機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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ヴァイダーガンダム襲撃後の平和国連盟の話。世界は大きく動いていきます。
今回は政治的な話が多いので難しい内容かも知れません。


第四十八話 揺れる平和国

 

 平和国連盟は、大きく揺れていた。ヴァイダーガンダムによる襲撃。この出来事は、最高議長であるチャールに対して大きな衝撃を与えたのであった。

先のヴァイダーガンダム襲撃から一ヶ月が経過した十一月上旬。平和国連盟本部のあるニューヨーク、旧国際連合施設にて、各国の一部代表が集まり、緊急会議を行なっていた。先のグレートブリテン島の襲撃や、オペレーション・デモリッション・クリエイションの事を全て含んだ、話し合いである。

「新生連邦がこのような横暴を行うなど!このままでは平和維持どころか、下手をすれば世界が滅ぼされる可能性さえ有り得ます!しかも、彼らはメディアを買収し、我々を悪と決めつけるような情報操作までする始末!最早滅茶苦茶としか、言い様がありません!」

モニターに映し出されているヴァイダーガンダムの姿を見て、声を荒げる、一部代表達。

「議長!最早一刻の猶予もありません!我々も、徹底的に攻めなくてはなりません!平和主義に反する事は分かっていても、これでは、犠牲者を出すばかりです!!」

やはり、そのような主張が出る事は当然と言えた。チャール・ポレクが掲げる平和主義の存在により、新生連邦軍の横暴を許し、結果的にロンドンを崩壊させる事に繋がった。それを非難する声が上がるのは、至極当然だ。しかし――

「それだけは避けなければならない!平和主義が何の為に存在しているのか!それは、恒久和平の実現に繋げる為に必要であるが故の主義だからですよ!平和国連盟の国連軍が、武力介入を行う事は断じてあってはならない!それは、戦争状態の泥沼化に一役買う事に繋がります!それこそ、奴等の思う壺です!」

その意見も、間違ってはいないと言える。だが先の侵攻の後でのその言葉は、“無”に等しいのだ。

その間にも、他の一部代表達が論議を続けていた。

「やはり……平和は……武器を持って勝ち取らなければならないのかも知れないな。」

「しかしそれでは争いを招く!デウス動乱の二の舞だぞ!」

「だが連中はこちらが何もしない事を良い事にロンドンを襲撃し、多くの犠牲者を出した!これ以上の横暴は許されん!」

「しかしねぇ!復興してきている世界なのに、これ以上、人の手で地球を汚染する気か!」

「短期的な戦争状況はやむを得ない状況と言えますよ!先の動乱では戦争の長期化が大きな要因だった!」

「どの道被害を受けるのは罪なき市民だ!我々が戦争を容認し、早期終結を望めば、平和はすぐに訪れる!」

賛成派と、反対派の意見が大きく分かれている。平和主義は、果たして本当に必要なのか。その、戦争の萌芽を早く紡ぐ事も考えなければならないのではないかと、考える代表の姿もある。

 以前から上がってたこの論争は、ここにきて、より、活発になっていくのだ。

「本来、我々はMSなど保有してはならないのです。しかしそれは無理な話である。現に、主力機体であるヴァントガンダムが無数に生産されているのだから無理もなのですよ。」

チャールが、突如口を開いた。それを聞く、代表達。

「そもそも、国連の本来の活動目的は被災地のレスキュー活動やテロリストからの防衛等、そう言ったものの為に国連は存在しているのだ。他への侵攻の為に存在している組織ではない。新生連邦にも軍の存在は矛盾しているとは言われたよ。だが、そうした目的があって、国連は存在している!だからこそ、今まで保つことが出来た!」

平和国連盟が所持している軍、国連軍。その規模は膨大であり、先のロンドン襲撃においてもヴァントガンダムは多数投入されていった。だが、本来はチャールの言うように、災害地派遣等、平和維持活動目的で軍は存在している。その存在を、新生連邦には指摘された事があるが、それでも彼は意志を曲げることは無かった。

「本来、平和国連盟は新生連邦という組織に対する監視の下結成された組織であり、その下で使用されているのが国連の戦力ですよ。国連の役割は、その、脅威から市民を守る為にMSが利用される。だから国連は市民に被害を与え無いように努力をしなくてはならない。しかしあの戦いではそれは、全く意味を成さなかった!だからと言って新生連邦を攻め、市民を巻添えにして殺せという考えは論外だ!新生連邦は市民を守るなどと言った処置はまずとらないでしょう!そうなれば罪なき市民が死んでいく……これがどう言う事か分かるか!?最早、新生連邦軍と行動が変わらない!」

チャールが、それらの言葉を放った後、再び、口を開けた。

「新生連邦総司令、レヴィー・ダイルと直接会談を申し込む。武力による衝突は避けなければならない!ならば、対話のテーブルを設けるべきだ!」

あろうことか、先の状況を見たにも関わらず、チャールは“対談”で新生連邦と話をしようと、考えていたのだ。

 それはアルメジャン紛争の際に決裂した筈だった。互いのガードマンから放たれた銃声が、両者の立場を悪化させた。なのに、チャールは再び会談のテーブルを設けようというのだ。

「滅茶苦茶だ!奴等がそれを素直に聞くと思えない!」

「しかし、平和主義の存続が出来るのならばそれも良い判断では――」

「それが通用する相手ならばこのような参事を招く筈がないでしょう!」

再び荒れる、場。だが、チャールがそう決定したのならば、その会談の場は作られる事になるのだ。

 

 

 

 この情報が流れた時、世間は大きく荒れた。ロンドンの襲撃が生じ、数多の犠牲者を出したにも関わらず、まだ対話をしようとするチャール・ポレク。各メディアはこれを痛烈に批判。SNS上でも、荒れる意見。チャールへの批判が集中した。

 無論、全ての人間がこれを否定している訳ではないのだが、やはり世論の大半は対話ではなく、何かしらの手段を行わなければならないという意見が、大半を占めていたのであった。

 つまり、これは世論が戦争を求めているという状況だった。皮肉にも、チャール・ポレクが掲げた平和主義の存在が災いし、結果的に世論は先のデウス動乱の状態を望むという事になる。これは、本来あってはならない恐ろしい事であった。

 その上、SNS上やメディアでは、平和国連盟に関する黒い話題が、多く流れてしまっていた。例えば、平和主義の為の税金は所属国の議員達が横領し、それを使って豪遊したり、別荘や豪邸を建てるといった話も相次いでいたのである。

 これ自体は、以前から生じていた問題だ。だが先のロンドン襲撃で平和国連盟の存在の在り方を疑問視する世論が、より、平和国連盟を疑う姿勢を持つ事になったのである。

 これには、多くのマスコミ関係者が平和国連盟の存在に着目していた。最高議長であるチャール・ポレクの黒い噂等をスクープするメディア会社の存在さえも出現する始末である。

 更に悪い事に、こうした情報と言うのはあらゆる形式で世界各地に拡散される。SNSにしても、著名人ともいえるインフルエンサーや、メディアの情報。そして、動画配信等でその視聴数を稼ぐ為に利用する者等。チャール・ポレクの平和主義の真相について知ろうとする人間の存在も相次ぎ、それに対する不透明な噂話や、“平和国連盟の関係者”という名の、本当に存在するかも怪しい人間の存在等が、浮き彫りになる始末。そして、果てには女性関係のスキャンダルといった、低俗な内容まで。

 今、世間はチャール・ポレクに視線が向いている。チャールの姿が映った瞬間に悪質なヘイトスピーチを行う者まで現れ、SNS上では炎上が相次ぎ、果ては殺害予告まで出る事態となった。

 無論、どれが真相であるのかは分からない。それは、平和国連盟と言う組織が余りに巨大な組織であり、尚且つ平和主義によって保守的で在り続けた結果が、皮肉にも現在の世界情勢を作り出しているといるのであった。

 副議長であり、側近であったソネル・パリシムを銃撃で亡くした今、チャールはどうすれば良いか、分からないでいた。平和国連盟の在り方や、その軍隊である国連軍。それらは今後の世界ではどう在れば良いのか。

「私は、不思議でならん事がある。ソネルが亡き今、何故弟である君が、副議長を務める事が、出来ているのか……が。」

ソネルが殺害された後、副議長は別の人間が担っていた。それも、彼の思想とは180°異なる人間が、副議長を行うという、極めて、異例な出来事であったのだ。

「私自身も、不思議ですよ。一つ言える事は、私は世論を読んでいると、いう事です。議長。」

そこに居たのは、ソネルの弟、ギルス・パリシムだった。彼は反平和主義の人間であり、チャールに対して反対意見を述べた事があった。ソネル・パリシムの弟でありながら、平和主義とは異なる意見を出す、この男。

 では何故この若い男が、今、副議長の座にあるというのか。これには、彼自身の“力”が影響していたのであった。

「会談内容、楽しみにしております。」

どこか、不気味な笑みを浮かべるギルス。相反する意見を持つギルスが副議長と言う立場。チャール・ポレクは、相談する相手が居ない状態だった。

やがて、彼は何も、見出せないまま、新生連邦とのビデオ会談を迎える事になる。

 

 

 

平和国連盟と新生連邦との会談が行われていた。チャールと総司令、レヴィー・ダイルの会談は戦争状態になり、初めてだ。

「まさか、そちらから会談を申し込んでくるとは思いもしませんでした。どういった件で、我々と話をしようと思われているのですか。」

総司令の声が聞こえた時、チャールは言った。

「我々が、戦う必要はあるのかという、率直な疑問です。」

そう言う、チャールの声は、どこか、弱々しく聞こえる。

「先日にそちらのMSがロンドンを壊滅させました。先のデウス動乱でもデウス帝国軍と激戦区となっていた地。復興の為、平和国連盟は尽力を注いできた地を、新生連邦軍は蹂躙しました。国連だけでなく、都市に住んでいた住民さえも、数百万人の犠牲者を出す事になりました。その上で、ロンドンのエイゲル・ヴァーナー首相もお亡くなりになっております。これは最早虐殺を遥かに上回っていると言えます。それを、これ以上続ける必要がありますか。」

チャールは、あろうことか、内に秘めていた思案を、直接伝えたのだ。そこに秘めている言葉は、いずれもが新生連邦に対する感情、そのものだ。

 あくまでも平和国連盟と新生連邦は対等である。そう考えるのが、チャール・ポレクの考えなのである。しかし、総司令は口を開いた。

「敵性勢力の存在を排除するのは至極当然と言えます。それは、平和主義を唱えておきながら軍を所持している貴方方平和国連盟の矛盾を、断ち切る為でもあります。新生連邦は戦後になり、戦力増強を続けてきました。その結果が今の世界です。脅威を排除するのは、戦争では当然。その戦力が無くなれば、世界は一つの勢力の下、治安を保つ事が出来ます。」

彼の言葉に感情は入っていない。まるで、チャールの意見を聞き入れる気が無い様子だった。

「しかし、それで多くの罪無き人々を巻き込むような殺戮行動を起こす事は理解しかねます!人を減らしていく世界を作り出そうとするのが新生連邦なのですか!?」

これに対し、総司令は再び言った。

「我々は、配慮した上で攻撃を行ったに過ぎません。侵攻に犠牲者が伴うのは至極当然。市民を避難させるのは平和国連盟、貴方方の仕事では?我々は軍を派遣したに過ぎない。それだけなのです。」

あくまでも、国連を攻撃すると言った総司令。一般市民の犠牲の責任は、平和国連盟にあると、言っているのだ。

「あのような蹂躙をしておいて、よくもそのような事が言える……!

今のチャールが会談の場に居るのは危険だ。最早、感情論でそれを推そうとしている。ロンドンの襲撃ばかりを引き合いにし、それ以上の話の展開が出来ていない。

「残念ですが、チャール・ポレク代表。貴方の言いたい事が分かり兼ねます。では、私からも伺いますが平和主義を唱えておきながら、何故あれ程の規模の戦力を持っているのですか。災害地派遣やテロリストからの防衛目的と言う大義名分からは明らかに逸脱しているとしか言いようがない、戦力の数。我が軍が侵攻した際に存在していた巨艦の存在等。それは、平和国連盟に“本当”に必要な戦力と言えるのですか。」

それは、アッサラームの事だ。全長1キロメートルはあろう巨艦の存在は、平和国連盟の平和主義と矛盾している存在として十分な存在と、言えたのである。

「そもそも平和国連盟は我々が対立する以前から多くの兵器を製作していますね。それは、現在の世のような、状況になった事を想定していたという可能性も考えられるのではないのですか?つまりは、始めから我々と戦う気でいたのですか。」

「それは……」

ここに来て、チャールは更に弱腰になっていく。この場で弱気を見せる事は危険だ。平和国連盟と言う立場が窮地に追い遣られかねない。

 外交というのは非常に重要だ。例えば国同士の交渉等で、その外交の交渉が決裂したり、弱気で居てしまう事は直接、自国民へ悪影響を及ぼす。強大な国が相手ならば尚の事。不利な条約を突きつけられる事も有り得るのだ。今のチャールの場合は、それが著明だった。彼が弱腰という事は、平和国連盟に所属する国々に不利な状況が降りかかるという事である。

「単純に考え、平和と最も矛盾している存在。それは兵器です。その兵器を大量に製作している貴方方のその目的は、何か。答える事は出来ますか。」

この質問にも、チャールは答えられない。完全にこの会談は、総司令が有利に動いている。平和国連盟の決定的な矛盾を突く総司令。チャール・ポレクは感情的になり、先の侵攻に対しての非難しか、出来ない。

「逆に聞くが!貴方方は、あのような虐殺行為をして恥ずかしいと思わないのか!?アルメジャンの件でも、ロンドンの件においても!!!」

質問に質問で返す構図は、最早見ていられない。完全に総司令に押されているチャール・ポレク。

 この会談の様子は全世界に配信されている。生中継だ。その間にも、SNSや動画配信サイトには数多くのコメントが寄せられている。

「チャール・ポレク最高議長に、一つお伝えしておきたい事があります。」

「何でしょうか……?」

総司令は、彼の目を見て、言った。

「もし、貴方方平和国連盟が新生連邦と一つになる事を宣言するのならば、犠牲者は減る事になるでしょう。何故ならば、“そこ”に脅威が存在しない世界になるからです。」

今度は、総司令が押してきた。平和国連盟と言う組織を撤廃し、新生連邦政府と一つになる。その事を飲めば、全てが丸く収まると、言ってきたのである。

「戦力が存在するから争いは起きます。そして、先のような犠牲者が出ます。ならば、組織そのものを解体さえしてしまえば、良い。それが平和を作り出す最大の近道です。我々はこれを強く推奨します。」

「そんな、事を……!」

新生連邦の傘下になれば、戦争状態は落ち着くだろう。だが、それが本当の平和に繋がると、言えるのだろうか。

 戦後軍備増強をしてきた新生連邦軍は、平和国連盟の監視の下ではあったが多くの犠牲者を出し続けてきた。それ自体が、果たして平和な世界情勢と言えるのか。否、言える筈がない。だからこそ、ジャンヌ達が立ち上がっていたのだから。

 その最大の抵抗勢力と言える平和国連盟の、国連が屈服する事がある事は許されない。しかし、今のチャールにその考えは、浮かびそうになかったのだ。

「一週間、待ちます。それまでに、返答をお待ちしています。」

そう言った後、総司令が映っていたモニターは、切られた。それと同時に、生中継は途切れたのだった。

 会談を開き、対話を試みた筈が、寧ろ相手のペースに踊らされ、最終的には平和国連盟の解体を迫られるという状況になってしまうという、最悪の事態になった。これはチャール・ポレクにとって大きな屈辱であり、平和国連盟の加盟国にも明らかに、悪影響を与える結果となったのだ。

 もし、平和国連盟が解体すれば世界は新生連邦のみの世界となる。確かに、ロンドンの襲撃のような悲劇は起きなくなるかも知れない。だが、結果的に多くの犠牲者を生み出す可能性が高い世界を作り出す結果になる。

 平和主義があるが故に、侵攻も出来ず、対話さえも成り立たない状況。チャール・ポレクは窮地に陥っていたのであった――

 

 

 

会談の後、総司令は自室に戻る。そこに居る、ソフィアと短い会話を交わしていた。彼の事を肯定する人間、ソフィア・ブレンクス。今の総司令にとって、なくてはならない存在と言える人間だ。

「大衆は、先の大戦で何も学ぶ事なく戦争を選んだ。ロンドンの襲撃での平和国連盟への新生連邦への批判を見れば明らかだ。その矛先は、いつしか平和国連盟の平和主義の存在に向けられている。僕の起こした事に対して否定をする者は今や数少ない。戦争を反対と、何も考えずに叫ぶ事は簡単でも数多の情報が加われば、その思考が揺らぐのは当然。」

総司令は、そっと、溜息を吐いた。

「レヴィー様は世界を導いています。この戦争は、必要な戦争であると思っています。」

彼の言葉に、賛同をするソフィア。

「ロンドンの襲撃を見た人間が、例え僕が一方的な暴君と呼ばれる事があったとしても、その意見は揺らぐよ。平和国連盟の平和主義によって守られなかったと。新生連邦は世界に在り続ける。大衆は戦力を持つ存在と、戦争を否定しつつ兵器を作っている平和国連盟とでは、最終的に筋を貫いた方が勝者となる。例え、それが侵略行為やジェノサイドと、呼ばれても。」

その言葉は、傍から見れば狂気でしかない。民間人を巻き込んだ殺戮行為等許される筈がない。しかし、いつしか大衆というのは批判の矛先が変化していく。非人道的な行為があり、仮にそれが全世界に情報が流れるような事があったとしても、一定数支持する人間も居る。その声が大きければ大きい程、大衆の意見は次第に揺らぐ。やがては、平和を望む筈なのに平和とは遠くの事となってしまうのだ。

「人道、非人道に限らず、その力を持つ存在が世界を制し、統一するのは世の定めだ。反発があろうと、いつしかそれらは統一されていく。平和国連盟は、どう出るのだろうか。大人しく新生連邦の傘下に入り、連盟の解体や国連の解体を行うのだろうか。」

それは、彼にも分からない。既に批判を受けている平和国連盟は、追い詰められている状況でどのように舵を執るというのか。

 

 

 

「どうすれば……これから……」

会談の後、一人、部屋で頭を抱えているチャール。返答を求められるのは三日後。それまでに、彼はどうすれば良いのだろうか、分からないでいた。

 

コンッ

 

ドアを叩く、音が聞こえた。入室許可をする、チャール。

 そこに居たのは、ギルス・パリシムだった。副議長であり、メキシコの一部代表を務めている彼。まるで、チャールが会談を終えたタイミングを見計らったかの如くの、入室だった。

「会談、お疲れ様でした。議長。まさかの展開になりましたね。新生連邦の傘下に入るかも知れない選択肢。これは、由々しき事態ですね。」

副議長と言う立場でありながら、まるでチャールを挑発するかのように語る、ギルス。

「だから、私はずっと言っていたではありませんか。平和主義はもう、この時代に不必要な存在。平和国連盟が存続する為にも、国連は新生連邦に対する唯一の軍。それを全て新生連邦に譲渡してしまうというのは、国連も黙ってはいませんよ。」

明らかな冷やかしだ。余裕のない状況のチャールは、これを聞き、怒りを感じずにはいられなかった。

 最高議長と言う立場であり、尚且つ平和国連盟や加盟国の権限を担っている存在が、揺れている。それは、危険以外の何者でもない。

「君がソネルから副議長の座を引き継いでいた時から気になってはいた。何故、君のような人間が副議長になれたのだ?」

ここで、チャールからの疑問の声が上がる。副議長になるにも、選挙活動が必要だ。それは平和国連盟の加盟国の住民からの投票で行われる仕組みになっている。チャール・ポレクの直々の推薦では、無いのである。

「私を支持して下さる人々がおりまして。その上で、議長を支えなければならないと判断しておりますよ。」

そうは言うが、思想が真逆の人間が副議長になるという事は、チャールにとって不安でしかないのだ。

 しかし、ギルスが副議長に就任してからは、国連軍に軍備が着実に増強していたのだ。この事を、チャールは知らないでいた。全ては、ギルスが一人で行った事。彼が副議長の座に居られるのは、何らかの暗躍があった可能性が高い。

 こうした事情は、世論にもある程度知られている。軍備関係の情報が乗せられた時、ギルス・パリシムの功績がSNS等の情報媒体に載せられているのだ。

 先のオペレーション・デモリッション・クリエイションでヴァントガンダムを駆り出す事が出来たのは、ギルスの手腕によるものとも、言われている。結果的にそれが、国連と言う組織の被害を抑える事にも繋がっていたのだ。こうした背景もあり、ギルスは副議長としては実は、確固たる地位を築いていたのであった。

「議長。時代はもう、変わってきております。世論は既に、戦争を望む声が出ております。平和主義は、もう捨て去るべきものだと、私は考えておりますがね。」

と、囁くギルス。

「実際、平和主義によって国連の一部の人間が新生連邦に寝返り、あろうことか、国連に反旗を翻したかも知れないという報告も受けています。もしそれが、本当ならば由々しき事態ですよ。その際、ポルトガルの一部代表であったザビール・エルケス一部代表は先のオペレーション以降、行方不明となっております。何らかの関連があったのではないかと、推測は出来ます。」

その言葉を、どこか笑みを浮かべて語る、ギルス。その出来事は事実ではあるが、戦闘中の出来事は不明確であることが、多い。所詮、あくまでも、“推測”に過ぎない。

多くの出来事が重なった。新生連邦の宣戦布告、ロンドンの強襲。その上での、新生連邦の傘下になるという話。これらの事はチャールを苦しめるのに、十分な効力を持つ。

その上でのギルス・パリシムの発言は、チャールの心境を逆撫でし、逆鱗に触れる事になるのだった。

「平和主義は必要なのだ!戦争行為をする事は、あってはならない!!!」

脳内で多くの出来事が処理できないが故に、ただ、掲げている平和主義に拘るチャール。この場におけるその言葉は、ただ、空しく響くだけだ。

しかしチャールは、あくまでも武力介入を許さない。それに対する、ギルス・パリシムの戦争に賛成しようとする姿勢は揺るがない。

「平和主義は如何なる状況でも守られなくてはならない!貴様、何故これ程に戦争に拘る!?武力で何もかも解決しようとするその姿勢が、許されて良い筈が――」

 

ジャキンッ

 

その時だった。ギルスはチャールに向け、銃を突き付けたのだ。懐に入れていた拳銃の存在は彼を黙らせるのに、十分な効果を持つ。

「やれやれ、レヴィー・ダイルにまで言い負かされて、世論にも侮辱されて……所詮貴方のような石頭に何を言っても無駄と言う事ですよ。兄は貴方に忠実だったかも知れない。しかし兄の考えも間違っていた。何故なら、貴方と同じ考えだから。」

ギルスの指が引き金に触れた。チャールの汗が額から静かに垂れる。

「やはり、本性を出したな。ギルス・パリシム!それで、私を殺す気か……?」

突然の状況は、チャールを困惑させる。以前から何かを隠しているとは思っていたチャールだったが、ここにきて、ギルスが彼に銃口を向けるという凶行に出たのである。

「議長。貴方がその考えを改めない限り、この引き金を引きますよ。」

「私を殺しても……何にもならないぞ……」

チャールから見れば、ギルスは感情が暴走したが故に、自身を殺そうとしているように見えたのだろう。

だが、実際は違う。その証拠に、ギルスは笑っている。

「議長。貴方の後は私が継ぎます。その意味は、お分かりですね?」

「なんだと……?」

突然、ギルスはそう言ったのだ。チャールの後を継ぐ。それは、彼が次の議長になると言う事だ。

 基本的には最高議長になるには副議長と同様、選挙を勝たなければならない。余程のイレギュラーが無い限りは、最高議長には任期があり、最大八年。P.C歴になり、平和国連盟になった時に法改正し、平和国連盟の所属国民に選挙権が与えられる。そこから選ばれた一部代表が、最高議長の立場に立つことが出来るのだ。

チャール・ポレクはデウス動乱時から平和主義の存在を徹底的に推していた人間であり、多くの協力者を経て、今の立場にあった。

 だが時代が変わり、彼の思考は只の障害以外の何者でも、無くなってきていたのであった。

そして、その“イレギュラー”が、彼の前に起きようとしていた――

「ここで貴方を殺し、私が貴方を殺したと言う証拠を消し、完全犯罪とするのです。そして貴方が死んだ事で、自動的に私が議長の座に上がります。これも、平和国連盟の制度のお陰……と、言うべきでしょうか。」

万が一、議長が殺害される事があれば、すぐに代理を立てなければならない。それが、副議長である。彼の野望は、ソネルが暗殺された時から、既に始まっていたと言えたのだ。

「……貴様が議長になれば世界はより、混迷に繋がるだけだ……貴様のような野心家の人間ならば!」

「さあ、それはどうでしょうかね。チャール・ポレク。」

ギルスはニヤリと笑った。その間も銃を突き付け、チャールは身動きが取れない。

「以前の新生連邦によるロンドン襲撃により、多くの犠牲者が出ました。そのような事があっても、今の平和国連盟は自ら攻撃を行おうとしない。その姿勢に不満を抱く民衆は多いのですよ。今こそ、国連も戦う姿勢を見せなければ新生連邦の横暴を許すだけ。幾人かは真実を知っているにも関わらず、情報統制を徹底する新生連邦。我々はこのままメディアの誘導通りに悪人扱いされ続ける事、それはあってはならないのですよ。」

ギルス・パリシム。この男の本当の目的が、今、明らかになる。

「今までの平和国連盟は、今から死にます。貴方が死ぬ事でね。そして、新しい平和国連盟が誕生します!武力行使によって平和を勝ち取る、新たなる世界へ!!」

勝ち誇った顔をする、ギルス。一方で、屈辱に満ちた表情を浮かべる、チャール。まるで両者を対比するかのように、表情に差が生まれている。

「貴様……!貴様のような人間が、平和国の議長になるなど……!」

彼は悔んだ。このまま自分が殺され、ギルスが新たな議長となれば平和国は確実に新生連邦と同じような道を歩んでしまう……そう思うと悔しくて仕方が無いのだ。

 だが、現実は無慈悲だ。目の前に迫る死を、誰もが認識できない状況であったのだから――

「まあ、貴方の場合はその石頭をあの世でしっかりと、冷やして来て下さい。では、さようなら。」

 

パァンッ

 

無機質な銃声が部屋で響いた。それと同時に部屋の中で総司令は頭から血を流し、倒れた。

「貴方がいけないんです……貴方がね……」

証拠の隠滅を行った後に、最後に、見せつけるかの如く、笑みを浮かべてギルスは部屋から去った。何事も、無かったかのように。

 

 

 

チャール・ポレクの死を受けた平和国連盟は、騒然としていた。ニュース速報により、チャール・ポレクの死は瞬く間に伝わり、各地で再び話題と、なったのだ。

この件に関して、関係者がインタビューに答えるのだが、誰もが真相に気付いていない。犯人はギルス・パリシムであるのだが、誰もが疑う余地を見せない。

 まず、ロンドンの襲撃の衝撃が大きかった事、平和国連盟内で平和主義の在り方が議論されていたという事、そして、先の新生連邦との会談で弱腰になっていたという事。これらが全て重なり、チャール・ポレクは心身ともに追い込まれていたと、いつしか誰もが憶測するようになった。いつしか、彼は“自殺”と言う形で次第に処理をされていく事になる。

 チャールの死から三日が経過した。この時から、ギルス・パリシムのシナリオ通りに、彼がすぐに最高議長の座に就くことになった。

 旧国際連合施設前にて。マスメディアを前に、新最高議長となったギルス・パリシムが姿を見せた。そして、彼はカメラの前で、演説を始める。

 

「先日のチャール・ポレク元議長の自殺は、衝撃を与えました。私は彼の意思を継ぎ、平和国連盟の最高議長として、平和の為に、尽力をしていきます。ですが、まずは今のこのご時世を読んでいかなければならない。我々は、平和を掴まなければならない。私は、チャール・ポレク元議長の平和主義には、賛成していました。しかし、それは臨機応変に対応が出来ないという致命的な問題を抱えておりました。先の新生連邦政府による、ロンドンの襲撃は記憶に新しいでしょう。新生連邦政府は、自らの手で地球という、全ての生物の母なる地を汚染していました。本来、これには制裁を加えなければならないのにも関わらず、平和主義がそれを妨害してきました。結果、数百万もの尊い命が失われました。これに対抗する為には、何が必要か?それは、“力”です。力を行使し、我々は立ち上がらなければなりません。守る為に、戦う。それが、新たなる平和国連盟の立ち上げです!!恒久和平の実現の為に、我々は立ち上がらなければなりません!新たなる平和国連盟は、国連軍に力を与えていきます。一部代表を介する事は、この世界に於いては遅すぎるのです!新たなる世界を、作り出していきましょう!そして、“真”の平和を勝ち取るのです!!!」

 

チャール・ポレクの死から一夜。新たなる平和国最高議長、ギルス・パリシムが誕生した瞬間であった。この演説を聞いた、世論の意見は分かれていた。平和主義を推す者も居た為だ。

 しかし、皮肉も大多数の世論は彼の演説を快く受け入れていた。新生連邦軍によるロンドンへの侵攻は、世論へ大きな影響を与えていたのである。

 これも、ギルスの狙いだった。世論を味方にする。この事が、彼の野望の第一歩。そして、軍備の増強をしていく。これも、彼の目的。

 それは、新生連邦政府と全く同じ事である。力の権限を国連に与える事により、積極的な戦争状態を作り出す。軍部に力を与える事が如何に危険であるかは、歴史が証明している筈なのだが、この男はそれを行おうとしているのだ。

彼の野望は始まったばかりだった。武力による平和。それが、ギルス・パリシムの望む理想の世界なのであった。

 

 

 

 演説から、更に三日が経過した日。この日は、元々チャールに対して新生連邦が、傘下に加わるかの選択の期日であった。しかし、チャールの死により、状況が一転していた。

しかし、チャールと入れ替わるかの如く、新議長となっていたギルスは、総司令に対して再びビデオ会談を行った。この時、レヴィー・ダイルの表情は、チャールの時と比べ、明らかに警戒をしている様子だったのだ。

「先日の演説は拝見しました。ギルス・パリシム新最高議長。あれは、我が軍に対する宣戦布告と見做して宜しいでしょうか。」

それに対し、ギルスは静かに、言った。

「レヴィー・ダイル総司令。目には目を、歯には歯をという言葉があります。これの起源というのは、西暦以前の旧世紀のバビロニアを統治した、ハンブラビ法典です。要は、平等でなければならないという事です。新生連邦政府軍が攻撃をするという事は、討たれてもおかしくはないという事です。それは、例え宇宙進出が進んだ現代においても、地球人同士の戦争が起きたとしても、何ら変わりません。戦争と言うのは、そうやって行いますよ。」

総司令が率直に感じたもの。それは、ギルス・パリシムという男が狂気に満ちているという事だ。

「既に、メキシコ湾に軍の派遣を要請しています。国連軍の兵士、皆が新生連邦軍に対する恨みを抱えているそうです。」

「軍の派遣……?」

総司令は、平和国連盟の違いを感じ取っていた。明らかに、今まで彼が感じていたものと、違う異様な感覚。

 その後両者の会談は当然ながら決裂。総司令は平和国連盟が新生連邦の傘下に入るものと考えていたが故に、予想していたものと異なる事態になった事に、驚愕していたのであった。

 

 

 

新代表、ギルスの要請を受けた国連軍。彼の言うように、メキシコ湾にて先のロンドンの襲撃の報復と言わんばかりに、新生連邦の艦隊を強襲した。それは、今までの平和国連盟からは想像できない光景だった。

国連は六隻の水上艦を使い、ヴァントガンダムを出撃させ、ビームライフルにて、攻撃を続ける。

この、国連の部隊が今襲っているのはエファン・ドゥーリア率いる艦隊だった。メキシコ湾に在住していた、彼が率いる水上艦以外の、三隻の艦隊を強襲していた。

現在、エファンは艦長席に座っていた。襲撃を行って来る国連軍の動きを、洞察していたのである。

「まさか、国連攻撃を加えてくるとはな……想像すらしなかった。チャール・ポレクが死んでから僅かな期間で、世界情勢は更に混迷を極めているな。」

国連からの攻撃は、まるで憎しみを込めているかの如き攻撃だ。蹂躙された報復と言わんばかりに、容赦のない攻撃が迫る。ビームライフルによる嵐や、ミサイルによる、砲撃。

 この時、ヴァントガンダムには脚部にミサイルが搭載されていた。ヴァイダーガンダムによる襲撃で、バリアーフィールドジェネレーターに対する対抗措置として、国連軍は全機のヴァントガンダムにミサイル装備を義務付けていたのである。

「少佐は、アーヴァインには搭乗なされないのですか?」

兵士の一人が、言った。

「乗るまでもない。」

と、一言言った。今回、エファンは艦の指揮を行う。彼の指揮に合わせるように、ジョゼフが出撃。可動式キャノンを腋窩部から展開可能なそれらが、一斉にヴァントガンダムに向けられる。

 ビーム粒子が飛び交う、メキシコ湾上。粒子の熱はMSを攻撃し、破壊する。それによって墜落する機体の姿も、あった。

だが、国連の水上艦に搭載されているヴァントガンダムの数は多い。攻める事を覚えた国連の力は、新生連邦を予想以上に凌駕しているのだ。

「先のロンドンでの報復行動という訳か。平和主義の放棄。やはり状況によって組織の在り方は変わる。そして、それが泥沼になり、やがて戦争は拡大する。それらは今まで築いた文化をも破壊するか。」

一人、呟くエファン。その際、彼は別の指揮を行った。

「ビーム砲を前方に向け、発射。ジョゼフ隊三機を戻せ。その後キャノンを展開。粒子残量に気を付けてな。」

その指示通りに動く、ジョゼフ隊。やがて、彼の指示通りに、再び腋窩部からキャノンが展開される――

 

ドバアアアアアアアアアッ

 

「そう。まとめて片付けろ。」

ビーム粒子が放たれ、国連の水上艦は一度に二隻が轟沈した。そこから、畳みかけるようにミサイル砲撃を行う、エファン。

 これらが猛威を振るい、ミサイルは一斉に国連の水上艦の上に落ちる。大規模な爆発に、成す術がない国連兵達。

「あの艦、何者が指揮をしている!?的確過ぎる……」

ある、一隻の水上艦の佐官が呟いた。その艦を指揮しているのはエファンであることを知らない彼は、反撃の為にビーム砲、実弾キャノンを放つよう、指示。

 戦艦同士の艦隊戦。それは、機動力、及び火力がものをいう戦術だ。ただ、むやみにビームやミサイルを放てばよいというものでは、ない。

 やがて国連の艦はエファンの指揮する艦に接近し、そのまま、砲身を向け、ビームを放とうとするが――

「撃て」

エファンがそう指揮した直後に、実弾キャノンを向けた。それは、ブリッジに向けられ、一撃で沈められたのである。

この戦闘は、三隻しかなかった新生連邦の艦隊が勝利を収めた。半分の戦力であるにも関わらず、彼の判断は、新生連邦を勝利に導く。

今回の戦闘では国連が敗北する形となったのだが、この一戦は新生連邦に対し、国連の猛威を見せつけるきっかけとなった。チャール・ポレクが死んでから一週間。世界情勢は、大きく変化しつつあったのである。

「さて、世界はどう動く……か。人間とは、争いからは逃れられない定めか。」

艦長席にて、エファンは撤退していく国連軍の水上艦を見て、そっと、呟いていた。

 




第四十八話、投了。
チャール・ポレクの殺害、そして新代表、ギルス・パリシム。この男が議長となった平和国連盟は今後、武力による平和を勝ち取ろうとしていく。
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