機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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新生連邦によるアステル家強襲が本格的に始まった。
圧倒的な戦力差の中、アステル家は屋敷を守る為に戦う。


第五十三話 アステル家強襲

 フランスにある、新生連邦軍西洋部隊本部の上層部では会談が行われていた。それはアステル家の件についてだった。アステル家の襲撃はこの日の夜中に強襲部隊が行ったものであり、その夜襲の件について、彼等は話し合っていた。

「パンツァー・アイド大尉率いる囮部隊は本当にお疲れでしたな。彼等の犠牲の代わりに、アステル家に関する様々な情報が我々の手元に入って来たわけなのですから。」

先日の夜間強襲部隊。それらは情報を彼等に伝えていたに過ぎないのである。その情報により、アステル家の現在の情報が彼らに筒抜けの状態となった。

「これで……奴等を叩けると言う訳ですな。トーチカも見事に壊滅させてくれている。敵戦力は有人のMSのみですねぇ。」

その士官は腕を組みながら、不気味な笑みを浮かべていた。冷徹な瞳を持つ者が集まるこの空間の中で、ただ一人の女性士官であるダリア・ローゼントはただ無言のまま彼等の話を聞いていた。

「先のロンドン侵攻に於いてもアステル家は邪魔をしたと聞きます。やはり、オペレーション・デモリッション・クリエイションの一件で彼等が戦場に介入した時から、何か手を打たなければならないと思っていました。まさに、今がその時と言えます。彼等の敷地を攻撃し、奪い、我が戦力とする時です。」

「その上ジャンヌ嬢は所詮、有名なだけの歌手です。いくら奇麗事を言っていようが、所詮は年頃の小娘です。そんな小娘に何が出来る?何も出来はしませんよ。」

「ただ、厄介なのはアステル家に存在している、“ガンダム”の存在です。強襲部隊もあのガンダムタイプによって殆ど壊滅させられたようなものですからね。」

と、その士官はタブレット状のコンピュータを取り出し、その中の映像を映し出した。そこには、夜間強襲部隊が記録したデータが入っていた。映像を見てみると、ブライティスが次々とディーストを破壊している姿が映っている。

「確かにこれは厄介だ。しかし今度はこちらもそれ相応の準備をしています。ですから大丈夫でしょう。アステルの切り札はガンダム。ならば、対策をするまでです。こちらもガンダムを投入すれば良いだけの話。ローゼント中佐。貴官の部隊には期待をしているんですよ。特殊強化モデルを総司令からお借りして貴方の部隊に配属させてもらったと聞きましたからね。」

その士官は微笑しながらダリアの目を見た。それに対してダリアは答える。

「ご期待には答えられるとは思います。彼等は以前よりも強化を施され、以前の数倍のスペックを引き出せるようになりました。その分闘争心しか沸かなくなり、非戦闘時に野放しにすれば兵達がその強化モデルに殺され兼ねません。非戦闘時は部屋に監禁しておかなくてはなりません。今回は以前よりも増して……」

「それは期待が出来ますなぁ。強化モデルの存在は戦局を大きく左右する事でしょう。是非とも勝利を掴み、アステル家を新生連邦のものにして欲しいものですな。ハハハハハ……」

士官達は笑った。が、ただ一人ダリアは複雑そうな表情をしていた。

「その上、今回はヒエラクス級三隻を導入するという事ではありませんか。徹底的ですね!これで破壊される事があれば恥ですよ。ま、ここまで布陣を布いて、そのような事はないとは思いますがね!」

アステル家を強襲する気でいる新生連邦軍。彼等にはヒエラクス級の戦艦が三隻も用意されているらしい。

 

バンッ

 

と、急にダリアはテーブルを叩き始めた。

「たかがアステル家に対してヒエラクス級を三隻も投入など!私はおかしいと思います!あれは一隻で十分!戦力の使い方を間違ってはいませんか!?」

怒りの篭ったダリアの台詞に、士官全員は黙る。

「……取り乱してしまい、大変失礼しました。申し訳ございません。」

彼女は一旦冷静になり、やがて、そのまま席に着く。

「そんなにお気になさらぬよう。言って見ればヒエラクスは切り札です。主力はマドラ級でどうにかなりますよ。ご安心を。アステル家を徹底的に潰す作戦です。確実に我々が勝ちます。かつてのデウスに対して兵器の援助を行っていたジンク・アステルを今度こそ叩き潰せるのですからね。ローゼント中佐には、期待していますよ。ハハハハハ……」

士官達は再び笑った。しかしそれに対してダリアは、決して笑う事はなかった。

その後会議は終わり、全員会議室から去った。ダリアは一人その部屋に残り、悔しそうな表情を浮かべていた。その目にはうすらと涙を浮かべていた。

「クソッ!何が強化モデルだ!あんな存在に頼らなければ我が軍は勝てないというのか!?その上アステル家如きにヒエラクス級を三隻も……何を考えている西洋本部は!ウイングイーグルで十分なのだ……無暗にヒエラクス級の投入をするのは間違っている!あの戦艦は人類の宝だ……父が関与している……」

彼女は二つの事で悩んでいた。強化モデルの存在と、ヒエラクス級についてである。ダリアの台詞から、ヒエラクス級は彼女の父と何か関係している事が分かった。しかし彼女の一人言だけでは今回の作戦は止められない。悔しくも、彼女は作戦に参加をするしかないのである。

 

 

その作戦の実行は明日だった。明日に向けて、兵士達は各マドラ級に乗りこみ、エリート部隊はヒエラクス級に乗せられた。何せ三隻ものヒエラクス級が投入される、今回の作戦。政府は何故アステル家の為にこれ程までに戦力を集中するのか、その理由は定かではない。

だが、どうしてもアステル家を物にしたいという新生連邦の野望があるのは誰の目にも明らかであった。

ウイングイーグルに乗り込んだダリアは真っ先に特殊強化モデルが監禁されている部屋へ入った。彼等の様子を確認する為である。

中に入ると、飢えた獣のような声が聞こえた。以前より強化されていると言うだけあり、その恐怖感が伝わってくる。ダリアもこの三人には若干の恐れを感じていた。

「このような狂った化け物を使用しないと、敵に……それも、私設の勢力に勝てないというのは情けない限りだな……。」

一人、言葉を呟きながらダリアは檻の前に向かった。

檻の中には個別に、ニッカ、ハーディ、シエルの三名が首に鎖や手錠をはめられている状態で存在していた。彼等はダリアの姿を見るなり、突如、野犬のように吠え出した。

「ガウウウウ……!」

ハーディも同様だったが、シエルは以前と同様に無口だった。ただ、無気味な目をしている事に変わりはない。

「化け物め……!」

そう言って彼女は去っていった。強化モデルという存在に対して彼女は嫌悪感を抱いていた。

 人間をシンギュラルタイプのような存在に強化した上で、それを戦力として投入。その人が生み出した戦いの連鎖の道具とも呼べる存在が、彼女にとっては快く思えない存在と言えたのだ。

 

 

 

アステル家は相変わらずトーチカは破壊されたままだ。復旧作業は行っているのだが、それでも一日で直せるものではない。

時間帯は真夜中。今日と明日の境目。この時間帯になれば殆どがの人間は眠りに就いている。

この時、ベランダに居たのはジャンヌだった。純白のドレスを身に纏っている彼女は一人、この庭園を前にして歌声を披露していた。

昨夜の事もあり、どこか疲労している様子の彼女ではあるが、そのドレスと容姿が重なり、ジャンヌ・アステルという麗しい女性像を作り出していたのである。

「歌っていたのか、ジャンヌ。」

そこへ、アレンが姿を見せた。元々彼等はこの時間に合流する予定を組んでいたのである。

彼は皆が寝静まっているであろう、この時間に話をしようと、事前に伝えていたのだ。

やがて歌うのを止め、ジャンヌはアレンの表情を、一目見る。

「歌う事は好きです。それ故の歌手ですから。私は意図してSNS上で人気を集めていた訳ではありませんが、行動と共に人々が付いて来ました。結果、誹謗中傷にも見舞われた事がありましたが。」

世界的歌手であるジャンヌは、多種多様な種類の曲を歌う。歌謡曲やヒップホップ、ミュージカル、ラップ、果てはオペラまで。それらを完璧とも言える歌声で魅了し続ける、ジャンヌ。しかし、大衆が彼女の歌声に魅了される一方で、以前のスキャンダルによって彼女は苦しむ事も経験した。それ以降、彼女は人前で歌う事を止め、本格的に新生連邦と戦う道を歩んでいく事になったのだ。

それでも、彼女は歌を好きでいる。彼女が一人、静かに歌を歌う瞬間はある意味、貴重な場面と言えた。

「昨夜は大変だったね。色々とお疲れじゃないか?」

気を掛ける、アレン。彼女の一連の動きを見てきているが故の言葉だ。

「……アレン。昨夜の事を経て、私は思う事があるのです。」

「何を?」

ジャンヌは側に置かれていた椅子に座り、夜景を見ながら言った。

「裏切りという行為が続くという事は、やはり快く思わない人間が少なからず数名は居ると言う事ですわ。その組織の情報を売ろうとするスパイが出てしまうと言う事は、私達アステル家はやはり、信用に値しない存在という事なのかも知れません。」

昨夜にジンクが言っていた言葉を、彼女は思い出していた。

 

―――――アステル家という存在が揺らいでいる証拠と呼べるのかも知れん―――――

 

アステル家の存在はかつてのデウス帝国に影響を与えていた。デウスの国力が脆弱となった今の時代に於いても、当主であるジンクが築いたコネクションの強さが幸いし、地球上で迫害される立場でなく経過している。その上で平和国連盟と協力関係にあるなど、只の一組織とは寄れない存在となっている。

 だがそうした組織の存在を快く思わぬ人間が現れる事も有り得る話だ。アステル家の場合はエファンの裏切り、そして、アグリーの裏切り等。

「エファン・ドゥーリアの事を思い出したのか。」

アレンの言葉に対し、ジャンヌは静かに頷く。

「平和国連盟と連携している時点で、それを快く思わない人間が居る事や、情報漏洩や裏切りの危険性という事は承知しておりました。エファンの場合は、目的は異なるようですが。それでも、アグリーのような事が起こってしまうと、どうしても自らの振る舞いや立場を責めてしまいますわね……」

己を責めてしまうジャンヌ。一連の出来事は彼女の心を蝕んでいくのだ。それに対し、アレンは声を掛ける。

「それは君自身が責めるべき事ではないと思う。確かに裏切りは出てしまった。けど、それはその人間の私欲が原因って事も有り得る。」

「だからと言って当人にばかり責任が全て行くとは限らない事もあります。元々アステル家は兵器の提供を行ってきた一族です。それを恨む人間がいるのも当然と言えます。アグリーの心境は分かりませんでしたが、もしかすれば何らかの形でアステル家に恨みを抱いていた可能性も否定は出来ませんわ。」

予期せぬ事が起きた場合、その主犯の人間が悪と決まる。だがその人間がその行動に陥った原因というのは、別の因子が絡む事もある。

 例えば犯罪行為。罪を犯した存在が淘汰されるのは至極当然なのだが、その背景には本人の環境因子も大きく影響する事がある。いくら人の為に住み良いとされる環境整備を行ったとしても、全ての人間がこれに該当するとは限らない。全ての人間がその環境に満足している訳ではないのだ。

 その状況を作り出しているのは、誰か。国?組織?それとも個人の悪意?どれが該当するのかは、不明だ。

 その中で、ジャンヌは己を責めている。無残に破壊されたトーチカが痛々しく残る庭園を映し出す、煌々とした夜空は憂いの表情を浮かべる彼女を美しく映し出している。だがその一方で今の心境を映し出している。不安、焦燥に駆られているようにも見えるジャンヌの顔は、今はアレンにしか見えない。

「組織を管轄する者である以上、ある程度の反発は予想出来ます。ですがそれが良きせぬ方向に向かう事は、あってはならないのです。ですがそのようになってしまうのは、私自身にも責任があるのでしょう。」

自責の念。彼女が今抱いている感情だ。アステル家内の裏切り者の存在は、自分にも責任があるのではないかと考える、ジャンヌ。

 それは彼女の身に起きた多くの経験、出来事がそうさせるのだろうか。デウス動乱時の婚約者、アーク・レヴンの死や母、ターナの死、エファンの裏切り、数多くのスキャンダル報道。浴びせられる誹謗中傷等。そして、アステルに仕える者の裏切り。多くの悲惨な出来事を経験する内に、彼女は多くの考えを抱くようになった。そして、強い意志を得た筈だった。

 しかし裏切られるという事に関してはやはり、辛いものなのだ。今、彼女が見せる表情はどこか、弱々しい。

「それは君の考え過ぎだ。何か行動をするからにはリスクは伴う。批判だってあるだろう。けどそれを抱え込み過ぎては、君自身を疲弊するだけだ。君は動いて行かないと行けないのに、その考えを続けていてはこの先持たない。」

アレンは彼女をフォローする。しかし――

「レヴィー・ダイルは大衆の声を他責の念として捉え、今の世界を作り出しました。私達はその同じ轍を踏む訳には行きません。そして、それらを変えて行かなければならないのに……」

彼女の行動の原点の一つに、新生連邦総司令、レヴィー・ダイルの存在が影響していた。以前にジャンヌの部屋で話した時に彼は今の世界を作り出した経緯を話した。それが、彼女にとっては反面教師として映っているのだ。

「誰だって他人のせいにしたいのは分かるよ。国に所属していれば政府のせいに、学校や会社を始めとした何らかの組織に所属していれば組織のせいに。その方が、自分が楽になれるから。けれどジャンヌ、君は自責の念を持ち過ぎている。あの時だってそうだ……」

セントマリア号内での出来事だ。その際に彼女は自死を望んだ事があった。

 自死をしても解決はしない。だが、彼女はそれを口に出したのだ。それをアレンは止めた。自らの口唇を使って……

「フフ、貴方は自らあの時の事を掘り返すのですね。」

突如、ジャンヌが笑みを浮かべた。先の表情はどこへ行ったというのか。

「お、俺は君の事が心配だから、その……せめて、励まそうと思って。」

「その行動の結果が、キスという訳ですか。」

以前も彼女はその事についてアレンに言及した事があった。そして、今回も同様に聞いてくるのだ。

「あ、あの時は、そうするしかなかったんだよ!」

自ら船内での出来事を掘り返し、顔を赤めるアレン。やはりあの時の行為は無我夢中で行った事だというのだろうか。

「君には支える人間が必要なんだよ……あれは、ちょっとやり過ぎたとは思うけど……」

と言った時、更にジャンヌは笑った。

「クスッ、その狼狽している様子を見ると、とてもデウス動乱の英雄と呼ばれているように見えませんわね。ココットさんとの関係も順調そうですし、その上で私とも接してくれている。いつも貴方の存在には感謝していますわ、アレン。」

彼女自身、アレンと接吻を交わした事に関しては喜びを感じている。故の笑顔なのかも知れない。

「ただ、少しばかり気になる事がありましたのよ。」

「え、それは……?」

すると、ジャンヌは頬を膨らませ、言った。

「アグリーに襲われ、貴方の判断でイズゥムルートを誘発した事です。確かにあの場に於いては合理的な判断ではありましたが、まるで“物”を扱うような印象を受けましたわ。」

珍しい、彼女の表情にアレンはただ、唖然とする。彼女の力を信じた結果、誘発された碧色の光は彼の指示に寄るものだった。

 それを、彼女は余り、快く思っていない様子だったのだ。

「その様子でココットさんもよく貴方の事を愛せていますわね、本当に。彼女が寛大な心の持ち主と言うべきでしょうか。」

「そんなつもりじゃなかったんだけどな……」

こうした場所においても、男女の価値観の差は生じていた。アレンからすればジャンヌの力はあの場では必要だったが、彼はあの場でアグリーに対し、言った言葉がある。

 

―――――――――――――いいよ、そのままにすればいい―――――――――――――

 

その言葉はジャンヌにとって、心地良い言葉とは呼べないものがあったのだ。

「友人の視点から貴方を見ていて、一つだけ言える事があります。貴方は少し、デリカシーに欠ける所がありますわ。言葉の使い方、声の掛け方、その場の雰囲気、タイミング等によって人の受ける印象は大きく変わるのです。貴方自身の感情にも影響する事ですわ、もう少し、言葉を考えて使って下さいな。もう……」

それは、彼がブライティスに乗っているが故に声を掛けているのかも知れない。それ自体は大切な事だ。彼を翻弄させないようにする為の、言葉。

「肝に銘じるよ。ジャンヌ。」

とは言ったが、この時ジャンヌは複雑そうな表情を浮かべている。

「以前から思っていましたが、やはり、貴方はどこか抜けている所がありますわ。それではココットさんが心配です。」

「そうなのかな……でも、君が笑顔を作れたのは良かったと思う。大分、辛そうだったから。」

「それは……貴方が居てくれたお陰なのかも知れませんわね。アレン……」

と、ジャンヌはそっと笑みを浮かべた。

 やがてアレンはその場から離れようとする。ジャンヌの様子を確認する事が出来た為だろうか。

「ジャンヌ。一つ、言わせてくれ。」

その時、アレンが口を開いた。

「時々で良い。こうして少しでも心の内を話してくれ。君は物事を抱え込み過ぎる印象がある。俺で良ければ、話は聞くから。じゃあ。」

と言って、アレンは去って行った。彼の去り際を見て、ジャンヌは何処か、嬉しさと、寂しさを兼ねているような表情を浮かべていたのであった――

 

 

 

翌日。昨夜のアレンとジャンヌの僅かな微笑ましい会話とは裏腹に、新生連邦の西洋部隊は行動を開始した。マドラ級を五隻、そして切り札であるヒエラクス級を三隻。その中の、ウイングイーグルには例の、三機のガンダムの姿もあった。今回の作戦の指揮官は、ダリア・ローゼント。ウイングイーグルの指揮を務める彼女が、動くのだ。

その上バリエーション豊富な様々な機体。これらの戦力が一気にアステル家に向けられようとしていた。

『各パイロットは搭乗機にて待機せよ。繰り返す、各パイロットは――』

兵士達は廊下を駆け抜け、それぞれの機体に搭乗した。その中で、特殊強化モデルの三人の姿も見られた。

手錠が外されており、その様子はまるで仮釈放中の永久囚人のようにも見えた。ただ戦うことしか頭にない彼等。そして彼等は、それぞれの機体に乗った。

機体に乗った瞬間、彼等は言葉を話し始めた。

「なんか久し振りだよな。」

「……何が?」

「最近全然出撃してなかったからさ。すげえ殺したくなってる。」

「それは俺も同感。」

「ひゃははははははははは!!!おめえらはそんな低いテンションかぁ?ニッカ!お前どうした?調子でもわりぃのか?」

「んなわけねえだろうがボケが!そうだ……今回は俺らで強力しねえか?」

「はぁ?なにほざいてやがる?好き勝手にさせろ!」

ハーディが怒りながら言った。

「そりゃ殺したきゃ好きなだけやりゃあいい!でもさ、やっぱり俺ら仲間割れする時あるよな。それはちょっと良くねえ気がするんだよ。」

「何言ってんだ?急に優等生になりやがって。」

「そうじゃねえよボケ!だから……合体攻撃だよ!」

「合体攻撃?」

シエルが、聞いた。

「それを今回の作戦でやるんだよ。前にいたキモガンダムいただろ?変な物ビュンビュン飛ばすガンダム!」

「あれ、ちなみにブリッツファンネルって兵器だ。」

冷静な様子で、シエルが呟いた。

「へぇ、面白ェ!じゃあやってやろうじゃんか!でもその前に暴れさせろよな。全然、MS戦もなかったからよォ。それまでは“的”当てばっかりでつまんねぇのなんの!」

“的”当てとは何を意味するのか。意味深な言葉を出す、三人。

この三人。例えるならば指が少し触れたりすれば、その瞬間に殺されるような威圧を覚える雰囲気を醸し出している彼等。彼等が考える事。それは戦場で暴れる狂う事だけだった。特殊強化モデルの三人は、ただ、自らのストレスの解放の為に戦うのである。

 

 

その様子をブリッジ内で観察する兵士達の姿があった。三人の様子をチェックし、データに記載している。

「三人、前頭葉機能並びに脳波に大きな異常は認めません。」

「そうか。フン、戦う時になって喋ることが出来るか。人の姿をした化け物め。」

ウイングイーグル艦長、ダリアは強化モデルを人と扱っていなかった。人間以外の怪物か化物としか彼女の目には映っていなかったのである。

「所で連中は戦わなければ死ぬとか言われていた癖に、何故生きているのだ?奴等は。」

ダリアは諸事情を知らなかった為、その疑問を検査官に聞いた。それに対して、検査官は返答する。

「あの三人は長時間暴力を奮わなければ精神に異常をきたし、最終的には禁断症状が働き過ぎてショック死するようになっているのです。別にMSに乗って戦うだけと言うわけではありません。要するに暴力やそれ相応の行為を奮わせておけば良いのです。」

「……どう言う事だ?」

「つまりこの二ヶ月の間、常に何かを殺したりしておけば良いのです。それは人間でも何でも……ただし相手が機械では駄目です。流血する存在……いわば、生命でなければ意味がないのですから。彼等はそのように出来ています。」

「貴様等、まさか……」

彼女は不安を抱いた。特殊強化モデルの暴力行為の為に、様々な犠牲者が出ているのではないか……と。

だが、彼女の不安は現実のものとなった。

「流血する存在、中でも同じ人間を殺す事で三人は生きているのです。何もしなければ彼等はショックによって死んでしまう……しかし彼等を生かさなければならないと考えたディアン社長は我々に、〝何でもいいから人を殺させろ〟と言いました。その中で、我々が相応しいと感じたのはイギリス襲撃で捕虜となった人間や、以前のアルメジャン紛争で捕虜となった人間です。それらを三人の目の前に出し、その捕虜を毎日三人に殺させているのです。それによって彼等は快感を得、現在も生きていると言うわけです。早い話が、依存症の延長線ですね。」

検査官のその非道な言葉にダリアは激怒した。そして検査官の胸倉を掴む。

「捕虜を殺すだと!?どうかしているぞ貴様等!」

「しかし……これは仕方の無い事なのです!」

「黙れ!捕虜を何だと思っている!?明らかに人道に反している!彼等は化物の快楽の為の道具ではないぞ!分かっているのか!?」

「で、ですが……」

「グッ……もういい……クソッ!」

ダリアは歯を食い縛りながら艦長席に座り、じっと目を凝らして前方を見ていた。明らかな怒り。その感情をただ、ダリアは抱いているのだった。

(戦争を勝つ為に人間を改造し、その存在を生かす為に捕虜を生贄に差し出す……いくら勝つ為とはいえ、狂っているとしか言えん……これがかつての連邦の成れの果てか……)

ダリア・ローゼントは旧連邦軍時代から在籍している佐官だ。だが強化モデルを扱う現代の戦場を見て、それをただ、不快にしか思えなかったのである。

 

 

 

やがて、艦隊は行動に出た。全て、アステル家へ向けて進軍して来る。それらはアステル家内のコントロールルームで感知され、屋敷内に警報が鳴り響く。

 今回の攻撃に関しては新生連邦側からの警告、宣戦布告すらない。新生連邦は、一方的にアステル家を襲撃する気でいたのだ。

「新生連邦の艦隊が我が屋敷へ進軍中だと!?」

「ええ、その模様です……」

「奴等に我々の情報が伝わり、その上で、力で我々を捻じ伏せる手段を取ったか!新生連邦政府め!」

ジンクは自らの不覚を責めた。しかし今はそう思っている場合ではない。新生連邦と言う脅威が迫っている中、躊躇ってはいられないのである。

「お父様、私達は戦います。ここを、守る為に。」

「……気を付けてな、ジャンヌ……」

ジンクは彼女に戦いを強いらせるのは内心、苦痛だった。実の最愛の娘が戦場に出て、艦の指揮をしている。そのような事は、本来はあってはならないのだ。

 だが彼はアステル家の当主。それ故に、迂闊に身動きを取る事は難しいのである。

 

 

やがてジャンヌ達は戦闘態勢に入っていた。乗組員は全員シュネルギアに乗り込み、ジャンヌの指示を待つばかりとなった。アレンやアイリィは自分の機体に待機している。

そわそわして、落ちつく様子のないアイリィ。その様子の彼女に気付いたのか、アレンは回線を通じて優しく声を掛けた。

「大丈夫か?随分と緊張してるみたいだけど。」

「あ……は、はい!大丈夫です!平気です!」

「それなら良いんだ。死ぬなよ。絶対に……。」

アレンは言いたい事を言った。しかしアイリィは今の彼の言葉に少し戸惑いを感じていた。

急に優しく声を掛けて来た上に、死ぬなと言う念の押し方。今回は何かがあるに違いないと、新兵である彼女は予想した。

(私だって兵士なんだから……!戦うんだ!新人だけど。でも、やっぱり緊張するなぁ……)

アイリィはそっと自分を落ち付かせるために深呼吸を行った。と、その瞬間にジャンヌから通信が入った。急な出来事だったため、アイリィは驚いた。

「各機、出撃して下さい。」

その台詞を聞いて、シュネルギアのドラグネスアサルトが出撃。それらに合わせるようにアイリィも出撃した。

そしてアレンも同様に出撃しようとしていた。その時、再びジャンヌから通信が入った。

「アレン。」

「ジャンヌ?」

「昨夜はありがとうございました。気を付けて下さいね。」

アレンに対しての激励の言葉を掛けた、ジャンヌ。強大な敵が迫る中での激励。それは、彼の士気を高める効果を発揮するのだ。

「ああ、やるよ。ブライティスガンダム、行きます。」

 

キシィン

 

そう言った時、ブライティスのカメラアイが輝いた。そして出撃し、青い翼を展開した。そのままブライティスガンダムは、無数の敵が待ち構える戦場へ向かった。

規模の大きな戦闘が、今まさに始まろうとしていたのだった。

 

 

 

今回は空が主戦場となる。しかし、広大なアステル家の庭園も戦場の一部となっている。

新生連邦は陸戦型のディープシーを投入してきた。機体のカラーリングが茶系統に変更されているその機体は、陸戦に特化した機体だ。

こうした事情もあり、迂闊に空にばかり戦力を集中して送り込めない。アステル家の限られた戦力を考えて展開しなければならない状況だ。

やがて、出撃して間も無く、アステル家所属の全機に対し、ジンクからの通信が入った。

「各員、健闘を祈る。屋敷をやらせる訳にはいかん!」

それだけを言い残し、通信は途絶えた。その瞬間に兵士達は行動した。それぞれの機体がモノアイを輝かせ、迫って来る新生連邦軍に対抗する。

ある、一隻のマドラ級から発進したジョゼフがビームライフルを連射し、陸上部隊ではディープシーが同様にビームライフルを放っている。アステル家も空と陸にドラグネスアサルトの部隊を展開させていたが、敵の数の方が多い為、この戦いは不利に感じられた。

陸上に居たドラグネスアサルトが懸命にビームライフルを打ち続け、ディープシーを破壊していくのだが、数では圧倒的にディープシーの方が上である。その為に、有利になる事はなかった。その状況で、ドラグネスアサルトは戦っていた。

 

 

空中でも激しい攻撃が続いている。エグゼマーやジョゼフがシュネルギアから発進されたドラグネスアサルトを強襲し、破壊していく。

「うわああっ!?」

ある、一機のドラグネスアサルトが襲撃された。ジョゼフのビームサーベルが、刃を展開し、怪しく輝かせている。このままではビーム刃の餌食となってしまう――

 

ピシュンッ

 

だが、ジョゼフの前腕部をビーム刃が切り裂いた。何事かと思い、反応するそのジョゼフ。カメラを、攻撃された方向を確認した時、そこには一基の飛翔体がビーム刃を展開していた。

「なんだ、あれは――」

と、驚愕した瞬間に、ジョゼフのコクピットは切り裂かれる。瞬く間にジョゼフを破壊したのは、ブライティスが展開したブリッツファンネルだったのであった。

 それだけでない。ブリッツファンネルは迫って来ていたジョゼフやエグゼマーに向け、一斉に展開される。この時の素早い動きは、並みの兵士では目で追う事が難しいとされた。

「け、桁違いだ……あいつだけ桁違いだ!」

ブライティスの存在に怯える新生連邦の兵士達。しかしそれに反応するかの如く、ブライティスは様々な攻撃を加えていく。ウイングを展開し、そこから出現するビームキャノン八門を放出。それによって、とある一機のジョゼフの頭部が破壊された。そこへ追い討ちをかけるようにドラグネスがビームサーベルを展開し、ジョゼフを切裂いた。

グレネードランチャーやビームライフルが一斉にブライティスに向かってきたが、いずれも、華麗な動きで回避を続けた。これらが放つビームライフルは腕部を差し伸ばすだけでバリアーフィールドジェネレーターが起動し、完全に防ぐのだ。

「敵が多い……一気に倒さないと……!」

アレンがそう呟いた直後、敵部隊に向かってビームライフルを構えた。と、次の瞬間にバックパックからブリッツファンネルが放出される。そして側腰部からもブラスターファンネルが放出され、それぞれが一斉にビーム攻撃をした。

無数の攻撃により、数機のジョゼフは破壊された。更に、接近戦でもブライティスは力を見せた。腰からビームセイバーを抜いては接近してくるMA、エグゼマーの背後に回り、串刺しにして破壊した。

他にも接近してくる機体があったが、いずれもブライティスはそれらに攻撃を加えて破壊していく。圧倒的な強さを誇るブライティス。機体性能、技量共にアレンのMSやアレンに満たない兵士達はいとも簡単に倒されていく。これが、デウス動乱の英雄と呼ばれた人間の強さなのか。それとも機体性能なのかは定かではないが、その圧倒的な強さはこの場を制圧するのに相応しいと呼べた。

 

 

 

シュネルギアも奮闘していた。接近する敵に対しては機関砲やミサイルを連射して弾幕を作り、遠くの戦艦には強力なビーム砲撃を加えていく。その一撃で、ある一隻のマドラ級のブリッジはすぐに消滅し、そのまま全てが破壊された。

「弾幕を張りつつ前進して下さい。敵MSを接近させてはなりません。」

ジャンヌの懸命な指揮に従う兵士達。言われるままにシュネルギアからはミサイル等が再び放出された。冷静な指揮を行うジャンヌだったが、内心ではいつ破壊されるか知れないアステル家の屋敷の存在を心配続けていた。ここを破壊されてはジャンヌは居るべき場所がなくなる上、これからの戦いにも支障が出る為である。

 アステル家と新生連邦の戦い。かつてない壮大な戦いとなったこの戦闘で、ジャンヌは屋敷を守る為、艦長として戦い抜くのだ。

「五時方向より熱源三、接近!」

「対空砲で迎撃を。」

ジャンヌの指示に従い、シュネルギア下部に存在していた対空ガトリング砲が熱源に向けられる。

 熱源の正体はエグゼマーだ。MAのそれがビームライフルをシュネルギアに向ける。迎撃するガトリングでは到底追い付く様子を見せないが――

 

バシュゥゥゥゥゥ

 

一筋のビーム粒子がそれらを瞬く間に破壊した。ブライティスが展開するブリッツファンネルが、シュネルギアを守ったのである。

(アレンが守ってくれているのですね……ですが、彼にばかり甘えている訳には行きません。)

ジャンヌは安寧の表情を僅かに浮かべた。だがまだ緊迫した状況は始まったばかり。敵に攻め込まれる事があれば、全ては終わる。新生連邦の猛攻を防ぐ為にも、彼女達も戦うのだ。

 

 

 

 

アレンも奮闘を続けていた。ファンネルを放出しては、数多い敵にビームのシャワーを浴びせて破壊する。中でもブラスターファンネルは別格の威力で、容易に敵艦を攻撃する事が出来る。

ビーム兵器はブライティスに一切通用しない。バリアーフィールドジェネレーターが内蔵されている為だ。ならばと、実弾で攻めても両手前腕部にはビームシールドがある。その上アレンの技量が重なれば、まずブライティスが通常の敵を相手に破壊されると言う事は無いと言える。

その時、一機のエグゼマーがMSに変形し、ビームサーベルを展開した。それに反応したブライティスは、急ぎ、ビームセイバーを抜き、互いのビーム刃が弾け合う。

その時にブライティスは翼からビームキャノンを放出した。八門のビームキャノンを受けたエグゼマーはすぐに破壊された。そしてセイバーを持ったままブライティスは翼を輝かせて空を舞う。たまに地上の敵にも攻撃を加えながら、彼は奮闘を続けていた。

 

ピキィィィ

 

その時だった。彼の頭の中に電流が走った。それはアレンに襲って来る危険を意味していた。実際、背後にはトリシューラランサーを、ブライティスに振るうバイラヴァーガンダムの姿があった。

「消えろ」

その瞬間ブライティスは空中で右側へステップ移動し、槍による打撃を回避した。だが続いて彼を襲ったのはアトミックガンダムのビームランチャーだった。

「オラァ!」

それを避けたと思い、僅かばかりでも安心していた時、今度はデスペナルティの二重大鎌が彼を襲った。

「そりゃあああああッ!!!」

デスペナルティが振るう鎌に対し、アレンはブライティスの前腕部にあるビームシールドで防御。そのエネルギーにより、敵の攻撃を弾いたのだ。

「グッ!」

急な攻撃を避け、防御していたアレン。その際にモニターで敵の姿を確認する。   

そこに映っていたもの……それは、三機のガンダムタイプの姿である。特殊強化モデル、三人組の機体だ。

この時から、特殊強化モデルとの戦いが始まった。しかし彼はこの時、既に三機から不気味な感覚を感じ取っていた。

(なんだ……?前と違う……この……感じ……?)

そう思っている間にも三機は容赦の無い攻撃を加え続けてくる。以前と違う感覚に、彼は惑わされている。

「死ねよ――」

バイラヴァーはビームライフルを放出した。それに続き、アトミックも変形をし、実弾兵器を駆使して攻撃をしてくる。

ビームはバリアーフィールドで防ぐ事が出来た。だがビームシールドを展開する前に実弾攻撃が掠れてしまった為、迂闊な攻撃を受けてしまう事となる。

「クソッ!」

その隙を狙わんとばかりに、再びデスペナルティが鎌を持ち、迫って来た。その、絵画に描いたような“死神”の姿は、見る者を恐怖に陥れるようだ。

「死刑やあああああッ!!!」

振りかざそうとした瞬間、ブライティスは動く。間一髪攻撃を避ける事が出来た。ビーム粒子を纏うその鎌は、直撃すればダメージは避けられない。彼の咄嗟の判断が、自らの身を守ったのだ。

「ちきしょう!あのクソガンダム!」

「心配すんなって。俺がぶっ殺すからよ!」

「てめえはあの辺りにいるザコでも狙い撃ちしてろ!」

「うるせえ!雑魚相手はてめえがやればいいじゃねえか!」

ブライティスを巡り、喧嘩を始めたニッカとハーディ。

 戦闘中で、敵が目の前にいるにも関わらずこうした口論をする。一見、明らかに非合理的ではある光景ではあるが……

 

ゴォォッ

 

別方向から、バイラヴァーが槍を展開し、迫って来たのだ。

「漁夫の利」

急いでビームセイバーを抜き、切り払うものの、その際にバイラヴァーのマニピュレーターが展開される。そして、ビームサーベルを展開し、それを投げつけたのだ。それに反応したアレンはすぐに回避運動を行った。

「ちっ。」

避けられた為、シエルは舌打ちをした。続いてランサーの先端からビーム砲を放つ。

その様子を見ていたニッカは、シエルに対して怒り出した。

「お前失敗してんじゃねぇよ!囮になってやったのにさ!」

「奴の反応速度は速い。次、やるしかねぇよ。」

ニッカの怒りに対し、シエルは冷静に呟いた。この二人の口論は、演技だったのだ。それに油断したアレンを、シエルのバイラヴァーが攻撃を仕掛け、迫って来たのである。

 これらの行動は偶然ではない。必然だ。アレンを油断させる為の罠。FLCシステムを搭載している三機のMSは、彼等のその戦略的思考をより、強固にする。攻撃的な言動が見られる反面、行動は合理的。一見無意味な行動をしているようでも、実は確実にターゲットを狙っている。

 特に今回はそれらが強化されている。こうした口論も全ては計算の内という事だ。

 

ギュオオオッ

 

その時、アトミックガンダムが突如、MAに変形し、急降下を始めたのだ。

「これも作戦の内なんだよ!!」

ハーディがそう、呟いた後、高速で移動するアトミック。

この時、アレンの脳裏に不吉な予感が通りすぎた。この機体は確実に何かをする――そう感じた彼はハーディの元へ向かう。

「まずい!止めなきゃ……!」

が、それを邪魔するのはシエルだった。後部のマニピュレーターに展開されているビームサーベルと、槍を持ち、ブライティスに迫るのだ。

「邪魔はさせない。俺の仲間がやろうとしてる事の邪魔をするな。」

「あいつが何をやろうとしているのか分かっていない癖に!」

「分かってんだよ。」

「な……!?」

やがて、アトミックは急降下を止め、MSに変形。その瞬間に、胸部のハッチを展開した。

 この重厚な胸部ハッチが展開されるという事。それは、何を意味するのかは一つしかない。

「消えろやぁぁぁ!」

次の瞬間に特殊核による核ミサイルが地上に向け、展開されたのだ――

 

ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ

 

ミサイルがそれらに触れた瞬間、大爆発が起こった。その一体に存在したドラグネスアサルトは壊滅。その上で、美しいアステル家の庭園の一部が瞬く間に荒廃してしまったのだ。

 元々トーチカ等を昨夜の夜襲で襲撃を受けていたのだが、今回の被害はそれに留まらない。密集していた機体を全滅させられ、その上で庭園を核ミサイルによって破壊された。不幸中の幸いと呼べるのは、屋敷からは比較的距離があったという事だ。

 だがその爆風は敷地全体に響く。屋敷の造りは堅牢なもので、核ミサイルの衝撃にも耐えうる強度を誇る。それは良かったのだが、問題は別の敵の攻撃だ。

 万が一多くのMSによる襲撃を受ければ屋敷はどうなるか。答えは一つ、屋敷とて膨大な熱量のビーム粒子やミサイル等の質量兵器を受け続けては、いつかは破壊されてしまう。

 今回の核ミサイル自体の破壊力も脅威ではあった。このミサイルが屋敷に飛んで来たら、瞬く間に屋敷は焦土と化していた事だろう。

「オラァッ!ハハハァ!気分がいいぜ!」

地上に居た、敵勢力を殲滅する事が出来て上機嫌の様子のハーディ。調子付いたハーディは、そのままブライティスに向かおうとするが――

「待て。」

「なんだよ!?」

その時にシエルが忠告せんとばかりに、ハーディを止めたのだ。

「今は他の雑魚を攻撃しろ。奴の感覚が変わった。少しばかり、怒っているように感じる。警戒した方が良い。ニッカも同様にな。」

この言葉に対し、いつもなら反発するニッカとハーディだったが、今回は様子が違った。

 それは、彼等自身が特殊強化モデルであるが故の反応と呼べた。彼等が戦っているアレンはアドバンスドタイプ。人為的とはいえ、力を持つ者同士故に、その繊細な感情等を読み取る事が出来る。

 FLCシステムは搭乗者の空間認識能力や合理的な判断能力を上げつつ、その、闘争本能を高める効果を持つ。だが一方で危険を察知する事に関しても優れている。故に、三機のガンダムはブライティスの存在に対して“危機感”を抱いていたのだ。

やがて、三人が警戒した通りの事が、起き始める。やがてブライティスは、三機に対して追撃を開始したのだ。ブライティスはウイングを展開し、三機に迫った。

「お前等!!!」

ウイングのビーム砲を連射し続ける。他に存在していたエグゼマーやジョゼフが巻き添えを食らって破壊された。一方で、三機はこれらを回避し続ける。

三機に迫るビームの雨。特殊強化モデルである彼等はこれらを回避し続ける。ファンネルによる攻撃もあったが、彼等は間一髪回避を行った。

だがその時。彼等の目に、とある一機のMSの姿が映った。

「おい、あいつ……」

「ガンダムタイプ!しかも国連の奴じゃねえか。」

「よし、あれをためそう。」

「あれって?あぁ、お前言ってたな。合体攻撃!良いねえ、お前やっぱ頭いい!!」

「じゃあ早速行くか」

そう言って三機はそのガンダムの元へ向かった。それこそ、今アイリィの乗っているヴァントガンダムである。アイリィに危機が迫った。

 

 

自身に危機が迫っているとも知らず、アイリィは夢中になって敵と交戦していた。迫るジョゼフと交戦を行う彼女。ビームライフルによる砲撃を回避しつつ、反撃にライフルを構え、放つ。空中での攻防戦。その内の一機に苦戦を強いられている、アイリィ。

「くぅぅっ!」

射撃を当てようにも、当たらない。ジョゼフの機動性が高いのだ。照準が定まらない中で、目視によるターゲットを行い続けるアイリィ。

「……あれは……!」

その時、彼女の眼に映ったもの。それは、別のエグゼマーがドラグネスアサルトと交戦している姿であった。ビーム刃同士を拮抗しているその姿を見た時、彼女は咄嗟に行動を開始したのだ。

 ヴァントのバーニアを展開し、エグゼマーに迫る。そして、背後からビームライフルを構えた――

 

バシュウウウウウ

 

この一撃により、エグゼマーはダメージを受ける。それに反応したエグゼマーは彼女のヴァントに迫る。だが、それはドラグネスに背を向ける事と同義だった。

 

ズバァァァ

 

ドラグネスアサルトはビーム刃を展開しており、そのままエグゼマーを撃墜した。彼女の咄嗟の判断が起こした連携。これにより、脅威を一つ減らす事が出来た。

「後はあれだけを攻撃すればー!」

と、彼女が一機のジョゼフに対して狙いを定めようとした時――

「死ねよ!ザコガンダム!!」

一機のMSが、アイリィの駆るヴァントに急接近してきた。漆黒のウイングを展開しているその機体は、二つの刃が展開されている鎌を振るい、ヴァントにダメージを与えるのだ。

咄嗟にシールドを構えていたヴァントだが、ビーム粒子を纏っている鎌の切断力は侮れない。シールドは破壊され、身を守るものが無くなったのだ。

「嘘……どうしよう……まずいよ……あんなのに勝てるワケ無い……」

予想外の敵の出現に、アイリィはただ戸惑う事しか出来なかった。戸惑うアイリィに対し、ニッカは更に容赦の無い攻撃を続ける。

 ウイングからはビーム砲が展開された。その砲撃を、至近距離で放とうとするデスペナルティ。直撃すれば死は免れない。

それも、それだけでないのだ。他にもアトミック、バイラヴァーの計三機も、ヴァントを標的にして連携攻撃を行おうとしていたのだ。ヴァントから見て前方と、それぞれ四時方向と八時方向に存在していた三機が正三角形を描くように囲み、それぞれがビームを放とうとしている。

「死ね。」

デスペナルティは翼のビーム砲、アトミックはビームランチャー、バイラヴァーは腹部のビーム砲……それぞれが一機のヴァントに向かって今まさに放出されようとしていた。それらに対し、咄嗟に反応出来る程、彼女は器用ではない。危機が、アイリィに襲い掛かった。

「嘘……こんなところで私……嫌……嫌ぁ!!!」

彼女の叫びも虚しく、それぞれのビームが放出された。真っ直ぐにそれらはアイリィのヴァントへ向かう。このままでは彼女の機体はビームを受け、消滅してしまう――

 

バイイイイイン

 

それぞれのガンダムタイプが放ったビーム粒子が、“何か”によって弾かれた。その光景に三人は目を疑った。

そこにはアレンの乗るブライティスの姿があったのだ。ブライティスは両前腕部に装備されているバリアーフィールドを展開した上で、左前腕部に装備されているビームシールドを展開し、三機のガンダムから放たれた、全てのビームを弾く事に成功したのだ。

「あ……助かった……」

と、安寧の表情を浮かべるアイリィ。

「邪魔が入ったか。」

シエルは舌打ちをし、ブライティスを睨む。

「てめえええ!!!」

攻撃を邪魔された怒りに燃えるハーディ。変形して実弾攻撃を加えるアトミックだが、ブライティスはこれを避け続ける。

「あんな兵器を躊躇なく撃って、何も思わないってのか!?」

核ミサイルと言う名の強力な兵器を放つという判断。戦闘に於いては合理的ではあるが、問題はその存在が何を示すかだ。

 核兵器はかつて叡智の炎と呼ばれていた存在だ。故にその存在は旧世紀の人間によって無力化された筈だった。核燃料の施設は宇宙に移動され、地球圏では核の存在はなくなったとされた。その代わりにエネルギー源として存在しているのが、Cメタルをはじめとした素材。それらから環境問題への配慮を経て、核以外のエネルギー源が用いられる時代となった。本来ならばそのような脅威などない世界になる筈だった。

 だが現実は違う。水面下で核の試験は行われていた。アトミックは特殊核を積んだMS。それとパイロットの状況判断やその破壊力を判断する為の試験機。それが、アトミックガンダムなのだ。禁忌とされる兵器を用いる狂気。人は己が欲の為に多くの人間が禁止としているものにすら、平気で触れるのだろうか。

 常人ならばその判断を躊躇うだろうが、特殊強化モデルであるハーディは如何にして効率的に戦闘を行うかを瞬時に判断する。故に、アステル家の庭園が焼かれた。その事はアレンの感情に変化を与えていく。

「そう言う風に、命令されてんだよなぁぁぁ!!!」

「こいつ……!」

この時、アレンは怒りを感じた。怒りを感じ過ぎてはいけない事は分かっているが、非人道的な兵器を躊躇なく使う目の前のパイロットが許せないと、判断したのだ。

 次の瞬間に、ブライティスはビーム刃を展開していた。ビームセイバーを展開し、アトミックに急接近を行ったのである。

やがて、ブライティスは接近し、ビームセイバーにて、アトミックの左腕部を切断する事に成功したのだ。

「早い!?やべぇ、油断したか!?」

焦燥に駆られるハーディ。右手部マニピュレーターはビームランチャーで塞がっており、近接戦闘に於いて成す術がない状況となったのだ。

 核ミサイルを所持しているアトミックを真っ先に攻撃するのは至極当然。故の、アレンの行動。躊躇いなく、彼はアトミックに攻撃を加えていくのだ。

 

ドオオオオッ

 

そこへ、別方向からビーム粒子の飛翔体が駆け抜けた。シエル・ホーンドのバイラヴァーが肩部からビームを放出し、ブライティスを狙ったのである。

「援護射撃。」

それに反応したアレンは、ブライティスの前腕部を差し出し、バリアーフィールドを展開して防ぐ。しかし、それを行うという事は、片一方の手が塞がってしまう事になる。

それは、更に別方向から迫って来るデスペナルティにチャンスを与える事になった。

「おっしゃあ!ナイス!」

二重大鎌を所持したデスペナルティはブライティスの背後に回り、そのまま、迫る。ビーム粒子を纏った鎌は、ブライティスに向けて振るわれる――

 

ズバァッ

 

「うっ!」

油断をした。三機の連携に翻弄されたアレン。ウイングの一部を損傷したブライティス。

 明らかに、以前交戦した時よりも敵の判断が優れている。どの場面で、どの状況で、どのように連携をすれば良いかと言う事を、まるでブライティスの全てを知っているかのようにインプットされているようだ。

 

ドバアアアアアアアアアアアアアアッ

 

そこへ、突如一筋の極太ビームがブライティスの前を横切った。そのビームが放たれた方向を見ると、そこにはヒエラクス級の姿があった。

「ヒエラクス級が三隻も!?」

新生連邦の切り札とも呼べる巨艦が三隻。その存在に圧倒されるアレン。

 だが、この状況で油断をするのは危険行為でしかない――

 

「死ね」

 

バイラヴァーがトリシューラランサーを、背後からブライティスに突き付ける。ブライティスは不覚にもそれに直撃してしまった。左胸部が損傷し、上空から叩き付けられる格好となってしまったのだ。

「くあぁっ!」

機体のコントロールが上手く出来なくなり、ブライティスはそのまま地上へ向かって叩き落されていく――

「油断した……うぅっ……!」

新生連邦軍の大群、ヒエラクス級三隻の脅威、そしてガンダム三機による猛攻。デウス動乱の英雄と呼ばれたアレンでも、これだけの数を一気に相手にするのは厳しいと呼べた。

 この三機の連携は彼の想像以上に厄介と言えた。その上で迫るヒエラクス級、三隻。これらを相手にしていなかければならないのなら、ここで朽ちる訳には行かない。

「動け……動け!」

 

キシィン

 

幸いにも、ブライティスが地上まであと数十メートルと言うところで、コントロールが回復した。まるでアレンの意思に呼応するかの如くの反応と言えた。

「オラァ!覚悟しやがれぇ!」

まるでブライティスにとどめを刺さんと、左前腕部を失っているアトミックが攻撃を仕掛けて来た。右手部マニピュレーターに所持しているビームランチャーを、ひたすらに放出し続ける。それらはバリアーフィールドで防がれるのだが、他のガンダムが別の行動をするものだから上手く攻撃が出来ない。

 再び三機に囲まれたアレン。危機的状況は続く。

「お前を倒せばこっちが有利になるんだよ。デウス動乱の英雄。」

と、声を掛けるのはシエルだ。バイラヴァーが槍を展開し、ビームを放つのだ。

「俺がやられたらジャンヌ達が危ない……絶対にやられるわけには行かない!」

「格好付けてさ!」

「お前達なんかに負けられるか!」

アトミック、バイラヴァーの二機に抵抗するアレン。それぞれの粒子を、バリアーフィールドで防ぐのだが、徐々に機体のビーム粒子残量が減って来ている事を、彼は気付いていた。

バリアーフィールドジェネレーターは稼働時間は無制限ではない。機体内部にあるのビーム粒子貯蔵タンクの量が空になれば発動しなくなるという制約があるのだ。機体内に存在しているビーム粒子をバリアーに置き換える事で、ビーム砲撃を防ぐのがバリアーフィールドジェネレーターの仕組みだ。この粒子残量が減少しているという事は、ブライティスにとっても危機的状況にあるという事なのだ。

 それに僅かな戸惑いを感じている時、シエルが攻撃を加えながら口を開いた。

「必死な英雄さんに言っておいてやる。俺等はただ、命令のままに破壊するだけで良いんだよ。別に死人とか気にしなくていい。民間人とか知るかって話。ただ暴れ狂う虎のように暴れるだけ。それだけ。それが俺達の存在意義。」

「ふざけるな!そんな事が許されるか!」

シエルの言葉は、アレンに対する明らかな挑発だ。それに対して反応してしまうアレン。

 

ピピピピピッ

 

交戦の最中、ブライティスのコクピットに通信が入った。回線を開き、対応するアレン。

 そこのモニターに映っていたのは、ジャンヌの姿だった。だが様子がおかしい。彼女の顔が映ったと思えば、映像が乱れているのだ。

「ジャンヌ!?どうしたんだ!?」

乱れているのは映像だけでない。音声もだ。雑音に紛れ、何を言っているのかが聞き取れない。

『シュ……ネ……ギ……きけ……で……もど……くだ……さ……』

明らかに異常だと判断したアレン。すぐにでもシュネルギアに戻らなければ。彼女達が危ない。恐らく、攻撃を受けているに違いない――

しかし、それを邪魔する三機のガンダムタイプ。彼は、狙われているのだ。シュネルギアを守らなければならない状況であるにも関わらず、迫る敵機体は躊躇がない。

「墜ちろって。」

そう言うのは、シエルだ。今、バイラヴァーを相手にしている場合ではない。彼はそれとの交戦を中断し、そのままシュネルギアを目指すことにした。だが、その間にもバイラヴァーは迫って来る。

「こいつに構っている場合じゃないってのに!」

槍の先端からビームを放ち、迫るバイラヴァー。それを回避しつつ、シュネルギアを目指すアレン。

「逃がすか。お前みたいな攻撃の要は倒さなきゃならないんだよ。」

シエルがそう言った直後、バイラヴァー以外の残り二機もブライティスを追う為に動き始めた。ただシュネルギアへ向かう事に必死のアレン。その後方を三機の強化モデルが迫って来ている。

「こいつらの足止めになれば!!」

 

ピシュンッ

 

邪魔をするならば、それを妨害するまで。ブライティスはウイング部よりブリッツファンネルを展開。八基のそれらが、一斉に不規則的な動きをして三機に迫った。

 こうした状況でのファンネルの存在は囮として役立つ。本体から展開されるサイコミュ兵器は、パイロットの意のままに操る事が出来る。それはアレン自身がサイコミュ兵器に対するコントロールを完全に克服した事を、意味している。

 以前の彼は敵味方問わず、ブリッツファンネルを展開し、攻撃を加えていただろう。故にレイに敵視される結果となってしまったのだが……

「ちっ、こんなもん相手にしてられねぇよ。」

ビームサーベルでそれらと戦っているバイラヴァー。だが、その数が多い為、戦闘では彼が不利だ。

「こんなもん使いやがって!汚ねぇぞ!」

ニッカがデスペナルティを駆り、鎌を振るいながらファンネルと攻防を行う。ビームを撃つファンネルに対し、鎌を構え、ビーム粒子を放つ。だが動きが読めない。状況をよく観察しても、ブリッツファンネルに寄る砲撃は彼等を翻弄するのだ。

「舐めんじゃねぇよ――」

と、シエルがシュネルギアに向かっているブライティスを見た時――

「え!?」

あろう事か、ブライティスは急に方向転換を行った。やがて、側腰部に搭載しているブラスターファンネルを稼働し、そのまま狙いをバイラヴァーに対し、向けたのだ。

 完全な不意打ちだった。ブリッツファンネルの攻撃にばかり目を取られていた彼は、この砲撃を受ける事となる――

「なっ!?」

バイラヴァーガンダムはバリアーフィールドやシールドと言った、自衛機能を持たない。故に、自らを守るものが無いシエルは回避に移ろうとした。しかし、傍でビーム刃を展開していたブリッツファンネルが、それをさせなかったのだ。

 

バシュゥゥゥ

 

その時、二機のガンダムがこれらに対して砲撃を行った。デスペナルティとアトミック。それぞれの機体がビーム砲撃を展開し、ブライティスが放ったブリッツファンネルを二基、破壊したのだ。

「へぇ、やるじゃん」

と、感心している様子を見せるシエル。

「このピュンピュンが鬱陶しいんだよォ!あの羽根付きと殺り合うにはよぉ!」

「俺も同感だぜェ!」

この間、彼等は連携していた。ブライティスの放ったブリッツファンネルを破壊するという目的。それを遂行する為に、三機は動く。その間に、ブライティスはシュネルギアに向かう。ファンネルが足止めをしてくれている中、ジャンヌ達の様子を確認しなければ――と、アレンはただ、彼女達の無事を確認する為に向かうのだ。

 

 

 

シュネルギアに辿り着いたアレン。だが、艦はダメージを負っている最中であったのだ。その、無残な姿を見てアレンは衝撃を隠せない様子を見せていた。

「ジャンヌ!」

『アレン……見ての通りです……敵の攻撃を受け続けて……このままでは……』

直接接近した為、回線は比較的安定している。雑音や映像の乱れが生じる事は減っていた。

 だがそこに映るジャンヌの表情は、どこか、弱々しい表情をしている。それは、今、シュネルギアが新生連邦によって押されているという何よりの証拠と言えた。

 では、シュネルギアは何からこのような攻撃を受けているというのか。その答えは、ブライティスの後方に存在している巨艦の存在が影響していたのだ。

「ヒエラクス級か……!」

ヒエラクス。新生連邦の切り札と呼べる巨艦。セイントバードがその型に該当している。それによる砲撃を、シュネルギアは受けている。並のビーム砲撃は殆ど受け付けず、そして、ビーム砲の出力は高いものがあるその巨艦。その存在は明らかに脅威と呼べる存在だ。

アレンがその、灰系統のカラーリングの巨艦を睨んでいる間にも、敵は迫る。それらに装備されている砲門から、ビーム砲を放出し、シュネルギアに迫るのだ。

「奴を、止めなければ……」

アレンは、狙いを定めた。シュネルギアを迫るヒエラクスを倒さなければならないと判断した彼は、ブライティスのバーニアの出力を上げ、迫っていくのだ。

 

 

 

アレンがその、存在に警戒しているヒエラクス級は、スパイッシュ・カルディアムが率いるものだった。スパイッシュがブライティスの存在を確認するなり、攻撃するように命令する。

「奴に接近させるな!機関砲発射!!弾幕を張れ!!!」

スパイッシュの搭乗するヒエラクス級の名前はヒエラクス。つまり、この艦がヒエラクス級大型空中空母の、原点となっている戦艦と呼べた。

それらが放つビーム砲は、ほぼ下位互換と呼べる空中戦艦であるマドラ級と比較して威力が高い。その上、装甲に於いても通常の艦に比較しても強固と呼べる。

ヒエラクスが放つ弾幕の多さに押されるアレン。切り札の一つ、ブリッツファンネルは三機のガンダムの足止めに使われており、ブライティスが所持している武装はビームライフル、ビームセイバー、ウイングのビーム砲、そして両側腰部のブラスターファンネル。

 だが、更に厄介と呼べるのはヒエラクスの護衛に着く、ジョゼフ、エグゼマーの存在だ。護衛の機体がビームを放つ為、これらと戦いながらシュネルギアを守り、更には三機のガンダムとも相手にしなければならない。

 一対多数。その多数にはMSだけでなく、戦艦も含まれる。それを打開する兵器としてブリッツファンネルは存在しているが、それらは今、三機のガンダムとの交戦に使われている。集中力を維持させ、その上で別の敵と交戦するという荒業。それは、アレンのような力を持つ人間でなければ不可能とされる行為だ。

 今の彼の状況は、一種のハンデを背負っていると言える。ブリッツファンネルによる攻撃が制限される中、彼は現在所持している兵器を駆使して戦うしかない。

 だが三機のガンダムをはじめとした、多数の敵機体と交戦するのには脳への負担も大きい。いくら彼がアドバンスドタイプと呼ばれる人種とはいえ、その頭頂葉への負荷は並ならぬものがあると言えた。

 

ドオオオオッ

 

一筋のビーム粒子が、戦場を駆け抜ける。それはヒエラクスに対して向けられ、ダメージを与えた。

 では、それはどこからの砲撃か?目視で確認する、アレン。

「シュネルギア……?ジャンヌか……?」

多くのMSによる襲撃を受け、絶体絶命の状況にあった筈のシュネルギア。だが、多数の敵勢力と交戦しているアレンを援護する為に、ビーム砲による砲撃を行ったのだ。

 

「ど、どう言う事だ!?アステルの戦艦が攻撃をしてきたのか!?」

ヒエラクスのブリッジ内では、スパイッシュが動揺していた。押している筈の艦からの砲撃は、彼にとって予想外の砲撃と言えたのだ。

「死に損ないの戦艦め!こうなればビームカノンの準備をしろ!あの艦を確実に沈める!」

スパイッシュは、この状況を打開するべく、ヒエラクス級の最強とも呼べる武装を放とうと提案したのである。 同様の武装をセイントバードも何度か放ち、苦境を脱した兵器。それが、ヒエラクス級のビームカノンだ。

万が一それが直撃すればシュネルギア自体が大破する可能性も有り得る。スパイッシュは今まさにそれを撃とうと指示していたのだ。

(この一戦は確実に制しなければ!エファン・ドゥーリアに舐められたまま終われるか……!)

スパイッシュは、エファンに言われた言葉を思い出していた。

 

――行動を起こすのならばせめて、“自責の念”を念頭に置く必要があると思いますよ―

 

―――カルディアム中佐は他責の念で他者に責任を押し付けているに過ぎませんね―――

 

スパイッシュを怒らせた言葉が、今になって思い出される。セイントバード鹵獲の失敗が、今の彼の行動源となっていた。

 今度こそ、失敗は許されない。自分が責任を持てば、その行動に価値が生まれるのなら、シュネルギアを攻撃してやろう。今のスパイッシュは、そう考えていたのだ。

「何をしている!早くせんか!!!」

焦る様子を見せる、スパイッシュ。だがオペレーターは彼の言葉に対し、反論した。

「損傷率を考えても、最大出力でビームカノンを撃てば艦の形状の保証はありません!」

ヒエラクス自体も損傷している状態だ。だが、その中でもスパイッシュはシュネルギアを攻撃せんと、指示を続けるのだ。

「死なば諸共だ!あれは世界の歌姫とされる小娘ののる戦艦!そんな茶番の戦艦など、墜としてしまうが吉!ヒエラクスは簡単に沈みはせぬ!撃て!責任は私が取るのだぁ!!!」

エファンに言われた自責の念の解釈が暴走している。ヒエラクスの艦長は彼だ。だが彼の責任と言うのは、明らかにクルー達を巻き込んでいる。彼の独断が、クルーを死の危険に巻き込みかねない。

 だがクルーも命令には逆らえない。スパイッシュの指示通りに、ビームカノンの発射準備が開始されていく。

やがて数秒後、ヒエラクスにエネルギーが集まり、まさにそれが放出されようとしていた――

 

 

「ジャンヌ様、前方、ヒエラクス級より強大な熱源を感知!」

「急いで、回避を!」

「ダメです、間に合いません!」

余りに突然過ぎた。ヒエラクスから放たれるビームカノンはシュネルギアの直線コースだ。直撃すれば、艦の消滅は避けられない。まさに、滅茶苦茶とも言える戦法だ。

 回避が間に合わないのならば、どうすれば良い?迎撃する為にビームを展開する?しかしその出力の差は雲泥の差だ。

 ならばプラズマカノンを放つべきか?損傷が激しいのに、それを撃つのはクルーを巻き込む事になる。ジャンヌは、迂闊な判断が出来ない。彼女達に危機が、訪れる。

(アレン……!)

シュネルギアのクルーの一人である、ココットが、心からアレンの存在を願った。今の危機を乗り越えたい。乗り越えて、生きたい。助けて欲しい……

(ココットか……?)

この時、アレンの脳裏に彼女の声が聞こえたように感じた。いや、恐らくそれを感じ取ったのだろう。

 だが目の前に存在する巨艦に寄る砲撃は間もなく行われる。直撃すればシュネルギアは破壊される。それを防ぐには、どうすれば良いか?

 答えは一つ。ブライティスのバリアーフィールドを使うのだ。アレンは咄嗟に、シュネルギアのブリッジの前に移動した。やがて、ビームライフルを腰部にマウントし、両前腕部を差し出し、まるで、ビームカノンを待ち構えるかのような構図を取る。

 これは賭けだ。粒子量が少ない分、万が一発動しなければブライティス諸共シュネルギアも粒子の光に飲まれてしまう。そうなれば、全てが終わる。艦内にいるココットも、ジャンヌも守らなければ。その為には、動くしかない。

 

 

ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ

 

 

 

ビームカノンの威力は凄まじいものがあった。理論上、ビーム粒子を打ち消す事が出来るバリアーフィールドジェネレーターではあるが、ビーム粒子残量を考えた時、これだけでは防ぎ切れない。そう、考えたアレンは、更にビームシールドの粒子を前腕部に展開し、フィールドを張った。予備の粒子をバリアーフィールドの展開に当てたのだ。

(頼む、耐えてくれ!!!)

彼は祈った。このまま、耐えてくれればよい。シュネルギアを守りたい。頼む――と。

やがてアレンの願いに呼応するかの如く、ヒエラクスの放ったビームカノンは消滅。ヒエラクスの猛攻を防ぐことは出来たものの、ブライティスの両腕部は限界を迎えようとしていた。

しかし、それでもアレンは戦う。先の砲撃により、エネルギーを消耗したヒエラクスに短期決戦を持ち掛けたのだ。ここで叩かなければ次はない。ヒエラクスを叩くのは、今だ。

「行けっ……!」

ブライティスに残されている、サイコミュ兵器、ブラスターファンネルを二基展開。僅かに残る粒子を駆使し、内一基はビーム刃を展開し、先程ビームカノンを放った、発射口に目掛けて突撃させたのだ。

この攻撃が通じ、ヒエラクスは爆発を起こした。この衝撃により、ヒエラクスのブリッジは丸見えの状態となったのである。

「ヒエラクス、敵ガンダムタイプに狙われています!」

「何!?ブリッジが見えているのか!?」

ヒエラクス級は戦闘時はブリッジを隠す事が出来る機構を備えているのだが、先の爆発により、それは出来なくなった。つまり、弱点が露出しているのと何ら変わらないのだ。

「迎撃せんかーーー!」

と、スパイッシュが焦った瞬間。ブラスターファンネルからビームが放出された。やがて、瞬く間にブリッジはビーム粒子の熱に覆われていくのだ。

 

「ば……馬鹿……な……!?ぐわぁぁぁ!」

 

それが、スパイッシュ・カルディアムの断末魔だった。数々の暴挙を行い、多くの犠牲者を出した男。アルメジャンの虐殺を容認した、士官の男が今、アレンの手によって倒されたのであった。それは、シュネルギアを守る為の決死の行動の結果と言えた。

やがてヒエラクスはそのまま地上に墜落した。墜落した場所はアステル家の領土から離れていた為、アステル家自体に直接的な被害を出す事はなかった。だがこの巨大な塊は人気の少ない山間部に沈んだ。そして、その周辺は甚大な爆発を起こす事になった。

 周囲に住んでいる人間は、これに巻き込まれた事だろう。このような質量が墜ちるという事は、人々が巻き込まれるという危険も孕んでいるのである。

 

 

 

「ヒエラクス、撃沈!」

新生連邦の要と言える巨艦であるヒエラクスが撃墜された事は、彼等にとって多大な損失と言えた。その上で、周囲の人間を巻き込む大惨事を産んでしまった事になる。これを受け、今回の指揮官であるダリアは即、決断をした。

「各員に通達……撤退せよ。」

その命令を受け、クルー達は全部隊に対して撤退命令を伝えた。

「しかし、敵艦は弱っている状態です!我が艦が追い込めば、勝機はあると考えられますが……」

一人の兵士が、言った。だがその言葉に対し、ダリアは睨み、口を開く。

「ヒエラクスは本来、沈んでは行けない戦艦だ。今回の戦力でアステル家に挑んだのにも関わらず、ヒエラクスは撃沈した。これがどういう事を意味するか分かるか?奴等の底力は侮れんという事だ。それに、これ以上一般市民を巻き込む訳には行かない……あの強化モデル共のような、殺戮を好むような事を我々はする気はないという事だ!例え、それが新生連邦の意向であろうとも!」

今回の戦闘はアステル家の強襲だ。これ程に激しい交戦が行われるという事は、一般市民も巻き込んでいるのは明白。住処を追われている者も居ると判断したダリアは、すぐにでも撤退の準備に取り掛かるのだった。

これに合わせ、三機のガンダム達も撤退を開始する。彼等は充分にアステル家への攻撃に貢献した。これ以上ない程に、被害をもたらしたのであった。

「クソ、もう少し遊びたかったのによ。」

「命令に従わねぇと遊びも出来なくなるぜ」

「命令に従って、敵を殺して金が得られればそれで十分だろうが……」

三人は、それぞれ会話を交わし、腑に落ちない様子で撤退して行った。

 その後、新生連邦側の戦艦の、マドラ級二隻と、ヒエラクス級二隻が撤退して行った。ヒエラクス級はウイングイーグルと、フェザーファルコンという名の戦艦だ。今回の戦闘では然程目立った戦闘は行ってはいなかったが、切り札とも呼べる戦艦の撃墜は新生連邦にとって無視出来ないものとなっていたのである。

 

 

 

 新生連邦軍によるアステル家の強襲作戦は失敗に終わった。だが、アステル家も無事とは言えない状況であった。トーチカなどが置かれていた中庭は、アトミックガンダムが放った特殊核ミサイルによって全てが焼け爛れてしまった。この爆風で幾つかの建造物も破壊された。アステル家の豪邸は、悲惨な状況となってしまったのである。

 これにより、幾人かの犠牲者が出た。アステル家に仕える人間達や兵士達。この惨い状況を作り出したのは、紛れもなく新生連邦による横暴が大きいと言えたのだ。

「リルム!?」

その中で、帰還したアイリィは真っ先にリルムの心配をした。幸い、彼女の部屋は攻撃を受けておらず、兵器によるダメージも受けていない。彼女は、無事だった。

「アイリィさん!怖かった……!怖かったよぉ!!」

アイリィを抱き締めるリルム。彼女の恐怖は只事ではない事が、この時点で分かる。

「無事で良かったけど……こんなの……うーん……」

アステル家の戦力を奪う為に新生連邦が起こした悲劇。これは、アステル家への被害だけで済む問題ではなかったのである。

 アステル家への襲撃は、周辺の市街地、地形にも影響を与えた。特にヒエラクス級の撃墜は山間部の甚大な被害をもたらす。新生連邦はた 目的の為に手段を選ばずに侵攻していた。全てはアステル家の戦力を削ぐ為である。これにより失われ、巻き込まれた住民達の存在も、また、隠蔽される事になるだろう。

 

 その後、ジャンヌは父、ジンクの傍に戻った。彼も無事ではあったが、幾人かの犠牲者を出してしまっており、彼は悔しさを胸中に秘めている様子だった。

「これが奴等のやり方という訳か……!ここまで我々をコケにして……!」

レヴィー・ダイルとの交渉が決裂し、時間が経過し、戦争状況になった現在。新生連邦はその報復目的と言わんばかりに、アステル家に襲撃を掛けた。この出来事は、彼等にとって大きな痛手となってしまったのだ。

 焼野原になってしまった土地。それらは全て、新生連邦による所業。そのような横暴が当然許される筈がない。目の前に広がる焼野原は、先の戦闘の愚かさを表現していた。

「平和国連盟も戦争を肯定するようになった現在で、ここが遅かれ早かれ狙われるのは理解していた筈なのにな……私とあろうものが、情けない事だ。」

最愛の妻を亡くし、それからアステル家の当主として行動を続けてきた筈のジンク。だが現実は残酷で、結局は新生連邦の襲撃を許す結果となってしまった。悔いても悔い切れない、ジンク。ジャンヌは娘として、彼の側に居る事しか出来ない。

「戦争の存在がこのような現実を作り出す……私達が出来る事は、少しでもこの世界を変える事……」

無惨に広がる光景は、ジャンヌの中で改めて決意を生み出す事に繋がる。平和だった筈の世界で、起きてしまった出来事。この現実に、ただジャンヌは静かに、今後の事について考えていたのだった――

 




第五十三話、投了。

スパイッシュ・カルディアム、退場。
ポジションとしてはZガンダムのジャマイカンとかみたいなポジションのキャラでした。

あと、物語とは関係ありませんがこの度子供が生まれました!
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