。それも、民間人を巻き込むような事をする男。そして、それに対し何の罪悪感も抱かないこの男は、一言で言えば、異常だ。

「あいつ、どうしてMSに乗ってるんだ……?」

「分かりません。隠し持っていたとしか、言いようがないですわ……」

「……クソッ!見守るしか出来ないのか……!」

アレンは自身の右手を平手にし、左手の握り拳で思い切りパンッと当てた。そこに、悔しさが滲み出ているのが分かる。

「アレン。こちらへ。」

その時、ジャンヌが一言、口を開けた。そして、彼の右前腕の裾を持ち、そのまま走る。

「ジャンヌ?」

急な事に、彼は慌てる様子を見せる。ジャンヌに導かれるまま、アレンはただ、ジャンヌと共に走るのみだった。

 

 

少し走り、彼等は地下通路を走る。そのまま真っ直ぐ、薄暗い廊下を走る。

やがて、一つの自動扉の前に辿り着いた。ジャンヌは右端にあるテンキーのボタンを入力した。

 

Complete.

 

テンキーに映し出された文字が浮き出た時、扉が開いた。そのまま、二人は扉に入りー

 

バンッ

 

と、同時に明かりにが灯された。急な光に、アレンは思わず右腕で目を覆った。

 やがて明かりが少し慣れた時。そこにあったものを見て、アレンは驚愕した。

「これは、戦闘機?」

「いえ、MAです。」

形状は、MAのような平らな形状をしている。だが、よく見れば後方にはMSの足部のような形状をしている関節パーツの姿が確認出来た。この事から、これは恐らく、可変機である事が伺える。

「どうしてこんな所にMAが?」

アレンが言った時、ジャンヌが口を開いた。

「アレン、これは貴方の為の力です。そして、この機体は、貴方が来るのをずっと、待っていました。」

「待っていた……?どういう事だ?」

「それは、貴方がこれに乗れば分かる事です。アレン、戦後になって新生連邦と戦ったと申しておりましたね。」

ジャンヌの言葉に、アレンは静かに頷く。

「なら、その力は顕在の筈ですわ。」

「いや、待ってよ。いきなりすぎないか?どういう事なんだ?これは一体?」

説明が不足し過ぎている。そもそも目の前にある、戦闘機のようなMAの詳細を何も聞かされていない。何故このMAが、彼を待ち続けていたというのか。彼女は説明をしないのである。

「今は説明している時間も惜しいです。アレン、早くこれに乗って下さい。」

ジャンヌの言葉を聞いたアレンは、訳が分からないまま、そのMAのコクピットを探し、やがてはそこに乗り込む事にした。

 

 コクピット内部で、アレンはスイッチを押す。その時、目の前に映った画面を見た。

 

start up Crystal.

 

この配列された文字に、アレンは既視感を覚えていた。それと同時に、コクピット内部の構造を、じいっと見つめる。

 覚えが、あった。それは彼が戦前に乗っていた愛機と、瓜二つの環境だ。

記憶が蘇る。デウス動乱の英雄、アレン・レインドが乗っていた伝説的MS、クリスタルガンダムの、記憶が。

「ジャンヌ、これはまさか……」

その機体の事に気付いた様子のアレンは、ジャンヌに確認するように、言った。

「お気付きになられましたね、アレン。その機体のOSはかつての地球連邦軍の試作兵器。型式番号、EMS-C01、クリスタルガンダム、そのものを使用しています。」

要は、かつての機体そのものを流用しているという事だ。

 だがクリスタルガンダムは、大戦末期にアレンの宿敵であったアーク・レヴンと交戦し、廃棄されている筈だった。何故、アステル家がそれを持っているのだろうか。

「どうしてアステル家がクリスタルガンダムを所持しているんだ?」

「来るべき時の為に、必要だと感じていたからです。それに、その機体は、今はクリスタルガンダムと言う名ではありません。」

アレンは首を傾げた。ジャンヌの、言葉の意味が理解できなかったのだ。

「その機体名は、AMST-009X1ティフォンガンダム。OSこそクリスタルガンダムを流用しておりますが、外観やスペック等は全てアップデートしている機体です。その為、この機体はこのような形状をしているのです。」

「だからMAなのか!?じゃあ、この機体はガンダムタイプなんだ……」

「ええ。そういう事になりますわ。」

「そして、これは俺のかつての愛機……なのか。」

かつてのデウス動乱の英雄、アレン・レインドは、この場において、再びガンダムと冠するMSに乗った事になる。外見こそ、ティフォンガンダムと言う名のガンダムではあるが、中身は当時のクリスタルガンダムである。

「可変機体ではありますが、貴方なら乗りこなせると、信じています。アレン、あの機体を止めて下さい。貴方ならば出来ると、信じています。」

やがて、ジャンヌとの回線が切れた。

 アレンは唾を飲み込み、両手で操縦桿を、引く。

 

キシィン

 

カメラアイが起動する音が聞こえた。MA形態ではどこにガンダムタイプのカメラアイがあるのかは不明だが、その事から、間違いなくガンダムタイプである事が分かる。

180°ターンテーブルが回転し、その先にある自動扉が開かれ、MAはカタパルトに設置される。

「今は、とにかく奴を止める!アレン・レインド、ガンダム、行きます!」

アレンはデウス動乱の時のように、再びガンダムに乗り、戦う。それは、英雄と呼ばれた青年が、帰ってきた瞬間でもあった。

 

 

 黒いMSは豪邸に向け、ビーム砲撃を行おうとしていた。別のMSと交戦出来ない苛立ちを、そこにぶつけようとしていたのである。

「止めろ!!!」

そう言って、アレンの駆るMAが、メイドの乗るMSの前に立ち塞がる。

 MAは、すぐに変形した。その間、僅か0.5秒。腹部にあったシールドは左前腕部に装備。下半身は180°回転し、脚部が露わになる。そして、特徴的な四本のアンテナに、黄色のツインアイ。胸部は青系統、両肩から腕部は白、フロントアーマーは赤系統という、トリコロールカラーのその機体。そして、特徴的な口部に相当する突起。

 ガンダムタイプと呼べる、そのMSが、メイド・ヘヴンが駆るMSの前に立ち塞がったのであった。

「ハハハハハ!怪獣相手の特撮ヒーローのお出ましじゃねぇか!しかもガンダムタイプ!こいつは楽めそうだぜェ!!!」

アステル家を単独で襲うメイド。彼は別に、任務でそのような行為をしている訳ではない。個人的な理由。それも、“怪獣ごっこ”という、ふざけた発想からそのような行為をしているのである。無論、それそのものが危険行為であり、他者を巻き込む行為だ。

 MSは兵器だ。それ故に、パイロットには責任が伴う。だが、戦後になり、無責任なMSパイロットの数が増えつつあるのがこの世界の現状でもある。そのうちの一人が、メイド・ヘヴンと言えた。

「お前の身勝手は止める!メイド・ヘヴン!」

「おほほー!まさかだな!パイロットはアレン・レインドかよ!!」

 

ビゴォン

 

メイドの乗る機体が、モノアイを輝かせた。と、同時に、右のマニピュレーターを展開し、ビーム砲撃を行った。すぐにそれを回避し、頭部機関砲で牽制をする。

「こんな所でビームを撃つのか!メイド・ヘヴン!」

「てめぇの許可がいるんかよ!?オオン?」

「人がいる状況で、そんな事させるか!」

そう言いながら、アレンの駆るティフォンガンダムは腰部に搭載しているビームセイバーを展開した。

 ビームセイバー。それはビームサーベルよりもビーム刃の出力の高い兵器である。クリスタルガンダムの時はビームサーベルであったのだが、アステル家がこれを改修し、より、出力を高める物を作り出すのに成功したのだ。

 

バヂィィィィィ

 

ティフォンはビームセイバーを、メイドの機体はビームグローブを展開し、拮抗し合う。

「てめぇの機体がガンダムであれどなぁ、グラントロールにゃ叶わねえって!覚悟しろやオイ!!!」

 グラントロール。それが、メイドの乗る機体の名前だ。

 型式番号ERR-404、グラントロール。メイド・ヘヴンが戦後に使用しているMS。彼のハンドメイドMSである。どこで製造されたのか、詳細は不明。その特徴的な形状はメイドが好んで作り出した機体である。

「民間人が居る場所で、ビーム砲なんて出す方がどうかしている!戦争が終わった時代なのに、どうしてこんな風に戦う必要がある!?」

「あぁ?てめぇの説教聞かなきゃなんねぇのかよ!?教師かよてめぇ!先生あのね!てかぁ!?ハーハハハハ!!!」

と、言いながらグラントロールは攻撃を仕掛ける。この機体の特徴は、マニピュレーターを駆使した攻撃を使用するという点にある。マニピュレーター自体がクローという物理的な攻撃を行うことが出来る上、掌部からビームグローブを展開し、それ自体がビーム刃としての役割を果たすことが出来る、機体だ。また、掌部からはビームカノンを展開する事も出来る、機体だ。

(ここで戦うのは危険だ……敷地外にこいつを誘き出せば……)

そう思った時、ティフォンは行動した。

 バーニアを展開し、豪邸や、庭園から離れる。グラントロールは、それを追いかけるように、自身のバックパックに搭載しているバーニアを展開した。

 

 

 場面は変わった。庭園の外、アルバノ湖周辺にて。ローマ中心部から南東、約20キロメートル程の場所に位置しているその湖。

そこへ場面を移した瞬間、グラントロールは鬱憤を晴らすかの如く、手部からビームを連射した。これらを避け、ビームライフルを構え、放つティフォン。グラントロールもそれを避け、ビームは湖に落ち、弾けた。

「腕は落ちてねえみたいだなアレン・レインドォ!!!」

「お前みたいな危険な人間は止めないと行けない!!」

「てめぇだって戦争に参加してたクセに俺だけ悪者かよ!てめぇだって同類じゃねぇかよ!」

「俺は戦争を望んでいない!世界はまた、歪んだ方向へ向かおうとしている!」

「歪んでくれた方が良いじゃねぇか!何もない、刺激もねぇクッソつまんねぇ世界よりはよっぽどよォ!!!」

戦前、殺し合った者同士の戦い。互いの主張が、展開される。アレンは、戦争を否定している。しかしメイドは、戦争を肯定している。両者の意見は、対立していた。

ティフォンのビームセイバーと、グラントロールのビームグローブが、再び拮抗する。だが、ビームグローブはそのままビームカノンとして放つ事が可能な兵器。ティフォンにとっては、不利だ。

 その為、ティフォンは一旦グラントロールより離れる必要があった。距離を置き、アレンはティフォンの武装を確認する。

「MA形態の時に先端にあったビームキャノン……これなら!」

武装を選択し、スイッチを押す。

 

グォンッ

 

バックパックに搭載されている背部バスターメガキャノン砲が、展開される。狙いは、グラントロールだ。

「行けっ……!」

 

ドバアアアアアアアアアッ

 

高出力のビームキャノンが、放たれた。

 

ピキィィィ

 

その時だ。メイドは脳内に電流が流れた感覚に陥った。敵の攻撃が放たれるのを、察知し、先読みしたような感覚。空間認識能力が優れている人間のみが使える、力だ。

 グラントロールはビームを回避した。回避したビームは、空中に消える。

「ああ~オカルトパワー持ってて良かったわぁ~」

まるで、風呂にでも入ったかのような口調で語る、メイド。

「シンギュラルタイプ……よりによってこんな奴に力が備わってるなんて……!」

シンギュラルタイプと呼ばれる力を持つ人間は、レイやエリィといった人間だけに宿るとは限らない。

例えばこの男、メイド・ヘヴンも力を持つ存在である。戦争を楽しみ、尚且つ人殺しを楽しむような凶悪な性格の男がよりによって、シンギュラルタイプというのはあまりに皮肉である。

「ええわぁー!脳みそに電気が流れるあの感じたまらんわぁー!ハハー!」

その言葉と同時に、胸部からマシンキャノンを放つ、グラントロール。牽制用のその武器はティフォンに僅かにダメージを与える。そして、メインカメラが僅かに被弾したのだ。

「クッ、少しやられたか……!?」

360°モニターに、障害が残る。前方のカメラの映りにエラーが出ていた。

 その為、アレンはモニターを解除し、目視でグラントロールと戦う事を決めた。カメラが使えない以上、彼自身の目が頼りになる。

「熱源……!?」

モニター左端部のセンサーが、突如熱源を察知。その方向を見る、ティフォン。

「目ん玉からビームぶっ放してやんぜぇクソ野郎ォ!

目ェからビィィィィィィィィムゥゥ!!!!!」

グラントロールの胸部に該当する部分は、“目”の形状をしている。それはメイド・ヘヴンの趣味嗜好によるものだ。

 

ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアッ

 

まるで、漫画やアニメ、特撮等で使われる、“必殺技”と言わんばかりに雄叫びを上げ、ビームは放たれる。高出力のビーム粒子はティフォンに迫る。回避が間に合わないと感じたアレンは、急いでシールドを構え、対処した。

「クッ……!こんな武器が……!」

機体は激しく揺れる。その間にも、グラントロールは接近してくる。

 やがてマニピュレーターを展開し、そのまま、クローのようにティフォンを叩きつけた。

機体の制御が出来ないまま、ティフォンは湖に落ちる。

 

 モニターの表示も完全でない状態で、叩きつけられたティフォン。アレンはレバーを引き、その体制を立て直そうとするが――

「溺死させてやんぜ!アレン・レインドォ!」

グラントロールのマニピュレーターが迫る。このままビームグローブを展開されれば、破壊は免れない。

「させるかっ!」

アレンはモニターをタッチし、そしてスイッチを押す。再び、先程放ったメガキャノンを二基、ティフォンの肩部に展開し、水中でそれを放ったのである。

 水中でのビーム粒子は、敵機体の距離が遠ければ遠い程、減衰してしまう。だが、ビーム粒子放出装置の基部からの出力は、敵機体を破壊するのに十分な火力を持っていると言える。

「おおやべぇ」

脳内に再び電流が流れたメイドは、すぐに回避行動をとる。グラントロールは後方へ移動し、水中から脱出を試みた。そして、それを見たアレンはレバーを引き、ティフォンのバーニアを展開して水上へ移動する。

 

 ザバァと、湖から水が弾く音が聞こえる。二機のMSが水中から出てきて、再び交戦を始める。互いにビームを撃ち合い、攻撃を続ける。

 ティフォンはビームライフルから、グラントロールはハンドビームカノンからビーム粒子を放ち、放つ。互いに水上をホバー移動し、移動する。回避されたビーム粒子は近くの岩場に直撃し、破壊される。

 接近をすれば、ビームグローブによる攻撃が迫る。しかし離れていても、先程の強力なアイドビームカノンがティフォンを襲う。彼自身、ようやくティフォンの操作に慣れて来たばかりであり、敵との適切な距離が不明なのだ。

「うぇーい、ちんたらやってんじゃねえぞー」

グラントロールの魔爪が迫る。アレンは咄嗟に反応し、頭部機関砲で牽制した後にビームセイバーで、これを迎撃した。再び拮抗し合う両機体。だが、その時を待っていたかと言わんばかりに、メイドが笑みを浮かべた。

「零距離ビームは極上のお味だぜぇ!目からビーム!!!」

再び、アイドビームカノンが放たれる。それに気づいたアレンが、回避運動をとった。しかし――

「くぅっ!」

左前腕部が融解してしまった。一度は防いだシールドだったが、既に機能を失いつつあったのである。シールドにはビームコーティングが成されているのだが、それ程に、アイドビームカノンの出力が高い事が伺える。

「アレン、聞こえていますか。」

その時だ。ティフォンの回線に一人の女性の声が。ジャンヌの声である。

「その機体には、有線ではありますがサイコミュ兵器を搭載しています。貴方の約に立つ筈です。」

有線?サイコミュ?最初、その言葉を聞いてアレンは戸惑っていた。だが、敵は容赦なく迫る。このままでは防戦一方である。

「いや、待て……これか?」

アレンは、一つのスイッチを押した。すると、ティフォンの両肩アーマーが外れた。それはやがて、銃口を作り出し、有線が展開される。

「この武器は……そうか、そういう事か!」

アレンは、それを感じた時、一度目を瞑る。

 彼は目を瞑りながら、脳内を活性させていた。アドバンスドタイプと呼ばれる人種であるアレン。彼は常人と比較しても、空間認識能力や高次脳機能が優れている。常人を超えた集中力は、時として自身を守る事にも繋がる。

 空間認識能力以外にも、高次脳機能が優れているアドバンスドタイプ。

脳機能には、感覚受容器からの入力情報の需要や、運動効果器への出力情報の発信などの一次的情報と、複雑な認知機能、及びその随意性や制御を司る高次機能がある。 

アレン・レインドは常人が持つそれらの能力よりも、高い能力を持つ。それ故に、高度な技術が求められる兵器の扱いが可能となるのだ。

 アレンの頭の中で、一つのビジョンが浮かんだ。グラントロールとの距離を感知したかのような、ビジョン。そして、彼の目は見開かれる――

 

ピシュンッ

 

両肩から展開された浮遊物はアレンの意志に沿うように、動き始めた。有線はグラントロールを追いかけ、銃口を狙い撃ちする。

 銃口からは、ビーム粒子が拡散した形で放たれた。

「チッ、こいつぁサイコミュか!」

その攻撃を見て一目で脳波コントロールの兵器であると察したメイド。やはり、彼も力を持つ者であることが、分かるのだ。

「脳波コントロールで俺を攻撃ってかぁ?甘ぇんだよ!目からビー……」

再びグラントロールがアイドビームカノンを放とうとした時だ。ビーム粒子残量を確認するメイド。すると、もうビーム粒子を展開するだけの量が無かったのである。

「クソ、無駄に撃ち過ぎたかよ!」

グラントロールはビーム兵器を使うことが出来なくなっていた。それは、単純に粒子切れだった為だ。

 そうなっては戦うことが出来ない。不本意ではあるが、グラントロールは撤退する事に決めたのだ。

「逃げる……?」

追い掛けようとするアレン。

「バイバイキーン!また殺し合おうぜアレン・レインドォ!!!」

そう言い残し、グラントロールのバックパックのバーニアの出力を高め、メイド・ヘヴンは湖から去って行ったのであった。

「逃げられた……深追いは、禁物か。」

この場から去ったグラントロールを見て、ただ茫然と見送るしか出来なかったアレン。そして、ティフォンはそのままMAに変形し、アステル家に戻っていく。

「ジャンヌ、今から戻るよ。」

「お疲れ様でした、アレン。先程の戦いはモニターで見ておりましたわ。」

ジャンヌは笑みを浮かべていた。それを見て、彼も笑みを返す。

「多分、奴はまた現れるような気がする。そうなったらアステル家はどうなる……?」

ふと、彼は心配をした。気紛れな男、メイド・ヘヴン。交戦する前の言動から、如何に危険な男であるかが分かる。彼の気紛れでアステル家が被害に遭う可能性も有り得るのだ。

「それは、分かりませんわ。しかし一つ言える事は、より、警備を強固にしていく必要があるという事です。」

「……そうだね。」

アレンは、鼻を右示指で少し掻き、微笑した。

 

 

 時間が経ち、場所はMSデッキ内。MA形態のまま帰還したアレン。彼が乗っていたティフォンガンダムは初陣を飾り、その機体性能を見せつけた。

「確かに、戦っている間はクリスタルを思い出した。武装こそ違うけど、コンピュータやモニターの位置はクリスタルの物を流用しているのが分かる。」

「やはり、この機体は貴方に相応しいですわね。安心しましたわ!」

ジャンヌは直に対面し、改めて笑顔を作る。両手を合わせ、右の頬に寄せる。

「しかし……何故ここまで改修する必要があるんだ?別に、クリスタルのままでも良かった気がするけれど。」

彼の疑問。それは、機体のフレームは戦時中に乗っていたクリスタルガンダムであるのに、何故可変機のようにする必要があるのか……である。

 クリスタルガンダムは、元々可変機でない。アインスガンダムのような、人型のMSであり、上半身や肩部がやや大型である機体だ。バックパックのバーニアスラスターは大型であったが、彼が乗ったティフォンはビーム砲へと差し替わっていた。

「クリスタルガンダムが、連邦軍、デウス帝国両軍に影響を大きく与え過ぎた機体であるからです。現代になってもそのような機体があるという事が知られれば、現在の世界情勢を考えた時、争いの火種になりかねないと判断しました。」

「要は、カモフラージュという訳だね。」

「そうですわ。まさか、かつての英雄の機体が可変機体に変わっているなど、誰が予想出来ましょうか。ウフフ……」

それは、アステル家という、デウス帝国に対してMSを提供していた一族だから出来る事だった。

彼女の言うように、かつての英雄の機体がそのまま戦場に出れば、真っ先に注目をされる。そしてそれを奪わんと、争いが起きる危険性がある。そうなればアレンは愚か、その周りの人間にも危害が呼ぶ危険がある。それは避けなければならない事態であるのだ。

「アレン、一度、お風呂にでも入ってきて下さい。疲れましたでしょう?」

「あ……うん。そうだね。」

ジャンヌの所に用事で来た筈なのに、MSに乗って戦うという体験をしたアレンは、少しながら疲れている様子だった。

 

 アレンはジャンヌの言うように、浴室を借りた。大浴場ともいえる環境はアレンを驚かせるのに十分だった。そこで入浴を済ませ、着替えるアレン。彼はバスローブ姿になり、ジャンヌの前に姿を見せる。

「お疲れ様でした、アレン。」

「ああ、ありがとう。」

ソファに座り、少しだがくつろぐ様子のアレン。

「風呂に入っていて思っていたんだけど、気になる事がある。どうして俺をガンダムに乗せるなんて、試すような事をしたんだ?」

何気なく、アレンは聞いた。

確かに、バンディットとしての活動をしている事や、アレンがかつて乗っていたクリスタルガンダムの改修機、ティフォンガンダムの事も含め、全てがジャンヌの思うように動いているように見える。それは、まるでジャンヌが彼の存在を待っていたか用意の仕方だ。

「戦後の現在。混迷の状況に巻き込まれつつある世界。それを打開する力が、必要だからです。貴方が生きていた事は偶然でした。ですが、この偶然が貴方とティフォンを巡り合わせたのです。」

つまり、アレンの存在を待っていた訳ではない。ただ、相応しい人間が現れないかを、確認したかったのである。

「まるで運命的だな。もし俺が死んでいたらどうなっていたんだろう。」

何気なく、アレンは聞いた。

「その時を、待つだけです。相応しい人物が現れるのを。」

と、言うジャンヌの表情は真剣、そのものであった。

 アステル家が回収し、全面的に改修したガンダムタイプ。ジャンヌが言うには、その力は、今後の混迷する世界を打開する力というのだ。

「君はやっぱり世界の事を凄く考えてるね。俺と全然違う。俺はずっと、生活の事ばかりを考えていた。色々と理不尽な事を感じたりはしたけれど、結局は生活だ。世界の事とか、そんな大それた事なんて考える余裕ないよ。」

「だから、バンディットという仕事を?」

アレンは頷く。そして、喋る。

「世界の為とか、そんな綺麗な事、俺には言えない。戦後になって俺に出来る事は限られている。だからこんな仕事をしている。まさか、依頼をかけたのが君だとは思わなかったけれど。」

改めて、この偶然に驚くアレン。

 戦後になり、平和の在り方を常に考えていたジャンヌと、生活を考えていたアレン。今回偶然再会する事で、彼等は互いの心境を打ち明けられたのである。

「ところでさ、肝心の依頼内容、まだ聞いてなかったね。」

アレンはこの時、思い出したかのように言った。

 確かに、ジャンヌには招かれた。そして話をし、その途中でメイド・ヘヴンに襲われた。やがてはMS戦になり、メイドは撤退した。この一連の出来事で忘れがちであったが、アレンは今、バンディットとしてジャンヌと会っている。知人関係としてでは、ないのだ。

「そうでしたわね、アレン。改めて、内容をお伝えします。」

アレンは唾を飲み込む。

「それは……私の護衛ですわ!」

パン、と両手を叩き、ジャンヌは笑みを浮かべた。

「え、護衛?」

突然彼女の口から語られた言葉に、アレンはただ、驚愕する。護衛?何の?突然の言葉はアレンを困惑させる。

「ええ。護衛です。」

メイドに襲われた後の、恐怖に満ちていたジャンヌの姿はそこにはない。彼に依頼をした時、満面の笑みを浮かべていたのだ。

「ご存知のように、私は世界的歌手。しかしそれ故に、マスコミやパパラッチといった存在に付け纏われる事は多々、あります。無論、アステル家としての私の事は公表されませんが、こうした存在からの護衛を、貴方にお願いしたいのです。」

要は、芸能関係者を守る、ガードマンを依頼したいのだという。

「彼等は私のプライベート事情等を記事にしたがる傾向にあります。世界中で活動するが故に、その私生活を暴露しようとする者が居るのが現状です。」

今回の依頼は、世界的な歌手としての、ジャンヌ・アステルの護衛だというのだ。

 ジャンヌは様々な顔を持つ人間である。歌手としての顔や、先程のアステル家の令嬢としての顔も持つのが彼女だ。世界的に有名人であるが故に、やはりマスコミに追われる事も多々、あるのだという。

「確か、君は歌手だけじゃなかった筈だ。女優としても一流。その上以前行われたテニスの大会でベスト4に進出していた。才色兼備ってやつだね。君は。」

アレンの言うように、ジャンヌは歌手活動として世界的に有名ではあるが、それだけに留まらない。女優としてもトップクラスの実力を誇り、アカデミー賞最優秀賞受賞を経験している。又、テニスプレイヤーとしての実力も圧倒的であり、世界大会で記録を残したことがある。

 容姿の美しさも去ることながら、その実力も紛れもない女性、ジャンヌ・アステル。その存在は、世界中のマスコミ達が黙る事がないのだ。

「私からの依頼、受けて頂けますか?」

ジャンヌ・アステルの美しい表情がアレンの目を捉え、離さない。そして、彼は静かに頷いたのだ。

「嬉しいです……!アレン、改めて宜しくお願いいたしますわ。」

そっと、ジャンヌは手を伸ばした。アレンはこれに対し、握手を交わす。

 バンディットの依頼主はジャンヌ・アステル。世界的歌手であり、女優であり、テニスプレイヤーの彼女が依頼主と言う、前代未聞の出来事。その報酬額は破格であり、アレンにとっては非常に価値のある以来と言える。

「ところで、護衛はどれぐらいの期間、すれば良いんだ?」

ふと、アレンは聞いた。

「日本でのコンサートが、終わるまでですわ。」

「じゃあ、日本へ行くのか?」

「はい、三日後に。」

まさかの、偶然だった。元々アレンはセイントバードチームと共に日本へ向かう予定だった為、結果的に彼は日本へ向かう事になる。もしかすれば、セイントバードチームのクルーに会うことが出来るかも知れないと考えたアレンは、静かに頷いた。

「コンサート自体は、いつからなんだ?」

「十日後です。早く日本に行き、少し時間を作りたい……と思いまして。」

要は、ジャンヌは観光がしたいのだ。

「……分かった。けど、一つだけ条件がある。」

「条件ですか?」

ジャンヌは首を傾げた。

「依頼を受けている間の俺の名前は、スパーダ・スクード。だから名前を間違えないで欲しい。それだけはお願いするよ。」

「ええ。分かりました。その……スパーダ・スクード。」

明らかに言い辛そうにジャンヌは言う。

 バンディットとしての彼の偽名はスパーダ・スクード。これは忘れてはいけない事実だ。デウス動乱の英雄として知られているアレン・レインドと言う名前を使う事は、新生連邦も居る現在では危険なのである。

 アレンは、ジャンヌと共に日本へ向かう約束を交わした。その内容は、歌手活動をするジャンヌの、護衛……いわば、ガードマンである。戦前からのよしみとはいえ、まさかこのような活動をする事になるなど、思いもしなかったアレン。だが日本へ向かうことが出来るというのは、ある意味彼にとっては幸運と言えた。

「ちなみにですが、日本へは輸送機で行く予定です。その際ティフォンも一緒に同行しますわ。」

「え?歌手活動としての護衛なら、MSは必要ないのでは?」

突然の言葉にアレンは再び疑問を抱く。

「それは、日本に着いてからのお楽しみ……という事ですわ!」

ガードマンとしての依頼の筈なのに、何故MSを同伴する必要があるのか?アレンは、ただ、疑問を抱くだけ。しかし彼女が報酬を払ってくれるのならば、それは承諾せざるを得ない。

聞きたい事は山程あるのだが、ジャンヌは答える様子を見せなかった。ただ、笑顔で誤魔化そうとするばかりだった。

 

 

 

一方、メイド・ヘヴンは先程の戦闘から場所を変えていた。その場所は山の中。グラントロールのようなMSを隠すには絶好の場所だった。MSが山を歩いていては目立つ。その為、迂闊に動く事が出来ないでいたのだ。

「憂さ晴らしでMSに乗ったらアステル家にはMSが居たのは良かったぜぇ。粒子切れはやらかしたけど、まあこいつを動かせたなら良しとするかなァ!」

アステル家には元々MSに乗って来たのである。彼の専用機、グラントロールはメイドにとっては、車やバイク等の移動手段……つまりは“乗り物”同然なのだ。

 

ピピピピピピピ

 

その時、彼のEフォンに着信が入っていた。その内容を確認する、メイド。

「はいほい?」

電話の主は、日本にいる氷河族のリーダー、アルン・ティーンズであった。

「メイド・ヘヴン。どこで何をしている?メンバーに招集を掛けているのだがあと二人、来ない。エレア・シェイルとお前だ。」

明らかに不機嫌そうなアルン。これに対し、メイドは言った。

「あぁ。仕事してた。招集?つーかこっちでのパニッシャーの仕事、まだ残ってンだけどな?」

メイド・ヘヴンは氷河族の“パニッシャー”と呼ばれる人間でもある。組織に不要な存在や、不利益な存在は彼が抹殺するようになっているのだ。

「一度日本に来い。そこでも仕事はある筈だ。」

「へぇ……日本。こいつぁ、少し面白いかもな……」

メイドは唇を舌で濡らした。

「何を言っている。命令だ。逆らう事は許されない……」

「逆らう気はねぇよ。すぐにゃ無理だから準備出来次第向かうわ。じゃあの」

と、メイドは一方的にアルンからの電話を切った。組織のリーダーに対する態度とは思えないメイドの言動。まるで、馬鹿にしているかのようだ。

「クケケケケ!日本!やべぇ!こりゃ運がええわい!ハハー!!!」

元デウス帝国軍の傭兵であった男、メイド・ヘヴン。天性の殺人鬼であり、MSでの戦闘を心から楽しむ、危険な男。現在は氷河族に所属している男でもある彼は、純粋に、“危険な男”と言える存在と言えた。

 




第二十一話、投了。

メイド・ヘヴンはアレンと因縁のある人物です。その上で、氷河族という組織に所属しているという危険な男。
結構後々に大きく影響してくる人間でもあります。
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