機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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日本での日常の日々や、アレンが恋人と再会する話。
※性描写有。


第二十七話 ラヴ・アゲイン

 エリィと握手を交わし、正式にセイントバードチームのメンバーに加わったスバキ・シンドウ。彼女はレイの部屋を訪れており、母親やリルムへの電話を終えた直後の彼に、会っていたのである。

「レイ!」

と、声を出すスバキ。部屋に引き籠っている筈の少女が目の前に居るのを見て、驚愕する、レイ。

「スバキ!?その……大丈夫なの?」

「ああ。お前の所の艦長に会ったよ。えっと、名前は確か……」

「エリィさんの事?」

「そうそう、それでさ、セイントバードのクルーとしてやって行くことになったからさ。改めて、宜しくな!」

と言いながらレイに握手を求めるスバキ。一方のレイは、最初、何が起きたのかが把握出来ていない様子だった。

「……え……えええええ!?」

やがて徐々に彼の反応は大きくなる。まさかの発言。驚愕するレイ。

「セイントバードチームとしてやって行く気なの!?」

「なんだよお前。文句あんのかよ!?」

と、今度はレイの胸倉を掴む。マサアキを倒した後、母親が死んだのを確認した時の彼女は明らかに落ち込んでいた。レイ自身も、どのように声を掛ければよいか分からなかった。

 だがそれが一日が経過して、ここまで変化している。スバキ・シンドウという少女は、彼が思っている以上に、強い少女であると、改めて思い知らされることになったのだった。

「文句なんて、ないけれど……それより学校はどうするの?まさか、辞めちゃうの?」

スバキと浅草を観光した時、彼はスバキの友人に会っている。仲良さげな様子の友人を見て、彼女の交友関係に問題があるとは思えなかった、レイ。

「いや、ここを去るまでは辞めない。だからセイントバードがここを去る時に退学届を出す。そしたら晴れて、学校生活からおさらばって訳だ。クルーの一員としてやっていってやるよ。」

「考えられないよ、そんなの……僕と同い年のスバキが、こんなの……」

同い年であり、学校に通っているスバキ。その事を考えると、“退学”という選択肢を躊躇いもなく出来る彼女が、信じられない様子だったのだ。

「お前な。私は家も、住む場所ももうないんだよ。ここがこれからの家代わりなんだよ。この戦艦は飛び立つんだろ?そんなので通える訳ないだろ。だから学校を辞めざるを得ないんだよ。」

「けど!学校を辞めるなんて……友達だって、悲しむよ?」

彼女の交友関係を心配したレイ。しかし――

「メッセージでやり取りすれば問題ないだろ。友達は離れてても喋れるんだし、んなもん気にしてられるか!それより今は生活だ。学校の授業云々より、生活が大切なんだよ、私は!!」

それらの言葉を、全て笑いながら喋っている。スバキ。母親の死を、こうも早く克服出来た彼女の精神力の強さ。レイは彼女の精神力の強さに、ただ、目を開ける事しか出来なかった。

 

スッ

 

その時、スバキはポケットから何かを取り出した。それと同時に、彼女はレイのさらりとした前髪に触れ、その、“何か”を止めた。

 それは髪留めだった。レイの髪は長い。それに気付いたスバキが、それを渡したのである。

「それ、やるよ。前髪長いだろ。ずっと思ってたんだけどさ、お前の髪、邪魔だと思ったからさ。」

思えばセイントバードに保護されて以来、散髪が出来ていないレイ。歩いている時等で時折髪が邪魔に感じる時があった。

「あ、ありがとう。」

その髪留めはレイによく似合っていた。何故だろうか、その髪留めの存在が、より彼を少女の顔つきに仕立て上げた。

「お前、なんか改めて女の子みたいになったな!」

「え、どう言う事!?」

と、笑いながらスバキは言った。

「冗談だよ。喜んでくれた?」

「うん……髪留めってあんまり付けないから、なんか斬新だけれど。」

レイはそれを、女性が付けるものと思っていた。それ故に、スバキからそれをプレゼントされた時は少しばかり、驚いた様子だった。

「良かった……喜んでくれて。うん……その……これから……さ……レイと一緒に居れるのは……やっぱり、嬉しい……かな。」

髪留めを渡し、喜ぶレイを見て、彼女はその言葉を恥ずかしそうに言った。明らかに照れているスバキ。それに伴い、声量が小さくなっていく。

 だが、この声量の小ささが災いした。レイはこれを。聞き取る事が出来なかったのである。

「えっと、ごめん、なんか言った?」

その反応に、スバキの表情は一変した。歯を食い縛り、握り拳を作り、レイに詰め寄っていく。

 

ドンッ

 

と、彼女はレイの顔の横に壁を平手で押し当てた。顔が近い。レイにとっては、異様な怖さを感じ取っていた。

(圧迫されてる……なんか怖い……)

恐怖するレイに対し、だが、スバキの方は明らかに怒っていた。

「馬鹿ぁぁぁ!!」

そう言って、スバキは一旦離れた。

 少女のような顔付きのレイと、男勝りなスバキ。両者の性別はまるで正反対だ。

「お前なんか知らないっ!この顔面女の男め!どっかいけ!馬鹿!!!」

そう言って、彼女は部屋から出て行ってしまった。

「僕、何が悪いこと言ったかな……。ここ、僕の部屋だけど……うーん……」

きょとんと、するレイ。スバキが怒ったのを見て、怒らせてしまった事に対して少しばかり、罪悪感を抱いている様子だった。

 

 

 

 セイントバードの前に、一台の黒い車が近づいていた。所々が金色に彩られている、派手な印象を持つその車。車内には運転手にエファン・ドゥーリアが、助手席にはジャンヌ・アステルが乗っていた。

 やがて彼女達はセイントバードに到着する。そして、そのまま二人はセイントバードに向かっていく。ジャンヌはアレンと東京タワーで歩いた時と同じ、玉房付きの帽子を被っている。エファンは黒いスーツ姿で彼女の隣を歩く。

「お……へ、へぇぇ!ジャンヌ様やないですか!どうも、ご無沙汰してます!!」

彼女の姿に反応する一人の男が。シュアー・ラヴィーノである。彼等は握手を交わし、何度も頷く様子を見せた。

「お久しぶりですわ。ご友人のフォン・ヤマグチ首相もお元気でしょうか。」

「勿論ですわ!いやあ、こちらに来られるとは伺ってましたけど実際にお顔を見る事が出来て何よりですわ!えっと、今日は確か……」

世界的歌手、ジャンヌがここに来た理由を忘れていたシュアー。

「こちらに知人が居る事をアレンから伺いまして。それでこちらに来させて頂きました。」

「どなたの事でっか?」

「エリィ・レイスさんです。何でも、こちらの艦の艦長をされているとか。」

「エリィはんなら、今は医務室でっせ。昨日、ちょっと怪我してもうてな。」

「怪我、ですか……」

彼女にとって、予想しなかった言葉が返ってきた。エリィが怪我をしている。何故なのか。一体、何があったというのだろうか。疑問を抱くジャンヌ。

「ジャンヌ様、どう致しましょうか。」

エファンが聞いた。これから会おうとしている人間が怪我をしているという事を聞き、ジャンヌは躊躇う。

「なら、せめて副長の方にお会いすることが出来れば……とは思いますわね。」

「副長……ネルソンはんでっかな?」

「そのお方にお会いする事は出来ますか?」

「それは大丈夫やと思いますわ、ジャンヌ様。」

と、言いながらシュアーはネルソンに電話を掛けた。ジャンヌ・アステルがセイントバードに来ている……と。

 

 それからセイントバードからネルソンが現れた。そこにいた、世界的歌手であるジャンヌの姿を見たネルソンは、何度も瞬きをし、確認する。

 本物のジャンヌ・アステル。世界中で歌を歌い、絶大な人気を誇る彼女が、目の前にいる。戦場を駆け抜けて来たネルソンであったが、彼女のような有名な人間に会える事は内心、光栄だったのだ。

「はじめまして、貴方がここの艦の副長ですか?」

「ジャンヌ・アステル嬢と、呼ぶべきでしょうかね。デウス帝国では貴方のお名前はよく知られておりましたよ。」

元々デウス帝国領のアステル家の令嬢であるのがジャンヌである。デウス帝国出身のネルソンは当然ながら知っている。そして、現在では彼女が世界的に有名な歌手という事も。それ故に、彼は平静を装いつつも、内心では緊張しているのだ。

「艦長のエリィ・レイスさんがお怪我をされているという話を伺いまして、副長をされているという貴方にお話を伺おうと思っておりますの。」

ジャンヌの笑みはネルソンを一層緊張させた。彼女の笑みは柔らかく、優しい笑みではあるが、世界的歌手という肩書が彼の自然な表情を失わさせるのだ。

「ど、どちらでお話を致しましょうか……?」

言葉が詰まる、ネルソン。

「私達もあまり長居は出来ません。それにこの話は出来るだけ内密にして頂きたいお話になります。そうですわね、この戦艦の艦橋……ブリッジをお借りする事は出来ますか?」

ジャンヌの質問に、ネルソンは静かに、頷いた。

「では、参りましょう。あと、エリィさんのお怪我は大丈夫なのでしょうか。」

「怪我自体は、致命傷には至ってないです。」

「そうなの、ですね。それは幸いでした。」

と、言いながらセイントバード内に入っていこうとする、ジャンヌとエファン。

 だがその時だった。艦の入り口から一人の女性が姿を現したのは。

「大尉!……と、ジャンヌさん……!?」

エリィだ。左肩は相変わらず包帯を巻いてはいるが、歩く事は出来ている。そしてジャンヌ・アステルの姿を見て、ネルソンと同様に、驚嘆していた。

「フフ、お久しぶりですわね、エリィさん。お怪我の方は大丈夫なのでしょうか。」

「はい、なんとかですけれども。」

彼等はデウス動乱時の知人関係である。しかし再会をしたのは戦後になってからは、現在、この時間が初めてであった。両者は互いに連絡先を知らない。それ故に、久しぶりの再会となったのである。

「艦長、ジャンヌ嬢と知り合いなのか……?」

「ええ、戦前に数回ですがお話をした事があります。」

(まさか、だったな。全く知らなかった……)

この時、ネルソンはエリィのコネクションの凄さに驚愕していた。

「エリィさんがお話を聞いて貰えるのならば、円滑にお話が纏まりそうですわね。」

ジャンヌは笑みを浮かべ、言った。

「あの、そちらの方は……?」

エリィはエファンの方を見て、ジャンヌに聞く。

「エファン・ドゥーリアです。私の側近を務めております。」

「宜しくお願いします。」

丁寧な挨拶で静かに会釈をするエファン。

(不思議な人……)

静かに、エリィは思っていた。

 

 

 その後、彼等はセイントバードのブリッジへ移動する。セイントバードのクルーはジャンヌに会いたいという人間も居たが、今回はジャンヌの意向で出来るだけ内密にしたいという事の為、クルー全員を集めることは出来ない。

 今回、セイントバードの主要メンバーが集まった。エリィ、ネルソン、シン、インク、スラッグ。レイやスバキは部屋にいる。そして、ジャンヌ・アステルがエファンと共に、ここに集まる。

「やばい、本物のジャンヌ・アステルだ……」

「サイン、駄目かな?」

「それを求める状況じゃないと思うぞ。」

「いや、分かってるけどさ……」

ひそひそと、話すのはインクとスラッグだ。知人関係でない彼等にとって、ジャンヌは世界的に有名な著名人である。この時、彼女は帽子を外していた。金色のロングヘアーが印象的な彼女はより、美しさを際立たせた。

「本日は時間を割いて頂き、ありがとうございます、皆さん。あと、先に皆さんに特別にチケットをお渡ししておきます。お時間が許されればこちらに伺って頂ければ幸いです。」

と、言いながら彼女は十枚のチケットをエリィに渡した。それは本来、発売すれば確実に売り切れる程の人気の品であり、常に誰もが喉から手が出る程欲しがっているものである。

 本来ならそれは喜ばれる代物。だが今は、それを喜ぶ人間はこの場にはいない。彼女の話を、皆が聞こうとしているからだ。

「皆様がこの戦艦を駆り、MS乗りとしてご活躍をされているという事はアレン・レインドから伺っております。ここ、日本に来られる間も数多の勢力と戦って来られたとも、聞いております。」

それは新生連邦や、砂漠の狩人等の存在だ。それらとの激闘を抜け、今ここにいる。

「戦後の状況は私も理解しておりました。Cコロニー、世界の大半の人々が先のデウス動乱で亡くなられた事実。それは紛れもない、悲劇です。」

歌手としての印象が強かったジャンヌ・アステル。その彼女が語る内容は、世界情勢の話。歌手以外の彼女の事をよく知らないクルー達は、彼女の言葉に興味を示している。

 

「ですが今、世界は混迷の状況に巻き込まれつつあります。」

 

優しい笑みを浮かべていた彼女の表情が、一変した瞬間だった。誰もがその顔を見て、注目している。

「新生連邦政府が樹立して以降、世界中で、内乱やテロリズムといった紛争が行われるようになっていきました。デウス動乱と言う大戦を経て行われている、新生連邦軍による軍備増強は平和から明らかに逸脱していると言っても過言ではありません。」

「確かにそれは言えています。新生連邦は何の為に軍備増強を続けるのか。その意図も不明なまま、内乱等が起き続けている。明らかにおかしな状況ではあると、認識はしています。」

そう言うのは、ネルソンであった。

「このままこうした事が続けば、いずれ世界は大きな戦乱に包まれる……私は、そう思うのです。」

それは歌手としてのジャンヌの言葉ではなく、アステル家の令嬢としての彼女の言葉だ。彼女の言葉を聞き、その場にいた誰もが関心を抱いている様子だった。

「エリィさんにお伺いしたいのですが、MS乗りはどのような活動をされていますか?」

話題が映る。艦長であるエリィに、ジャンヌからの疑問が飛んだ。

「世界中を回って、MSのスクラップ等を集めたりしています。それをジャンク屋に売って生計を立てています。でも、戦闘に巻き込まれたりする事も、多々ありました。」

そう言った後、ジャンヌが口を開いた。

「私に提案があるのですが、その活動を、一度止めて頂く事は可能でしょうか。」

「止める……?」

突然何を言い出すのか。エリィはこの時、理解が出来ない様子だった。

「それは、ちょっと難しいです。このチームは、皆、元々戦争を戦い抜いた人やMSに関係していた人達ばっかりです。それで生活をしている人達ばっかりなんです。それを止めるって事は、生活が成り立たなくなります。チームの解散になっちゃいますし……」

当然ながらエリィは反論する。ジャンヌ・アステルとはいえ、MS乗りの活動を止める権利等ない……と、考えていたからだ。

「いいえ、チームの解散をする必要はありません。これからのこの戦艦の方向性を、考えて行きたいと考えたのです。“平和”の為に。」

何を言っているのか、理解が出来ない様子のエリィ。それは彼女だけでない。この場にいた誰もが、分かっていないのだ。

「単刀直入に申し上げますと、私達、アステル家が今後の貴方方の航行のスポンサーとして援助をさせて頂く……という事ですわ。」

「スポンサー!?」

その場にいた面々はざわついた。ジャンヌが発した一言の衝撃が、あまりに強かったのである。

「ジャンヌ嬢。申し訳ありませんが、話が見えてきません。何故MS乗りである我々のスポンサーに、アステル家がなってくれるのか。その意図が分からないのですが。」

ネルソンが聞く。それは当然の疑問だ。

 実際、ジャンヌがここに来るという事自体が本来ならば有り得ないこと。しかしアレンのコネクションがきっかけで彼等は繋がった。そして、ジャンヌはセイントバードチームに対して資金提供を行うというのだ。

「アレンから伺いました。この艦には“ガンダム”が搭載されている。そして、そのパイロットは年端も行かぬ少年が乗っているという事も、聞いております。」

アインスガンダムと、レイの事だ。

「混迷に巻き込まれつつある世界。それは平和の敵と呼べるものです。私達はそれを止める力を、僅かでも欲しいと、考えております。」

それは彼女の意志でもあり、アステル家の意向でもあった。

「それって、つまり……新生連邦と戦っていくって事ですか?」

エリィは聞いた。それに対し、ジャンヌが言う。

「戦力を止める為に戦力を投入するという訳ではありません。今は、少しでも情報が欲しい状況。貴方方にはその、情報収集をお願いしたいのです。」

“情報収取”の意味が分からない。それが、何故MS乗りであるセイントバードチームがしなければならないのかも、不明だ。

ジャンヌの提案を飲めば、資金繰りに関しては約束される。だが肝心の“情報収集”というのが気がかりになる。

「今すぐにとは言いません。けれども、一つお伝えしたい事があります。この艦は元々新生連邦軍の艦であり、何度か追われているという話を聞いています。そしてガンダムの存在。これも新生連邦軍のものです。つまり、航行を続ける以上、新生連邦軍との衝突は避けられないものと考えますわ。」

アレンからそれらの情報を聞いていたジャンヌ。この事から、新生連邦軍との接触の可能性が高いと、睨んだ上での発言だった。

「ああ、もうこんな時間ですね。お時間が来てしまいました。大変申し訳ありませんが、私はこれにて失礼します。もし返答を頂けるのでしたら、メッセージを頂ければ幸いです。では。」

そう言った後、頭を下げて、ジャンヌは去って行く。ほんの、僅かな時間の出来事であったが、セイントバードクルーにとっては大きな出来事と言えた。

「あと……ガンダムのパイロットは今どちらに居るかを教えて頂いて宜しいでしょうか?」

「え?多分、整備を行っていると思いますよ。」

エリィが言った時、ジャンヌは笑みを浮かべ、去って行った。

 

 ジャンヌが去った後、ブリッジ内は今後の事をどうするかを考えていた。今回のジャンヌからの提案。それはアステル家がセイントバードのスポンサーになるという事。そしてその代わりに新生連邦に関する情報収集を行うというものだ。

「アステル家がスポンサーになるのは正直、有難い。今後の航行においては大いに助かる。」

と、ネルソンが言った。

「けど、肝心の“情報収取”ってどういう意味なんでしょうか。それが曖昧じゃこの条件って飲みにくいというか……」

無理もない。MS乗りはあくまでも軍とは一切関係のない存在なのだ。新生連邦軍との衝突は意図したものではない。彼等はあくまでも、追われる身である。仮にジャンヌからの条件を飲むとしても、資金繰りは約束されるとしても、今後の状況が不安定になる可能性も考えられるのだ。下手をすれば、今以上に命の危険に見舞われる可能性も有り得る。

「艦長、ジャンヌ・アステルって歌手でしか見た事ないんですけど、ちょっと図々しすぎませんかー?」

と、言うのはインクだ。

「奇麗事言ってましたけど、お金持ってるからパシリやってくれって言われてるようなもんですよ。MS乗りの生活は確かに大変ですけど、ちょっと引っ掛かるっていうか。」

インクの言葉も、分からないことは無い。スポンサーとしての資金繰りの不安は解消されるが、その代わりに与えられる仕事が不明なのは不安でしかない。最悪、死に直結する可能背も有り得るのだ。

「インクの意見に、俺も賛成ッスね。最初はあのジャンヌ・アステルが来る!すげえ!ってなったけれど、なんかあの言い方とかはどうも、気になりますよ。……コンサートは見に行きたいっすスけど。」

「転売すんなよ」

「しねぇよ」

と、インクとスラッグの簡単な会話が合間に行われた。

「大体、世界が混迷に包まれる云々って言われても、私らに関係あります?そりゃ、新生連邦は怖いですけど、別にこっちが何もしなきゃ向こうだって何もして来ない訳ですし。」

「その理屈は、新生連邦には通じないだろうな。」

インクの言葉を、ネルソンが遮った。

「今までの新生連邦の連中の行動を見てきただろう。我々は常に狙われる立場だ。今後、その攻撃は更に激化する一方だろう。奴等の目的が軍備増強なら、セイントバードやアインスガンダムと言った戦力は喉から手が出る程欲しいと考える筈だ。」

ネルソンは腕を組み、言った。

「前も、地中海で襲われましたもんね。けどあれはまるでセイントバードを撃墜する勢いで攻撃をしてきました。鹵獲する気ならあんなに激しい攻撃はしてこない筈ですよ。」

エリィが言った。

「確かに……奴等が何を目的にしているのかが不明だ。その状態で、仮にこちらが投降したとしても、果たして奴等は我々の身の安全を保障するだろうか。」

以前の猛攻が鮮明に記憶に残っている彼等。新型ガンダム達の攻撃は彼等に疑問を抱かせるのには十分だった。

「そう考えると、その状態で無闇に航行するのは危険という事だな……」

MS乗りは只でさえ命のやり取りを伴う存在である。同じMS乗り同士であれば、対立すれば互いの機体のスクラップを奪い合い、下手をすれば死に至る可能性もある。無論、それはMS乗りの意向にも寄るのだが。

 弱肉強食の世界で甘えは通じない。その中で、セイントバードチームのメンバーは非常に緩い位置にある。しかしその中でも彼等は生き延びてきた。

 その上での新生連邦の攻撃の激化を考えると、この先MS乗りとして活動していくのは困難を極めるのではないか。その中で、資金提供をしてくれる存在があるのならば、彼等にとってはこれ程美味しい話は無いと言えるのだ。

「アステル家の援助を、受けるべきか。艦長はどう考える?」

エリィは悩む。皆の意見はそれぞれある中で、最終決定をするのは彼女の役目だからだ。

「ジャンヌさんが言っていた、平和云々の話は今の私達には分からない話です。ただ、一つ言えるのは、今後の航行の安全が保障される可能性があるのは、彼女達の協力が必要ではないか……とは考えます。」

背に腹は代えられない。ジャンヌ・アステルが援助をしてくれるのならば、それに甘えるのも一つだと、エリィは考えていた。

「なら、彼女に協力する形になるな。」

この瞬間、セイントバードチームはアステル家の援助を受ける事が決定しつつあった。

 だが、安易な確定はしてはいけないと考えていたエリィは、この決定をまだジャンヌに伝える気は無かった。クルー全員に聞き、改めて決定を伝えるようにしたのである。

「となれば、問題はレイ君ですね。」

「一刻も早く彼を故郷に送り届ければ、彼の問題は解決する。その後の行動はその時だな。」

まずは、レイを故郷に届ける。その事を最も優先しなければならないと、考えるエリィ達であった。

 

 

 

 セイントバードのMSデッキにて。ガーストと整備を行なっているレイ。その近くにはアレンの姿もあった。

 それぞれのガンダムタイプが聳え立っている。紺色の巨人と、青、赤、白のトリコロールカラーの巨人が並列して並ぶ光景。ガンダムを神格化している者からすれば、それは非常に輝かしい光景に見える。

 レイは、アインスの脚部で一息吐いている時、彼に声を掛ける、一人の美しい女性が現れた。

「こんにちは。」

「あ、はい……ふえっ……!?」

玉房付きの帽子を被っている女性。金色のロングヘアーがよく似合い、その整った体型、そして顔立ちの女性。何よりも、既視感があったその女性。

 レイは思わず尻餅をついてしまった。無理もない。何せ、目の前にいるのは世界的歌手である、ジャンヌ・アステルなのだから。

「え、え、あ……え!?!?!?」

言葉が見つからない。何故世界的歌手であるジャンヌがここにいるのか。自分のような人間に声を掛けているのかが、分からないからである。

「貴方が、そのガンダムのパイロットですか?」

ガンダム。あの、ジャンヌ・アステルから出た言葉。アステル家の詳細を詳しく知らないレイにとっては分からない事ばかりである。

「は、はい!あのあの!本物……ですよね?」

「それは、何がでしょうか?」

「えっと、その、ええと……そっくりさんとかじゃ、ないですよね?」

「私は、私自身ですわ。」

恐らく、本物であるとレイは確信した。

Eフォンの動画アプリで彼女の歌のプロモーションビデオをよく見ていたレイ。

 ジャンヌが歌い、踊るプロモーションビデオの再生数は常に億を超える。そして、コメント欄は誰もが彼女の存在を絶賛している。SNSのフォロワーの数も億を超え、彼女が発信する内容へのコメント欄は数え切れないコメントが残る。

 世界的歌手、ジャンヌ・アステル。地球圏は愚か、Cコロニー圏にまで大きな影響を及ぼしている彼女の存在は、“カリスマ”というレベルを遥かに凌駕している。今、レイの前にその存在が居るのだ。

(本物だ……けど、何だろう。不思議な感覚だ……まるで、アレンさんとかに似ているような感覚……)

それはどのような意味で彼が感じ取っているのかは分からない。著名人という雰囲気なのか、或いはそれ以外か。

 著名人が目の前に現れた時、人はどのような態度を取るのだろうか。あえて親しみ易い態度をするのか、あるいは露骨に緊張するのか。それは個人に寄るだろう。

 日に当たる事が普段あまりない一般人からすれば、その存在は余りに眩しい。それ故に言葉が出なくなる事があるのだろう。今のレイはまさにそれだったのである。

「ジャンヌじゃないか。来ていたのか。」

「おっ、ジャンヌじゃん。まさかこんな所で会うとはな。」

そこへ、アレンとガーストが姿を見せた。彼等はジャンヌと知人の関係だ。

「あら、お二人共……ガーストもお久しぶりですわね。」

だが、レイにとってはこの光景こそ、違和感でしかないのである。

「え、ジャンヌ・アステルと知り合い……えええええ!?!?!?」

彼は、何も知らなかった。アレンとガーストがジャンヌと知人関係であるという事を。対照的に彼等はジャンヌに対して驚く様子なく、接している。この、状況に、ただ混乱するばかりの、レイ。

「ジャンヌ、エリィさん達に要件って伝えたのか?」

困惑するレイを余所に、アレンが言った。

「ええ。ここでは少しお話しし辛い内容ですので、また別の場所でお話をしましょう。」

「あ、ああ。」

アレン自身、彼女がどのような内容をエリィ達に伝えたのかは把握出来ていない。セイントバードの今後の方向性について知っているのは、今の所五名の主要メンバーのみであるからだ。

「大活躍じゃないか、よくメディアで見かけるぜ、ジャンヌ。」

「そう言って頂いて光栄ですわ、ガースト。」

アレンは連邦内でデウス動乱の英雄も呼ばれている人間だ。もしかすれば、そのコネクションは多方に広がっているのかも知れない。

 しかし、まさかガーストがジャンヌと知人関係という事は予想外だった。何の躊躇もなく、ごく、自然に接している。この光景を見て、レイは、最早、訳が分かっていない様子だった。

「ああ、取り乱してしまいましたね。お名前を、教えて下さいますか?」

ジャンヌが笑みを浮かべ、レイに名を聞く。尻餅をついたまま、呆然としている、レイ。

「あ、えっと……レイ・キレスです。」

「レイ……良い名前ですね。貴方が、そのガンダムを操っているのですね。」

そう言いながら、ジャンヌは紺色の巨人、アインスガンダムを見上げる。全高18メートル程あるその巨体。特徴的な顔貌を見上げた後、彼女はレイの方を見下ろした。

「貴方は、何の為にガンダムに乗っているのでしょうか?」

ふと、ジャンヌは聞いた。何故彼女がMSの事について聞きたがるのか、レイには理解が出来ていない。どのように答えれば良いか分からない彼は、その返答に時間を要していた。

「恐らく、事情があるのでしょうね。貴方がそのガンダムを操り、都市部に侵攻したあのMSと戦っている姿を、私は見ておりましたの。」

スバキを救出する際の出来事。ジャンヌはそれを見ていた。バレットビットが飛び交う都市部で、それらが民間人に危害を加えないよう、無我夢中で攻撃を行なっていたのである。

「あ……あの時の……?」

アレンの駆るティフォンと共に、ダッゲインの放つビットを迎撃したレイ。あの時は偶然だった。それが目的で出撃した訳ではない。

 だが結果としてはジャンヌに見られ、それが更なるきっかけとなり、今、レイとジャンヌが出会う事になったのである。

「良ければ、そちらのガンダムタイプの事、少し見せて下さっても良いでしょうか?」

レイは、コクリ、と頷いた。まさか、世界的歌手であるジャンヌ・アステルがMSに関心を抱いているなど、予想しなかったのである。その為、彼女の依頼も何の疑問を抱く事なく、承諾したのであった。

 

 ジャンヌがアインスのコクピットに入っている間、レイは二人と少しばかり話していた。その間にジャンヌ・アステルと二人がどのような関係であるのかを聞く、レイ。

「彼女とは戦前からの知人関係だよ。アステル家の事ってあんまり知らないのか?」

アレンが聞いた。

「名前は聞いたことあるぐらいです……ジャンヌ・アステル……さんがそこのお嬢様っていうのも知ってるぐらいで。」

敬称を略するのは失礼と判断したレイは、ジャンヌの事について敬称を付けようと、考えた。

「アステル家は元々デウス帝国に軍備提供を行っていた一族で、今はそれを止めてるんだよな、確か。平和になったご時世じゃ、確かに、必要はないよな。」

近くにいたガーストが言った。

 彼の言うように、平和な時代に兵器は必要ない。アステル家もかつてはデウス帝国に戦力を援助していたが、今はその工場を止めている。

「そのお嬢様がジャンヌ・アステルさんなんですね……」

その事を初めて知ったレイ。それと同時に、世界的歌手のもう一つの顔の存在を知るきっかけとなった。

「まあ、戦争を経験しないと多分、分からない事だと思うし、良いきっかけと思えば良いんじゃないかな。」

と、笑いながら話すアレン。

「けどさ、ジャンヌは本気で世界の事を考えてるよ。」

アレンの表情が、少しばかり険しくなる。

「それ、どういう事だ?」

ガーストが、聞いた。

「彼女が来ていたから事情を説明するけれど、ガンダムを俺に与えたのは彼女なんだよ。」

この時、レイとガーストの両者は驚愕した。

「何だって!?」

アレンが乗って来たティフォンガンダムの提供主はジャンヌ・アステルだった。これがどういう事を指すのかは、分からない。

「なんであいつ、ガンダムをアレンに与えたんだ?意味が分からないぞ。」

「それは俺にも分からない……けど、なんとなくは分かる気がする。」

アレンの言葉の理解が出来ない、レイとガースト。

「もしかすれば、彼女は新生連邦を止めようとしているんじゃないかな。その第一段階として、俺にガンダムを託した。そんな気がするんだよ。」

日本に着いてからの彼女との会話を、思い返すアレン。

 

――――レヴィー・ダイルを止める為には、それ相応の“力”が必要という事です―――

 

「力って、どういう事だ?」

「それは俺にも分からないけれど……彼女が何らかの意思を持って動いているのは、分かる。」

世界的歌手、ジャンヌ・アステル。その内なる想いは、知人関係である彼等にも不明だったのである。

 

 その後すぐに、ジャンヌがコクピットから降りてきた。エレベーターを使い、彼等の元に現れる。

「色々と見させて頂きましたわ、ありがとうございます。」

謝礼をするジャンヌ。改めて彼女の姿を見て、レイは再び表情が固まった。

「気になるとすれば、この機体は連邦製の機体という事です。何故連邦製の機体を貴方のような少年が操っているのか……気になる所ではありますが、今は時間がありません。またの機会に、伺えれば……と、思いますね。」

ジャンヌはそう言った後、レイに対し、手を振った。

「また、いずれお会いしましょう。きっと、会う事があると思いますわ。」

そう言いながら、彼女は側にいたエファンと共に、去っていく。この時、アレンは彼女を追いかけるように走っていった。

(もし、また、会えるのなら嬉しいな……!)

 一方のレイは世界的歌手に名を覚えて貰ったという事実に、内心、絶大な喜びを感じ取っていた。

 メディアや動画等でよく見かける人物が目の前に現れ、自身の名前を覚えてもらうと言う事自体、彼のような一般人にとっては光栄な事以外の何者でもない。明らかに喜んでいるレイの顔を見て、ガーストは言った。

「お前、ファンだったんだな。」

「……はいっ!!!」

困惑しつつも、彼は確実に、喜びを噛み締めていたのであった――

 

ピキィィィ

 

(え……)

レイの脳内に電流が流れる。そして、どこかしら、彼は視線を感じている。

(何だろう、あの人……?)

視線の先を、レイは見た。そこに居たのは、長身の男、エファンである。

「なあ、今日なんだけどさ。良かったらうちに泊まらないか?」

エファンの視線を、ガーストが遮った。と、同時にレイが感じ取っていた妙な“感覚”は消えて、無くなっていた。

「え?あ……は、はい。ガーストさんの家にですか?」

「そう。昨日の事のお礼も兼ねてさ。本当はアレンと飯に行きたかったけど、あいつ、それ所じゃなさそうだし。また、車で送るわ。」

ガーストはダッゲインの攻撃に対し、対応してくれていたアインスの姿も見ていた。ガーストを直接守ったのはアレンではあるが、レイの事も聞いていたガーストは、レイを自宅に招待したいと、考えていたのであった。

「後さ、ちょっとした“相談”もしたいしさ。」

「相談?」

レイは、首を傾げた。

 

 

 ジャンヌがここを去る時、アレンは彼女に聞いていた。

「ここのメンバーに何を伝えたんだ、ジャンヌ。」

彼は、ジャンヌが以前に言っていた、“戦争を止める力”の事が気になっていた。もしかすれば今回セイントバードチームに彼女が接触したのは、その事も関係あるのではないかと、思っていたのである。

「彼等に新生連邦軍の情報収集の依頼をお伝えしました。それを彼等が承諾するかは分かりませんが、今後の世界の為には必要な事だと、考えておりますわ。」

「情報収集の依頼?」

それだけでは、具体的な内容が不明だ。

「アレン、貴方に対しては詳細についてはコンサートが終わってから貴方にお話をします。私達は先に戻っていますわ。」

「けど、ティフォンはどうするんだ?」

「暫くはここに預けておくのが良いでしょう。ここは日本の保護区に該当しております。あまりMSが日本国内で動き回るのも、目立ちますから。」

と、ジャンヌが会釈をした。

 その後、彼女はエファンが運転する車に乗り、セイントバードを去っていく。彼女が向かう場所。それは、コンサート会場だ。

 もう時期、ジャンヌ・アステルのコンサートの日本公演が行われる。恐らく、多くの人間がアリーナを埋め尽くすだろう。しかし、このコンサートは彼女にとってはただの過程に過ぎない。彼女が日本に来た目的が、きちんとあるのであった。

 

 

 車内にて、エファンが車を運転している時、助手席に座っていたジャンヌが口を開いた。

「不思議な感覚でした。あの、ガンダムのパイロットからは力を感じましたわ。」

「力……ですか。」

エファンは運転しながら、彼女の話を聞く。

「力を持つ人間というのは、何らかの形で惹かれ合うのでしょうか。あの艦の関係者は、力を持つ人間が多い印象を受けます。不思議なものですわね、人の縁というのは。」

車内から見える、景色を見ながら、ジャンヌは呟いた。

「私も感じておりましたよ。力を持つ存在を。あれ程に一同にそれらが集まる事など、非常に珍しい事でしょうね。特に、あの少年……」

エファンは、何故か静かに笑みを浮かべている。

「エファン、貴方も力を感じ取っているのですね。実は私も彼の事は感じ取っていました。彼から感じる力……シンギュラルタイプの力……なのでしょうか。」

この会話より、ジャンヌの側近のエファンも力を持つ存在である事が分かる。ジャンヌの言葉に対し、エファンは静かに、笑みを浮かべていた。

「それは、どうでしょうかね。一つ、言える事があるとすれば……力を持つ存在はそれぞれを呼び合い、そして時に衝突したりする事もあり得るのかも知れませんね。」

「衝突……ですか?」

「私自身、過去に様々な事がありまして。けれどもそれはあくまでも過去の話です。」

ジャンヌへ忠誠を誓っているエファン。その絶対的な信頼はどこから来るのだろうか。彼がアステル家に仕えたのは一年程前。僅か一年の年月で彼は、どのようにしてジャンヌの信頼を勝ち得る事が出来たのかは不明である。

「力を持つ存在……それは人の可能性。その力を持つ人々が手を取り合えば、混迷を極める世界を止める事が出来るのかも知れませんね。」

ジャンヌが、静かに呟いた。

「力を持つ存在が、手を取り合う。それは、確かに……理想ですね。」

運転をしながらエファンは語る。信号が赤色の時は止まり、青の時は車をゆっくりと走らせている。

 そのまま彼等はアリーナへ戻っていく。他の車と比べ、一際目立つ配色のそれは、人々が注目をする、的であった。

 

 

 ジャンヌが去って行った後。エリィはクルー全員をMSデッキに集めた。作業中のクルー達も全て含め、ジャンヌから受けた提案について語る。

「皆さん、注目です!セイントバードの今後について関わる話ですよ。先程、アステル家のご令嬢であるジャンヌ・アステルさんからセイントバードのスポンサーを受けて下さるという話を頂きました。」

大声でそれを言った為、エリィは再び深呼吸を行った。

「けれども、その代わりに新生連邦の“情報収集”を行うという条件が付きます。これは何を意味するのかは分かりませんが、この件について賛成の人と、反対の人で挙手をお願いします!」

これについては皆が騒然としていた。アステル家がスポンサーになるのは非常に大きい事だ。だがその実態が不透明である以上、それに賛同するべきなのか……クルー達は、皆迷っている様子だった。

「資金繰りが約束されるのならいいんじゃないか?」

「でも何やらされるんだ?新生連邦と戦うって事?」

「実態が分からないんじゃ何とも言えないな。」

「いや、そもそもこの艦自体が新生連邦の艦だしなぁ」

様々な意見が飛び交う。当然、何が正解かなどない。

 そして、その中で一番困惑している人間がいた。レイである。

(ジャンヌさんがそんな事を言ってたの!?え、じゃあ僕はどうなるの……?)

もし、アステル家のスポンサーになる事が決定した場合、彼は家に帰ることが出来るのだろうか。一抹の不安が彼に過ったのである。

 やがて、時間が来た。エリィは全員に問うた。

「まずは……反対の人!」

それに対する反応は、極、少数だった。その中にインクやスラッグの姿もあった。

「では……賛成の人!」

それに対して手を上げる人は大多数を占めた。この瞬間、セイントバードはアステル家の支援を受ける事が、決定したのである。

 

 騒々しい中、一人困惑するレイの元に、エリィが声を掛けてきた。

「レイ君、突然こんな事になってごめんね。」

「いえ……なんだか、大変な事になりそうですね。僕も、色々な事が合わさりすぎて混乱してて……」

ジャンヌの事や、今回決定した事等、レイにとっては情報量が多い。一つずつ整理しようにも、追いつかない様子のレイ。

何よりも、その中には彼自身が故郷へ帰ることが出来るのかという不安も合わさっていた。

「貴方に一つ、言っておきたいことがあるの。」

エリィは、レイの髪をそっと撫でる。

「髪留め、似合ってるね。」

「それより、教えて貰っていいですか?」

エリィの言葉をそっと撥ねるレイ。この時、彼女は僅かばかり頬を膨らませた。

「このような決定になっても、まずは必ずレイ君を故郷に帰す事を優先するからね。それが、一番大切な事だから。」

更に、髪を撫で続けるエリィ。

「……ありがとう、ございます。なんだか大変な話になってしまって……そんな中で僕の我儘を聞いて貰えるなんて、なんだかすみません。」

「ううん、元々貴方はお客さんだもの。それを忘れちゃいけないと、思ってるから。」

この時、レイは笑みを浮かべる事はなかった。故郷へは帰りたい。だが、あくまでも彼は客人扱い。これまで共にしてきた仲間である筈なのに、客人と呼ばれるのは、彼にとっては複雑な心境だったのである。

「あとね、これ、貰ったんだけど、明後日みたいだね。良かったらどう?」

と、言ってエリィはレイにチケットを渡した。それを見た時、レイは何度も瞬きを行ったのであった。

「え、これ……良いんですか!?」

「ジャンヌさんがくれたんだよ。もし良ければ……だけど。」

当然、彼は受け取る。彼女のファンであるレイが、このような好機を逃すことは無いのであった。

「ファンなんですよ!ありがとうございます!!」

「あ、もう一枚あるんだよ。これ、もし良かったらスバキさんに渡してみたら?」

「スバキに……?」

エリィなりの配慮だった。スバキを助けたいという一心でレイはここ数日、動いていた。その結果、彼女はセイントバードチームの一員となった。この時のエリィの発言は、まるで、その功績を讃えているかのような言動だったのである。

 

 

「スバキ!」

その後、レイはスバキに会いに行った。一瞬だけ睨みつけるような視線を送るスバキ。

「あのね、これ……エリィさんがくれたんだ。明後日なんだけど、見に行く?とても貴重なチケットだし、何よりも有名人だよ?ジャンヌ・アステルは!」

と、言いながらもう一枚のチケットをスバキに渡す。ファンである彼にとって、コンサートを見に行ける事は感激以外の何者でもないのである。

「お前……行くのか?」

「うん!僕は行きたいと思ってるから!」

「けど……その日、学校なんだよな。」

「え、そうなんだ……」

「でもさ、お前が行くのなら、行こうかな……」

段々と、声が小さくなるスバキ。

「え!?じゃあ、行く?」

「ああ。学校、サボるよ。どうせ退学するし。真面目に行く必要ないもんな!」

と、言いながらスバキはレイに付いている髪留めに触れた。

「良く似合ってるじゃん。“女の子”さん!当日は宜しくなっ!」

コンサートへ一緒に行く約束をすることは出来た。しかし、レイは頬を膨らませている。

「僕は男だよ!」

「女だよ!顔だけはな!」

レイを揶揄うかのようにスバキは笑っていた。

 だが彼女もここに来るまでは新生連邦の基地の中で、まるで籠の中の鳥のような生活をしていた。今回の件で自由になった彼女の笑みは、レイにとっては嬉しい笑みでもあったのである。

 

 

 

 やがて時間は夜を迎えた。仕事が終わったガーストはレイを車に乗せ、自宅に向かう。

 ガーストの自宅に着いた彼等。そこは三階建てのマンションであり、彼はそこの三階に住んでいた。エレベーターに乗り、降りてすぐの場所に彼の住む部屋があった。

 やがて扉を開けるガースト。そこにいたのは――

「ガーストおかえりー!!!」

と、彼に対して思い切り抱きしめる女性の姿があった。彼女の名は、プレーン・ミーン。ガーストの恋人であり、同棲相手である。乳房の大きさが目立つ、明るく、愛らしい女性。彼とは同い年であり、ガーストとは、戦時中からの付き合いである。

「ガースト!キス、して欲しいネ!」

「はいはい、分かってるよ。」

 

チュッ

 

あろう事か、レイが見ている目の前で彼等は接吻を始めたのであった。他者が接吻をする姿を見た事が無かったレイからすれば、驚嘆するばかりである。

「ん……」

「ん……フ……」

(あわわわわ……キス……してる……)

彼はファーストキス自体の経験はあった。マサアキとのキスである。しかしこうして男女が熱い接吻を交わしている姿を見るのは、初めての事であり、尚且つ見ている方が恥ずかしく感じられたのであった。共感性羞恥心という、やつだろうか。

 やがて接吻を終えた両者は互いの唇を離し、そして見つめる。と、すぐにガーストはレイの方向を見て、言った。

「ああ、ごめん、ごめん。紹介するよ。俺の恋人、プレーンだ。」

そう言いながら、彼はプレーンを前に移動させた。

「ガーストから聞いてるネ!私プレーン・ミーン!宜しくネ!」

特徴的な口調で喋るプレーン。まるで、中華系の女性が話すような、口調だ。

「れ、レイ・キレスです……よ、よろしくお願いします……」

突然接吻を見せつけられたレイの頬は赤く染まっている。恥ずかしさと、動揺が混じっているような感覚。今の彼は、素直に挨拶をする事が出来なかった。明らかに躊躇いつつ、自己紹介をしている。

「ガースト、女の子連れてきたカ?不倫はダメヨ?」

「まさか。こいつ男だぞ?」

「え、そうなのカ!?」

と、言いながらプレーンはじいっとレイを見つめている。

(また、このパターン……)

最早初対面で少女に間違えられるのは定例となりつつあると感じていたレイ。しかし今の彼はスバキから貰った髪留めもしている。皮肉にも、銀色に輝くそれは、より彼を少女の顔つきに仕立て上げていたのであった。

 

その後レイはガーストの部屋に招かれる。そこには机が置かれており、MSのプラモデルが数体飾られている。この事から、彼がMS好きである事が伺える。

 やがて彼は机にある椅子に腰掛けた。レイは側にあるソファーに、静かに座る。

「お前にちょっと言っておきたい事があってさ。」

改まった様子でガーストは聞いてきた。昼間に言っていた、“相談”である。

 相談をされる時、人は態度を改める。一体何を聞かれるのか。自分のような人間にどのような相談をするのか。その対象は、人生の先輩と言える先生なのか、或いは後輩なのか。

 ガーストの場合は年下の少年のレイが相談相手だ。しかし、それは決して妙な構図ではない。年上の人間が年下に相談する事も、ある。何故ならばその人間にしか分からない価値観等が知ることが出来るかも知れないからだ。何も経験を知らない存在だからと言って、無下にする事は自己の成長を止める原因に成り兼ねない。

「昼間にエリィさんが言ってた事、あるだろ。ジャンヌに協力するようになるって話。」

「あれはびっくりしましたけど……でも、それでチームが安定するのなら良いのかなって思いますよ。」

「あれを聞いてさ、思ったんだよな。俺も、何かしなきゃならないのかな……って。」

「何か……ですか?」

ガーストの表情が、少しずつ真剣になっていく。険しい顔つき。レイはその表情を、読み取っていた。

「アレンとレイがいなかったら俺とプレーンはあの巨大MSに殺されていた訳だ。それで、あいつは戦後になって自分なりの理由で戦おうとしている。」

レイの方を真剣に見つめ、ガーストは語り続ける。

「なのに俺はこんな風に平凡に暮らしててさ、本当に良いと思うか?エリィさん達がジャンヌに協力するってのなら、俺も元々MSに乗っていた人間として、しなければならない事があるような気がするんだよな。」

それは、紛れもないガーストの想いだった。今は日本でジャンク屋として働いている彼だが、ここ、数日の件で、彼の中に迷いが生じていたのであった。

 

―――――――――彼女は新生連邦を止めようとしているんじゃないかな―――――――

 

―――――――――――その第一段階として、俺にガンダムを託した―――――――――

 

アレンが言った言葉は、ガーストの中に刻み込まれていた。かつての戦友の言葉は、今のガーストを、明らかに迷わせている。

「あの、ガーストさん。僕は思うんです。無理に戦ったりする必要って、ないと思うんです。僕も戦闘を経験しました。その……デウス動乱の時のガーストさん達程じゃ、ないですけど。」

戦争中という環境と、戦後という環境では、戦闘への緊張感はまるで異なるだろう。それは、彼なりには理解していた。

「なんて言うのかな、使命感……って言うのかな。出来る力を持っているのに何もしないのって、どうなのかなって思う事はあるんだよな。」

「使命感……ですか。」

ガーストは最愛の人間と共に平和に暮らす事が出来ている。本来ならばそれは最も幸せな事だ。

 しかし彼はそれに満足していない。寧ろ、何かをしなければならないと、感じつつあるのである。

「少し、考えるよ。聞いてくれてありがとう――」

と、言った時だった。

「ご飯、出来たヨ!!」

プレーンの甲高い声が響く。それを聞き、レイとガーストはリビングへ向かった。

 

 

 テーブルを囲っての、三人での食事。客人であるレイを迎えての食事。今日の料理は中華料理が目立つ。いずれもがプレーンの手作り料理である。

「これ、美味しいです!」

レイは思わず声を上げた。プレーンは、料理の腕が一際輝いているのである。それが、毎日労働で疲れてくるガーストを、癒しているのだ。

「プレーンの料理は格別だからな。どんどん食べろよ。」

「ホント、レイは女の子みたいネ!フフフ!」

と、笑うプレーン。

「僕は、男ですよ……」

やはり少女扱いされるのは嫌いであるレイにとって、今の言葉は不快に聞こえてしまうのであった。

 程なくして、ガーストとプレーンは酒を飲み始める。ガーストにとっては仕事後の飲酒。格別な味が、彼の喉を通す。そして、プレーンも彼の晩酌に付き合う。レイは酒を飲むことが出来ない為、ジュースを飲んでいた。

 その間も彼等は会話で盛り上がる。酒を飲んだ事により、より多弁になっていくのである。楽しそうにする彼等を見て、レイも段々と心から楽しく思えるようになってきた。

 少しばかり時間が経過した頃。突如、プレーンが立ち上がり、ふらふらと移動し始めた。

「レイ……可愛いネ……」

「え……?」

そのままレイの席の前に立ち、プレーンは彼の柔らかい頬に触れる。そして――

 

チュッ

 

プレーンは、口内に酒を残した状態で、レイと接吻を交わし始めたのである。レイの目は大きく見開かれ、一瞬、何が起きたか理解できていない様子だった。

「!?!?!?……」

レイの喉を、少しずつアルコールが通っていく。未成年であるレイは、プレーンからの口移しを受けていたのだ。

 初めての飲酒。慣れない、少量のアルコールは彼の瞼を穏やかに閉じていくのに、十分だった。

「プハッ……あ……えと……」

「フフ……」

妖艶な笑みを浮かべるプレーン。それを見て、ガーストは頭を右手で抱え始めた。

「おいおい、何やってんだよプレーン。こういう事するから淫乱とか言われるんだよ。」

「可愛かったからチューしただけネ。」

レイにとって、プレーンという女性が分からなかった。初対面にも関わらず、まして、ガーストと言う恋人がいるにも関わらず接吻を行う彼女。

 そして、レイはアルコールの魔力に翻弄されていくことになる――

 

パタッ

 

少量のアルコールはレイにとっては大きな刺激だ。レイの目は細くなっていき、顔は紅潮している。まるで、ガーストと温泉に入った時に湯当りをした時のようだった。

「おい、マジかよ。仕方ない、連れて行ってやるか。」

そう言いながら、ガーストは彼の肩を持ち、ゆっくりと、立ち上がる。そして、レイを寝室に連れて行ったのであった――

「はぁっ……ふぅ………………」

 

 

――――――――――――――――――――死ね――――――――――――――――――

 

 

「ハッ!?」

アルコールにより、視界が閉じられていたレイは今、目を覚ました。その時、彼は例の悪夢を見ていたのであった。

瞬きをし、周囲を確認する。真っ暗なその部屋。そして、布団のような感触に触れるレイ。それにより、彼は寝かされていた事に気付く。

(あの夢……久しぶりに、見たような気がする……)

悪夢は不定期にやってくるようになっていた。どういうタイミングでそれを見るのかは、全く分からない。日本に入国してからはあまり見なくなっていた筈なのに、何故ここにて悪夢を見たのかは、分からなかった。

 

『あ……ン……』

 

(……え?)

その時、レイの耳に声が聞こえた。女性が喘ぐ、艶めかしい声が聞こえてきたのである。

 その声は、彼が眠っていた寝室の隣から聞こえてくる。興味を抱いたレイはそのまま、壁に近付いていく。

 

『はぁ……ン……もっ……と……』

 

紛れもない嬌声。その激しい声は、レイの耳にはっきりと聞こえていたのだった。

(まさか、これって……!)

レイは確信した。隣の部屋で、ガーストとプレーンが“行為”をしているという事に。

『プレーン……気持ち良いよ……』

『ガーストォ……』

互いの吐息が絡み合う、声。壁越しで男女が求め合っている。そして、ベッドが僅かに軋む音も聞こえてくる。

 これらの淫らな声は人を性的に興奮させる効果を秘めている。レイ自身、動画等で性行為を見た事はあった。だが実際に他人同士がそれを行っているのを聞くのは、初めての事であった。

 声を殺し、レイはそっと壁に耳を立てる。更に聞こえてくる、二人の嬌声。互いの甘く、艶めかしい声は、いつしかレイを性的に興奮させていく。まるで、興奮している二人を媒体とし、伝染するかのように。

『ア……んんッ!』

『うぅ……はっ……ァ……!』

壁越しでレイは顔を赤め、いつしか、その手を自身の怒張した陰茎に手をやっていた。知人が、壁越しで性行為を行なっている状況。それに対して興奮しているレイは、隣の嬌声を聞きながら“それ”に触り、少しずつ、声を荒げていく。

「ンッ……ふっ……あっ……」

レイの声に合わせるかのようにガースト達の行為も激しさを増す。レイは呼吸を荒げ、耳を立てて自慰行為を行い続ける。

「ぁっ……あっ……ンンッ……ふぁぁっ!!」

レイは、快楽に満ちた声を荒げ、果てた。

隣の部屋は恋人同士が愛し合っている。その微かに漏れている嬌声に欲情したレイは、知人の家の中であるにも関わらず、我慢が出来なかったのであった。

(……こんな事……して……ダメだって分かってるのに……)

息を荒げるレイ。飛び散った白濁液は彼の欲望を象徴していたのだった――

 

 

 

朝になった。冬場の朝方は最も寒い時間であり、レイはその寒気で目を覚ます。

「う……ん……ハッ!?」

彼が起きた瞬間、レイは夜中にあった事を思い出した。

 ガーストと、プレーンの行為。生まれて初めて、男女の営みの“声”を聞いたレイは、それが頭から離れない。まさか、彼はその行為を聞くことになるなど、思ってもみなかったからだ。

「こんなんじゃ……ガーストさんと顔を合わせられないよ……」

思春期の彼にとって男女の営みというのはどれ程の衝撃なのだろうか。直接それを見た訳ではないとはいえ、彼はただ、困惑するばかり。

 顔を合わせる事が気まずい……そう考えるレイは、ふと、Eフォンを操作し始める。

この時、何気なく彼はSNSを開く。ここ最近、SNSを開いていなかったレイ。相変わらずそこには膨大な情報が溢れており、様々な人々が何らかの情報を発信したり、ニュースに対するコメントを残したりしている。著名人がコメントを残せばそれに対して膨大な数のコメントが付く。サムズアップマークが搭載されているボタンを押せば、そのマークが点灯し、そのコメントに対する評価を付けることが出来る。それは言ってみれば、記事に対する既読機能としても成り立っていると言えた。

 まるで、夜中の出来事を忘れようとせんと、SNSを見続けるレイだったが――

「……あれ?これって……」

マイページから入ることが出来る、“お知らせ”の項目に、一つのメッセージが届いていた。

 

――ジャンヌ・アステルさんにフォローされました――

 

「え……!?」

目を疑うレイ。急いでそれを確認すると、ジャンヌのページに飛んだのである。紛れもない、本物のジャンヌ・アステル。総フォロワー、十億を超えるそのアカウントは、並みならぬ人気を物語っている。

「嘘、これ……SNS、暫く止めとこ……」

何故だろうか、彼は怖さを感じ取っていた。偽物かも知れないという気持ちはあったが、それを否定する為の公認マークのようなものが記されており、紛れもない、“本物”からのフォローをされたという事実が、彼の中であったのだった。

 明日、彼はジャンヌ・アステルのコンサート会場へ行く。その本人からのフォロー。これは何を意味するのかは不明だが、嬉しさと共に、どこか妙な感覚を、感じ取っていたのであった。

 

ガチャ

 

と、ドアを開ける音が聞こえた。そこに入ってきたのは、ガーストであった。

「おはよう。朝ご飯出来てるぞ。食べ終わったら一緒に車でセイントバードへ行くぞ、レイ。」

「え、あ……おはよう、ございます……」

ガーストの顔を見た時、昨夜の事が思い出される。顔を赤める、レイ。

「ん?どうしたんだよ。」

「いえ……」

直視出来る筈がない。昨夜の行為をしている人間が目の前にいるのだから。

 

 

「おはよう、レイ!お腹空いてないカ?少しお腹空くぐらいが一杯食べられるネ!」

と、笑顔で振舞うのはガーストの恋人、プレーンである。彼女は朝食を作っていた。トーストに、目玉焼き。そしてオレンジジュース。よく、食卓に並べられる食事達である。

 テーブルに座り、レイは二人の目を、合わせないようにしていた。恥ずかしくて、仕方がなかった為である。その間、ガーストはトーストを齧り、食べている。

「食べないのか?」

「あ……食べます……よ?」

ガーストは首を傾げながら、食卓に置かれている食事をゆっくりと、味わっていたのだった。対照的に、レイは昨日の事ばかりを思い浮かべている状態である。

 恋人同士、同棲すれば何らかの接触はあるのは、彼自身も何となくではあるが、分かっていた。しかしまさか自分がいるにも関わらず行為に及ばれるとは思っていなかった様子だったのである。

 

 

「いってらっしゃい!」

プレーンの声が響く。そして、二人は再び接吻を交わす。相変わらずレイが見ているにも関わらず、気にしていない様子だった。

 場面は変わり、車の中。ガーストが運転し、助手席にレイが乗っている状況。レイは、ガーストと目を合わせるのを躊躇いながら言葉を話す。

「プレーンさんとは……結婚はしていないんですか?」

思えば、二人共苗字が違う。同棲こそしてはいるが、その事をレイは気にしている様子だった。

「いやあ、これには事情があってさ。俺がデウス帝国出身だから、簡単に地球では籍を入れにくいんだよ。敗戦国の出身の扱いは悪いねぇホント。」

乾いた笑いを浮かべる、ガースト。本当ならば、彼女と結婚をしたいのだろう。

「そういえばさ、アムンと連絡取れなくなったんだよ。どうしてるんだろ。レイ、何か知ってるか?」

ふと、ガーストが言った。SNSで共通の趣味関係で知り合った彼等。アムンはガーストの事を“師匠”と呼び、親しげに話していた。

 その、アムン・ディースは既に死んでいるという事を彼等は知らないでいた。ダッゲインの暴走により、彼女は巻き込まれてしまったのである。

「ごめんなさい、分からないです。あの人とは連絡先とか交換なかったので。」

「そうなんか。ま、多分故郷へ帰ったんだろう。」

そう言いながら、車を走らせるガースト。二車線の道を駆け抜け、セイントバードへ向かっていく。

 東京の街の車の数は多い。今日は平日であった為、数多くの車が走っている。トレーラーや自家用車等の車が何台も走っている。その最中、ガーストは呟くように言った。

「お前さ、昨日さ、一人で、“シてた”だろ。」

「はい……え……!?!?!?」

突然の質問。レイは思わずガーストの方を見た。

「隣でさ、なんかエロい声が聞こえたんだよ。隣に居るのってお前しかいないじゃん。あ、多分こいつ“シてる”って思ったよ。お前、声高いしな!ハハハハハ!」

レイの顔が、赤く染まっていく。目のやり場に困るレイ、やがて彼は両手で顔を隠した。全身を振るわせ、ガーストの言葉に対して恥じらいを感じているのだった――

(やめて……恥ずかしい……こんな……こんなのって……)

逆に、ガースト達はレイに“行為”の際の声を聞かれて恥ずかしくないのかと気になる所であったが、今のレイはそれに対して聞き返す気力に、なれない様子だった――

 

 

 

 時は経ち、翌日。その日はジャンヌのコンサートの日である。アリーナ内は満席であり、先日にダッゲインが都市部へ侵攻してきたにも関わらず、誰もがそれを忘れているかのようにコンサート会場へ集まった。この中には、セイントバードチームのクルーも数名来ていた。十枚のチケットを、皆が取り合っていたのである。内二枚はレイと、スバキの手元に渡ったのだが。

 アリーナ内部は大盛況。ジャンヌの歌は激しい曲調のものもあれば、優しく、穏やかな曲調のものもある。いずれもが彼女が作詞、作曲をしており、時折踊るダンスも、全て彼女が自作している。それらは全て大ヒットするという、彼女の才能が際立っていた。

 絶賛される曲に、ダンス。そして麗しい容姿。全てが整ったジャンヌは、まさに“聖女”と呼ぶに相応しい存在と言えた。

 コンサートは一日を通して行われた。流石のジャンヌも疲労している様子であり、流した汗を拭っている。

「ジャンヌ」

声を掛けるのは、アレンだ。コンサート中も不審者がいないか、ボディガードを務めていたアレン。ティフォンガンダムをセイントバードに預け、コンサート当日である今日、彼は仕事をこなした。あくまでも、“バンディット”としての仕事である。

「お疲れ様。凄かったよ、本当に……」

「ありがとうございます、アレン。」

と言いながら、置かれている水を一口、飲むジャンヌ。

「アレン、これにて今回の貴方のお仕事の契約は終わりです。ありがとうございました。又、報酬に関しましては送らせて頂きますわ。」

「あ、ああ……そうだったね。」

だがここで契約が終わりになった場合、彼に託されたガンダムの事等はどうなるのか。ティフォンガンダムはアステル家の機体。今回の役目が終われば彼はアレクサンドリアへ帰る事になる。

 その事が気になったアレンは、ジャンヌに聞いた。

「あのガンダムはどうすれば良い?契約が終われば、もう君と会う事もない――」

と、アレンが言った時だ。

「私は貴方との契約を切った覚えはありません。“お仕事”の契約を切ったに過ぎません。」

「それって、どういう意味……?」

アレンにとっては今回はバンディットとして彼女の護衛を果たしたに過ぎない。だがジャンヌは契約を切っていないという。“お仕事”の契約を切った?何の事なのか。

「少し、場所を変えましょう。衣装の着替えもしたいので。」

彼女の言うままに、アレンは付いて行く。訳が、分かっていないまま。

 

 控室にアレンは呼ばれた。ジャンヌは先程の衣装を着替え、軽装で過ごしている。胸元が大きく露出しており、着用している黒いズボンも、ほぼ下着のようなサイズのそれを纏うジャンヌの恰好は一層、彼女のプロポーションを際立たせた。

「服、もう少し露出の少ない服の方が良いんじゃないか。はしたなく見える。」

そう言いながらも、アレンの表情は赤く染まっていた。

「今はこの格好で過ごさせて下さい。何せ、動いたばかりで、暑くて……。」

と言いながら水を一口、彼女は飲む。アレンはそっと、溜息を吐いた。

「さて、アレン。改めて貴方にお伝えしたい事がありますわ。」

ジャンヌは何を言おうとしているのか。それが気になって仕方がない様子の、アレン。一昨日にコンサート後に詳細を説明すると言っていたジャンヌ。今、このタイミングで彼女の口からそれらが、語られようとしていた。

「私が貴方に話したことや、セイントバードの方達に話した内容はご存知の通りだと思います。世界は混迷の時を迎えようとしている……と。そして、彼等には協力をして貰いたい――と。」

ジャンヌの目が、アレンを捉えて離さない。

「アレン、貴方にはその混迷を破る役割を担って欲しいのです。バンディットという仕事を辞め、私と共に、戦って頂けませんか。」

そう言って、ジャンヌはすらりと長い、腕を差し出した。アレンとの握手を、求めていたのである。

「やっぱり、その為にあのガンダムを俺に託したんだね。ジャンヌ。」

薄々は分かっていた。彼女の真意。戦後になり、共に行動したのは約二週間程度。その間に彼女は世界の平和についてアレンに対して語っていた。

 ローマのアステル家でメイド・ヘヴンが駆るグラントロールが強襲した際にジャンヌはガンダムを彼に託した。戦後、バンディットとして日銭を稼いでいたアレンの運命は、この時大きく動き出そうとしていたのであった。

「貴方の意思をお聞かせ下さい。これは私の一方的な我儘であってはならない事です。貴方の意思はどうなのか……それを聞かなければ、私は動く事が出来ません。」

アレンの中の意志は、もう、決まっていた。躊躇う事無く、アレンは口を開く。

「君と協力しよう。俺も感じていた。レヴィーを止めないと行けないとは、思っているから。」

「では……宜しくお願いいたします。」

そして、互いに握手を交わした。この瞬間、ジャンヌの行動にアレンは協力する事になるのであった。

 しかし、彼女の意志は分かるのだが具体的にどのような行動をするのかは一切分かっていない。何か、考えているのか?アレンは尋ねる。

「ジャンヌ、君の考えている“策”って何かあるのか?俺にガンダムを渡しただけとか、そんなのじゃないとは思うんだけれど。」

「勿論ありますわ。アレン。二日後に静岡の駿河まで、ティフォンで来て下さい。それを確認することが出来れば、貴方に是非、お見せしたいものがあります。」

「見せたいもの……?」

それが何を示すのかは分からない。彼女は、ただアレンに対してその地へ来るように指示しただけであったのだ。

 

 

 

 コンサートが終わり、一日が経過した。ジャンヌとのバンディットとしての契約を終えたアレンは彼女が手配していた東京内のホテルに滞在していた。彼女との合流日まであと二日。それまで彼は街を散策する事にしている。

 数日前にダッゲインの暴走が起きた時とは思えない程に、町は平和だった。しかしこの景色も、新生連邦政府による支配が行われている状況では偽りの平和と言わざるを得ない。軍備増強はその間も続いており、世界各国ではテロ、内戦は相変わらず起き続けている。そして、増産され続けているMS。多量に配備されているそれらは、テロリストにも出回るようになってしまっている状況だ。なのにそれを止めない、新生連邦総司令、レヴィー・ダイルは何を思うのか。

 アレンは夜の街を歩いていた。行き交う人々はそれぞれ、笑顔を見せる者や仕事に追われる者等、様々な存在がいる状況。彼はそれらが行き交う姿を見て、一人、思っていた。

(戦後になって平和になる……そして、本来ならば敵性戦力がいなければMSという存在の増産は本来ありえない事だ。なのにあいつはその真逆をしている。何故、こんな事をするのか。理解出来ない、本当に……)

いつしか彼は握り拳を作っていた。戦後になってからの状況を思い返す、アレン。

 アレクサンドリアの孤児院での出来事や、地中海上での新生連邦の襲撃。そして、ジャンヌとの再会からの、共に戦うという約束。バンディットとして動いていた彼は、新生連邦との戦いに身を置こうとしているのであった――

(あれは……?)

その時だ。彼が歩いている時、一人、俯きながら歩いている女性の姿があった。茶色の髪色をし、白い肌をしている女性。肩まで掛かっている髪が特徴的な女性。

 一見すれば何気ない人間に見える。だが、アレンにとってその女性は特別な人間に、見えた。

「いや、待て……あれは、やっぱりそうだ!」

彼の顔は、笑顔に変わっていた。先程まで偽りの平和を憂いていた彼の姿は、そこにはない。

(ココットだ……!)

ココット・メルリーゼ。それはデウス動乱時にアレンと相思相愛の仲になった女性。歳は彼と同い年であり、戦時中に保護する形で知り合い、そこから両者の仲が深まっていく。しかし宇宙空間で行方不明になってしまった。

 その彼女に似た女性が、彼の前を通っている。話しかけたい!会いたい!

戦争を経験し、デウス動乱の英雄と呼ばれている彼であるが、行方不明と言われていた恋人と出会う事に対して心が踊るのは、彼自身紛れもない人間である証拠だったのだ。

(いや……様子がおかしい。)

ココットと思われる女性の様子が、明らかにおかしい。まるで何かに怯えているかのような表情を、浮かべている。

 不本意ではあったが、アレンは彼女を遠くから追う事にした。どうしても、気になって仕方がなかったのである。

 

 異変はすぐに訪れた。女性の手を、一人の男が引き寄せるように引っ張ったのである。背丈はアレンよりも高い、その男。一見優男に見えるが、その人間に対し、女性は明らかに怯えている様子だった。

「もう、やめて欲しい!貴方とは会いたくないのに!どうして付き纏うの!?」

「僕には君しかいないんだよ!僕は君にこれ程投資してきたのに!どうしてだ!どうして僕を否定するんだよ!?」

痴情の縺れのように見えるその光景。だが男の方は一方的に女性に言い寄っている。

「貴方の、お金を出せば何でも解決するって……そのような性格が嫌なの!なのに貴方はそればかり求めてる!嫌だと言っているのに、どうして近づくの!?」

男の年齢は、恐らく年上だろう。そして、その身なりからして、何らかの実業家のような風貌をしているように見える。

「僕の事は、誰もが振り向く!年収だって圧倒的に高い!その辺の人間と比にならない!

海外にだってコネクションを持っている!ギアン家とも繋がりがあるんだ!なのに、君は!」

恐らく、男は顔が広いのだろう。コネクションや資産を女性に自慢する男。

 それは一見すれば世の男が羨む存在と言えるだろう。富、名声を手にしている男。それは人間社会的にも、生物的にも圧倒的に強い。強者と呼べるに相応しい存在だろう。

 しかしこの男には欠けているものがある。それは、“配慮”だ。現に、この男を女性は嫌がっている。なのに、この男は自身の富、名声ばかりをアピールし、女性と言う、“人”を一切見ていない。

「来ないで!」

そう言って、腕を振り払う女性。

「来ないで……?そこまで言うのなら、今まで君に投資した分を返してもらおうか!君と付き合う為に多額を投資した!なのに君は拒否ばかりだ!不愉快なんだよね、そう言うのは!!財力もない、只の一般人風情が偉そうに!!」

暴言が浴びせられる。躊躇いもない言葉は女性を傷つける――

 

バッ

 

その時だ。男の腕を、アレンが止めたのは。

「何だ、お前は!?」

「傍らで聞かしてもらったけど、そういうの、良くないと思うな。」

背丈はアレンの方が下ではある。だが、彼は元々戦争を生き残った、“戦士”だ。彼の力は男とは比にならない。その力強さに次第に押されていく男。

「やめろ……赤の他人が、こんな事をするなんて……!」

「赤の他人?違うね。彼女は俺の大切な人だ。」

この瞬間、アレンははっきりと言った。女性の、“大切な人”と。

 一瞬、女性はそれが理解出来ない様子だった。当然である。突如現れ、助けた男が彼女の事を、“大切な人”と言うのだから。

 女性はアレンの方を見る。その時だ。彼女は彼の顔を見て、次第に思い出していったのは。

(この人……どこかで……え……まさか……!?)

女性は見覚えのある、アレンの姿を見て徐々に口を開けて行く。そして……

「アレン!!!やっぱりアレンなのね!」

この時アレンは一種のデジャヴを感じていた。ジャンヌが彼と再会した時の感覚である。

「やっぱり!ココットか!そうだとは思ってた!」

と言った時、互いに抱擁を交わす。

 戦前に知り合い、恋仲に進展した両者は相思相愛の仲だった。

 戦争が二人を引き裂き、ココットは宇宙空間に放り出された。その時、彼は嘆いた。だが、彼女は生きていた。そして、アレンの目の前にいる。

互いに想っている仲同士がこの場にいるということは、彼女を強引に引き連れようとしている男の存在は、邪魔者以外の何者でもない。

 もし、これが冷静に状況を見る事ができる人間ならば潔く引く事が出来るだろう。しかしそれがエゴで動いていて、人を“物”としか見做しておらず、自分の者にならないと不満を感じている人間だった場合、厄介この上ない状況になり得るのだ。

「どこの馬の骨か知らないヤツが……!」

と言った時、男は近くに落ちていた鉄の棒を見つけた。男にとっては、相思相愛の恋人同士の仲を見せつけられたとでも言うべきなのだろうか。

 そして、それを右手で拾ってからアレンの方に迫るのに、時間を要する事はなかったのである。自身にココットを振り向かせる魅力が無かった事に対する、完全な逆恨み。そして、余りに稚拙な行動。

人は理論的に理解が出来なければこのように暴力行為に及び、力尽くで、相手を蹴落としてでもそれを奪おうとする。それが如何に愚かな行為かを理解しないまま。

「コイツぅ!」

怒りのままに、あろうことか、男はココットを狙い始めた。自身よりも弱い女性を標的に攻撃を仕掛けるという、弱さが極まった男の愚か過ぎる行為。しかし、ココットにとってはこれは恐怖でしかないのだ――

 

ガンッ

 

咄嗟に、アレンはココットを庇った。身長差は約5センチ程の彼等。彼は凶器である鉄棒から身を呈してココットを守ったのである。

「うぅっ……!」

強烈な一撃。いくら戦士として生き延びてきた彼とはいえ、これは激痛だった。

 しかし、アレンは逃げる様子を見せない。目の前にいる、最愛の人間を失いたくないという、強い想いが、彼をこの行動に駆り立てたのだ。

 アレンを殴った男は、我に返ったように鉄棒を離した。そして、後方へ三歩下がり、徐々に自分がした事に対する恐怖を感じるようになっていったのである――

「う、うわあああああああ!!!」

怒りに任せた攻撃をした後、冷静になり、血が引けた時、人はそれに恐怖する。その結果が、男の行動だ。富、名声がある人間であろうと、所詮は人間である。

 一方のアレンは愛する人を命懸けで守った。それは、彼が過去に宇宙空間に放り出されたココットを失うかも知れないという恐怖が蘇った結果なのだろう。

「アレン!大丈夫……?」

アレンは痛みに耐えている。しかし、数秒後に彼は態勢を持ち直し、姿勢を正した笑みを浮かべ、彼女の肩をポンと掴んだ。

「痛いね、結構、これ……鍛えているつもりではあったんだけどさ……」

ズキズキとした痛みがアレンを襲う。だが彼は立つことが出来ている。打撲の痛みは残るが、姿勢を崩す程ではなかったのだ。

「病院には行かなくて良い?」

「大丈夫だ、それ程重症じゃない……それに病院に行ったら時間が掛かってしまう……」

心配するココットに、それを拒否するアレン。彼女の表情は曇るばかりだ。

「……あのね、私、家が近いの。ここから歩いて五分ぐらいなの……あのね、そこまで歩ける?」

「家?じゃあ、ココットは日本に住んでいるんだ。」

意外な事実だった。戦前にはぐれた恋人は今、日本に住んでいる。このような偶然があろうことか。アレンの表情は、自然に笑みを浮かべる。先程受けた痛みを忘れるように。

再会した彼等。だがそれを素直に喜べる状況ではない。病院を拒否するアレンを心配したココットは、アレンの怪我がどれ程のものなのかを見る必要があると考え、彼を家まで案内する事にした。

 

 

 5分程二人は歩き、彼女が住んでいるマンションの前に辿り着く。中に入る両者。戦後、まさか日本という地で両者が再会するとは思いもしなかった彼等。相思相愛の関係はこのような運命を引き寄せるのだろうか。

 部屋に入ったココットは、早速アレンに上半身を脱がすように言う。その指示に従い、彼は上半身を脱ぐ。

 引き締まった肉体。八つに割れた腹直筋が浮き出ている。肩甲帯がはっきりとそのシルエットを描いている。だがその表面を、打撲痕が残っている。鉄棒で叩かれた跡が、痛々しく残っていた。

「応急処置かも知れないけれど、湿布を貼ってあげるから……」

そう言って、ココットは彼の背中に湿布を貼った。暖かい感触が、彼女の手に伝わる。

「なんだかね……こうしてアレンと一つ屋根の下で過ごすなんて、初めてだから。不思議な感覚だね。」

ふと、ココットが口を開いた。

 彼等は戦争中に知り合った仲である。それ故に、戦場ばかりを巡っていた。戦後になり、平和と呼べる状況で彼等がこうしているという状況自体、奇跡と呼べるものなのである。

「そう言えばそうか。何だろうな。変な感じだ。」

何故だろうか、アレンの言葉が詰まる。

「緊張してるの?」

「いや、だってさ、まさか日本で君と会うなんて思わなかったしさ。」

そう言った後、ココットが静かに笑った。

「クスクスッ、そんなに緊張しなくてもいいよ。アレンの側に私がいるんだから。」

そう言って、ココットはアレンの背中を抱き締める。その関係性は、紛れもなく恋愛関係の男女の関係と言えた。

 デウス動乱が終結してから五年。偶然が呼んだ奇跡。と呼べる、再会。両者共に、喜びを噛み締めている。

「アレンはどうして日本に?」

ココットは抱き締めた状態のまま、アレンに聞く。

「戦後にさ、色々あったんだよ。」

自然に、彼は口を開けた。ワートンに拾われた事や、バンディットとして働いていた事等を話す。戦前、彼がガンダムのパイロットを務め、地球連邦軍のエースとして活躍していた事を知っていたココットは、現在の境遇に驚きを感じている。

「アレンも、大変だったんだね。」

「今はちょっと仕事で来ている。ココットは、この五年はどうしていたんだ?」

アレンに聞かれた時、彼女は俯いている様子だった。

「うん……色々とあったよ。」

「さっきの男とも、何か関係が?」

「まあ……うん。」

余り、話したくない様子だった。

「話したくない?」

「ううん、アレンが話してくれたのなら、話す。外、寒かったでしょ?暖かい飲み物でも持ってくるね。」

ココットは抱き締めるのをやめ、立ち上がってから台所へ向かった。

 マグカップを用意したココット。中には紅茶が入っており、湯気が立っている。その状態でココットはアレンにマグカップを渡し、用意した。

「ありがとう。」

と、言ってアレンは静かにそれを口に含む。

「それで、どうしたの?」

「あの時、宇宙に放り出された後ね、私、連邦軍の戦艦に助けられたんだ。そして終戦を迎えて、私は故郷に戻ったの。」

ココットの故郷。それはフランス、パリ。デウス動乱時に第十三特殊部隊がパリを訪れた時に彼等は出会った。

 彼女は自身の名を好きでなかった。両親に恵まれないで育った彼女は、アレンと運命的な出会いを果たしたのである。

 そして戦後。パリに戻った彼女は就職活動を行った。だが戦後の不景気で彼女を雇う場所はなかなかなく、ココットはその美貌を活かして生活をする必要があった。

 醜い富裕層の男の接待。それが彼女に出来た事。その間、彼女は心を荒みながら生活を送っていたのだという。

 やがて彼女は資金を貯めて日本へやって来た。そこで外資関係の企業に派遣社員として就職。日本に移住し、本格的に生活を送る事になる。その中で出会ったのが、先程アレンを鉄棒で殴った男だ。彼女の容姿に惚れた男は積極的にアプローチをしてきた。だが心の中でアレンの存在を想い続けていたココットに、男のアプローチは届く筈がない。

 それから先程の出来事に至るという訳である。彼女がここまで来れたのは、持ち前の美貌を活かして来た事も幸いしていたのである。

「ココットも、大変だったんだね。」

「私は弱いから……あの戦艦に居た時も、助けて貰ってばかりだったし。何も出来なくて、足を引っ張ってばっかりだったね。」

そう言いながら、紅茶を一口飲む。暖かな感触は喉を通した。

「でも、まさかここでアレンに出会えるなんて思ってもみなかった。平和になった時代で、こんな所で、本当に偶然。でも不思議。自然に私の家に来られるんだもの。やっぱり、結ばれてるんだね、私達!」

その満面の笑みは、アレンを自然に笑顔にする。そして、彼にとって彼女の存在が必要であるのだと、改めて再認識させるのだ。

「ねぇ、アレン。」

「何?」

すると、ココットはアレンの顔に近付く。まるで、無邪気な子猫のように。

「キス、して」

「キス?」

「うん。こんなに平和になった時代でアレンに出会えたのに。何もしないなんて、嫌。」

平和。果たしてそう言えるのかは不明だ。ただ、一つ言えるのは、今は戦禍の中ではない。マンションという名の、安全地帯。その部屋の一室。そこに相思相愛の男女がいる状況。

 一人暮らしをしている彼女の部屋は清潔に保たれている。散らかっている様子もなく、彼女の丁寧な性格を物語っている。

 戦後から五年。互いに様々な出来事があった。世界は混迷に包まれている状況ではあるが、今は、目の前に居る愛らしい女性を、抱き締めずにはいられない、アレンだった。

 

チュッ

 

そして互いに接吻を交わした。戦前では叶わなかった光景が、今、果たされたのである。

 やがてアレンはココットの肩を抱え、更に、抱き締めて行く。離したくない。目の前に居る、可憐に育った愛らしい女性を失いたくない。彼の想いは、一層強く行動に出た。

「もっと、したい……」

ココットは更にアレンを求める。互いの視線が見つめ合う。互いに生きていた。それだけでも十分だ。相思相愛の仲である彼等を阻む者は、何もないのだから。

「俺も……」

そう言って、再び二人は接吻を交わした。相思相愛の男女が交わす、美しいキス。マンションの一室で行われるそれは、幻想的な光景と言えた――

 

 

 

 男女が同じ空間にいるという状況は公衆の場と違い、プライベートの場とされる。相思相愛の者同士は、その先を求める。それが、恐らく本能なのだろう。

 アレンはココットを抱いていた。裸になり、愛しい彼女をベッドの上で、優しく腰を動かす。一方のココットは彼を受け入れる為に背臥位姿勢となり、彼の臀部に触れている。まるで、彼の事を離さなんとせんばかりに、ただ、求めている。

 彼らにとってこれ程至福の時間は無いだろう。誰にも邪魔される事なく、互いに好きなだけ愛し合える時間。戦後の状況で偶然にも再会した彼等が再び愛情を芽生えさせるのにはそう、時間を要しなかった。

 愛情が芽生えるのは環境が影響するのだろうか。それとも、人柄なのだろうか。富?名声?それは個人により、異なる。

 肉体関係が成り立つのはどのような時だろう。彼等のように愛し合う仲で成り立つ者が普通と呼べるのか。それともただ、寂しさを満たしたいだけなのか。あるいは、唯の欲の発散なのか。個人が抱く性行為、肉体関係の図は異なる。それ故に人によってはそれが嫌になり、トラウマを引きずる事もある。

 彼等はそのような事はなかった。純粋に目の前にいる人を、愛するという事が出来る。それは何よりの幸福だったのだ。

 

 

「アレンっ……!」

「ココット……!」

 

 

朝になった。ベッドで二人が並んで裸で眠っている。布団を掛け、互いの顔を見て笑みを浮かべる。

「なんか、凄かった。」

「何が?」

ココットが布団に包まりながら言う。

「アレンが私を求めてくれてたんだなって、思ったよ。」

ココットは優しい笑みをアレンに対し、向けた。愛らしい彼女の顔は、戦後にバンディットとして活動してきたアレンの顔を、癒す効果があった。

「ねえ、アレン。このまま一緒に暮らさない?」

ココットはアレンの首元に柔らかな指を這わせながら言った。

「一緒に……か。」

彼女の誘いは嬉しい。最愛の人と共に暮らす。それは、何よりも喜びだ。そこで一緒に将来の事を考え、歳を重ねるまで一緒にいる。理想的な事だろう。

 だが、彼の場合そうは行かなかった。アレンには、すべき事がある。その役目を果たさなければならないのだ。

 

ギュッ

 

と、今度はアレンがココットの頭を優しく抱き締める。そして、しっかりを目を瞑り、彼は謝るのだ。

「ごめん……一緒には住めない……」

「え……どうして……」

彼の腕の温もりを感じながら、ココットは疑問を抱いた。

「俺、これからこの世界の為に戦って行くかも知れないから……」

ココットにとって、その言葉の意図が分からない。何故その言葉を発するのか。せっかくこの場で会えたのに。戦争もない、平和な時代なのに。何故……?

「どうして!?どうしてなの!?なんでアレンは戦う必要があるの?もう、十分に戦ったじゃない!あんな戦争を戦い抜いたのに、どうして戦うの?何と?意味が分からないよ!」

感情的になるココット。無理もない。最愛の人が同棲を拒否するのだから。

「俺だって辛い。けれど……俺にはやらなきゃならない事が出来た気がするから……」

そう言った時、アレンはベッドから離れた。引き締まった身体は朝日に照らされ、シルエットを描く。

「教えてよ、何をしなきゃいけないのかを。」

ココットの疑問。それに、アレンは静かに答えるのだ。

「ジャンヌと共に行く予定だ。」

「ジャンヌって……ジャンヌ・アステルさん!?どうして……」

デウス動乱時、ジャンヌと面識があったココット。戦後の彼女の活躍も、SNSやメディアを通じてよく知っていた。

「彼女は世界の為に動こうとしている。俺もその役目を果たさなきゃならないから……」

そう言った時、彼は服を羽織る。

「私は着いて行っちゃ駄目なの……?」

ココットは、ふと、呟いた。

「君を巻き込みたくない。君には平和な場所で居て欲しいから……少しでも落ち着く事があれば、ここに戻ってくるよ。ごめん。」

そう言って彼がズボンを着ようとした時だった――

 

ギュッ

 

ココットが、裸の姿でアレンを抱き締めたのである。

「事情は分からないけれど、アレンが必ず戻ってくる事、信じてる。だから約束して。戻ってくるって。」

「……ああ。」

「あと、連絡先を教えて欲しい。いつでも、アレンと連絡を取りたい。」

「勿論。」

その決意は、固い。最愛の人とのあえての離別。それは彼にとっては何よりも辛い事だ。

戦後に出会えた両者。しかしその世界は、偽りの平和と呼べる世界。平和と呼べる世界は本当に訪れるのかは分からない。だが、その可能性を高める事が出来るのなら……

アレンは、決意を胸に、ココットの家を出るのであった。彼女は、ただ、その後ろ姿を見守る事しか、出来なかった。この時、背中の痛みは、もうほとんど感じる事はなかったのである。

 

 

 

 昼。アレンはココットの家からセイントバードまで移動し、アレンはティフォンガンダムに乗っていた。整備は完了しており、整備士達に礼を言い、別れを告げる。

「アレンさん、行っちゃうんですね……」

共に行動出来ない旨を、既にレイに伝えていたアレン。そして、そのクルー達にも別れを告げるのだ。

「お前と酒を飲める日、楽しみにしてるからな。」

ガーストが言った。

「ああ。ありがとうね。色々と。短い間だったけれども楽しかったよ。」

彼は笑みを浮かべ、ティフォンを駆る。

 

キシィン

 

二つの緑色のカメラアイは輝きを放つ。そして、ガンダムは発進した。すぐにMAに変形したそれは、ジャンヌが言っていた、駿河の地へ向かうのだった――

 

 

 ティフォンは駿河の地へ辿り着いた。MSが単独で飛ぶという行為は日本において珍しい。その為、機体は注目を浴びたのだが幸い、それを攻撃する存在はいなかった。既にジャンヌがシュアーを通し、首相であるフォン・ヤマグチに伝えていた為である。

 合流ポイントに機体を降下させ、そこに降り立つアレン。そこは、小島が浮かんでいる場所だった。辺りを見回すアレン。だが、ジャンヌの姿はどこにもない。

「ジャンヌ、どこに居るんだ……?」

と、彼が周りを見ていた時だった――

 

「アレン」

彼を呼ぶ、一人の女性の声が。ジャンヌだ。私服に着替えていたジャンヌは側近のエファンと共に、この地に居たのである。

「約束通り、来て下さりましたね。」

最愛の人、ココットとの別れを惜しみながらも彼はジャンヌと行く事を決めた。その決意は、非常に固い。

 だが彼は固い筈の決意が揺らぐような言葉を、この時吐いた。

「……ココットに会った。」

ジャンヌはこの名を知っている。デウス動乱時に知り合った仲であるからだ。

「……まあ。なんていう偶然なのでしょうか。」

予想だにしなかった名を聞いたジャンヌは驚愕している様子だった。

「貴方とココットさんは……」

そして、その事情も知っている。

「分かっているんだ。けど、俺は君と行動する事を決めた。だけれども……もし今後行動していて、許される時が来たのなら、彼女と一緒に居る時間を約束して欲しい。」

ジャンヌの表情は、最初、真剣そのものだった。だがその言葉を聞いた時、彼女は笑みを浮かべる。

「……ええ。大丈夫ですわ。それに、今回は所謂“セレモニー”に該当するものですわ。」

「セレモニー?」

アレンは首を傾げた。

「混迷の世界を切り開く為の鍵の一つ。これは、その第一段階に過ぎません。私のコンサート活動は、隠れ蓑に過ぎません。本当の目的が、明かされますわ――」

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ

 

 

突如、振動が響いた。地震のような地鳴りかと、アレンは感じていた。

 しかし、それは違った。島の形状が、変化しようとしている。自然の形を彩っていた島は、その形状を変えていく。

 やがてそれは形を大きく変えた。そして、そこに見えたのは――

「戦艦……?」

小島が形状を変え、一隻の戦艦が姿を現したのだ。

 透き通るような白色系統の色で彩られた、その戦艦。新生連邦でも、デウス帝国でもない独自の形状を保っている、大型戦艦だった。

「この艦こそ、世界の混迷を覆す為の切り札の一つ。名は、シュネルギア。」

シュネルギア。小島に隠されていた、その大型戦艦の存在はアレンを驚愕させるのに、十分だった。アステル家は各地に土地を購入している。この小島も、アステル家の領土であり、今回この戦艦を隠していたのはこれから活動を開始する為の、一つの定石に過ぎなかったのである。

「ジャンヌ、君はやはり、凄いや……」

アステル家ではティフォンを彼に託したジャンヌ。そして、今回彼は二度、ジャンヌに驚愕する事になった。

 アステル家は、何処にも属さない戦艦を隠し持っているという事実。形状等は全て独自で作り出されたものであり、アステル家の、“母艦”となり得る存在と言えたのだった。

「アレン。貴方にはこの艦のMSパイロットとして、活躍をして頂きたいのです。そして、先日にセイントバードの彼等にも、私の提案を飲んでいただきました。これで、少しでも動く事が出来ます。」

「君は、この為に今まで活動していたのか……」

ローマにあるアステル家に呼ばれた時から今に至るまではそれ程長い期間ではない。しかし、戦後になってバンディットとして活動していたアレンからすれば、驚愕する事ばかりが起き続けていたのである。

「ジャンヌ様、出航の準備が整ったとの事です。速やかに出発を致しましょう。」

側近のエファンが、言った。

「ええ、分かりました。アレン。MSデッキにティフォンを収納して下さい。そのままシュネルギアは発進し、一度ローマまで向かいます。」

「アステル家に戻るのか?」

「ええ。」

シュネルギアはアステル家によって戦後に建造された艦ではあるが、新生連邦軍が支配している世界情勢で艦の製造が公になる事は危険と判断したアステル家は、保護区によって戦闘が守られている地区である日本に建造場所を移した。

 それから現在。遂にシュネルギアは完成し、今、日を見る事になったのである。アレンはすぐにティフォンを、シュネルギアのMSデッキ内に収納させた。自動ロックでティフォンを認識したシュネルギアはハッチを開け、機体を格納する。

 

 MSデッキ内はティフォン以外にも六機のドラグネスアサルトが搭載されていた。恐らく、護衛用の機体なのだろう。MS工場が閉鎖している状況ではあったが、アステル家の護衛の時と同様、僅かに機体は配備していたのである。

「アレン、シュネルギアが発進するまでその場で待機をお願いしますわ。」

回線が開かれた。ジャンヌの声だ。

「あ、ああ……」

いつの間にか、ジャンヌはブリッジに上がっていた。それと同時に、アレンは疑問を抱き、すぐにジャンヌに質問をした。

「あの、質問良いかな。この艦の艦長は誰なんだ?せめて、挨拶をさせて欲しい――」

と言った時……

「すでに、済まされていますわよ。」

と、笑顔でジャンヌは答える。

「え?まさか……」

ジャンヌは、笑みを浮かべた。

「艦長は、私ですわ。」

「まさか!そんな事!?」

衝撃の事実だった。あろうことか、シュネルギアの艦長はジャンヌだったのである。

 コンサートで世界中を回り、歌で魅了している彼女が艦長を務めるという事実。アレンは、彼女のそのポテンシャルの高さに凌駕されるばかりであった。

「驚いている場合ではありません。シュネルギアを起動させ、ローマに向かいます。」

ジャンヌは艦長席に座った。シュネルギアのブリッジ内部は多数の人間が居る。通信士、操舵士、その他、管制系統を指示する者達。いずれもがアステル家に仕えている人間達であり、皆がジャンヌに対して忠誠を誓っている者達ばかりである。

「各部エンジン、ノー、プロブレム。」

「主砲稼働、問題なし。」

「ビーム粒子残量も問題ありません。」

それらの点呼が行われ、白き巨艦、シュネルギアの後部のバーニアが、点火されようとしていた――

「参ります。シュネルギア、発進。」

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオッ

 

アステル家の戦艦、シュネルギアが起動した。巨大なバーニアは轟音を鳴らし、その巨体を小島から発進させるのだった。

 巨艦は駿河湾の沖の方を抜け、日本を離れていく。アレンにとっては僅かな時間ではあったが、多くの体験をした、日本。最愛の人物、ココット・メルリーゼとの一時を経て、彼はアステル家のあるローマへ、ジャンヌと共に向かう。新生連邦という名の、混迷の闇を断ち切る、その第一歩を踏む為に。

 




第二十七話、投了。
アステル家はセイントバードのスポンサー契約を結んだり、多くの事が動いていく話でした。そして、アレンは役目を終えてアステル家の戦艦、シュネルギアに乗り込むという話。
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