その圧倒的な強さに翻弄される全勢力。そして、レイ達も巻き込まれていく。
混迷の戦場に出現した謎のガンダムタイプの存在は、この場で交戦する全ての兵士が着目していた。一体この機体は何者なのか――と、疑問を抱く者は多い。
その時、突如その場にいた全勢力に対し、回線が開かれた。そこから流れる、清らかで美しい声。その声は、この場に居た誰もが聞き覚えがあった。
ジャンヌ・アステルの声。世界的歌手である彼女。その彼女が指揮する艦、シュネルギアが、この場に出現したのである。
「私はジャンヌ・アステルです。新生連邦政府軍は、直ちに戦闘を中止し、戦闘行為を止めなさい。そして、今すぐ軍を引き上げなさい。もしこの忠告が聞けないのであれば……これ以上、戦闘行為を続けると言うのなら、私達は戦います。平和の為に。貴方方、新生連邦軍と。」
それは、紛れもなく新生連邦に対する宣戦布告だ。新生連邦が平和国連盟に対して宣戦布告を行ったように、アステル家がこの場に介入し、戦闘行為を始めようとしていたのである。
この放送を聞いていた者達の中に、エファン・ドゥーリアの姿があった。彼は自身の専用の水上艦の指揮官を務めており、戦場に出現したシュネルギアを見て、一人、笑みを浮かべていたのである。
「ジャンヌ・アステルが出てきたか。これは、随分と壮大な戦場へと変貌を遂げそうだな。」
と、語るエファン。
ピピピピピッ
その時、通信回線が入った。水上艦のMSデッキからである。所属しているジョゼフ隊の出撃準備が整ったという、報告だ。
「発進準備、いつでも行けます!」
「よし、各機発進せよ。」
エファンの言葉を聞き、MSデッキ内に居たジョゼフはそれぞれ、モノアイを輝かせる。やがてハッチが開き、一機ずつ、飛翔していく。
「少佐、自分は、今から、“最幸”の“志事”を務めて参ります!」
とある、一人のパイロットがエファンに対して言った。一人、やる気に満ち溢れている、その若いパイロット。
「ああ、気をつけてな。」
「はい!“顔晴って”きます!!」
と言って、通信が切れた。他のパイロット達が目の前の現実に対処しようとする中、そのパイロットは異様に笑顔を見せている。やる気を見せているのだろうか。
(ジュン・ピーシア、二十三歳。新生連邦軍パイロットではあるがSNSで副業関係の発信をしている人間。異様に意識の高さが目立つと他のパイロットから言われている人間だが、その実力は如何に……だな。)
先程のパイロットの名は、ジュンと言った。一見ではやる気に満ちている人間ではあるが、妙な言い回しをするその男を見て、エファンは僅かに違和感を覚えていたのである。
「私もアーヴァインで出る。後は任せる。」
そう言ってからエファンはブリッジを後にし、去る。彼の愛機、アーヴァインが、間も無く起動しようとしていたのであった。
ビゴォン
アーヴァインのモノアイが輝いた。エファンは全てのスイッチを切り替え、アーヴァインの全てのシステムを“ON”設定にし、巨体を動かす。
「エファン・ドゥーリア、アーヴァイン、出撃する。」
アーヴァインのバーニアが展開された。大出力のそれが起動し、黒い水上艦からジョゼフが先に発進した後で動き出す。
そして、巨体は海上を移動し、戦場へ赴くのだ。
戦場に出現した青い翼を持つガンダムは、飛翔体を操りながら移動している。ビームを放つ上、ビーム刃を展開しているその兵器。それはツヴァイが以前操った、ブリッツファンネルに酷似している兵器だった。
ではその機体は何者なのだろうか。そして、誰が乗っているのか。謎が謎を呼ぶ状況。その中で、攻撃を受けたナパームはこの機体に対して攻撃を行おうとしていた。ツヴァイを放置し、自らを攻撃したその機体を追い掛け始める、総司令。
「分かりますよ……その機体から感じますよ。貴方がここに現れたんですね!」
“何か”を察した様子の総司令はまるで青い翼のガンダムに惹かれるように、移動する。
「この攻撃だって、貴方ならばどうにか出来る筈ですよ!!」
そう言った後、総司令は、あるスイッチを押した。
ドォンッ
突如、ガンダムナパームのバックパックに搭載している大型のナパームランチャーが二基、展開された。それらは一斉に青い翼のガンダムに向け、迫る。
「……!」
遠距離から高速でせまるナパームランチャーにいち早く気付いた、そのパイロット。すると、機体を停止させ、避ける素振りを見せるどころか、寧ろ、八枚存在しているウイングを一斉に展開し、そこの突起部から一斉にビームを放ったのである。合計八門あるそのビーム砲は
瞬く間にナパーム弾を貫き、それに伴って大爆発を起こした。
「やはり、その反応の良さ!間違いない、貴方ですね!アレン!!」
総司令は、アレンの名を叫んだ。この事より、ガンダムのパイロットはアレンである事が、分かったのである。
この事は、ツヴァイに乗っているレイも分かっていた。力を持つ人間であるレイ。飛翔体を操るガンダムのパイロットの正体も、彼は感知していたのだ。
(間違いない、あれはアレンさんが乗っている……でも、どうしてここに?)
混迷の戦場に出現したガンダムタイプ。美しくも、どこか冷たさを感じる、その機体。そして、そのガンダムは飛翔体を駆使し、次々と、彼に迫るMSを撃破している。
ビーム砲撃は的確にエンジンを狙い、空中で爆発を起こすのだ。その爆風の中を、ナパームはビームサーベルを構えて接近した。それに反応した、アレン。
「アレン!まさかここで会うなんて!随分とお久し振りですね!!」
心なしか、嬉しそうな態度を見せる総司令。だが、それに対するアレンの態度は余りに違っていた。
「遂に戦争を起こしたな、レヴィー。俺はお前を止める。その為に、俺は動く。ブライティスを使って。」
以前のアレンならば、総司令を止める為に熱い想いをぶつけていた。しかし、今のアレンはどこか違う。冷淡な印象を受ける。
「僕が戦争を引き起こしたというのに、随分と冷静ですね。でも、貴方がここに乱入してくるのならば僕もそれ相応に、対処をしますよ!!」
その直後、ナパームはビームライフルを放った。これに対応する、アレンの新たなるガンダム、ブライティス。
機体名、ブライティスガンダム。型式番号AMSX-A100X。アステル家によって作られたガンダムタイプであり、バックパックには八枚の美しいウイングが搭載されている、独特の形状を持つ機体。アーヴァインとの死闘によってティフォンガンダムを失ったアレンの、新たなる力としてこの戦場に君臨したのだ。
バイイイイイン
至近距離でのビームライフルではあったが、あろう事か、ビームは弾かれた。ツヴァイと同様に、ブライティスにも両前腕部にバリアーフィールドジェネレーターが搭載されていたのである。
(やはり、この機体も……アステル家、侮れないか……!)
ビーム兵器を防がれたと感じた総司令は、歯痒さを感じている。バリアーフィールドジェネレーター。元々は大型のMSといった機体にのみ搭載されている対ビームバリアー装置だが、いつしかMSサイズの機体にもこうした装置が搭載されるようになっていた。そうした技術をアステル家が持っているのだから、これは脅威以外の何者でもないと言えた。
「そこっ……!」
ピシュンッ
アレンの脳内に電流が流れた。と、同時に飛翔体がナパームに迫る。それも、ビーム刃を展開した状態で。回避運動を行おうにも、間に合わない。シールドで胴体を守る、総司令。
「くっ!」
シールドと同時に前腕部を破壊された。左前腕を犠牲にし、再びブライティスと戦おうとする総司令だが――
ドバアアアッ
別の飛翔体が、ナパームを襲った。先程放たれたビームよりも出力の高い、兵器だ。同じ飛翔体ではない。サイズも明らかに、違う。
ブライティスにはツヴァイと同様、サイコミュ兵器が搭載されている。まず、ウイングの裏側に八基のブリッツファンネルが、そして、側腰部に二基のブラスターファンネルが搭載されている。今回、ナパームを襲ったのは出力の高い砲撃を放つ、ブラスターファンネルだったのだ。
ブラスターファンネルからの砲撃はナパームのカメラアイを直撃した。更に、バックパックまでもが撃ち抜かれている。このままの交戦は危険だと判断した総司令は、一度撤退をする事を決めた。
「前線に出るのは一度控えましょう……アレン……また、会う時まで……」
突如戦場に乱入し、その無類の強さを見せつけたブライティス。やがて、その美しいウイングを羽ばたかせるかのように展開し、この場を去る。
「アレンさん!」
その光景を見ていたレイは、アレンを追い掛けた。久し振りに会えた喜びと、この場を助けてくれた礼を言おうと、考えていたのだ。
「アレンさん!!あの、ありがとうございま――」
バシュゥゥゥ、バシュゥゥゥ
回線を使い、アレンに礼を伝えようとした時、ブライティスのブリッツファンネルがツヴァイを襲った。いち早くそれに気づいたレイはすぐに反応し、回避運動を取る。
「アレンさん……?」
予想外の事だった。まさか、自分に対して攻撃を加えてくるなど、思いもしなかったからだ。恐らく、自分の事を知らないのだと思ったレイは、再び接触を試みる。しかし――
ブイイインッ
今度はビーム刃が飛んできた。ブリッツファンネルの先端部を刃に変え、迫る攻撃にレイは困惑を隠せない。
「どうして!?アレンさん!!聞いて下さい!!」
理解の出来ない行動。何故アレンはレイを攻撃するのか。疑問を抱くレイ。ブリッツファンネルによる攻撃を回避しながら、アレンに迫っていく。
「アレンさん!!」
アレンに声を掛けるレイ。何故彼は反応しないばかりか、レイに対して攻撃を加えようとするのか。全く持って、理解が出来ない。レイは必死だった。アレンに声を掛けようと、ただその一心で懸命に迫る――
「今は話しかけるな」
アレンの言葉が冷たく刺さった。今、確かに聞こえた彼の声。その言葉は、レイを傷つけるのに十分な効力を秘めている。何故、アレンは冷たい態度をとるのか。
「貴様ァ!」
戦場に乱入したブライティスを迎撃せんと、ビームサーベルを展開して迫るジョゼフ。至近距離でブライティスの胴体を狙う。戦場で倒された仲間の敵討ちだろうか。
ピシュン、ズバァァァ
瞬く間の出来事だった。ブリッツファンネルがジョゼフのバックパックを砲撃した後で、すれ違う際にビームセイバーを展開し、ジョゼフの胴体を切裂いた。中にいたパイロットは即死した。アレンは、コクピットを狙っている。その一連の攻撃に、躊躇いは一切ない。
鮮やかな攻撃だった。まるで生ける大魚を捌くかのごとく、敵を葬ったのだ。この非常とも言える攻撃を見て、レイはどこか、恐怖を感じていたのである。
「レイ!」
混戦の中、ブライティスに興味を持ったアレンの友人、ガーストが姿を見せた。
「ガーストさん……あの機体のパイロットなんですけど……」
レイは言葉を辛うじて発している。これに対し、ガーストが言った。
「俺もシンギュラルタイプの端くれだから、分かる。あれにはアレンが乗ってるんだろ?あいつ、随分派手な登場の仕方をするな……」
ブライティスのパイロットを理解したガースト。友人であるアレンがこの場に現れた事は、彼にとっても幸運といえる事だった。
やがてエスディアはブライティスに近付き、回線を使って話しかけようとするが、アレンはそれを無視し、動き続ける。
「無視してんじゃねえぞ、アレン!!」
ガーストのエスディアは、アレンを追おうとするが、ブライティスの機動性に追いつく様子を見せない。旧式の改修機であるエスディアと最新鋭機のブライティス。そのスペックは雲泥の差と言えた。
エスディアがブライティスを追い掛けている間も、新生連邦の機体が妨害をするように立ちはだかる。エンパワーに搭乗しているディーストがビームライフルを構え、エスディアを襲う。それも、二機。
「邪魔すんなぁぁ!」
アレンと会話をしたい。その一心で迫るガースト。接近するディースト二機に対してビームバズーカを放ち、撃破する。ディーストはビームの熱に溶け、胴体ごと、消し去った。
エスディアとツヴァイはアレンを追う為に、機体を移動させる。何故冷たい態度を取るのかも分からないまま、彼等はただ、その真相を確かめる為に向かう。
「熱源……?」
ツヴァイのレーダーに、熱源が映った。海中から放たれた、ビーム粒子の束のような熱源。それを確認したレイは、すぐに回避運動を取る。
やがて海中から水飛沫を上げ、海中からMSが現れた。ディープブルーガンダムである。クラリス・デイルの専用MSが、この場に出現したのである。
「噂の白いガンダム!俺が仕留めてやるってんだよ!」
機体の姿を見て、レイは日本海での戦いを思い出した。ディープブルーによって一度は命の危機に瀕したレイ。そして、彼が覚醒した時にその圧倒的な力を見せつけた。
今回、彼等が対峙するのは実に半年振りと言える。だが今、彼等は再び対峙している事を知らない。レイはその機体にクラリスが乗っているのを知っているが、クラリスの方はツヴァイにレイが乗っているのを、知らないのだ。
ディープブルーは攻撃を仕掛ける。肩部バインダーを展開し、腹部のビームを展開。更に、ビームトライデントを差し出すように展開。その上で、テールスタビライザーに搭載されているフォノンメーザー砲を、股間部をくぐるように展開した。海上からの、一斉射撃である。
しかし、ツヴァイはバリアーフィールドを展開し、ビーム砲撃を防ぐ。
「ビームを防ぐだと!?そんな事が!?」
バリアーフィールドの事を知らないクラリスは、ツヴァイの防御機能に対して驚愕している。
反撃を行うツヴァイ。バスタービームライフルを構え、それをディープブルーに対して撃つ。高出力のビーム粒子が海上に向けられるが、ディープブルーは海中に潜ってそれを避けた。海中に入った瞬間、海上が白い蒸気を放ち、熱が拡散した。
「あのガンダム……クラリスさんまでここに居るなんて……!」
忌むべき存在、クラリス・デイル。レイをこの戦場に居させる事になった根源ともいえる男。この場に、その男が居ると知ったレイではあるが、今、彼が搭乗している機体はアインスと比にならない性能を誇る機体である、ツヴァイガンダムだ。心なしか、相手がディープブルーガンダムと言う、ガンダムタイプであれど、レイは然程脅威に感じる事は無かった。
それは、機体の性能の高さに寄るものもあるかも知れない。ある意味、レイはツヴァイと言う高性能MSの存在に救われていると、言えたのだ。
ザバァ
その時、ディープブルーはバーニアの出力を上げ、飛び上がった。再びツヴァイに迫る、クラリス。ビームトライデントはその刃をツヴァイに向け、まるで銛を突く漁師の如く、迫る。
「白いガンダム!!くたばれよ!」
意気込むクラリス。それに対し、レイは声を出し、言った。
「クラリスさんならやめて下さい!!」
「その声は……まさか!?」
レイも迂闊だった。自らの正体を敵に晒すという愚業を行ってしまったのだから。無論、レイに対して異常ともいえる執念を持っているクラリスは彼の甲高い声を聞き、敵視するのは至極、当然と言えた。
「レイか!!!随分と久し振りだな!!アインスガンダムから乗り換えたってのかよ!?俺の愛機になる予定だったアインスを乗り捨てやがってクソッたれ!!!」
相変わらずとも言える、レイへの異常な執着。全ては自らが招いた愚業であるにも関わらず、クラリスはレイを倒す為に執念の炎を燃やしているのだった。
「そのガンダムがお前の乗る機体と知った以上は容赦しねぇんだよ!俺に散々屈辱を与えやがって!くたばれよ!!」
そう言った後、再びディープブルーは一斉射撃を行なった。ビーム砲撃に、フォノンメーザー砲、そして魚雷。ありと、あらゆる砲撃武器が展開される。
しかしツヴァイはバリアーフィールドジェネレーターを展開し、ビームを弾いた。実弾に関しては拡散ビーム砲で撃ち抜き、ディープブルーが放った武装は全てツヴァイによって弾かれるのだ。
反撃の為にツヴァイはバスタービームライフルを撃つ。突然の攻撃に、急いで防御をしなければならないと判断したクラリスは、ディープブルーの右バインダーをシールド代わりにした。これに伴い、バインダーは形状を崩壊させる。
「貴重な武器をよくもォォ!」
怒るクラリスは、再びバーニアを展開し、ツヴァイにトライデントを向けた。距離を狭め、
その刃を、差し出す。
ガシッ
「なぁにぃ!?」
だがツヴァイはトライデントの“柄”の部分を把持した。このまま、薙ぎ払うようにトライデントを振るい、ディープブルーを翻弄する。
咄嗟に、ディープブルーは両手を放した。巻き込まれる訳には行かないと、考えた為である。
「邪魔をしないで下さい!」
レイはそう言い残し、バーニアの出力を上げ、海上から去る。最早、レイの中にクラリスの存在は全くもって印象に残っていない様子だった。今の彼は、アレンに会う事。それを最優先事項に考えていたのである。
「待てよ!糞が!!!」
と、叫ぶクラリスだが――
バシュゥゥゥ
そこへ、国連のヴァントガンダム、三機が一斉にビームライフルをディープブルーに対して放った。突然の砲撃を受け、成す術もないディープブルー。粒子はバインダーや頭部を撃ち抜き、爆発を起こしたのである。
「ぐあああ!こんな、屈辱があああああ!!!」
レイに相手にされないばかりか、その後に出現した国連の機体によってディープブルーは破壊されてしまったのだ。爆発を起こす前に、クラリスは辛うじて脱出を図っている。しかし戦闘能力を失った彼に、最早闘志は残っていないと言えたのであった。
セイントバードは、傷を付きながらも新生連邦軍の機体と交戦し続けている。接近する機体に向けて機関砲を放つ。だがセイントバードはこの間にもダメージを負っている。守護するように回るトルクスも、新生連邦の数の暴力には対処出来ない。
「艦長!更に大型の熱源確認!!戦艦クラス……いや、それ以上のものです!」
インクの声が、ブリッジ内に響いた。セイントバードに迫る大型の熱源。それを見る為に、皆がモニターを見る。
「あれはアッサラーム!?」
「国連の旗艦じゃねえか!あんなデカブツが相手って訳かよ!?」
国連の最高部隊の母艦、アッサラームが接近してきたのである。アッサラームは、セイントバードの事を新生連邦の戦艦だと思い、接近して来たのである。
「普通に戦って勝てる相手じゃないわ!戦える相手じゃないのなら、説得を試みるしかない!」
エリィの言葉に対し、スラッグが反論する。
「無謀じゃないですか!?明らかにこっちに砲撃を向けていますよ!」
そして、その砲撃はそのままセイントバードに向けられ、放たれる。操縦桿を回し、回避するスラッグ。
しかしセイントバード自体も巨艦だ。ビーム砲を防ぎ切る事等、不可能に近い。
「あぅっ……あれに狙われるなんて……」
揺れるブリッジ。アッサラームと言う脅威の戦艦に狙われた事。それ自体が危険と同義だ。死を意味する。セイントバードが破壊されるのも時間の問題だった。
「やっぱり、説得をします!国連と戦う気はないわ!インク、アッサラームに対して回線を繋げて!あの艦の艦長と話がしたいの!」
「無茶です!こんな状況で聞いてくれますかね!?」
「何も行動を起こさないで死ねって言うの?私達は軍でも何も無いの!それを考えて!話せばきっと分かってくれる筈……」
一か、八か。この状況を打開するには説得しかない。武力で勝てないのならば、聞き入れてもらうしかないのだ。インクは彼女の指示通りに、アッサラームに向けて回線を繋げた。この時、エリィはアッサラームにかつての恩人であるウィレス・レイド・アースが乗っているという事を、知らないのである。
アッサラームのブリッジ内では、オペレーターがウィレスに対して聞いていた。セイントバードからの回線。そして、それがかつての部下であるエリィからの入電であるという事。この時、ウィレスは知る由もなかったのである。
「将軍、あのヒエラクス級から入電です。どうされますか?」
モニターをちらと見て、ウィレスは言った。
「開け。それに伴い攻撃を一旦中止せよ」
ウィレスの指示により、攻撃は中断。エリィからの回線を受け取る事にしたのだ。
明らかになる互いの顔。見覚えのある顔に、互いに驚愕する事になるのだった。
「ウィレス……さん!?」
「エリィ……?」
かつてのデウス動乱で共に戦い、何よりも尊敬していたウィレスの姿。それはエリィに衝撃を与えるものだった。
「ウィレスさんが、アッサラームの艦長……?そんな、どうして……?」
かつての地球連邦軍の第十三特殊部隊の艦長を務めていた将校、ウィレス・レイド・アース。その彼女が、今では国連の最高部隊の司令官をしているという事に驚愕する、エリィ。まして、国連の最大級の旗艦の指揮を執っている。モニターに映るウィレスの顔に、目を疑ったのだ。
「エリィ・レイスだな。何故お前がここにいる?」
かつての部下に対するウィレスの言葉は冷たい。それは、戦闘中と言う非常時の状況であるが為なのかは定かではない。
「ウィレスさん、私達は新生連邦に攻撃を受けているんです!国連と戦う気なんて、ありません!だから、私はアッサラームと戦う気なんて、ないんですよ!私達の目的は、この戦闘域からの脱出なんです!だから、攻撃を止めて下さい!」
恩人への言葉。エリィはその言葉をただ、ウィレスに伝える。アッサラームの艦長が知人ならば、融通は利く可能性があった。このままアッサラームからの攻撃を止めて貰えれば、セイントバードは助かる可能性があるのだ。
「了解した。エリィ、アッサラームにその艦を向かわせろ。詳細は状況が落ち着き次第、聞く。総員に告ぐ!今、本艦の前にいるヒエラクス級戦艦は敵艦ではない!誤射をするな!以上!!」
彼女達が顔見知りであり、かつての仲間という事が幸いした。結果、セインドバードはアッサラームに守られる事になるのであった。これを幸運と言わず、何と言うべきであろうか。
「ウィレスさん……良かった……本当に……!」
安寧の表情を浮かべるエリィ。緊迫した状況での、束の間の笑顔。
だが戦場でその行為は命取りとなり得る。セインドバードに熱源が迫ってきていたのだ。レーダーに映るそれらを見て、インクは言った。
「熱源接近!数は二!艦長!指示を!」
「あ……えと……迎撃を!」
喜びに感情を取られたが故に、明らかに判断が遅れた。完全な、油断だった。
グォンッ
ブリッジの前に、二機のガンダムが立ち塞がるのを確認したのは、その時だった。
特殊強化モデルの乗る、バイラヴァーガンダムとアトミックガンダム。これらがセイントバードの前に立ち塞がったのである。以前に交戦した事を覚えている彼等は、セイントバードを撃墜せんと、それぞれの兵器を構え始めたのだ。
「しまっ――」
ビーム粒子が蓄積される。もし、これが発射されればブリッジは崩壊する。そうなれば皆が死ぬ。セイントバードに迫る、危機。
ズバァァァ
しかし、その危機はすぐに脱した。アインスガンダムが駆け付けたのだ。ビームサーベルを展開し、アトミックに切り掛かったのである。しかしアトミックもそれを察知していたようで、回避運動を取ったのだ。
「てめぇ、邪魔しやがってよ!!」
「やらせるかよ!お前等なんかに!!」
スバキの声が響く。そして、肩部のミサイルポッドを全て展開し、アトミックに向けるが、アトミックはそれらを回避し、MAに変形。そのまま、ビーム砲を連射するのだ。
「くたばれよ!アインスガンダムゥ!」
ビームランチャーやミサイルなど、あらゆる砲撃がアインスに迫る。それも、回避運動をとろうとするが間に合わない。シールドを展開し、自身を守ろうとした――
バシュゥゥゥ
そこへ、一筋のビーム粒子がアトミックのビームランチャーを貫いたのだ。的確な射撃。全く無駄のない動き。その粒子は一筋だけではない。三発、放たれた。いずれもがアトミックに直撃するのだ。
「ぐあぁぁ!クソッタレが!!!シエル、後は任せた!!」
この瞬間、アトミックは撤退を余儀なくされた。謎の砲撃を受け、特殊強化モデルのガンダムは撤退をしたのである。
「青羽根ェェェ!」
この戦場に現れ、新生連邦に打撃を与えているブライティスが、この場に出現し、アインスを守った。最も、守ったという意図はないのだろうが。
シエルはバイラヴァーを駆使し、ブライティスに迫る。槍の先端からのビームを連射するが、ブライティスは回避せず、バリアーフィールドを展開したまま接近する。
「舐めてるのか、お前は!」
怒ったシエルが接近するブライティスに対し、槍を突き刺そうとしたのだが、至近距離でブライティスはウイングを展開し、そこからビームキャノンを一斉に展開した。バイラヴァーにそれらが直撃し、左上腕部から形状が崩壊したのである。
「ちぃぃ!」
今回は勝てないと判断したシエルは、バイラヴァーを撤退させた。この僅か一分にも満たない時間の間に、アレンは二機のガンダムの破壊に成功したのである。
そして、ブライティスはこの場を去る。まるで、次なる敵を見つける為に。
「強い……なんだよ、あいつ……」
残されたスバキは、ただ、呆然と見届けるしか出来なかった。だが、その間も危機は続いている。アッサラームに向かう事が目的となってはいるが、新生連邦からの攻撃は止まる事を知らない。
新生連邦の後方部隊に動きがあった。水上艦二隻に挟まれている中に、一機の巨体の姿があった。人型兵器であるMSというよりは、要塞に近い形状を持つ、巨大MAである。新生連邦は、この作戦の為にMAの制作も行っていたのだ。
機体名、エールゴーニオ。型式番号、NFMA-00X。デウス動乱後になり、開発された、全長80メートルはあろう、巨体だ。機体の腕部に該当する部分には巨大な二門の砲台が備えられており、口径部に当たる部分にも砲門が存在している。そして、背部には多数のミサイルポッドの姿も見られる。
今から、国連に対する脅威として、この巨体が動き出そうとしていたのであった。
「例のMAはどうか。」
「は、準備は完了しています。」
「そうか。ならば出撃させろ。フン、やはりああ言うMAの存在は戦争には欠かせんな。デウス動乱時でもそうだったよ。戦況を変えるのは大体MAの存在があった。」
ビゴォォン
エールゴーニオはモノアイを輝かせ、その巨体を動かす。
機体制御は一人では難しい、そのMA。五人のパイロットが必要になる。腕部のビーム砲の担当や、背部のミサイルの担当、そして、機体を動かす担当。それぞれに役割があり、この巨体を動かす。
エールゴーニオは前方に敵艦を察知した。それと同時に、両腕部に備え付けられているメガビームキャノンを放った。戦艦の主砲の比にならない、その破壊兵器は瞬く間に国連の水上艦を破壊する。
「敵にMAの存在を確認!現在こちらに向かって……うわああああ!」
台詞を喋る暇もなく、国連の兵士達は抹殺されてしまった。脅威の怪物が、国連に迫っていたのである。
直ちにヴァントは迎撃を開始するが。それも無駄な足掻きに過ぎない。
バイイイイイン
ヴァントガンダムが放ったビームライフルが、通用しなかった。エールゴーニオにはバリアーフィールドジェネレーターが全身に張り巡らされている。ビーム兵器を一切受け付けないその怪物は、ミサイルに寄る一斉射撃でヴァントガンダムに迫る。
更に、機体先端部から大型メガビーム砲を放出。絶大な威力を誇るそれは、国連のヴァントを一掃したのであった。
しかしそこへ、青いウイングを展開したブライティスが舞い降りた。そのカメラアイは、エールゴーニオを睨みつけているようだった。
「隊長、熱源察知!例のガンダムタイプです!」
「何!?こんな所に……!?しかしこちらにはバリアーフィールドがある!いくらガンダムだろうとエールゴーニオをやれるかよ!」
意気込む、エールゴーニオのパイロット達。
ブライティスはビームライフルを放つ。しかし、弾かれた。バリアーフィールドが張られているのだ。その際にエールゴーニオはノーズミサイルを連射、背部からもミサイルを放つ。更に、ウイング部に搭載されているガトリングも放出する。大量のミサイルや実弾がブライティスに襲い掛かる。
「チッ!」
膨大な実弾兵器やビーム兵器は、まるで雨の如くブライティスに迫る。戦場を混乱させているアレンへの制裁のつもりだろうか。この数を避けきるのは難しいと判断したアレンは、ビームシールドを展開。これにより防御には成功するものの、いくらか機体は被弾してしまった。
更に、その他のミサイルは国連の水上艦にも被弾していた。アレンはエールゴーニオへ攻撃を仕掛ける為、ブリッツファンネルを展開しようと、試みたのだが、この際、彼は違和感を覚えていた。
(ヴァントガンダム……何故あのMAを守る……?)
国連のMSである筈の、ヴァントガンダム。何故か、その数機が新生連邦のエールゴーニオを守護するように立ち回っているのが確認できたのだ。その理由は、一切不明だ。妙な動きをするそのヴァントガンダムに、寡黙な態度を貫くアレンは、僅かながら困惑していたのである。
国連の佐官であるアナザ・クライアスは、ザビール・エルケスの命によって国連を裏切る事を命じられていた。国連では勝てない為、新生連邦に寝返り、そこから国連に対して攻撃を行うようにと言う、卑劣極まりない作戦。その指揮をしているのも、ザビールなのだ。
「国連を討て!あのMAはやらせるな!戦場に現れた、あの忌々しいガンダムタイプも敵だ!」
「クッ……」
かつて仲間だった存在を討たなくてはならないというのは何という理不尽であろうか。しかし、今のアナザにそれを拒否する権限はない。平和国連盟の一部代表が、権力が上である以上、彼の命令は絶対だ。その結果水上艦の指揮をザビールに執られたとしても、逆らう事は出来ないのである。
それは最高部隊の将軍であるウィレスにも言える事だった。平和国連盟の権限は一部代表や議長と言った人間が担っており、彼女等は所詮、その下に居る軍に過ぎないのである。
「こんな、同胞を簡単に攻撃するような事があって良い筈がない……」
躊躇する、アナザ。だが、ザビールはアナザの胸倉を掴み、言った。
「何を戸惑っている!?ちゃんとやれよ!!」
ザビールはアナザに激昂している。だが、新生連邦に寝返るように指示をしたのはザビールの独断だ。それが許される事等、あってはならない。
アナザはこの行為に対し、遂に怒った。ザビールの腕を払い、怒りをぶつけるのだ。
「勝手な事を抜かすな!!!我々に国連を討てだと!?そのような真似、出来る筈がないだろう!!一部代表とはいえ貴様のエゴには皆が嫌気を差している!」
一部代表と佐官の口論。立場はアナザの方が不利ではあるが、この独断行為を認めんとするアナザが必死に抗う。だが、ザビールはそれに対して反論した。
「ふざけんじゃねえぞてめえ!!!
この艦はな!僕が指揮ってるんだよ!お前等はただ僕の命令を聞けばいいんだよ!!!一部代表を何だと思っていやがる!?」
激昂するザビールに対し、アナザは突如、笑みを浮かべる乾いた笑いというものだろうか。
「それに関してだが、もう貴様は一部代表ではない。正確に言えば〝元一部代表〟だな。」
「貴様、何を言っている!?」
ザビールには、この言葉の意味が理解出来ていなかったのだ。何を言っている?この男は?錯乱するザビールはただ、怒りながら混乱するばかり。
「貴様は新生連邦に入った。その瞬間、貴様の一部代表と言う立場が消えたわけだ。これの意味が分かるか?つまり、貴様は自分の意思で一部代表としての立場を破棄したということだ!私はそう判断させてもらう。そうなれば……この艦は私の指揮する艦だ!!!」
ザビールの意思で新生連邦に寝返ったというのなら、彼は最早、平和国連盟の所属でも、国連の所属でもなくなる。つまり、一部代表だった彼は新生連邦に籍をおいたことにより、その立場は消滅することになった。そうなれば彼は、最早、只の人である。何の肩書きも持たぬ、一般人と同義だ。一般人に権力など、あろうはずがない。
「お、おまえええええええええええええ!!!」
ザビールはアナザの胸倉を掴んだ。軍人として今まで活動してきた人間を、無知な若者が攻撃するという愚かな図式が出来上がっていた。
ドゴッ
ザビールはアナザに対し顔を殴った。鈍い音が、ブリッジ内に伝わる。彼はそのまま床に倒れ、鼻から血を流し、苦悶の表情を浮かべている。
「イライラさせんじゃねえぞッ!!!」
一部代表と言う肩書を失ったザビールは、怒りに満ちた表情で、アナザに銃を向け始めた。プライドを傷つけられた恨みなのか、許せないと言わんばかりに引き金に指を置いている。
だが、錯乱するザビールに対し、アナザは言った。
「フフ……ここで私を撃っても……どの道、我々は終わるさ……新生連邦が我々を受け入れる……筈がなかろう……すまないな、皆……」
その際、アナザに向けてブリッジ内のクルー達は、敬礼の挨拶をした。皆が命を懸けている、戦場。その中でザビールのような人間の戯言は、通用しない。
「はぁ!?黙れよてめえ!」
自棄になるザビール。それに対して冷静に対処するアナザ。彼は何かを悟った様子だった。理解のできないザビールは余計に怒り出すばかり。銃の引き金を引こうとするが、銃身が
震えて狙いが定まらない。
「皆、逃げても良いのだぞ……?何故、逃げない?」
アナザは退艦許可をクルーに促すが、誰もがそれに応じない。クルー達の忠誠心は並みならぬものがあったのだ。
「我々は中佐と共に散りたいと思います!この先何があろうと、私達は中佐と共に!」
「フッ……私のような男と道連れになる必要はないというのに。」
「新生連邦と共に戦うぐらいならば、いっそ死ねれば本望です!」
部下達の気遣いも空しいものだった。アナザはこの後、起こる事を理解しているが故に、部下達に脱出するように言ったのだ。
「意味が分からねえ!戦えよ!僕の命令に従えよ!!!」
一方で必死になるザビールこの状況で、最早誰も彼の言うことを聞く人間など存在するはずがなかった。その時、脱出を試みなかった通信士がアナザに連絡した。
「中佐!後方より大型の熱量を感知!回避間に合いません!」
「やはりか。」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ
それはエールゴーニオの巨大ビーム砲だった。新生連邦に寝返り、味方である筈の、アナザの水上艦を巻き込み、その強大なビームが放たれたのだ。
「え……わぁ!来るな……くるなぁぁぁぁぁ!!!」
ザビールは懸命に命乞いをするが、それも無駄な事であった。ビーム砲は容赦なく彼らを巻き添えにする。
「連中は最初から我々を利用していて使い捨てにする気だったのさ……その時点で、死を悟ったさ……分かっていたよ……私にはな――」
これが、アナザの最期の言葉となった。絶大な威力を誇るビーム砲は水上艦を跡形もなく消し去る。その中には、新生連邦のMSの姿もあった。MA、エールゴーニオは味方をも巻き込み、その強力なビーム砲を放ったのである。
やがて、水上艦は跡形もなくなった。アナザも、ザビールもその身体の一片すら残らず消えたのだ。
「何が、起きた?さっきの水上艦は国連所属の筈。それらが国連に対して攻撃を加えて、更にあのMAが砲撃を放った?」
その戦闘域を飛んでいたブライティス。先程の砲撃を目の当たりにしたアレン。
だが、この時、熱源がブライティスに迫るのを彼は確認した。エールゴーニオが、ブライティスに向けてミサイル砲撃を行ったのである。
それらを回避しつつ、ウイングからビームを一斉に展開し、ミサイル砲撃を防ぐ。やがて、ウイングや側腰部に装備されているブリッツファンネルを全て放出。エールゴーニオを囲み、無数のビームを、彼の意識下で放つ。
だが、それらは全てバリアーフィールドで弾かれてしまう。全体に覆われているバリアーは、ビーム兵器を受け付けない。それが効かないと分かった時点で、アレンは展開したファンネルを全てビーム刃に形状を変化させた。
これにより、エールゴーニオの表面にビーム刃が次々と突き刺さる。損傷を受けたエールゴーニオは安定を無くした。
「敵からの攻撃を受けています!!」
「薙ぎ払え!忌々しいガンダムタイプめ!!」
所々で爆発を起こす中、エールゴーニオはビーム砲撃を放つ。前腕部が巨大な砲台になっているそれらをブライティスに向けて、放ったのだ。
だが、ブライティスは前腕部を差し出し、ビームを完全に防いだ。バリアーフィールドジェネレーターが機体を守ったのである。やがて、ブライティスはそのままセイバーを装備し、エールゴーニオの上に止まる。そのまま、セイバーをエールゴーニオに突き刺した後、ビーム刃を展開しながら、縦に切り裂いている。
ズバァァァァァァ
やがて80メートルに渡る巨体を切除し終えた後に、エールゴーニオは大爆発を起こすのだった。
「隊長、もう、持ちません!」
「化け物め……!」
それが彼等の断末魔となった。ブライティスは、猛威を振るった巨体を瞬く間に葬ったのである。ブリッツファンネルを駆使したオールレンジ攻撃。レイはこれを使い、頭痛に苦しみ、意識を失った。
だが、アレンはこれを使いこなしている。だが、この兵器を使う際、彼はその表情を殺している。それは何故なのかは、分からない。
この戦場は混乱していくばかりだ。その中で、フーク・カズロブ率いる新生連邦の部隊が新たに参入してきた。
マドラ級四隻が、とある、超大型MSを率いて移動している。その機体は、以前日本で暴走事故を起こした、ダッゲインMk-Ⅱだったのである。パイロットは、特殊強化モデルである、リノアス・クリストルだ。
「大佐、ダッゲインの出撃準備、完了しました。」
「よし、発進。陸地に設置後、すぐに攻撃を行え。」
「……攻撃……」
リノアスが一言、呟いた後、ダッゲインを運搬していたワイヤーは、すぐに切り落とされた。
この時、ダッゲインは右マニピュレーターに、超大型のビームライフルを装備している。それは従来のMSが所持しているものを遥かに凌駕するサイズ。従来のMSのゆうに十倍以上は凌駕している、兵器だ。最早それは、戦艦の主砲か、それ以上のサイズを誇っているのである。
ドオオオオオオオオオオオオオオン
落ちた瞬間、地鳴りが響いた。
ビゴォォォン
ダッゲインはモノアイを輝かせ、前方に展開する国連の艦隊に向け、攻撃を開始した。
まず、その巨大なビームライフルを前方に構える。遠方から見ても、明らかに従来のMSよりもサイズが段違いのその兵器は、見る者を恐怖に陥れる効果があった。
「前方に大型MS確認!所持武器は、ビームライフル……?馬鹿な、なんだあの大きさは!?」
「迎撃用意!!撃てー!!!」
ヴァントガンダム数機が、ビームライフルを放つ。水上艦からもビーム砲が放たれる。だが、ダッゲインにこの兵器は通用しない。何故ならば、バリアーフィールドジェネレーターが機体全体に張り巡らされているからだ。
やがて、反撃と言わんばかりに、ダッゲインの構えるビームライフルは水上艦隊に向けて放たれようとしていた――
ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ
戦艦の主砲か、それ以上の火力を誇るビームライフルは、応戦していたヴァントを消滅させる。それ以外にも、瞬く間に三隻の水上艦が一撃で葬られたのである。
「大量……破壊……」
この一撃を受けた国連艦隊だが、引く様子を見せない。旧型とはいえ、絶大な火力を誇るその機体を放置する事は、軍の壊滅に繋がりかねないのだ。
バリアーで覆われているのならば、ビーム刃で攻撃をすれば良い。安易な発想ではあるが、それしか国連が太刀打ち出来る手段がなかった。ビームサーベルを構え、一斉に巨体へ向かうヴァントガンダム達。
だが、ダッゲインはこれに対し、リアアーマーに搭載されているバレットビット三十基を放つ。無数の巨大なサイコミュ兵器は迫るMSへの猛威と化す。
更に接近する機体に対しては、新造されていた、超大型のビームサーベルを振るった。極太のサーベル。その全長はダッゲインの巨体をゆうに上回る。それらが薙ぎ払われた時、迫っていたヴァントガンダムはなす術もなく、散り行く。
ズバァァァッ
その時、ビーム刃を展開したファンネルがダッゲインに襲い掛かった。巨体であり、尚且つ行動範囲が限られるダッゲインは避ける間もなく攻撃を受けてしまう。
「サイコミュ兵器……この感じ……」
リノアスが呟いた。彼女は、近くに迫っていたブライティスの存在を感じ取っていた。無論、そのパイロットも。
次に、ダッゲインはブライティスを殲滅しようと、腹部にエネルギーを集中。そして、拡散されるビーム砲を放った。高熱の粒子が空中を舞い、迫る。
この砲撃によってもヴァントガンダムが次々と破壊されていく中、ブライティスははただ一人、バリアーフィールドを展開し、対応。砲撃から身を守ったのだ。
ファンネルは光刃を形成し、ダッゲインに迫った。一斉に展開されるサイコミュ。刃が巨体に向け、放たれる。
やがて機体の表面に傷を付ける事に成功するが、その間にバレットビットによる砲撃を受け、妨害された為か、十分な損傷を与える事が出来なかったのだ。
「チッ……」
アレンはこの時、表情を殺しながらも舌打ちを打った。サイコミュ兵器を扱う時、アレンは何故、表情を殺すのか。彼の操るファンネルは、的確に敵を攻撃する反面、狙いが、甘くなる時がある。まるで、情緒不安定な感情を抱いているかのようだ。
この間、本体であるブライティスもビームセイバーを展開して接近していた。ビットからの攻撃を回避しつつ、ダッゲインの腹部に近付き、一気にその、出力を上げたのだ。
「うぐぅ……」
堅牢な装甲が幸いし、コクピットが剥き出しになる事はなかったが、腹部はコクピットがある場所だ。もし、もう一度切りつけられたら自身に危険が及ぶ。それを防ぐ為にもと、再び巨大なビームサーベルを装備した。
「やはり、あの時のパイロットか……」
アレンが一言、呟いた。それは日本での出来事。ティフォンに乗り、ダッゲインと交戦した時にそのパイロットであるリノアスをアレンは感じ取っていた。それは、リノアスも同じだ。
「暖かな……感じ……?けど、どこか……無理をしている感じ……?これは……何……?」
リノアスは、アレンから発される感覚を感じ取っている。だが、その正体は不明だ。
「うぅ……不快な感覚……正体不明……破壊……!」
煩わしさを感じたリノアス。この時、彼女の目は開眼する。
次に、ダッゲインは再びビームサーベルを展開した。自身の身長を軽く超える程長く、巨大なビームサーベルがアレンに迫るのだ。
このビーム刃は避けるしか生き延びる手段はない。ブリッツファンネルや、自身のビームセイバーでは拮抗は不可能だ。もし、これに接近した瞬間、ブライティスは機体そのものが消滅するだろう。
ブライティスは回避に成功。巨大なビームサーベルは海上に直撃し、一気に海水を蒸発させる。大量の蒸気がそこから溢れ出し、白い霧が覆った。
アレンは、これを好機と捉えた。再びブリッツファンネルを展開し、ビーム刃をダッゲインのコクピットへ向けていく。
既にバレットビットが多数展開されている中での出来事。他のヴァントガンダムを攻撃しながらブライティスと交戦している為、戦力が分散しがちだ。故に、このファンネルの攻撃は、通り易いと言えた。
ズバアッ
やがて、ダッゲインのコクピット部分にファンネルが直撃した。この攻撃により、コクピットが剥き出しの状態になってしまったのだ。
「あれは……」
剥き出しのコクピットを、モニターで拡大するアレン。そこ映るのは、一人の少女の姿だ。
以前、彼等は僅かな時間ではあるが会話をした事がある。しかし、その姿を確認した事はなかった。アレンは初めて、リノアスの姿を見た事になる。
少女の姿を見て、アレンは接近を試みた。以前話した事を、思い出した為である。
「この子が、パイロットか……?」
アレンがそう、反応した時だった。
「……!?」
アレンの脳内に電流が流れた。その瞬間、まるで意識がどこかへ飛ぶような、感覚に陥ったのである。身体はブライティスのコクピット内に居るのに、精神だけが飛んだような感覚。今、アレンはそれを味わったのだ。
ここは、どこだろうか。白い空間のような場所。周りには何もない、空間。その中で裸の姿で漂っているアレン。そして、彼の向かいに居るのはリノアスだ。ロングヘアーの美しく、整った肢体の容姿の彼女が、アレンの前に居る。精神世界とでもいう場所だろうか。
『君は……?』
アレンが口に出した。この時、彼の顔は交戦中と違い、明確に表情が浮かんでいる。
『貴方は以前に会った、暖かな感触の、人……』
『暖かい……?どういう事だ……?』
『けれど今の貴方はそれを押し殺している……私と違う。私は感情を欲しいと思うのに、貴方は感情を持っているのにそれを殺している。何故……?』
リノアスは戦闘時と違い、言葉を発している。表情も、見える。疑問を抱く時には首を傾げ、相手の様子を伺う姿勢を見せている。
身体と精神の乖離。今、互いにそれを感じていたのである。
『自分自身を、止めないと行けないから、俺は感情を殺さないといけない。』
『何故?私は本来の貴方の温かな感触が欲しい。しかし私は感情を表出出来ない。貴方はそれが出来るのに、どうして?』
『力を使うからだ。けれども、この力はこの世界を変える為に必要だ。』
『その為に自分を押し殺すのは違うと思う。私はこんなの、望んでいなかった。けれど、命令の為に戦っている。感情の出し方を分からないまま。』
この、白い空間ではリノアスは自分の意志を伝える事が出来ている。では何故、現実の身体はそうさせないのか。
それは、彼女が特殊強化モデルであり、戦闘用のマシーンとして存在しているから。マシーンに感情など必要ない。欠陥と言われても仕方がないモノ。それが、感情だ。
一方のアレンは感情を持っている。表出も出来る筈。なのに、それをせずに戦場を駆け抜ける。何故?
『君は、君の意志でそれに乗っているのか?』
異空間の中でアレンが聞いた。
『分からない。命令だと思う。命令だからこれに乗る。敵を倒す。それだけ……でも、感情は欲しい。』
『それに乗っていては、感情は芽生えない。一生軍の言いなりだ!それは俺が破壊する!君は脱出を図れ!』
精神世界で、アレンは叫ぶように言った。表出出来ない感情を、溢れ出すかのように。
そもそもアレンが感情を出さないのは何故か。それは、分からない。彼はもしかすれば、無理をしているのかも知れない。
『でも、それも出来ない。命令だから。』
リノアスが冷たく、言った。
『なら、止めるだけだ――』
この間は実際の時間ではほんの一瞬の時間だった。いつしかブライティスはダッゲインに接近しており、ビームセイバーラックを左手部マニピュレーターに把持し、腹部のビーム砲門に突き刺したのだ。この衝撃により、爆発を起こすダッゲイン。
ズドオオオオオオ
地面を大きく鳴らし、巨体は後方に倒れた。
こうなってしまうと再び起立する事は難しくなる。行動不能になったダッゲイン。リノアス自ら判断を行い、ダッゲインを放棄する考えをした。
「戦闘不能……脱出……放棄……」
コクピットのハッチを開け、リノアスはそのまま飛び降りた。その、3秒後にダッゲインは爆発を起こした。その際、彼女は別働隊のジョゼフに身柄を保護されていた。
ダッゲインMk-Ⅱが倒されたのを確認するフーク。その際、パイロットが脱出した事も確認済みだ。この時、フークは溜息を吐いた。
「本来ならば違う兵器を出す予定だったのにも関わらず、何らかのトラブルで遅れてしまった。あのダッゲインは最早用済みの機体。リノアスさえ生きていれば、それで良い。」
ダッゲインは十分な機体の調整がなされていないまま、出撃していたという事になる。つまりは、この戦闘で破壊される事を前提に運用されていたという事だ。
「気になるのはあの青い羽のガンダムと接触した際にダッゲインの動きが変わった事が気になるが……」
「それは、こちらでも確認済みです。」
側に居た兵士が、言った。
「それにしても、突然現れたあの連中は何者だね?新生連邦に対しては攻撃を仕掛けているようだが、国連の増援なのか?その、目的が分からんのが気になるが。」
戦場に介入してきたシュネルギアと、ブライティスの存在は新生連邦内でも注目される存在として存在している。何故、この戦場に現れたのかも、謎だ。
「ジャンヌ・アステルと言っておりましたが……」
「世界の歌姫が宣戦布告という訳か。随分と大層な真似をするな、アステル家も……」
それは本当なのかは定かではない。彼等にその真理を確かめる余裕は、この戦場では不可能だ。ただ、彼等は戦場に突如出現し、混乱に陥れた“アステル”の名を刻んだ事にはなる。
「何にしても、リノアスの身柄はこちらで預かる。ダッゲインはもう用済みだ。“次の”機会を待つとしよう。」
そう言いながら、フークは不敵な笑みを浮かべている。日本で暴走事故を起こした巨体を戦場に投入し、撃破されながらも笑みを浮かべている、フーク。何故、この男はこのような状況でありつつも余裕の笑みを浮かべていられるのだろうか。
アッサラームに近付くセイントバード。その間に近付いてくる、新生連邦のMS部隊。ビーム粒子同士が飛び交う、激戦区。セイントバードの損傷は五割を超えつつあった。辛うじて高度を維持出来てはいるものの、これ以上砲撃を受ける事は避けなければならない。
そして、アッサラームも新生連邦に対して砲撃を行っている。だが、敵の数が多すぎるが故、処理が追い付いていない。次第に押されていく、国連軍。
「アース将軍、こちらに接近する熱源を感知!」
「迎撃ぃ!」
ウィレスの指示により、アッサラームからビーム砲やミサイルが斉射される。だが、熱源はいずれも軽やかに回避する。明らかに動きが、従来のMSによるものではない。
「回避されました!高速で接近してきます!!」
オペレーターの言葉の後、ビーム粒子が放たれ、アッサラームは損傷を受けた。ブリッジ内は激しく揺れる。
「チッ……敵は何機だ!?」
「一機です!」
「モニター、出せ!明らかにディーストやジョゼフと言った機体の動きではないぞ……!」
その指示により、映像が出る。そこにいたのは、エファン・ドゥーリアが駆る大型MS、アーヴァインであったのだ。
「まさか、この機体……半年前にも……エファン・ドゥーリアか……!?」
ウィレスはその名を挙げた。かつてのデウス動乱で、ジャスティスに乗って艦隊を壊滅させた最強の男、エファン・ドゥーリアの名前を。この事から、アッサラームを襲撃しているのはエファンである事が分かった。
「意外と呆気ないものだな、国連の旗艦が私の接近をここまで許す等!」
エファンがそう言った後に、アーヴァインのビームライフルを展開する。その出力は、ディースト、ジョゼフのものと比にならない。アッサラームの堅牢な艦壁は少しずつ削られていく。たった一機とは言え、この男の技量は計り知れない。脅威ともいえる、その強さはウィレスを苦しめる。
もし、このままセイントバードがアッサラームに向かったらどうなるだろうか。確実に、標的にされるだろう。損傷率五割を超えているセイントバードがアーヴァインに狙われる事は、死と同義だ。
バシュゥゥゥ
そこへ、一筋の光が差した。ブライティスがアーヴァインに向けてビームライフルを放ったのだ。すぐに反応し、回避するアーヴァイン。やがてブライティスは青いウイングを展開し、ビーム砲を一斉に放つが、アーヴァインはバリアーフィールドを展開して対処するのだった。
「青い翼のMS!飾りつけは見事だが果たしてその機体の性能はどうだろうな?以前、私に滅多打ちにされて、半年振りに新型機で登場と言うわけか。アレン・レインド!」
アドバンスドタイプである彼は、ブライティスのパイロットを見抜いていた。しかし、アレンは何も語る事なく、アーヴァインに迫る。
ビームライフルを放つ、ブライティス。だがアーヴァインは前腕部を展開してこれを防いだ。バリアーフィールドジェネレーターである。
アーヴァインは回避を行った直後に反撃を行う。フロントアーマーのビーム砲に、両肩部の実弾キャノン。それらが一斉に展開されるが、ブライティスはウイングを展開して回避。更に、ブリッツファンネルを二基、展開してはアーヴァインに迫る。これをビーム刃に形状を変えて、一斉に展開する。狙うは、アーヴァインの前腕部。ジェネレーターが搭載されている場所だ。
「バリアーフィールドジェネレーターはビーム砲撃を完全に無効にする効果を持つ。しかし、ビームサーベルなどの基部からの粒子発生装置の場合は粒子エネルギーを物理的に変換する機能がある!それがバリアーフィールドの弱点である事を見抜いているのは分かる。」
ビーム砲撃を絶対に耐えるバリアーフィールドジェネレーター。その弱点とは、ビームサーベルといったビーム刃による攻撃に弱いといった点がある。つまり、白兵戦では絶対的な防御力を発揮出来ないという問題がある。
だが、エファンは迫るブリッツファンネルに対し、その弱点を見抜いていた――
「そして、そのサイコミュ兵器の致命的な弱点はビーム兵器を防ぐことが出来ないという点にあり!!」
そう言った後に、エファンは一度目を閉じた。二基のファンネルの軌道を読み、やがて、目を開く。
「読めたな。」
向かう方向に対し、ビームライフルを放った。すると、ブリッツファンネルは撃破されたのだ。それも、二発。的確な、射撃だった。
しかし、アレンはこの機を逃さなかった。ビームセイバーを展開し、アーヴァインに迫ったのである。
「読んでいるよ!お前の心はとうに!!」
彼の行動を先読みしていたエファンも、ビームサーベルを構え、これに太刀打ちする。
互いのビーム刃が打ち合う。粒子が弾け、飛び散る。戦場を混乱状態に陥れたガンダムと、強大な力を持つアドバンスドタイプの男の駆る、MSが交戦している。
その周囲を、彼の部下であるジョゼフが飛び交っている。ドゥーリア隊所属のジョゼフは、武装が一つ追加されている。両腋窩部を潜り抜け、ビームキャノンを放つのだ。
アレンはすぐに、これを回避した。だが、別の方向からビーム砲が放たれる。回避が間に合わない。ならば、バリアーフィールドを展開するしかない。
バイイイイイン
ビームは防いだ。だが、隙を生んでしまったのだ。別のジョゼフが、ブライティスに向かい、迫るのだ。
「自分の“顔晴り”こそが!“最幸”の“志事”を作る!それが今後、ビジネスをする上での“成幸”にも繋がる!!」
エファンの部下の一人、ジュン・ピーシアが言った。異様にやる気を見せる、このパイロットはアレンのブライティスに、迫る。ビームサーベルを構え、ブライティスに近付く――
バシュゥゥゥ
別方向から、ビームライフルが放たれた。それを受け、機体を掠めたジョゼフ。
そこに居たのは、白いガンダムだった。アレンを追いかけて来たツヴァイが、この場に現れたのである。
「アレンさん!!やっと近付けた!!」
レイが声を荒げ、言った。ツヴァイは彼を追い掛けている間、迫る新生連邦のMSと交戦しながら、接近していたのである。
(……え?)
レイが妙な感覚を覚えたのは、この戦闘域に入った時だった。まるで、誰かに睨まれているような違和感。肌がざらつくような、気色の悪い感触。それらの根源はどこから?何故、急にその感覚を覚えるのだろうか――
「このMSは……!?」
次に、レイがその機体を見た時、レイの瞳孔が小さくなった。と、同時に、次第に呼吸が早くなる感触を覚えたのだ。
ドクン―――
「!?」
強烈な嘔気を感じ取った、レイ。奇妙な感覚だ。彼がアーヴァインを見た時、以前に感じた事のある不快感に襲われたのである。
(あれは……砂漠の時のMS!?どうして、ここに……?)
レイは、アーヴァインを見た事があった。レイだけでない。ネルソンも、同様である。
砂漠の大地に降り立ち、瞬く間に砂漠の狩人率いるMS乗り達を瞬く間に撃破したMS。それが、アーヴァインであった。つまり、あの砂漠にはエファンが居たという事になる。
エファンから放たれる異様な感触。レイを襲う、気味の悪い感覚の正体が分からないまま、レイは苦しみだす。以前感じた、脳内で蟲が蠢く感覚が、再び。
「この感覚は……以前、どこかで……ああ……。“あの時”の少年か。」
ツヴァイを見た、エファンが口を開き、笑みを浮かべた。レイの事を知っている様子の、エファン。
確かに、両者は砂漠の大地で出会ってはいる。しかし、互いにその正体に気付かないまま時間が経過した。それから八ヶ月後、今、この場で互いに再会する事になったのだ。
だが、実際にその正体は分からずにいる。レイから見れば、エファンは何者なのかも分からない。対するエファンは、レイの事を覚えているのだ。
「成程な。そうか、私とあろうものがお前の事を思い出せないでいたとはな……」
意味深とも言える言葉。これに対し、レイは何も分からないまま、困惑するばかりだ。
「あ……貴方は……?」
「お前の事を知る者とでも言っておこうか。」
「僕を……知っている……?誰……なの……?」
悍ましい感覚だけが包む中で、微かに感じるエファンのからの感覚。それ自体も、妙な感覚でしかないのだ。
エファンは、何故レイを知っているのだろうか。面識があるとすれば、砂漠で初めて会った時だ。だが、この時レイは“覚えのある感覚”を感じていた。ならば、彼等はどこで出会ったというのか?レイ自身は、全く面識がない。だからこそ、恐怖に感じるのだ。目の前にいる、この男を。
(怖い……この人から感じる感覚は普通じゃない……!え……待って……この人って……!?)
恐怖と不快感、嘔気に包まれる中、レイは微かに、一つの事を思い出した。
それは、日本での出来事だ。ジャンヌとエファンが空港に来た時の事。そこでも、エファンはレイと面識があった。その時は、ほんの、一瞬の出来事であり、ただ、互いに目線を合わせただけだった。
しかし今と違うのは、日本でエファンに会った時は、不快感は一切無かったいう事だ。この差は一体何なのか。謎が、謎を呼ぶ状態。
苦しい。気分が悪い。目の前にいるエファン・ドゥーリアからのプレッシャーなのかは分からない。ただ、レイは頭を抱える。彼は、エファンからドス黒い“何か”を感じている。しかし、一方で妙な“暖かさ”も感じている。彼は一体、何者なのだろうか。この矛盾した感触は一体?
「人間が持つ感情は時に人に対して影響を与える事がある。しかし、本質的に人間というのは性格が決まっているものだ。お前が感じる私からの感覚も、それは率直な意見と捉えるべきだ。お前は力を持っている。私の中にある感情を感じ取っているな。」
「はぁ……はぁ……!何を……言って……あぅっ……!?」
ズキンと、頭が痛くなる。エファンからのプレッシャーがそうさせるのか。
「だが私の場合は本質的な雰囲気そのものを変える。時に温和な対応を行い、敵意を剥き出しにしたものにはそれ相応の雰囲気で臨む。それが、私という人間だよ。レイ・キレス。」
(何を言ってるの……?)
理解出来ない事を述べる、エファン。当然、レイは疑問を抱くのだが――
「今のお前には理解出来ない事かも知れないな。」
「え……?今、僕の心を読んだ……?」
「そうだ。お前の事が分かるのだ。フフ……」
自分の事が分かる?何を言っているのか?どう言う、事なのか。謎が、謎を呼ぶ状況だ。思考を読まれたという感覚は、レイに強烈ともいえる不快感を感じ取っていた――
ドクン―――
「あああぁぁぁ!?」
その時、鋭痛がレイの頭全体を覆った。精神的な不安から来る痛み?物理的な痛み?何だ、この痛みは。分からない。原因は、全く不明だ。
(怖い……!この訳の分からない感覚は何!?頭が引きちぎられそうになる!その上でのこの暖かさは、一体!?駄目だ……駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!)
頭を振り、自らの頭に入るイメージを否定するレイ。だが、エファンから受ける悍ましいイメージは、全く払拭出来ない。
(怖い……怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ怖イ)
レイの思考は静止しようとしている。完全に恐怖に支配されている。エファンが与えた恐怖は、レイを絶望に陥れている。
「恐怖とは未知なる者を見た時や、自らの価値観、道徳感と全く異なる存在に出会った時に生じる感情だ。お前の場合、私の事を思い出せないだけ。故の恐怖。お前は怯える事で目の前の現実を逃れているに過ぎない。」
その間、アーヴァインの右前腕部が動く。ビームライフルが、静止しているツヴァイに向けて放たれようとしている。
「だがお前は、まだ本格的に覚醒をしていない。しかし私が放つ感覚を感じ取れる、センシティブな感性は少しずつではあるが作り出されているという事だ。これが更に肥大化すれば、それはやがて人類の作り出した文明に対する脅威にさえなり得る。」
人類の作り出した文明に対する脅威?何を言っているのかが分からない。この男の目的とは、一体何か。レイの覚醒とは、何を示すのかも謎だ。得体の知れない男の発言は、レイを余計に混乱させる。いや、既に彼は言葉を失っている。思考を静止し、ただ、恐怖に慄くだけだ。
「だが……それは今ではない。お前が本当に死に至るべきステージは、この先。お前の運命は、まだここで潰える訳ではない。お前の中の夢が、そうさせるのだから。」
エファンの言葉がレイに響く。それと同時に、アーヴァインのビームライフルは機体の鈍い関節音と共に、下げられた。
エファンの語る、“夢”とは何か。彼の中にある、悪夢と何の関係があるというのだろうか。そもそも、エファン・ドゥーリアとレイはどういった関係があるというのだろうか。
「夢というのは可能性の話……お前自身が覚醒していき、より力を発揮した存在になる時。それがお前に訪れる“死”のタイミングだ。今のお前はただの怯える子犬に過ぎんよ。」
全ての言葉が意味深であり、不可解な言葉を発するエファン。レイの中にある覚えのある感覚と、恐怖はこの男から感じるものなのだろうか。彼が今まで見続けていた夢と、エファンの関連性とは何か。この男の言葉が理解出来ない。ただ、レイは苦悩するばかりだ――
ドオオオッ
そこへ、高出力のビーム粒子が飛んだ。それと同時に、エファンは粒子の方向に目をやる。
この場に、ガーストの機体が駆け付けたのだ。エスディアのビームバズーカが連射され、アーヴァインを襲う。だがその性能差は明確である。アーヴァインの性能の方が、上だ。
「ほぅ、無謀なMSが一機、ここに来たか。」
「レイ!!」
レイが襲われていると判断したガーストが、エファンの魔の手から守った。その瞬間、レイの不安、恐怖は和らぐ。先程までの混沌とした感情は、何を示したのだろうか。
「はぁ、はぁ……はぁ……」
呼吸を荒げるレイ。その際、周囲に対する集中を切らしてしまっていたのだ。
「貰った!“成幸”への第一歩!自分はこれを成し、ビジネスでも成功して見せるッ!!」
レイの目の前に迫った、一機のジョゼフ。両腋窩部からビームキャノンを展開し、至近距離でツヴァイを狙い撃ちしようとした。エファンから感じている強大なプレッシャーが解除された瞬間を狙った、的確な射撃だ。そのパイロットであるジュンは、異様な笑みを浮かべ、ツヴァイを撃破せんと、迫る。
「させるかよ!!」
レイに迫る危機に対し、ガーストが行動を起こした。そのジョゼフに向け対してビームサーベルを展開し、その両手部を切除する。マニピュレーターが破壊され、それに伴い、所持していたライフルも海中へ落下していくた。
「自分の邪魔をするなら!」
パイロットのジュンは怒る様子を見せた。標的をガーストに変更し、ビームキャノンを向けて展開するが――
ピシュンッ
ブリッツファンネルの一閃が、ジョゼフに直撃した。この攻撃を受けたジョゼフは爆発を起こし、海の藻屑と化したのだ。意気込んでいたパイロットは即死。躊躇のない攻撃が、ジュンを抹殺した。
「自己啓発というのは自らの行動をより肯定する為に良いとされるものだが、自らを律することが出来ない人間が行っては、ただの自己満足に過ぎん。言葉の言い換えをして自らを高めようが、それは作り物なのだよ。まあ、良いものを見せて貰った……安心して眠るがいい。」
まるで、散ったジュンに対して言った、捨て台詞。これでも、彼なりの、部下への言葉なのだ。
そして、ブライティスからの攻撃はそれだけに留まらない。ファンネルは更に二基、この場に出現する。合計三基。だが、いずれもが無差別に攻撃を行うのだ。
「アレンか!止めろ!お前、何考えている!?」
ガーストが説得した。サイコミュ兵器を操っているのはアレンだと、分かっていたのだ。
だが、アレンはそれに応じる様子を見せない。黙ったまま、活動を続ける。その攻撃は、レイに対しても向けられる。ブリッツファンネルによる攻撃は、まるで彼によってコントロールが出来ていないようにも見えた。
それを見抜いたのは、エファンである。先程の二基のブリッツファンネルを破壊したエファン。それを見て、更に行動を起こそうとしている。
「サイコミュ兵器を十分に扱えていないと見た。アレン・レインド!お前の行動は、所詮暴走に過ぎん。私がここに居る理由も、もうない。今回得られた事は、レイ・キレスを思い出し、再確認することが出来た事ぐらいか……」
そう言った後、アーヴァインは突如この場から撤退を開始した。その巨体のバックパックに搭載しているバーニアの出力を上げ、この場から去って行ったのである。何故、エファンは敵を倒す事なく撤退をしたのか。それは、不明だ。
この場にはアレンとレイ、そしてガーストの三人が残された。そして、ブライティスが放つブリッツファンネルは無差別に攻撃を行っている。何故、このような行動を起こしていくのか。
「アレン!やめろって!お前、ふざけんなよ!!」
ガーストは焦りから怒りを見せた。歯を食い縛り、威嚇射撃の為にビームバズーカを放とうとした。
だが、飛翔体はバズーカの砲身を撃ち抜いた。爆発を起こすバズーカ。これにより、射撃武器が封じられてしまったのだ。
「く……う……!アレンさん……!やめて……やめて下さい……!!」
エファンのプレッシャーの恐怖と戦いながらも、どうにか声を出すレイだが、アレンには届いていない様子だった。
この時、アッサラームに向けて新生連邦の別動隊が動き出していた。ジョゼフ、エグゼマーの混合編成部隊。合計十二機が、一斉に迫る。
「行け……!」
ピシュンッ ピシュンッ ピシュンッ
ブライティスのブリッツファンネルが、一斉に展開される。ブリッツファンネルだけではない。側腰部のブラスターファンネルも同時に展開された。エファンに破壊された分を引いても、合計八基のファンネルからビーム砲撃が放たれるのだ。
瞬く間に、いずれも正確にコクピットを撃ち抜くファンネル。搭乗しているパイロットは当然の如く、即死。一対多数の圧倒的な戦力差。たった一機でこのような戦略を取ることが出来る兵器。それが、サイコミュ兵器だ。これらから繰り出されるオールレンジ攻撃は、多数の標的を破壊するのに非常に効率が良い兵器と言える。以前、レイがマドラ級戦艦を一斉に破壊した時のように。
十二機の内、八機が瞬く間に撃破され、一度後退を決めたジョゼフの姿もあった。だが、ブリッツファンネルはそれを追い掛ける。それは、敵意を見せない者に対する虐殺行為にも見えた。勝ち目のない戦闘で、逃げるジョゼフに追い打ちを掛けるブライティス。躊躇冴えない攻撃は、見る者によっては残酷な光景にも見える。
アレンは何故、精神世界では感情を剥き出しにしてリノアスと会話をしていたのにも関わらず、今は無情に敵を殺し続けるのだろうか。何故?
そもそも、逃げるパイロットを追う必要はあるのか。確かに、いつかは反撃を行ってくるかもしれない。だが、それは“今”の事ではない。敵意が無いのは明確であるのにも関わらず、徹底的に破壊する行為は余りに常軌を逸しているように見えた。躊躇する敵機体を追い掛け、その上で抹殺する。そこまで敵を追い込む必要があるのだろうか。
守る為に戦うレイは、この行為に疑問を抱いていた。何故、アレンはここまで残酷になれる?自分は勿論であるが、友人である筈のガーストにも攻撃を仕掛け、躊躇のない攻撃を仕掛ける?何故?
レイの疑問。だが、その疑問と共に、次第にレイの呼吸が荒くなっていき、その感情が怒りに変化していくのに、そう、時間を要さなかった。
怒り。それは何かに対して向けられる感情。特定の非道な行為や、自身の感情と相反する行動を目の当たりにした時に生じる感情。先程までの苦悩から一転、感情が切り替わっていくのを、自ら感じ取っていた、レイ。
(無差別すぎる……こんな、行動をこうも平気で出来るなんて……アレンさん、貴方は!!!)
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レイの眼が、深紅に染まった。
第四十三話、投了。
オペレーション・デモリッション・クリエイションも終盤です。
何故ブライティスはレイ達を攻撃するのか?その真意が分からないまま、レイも最後に覚醒してしまいます。