「アレン止めて下さい!その身体で戦うなんて、無茶ですわ!!」
シュネルギアに着いた彼等。その瞬間に、アレンは行動を開始していた。右足の荷重時の疼痛に耐えながら、彼はティフォンガンダムの方向へ歩く。それに搭乗し、戦う為に。
「ドラグネスがやられているのを見た……!奴を、止めないと……!」
「何を言うのですか!その身体で出撃したら、貴方が……」
アレンを引き留めるジャンヌ。だが、迫るエファンを止めなければならないと、彼は懸命に動く。怪我をし、血が滲みながらも、アレンは戦う決意をする。
敵は裏切り者のエファン・ドゥーリア。躊躇いもなく彼等に銃口を向けた男。その男は、今度はシュネルギアに向けて牙を向けている。誰かが戦わなければ、皆が倒されてしまう。それだけは、避けなければならないのだ。
「ジャンヌは……お父さんと合流して……俺が、行くから……」
よろよろと、懸命に下肢を動かすアレン。重い足取りで、ガンダムの方へ歩く。
そして、彼はエレベーターに乗り、ティフォンのコクピットに搭乗した。
「グ……ううう……」
傷が痛む。左肩部、右大腿部から血が滲む。だが、彼は戦う。激痛に耐えながら、アレンは操縦桿を握った。呼吸を早め、その視界が遮られようとも、エファンを止めなければならないという意思が、今の彼を動かすのだ。
キシィン
ティフォンの緑色のカメラアイが輝き、バーニアの出力を上げ、ハッチから出撃した。健常時では痛みを感じない、出撃した際の衝撃も、怪我をしている状態では大きく響く。視界が狭くなっていく中で、アレンは戦場に身を置くのだ。
アーヴァインはドラグネスと交戦している。その体躯は外見以上の動きを見せる。ドラグネスのビームアサルトライフルは全く当たらない。それどころか、アーヴァインはその、左手部のマニピュレーターを駆使してドラグネスの頭部を鷲掴みし、そこからビームキャノンを放つ。カメラが破壊され、視界を奪われたそれはビームライフルを連射するが、それは自棄になった砲撃にしか、見えないのだ。
そして、次の攻撃を、立て続けに行う、アーヴァイン。側腰部に搭載されている、大型のビームサーベルラックを展開し、巨大なビーム刃が展開される。それは、躊躇いもなくドラグネスのコクピットを貫くのだった。
エファンがドラグネスを破壊した時、レーダーに映る機影が一つ。アレンの駆る、ティフォンガンダムが迫っていた。
「ほぅ、わざわざ私の前に現れるとは愚者だな。弱々しい感覚が伝わるぞ、アレン・レインド!」
「エファン・ドゥーリア……!」
ティフォンとアーヴァインの体格差は10メートル程度違う。人間で例えるならば、小柄なボクサーと大柄なプロレスラーか、それ以上の体格差だ。
「そんなボロボロの身体でわざわざ出撃か。わざわざ死に、来たようなものではないか。大人しく艦内にいれば、ジャンヌ・アステルと共に私の手で、死ねたものを。」
「俺は許さない……!多くの人を殺し、ジャンヌのお母さんを殺した……貴方を……いや、お前をっ!」
痛みに耐えながらも、彼は言葉を発する。それを見て、エファンは見下すように言った。
「お前には関係ないだろう?それは、私に対してジャンヌ・アステルが言うべき台詞だ。」
挑発するエファン。
カシュンッ
ティフォンは先制攻撃を仕掛ける。肩部をパージし、有線を展開。そこから、拡散ビーム砲を放つ。広域のビーム兵器は敵を攻撃するのに有効と思われた――
バイイイイイン
ビーム砲撃に対し、アーヴァインは左腕を差し出した。ビームは搔き消され、完全に消滅したのだ。
「ビームが効かない!?そんな、MSにバリアーフィールドが!?」
戦前まで、通常サイズのMSにバリアーフィールドジェネレーターが搭載されていた例はない。今まであった例としては、日本で交戦したダッゲインMk-Ⅱのみ。まさかこのようなMSにバリアーフィールドジェネレーターが搭載されているなど、思いもしなかったのだ。
アーヴァインはビームサーベルを装備し、ティフォンに迫る。巨大なビーム刃は、もしまともに受ければ撃墜は避けられない。ここは、回避運動を図るしかないと考え、ティフォンは一度MAに変形した。
「逃さんよ」
アーヴァインはフロントアーマーを稼働させ、ビーム粒子を蓄積し、ビームキャノンを撃った。まるで、先読みをしていたかのような軌道。怪我をしている中で交戦するアレンにとっては避けるのに、必死だった。
動きが完全に、読まれている。MA形態でそのビームを受けていては、撃墜されてしまう。アレンに迷いなかった。再びMSに変形し、シールドを構えてこれを防ぐのだ。
「うぅ……グ……」
反動が、ティフォンを襲う。それに伴い、傷口が痛む。振動がスーツからの血液を滲ませ、コクピットは血で染まっていく。
(駄目だ……意識が……集中しないと……)
怪我をしている状態で、意識を保とうとしている。だが、激痛が容赦なくアレンを襲う。撃たれた傷がここまで足を引っ張るとは、思いもしていなかったのだ。
「その間にも、傷は再生しつつあるのだろう。アドバンスドタイプの力を宿す存在。その傷が塞ぎ切る前にお前を殺すまでだがな!」
アーヴァインの、大型ビームライフルがティフォンに向けられる。高出力のそれは、夜空を禍々しい色に彩る。それを、何度も連射するのだ。
シールドは先程のビームを受け、ダメージを負っている。ならば、避けるしかない。回避運動を図る、ティフォン。反撃を行おうにも、アーヴァインにはビームを弾くバリアーが搭載されている。ビーム兵器は、通用しないのだ。
「MSサイズの……バリアーフィールドならば……ティフォンのビームを使えば狙える筈だ……!」
守る術がないのならば、攻めるしかない。アレンがそう考えた時、ティフォンのバックパックにあるバスターメガキャノン砲を、展開した。そして、ビーム粒子が放たれる。
この時、エファンは不敵な笑みを浮かべる。そして、左手部を展開したのだ。
バイイイイイン
またしても、ビームが弾かれた。ビームライフルや、拡散ビーム砲よりも出力の高いそれらでさえ、弾かれるのだ。
目を疑ったアレン。だが、敵は迫ってくる。
「驚いている暇はないぞ!戦場に於いて、油断は死と隣り合わせだ!デウス動乱の英雄がそんな事も分からんとはな!!!」
一瞬の隙を突いたエファンは、アーヴァインの大型ビームサーベルで迫る。激痛の為、判断が遅れたアレンは、これに応戦せざるを得ない。
だがビームセイバー一本で何が出来る?それを防ぎ切れるとは思えない。ならば、二本で迫るしかない。ティフォンはビームライフルを海中に捨て、それからビームセイバーラックを同時に抜き、そして、ビーム刃を展開した。二本のそれは出力を上げ、アーヴァインと対等に並ぶ。
「時間稼ぎか?自らの身体の再生を待っているつもりなのか?お前の中のディヴァインセルが活性化しているのだろう!だが、そうはさせんよ、アレン・レインド!!」
ディヴァインセル。エファンから放たれた言葉は、何を指すというのか。疑問を抱きつつも、両者は拮抗する。ビーム刃が打ち合い、弾ける。
「お前は……何を知っている……!?アドバンスドタイプの、何を!?」
「死にゆくお前に、それを答える必要があるか!?」
「答えろ……!ぐっ……!」
薄れゆく意識の中で、彼は健闘する。巨大な敵、アーヴァインを相手に、奮戦するのだ。
ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ
そこへ、一筋のビーム粒子が展開された。そのビームを放った先には、シュネルギアの姿があった。
「シュネルギアか……?」
シュネルギアが援護に入ったのだ。高出力のビームは、アーヴァインを狙う。
それと同時に、回線が入って来た。それに答える、アレン。
「ご無事ですか。シュネルギアも援護しますわ。」
「無事のようだな、アレン・レインド。」
ジャンヌと、ジンクがそこに居た。親子が揃って、シュネルギアの艦長席に座っている。アーヴァインと交戦している彼のフォローに回る為に、動いたのだ。
「どうにか……うぅ……!」
怪我が痛む。だが、彼は動かなければならない。アーヴァインが迫っている状況で、負ける訳には行かないのだ。
「ビーム砲展開!目標、敵MS!エファン……貴方を討つ事は不本意ではありますが、狙わせて頂きます……!」
実は、彼女はまだ混乱している。だがアレンの行動見て、自身も何かをしなければならないと考えていた。
セントマリア号内で様々な経験をしたジャンヌ。心を壊されかけても、アレンが支えた。そして、彼の決死の行動を見て来たジャンヌは、動かなければならないと、その気力を振り絞ったのだ。
やがてシュネルギアからはビーム砲が放たれる。しかし――
バイイイイイン
戦艦のビーム砲は、MSのものよりも遥かに出力が高い。故に、アーヴァインのサイズのバリアーフィールドであれば、防ぐ事は難しいと、考えられた。だが、その思考が甘かったのだ。
「まさか、シュネルギアのビームが効かないなんて……!」
驚愕するジャンヌ。
そして、次の瞬間にアーヴァインのバックパックに搭載されている、280ミリの実弾キャノンがシュネルギアに向けられる。巨大な二つの砲門からは、実弾が同時に、放たれた。
ドォンッ
それらの砲撃は、戦艦にとっては的以外、何者でもない。シュネルギアに直撃した事により、艦内は大きく揺れる事になる。
「エファンめ、本気で我々を抹殺しようと図るか!アステル家への恩を仇で返す男め!!」
愛娘を窮地に追い遣った男という事情は、既にジャンヌから聞いていた。そして、アステル家を裏切ったという事も。
(エファン、貴方のその行為は許されざるものではありません……ならば、私に向けて下さったあの優しさは、何だったのですか……)
ジンクはエファンを憎む。だが、ジャンヌはエファンを憎み切れていない。
裏切りは人を惑わせる。まだ、自分の中で男を信用しようという甘い考えがあるから、そのような迷いが生じるのだ。今のジャンヌは、躊躇いばかりがある。父、ジンクが指揮をする中、彼女の心境は、複雑だったのである。
「ドラグネス二機撃墜!」
「残り三機!」
「たった一機にここまでやられるとは……!」
ブリッジ内でオペレーター達が焦っている。エファンの駆る、アーヴァインが猛威を振るっているからだ。その中で、アレンの駆るティフォンは戦力の要と言えた。だが、パイロットの身体は大きく傷をついているのだが。
対峙するアレンとエファン。敵の方が機体性能、パイロットの能力共に上手だ。ティフォンとアーヴァインの交戦は続くが、ビーム射撃が通用しない相手である以上、隙を見つけて攻撃をするしかない。
(あの左手がフィールドを張っているのなら、それ以外から仕掛けるしかないか……!)
アレンは集中力を発揮させ、アーヴァインに接近する。そして、正面から突撃をする様に見せかけ、一度上空を舞った。
「安直なパターンの攻撃。それでよくデウス動乱を生き延びれたものだな。」
だが、エファンにそれは筒抜けだった。すぐにアーヴァインはティフォンの方向を向き、ビームライフルを放つ。高出力のそれを見て、辛うじて回避を行うが、すぐにアーヴァインは接近してきた。
すれ違う際にビーム刃で、ティフォンのシールドを裂く。まるで、その方向にディフォンが来るのを先読みしていたかのように。
「読まれている……!?うぅ!」
傷が、疼く。痛みに悶える中で、アレンはエファンの行動を、分析をしているのだ。
「お前の思考は分かる。故に、行動が読める。単純な話だ。それだけだ。」
この、“思考が分かる”という言葉を聞いたアレンは、エファンが行った一つの行為を思い出した。
それは、彼の思考を飲み取った事。船上でエファンに追い込まれていた時、アレンはエファンに思考を読まれた。これが、戦場では何を示すのかは容易である。
エファン・ドゥーリアは人の心を読める。つまり、どのように攻撃を仕掛けるのか、どのように逃げるのか、回避を行うのか、守りに入るのか。全てが分かるのである。
となれば、脅威以外何者でもない。たった一機で勝てるような相手ではない。
(俺の行動の全てが分かるっていうのか……!?)
「そうだ。分かるのだ。“私だから”こそ!」
再びアレンの思考を読み、攻撃を仕掛けるエファン。その攻撃に、躊躇いは、ない。高出力のビームライフルは的確に、ティフォンを狙う。シールドが破壊されている以上、防ぐ方法は限られる。回避するか、同じビーム粒子をぶつけるかだ。
「同じアドバンスドタイプなら、俺にだって出来る筈なのに……!どうして……お前にだけこんな能力が……」
薄れゆく意識の中、傷を負いながら彼は抗う。エファンとアレンは同類ならば、同じ力を持つ筈なのに、何故これ程差があるというのか。
「個別性だよ。常人、オールドタイプが例え同じ人種であったとしても、個々の育った環境、その能力が違えば異なる身体に成長し、思考も変わっていくように、私とお前とでは決定的にそこが違うのだ!!」
個別性。それは個々、別々に存在している概念。それに当て嵌まるものは、ない。科学的に人種や環境等が同じであったとしても、その育った環境や個人の能力は同じとは言えない。それは、アドバンスドタイプと呼ばれる彼等にも成り立つ話である。
「環境の違い……それだけで、思考を読み取る能力が発現するなんて……!」
恐らくエファンにはアレンにはない、“何か”があるのだろう。
「お前には、永遠に理解の出来ない事だ。」
と、言った直後にフロントアーマーを稼働させ、ビームを放つ。回避を行うティフォンだが、それすらも、読んでいるエファンは実弾キャノンで迫る。その、長い砲身でティフォンを追い、実弾が軌道を読み、狙い撃ちを行う。
辛うじて回避をするアレン。しかし、猛攻は続く。
「せめて、あのバリアーさえどうにか出来れば!」
アーヴァインの最大の脅威が、バリアーフィールドジェネレーターである。恐らく、前腕部に搭載されているそれがビーム兵器を防御するのだとすれば、それさえ破壊すればビーム兵器は通用する。ならば、何らかの手段で攻撃を行わなければならない。
アレンに迷いは無かった。ビームセイバーを再び展開し、アーヴァインに迫る。バーニアの出力は上がり、接近戦を試みる。
「流石だな、英雄と呼ばれた男。アーヴァインのバリアーフィールドがどこにあるのかを見抜いている。しかしそれ故に行動が読めるのは幸か不幸かだな!」
アレンの思考を読んだエファンは、アーヴァインの前腕部を狙ってくると予想し、迎撃態勢に入る。大型のビームライフルを側腰部にマウントした後、ビームサーベルラックを抜き、対抗しようと、迫る。
「そして、お前が次にそのビーム砲を使って迫るのは予想するのに易いという事だ!!!」
すると、アーヴァインはサーベルラックを180°反転させた。その瞬間、ビーム刃が展開されたそれらを、ティフォンの方に向けて投擲したのである。
予想外の攻撃だった。急いで回避を行うティフォンだが、間に合わない。それらはティフォンのビーム砲に直撃し、破壊される。これで、ティフォンの武装はビームライフルと、肩の拡散ビーム砲を主軸に戦わなくてはならなくなった。
「ビーム砲のないガンダムは、所詮敵ではない。さて、目標を変更するか。」
と、アーヴァインのモノアイが輝く。その目線の先は、シュネルギアだった。やがて再びビームライフルを構えたアーヴァインは急速に接近し、戦艦に向かう。
迎撃をするシュネルギア。ミサイルが一斉にアーヴァインに放たれる。無数のミサイルはいくらMSサイズの機動兵器であれ、避けきるのは難しい。と、なればアーヴァインがとる行動は一つ。ビーム砲を一斉に展開し、ミサイルを迎撃する事だ。
ビームが放たれた。フロントアーマー、ハンドビームキャノン、ビームライフル。あらゆるビーム兵器がミサイルを迎撃する――
ガキィン
そこへ、ティフォンが接近をした。アーヴァインの後方にしがみつくように迫り、そして、右手部にはビームセイバーを展開していた。
「ほぅ、それを、私が見抜いていないと思っているのならば愚かだな。」
「なっ……!?」
ドォンッ
あろう事か、キャノン砲の砲身が後方へ向けられたのだ。外見上では前方にしか対応していないように見える実弾キャノンだが、後方にも攻撃が出来たのだ。それを、受けたティフォン。脚部はこの砲撃により、闇夜の海へと崩れ去ったのである。
「うぁぁぁぁっ!!」
この反動で再び出血を起こすアレン。尋常でない痛みが、アレンを襲う。
苦しい。耐えられない。血が溢れ出る。薄れゆく意識は視界を閉ざしていく。コクピットはアレンの鮮血で滲み溢れている。
元々が、無茶だったのだ。瀕死の状態でMSに乗り、強敵と交戦すること自体が無謀だったのだ。こちらの動きを完全に読み、その上で躊躇のない攻撃を仕掛けてくるアーヴァインと、そのパイロット、エファン。この強敵に、瀕死のアレンがどのようにすれば勝てるというのだろうか。
「ぁ……うぁぁぁ……」
それに比例するかのように、機体も限界を迎えつつあった。シュネルギアに搭載されているMSはたった一機のMSに殲滅。残す戦力はティフォンと、シュネルギアのみ。そして、シュネルギアも被弾している状況だ。
すると、アーヴァインはマニピュレーターを駆使し、ティフォンの胴体部を鷲掴みしたのだ。それを、モノアイで怪しく見る、アーヴァイン。
最早身動きが取れないティフォンは、この攻撃を受けるのも容易かった。薄れる意識下では集中力も持たない。どう、戦えば良いかも分からないのだ。
「ここでビームを放てばお前は天に召される。アドバンスドタイプの真実も知らずに死ぬというのは、悔いしか残らんだろうな。」
最早エファンの言葉も、掠れて聞こえてくる。仮にイズゥムルートの光を放った所で、男には通用しない。
アレンは、ここにきて二度目の死を悟る。一度目は戦時中の、決戦の際に体験した。だが、彼は生き延びた。だが戦後、このような場所で裏切った男に殺されるかも知れない。
「このような結末になるのならば、いっそあの時、レヴィー・ダイルの提案を飲めば良かったのかも知れんな。それで、アステル家が新生連邦の管轄に入れば長生きは出来ただろうに。遅かれ、早かれの話、だが……」
(新生……連邦……?どう言う……事だ……?)
エファンが、何故新生連邦について口を開いたのかは分からない。薄れゆく意識の中で、アレンはそれだけを、感じていた。
「案外と脆いものだな、アレン・レインド。今度こそ、チェックメイトか。」
アーヴァインの左手部からビーム粒子のエネルギーが蓄積される。これが放たれれば、アレンはコクピット諸共破壊されてしまう。
「アレン!!」
ジャンヌの声が、響く。しかし、それは届かない。今まさに、ティフォンはアーヴァインによって破壊されようとしていた――
バシュゥゥゥゥゥ
その時だった。アーヴァインがティフォンをビームキャノンで撃ち抜こうとした時、彼の目の前をビーム粒子が横切った。
ビームが放たれた方向をみると、そこにはガンダムタイプに似た、機体の姿が。それも3機。いずれも同型機体である。いずれもが、ビームライフルを両手で構え、アーヴァインを狙う。
「あれは……国連軍の量産機!まさか……!」
シュネルギアのブリッジにて、ジャンヌが言った。
そこに映るもの。それは、轟沈された国連の水上艦とは比べ物になら無い程、巨大な戦艦の姿があった。推定全長は1キロメートルはあろう、その巨艦、そして、周囲にはそれらを護衛するように水上艦が浮かんでいる。
「ほぅ、アッサラームか。随分と大層な出迎えだな。まさか国連の最高部隊が出動するとは。」
エファンの語る、最高部隊というのは、国連の中でも圧倒的な力を持つ部隊のことであり、その本隊を目の前にしている。アッサラームと言う名の巨大戦艦は、アーヴァインに標的を示していた。
「敵MS、補足しました。」
「やれ。」
アッサラームの艦長が、指示をした直後、巨大なビーム砲を連射した。狙いは、エファンの駆るアーヴァインである。機体を守る為、エファンは一度ティフォンを放し、すぐにバリアーフィールドを展開する。
戦艦クラスの火力でも、バリアーフィールドジェネレーターは防ぐ事が出来ない。故に、対ビーム兵器では無類の強さを誇る。攻撃、防御、機動性。全てにおいて他を圧倒するMS、アーヴァイン。この鬼神の如きMSがフィールドを展開し、ビームを防ぐ準備をしていた時だった――
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
アーヴァインのマニピュレーターから離れたティフォン。その中で、アレンはこれを、最大のチャンスと考えていた。最早、これは一か八かの賭けだ。
彼は、力を振り絞り、操縦桿を握る。既に中破していたティフォンガンダムはビームセイバーを展開し、バーニアの出力を上げ、アーヴァインに、単身向かって行ったのだった。
この攻撃しか強敵を倒す手段がない。アッサラームが砲撃を行った、ほんの一瞬の隙を、アレンは見逃さなかったのだ。
それに気付いたエファン。だが、その距離は、既に至近距離だった。この、一瞬の隙が、エファンにとっては仇となったのであった。
「チィッ、私とあろうものが情けない事だなッ!!!」
接近を許した事により、アーヴァインはティフォンの展開したビームセイバーをまともに受けた。それは、今までバリアーフィールドジェネレーターを展開していた両側の前腕部の切除に成功したのである。これにより、アーヴァインのビームライフルは海中へ落ちていく事となる。
既に、ティフォンのコクピットは血まみれだった。しかしそんなものは関係無い。許せない存在を倒す為に、アレンは戦ったのだ。結果、初めてこの強敵に傷を付けることが出来た。
「つけ上がるなよ!アレン・レインド!!」
この時、今まで冷静を貫いていたエファンが初めてその、表情を変えた。他者を見下すような言動が多く見られた男の、怒りの表情。それを現した時、ティフォンの右肩部が破壊された。実弾キャノンを撃った衝撃によるものだった。
やがてティフォンはアーヴァインから離れていく。そして、そのまま海へと落ちていく。既に、アレンの意識は失われていた。コクピットの中で、身動きが取れないアレン。このままでは、死を待つのみだった。
ガキィン
そこへ、国連の機体、ヴァントガンダム二機が落ちていくティフォンの回収をしたのだ。間一髪、海に落ちる事なく済んだティフォンと、アレン。
「感涙的なチームプレーだな!だがそうはさせんよ!」
と、両手部マニピュレーターを無くしたアーヴァインはフロントアーマーからビームを放とうとした時だ。
後方から、ビーム砲撃が行われた。アッサラームや、水上艦からの砲撃。更には、ミサイル砲撃も。無数のそれらはアーヴァイン一機に向け、放たれる。
前腕部に搭載されたジェネレーターを破壊された事により、ビーム粒子による砲撃から身を守る術がなくなったアーヴァインは、これらの攻撃を避けるか、迎撃するしか、対処する方法がなかったのである。
「頃合いか。目的を果たせんのは心残りだが、今は仕方あるまい。」
全長1キロメートルはあろう巨艦と、その周囲に存在する艦隊。これらを統括するのが国連軍の部隊の一つ、最高部隊である。
いくらエファンがアドバンスドタイプと呼ばれる人間であろうと、この戦力を単機で相手するのは分が悪過ぎる。彼も、その技量は理解していた。その為、この場から撤退をする事にしたのである。
エファンが去った後、シュネルギアからアッサラームに、回線を繋いだ。その対応をしたのは、ジャンヌである。
「こちらはシュネルギア艦長、ジャンヌ・アステルです。先程はありがとうございました。貴方方は?」
彼女の問いに、アッサラームの艦長が答えた。
「こちらは国際平和連合軍最高部隊指揮官、ウィレス・レイド・アース。ボストンの一部代表、フェイン・バウアー氏からの要請でこちらに来た。
「ウィレス……さん……?」
彼女にとって、その名前には聞き覚えがあった。
かつてのデウス動乱の第十三特殊部隊。その所属戦艦の艦長を務めていた人間、ウィレス・レイド・アース。ジャンヌは戦前、彼女と共に共闘した事があった。まさか、この場でその名を聞くとは思いもしなかったのだ。
「ウィレスさん、お久し振りですわね。」
「ジャンヌ・アステル。まさか、ここで会うとはな。」
ウィレスも、ジャンヌの事を覚えていた。エファンに襲われていた状況で、彼等は再会したのである。
「そちらの、詳しい話を伺いたい。我が艦と接触を図って欲しい。」
「ええ……。」
エファンの裏切りにより窮地に立たされていた状況。アレンはこの状況を切り抜ける為に命を掛けて、エファンに挑んだ。
幸い、この場に国連の別働隊が駆けつけてくれた事が、危機を脱する事に繋がった。それも、知人である人間である。彼女達にとっては、まさに、不幸中の幸いと言えたのであった。
その後、シュネルギアはアッサラーム艦内に収納された。戦艦一隻を容易く収納出来る程、アッサラームは巨大なのである。
アッサラームのブリッジ内にて、艦長のウィレスと、ジャンヌは握手をした。その側には、父、ジンクの姿もある。
ウィレス・レイド・アース。その名は、軍関係者では有名人である。元地球連邦軍中佐。アレン達が所属していた、第十三特殊部隊所属戦艦の艦長を務めていた人間であり、エリィの恩人である。
デウス動乱後、彼女は地球連邦軍を退任し、縁があって国連軍に入隊。最終的には国連軍の最高部隊の司令官であり、尚且つ旗艦ともいえる巨大戦艦、アッサラームの艦長を任命される程にまで出世した人物である。
彼女の階級は、将軍である。国連軍には将官でいう、“大将”等の階級は存在しない。精々、佐官までが存在している程度だ。何故ならば、最高部隊が国連軍に於ける一番の軍隊である為である。
「前大戦以来だな。ジャンヌ・アステル。まさかこのような場所で会うとは思わなかった。」
「ええ、本当に……」
知人同士の再会。それは、本来喜ばしい事だ。だが今の彼女はエファンに裏切られた事と、アレンの事が心配でならなかったのである。
先の戦いの後、アレンはどうなったのか。それが気掛かりだったのだ。
「随分と、浮かない顔をしているが、どうした?」
ウィレスはジャンヌを気に掛けた。そして、それを察した様子のジンクが、ジャンヌの代わりにウィレスと話す事にしたのである。
「アース将軍、戦前は娘が世話になりましたな。今では最高部隊の司令官とは、恐れ入ります。」
アステル家投手であるジンクですら、ウィレスには顔が上がらない。国連という立場がそうさせるのだろうか。
「今では、平和国に協力してくれる立場であるとは伺っていますよ、ジンク・アステル。」
と、言ってから両者は握手を交わす。
ウィィィン
アッサラームのブリッジの、ドアが開いた。そこには、国連の兵士が敬礼をし、ウィレスに報告をしたのである。
「司令官殿、今、ガンダムタイプのパイロットを保護し、現在は処置を行なっているとの事です!」
「あの大型MSと交戦していたパイロットが……。承知した。」
「失礼いたします!」
と、兵士は敬礼をして去っていった。それと同時に、ジャンヌが口を開いた。
「ウィレスさん、そのパイロットは……」
「ん?どうしたか。」
ジャンヌは、視線を下に向け、言った。
「アレン・レインドです……かつて、貴方と共に戦った、クリスタルガンダムのパイロットです……」
ジャンヌの言葉を聞き、ウィレスは表情を変えた。
聞き覚えのある名前。そして、その名前の存在を、彼女は忘れる事はない。何故ならば、彼女はデウス動乱の英雄と呼ばれた青年が所属していた部隊の、艦長を務めていたのだから。
「何だと……!?」
「アレン・レインドは生きていたのです……そして、私達と、共に戦って下さったのです……」
「そう……なのか……。」
保護した人間が、まさかデウス動乱で共に戦い抜いた人間だとは思いもしなかったウィレス。そして、彼は今治療を受けている。
瀕死の状態で、シュネルギアを守る為に戦ったアレン。彼は力を使い果たし、その意識を失った。もし、アッサラームがこの海域に出現しなければ、どうなっていたのかも分からないのである。
やがて、三日が経過した。アレンはその間、集中的に治療を受けていた。エファンによって傷ついた身体。その状態でティフォンを駆り、敵を撃退した。その代償として、彼の意識は失われ、その上ティフォンも破壊されてしまった。恐らく、完全な修復は不可能であろう。
アステル家は、ティフォンガンダムという貴重な戦力を失う結果となってしまった。
エファンの裏切りが招いた惨事。多くの人間に傷痕を残す結果となった一連の騒動は、一段落着いた。まず、セントマリア号内に残っていたゲスト達は国連兵によって救助された。
そして、船内にいた暗殺者は一人が事情を話すという条件で捕縛し、残る暗殺者は全員がアステル家の調査員によって射殺されたのだ。
一人の暗殺者が吐いた情報では、皆がエファン・ドゥーリアによって雇われたという事だった。これにより、黒幕はエファンであった事が確定する。
しかし問題が残る。肝心のエファン・ドゥーリアが何者かであるのか、不明なのだ。従って、結局氷河族の所属という事しか、今回、得られた情報はなかったのであった。
「うぅ……ん……」
アレンは目を覚ました。彼は三日間、眠っていたのだ。
処置は無事に終えた。アレンは包帯を巻かれた状態で、少しずつ、目を覚ます。
ぼんやりとして見える白い天井。その上で、静かに両指関節を屈曲させるアレン。妙な感覚ではあったが、動く。はっきりと、指を随意的に動かしている感覚が、分かるのだ。
「アレン!!」
すると、彼を呼ぶ声が聞こえた。ジャンヌの声だ。その方向へ身体を向けようとするが、僅かな痛みが伴った。
今、ジャンヌは窓の外にいる。彼は安静にしなければならない身であった為、心配している人々は外で待機していたのである。
「気がついたようだな、アレン・レインド。」
再び彼を呼ぶ声が。その方向を見ると、そこにいたのはウィレスである。
アレンはその顔に覚えがあった。間違いない、かつての第十三特殊部隊の艦長を務めた人間の姿が、あったのだ。
「ウィレス……さん……?」
「あの時の生意気な子供が今じゃ随分と大人しい様子だな。」
窓越しで、ウィレスが言った。この台詞から、アレンはデウス動乱中では激しい感情の持ち主であった事が伺える。
「ここは……なんだ?俺は、過去に戻っているのか?どうしてウィレスさんが?ジャンヌと一緒に?駄目だ、混乱している……?」
エファンと交戦した時に意識を失い、気が付けばベッドで眠っていたのだ。混乱するのも、無理はない。
だが、何故この場にウィレスが居るのか?デウス動乱中に共に戦った人間が、窓越しで自分の包帯に巻かれた裸同然の身体を見ている。そこに恥はない。ただ、疑問に抱くしか出来なかったのである。
それから更に一日が経過した。その頃になればアレンは、手足を動かす事が出来ていた。そして、起居動作やベッドからの起立動作等も問題なく出来ていたのである。傷口の痛みは微かに残るが、先日の事を思えば回復はしていると言えた。
病室にジャンヌとウィレスが入ってきた。改めて、対面する彼等。アレンにとっては、夢ではない事がこれで明らかになる。
「良かったです……本当に!」
と、ジャンヌはアレンを抱き締めた。余程、彼の事が心配だったのだろう。
「ジャンヌ……心配を掛けたね。本当に、ごめん。」
「いいえ!貴方が無事ならば、何よりなのです!」
歓喜するジャンヌ。まるで、エファンの事を忘れるかのように。
そして、その側には将軍という階級の最高部隊の司令官の姿もあった。だが、アレンにとっては彼女は知人関係であり、そのような肩書きなど気にする様子ではなかった。
「改めて、久しぶりだな。アレン・レインド。」
「お久しぶりです、ウィレスさん。」
両者は、握手を交わす。五年振りの再会は時を感じさせる。一番驚いたのはウィレスの方だ。
五年前のアレンは反抗期の少年そのものだったという。現在のような穏やかな口調からは想像も出来ない程に、生意気な口を利く人間だったのだ。
「時間と経験は人を変えるな。そして、お前がアステル家と共に行動を共にするとは。」
「これもまた、成り行きではありますけどね。」
頭を掻きながらアレンは言った。
「アレンは戦って下さっています。先日も、私達の為に戦って下さりました。その……まさかの、出来事では、ありましたが……」
ジャンヌの口調が、戸惑いに包まれる。エファンの事を、思い出したのである。やはり、彼女の中では戸惑いがあった。そして、精神的な傷も完全には癒えていない。
アレンが意識を回復するまでの間、アステル親子はこの場に留まっていた。一つは、ジンクとウィレスが話をする為でもあり、もう一つは、ジャンヌがアレンの容体を気にしていた為である。
「アレン。お前が眠っている間にアステル当主と色々と話はした。ジャンヌ・アステルのパーティの為に国連軍を護衛に付けたが、まさか艦が撃沈されるとは思わなかった。」
「そうだ……どうして、アッサラームがあの海域に現れたんですか?あれは確か、国連の最大級の戦艦じゃないですか。それと、ウィレスさんと何の関係が……?」
疑問を抱いたアレン。それに対しては、ジャンヌが答えた。事情を知っている人間が説明をした方が、早いと判断した為である。これにより、アレンはウィレスが大きく出世した事を知るのであった。
「戦後になって凄く、努力をされたんですね。」
アレンは、関心を抱いている様子だった。
「私が今の立場で居られるのはチャール・ポレク氏の推薦もあったからだ。私一人の努力で成し得るものではない。」
所属が異なった人間が、別の場所に所属を変え、その中で、活躍していくには並ならぬ努力が必要だ。元々正義感や、平和の事について考えていたウィレスは、その部分をチャールに見込まれ、現在の、将軍という階級にまで昇進したのである。
「けど、あの後、大西洋でアッサラームが出現したのはどうして……?」
「それはな――」
ウィレスは事情を説明した。
アレン達がエファンと交戦していた海域にアッサラームが出現したのは、アーヴァインが破壊した国連の水上艦から救難信号が発信されており、ボストンに届けられていた為である。そして、一部代表であるフェイン・バウアーは国連軍の追加要請を行った。そこで駆けつけたのが、最高部隊、アッサラームという訳である。
「アステル家の主催のパーティで、非常事態が発生したと情報を聞いたものだからな。最高部隊が出撃する事になったという訳だ。」
アッサラームという巨艦が出動する事自体が、そもそも滅多にない事である。アステル家と平和国の繋がり故に、今回は出動する事が出来たのだ。
「まさか、そこでお前達と再会するとは思わなかったという訳だよ。アレン・レインドに.ジャンヌ・アステル。」
ウィレスは性別こそ、女性であるが、軍人気質である。しかし、親しい者への振る舞いは優しい。
そして、人望もある。アッサラームの艦長であり、最高部隊の司令官という立場。それらを経ても、彼女は部下から信頼されているのはその人柄故なのだ。
「後は、気になるとすればエファンの事だけですわね……」
やはり、彼女の表情は暗い。エファンの裏切りが、数日経過しても拭えないのだ。
「ジャンヌ・アステル。エファンと言うのは、エファン・ドゥーリアの事か?」
ウィレスから出た言葉に、ジャンヌは大きく反応した。まさか、彼女から“エファン”という固有名詞が出るとは思わなかった為である。
「どうして、ご存知なのですか?」
ジャンヌは首を傾げ、聞いた。
「前大戦の終盤、連邦軍の情報に、たった一機のジャスティスにデウス軍の一個艦隊が壊滅させられたと言う情報があった。だが、その情報は今では抹消されてしまっている。私は偶然そのデータを見た事があったが、確か、その名前だったとは思う。」
明確な情報という訳ではないが、エファンに繋がる一つの情報が明らかになった。それは、エファンは地球連邦軍に所属していたと言う事である。
「そういえば、奴は俺と戦っている時にこんな事を言ってた。“アステル家が新生連邦の管轄に入れば”って話を。微かに、聞こえた気がしたんだ。」
エファン・ドゥーリアが旧連邦軍に所属していたとして、今になってその発言。をすると言うことは、エファン・ドゥーリアは連邦軍に何らかの形で関わっている可能性が高いと、考えられた。
「その発言が本当ならば、エファン・ドゥーリアは今も連邦軍に所属しているという事になる。」
今の連邦。つまり、新生連邦軍の事である。
「少し、待って下さい。駿河湾からシュネルギアを発進した時、新生連邦軍に所在が発覚した事がありましたわ。」
「それって、つまり……」
エファンが連邦の所属と仮定して、シュネルギアの情報が新生連邦にリークされているという情報が、示す事はただ、一つだけだ。
それを、三人は、皆が同じ事を考えていたのである。しかし、その僅かな時間、誰もが口を開かなかった。それは、考えられるであろう事実を認めたくないが故に生じたのかも知れない。
「エファン・ドゥーリアは新生連邦のスパイとしてアステル家に潜入していたと言う事か。」
その中で、ウィレスが一人、口を開いた。そして、それはほぼ、間違いないと、考えられた。
「連邦内に於いても詳しい情報が消されている中、アステル家に潜入し、その目的を果たす為に暗躍して、先日のパーティでその牙を剥いたと言う訳か。」
ウィレスから語られる言葉。否定したい気持ちはジャンヌにはあったのだが、先日までの行動を考えると、否定出来ない。やはり、エファンは新生連邦のスパイなのである。
「となれば、あの暗殺者達はエファン・ドゥーリアが雇ったと言う事は、新生連邦が暗殺者を雇って、あの惨事を引き起こした事になる。少なくとも、新生連邦軍はエファンの行動を把握している筈だ……。」
アレンが口を開いた。新生連邦軍自らがアステル家の来賓の暗殺を企てる事はない。だが、外部からの、委託ならばそれは可能だ。
今までも新生連邦は、セイントバードチームに対して外部からの委託で攻撃を仕掛ける等の攻撃を行ってきた。表向きでは、連邦と何の関係もないMS乗り等の組織が勝手に攻撃してきたかのように振る舞う為である。
「そういえば、以前にセイントバードからデータが送られた時もそうでした。新生連邦軍に追従するように、海賊組織が彼等を攻撃した事があったのです。」
エリィから送られた情報にも、これらが疑われる光景が映っていた。
こうした一連の動きから考えられる、一つの答えが、導かれる――
「既に、新生連邦は直接的な手を使わずとも、国連に攻撃を仕掛けている事になると言う事か。」
エファンは所属を隠している。その上で、国連に攻撃を行ったのである。これは、最早明確な宣戦布告と捉えられても過言ではないのだ。
「レヴィー……あいつ、どこまで卑怯な手を続ける気なんだよ……!」
この一連の行為に総司令が関与しているのかは不明である。だが、これは見逃せない事態。
新生連邦軍という、地球圏の戦力の中核を成す軍が、氷河族、MS乗り等を使役して攻撃を行う。明らかになった卑劣な行為。それらは、許される事があってはならない。あって良い、筈がないのだ。
アルメジャン紛争以降、新生連邦と平和国の情勢は不安定となっている。表向きで戦争行為にはなっていないとはいえ、これらのような事が明らかになった。そうした事も、全て新生連邦は隠蔽をするだろう。つまり、情報を流したとしても、徒労に終わるのだ。
「ウィレスさん、どうにか、ならないんですか!?国連の司令官なら、新生連邦の横暴をどうにか出来れば……」
と、焦る様子のアレン。しかし、彼女から語られる言葉は、余りに冷たかった。
「国連の権限は平和国連盟が担っている。そして、平和国連盟は平和主義を唱えている。如何なる状況であろうとも、自ら戦闘行為を行う事はあってはならない。それが平和主義だ。我々が出動出来たのは、一部代表の要請があったからに過ぎない。」
チャール・ポレクの掲げた平和主義は、一見理想的なものではあるが、世界情勢が不安定な現状では肝心な時に機敏に動く事が出来ない、問題を抱えていた。
「それじゃあ、連中の横暴を黙って見ておけって事じゃないか……!既に犠牲者も大勢出しているのに、こんな事なんて!」
やり切れない怒りを抱くアレン。しかし、今はただ、無力なだけだ。叫んでいても、何も出来ないのだ。
「すまないな、アレン。我々にはどうする事も出来ない。仮にそれらが真実であったとしても、新生連邦側がそれを受け入れる事は、しないだろう。」
無慈悲だ。ウィレスとは親しい関係ではあるが、残念ながら彼女の権限でも何も出来ないのだ。アレンは、理不尽な気分に陥る。
「しかし、だからといってそれらに対する宣戦布告を行う事もまた、過ちです。」
その時、ジャンヌが口を開いた。
「ならば、アステル家は改めて、平和国の協力者として、動いていかなければなりません。」
元々新生連邦は混迷をもたらす存在として懸念していたジャンヌだったが、今回のエファンの件を見て、彼女はより、平和国との連携を強固にしてこうと、考えていたのだ。
「連中はあらゆる手を使って来るだろう。特に、エファン・ドゥーリアに関しては俺達が狙われ兼ねない!力を持つ存在の抹殺って言っていたが、奴はいつ、また来るのかも分からない!」
アレンは、ただ、悔しさだけを感じていた。新生連邦の行動や、エファンの行為。それらは、当然許される行為では無い。
だが、何が出来るのか?ただ、見ているしか出来ないのというのか。
「ならば、アドバンスドタイプの事について、理解していく必要がありますわね。」
ジャンヌの目線が、アレンに向けられる。
「理解していく必要?」
それが、一体何に繋がるのか。確かに彼等は自らの力の事を分かっていなかった。エファンに言われて、初めて知る言葉も多かったのである。
「私達はアドバンスドタイプをただ、分からない存在とばかり考えて、そこに真摯に向き合う事をしませんでした。エファンの目的が力を持つ存在の抹殺というのならば、その理由に繋がるものを調べなければならないと思うのです。」
穏やかな口調のジャンヌではあるが、彼女の表情は、真剣そのものだ。
「それが、エファンや新生連邦に対して何らかの解決策になるというのか?」
ジャンヌは首を横に振った。
「それらが直接的に繋がるかは分かりません。ですが、これから私達がしなければならない事は非常に多くなりました。新生連邦に対しては、それに対抗できる“力”の開発を。そして、アドバンスドタイプの事についても調べて行かなければなりません。それらが合わさった時、恐らく新生連邦に対抗できる力を、作り出す事に繋がるのではないか……と、考えるのです。」
一見、関係のないように見えるこれらの事。新生連邦への対抗手段と、アドバンスドタイプの真相。それは何を意味するのか。
この時のジャンヌは、決意を固めている様子だった。船上で起きた惨劇から、徐々にではあるが立ち直りつつあるのだ。
「私達はこれからの事について動いて行かなければなりません。エファンがアステル家を陥れる存在であり、その上で新生連邦の卑劣とも言える行為が明らかになった以上は。」
と、言った時、ジャンヌはアレンの手を、差し伸べた。
「アレン。アドバンスドタイプの秘密を明らかにする為にも、貴方に力を貸していただきたいのです。貴方の“血”と“皮膚”と“筋肉”を研究させて頂きたいのです。無論、私もそれは差し出すつもりです。」
それが、エファンの目的に繋がるのかも知れないと考えたジャンヌは、横たわる彼に協力を求めたのだ。
アドバンスドタイプ。彼等にのみ備わっている未知なる力。それ故に彼等は狙われた。そして、大勢の犠牲者を巻き込んだ。ジャンヌはその事に対して罪の意識を感じている。
もう、このような惨劇を起こしたくない。ならば、その原因の究明をしたい。彼女はそれらを把握したうえで、アレンに協力を求めた。
「私達アドバンスドタイプの身体は恐らく、常人とは異なる筈。その究明をしていく事は、今後の行動にも繋がると思うのです。」
アレンは、彼女の提案を受け入れるつもりでいた。自分達の身体の事が少しでも明らかになれば、それに対抗する力にも繋がるかも知れない。少しでもその可能性に賭けたいと、アレンは考えていた。
その時、アレンはエファンが言っていた言葉を思い出す。
――――――――お前の中のディヴァインセルが活性化しているのだろう―――――――
エファンが戦闘時に言っていた台詞だ。この、“ディヴァインセル”とは何を示すのか。もしかすれば、アドバンスドタイプに大きく関係する事ではないのだろうか。
「その、“アドバンスドタイプ”というものが何を示すのかは分からないが……我々としても、協力できる事はしていこうと思う。平和国の研究機関にそれらを渡す事は可能だ。少なくとも、妙な研究に利用されるよりは信用出来ると思われる。」
「平和国が協力をして下さるのですね!有難い事ですわ!」
ジャンヌは喜んだ。アドバンスドタイプと呼ばれる存在自体が希少な世界。その話をしても、信じて貰える人間などいない。だが研究となれば話は別だ。それらを解析する事で、何らかの成果が得られるのならば、研究を行う価値は十分にある。
その後、アレンとジャンヌはそれぞれの血液、皮下組織、筋組織の切除を行った。あくまでも、ごく一部の組織である為、所見上の傷跡等に、大きな影響はない。ジャンヌの場合は世界的歌手という立場でもあり、傷跡を残す事は出来れば避けたいところであるが、それらも痕に残さない程の傷だ。
それらは平和国の研究機関に提出された。そして、本格的にアドバンスドタイプに関する研究が進めていく事になる。
やがて数日が経過し、アッサラームは平和国本部のあるニューヨークに帰っていく。そして、シュネルギアもアステル家のあるローマに帰って行った。その間にもアレンの受けた傷口は回復していき、彼の傷は、所見上ほとんど認めなくなった。独歩で歩いても、痛みを感じないのだ。
これが、アドバンスドタイプの自己再生力の高さである。数日経てば、傷は癒える。常人を超えた自己再生能力の高さ。それがアドバンスドタイプなのだ。
「ディヴァインセル。それは、一体何なのでしょうか。貴方の傷の治癒の早さは医学論文等で言われている予後を遥かに上回っています。推定全治三ヶ月程度とされる怪我も、一週間で完治。恐らく私にもそれは言える事なのかも知れませんわね。」
「昔からそうだった。怪我をしてもすぐに回復する。これは体質だと思っていたけど、どうやらそうじゃないみたいだ。やっぱり、それが関係しているのか?」
「結果が出るまで、何とも言えませんわね。」
「そうだよな……」
アステル家に戻った彼等は、ひとまず休息をする事にした。
ジャンヌは亡き母親の部屋を訪れ、遺品の整理をしたりしていた。突然の母の死は彼女の心を傷つけた。そして、犯人が信頼していた男と言う事も、彼女を傷つける。だがそれでも彼女は動いて行かなければならない。今後の世界の為にも……。
一方のアレンは、再びアレクサンドリアに戻り、少しの間ワートンの下で世話になっていた。彼にとっての休憩時間が、始まったのである。
セントマリア号の事件が起きてから十日余り。世間ではセントマリア号の襲撃の事が連日報道されていた。そこには、インタビューを受けている、生き残ったゲストの姿も動画には映っていた。しかし彼等はただ、恐怖に怯えていただけであり、その真相を知る者はいない。
だがそれと並行して厄介な問題も生じていた。それは、ジャンヌのスキャンダルである。
エファンに射殺されたゲスペル・ギアンが、あろう事か死の間際にアレンを自身の部屋に招き入れる瞬間の写真と、廊下でアレンと接吻を交わしている写真をSNS上にアップしてしまったのだ。これがメディアでは上では厄介な騒動となり、世界中にこの情報が飛び火する事態になる。
新生連邦政府と、平和国連盟による戦争が始まるかも知れないという瀬戸際。そのような状況にも関わらず、スキャンダルで盛り上がるメディア、SNS。人と言う生き物は、何故このような愚業を喜ばしく思うのか。目の前に迫る現実から回避したいが故の、著名人のスクープ報道なのか。本来そのような事は目の前の大事の前では心底関心を抱く必要のない事だ。なのに、こうした事がやり玉に挙げられるという事自体、狂った世界になりつつあるのかも知れない。
第三十六話、投了。
アステル家を裏切ったエファン。その男との死闘の果て。
この結果、アステル家は大きく傷つく結果となった。
次回は場面が変わります。