機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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ゼオン、エレン達を助け出し、脱出を図るレイ。

だがその後、デスゲイズが迫って来る――


第五十一話 氷河族からの脱出

 

 デウス帝国残党が根城としている小惑星、アポカリプス。そこから新生連邦のシン・ナンナ基地にある破壊兵器、X-9の破壊に成功したメイド。彼は今、受け取ったMS、デスゲイズを駆り、大気圏を突破した。

 その際、彼は氷河族のメンバーに号令を掛けられた。そこへ向かう為に、移動する。その際、彼は、ウィリア・ラーゲンと連絡をとっていた。先日彼女がアレンの事について話していた事が、気になった為である。

これに対し、ウィリアは拒否なく、応じる事にした。

やがてウィリアとメイドは合流。颯爽と、デスゲイズのコクピットから降りて、彼女と会う。ウィリアは、メイドの派手とも言える登場の仕方に、ただ、唖然としていた。

「よぉ」

と喋るメイド。

「お前にちょっとばかり聞きてェ事があってなぁ。」

と言う、メイドの手には銃が。ウィリアは、睨むように彼を見る。

「あン時はアルメスに声を掛けられてタイミング合わなかったけどな、お前、アレン・レインドと知り合いみてぇだな。何を知ってるか答えてもらおうか?」

ウィリアもこの男からの連絡を取り、逃げられないと悟っているのだろう。故に、逃げずに彼と合流したのだ。まさか、デスゲイズに乗って現れるとは思っても見なかったようだが。

「……アレンとは戦後からの関係よ。貴方とアレンが戦前ではいがみ合う関係かも知れないけど、それは、私には関係のない事よ。戦後の彼とコンタクトを取っていたのは事実だけど、今の彼の行動は全然把握していないわ。」

ウィリアは慎重な様子で、言った。だが、それは事実である。今のアレンの行動を、彼女は全く把握していないのだ。アステル家の事情も知らない為、当然と言える。

「へぇ」

と、言いつつも、メイドは銃を下ろす様子がない。

「俺がさ、てめぇに聞きたいのはなァ、アレン・レインドになんらかの情報のリークをしたりしてねぇかって事よ。」

アレンに兄を殺されているメイド。それ故に、彼への憎悪は強い。もし、何らかの形でアレンと関係を持っているとなれば、メイドはウィリアを殺すのに十分な動機を持っていると考えるのが普通だ。

「知らないわ。仮に貴方が私を拷問に掛けても、知らないし、分からない。口を割れって言われても……ね。」

何をされるか分からないと考えたウィリアは、メイドに言った。憎悪は時に人を衝動的な行動に駆り立てる可能性がある。それを未然に防ごうと、ウィリアは思っていたのだ。

「ま、そりゃそーか。」

と、メイドは銃をしまった。あまりにあっさりとした態度に、ウィリアは首を傾げた。

「俺がここで合流の話をした時に、もしてめぇに後ろめたい“何か”があればそもそも連絡に応じねぇだろ。ケドてめぇは来た。その上で話した。それ以上聞いてもしゃあねぇって事だぜ。」

と、自身の言葉を話すメイド。ウィリアは、彼のあっさりとした引き際に驚愕したと同時に、どこか、安寧の表情を浮かべていた。

「てっきり貴方に殺されるかと思った。ちょっと、怖かった。」

「一応てめぇには恩があるしな。怪我してたの診てくれてたって。あの野郎が兄者の仇ってのは俺個人の話だしなぁ。」

と、メイドはデスゲイズの方向を見て、言った。MA形態のそれは、禍々しい怪鳥のようなシルエットを描いている。

「まあ、てめぇへの用事はこんで終わりなんだよ。今からアルンのメンツの所に行く。じゃあの」

「メンバーの所?もしかして、ホルステブロかしら。」

「へぇ、知ってるのかよ。」

ウィリアの表情が、変わったようだ。まるで、何かを察したかのような表情を、している。

「さっきまで撃たれそうになっていた人間が言うのもあれだけど、貴方にお願いがあるの。私も、それに乗せてもらえるかしら。」

突如ウィリアは口を開き、言った。

「へぇ、なんでまた。」

「ホルステブロに用事があるのよ。ついでに彼等にも。ちょっと……ね。」

意味ありげな言葉。だが、メイドは

「ええよ。コクピットは狭いけどなァ。」

と、疑う余地もなく、すぐにウィリアをデスゲイズに乗せる事にしたのだ。

彼女を疑っていた時とは一転、デスゲイズに乗せる事にしたメイド。彼の心境の変化の速さは相当なものであるのかも、知れない。一方のウィリアは、何故かホルステブロに拘っていた。その理由は定かではない。

 

 

 

 そのままデスゲイズは起動し、空中を移動する。狭いコクピット内では、ウィリアはシートの後ろにいる状態だ。

 彼等の目的地、それはホルステブロである。ウネフをはじめとしたメンバーが集っている箇所。そこへ、デスゲイズは向かっているのだ。

「メイド、聞きたい事があるのだけど。」

「あん?」

メイドは操縦しながら、言った。

「貴方って、どうしてそんなにあっさりとしている性格なのかしら。普通貴方のお兄さんを殺した相手と繋がっているって知ったら怒り狂うのかと思っていたけど……」

純粋な、ウィリアの疑問だ。これに対し、メイドは口を開いた。

「てめぇ自身はあの野郎と直接関係ねぇからな。あいつとはいずれMSで始末してやりてェンだわ。」

と、操縦桿を強く握るメイド。彼なりの、アレンへの決着の付け方を、考えている様子だった。

「貴方なりの拘りといったところかしら。」

「そうだなァ。あいつが生きていた事自体、偶然だし、俺自身も生きてるとも思わなかったからな。運が良いのか、悪いのか知らないケドなァ。」

そう言いながら、更にデスゲイズを加速させる、メイド。

「そもそも俺は気まぐれでなァ。気分が乗れば殺すし、気が乗らなきゃ何もしねぇんだよ。アレン・レインドに関しては決着付けてぇからMSでやり合って殺してぇんだけどな。それ以外のやつに関しては依頼以外に関してはとりあえず気分が乗れば殺す。そーいう奴なんだよ俺はよォ。」

「それって、どう言う事……?」

そう言った直後、デスゲイズのレーダーに熱源が映った。警告音がコクピット内に鳴り響く。

「敵!?」

と、ウィリアが驚愕するが、メイドは構う様子を見せない。

「例えばさァ、今、三機のこいつに近付いてる雑魚がおるじゃろ。こいつらもデスゲイズの機動性なら無視出来るんだけどさァ。」

 

ギュルルルルッ

 

デスゲイズは有線ビームサーベルを、展開。いずれもが機体に接近していたジョゼフであり、それらを、瞬く間に貫いたのである。まさに、“瞬殺”と呼べる光景。ウィリアは、それを目の当たりにしたのだ。

「気まぐれでこーやって来た奴等を殺す事も出来るっつー訳。」

「凄い……」

余りに一瞬の出来事。MS戦が果たしてあったのかも分からないで、ただ、デスゲイズを稼働させているメイド。それは機体の強さなのか、彼自身の技量かは定かではない。

「もう一つ、貴方に聞きたい事があるの。」

再び、ウィリアが彼に質問した。それに、聞き耳を立てるメイド。

「貴方、戦後にどうして氷河族に入ったの?理由が知りたいと思って。」

気まぐれを自称するメイド。彼の氷河族内での目的が分からない。ただ、メイドは組織内の裏切り者を消す、パニッシャーとしての役割を全うするだけだ。

「俺はなぁ、基本刺激を求めてる人間でさァ。それが、人殺しなんだわ。兄者といる時も、デウスに居た時も人殺しをしまくった。MSに乗りながらも、直でも殺しまくってた。その性格を組織に買われたって訳でよォ。」

「そうなのね」

ウィリアの表情は、変化する事がないまま、メイドの言葉が続く。

「ケドなぁ、俺は根っからの戦争好きでよ。戦争がない今のご時世がクッソつまんねェと思ってた。そしたらクソ連邦が同じ地球人相手に宣戦布告しただろ?それが俺には嬉しくってなァ!!直に殺すよりもよォ、MSに乗って戦場で暴れて殺せる方がなんぼか楽しいんだよねェ!!だからアレン・レインドはMSに乗って殺せる方が良いんだよなぁ!!!ハハー!!その内人殺しのギネス記録だって作ってやるんだぜえええ!!」

戦争や戦闘の話になると、異様に高揚するこの、男。人殺しを快楽に思っている上で、戦争を望んでいる、危険な男、メイド・ヘヴン。

「やっぱり、貴方のような人間を私は見た事がないわ。人殺しをしたいのか、MSに乗って戦いたいのか。話を聞いていてもそれが分からない。」

と、ウィリアが疑問に抱くのは至極当然と言えるのであった。

「それに、あの時カフェで話していた時からずっと気になっていた事もある。貴方の名前、本名なの?天国兄弟という名前は本当なの?」

更に疑問を投げ掛けるウィリア。今度は、彼の名前についてだ。

 メイド・ヘヴンとあり、その上でデウス動乱時に兄、フロードと共に天国兄弟と呼ばれていた彼等。だがその名前は本名なのか。それが気になっていたのである。

「おーおー。あんまり詮索するのもどうかと思うぜェ。禁則事項ですってなァ。」

メイドが放ったこの台詞は、ウィリアに妙な緊張を与える事になる。彼の気分次第で、自身にも危害が及ぶ可能性があるかも知れない。ウィリアは、改めてこの男の危険性を察した様子だったのだ。恐らく名前に関してはこれ以上聞く事は許されないのだろうと、察した。

 しかし、一方で礼節は保たれている部分もある。以前ウィリアがメイドと話した時に、彼は感情してくれていた恩を感じている。こうした部分も含め、メイド・ヘヴンという人間が、余計に分からないのであった。

「ところでお前、ホルステブロには、何の用があるんだよ?」

「まあ、個人的な用事と言うべきかしら。」

「へぇ」

彼女の事情に触れないメイド。彼の気まぐれは、誰にも読めないと言えた。それが、彼女の内に秘めた野望を遂行する事を容易にさせる事を、メイドは知る由もない。

 

 

 

 ホルステブロに着いたデスゲイズ。メイドはデスゲイズを近くに着陸させ、ウィリアと共に、降りる。氷河族のメンバーと合流を図る二人。その際、ウィリアは置かれているMSの存在を、意味ありげに見ていた。

 やがて、メンバーのいる一室に二人が顔を見せた。メイドの姿を見るなり、その場にいたメンバーに、緊張が走る。

「お久しブリーフ!」

適当な挨拶をするメイド。これに対し、ウネフが言った。

「てめぇどこを彷徨いていたと?」

メイドの目を見て、睨むウネフ。だがそれに動じる様子を見せない、メイド。

「色々とあったンだわ。それと、ウィリアも一緒だぜ。用事があるみてぇだけどな。」

ウィリア・ラーゲンはアルン率いる氷河族のメンバーの一人である。だが、彼等と共に行動する事は、極めて少ないのである。

「ウィリア!?わあ!久しぶりだあ!」

そこへ、ミルフが彼女の傍に寄ってきた。それは、まるで彼女を慕う従妹のような、素振りにも見える。

 残酷な性格のミルフではあるが、ウィリアには懐いている様子だった。メンバーの前に姿を見せない彼女だが、このように、時折顔を見せた時に慕われているのが分かる。

「久しぶりね、ミルフ。それに、エレア。相変わらずチャンネルは伸びてるみたいね。時折チェックはしてるわ。」

「戦争になってから視聴者増えてくれて嬉しいんだー。ただねー、アンチコメ鬱陶しいんだよー。」

彼女の動画は元々エンターテインメントが中心であり、主に同世代ややや上の世代に人気があった動画であったのだが、戦争状態になり、戦争の話等を簡単にしたりする事で更に動画視聴が増えたという。元々インフルエンサーであるエレアの発言には注目が集まりやすく、彼女の意見に対して過激なコメントが付く事も、増えて行ったのだ。

「それでねー、WCNからも依頼を受けるようになったんだー。戦争情報とかの一意見とか、情報を、もっと伝えてくれー!みたいな感じで依頼受けたんだよね。」

そう言う、エレア。WCNという大手メディアから声を掛けられる事は、一見すれば光栄な事であるように思えるのだが、その存在を良く思わない人間も多い。

「やめておいた方が良いかもね。」

「どうして?」

ウィリアが、エレアに対して意見をした。

「貴方のようなインフルエンサーが下手な事を言えば、その妥当性を指摘される事が増える。そして、批判の対象にもなり易い。専門家でもない人間が適当な事を言うのは動画上でも、SNSでも危険なのよ。それに、そのリスクが生じれば組織にも悪影響を与えかねないわ。安定した動画視聴数を伸ばして、その広告費を組織の上納金として納めるのなら、下手な事はしない方が良い。今まで通りのエンターテインメントで視聴者を取り込む方が良いのよ。貴方の場合はね。」

「そうなんだー。」

と、エレアはWCNの依頼を、渋々、断る事を決めた。情報を欲しているウィリア。それ故に、情報の危険性については人一倍敏感であった。エレアに対してそのように伝えたのは、仲間としてのせめてもの情けと言うべきか。

「美人さんですねぇー!貴方も氷河族なんですかぁ??」

「……ええ。そうね。」

ウィリアに対して言葉を発するマレース。だが、彼女の表情はマレースを見た時に、変わった。まるで、何かを知っているような様子だ。何も分からないマレースは、首を傾げるだけだ。

「んで、今お前らは何やってんの?」

 その中で、メイドが言った。

「特殊麻薬の拡大。それによる利益確保。今、ボスから与えられている指示がそれとね。」

ウネフは自らの注射器を持ち、言った。

「麻薬とか!随分とまぁ、ショボいことしてんじゃねーの。そんなんでチマチマと金をボスに渡してる訳かよ。ま、戦争してる、こんな状況での、組織のやる事なんてたかが知れてるし、でけぇ事は出来ねぇわな。」

戦争が始まっているという、特殊な状況であるからこそ、麻薬は蔓延しやすい。確実に資金を得る事は出来るかも知れない。だが、メイドは先日に宇宙に行っている。そこで行った作戦の事を思えば、ここで行われている事は、余りに小さい事に見えるのだ。

「お前、偉そうに言うけど何かやってきたとか?」

ウネフがメイドの言葉に反応した。

「宇宙に行った」

その言葉に、メンバーの誰もが、耳を疑った。

「デウスの残党の連中と強力してクソ連邦の兵器を壊してやった。」

また、言った。彼等が行っている事と明らかにギャップが有り過ぎる。

「宇宙!?私、生まれて一度も行った事ないよー!?」

「私も!」

エレアとミルフが言った。彼女達は地球で育った人間である。故に、メイドの言葉が斬新に聞こえたのだ。

「メイド。冗談は顔だけにしとけよ。確かにお前はデウスの傭兵だったかも知れねぇが、今のお前みたいなヤツがそんな事出来る訳ないだろうが。」

と、そこへジュラードが割り込むように入る。組織の行動と比較し、メイドの行動は余りに規模が違いすぎる。そう、感じた為である。

「ところがどっこい!夢じゃありません!現実……これが、現実なんだなコレが!」

メイドはジュラードにその顔をぐいと近付けた。

「デウスの残党が、今行動してるんだわな。ちょっとの時間の間によぉ。残党の人間と一緒に一時的に同行してたんだよォ。んで、クソ連邦に一泡吹かせたやったって訳なんだよねェ!」

と、堂々とデウスの事について語るメイド。彼等からすれば、全くスケールの違う話になってくる。

「あの時声を掛けた人間がデウスの人間なのね……」

事情を把握したウィリアが静かに、語った。

「デウス帝国の連中は、生きているって事かよ……」

ジュラードの視線が落ちる。明らかに、何か物事を考えている様子だ。

「お前、デウスと何か関係があんのかよ。」

「一応な。」

次に、ジュラードはメイドの方を見て口を開いた。

「元々、俺は連邦反乱軍に所属していたからな。お前と同じ、傭兵だったが。」

ジュラードの真実が明らかになった。彼は、先の大戦であるデウス動乱を引き起こす張本人となった、かつての連邦反乱軍の生き残りという事。この事実は、誰もが知らない様子だった。

「へぇ、そいつぁまた。クソ連邦と揉めてた連中だろ?知ってんぜ。あの、アルメジャンで武装勢力作ってた奴等も確か反乱軍の残党って話じゃねぇのよ。」

メイドはソファーに座り、足を組んだ。その上でジュラードを見ている。

「タウラだな。連中は戦後になっても連邦への恨みを募らせていた。それが集まったのがタウラ。俺等が日本の首相を暗殺してからすぐに起きた事件だろ。」

「結局クソ連邦に一網打尽にされてやがるけどな!んで、かつてのお仲間がクソ連邦に殺されて、どんな気持ち?どんな気持ち?」

煽るような口調でメイドはジュラードに言った。

「別に何も思わねぇ、知り合いでも無いし。それよりも率直に疑問なのが、新生連邦が平和国連盟と衝突して何がしたいのかが謎だ。先日の巨大ガンダムの攻撃によって、SNS上でレヴィー・ダイル叩きは起きてるぜ。あの貴公子の顔を叩きのめしたいってさ。」

“貴公子”と持て囃されるレヴィー・ダイルではあるが、ロンドンを廃墟に変えた事は世界中で非難を受けている。平和国連盟に対する攻撃にしては、余りに残酷だ。多くの市民を巻き込み、虐殺ともいえる行動。それは、アルメジャン紛争に留まらない大虐殺と言っても過言ではない。

「何やら宇宙から色々と行動してるみたいだぜェ?世の中、更に混沌として面白くなるかもな!」

メイドは腕を組み、言った。この時、何故かメイドは目線をきょろきょろと、動かしていた。何か、探している様子なのだろうか。

「何にしても、私達は組織の仕事をこなすだけとね。戦争状態であれ、関係ない。麻薬拡大や人身売買。この状況なら仕事は大きく捗るとね。金持ちや狂人相手なら尚の事。」

戦争中と言う非常事態であれ、彼等は動く。組織は暗躍を続けるのだ。

「人身売買……貴方達、そんな事まで手を出しているの?」

ウィリアが、ウネフに聞いた。

「最近からとね。特に未成年はこのご時世で需要があるとね。戦争不安のお供にしたい変態の金持ち連中が多い。だからそいつらに売る。」

ウィリアの目つきが変わった。人身売買という、非人道的な行為はいつの時代も許される筈がない。それを平気で行おうとしている組織の異常性。ウィリアは、これを不快に感じていた。

「その台詞からして、今、誰かを保有しているのかしら。」

「組織に裏切り者が居た。そいつを地下に捕えている。もう直、マフィアの連中が来るから売り渡す予定とね。」

平然とそのような事を喋るウネフ。ウィリアは、これを快く思っていない様子だった。人身売買と言う残酷な事が行われているという現実。

「地下……か。」

そっと、ウィリアが呟いた後、くるりと回り、外に出ようとする。

「てめぇ何処へ行く?」

「散歩。ちょっと気分転換。あんまり良い言葉を聞かなかったから。」

ウィリアの言葉が残る。そのまま、彼女は外へ出て行った。言葉とは裏腹、表情は真剣そのものだった。

「お前、さっきから気になっているけど何か探してんのか。」

ジュラードの言葉を聞き、メイドが答えた。

「何か、感じるんだよなァ」

感じる?何を?謎の言葉が、彼から発せられる。

「アレだよアレ。シンギュラルタイプのオカルトパワー。」

その力を持つ者は、メイド以外にこの場に居ない。その為、それを言っても、誰もが気味悪く感じるだけなのだ。

「近くに同じような奴が居るのは間違いなさそうやねェ。ちっと、興味はあるなァ。」

と、メイドが舌を舐めた時、側に居たマレースが、言った。

「シンギュラルタイプなんですかぁ!?興味ありますぅ!ぴきーんってやつでしょ!?頭が冴えるみたいな!麻薬打って頭がスッとするあの感触みたいな感じなんですかねぇ??」

麻薬中毒者であるマレースがメイドに行った。この、妙な言葉遣いはメイドを苛立たせる効果を持っている。この時、彼女はメイドの目線を見るまで気付く事がなかったのだ。

「オカルトパワーとシャブを一緒にしてんじゃねーよシャブ中のやべーやつがよォ。」

この言葉に動じたマレースは、冷や汗を掻いた。そして、静かにソファーに座るのだった。

 妙な人間の集まりである氷河族。彼等のリーダーであるアルン・ティーンズが何処に居るのか分からないまま、彼等の時間は過ぎていく。

 

 

 

 ウィリアは“地下”という言葉を聞き、ジャンク屋の地下に、密かに移動していた。“人身売買”という言葉は彼女に衝撃を与えた。人を売るという行為はあってはならない。氷河族と言う組織が犯している闇の一つ。それが、人身売買。麻薬拡大以上に悪質と言える行為だ。

 彼女はそれに不快感を示している。それは、彼女の弟が行方不明になり、組織の人間に骨粉に変えられた事が由来しているのかも知れない。彼女は、人を大切にしている。故に、見過ごせないと、思っていた。

 やがて地下深くまで来たウィリア。嫌な予感がすると、感じる彼女はそのまま奥へ進む。万が一組織の人間に見られれば、何をされるかは分からない。ただでさえ、彼女はアルン達と共に行動する事が少ない。故に、組織から信頼を得られていないのが現状なのだ。強いて信頼を得られているとすれば、戦闘狂であるメイドぐらいだろうか。

 更に奥へ進むウィリア。すると、檻らしきものが見えた。このような場所に檻と言う妙なものがある事自体、不思議ではある。確実に何かがあると感じたウィリアは、足を踏み入れた。

「……ゼオン?」

見覚えのある顔が、そこにはあった。ゼオン・ニーマード。氷河族の元メンバー。組織から足を洗おうとした結果、捕えられ、今に至る、少年。その上で姉のエレンが巻き込まれている。それだけでない。レイと、シンの姿もそこにはあったのだ。

「お前!?何でここに?」

両者は知人関係のようだ。だがそれは至極当然。何故ならば彼等はアルン・ティーンズの所属の組織の人間同士だからである。

「貴方こそ、どうして囚われているの?それに、他の人達も……」

その光景を見て、ウィリアはショックを受けている様子だった。ゼオンとウィリア。彼等の何の関係があるというのだろうか。

「ごめん……逃げられなかった……お前が頑張ってくれたのにな……」

視線を落とすゼオン。この事は、彼の組織からの脱走に、ウィリアが関係していると言えるだろうか。

「貴方が謝る必要なんて、ない。ただ、一度は逃げる事が出来たにも関わらず捕まるなんて、組織の追手は厄介と言う事ね……」

と、彼女が言った時、ウィリアは銃を構えた。そのまま、鉄格子に向けて発砲し、鍵を開けたのである。

「おい、俺等を逃がしたらヤバいんじゃないのか!?」

戸惑うゼオン。しかし、彼女は構う事なく檻の中に入る。

「貴方達“売られる”かも知れないのよね?そんなのあってはならないわ。子供が売られて誰かのモノになる。それはいつの時代もあってはならないのよ。私はそんなの、認めない。」

人身売買。それは、あってはならないと、彼女は動く。未成年の少年少女がここには三人と、成人男性が一人。最も、その男性は今、眠っている状態であるが。

「今、助けるわ。」

 

パァンッ パァンッ パァンッ

 

ウィリアは銃を放った。いずれもが手錠と足錠に当たり、彼等は手足が自由になる。

「早く、逃げなさい。時間は私が稼ぐから。」

瞬く間の出来事だ。この瞬間、彼等は自由になる。ゼオンを含めた少年少女は急いで逃げる準備をする。しかし、シンは起きる気配がなかった。

「シンさん!起きて下さい!!」

レイが耳元で声を出す。すると――

「う……グ……う……え、レイ?なんで?」

目を覚ましたシンが、すぐに反応した。今まで眠っていた彼からすれば、今の状況が全く分からないのである。

「あの人が助けてくれたんです!早く!」

ぐいと、シンの裾を引っ張るレイ。だが寝起きで力が入らない様子のシン。レイははぁ、と溜息を吐き、彼の肩を持ち、そのまま身体を持ち上げた。

「さっき歩いてきた道の途中で、裏口を見たわ。そこからなら、脱出できるかも知れない。ゼオン、お姉さんを連れて脱出出来る?」

「あ、ああ……ありがとう。でもお前も逃げないとやばくないか?あいつら裏切るようなもんだぞ!?」

ゼオンの心配。だが、ウィリアはそれを気にする様子がない。

「私は、あのメンバーに最後の挨拶をしたかっただけだから……もう、会う事もないだろうし。」

意味深な発言をしたウィリア。それが何を示すのかは分からない。とにかく、彼等は逃げるしかないのだ。このままここに居ては人身売買に出されてしまうだけ。シンの場合は、臓器提供に駆り出される可能性もある。逃げなければ、終わってしまう。だから、逃げる。それだけだ。

「私はここを離れる。だから、急いで。」

そう言った後、ウィリアはすぐに去った。予想もしなかった幸運と言えた状況が訪れた。手枷、足枷がない、その上で檻も開けられている。そうなれば、逃げるのみだ。急いで逃げ、セイントバードに危機を伝え、ここから離れる。それをするだけ。更に、脱出口まである。なんと、幸運な状況であろうか。

 先に、ゼオンが行く。次にシンが。そして、レイとエレンが移動する。シンは徐々に力が戻って来た様子で、レイの身体を借りずに歩く事が出来ていた。

「外に出た所で、どこへ行けば……」

ゼオンが何気なく呟いた時、レイが応じた。

「セインドバードに、行けば良いと思う。ねぇ、シンさん?」

この場所から逃げるには、セインドバードと合流するしかない。そして、逃げる。状況をエリィ達に伝え、速やかに去る事が彼等に出来る事だ。

 ここは危険だ。組織の人間が来れば命がどのようにされるか分からない。ここに留まっても、待っているのは人身売買の被害だけ。レイの提案に、シンは賛同した。状況が把握出来ていない様子ではあるが、今は逃げるしかない。

「そ、そうだな……とにかくセインドバードに戻ろう!君等も一緒にな!」

シンは、初めて見る姉弟達に声を掛けた。二人は静かに頷き、脱出を図る――

 

「きゃあっ!?」

その際、急いでいた余りにエレンが転倒してしまった。組織の人間が来るかも知れないという、最悪とも言える状況での転倒。

そこへ、追い討ちを掛けるように足音が聞こえて来た。恐らく組織の人間が迫って来ているのだろう。急いで逃げなければならないタイミングでの最悪の状況。今から逃げて、間に合うだろうか。

「シンさん、先に行ってください!」

レイが声を出した。

「お前、どうするんだよ!?」

「後で追い掛けます!多分、隠れた方が良いから……!」

咄嗟の判断だった。レイはエレンに、側にあった隠れ穴に潜ませるように指示した。とにかくやり過ごさなければ行けないと思い、神に祈る思いでそこに入ったのであった。

「後でな……!絶対に来いよ!」

と言って、シンは先に脱出をしたのだった。レイが後から来るのを、信じながら。

 

 

隠れ穴にて。人一人が入るのに精一杯と言える、小さな穴に二人の少年少女が隠れている。それは危険な賭けだった。組織の人間がそこを見れば、即、捕まる。彼等は、ただ、祈るしか出来ない。

「膝、怪我しちゃった……」

エレンの着ているズボンの膝から出血が。擦り傷であり、大した傷では無いが、放置は出来ない。

狭いスペースの中で、レイは咄嗟にポケットからタオルを取り出し、傷口を塞いだ。

「あ、ありがとう……」

エレンはレイに言った。だが、今は声を出して良い状況では無い。

「し、静かに……」

レイはそのままエレンの頭を優しく押さえ、組織の人間と視線が合わないように工夫した。そのまま組織の人間が去るのを祈るしか無い。

今のレイに、異性と一緒に居る恥ずかしさや、後ろめたさ等、ない。見つかれば殺されるかも知れないという緊張感の中で、彼はじっと堪える。

 やがて組織の人間が部屋に入って来た。壊されている檻や、手錠の跡等を見る、ウネフ達。

「そう、遠くには行ってない筈とね。見つけ次第捉えろ。殺しはするな。生け捕りにするとね。」

声を荒げ、メンバーに伝えるウネフ。最早、彼女の存在はサブリーダーとも言える存在と言えた。

「誰がこんな事しやがったんだろうな。」

ジュラードが壊されている檻を見て、言った。

「恐らくあの女とね。どういう風の吹き回しか……もしかして、ゼオンの組織からの脱出を促したのもウィリアか!?あのアマ、何処に……?」

メンバーの声が聞こえる。レイ達を助けたウィリアはどこへ行ったのか。それも分からないまま、レイ達はただ、この状況に耐えるしか無い。

「ゼオン達……無事なら良いけど……」

密かに、エレンは呟いた。自身の事よりも、弟の安否を気にするエレン。この台詞から、彼女の優しさを感じる事が出来た、レイ。

「多分……大丈夫だと思う。」

「どうして?」

「分からないけど、何となく。セインドバードに逃げられたら、大丈夫。こんな所にいちゃ駄目だ……人身売買なんて、狂ってるよ。」

氷河族という組織の凶行をゼオンから聞かされていたレイは、この組織の異常性に何処かで怒りを覚えていた。人を大切にせず、道具のように扱うこの組織が余りに残酷で、許せないと考えていたのである。

 とはいえ今のレイは丸腰だ。仮に鉢合わせたとして勝ち目など無い。メンバーは殺す気は無いとのことだが、何をされるのかは分かったものでは無い。

「ありがとうね、レイ。」

密かに、エレンが呟いた。

「僕は、何もしてないよ。無事を祈るしか、ない……」

その後、組織の人間達は、部屋を探すがどこにも見当たらないと判断したのか、メンバーは部屋から去っていく。これが、彼等にとっては幸いと言えた。

敵の気配はないとされた。隙間から様子を見る、レイ。そして、静かにその場から出て、脱出を図ろうとする――

 

 

「おーほほほ。この感覚かー成程ォ」

一人の、男の声が聞こえた。メイド・ヘヴンの声である。荒い口調の声。

 信じられなかった。もう、誰もいない筈だ。なのに、何故そこにメイドが居るのか。出ていった振りをしていたというのか。

やがて、レイとエレンはメイドと目線が合った。鋭い男の目付きは、見る者を恐怖させる。

「あの感覚の持ち主。てめぇだな。」

メイドは、レイを見て、何かを感じ取っている様子だ。無論、レイには何の話をしているのか、全くわからない。

「なんとなくだが、俺の中のオカルトパワーが反応してンだよなぁ。てめェと同類のような雰囲気を、感じてるンだぜ。にしてもこんな、女のガキンチョがねぇ。」

声を掛けられたが、異性に間違えられたレイは、この緊張感の中で言った。

「僕は……男です……」

これに対し、メイドは冷淡な様子で言った。

「変なヤローだな。男なのか女にのか分からねェ顔してやがるぜ。所謂中性的……ああ、ショタってヤツかよ。ん?いや、お前の顔、どこかで見たような気がするんだよな。」

と、言いながらじいっとレイを見つめるメイド。

 実際、彼等は出会った事がある。日本で、ほんの僅かな時間ではあったが、面識はあるのだ。だが、僅かな時間が災いし、顔は然程、覚えていない。

 だが、レイの方は彼の感覚を、頭の片隅で覚えていた。メイド・ヘヴンと言う名の男の特有の感覚。それは、レイを困惑されていく。

(何、この感じ……ごちゃごちゃしている感覚……これ、覚えがある……分からない、けど……僕は、この人を恐れている……?でも、あの時に感じた感覚とは、違う怖さがある……)

その感覚とは、エファンと交戦した時の事だ。彼によって与えられたプレッシャーは、レイを苦しめた。吐き気を催す程の感覚を、エファンから感じていたレイ。今回感じる感覚はその時とは異なるが、それでもレイに恐怖を与える効果を持つ。

「ビビってるみてェだな。クソガキ。つーか、てめぇもあれだな、シンギュラルタイプかよ。」

メイドと同様の力を持っている、レイ。彼等は互いに他者には理解出来ない、“感覚”を持っていた。それが、彼等を引き合わせたと言うべきか。

「それに気味わりィのは、てめぇ、MSでの戦闘経験があるな。じゃねェとその感覚は感じ取れねェぞ。MSに乗って戦って来ただろ。それなりの経験があると見たねぇ。」

メイドの力はレイの潜在能力を見抜く。これも、他者には理解出来ない感覚だ。

(レイがMSに乗っている……?どう言う事……?この人は、何を言ってるの……?)

その傍で、疑問を抱いているエレン。

彼のような少年がMSに乗って戦うなど、まず考えられないとされる。しかし、メイドはそれを直感で感じ取ったのだ。

「シンギュラルタイプってのはな、ステータスだ!そして希少価値だァ!良かったなお前。こんなトコで同類が見つかってよォ。つーかさっきからビビっちゃってさぁ。おしっこでも漏らしたのかよ?」

このような男がシンギュラルタイプである事が、信じられない。レイ自身、この男から感じる妙な感覚が何なのか、分からないでいるのだ。ただ、困惑するレイは、妙なプレッシャーに押されそうになっている。

 

 

 

 氷河族のメンバーが逃げたゼオン達を探している頃、行方を眩ましていたウィリアは一人、マレースの元に居た。メンバーが居なくなり、動揺している様子のマレースはウィリアの接近を許した。そのまま彼女はマレースの両手を把持し、身動きを取れなくしたのである。

「マレース・ジェーン。貴方に聞きたい事があるの。」

と、言いながらウィリアは銃を頭部に突き付ける。この部屋には、二人以外誰も居ない。突然の出来事に、困惑する、マレース。

「へぇ!?え!?な、何ですかぁ!?」

明らかに動揺しているマレース。ウィリアは真剣な眼差しで、マレースに聞く。

「ここに来る途中、クレーディト社のMSを見たわ。MS-BC68ファドゥーム。それがあるという事は、クレーディト社と取引をしているという事ね。その際に居た人間の事を覚えている?」

クレーディト社の秘密を探ろうとするウィリアは、ホルステブロにジャンク屋を構えるマレースが、何らかの情報を握っていると見ていた。その為、彼女はマレースを脅すのだ。

「何の事かぁ、分からないですねぇー」

と、答える様子を見せないが、その間にもウィリアは銃を突きつける。それに対し、恐怖しているマレース。

「とぼけないで。あの機体は少なくとも最近作成された機体の筈。そうね、アルメジャン紛争辺りで製造されている機体。それから半年以上が経過してここに置かれている。その機体が置かれたのは、いつ?」

ファドゥームの事について聞く、ウィリア。マレースはこれに対し、冷や汗を掻きながら答える。

「えと……最近、ですよぉ?でもそれを聞いてどうするんですかぁ?大体、今日あったばかりの人間にそんな事するのはおかしいですよねぇ??」

「ええ、貴方にとっては今日あったばかりの人間にこんな事をされるなんておかしい話でしょうね。けど、こっちは情報を揃えた上で貴方に接触しているのよ。」

「ど、どう言う意味ですかぁ?」

銃を突きつけた状態で、ウィリアは話す。

「ここのジャンク屋は元々赤字経営。その上で氷河族のメンバーがここに集まるのは意味があるのは間違いない。その上で置かれていたMS、ファドゥームの存在。これらが示すもの。答えは一つ。クレーディト社と関係があるという事だけ。クレーディト社と取引をして傘下に置かれたから、赤字経営を免れた代わりに貴方は非道な行動を行うようになったという訳ね。ま、それは今の私には大きく関係はないけれど。けど、人身売買とか麻薬って、その時点で人道に反するとは思うけど。」

マレースの情報を、ここに来る前から握っていたウィリア。その上で、メイドのデスゲイズに乗ってここに来ることが出来た。これは、偶然であるのだが、彼女からすれば、マレースと接触出来た事は幸運と言えたのだ。

「氷河族に所属してながらそんな事よく言えますよねぇ!?」

彼女も同様の立場だ。組織に、所属している時点で。だが、彼女は止まらない。何を言われても動じる様子がないのだ。

 ウィリアは更に、銃口を突きつけ、マレースを脅す。

「ひぃぃっ」

「さて、質問に答えてもらうわ。その際に交渉に来た人間の名前、分かる?」

ファドゥームをここに置く事になるには、交渉人が居る筈だ。恐らく、クレーディト社の関係の者が来ると、彼女は予想していた。

「あー、ダメダメダメ!それ以上は言うなって言われてるんですぅ!元々ここは赤字経営でぇ!氷河族が協力してくれるって!だから麻薬の取引だってしてるんですよぉ!?ねぇ!貴方だってそっちの組織の人間なら事情、分かるでしょぉ???」

その言葉遣いが、ウィリアを苛立たせる。いつもは冷静な様子の彼女がこれ程に苛立ちを感じるという事は、滅多にない。もしかすれば、彼女の標的ともいえる人間に近付く機会であるのかも知れないのだ。

「名前、言わないと撃っちゃうわよ。貴方の頭が真っ赤に染まりたくなかったら早く口を割りなさい。」

「手荒ぁ!」

「早く!!」

「ノード・ベルンですぅ!社長さんですよぉ!」

その名前が出た時、ウィリアは妙な笑みを浮かべた。それは、彼女の標的に近付く事が出来たが故の、安心なのだろうか。マレース・ジェーンがクレーディト社と提携している事を知らなければ、見逃されていたかも知れない情報だったのである。

「ね、ゲロったんですからもう勘弁してくださいよぉ」

弱音を吐くマレースだが、まだ、ウィリアは銃を下ろす事をしない。

「その、ノードは何処に行ったのかを話しなさい。」

「そ、そこまで言わせるんですかぁ!?」

ノード・ベルンの事をやたらと隠すマレース。何故ここまでノードの事を隠そうとするのか。一体、マレースは何を隠しているのだろうか。

「それ以上は駄目ですぅ。私、殺されちゃいます……」

「どの道、貴方は組織に絡んだ時点で寿命は縮まっているわ。それが今か、少し先か。そもそも麻薬中毒者の貴方に先があるとは思えないけど。」

ウィリアの言葉が冷たい。それでも、ノードの居場所を吐かせようとする。

「言わないのなら殺すわ。時間が惜しいのよ。足取りが追え無くなれば時間を要してしまう。こんな事をしているのが万が一発覚すれば私自身も危険なの。早く言いなさい。」

ウィリアは本気でマレースを殺す気でいた。彼女の弟への執念は、尋常なものではないと思われる。

「いいいいい、言いますぅ!ローマです!ローマに向かったって聞きましたよぉ!」

恐怖に屈したマレースは、口を開き、喋ったのだ。

「そう。ありがと。」

 

パァンッ

 

「いやあああああああ!!」

あろう事か、ウィリアはマレースの左腕に向けて銃を放ったのである。そこから溢れる血は、噴水の如く溢れている。衝撃で落ちた肉片は血液を帯びた状態で辺りに散らばった。

「これで左腕から麻薬も打てないわね。可哀想。人身売買に染めた時点で貴方は終わってるのよ。その、関係者なんて許される訳がない。」

「あああ……やああああ!!痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃ!!!」

マレースは痛みと戦っている。そのまま、何を思ったのか、階段を降りていった。どこへ向かったのかは不明だが、血を流した状態で走っていったのである。

「ローマ……か。」

一言、そう呟くウィリア。弟を失った彼女の目的は、これから始まったばかりなのであった。

 

 

 

 地下にて。メイドはレイにプレッシャーを与え、身動きを取れなくしている。高圧的な男が見せる素振りは、レイにとって得体の知れない恐怖と言えた。

「人間ってよぉ、一目見て嫌な感覚を覚える事ってあるよなァ。てめぇも俺に対して嫌な感覚を覚えてるんだろうけどさァ、こっちもお前みたいな女顔男の違和感に、性的な意味じゃなくて滅茶苦茶にしてやりてーって思うんだよなァ。」

メイドの言葉が恐怖に感じる。この男の目的が、全く分からない。言葉の一つ一つが、得体が知れない。何を考えているのかも分からない。

「さしずめ、シンギュラルタイプのショタガキってところか。てめェ、今まで何人殺してきやがった?」

「殺した……?」

「MSに乗ってんだったら殺しまくってんだろうがよォ」

メイドが直感で理解した事。それは、レイがMSに乗って戦っていたという事。それ故に、レイに関心を抱くのだ。

「その様子だとさァ、数えきれないぐらい殺してんのかよ!そんなナリして殺人鬼かよ!ハハハー!やべーやつじゃないですかー!ヤダー!!!」

殺人鬼。その言葉はレイを動揺させる。人を殺すという、日常では有り得ない行動をしているレイにとって、それは事実であり、否定したい言葉なのである。

「違う、僕は殺人鬼じゃない……です!僕は、守る為に――」

「御託はぁ!要らねえんだよォ!!!」

殺人を楽しむ男と、守る為に人を殺さざるを得ない少年。それらが共通しているのは、互いに、“力を持つ人間”であるという事だ。

 

「痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃ!!!」

そこへ、左腕から血液を流しているマレースが下りてきた。ウィリアに撃たれ、ただ、必死に痛みを訴える彼女。最早その行動は、暴走しているようにしか見えない。

「シャブ中ゥ!消え失せろやァ!!」

 

パァン

 

メイドはマレースに銃を放った。的確な射撃は、彼女の身動きを止めるのに十分な役割を果たした。眉間に直撃した弾丸はそこから血液を放ち、マレースは銃で撃たれた反動も相まって、そのまま後方に倒れてしまった。

「いやあああ!」

叫ぶエレン。人が銃で撃たれ、死ぬ場面を目の当たりにし、困惑したのである。一方のレイはこの残酷な光景に、一瞬で様々な感情を巡らせていたのだ。

「あー、そーそー、俺は気まぐれ極まってる男でさァ。気が向いたら殺す。そうじゃない時は殺さねぇの。所謂、やべーやつ!でもショタガキ。てめぇも大概やべーやつなんだぜ?結果的に人殺ししてる時点でさぁ!」

 

ジャキンッ

 

メイド・ヘヴンが銃を向けた。これも、彼の気まぐれによって撃たれてしまう銃なのだろうか。

 エレンは怯えている。何をするのか分からないこの男を見て。一方のレイは、恐怖を感じつつも、自身を人殺しと一緒くたにされた事を納得していない。

「それになァ、てめぇを見ていると思い出す奴がいるンだよな。そいつもお前と同じぐらいの年ぐらいかも知れねぇ。歳はいくつだ?オン?」

冥途の質問に、レイは

「……十五歳です」

と答えた。

「ビンゴォ」

 

パァンッ

 

今度は銃弾が、レイの頬を掠った。そこから、擦り傷が生まれ、赤く染まった。まるで、わざと眉間を当てないようにしている動きだ。彼の気まぐれが再び発揮された。“十五歳”という年齢に反応し、メイドは目を見開き、レイにその銃を構えるのだ。

「きゃああっ!」

再び怯えるエレン。レイも、目元が震えているのを実感している。怖い。男は何が原因で逆鱗に触れ、自分を撃つのかが分からない。故に、レイは恐怖しているのだ。

「十五歳!十五歳!十五歳!そうだァ!十五歳!あの戦いで野郎ォに負けたのも十五歳!兄者が殺されたのも当時十五歳のあいつに殺されたァ!気が変わったぜぇ。十五歳でシンギュラルタイプの力!気に食わねぇよなぁ!てめぇよぉ!」

何を考えているのかが分からないこの男のプレッシャーは計り知れない。何に対する逆鱗なのかは、当然レイには理解出来ない。ただ、この男が放つ感覚を恐れるだけだ。

 下手をすれば、マレースのように殺されるかも知れない。傷つけられるかも知れない。メイド・ヘヴンの暴力は一方的だ。気まぐれで人を殺めるという愚業。狂ったような力を持っているこの男が放つプレッシャー。それは、彼のようなティーンエイジャーのセンシティブな感性をより、際立たせるものとなる。怒り、恐怖。それらが同時に感じられる場面。今、目の前で起きている事がまさに、“それ”なのだ。

「僕は……僕はっ!!」

 

ピキィィィ

 

「おぶえ!?」

メイドが放ったプレッシャーは、レイに極限のストレスを与えた。それは、メイド自身にも影響を与えるものだった。力を持つ人間同士が感じる特有の感覚は、メイドに影響を与える。

 レイから、極度のプレッシャーを感じたメイドだが、その正体は分からない。ただ、メイドはレイの放った力に対し、頭を抱えた。銃が手から離され、これにより、レイとエレンが感じている恐怖は、一時的ではあるが解放されたのだ。

「何が起きたの……?」

「良いから、逃げよう!早く!」

レイ自身も、何が起きたか分からなかった。だが、今は逃げる事を優先しなければと、必死に動くレイ。エレンの腕を引っ張り、急いで脱出口から逃げる。メイドが苦しんでいる、今がチャンスだ。

 

それから少しして、違和感は落ち着いた。恐らくレイから距離が離れた為に、解放されたのだろう。この時、メイドはレイが放った力に、興味を示した。自分を苦しめる力を持つレイ。彼の存在は、メイドの中で大きく印象に残る事となるのである。

「興味があるねぇ……あいつの力、しかと植えつけさせてもらったぜェ……俺にバトル漫画の悪役みてぇな台詞吐かせやがって糞がよォ!!」

互いに知人でもない関係だったのが、シンギュラルタイプという力が彼等を引き合わせてしまった。そして、レイはメイド・ヘヴンという危険な男に目を付けられる事となる。

 今、彼はレイ達を逃がしている。だがそれをあえて追いかけるような事はしない。まるで、敢えて逃がしているかのようだった。

 

 

 

 幸い、地下からセイントバードまでの距離は、近かった。追手に掛かる事なく、四人はセイントバードに辿り着くことが出来た。シンとゼオンは既に先に合流しており、シンは事情を説明した。これにより、このジャンク屋が危険である事が伝えられたのである。

 その後でレイとエレンが合流。これで、皆が無事に脱出する事が出来た。姉弟は抱擁を交わし、再開できた事を喜ぶ。その様子を見ていたエリィは、彼等をそっと、抱擁するのだった。その姿は、まるで母親のように優しく見えたのである。

「辛かったんでしょうね……本当に。」

二人の頭を優しく撫でるエリィ。

「怖かったんです……どうなるのか、分からなくて……」

エレンは、初対面である筈のエリィに甘えた。それ程に、恐怖を感じていたのである。

「落ち着いたらで良いから、事情を教えて貰えればありがたいかな。今は空いている部屋を貸してあげるから、二人でゆっくりして。」

「ありがとうございます……」

エレンは、エリィの厚意に甘える事にした。死ぬかも知れなかった状況から救われた、瞬間と言えた。

「艦長、すぐにでもセイントバードを発進させよう。まさか、ここが危険な場所だったとは思わなかった……氷河族……か。」

氷河族が関与している話は、レイが彼等に話した。そして、麻薬中毒者であるマレースの事も。となれば、セイントバードがここにいる理由はない。早くこの場を去る事が、今後の航行に繋がる。ならば、出来るだけ急がなくてはならない。

「クルーは皆居ますね?スラッグ君に発進するように連絡します――」

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

セイントバードが発進する前に、突如警報音が鳴った。何かが接近している、音だ。

 そして、インクから声が聞こえてきたのである。

「エマージェンシー!熱源一つ確認!MSクラスと思われます!」

もう、間もなく発進しようとした時に訪れたトラブルに、艦内は騒然とする。一機のMSが迫っている。ならば、迎撃をするしかない。だが、誰が迎撃に向かうのか。

「私が行こう。」

そこに、整備を行っていたネルソンの姿が。彼がハルッグに乗り、戦おうというのだ。

「大尉、気を付けて下さいね。」

「一機程度ならやられはせんよ。ただ、この後増援が来る可能性も考えられる。他のパイロットにMSに待機するように指示を頼む。レイ。君も行けるか?」

脱出したばかりのレイだが、敵が迫っているのならば動かなければならない。レイは彼の言葉に、返事をした。

「はい!」

そう言って、レイはツヴァイガンダムに乗り込む。側にあったエレベーターでコクピットまで移動し、機体に乗り込んだのだ。

 それを見たゼオンとエレンは驚愕した。知り合ったティーンエイジャーがMSに颯爽と乗り込むのを見た為だ。

「本当に、レイはMSのパイロットなんだ……」

と、エレンは静かに呟いた。

「ハルッグ、迎撃に向かう。セイントバードはそのまま発進。艦長、頼むぞ。」

「了解です。ご武運を!」

エリィは敬礼をし、直後にハルッグが発進した。セイントバードに迫る機体。それは、何かは分からない。今は、この、氷河族という危険な組織に汚染された場所から脱出をしなければならないのだ。

 

 

 

 ハルッグが発進したと同時にセイントバードは轟音を鳴らし、エンジンを掛けている。そこへ向かって来る機体が一機。氷河族の機体、ファドゥームだ。たった一機のMSが迫ってくるという状況に違和感を抱くネルソン。その際にハルッグはMSに変形し、ロングビームライフルを構える。

「警告する。これ以上接近するならば撃つぞ。」

突然の砲撃を行う事は、極力したくないと考えているネルソン。故に、その機体に対して警告を行った。

 だが、ファドゥームは接近する。恐らく、クルーを逃がさないようにする為だ。

「撃つ!」

 

バシュゥゥゥゥゥ

 

ロングビームライフルからビーム粒子が放たれた。それを間一髪で回避し、ファドゥームはバズーカを構え、ハルッグに攻撃した。弾を回避するハルッグ。だが、更にファドゥームは攻撃を続ける。左手部の鋏型クローを有線で飛ばし、先端からビームを放った。

「機体のデータが分からない故に攻撃が読めんか……!」

機体そのものが不明であり、パイロットも何者か分からない。ただ、ネルソンは牽制するばかりだ。一機だけで迫る以上、無益な殺生はしたくない。故に、彼は行動に迷う。

「旧式の改造型が!舐めるな!!」

ファドゥームのパイロットから声が聞こえた。男の声だ。

 パイロットはジュラード・メッサードだった。元連邦反乱軍の傭兵であった彼はMSを駆り、セイントバードを逃がさんと迫ってくる。

「貴様にやられる訳にはいかんな!」

敵の声を聞き、迎撃に向かうハルッグ。ビームサーベルを展開し、接近戦を試みた。

 

バヂィィィッ

 

ビーム粒子が打ち合い、弾けた。咄嗟に、ファドゥームもビームサーベルを展開しており、左のクローでラックを把持して拮抗したのである。

「素人の動きではないと見た。」

ネルソンが一言、呟いた。

「素人じゃないからな!あんたは何者だ?面白い機体だな!」

ジュラードが言った。所属は違うとはいえ、互いに元軍人同士。機体性能と、パイロットの技量が試される一対一の戦いだ。

「元デウス出身と言っておこうか。」

「デウスか!俺は連邦反乱軍の傭兵だ!やはりMS戦こそが兵士の本業!久しぶりに良い相手に巡り合えた!」

氷河族のメンバー、ジュラードが意気込んでいる。普段では考えられないような行動だ。新型機体、ファドゥームは意気込む彼にとって相性の良いMSと言えた。

「セイントバードを逃がさない気か!そうはさせんよ!」

ネルソンの掛け声とは裏腹、ファドゥームはハルッグを無視し、セイントバードに接近しようとする。

「伸びろよ!」

と言った後でファドゥームの有線が再び展開された。それは、セイントバードの後部に触れた。

 その際、クローの先端から何やら装置らしきものが取り付けられたようだ。それが何かは分からない。ほんの、瞬く間の出来事と言えたのである。

「貴様!やらせんよ!!」

 

ビゴォン

 

ネルソンの一言の後、ハルッグはモノアイを輝かせ、肩部からビーム砲を放った。360°あらゆる角度から放つことが出来るその砲門から放たれるビームは、ジュラードの予測を上回ったのだ。

「しまっ――」

後部に直撃。その際、エンジンにダメージを負った。身動きが取れなくなったファドゥーム。このまま行動をするのは、危険だ。

「クソッ、まあ良い……撤退する!」

これ以上高度を上げられない為、追撃は不可能だ。セイントバードもその間に遠くへ去っている。無謀な戦いをする訳には行かないと判断したジュラードは、ここで撤退と言う選択肢を取ったのであった。

「思いの外大した相手ではなかったか。帰還しよう。」

そのままハルッグはMAに変形し、セイントバードへ帰還していく。氷河族にとっては、追撃する予定が結局返り討ちにあってしまった結果となった。

 だが、その間にもジュラードは妙な笑みを浮かべている。これは何を意味するというのだろうか。

 

 

 追撃に失敗したジュラードはホルステブロのジャンク屋に機体を置いた。合流したメンバー達はセイントバードに逃げられた事に対し、悔しさを感じている様子だった。

「木偶の坊が。元傭兵が泣くとね。」

「いや、そうでもないぜ。奴等の位置はいつでも把握出来るという事だ。」

ジュラードの言葉を聞き、首を傾げるウネフ。彼は発信機らしき装置をメンバーに見せた。

「成程、準備が良いという訳とね。」

「連中は逃がさない。隙を見つけてゼオン諸共利用してやるまでさ。元傭兵を舐めるなって事だ。」

セイントバードに、発信機が付けられた。つまり、彼等はいつでもこのメンバーに追い掛けられる危険が生じるという事になる。逃げ切ることが出来たと思ったセイントバードだが、この時に、厄介な置き土産を残されたという事になったのだ。

「ウィリアの奴はどこへ?」

次に、メンバーと合流していた筈のウィリアの話になる。

「恐らく、“何か”をやりやがったとしか言いようがねえな。あの女、食えないからな。」

実際、ウィリアがゼオン達を助け、その上でマレースを殺害している。全ての犯人は彼女。

その事を疑問視する、メンバー。特にウネフは警戒をしている様子だった。

「とりあえずリーダーに報告とね。ウィリアの奴、前から気にはなっていたが何を考えているか……お陰で全ての段取りがパーとね。しかも、交渉相手のマフィア連中も皆何者かに殺されたと報告もあった。」

「明らかに、何かが蠢いてやがるな。」

組織にとって、失敗は信用問題だ。無論、この失敗もリーダーに報告しなければならない。特殊麻薬の拡大や人身売買。悪業を行っている彼等を阻止しようとする者が内にいる。それは、間違いない事だと、言えた。

氷河族。デウス動乱後になって出現した犯罪組織。旧世紀から続くギャング、マフィアに次ぐ新たなる組織のメンバーの数は世界中に及ぶ。だが人が多ければ多い程、内なる野望もそれぞれだ。ゼオンのように組織を裏切る人間が居ても不思議ではない。

彼等のメンバーのように個性的なメンバーが集まる事もあれば、純粋に麻薬拡大や人身売買に貢献する者や、MSを売る者、テロ行為、その他の裏社会に通ずる存在は、現在も世界のどこかで暗躍をしているのだ。

「俺が追うわ」

その時、メンバーの前にメイドが現れた。その目付きは明らかに豹変しているようにも見える。息遣いも荒く、明らかに“怒り”の感情を見せている、メイド。

「何で追う?ファドゥームでは追えないぞ?」

「俺の相棒で追うんだよォ」

そのままメイドはくるりと回り、走っていく。彼の言う相棒。それはデスゲイズの事だ。だが彼等は直接デスゲイズの姿を見ていない。この時、メイドの言葉が何を示すのか、理解出来ていない様子だったのだ。

 

 

 

 敵からの攻撃は止んだ。それは、良かった。セイントバードの航行は順調であり、高度も上がっている。彼等は無事、氷河族の魔の手から、逃げる事が出来たのだ。

 その中で、エリィは自身の部屋にてゼオンとエレンを保護していた。ミルクコーヒーを用意し、一息吐いて貰うように、椅子に座って貰っている。

「もし良かったら、事情を教えて貰って良い?私達も逃げてきたところで、ちょっとバタバタしてるけど、艦長として貴方達の事を知っておきたいと思って。」

エリィは優しく、両者に声を掛ける。

「エレン・ニーマードです。こっちは弟のゼオン。」

エレンはやや、困惑した様子で話す。環境が立て続けに変わった為、落ち着かない様子だったのだ。

「宜しくね、二人共。」

エリィの言葉が両者に響く。

「出来ればで良いの。二人の事を、教えて欲しいなって思って。」

エリィは無理に情報を聞こうとしなかった。彼等が何者なのかは分からない。だが、未成年が囚われているという話を聞いている以上、只事ではないのは間違いないからだ。

「実は――」

エレンが、一連の出来事を全て説明した。弟が氷河族であり、自分はただ、見守る存在でしか無かった事。そして、彼が足を洗おうとしてくれた事。しかし、組織に捕まり、先程まで人身売買要員として地下牢に閉じ込められていた事。

 人身売買という言葉を聞き、エリィはショックを受けていた。そのような現実が行われているのを、信じられなかった為である。

「酷い事……そんな惨い事が行われているなんて……本当、大変だったね……」

「でも……私はゼオンが組織を抜け出してくれるという事が、とても嬉しかったんです。本当に……本当……に……」

今までにあった事を話すと、エレンの目からは自然と涙が溢れてしまった。ゼオンは姉のように泣きはしなかったものの、俯いている。

 大まかな事情はエリィに理解出来た。そして、とにかく今は彼等を保護しなければならないと、改めて考えたのである。

「辛かったんでしょうね……貴方の為に組織を裏切った弟さんと、エレンさん。でも氷河族は足を洗わせようとせずに、弟さんと貴方を何らかの形で報復しようとしている訳……ね。でも安心して。私達が守ってあげるから。ね?」

 

ギュッ

 

エリィは、再び両者を抱擁した。

彼女の暖かくて優しい言葉にエレンは安心した。そしてエリィから感じる温かい人肌……彼にとって彼女は今、全てにおいて安心できる存在と、言えたのだ。

(氷河族……か。)

抱擁する中で、エリィは組織の事について、考えていた。彼女にとってそれは何を示すというのだろうか。

 

 

 

それから時間が経ち、航空を続けているセイントバード。現在、艦はスカンディナヴィア半島上空に入った所である。エリィはゼオンとエレンを空き部屋に保護した後、ブリッジに戻り、艦長席に座った。その間に後方からの熱源を確認するも、反応がない。どうやら、ジュラードが乗っていたファドゥーム以外に、追手も来る気配がない様子だ。

先の事もあり、万が一の為にパイロットは機体にて待機をしていたが、どうやら、その心配もなさそうだ。クルー達は、安寧の溜息を吐いた。

「どうやら、撒いたみたいですね。」

スラッグは、操縦桿を握り、言った。

「敵は負って来る気配はない……か。まさか、あんな事に巻き込まれるなんて……」

ブリッジ内で、エリィは遠くを見つめ、口を開く。艦の補修をする目的で立ち寄ったホルステブロ。そこのジャンク屋は、氷河族の息が掛かっている場所であり、オーナーのマレースをはじめ、既に麻薬に汚染されている場所であったのだ。

 氷河族のメンバーの魔の手から逃げ、ゼオン、エレンの二人を救助したメンバー。彼等を助け、聖鳥は空を、舞うのである。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

しかし彼等に安息の時は訪れる事はなかった。艦内に警報が発令されたのだ。そしてインクの言葉が、響く。

「熱源接近!敵数は、一?それも、高速で接近してきます!」

一体何が迫ろうとしているのか。それが分からない状態で、彼等は再び緊張状態に包まれるのであった――

 

 

 

セイントバードのレーダーに映った熱源。それは、メイドのデスゲイズだった。彼はシンギュラルタイプの力でレイの居場所を突きとめ、ここまでやって来たのだ。

執念を燃やすメイド。〝十五歳〟に屈辱を与えられ続けるのが嫌になったからだろうか。

「あれか……絶対に殺してやるってんだよォ!!!」

すると、デスゲイズは前腕部の二連装ビームキャノンを、連射し始めた。その標的はセイントバードである。

それは、艦に衝撃を与える事となる。ビーム粒子が直撃し、艦内は激しく揺れる事となった。

 

 

 

「後部直撃です!」

「うぅっ!?いきなり攻撃されるなんて……!」

このまま接近を許せば、セイントバードが破壊されかねない。危険な状況が、迫った。

「艦長、MSを出撃させますか?」

「お願い……敵は一機だけど油断は出来ない……だって、ライブラリを照合しても見当たらない……あれはバリエーション機でも分かるようになっている筈なのに……。どこの所属かも不明だし。あれは何なの……?」

確認しても、全く見覚えの無い、未確認の機体であったため、どのような性能を持っているかは彼等には分からない。データがない以上、対処も難しい。

 迎撃しなければならない状況で、彼等は困惑する。だが、その時――

 

「僕が、行きます!」

レイの声がブリッジに聞こえた。

「私も出る!」

今度は、スバキの声も。彼等は既に、敵機体を迎撃する気で、居たのである。迫るかも知れない敵を迎撃目的で待機していた事が、幸いした瞬間と言えた。

「じゃあ、二人共、お願い!気を付けてね!」

エリィは両者に礼を伝えた。直後に、先にツヴァイが出撃した。それに続くようにアインスも出撃する。

「ツヴァイ、行きます!」

「アインス、行くぞ!」

この時、アインスは右肩部にビームキャノンを搭載している、空中仕様で出撃していた。彼等にとっては未確認のMAに対し、二機のガンダムが戦いに駆り出されるのだった。

 

 

 

敵機は一機のみ。無論、レイ達はその機体の性能がどれ程のものか等、分かるはずが無い。ツヴァイが移動していると、すぐにMAのデスゲイズを確認し、攻撃を仕掛けることにした。

最初にツヴァイがビームライフルを撃つ。そしてデスゲイズにそれが触れた瞬間、ビームが弾かれた。バリアーフィールドジェネレーターである。

 

バイイイイイン

 

「ビームが効かない……?」

奇妙に感じたレイはそれに近付く。スバキは危険なので引き止めようとしたがレイは止まらなかった。

 

ビゴォン

 

するとその時、デスゲイズが動き出した。モノアイを輝かせ、ツヴァイに襲いかかる。

「うわっ!?」

デスゲイズは有線式ビームサーベルを展開し、攻撃を仕掛けてきた。ツヴァイは急ぎ、それを回避する。

だが、その際に、ツヴァイのモニターに通信が入ってきた。それを開くと、メイドの顔がウインドウに映し出されたのだ。

「ハハー!さっきはよくもやってくれたなぁショタガキ!逃げられると思ったのかよ!?えぇオイ!」

レイはそれを見て怯えてしまった。ショックを受け、錯乱状態になった。目元が恐怖で震えているのが分かる。

「そ、そんな……」

「さっきてめぇが見せた妙な感覚がよォ、頭ん中に焼き付いてさァ、離れねーのよ!!」

そう言った後に再び有線ビームサーベルを展開した。六つのビーム刃が一度に展開され、自在に動き回って襲いかかる。回避運動を行うが、運悪く、ツヴァイはそれらの内の一つに掠ってしまった。

「あううっ!」

「しかも乗ってるのがガンダムタイプ!まさにあのヤローの再来みてぇな奴だなオイ!!!益々イラつくぜ!!俺に目ェ付けられて可哀想になぁ!殺してやんぜぇ!!」

そう言った直後、デスゲイズはMSに変形した。そして前腕部にある二連装ビームキャノンを連射する。それらの攻撃は、バリアーフィールドで防ぐ事が出来た。

「変形した!?MSだったの!?」

「へへ、良かったのか、ホイホイ逃げちまって。俺は狙った獲物は諦めない男なんだぜ?しかし、俺に目をつけられるとは運が悪いなァ。もし何もしないただのガキだったらここまではしなかったのに……お前がMSに乗れるって事実を知ったからこうなるんだぜ?あの世で後悔しろよ。あの世でさァ!こっちはこれ以上……

十五のガキに偉そうにされたかねえんだよクソタレがァァァ!!!」

先程までの、剽軽な言葉とは思えない口調で発したメイド。この言葉が、レイを大木苦しめる事になる――

(この人の怒り……?うぅ、なんだ、この感じ……!?)

力を持つレイは、メイドからの怒りを感じている。何故、これ程の怒りが男から感じ取られるのか。

 それに油断していたレイ。動きを見ていたメイドは、再び攻撃を開始。デスゲイズの前腕部のビームキャノンを放出した。ツヴァイはその攻撃をまともに受けてしまい、機体が激しく揺れた。

「あああっ!」

「ハハー!!!もっと苦しめよ!昔の俺みたいに!十五のガキによって殺されかけたんだよ!反抗期で青春真っ盛りのクソガキが!青春と一緒に殺してやるってんだ!!!最高じゃねえかよ!!!若い内に死ねるってさァ!よぼよぼのじじぃになってくたばるよりよっぽど綺麗じゃねえかァ!!!あぁ!?」

(この憎しみと恐怖に包まれた感覚……ただの人間じゃこれ程恐ろしい憎悪は出せない……この人は何かが違う……憎しみの度合いが異常だ……うぅっ!)

何故メイドがレイを追うのか……それは当時の動乱で十五歳だったアレンを思い出していた為である。その当時のアレンによってメイドは重傷を追わされ、兄は殺された。それが糧となってか、今十五歳のレイを襲っている。

「同情するぜェ!可哀想になァ!たった十五年の人生なんてなァ!だらしねぇよなァ!短い人生におさらばだぜぇ!ひゃっはははは!」

「くっ……ああっ!」

 

ピシュンッ

 

ツヴァイはファンネルを放出し、一斉にデスゲイズに向かわせた。ファンネルによる攻撃にメイドは戸惑う。

「サイコミュ持ちかッ!?ち、うぜぇ……」

そう言いつつもメイドは有線式ビームサーベルを駆使してそれらを切り払っていく。ブリッツファンネルはビーム刃を展開しデスゲイズに迫る。

その上で、ツヴァイはメガビームセイバーを装備。そのまま、デスゲイズを狙う。だが、これに対抗せん、触手のようなビームサーベルがくねくねと、襲ってきた。迫る刃に対して打ち合うが、その数は六本もある。それを全て相手にするのは、無理があると言えた。

ツヴァイはそれらに対してシールドで防ぎ切った。しかし、不規則な動きをするそれらは予測するのに精一杯だ。

「ったくうぜえんだよな……てめはァ!」

するとレイはたちまち動けなくなった。彼はメイドにプレッシャーをかけられたのだ。身動き一つできないレイ。彼に緊張が走る。そして攻撃が加えられた。それはツヴァイの左脚部を切り裂く。

「クッ!」

左脚部が攻撃を受けた事により、不能になり、彼は危機を迎えた時だった。アインスがビームライフルを撃って援護に来たのだ。

「スバ……キ?」

「大丈夫かよ?全く……一人で戦おうとするなよな!援護ぐらいしてやるから!」

「ありがとう……」

メイドとの戦いの中、彼が放つプレッシャーに対し、恐怖を感じていた、レイだったが、スバキの声を聞き、僅かではあるが安心している様子だった。

「あぁ……あれがアインスガンダムっつーヤツかよ。写真で見た通りだな青っ」

それを見ていたメイドは、先にアインスを狙う事にしたのである。両機体の武装の数を比較し、先に破壊し易いと考えた、メイド。

この時、スバキはデスゲイズを見るなり、その異様なシルエットに少し震えそうになっていた。それと同時に、デスゲイズから感じる不気味な感覚を感じていた。

「なんだよあのMS……変な感じ……頭が……痛い……」

と、デスゲイズを見て緊張している時――

「ビンビン伝わるぜ!てめえも俺と同類らしいなぁ!お嬢ちゃんよォ!!!」

あろう事か、メイドはパイロットを把握したのである。力を持つ人間同士、把握出来ていると言うのだろうか。

その後、デスゲイズはそのままウイングを展開し、羽ばたかせながら二連装ビームキャノンをアインスに向けて撃った。アインスは慌ててシールドで防御するも、機体が少しだけ揺れた。

「ぐぅっ!」

続いてデスゲイズは有線式ビームサーベルを展開し、スバキに襲いかかる。しかし、それを見ていたレイが許す筈がなかった。

「スバキ!危ない!!」

急いでビームディフェンスシールドを展開し、アインスを守るツヴァイ。

だが、その行動が仇となる。デスゲイズの腹部にエネルギーが溜められ始めた。デスゲイズの狙い……それはスバキの乗っているアインスである。

「ハハハハハハ!チョコレートみてぇにドロドロになれや!!」

 

ドオオオオオオオオオオオッ

 

デスゲイズの腹部から、高出力のビームが放出された。隙を突かれたスバキ。破壊されるのは、時間の問題だった。

 

バイイイイイン

 

だが、間一髪の所でレイがそれをバリアーフィールドで防いだ。防ぐ事ができたものの、機体が激しく動く。

「あうっ……スバキ……大丈夫?」

「レイ……ありがとう……何度も……」

「気にしないで。僕は平気だから。」

優しくスバキに言ったのだが、それが隙となった。ツヴァイが揺れている際にデスゲイズの魔の手が忍び寄ったのである。

「じゃれてんじゃねーよ!」

 

ギュルルルルッ

 

更に、隙を見つけたメイド。再び、有線式ビームサーベルがツヴァイを襲い、それらが機体にダメージを与えたのである。あらゆる方向からの攻撃を可能とする、デスゲイズ。二機のガンダムが相手でも、引けを取らない。

だが、この一撃を受けてもツヴァイはまだ動けた。幸い全てがやられたわけではないのである。

 

―――――――――――――――――ドクン――――――――――――――――――――

 

その次の瞬間、レイの眼が、深紅に染まった。

「おう!?なんだァこの感覚!?さっきのあれとは違う感じ!?ドクンって!?クソが!」

シンギュラルタイプである、メイドは、レイが放つ異様な感覚に違和感を覚えていた。同じ力を持つ者同士だからこそ分かる、気味の悪い感覚と謎の鼓動音。レイによるプレッシャーがメイドを襲う。

彼の乗るツヴァイの胴体部は先のビーム刃による傷を受けていたが、幸いにも、ファンネル部分は無傷だった。そこから、更にツヴァイはブリッツファンネルを展開し、デスゲイズに向かって攻撃を開始した。

「舐め腐りやがって……が!しかし!!こんなプレッシャーに負ける俺じゃない訳で!」

頭を抱えつつも、レイの放ったファンネルに対し、デスゲイズは再びビームサーベルを展開する。ツヴァイのファンネルは有線に繋がれたビーム刃の嵐を回避しつつ、デスゲイズにビーム射撃をする。しかしデスゲイズにはバリアーフィールドが張られており、ビーム兵器は通用しなかった。

「カスが効かねぇんだよ!おっ……?」

メイドは思い出したようにアインスガンダムを見た。スバキもレイから感じる「感覚」に襲われており、動きが重くなっていた。その時に彼女はメイドに狙われたのだ。

「ガラ空き過ぎィ!!!」

と、デスゲイズは両前腕部から展開した、有線式ビームサーベルの半分を、アインスに向けさせた。突然迫るビームサーベルを避けるスバキ。三本の有線式ビームサーベルは不規則な動きを見せ、彼女を追い詰めていく。

「なんなんだよこれ……!」

ただ逃げるのに必死で攻撃が出来ないスバキ。それを見逃さなかったメイド。デスゲイズは腹部にエネルギーを溜め、アインスに向け、ビームを放出した。有線ビームサーベルによる不規則攻撃に苦戦している最中に、放たれた強力なビームをまともに浴びてしまい、アインスは大破してしまう。     

幸い、コクピットは無事だった。だが、左上上腕部は消し飛んでしまったのである。

「う……く……だ、ダメだ……逃げなきゃ……」

これ以上の戦闘の続行は不可能だと判断したスバキは、アインスのバーニアの出力を上げ、セイントバードへ帰還しようとする。しかしメイドはそれを見て容赦のない攻撃を繰り返してきた。

「逃がすか。死にさらせや。」

ビームキャノンを、放出したのだ。素早い動きでアインスに迫るビーム粒子。スバキがそれを見て避けようとしても間に合わない。

「あっ……あ……」

狙われた。このままでは墜とされてしまう――そう、思った時、ツヴァイが接近し、彼女を守った。その際、レイは喋った。

「早く戻って!僕が戦う!」

「あ……ああ……」

いつになく恐ろしい気の雰囲気のレイに言われ、ただ彼女はセイントバードに帰還するしか出来なかった。

「チッ……せっかくの激アツ演出を台無しにしやがってクソタレ!これで外れる時のむかつき具合は半端ねぇんだよ!死にさらせ!」

怒る、メイドは行動に出た。六本の有線式ビームサーベルを再び展開し、ツヴァイに迫る。

やがてツヴァイの周辺を取り囲み、くねくねと動いた。予測不能な動きについて来られないツヴァイ。この間にファンネルを展開しても無駄で、有線式ビームサーベルの餌食となる。不規則なビームサーベルが覆うように、ツヴァイを襲い続けた。

「さあ、これはいつまで持つのか!?いや、持つわけねえだろォ!!!ハハー!!!」

笑いながらメイドは言った。それと同時にビームサーベルの動きが一層激しくなる。激しい敵の攻撃の動きを見切るのに必死だったレイに、疲労が見られた。

「……はぁ……はぁ……!」

一本一本、確実に攻撃を避ける。力を持つ、人間としての力が、彼をそうさせているのだろうか。今の彼にはデスゲイズの攻撃が鈍く見える。

だが、今の彼に今見えているのは有線のビームサーベルによる攻撃のみだった。

「しぶてェなァ!」

まるで、彼の行動に水を差すように、デスゲイズは前腕部にあるビームキャノンを連射し始めた。突然の攻撃に、有線式ビームサーベルを避けることに夢中になっていたレイは気付かず、この攻撃を受けてしまった。しかし、これが命取りとなった。

「あああああっ!」

この一撃を受ける事により、鈍く見えていた有線式ビームサーベルが通常通りの早さに見えてしまった。彼の集中が切れてしまい、回避することが不可能となったのだ。

唐突過ぎた不意打ち。これによる集中力の切れ。それは即ち、この場では死を意味した。そして――

「お前は、もう死んでいる!」

 

ズバァァァ

 

メイドは勝ち誇った表情を浮かべ、ツヴァイを見下した。

「あ……ぁ……」

ビーム刃が迫る直前、ツヴァイはディフェンスシールドを使い、コクピットで防御していた。筈だった。だが、ビーム刃はシールドを貫いている。その上、脚部やバーニア部を、それらが突き刺した。

ツヴァイは、身動きが取れなくなった。そこへ、デスゲイズは追い討ちと言わんばかりに。そのまま機体を接近させ、地面に向け、思い切り蹴ったのだ。身動きが取れなかったツヴァイは、そのまま重力に引き込まれる意外に、なかった。

レイは、この、戦闘狂に敗北してしまったのであった。

「ハハハハハ!い~いザマだぜェ!ま、あの状態じゃ死んでるだろうな!ハハハハハ!!!バッチグー!!!イェア!!!ハーッハハハハハハハハハハ!!!」

勝利を確信したメイドは狂喜乱舞した。その後、デスゲイズは変形し、その場から去った。

残虐なデスゲイズ。デウス軍が開発したその機体を、メイドは使いこなし、自らの操る新たなる力として受け入れていたのだった。

そして、漆黒の翼を持った地獄の使者の処刑は完了したのだった――

 

 

 

セイントバードは騒然としていた。何しろ、ツヴァイの消息が絶ったのだから、無理もないと言えた。

「ツヴァイガンダム……ロスト……?」

「えっ……どう言う事……?」

「行方不明……です……」

エリィには受け入れがたい真実だった。レイが消えた事。それは、彼女に多大なショックを与えた。

「嘘……でしょ……?レイ君……連絡してよ……死んじゃやだよ……お願いだから……

返事してよ、レイ君!!!」

エリィは泣きながら必死に叫んだ。しかし彼女の声は彼には届かない。今、彼はどこに行ったのかも、分からない。死んだのか。それも、不明である。

レイがメイドに倒された。その事実は、チームのクルーに衝撃を与えた。ブリッジ内では、エリィの泣き声のみが静かに聞こえていたのだった――

 




第五十一話、投了。

ツヴァイガンダムとデスゲイズの戦い。そして、敗北。
この後レイはどうなってしまうのかと言った感じの話でした。
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