アステル家に裏切り者が現れた時、彼等はどう動くのか。
第五十二話 夜戦
国連と新生連邦の対立は深まる一方だ。その上平和国連盟は、チャール・ポレクの死によって混迷を極めていた。
チャールの代わりに新たな最高議長となったギルス・パリシム。彼は元々副議長を務めていたソネルの弟であり、副議長選の結果、彼が選ばれた。その後にギルスはチャールを殺害。そのまま、最高議長の座を手にしたのである。
実際、チャールを殺害したのはギルスであるのだが、それはまだ誰にも分かっていない。チャールの死の原因は自殺と、そう思われていた。
ただ、この死が原因で余計に世界は混乱に陥ってしまう事になる。この対立によって世界が不安定な状況になっているというのに、更に宇宙に存在しているデウス帝国残党。幸いにも彼等は地球圏に攻撃を仕掛けてはいないものの、脅威が現れた事に変わりは無かった。
やがて月日は流れ、十二月に突入した。ヴァイダーガンダムがロンドンを襲撃してから、一ヶ月月余りが過ぎていたのである。
この間、シュネルギアはアステル家に滞在していた。ヴァイダーガンダムでの凄惨な出来事の後、平和国連盟と協力し、復興に尽力していた。多くの人々が亡くなったロンドンの地。避難していた人々や生き残った人々はその家や仕事場所を失い、途方に暮れている状況だったのである。
幸いなのは、世界中から寄付や支援物資が届けられた事だ。SNSというツールが有事では大きく役立ったと言える。世界中の著名人が寄付に乗り出したりしたお陰で、少しずつではあるがロンドンの町は復興を進める事が出来ていたのだ。
一通り復興作業が進んだ後、アステル家に戻っていたジャンヌ達。束の間の休息の時間を、彼等は味わっていたのだ。
「アレン、あれから早くも一ヶ月が経過しましたね。」
ジャンヌが紅茶の入ったカップを持ち、口に含んだ。
「その間も大変だった。チャール・ポレク議長が死を遂げて、そこから新議長になって、戦争が本格化していった。あの事件がこんな惨い状況を生み出すなんて……」
ギルス・パリシムが最高議長になり、平和主義の撤廃を行い、世界各地で紛争や戦争が起きている状況になっている現状。デウス動乱以来の本格的な戦争状況と化した世界。それを、不快に感じているアレン。
「やっぱり、信じられないな。世の中が狂っているとしか言いようがない。確かにレヴィーは許されない。けど、それで世論が戦争を肯定している状況になっているのは明らかにおかしい。これじゃあ争いは終わらない。ロンドンの復興をしてきても、また新たに戦いが起きればそんなものは泡となるだけだ。」
アレンは握り拳を作った。平和主義を唱え続けていた平和国連盟の最高議長が変わり、それによって生まれてしまった新たなる戦争の状況は、より、世界を不安定な状況にさせて行くのだ。
「どうなるのかは、私にも分かりません。平和とは、何なのか。結局はヴァーナー首相とお話をした時ですら、分からなかった事です。そして、その中で気になった言葉も、あります。」
以前、ジャンヌはエイゲル・ヴァーナーと言葉を交わしたことがあった。彼がジャンヌに言った言葉を、彼女は思い出していた。
―――平和国連盟の議員達皆が恒久和平の為に貢献している訳ではないという事だ―――
「以前、ヴァーナー首相が仰っていた言葉です。今回、最高議長が突如変わった事と何か関係があるのでしょうか。」
俯くジャンヌ。この件に対する真相を知らないが故に、ただ、疑問を抱く事しか出来ないのだ。
「それは、分からないけど……戦争状態が続くのなら、俺達も動いて行かないと行けないね。」
「ええ……」
世界は不安定な状況になっている。各地で起きている紛争や戦争。そこに巻き込まれる民間人、一般市民。いつの時代の戦争も、罪なき彼等が犠牲になるのだ。本来あってはならない事が、現実では起きる。
戦争を引き起こし、それらを指示している人間はこうした現実と向き合わない。己がエゴで動く者が多い。例え、世界中で非難を受けるような事になろうとも、関係ない。戦争は良くないと訴えても、彼等の耳に入らないのだ。一度狂った歯車を修正する事は、難しいのである。
時間が経ち、夜になった。アステル家から少し離れた場所にて。そこに、三機のMSの姿があった。そのMSはモノアイを輝かせ、アステル家の方向を見ている。何故ここにMSが現れたのかは分からない。しばらくするとパイロット同士の会話が聞こえてきた。
「あそこで、合っているんだな?」
「ああ、間違いない。アステル家はあそこだ。どう言う警備をされているのかが気になる所だな……」
「言えている。」
三機のMSの正体はディーストとジョゼフだった。しかし普通のディーストとジョゼフとは違う。ジョゼフは背中に大型の円盤を背負っていた。ディーストには前腕部にガトリング、肩部にはミサイルポッド等の武装を施してある。
会話をしているのは三人だけだが、他にもディーストの姿が存在した。いずれも武装が普通のものとは違い、ガトリングなど、豊富に武装が備え付けられていた。その中の、一人のパイロットが静かに言う。
「トーチカが各所に設置されてるらしいぜ。他にもミサイルとか……武装が豊富だ。迂闊に近付くとアウトだぜ。」
「潜入は難しいか?」
「そうでもない。俺等の機体にあるステルス迷彩を利用したら簡単に破壊できる。ただ、他にどんなMSが出てくるかは分からないけどな。」
機体がディーストから分かるように、彼等は新生連邦だった。
夜間強襲部隊。彼等は、夜戦のゲリラ戦を得意とする部隊の人間であり、その彼等が、アステル家の様子を見ていたのだ。
そして、その部隊には指導者がいた。パンツァー・アイドと言う男である。この強襲部隊の隊長を務める男。アステル家の厳重な警備相手に物ともせず、指揮を行っているのだ。
「あと数分で作戦開始だ。その前に囮部隊は活動してくれ。」
兵士達は全員敬礼をした。そして彼は持ち場に待機した。
今回現れたディースト達はMSV(モビルスーツバリエーション)の一種である。様々なバリエーションの機体が揃い、彼等はアステル家の方を見ていた。
暫くした後に作戦開始の時間になり、彼等は攻撃を開始するのだった。
「作戦開始……まずはトーチカを攻撃しろ。防衛機能を停止させるんだ。ステルス迷彩を忘れるな。」
全員再び敬礼をし、彼等の作戦は始まった。武装を施したディーストは姿を消した。ステルス迷彩と言われる、この装甲。これを展開する事で、レーダーに映らないようにする事が出来る。その為か、トーチカに気付かれる事なく、接近する事が出来た。やがて攻撃する時のみ姿を現し、トーチカを、ビーム刃で切裂いたのだ。
「当主!敷地内にMSの姿を確認しました!」
その報告を受けたジンク。突然の強襲に驚愕している様子だった。
「強襲だと!?どこの所属だ!?レーダーに映らなかったのか!?」
「それが……恐らくステルス迷彩を駆使している機体と思われます!故に反応がなかったのではないかと……」
不覚だった。何処の所属かは不明であるのに突然の強襲を受けたアステル家。
「MSを出せ!」
ジンクの命令により、護衛用の機体が動き出す。何が起きたのか、把握出来ないまま、彼等は行動するのだ。
アレンはこれに感付き、彼は走ろうとした。アステル家が強襲を受けた事に対して焦っているためである。
「敵……行かなきゃ……!」
急ぐ彼。しかしそれを止めたのはジャンヌだった。ジャンヌは彼の手を掴み、止める。
「お待ち下さい。」
「ジャンヌ!どうして……」
「行く前に……厄介事が起きそうです。」
「え……?」
彼女は何かを感じている様子だった。しかしアレンはまだそれに気付いていない。
次々と破壊される、中庭に存在しているトーチカやミサイルポッド。元々これらは有人式で、侵入者があれば人が乗って迎撃していたのだが、以前に新生連邦が交渉を求めてきた際の出来事が原因でジンクがより一層強化を図り、無人式したのである。これによって進入の許可を得ていない機体を攻撃する事ができるようになった。今回襲撃を行った新生連邦軍は、これが無人式である事を知らない。
「クソッ!こいつら……!」
ドラグネスアサルトに乗ったアステル兵達がディーストに対して攻撃をしている。しかしディーストはすぐに姿を消すのでどこにいるのかが分からない。そして攻撃する時に姿を表し、切り刻んで撃破する。
「こいつら、大したことねえな。」
ミサイルやガトリングを撃ち、次々とドラグネスを破壊していく、ディーストに乗る兵士。ステルス迷彩によるかく乱はレーダーに映る事が難しい為、護衛用のトーチカは標的を絞れていない。その間にも、トーチカは破壊されていく。
その様子をパンツァーは遠くから双眼鏡で見ていた。その上で笑みを浮かべている。
「ククッ、さすがはステルス……伊達ではないと言う事か。さて、データはどれぐらい集まったのか。」
この戦闘の中に投入された機体の中に、偵察型のディーストの姿があった。それはジャスティス等と同じデュアルカメラを使用している、モノアイMSであるディーストとは一風変わったディーストである。その偵察型の情報が今パンツァーの手元にある。
ピピピピピピピピ
彼がその光景を見て笑っていると、突然彼の元に通信が入った。慌てて彼は回線を開く。
「こちらは新生連邦政府軍第七十九夜間強襲部隊隊長、パンツァー・アイド大尉だ。貴様は?」
回線を通して、声が聞こえてきた。
「アグリー・ロン。アステル家に仕える者だ。」
男の声。それも、やや低めの声である。
「アステルの兵士……?何故我々に通信を?」
パンツァーは警戒すると同時に疑問を抱いた。何故アステル家の人間から連絡が入ってくるのか。理解が、出来ない。どういう意図なのか。
その疑問を抱えている内に、アグリーと言う名の男は答えた。
「あんた達は新生連邦軍だろ?機影を確認したよ。」
「そ、そうだが……?」
「今俺はアステル家の外側にいる。アステル家内部は通信妨害装置がある。故に、持ち出した通信機器であんた達に連絡をしているのさ。」
「それは良いが……何故新生連邦と知っていて我々に通信をするのだ?」
すると、アグリーは口元に笑みを浮かべ、言った。
「あんた達に協力しようと思ってね……」
「何……!?」
始めに聞いた時、彼は我が耳を疑った。この兵士は新生連邦に協力していた、所謂スパイなのか?彼はじっと考える。その上で、パンツァーは言った。
「アグリーとやら……お前は新生連邦のスパイなのか?」
「違う」
〝違う〟と言われてパンツァーは奇妙に感じた。
「じゃあお前は何者だ?」
「俺は……アステル家に嫌気が差した男……と思ってくれたら良いよ。」
「嫌気が差した?」
「理由は別に聞かなくても良いだろう?だからこっそりとアステル家を裏切らせてもらうぜ。代わりにあんた等に情報を教えてやる。どう利用しても構わないぜ。ここを煮るなり焼くなり利用するなり……好きにしてくれ。」
新生連邦にとってこれ程ありがたい話はなかった。願っても居ない朗報と言える、この情報。
「ただし、情報を知るからには“条件”を飲んでもらうぜ。俺を新生連邦に入隊させてくれ。それも、特別待遇でな。」
情報を差し出すからには、何らかの条件を出すのが当然と言えた。それを理解した上で、パンツァーは言った。
「無論だ。情報を伝えた後、指定場所に向かってくれれば迎え入れよう。」
「それは、有難い事で。」
それから、アステルを裏切ろうとしているアグリーは次々にアステル家の秘密を喋った。中庭のトーチカの事や、工場等の秘密等、内部の人間でしか分からない情報をパンツァーに伝えた、アグリー。この瞬間、今まで実現する事のなかったアステル家の情報流出が実現してしまったのだ。
「助かるよ。アグリーとやら。」
「生きていたら、是非一緒に行動させてくれよ。アステル家には恨みがある。一緒に潰そうぜ。」
やがて通信が途絶えた。この瞬間アグリーの裏切りによって、庭に装備されているトーチカの事や、アステル家のMSの事情等が、新生連邦に流出してしまったのだ。
この時の警備システムは非常に甘かった。普段ならば、こうした有事以外で通信機器を扱っている人間は不審がられ、機密保持の為に射殺されるのだが、今回は突然の強襲部隊が現れた事で警備はその部隊に対して向かれていた。その為、アグリーにとって絶好の機会が訪れ、新生連邦にアステル家の秘密を打ち明ける事に繋がってしまったのだ。そしてアグリーは何食わぬ顔で屋敷の中に戻ろうとした――
「な……これは……?」
だが、屋敷に戻ったアグリーを待ち受けていたのはジャンヌだった。彼女の周囲には、仕える兵士が銃を持ち、構えていたのだ。
「アグリー・ロン……貴方がまさかアステル家の情報を流出させてしまうとは。」
「なっ……ジャンヌ様……!?」
彼女は、アグリーが裏切る事を予見していた。故に、アレンの出撃を止めたのである。内部に居る人間の裏切り。それは、兵士達にとっても予想外の事だ。
兵士達はジャンヌの言葉を聞き、そのまま彼女についていった。アレンの姿もそこにあったのである。兵士達と同様に、銃を構えるアレン。
「ジャンヌの言っていた事はこれだったんだ……確かに見逃すわけには行かない。」
「こうなってしまってはアステル家の情報が新生連邦に伝わる前に強襲部隊を叩かなければ行けません。アグリー・ロン。貴方の行った事は重罪です。本来ならば射殺さえやむを得ない事です。」
ジャンヌの言葉が、冷たく放たれる。完全に包囲されている為、アグリーに逃げ場は無い。彼は降参するしかない筈だった――
「こ、こんな……こんな事で俺がくたばると思ってるのかぁ!?この女ァ!」
ガッ
と、アグリーは素早い動きでジャンヌの首を前腕で覆ったのだ。突然の行動に動揺する、ジャンヌ。兵士達は一斉に銃を構えるがアグリーは言い放つ。
「てめえら!撃ったらジャンヌ嬢にも当たりかねねェんだぜ……」
それを言われ、兵士達は戸惑いを隠せない。無論、アレンも困惑した。
「ジャンヌ!」
「あ……ぅ……」
苦渋に満ちる表情を浮かべるジャンヌ。その様子を見て、アグリーは笑う。
「はーははははは!あの高貴なジャンヌ嬢が今や俺の手の中!てめえらはそうやってじっとするしか出来ねえんだから可哀想だよな!」
アステル家に仕えていた兵士とは思えない、乱雑な言葉遣い。これが、アグリー・ロンという男の本性だ。残忍な本性を目の当たりにし、困惑する彼等。
だが次の瞬間、アレンは何かを閃いた様子で突然言い出した。
「……いいよ、そのままにすればいい。」
「……はぁ!?」
突然の、理解の出来ない台詞。アグリーはおかしく感じるしかなかった。更に、アレンは他の兵士達にも言った。
「皆さんは下がってください。ジャンヌ一人であの男を倒す事は可能です。」
急に言われ、兵士達は困惑している様子だった。一斉に首を傾げる兵士。アレンはそれに対して必死になる。
「とにかく急いで下さい!皆さんも巻き添えを食らいます!」
何の巻き添えか分からないまま、兵士達はアレンの言う通りにした。そのまま後退りし、少し離れた場所で彼等はジャンヌの様子を見ている。何人かは悔しそうな表情を浮かべていた。
アグリーはその分からない行動に対して言った。
「はぁ!?女が男に勝てるってのかぁ!?何を抜かしてるんだてめえは!」
「俺は貴方よりもジャンヌの事を知っている。だから言える事なんだ。」
「ふ、ふざけんな!こんな女、殺してやる……!」
と、アグリーは更に握力を強めた。この男の行動により、ジャンヌの表情が苦悶に満ちていく――
「あぁっ……!」
「どうだぁ……!?苦しいかぁ……!?」
完全に追い込んだと、アグリーは思った――
――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――
次の瞬間、ジャンヌの体が突然、碧色の輝きを放ったのだ。彼女の体が光った瞬間、アグリーの戦闘意識が段々失われ、彼は倒れてしまった。近くにいた、アドバンスドタイプであるアレンは影響を受けていなかった。
「はぁ……はぁ……アレン……」
「大丈夫?気分は悪くない?」
首を絞められた事と、イズゥムルートを放った事による倦怠感が重なり、彼女は少し辛そうな表情を見せる。やはりその光は身体へ負担を掛けると言うのだろうか。
「ええ……平気です。」
「そう、良かった……」
アレンは微笑んだ。一時はどうなるかと思ったが、アレンの意外な判断にジャンヌは驚いた様子だった。ジャンヌが突然光を放った事に、兵士達は戸惑いを隠せない。
「な……何だったんだ今のは……ジャンヌ様って……一体……?」
兵士達はジャンヌがアドバンスドタイプである事を知らなかった。彼等はジャンヌの不思議な力について、改めて実感する事になる。
「俺は予想していた。迂闊に撃ったらジャンヌが危ないだろう。そこでジャンヌの力を利用したんだ。」
「力の、利用……ですか。」
イズゥムルートの力は窮地のジャンヌを救った。しかしその際の彼女の表情は、まるでアレンを軽蔑するかのような表情を浮かべていたのだ。
何はともあれ、危機は去った。ジャンヌは自らの力を使い、裏切り者であるアグリー・ロンの魔の手から自らを守った。それは良いのだが――
「それよりも、彼をどうするべきか……ですね。」
ここからが課題である。アステル家の情報を流出しようとしたこの男は、本来なら射殺もやむを得ない存在と言える。だがこの時、ジャンヌは男に対してどこか虚ろな表情をしていた。
彼女自身も不思議だ。裏切り者である筈のこの男に対し、どこか情けを抱いているというのだろうか?と、彼女が考える様子を見せた時だった。
「どうせアステルは終わりだ……俺が新生連邦に情報を流した以上、お前達が終わるのも時間の問題……ククッ……ハハハハハ!!!」
先の光を浴びて意識を失っていたアグリーは、意識を取り戻し、まるで負け惜しみのように高らかに笑い始めたのだ。それは悪あがきか。それとも本当の意味で言っているのか。
パァン
その時、アグリーは何者かに頭を撃ち抜かれた。血が溢れ、彼はそのまま即死した。
彼を撃ったのはジャンヌの父、ジンクだった。彼は先程の騒動でアグリーの裏切り行為に気付き、真っ先に彼を射殺したのだ。
「お父様……」
「無事かジャンヌ。兵士によればお前は首を絞められていたと聞くが。」
どうやら先程の兵士の中にジンクに通信をしていた兵士がいたらしい。
「ええ……でも大丈夫です。」
「そうか……無事なら良いが。しかし厄介な事になったな……まさか、裏切り者が出るとは思わなかったな。」
「その上、今は襲撃を受けています。」
「その襲撃に我がアステル家は苦戦しているのだよ……今は……」
ジンクは頭を抱えた。思った以上に、新生連邦が強い為、アステル兵では太刀打ちが出来ない状態だったのである。しかしその時にアレンは言った。
「俺が行かなきゃ……」
この状況を打開するには自分しかいないと判断した彼は、すぐに、動こうとしていた。
「アレン……行かれるのですね。」
「うん、さっきも行こうとしたでしょ。でもジャンヌがこの事に気付いたから止めたんでしょ。でも今度は……行くから。あいつらを追い出さなきゃ……」
アレンの言葉に対して、ジンクは口を開く。
「貴様が戦うのか……それも良かろう。貴様の腕、宛にしているぞ。我が娘、ジャンヌと共に戦ってくれ。」
アステル家の中核として存在しているアレン。その様子から、彼はジンクに信頼されている様子だ。
「はい!」
その後、アレンはそのまま走った。真っ先に彼はブライティスの元へ向かう。
ブライティスはシュネルギア艦内に収納されている。その為、ジャンヌもそこへ向かう必要があった。彼女がいなければ艦を動かす事が出来ない為である。
「ジャンヌ。一言、言っておく。死ぬな。」
そう言い残し、ジンクは、そのまま部屋へ戻っていく。ジャンヌは父親の言葉を聞いて少し安心した様子でいた。彼自身も、妻であるターナを失い、悲しみに満ちている。これ以上肉親を失いたくないという気持ちが表れているのだろうか。
アレンはブライティスに急いで乗り込み、待機している。ジャンヌが来るのを待っているのだ。
そのジャンヌはブリッジに辿り着き、艦長席に座った。と、彼女は座った瞬間に驚いた。
「え!?ココットさん……?」
眠っていた筈のココットがそこにいたのだ。これに対し、ジャンヌは疑問に感じている。
「どうしてここに?貴方を呼んだ覚えは無いのですが……」
「もう……私だってシンギュラルタイプなんだからね。敵が迫ってきている事ぐらい分かるよ。他にも、アイリィさん達を起こしたから安心して。」
「ありがとうございます……」
ココットの行動に安心した様子のジャンヌ。
やがて、彼女はシュネルギアの発進を命令した。それと同時にシュネルギアは轟音を鳴らし、そのまま夜空に舞い上がり、屋敷の遥か上空に現れた。
その直後にシュネルギアからはアイリィの乗ったヴァントガンダムと、ブライティスが出撃した。
だが、敵はステルス迷彩で姿を隠しているディースト達だ。レーダーに映らない敵機体である為、彼等はどのように対処すれば良いかが分からないでいたのだ。
「クッ……どこにいるのか分からない……」
「弱ったなぁ……どうしたら……」
一瞬姿を表し、ガトリングで攻撃してきた後ですぐにステルス迷彩で姿を隠す……ディーストは、そういった戦法を利用する為、標的を絞る事ができなかった。
ピシュンッ
アレンはファンネルを放出する事にした。それで地上にいるディーストを攻撃しようと考えた為である。
レーダーに映らない敵を相手に苦戦するアレン。それはアイリィも同様だった。
と、その時だった。突然ブライティスにミサイルが放出された。それを見たアレンは回避を行うミサイルが放出された方向を予測して、その方向へビームライフルを放出する。
撃った方向から爆発があった。つまり撃破した事になる。見えない敵だが、それでも果敢に立ち向かうアレン。彼は一旦地上に降り、そこにいる敵を倒そうと考え、そのまま地上へ向かうのだった
地上では激戦が続く。ステルス迷彩により、目視での確認が出来ない敵に苦戦するドラグネスアサルト。それらの機体はレーダーにも映らないため、どこに敵がいるのか分からない。その上反応したと思えばいつの間にか撃墜されている事が多々ある。その為、一向に敵の強襲部隊の駆除は進まないのだ。
「クソッ!なんて奴だ……!」
闇雲にビームライフルを撃っても無駄なだけ。その上で、突然姿を表したディーストに破壊されてしまうのだ。
グォンッ
と、そこへアレンの乗ったブライティスが空から舞い降りてきた。
慌てて姿を隠そうとするディーストだったが、先に狙いを付けられてしまい、ファンネルから放たれたビーム砲によって破壊された。この時、アレンと同じようにアイリィも地上に降りる。
「大丈夫?地上は余計に危険だ。気をつけて。」
「わ、私大丈夫ですから!……多分。」
アイリィ・トゥールの自信無さそうな台詞にアレンは少し溜息を吐いた。
彼女は新兵も同様だ。彼女の駆るヴァントガンダムの動きは、素人も同然。故にアレンがフォローしなければならないのだ。
「仕方が無い……やるしか……」
地上にいる強襲部隊を全滅させるために彼は戦う事にした。屋敷を守るMS達と共に。
一応ではあるが、屋敷のMS達も新生連邦の機体を数機だけ破壊している。しかしステルス迷彩を備えたディーストは目視にもレーダーにも映らない強敵だ。その上、重武装であるその機体は火力にも長けている。ドラグネスアサルトはガトリングの弾に触れた瞬間に蜂の巣になり、破壊されてしまう事が多々、起きていたのだ。
この光景を遠くで見ていたパンツァーは動き出そうとしていた。偵察型ディーストのデータで、現在の戦況を見ている。
「とりあえずトーチカは全て破壊。あとは奴等を破壊するのみか。ただ厄介なのは青い翼のガンダムめ、遂に現れたか……よし、やってやるか!」
そのまま、彼も夜間仕様のディーストに乗り込んだ。そして、現在戦場となっているアステル家へ向かう。
自己防衛システムであるトーチカやミサイルポッドが破壊されてしまい、成す術の無い状態のアステル家。ドラグネスアサルトは迎撃を行おうとしているのだが、一向に攻撃を加えられない。ステルス迷彩の機体に対して攻撃を当てるのは、並みの人間では難しいのだ。
「よし……行け!」
と、アレンの頭の中で電流が走り、ブリッツファンネルが放出された。ファンネルはアレンの意志で動き、地上にいるディーストに襲い掛かる。
「なっ――!?」
姿を隠していたにも関わらず、ディーストは破壊された。闇雲に当てているだけとは思えない動きに、兵士達は困惑した。
「馬鹿な!なんだあの命中精度は!?敵にシンギュラルタイプでもいるってのか!?」
そこへアイリィのヴァントが強襲してきた。脚部からミサイルを放出し、一瞬姿を表したディーストに向けて攻撃する。すると爆発が発生し、破壊された。
「うわあ!実はあたし天才だったのかな?」
「浮かれるな。油断出来ない。」
「りょ、了解ぃ!」
偶然でも、アイリィは透明の敵に当てられて非常に嬉しそうな表情を見せた。しかし敵は喜ぶ時間を与えてくれない。容赦の無いガトリングの嵐がアイリィに襲いかかる。
「うわわわ……!」
慌ててシールドで防御し、身を守るアイリィ。しかし背後からはビームサーベルを持ったディーストが襲ってくる。
「わわわ!」
挟み撃ちになってしまったが、駆け付けたブライティスがこれらを切り刻んでくれた。攻撃を仕掛ける時のみ姿を表すディースト。それを考えた時、アレンは閃いたように言った。
「俺が囮になる!だから空から撃って!」
「えっ……でも……あたし初心者ですし……」
「初心者なんて関係無い!狙いを絞るんだ!俺にビームが当たっても平気だから!」
そう言い残してアレンはそのままディースト達の中へ向かっていく。残されたアイリィは困惑するしかない。
「そう言ったってぇ……」
レーダーでアレンの姿を確認するアイリィ。彼女は彼の言う通りにしなければならなかった。
アレンは自らが言った通りに囮になった。敵は攻撃する瞬間に姿を表す。それをビームシールドで防ぐアレン。アイリィは敵が攻撃している所を見て上空からビームライフルを放出した。すると直撃し、ディーストは破壊される。
「やったぁ……あたしって才能あるかも!?」
と、彼女は浮かれてしまった。しかし気を緩める事は出来ない為、再びライフルを構えて敵を待つ。
だが上空からの攻撃と気付けば、すぐにミサイルで迎撃を行う。この時のミサイル攻撃に気付かなかったアイリィは焦るばかり。
「うわわわ!?ちょっと、そりゃないよ!」
急ぎ、シールドでミサイルを防ぐ。辛うじて機体を守る事は出来たのだが、シールドが粉々に砕け散ってしまった。と、その時に敵に隙ができた。姿を表したディースト。これに対し、アイリィのヴァントは再びビームライフルを撃ってそれを撃破した。
この方法を延々と繰り返す事で、ディーストは徐々に数を減らしていった。最初は苦戦していたが、この方法で上手く倒す事が出来ていた。
その時、アレンの前に再びディーストの姿が現れた。しかしそのディーストは少し動きが違う。
(この機体、少し強い感じがするな……)
そのディーストに乗っているパイロットこそ、パンツァーだった。アレンは機体の動きを察知し、敵の技量を悟っている様子だった。
「さて……色々とやられたが今度はどうかな!?」
と、早速パンツァーの駆るディーストは一斉射撃をしてきた。前腕部のガトリング、肩部のミサイル、ビームライフルや頭部機関砲……全ての武器を一斉に射撃し、アレンに襲いかかる。それらをビームシールドで防ごうとするアレン。が、敵の狙いは上空のヴァントだった。この時にアレンの頭の中で電流が走った。
「危ない!」
アイリィの危機に、アレンは真っ先に行動に出た。ビームシールドでそれらを全て防ぐ。一斉射撃による砲撃は、ブライティスのビームシールドの防御力でも防ぎ切るので精一杯だ。
「くっ……!」
反撃の為、ブライティスはビームライフルを一発放出した。しかしディーストはすぐに姿を消し、そのライフルも外れてしまった。
そして、消失したかと思えば、すぐに別の場所からビームライフルが飛んできた。その狙いは当然アイリィである。それにも気付いたアレンは急いでバリアーフィールドで防いだ。
「戻った方がいい!狙われているぞ!」
「あ……でも!アレンさんを残すなんて……」
「あれぐらいなんとかなる!」
「は、はい!」
もう少し参加したかった――と思うアイリィ。しかしアレンの命令のため、逆らう事はできない。彼女はそのまま撤退する事にした。
これで彼は心置きなく戦える。敵の狙いはこちらだけになる為だ。
「ちっ!じゃああいつを狙うしかねえじゃねえか……けど仕留めたら一気に出世するだろうな……っしゃあ!」
再び姿を消すディースト。アレンは懸命に探している。しかし一向に姿を現す様子はなかった。と、その時だった。突然ディーストの姿が現れたのだ。しかもディーストは攻撃を仕掛けていない。なのに、何故姿を現したのか……理由は簡単だった。
「何、エネルギー切れだと!?早すぎる!クソッ!こうなったらやけくそだ!!!」
装甲を覆っていたステルス迷彩を保つ為のエネルギーが切れたのである。先の一斉射撃が仇となったのだろう。その為、武装を施したディーストの姿がアレンの目に映った。
「やってやるんだよ!あの野郎によォ!」
ディーストは最初にガトリングを連射し、弾切れになったらビームサーベルを抜いてアレンに襲いかかった。アレンはビームシールドを装備し、ガトリングの弾を防ぐ。が、防御している間に背後からディーストがビームサーベルを持って迫って来た。
「墜ちろぉ!ガンダム!!!」
そのまま切りかかろうとするディースト。しかしアレンの目は欺けない。ブライティスはそのまま素早く行動する――
「消えた!?馬鹿な……」
彼がキョロキョロと見渡していると、突然背後から蹴りを食らった。ブライティスがディーストを蹴り飛ばしたのである。そのままバランスを崩し、ディーストは倒れてしまった。そしてとどめを刺すようにブライティスはウイングを広げ、ビームライフルを放出した。
「う、うわあああああ!!!」
これが、最後の一機だった。この一撃を受け、パンツァーのディーストは爆発。パイロット諸共撃破された。
これにより、敵部隊は全滅。夜戦の勝利者は、アステル家だった。敵の撃墜を確認したアレン達は、すぐに屋敷に向かい、帰還していくのだった――
夜戦が終わり、現在は明け方になっていた。その間にシュネルギアは再び屋敷内に収納された。
その後、彼等はジンクの前にいた。彼は、先の夜戦での活躍を讃えていたのである。
「御苦労だった。トーチカは壊滅し、MS部隊もそれなりのダメージを被った。それでもお前達の活躍のお陰でどうにか敵は撤退したよ。」
一難が去り、安寧の表情を浮かべるジンク。だが、それに対してジャンヌの表情は険しい。
「ですが、お父様。新生連邦がこのような行動を起こしてくるという事はやはり何か訳があると見て良さそうですわ。警戒を怠る事は出来ません。」
「そうだな……暫くは動かず、ここに留まる方が良いかも知れん。敵の動向が見えない以上は。」
新生連邦軍は何故、急にアステル家を強襲したのか。そして、身内に現れた裏切り者の存在等、彼等にとって課題は多いと言えた。
「そして、アステル家の中にもエファン・ドゥーリア以外に別の裏切り者が居た……それは、アステル家という存在が揺らいでいる証拠と呼べるのかも知れん。」
「確固たる信頼の揺らぎ……ですか。組織という存在に於いてそれは本来あってはならない事なのですが……」
アステル家は当主、ジンクをはじめとした一族であり、軍事企業の役割を果たしている面もある。言わば、企業のようなものだ。だがエファンをはじめとした、スパイの存在はその絶対なる存在を揺るがせるのに十分な存在となり得た。
絶対的な存在が揺らぐ事は、本来あってはならない。しかし予期せぬアクシデントはその存在を揺るがせるのに十分な効果を持つ。例えばデウス帝国のように国自体が力を失っていった場合、そこに住む国民は衰弱していくばかりとなる。アステル家も同様で、スパイの存在によって情報が漏れたりすれば、やがては全体を衰弱させる事に繋がる。それ程に、今回の事は危険と呼べたのだ。
だが組織自体に信頼出来ぬ所があったが故に起きたのが、今回のアグリーの裏切りだ。こうした事が起こり得るという事は、組織としては考え直さなければならない事なのだろう。
様々な事があったが、アレン達活躍もあって、辛うじて敵部隊を撤退させる事ができたアステル家。ただ、夜中の襲撃は彼等にとって辛いものがあったのだ。この出来事を経て、彼等は少しの間仮眠を取る事にしたのである。
しかし新生連邦によるアステル家襲撃はこれで終わると言うわけではない。これからまた何が起こるのか。それは今の彼等に分からない。
その中で、リルムは一人寂しく、部屋の中に篭っていた。アステル家に保護されている身である彼女。だがその時間は彼女に寂しさを与えるだけだ。
その上、昨夜の新生連邦軍の強襲は彼女を恐怖に駆り立てた。安全な筈のこの場所に敵が迫ったという事実は、リルムを震え上がらせる。
「レイ……私辛いよ……もう、こんな所に居たくないよぉ……」
この場所にいないレイに助けを求めるリルム。彼女は、この状況に対して精神的に疲れている様子だった。
コンッ
その時、ノックする音が聞こえた。リルムは慌ててベッドから置き上がり、返事をする。すぐに、ドアが開く音が聞こえた。
そこに居たのは、国連の新人パイロットであるアイリィ・トゥールであった。見慣れない少女の姿に、リルムは目をぱちぱちとさせた。
「え……あの……どちら様ですか?」
やや、引け越しの様子でリルムはアイリィを見る。一方のアイリィも、リルムの存在に驚いた様子だった。
「あれ?ここって、空き部屋じゃなかったんですか!?」
「空き部屋!?」
リルムは、ショックを受けた。ジャンヌは、リルムの居る部屋を空き部屋と勘違いしてしまっていた。故に、アイリィが部屋に来た。それは、リルムにとって悲報以外の何者でもない。
「えー、そんなぁ、どうしようかなぁー。あー、でもいいや。一緒にいよ?せっかくだし。シェアルームって事で!」
と、言いながらアイリィは堂々と、リルムが居る部屋に入って来たのだ。まるでそれは、一人暮らしの女性の家に遊びに来た友人の如き感覚であった。
だがリルムからすれば違和感しかない。目の前に居るアイリィは何者なのかも分からない状態で、ただ、困惑するばかり。
「ねえねえ、貴方、可愛いね!もしかしてぇ、私より年下じゃないの?」
(ムッ……)
外見だけで年下と判断され、その上、急に馴れ馴れしく接され、リルムは内心、腹が立っていた。
頬を膨らませるリルムを見て、アイリィは何故か笑顔を浮かべ、笑う。
「やだー、可愛い!え、もしかして貴方もパイロット?それとも何かお手伝いとか??」
どう答えれば良いか分からない。彼女はただ、保護されている身だ。その為、リルムは素直に答えるしかない。
「私は、保護されてるだけです……何も、してませんよ。本当に、ただここに居させて貰ってるだけって感じ。」
何故だろうか、ただ、自分が居るだけの人間という事にどこか戸惑いを感じていた。しかし今の世界情勢は非常に不安定であり、このまま家に帰る事自体が危険だ。それは、分かっている。
ならば今彼女は出来る事とは何なのだろうか。リルムは、学校にも行かず、ただ保護されている毎日を経て、少し考えが変わりつつあったのだ。何もしないで過ごしていて、本当に良いのだろうか。
「じゃあ無職みたいなものだねぇ!」
あろうことか、アイリィは土足で彼女の心に踏み込んだ言葉を発した。それは、今の彼女に一番言ってはいけない事だ。
「酷い!そんなの!」
思わずリルムは呟いた。
「あ……ご、ごめんね!私、思った事つい言っちゃうから……はぁ。」
すぐに謝り、反省をしているアイリィ。リルムから見て、彼女の存在が良く、分からないで居たのだ。
コンッ
その時、再びノックをする音が聞こえた。数秒後、すぐに扉が開く。そこに居たのは、ドレスを身に纏ったジャンヌが居たのだ。
「リルムさん、昨夜は大丈夫でしたか――」
ジャンヌはアイリィとリルムが居る状況を見て、首を傾げた。何故二人がここに居るのか、理解が出来なかったのである。
「あら、アイリィさんがどうしてここに?」
ジャンヌの質問に、アイリィが答える。
「あれ?私の部屋がここって言われて、それで入ったんですけどぉ?」
「この部屋はリルムさんの部屋ですよ?貴方の部屋は隣の部屋ではありませんか?」
ここが空き部屋だと勘違いしていたのは、アイリィの方だったのだ。ジャンヌは、この部屋にリルムが居る事を把握していた。
それを聞いた瞬間、アイリィは驚愕した様子で言った。
「あああああ!!!すみません!私ってばうっかり!」
アイリィは、ジャンヌに謝った。そして、リルムにも。ジャンヌはこの事に苦笑いを浮かべ、何とも言えない表情を浮かべていた。
「仲良くされているのでしたら良いのですが……アイリィさん、鍵だけ渡しておきますね。」
と言ってジャンヌはアイリィに鍵を渡し、部屋を後にした。
「私の勘違いで……ごめんっ!」
「酷い……私、ジャンヌさんに完全に忘れられたかと思いましたよ!」
結果的にリルムの事は忘れられていなかった事は分かったのだが、やはりリルムからすれば納得いかない様子だ。アイリィ・トゥール。どこか抜けている印象を持つ、国連の新兵の少女。
ごく普通の少女と、兵士の少女が一つの部屋に居る状況。一見すれば妙な組み合わせではあるが、彼女達に共通しているのは、歳が近いという事だ。
だが、先程の“無職”発言も伴い、リルムは完全に怒ってしまった。頬を膨らませ、ベッドに横たわる。ここは元々リルムが使っている部屋だ。彼女の方が、気を遣う事無く行動が出来ている。
(どうしよう……キンチョーするなぁ……)
自分でルームシェアと言っておいて、相手を怒らせてしまったアイリィ。何か言わなければならないと思い、部屋をじろりと見た後、アイリィは口を開いた。
「そう言えば、君、名前はなんて言うの?あと、歳はいくつかな?それと、何をやっているのかな……?」
これに対し、リルムはアイリィの方を見るのだが、どこか、暗い表情を浮かべていた。
「リルム・エリアスです。十五歳です。ジュニアハイスクール三年生です。」
面倒臭そうに、一度に質問に答えた。言動からして、明らかに拗ねているのが分かる。この事が、余計にアイリィは気まずく感じてしまった。
「その……色々とごめん!だからさ……その……やっぱり一緒にいる以上は仲良く……しようよ?ね?」
仲良くする為に迫るアイリィ。
「そうそう!自己紹介してなかった!私、アイリィ・トゥール!十七歳!国連の新兵!ここで経験を積んだ方がいいって言われてここに居てる!よろしくねぇ!」
気まずそうにしながらも、アイリィは頭を掻き、どうにかして、リルムとコンタクトを取ろうとしている。
「……アイリィさんって積極的ですね。」
この言動に対し、リルムが言った。
「そ、そりゃあ……ね?だって気を遣うの、嫌だもん。」
「私、ここに来てからまともに会話したの、初めてかも。」
「えっ……?」
「だって……みんな、忙しそうにしてるし、その上昨日はなんか知らないけど、襲われてるみたいだし。ジャンヌさんはたまに声を掛けてくれるけど、私、ここに来て基本、ずっと独りぼっち……ここにいても、何もない……」
それは我儘なのは彼女の中でも分かっていた。しかし、現実問題ただ、保護されている身である彼女。元々ごく普通のジュニアハイスクールの生徒であったリルムにとってこの状況は苦でしかない。本来ならば友人と過ごす時間や、生徒会としての役割を全うしていた筈なのに、チェーニ姉妹に誘拐された事がきっかけでここに保護されている。それに文句を言うのは最低な事であるのは理解していた。
だが、彼女は十五歳。友達と時間を謳歌したいティーンエイジャーだ。それ故に、ここで、一人でいる時間が、苦でしかないのである。
「そうなんだ……辛かったんだ……」
そう言った後、アイリィはリルムの肩をポンと叩いた。
「私がいるじゃない。私が仲良くするんだからね!もう、気まずいとかそんなの、感じたくない!リルム!私と友達になって!私は確かにMSに乗って戦うけど、リルムとお友達でいるから!寂しくないように、するから!」
と、言ってアイリィは握手を求めて来たのだ。この積極性は一体何なのだろうか。どうしたら彼女は、初対面である筈の人間に堂々と、握手が出来るのだろうか。
それがアイリィ・トゥールという名の人間であるのかも知れない。そして、リルムは彼女の存在が嬉しく感じられたのだ。
「部屋も隣同士だし、また遊びに行けるね!宜しく!」
この言葉に、リルムに笑顔が零れた。今まで寂しい思いをしてきたリルム故に、アイリィの不器用な言葉が、彼女に刺さったのであった。
それから日にちが経過した。アステル兵士達はジンクの指示の下、徹底的な身の元の検査が行われた。先日のアグリー・ロンのような裏切り者が出てはいけない為だ。
その上で、破壊されたトーチカやMSの改修作業を行っている。この時、ジャンヌはアレン達に休暇を与えた。アレンはココットと、リルムは友人になったアイリィと、ローマの中心街まで移動する事にした。
ローマ。旧世紀から存在している建造物は世界中の人々を魅了し、この時代になっても観光客で溢れている。デウス動乱以前の、宇宙戦争が行われている時代であっても、古代の建物が今でも残されている世界有数の貴重な観光都市であり、日夜様々な観光客で溢れていた。
アレンはココットと歩いていた。穏やかな街並みは先のロンドンの壊滅的な状況とは一転して平穏に感じられるのだ。
「ここは平穏だな……まるでロンドンとは違う。悲惨な状況になっている場所があるのに対して、一方では平和……妙な感じだ。」
バンディットとして行動していたアレン。その中で、様々な経験をしてきた。その上でのロンドンの襲撃は、彼に大きな衝撃を与える事になったのだ。
「どうして、レヴィー君はあんな酷い事をするんだろう。あんな事をして力で人を支配しようとしても、意味がないって分からないのかな。」
隣にいるココットも、その事が気になっていた。彼女とレヴィー・ダイルは戦前を知る知人関係だ。故に、彼の暴虐が信じられないのである。
「あいつは止まらないよ。だから、俺達が止めないと行けない。今俺が心配なのは、先日のアステル家の襲撃が次に波及しないかって事だ。ロンドンの事もあるし、次の標的がアステル家になってもおかしくはない。」
ローマの建造物を眺めながら、アレンは呟いた。
「私、嫌だよ……人が死ぬところはもう、見たくない。」
「だから、俺達がなんとかしないと行けない。新生連邦の横暴は阻止しないと。その上での今の平和国連盟も、戦争を仕掛けている状況。どうしたものか……」
アレンはそっと溜息を吐く。答えがない状況なのは分かっている。故に、彼は悩む。
「一部の世界が人によって滅ぼされている一方で、問題のない場所は平穏な社会生活が送れる。一部の人間が行った暴虐によってそこに住む人々の全てが奪われる。旧世紀からこの繰り返し。いつまで続くんだろうな。こんな事。」
人は、歴史から学ばないのだろうか。戦争により、多くの罪なき人間が死ぬ惨状になっても人は戦いを止めない。そこには経済や領土等の問題もあるだろうが、そこから憎しみを生み出しても、何も始まらない。
「私が一番嫌なのは、例えば一部の国が戦争を仕掛けたとして、そこに住んでいる人達までもが同じ目で見られて、仮に別の国で働いている人が酷い差別や偏見の目で見られてしまうというのが嫌で仕方がないの。」
旧世紀から続く戦争の弊害は当事者に留まらない。そこに住む国の人間というだけで、偏見の目を持たれるという事だ。故に悪として見られてしまい、本人が住み辛くなってしまう。これでは負の連鎖が続くだけだ。だが人はそれを止めない。惨劇を過去から学ばない。皆が平和を願っていても、一部が狂えば全てが狂う。そして、それに従順するようになる。
「ガーストの奴も、大変だっただろうな。デウスってだけで悪者扱いされたりしただろう。あいつ自身は上の命令で動いていただけに過ぎないのに。」
「みんなと、一緒に会いたい……それで、またご飯を一緒に食べたい。それって、叶わない事なのかな。」
ココットが何気なく呟いた。戦前から知人関係である彼等は、戦後になって立場や状況が変わってしまった事を嘆いている。特に、共に戦った仲間である筈のレヴィー・ダイルがこのような世界を作り出している事に、ショックを隠せないのだ。
「難しいよな……こればかりは。」
アレンが空を見て、呟いた。
暫く二人が歩いていると、コロッセウムの前に着いた。古代ローマ時代から存在している建造物。西暦時代初期から存在しているこの建造物は歴史的価値が非常に高い建造物として、世界中で知られている。故に、世界中から観光客が絶えない。
そこの前にある広場で彼等は一息吐く。束の間ともいえる休息。二人でいることが出来る貴重な時間。幸せである筈の時間だが、現在の世界情勢を思うと、気が気でない。
だがその時、アレンにとって見覚えのある人物が近づいてくるのを確認した。遠くから見た時はよく分からなかったが、接近してくるその影をみて、次第に既視感を覚えて行く、アレン。
「あれ……ウィリアさん?」
その人物の正体は、ウィリア・ラーゲンだった。まさかの偶然。彼女がここ、ローマに来るなど思ってもみなかったのである。
「あら、アレンじゃない。奇遇ね。まさかここで会うなんて思いもしなかった……」
彼をバンディットとして育てた女性であるウィリア・ラーゲン。アレンが本格的にアステル家に協力する事になってから一度も会っていなかった両者。今、この場で再会したのであった。
「どうしてローマに?」
何気なく、アレンが聞いた。
「羽を伸ばしに来ただけ。ちょっと休息を……ね。」
そう言ったウィリアの髪が風になびいた。美しい容姿のウィリア。隣にいたココットは、ウィリアとアレンが知人である事を知らない。
「あの人は?」
耳元で囁く、ココット。
「戦後に知り合った人。」
と、アレンが返答する。
「ああ、この人はもしかして、貴方の恋人さん?」
「ええ。ココットって言います。」
まさか両者が揃って歩いている所に、ウィリアと会うとは思わなかった為、アレンはやや、戸惑っている様子だった。
「あ、その……ココット・メルリーゼです、宜しくお願いします。」
アレンとココットは互いに恥ずかしそうに言った。ウィリアはそれをおかしく思い、僅かにほほ笑む。
「フフ……貴方の彼女さん、随分と可愛らしいわね。それより貴方達はどうしてローマに?」
「あ、それは……」
アステル家の事を“知りたがっている”ウィリア。だが、ジャンヌとの事もあり、迂闊な発言は控えたいを考えていた。
しかし、事情を何も知らないココットはウィリアに言ってしまう。
「今、私達アステル家に居てるんです!」
ココットが余計な事を言ってしまったため、アレンは眼前に掌を乗せた。彼としては、言って欲しくない事であった為、思わず溜息も吐いてしまった。
「アステル家……?へぇ、凄いわね。」
「私、あの人と友達になんですよ!」
更に、彼女はジャンヌの事で自慢を続けた。世界的歌手であるジャンヌと友人である事は確かに名誉な事ではあるのだが、それ以上口を開かれる事にアレンは限界を感じ、ココットの口を封じた。
「んんんっ!」
「すみません……ココットっていらない事までよく喋る癖がありますから……」
「あら、別に自慢を嫌とは思っていないけど。」
「いえ……でも……」
するとココットはアレンの手をどかし、激しく呼吸をしてからアレンに言った。
「アレン!酷いよ!どうして……」
「ごめん、ちょっと、喋り過ぎ。」
アステル家の話は出来るだけ避けたいと思うアレン。それは、当然の事だ。先のオペレーション・デモリッション・クリエイションでもアステル家が介入した事は周知の事実となっている。それの関係者となれば、どのように捉えられるかは分からない。たとえそれが、知人関係であるウィリアであれ。
「もう……よく分かんないよぉ……」
二人の様子を見て、再びウィリアは笑い出した。このじゃれ合いが、彼女にとっては愛らしいと思えたのだろうか。
「ところで、アレン、時間はあるかしら?」
突如、ウィリアはアレンに言った。その際、彼は戸惑いを覚える。
「あ……その……俺にはココットが……」
今の時間を謳歌したいと考えていたアレン。それ故に、僅かに戸惑う。
「それなら大丈夫よ。そんなに時間をかけるつもりはないから。」
困った様子で、彼はココットの方向を見た。しかし彼女は困っているどころか、笑いながら彼を見て頷いていた。
「じゃ、じゃあ……いいかな。ごめん、すぐ戻るから。」
「うん、私ここの前で待ってるね。」
そう言ってココットはコロッセウムの前にある段差で、腰を下ろした。そのまま、アレンはそのままウィリアについて行く事になった。
裏路地にて。歴史を感じさせるような造りの建物の影に誘導されたアレンは、そのまま彼女について行き続けた。
やがて彼女は太陽が当たらない暗い場所の段差で腰を下ろした。
「まあ、ここで座って。」
「あ、はい。それよりこんな奥深くまで誘導するなんて……どうしたんですか?」
「貴方の彼女さんが何者かは知らないけど、貴方の事だから、彼女さんの前で変な話は出来ないでしょ?さっき彼女さんの口を塞いだのが何よりの証。」
ウィリアは先のココットの発言を聞き、“何か”を悟った様子だった。
「せっかくここで再会できたもの。ワートン・ディアラの家に訪れた後、何があったのか教えてもらえないかしら。」
知りたがるウィリアは、アレンから情報を聞こうとする。それは、メイドと会話をした時にアレンの名前が出てきた事が由来していた。戦時中は英雄と呼ばれた青年が、戦後を経て今、何をしているのか。メイド・ヘヴンとの交戦もあった中で、彼の行動を知りたいと、彼女は思っていたのである。
「今まで様々な事があったじゃない。新生連邦のオペレーション・デモリッション・クレイション。その後での報復と言わんばかりのグレートブリテン島への襲撃……その裏で貴方は何をしていたのかしら。ただ茫然としていたか。それとも戦っていたか。気になるところね。」
これらの質問に対し、アレンは答える。
「俺は戦っていました。あの戦場の中、新生連邦による攻撃を阻止する為に。」
それを聞き、ウィリアは関心を抱いた様子で言った。
「それはそれは……お疲れ様ね。貴方って本当に凄いわ。」
「凄くないですよ。俺はただ、新生連邦の横暴を許す訳には行かないと判断したからで……」
アレンの言葉の後、ウィリアは笑みを浮かべた。
「ああ、成程ね。今、理解したわ。英雄と呼ばれた貴方の事だから、さしずめ、新生連邦の攻撃を阻止する為にアステル家と共に戦っていると言ったところかしら。そして、あの“彼女”も。」
「えっ……!?どうして?」
ウィリア・ラーゲンは洞察力に優れる。彼の言葉から情報を分析し、その上で仮説を伝える。そして、それらは的中した。アレンがアステル家と関りがあるという事を、理解したのだ。
「先程の彼女の言葉から聞いて分かっているわ。貴方がジャンヌ・アステルと親しい関係である事を考えると……貴方が属する場所といえばそれしかないわね。まさか貴方のような人間が、テロリスト等といった野蛮な組織に属しているとは思えないもの。アステル家専属の“ナイト”と言った所かしら。」
「……それは……」
アレンの表情が、固まる。
「図星ね。」
アステル家と言う語句は、出来るだけ彼女の前でしたくなかった。彼は彼女を信用していないわけではない。しかし彼女はバンディット。それも、知りたがる存在。故に、彼は教える事が出来なかった。何が起きるのか分からない為である。下手な情報が伝わる事は避けたい。先の新生連邦の襲撃の件もそうだが、今、アステル家の情報が流出するのは危険なのだ。
「貴方の顔を見たら分かるわ。表情を隠し切れていない。それでは情報を隠す事は難しいわよ、アレン。」
(この人……前から思っていたけど只者じゃない……)
彼は、ウィリアに対して警戒心を持った。彼女には世話になっている。しかしここまで情報の詮索をされるのは、どうしても疑ってしまう。
「まあ、その様子だと貴方に交渉しても、無駄みたいだし。」
「交渉?」
突然のワードが出てきた。“交渉”とは何を意味するのか。
「いえ、こちらの話よ。貴方がその道を進むのなら、進めばいい。私は私の道を進む。目的の為にね。
そう言う、ウィリアの表情はどこか、決意に満ちていた。それは、何を意味しているというのだろうか。
「ねえ、アレン――」
ギュッ
次の瞬間、ウィリアは彼を抱擁し始めた。誰も通らない裏路地で、二人だけの環境。何故このような行動をするのかが、不明だ。余りに急な出来事だった為、彼は困惑する。
「え……?」
「私ね、貴方に会えて良かったと思ってるの。戦後にバンディットになってから、何度か交流しただけの関係とは言え、ここまで育ってくれるなんて、光栄よ。だからこそ、私は貴方に伝えておきたい事がある。」
その表情はどこか寂しげだ。バンディットの師匠ともいえる女性が見せる表情に、アレンは戸惑っている。
「決して、死なない事。貴方の恋人さんも悲しむだろうし。貴方が歩む道は過酷なものになると思う。私は、それを伝えるだけ……」
そう言った後、ウィリアは彼から離れた。
「じゃあね、アレン。私、行かないといけない。それと、恋人さんを随分と待たせているのではなくて?」
そう言われた時、アレンは自身のEフォンを見た。そこには、ココットからのメッセージ履歴が数件表示されているのが分かった。
「あああ、急がないと!」
と、言われ、アレンは慌ててその場を去った。ウィリアは彼の後姿を静かに、見送っていた。
アレンはコロッセウムの段差で待っているココットの元へ向かった。走ってきて、座っている彼女の姿を見る。するとココットは眠っていた。アレンの事を、待ちくたびれて眠ってしまったのだ。彼は慌ててココットの肩を叩き、起こす。
「ココット、ごめん……待たせて。」
ココットは目を擦りながらアレンの姿を見た。彼女の眼前はぼやけていたため、始めは何が映っているか分からなかったが、やがてアレンの姿を確認する事が出来た。
「アレン……遅いよ……すぐ戻るって……嘘吐き……」
「ご、ごめん……」
「……まあ、でも帰ってきてくれただけ嬉しい……ね、じゃあ行こうか?」
アレンに対しては心の広いココットに、彼は安心していた。ココットが立ちあがる時にアレンは彼女の手を繋ぎ、引き寄せた。
「どれぐらい寝ていたの?」
「大体三十分ぐらいかな。あそこ風当たりとっても良かったもん。気持ち良くって。アレンはさっきの人とどんな話をしていたの?」
「特に……大した話じゃ無かったよ。」
様々な状況を察されている事に驚愕するが、今は彼女との時間を謳歌したいと考える、アレン。
「そうなんだ。うん、じゃあ行こう!アレンが戻ってきた事だし!」
束の間の二人の時間。それは、アレンにとってかけがえのないものだ。今後世界情勢がどのように傾くかも分からない中で、限られた平和を謳歌する事は、罪ではないだろう。
様々な人間が、それぞれの意思で動いている。戦争状態の世界でも、人々はそれぞれの時間を謳歌しているのだ。
夜になった。昼間の活気とは違い、夜のローマは暗闇に包まれている。だがその暗闇ですらも美しい情景と言えるローマの建築物。その中で、ウィリアはとある人物と合流を図ろうとしていた。
「随分と遅かったな……こっちは眠たくて仕方がない。」
「いろいろと事情があって。ありがとう。ずっと見張っていてくれて。」
今、ウィリアはある廃ビルからある人物と会話をしていた。名は、ギィル・オカザキ。以前平和国連盟議長だったチャール・ポレクの暗殺をしようとしたスナイパーだ。何故、スナイパーと打ち合わせをしたのか。それには、事情があった。
ノード・ベルン。彼女の弟を嵌めた人間。その人間が、ローマに来ているという情報をマレースから聞き出し、そこから彼と合流していたのである。
「ここの側のホテルに滞在している。狙われているとも知らずに、随分と能天気なものだぜ。」
と、言いながらスナイパーライフルを組み立て始めるギィル。その最中で、彼は言った。
「しかし随分と大層な事を企てるもんだな。クレーディト社の社長の暗殺なんて、大層な事を。」
「色々な人間に依頼を掛けた。その結果が、貴方だったという事。あの男は生きてはいけない。」
「お前の弟の仇……なんだよな。動機としてはまあ、十分だ。その上でお前からは大金を頂いている。やるだけの事はやるさ。」
ウィリアはノード・ベルンの暗殺に人生を掛けているようなものだ。自身の弟を嵌められ、惨い姿にされた事は忘れもしない。
「ありがとう、ギィル。私怨に対して動いてくれるのは、嬉しい……」
チュッ
ウィリアは、ギィルと接吻を交わした。淡い、口付け。それが、ギィルの仕事のパフォーマンスを上げる事に繋がる。
「美女にキスされたんじゃ、失敗は出来ねぇよ。大金まで貰えてこれは美味しい仕事だね。お前の弟の敵討ち、させてもらおうかねぇ。」
ウィリア・ラーゲンは男性に対し、ふしだらな一面を持つ。その美貌を武器に今まで生きて来たと言える。故に、彼女の虜になった男の数は多い。
「さぁて、社長さんにはご退場願おうか。」
そう言って彼はライフルを構えた。スコープを覗き、ノードの頭部を狙う。
ノードはホテルの中で、相手のマフィアと、何か別の交渉をしている様子だった。その隙をギィルは狙う。
そして彼は狙いを絞り、引き金を引こうとした――
「ギィル!」
突然、ウィリアが大声を上げ始めたのだ。そしてギィルに体当たりし、スナイパーライフルのバランスが崩れ、そのまま落ちてしまった。弾は発射され、全く関係の無いところに飛んでいった。
「オイ!何を!?」
突然の行動にギィルは怒りを見せた。が、ウィリアは懸命に説明をする。
「狙われていた!別のスナイパーが貴方を!」
「何……?」
ウィリアはギィルが銃を構えた時、別方向から光を見たのだ。それが、別のスナイパーである事に気づくのに時間を要さなかったのだ。
足元には銃弾が落ちていた。それは紛れもなく、別のスナイパーがギィルを狙っていたという何よりの証拠だった。
「ダメ、もうここにはいられない!」
「クソッ!奴等俺達の事を分かっていたって訳かよ!」
こうなれば廃ビルから脱出するしかない。予想外だったスナイパーの存在は彼女達を危機的状況に陥れる結果となったのである。
ビルから脱出している最中に、足音が聞こえた。それも、数名の者だ。急いで物陰に隠れる両者。予想外の出来事により、失敗してしまったノード・ベルンの暗殺。今はもう彼等は逃げるしかない。だが敵が先回りしている状況で逃げる事が出来るだろうか。
「お前、銃はあるか?武器を貸せ。強行突破する。」
「え……そんなの!無茶よ!死ぬわ!」
「良いから貸せ!」
そう言って彼はウィリアから銃を奪った。その銃に弾を詰め込み、構える。
「言っておくが、俺は狙撃だけが取り柄じゃねえんだ。あんな雑魚共はまとめて始末してやる。」
すると、あろうことかギィルは姿を見せた。そのまま、銃撃を行い、構成員に向けて攻撃していく。敵の構成員は機関銃を持って反撃してくるが、ギィルはそれらを避けて撃ち続ける。
突然の銃撃。一対多数の状況。これで、構成員は次々に血を流す。
彼は死んだ団員の機関銃を拾い、そのまま連射し続けた。銃の扱いは慣れている様子で、
次々に殺していった。向かい側にも団員の姿があった。それらを彼はまとめて殺していく。
「早く来い!」
団員が倒れていく中ウィリアは走り抜け、ギィルは向かい側に潜む敵を倒していく――
(ノード・ベルン……?)
その時、ウィリアは見覚えのある顔を見た。ノード・ベルンだ。だがノードは向かいのホテルに居る筈。いつの間にこちらに来たというのか。それが何を示すのかは分からなかった。
忌むべき敵が目の前に居る。だが、今、手持ちの武器はギィルに奪われており、男に向けて攻撃をすることが出来ない。弟の仇と呼べる人間が、自身の見える範囲に居るというのに。
構成員を引き連れ、ギィルに向けて容赦のない銃弾を浴びせる。ギィルは手一杯の状況だ。勝ち目があるとは思えない。
「ぐぁぁ!」
ギィルは負傷してしまった。数の多い構成員からの攻撃に、遂に傷を受けてしまったのである。
「ギィル!」
このままでは殺される。だが、目の前にいるのは弟の仇。彼女は躊躇った。どうする?負傷したギィルを置いてはいけない。
ノードを殺そうにもまず、武器がない。相手は多数の構成員。こちらは僅か二人。勝ち目などある筈がない。何か、かく乱する方法を考えなければならなかった。
(……これを使えば……!)
バッ
その時、眩い光が周囲を照らした。視覚を奪う光。そのフラッシュに構成員は皆が困惑する。これが、一瞬の隙だった。急いでここからの脱出を図る、ウィリア。
この時、彼女は一瞬の内にノードに触れた。これが何を意味するのかは全く分からなかった――
廃ビルから逃げ切ることが出来たウィリア。だが、ギィルは負傷している。彼女は、ノードへの復讐を優先せず、ギィルを助ける事を選んだのだ。
「お前……殺せただろうが……俺の事を放置して良かったんじゃねえのか……」
傷つきながらも喋る、ギィル。それに対し、ウィリアは言った。
「私の勝手な復讐に貴方を巻き込んだ結果、こうなったのよ!貴方を助ける事に躊躇いなんてないわ……!優先するのは、命よ!」
その際、彼女は涙を数滴こぼしている。目の前に居た筈の標的を逃し、側に居た人間を助ける事を選んだウィリア。彼女もまた、人間であると言えるのだ。
「お前……優しいんだな……」
「ギィル……ごめんなさい……」
「別に誰も、悪くねぇだろ……とはいえ、傷、治さねぇとな……」
結局、ウィリアはローマに来てノード・ベルンの暗殺は失敗に終わった。幸い脱出する事は出来たが、ギィル・オカザキを負傷させる結果となってしまった。
自らの復讐の為に他者を巻き込む。それには、その他者が死ぬ事も想定しなければならない事もある。だがウィリアは優しい心を残していた。故に、暗殺は成り立たなかった。だが、彼女の復讐は終わった訳ではない。組織に所属している限り、ウィリア・ラーゲンは動き続けるのであった。
第五十二話、投了。
新生連邦のMSのMSV(モビルスーツバリエーション)が登場する回。
夜間強襲用ってなんか宇宙世紀系のMSVで実際にありそうじゃないですか?