機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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ヴァイダーガンダムの襲撃、その中でレイは戦う事を否定する。
しかしその中でエリィは彼に話をする――
※性描写有。


第四十七話 首都崩壊

 

シュウウウウウウウウウウウウウウウウ

 

ヴァイダーガンダムのバインダーからは冷却システムが大量の蒸気を放っていた。先の砲撃による膨大な熱を急速に冷却させる必要があったのである。

「冷却システム問題なく稼働!」

「試験運用としては良好ですね。」

「プラズマ粒子残量は半分残存!大佐、バインダーは切り離しますか?更なる砲撃を行うには時間を要します。」

先の砲撃で、ヴァイダーのバインダー内部のプラズマ粒子は半分、放たれた。その上再発射には時間を要す。バーニアに寄る機体の姿勢制御の役割は担うとはいえ、その主な目的はプラズマカノンの発射砲台である。その為、バインダーの存在は、使えない限りは只の推進剤のみ。機体本体だけでも姿勢制御は可能である為、事実上、砲台でないバインダーの存在は、デッドウェイトと化していたのである。

「いや、そのままヴァイダーをグレートブリテン島まで運びたまえ。バーニア制御の為にもバインダーは使える。このままヴァイダーを先行させ、後続にMS部隊も展開!このまま一気に殲滅していく!!」

フークの指示により、そのまま、ヴァイダーにはマドラ級のワイヤーアンカーが装着され、そのまま、ドーバー海峡を横断する事になった。更に、その上で後方からジョゼフ、エグゼマーのMS部隊が展開。これらが一気に、ロンドンへ向けて侵攻を開始したのである。

 

 

 

「ひゃっ……百隻以上が消滅だと……?」

ヴァイダーガンダムの破壊兵器、ルイーナシステム。これによりドーバー海峡に点在していた水上艦が撃破されるという異常事態。更に、それらを葬った光はまるでロンドン市内を避けるかの如く、傷跡を残したのである。

 現在、グレートブリテン島は首都、ロンドンを避けるように先程のルイーナシステムによって焼野原と化していた。まるで島が光によって焼け爛れた状況だ。無論、そこに住む人々は瞬死。新生連邦軍による、殺戮が、始まったのである。

「首相、国連軍より報告有!砲撃は、フランス、カレーからとの事です!」

「海を越えて攻撃をしたという事なのか……!?映像は!?」

エイゲルの側近が、先の攻撃による映像を見せた。

「これは……なんだ……?ガンダムなのか……?」

エイゲルは目を疑った。そこに映る機体が、まさかガンダム。それも、超大型の機体であるという事に、驚愕している。それが一瞬で艦隊を消し去り、グレートブリテン島に傷跡を残したのだという。

 そして、更に悪い事に、ヴァイダーガンダムは海を渡ろうとしていた。マドラ級四隻がワイヤーアンカーでヴァイダーを接続し、そのままドーバー海峡を渡っているのだ。更に、その周囲にはMSの姿もあった。

「し、新生連邦をロンドンに入れるな!追い払うように国連軍に指示を!応援を要請!!」

命令を受け、側近は慌てて部屋から去った。しかし首相エイゲルは困惑するばかりである。

「なんと言う事だ……」

新生連邦は国連に対し、その圧倒的な力を見せつける事に成功した。以前の新生連邦ならばこの光景を全世界に見せる事はしなかっただろう。メディアの情報統制を行っていたのが、新生連邦であったからだ。

そして、彼等だが国連と対立状態である現在ではそれを隠す事をしなくなった。だが、それでも彼等は国連が敵であるという事を徹底的に伝え続けている。厄介な事に、各メディア会社は新生連邦が既に手を回しており、仮にこのような光景を一般市民に見せたとしても、新生連邦が善戦しているように見せているのだ。無論、それを不審に思う人間がいるのは当然だが、そういった声は表立って出る事は、ない。徹底した情報統制は、新生連邦に有利に働く。その裏で、多くの犠牲者が出たとしても……だ。

 

 

 

シュネルギアのブリッジにて。当然異変に気付いたアレン達。モニターを見てショックを隠せない様子だった。国連の艦隊が消滅していく様を見て、目を疑っていた。そこには、放たれた光しか見えていない。何が起きたのか、分かっていない様子だった。

「こんな……事……」

「酷い……」

最早、虐殺と同義の惨い新生連邦による攻撃。彼等は、ただ、この攻撃を見ているしか出来なかったのである。

その中で、ジャンヌがデータを出していた。モニターを、ブリッジ内に居たアレン達に見せる。

「先の砲撃の正体。解析の結果が出ましたわ。あれは対岸に存在していた超大型MSによる砲撃です。それが、国連の艦隊を壊滅させました。あの機体は、恐らく新生連邦の新型機体……それに、あの一撃で消えた命は計り知れません……」

ジャンヌの声が、空しく響く。ヴァイダーガンダムによる砲撃。それに伴い消えた命。それらが全て合わさり、彼女の表情に余裕がなくなっていたのだ。

「あの機体は、今にも、ここ、ロンドンへ侵攻を行おうとしています。あの機体が来るのならば、国連と連携を取り、攻撃を行って下さい。単機で勝てる相手ではありませんわ。」

光を放った正体は、巨体が放った砲撃。それがどのように来るのかも分からない。迂闊な攻撃は、死に直結する。

「あの兵器を野放しには出来ない……!連携を待っては居られない!急がないと――」

と、明らかに焦る様子のアレン。だが、ジャンヌがそれを止めた。

「アレン、落ち着いて下さい。」

清らかなジャンヌの声により、アレンは、言葉を紡いだ。彼自身に余裕がない事が、分かる。

「貴方は冷静でいなければなりません。ブライティスを操る為には、常にその心が求められます。そして、その鍵は、貴方自身でもあり、ココットさんにも存在します。それを、忘れないで。そして……」

ジャンヌは、一度視線を落とした後に、アレンに言った。

「必ず、“生きて”帰って来て下さいね。今回の敵は今まで以上に強大な存在と思われますわ……。」

「ありがとう……どうか、していた。俺は、行くよ。」

と、アレンはジャンヌに対して敬礼を行った。やがて、そのまま、ブリッジを出ようとした時――

 

「アレン!」

「こ、ココット……?」

 

ギュウッ

 

オペレーターの席に座っていた筈の彼女はいつの間にか立ち上がり、去り行こうとする彼を抱き締めた。

「私だって……アレンの事誰よりも心配なんだよ……お願い、無事で帰ってきて……!」

「ああ。」

彼女の言葉を聞いた後に、アレンは去った。ココットはそんな彼を見送った後、再び椅子に着席したのであった。

 

 

ブリッジに着いて、早速ブライティスに乗り込むアレン。ジャンヌとココットに信頼されている彼は出撃準備をした。迫ってくる脅威を倒す為に。

「二人が俺を信じてくれてるんだから……負けるわけには行かない!アレン・レインド、ブライティスガンダム行きます!」

 

キシィン

 

カメラアイが輝いた後に、カタパルトからブライティスはウイングを広げ、ドーバー海峡へ向かっていく。超大型MS、ヴァイダーガンダムを阻止する為に。

 

 

 

 セイントバードも、先の砲撃を映像で見ていた。瞬く間に消滅した国連の艦隊。それが、たった一機のMSによって行われたと言う事実。この状況に対し、ジャンヌから入電があった。加勢して欲しい……と。

 エリィはこれを承諾し、パイロット達に伝えた。

「無理な立ち回りはしないで下さい!敵は、今まで戦ってきたどの機体よりも強力と考えられます!絶対に無理しない事!」

と、言って連絡を切った。

 

 しかし、MSデッキの中に、レイの姿がなかった。彼は出撃する事なく、自室にて待機しているのである。それは、彼自身の意思だ。

「レイはどうしたんだ!?」

と言うのはスバキだ。ツヴァイに彼の姿が居ない。それは、妙で仕方がなかったのである。

「彼は戦闘に出ないかも知れんな……」

と、ネルソンは言った。

「みんな戦うってのに!あいつだけ逃げてんのかよ!ふざけんな!」

スバキは、納得が出来ない様子だった。左手を開き、右手で拳を作り、そのまま勢いよく、ドン、と叩いたのである。

「今はそっとしておいてやるしかないよ。あいつには、色々あり過ぎる。」

と、言うのはガーストだ。

「あいつ、帰ってきたら殴ってやるからな……」

一人、スバキは苛立っていた。皆が戦うというのに、この場に居ない、増してや、強力な機体であるツヴァイを貰っておきながら、この状況だ。怒るのも無理はないと言えた。

 やがてチームの機体が発進していく。カタパルトから、ハルッグ、エスディア、そしてスバキのアインスが発進した。今回、アインスの装備は依然と同様、空戦仕様で発進したのである。

 機体を発進させた際、モニターを拡大し、マドラ級に運送されている接近するヴァイダーを見て、ネルソンが一言、言った。

「まるで怪獣と戦うみたいだな……あれも、ガンダムなのか。」

その黒紫色をした巨体は、見る者を恐怖に陥れる。両肩のバインダーから描くその巨体が、今からロンドンに向けられていくのである。

「けど、機体は一機みたいですね。」

ガーストが、ネルソンに言った。

「沿岸には国連が居る。今は様子を見て、行動しよう。市内に侵攻する事があれば、迎撃するんだ。」

そうは言うが、敵のサイズは圧倒的だ。勝算があるのかも、怪しい。

「勝てますかね……?」

ガーストは、思わず弱音を吐いてしまった。いくらアステル家の依頼とは言え、明らかに異質な巨体を相手にしなければならないのは戦う物を絶望させる効果を持つと、言えた。

「出来るだけ持ち堪えるようにすれば良い。とにかく、無理をするな。艦長も言っていた。」

「……了解です。」

ヴァイダーガンダム。その圧倒的な存在感はシルエットからも分かる程だ。一撃で艦隊を壊滅させたガンダムが、今、ここ、ロンドンに迫ろうとしていたのであった。

 

 

 

やがて、戦闘が始まった。程なくしてヴァイダーがグレートブリテン島に上陸したのである。その巨体は着地した際に大地を揺らし、進軍する。

島の沿岸部に待機していたヴァントガンダムは一斉にビームライフルを撃った。しかしそれは、無駄な攻撃だった。

 

バイイイイイン

 

ヴァイダーの機体全体には、ダッゲインと同様にバリアーフィールドジェネレーターが搭載されていた。その為ビーム兵器は全く受けつける事が無い。反撃にヴァイダーは指から強力なビーム砲を放出した。その場にいたヴァントガンダム五機が、容易く破壊された。

更に、ヴァイダーは腹部にエネルギーを集中させ、ビームを放出した。先程のルイーナシステム程の砲撃程では無いが、絶大な破壊力を秘めている腹部のビーム。これだけでも、小規模の都市の壊滅は容易いとされる程に火力を秘めていた。

その上で、ヴァイダーは指部からビームを連射し、滞在していたMSを次々と、破壊し、進軍していく。脚部やバックパック、そしてバインダーのバーニアを展開しながら、ロンドンへ向けて進軍している。

「ば、化物め!どうやれば倒せるんだよ!」

「諦めるな!とにかく撃つんだ!絶対にあれをロンドンに通すな!!!」

懸命な兵士達。しかしそれもヴァイダーガンダムの前では徒労に終わってしまうのだ。

 

 

 

グレートブリテン島の、対岸のカレーに居る、フークは笑いながらモニターでヴァイダーの破壊を見ていた。圧倒的なその強さ。最早、従来の機体など、相手にならないと言える。

「最初に放ったルイーナシステムはデウス動乱で用いられたコロニーカノンをそのまま凝縮したような破壊力を秘めている。艦隊どころか、島、そのものを滅ぼす事など容易い素晴らしい破壊力だ!その上での多数の武装!これこそ本物の、対岸の火事!ロンドンは、壊滅的被害をもたらすだろう!!我々の勝利は揺るがない!!」

フークの声が響く。高らかに掲げる勝利宣言。明らかに、その光景は異様と言えた。

「どの道国連に明日は無い。ついでに……ファンネルのガンダムも青い翼のガンダムもな!全てを滅ぼす……何もかもな!フフ……ハハハハハ!」

彼は大笑いした。そして引き続きモニターを見ている。それと同時に、リノアスの脳波も観測している。

 

 

 

時間が経過し、激戦が続く中、後発部隊として移動していた新生連邦の量産型機体が沿岸部を襲撃していた。ヴァイダーだけに気を取られていた国連の機体達は、隙をジョゼフ達に与えてしまっていた。

この状況を好機と捉えたジョゼフはビームライフルを撃ち、ヴァントガンダムを破壊していく。エグゼマーが戦闘機からMSに変形して強襲し、ヴァントをビームサーベルで切裂いた。

「て、敵襲!」

「馬鹿な!敵はあの化物だけじゃないのか!」

その間にもヴァイダーは破壊を繰り返していく。バーニアの出力を上げ、市内へ向かっていく。ヴァントの懸命な攻撃はほとんど、無意味と言えた。

「……」

フィンガービームランチャーで点在するヴァントガンダムを瞬く間に破壊していく。高出力のビームは一撃で機体を溶かしていく。

ヴァイダーの武器は指部や腹部等、多数に装備されたビーム兵器だけではない。サイコミュ兵器、ファンネルの存在もある。側腰部に各十基ずつ、バックパックに合計三十基ものファンネルがあり、少なくとも一基だけでヴァントの全高の半分程度の大きさを誇るブリッツファンネルが、ヴァイダーには五十基も備えられている。大型ファンネルが、更に多数のヴァントガンダムを襲うのだ。

 無数のビーム砲や、ビーム刃は接近する者全てを薙ぎ払う。絶大な火力。最早、国連の機体は比較にすらならない。

「こいつッ!」

迫る巨体を前に、アレンは攻撃を仕掛けようとしていた。ビームライフルが効かない事を理解した上で、ブライティスのウイングを展開する。

 

ピシュンッ

 

アレンの脳内に電流が流れ、ブライティスはブリッツファンネルとブラスターファンネルを放出し、それらをビーム刃状に展開し、ヴァイダーに迫った。

しかしそれに対抗するように展開される、ヴァイダーのファンネルは容赦なくブライティスに迫る。危うく撃ち落されそうになったブリッツファンネル。これを守る為、ブライティスは、一度ファンネルをウイング内に戻した。

「破壊……ガンダムタイプ……青いウイング……」

その際、腹部にエネルギーが蓄積されていく――

 

ドバアアアアアアアアアアアアアアッ

 

腹部に搭載されている、メガカノンをブライティスに向けて放出し、破壊しようとする。避け切れなかったアレンはバリアーフィールドで防ぐ事にした。

そのビームの破壊力は凄まじい。しかしバリアーフィールドはビーム兵器を必ず防ぐ。その為防ぐ事は出来たが、衝撃は大きい。

「くぅっ……!」

機体が激しく揺れた。そこへヴァイダーのファンネルが襲ってくるものだから埒が空かない。ビームシールドを展開してビームを防ぎ、ビームライフルを撃つ。しかしファンネルの動きは意外にも素早く、苦戦を強いられた。

「ぐぅ……なんて、火力だ……」

この巨体をどうすれば良いか……彼は、敵の攻撃を回避しながら、考えていた。

だがその間にもヴァイダーはブリッツファンネルを放出し、ブライティスに襲わせていた。

 

 

 

ロンドンとドーバー海峡沿岸の中間地点にて。それぞれの機体を駆る、ネルソンやガーストは、後発から展開されていたジョゼフやエグゼマーを攻撃している。

 現在、新生連邦軍はヴァイダーを中心とした中央部隊と、左右から展開する波状部隊に分かれてロンドンに向けて進軍している。それを迎撃しているのが彼等だが、敵の数が多く、対処に苦戦していた。

「くっ……数が多い……」

ロングビームライフルを撃ち、ジョゼフを破壊していくネルソン。しかしエグゼマー等の機体が彼に近付いてくる。敵機体の性能はハルッグと比較して高いのだが、幸か不幸か、パイロットが幸い熟練されている訳ではないので彼等の腕で敵機体を破壊することは比較的容易だった。しかしその数が多いとなると実力で対処するのは難しくなってくる。

「クソッ!」

ガーストのエスディアも奮闘していた。ビーム刃を展開し、擦れ違い際にエグゼマーを攻撃した。しかし彼等がこのMS達を相手している内にヴァイダーは進行していくのである。

「こいつらァ!!!」

スバキが、アインスを駆り、肩部のビーム砲を展開した。直線上に居た二機のジョゼフが瞬く間に消滅する。

 だが、それは所詮多勢に無勢と言えた。敵部隊の数が、多いのだ。ヴァイダーガンダムを中心にした部隊である筈なのだが、敵機体の数まで多いという状況。国連も、セイントバードチームも、次第に押されつつあったのである。その上で巨体の侵攻を防がなくては行けないのだから、状況が厳しい。

 

 

 

やがてロンドン市内では警報が発令され、地下シェルターへの避難が義務付けられていた。既に何名かは頑丈な地下シェルターに逃げ込んではいたものの、そもそもの警報発令が遅れた為か、既に多くの人が逃げ遅れていた。その間にヴァイダーは、迎撃する機体を殲滅しながら接近しており、既に市内に侵入しつつあった。

「全て……破壊……」

その言葉のみを信じて彼女は破壊を繰り返す。

その瞬間、ヴァイダーは肩部のコンテナからミサイルを展開。両肩部に二基、両バインダー下部に二基。合計四基搭載しているそれには、一つのコンテナに十基、ミサイルが搭載されている。市内にミサイルが渡り、逃げ遅れていた人達は爆発の餌食となる。

更に、ヴァイダーは腹部にエネルギーを蓄積し、メガカノンを放出。この一撃を受け、無残にも建造物が次々と、滅ぼされていく。市内に在住していたヴァントガンダムはこれを迎撃に向かうのだが新生連邦のジョゼフが邪魔をする。

ジョゼフやエグゼマーが強襲してくる中、ヴァイダーは単独で町を滅ぼしていく。指からビームを延々と放出し、高層ビルを崩した。そして、再び腹部からのビームを更に放出し、地面に向け、薙ぎ払うように展開したのだ。

これだけで何人の人間が死んだ事だろうか。このまま行けば、アルメジャンでの虐殺事件以上の大規模な被害になり得る。市民達は地下シェルターに避難しているとは言え、安全とは言えないのだ。

 

その中で、一機のヴァントガンダムがエグゼマーに襲われていた。ビームサーベルを展開し、迫るエグゼマー。白兵戦に持ちこまれ、ビームサーベルの展開を遅れてしまっていたヴァントガンダム。判断の遅れが見られたその機体。明らかに、戦闘慣れをしているとは思えない。

アレンは即急でエグゼマーに狙いを定めてビームライフルで破壊した。そして回線を開き、パイロットに言う。

「大丈夫か!?え、女の子……?」

一人の少女がヴァントに乗っていたのだ。それも愛らしい顔つきをしている。兵士としては明らかに若い少女がこの戦場にいることに彼は驚いていた。恐らく新米兵士なのだろうと、アレンは感じていた。

「あ、ありがとうございます……た……助かったぁ……」

「き、気をつけて……しかし、君みたいな女の子がどうして……」

「わ、私新人ですから!こ、光栄です!あのアレン・レインドに助けてもらえるなんて!私、頑張ります!」

少女は名を名乗らずに、ヴァントのバーニアを展開し、その場から去った。あのまま放置しておいては危険かも知れないが、本人が去ったのならばそれ以上の深追いは出来ない。

少しばかり気になった様子のアレンだが、今は迫り来るヴァイダーに攻撃を仕掛けて行く。

接近戦を試みようと、ビームセイバーを抜いて近付いたのだが上手くは行かなかった。大型のブリッツファンネルが邪魔をし、行く手を阻んでくるからである。

「くっ……!」

そのファンネルに対してアレンもファンネルを放出した。そして上手く破壊していく。

しかしその間にヴァイダーはアレンの方向を向き、指部からのビームを連射してきた。

「あぁっ!」

バリアーフィールドを張っていても機体が揺れる。更に敵のファンネルは迫り来る。アレンは危機的状況に陥った。

 

 

 

ドーバー海峡にて。新生連邦の海上部隊が、動き始めようとしていた。水上艦からはジョゼフやエグゼマーなどの量産機体が更に出撃した。

その中に、チェーニ姉妹の姿があった。今回、彼女達はカスタムされたガンダムに乗り、待機していた。

「私たちの愛機を、ここまで改良してくれたのは有難い話ね。」

フォリアが、チューンナップされたコクピット内で言った。

「あのおっさんに感謝しないとね!」

今度はリンセが言った。

彼女達の駆るガンダム。フォリアは、ヴェーチェルガンダムを、リンセはエクルヴィスガンダムを与えられていた。今回彼女達が乗っているのは、そのカスタム機体に該当する機体である。

 フォリアの機体は。ヴェーチェルガンダムデッドリースクリーム。型式番号XXMS03-VGDS。基となったヴェーチェルのカスタム機体。ウイングは更に禍々しい形状をしており、バックパックには武装が追加。それぞれ、対艦サーベルとメガランチャーという武装が追加されている。又、手甲部にはビームシールドの展開も可能。それは、ビームブレイドとして機能し、白兵戦に特化した機体へと生まれ変わったのだ。

 リンセの機体。エクルヴィスガンダムルインスパイダー。型式番号、XXMS05-EGRS。元々下半身が肥大化していた機体ではあったが、改良に伴って更に肥大化。その上で隠し腕も大型化。その名の“ザリガニ”に相応しい大きさへと変貌を遂げた。また、姉の機体と同様ビームシールドも内蔵。更に、出掌部には蜘蛛の巣状の電流ネットを展開する事が出来るという、トリッキーな戦略を立てる事が出来るようになった。また、バックパックに滞在されているエアーユニットにより、以前ならばSFSに頼らなければならなかったのだが、単体で空を飛ぶ事が可能となったのであった。

「ヴェーチェル、行くわよ。」

「エクルヴィス!ゴー!」

 

キシィン

 

姉妹のガンダムが、動く。以前にレイに敗れたガンダム達はより強化され、ヴァイダーによって壊滅寸前と化した首都、ロンドンへ侵攻していくのだ。

 

 

 

 セイントバードも、新生連邦からの攻撃を受けていた。MA形態のエグゼマーが放つミサイルに対し、反撃と言わんばかりに機関砲を放ち、迎撃を行う。

 艦の上部にはトルクスが四機、迫る空戦機体に向けてビームライフルを放っていた。空中戦が不可能なトルクスは、限られたフィールドで戦うしかない。SFSに乗っている機体もいるが、セイントバードを守る為に、艦上部で交戦している機体もあった。中にはビームサーベルで迫るジョゼフに対し、ビームサーベルで拮抗する機体の姿もあった。

 このように、チームが皆、戦闘を行っている。その中で、レイは一人、自室に居た。あくまでも、レイはツヴァイに乗るつもりはない。それは、今回の出撃がアステル家の依頼で動いている事が、彼自身、納得していないからである。

 セイントバードのスポンサー、アステル家。だが先のオペレーション・デモリッション・クリエイションではセイントバードチームのメンバーに、アレンが牙を向いた。その事情は、確かに分かったのだが、レイ自身は納得出来ていない。何故ならば、レイの想い人であるリルムを戦争に巻き込んだ事が、許せないで居たのだ。

 今、リルムはアステル家に保護されている。それでも、レイは納得出来ていないのだ。最早それはココットが言っていたように、“意固地”以外の何者でもない。

部屋の中で、レイは窓から今のロンドンの状況を見ていた。そこに存在する、ヴァイダーガンダムの姿。従来のMSを遥かに凌駕するその巨体。建造物を容赦なく殺害していくジェノサイド・マシンを見て、レイは言った。

「まるで、怪獣じゃないか……」

怪獣。その単語が、相応しいと言えるだろう。ネルソンもその例えをしていた。巨体が都市を蹂躙する姿は、特撮映画の怪獣に外ならない。

「こんなのに対して、皆が戦っているんだ……けど、僕は……」

今、レイは迷っていた。アレンに対してツヴァイに乗らないと決めていたレイであったが、今回の敵が余りに強大であり、尚且つ皆が戦っている状況なのに戦わないのはどうなのかと、考えていた。

 意固地になる必要はあるのか。皆が、守る為に戦っているのに。しかし、アステル家の指示下で戦うというのは、レイにとっては嫌で仕方が無いのだ。

(そもそも、僕は戦うべきなの?そうでないの?ずっと、疑問だった……守るべきだから、戦っていたのに、急に戦うなって言われたり、けど、戦えって言われたり、戦うなって言われたり。訳が、分からない……僕はどうすれば良いの?そんなの、混乱するに決まってる……)

セイントバードに救助されてから、レイは戦いを制限されたり、一方で頼られたりした。その繰り返しはレイ自身を混乱させていく。結局、セイントバードチームにとっての自分とは何者なのか。都合良く利用されているだけなのか。訳が分からない状況で、レイは悩む。

 今回の出撃拒否は、それらの混乱も影響していた。アステル家に対する怒りだけでない。自身の扱いとは何か。彼自身、訳が分からないでいる状況。今、自分はどうすれば良い?何をすれば良いのか?皆が戦うから戦う?誰の為?チームの為?チームを援助しているスポンサーの為?

 最早、訳が分からない。乗れと言われ、乗るなと言われ。そして、また乗れと言われ。怒りながら、悩み抱えるレイ。どうすれば良いのか。誰を信じれば良いのか。

 画面越しに見える巨体はその間にも町を滅ぼしていく。それを止めるというのか?だが、それは自分が課せられた事?そのような事は聞いていない。今回はアステル家の依頼だ。そのような事など受け入れられるものか。

 しかし人が無惨にも散っている状況を、ただ、黙って見ていろと言うのはやはり酷だ。自分はどうすればよいのか。何をもって、戦えば良いのだろうか……

 

 

ウィィィィィン

 

 

ドアが、開いた。振り向くレイ。そこに居たのは、エリィであった。

「レイ君」

彼女の表情は、戦闘中であるにも関わらず、優しい。出撃していない彼を叱責に来るものだと思っていた為、レイは意外そうな表情を浮かべた。

「少しだけお話し、しようか。」

戦闘中だ。何故、このような穏和な表情が出来るのか。レイは首を傾げる。

「あの……戦闘中では?艦は、大丈夫なんですか?」

「それより、レイ君の心の内を話してよ。」

そう言いながら、エリィはレイの隣に座った。互いに、ベッドで並列している状況だ。

 エリィは今までもレイの部屋に入り、度々話をしてくれていた。その優しさはどこから来るのだろうか。しかし、一度だけレイに対して叱責し、頬を叩いた。その事は、レイにとっては忘れられない出来事となっている。

「心の内の話って……」

「正直、迷っているのかなって思って。」

エリィの言葉に、耳を傾けるレイ。

「どういう事、ですか。」

「だってさ、私ね、今まで、貴方にMSで出撃するなって言ったり、出撃してと言ったり、どっち付かずであった事、多かったじゃない?でも、貴方には実際助けられた事もあったレイ君が居なかったら、チームが新生連邦に捕まってしまい掛けた事もあった。そんな風に頑張ってくれているレイ君なのに、私って、レイ君の事を分かってあげられていなかったんだなって思って。反省しているの。」

エリィは急に何を言い出すのか。部屋に入り、自ら謝罪をしてきたのである。

「そりゃ、混乱するよ。混乱して、こうやって部屋に閉じこもりたくなるよ。私だって、そんな事を言われたらね、何が良いのか分からなくなるもの。」

今まで、レイはアインスに乗って戦ってきた。そして、半年後にはツヴァイに乗って戦った。だが、彼はあくまでも、来賓扱い。正式なチームのメンバーとして、受け入れられていない。

「私ね、実はレイ君をどのように扱って良いか分からなかった。」

「エリィさん……?」

エリィの口から語られた言葉はレイに関心を抱かせる。

「レイ君ってさ、元々は故郷へ帰る為にセイントバードに居てくれてたじゃない。本来ならばお客さんなのに、結局私達ってレイ君の力に頼ってるって感じだったし、だけどもうすぐ帰るってなった時にレイ君に無茶はさせられないってなってたし……それで、結局半年経ってツヴァイガンダムに乗って、レイ君が助けてくれて、あのサイコミュ兵器を扱うのが危険だからって独房にまで入れてしまって。あれって、どうすれば良いか、私自身も分かってなかったんだよ。その期間の中で、故郷に居た半年間の間に新生連邦がレイ君を欲する可能性があると思って、レイ君の家に家庭教師として潜入していたんだけどね。実はね、あれは私の意思でもあったの。私自身に、もっとレイ君を知らなきゃって気持ちがあったからなんだよ。」

「そうだったんですか……?」

家庭教師としてエリィが居た期間。それは、レイにとって不思議な時間だった。

 非日常の環境に居た筈のエリィが、日常に居るという光景。その光景に時に戸惑いながらも、レイは受け入れていた。

 その時彼女が言っていたのは、あくまでも合理的にレイと情報交換が出来るという形で家庭教師を受け持っていたという事なのだが、今になって、その事を打ち明けたのだ。

「あの時は色々と揶揄ったりしちゃったりしたね。まあ、今は、それは置いておこうかな。」

(……この人。)

自室で彼女に悪戯をされた事を思い出した、レイ。

「何にしても、私はレイ君を理解出来ていなかった。だから、こんな事になっちゃったんだと思う。それで、不審を抱かせてしまったんだよね。ごめんなさい。」

エリィが、頭を下げた。それは、レイにとっては斬新な出来事でもあったのだ。

(エリィさんが、謝った……それも、頭を下げて。)

何度か彼女はレイに対して謝った事はあったが、改まった態度でこのように、頭を下げられた事は、なかった。それ故に、レイは驚いているのだ。

「私、レイ君の事をずっと、女の子みたいな男の子って思ってた。可愛い子。だから揶揄いたくなる子だなって思ってた。」

突如、エリィは天井を見上げ、語り出した。

「けど、一緒に居る時間が長くなるに連れてレイ君の事をもっと知りたいと思うようになってた。年上なのにね。ホント、私ってワガママな女……」

意味深な言葉。レイは最初、戸惑いながら、聞いていた。

「それから、レイ君を頼る一方で、レイ君に死なれたくないって気持ちも出て来た。不思議だよね。これも、矛盾だよね。でも、それを自分の中で押してしまってた。だから、レイ君を誘惑した。ケド君は真面目だった。いっそ、大胆に行こうかなって思って、そうした事もあったっけ。それでもレイ君は恥じらいながらも、自分の意中の人を選んだ。それは、応援しないと行けないって思った。」

エリィは、目線を下にしている。これが意味をする事を、レイはおぼろげながらに理解した。

「それって……まさか……」

エリィは、視線をレイに向け、言った。

 

「私はね、君のコトが好きだったんだよ」

 

真っ直ぐな瞳で見られたレイは、最初、彼女が何を言ってるのかが分からなかった。眼を何度もパチパチとさせ、隣にいるエリィを見続ける。

「ふぅ、これで私の中のモヤモヤは消えたよ。だから、想いだけでも伝えようとしたった訳だよ。あー、スッキリした。」

と、言いながら伸びをする、エリィ。

いや、待て。エリィが、レイに対して好意を持っていたと言うことなのか。それは、どのような好意なのか。本当の意味での、好意?好奇心?揶揄う為?レイは今、余計に混乱しつつあった。

「そんな……冗談を言わないで下さいよ。こんな、大変な時に。」

レイは、微笑した。だが、エリィの表情は本気だ。

「冗談な訳ないわ!“今”だからこそ、伝えようと思ってたの。こんな時だからこそ。いつ死ぬかも知れない状況だからこそ、想いは伝えやすいから。それに、もう、今はレイ君にはリルムさんが居るんだし、もう、良いかなって思ってね。」

やはり、信じられない。叶わぬ恋と分かっているが故にそれをしたのか。

 好意を持たれて嫌いな人間は居ないとされるが、レイとの歳の差は十二違う。それでも、好きと言った、エリィ。

「本気、だったんですか……?そんな……分からない、分からないですよ…….」

困惑するのは当然だ。何故彼女はそれでも、気丈に振る舞えるのか。大人故なのだろうか。

「好きって気持ちに偽りはないよ。でも、私はレイ君の存在を自分のモノにしたいとは思っていない。見守る存在として、在れば良いと、思ってる。だからレイ君には幸せな未来を歩んで欲しい。」

戸惑うレイ。その上で、エリィは更に言った。

「大体レイ君も鈍感だよ。あれだけ積極的にアプローチしてるのに、ただ照れてるだけなんだし。行動には理由があるんだって察する事も覚えた方が良いよ?」

「そんなの!分かる訳ないです……」

好意を持たれる事自体は嬉しい。相手は美人とも言える相手だ。どれ程幸福な事だろうか。

 だが、レイはこの事に実感がまるで湧いていない。ただ、困惑するばかりだ。

 

ドオオオオオッ

 

その時、艦が揺れた。敵機体のミサイルによる砲撃を、受けたのである。

「揺れたね……さて、レイ君。私の想いは伝えました。その上で、貴方にMSの事について話しておきたい事があるの。」

そうは言うが、まだ、レイは困惑している。エリィの本心が、まさか自分を好きでいたなど、信じられる筈が無いのだ。

「ジャンヌさんの協力要請に背くかも知れないけど、私からは、もう、貴方に対してガンダムに乗りなさい!とか、乗るな!とかは言いません。そもそもここは軍隊ではないし、強制されるべきモノでもない。だから、これからはレイ君に判断を委ねます。これからは貴方の意思で、ガンダムに乗るのか、そうしないのかを決めて。これによるペナルティとかは一切ないから。あくまでも、貴方の意思。それを貫いて欲しい。」

エリィの言葉が、走った。彼女の純粋な想い。彼に、無理をして欲しくないという事だ。これは艦長としての言葉ではない、エリィ・レイスという一人の女性としての、言葉である。

 レイは迷っていた。自分はどうであるべきか。それが分からないでいた。しかし、エリィが放った純粋な言葉はレイを突き動かす力を秘めていた。

「自分の、意思……」

今、レイがすべき事は何か。もし、このまま所属しているセイントバードチームがなくなれば、全てが終わる。そうなった時、彼はどうなる?

 ここまで言われ、レイはどう動くべきか。もう、答えは明確だ。自らの想いを伝えられ、それを受け取らないのは、一人の男としてどうなのだろうか。彼は顔立ちこそ少女ではあるが、性別は男であり、エリィという女性の想いを受け取らなければならないと、感じている。

 ならば、出すべき答えは、一つ――

「エリィさん、僕……戦いますよ。ツヴァイに乗って。セイントバードチームを、守る為に。」

レイ自身の言葉が出た。それは、レイをすぐに動かしていく。

 言葉を発した瞬間に、レイは部屋を出ようとした。もう、躊躇ってはいられない。彼は守る為に戦う。それだけだ。

「レイ君、待って!」

だが、それをエリィが止めた。何事かと振り返る、レイ。

「これを持って行って。サイコミュを操る時に役立つって、ジャンヌさんが言ってた。」

そう言って、エリィはある、“物”を渡した。

 それは、U字型の形状をしていた。使い方は、自身の耳輪部に引っ掛け、扱うようだ。

「それ、コクピットに乗ってから付けてって!」

「分かりました、行ってきます!」

そう言って、レイは急いで部屋を去っていった。エリィはレイが戦場へ行く姿を、静かに見送っていたのである。

 

 

 

 激戦が続くロンドン市内。既に建造物の大半が壊滅状態の中、ヴァイダーを止めんと、動く国連軍とアステル家、そしてセイントバードチーム。

 ヴァイダーガンダム単体でも、五十基ものブリッツファンネルが猛威を振るう。ビームの嵐や、ビーム刃がMSや、建造物、果ては人々を巻き込み、蹂躙していく。

 その中で、スバキの駆るアインスが新生連邦のMSと交戦している最中だった。ビームサーベルを展開し、ジョゼフと白兵戦を繰り広げている時。ヴァイダーガンダムのブリッツファンネルの砲口が、アインスを狙っていたのである。

「しまった……!?」

ビームが放たれる。これが当たれば、ダメージは避けられない。スバキに危機が迫った――

 

ズバァァァッ

 

それを、何者かがビーム刃で裂いた。真っ二つに切り裂かれるファンネルはたちまち爆発を起こした。その直後、ジョゼフもビーム刃で切り裂かれている。頭部から胴体に向けて刃が貫かれ、ジョゼフは爆発を起こした。

 スバキは何事かと思い、反応した。そして、モニターに映る白いガンダムの姿を見た時、彼女の表情が、変わった。

「レイ!お前、何やってたんだよ!ったく!」

この場に現れたツヴァイガンダムはスバキにとって輝いて見えた。皆が戦闘で疲弊している中現れたツヴァイ。今のレイの意思は、固い。迫るヴァイダーガンダムを止める為に、そして、セイントバードチームのクルーを、守る為に。

 エリィが自身を想ってくれ、それを伝えてくれた。それを無駄には、したくない。レイはその想いを胸に、動く。

「スバキ、離れていて!」

その時、レイはスバキに言った。何事かと思い、スバキは一度アインスを後退させる。

 レイは、一度目を瞑った。そこで感じられる、敵機体やブリッツファンネルとの、距離。空間認知だ。彼は閉眼状態の中で意識を集中させている。そして、彼が今装着している装置。耳輪部から後頭部に掛けてU字に伸びているその装置はレイの意思に呼応するように、反応している。敵との距離が、はっきり分かる。対物距離がイメージされる。彼の大脳の頭頂葉部が活性化されている。敵を、撃て――と。そして――

「行けっ……!」

レイの、目が見開かれた。

 

ピシュンッ ピシュンッ ピシュンッ

 

瞬く間に、ツヴァイのブリッツファンネルが十八基、一斉に展開した。六基のファンネルに、そこから更に展開される、二基ずつのミニファンネル。それらが一斉に、新生連邦の機体に向けて放たれるのだ。

 ビーム砲撃や、ビーム刃。あらゆる攻撃が正確に行われる。ビームは的確に敵機体を狙い、エンジン部を攻撃する。そして、ヴァイダーのブリッツファンネルも、これにより撃破されている。

 一度に、これらに攻撃を行ったレイ。だが、この時レイは以前のように意識を失う事は、無かった。彼の脳が、順応しているのか。それとも、ジャンヌが渡したとされる装置が、役になっているのかは不明だが、レイは意識を保てているのだ。

「凄い……これがあれば、ファンネルを放てる……これなら!」

レイは、勢い付いた。以前はその兵器を使った時に意識を失ったのだが、今回は違う。戦っていられる。この力があれば、皆を守れる。ならば行こう。この力を、守る為に使う。レイは、自らの意思を敵に向ける。彼の意思が、そのまま攻撃となり、ファンネルを操るのだ。

ツヴァイはこのまま、ロンドンを攻撃している巨体へ向かわせる。ビームやミサイル等、あらゆる攻撃を行うジェノサイド・マシンを止めなければならない。多くの人が死ぬのを止めなければ。

「レイ、お前……凄い……わ、私だってなぁ!」

ファンネルを華麗に操るツヴァイ。その動きを見て、驚愕しているスバキ。

 しかし感動している余裕は戦場にはない。迫り来るビームの嵐はアインスに迫っていく。ヴァイダーのブリッツファンネルが、アインスに迫る。シールドでビームを防ぎながら狙いを絞り、ファンネルに攻撃を加える。

(待てよ、この、感じ……あのデカブツのパイロット、覚えがある?)

この時、スバキはヴァイダーガンダムから既視感を覚えていた。どこかで感じた感覚を、戦いながら思い出している。

(思い出した……奥多摩のヤツか!あいつが、パイロットなのか!)

そして、彼女はパイロットの存在を思い出した。

 リノアス・クリストルが乗っている、ヴァイダーガンダム。彼女とは、ほんの、僅かな時間ではあるが会話を交わしたことがあった。アインスはバーニアの出力を上げ、ビーム粒子を避けながら、接近していく。

 

「おい!お前、こんな事望んでんのか?私だ!前に少しだけ話しただろ!覚えてねえのかよ!なあ!!!」

スバキはヴァイダーに向けて声を荒げた。だが、全く応じる様子を見せない。今、リノアスは声を聞かない。ただ、命令のままに殺戮を行うマシーン。説得に応じる筈が、無いのだ。

 かつて、日本でスバキがマサアキによって絶望していた時。感情など無くなれば良いと思っていた彼女と、感情を欲していたリノアス。今、この状況ではそれが逆転している。感情を持っているスバキと、感情を無くしたリノアス。感情がない人間に、躊躇はない。故に、都市を攻撃する事にも、躊躇いが無いのだ。

「くそぉ!!」

接近しようにも、ミサイル、ビームが飛び交っている。このままの接近は難しい。スバキは、一度距離を離れるしか、出来なかったのだ。

 

 

 

ヴァイダーガンダムを止める為に、ツヴァイも動いていた。迫るジョゼフを撃ち抜き、バーニアを展開して接近を試みる、レイ。

「あれ以上、させるもんか!」

太陽の光の加減でツヴァイのカメラアイが美しく輝いているように見えた。ブリッツファンネルを我が物にしたレイは、ヴァイダーに向かっていく――

 

                ガシィィィ

 

が、その時だった。ヴァイダーしか視界に無かったレイを何者かが襲った。

ツヴァイは何者かに紐状の武器によって捕らわれた。突然の出来事にレイは困惑する。そして次の瞬間、謎の紐から電撃が流れた。それはツヴァイの全身を駆け巡る。

「あああうううっ!」

謎の攻撃を受け、動く事ができないツヴァイ。レイが操縦桿を引いても、全く動かない。

「え……どうなってるの……」

と、更に次の瞬間だった。ツヴァイのモニターに大剣を持ったガンダムタイプのMSの姿が映った。レイは急いで回避運動を行おうとするが動けない。このままでは切り裂かれてしまうと思い、焦ってレイは操縦桿を何度も引いた。

幸い、切られる直前で間一髪ツヴァイは動いた。そして、大剣を持つMSの攻撃は回避された。

「何……?」

訳が分からないレイの目の前に二機のMSが降り立った。

どちらも見覚えのあるMSだった。その機体を見た瞬間、レイは既視感を感じていた。二機の、赤と水色のガンダムタイプ。それらを連想する機体は、決まっていた。

(あの姉妹の……!?でも機体の形が……?)

ヴェーチェルガンダムとエクルヴィスガンダムが、彼の前に現れた。レイを何度か苦しめた、チェーニ姉妹のガンダム。しかし、形状が以前よりも異なっている。まるで、カスタムをされたような形跡があったのだ。

 

ピピピピピッ

 

 何者かと思っていた時、突如回線が入って来た。それに応じる、レイ。そこからは、聞き覚えのある声が聞こえて来たのだ。

「久し振りね、レイ。」

「その声……フォリアさん……!?」

強化されたヴェーチェルに乗っているのは、フォリアだった。そしてもう一機に乗っているのは、リンセである。その際、エクルヴィスはツヴァイの背後に降り立った。

「前はよくもコテンパンにやっちゃってさぁ!凄く悔しかった……!でも今は違う!カスタムしたんだよー!レイ・キレス君!!」

「カスタム……?」

「そう、カスタム。これで私のヴェーチェルとリンセのエクルヴィスはとても強くなった。以前の倍以上もね!」

大幅に強化された二機。ヴァイダーガンダムが蹂躙している都市部。それを止めなければならない状況で出現した強敵、二機。

このままではロンドンが壊滅させられてしまう。それなのに、彼女達はその、邪魔をするのだ。レイはこの姉妹に対し、怒りの感情を見せた。街を蹂躙する敵として対立するならば、彼女達を、止めなければならない。

「貴方達は……こんな風に町を破壊する事に……逃げてる人達を殺す事に、何も感じないんですか!?」

「ええ……そりゃ辛いわ。軍人でもMSに乗っている人間でもない人間を殺すのはね。でも命令ですもの。命令に逆らえばそれは死を意味する。私達だって死にたくない。だから命令に従う。ただそれだけ。」

フォリアが、レイを挑発するかの如く、言った。

「ふざけないで下さい!」

これに、怒るレイ。

「そうは言うけれどね、大体……貴方だって今までに何人殺してきたのかしら?人の事は言えない筈よ、レイ。」

「そんなの……!」

フォリアの台詞により、レイは様々な場面を思い出した。最初にアインスに乗った時から今までに至るまでに数多くの人を殺してきた自分。

その中には、砂漠の狩人であるアスーカル・エスペヒスモや新生連邦の軍人であるマサアキ・アルトの存在もいる。無論、それだけではない。彼は多くの人を殺してきた。だが全ては自分と、自分にとって大切な仲間を守る為に、やむを得ない犠牲ばかりである。

「それにね、今ここで戦っていても、結局それに巻き添えになる人だっている。そう、貴方も私達も結局罪は罪。同罪なの。」

その言葉はレイを追い詰めた。実際戦場で追撃をしなくても、結局それに巻き添えを食らう人がいる。それを考えると、レイは震えた。

「うう……で、でも……!」

「どのような形であれ、人を殺しているのに変わりはない。結局は同じ穴の狢よ。」

フォリアはレイを困惑させようと、ひたすら言葉攻めをする。それに対してレイは自分のしてきた罪に、彼女の思惑通りに困惑していた。

「だからこそ、貴方を受け入れてアゲル……貴方をモノにするのよ!」

「そんなの!僕は――」

 

ブイイイイインッ

 

「隙アリだわ。」

その時だった。フォリアのヴェーチェルがビームウィップを腰部から抜き、ツヴァイに襲い掛かった。急いでツヴァイはメガビームセイバーを抜いた。出力を上げ、打ち合いを行う。

「ひ、卑怯だ!こんなの……!」

「口車に乗ったのが悪いのよ。フフ……策士ね、私って。」

すると、姉妹の新しいガンダムはウィップの出力を弱めてすぐにその場から離れた。追撃をするレイ。そしてビームセイバーは姉妹のガンダムを捕らえたように見えた。しかし、その攻撃は容易く避けられてしまった。

「えっ……そんな……今のは狙えたのに……?」

機動性が飛躍的に上昇されている姉妹のガンダムは、ツヴァイのスピードにもついて来られた。

「残念。カスタムは伊達じゃないの。」

「アハハ!蜘蛛の巣に引っ掛かって動けなくなって死ねばいいのに!」

速攻でエクルヴィスは掌からデストロイウェブを放出した。この攻撃は蜘蛛の巣状に紐が展開し、敵MSを襲う武器だった。脚部にそれが引っ掛かり、電流が流れた。

「あうぅ!」

先程までは行かないが、それでも痺れた。エクルヴィスは更に、肩から強化されたメガビームカノンを放出した。バリアーフィールドでそれを防いだのだが、機体が揺れる。

「うぅ……威力が高くなってる……」

強化されたエクルヴィスガンダムのメガビームカノンは戦艦の主砲に匹敵するどころか、それを上回る破壊力を手に入れた。よってバリアーフィールドで防ぐ事ができても発生装置に危害が及ぶ。

「フフッ、以前の私達と思わない事ね。」

(強い……この二機……)

格段に強くなっている。ヴェーチェルとエクルヴィスは強化され、彼女らの言う通り攻撃力や防御力が全てにおいて以前の倍以上に進化している。

「くっ!」

レイの頭の中に電流が走った……と同時にファンネルを放出した。さすがの二機でもファンネルには叶うまい……レイはそう考えていた。しかしそれが裏目に出た。

姉妹はファンネルによる攻撃を全て回避したのだ。レイは我が目を疑った。素早い動きでファンネルの動きを見切り、そのまま回避している。オールドタイプであるはずの姉妹にこのような事など有り得るのか。レイは信じられない様子だった。

「え!?」

「フフ……驚いた?私達の技量を甘く見ないで欲しいと言う事よ。」

「完璧だね!この機体マジで強い!キャハハ!」

新しいヴェーチェルとエクルヴィスにはこの時代において最先端のシステムが導入されていた。

そのシステムとは、見極められる程度のサイコミュ兵器ならばすぐにパイロットに知らせてくれると言うものだった。サイコミュ感知システムと呼ばれるそれを導入したのは、これ等の機体が始めてである。

そしてヴェーチェルは悪魔のような翼を展開した。そして遠距離メガランチャーを展開して肩部に装備し、レイを狙う。

「墜ちなさい!」

エネルギーが吸収され、ランチャーは放出された。レイは間一髪これを回避。が、彼が避けたことで背後の建物は破壊されてしまった。しかし姉妹はレイに休ませる暇を与えない。

「うぅぁぁっ!」

エクルヴィスは再び糸を放出。油断をしていたレイは、これを受けてしまう。

機体に電流が流れ、動けなくなるツヴァイ。

「最高よ!その悲鳴!その綺麗な顔が苦渋に満ちるの!堪らないわ!もっと聞かせて頂戴!!!」

身動きが取れない、レイ。そこへ追い討ちを掛けるようにヴェーチェルが現れ、ビームウィップでツヴァイの左前腕部を切裂いた。

「あぁ……!」

これにより、左前腕部からバリアーフィールドを展開する事が出来なくなってしまった。しかし彼にはまだ右手が残っている。先の電流によって一時的に失われていた機体の機能が回復した後、ツヴァイは空中を移動し、右手部マニピュレーターに所持しているバスタービームライフルでヴェーチェルを狙った。

しかしヴェーチェルは前腕部からビームシールドを展開した。

「えっ!?そんな……」

「フフ、カスタムは伊達じゃないのよ!」

新たなる武装、ビームシールドを展開する事ができるようになったヴェーチェル。そしてそのままレイに襲い掛かる。

「前に私達を愚弄したガンダムがこんな程度だったとはねッ!」

ヴェーチェルは、メガビームライフルを腰部にマウントし、両前腕部がビームシールドを展開した状態になった。

このシールドは敵を切裂く、“ビームブレイド”としても活用する事ができる。その状態のまま、ヴェーチェルはツヴァイに襲い掛かった。

「いいわ!苦戦している貴方は素敵よ!このまま生け捕りにして私の手で殺してあげる!」

「くぅっ……!」

間一髪メガビームセイバーでその攻撃を切り払うのだが別方向に存在するエクルヴィスがそれを許さない。

容赦の無い敵の攻撃に苦戦を強いられるレイ。最大の敵はヴァイダーガンダムなのに、それの邪魔をする姉妹。彼が今何よりも憎く感じたのは大量虐殺に協力する彼女達の行動だった。

 市民を巻き込んで猛威を振るうヴァイダーガンダム。この機体に関与している二機。彼女達の行動がやはり理解出来ないレイは、言葉を、再び放つ。

「どうして……貴方達は……人が死ぬ所を見て、それに協力しようと思えるんですか!?」

精一杯の、言葉。しかしレイを見下すような形でフォリアは言った。

「子供が!何度も言わせないで。命令だから。命令に逆らう事は死を意味するのよ。軍はね。」

「そんなので、こんな風に死んでいく人を何とも思わないんですか!僕は納得が行きません……何もしていない、悪くない人が死んで行くんですよ!」

「私達なりに辛いって言った筈でしょう!?それにね、貴方も人の事を言えないのよ!愚かね!」

「僕は守る為に戦っているんです!例え人殺しでも……貴方達とは違うんだ!それに、貴方は辛いと言っていますよね……じゃあどうして邪魔をするんですか!僕はあのMSを破壊しようとしています!あれを放置すればどれだけ人が死んでしまうか分からないんですよ!なのに!?」

必死になるレイ。が、リンセがそれに対して言葉を吐く。

「オツム悪過ぎなのよあんた!命令だからって言ってるでしょ!しっつこいわね!それにあんた一人であれを破壊?ふざけないでよね。私達に苦戦してる時点で、それよりもヤバい兵器のあれを破壊しようなんて考えがおかしいわよ。あんたの相手は、私達で十分なワケなのよ!!」

彼の今の敵……それは目の前にいるヴェーチェルとエクルヴィスだ。両方とも非常に強い。彼女達の技量が想像以上だった事に彼は驚きを隠せない。

「それにねぇ!あんたの存在は前から気に食わなかったのよ!お姉様は私のモノなのに、いつもあんたが目につく!目障り!消え失せろォ!」

そう言って、エクルヴィスはビームカノンを放つ。この攻撃を回避する、レイ。

だが、今度はフォリアがメガビームライフルを連射した。その威力は、ツヴァイのバスタービームライフルと並ぶ。これに対してツヴァイもバスタービームライフルを撃ち、互いのビームは掻き消された。

その瞬間に再び彼の頭の中に電流が流れた。後振り向けば、エクルヴィスがビームセイバーを抜き、レイに襲いかかろうとしていた。レイは慌ててそれを回避。再びファンネルを放出した。

(これで……!)

十八基のファンネルが、一斉に飛び交う。そして姉妹に襲いかかる。

「リンセ、ビームシールドの準備を。」

「OK、お姉様!」

すると、両機体はビームシールドを展開した。攻撃を構えるつもりだろうか。

だが、彼女達はこのファンネルが、ビーム刃状にする事が出来る事を失念していたのである。

「ビーム砲撃じゃない!?」

「えぇっ!?」

「リンセ、避けるのよ!何があっても!絶対に!」

その間にもツヴァイのファンネルは彼女達を襲う。ファンネルはそのままヴェーチェルとエクルヴィスに襲い掛かる。辛うじて回避を行うのだが、僅かにダメージを受けてしまっていた。

「ぐぅっ!」

少しだけ足を止める事ができた為、少し安心した様子だった。しかし、姉妹は強化された兵器を躊躇なく使用してくる。

「馬鹿にしてるんじゃないわよ!!!」

エクルヴィスはメガビームカノンを放出した。直撃コースだ。しかし、ツヴァイにはバリアーフィールドジェネレーターがある。

 

バイイイイイン

 

ビーム砲撃は防がれた。機体は守られたのである。

その反撃の為に、拡散メガビーム砲を撃った。だが、相手は回避行動に移る。

「はぁんげきぃ!!」

そう言って、白兵戦を試みたリンセ。エクルヴィスは腰部からビームサーベルラックを抜いた。ツヴァイを狙う彼女。しかし、それをフォリアの声が止めたのだ。

「リンセ、ストップを!」

「お、お姉様!?」

突然の声に戸惑う、リンセ。

「隠し腕を利用しなさい。そこで、私が切る。」

「あぁっ……なるほど!」

大きく頷いたリンセは早速行動に出た。機動性でレイを翻弄し、ツヴァイの背後に回った。

「えっ……!?」

この際に、ツヴァイの腰部を肥大化した隠し腕で掴んだ。身動きが取れなくなる、ツヴァイ。

「あぁぅ!?」

危機に陥ったレイ。予想もしない姉妹の強さに苦戦を強いられた。サイコミュ兵器は回避され、攻撃も受け付けない状態だ。

二対一という状況。レイにとっては不利だ。強化されたヴェーチェル、エクルヴィスは猛威を振るっていたのである。

 

 

 

ヴァイダーとの戦闘を行なっているアレン。破壊の限りを尽くすヴァイダーに対してブライティスはファンネルを放出する。けれどもヴァイダーにそれは殆ど無意味に感じられた。破壊を続けるヴァイダー。ビーム兵器を撃ち続け、町を壊滅させる。しばらくするとヴァントの援軍が駆け付けてくれた。しかしそのような攻撃等、無力に等しい。

援軍のヴァントガンダムの武器は実弾兵器が備えられていた。バリアーフィールドに対するものだろうか。脚部にミサイルが装着されているヴァントガンダムは、一斉にミサイルを撃ったが、ヴァイダーはそれに反応し、腹部からビームを放出し、それらを破壊した。

そしてヴァイダーは足元にあったヴァントを弾いた。バーニアでロンドンを侵攻するヴァイダー。その行進は留まる事を知らない。

「全て……消滅……」

フークが言った、その言葉のみを信じて行動するリノアス。ヴァイダーは再びファンネルを放出した。沢山のファンネルが周囲に広がり、攻撃範囲が広がる。その上大型ミサイルを放出した。それによる攻撃だけでも被害が大きい。

やがて、いつの間にかヴァイダーはロンドンの首相官邸に接近していた。その中には、首相のエイゲルが居る。エイゲルが殺される事は、避けなければならない。

このような事をして何の意味があるのか。この無慈悲な破壊行為の先にあるものは、何か。アレンは、ヴァイダーのパイロットに対して叫んだ。

「止めろ!どうしてこんな事をする!?」

無理にでもヴァイダーのパイロットを訪ねようとした。説得し、止める為である。だが、ヴァイダーに近付こうとすればヴァイダーが指からビームを放出して邪魔をしてくる。それらはバリアーフィールドで防ぐ事が出来るのだが、機体が反動で揺れてしまい、隙が出来てしまう。

「くっ!」

どうしても近付く事ができないアレン。ヴァイダーのごく僅かな隙を見つけて近付くしか無い……彼は考えていた。けれどもヴァイダーには死角が無い。

ファンネルが彼の動きを感知して攻撃に出るだろう。更に指のビーム砲、腹部の強力なビーム砲、そして全包囲に攻撃する事ができる大型ミサイル……隙が見つからない。見つかる筈が、無い。全てにおいて威力の高い武器を兼ね備えているヴァイダー。このような殺戮兵器を倒す事などできるものなのだろうかと、アレンは悩む。

「どうすれば……死角が無さ過ぎる……」

その間にもヴァイダーは容赦の無い攻撃を続ける。やがて、指部のビーム砲を首相官邸の方に、向ける。エネルギーが蓄積され、ビームが放たれようとしている――

 

ドオオオオオオオオオオッ

 

合計十門のビームが、一斉に放たれた。首相官邸は脆くも崩れ去った。この一撃でも、大勢の人が死んでいる。

 首相官邸の崩落は、つまり、ロンドンの完全な崩壊を意味しているのと同義と言えたのだ。

「ヴァーナー首相が!?」

無事であって欲しいと、願うアレン。しかしそれはどうなのかは、分からないのである。

 

 

 

レイは姉妹相手に苦戦していた。より強化された二機はレイに対して容赦無く襲いかかる。

「諦めて、死ねえ!」

空中戦で、レイは二人の攻撃を避け続ける。ヴェーチェルがメガビームライフルを連射し、エクルヴィスは新たに肩に追加された追尾式ミサイルを放出した。ビームシールドを装備していた左手部を失っているツヴァイ。右手部でビームライフルを防ぐ事はできるが、リンセのミサイルは防ぐ事ができない。その為、回避するしかなかった。

「今度のは、もっと強いんだよ!!」

その、隙を見つけたリンセは、エクルヴィスの手掌部からデストロイウェブを展開。それも、電圧を更に高めて迫る。ツヴァイは回避が間に合わず、再び、それに触れてしまった。だが電圧が高かった蜘蛛の巣による電流は、レイを更に苦しめた。

「ああああっ!!!」

身体が熱い。いくら機体が干渉しているとは言えこの熱さ、苦しさは先程の非にならない。強い電気を浴びたレイ。彼の意識は次第に薄れていく――

「あぁっ……ふぁっ……」

全身の力が抜ける。レイは操縦桿を、離してしまった。やがて、ツヴァイはカメラアイの輝きを失い、そのまま落下していく。

「やりすぎよリンセ。」

ツヴァイを撃退した筈なのに、不快な表情を見せるフォリア。

「あいつ、お姉様をたぶらかすから!」

ツヴァイの撃退に成功し、上機嫌なリンセであったが、やはりフォリアはリンセの攻撃に納得が行っていない様子だった。

(馬鹿リンセ。このままあの子が死んだらどうするの?レイをモノにして、その後で殺せると思ったのに……)

苛立つ様子のフォリアは、すぐにツヴァイを追い掛けた。動いていないツヴァイは、そのまま川へ落ちていく。

やがて至近距離まで接近し、ツヴァイを回収する為にその手部を伸ばした――

 

ドオオオオオッ

 

そこへ、一筋のビーム粒子が、二機に迫った。

「チッ!」

「お姉様!?」

カスタムされているヴェーチェルにはビームコーティングがされている為、ビーム兵器によるダメージを減少する事ができる。

しかし、機体が少し揺れた。機体の調整を行うフォリア。やがて彼女達の前にはビームを撃った機体が現れた。エスディアである。

「ああ、あれは日本にいた時のヤツ!」

リンセは思い出したように言った。日本の上空で交戦した相手である事を、よく覚えている。

「あの二機がレイをやったのかよ!」

レイが出撃したのを確認していたガースト。しかし、この二機にレイは苦戦しており、遂には川に墜落した。

レイを攻撃した二人を、彼は許せなく感じていた。エスディアはビームサーベルラックを抜き、二機に迫る。しかし、ツヴァイでも苦戦した相手がエスディアに通用するだろうか。二機の機動性は高い。旧式機体をベースにしているエスディアとは雲泥の差と言えた。姉妹のガンダムの素早い動きに、ガーストは翻弄される。

「無駄よ」

咄嗟にフォリアは言った。その声を聞き、パイロットが女性である事に彼は驚く。

「お……女なのか!?」

彼が姉妹と直接会話をするのは始めてである。困惑するのも、無理は無いと言えた。

「あら……意外と、塩顔の可愛い顔つきのパイロットなのね。レイと比べても劣らない感じ……」

「ホントだよねー。なんか意外な感じー。」

「ば、馬鹿にして!お前等なんなんだよ!」

「でも……言葉遣いは乱暴ね。レイと大違い。」

「うるさい!レイをどうした!?お前達がレイを!」

「レイなら今頃川の中だよー!それよりも勝負だよ!イケメンさん!」

エクルヴィスが先手を仕掛けてきた。デストロイウェブを放ち、ガーストに襲いかかる。それを回避したエスディアは、ビームバズーカを撃つ。

「墜ちろ!」

その、声と共にビームが放出されるが、ヴェーチェルのビームシールドで、ビーム粒子は弾かれる。

「なんて武装だ!?ビームシールドなんて……」

「最新式の武器だよ!ビーム兵器を弾くんだよぉー!」

嬉々と語るリンセ。

「俺だって元デウスなんだ!負けられるか!」

エスディアは再びビームサーベルを展開し、勝負に出た。元デウス軍人と言う意地を見せつけるが為に、ガーストは奮闘する。

「可愛い顔してデウス軍……へぇ、少年兵だったのね。」

「うるせえ!お前には関係無いんだよ!」

ビーム刃はエクルヴィスを狙っていた。そのまま突き刺そうとするのだがエクルヴィスは再び、デストロイウェブを放つ。

「あぁぁぁっ!」

エスディアにそれが当たってしまい、ガーストは痺れた。機体もしばらく動きそうに無い。そこへ上空からヴェーチェルがビームウィップを持って襲い掛かろうとしていた。

「終わりね。」

エスディアは攻撃を受けてしまった。左腕部がビームウィップによって切裂かれてしまう。

「ぐぅっ……!」

チェーニ姉妹の連携に成す術もないエスディア。機体性能が違い過ぎるのだ。

「所詮はその程度ね。大したこともない。」

「ま……まだ……」

再びビームバズーカを撃つが、それも無駄な足掻き。ビームシールドで防がれてしまう。

「キャハ……そろそろ死んじゃう?あんた、弱いよ。弱すぎて話になんないから!」

リンセは冷たい眼をした。挑発するようにマシンキャノンを連射し、ビームサーベルを側腰部から抜刀し、ガーストに襲いかかる。

マシンキャノンは頭部機関砲と比べて威力も高い。貫通力に優れるそれに当たってしまったガースト。機体が激しく揺れる。

「こ、このままじゃ……もう……ダメ……だ……」

彼は段々意識が薄れてきた。電流攻撃等様々な攻撃を受けていた為である。

「ウフフ……」

「アハハ……」

姉妹はガーストを見下すように笑っていた。話にならない……とでも考えているのだろうか。

 

 

 

チェーニ姉妹によって攻撃を受けたツヴァイは、川に沈んでいた。コクピット内ではレイが目を瞑っている。意識を失っていたのだ。しかし彼は幸い少しだけ目を覚ました。朦朧とする意識の中で彼は思った。

(僕……もうダメなのかな……)

何度も電撃攻撃を浴び、意識がほとんど無くなっているレイ。彼の頭の中では今までにあった思い出が蘇る。まるで、それは走馬灯のように。

 半年間は幸せと言えた。だが非日常はレイの運命を変え、再び戦場への道を歩ませる。その結果が、今だ。エリィの想いも受け、彼は戦った。だが、この混迷の戦場では窮地に追い遣られるだけ。

 自身の驕りだったのかも知れない。サイコミュ兵器を扱える事が出来るようになったと喜んでいたが、それを対処する強敵の出現はレイを困惑させ、そして不利な状況に追い遣った。

このまま死ぬ?何も、出来ないまま?それは嫌だ。この場で終わりたくない。せめて、リルムに会いたい。彼はふと、そう思った――

 

―――――――――――――――――ドクン――――――――――――――――――――

 

レイの目が深紅に染まった。紅く、無気味な目をしているレイ。

 

キシィン

 

それに反応するようにツヴァイのカメラアイが輝いた。川の中で鈍い音を立てながらツヴァイは動き出し、水面に向かった。

 

 

 

レイの眼が深紅に染まる。それにより、頭痛を訴える者達が居た。この中の一人に、ヴァイダーガンダムのパイロット、リノアスの姿もあったのである。

「……!」

頭を抱えている。痛いのだろうか。表情を見せない筈の、リノアスが苦しんでいる。同時に、側に居たアレンが、レイの存在を感じていた。

「この感覚……レイが近くに、いる……?」

 

 

 

川中からツヴァイが姿を現した。そしてツヴァイはファンネルを放出する。狙いはチェーニ姉妹であった。突然のツヴァイの出現、及び攻撃に反応した姉妹は、それぞれビームシールドを展開し、ビームを防ぐ。

「復帰した……?」

「全く、しつこいのよ!」

エクルヴィスは、再びメガビームカノンを放出した。当然ながらレイはそれをバリアーフィールドで防ぐ。威力が非常に高い為、やはり機体が揺れる。

だが、レイは怯む様子を見せない。そのまま、姉妹のガンダムに迫る。傍には、エスディアの姿があった。彼はただ呆然とその様子を見つめるだけだった。

「レイ……うぅっ……なんだ……?前と同じ感じが……」

以前にレイが同様の状態になった時、彼は他の力を持つ人間と同じように頭痛を訴えていた。当然今の彼も同じ状態にある。

ツヴァイは攻撃に出た。ファンネルによる一斉射撃。十八基ある、ファンネルを前にして姉妹は戸惑っている。独特の機動性を活かし、回避運動を続けるが先程とファンネルの動きが、明らかに違う。レイの意思の下で動いている筈なのに、規則性のない動き。読めない、軌道。

レイはじっと姉妹を睨みつける。紅く、不気味に染まった瞳で。それにシンクロするようにファンネルの動きが激しい。

 

バシュウウウウウ

 

やがてブリッツファンネルからは一斉にビームが放たれた。ビームシールドでは防ぎきれないビームの雨……それにより二機はダメージを受けた。

「あぁっ!」

「な……舐めた真似を!!!」

攻撃を受けて怒ったフォリアは遠距離メガランチャーをレイではなく、ガーストに向けた。弱っている人間を先に破壊しようとしていたのである。

「弱い機体!先に死になさい!!!」

エネルギーが溜められ、巨大なビームが放出された。その先にはガーストのエスディアの姿が。避けようとするが間に合わない。

「な……」

もう駄目だと、彼は思った。するとエスディアの前にツヴァイが現れ、右手部を展開し、バリアーフィールドで防いだのだ。だが、ツヴァイのバリアーフィールドジェネレーターは、これによりダメージを受ける。

「邪魔ばかりして!!!」

この間も、深紅の眼で姉妹を睨みつけるレイ。更に、再びツヴァイはファンネルを放出し、姉妹を攻める。

「あぁもう!!!いい加減墜ちなさいよ!!!」

高出力のメガビームカノンを連射するエクルヴィス。だが、今のツヴァイの機動性に対してその攻撃は掠りもしない。

「くっ、ここは任せるぞ、レイ……!

戦闘の続行が不可能になったエスディア。ガーストは悔しそうな表情を浮かべながら、彼はセイントバードへ帰還する事を決めたのであった。

その後、引き続き戦う彼等。ツヴァイは先程と全く違った様子で戦う。独特の感覚は、オールドタイプであるはずの彼女達にも不安にさせる。

「何なの……やたら強い……」

「さっきと比べ物になら無い……強過ぎる……」

 

ピシュンッ

 

やがて、再びファンネルによる攻撃が始まった。それらから一斉にビーム刃を展開し、ファンネルの雨が姉妹を攻める。

「くぅっ!!!」

ビームシールドでも防ぐ事ができないファンネルによる斬撃。その圧倒的な強さに、彼女達は帰還せざるを得ない状況に追い込まれたのである。

「お姉様……私もう……粒子残量が……」

「今回は、撤退するしかないようね……」

レイの覚醒により、その強さを見せつけられた姉妹は、撤退する事を選択した。ヴェーチェルはウイングを展開し、エクルヴィスはバーニアの出力を上げ、ロンドンから去っていく。

やがて姉妹との戦闘が終わった瞬間、レイの眼はもとに、戻ったのであった。

「ハァッ……!そうだ……あれを破壊しなきゃ……!」

休む暇なく、レイはヴァイダーの下へ向かう。だが、彼は今、疲労していた。先までの猛攻で脳に疲労を来していたのである。

 休みたい気持ちは、あった。だが蹂躙するヴァイダーを止めなければいけない。その為に、レイは動くのだ。

 

 

 

ヴァイダーは破壊活動を繰り返していた。既にロンドンの殆どの土地がヴァイダーによって焼き尽くされた。延々と広がる、見るも無残な光景。レイはただ、この廃墟と化した光景を目にしながらヴァイダーの元へ向かう。姉妹に気を取られているうちにこれ程まで破壊活動が進んでた事。その現実に、レイはショックを隠し切れない。

「こんな……こんな……!」

多くの人が死んだのだろう。多くの人が何も言葉を話せずに消えたのだろう。何故、人はこのような残酷な事を、平気で出来るのか。人という存在が成した殺戮は、止まる事を知らない。

 しかし、ヴァイダーのパイロットであるリノアスは傀儡に過ぎない。彼女もまた、新生連邦に利用される被害者の一人と言えるのだ。命令のままに、罪なき人々を虐殺している。そこに悪意はない。ただ、純粋な命令に準じる行為だ。

 

 

 

ヴァイダーガンダムの周辺には、脚部にミサイルを搭載したヴァントや、ブライティスがその進行を止めんとばかりに、交戦している。巨大MSであるヴァイダーは、容赦の無い攻撃を繰り返す。

「ああっ!」

油断をしたアレンは、ブライティスにヴァイダーの猛激を受けてしまった。

 

ピピピピピッ

 

その時、回線が入った。ジャンヌからである。

「アレン。その機体を止める事だけを考えて下さい。首相官邸が破壊された今、これ以上の被害を出さない為にも、止めて下さい。お願いします。」

ジャンヌの切なる願い。アレンは、これを聞き入れ、立ち向かう。既に疲労がピークだったアレンであるが、目の前のジェノサイド・マシンを止めなければ多くの犠牲者が出る。戦うしか、無いのだ。

ふと、彼はビームセイバーを抜いて、接近戦に持ちこもうと考えた。ファンネルはバリアーフィールドで防ぐ事が出来る……そう考えて、彼は行動に出た。ビームセイバーラックを連結させ、バーニアの出力を上げた。光刃の出力を上げて、ヴァイダーに迫る。

「破壊……」

ヴァイダーはフィンガービームランチャーを撃つが、ブライティスは機体を回転させて回避する。他にもファンネルで襲ってくるがそれらを全てバリアーフィールドで防ぐ。そしてヴァイダーの背後に接近する事ができた。そして、ビーム刃を展開し、切り刻む。

更に、ブライティスはファンネルを放出し、ビーム刃に形状を変え、ひたすら切り刻む。

これらの攻撃が功を成したのか、ヴァイダーの動きが、僅かに制止した。

「動かない……」

エンジンを攻撃されたのか。リノアスは脳波コントロールでファンネルを使用しようとするが、動かせないのだ。

 ならばと、両肩部のバインダーを稼働させるヴァイダー。それは、国連の水上艦隊を壊滅させた禁断の兵器、ルイーナシステムを使用するという事である。もしそのようなものが再び放たれれば、被害は計り知れない。ロンドンばかりか、グレートブリテン島そのものを滅ぼしかねない。

 

 

 

ヴァイダーの行動を感知したシュネルギアは行動をしようとしていた。上空からヴァイダーのバインダーが稼働したのを見た後に、ジャンヌは言った。

「プラズマカノンを発射して下さい。狙いはあの機体です。」

彼女の冷淡な命令に対し、別のアステル兵が言った。

「し、しかしそれを撃つのは危険です!艦が持たない可能性があります!」

「あれを放置する事の方がどれだけの危険を生むか、分かりません。首相官邸を破壊された以上、せめて、この島の人々を守る事に尽力する必要があります。出力は抑えて下さい。あの、両肩のバインダーを狙い、撃って下さい。」

それを受け、兵士は準備をした。

やがて、プラズマカノンの照準がヴァイダーに定められた。シュネルギアのプラズマカノンの破壊力はヴァイダーのルイーナシステム程ではないが、それでも絶大な火力を誇る。ヴァイダーガンダムを止めるには、プラズマ兵器で攻撃を仕掛けるしかない。

「発射を。」

「発射!!」

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ

 

シュネルギアから、プラズマカノンが発射された。この砲撃はヴァイダーガンダムに向け、放たれる。

この砲撃を受け、右側にあったヴァイダーガンダムの、ルイーナシステムは破壊された。だが、問題がある。“右側”だけが破壊されたに過ぎないのだ。つまり、左側が残っている。

ルイーナシステムは、左側のみでも発射は可能だったのだ。

「破壊……戦艦……」

左側のルイーナシステムの標的は、シュネルギアである。その照準を絞り、放とうとする。万が一この砲撃が当たれば、シュネルギアは破壊されかねない。ジャンヌ達に、危機が及んだ――

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ

 

その時だった。一筋の光が差し込んだのだ。ヴァイダーの脚部に向け、放出された兵器が、ダメージを与える事に成功したのである。

 その砲撃の元となる機体は、何か。それはすぐに判明する事になる。

「レイ……彼が、戦ってくれているのですか……?」

モニターに映る、ツヴァイガンダムの存在。それが、ブラスタープラズマカノンを放ったのだ。それも、最大出力で。この一撃が、巨体へダメージを与える事に成功するのであった

 レイ自身も、この行動は賭けだった。巨体を止める為にビーム砲撃を行うも、機体全体に張り巡らされたバリアーフィールドの存在が、ビーム砲撃の邪魔をするのを見ていたレイは、この状況を打開できる方法を模索していた。その唯一の手段が、プラズマカノンだったのである。それを、最大出力で放ったことにより、ヴァイダーガンダムの脚部は次第に融解していくのだ。

 延々と撃ち続けるプラズマカノン。粒子残量が空になるまで、ひたすらに砲撃を続ける。

やがて、脚部は融解し、その重さで機体が後方へ崩れていく。しかし、ヴァイダーからの攻撃自体が止まった訳ではないのだ。

「白い……ガンダム……破壊……」

指部からのビーム砲や、ミサイルによる攻撃が生きていた。それらをツヴァイに向け、放つ。

 ツヴァイはこれを見て、回避運動を行う。ビームは、バリアーフィールドで防ぐ事が可能だ。

 更に、ヴァイダーはブリッツファンネルをツヴァイに襲わせる。機体が動けなくとも、まだ、その機能そのものが失われた訳ではないのだ。

この隙に、ブライティスはビームセイバーを抜き、その、出力を上げてヴァイダーのコクピットを狙う。しかし、無数のファンネルが彼の邪魔をするのだ。

 

『アレン……後ろ……危ない……』

 

「ココット……?」

この場にいない筈の、ココットの声が聞こえた。それを聞いたアレンはすぐに後方に反応し、ファンネルによる砲撃を、バリアーフィールドで防いだ。

『下……右……』

言われるままにその方向を見ると、別のファンネルがあった。それらの砲撃を防ぎ、一つずつ破壊する。

『上!』

次は上方。二基あった。それらを急いで、ビームライフルで撃ち落とす。

「これは……」

『分からない……アレンが危ないって、感じた……』

不思議な感触。彼女からは、以前は力を感じなかった、しかし今回、ココットの声が聞こえた。今までに無かった、出来事。まるで、ココット・メルリーゼが何か、力を持つ存在へ目覚めていくかのような感覚。アレンは、これが妙に思えて仕方が無かったのだ。

「とにかく……ありがとう。ココット。俺は、やる。」

アレンの眼が、変わった。倒れている巨体。しかし、攻撃を止めないその機体は、止めなければならない。

ブライティスは、ビームセイバーを展開した。やがて、両手部マニピュレーターでサーベルラックを把持し、ビーム刃がそのまま、突き刺さる様に降下していく――

「やああああああっ!!!」

そのまま急降下し、ヴァイダーのコクピットを突き刺した。弱点を突いたブライティス。そして、分厚い装甲で覆われていたコクピットはビーム粒子の熱により、爆発を起こしたのだ。

 爆発を起こしたコクピットは、剥き出しになる。そこに映る、リノアスの姿。アレンはその姿を見て、思わず叫んだ。

「何故、君がここに居る!?こんな所で!!君みたいな女の子が!こんな事!!!」

ロンドンを壊滅状態に陥れたヴァイダーガンダム。そのパイロットの正体は、知っている少女であるという事実は、アレンに衝撃を与えた。

 今、ブライティスのコクピットから見えている彼女の姿。それは、表情を一切変える事のない、ロングヘアーの少女がただ、座っている姿だったのである。

「今、助ける――」

 

ガキィンッ

 

その時だ。上空に存在していた、マドラ級戦艦が四隻、同時にワイヤーアンカーを展開したのである。それらは一斉にヴァイダーガンダムに絡まる様に展開し、そのまま、巨体を持ち上げて行く。

 ヴァイダーがダメージを受けた事を把握したフークが、すぐに指示を出し、撤退命令を出したのだ。ロンドンへの侵攻は充分に果たした。その上での、判断なのだろう。

「待て!君は――」

アレンは、身動きが取れていないリノアスを見て、思わず叫んだ――

 

『貴方の暖かさは、忘れない――』

 

アレンは、不思議な感触に包まれていた。一体、今の感触は何だというのか。リノアスから、

聞こえたような気がした先の感触は、アレンを困惑させている。

(今のは……)

巨体はそのままドーバー海峡を越え、撤退していく。それに伴い、他の新生連邦の部隊も全て、撤退を開始したのであった。

 イギリス国首都、ロンドン。その地は、瞬く間に廃墟と化した。新生連邦による襲撃は、大きな傷跡を残す事となったのであった――

 デウス動乱時、激戦区となっていたこの地は平和国連盟が積極的に復興作業を行っていた事により、戦後になって平和国連盟にとって重要な拠点として在り続けていた。しかし新生連邦の宣戦布告が災いし、結果、このような参事を許す結果となってしまった。復興が進み、平和への道を歩みだそうとしていた地は、もうない。あるのは、ヴァイダーガンダムをはじめとした新生連邦が蹂躙した、跡だけが残ったのであった――

 

 

 

セイントバードも上空から壊滅したロンドンの町を見ていた。そのあまりにも無残な光景にショックを隠せないクルー達。

ジャンヌの依頼を受け、ロンドンを守る筈だった彼等。しかし結果は新生連邦に蹂躙を許す形となってしまった。そのような事があって、良いのだろうか。見るも無残な光景。かつて人々が賑わっていた場所に、人は、居ない。皆、新生連邦に殺された。シェルターに逃げた人間も居たとはいえ、圧倒的な火力は全てを滅ぼす力を持っていた。

強大な力を前に、彼等は無力だったのであった。

「……我々は何の為に出撃したのだ……?このような結果になるとは……」

ネルソンは、悔しくて仕方がない様子だった。新生連邦によって壊滅させられたロンドンの姿を見て、壁に拳を殴りつける。

「戦争は……もう始まっているんですね……」

エリィは、ブリッジから、焼野原と化した街を見ていた。そして、そこには先の闘いで奮闘していたパイロット達、皆が集まっていたのだ。

「僕……あれを止めようとしました……でも……ダメでした……僕が……悪いんです……あの時にあの姉妹に気を取られていなかったら……こんな事には……」

「私だって……こんな事……」

レイと、スバキがそれぞれ、悔しさを吐露した。

「乗ってたパイロットは……もう、何も言う事聞かないと思う……。」

スバキが口にした言葉を聞き、クルー皆が、反応した。

「知り合いなのか?」

ネルソンが、言った。

「前に日本でね。ちょっとの間だったけど。でも、もう駄目だ。あいつはもう、こんな惨い事をしても止まらないんだよ。こんな事……」

スバキは、歯を食い縛り、握り拳と作った。僅かな時間とはいえ、リノアスとの人間関係を築いた彼女だが、それを無視して動いたジェノサイド・マシンと化したリノアスを、止める力は残念ながら、彼女には無かったのであった。

 新生連邦政府。平和国連盟に宣戦布告をし、その際に出撃しなかったジェノサイド・マシンをここにきて投入した、組織は圧倒的な火力でロンドンの街を蹂躙した。破壊を止められなかった彼等は、ただ、呆然とこの廃墟と化した街を、見る事しか出来なかったのであった――

 

 

 

シュネルギアも、上空からロンドンの街を見ていた。無残に広がる光景は、彼等の心境を抉る事しか出来ない。

「これが、ロンドンの街……私達は、止められませんでした……」

この、絶望的な景色を見て、苦悩するジャンヌ。しかしそれは、アレン達も同様だった。

 ただ、目の前に広がる残酷な景色は彼等の表情を暗くさせるのに、十分な役割を果たしている。新生連邦の横暴を許し、一般市民が大勢虐殺された。その上、ロンドン首相、エイゲル・ヴァーナーの死も、この時に確認されたのであった――

「ジャンヌ様、国連戦艦より入電。合流を希望する……と。」

「……分かりました。向かいましょう。」

突如、残存していた国連の戦艦から連絡が入った。今回協力していた国連軍の残存勢力。彼等からの連絡に、彼女は静かに、応じるのであった。

 

 

 

その後、シュネルギアは、国連の水上艦と合流した。水上に浮かぶ形となった、シュネルギアと一隻の、水上艦。彼女は、生き残っていたその、艦長と話をする事になった。

「ジャンヌ嬢。先の戦闘では世話になった。ただ、残念な事にはなったが……」

無残に広がるロンドンの光景は、彼等の心をも蝕むのだ。

「構いません。このような事態ですもの……」

俯くジャンヌ。その中で、艦長の男が言った。

「この状況下で大変恐縮なのだが……実は、国連の戦力であるヴァントガンダムを、そちらに渡したいと、考えている。今回、君達は多大な貢献をしてくれた。この状況ではあるが、国連の協力者として、今後とも協力をお願いしたい。今回、君達に紹介するのは新人のパイロットではあるが、受け入れて貰えるだろうか。」

突然の提案。だが、国連との関係もある。ジャンヌは心置きなく、受け入れる。

「ええ、大丈夫ですわ。」

それを聞き、艦長の男は指を何度か屈曲させ、側に居た、新人パイロットの人間を呼び寄せた。

緊張している様子の、その人間。ショートヘアではあるが、どこか顔立ちは愛らしい。

だがこの時、アレンはその人間に既視感を覚えていた。やがて、それが明確になった時、思わず口を開いた。

「もしかして、あの時の子か!?」

それは、戦闘中にアレンが助けた女パイロットである。どこかおぼつかない様子の人間だった彼女。その人間が、シュネルギアに配属される事になったのであった。

「アレン、ご存知なのですか?」

「戦っている時に……襲われてた子だ。俺が、助けた。」

まさかの、偶然だった。ここに、アレンが助けたパイロットが姿を見せる等、思ってもみなかった事だからである。

「あ、あの……あの時は、ありがとうございました!あ……えと……改めまして……シュネルギアに配属……される事になりました……えーっと……あ、アイリィです!アイリィ・トゥールです!!!よ、よろしくお願いします!!」

内心でホッと、安心する彼女。アイリィ・トゥールと言う名前の少女は、僅か十七歳で国連に入隊した新米パイロットである。

 彼女は何故、シュネルギアに配属される事になったのか。それは、国連の協力者であり、軍とは異なる組織であるアステル家に所属する事が、彼女の成長に繋がりやすいと考えた、その艦長の男の判断に寄るものだったのであった。正式な軍ではなく、あえて協力してくれているアステル家と共に、新生連邦に対して戦って行こうという、事。それを理解してもらった上で、アイリィはシュネルギアへの配属になったのであった。

 こうした事が出来るのも、平和国連盟とアステル家の信頼関係が大きく影響していると、言えた。それがなければ、このような事はあり得なかっただろう。デウス動乱戦後になり、アステル家と平和国連盟の絆は、深いものと、言えたのであった。

「よろしくお願いします、アイリィさん。」

「あ、はい!!!」

アイリィはジャンヌと手を繋ぎ、嬉しそうに微笑んでいた。

 新たなクルーを加えたシュネルギアであったのだが、現実的な問題が残っている。それは、廃墟と化したロンドンの街の復興と言う課題が、残っていた。それは、残された国連の人間達が協力し、少しずつだが復興への道を歩む事になるのであるが、やはり、それには、時間を要するのであった――

 

 

 

 その夜。移動するシュネルギア内にて。アレンはココットと同じ部屋に居た。ヴァイダーガンダムとの交戦を経て、彼は自身の無力さを思い知っていたのである。だが、その中で唯一の救いと言えたのは、ココット・メルリーゼの存在だったのだ。

 戦闘中に感じた、彼女の声。それがアレンを救った。この事から、彼女は力を持つ存在に目覚めつつある事が分かる。それは、恐らくシンギュラルタイプの力だろう。

「不思議だった。君の声が聞こえたんだよ。あの時に……」

「分からない。私、ただ、必死だったから。」

ベッドの上で、寄り添う、二人。

「君は、シンギュラルタイプの力を持っているのかも知れない。その……レヴィーとか、ガーストが持っているとされる、力だ。」

ココットは総司令とも顔見知りである。故に、アレンの言葉に反応するのだ。

「分からない。ただ、必死だったから……」

ココットは明らかに困惑している。自身に起きた力とは、何か。何も、分からないのだから無理もない。

「俺はさ、ココットがそんな力を持ってくれるのは心強いと、思うんだよ。」

ふと、アレンが言った。

「あんな無残な光景を見ても、ブライティスに乗って感情のコントロールが保てるのも、君という存在を認識出来るから。それが、今回改めて出来たとは思う。その……こんな惨事の後で言う言葉じゃ、無いとは思うけど。」

アレンは、頭を掻きながら言った。

「でも、私ね、思う事があるの。」

今度は、ココットが言った。

「不謹慎かも知れないけど……あんなに多くの人が死んでしまったのにね……どうしてだろう……アレンの事が、とても愛しいの……アレン……抱いて欲しいよ……」

「……俺もだ……」

それは、人の本能の一つなのかも知れない。残酷な光景や、人の死に直面した時。人は、身近に存在する人間を求める。死を意識した時、人は生を求めるのだ。そして、その生は愛情へと変化を変えていく――

 

チュッ

 

二人は、僅かな接吻を交わした。二人しか居ない部屋で、その、ベッドの上で。

「私って、最低な女……なのかな。あんな後で、こんな……」

「俺だって、最低な男だと思う。あんな光景を見た上で、ココットを求めてしまうなんて……」

「私、死にたくない……でもこれって、我儘なんだと、思う。分かっているけど……」

「……俺も。分かっている。けど……」

互いの視線が合った後、彼等は、再び接吻を交わしていく。今度は、長い時間。口唇の温もりが、互いに感じられていた。

 

 

 絡み合う、舌。接吻だけで止まらない両者の行為はエスカレートしていく。互いの服を脱がせ、愛する者に対して見せるその生まれたままの姿は互いの感情を、より昂らせるのだ。

 アレンはココットの乳房に触れ、ココットも、アレンの陰茎に触れていく。剥き出しになっていく互いの欲は、留まらない。

 多くの人の死を見てしまったが故の、愛する者同士の欲は、生への執着へと変化する。皮肉にも、残酷な光景は両者の愛情をより、高まらせる効果を持つのだ。

 “行為”はそのまま行われた。アレンは、ひたすらココットを求め、腰を振るう。離したく無い、離れたく無い、別れたく無いという意志や欲望が、二人を覆うのだ。絡み合う吐息は二人だけの部屋に漏れ、互いを欲情させていく。

ココットの華奢な身体の上に、アレンの細くも逞しい身体が覆う形での後背位での接触は、まるでヒト以外の哺乳類同士の交尾に似た本能的な動きをもたらしていく。筋繊維が見えんとばかりのアレンの臀部はその逞しさを物語っている。彼はそのまま、背後からココットの性器をひたすらに打ち付け、欲望の象徴を吐き出さんと、動き続ける。

「ココット……俺、もう……!」

「いいよ……イって……んぁぅっ……!」

「うぅ……っ……!はっ……あぁ……っ……!くぁっ……!」

快感に満ちたアレンは、最愛の人間であるココットの中で、その欲望の象徴を吐き出し、ベッドの上で果てたのだった。

 




第四十七話投了。

圧倒的な力でロンドンを蹂躙したヴァイダーガンダム。
この戦闘を機に、世界はより混迷に満ちていく。
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