機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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アレンとレイが衝突する。戦争を生き残ったデウス動乱の英雄と、日常を謳歌していた少年が衝突する回。


第四十四話 アレンとレイ

 

 レイの眼が深紅に染まった。日本海で海賊に襲撃を受けた時に起きた現象と、同じ現象だ。瞳孔が紅く染まり、その眼が見開かれている。

 この現象自体、何なのかは全く分からない。ただ、以前彼がこの現象を発生させた時、戦闘域に居た、“特定”の人間が頭を抱えていたのだ。

 

「あう!?この感じは……レイ?」

交戦中のスバキが、最初に反応した。

「前の感じ!?ぐっ……あいつなのか……?」

ガーストが、反応した。

「レイ君……!?」

エリィが、頭を抱えた。

「この……感覚は……ぐぅ……!?」

総司令が、反応した。

彼等に共通している事。それは、シンギュラルタイプであるという事だ。では、アドバンスドタイプであるアレン、ジャンヌ、エファンはそれぞれどのように反応するのだろうか。

 

 

 

「まさか……この戦場にレイが現れるなんて……という事は、エリィさん達も……?」

シュネルギアの艦長席に座っていたジャンヌが、静かに呟いた。これが何を示しているのかは謎であるが、彼女の表情には焦りの色が見られる。

「うっ……!」

その時、同ブリッジ内でオペレーターの一人が僅かに頭痛を訴えた。気になった様子のジャンヌが、聞いた。

「大丈夫ですか?ココットさん。」

そのオペレーターは、アレンの最愛の人間、ココット・メルリーゼだった。以前にアステル家と共に戦いたいと言っていたココットは、今、シュネルギアのオペレーターとして、活動をしていたのである。

「はい……なんとか。」

「頭痛ですか?」

「少しだけ、ですけど。」

皆それぞれが何らかの反応を示す中、ココットも反応を示した。これは、何を示すというのだろうか。

(アレンの動きも気になります。彼はファンネルを完全に使いこなせていません……この戦場に、ツヴァイとブライティスが居る……嫌な、予感がしますわ……)

ジャンヌの言葉は何を意味するのか。何故、アレンが無差別にファンネルを振るうのか?そして、嫌な予感とは何か。彼女の言葉に理由が隠されていると、考えられた。

 

 

 

 自身の艦に戻っていたエファンも、この異変に気付いている様子だった。男の脳内に電流が流れ、異変を感じ取っている。

「ほぅ、子犬は時に変貌を遂げる事もあるという事か。この戦場、面白いものが見れそうだな。」

至って冷静な様子のエファン。その言葉が何を示すのかは不明だ。

 

 

 

 今、レイに出現した異変を身近に感じているのはアレンである。感情を押し殺しているように戦場を駆り、MSを狩る、アレン。その被害は新生連邦だけに留まらない。接近する機体、全てに対してブリッツファンネルを奮っている。つまり、国連の機体にもそれは影響を与えているという事になる。これでは、混迷を極める戦場を余計に混乱させているだけだ。

 アレンの行動を見たレイは、怒りの感情をトリガーに、眼の色を変えた。その眼はブライティスを睨むように見ている。

 その際、ツヴァイはセイントバードの方を見ては、右手部マニピュレーターの、指部を一斉に屈曲させて“何か”を引き寄せる動きを行った。

 

ピシュンッ

 

その時だ。あろうことか、セイントバード内に格納されている筈のブリッツファンネルが勝手に動き出し、一斉にツヴァイの下に向かってきたのである。この時、セイントバードのハッチを突き破り、強引に移動したのだ。レイの意志が、そうさせるのかは不明だが、切り離している筈のサイコミュ兵器が本体に近付く。このような事が起こり得るというのだろうか。

 やがてブリッツファンネルはツヴァイのバックパックに合体をした。完全な姿を見せた、ツヴァイガンダム。この瞬間、ファンネルを搭載するMSがこの戦場に、二機出現したことになる。

 

 

 

この騒動に対し、セイントバードのMSデッキ内では混乱状態になっていた。シンが、勝手に動いたファンネルの存在を見て、目を疑っていたのである。

そこへ、ネルソンから回線が繋がった。何事かと思い、聞くネルソン。

「シン、何があった!?何故あの兵器が勝手に動く!?」

「分かりませんよ!勝手に兵器が動くなんて前代未聞ですよ!サイコミュ兵器なんて全然扱った事ないですし、分からないですよ!」

「なんという事だ……では、あれはレイの意志だというのか!?」

「そうなったら、またあいつ意識を失うんじゃないんですか!?それは困りますよ!」

そのように考えるのが妥当だろう。しかし、勝手に動くファンネルを止めることは整備士である彼等に出来る筈がない。まして、ネルソンにも不可能な事だ。

 こうなっては成り行きを任せる以外にない。レイがこの兵器を再び使用し、どのように、なるのか。

 

やがて両者が対峙した。互いにカメラアイを輝かせ、それは威嚇し合っているようにも見えた。今から、始まるアレンとレイの一対一の対決。この戦場において、アステル家が開発した、混迷を切り開く筈の力同士が激突しようとしている。

「……!」

先に仕掛けたのは、レイの方だった。怒りに囚われているレイはブリッツファンネルを展開する。以前、この兵器を使用し、意識を失った彼。この兵器を使用する事に躊躇する筈なのだが、今のレイは躊躇する事なく、サイコミュ兵器を展開する。

自らの意識の下で動く、ブリッツファンネル。まず、基部になる六基のファンネルが展開。その次に、二基ずつ小型のファンネル、ミニファンネルが展開する。合計数十八基のファンネルが、ツヴァイを覆うように、展開された。次に、ツヴァイは左上腕を大きく振るい、それらを一斉にブライティスへ向かわせたのである。

これを見たブライティスも、同時にブリッツファンネルとブラスターファンネルを放出した。こちらは二基をエファンに破壊されており、八基しかないのだが、いずれも広範囲に広がり、攻撃を行う。

 

バシュゥゥゥ

バシュゥゥゥ

バシュゥゥゥ

 

ビームの雨が、互いに一斉に迫る。その砲台の数は違えど、出力は互いに互角と言える。サイコミュ兵器同士による戦い。アレンも、レイに反応し、迫っているようだった。

 やがて本体へのビーム砲撃が行われるのだが、両機共にバリアーフィールドを持っている為、ビーム兵器は弾かれる。だが今度は、本体へ攻撃を行う為にファンネルからビーム刃を展開して両者は攻撃を開始したのだ。

「レイ……お前、俺を倒す気なのか。やめろ。そんな事は無意味だ。」

アレンが語った。だが、レイは無言のまま、深紅の眼を見せている。

ファンネルは本体の代わりに互いに攻撃を行う。やがて互いのファンネルはビーム刃を一斉に展開した。これらが、まるでMS同士が白兵戦を行うかのごとく、打ち合いを開始したのである。数で劣るブライティスは、加勢するかの如くウイングからビームを放ち、ツヴァイのファンネルを狙うのだ。

「クッ……はあああああ!」

その際、レイが叫んだ。自らの意思で、ブライティスのファンネルに攻撃を加えて行くのだ。

ビーム刃と、ビーム砲撃の交互の攻撃を、ツヴァイは行う。このような巧みな攻撃は何処で学んだというのか。レイがブリッツファンネルを操るのは今回で二度目だ。なのに、この兵器をまるで使いこなしているかの如く、操っているのである。

「お前……使いこなしているのか……?その上で、俺に戦うのか……?」

無表情で戦っていた筈のアレンだが、どこか、感情を漏らしているように見える。予想外のツヴァイの動きにどこか、焦りを感じているというのか。

 そもそも、彼等は敵同士ではない筈だ。戦う理由などない。では何故今、彼等は戦っている?何の為に?

 それは、ブライティスの行動が引き金だった。アレンが操っていたファンネルはレイやガースト等にも襲い掛かった。その理由が分からないまま、理解出来ずにいたレイは遂に怒りを覚えてしまったのだ。

 もし、この事に対して理解があれば彼等が互いに戦う事は無かったかも知れない。だが、戦いは止められない。アレンとレイ。デウス動乱の英雄と呼ばれた青年と、ごく普通の日常を送って来た少年の戦いは続く。

 

ブィィィィン

 

その時、ブライティスが先に攻撃を仕掛けた。ビームセイバーを側腰部から抜き、レイに迫る。それに反応したレイ。対抗する為にメガビームセイバーを側腰部からラックを抜き、高出力のビーム刃を放つ。

 

バヂィィィッ

 

互いのセイバーが打ち合う。激しいスパークが散る。ビーム刃の出力はツヴァイの方が上。純粋な力だけを見れば、ブライティスの方が不利だ。その為、放たれているファンネルを駆使した攻撃が、ツヴァイに迫る。すぐに反応したレイは、一度距離を置き、自らの側にファンネルを従わせるように、動かした。

 今、レイの眼は相手の動きを分析している。それは常時ではまず、出来ない動きだ。敵の数は合計九機。ブリッツファンネルが六基に、ブラスターファンネル二基、そしてブライティス本体一機である。

更に、牽制の為か、ツヴァイは肩部から拡散メガビーム砲を放出し始めた。拡散されるビーム粒子はブリッツファンネルに直撃する。これにより、一基が破壊された。更に、本体であるブライティスにも粒子熱が迫っていた為、バリアーフィールドで弾くアレン。

だが、ミニファンネルが二基、ブライティスの後面に迫っているのに気づくのにやや、送れたのだ。

「くっ……!?」

背後からのビーム兵器の存在に気付かなかったアレン。不覚だった。しかしそれで悔んでいる暇はない。今度はブラスターファンネルを放つ、ブライティス。これを、左前腕部のバリアーフィールドで防ぐレイ。

ツヴァイのブリッツファンネルは、再びビーム刃を展開した。一斉にそれらを向かわせ、迫る。

「悪いが……」

アレンはそれらを見抜いた。やがて、側腰部から再びビームセイバーを抜いた。それも、二つ。やがてそれらを連結させ、迫る、ブリッツファンネルを切り払うのだ。

 しかし、アレンはこの為だけにビームセイバーを展開したのではない。ツヴァイに接近し、その防御機能を奪う為に、ビーム刃を展開したのだ。

 迫る、ブライティス。狙いはツヴァイの前腕部。バリアーフィールドジェネレーターが搭載されている箇所である。

 

「僕は……アレンさんを止めるから!!」

 

深紅の眼のレイが、叫ぶように言葉を発した。今まで言葉を放たなかったレイが、初めて口を開いたのだ。それと同時に、ツヴァイもビームセイバーを展開。それを連結させて、接近をするのだ。

 再び打ち合う両機体のビーム刃。ガンダム同士の激しい攻防。止まらない、激戦。かつて共に戦った者同士が何故ここで戦わなければ、ならないのだろうか?

 

「おい!アレン、レイ!お前等、やめろ!!」

その戦いに割り込む者が、居た。ガーストである。彼の乗るエスディアが両者の戦いを止めんとばかりに迫る。ビームバズーカを破壊されたエスディアは、武器を持たぬままこの戦場に割り込んでいく。

 しかし、彼等の戦いにはブリッツファンネルが飛び交っている。ビーム粒子が飛び交う場所で、旧式機体をベースにしたMSが割り込むのは自殺行為だ。

「ガースト、これはどういう事だ!?」

二機のガンダムが交戦している中、ハルッグが更に近づく。状況の把握が出来ていないネルソンは、ただ、この戦いを見るしか出来ないのである。

「あの青い羽根のガンダムにはアレンが乗っているんです!それで、二人が戦ってて……」

「なんだと……?」

「それで、二人共止まらないんですよ!俺にも何が何だか分からない!」

ガーストの呼び声に応じない二人。アレンとレイ。二人の争いは、更に過激さを増していくばかりである。

「こんな馬鹿な事が……何故、二人が戦うのだ……?」

一度は互いに協力した者同士が対立するという謎の構図。訳が分からない状態で、ガーストとネルソンの両名は困惑するばかりだ。

「おい!お前等が戦う理由なんてないだろう!いい加減に――」

と、叫ぶガーストであるが、エスディアに向けて一基のブリッツファンネルが迫った。ビーム粒子を放ち、躊躇なく迫ってくる。まるで、近づく者を追い払うかのように。

「クソッ!これじゃ近づけない……!」

「黙って、見ていろという事なのか……?」

この戦闘は、互いのファンネルが防衛機能の如く働いている。近づく者を容赦なく攻撃する、結界のような役割を果たしていたのだ。実際に、この戦闘域に接近したジョゼフやディーストはビーム粒子を浴び、撃破されているのだ。

 

 

 

 その模様は、ジャンヌにとっては地獄絵図だった。互いに力を託した筈なのに、何故この場で両者が戦っているのか。何故、彼等は互いに潰し合わなければならないのか?ガンダム同士の激闘を遠くで見ていたジャンヌは、静かに、握り拳を作っていた。

「アレンのファンネルのコントロールは不完全でした……その状態でのレイとの接触……それが引き金になったとすれば……私は、過ちを犯してしまいました……」

ジャンヌは、俯いた様子で言った。この戦いは、彼女の完全な誤算だったのだ。

 そもそもブライティスを、何故完全にアレンがコントロール出来ていない状態で発進させたのかも、それは分からないが、今はこの戦いの行く末を見守るしか出来ないのである。

「ジャンヌさん……」

オペレーターを務めているココットは、ジャンヌの表情を見て心配そうに見ている。今の状況を作り出してしまったと、責任を感じている様子のジャンヌ。

「どうか、二人共ご無事で……」

今、両機体を止められるMSは、恐らく存在しないだろう。互いに戦い合う状況。本来ならば戦う必要のないMS同士の交戦は、留まるところを知らないのだ。

 

 

 

交戦は続く。この時、ツヴァイはビーム刃を僅かにブライティスの前腕部に近付け、バリアーフィールド発生装置を破壊する事に成功した。しかし、一方でアレンの方も装置の破壊に成功していた。互いに、ビーム兵器が通用する状況となってしまったのである。

一度距離を置き、ブライティスはビームライフルを撃った。ツヴァイはこれを回避。反撃の手段として、バスタービームライフルを撃つ。出力は、こちらの方が上だ。

けれどもアレンは素早くそれを回避し、同じようにビームライフルを撃つ。ツヴァイも同じように回避した。

互いに、重力下にも関わらず、まるで宇宙空間に居るかのように、機体全体を回転させ、ビームを避ける。もし直撃を受ければダメージは避けられないからだ。

「……」

赤い眼をしたまま、何も喋らないレイ。それに対してアレンは妙に冷静であった。

「レイ、今のお前は異様な強さを誇っている。前に画面で見た時のようだ。」

それは、日本海での戦いの出来事だ。アインスに乗っていたレイが深紅の瞳に覚醒し、海賊や新生連邦を一網打尽にした時の、話。

「けれど、お前の攻撃はパターンが読めるんだよ。俺の猿真似をしているに過ぎない。悪いけどすぐに決める。」

「……?」

レイは無言のままピクリと反応した。この瞬間に、ブライティスはブラスターファンネルを展開してレイを狙った。これを防ぐ為に、自身のファンネルを操り、ブラスターファンネルを狙う。

だが、ブラスターファンネルはもう一基あった。これを受け、ツヴァイの左肩部から先が破壊されてしまったのである。

「うぅぅっ!」

感嘆の声を上げるレイ。機体が激しく揺れ、コントロールを一時的に失っている。

更に、ブライティスは同時にウイング部からビーム砲を一斉に放出し、その上でビームライフルも撃った。それは、ファンネルを抜きにした、ブライティスガンダムによる一斉射撃であった。

バリアーフィールドがあればこれらを防ぐ事が出来ただろう。しかし、前腕部のジェネレーターが破壊されている今は、それがない。そのため回避をするしかなかったのだが、回避しきれなかった。ビームの熱がツヴァイのカメラアイを撃ち抜いていく。

「あううっ!」

モニターからブライティスの姿が消えた。このままでは目視で敵を察知する事が出来ない。レイに危機が訪れる。

 この場合、敵との存在を何で感じる?視覚は使えない。聴覚?嗅覚?表在感覚?それとも、第六感というものか?

 それに該当するのが、自らの力だとするのなら、今はそれに賭けるしかない。敵との距離を把握出来ないなら、その自分に宿る勘を信じるしかない。

 

ピキィィィ

 

レイの脳内に電流が流れる。その時、彼はスイッチを押した。

 バックパックのプラズマカノンが発射形態に変形。目視で敵が見えない状態で、相手の“感覚”を頼りながら、狙いを定めた。

 

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 

 それは、突発的な攻撃であった。アレンは急いで回避を行なおうとするのだが、反応が遅れてしまった。そのためブライティスの右脚部が消滅してしまうのだった。

「ちぃっ……!」

突然の反撃はアレンに衝動的な行動を起こさせる。ブライティスはウイングからブリッツファンネルを放出し、ツヴァイに、当てた。

「あぁぁっ!」

機体が激しく揺れ、上手く動かす事が出来ない。コントロールを失ったツヴァイ。レイは、操縦桿を握り、引く。だが、反応が遅い。当てられた衝撃が大きかったのだ。

「レイ……」

追い討ちを掛けるようにブライティスがツヴァイに迫った。ブリッツファンネルのビーム刃を展開し、その刃が、コクピットを突き刺そうとしていた――

 

 

『アレン!』

 

 

「ココット……?」

一瞬の事だった。アレンの脳裏にココット・メルリーゼの声が聞こえたのである。彼女の声が、脳内で聞こえる事は今までなかったのに。何故なのか。

 だが、この声はアレンの行為を止める効果があった。ブリッツファンネルは動くのを止め、ウイングに戻っていく。

 やがて、ブライティスは左脚部を駆使し、ツヴァイの後面部を思い切り蹴り始めた。この一撃により、ツヴァイは海に落ちていく。モニターが見えない中で、レイは一人、機体が落ちて行くのを感じ取っていたのである。

 

 

 

ブライティスに蹴られた事で、コントロールを失ったレイ。このまま海に落ちるのも時間の問題だった。

この時、眼の色が、元の澄んだ青色に戻っていたレイ。しかし彼に残された意識は本の僅か。僅かに目を空けて視界を把握している。だがそれも時間の問題であった。ツヴァイはそのまま海に落ちていく。

「今までの感覚は、何……?どうして僕は……そうだ、アレンさんが許せないって思って……そこから……ただ、夢中になって……駄目だ……意識が、変な感じだ……」

深紅の眼に変貌を遂げていたレイ。それが青い眼に戻った時、敵と交戦した感触だけを残していた。彼自身、複雑な感情であった。ただ、この時感じていたのはアレンへの敵意だけ。その敵意や、怒りが彼を変貌させたのだろうか。今でも、アレンへの敵意ははっきりと、残っていた。

 しかし、落下して行くツヴァイを止める手段はない。ただ、海に落ちて行くばかりであり、いくら操縦桿を引いても動かないのだ。

「落ちる……こんな、こんなのって……」

焦りを抱くレイだが、ツヴァイはレイの声に応じない。このままでは海に落ちてしまい、機体が大破してしまう。それこそ、命が危ない。

 

ガキィン

 

その時、ツヴァイを助ける機体の姿があった。ハルッグである。MA形態のハルッグはマニピュレーターを駆使してツヴァイの右肩部を把持し、そのまま自身の上に乗せ、回線を使ってレイに言った。

「掴まっていろ。」

「ネルソン……さん……?」

「頭は、何ともないのか?」

「はい……」

レイの表情は暗い。様々な出来事が一度に起きた為であろうか。エファンとの交戦や、アレンとの交戦。それらが同時に重なったレイの心境は、複雑を極めていたのである。

(先程までサイコミュ兵器を使っていたのに意識を失っていない……レイ、君は一体何者だ……?いや、それ以前に先程の戦いは、一体何だ……?何故、アレンは我々に攻撃をする?謎だらけが残る……)

レイを回収する中で、ネルソンは一人、疑問を抱いていた。アステル家のガンダム同士の死闘は、レイが敗北する形で幕を下ろした。

 青いウイングを持つガンダムが戦場に出現し、その上で今までセイントバード内に封印していた筈のブリッツファンネルが勝手に動き、そして、レイの手足のように動いた。この事自体が不可思議な事であるのに、更にそれらが戦闘を開始したのだから、ネルソンから見れば訳が分からない。

「君は何故、アレンと戦っていた?」

ツヴァイを搬送している中で、彼は聞いた。

「許せないと、思いました……それからあんまり覚えていないんです。けど、あの人は躊躇いなく、逃げるパイロットまで殺したんです!友達である筈のガーストさんまで傷付けて!そしたら……」

「怒り……か。レイ。その迂闊な行為によって自分が死ぬかもしれないと考えたのか!?」

「え……?」

 この時、ネルソンはレイに対し、ある種の恐怖と、怒りを感じていた。意識を失った原因となるサイコミュ兵器の存在。それをあろう事か、躊躇する事なく使いこなしている。今回はアレンの駆るブライティスに敗北をしたものの、猛威を振るっていた事に変わりはない。レイは、確実に強くなっている。だが、元々民間人である筈のレイがこのような強さを見せる事は、明らかに異常と言えたのだった。

 

 

 

 その後、新生連邦の艦隊は撤退信号を出した。オペレーション・デモリッション・クリエイションは失敗に終わったのだ。国連軍の、想定外の抵抗や増援の存在により、新生連邦は一度後退を余儀なくされたのである。

 国連にとっての脅威は去った。平和国連盟は、新生連邦の魔の手に落ちる事なく、済んだと言えたのである。

時を同じくしてツヴァイはセイントバードへ帰還した。この時、閉まっているはずのハッチが壊れて、そのままになっていた。レイが深紅の眼を見せた時、格納庫に搭載されていたブリッツファンネルが勝手に動いた時に破壊した為である。

ハッチが破壊される事は整備士達に危険を伴わせる。上空に居たセイントバードは、風の影響を大きく受ける。下手をすれば、この風に飛ばされる事さえ有り得るのだ。そのような事情など知る由もないレイは、自身の意図とは関係なく、彼等を危険な目に遭わせていたのである。

 セイントバードがアッサラームへ向かっている最中の、僅かな時間の出来事。MSデッキにて、対面になるネルソンと、レイ。

 

パシィ

 

ネルソンとレイがセイントバードに帰還した際、ネルソンは、思いきりレイの頬を叩いた。レイの頬は赤く腫れ、目には僅かに涙を浮かべている。側にはエリィが居た。

「多くの人間がどれだけ迷惑をしたと思っている!?それだけじゃない!君自身の死に直結する可能性だって有るんだぞ!あのような、危険な兵器を扱うなど!!!」

「そ……れは……」

分からない。分かる筈が無いのだ。自分自身でも、分からない事なのだから。

そして、この様子を見る周囲の反応は冷たい。特に整備士達はレイに対し、まるで〝ざまあみろ〟と言わんばかりに冷ややかな目線を送る。理由は恐らく、ハッチを破壊されたからだろう。

しかし、深紅の眼に染まる現象。これが引き金である事を伝えても、信用される筈がない。そもそも、レイ自身にも、分からない事だ。この時、レイは理不尽を覚えていた。何故、このような事になるのか、不明であるのだ。

「脳の検査を行った後、君には独房に入ってもらう。」

「えっ……そんな!?」

突然のネルソンの提案に戸惑う、レイ。何故、このような仕打ちを受けなければならないのか。

「レイ君、ごめんね。だけどこれはレイ君の為でもあるの。許可が出るまで外には出してあげられない。」

「エリィさんまで……どうして……」

レイの目元が、潤う。彼は、必死だった。必死に戦ったのだ。なのに、この仕打ち。何故……?

「うん……大尉と相談して、決めたの。虐待みたいになってしまうけれど、やっぱり君とガンダムとの距離は離した方が、良いとなったの。それにね、あの兵器が動いた時、整備班の人も数名怪我をしていたの。それはとても危険な事だって、判断しました。」

「そんな……!」

ショックを受けるレイ。怪我人が出た事は、全く知らなかったのである。

しかし一方で、レイは抗議した。ファンネルが勝手に動いたのは自らの意思ではない。それを、伝えたかったのだ。

「でも!あれは僕の意思じゃないんです!信じて下さい!」

「駄目だよ。隔離措置は貴方自身を守る為でもあるの。あの機体の全貌が分からない以上、レイ君をあのガンダムに乗せる訳には行かないの。」

人は有り得ないとされる現象に対して率直に信用する事はしない。だから、話を進める。進めていき、措置を決める。大人と子供が対立する理由の一つで多い事かも知れない。

「僕だって苦しかったんです……その中で攻撃だってされて……アレンさんにまで襲われて……でも、守らなきゃ行けないって!その為に動いたのに!どうして……!」

一番、この状況に陥った理由を知りたいのはレイだ。先の戦いで多くの事を経験した。総司令からの勧誘、エファンによるプレッシャー。夢の話。そして、アレンとの交戦。

 これらの事を一度に経験したレイ。それを理解して貰えず、ただ、独房へ入れられるという結末を迎えてしまうのだった。

 

 

 

 その後、レイはネルソンによって検査を受け、後にクルーによって独房へ連れて行かれてしまった。検査場の脳波や血液の状態、バイタルサイン等は、至って問題なく経過していたという。

 今、セインドバードはアッサラームに向かっている。もう間も無く、巨艦に到達しようとしている最中、ネルソンとエリィは二人、話をしていた。

「しかし、不幸中の幸いだな。まさか艦長の恩人があのアッサラームの司令官を務めていたとは。」

「あの時回線を繋いで、本当に良かったです。あれで断られていたらどうなっていたか……」

「艦も大きく損傷している。今は保護して貰えるならば、ありがたい状況だ。対応は頼む。私は、国連に知人はいないからな。艦長の対応だけが頼りだ。」

知人関係とはいえ、相手は国連の最高部隊の将軍の地位に立つ者だ。迂闊な発言は当然ながら許されない。

「はい、勿論ですよ。」

と、エリィが言った時、彼女は周囲の目から異様な目線を感じた。何故だろうか。その答えは、今の彼女の格好が大きく関係していた。

「艦長、対応は勿論だが、“格好”も、他者と話をする時に大切になる事は存じ上げないか?」

「え?」

その瞬間、自身の格好が、上半身がラッシュガード姿、下半身の両下肢がほぼ、大転部から腓骨外果部にかけて素肌を晒している格好である事を思い出した。無論、ラッシュガードを脱げば彼女は黒いビキニ姿となる。この脚線美に見惚れるクルーが、この場には数名居る。

 エリィは顔を大きく赤め、自らの格好を見直したのであった……

「あああああ!私!なんでこんな……?」

「戦闘前も言ったが、ここはミスコンの会場ではない……頼むから、早く着替えてきてくれ……」

と、ネルソンは頭に手を当て、言った。

 いくら相手を注意したりしたとしても、自らの格好がそれ相応でなければ内容が頭に入らない。今回、レイはネルソンに言われた事が大きく影響していた為、彼にはエリィからの言葉が伝わっていたが、冷静に考えれば色気のある格好をされて言葉の内容が耳に入る者など、少ないのである。

 

 

 

 その後、セインドバードはアッサラームに格納された。セイントバード自体も大型戦艦ではあるが、アッサラームは更にその上を行く、超大型戦艦といえた。

 エリィは、司令官であるウィレスに会いに行く。戦後になってからの再会。笑顔を見せる、両者。こうした場所で顔見知りに会う事が出来るというのは、何よりの喜びと言えるのだ。

「久し振りだな、エリィ。まさかこのような所で会うとは思わなかった。」

ネルソンに言われた事を守っているエリィは、対人用のレディーススーツを着てウィレスと会っていた。

「私も……本当に、嬉しいです!ウィレスさんに会えるなんて、思いもしませんでしたから!」

戦前、第十三特殊部隊に所属されていた者同士の再会。戦後に生き別れ、再会。互いの笑顔が喜びに満ちている。

 それからエリィはここに来るまでの経緯を語った。戦後にMS乗りとして活動していた事等を、語る。

「MS乗りか。何故、そのような事を?」

これに対し、エリィは言い辛そうに言った。

「まあ、その……色々と、ありまして。」

「それと、昔に比べて明るくなったか?目元とか、表情が随分と違うな。私の知るエリィは、もっと大人しい性格だったと思うが……」

戦後に彼女に会った人間は見習い誰もがこの疑問を抱く。アレンにガースト、そして目の前のウィレスだ。

「そうですかね……?自分では、あんまり分からないんですよ。」

照れ隠しをするエリィ。

「まあ、良い。それよりも新生連邦の戦艦を奪うなど、大それた事をよくやったな。」

これも、誰もが言う台詞である。セイントバードチームの最大の謎。それは、セイントバードが新生連邦のヒエラクス級という軍の中でも空母クラスに該当する空中戦艦を、奪ったという事。故に新生連邦に追われる事になってはいるが、それでも彼女達は立ち止まる事なく、ここまで来たのだ。

「あの時助けて貰えなかったら、今頃どうなっていたかも分かりません。本当に、感謝です!それに、ウィレスさんも国連で司令官をされていて、その上で、アッサラームの艦長をされているなんて……凄いです、本当に……!」

エリィは感無量だった。恩人が戦後になり、所属を変えても活躍しているのを見て、純粋な喜びを噛み締めている。

「それよりも今後はどうする予定だ?あの戦艦は損傷が激しい。ここで一度修理をし、そこから動いていく方が良いとは思うが。」

ウィレスからの提案だ。今、外に出るのは新生連邦に狙い撃ちをされるリスクが非常に高い。アッサラームの中で修理をして貰えるのならば、これ程有難い話はないだろう。

「本当に、良いんですか!?」

エリィは感嘆の声を出した。

「私とお前の仲だ。遠慮するな。」

ウィレスが国連の最高部隊の司令官である事がこれ程幸いするとは思わなかった。彼女がいなければ今頃どうなっていたのかも検討が付かない。

「ただ、その代わり条件がある。」

突如、ウィレスは口を開き、言った。エリィは瞬きをし、聞く。

「MS乗りを辞め、国連に参加する事は出来ないか?」

予想外だった。まさか、国連に加わるというオファーを受けるなど、エリィは思いもしていなかったからである。

国連に入るという事。それは、エリィにとっては全く考えてもいなかった事だ。だが、それは軍に入隊するという事になる。それが何を意味するのかは、元連邦軍であったエリィには分かっている事だった。

 確かに、金銭面の不安は解決するだろう。国連と言う強大な組織に加われば資金面での安定は保障される。

 しかし、今の世界情勢を見ればそれはデメリットも大きい。何故ならば、新生連邦が宣戦布告をしてきた状況であり、今後、新生連邦と交戦する事は増えてくるだろう。それを軍の命令で行う事は、彼女としては避けたい気持ちがあった。それは、セイントバードチームと言うメンバーが個人の力で今まで頑張って来られた事も由来していた。

 ウィレスと共に再び行動出来る事は、エリィにとっては光栄な事である。だがその選択をしてしまう事は、メンバーに不利益をもたらす可能性も考えられるのだ。それだけは、避けたいとエリィは考えていたのである。

「ウィレスさん、すみません。その件についてですが、丁重にお断りをさせて頂きたいと、思います。」

「そうか。それは、残念だ。」

 

 

ジャキンッ

 

 

周囲の兵士達が銃口を向けたのを、エリィは感じていた。銃を向けられた時、彼女の目つきは変化する。まるで、恩人に拒絶されたかのような、感覚だ。

「ウィレス……さん?」

目を疑ったエリィ。それに対し、ウィレスが言った。

「すまないな、エリィ。国連への参加を拒否する事は、別に問題はない。ただ、お前達がMS乗りという存在であるという事は、国連としても無視出来ない。平和への脅威に成り得る事も有り得るからな。」

「そんな、それって!?」

「そのままの、意味だ。悪いがこのまま拘束させてもらう。国連は平和主義の為にこちらから戦闘勢力に対して攻撃を加えるといったことはしない。だが、こちらとしては平和に対する脅威に成り得る存在を無条件で釈放は出来ない。」

一難去って、また一難。新生連邦の魔の手から逃れることは出来たが、今度は国連に確保されるという状況に陥ってしまったのである。

「エリィ。お前達がここに来た時に見させてもらったが、あの艦にはガンダムタイプを搭載しているな。それも、二機だ。戦後に数多く見られているMS乗りの大半の所持している機体は、デウス帝国のMSが大半であり、一部に旧地球連邦の機体が運用される事が多い。その中で、何故ガンダムタイプを所持している?」

「それは……」

「詳細を教えてもらわねばならないな。手荒な真似をする気はないが、我々としても情報を得なければならない。お前達の身元を明確にしなければ、拘束を解く事は出来ない。」

恩人に会えた。それは、良い事だ。しかし、戦後になり、彼女達の立場は変わってしまった。国連の最高部隊の司令官と、MS乗り。この差が、新たな問題を生み出す事になってしま

ったのだ。

 

 

 

 新生連邦軍が撤退した頃。アレンはシュネルギアに帰還していた。レイとの激闘を制したアレン。だが、この戦いの中で彼は感情をコントロールしていた。それは、先のオペレーション・デモリッション・クリエイション内にてリノアスに指摘された事だった。

 MSデッキにて、彼を迎え入れるジャンヌと、ココット。パイロットスーツのヘルメットを取り、帰還したアレン。

「お疲れ様でした、アレン。ブライティスは、どうでしたか……?」

そう言う、ジャンヌの表情はどこか、暗い。

「どうも何も、ないよ。俺にファンネルを操るのは、難しいのかも知れない。」

「やはり……ですか。」

何が、“やはり”なのか。その言葉は何を意味するというのか。戦場を混乱させる存在として君臨したブライティスは、何をもたらしたというのか。

「あの機体は“感情”に大きく左右される機体です。それ故に、貴方は感情を殺すような行動が多く見られました。ブリッツファンネルを使用した事が、何よりの行動と言えます。」

「“暴走”を避けなければならないからね。その状態で、心の安寧を保つのは難しい……」

暴走とは、何を意味するのか。その言葉は、以前レイに対して伝えた事があった。

 

 

――――力を持った人間はそれを求め過ぎる。その結果、暴走する事だってある――――

 

 

「クリスタルガンダムに搭載されていたシステムをそのまま移植したのがあの機体になります。貴方も経験はある筈です。戦時中に“暴走”をしてしまった事が。」

「クリスタルシステムの暴走……か。あったな、そんな事が……」

アレンは、この時、過去の経験を思い出していた。

 

 

 

デウス動乱時、クリスタルガンダムに乗っていたアレン。その強さで、当時敵対していたデウス帝国軍を圧倒しているアレン。

だが、とある作戦で、第十三特殊部隊の母艦が狙われる事があった。一方的に襲われ、撃墜の危機に瀕していた戦艦。デウス軍の、卑劣ともいえる攻撃は彼を怒りに駆り立てた。

 

――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――

 

その瞬間、アレンの心臓の鼓動音が響いたと同時に、機体色が変貌したという。赤く染まった機体は瞬く間に敵MSを攻撃し、壊滅させた。だが、この時、クリスタルガンダムは無差別の攻撃を行ったという。敵、味方関係なく、周囲の人間を巻き込み、壊滅させる。それは、余りに悍ましい光景だった。これを経験したアレンは、その後意識を失ったという。

 

 

 

 そして現在。彼を暴走させたシステム、クリスタルシステム。それが搭載されているガンダムが、元々はクリスタルガンダム。だがそれはアステル家によってティフォンガンダムへと改造させた。それに伴い、クリスタルシステムは解除された筈だったのだが――

「クリスタルシステムを解析した結果、搭乗者の感情により、そのポテンシャルを発揮するという事が判明しました。そして、これはサイコミュシステムを搭載しているブライティスと合わせた時、どのようなパフォーマンスを発揮するのか。それを確認する為にブライティスにはあえて、クリスタルシステムを搭載したという事です。」

「そうだった……ブライティスはそう言うコンセプトだった……」

アレンは禁断のシステムである、クリスタルシステムが搭載されている事を知った上で、ブライティスを操った。

 戦時中に彼が暴走をしたのは、純粋な怒りもそうだが、彼が十五歳という若さも関係していた事も大きな原因と言えた。

「危険なシステムであることは、重々承知でした。しかしクリスタルシステムには機体のポテンシャルそのものを上げる効果もあります。今後の世界を切り開く存在として開発したブライティスガンダムは、一長一短の機体と言えるでしょう。」

ティフォンガンダムの後継機として作られた、アレンの為のガンダム、ブライティス。それは、彼が戦時中に乗っていたクリスタルガンダムに搭載されていた、システムであるクリスタルシステムを搭載しているガンダムである。

 クリスタルシステムは機体そのもののポテンシャルを上げる。機動性を始めとしたMSのパフォーマンスの向上が期待されるシステムだ。だが一方で搭乗者の感情に左右されるという致命的なデメリットもある。このシステムを使いこなす為には空間認識能力に優れた人間である必要がある。

だが、戦時中はこの機体の乗る事が出来るパイロットが皆無だった。その中で、偶然にもアドバンスドタイプの力を持っていたアレンが搭乗する事になった。だが、問題はこの時の彼の年齢が十五歳であったという事だ。

感受性豊かな思春期の少年少女は、感情を露呈しやすい。ふとした際の怒りがシステムの暴走に繋がる。一度システムが暴走すれば、機体そのものの変色を行い、その上で絶大なパフォーマンスを発揮するが、パイロットの意思のコントロールが困難になる。アレンは戦時中、一度これによる暴走を起こしている。それ故に、このシステムの存在は危険であると認識され、連邦軍内では二度と製造される事は無かった。

だが戦後になり、新生連邦が勢力を強めて行く現状でその混迷を切り開く為に作られたブライティスには、かつてアレンを暴走させるきっかけとなったクリスタルシステムが搭載されている。それは、デウス動乱終戦後から五年が経過し、二十歳になったアレンがジャンヌの前に現れた事がきっかけだった。機体そのもののポテンシャルを上げるクリスタルシステムと、サイコミュシステムを搭載しているブライティスが組み合わさった時、果たしてどのようなパフォーマンスを発揮するのだろうか。ジャンヌは、ある種の実験を行っていたのだ。それが、先程の戦場という訳である。

クリスタルシステムの怖さを理解していたアレンは感情に左右されないように行動していた。普通に行動する分には、問題は大きくなかったのだが、問題は彼がサイコミュ兵器を使用した時に出現した。

ブライティスに搭載されているブリッツファンネル、ブラスターファンネルは彼の意思のままに動くのだが、クリスタルシステムの干渉が大きく、思うように動かせない事があった。それが、標的を的確に狙う事もあれば、そうでない時もある。この混乱が、アレン自身を内心、苦しめた。結果、レイやガーストを攻撃する事になったのである。

要するに、サイコミュ兵器を操る為に自身の感情をコントロールしなければならないという負荷が、彼には掛かっていたという事になる。そこには、従来のMS戦以上のコントロールの抑制が求められる。感情を出すという、人間や動物らしさを消す事を、考えなければならないのだ。

人間でありながら感情を抑制する事は、特殊強化モデル等の人間には実施できるかもしれないが、アレンのような純粋な人間には難しい。それ故に、彼自身は苦悩した。

そして、訪れたレイとの交戦。それはレイがアレンの事情を知らず、ファンネルを躊躇なく使用し、敵味方関係なく攻撃を行なっているをその上、戦意を失った人間に対しても容赦なくそれを襲わせている姿を見て怒ったが故に、生じた出来事であると言えたのだ。

この事は、ジャンヌ自身予想外だった。まさかセイントバードチームが新生連邦のオペレーション・デモリッション・クエイリションの中に巻き込まれているなど、知らなかった為である。

「けれども、あの中で俺はココットの声を聞いた。」

「ココットさんの声……ですか?」

ジャンヌは、首を傾げ、聞いた。

「不思議だった。彼女は力を持つ人間でない筈なのに、あの時何故彼女を感じられたのかは分からない。けれど、あの時の俺を止めてくれたのは間違いなく、ココットだ。彼女が居なかったら、俺はあのままレイを殺していたかも知れない。」

アレン自身、レイと本気で交戦する気はなかったのだ。しかし相手が迫る以上は、戦わなかければならないと、思っていた。感情のコントロールで精一杯だったアレン。そこに対して怒りを覚えたレイ。互いの想いがぶつかり合い、先の戦闘が行われたという事だ。

「俺自身もあのガンダムを乗りこなすにはもっと訓練が必要だなって事だな。それと、ココットの存在をもっと意識しなければならないなって思ったよ。」

「……成程……ですね。」

ジャンヌは、何かを考える様子を見せていた。

「貴方を支える存在があれば、心の安寧が保たれるのかも知れませんわね、アレン。」

「心の安寧……それは、欲しいかもね。あのガンダムを操る以上は。」

「ええ。それを“確固たるもの”にしていかなければ、なりませんわね。」

意味深な、ジャンヌの発言が、アレンに伝わる。

「それよりも今後はどうする予定だ?新生連邦は撤退したけれど……」

アレンが聞いた。新生連邦の作戦が失敗した以上は、この場にいる理由は、無い。

「シュネルギアは一度、アッサラームに向かいます。ウィレスさんにも事情を把握してもらう必要がありますから。それから、国連に本格的に協力をしていきます。」

「そうか……」

この時、アレンは心労が蓄積していた。彼が思う以上に、感情を抑制しながら交戦するという行為は負担になるのである。機体を制御しつつ、感情を抑制し、動く。これが特別な処置をされていない人間が行うのは、いくらアレンのようなアドバンスドタイプと呼ばれる人種であれ、並大抵の事ではないのだ。

「今は、休んで下さい。お疲れ様でした、アレン。」

ジャンヌの言葉を聞き、アレンは静かに頷き、MSデッキを去る。

 先の戦場では多くの出来事を経験し過ぎた。レイが無事であれば良いと、内心思いながら、アレンは自身の部屋に向かって行くのだった。

 

 

 

 アレンは自室に入り、下着姿のまま、ベッドで横になる。先の戦いで疲れていたのだろう。そっと、呼吸をするアレン。

(気になるのは、あの時の少女……か。感情を欲してるって言ってたけど、あの子は一体……)

天井を眺めるアレン。先の戦闘でダッゲインと交戦した時に、リノアスと会話を交わした。それは直接ではなく、心の中で会話を交わすような、不思議な感触であった。

 あの時の感覚は何だったのか。何故、彼女の内なる声を直接聞けたのかは、全くもって分からない。

 

ウィィィィン

 

そこへ、一人の人間が入って来た。ココットである。戦闘が終わり、彼の事が心配になった彼女が部屋に入って来たのだ。

「お疲れ様、アレン。大丈夫?」

「あ、ああ。ココットか。俺は大丈夫。少し、休んでるだけだ。」

そう言った後、アレンはベッド端座位姿勢をとり、ココットと会話する。

「さっきの戦い、凄かった……それと同時に、頭が痛くなったの。何だったんだろう……」

「頭が痛くなった?」

ココットに訪れた妙な現象。アレンはそれを聞き、違和感を覚えている。それは、戦闘中に聞いたココットの声と関係があるのだろうか。

「分からない。それと、アレンに思いが伝わったような感覚があったんだよ。不思議だなって思って。」

そのような事があり得るだろうか。ココットが、シンギュラルタイプの力を付けたとでもいうのだろうか。

「ココットは、その感覚をどう思う?」

ふと、アレンが聞いた。

「嫌じゃないかな。アレンの事を分かるようになるのは、嬉しいから……」

「そっか……」

そう言った後、アレンはそっと、立ち上がり、ココットの前に立つ。そして――

 

ギュッ

 

彼はそっと、彼女を抱き締めた。

「俺、君が居てくれれば戦っていけるような……そんな、気がする。」

「うん……良かった……。私も、サポートするからね。」

「それよりも、互いに感じる事があるなんてな。よく、分からないけど。」

「でも、嫌じゃないよ。」

「俺も。」

先の戦いでは、自身が暴走するかも知れない恐怖と戦っていたアレン。感情を押し殺して戦う事の難しさ。それはよく、理解した。

 人は過酷な現実と向き合う時、何処かで心の支えが必要になる時がある。人は一人では生きていけない。だからこそ、人生にはパートナーが必要なのだ。アレンの場合は、ココット・メルリーゼがそれに該当する。

 戦後、アレンはいつ死んでも良いとばかり考えながら生きていた。それは、自殺願望というわけでなく、戦時中に失ったココットの存在がそれ程に大きかったのである。

 アレンはバンディットをしていく内に、自身の心が生きていない事を感じていた。だから、敵と遭遇しても死を恐れる事はなかった。

 だが日本でココットと再会してから彼の人生は変わりつつあった。支えがいる中で戦う。それは、今のアレンには必要不可欠な事であったのだ。

 

 

 

その夜。国連によって拘束されていたセイントバードチームは、身動きが取れないまま、艦内で過ごす事になった。拘束とは言っても、身体の自由を奪われている訳ではない。艦内を移動する事は可能であるし、Eフォンの使用も自由だ。

これは、せめてものウィレスの情けが関わっていた。国連と言う立場である以上はMS乗りを野放しに出来ないのだが、エリィの温情が彼等を酷い拘束に陥れる事は、無かったのである。

その中で、独房に入れられていたレイ。そこは、以前に砂漠の狩人、アスーカル・エスペヒスモが入れられた部屋だ。その部屋を照らすのは廊下の明かりだけ。その明かりも皆が寝る頃には消え、真っ暗になってしまう。

多くの出来事を経験した、昼間の戦闘。再び自らに生じた深紅の眼の現象に、エファンから感じた凄まじいプレッシャー。

 

ドクン―――

 

「死ね」

 

レイの眼が、覚める。冷や汗を掻く、レイ。呼吸も荒く、苦しそうだ。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

自らが殺されそうになる悪夢と、昼間の出来事を同時に思い出したレイ。エファンから感じた恐怖は、何なのか。ただ、自身が押し潰されそうになるあの、悍ましい感覚はレイの中で強烈に残っている。

 誰かにこの事を打ち明けた所で、誰に理解がされるだろうか。それも、分からない。その上今、彼は独房と言う環境にいる。誰も滅多に来ない、場所。そこで一人、遠くにある檻をじっと見ている、レイ。

 彼が恐怖に感じているのはエファンの事だけではない。アレンと交戦した時に生じた、深紅の眼の現象についてもだ。自らが、自らでなくなるような異様な感触。気が付いた時には、敵と戦った感触だけが残る、違和感。そして、自らの意思で操ったとされる、ブリッツファンネル。

 全てが、分からない。何故こうした現象が生じるのか。自分と言う人間は、本当は何者なのか。それが、次第に恐怖に感じられるようになってしまっていた。

(僕は、何者なの……?あんなの、分からない……僕はただ、MSに乗って戦っただけなのに……)

今までごく普通に生活をしていれば、このような事に巻き込まれる事は無かっただろう。だが巻き込まれていき、彼が戦闘を繰り返す内に多くの出来事を経験した。その経験が、今彼を苦しめている。

 自分は、エリィの言うようなシンギュラルタイプなのか。それとも、また特別な存在?それも全く分からないまま、彼は一人、苦悩している。

(この状況で、誰とも会話が出来なくて、ただ、一人悩んで……怖い、怖いよ……)

自らが自らでなくなるような、異様な感覚。夏場ではあるが、それは彼の身体を震わせている。

 得体の知れない恐怖。誰にも共有されないかも知れないという怖さは、レイを蝕もうとしているのだった。

 

スッ

 

その時だった。外から、足音が聞こえてきた。それに反応するレイ。

「誰……ですか?」

耳を立てたレイが、静かに声を出した。すると一人の少女の声が聞こえた。

「おい、大丈夫か?」

「スバキ……なの?」

レイは念の為確認した。ここに来たのは、スバキであると、確信した。顔を見る。やはり、スバキの姿があった。愛らしい顔立ちだが、どこか勝気な印象を持つ、彼女。

「そうだよ。私以外にいないだろ。今、セイントバードはバタバタしてるからな。私ぐらいしかお前の所行けないしな。」

スバキはジャージのポケットに手を入れ、レイの顔を見ようと檻を除く。その時、ベッドで横になっていた彼の顔を見た。その、眼からは一筋の涙が流れていた。

「え?お前……泣いてんのか?」

「う……」

レイの泣き顔を見て、スバキは一言、言った。

「やっぱり女だよな。お前。泣き顔なんか見たら、本当にそんな感じ。」

「僕は、男だよ……!」

とはいうが、元気が出ない。様々な出来事を、思い出してしまっていたからだ。

「まあいいや。よいしょ。」

スバキはそのまま檻にもたれかかる。その状態で天井を見上げ、口を開いた。

「私さ、あの戦いの時にさ、急に頭が痛くなったんだよ。前にも同じような事、あったんだよな。その時にお前の事を感じたんだよ。偶然かな。」

それはレイの目が深紅に染まった時の事だ。スバキを始めとする艦内の力を持つ人間達を苦しめていた、現象。その事を、今、スバキから伝えられたのだ。

「そう……なんだ……ごめん、全然分からなくて……」

レイは申し訳なさそうに言った。しかし、彼には全く覚えがない。自分が戦闘中で深紅の瞳に染まり、その影響で様々な人間が苦痛を感じている事など、知る由もなかったのだ。

「けどさ、急に頭が痛くなったりするのってさ、なんか、怖いよな。あの戦いでもお前の怒りみたいな感情を感じていたんだよ。お前を怒らせるの、怖いかもな。」

「え、そ……そんな……」

この言葉でスバキに怖がられていると思ったレイは、非常に不安になった。自分を恐怖の対象に見られる事等、普段は無い。だが、この場において恐怖の対象に見られる事はレイにとっては辛い事だった。恐怖の対象として見られるのは嫌だと感じたレイは恐る、恐る、スバキに聞いてみた。

「スバキは……僕を避けたいの?」

レイがそう言った後、スバキの目が見開かれる。

「……はぁ!?そんなワケないだろ!何言ってんだよバカ!」

それが気まずかったのだろうか。両者は口を紡ぐことになった。

それが約三十秒続いた。人間同士が居る筈なのに、互いに言葉を発せない状況。気まずさを、感じているのだろうか。

「避けたいとか、そういう考え、やめろよな。」

口を開いたのは、スバキの方だった。

「なんか分かんない事が起きてるだけだろ?そんなの、気にすんなって。」

スバキは、まるで状況を切り替えるように言葉を話した。だが、レイにとっては謎に包まれている出来事である。これが何を示すのかも、不明だ。

「ねえ、スバキ。聞きたい事があるんだけど。」

今度は、レイがそっと口を開いた。

「スバキも力を持っている人間だよね。例えば、何らかのピンチになったりした時とか、激しく怒った時に勝手に身体が動いてるような……そんな経験って、ある?」

自らに起きた事についてレイは聞いた。深紅の眼に染まる現象が不明である為、彼はそれを、恐れている。そういった事はシンギュラルタイプである彼女にも起こり得るのだろうか。

「それは、分からない。聞いた事もないな。」

「そっか……分からないんだ。」

レイの声が、再び小さくなっていく。

「けどさ、お前は体はなんともないんだろ?ネルソンに診てもらって、何もないんだろ?なら、良いじゃねえか。健康でいられるなら、そんな事気にしなくて良いじゃん。多分、ちょっとだけ特殊なんだよ。力を持ってる人間ってさ、やっぱり変わり者みたいなところ、あるからさ。」

それは、スバキ自身が経験してきた事だ。シンギュラルタイプの力を有していたが故に新生連邦に母親を人質に取られ、苦悩の生活を送って来た。その母親も亡くなり、絶望の淵に立たされていた筈のスバキ。

 そうした経験があるからこそ、彼女は語る。そして、その言葉はレイに刺さった。

「僕はね、スバキを偉いと思うんだ。」

突然彼が言い出した台詞に、スバキは戸惑う。

「な、何言ってるんだよ……いきなり。」

「あんまり思い出したくない事だろうと思うけど、スバキは辛い事を多く経験していても、泣かなかったじゃない。日本で僕に色々と言ってくれた話を聞いてた時でも、本当に強いんだなって思った。僕だったら、それだけの出来事、耐えられないかも。」

先程まで不安で押し潰されそうになっていたレイだったが、スバキと話す事で少しばかり表情が落ち着いてきているように見えた。それを経験している為か、レイは自身の先程までの境遇と照らし合わせ、スバキが日本で経験した、出来事を思い出すように言った。

「なんかスバキと喋っていたら……ちょっと信じられないんだ。これだけ辛い事を背負ってるのに明るく振舞えるなんて……スバキは本当に凄いと思う。」

レイの言葉を聞いていたスバキは嬉しそうな表情を浮かべた。だがその一方で、急に褒め出す彼の真意が分からない為に、疑うように言う。

「お前、なんで突然褒めるんだよ?」

「え!?いや……別に……」

その時、スバキは何かを思いついたよう、僅かに笑みを浮かべた。

「あー成程ね。お前、怖がられたくない為に褒めたんだろ?心配するなよ、私はお前の事なんて怖いと思ってない。」

「そ、そう言う訳じゃないよ!?」

スバキは、突然レイが褒める理由は、彼が恐れられたくないと思う理由から褒めているものだと思っていた。しかしその予想が外れた為、スバキは不機嫌な表情を浮かべる。

「なんだよ!あーあ、せっかく気を遣ってやったのに。私はお前のコトなんか怖がってもないって言ったらお前が喜ぶかと思って言ったのにさ!」

「あ……ごめん……全然気付かなかった……」

レイは謝る。だが、それに対し、スバキは笑顔を浮かべた。

「まあいいや。私の勘違いだし。それにさ、私はいちいち昔の事ばっかり振り返っててもキリがないって思ってるし、前向きに生きて行かないとダメだと思ってるからさ。」

スバキの言葉は、レイに勇気を与えてくれるようだった。彼が感じている恐怖心は、僅かではあるが失せつつあったのだ。

「それより、スバキはどうしてわざわざここまで来てくれたの?確か、セイントバードは国連の戦艦に保護されたとかって聞いてるけど。」

セイントバードの独房は人気の付かない場所にある。彼が以前、アスーカルと話に行った時も、ここは人気のない場所だったのだ。

 わざわざ、このような場所にスバキが来てくれる。それは嬉しい。しかし、理由がなければそのような事はしない筈だとされる。

「理由なんているかよ。お前は腐っても恩人だしな。それに……その……」

突如、スバキの言葉が詰まる。何故だろうか。レイは首を傾げた。

「ううん、何でもない!こんな場所で、一人ぼっちなんて寂しいだろって思っただけだよ!お前も色々あるかも知れないけどさ、こうやって話し相手ぐらいにはなってやれるからさ!元気、出せよな!」

「……うん、ありがとう。」

レイは、静かに頷き、笑みを浮かべた。スバキの不器用な優しさは、今のレイに響く。

 その後、レイとスバキは僅か時間だが雑談を交わしていた。誰かと会話を交わす。それだけでも、今のレイにとっては有難い事と言えた。

 人間は、会話をして生きている。他愛のない会話や世間話、近況の話等でも人と話をする事で、何か発見があったりする。無理に洒落た話や面白さを狙ったような話等、する必要はない。

 飲食店や酒の場等が最もたる場所だろうか。会話が弾めば、時間の経過も瞬く間に過ぎる。今、孤独で過ごしていたレイを、スバキが穏やかに包み込んだのである。

 

 

 程無くして、睡眠時間になった。スバキは手を振り、独房から去って行く。残されたレイは、ふと、呟いた。

「あの人……アスーカルさんも、同じ気持ちだったのかも知れないな。」

去年の十二月にセイントバードの捕虜になった男、アスーカル・エスペヒスモを思い出したレイ。

 彼もこの独房で会話する相手を欲していた。それが、レイである。同じ環境に居る事で、同じ気持ちをふと、感じたのだ。

 アスーカルは決して、悪人とは言えない人間だった。ただ、守る者の為に戦っただけだ。その結果でレイが彼を倒した。それに対し、複雑な想いを抱く、レイ。

 

ピピピピピッ

 

レイの持つEフォンが、鳴った。急いでそれを取り、発信者の名を確認する。

 発信者は、リルムだった。予想外の出来事だと感じたレイは、喜びに満ちた様子で、リルムと連絡を取る。

「もしもし、リルム!?」

慌てふためく様子が見られたが、リルムは彼の声に反応した。

「レイ……今、何処に居るの?」

どこか、寂しげなリルムの声。何か、あったのだろうか。

「僕は、その……お世話になってる戦艦の中にいるよ。ちょっと色々と訳があって、身動きが取れない状態だけれど。」

自身が独房に入れられているなど、言える筈がない。だが、訳があって身動きが取れないというのは間違っていない。

「リルムは、もう家にいるの?あれから、ジャンヌさんに保護してもらった?」

シュネルギアからツヴァイを発進させた時の事。用事が終わればすぐに戻ると伝えたきり、彼女に連絡を出来ていなかったレイ。フロリダに着いてから様々な事があった為、連絡をするタイミングを失っていたのであった。

「そんな訳、ない……私もね、その……戦艦の中なんだよ。全然、よく分からないよぉ!何が、どうなってるのか全く分からないんだもん!」

「え……どういう事……?」

レイは衝撃を受けた。彼の中では、リルムは故郷に戻っていて、今頃家から連絡が来ているものとばかり、考えていた為である。

「さっきも怖かった!いきなり戦争が始まるとか言われて!戦艦は揺れるし、とにかく訳が分からなかったよぉ!何がどうなってるのか全く分からないよ!うぅ、本当に怖いよ……レイは、平気なの!?こんな、思いをして!」

レイの手が震えていた。リルムはシュネルギアに残されたままだった。そして、シュネルギアは先のオペレーション・デモリッション・クリエイションに介入した。彼女を、保護する事をせず、戦争に介入したのだ。

 レイと違い、リルムは戦場の事を全く知らない人間である。そのような危険を冒してまで、シュネルギアは戦場に出た。そして、アレンと戦った。これは、どういう事なのか。レイに衝撃が、走る。

「嘘だ……リルム!どうして……!?」

「知らないよ!ねえ、どうなっちゃうの!?分からないよ!私、怖いよ……」

恐怖を感じている様子のリルムの声。その様子がレイの耳に伝わるのだ。

 彼女は全く関係ない人間だ。今回のような事になったのは自分が招いた種であるかも知れない。だが、リルムは本当に、只の民間人であり、ジュニアハイスクールの生徒だ。

では何故彼女を巻き込むような真似を、シュネルギアは行った?民間人を乗せて戦争を行った?危険であると伝えたようには、明らかに思えない。レイは先程までの恐怖の表情から、次第に怒りを感じるように、なっていきつつあったのである。

「私、どうなるのかな……レイも、大丈夫……?」

「僕は、どうにか……。うん。」

冷静にならなければと、思うレイ。そっと呼吸を行い、リルムと話をする。

「本当に、心配だけれど……レイ、気を付けてね……それで、絶対にモントリオールに戻ろうね!」

「うん、そうだね……」

その後、電話は切れた。彼女自身もひどく、怯えている様子だった。最後の挨拶が、モントリオールに戻り、帰るという話。それ自体が、今後叶う事になるのかも危うい世界情勢へと変貌した今、彼はどのようにするべきか、分からないで居たのである。

「どうしてあの人達は……あの戦いでリルムを巻き込んだの……?」

ただ、その事がショックでならなかった。民間人の保護を優先するものとばかり、考えていたレイはジャンヌの行動やその存在に、疑問を抱くようになってしまったのである。

 

 

 

翌日。シュネルギアはアッサラームの中に収納された。先の戦闘での事情をジャンヌから聞かされる、ウィレス。

 ここにジャンヌが来たという事で、セイントバードはアステル家のスポンサー関係という事が発覚する。それはつまり、拘束が解かれるという事に繋がった。これはつまり、アステル家とMS乗りの立場の違いを感じさせられる事に繋がった。

 国連と言う、現在の地球圏の勢力の半数を担う大多数の組織がアステル家の言葉を信じるという事は、如何にアステル家の影響力が強いかと言う事に繋がる。一方のエリィ達はMS乗り。巨大な組織を前にすれば、その立場は無に等しい。例えるならば個人事業主が、大企業を相手に案件を簡単に貰えない事と、同じような構図である。社会的な立場や信用が大きく違い過ぎたのである。

 いくらエリィとウィレスが知人関係とは言え、この立場の違いは絶大だ。エリィはこの時、己の無力さとアステル家の強大さを改めて感じる事になったのである。

「ジャンヌ・アステルから話は聞いた。共闘関係にあるという事だな。それならば、話は変わってくる。アステル家の協力下ならばお前達は信用に足る事になる。」

ウィレスからの言葉。だが、その言葉はエリィには冷たく聞こえた。

 ジャンヌが居なければ、この状況は脱する事は出来なかった。では、ウィレスと自分との関係と言うのはどういう事に当たるのか。恩人であるウィレスだが、立場の違いが人をこうも変えるのかと、彼女は密かに考えていた。

 

 アッサラームに収納されている、セイントバードとシュネルギア。この巨艦の中に、大型戦艦が二隻格納されている状況。それでも、アッサラームは収納が可能なのだ。

 この後、エリィとジャンヌは再会し、短い会話を行った。その際のエリィの表情は、明るいとは言えないものだったのである。アッサラームの艦格納用のデッキにて、ジャンヌとエリィが会っていた。

「エリィさん、お久し振りですね。まさか、あの場にセイントバードが居たとは思いもしませんでした。その……大変、でしたわね。」

エリィを労わるジャンヌ。だが、エリィの方は複雑な心境だった。

「ジャンヌさんがウィレスさんと親交があったのが、不幸中の幸いと言えました。あのままだったら私達、国連に拘束されたままでしたから。」

エリィの表情は、明らかに暗い。

「エリィさん、そちらにツヴァイガンダムが格納されていると思います。そちらを、シュネルギアに一度預けさせて頂く事は出来ますか。」

突然のジャンヌの台詞はエリィを驚かせる。確かにアステル家が作り出した機体ではあるが、何故急にツヴァイを必要としているのか。

「私からも聞きたいことがあります。ジャンヌさん、あの機体をレイ君に渡したのって、何か理由があるんですか?」

エリィの質問に、ジャンヌは、冷淡な様子で答えた。

「彼が、“ガンダムを駆る者”だからです。ツヴァイを託した結果、彼はその兵器を使いこなしました。ただ、予想外の事が起きてしまいましたが……」

ジャンヌ自身も、アレンとレイが交戦する事は予想していなかった。故に、彼女の表情もどこか、暗いのだ。

「あの兵器はやっぱり危険だと思うんです。サイコミュ兵器って言うんですか、あれは。下手をすれば怪我人が出かねません。」

ブリッツファンネルを操っていたアレンとレイ。その機動性、火力は他を圧倒した。無線兵器による、オールレンジ攻撃は一対多数において絶大な破壊力を見せた。

 先の戦いでもそれは著明に認めた。ファンネル同士の交戦は他の機体を寄せ付けなかったのである。

「それらの改良をする為に、一度こちらに預からせて頂ければと思います。その上でレイにお返しをさせて貰おうと考えています。」

「それって、ジャンヌさんじゃないと出来ないって事ですか?」

「残念ですが、そうなりますわ。」

アステル家が開発したガンダム、ツヴァイ。それを一度渡す事を求められたエリィ。

 だが、あの機体はレイにしか操ることが出来ない。その為には、レイの許可も必要となる。彼女の一存だけで判断は出来ないのだ。

「一度、レイ君に聞いてみます。彼が許可をすれば、それは出来ると思います。」

今、ツヴァイは半壊状態である。ブライティスとの死闘で修理が出来ていない状態だ。それはツヴァイだけに留まらない。他のMSも同様である。完全な修理が終わるのには、時間を要する状態だ。今、セイントバードは動かせる状態ではないのである。その中でアステル家が機体の修理を請け負うというのは、有難い話ではあった。

 

 

 

 その後エリィは独房に行き、レイに対してツヴァイの事について聞いていた。人の行き来がない、独房に人が来るのは珍しい事だ。エリィは檻の外からレイに対して聞いた。

「ねえ、レイ君。そこから聞いて欲しいんだけど、今、ジャンヌさんが来ていて、あのガンダムを一度預けて貰えないかって言われてるの。」

「ジャンヌさんが……?」

レイにとっては予想外の言葉が出て来た。ジャンヌがここに来るとは思いもしなかった為である。それに、驚愕している様子だった。

 彼はEフォンのSNSアプリを使って直接ダイレクトメールを送ろうかと、考えたりもした。だがそのアカウントは既に消されていた。数億のフォロワーを持つジャンヌ・アステルのアカウントが消えていたのである。この事は一時期SNS上で話題になっていたという。

「直接、会うことは出来ますか?あの人と話がしたいです。」

「それは、構わないと思うけど……」

「エリィさん、ここから出して貰えますか?」

「うん。大丈夫だよ。」

エリィはレイの言葉を聞き、独房のロックを解除した。レイはそのまま走る事なく、エリィに連れられていく。ジャンヌには伝えたいことが多くある。ツヴァイの事、ファンネルの事、そして、リルムの事だ。

 

 

 エリィはレイを連れてきた。ジャンヌの姿を見たレイ。相変わらず麗しい姿をしているジャンヌだが、今のレイは彼女に聞きたい事が多くある。そこに、彼女の数億のファンの内の一人と言う立場の少年の姿はない。純粋に、ジャンヌを一人の人間として見ており、聞きたい事を、聞く気でいたのだ。

「レイ。お疲れ様ですわ。ツヴァイは少しずつ乗りこなせている様子ですわね。ただ、昨日はまさかの出来事でした……その事に関しては私の配慮不足でした。」

「昨日の事……?どういう事ですか?」

この時、レイは事実を知る事になる。

「貴方はアレンのガンダムと戦いました。それは私が予想していなかった事です。二人が戦う事は、あってはならなかったのです。なのに、それが起きてしまった事は、配慮が不足していたが故に生じた事と言えます。」

ジャンヌがアレンのガンダム、ブライティスの存在を知っている。それはつまり、ジャンヌとアレンが戦場に居たという事になる。戦場ではそれを調べる余裕などない。アレンとジャンヌがどのような関係なのかは定かではないレイにとって、この真実は驚愕と言えた。

 この瞬間、レイに聞きたいことが一つ、増えた。アレンは何故攻撃をしたのかという事も追加されたのだ。

「ジャンヌさん。聞きたいことが山程あります。教えて下さい。ツヴァイって何ですか。ファンネルって何ですか。アレンさんはどうしてあんな、無差別な攻撃をしたんですか。そして……

リルムをどうして帰していないんですか!?」

レイの言葉が走る。血相を変えた様子でジャンヌに質問をするレイ。明らかに、感じる彼からの怒り。ジャンヌはそれを静かに、感じ取っていた。

 エリィはそれを止めようとした。しかし、レイは明らかに怒っている。他者に対し、怒りを見せる事は、彼にとっては滅多に無い事だ。

「以前にもお伝えしました。ツヴァイは貴方の為のガンダムです。今後、混迷を切り開くための力。それがツヴァイ。ですが今回、ブリッツファンネルはまだその能力を使いこなすには不十分である可能性が出てきました。ですから、ツヴァイをこちらに預けて頂きたくお願いをさせて頂いたのです。」

冷静に答えを返すジャンヌ。レイの言葉に慄く様子を見せない。

「そして、アレンもまた、そのコントロールに悩んでおりました。それ故の行動だと思われます。それが、私の判断ミスでした。幸い、機体は半壊した程度で済んだ事が幸いでした。ですから、機体を直させてもらう事が出来ます。」

この、冷淡に話される言葉がレイにとっては怒りさえ感じてしまう。

「じゃあ、リルムは!?昨日、リルムから電話がありました!あの戦艦の中にいるって!その状態で戦争を行ったって事ですよね!あの子は何も関係ないのに、ただ、巻き込まれただけなのに!どうして先に故郷に帰してあげなかったんですか!?」

リルムは何の関係もない人間である。なのに、彼女を故郷に帰す事なく戦場に現れたシュネルギアの存在に、疑問を抱くのは至極当然と言える。

 だが、ジャンヌはこれに対し、答えた。

「新生連邦が戦争を行う、混沌としつつある状況で、優先順位が異なります。ご存知の通り、今の世界は戦争状態に陥りました。今後、どのように変化していくのかは私達にも分からない事です。彼女には気の毒かも知れませんが、今は世界の為に動かなければならないのです。」

要は、大事の為には小事は切り捨てるという事だ。この、ジャンヌの判断にレイは苛立ちを覚えていた。

「あの時!リルムを保護してくれるって言いましたよね!?」

それは、レイとリルムがシュネルギアに保護された時の話である。

 

―――――――――――彼女は責任をもって保護致しますわ―――――――――――

 

確かに、ジャンヌはリルムを保護すると言った。しかし――

「私は、彼女の故郷に送るとは言っておりません。身柄を保護させて頂いているに過ぎませんわ。」

「そんな……それでリルムを巻き込むなんて!あの子は怖い思いをしたんです!そんなの、勝手過ぎますよ!」

レイは声を荒げた。いつになく怒るレイの姿。その相手が、かつては一ファンとして憧れていた筈の女性という、事実。

「レイ。仮に彼女を故郷に帰したとしてそれで安全が保証されると言い切れますか。世界情勢が不安定な中で家族の元で安定した生活を送れるという保証などありません。ましてや彼女は新生連邦に一度拉致をされております。少なくとも、軍の何らかの情報を見ているかも知れません。そうなった場合、彼女だけでなく、彼女の家族にさえ被害が及ぶ可能性も考えられます。」

それは、レイにも言える事だ。だが、レイとリルムの決定的な違いは戦える力があるか、どうかになる。

 レイは力を持っている。だがリルムは?リルムは凡人だ。レイの幼馴染というだけの、凡人。

「今はこちらで保護させてもらう方が良いでしょう。いつ、新生連邦が迫るかは分かりません。その状況の方が危険ですわ。」

「だけど……!あの子は怖がっていますよ!それって、意味があるんですか!?」

レイの主張は感情的だ。一方のジャンヌの主張は冷静で、確かに合理的。その行為が彼女の身を守る事には確かに繋がっている。

 結局、レイは子供だ。しかし、戦争をしているのは大人の都合。今まで日常生活を送って来たレイにとってそれは、理解の出来ない事である。

「人の事を考えないなんて、ジャンヌさんは勝手な人ですよ!そんなのおかしいです!アレンさんの事だっておかしい!僕が襲われたり、ガーストさんだってあの人に襲われました!友達同士の筈なのに!」

「レイ君!これ以上言わないで!」

エリィが彼を止める。それは、何故なのか。

「どうしてですか?この人がセイントバードのスポンサーだからですか!?確かにそうかも知れませんよ!けど人の事を考えないなんて間違ってますよ!僕だって、怖い思いをしたんだ……!アレンさんに殺されそうになった!滅茶苦茶ですよ!アステル家って何ですか!?お金を持っていたら何をしても許されるんですか!?」

この台詞に対し、ジャンヌは口を開いた。

「世の大半の事は、許されるでしょうね。」

この台詞にレイはショックを受けた。このような事を言われるなど、思ってもみなかったからである。

「レイ。貴方はツヴァイガンダムに乗るという選択をしました。あれは紛れもない決意だと、私は考えています。そこから何か起きる事も考えられるでしょう。時に苦しみ、時に死に直面する事さえ、有り得る事かも知れません。」

今度はジャンヌが語る。冷淡に、その綺麗な表情を変えないまま。

「しかし、そこには自己の責任が伴います。あのまま故郷に帰るという選択肢もありました。それで良かったのでは?そうなった場合、セイントバードの皆を救う事が出来たかは分かり兼ねますが。」

確かに、あの時セイントバードは危機に陥っていた。新生連邦の戦艦に拉致されていたクルー達。もしレイが助けなければ彼等は死んでいた。

「貴方は彼等を守りました。その上での行動です。貴方の運命は、自ら選びました。戦うという、運命を。その先に何が待ち受けようともそれは自己責任です。戦場で泣き喚いて相手が止まるのならば、誰も戦争をしません。止まらないから人は戦争は起きます。レイ。貴方は自らその道を歩みました。その意味を、よく考えて下さい。」

誰かを守る為にレイは戦って来た。それがレイの行動の源。

 だがかつて味方だった人間に襲われる事は恐怖以外何者でもない。それに対するジャンヌの言葉は冷たい。

 そうなればリルムを連れて故郷に戻りたいと思うのも、無理はなかった。だが現実がそう、させないのだ。

 彼が故郷に戻ったところで新生連邦に襲われる可能性が高い。その魔の手は自分の周囲に及ぶのは確実。実際にリルムが狙われている。

 では、リルムは?リルムだけ故郷に帰す事は?ジャンヌがそれをしないのなら、自分の手でするしかない。

「じゃあ……リルムを返して下さい!シュネルギアにいる筈でしょう!?そのまま僕が迎えに行きます!」

以前行っていた事と違う事を言ったレイ。あの時は危険だから、リルムをシュネルギアに置いていった。しかし今は自分が連れて帰るといっているのだ。

 無論、それは不可能である。状況が変わった世界でそのような決断の撤回など出来る筈がない。彼の判断は、遅過ぎた。

「それの推奨はしません。シュネルギアはツヴァイを受け取った後にアステル家に向かいます。仮に彼女をセイントバードに身を置いたとして、航行の安全の保証があるとは思えません。レイ、貴方の言動には勝手が過ぎます。状況をよく見て下さい。ツヴァイはこちらで預からせて頂きます。」

ジャンヌの言葉が無情にも響く。自分が置かれた現実を、改めて思い知る事になったレイ。

 これから、ツヴァイはシュネルギアに渡る。それを、彼は止める事はなかった。

「勝手にすれば良いですよ!でも、それからどうする気ですか!?こんな理不尽な思いをさせられて、僕はどうすれば良いんですか!?答えて下さい、ジャンヌさん!!」

レイの怒りは止まらない。ジャンヌは答えようとせず、ただ、冷静に彼の眼を見るだけだ。

 だが、そこへエリィが彼の目の前に立った。急な出来事に彼は内心、戸惑う。そして――

 

パシィッ

 

レイの頬を叩いた。今まで彼女がしなかったレイへの鞭。それは、レイにとっても予想外だったのである。

「この状況なのに自分を通そうとするのはエゴでしかない!そんなの、レイ君らしくないよ!ジャンヌさんに、それ以上言葉を言うのはやめなさい!」

レイの怒りを、エリィが止めた。これ以上ジャンヌに詰め寄られては行けないと、判断した為である。

「そんな……そんなのって……」

レイは頬に触れ、その熱さを僅かに細い指で感じている。

 エリィから受けた仕打ち。今まで彼女がレイに手を上げた事はなかった。今回、それが初めて出た事になる。自分は、ただ巻き込まれただけ。だが彼がガンダムに乗る事を選んだのは、自らの意志。それから先に生じる事も何が起きるのかも分からない世界に身を投じたのは、彼の意思だ。

 それを他者に当たるのは身勝手以外の何者でもない。己の都合や、リルムだけを救って欲しいという話をするのは、子供の戯言と捉えられても仕方が無いのである。

 ジャンヌは当然の如く、彼の意見を無視した。彼女達も動いて行かなければならない事がある。リルムの事を保護すると断言している以上、これ以上彼女達がレイにとって都合良く動く事は有り得ないのだ。

 

 その後、ツヴァイはシュネルギアに預けられる事になった。これにより、セイントバードの戦力は大きく減る事になる。だがセイントバード自体の損傷も激しい為、今はアッサラームに保護されたまま、この時間を過ごす事しか出来なかった。

 レイは、ただ悔しかった。何も出来ず、寧ろ、自分の訴えが空回った事が、情けないとさえ感じていた。そして、アステル家の存在が改めて強大な組織である事も、セイントバードチームは感じていたのであった。ジャンヌ達が居なければ、セイントバードはどのような末路を迎えていたのか、分からない。

 その後、セイントバードをはじめ、機体の修理を完了するまでに、約一ヶ月の期間を要する事となるのであった。アステル家の恩恵もあり、ウィレスは彼等を匿ってこそくれるが、諸々の機体の修理に関してはチーム一丸となり、行動しなければならなかったのである。

 




第四十四話、投了。
ひとまずオペレーション・デモリッション・クリエイション編は終了です。
ですがこの後もまだまだ話は続きます。
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