機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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レイ覚醒回。生命の危機に陥った時、彼は何を思うのか。


第三十二話 深紅の瞳

 

 海賊等、“ならず者”と呼ばれる集団は何故、その外見を異様に派手にしようとするのか。それは、ある種の縄張り意識がそうさせるのかも知れない。そして、その集団は皆、高圧的な態度で他者を圧倒する。

 それはある種、動物的な本能に似ているのかも知れない。人以外の動物が群れを成したり、自身の領域を作る為の縄張りを作るように、彼等にも何らかの縄張り意識があるのだろう。それ故に装飾を派手にし、一見目立つ外見を施すのかも知れない。

 実際、ベレッサ海賊団の艦、オーツェラーン号は鮫の骨格にパステルカラーという、異色の組み合わせだ。その上、彼等が所持している機体であるズボラーナと呼ばれる機体の色も、海中では余りに目立ち過ぎる“骨”を意識したカラーリングとなっている。それ程に、海賊を印象付けたいのだろうか。

 

 

 セイントバードは巡航ミサイルによる砲撃を受けた。受けた場所は、艦の側面、エンジンルームに当たる場所である。艦体は激しく揺れ、突然の攻撃に翻弄される、セイントバード。

「攻撃!?どこから!?」

「位置、特定!7時方向距離30キロメートル!」

「さっきの新生連邦の潜水艦の位置と違う……?別の砲撃って事?」

「分かりません!別働隊かも知れないですよ!」

再び緊迫した状況に包まれる、セイントバード内。潜水艦という、一見見えない艦からの砲撃はセイントバードのような巨艦にとっては脅威でしかないのだ。

「インク、第二種戦闘配備発令を!」

「了解、総員、第二種戦闘配備!敵勢力は不明!警戒して下さい!」

発令される、警報。これにより、一層緊迫する艦内。

「ミサイルはいつ、迫るか分かりません!スバキさんのジャスティス一機とトルクス二機をセイントバード上に配置!大尉とガースト君に海中をお願い!レイ君には休んでもらうように!」

エリィは指示を下す。それに応じる、セイントバードのメンバー達。

 まず、セイントバード上にはスバキが乗るジャスティスを含めた三機が待機。その後にネルソンとガーストが、それぞれの機体で海中に移動する。

「ハルッグ、出るぞ。」

「エスディア、行きます!」

それぞれの機体が海中に入る。いずれもが実弾兵器を持ち、海中での戦いに備えるのだ。

 

 

 

 ベレッサ・コロノアジー率いる海賊は敵を襲うのに躊躇いがない。民間の船舶が航行していても躊躇いなく衝突する。MSを使い、損害を与える。

 今回、海賊は新生連邦に金銭を貰える代わりにセイントバードを攻撃するように指示を得ている。彼等にそのような契約をしたのは、シーギ・デューラの独断だ。

 本来新生連邦といった組織がMS乗り等の組織に金銭を与えるという行為には必ず上層部への報告義務が必要になるのだが、それをしない人間も存在する。スパイッシュ・カルディアム等がこれに該当するのである。これもまた、組織の腐敗を象徴していると言えるのだ。

やがて戦闘が始まった。二度目の戦闘は新生連邦とではなく、ベレッサ海賊団と戦う。海賊のMSは、旧デウス帝国の水陸両用MS、ズボラーナを改修した機体、ズボラーナXであった。この“X”に深い意味はない。ベレッサ海賊団の勢いでつけた、名前である。

ズボラーナX。型式番号。DMSM-67MX。ズボラーナを海賊が独自に改修した機体であり、オーツェラーン号には八機搭載されている。頭部には十門のミサイルの発射口、腕部には四本のクローが搭載されている機体だ。そして、腹部にはフォノンメーザー砲が搭載。水中戦に特化した機体である。

「さて、敵はどのような勢力か……新生連邦の別部隊か?」

「分からないですね。機影が見えないですし、迂闊に動けないのも厄介ですよ。」

と、両者が会話をしていた時だった――

 

グォォンッ

 

突如、エスディアの前にクローが迫ってきた。ズボラーナXの、クローである。

 その外見の奇抜なカラーリングは暗い海中において、判別するには十分だった。白黒の骨を意識したカラーリングであるこれらは、明らかに新生連邦軍所属でない事が分かる。ハルッグは急いで後方へ回避運動を行った。

「こいつら、まさか……」

「海賊……か。」

ガーストと、ネルソン。互いにズボラーナXと交戦している。奇抜な外見は軍属の機体でないと判断する、一つの情報だ。

「デウス軍のMS、ズボラーナタイプの発展型のようだ。厄介な連中に目を付けられたようだな。」

と、言いながらハルッグは実弾ライフルでズボラーナを攻撃する。

海中では基本的にMS形態で戦う、ハルッグ。MAへの変形自体が空中と比較して時間を要する上、機動性も落ちる。ならば、MS形態のまま戦闘を行う方が良いのである。

「それにこの塗装、見覚えがある。魔鮫と呼ばれる連中のカラーリングだな。」

「どんな連中ですか?」

「私も噂程度でしか知らんが、海賊行為を繰り返して船舶に被害を与えている連中だ。大昔のならず者のような事を、現代でもやっているとは聞いていたがまさかここで会うとはな。」

ベレッサ海賊団の噂は良いものではない。戦後の混乱期を利用して世界が混乱状況であるのを利用した、ならず者だ。そして、その存在を取り締まる事が追いついておらず、現在に至っている。このような無法者により、民間人に被害が出ているのも、この世界情勢の問題と言えるのであった。

「何にしてもこいつらを倒さなければ。セイントバードをやらせる訳にはいかん!」

そう言って、ネルソンは機体を動かした。ハルッグはライフルを、レーダー越しに確認し、ズボラーナに向けて放つ。熱源が確認出来ない状況。その上での暗闇。ビーム兵器が使えない状況で、頼れるのは、レーダーに映る機影との距離のみだ。

エスディアとハルッグ。二機共にモノアイを動かし、敵を確認する。厄介なのは、敵機体もモノアイという事。幸いなのは、敵機体は奇抜なカラーリングが施されており、モニターで分かりやすいといったところだろうか。

「悪趣味な連中!」

と、言いながらエスディアはレーダーに映るズボラーナXに向けて実弾ライフルを放つ。しかし、それに気づいたズボラーナは回避し、エスディアにフォノンメーザー砲で砲撃する。

 それは脚部に直撃した。これにより、後方へ姿勢を崩す、エスディア。

「くぅ!やっぱり海中はやりにくい……」

と、油断をしていた時に、目の前にズボラーナXがモノアイを輝かし、クローを構えている。エスディアを突き刺す気だ。

「やらせるかよっ!」

と、ガーストは咄嗟にエスディアのビームサーベルを展開。海中では出力を発揮出来ないが、近接戦闘では十分な力を発揮する。

 

ズバァッ

 

右前腕部のクローは切り裂かれた。それにより、ダメージを与えた――

 

グゥンッ

 

と、その時。クローとは別に、手部マニピュレーターが出現したのだ。それはコンバットナイフを所持しており、エスディアに襲い掛かる。

「ブラフか!」

クローはマニピュレーターで把持している仕組みとなっており、本体は人型の手部の形状をしている。これは、旧型から発展して作られており、かつてのデウス帝国の兵士だったガーストも理解出来なかった構造であったのだ。

クローが切り裂かれても人型の手部で大柄のナイフを持つ事ができるようになっているズボラーナX。ある種の、トリックだ。

「チッ……!邪魔だぁ!!」

迫るナイフに対し、再びビームサーベルを構え、迫るエスディア。それはズボラーナの腹部を突き刺し、中のパイロットをビーム刃により、突き刺した。それと同時に、ズボラーナの腹部から、赤い液体が流れ出てきた。これで、一機を倒したことになる。

 

バシュゥ

 

その時にエスディアはフォノンメーザー砲による砲撃を、背後から受けた。突然の攻撃は彼を混乱させるのに、十分だった。

「うあっ!」

突然の背後からの攻撃。急いで振り返るエスディア。

 そこに居たのはズボラーナXだ。だが、先程彼が撃破した機体とは、背部の形状が異なる。まるで鮫の背びれのような形状がバックパックに付いている。これを見たガーストは、直感的に感じた。

「こいつがリーダーか!」

それが、海賊のMSのリーダーであると見抜いたガーストは、実弾ライフルを両手部で構え、狙い撃つ。

 海中での銃撃。その威力の一発一発は然程でもないが、連続して当てることが出来れば確実なダメージに繋がる。それを期待した彼は、ただ、ひたすらに狙い撃つ。

だが、そのズボラーナXは数発弾を受けた後に避け、頭部からミサイルを六発放ったのである。急な攻撃に対応出来なかったガーストは、この内二発を受ける事になった。

「ぐぅ!あいつ、強い……?」

怯むエスディア。だが相手は躊躇なく接近してくる。モノアイを輝かせ、クローを装備し、まるで鮫が泳ぐように航行して迫る。そのスピードはエスディアの比にならない。

やがてエスディアとの距離が近づいた時だった――突然ズボラーナはクローを両側共に外し、アクアコンバットナイフを装備して、エスディアに襲いかかった。完全な、強襲である。突然の攻撃に回避が間に合わなかったエスディアは両前腕部で防御するも、装甲にダメージを負った。これにより、右前腕部が切除されてしまう。

「クソッ!」

反撃をせんと、左手部を駆使し、ビームサーベルを展開。だが、これを敵は回避した。

その時、背びれの生えたズボラーナXに乗るパイロットは無線で伝えてきた。品が良いとは言えない、大声である。

「そんな大したこともねぇ実力で俺達の海に入ってくるたぁ上等じゃねぇのよ!」

「海賊のリーダーか!?」

「そうだよ!声を聞く限りでは優男の印象だな!だが優男如きに海の戦いで負ける気はねぇ!」

「誰がっ!」

挑発に乗るガースト。だが、海中では敵機体の方が、動きが機敏だ。容赦のない攻撃が、ガーストに迫る。

 ズボラーナはフォノンメーザー砲を連射。更に、頭部からミサイルを展開。エスディアが海中に適応できていない事を理解した上での、一斉攻撃だ。

 ミサイルを数発受けたエスディアは後方に下がる。このままでは一方的に蹂躙されるばかりだ。

「俺達の縄張りをうろついてたのが運の尽きだな!俺はベレッサ・コロノアジー!鮫なんだよォ!」

と、言いながら背びれの付いたズボラーナは再びエスディアに迫る。

「こんな奴に!!」

負けじと、左手部のビームサーベルを再び展開し、迫るガースト。

 エスディアとズボラーナは互いに交戦する。接近時、ズボラーナのコンバットナイフがエスディアに付きつけられようとしていた――

「鮫はなァ!水中にいる魚は勿論、カモメにも容赦無ぇのさ!」

「カモメは……セイントバードのつもりか!?」

「噂に聞いてるぜぇ!連邦から奪った戦艦だろォ!?」

 

ガキィン

 

ズボラーナは突如、エスディアの胴体に向けて脚部で蹴った。この衝撃で、海底に叩きつけられる、エスディア。彼にとって不利な状況で、容赦のない攻撃が続く。

「俺達の縄張りに勝手に入ってきて、荒らしておいて、挨拶も無しとはなぁ!!」

と、言いながらナイフでコクピットを突き刺そうと、迫るズボラーナ。そして、これに反応するガーストは左手部マニピュレーターを駆使し、攻撃を食い止める。

「海賊ってのは飛べなくなった鳥を襲うような卑怯な連中なんだな!」

拮抗する、ガースト。

「餌を食らうなら弱ってる奴を狙うのが定石だろうが!それが海賊のやり方よ!」

「汚い連中だな!童話に出てくるような悪役の事をしてさ!」

「何だぁ?海賊って聞いてフック船長でも思い浮かべたのかァ?」

「黙れよ!」

挑発に乗ってしまったガースト。

「さてと、お喋りも飽きた。そろそろ死ね!優男さんッ!!」

だがそう言った時だ。ベレッサの駆るズボラーナは彼にとどめを刺そうとしなかったのだ。

 何故か一度後方に下がるズボラーナX。コンバットナイフで突き刺せば、ダメージを与えられる筈なのに、何故?

 その答えは、すぐに明らかになる。モニターに映る、一筋の物体。質量兵器だ。それを見た時、ガーストは咄嗟に判断する。“魚雷”だと。

「しまった……!」

その魚雷は、オーツェラーン号から放たれた魚雷だ。それを見た瞬間、エスディアのバーニアの出力を上げて慌てて逃げようとするガースト。

だが、魚雷は追尾式である。避けようにも、直撃するまで追い続けてくるのだ。側方へステップ移動をするエスディア。しかし――

「行き止まり!?こんな所で……。」

場所が最悪だった。そこは、岩場であったのだ。凹凸な形状のそれらはエスディアの行く手を阻み、魚雷を受けよと言わんばかりに立ち塞がるのである。

このままでは直撃してしまう……そう感じたガーストは思わず目を瞑る。

 

ダダダダダダダダ

 

そこへ、実弾ライフルによる射撃が、行われた。それらは一斉に魚雷に直撃し、魚雷は破壊される。

 恐る、恐る、目を開けるガースト。そこに居たのは、ハルッグの姿であった。

「無事か、ガースト。」

「すみません、ネルソンさん。けど、まだ敵が居てますよね……」

不覚を取ったと思い、視線を落とすガースト。落ち込んだ時に確認をする彼だったが――

「いや、どうやら撤退をし始めたようだ。」

「……撤退?」

早すぎる撤退だと感じたガースト。それを確認する為に、レーダーを見る。

 そこには機影が映っていなかった。先程まで三機のズボラーナXが居た筈なのに、いずれもが姿を消していたのである。

「どういう、事だ……?」

一体何が起きたというのか。ベレッサ海賊団がセイントバードチームを襲って来る筈なのに、何故撤退をしたというのか。理解が出来ない様子の、ガースト。

「ともかく我々も撤退しよう。敵はどのような攻撃を行って来るかは分からん。油断は出来んぞ。」

「ええ、分かりました。」

傷ついたエスディアを移動させる、ガースト。

 今回の海賊の行動は何の為だったのかは全く不明である。只の偵察なのか、それとも牽制か。理解が出来ないまま、セイントバードへ戻っていく、彼等であった――

 

 

 戦闘が終わった後、オーツェラーン号内ではベレッサの部下達がMSデッキ内にてベレッサに対し、報告を行っていた。帰還したズボラーナは三機。内一機はガーストに破壊されてしまっている。

「キャプテン、敵機体は確認した所交戦した二機と、別に三機がカモメの上にいてやしたぜ。」

「へぇ、思いの外戦力は少ねぇのな。偵察ごくろーさん。」

と、言った後、ベレッサは三枚の紙幣を部下に手渡した。報酬のつもりなのだろうか。

「キャプテン、あのカモメはこのまま粟島の方に停泊するみたいですぜ。」

そう言ったのは、副団長にあたる男、ガルムである。

「誘導も出来たみたいだな。奴等にとっての最期の停泊になるのも知らないでよ!!」

気味の悪い笑みを浮かべるベレッサ。

 実際、高度を保てないセイントバードが、新生連邦や海賊のような敵がいる領域に入る事自体、危険な事だ。しかし今は、承知の上で動かなければならない。海賊はそれを分かった上で行動をしていたのである。

 彼等の目的は、セイントバード。だが、どのような攻撃が仕掛けられるのかは、謎である。

 

 

 

それから時間は流れ、夜になった。その間にセイントバードは粟島に到着していた。

粟島。日本、新潟の沖に位置する島。かつては人が住んでいた島ではあったが、過疎化の影響により、現在は無人島として存在している島となっている。この島で彼等は応急処置を行う事になった。

だが、粟島は無人島である為、保護区に該当しない地域である。つまり、敵がいつ来てもおかしくない状況なのだ。その為、早く修理を終え、この場を去る必要がある。正に、サハラ砂漠に不時着した時と同様の状況と言えたのだ。

 セイントバードの修理は交代制で行われる。その間、動く事が出来ないクルー達はそれぞれの時間を過ごしている。そして、その間に敵機体が襲って来ないかを、三機のMSが周囲を見張っているのだ。その中に、スバキの姿があった。

インク、スラッグは昼間にエリィが言っていた事を僅かに気にしている様子でありながらも、別の話題をしている。

「ターナ・アステル、亡くなったそうじゃん。」

「えぇー……ガキの時に見た映画、好きだったんだけどな。マジかよ。何で?」

「原因不明で、自殺だってさ。てか、よくよく考えたらジャンヌ・アステルってターナ・アステルの娘じゃん。なんか、これは色々と匂う気がするなぁ。」

と、インクが言った。

「物騒な話、やめろって!お前、だから嫌なんだよな……」

と、言いながらスラッグはインクと目線を合わせようとしない。何故か、顔を赤めている様子だった。

「私は“匂う気がする”ってしか言ってないんだよ。でもうちらのスポンサーを打って出て来たジャンヌ・アステルのお母さんが急に亡くなって、更に自殺なんて……なんか怖くない?何らかの陰謀を感じるなぁ。」

「そういう陰謀論、俺は嫌いなんだよな……」

と、言いながらEフォンに触れる、スラッグ。

「つーかそれより!あのバカップルむかつくわ!目の前でイチャつきやがって本当に!!」

昼間のガーストとプレーンの事が、苛立っている様子のインク。それを思い出したスラッグは、またしてもインクと目線を合わせようとはしなかったのであった。

「ま、まあ……いいんじゃねえの?」

と、なだめるスラッグ。

「てか、艦長は?」

「んー、レイ君の部屋に居てるんじゃない?」

「そっか。大変だよな。あの人も。」

「面倒見、良いからねー。艦長。」

ブリッジ内で何気ない会話をしている二人だが、戦闘時では彼等の存在が居なければ、セイントバードは成り立たない。彼等は、常時と非常時での切り替えが、上手と言えた。

 

 

 

 レイが居る医務室に、エリィが入って来た。昼間は戦闘であった為、彼に話しかける事が出来なかった彼女はレイを気に掛け、今の時間に部屋に入って来たのである。

「レイ君、具合はどう?」

「はい、もう大丈夫です。ありがとうございます。」

レイはベッド端坐位で過ごしている。彼の体温は戻っており、寒さを感じない状態まで戻っていた。

「貴方を故郷に帰す筈が、こんな状況にばっかりなっちゃって……なんだか申し訳ないな。」

「そんな、エリィさんは何も悪くないですよ。」

と、謙遜するレイ。

「エリィさんも、無理してませんか?僕になんか構わないで、休んで下さい。」

スバキに言われた事を思い出したレイは、エリィに言う。彼女は優しい。しかし、無理をしているのではないか……と、一抹の不安を抱くレイ。

 

――――――――――――それでも自分の事しか考えないのかよ―――――――――――

 

不本意とはいえ、自分の事だけを考えていたレイは、彼女の献身な行動に、申し訳のない気持ちで一杯だったのである。

「海賊まで現れたって聞きましたし……何だか、大変でしたね。」

ベレッサ海賊団が出現した時、レイはベッドで横になっていた。その情報を聞いたのは、戦闘が終わった後の話である。

「まさか新生連邦の後に海賊が現れるなんて思わなかったけれど……けど、私は無理なんてしてないよ?それに、これからセイントバードはどんどん忙しくなっていくんだし。」

「ジャンヌ・アステルさんの……スポンサーの件で、ですか?」

日本でアステル家がスポンサーになる事に決まったセイントバード。資金援助をして貰う代わりに、新生連邦の情報収集を行い、それを報告するという事を条件として、チームは動いている。

 今回は、その矢先に起きた戦闘だ。更に海賊にまで襲われるという状況で、セイントバードはどうにか堪えているのである。

「それも、あるかな。まあ、今は貴方を故郷に帰す事が目的だから。貴方は無理しちゃ駄目だよ。」

と、言った直後――

 

チュッ

 

と、エリィはレイの額に口付けを行う。真面目に接するようで、このような一面を見せるのが彼女の特徴なのだ。レイは顔を赤める。このようなスキンシップは彼にとっては刺激的である為だ。

「うーん、けれども、レイ君がここを去ってしまうって思うとどこか、寂しい気持ちもあるんだよね……いや、分かってはいるんだけど。」

エリィが発したのは何気ない言葉だった。彼を故郷に帰したい。しかし、一方で彼はクルーの一員として務めを果たしている。その心の天秤が、エリィの中で揺れ動いているのだ。

「ねえ、レイ君。」

「え……あ、はい。」

レイは首を傾げる。

「私、決めた。」

と、言いながらエリィは両手で、自身の頬を軽く叩いた。

「はっきり言うね。うやむやにするのは良くないと思うから。チームの皆と離れても、寂しさを感じちゃ駄目だからね。貴方は本来の学業に戻る。それが一番良い事なんだから。」

エリィにとっては、あくまでも彼に帰ってもらいたい気持ちの方が強い。だからこそ、あえて強い言葉で言った。それは、彼女の中の決意の言葉だった。

 この二ヶ月余りの出来事はレイにとっては壮絶な体験として残るだろう。多くの人との出会い、そして別れ。今回も、レイがきっかけでチームに新たな仲間も加わった。それらは、チームにとっても大いに貢献する存在となり得るだろう。その場から離れて行くという事は、彼の心の片隅では名残惜しささえ感じるのである。

「と、いう事で!レイ君、君と一緒に過ごせる時間は本当にあと僅かです!だからもう一回、キスさせて?」

「え、ええ……?」

決意を固めた筈の、先程の言葉はどこへ行ったのだろうか。結局、そう言いながらエリィはレイの額に口付けを行った。

 それをされる事自体、レイにとっては嫌ではないのだが、その行為は彼女の中の矛盾が露呈している行為と言えた――

「やっぱりレイ君は可愛いなぁ!その頬もこれから触れないと思うと悲しいし……出来れば居て欲しいなぁ!でもダメダメ!貴方には故郷があるんだから!ああ、でもでも……」

(はぁ、この人……)

この、どこか抜けている所も、エリィ・レイスと言う人間の特徴なのである。彼女の中では、やはりレイが帰っていく事に対する、意思が定まっていないのだろう。

「と、とにかく貴方はしっかりと休んでいる事!何かあっても、対応は出来ます!ゆっくりしてね、おやすみレイ君!」

「は、はい。おやすみなさい。」

と、言った後でエリィは部屋を出た。彼に居て欲しいのか、故郷に戻って欲しいのか、どっちつかずの様子であった彼女。例は、今は彼女の言葉に甘え、休ませてもらう事にしたのである。

「このまま、敵が来なければ良いけど……もし、来たら僕だって、戦うんだ。」

レイは天井を見て、静かに口を開いていた。それはエリィの気遣いとは、真逆の言葉であった――

 

 

 

 粟島の海岸は明かりがなく、暗い。だがその中を一人、歩いている男の姿がいた。ガーストである。波の音が音色を聞いている彼は、少しの休憩時間を貰っており、一旦、セイントバードから降りていた。ただ、時期は冬である為、厚手のコートを羽織っている。

昼間は新生連邦と海賊に襲われ、それらをどうにか食い止めたガースト。それもあり、疲れている様子の彼は恋人のプレーンが眠っているのを見計らい、外に出たのである。

波の音が彼を癒す。ガーストはこの間に目を瞑る。このような一人の時間を、時に欲しいと思う、ガースト。プレーンは彼と共に行動する事が多く、時にこのような時間が欲しくなるのだ。

と、その時だった。彼の背後から足音が聞こえてきた。もしかすれば、プレーンが起きてきて追いかけて来たのかも知れない。そっと溜息を吐いた様子で、彼は後ろを向いた。

しかしそこにいたのはプレーンではなく、エリィだったのである。

「エリィさん。どうしたんですか?」

「外に出てゆっくり風に当たろうかなって思って。寒いんだけどね。ちょっと波の音を聞きたくなっちゃった。そしたらたまたまガースト君が居たって訳。」

と、言いながらエリィは岩場に腰を掛ける。それを見た彼も、同様に腰を掛けた。その際、エリィはうんと伸びをする。両手を組み、空に向けてぐいと伸ばした。

「お疲れみたいですね。艦長ってやっぱり大変でしょう?」

「まあね。戦闘時は指揮を執って……非戦闘時は料理を作ってるから。あと掃除とか色々……やる事が多過ぎて肩がよく凝るのよー。」

戦闘時も非戦闘時も、エリィは常に働き詰めである。その為、このように休み時間と言うのは彼女に追っては貴重な時間なのである。そして、レイの所にも顔を出している。

 多忙なエリィ。その話を聞いたガーストは、驚愕した様子だった。

「まるで主婦じゃないですか。体調、よく崩しませんね。」

エリィが予想以上に雑務をこなしていることに驚きを隠せないガースト。

「この艦は私の艦。私が中心になって動かないとね。そりゃあ、人手不足だったから、もっと色々な人が入って欲しいな……とは思っていたけれどね。でも、丁度その時にプレーンさんが来てくれて嬉しいと思っているの。」

実際、昼食と夕食はプレーンが中心になって作っていた。クルー達にそれ等は振舞われ、皆が感謝していた。但し、ガーストと公然と仲良くしている姿に関しては賛否両論ではあるが。

「良かった、役に立てて。あいつに言い聞かせていますから。艦の為に役立てって。あいつ本当に俺中心に考えてるんです。食事を作れって言ったら〝ガーストの為なら作るネ!〟とか言って。」

プレーンはガーストの事を心から好いている。故に、彼の言葉が行動になる事が多いのである。

「アハハ、可愛い恋人さんじゃない。それでやっとご飯を作ってくれるんだね。」

「あいつの作る飯は本当に美味しくて……。だからみんなの為に役立って欲しいんです。掃除とかもエリィさんの代わりと言われる程、頑張らせようと考えています。」

「フフ、嬉しい事言ってくれるね。」

「こっちからお願いしてこの艦にいるのに、何もしないなんてただの足手まといです。俺はパイロットとして、あいつは食事係とか……いろいろな担当をして――」

と、語られるガーストの言葉を遮り、エリィは言い出した。

「ねえ、ガースト君はプレーンさんの事をどう思っているの?」

突然の質問に、ガーストは首を傾げた。

「え……?いきなりどうして?」

「さっきからの台詞を聞いているとプレーンさんの事がどうしても気になって。」

ガーストは少し恥ずかしそうだったが、口を開けた。

「そ、そりゃあ……確かにあいつは……おっちょこちょいで、ドジで……普通のおっとりとした感じの女の子とはかけ離れているけど……でも一生懸命で、どんな事があっても挫けたりしない。戦争の時だってそうだった。元々反乱軍の雑用として働かされていたプレーンだけど……それを隠すように俺に明るく振舞ってくれて……。確かに俺に引っ付いたりしてちょっとやめて欲しいって時はあるけど……。でも俺はプレーンが好き。俺が好きになれる人間はあいつしかいない気がするんです。」

明かされる過去の一つ。それは、プレーン・ミーンはかつての連邦反乱軍の雑用として酷い扱いを受けていたという事。ガーストはそれをきっかけとして、プレーンと出会ったのである。

「そうやって人を一生懸命に好きになる事って、とても大事な事だよ。貴方達の事、色々言う人が居るかもだけど、私は応援していますからね。」

昼間の事を一人、考えていたエリィ。クルー達がガーストとプレーンの事を悪く言う人間が居るのを見て、彼女の内心は複雑だったのだ。

 それは、艦長として皆を見なければならないと考えているが故である。

「私も、戦時中にそんな事があったな。でも私の好きな人は死んでしまった。貴方は……絶対に守ってね。プレーンさんを。そして絶対に悲しませないで。好きな人は絶対に……死なせたりもしちゃだめだよ……。」

エリィの目から、僅かに流れる涙。それに気づいたガーストは、ハンカチを差し出した。エリィはそれを受けとって涙を拭く。

「ごめん、ありがとう……」

その後でエリィは一言ガーストに言った。

「こんな残念な人間にならない為にも、好きな人は大切に……ね。」

「残念って……そんな訳、ないですよ。」

どこか、その言葉がガーストの中に刺さった。好きだった人間を戦時中に失ったが故の、エリィの言葉。

今、彼は幸せの中にいる。それは、恋人であるプレーンが居てくれることから来る、幸せなのだろうか。

「プレーンも全力で好きになってくれているから……俺もあいつの事、全力で愛しよう。」

「その意気よ。両思いは一番大切だから。うんうん、やっぱり、この艦に貴方達を招いて良かったな。」

「え、どうしてですか?」

白い息を吐く、ガースト。

「幸せなカップルって、良くも、悪くも周りに影響を与えていくと思ってますから、ね!」

と、言いながら右示指をぴんと立てた。

「影響……か。」

ガーストは口角を上げ、夜空を見上げた。その日の夜は快晴。オリオン座を中心とした星々が、爛々と煌めいていたのであった――

 

 

 

 夜も更けてきた頃。海賊はセイントバードを捕捉していた。現在セイントバードは粟島西側にある、海岸に艦を停めている。

 海賊はその南西部に潜水艦を移動させていた。ブリッジに集まる、海賊団の人間達。キャプテンであるベレッサは粟島に停泊しているセイントバードの姿を見て、言った。

「カモメはあそこでゆっくりと羽休めっつー訳だ。俺達は新生連邦からカモメの制圧と、MSの献上を依頼されてる。昼間の牽制でおおよその戦力は把握出来た。あとは、やるしかねぇって訳よ!」

ドレッドヘアーを掻き撫で、モニターに映るセイントバードを見て笑みを浮かべるベレッサ。

「しかし奴等も警戒はしていますぜ。正面から向かうのは得策じゃありませんぜ。」

と、クルーの一人が言った。

「馬鹿野郎!何の為に脳味噌がある?海賊はならず者だが、頭を使わねぇと獲物は食えねえだろ!戦力を分けんだよ!MSを分けて出撃して、襲うんだよ!」

ベレッサは、セイントバードに向け、その戦力を分担して襲撃しようと考えていたのだ。海中を得意とするズボラーナXは、残り7機。これらを小隊に分けて強襲するのが、今回の目的となる。

「ガルムの奴は先に待機してやがるからな、俺達は俺達のやる事をするだけよ!」

副団長に該当し、オーツェラーン号の艦長を務める大男、ガルム・エレックはこの場にいない。それは、何を意味しているのだろうか。

「よし、野郎共!全員攻撃態勢に入れ。目標はあの昨日のカモメだ!俺も出る!」

彼の合図により、海賊は再び動き出す。修理中のセイントバードを狙う彼等。再び、聖鳥に危機が訪れようとしていた――

 

 

 

「総員、第三三種戦闘配備!MSらしき機影確認!繰り返します――」

インクがレーダーを見て、すぐに戦闘配備の知らせを伝える。そこへ、急いで戻ってきたエリィ。艦長席に座り、周囲の状況の確認をする。

「状況は?」

「散開しているみたいですね。大型の熱源が一つ、それ以外はてんでばらばらです。」

「所属は分かる?」

「熱源に映る艦の形状だけじゃ見分けがつきません!」

潜水艦は熱源として確認は可能だが、その形状まではレーダーで確認は難しい。新生連邦のブルーマーリンと海賊のオーツェラーン号はいずれもその船体のサイズが似通っており、余計に判別が困難と言えたのである。

「新生連邦か、さっきの海賊か。いずれにしても、撃退しないと……ね。」

エリィの休息は終わりを迎えた。迫る敵を迎え撃つ事を、考えていたのである。

「セイントバードは動けません!けど、砲撃は可能です!可能な限り砲撃による援護をお願い!」

「了解、伝えます!」

「スラッグ君、整備班の援護に回れる?」

「向かいます!動けないんなら、そっち手伝いますわ!」

「お願い!」

セイントバードは動けない。つまり、操舵士は不要になる。人手不足である状況は、役割を変えて行かなければならない。

「大尉は?」

「既に発進しています!ガースト機も!」

「とりあえず、祈るしかないか……敵機体が接近したら迎撃準備を!」

「了解!」

敵勢力の出現より、非常時と化したセイントバード。海からの脅威から守る為、奮闘するのだ。

 

 

新生連邦の襲撃から始まった海中戦は今回で三度目だ。敵勢力にとって有利なフィールドでの戦い。その中でも敵は迫り来る。

海中へはハルッグとエスディアが入り、迫り来る敵を迎え撃つ為に戦う。

レイは警報を聞き、急いで出撃したいと考えていた。休んでいろとは言われていても、

彼自身、身体に問題はない。ならば、セイントバードを守る為に出撃をしたいと、考えていた。

 彼の行動は独断だ。MSデッキに着いたレイはアインスを探した。しかし、その姿をシンに見られてしまっていた。

「おい、何やってんだよ!お前は休んでろって!」

「でも!敵が迫ってきてるのにアインスを置いておくなんて!」

「大尉とガーストが頑張ってくれてるんだよ!あとは他の人達もな!悪いけどお前は乗せられない!お前、故郷に帰るんだろ?だったら尚の事だ!」

目の前に敵がいる。その敵を迎撃するべきなのに……と、悔しい思いをするレイ。自分には力がある筈なのに、何も出来ない無力さ。それが、悔しくて堪らない。

「僕は……お荷物じゃないのに……今までだって戦ってきたのに……」

レイは、静かに呟いた。しかし身動きが取れない以上、彼は出撃の許可が貰えないのである。

 その時、ふと、エリィの存在が思い出された。彼女に許可を貰えれば、出撃が出来る。そう考え、レイは繋げるように言った。

「あの!エリィさんに確認したいです!あの人が艦長なら、出撃の確認できる筈です!」

と、言うレイだったが――

「だから!艦長がお前を止めてるの!」

「直接話がしたいんです!」

どうしても……と言うレイ。シンは頭に手を置き、仕方ない様子でブリッジとの連絡を許可したのである。

 

「エリィさん!僕もアインスで出ます!敵が迫ってるなら、僕だって!」

MSデッキの回線からレイが連絡する。しかし――

『レイ君、どうしてそこにいるの?休んでてって言った筈なのに。』

「敵が来ているのなら、僕だって戦います!身体だってもう、なんともありません!」

懸命に説明するレイ。だが――

『出撃許可は出せません。』

「どうしてですか!?」

『貴方を故郷へ送るのに、肝心の貴方が死ぬかも知れない事があるのはあってはならないから。現に昼間の出撃で敵と戦って、意識を失っていたでしょ?あれで私、考えていたの。そんなの、あっては駄目だ……って。大丈夫。皆が守ってくれるから、貴方は休んでて。これは艦長命令だよ。』

「そんな!エリィさんは、僕に言ってたじゃないですか!」

“あの時”と言うのは、キプロス島でのエリィの言葉である。

 

――――――――――――――――いつも、ありがとうね――――――――――――――

 

「ありがとう、って言ってくれましたよね!それって、僕の事を頼ってくれてるって訳じゃないんですか!?」

『……確かに貴方は戦ってくれている。それには感謝している。けど、私は貴方に戦って欲しいとは一言も言っていないよ。寧ろ、安全に過ごして欲しいの。それだけだから。シン君、レイ君をお願い――』

と、言ってカメラから目線を外す。

 

プツッ

 

回線は途切れた。レイは、ただ、途方に暮れている様子だった。

「って訳で。部屋に戻ってな。」

「こんな、こんなのって……」

エリィからも許可が出ていない状況。機体に乗り、戦える筈なのに、それが出来ないという歯痒い気持ちに、レイは陥っていたのであった。

 

 

戦闘が始まった。敵機体はいずれもが海中に身を潜めている。それらはセイントバードを囲むように、波状に展開している。

 まず、オーツェラーン号からは魚雷がセイントバードに向けて放たれる。それらは、スバキの駆るジャスティスがビームライフルを撃ち、阻止する。爆発と共に、海上に水蒸気が噴出した。

 彼女の乗るジャスティスはセイントバードの上部で待機している。そして、モニターで確認し、迫るミサイルや魚雷等を迎撃しているのだ。

「夜中なのに眠らないで来やがって!相手になってやるよ!」

張り切るスバキ。直接敵機体と交戦する訳ではないのだが、艦を守ると言う役目は、十分に果たせていると言える。

 

 海中ではハルッグが実弾ライフルを構えて移動していた。やがて一機のズボラーナXを捕捉。それを見たネルソンは、敵勢力が昼間の海賊である事を理解した。

「昼間のならず者連中か!」

ターゲットを絞り、ライフルを放つ。それに気付いたズボラーナは反撃の為にフォノンメーザーでハルッグを狙う。それを側方へステップ回避し、ズボラーナへ接近。それに対してクローを展開するズボラーナだが、近接戦闘の際にビームサーベルを展開していたハルッグはクローを切り裂き、そのままコクピットをビーム刃で串刺しにし、撃破した。これで残るは六機である。

 この時、ネルソンはズボラーナの武装を確認していた。

「クローは近接戦闘では使えるか。この機体が所持しているナイフも利用できるか……」

そう言って、ハルッグは海底に落ちていたクローとナイフを回収。それを、左前腕部に装備した。マニピュレーターで把持が可能なそれは、ハルッグにも使用する事が出来たのである。

 海中という特殊な環境では敵機体の武装も利用していかなければならない。機体が爆発しなかった場合は、このように武装の回収をし、利用する事も戦略なのである。

 

ゴオオッ

 

ハルッグの元へ、一機のMSが急速に近づいてきた。レーダーを確認し、それに反応したネルソンはライフルを構え、放つ。

 だがそれらを回避する、その機体。反撃をせんと、フォノンメーザー砲を放ってきた。ズボラーナXである。だが、背部には鮫のような背鰭が目立つ。他の機体にないそれは明らかに異質な存在と言えた――

「隊長機か?或いは統率機体か?」

ガーストの時と同様、直感でその機体が敵のリーダー格であると見抜いたネルソン。操縦桿を改めて握り込み、敵との交戦に入る。

 敵のズボラーナXはクローを展開し、迫ってきた。それに反応したハルッグは左手部に把持している、同様のクローで拮抗した。

「へぇ!うちらの仲間を殺して道具を利用しやがったか!」

無線から声が聞こえた。海賊団のキャプテン、ベレッサ・コロノアジーである。

「貴様がリーダーだな!セイントバードはやらせんよ!」

反応する、ネルソン。

「元はと言えばてめえらが俺達の海を荒らしたんだぜ?荒らしたからにはそれ相応の報いがある!当然だろ?」

「我々は海を荒らした覚えはないな。寧ろ新生連邦に追われている身だ。勘違いしては困る。」

ガーストの時と違い、冷静に対応するネルソン。だが、ベレッサは聞く耳を持たない。

「関係ねぇよ!海の藻屑になれよっ!!」

ズボラーナXのクローが迫る。それを見た、ハルッグはクローを差し出し、マニピュレーターに隠し持っていたナイフで切りかかろうとする。しかし――

「ちっ!!」

ベレッサは、次の一手としてミサイルを展開してきた。一基だけのミサイルの火力は小さいが、それが束になれば火力は増大する。ハルッグを後方に移動させ、回避運動を取る。

間に合わない場合はライフルで迎撃をする。

(さぁて、こんだけ時間を稼いでるんだ……そろそろ、動きやがれよ、ガルム!!)

ベレッサは何を思ったのか。ネルソンに襲いながら、笑みを浮かべる彼は何を企んでいるというのだろうか。

 

 

 

 セイントバードは近接してくる機体に対して機関砲で迎撃する。実弾のシャワーを浴びるズボラーナは装甲に損傷を受け、一度交代する。周りにはトルクスもいる。艦の修理をしつつ、敵からの攻撃を守るのは困難を極めてはいるが、海中戦に慣れてきた彼等は、この状況にも対応出来つつあったのである。

 エリィ達もその状況を見極め、敵の動きを確認している。闇夜で、更に海という環境は灯りが頼りだ。それがなければ、レーダーに頼るしかない。迫る敵機体が見つかれば、それ相応の手段で迎撃を行う。海中に潜んでいては、ビーム兵器は通用しない為、機関砲で迎撃をする。

「敵影の数が減っている……大尉達が頑張ってくれているのかしら……」

「だと、良いですけれどね。」

ブリッジに居るのはエリィとインクの二人のみ。他のメンバーは整備や修理、そしてMSパイロットは迎撃に出ている状態。常に人手不足の状況で、セイントバードは敵と戦っているのである――

 

「動くんじゃねぇ!」

聞き覚えのない、男の声が聞こえた。振り向く二人。

 そこには、銃を側頭部に突き付けられているプレーンの姿があったのである。男はジャケットに鮫の骨格を模したデザインを羽織っている。恐らく、ベレッサ海賊団の服装なのだろう。

 ここに見覚えのない男達がいる。そして、海賊の衣装。これが表す事は、ただ一つ。ブリッジが、海賊に占拠されてしまったという事だ。この直後、この場に合計五人の屈強な男達が乱入してきたのである。

「プレーンさん!?」

銃を突き付けられているプレーン。彼女の目からは、涙が溢れている。特別な非常時。そして、予想すらしなかった人質の状況に、困惑してしまったのだろう。

「どうやらここの女連中は粒揃いみてぇだなぁ?ハハハ!上物揃いだな!」

と、笑う、プレーンを人質にしている男。

「どうやって、ここに入って来たのかしら……」

エリィはごくりと、唾を飲む。

「おいおい、その前に両手を上げるのが常識だろぉ?」

 

パァンッ

 

別の男が威嚇射撃を、天井に向けて行った。銃弾は天井に突き刺さり、火薬の匂いが僅かに残った。プレーンは恐怖の余りびくりと反応し、高い声を出す。

 その男の言葉通り、エリィとインクは両手を上げる。やがて別の男が両者の後頭部に銃を突きつけたのである。

「ブリッジ占拠完了ぉ!ザル過ぎる警備だなぁカモメの連中!!!」

一人の男が高らかに叫んだ。この瞬間、セイントバードは海賊達によって占拠されてしまった事になる。

 海賊が強襲してきている中で、レーダーに映らなかった別動隊が密かに潜入したのだ。やがてプレーンを人質に取り、ブリッジに案内させられたのだろう。

 だが、周囲はスバキのジャスティスやトルクスが見張っている。何故彼等は侵入をする事が出来たのだろうか。接近する機影があれば、それに攻撃を仕掛ける事が可能な筈なのだが。

更に、そこへ一人の海賊である、大男が部屋に入ってきた。ベレッサ海賊団の副団長、ガルム・エレックである。

「予め島に待機してりゃこんな事も出来るって訳だよ!」

大男の声が響く。そのドスの効いた声は彼女達の表情を歪ませるのに十分な効果を発揮している。

「じゃあ、最初から私達は誘き寄せられていたって訳ね……」

不覚だった。昼間に海賊が撤退したのは偶然だと思っていた事が仇になった。彼等の真の狙いは、セイントバードの占拠であったのである。

「予め潜入して、その巨乳の女を脅せばブリッジの場所も分かるって訳だぜ!ガハハ!しかし、警備もこんなにザルで、しかも上物揃いの女がブリッジに二人だけ居やがる!ここは高級キャバクラか!?ガハハハハハ!」

品のない言葉が飛び交う。ならず者の組織とはいえ、副団長にあたる人間が発するとは思えない、下品な言葉。

「うちの艦は野郎ばっかりだからなぁ!こいつらを持ち帰ればキャプテンも大喜びだろうぜ!!」

「これで暫く女には困らねぇ!生身の女、しかも上物!こいつぁ良いものを手に入れたぁ!」

まるで、彼女達を我が物にしたと言わんばかりの声が響く。この時、エリィはガルムに対し、言った。

「貴方達は、何が目的なの……?」

「目的?そりゃ、この艦だぜぇ?」

「どうして、この艦を……?」

エリィの頬に、冷や汗が落ちる。その時、あろう事か、エリィに対して銃を構えていた男が彼女の汗を舐め始めたのだ。

「うっ……」

思わず声を出してしまうエリィ。彼女の頬を、不快な男の舌の湿気が襲う。

 気色の悪い行為。その容姿は端麗とは程遠い、下劣な男の品のない行為はエリィを不快な気分にさせる。しかし、今、それを咎めては何をされるか分からない。ただ、耐えるしか、なかったのである。

「依頼を受けたんだよぉ!カモメが飛んでくるって聞いたからなぁ!この艦さえ確保できりゃ後は好きにしていいってさ!!」

と、大声を出すガルム。

下劣。その一言に尽きる会話。まさか前時代的な海賊のような連中が、この場に現れ、下種のような行為を堂々と行われるなど、思わなかったのだ。

「……こいつらマジでキモい……」

妙な行為をされ、顔に出すインク。その間も彼女も銃で突き付けられている。男特有の皮膚から出る脂の匂いが、不快であったのだ。

「そうそう、ここの占拠の宣言をしねぇとな!ガハハハ!」

と、言いながらガルムはインクが使っていた通信回線を開き始めた――

「ブリッジは占拠したぁ!既に人質もとっている!!残念だったなァ!カモメ共!!!」

それは、セイントバードの陥落を意味した。ブリッジを占拠され、人質を取られている状況。そして敵に宣言される。MSを展開し、迎撃している状況で敵に襲われていては、迂闊な事が出来なかったのである。

 

 

「しまった!別動隊がいたのか!?」

ベレッサとの交戦中にガルムの声を聞いたネルソン。まさか、セイントバードが襲われているなど想像すら出来なかったのである。

「残念だったな!てめぇらの艦は俺の仲間が占拠したんだよ!」

セイントバードが占拠されているのならば、今、ここで海賊と戦う理由はない。急いで戻らなくてはならない。万が一クルーに危害が及ぶ事があっては大変な事に成り兼ねないからだ。

 

ガキィン

 

焦りは、敵にとって隙を見せているようなものだ。ズボラーナXのクローはハルッグの脚部を捉え、海中へ引きずり込んでいく――

「ぐうっ!?」

操縦桿を引くも、コントロールが出来ない。ズボラーナの引き込む力は、海中に於いて絶大だ。

「逃がすかよ!まあ、逃げたとしても危機は免れねぇだろうさ!ハハハハハ!」

冷徹な笑い声を上げるベレッサ。ネルソンは、ただ、悔いる事しか出来ないのであった――

 

 

 屈強な男達に占拠されたブリッジ。そこにはエリィ、インク、プレーンの三人の女性が屈強な六人の男に脅されている状況が繰り広げられている。何も出来ない女性達。その間も、身体の接触等をされるなど、屈辱的な行為をされている――

「ところでなぁ、ブリッジに居たって事は、総責任者はここにいる誰かだろ?な?」

ガルムが気味の悪い笑みを浮かべる。エリィは彼を睨むように、静かに言った。

「私ですけれど。」

「上物女がこの艦の責任者か!ここの男連中はよく放って置かなかったよな!?」

ガルムが笑いながら、言った。

「副キャプテン、いっそこいつらを持ち帰る前に楽しむのはどうですか?」

プレーンに銃を突きつける、男が言った。

「そいつぁ、良いな。おい、連れて行け!あと、部屋を用意しろ。堪能するぜ……」

それが何を示すのかは、容易だ。彼女達はこの男達に逆らう事も出来ず、ただ、従うしか出来ないのだ。

 

 

 別室に連れて行かれた三人。そこは、仮眠室と呼べる場所だ。ベッドが二つ用意されている部屋で、三人は両手を縛られた上に、ベッドの上に転がされてしまった。

「先に楽しんじまうか!占拠宣言した以上、どの道、ここに攻撃はされねぇだろうしな!」

「何か月振りの女だろうなぁ……」

「どれから食っちまおうかな?やっぱり艦長の女か?気丈そうなところがそそるしなぁ!ああ、おっぱいが沢山だぁぁ!」

一人の男が、あろうことかズボンを脱ぎ始めた。トランクス姿になり、笑う、男。

 その間も彼女等は銃を突きつけられている。両手を縛られている状況で、逃げ出す事も出来ない彼女達――

「……貴方の相手、私がしましょうか。」

その時、エリィがトランクス姿の男を見て、言った。その目付きは真剣そのものだ。唇を舌で濡らし、男をじいっと見る。

「相思相愛だなぁ!!結局その気になってんじゃねえかよ!」

無論、これはインクとプレーンを守る為の行動だ。エリィは艦長。クルーを守る責務がある。今、せめてこの状況が改善する可能性があるならば、自らが率先して立ち上がらなければならないと、考えていたのである。

「艦長……」

インクはエリィの言葉を聞き、気の毒そうな声を上げた。

「ねえ、お願いがあるの……手を、解いて欲しい。貴方を慰める為に、必要じゃないかしら……?」

と、突如エリィは色気の付いた艶めかしい声を、トランクス姿の男に対して言った。はぁと、色気の付いた吐息を履くエリィ。

 男は急に興奮し始める。その欲に満ちた表情を浮かべ、エリィに近付いていく。

 やがて男はエリィを縛っていた手錠を外した――

 

チュゥゥゥッ

 

あろうことか、エリィは自ら醜い男と接吻を交わし始めたのだ。それも、男の頬を持ち、まるで自ら求めんとせんと、醜い男と口付けを交わすという行為。

 それは余りに残酷な行為だ。インクとプレーンは目を逸らしてしまう。心地良くない口付けは見る者も不快にさせる。当然、当人も心地良い筈がないのである。

 やがて行為は終わる。そして、そのままエリィはベッドに自ら倒れる。まるで、男を誘惑せんと、その指を静かに動かす――

 

「おい、ここにも上物がいたぜ!!」

その時だ。突然ドアが開き、銃を突きつける男と共に、一人の人間が入って来た。そこに居たのは、レイであった。

「こいつはロリ系だな!俺、ロリ系好みなんだよなぁ!!」

レイを連れて来た男。レイの事を、少女と勘違いしてこの場に連れて来たのである。

(レイ君……?)

エリィは、心の中で思った――と同時に、声に出してはいけないと直感で感じ取った。

 彼は今、少女と間違えられている。故に、この部屋に招き入れられたのだ。

「気が変わった!俺、こいつを先に頂くわ!」

レイの姿を見るなり、トランクス姿の男はレイに近付いてきた。至近距離でレイを見るこの男。彼は男ながらに、気持ち悪さを感じていた――

 

ジャキンッ

 

と、男はナイフを取り出した。

「全然胸は無いようだけど、発達途中かぁ?ヘヘヘ、食ってやるよ!」

そう言ってから、レイが身に着けていた服の胸元を切り裂いた――

「……へ?」

男は、目を疑った。少女だと思っていた筈の人間の胸が、膨らんでいない事に、驚愕していたのだ。

 人は固定概念を覆された時、隙が生まれる。例えばこのトランクスを履いていた男の場合、レイの事を少女と認識していた。だが、現実は違う。彼は男なのだ。それは、男がレイを少女だと思い込んでいたが故に生じた事である。

 対するレイは少女に間違えられることは常時の出来事だ。しかし、その度に彼の中にフラストレーションは溜まっていた。彼は男なのに、何故最初にいつも少女に間違えられなければならないのか。そして、今回の相手は自分を性欲の対象として見ている、海賊の男。それはレイにとっては不快な対象以外の何者でもない。

 レイの内なる感情はフラストレーションを多く抱えていた。故郷へ帰りたくても帰れない状況を作り出された現実、敵に襲われている状況であるにも関わらず、出撃出来ない状況。そして、現在の状況。それ以外にも、経験してきた事等。

 それらの事は一瞬の内にレイの中に過る。そして、それは行動として出現する――

 

バキィッ

 

「うぐわああッ!」

一瞬の内に、レイはその男を蹴り飛ばしていたのだった。醜い男の顔面は更に歪み、鼻血が宙を飛翔した。

 この出来事は状況を一転する好機と言えた。男がレイの蹴りによって怯んでいる時、全員がそこへ注目する。それを見ていたエリィは、目の前に居た男から、銃を奪ったのである。

 やがて銃を持ったエリィは他の男達を脅した。先程の艶めかしい声とは違う、威勢の良い、責任者の声が響く。

「銃を下ろしなさい!早く!」

男達は手を上げ、銃を離した。エリィは銃を差し出しながら、インク、プレーンの手錠を外す。そして、インクは男達が離した銃を拾い、それを近くにいた男に突き付けた。

 人の数はセイントバードチームの方が少ない。だが、銃を突きつけられている以上、迂闊な事が出来ない海賊。状況は一転したのである。

 

「艦長、大丈夫ですか!?」

更に、整備士達もそこへ駆け付けた。シンをはじめとした整備士が、銃を構えて海賊達を囲む。

 この一瞬で状況は逆転した。人の数も、海賊の数よりも多い。銃を突きつけられては、海賊も動く事が出来ない。

「ありがとう、シン君。事前に呼び出しといて良かったわ。お陰で貴方達を拘束出来る。私にこんな恥知らずな行為をさせた事を後悔させてあげる……!」

エリィは怒っている。それも、本気で。大男であったガルムはその体躯に似合わず、エリィの眼差しに対して怯えていた。

 危機的状況は去りつつある。レイの咄嗟の行動が、正の連鎖を生んだ。一方で、男達のどす黒い肉欲が、彼等の状況を悪化させた。事前に粟島に潜入しておく事までは良かった。だが、目先の肉欲を優先させた結果、彼等は自らの首を絞めた事になる。

(エリィさん、怖い……)

エリィの目を見たレイは、彼女の本気の怒りを感じ取っていた。それは、彼が力を持つ人間であるが故に、より一層感じる事が出来たのである――

 

ドガアアアアア

 

セイントバードの側面にミサイルが直撃した。恐らく、ズボラーナによる砲撃を受けたのだ。

 被害は最小限ではあった。しかし、艦が揺れたのには間違いない――

 

ピキィィィ

 

レイに電流が流れたのはその時だった。彼は直感を感じていた。今、セイントバードは不利な状況にある……と。このままでは、やられてしまうと、感じたのだ。

 そうなれば、今のエリィを怖がってはいられない。レイは、既に行動しようと動いていた。

「エリィさん、僕、アインスで出ます!お願いします!このままじゃセイントバードが!!」

突然のレイの言葉。しかし、エリィはそれを制止する。

「駄目よ、貴方が戦うなんて!」

エリィの冷たい言葉が放たれる。だが、レイはそれに負けずに言った。

「この状況を作れたのは誰のお陰なんですか!?僕だって、役に立ちたいんです!ここを去る、最後まで!」

それはレイの純粋な想いだ。セイントバードを守りたいという、願い。それを止められたことはレイにとってストレス以外の何者でもない。そのフラストレーションが、レイに海賊を蹴らせる機会となったのである。

 エリィはその強い意志を感じ取っていた。レイが先の戦闘で意識を失った事もあり、不安を感じていたエリィは保守的になっていた。しかし今の彼の想いは、紛れもない強さだ。

 その強さに心打たれたエリィは、静かに、言った。

「……分かりました。レイ君、貴方に出撃許可を出します。」

「ありがとうございます……!」

「但し、必ず戻ってくる事!それは守って下さいね?」

「……はい!」

エリィの言葉を聞き、レイは、部屋から去る。海賊達はチームのメンバーに囲まれ、銃を突きつけられ、動けない状態だったのである。

 

 レイは無我夢中でMSデッキへ走った。エリィの発進許可を貰っているレイは、そのまま廊下を走り続けている。

 やがて、MSデッキに着いたレイは、急いでアインスのコクピットへ向かった。許可が下りている以上、躊躇う必要がない。彼は、ただ戦うのみ――

 

キシィン

 

アインスの緑色のカメラアイが輝く。水中仕様のアインスは、バズーカを構えた状態で静かに起動する。

「アインスガンダム、行きます!」

コクピット内で、レイが掛け声を上げ、アインスが発進する。危機的状況に陥っているセイントバードを守る為に――

 

 

 

 出撃してすぐに、ミサイル攻撃を確認したレイはそれに反応した。レーダーを確認し、二機のズボラーナXから放たれるミサイルを見切り、全て回避に成功。そして、標的に対してバズーカを放った。実弾が放たれる鈍い音は周囲を響かせる。

 

ドォン

 

それはズボラーナに直撃した。分厚い装甲のズボラーナだが、バズーカの実弾は、機体を怯ませる効果を持つ。その隙に、左手部マニピュレーターにビームサーベルを構えているアインスは、水平にそれを立て、接近してズボラーナのコクピットを切り裂いた。

「ぐわあああ!」

海賊の断末魔がコクピット内で響き、ズボラーナは爆発した。これで残る機体は五機だ。

 更に、近接戦闘を行おうとする別のズボラーナが迫っている。だが、レイはこれを見切り、再びビームサーベルを展開し、今度は上空に一度飛び立ってから、縦に切り裂いた。この攻撃でもう一機のズボラーナも爆発。これで、残り四機となった。

 

ピキィィィ

 

レイは再び反応した。ネルソンが危ないと、感じていた。それにより、海中へ向かう、アインス。

 

 アインスがその場所に向かっている時、ネルソンとベレッサは交戦していた。しかし、海中と言う状況ではベレッサの方に分がある。ネルソンは、押されている状況だったのであった。

「増援だと!?何者だ!?」

ベレッサはレーダーに映る新たな機影を確認した。そこに映っていたのは、アインスガンダムである。緑色のツインアイは海中では目立つ。それに反応したベレッサは、舌を舐め回し、言った。

「まさか!あれは噂のガンダムタイプか!カモメの連中、随分とビッグなお宝を持ってるじゃねえか!!」

そう言った後、ベレッサはズボラーナの脚部をハルッグの後方に向けて蹴り飛ばした。この勢いにより、再びハルッグは海底に引き込まれてしまう。彼の標的は、アインスガンダムに移ったのである。

「てめぇに用はねぇ!あのガンダムタイプは手土産の対象だぜぇ!!」

やがてズボラーナXは鮫の如く、航行形態をとり、アインスに迫ってくるのだ。

「あれは……アインス……レイか……?クッ、彼に出撃させてしまうとは……」

ネルソンは内心、情けなさを感じていた。昼間の事もあり、レイには戦わせたくなかった。だが、今、アインスが海中にいる。それは、出来ればさせたくはなかったのである。

「ネルソンさん!大丈夫ですか?」

損傷しているハルッグを見て、心配するレイ。

「見ての通りだ……だが、どうして君が……?」

疑問に抱くネルソン。それに対して、レイが言った。

「それよりも、セイントバードの人質に関してはもう大丈夫です!襲ってきた海賊達はエリィさん達がどうにかしちゃいましたから。」

「何、じゃあ艦長は無事なのか?」

「……はい!」

瞬く間の出来事と、言えた。セイントバードのブリッジが占拠され、何も出来ない状況だった先程と違い、すぐに状況は変わった。これは、ネルソンにとっても好機であった。

「そうか……なら、良かった。他のメンバーにも伝えておく。ハルッグの損傷も激しいしな。不本意だが、撤退してレイに任せるしかないのか……レイ、頼む。」

「はい!」

この時、ハルッグはベレッサによる攻撃を受け続け、機体が半壊していたのである。この状況で戦い続ける事が不利だと判断したネルソンは、レイにこの場を託すことにしたのであった。

 任されたレイは、ネルソンの代わり、セイントバードを襲った海賊のキャプテン、ベレッサ・コロノアジーと戦うのであった。

 

「ガンダム!相手にとって不足はねえ!こいつが奪えれば大金が入る!!こいつの為なら多少の犠牲があろうと補えるンだよォォ!!」

ベレッサのズボラーナXは、標的をアインスへと完全に変更した。海中の中で、アインスに対してミサイルを放ち、迫る。

「くぅっ!」

回避しつつ、頭部機関砲で迎撃するアインス。これにより、ミサイルは幾らか減らす事が出来た。ミサイルの爆発は、周囲の灯を照らす事にもつながる。

 だが、ベレッサの駆るズボラーナXは明らかに動きが異なる。海中という環境も関係あるのだろうが、それ以上に機敏な動きだ。その上で迫ってくる、ベレッサ。

「野郎共、来い!ガンダムを捕獲する!!」

と、ベレッサは部下の人間に命令を下した。彼の命令により、動く海賊達。その数、二機。残り四機の内、三機がアインスガンダムを捉えようと動いているのだ。残りの一機は、セイントバードに向けて接近しようとしていたのである。

「強い……!」

海中でのズボラーナは本領発揮が出来る。いくら海中に慣れてきたとはいえ、慣れて間もな

いレイと、常に慣れているベレッサでは差が有り過ぎる。

「ガンダムのパイロットのその、面を拝ませてもらおうか!!」

その時、ベレッサはアインスにカメラの開示を希望した。レイはそれに応じてしまい、ベレッサの顔を始めて見る事になった。

 ドレッドヘアーに、眼帯を付けている男、ベレッサと、少女のような顔貌をしているレイ。

互いに顔を合わせたのは初めてだ。その中で、彼等は会話をする。

「ガンダムに乗っているのは女の子か?海賊も随分、舐められたもんだな!」

「この人は……!」

レイは無意識に怒っていた。再び少女に間違えられ、馬鹿にされた気持ちになったのだ。

「僕は、男だ!!」

「へぇ、少年かよ!見えねぇな!まあ、そんなもの関係ないんだけどなッ!!」

と、言いながらフォノンメーザー砲を連射するズボラーナX。アインスはシールドで構え、攻撃を防ぐ。

「坊やなら、海賊ぐらい絵本で見た事があるだろうによ!」

「海賊……」

ベレッサの言葉に翻弄されつつも、ゴクリと唾を飲み、警戒を怠る事の無いレイ。彼が発した、海賊という言葉に、少しばかり動揺している。

「坊やの中のイメージの海賊はどうだ?やっぱりピーターパンに出てくるフック船長か?それとも、カリブの海賊でも思い浮かべたんか?」

挑発する、ベレッサ。そして、子供であるレイはこの言葉に乗ってしまう。

「そんなの、関係ない!!セイントバードに手を出すなんて、させない!!」

あくまでも、守る為に戦うレイ。やがてアインスは脚部の魚雷をズボラーナに向けて、放った。ベレッサの駆るズボラーナに向けて放たれる、魚雷。しかし――

 

ドバアアッ

 

別方向から、二機のズボラーナXがフォノンメーザー砲で魚雷を破壊し、ベレッサを守った。彼が事前に呼び出していた二機である。

「よぉし、良いコンビネーションだ。」

と、ベレッサは言った。

 状況は三対一。不利な状況になった、レイ。彼等はどのような攻撃を行なってくるのか、想像しなければならない。そうしなければ、やられてしまうからだ。

「しっかし、ガンダムがまさかいるなんざ聞いてねえぞ?さてはあの連中、しくじりやがったか!なら勝手に殺されてろ!ガンダムだけでも持ち帰れたら大金が手に入る!」

あろうことか、ベレッサは犠牲になった仲間に対し、哀悼の意を表するといった事をしないのだ。寧ろ、仲間の犠牲は既に想定済み。その上での彼の行動なのだ。実際、ガムン達はまだ生きているのではあるが、ベレッサにとっては使い捨てでしかないのだ。

海賊団と言う名前ではあるが、結局は己の利益しか追求しない連中だ。それにより仲間が死のうが、関係がない。ただ、目の前に居る大金になり得る存在さえ得られれば良いという、自己中心極まっている人間。それが、ベレッサ・コロノアジーなのである。

(この人はアスーカルさんのような、仲間を大事にする人間じゃない……寧ろ、使い捨てる人だ……こんな人に、負けられない!)

ベレッサの言葉を聞いていたレイは、一人、怒りを覚えていた。大切な仲間が殺されたかも知れないというのに、平然としているこの男。躊躇いなく迫る、ベレッサ・コロノアジー。

「さぁて、ガンダムは頂くぜェ。」

ベレッサが笑みを浮かべた時だ――

 

ギュルルッ

 

二機のズボラーナXは、ワイヤーアンカーを合計二本、アインスの両腕部に引っ掛けるように狙ってきたのである。これにより、アインスは両腕の自由が効かなくなってしまったのだ。

「ああ、しまった……!」

そして、ベレッサの駆るズボラーナXはクローを展開し、アインスの胸部に向けて直接攻撃を行うのである。

「うあああっ!」

機体が激しく揺れる。敵のクローによる直接攻撃。その上で、機体が動かすことが出来ないという状況。レイにとって危機が訪れた。幸いにも昼間の新生連邦との戦いのように、コクピットに穴が開く事は無かったものの、その衝撃は凄まじい。緩衝用のクッションが展開され、レイの頭部は守られるものの、それでも衝撃を受けた。

水中仕様で海中での戦闘が行われやすくなったアインスではあるが、それはパイロットの技量が海中でも適応した上でその真価を発揮する。レイは海中戦に慣れつつあったものの、元々海中での戦闘に慣れているベレッサと比較しては雲泥の差と言えた。

 魔鮫、ベレッサ・コロノアジー。日本海を縄張りにして荒らし回っている海賊の団長。彼の仲間は下劣な人間が多いのだが、彼自身の腕は確かである。海中での戦闘に、旧デウス帝国の海中用の機体の愛称は、良過ぎるとも言えた。

「さぁて、機体はそのまま、坊やには死んでもらおうかなァ!ガンダムはその存在に価値があるんだよォ!!」

両腕部がワイヤーで固定されている状況。そこへ、ベレッサの駆るズボラーナは再びクローを展開していた。狙いを定めるその位置は、コクピットである。ダメージを負い続けていたその装甲。万が一、弱っているそれが直撃すれば、レイの死は免れない。コクピットに鋭利なクローが突き刺す事は、彼自身の身体を突き刺す事になるからである。

 巨大なクローを生身の人間が耐えられる筈がない。もしこれが通れば、レイは確実に息絶えてしまう。

 

 

レイはこの時に必死に願った。〝死にたくない〟と。彼は故郷に帰り、元の生活に戻りたいという気持ちがあった。

思えば去年の十二月下旬から、レイはセイントバードチームと同行している。それから二ヶ月余りの時が経ち、現在に至る。その間、多くの事を経験してきたレイ。様々な人間との出会いや別れはレイをより、成長させる機会を作った。そして、より一層故郷への想いを強めた。

故郷には家族がいる。合計五人の家族だ。ごく普通の家庭で育ったレイは恵まれた環境で育ってきたと言えた。それ故に、彼は真っすぐに育っていった。……アインスガンダムと出会うまでは。

そして、友人もいる。幼馴染の存在も、ある。リルム・エリアス。レイにとっての大切な人の一人。レイが、片思いをしている人間でもある。

 思えば、リルムの事を異性として認識しだしている時にレイは故郷を離れてしまった。彼女は、今どうしているだろうか。東京で一度連絡を取って以来、話が出来ていない。必ず故郷に戻り、そこで話がしたいと思っていた矢先に起きた、目の前の悲劇。

 レイは故郷に帰らなければならない。それは、自分にとって大切な人に再開する為。何を言われたって、今は構わない。自分が生きる事さえ、出来るのならば。

嬉しい事や悲しい事……その他の様々な思い出……。自分はこれからも作っていきたい。だから死ぬわけには行かない。生きたい。生きて、故郷に戻りたい――

 

 

―――――――――――――――――ドクン――――――――――――――――――――

 

 

その時、レイの眼が見開かれた。その時の彼の眼は変色しており、紅に染まっていた。普段は青く、澄んだ瞳。しかし今は深紅に染まった眼の色をしている。

それは、瞳の虹彩部のみが染まっていた。だが人という生き物がこのような現象を引き起こす事は可能なのであろうか。否、不可能である。レイの身体に、一体何が起きたというのだろうか。

 

グォンッ

 

レイの眼が深紅に染まった瞬間、アインスは今までにない動きを見せた。固定されている筈のワイヤーを無理矢理、前腕部で古い、あろうことかそれを強引に引きちぎった。この勢いで、アインスを固定していたズボラーナXはバランスを崩し、海底に落ちる。それにより、自由になった右腕に装備されているバズーカを一度分離。続いて、左手部のワイヤーを引きちぎった後、すぐにリアアーマーに搭載されているアクアコンバットナイフを展開してクローを防いだのだ。

その間、僅か1秒にも満たない。咄嗟に判断したとは思えない、早業である。

今までにも彼は力を持つ者のような、反応を見せていた。その代表例が、敵の動きが止まって見えたり、脳裏に電流が流れたりする等。しかし今回のレイは違う。今までとは明らかに異なり、まるで彼が別の人間であるかのような動きを見せることになる。

「なんだ、こいつ!?急に動きが!?」

焦るベレッサ。そして、表情を一切変えない、レイ。その上で周囲を確認し、まるで自動的に敵を補足しているように、そして機械のように敵を捉え、躊躇なく攻撃する。海底にて姿勢を崩していたズボラーナXの、コクピットをコンバットナイフで一突き。機体のみが残り、パイロットは死亡した。

 次いで、別箇所のズボラーナXにもアクアグレネードで狙う。その射撃は正確無比。確実に敵を殺めんとする射撃だ。迎撃する海賊だが、間に合わない。

「うわあああ!」

もう一人の海賊が断末魔を上げ、死亡した。グレネードによる爆発に巻き込まれ、その身体は跡形もなく消し去ったのだ。

 アインスは動く。だがそれは、まるでパイロットに翻弄されているが如くの動きだ。海中という特殊な環境中とは思えない動き。それは敵対する存在ですら、畏怖するものであると言えた――

 

―――――――――――――――――ドクン――――――――――――――――――――

 

「うぅ……!」

一方、艦内でガルム達を捉えていたエリィ達。その中で、一人エリィは頭を抱えていた。レイの眼が深紅に染まったと同時に感じた、感覚。シンギュラルタイプであるエリィを苦しめる、この感覚は何を示すというのか。

「艦長!?」

シンが、心配そうにエリィに声を掛ける。

「大丈夫……少し頭が痛いだけ。」

頭痛に耐えながらエリィは答えた。

(レイ君に何かあったのかな……それに、さっきの鼓動音は……?)」

彼女自身も今まで感じた事が無かった、奇妙な感覚。突然の頭痛がエリィを襲った更に、レイが覚醒した時に鳴った鼓動音を、聞いていたのである。

 

「隙アリなんだよ!!」

頭痛を訴えるエリィを見た、ガルムが突如、動き出した。手錠を掛けられているのにも関わらず、エリィの方に向かおうとしていた。

「艦長!!」

 

パァンッ

 

咄嗟の判断だった。エリィに危機が訪れると判断したシンが、ガルムの頭部を撃ち抜いたのである。その巨体は瞬く間に床にひれ伏し、頭部からは多量の血液が流れ出た。

 海賊の副キャプテンであるガルム・エレックは、シンの銃撃によって死亡したのである。

「副キャプテン!?マジ……か……」

残された海賊は五人。彼等はこのまま、クルーによって連行される事になる。

 咄嗟の危機ではあったが、エリィは守られた。しかし、今彼女はこの妙な感覚に悩まされている状況であったのだ。

 

 

―――――――――――――――――ドクン――――――――――――――――――――

 

 

エリィと同様に、ガーストも頭痛を訴えていた。

「ぐぅ……この感じは一体……?なんだよこの感覚……?」

一体この感覚は何なのか。シンギュラルタイプの力を持つガーストにも分からない、謎の現象。彼も謎の鼓動音を聞いており、その正体が分からないでいた――

 

 

―――――――――――――――――ドクン――――――――――――――――――――

 

 

「あああっ!頭が痛い!?何だこれ……?」

ジャスティスを駆るスバキも、この違和感を覚えていた。突然発症した頭痛。原因は全く不明。ただ一つ言える事があるとすれば、レイの眼が深紅に変貌した事が起因している。

 彼等に共通しているのは、皆がシンギュラルタイプであるという事だ。レイの覚醒がもたらす、この異常な現象は何を示すというのだろうか。

「チッ……!このやろぉ!!」

その時、セイントバードに接近していたズボラーナXを見た、スバキは頭痛に翻弄されながらもビームサーベルを展開し、胴体を切り裂いた。明らかに素早い動きで、敵を撃破する。これで、残るズボラーナXは三機だ。

 

 

 

状況は逆転した。覚醒したレイとオールドタイプのベレッサ。先程までのアインスとは全く異なる動きを行うアインスに、慄くベレッサ。

「何だあいつは!?クソ、このままじゃヤバい!新生連邦に応援を要請しないと……!」

先程まで悠々自適にレイを追い詰めていたベレッサだったが、レイの覚醒に伴い、次第に状況は変化していく。レイは、コクピット内で逃げていくベレッサをただ、追うばかり。その間もアクアグレネードで追撃をする、アインス。

 接近する実弾を見ては回避するベレッサ。だが、次に彼がモニターを見た時、アインスとの距離は迫っていたのである――

「何!?聞いてないぞ、こいつのスピード……!?」

 

ゴゥンッ

 

アインスは、右手部マニピュレーターでズボラーナの頭部を把持し、そのまま、海底に押し付けた。今までのレイでは考えられないような戦術。それも、躊躇なく行う。まるで、目の前に居る敵を抹殺せんとする為に。

 抵抗するベレッサ。フォノンメーザーが腹部から放たれようとするが、その前にアインスの左手部が腹部を突き刺した。エネルギーが暴走し、機体が爆発。ズボラーナの頑丈な装甲であり、コクピットは巻き込まれなかったものの、アインスに押さえつけられている状況のズボラーナは、身動きが取れない状況になった。

「馬鹿な!?こいつ……!?」

 

キシィン

 

アインスのカメラアイが輝く。そして、左手部マニピュレーターはアクアコンバットナイフを把持しており、海底に押さえつけた状態のまま、コクピットのみを狙う。

「や、やめろ――」

 

グサァッ

 

アインスは躊躇うことなく、ナイフをズボラーナのコクピットに突き刺した。先程までレイが感じていた死の恐怖を、今度はベレッサが受けた事になる。それも、一切の躊躇いもなく――

 

「ぎゃあぁ……!!」

 

魔鮫、ベレッサ・コロノアジーの断末魔がコクピットの中で響く。やがてそれは海底に沈み、コクピットからは血液らしき赤い液体が浮遊していた。

 レイは、その圧倒的な力を見せつけ、魔鮫を倒したのである。

 突然覚醒し、的確な動きで海賊のMSを次々と撃破していくレイ。その力の根源は何なのか?怒り?憎悪?それとも、生きたいという生存本能?何が引き金となったのかは全くもって、不明であった。

 

 

 

 ベレッサがレイに殺害される前、彼はズボラーナの中から新生連邦軍に応援要請を行なっていた。それを確認したブルーマーリンは、轟音を鳴らし、粟島へ急いで向かっている。新生連邦と海賊が組むという状況。またしても、セイントバードに危険が及ぼうとしている。

「役立たずの海賊共は結局軍を頼るしか出来ねぇのさ!やるぞ、テメェら!」

ブリッジにて声を荒げるシーギ・デューラ。だがそれに対する威勢の良い声は、響かない。

 

ガシッ

 

そして、頬をガーゼで保護しているクラリスがシーギの隣にいる。シーギはクラリスの肩に抱え込むように、自身の太い腕を絡ませる。

「てめぇの出番だ。今度は、しくじんなよ?お?」

まるで脅すように発言をするシーギ。クラリスは、それに対し、ただ、従うしか出来ない。

「了解……」

眉間に皺を寄せたクラリスは、静かに敬礼をし、彼の乗機、ディープブルーガンダムへと向かっていく。セイントバードは、海賊以外にも新生連邦とも交戦しなければならない状況に陥る事になる――

 

 

 

 ベレッサを倒したアインス。だが、彼は止まる様子を見せない。セイントバードに迫る脅威を倒さなければならない。その思いだけで、レイは動いている。彼の眼は深紅に染まったまま。

 やがてレーダーを見たレイは、そのままオーツェラーン号の方へ移動。キャプテン、副キャプテン共に失った艦は、ただ、パニック状態に陥るばかり。

「敵機体接近!」

「キャプテンとは連絡取れないのか!?まさか……!?」

「それよりあいつを倒すんだよ!!!」

「早くしろ!!!」

混乱する艦内。だが、その間にもアインスは迫る。バックパックのハイドロジェットの出力を上げ、カメラアイを輝かせ、オーツェラーン号を狙う。

 やがて、ブリッジを見つけたレイ。そのままアインスの前腕部を差し出し、アクアグレネードを発射したのである。

「バカなぁぁ――」

ブリッジを破壊されたオーツェラーン号。主要人物が居なくなった潜水艦は、最早只の塊以外の何者でもない。この瞬間、ベレッサ海賊団の戦力は全て消滅。辛くも、セイントバードチームは勝利を収めることが出来た。

 何故レイは躊躇なくこれ程に攻撃を行えるのだろうか。敵を倒す。ただ、それだけの為に動いているレイ。それは確かに、チームに貢献しているとは言える。しかし、今までのレイの事を思うと、明らかに異質としか言いようがない。

 

ダダダダダダ

 

アインスに、実弾による砲撃が迫る。レイはその方向に気付き、対応する。

 モニターに映るのは、ディープシーだ。ベレッサの要請を受けた新生連邦軍が、すぐにこの場に出現してきたのである。

「……!」

それに反応したレイは、ディープシーの機影を確認すると、すぐにグレネードを展開。それも、あえて近くの岩場を狙い撃つという行為に及ぶ。グレネードの衝撃により、岩場は崩れ、ディープシーは視界を遮られた。

 が、その瞬間をアインスは狙っていた。ビームサーベルがディープシーのコクピットを狙っており、突き刺す。それも、迅速且つ、的確な攻撃だ。今までのレイでは考えられないような、合理的な攻撃。これにより一機のディープシーが撃破される。

 そこへ、二機の機影がレーダーに映る。それに気付いたレイは残されたディープシーの脚部の魚雷をアインスに装備し始めた。

 そして、狙いを二機の方に絞り、魚雷を発射。的確な射撃はディープシーを狙い撃ち、いずれもコクピットに直撃し、破壊される。これにより、三機が一度に破壊されたのだ。

 次に、アインスはディープシーが残した局地対応ライフルを所持し始める。それを持ち、海中を移動する。

 実弾兵器が主流になる海中では、弾切れの危険が高い。敵機体の所持物を有効に利用する事も、戦略の一つである。しかし、レイの場合は海中という環境にまだ慣れていないにも関わらず、このような的確に戦場を分析できているという事が、今の彼の凄まじさを物語っているのである。

 

ピキィィィ

 

「……!?」

真紅の眼のレイの脳内に、電流が流れた。と、同時に、背後からの魚雷の存在を感じた。彼はこれに対応する為、急いでライフルを構えて発射する。魚雷は爆発を起こし、そこに一瞬だけ映る影が見えた。ディープシーとは形状の違う機体、ディープブルーガンダムである。クラリスが、この場に再び出現した。厄介な事になった。

アインスガンダムを捕捉したクラリスはディープブルーに乗って再びレイに襲い掛かる。

「アインスガンダムか!レイ、今度こそ殺してやる!!」

二度目のリベンジ。ビームトライデントを輝かせ、海中で勢いよく接近し、迫るクラリス。

「……!」

これに対し、何も発言しないレイ。寧ろ、彼はディープブルーの動きを見極めていた。

 ディープブルーはアインスの方向に向かってきている。現在は海中だが、浮上すれば海面に誘導する事も可能だろう。咄嗟の判断ではあるが、レイはアインスを海面まで移動するように操縦桿を引き、ハイドロジェットの出力で海面に近付く。

 

ザバァ

 

やがて両者は海面に出た。脚部のスラスターを駆使し、ホバー移動をする、両機体。

ディープブルーは肩部と腹部にビーム砲を備えている。海面上での戦いの方が、多くの武装を使用できるのだ。

「食らえよ!」

肩部のバインダーが稼働。続いて、腹部のビーム砲が展開される。そこにエネルギーが集約されていく――

 

ドバアアアアアッ

 

高出力の、それらが一斉に放たれた。ビーム粒子は容赦なくアインスに向けられる。

 しかし、アインスはこれを回避。海面を、まるでスケート靴で水平に移動するように滑りながら移動する、アインス。その時、ビームサーベルを構え、ディープブルーに向かう。

(こいつの気味の悪さはなんだ……?こいつ、本当にレイなのか?)

アインスと交戦する中で、クラリスは疑問を抱いている。全ての攻撃を避け、効率的な動きばかりをしているアインス。今まで交戦しているクラリスは、今のアインスから感じる違和感に対し、躊躇っていた。

「クソッ!さっさと沈めってんだよ!」

ビーム砲撃の次に、トライデントがアインスに向けられる。槍攻撃は間合いを取る上で有利だ。ビームサーベルの比にならない。

「このまま突き刺す……と、思ったか!?」

やがてディープブルーはトライデントをアインスに向けて突き刺そうとした時だった――

 

バシャァッ

 

突如、ディープブルーは空中に移動したのだ。闇夜の海上で、ギリシャ神話の海神、ポセイドンのようなシルエットが月明かりに重なる。その際も、トライデントにはビーム粒子が纏っている。

「くたばれよ!レイ!!!」

そのまま、槍はアインスの頭部から突き刺されようとした――

 

ガキィンッ

 

「何!?」

トライデントの柄の部分を、アインスは把持した。そして、そのまま、離さない。寧ろ、槍を奪う勢いだ。

 その直後に、後方へスラスターを展開するアインス。隙を突かれたクラリスは、アインスに槍を奪われるのを許してしまった。

「ちぃぃ!生意気が!!」

槍を奪われても、ディープブルーには武装がある。再びビーム砲を一斉に展開し、アインスに向けるのだが、アインスは垂直に飛び、これを回避する。

(こいつの動きはなんだ……明らかに異質だ……それにこいつ、声に対する反応もない……これが、レイなのか!?)

クラリスは力を持たない、“オールドタイプ”と呼ばれる人種だ。だが今までアインスと交戦してきた彼だからこそ分かる、“違和感”を今のレイから感じている。レイは今、戦闘中に全く言葉を発しないのだ。

レイはクラリスの事を快く思っていない。モントリオールでの出来事をはじめとして、彼に散々な目に遭わされているからである。

不快に思う人間に対する対応は、個人差はあれど、基本的には好意的に接する事はしないだろう。無視する者、極端に丁寧に対応する者、邪険に扱う者……それぞれの対応がある。だがこれらはあくまでも、日常生活という状況に限られる。

戦闘中という非常時でそのような対応が出来る者がいるだろうか。恐らく、難しい。皆が生きるのに必死だからだ。極限状況では人は良くも悪くも、本来の姿を見せる。従って、レイもクラリスと対峙する時は何らかの言葉を発するはずなのだ。だが、今の彼は言葉を発さない。ただ、沈黙したまま戦況を見極め、如何に確実に敵を破壊出来る方法が無いかを、模索しているのだ。

 空中を舞ったアインスは、ビーム刃が展開されている槍をディープブルーに向ける。それに気付いたクラリスは、間一髪これを回避。そのまま海上をホバー移動し、後方へ移動。バインダーを展開し、再びビームを放つ。そして、アインスはこれを間一髪回避し、次なる一手を攻めていく。

「てめぇ、何か喋れよ!!ずっと黙ってばっかりで気味が悪い!!!」

余りに効率的な動きをするアインスに、苛立ちを覚えたクラリス。そして、テールスタビライザーを展開してフォノンメーザー砲をアインスに向ける。突発的な砲撃だ。レイにも回避が難しい――

 

ピキィィィ

 

が、レイはこれを回避した。敵の動きを先読みしたのだ。最早普通のパイロットとは違う。彼の実力は、増している。深紅の眼を持つレイはその感性も磨かれつつあるというのだろうか。

「今のを避けた――」

 

ズバァァッ

 

その一瞬を、アインスは突いた。ディープブルーの左肩部がトライデントによって突かれたのだ。その機能を失ったディープブルー。この時、クラリスは危機を感じていた。

(俺がこいつを怖がっている……?ヤバいってのは分かる……!逃げるしかねえのか!?)

異常ともいえるレイの強さは、クラリスを追い込んでいく。咄嗟の判断でクラリスはディープブルーを海中に戻し、撤退を始めた。

 敵が撤退すれば、それを深追いする必要はない。敵が戻るのだから。だが――

「バカな!こいつ、追い掛けてくるのか!?俺を殺す気か!?」

海中に戻ったディープブルーを、アインスがトライデントを持って追い掛ける。これ以上の戦闘をする必要はない筈なのに、敵を破壊しようとする、レイ。

「……」

この時、レイは一切表情を変えていない。逃げるディープブルーを、追い続けるのだ。

 やがて逃げた先に、ブルーマーリンがあった。その時、レイの視線はブルーマーリンの方を見た。そして――

 

ゴボオオッ

 

ハイドロスクリューはブルーマーリンの方へ向かって行く。ビームトライデントは、展開されたまま。彼は標的を、ディープブルーから潜水艦へと変えたのである。

(俺を追うのを止めた……?あいつ、いつでも俺を殺せるって事なのかよ!!こんな、屈辱が……!)

再びレイによって屈辱を味わう事となったクラリスだが、今日に限ってはどこか、心のどこかで安心をしていた。何故だろうか。標的が自分でなくなったことに対し、何故これ程の安寧を感じるのだろうか?クラリスの中の本能が、そうさせたのかも知れない。

 

「敵機体接近!ガンダムタイプ!」

「何だとォ!?魚雷撃て!」

「間に合いません!ブリッジに来ます!!」

ブルーマーリンのブリッジにて、シーギが焦燥している。やがてモニターに映る紺色の機体の緑色の眼が、彼等に合った時、その機体が持つ槍は獲物を仕留めんと、両手で槍を振り回し、その刃を突き刺そうとしていた――

「やめ……ろ……!」

部下を殴る事で自身を優位に立てていた男、シーギ・デューラはこの時、紺色の巨人、アインスガンダムの攻撃を受け、自らの死に立ち会っていた。その際の表情は、この男が今まで見せた事のない、紛れもない恐怖の表情であったのだ――

 

ズバァァァァァッ

 

トライデントはブリッジを貫通。クルー達は皆がビーム刃に焼かれた。それに伴い、ブルーマーリンの機能は停止した。

 

ダダダダダ

 

ブルーマーリンの撃墜と同時に、ディープシーが集う。アインスを迎撃せんと、ライフルを構えるのだが、今のレイにそれは通用する筈がない。

 アインスは頭部機関砲を展開し、ディープシーを牽制。それにより怯んだ隙にビームトライデントを突き刺して貫通。まるで、漁師が銛で魚を突き刺すように、いとも簡単に狩りが行われているのだ。そして、そのまま別のディープシーにもそれは迫る。

「うわああ!」

恐怖する兵士。だが、時は既に遅い。

 結果的に二機がまとめてトライデントの餌食となった。アインスは、この短時間で海賊のキャプテンを倒し、更に新生連邦の増援をも蹴散らしたのである。

 海中戦に全く慣れていなかった少年は、突然の覚醒により戦況を一転させた。巧みな攻撃や、効率的な戦略は、まるで今までの彼とは思えない。アインスガンダムの方が、彼に翻弄されるが如く動いていた。機体の性能をパイロットが引き出したとでもいうのだろうか。それにしても、これ程躊躇いなく敵を殺めることが出来るレイの強さは、どこから来るのだろうか――

 

「はっ!?」

その時だ。レイはまるで意識を取り戻したかのように、その眼を大きく見開いた。彼の目の前には二機のディープシーの残骸。そして、ビームトライデントを持っているアインス。周囲を確認すると、機影は確認できない。レーダーにも、敵機体は映っていない。

「僕は……何を?」

あろうことか、レイは自らの行為を覚えていない様子だった。しかし、彼はこの時妙な感覚に包まれていた。何故ならば、彼自身の交戦中の記憶は全くなかったにもかかわらず、今、敵を倒したという、確かな手応えを感じ取っていたのである。

「何……これ……何これ……!?」

この時、レイは恐怖していた。自らの全く覚えのない行為と、気が付けば敵を倒していたという事。これが何を示すのかは、全く分からない。彼は頭を抱え、一人、恐怖しているのであった――

 

 

 

 時間が経ち、朝方の時間。水平線から昇りつつある朝日が冷たい海辺を照らそうとしている。周囲は徐々に明るくなっていき、少しずつ、日差しが島を照らそうとしている時間帯。

 セイントバードチームは危機を乗り越えた。海賊、新生連邦が迫って来た状況。ブリッジ内も一度海賊に占拠されそうになったが、クルー達の機転により、海賊に占拠される事はなく、経過した。各MSはデッキに帰還。今回の戦闘では幸いにも、誰もが倒されずに済んだのである。

 束縛した海賊は五人。内一人はシンが射殺した、ガルム・エレック。彼等は粟島に放置される事になった。キャプテンであるベレッサも、帰るべき艦もレイによって沈められている為、彼等は何もすることが出来ない。だからと言って、無益な殺生をする必要がない。しかしこのまま捕虜として使うにもどのような行動を取るか分からない為、エリィ達は話し合い、海賊達を放置する事にしたのである。

 ガーストとプレーンは抱擁していた。海賊に襲われ、恐怖していたプレーン。それを、静かに抱き締めるガースト。

「怖かった!怖かったネ……!」

「良かった……プレーン、無事でなによりだ。」

MSデッキ内でその行為が行われている。それを妬む者も僅かに居たが、祝福する者も居たのも、事実である。

 

「レイ君。」

アインスから降りて来たレイを、エリィが迎えていた。だが、様子がおかしい。何かに、怯えている様子のレイ。

「お疲れ様。守ってくれて、ありがとうね。」

そして、傍にはネルソンの姿もあった。

「遠くで見てはいたが、圧倒的だった。しかし気になるのは、海中に出て間もない君があれほど迅速に動く事が出来るのは、一体何故なのだろうな……」

レイの活躍は、ネルソンも思わず称賛する程だ。海賊、新生連邦に対して圧倒的な強さを見せつけたレイ。万事休すだった状況を、たった一機のMSが逆転するという出来事は、今までなかった。レイのその強さは何処から来るのか……と、疑問を抱くネルソン。

(僕は、一体何なのかな……)

呆然とするレイ。ただ、彼はセイントバードを守る為に戦った筈なのに、自らに宿った謎の力に、恐怖している様子だったのだ。

「レイ君、少しお話、良いかな?」

「……え?あ、はい……」

エリィがレイに言った。まるで、二人で話がしたいと言わんばかりの行為。ネルソンはそれを察した様子で、そこから離れていく。

 

 MSデッキの端にて、エリィとレイは会話をしている。先程の事についてだ。

「さっきのあの感覚……レイ君、君が発していた力でしょう?」

それは、彼が深紅の眼に染まった時だ。その際にエリィ、ガースト、スバキといったシンギュラルタイプの人間達が皆、頭痛を訴えたのである。それが一体何を示すのかも分からない。それが気になったエリィは、彼に聞いたのだ。

「レイ君に何かあったのは、恐らく分かる。けど、その後なんだよね。君が海賊も、新生連邦も撃退するぐらいの強さを見せたのは。あれは、一体何なのかな?」

当然の疑問だ。力を持つ筈のエリィ達ですら、分からない疑問。それが気になったエリィは、真っ先にレイと話をしたいと思っていたのだが――

「分からない、分からないですよ……僕だって、分からないんです……自分でも、覚えていないんです……」

「覚えていない?」

エリィは首を傾げた。

「そんな事、ありえるのかな……?」

「分からないんです!僕だって!怖い……自分が、自分じゃなくなるような感覚だったんです!気が付けば敵を倒してて、その手応えだけを感じているんです!

何が、どうなっているのかが全く分からないんです!!」

レイは呼吸を荒げ、言った。それ程に、自らが放った力に対し、恐怖をしている様子だった――

「レイ君が一番悩んでいる筈なのに……私、デリカシーの無い事を聞いていたね。ごめんね……」

エリィは素直に謝った。それは、彼に出撃許可を与えなかった事を含めての謝罪であった。

「多分、この事は聞かない方が良いかも知れないね。世の中には、知らない方が良い事もあるっていうもの。レイ君、今はゆっくり休んで。」

エリィはそれ以上の詮索を止めた。彼自身が苦しんでいる事を、聞いても余計に苦しめるだけ。それをして欲しくないという、彼女の配慮である。

「セイントバードは高度を上げる事が出来るようになったし、このままモントリオールまで向かいます。レイ君がここにいるのも、あと僅かだよ。」

「……はい。」

レイは、喜んで良いのか、分からないでいたのだ。セイントバードは発進し、空を飛ぶことが出来る。そうなれば、故郷へ戻れる。そうすれば元の生活に戻れる。それは、良い事だ。

 しかし故郷へ戻る前に、レイは妙な経験をした。セイントバードを守る為とはいえ、身に覚えのない力を得たレイ。そして、それにただ、恐怖している。

 普通でありたいと願っていた少年、レイ。彼の中で、“普通”とは異なる出来事が生じつつあったのである。その中でも、朝焼けがセイントバードを包み込んでいる。彼の感情とは裏腹に、絶景が海を照らしていて、カモメ達が数羽、その中を、餌を求めて飛び立っていた。

 




第三十二話、投了。
ベレッサ海賊団によって危機的状況に陥りつつも、レイの咄嗟の機転や、彼自身に秘められた力が目覚めた回でした。
その力に翻弄されていく主人公、レイといった感じの話です。
次回は故郷に帰ります。
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