機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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場面は変わり、舞台は轟々と吹雪が止まぬ豪雪地帯へ。
そこにいる、MS乗り達とはーー


ジェルヴァチーム編
第五十四話 極寒のMS乗り達


 そこは、吹雪が絶えない極寒の地だった。そこに、一隻の陸上戦艦が存在した。その艦の一室に、レイはいた。

彼の機体は以前にメイド・ヘヴンによって撃破され、そのまま行方不明の状態になっていたのだが、何故かここに彼はいたのだ。一体ここは何処なのか?何故彼がそこにいるのか?

暫くすると、その部屋に二人の人間が入って来た。声の程良い高さからして、女性であるのが分かる。恐らく、レイの様子を見に来たのだろう。

やがて声の主はレイが眠っている前で話し始めた。レイを見て見ると、上半身に包帯が巻かれているのが分かる。

「暑くないかな?この部屋。」

「うん……暑い。」

この二人が話しているように、室内は暑かった。過剰に暖房が効き過ぎているのだ。外が極寒であるが故に、このように空調を調整しているのだろうか。

やがて声の主達はレイの事について喋り出す。

「それよりもね、この子大丈夫かなぁ?」

「多分……大丈夫だと思う。一応手当てとかしたし。うちのあのドクターに手術して貰ってたんだから、絶対大丈夫……と思う。」

「だといいけど~。さて、今はどういう状態か確認でもしておきますかねぇ~。」

と、声の主は急にレイの被っていた布団を上げ始めた。レイは相変わらずぐっすりと眠っている。体を横向け、すやすやと寝息を立てていた。この事で、彼は命に関わる状態ではないことが分かる。

「相変わらず可愛らしい寝顔……。最初は本当に、女の子かと思った。けど“あれ”も付いてるし、男の子……なんだよね。」

「ていうか、こんな子があのMSのパイロットっていうんだからさ、信じられないよねー。」

「早く目を覚まさないのかな……。そろそろいいと思うんだけど……」

と、そう言った次の瞬間――

 

「う……ん……」

レイは、目を覚ました。彼が目を覚ました時、眩い光が視界を覆った。それにより、思わず目を閉じてしまう、レイ。

「わ、気がついた!」

「眼は、青く澄んでる……」

この状況に、驚いたのはこの二人だけではなかった。レイはこの状況に対し、彼女達の数倍も驚いている様子だった。

「え……えぇっ!?こ、ここは……?」

そこは全く見覚えのない少し広い部屋だった。そして、いつの間にか自分の上半身に包帯が巻かれているのが分かった。

何が何だか分からないレイ。最初、彼はこの場所を、セイントバードの全く知らない一室だと思った。何せ、彼はセイントバードの艦内の全てを知らなかったのだ。レイはそう思って自分を落ち着かせた。

しかしそう考えたとしても、眼前には二人の見た事の無い女性……いや、少女がいる。少女と言っても、レイよりは年齢が上だろうか。そして、彼はこの二人の存在を確認し、セイントバードの艦内ではない事に気付いた。

(ひょっとして、また誰かに救われたのかな……これで何度目……?)

彼の場合、このように目を覚ませば医務室やベッドの上といった状態になることが多い。

この状況に対し、彼が考え事をしていた時。自分にとって全く知らない声の主達は喋り出した。

「ねえ、その……具合はどう?」

「あ……はい……その。大丈夫です。それより……ここは……?」

起きて早々、レイは聞いた。声の主はきっぱりと答える。

「戦艦の中。陸上艦ジェルヴァの中だよー。」

「ジェルヴァ……?」

それを聞いて、レイは余計に訳が分からなくなった。全く聞き覚えのないその名前。その上、見た事のない女性が目の前に二人……レイは混乱するばかり。

ただ、理解出来た事。それは、少女の髪色だった。一人は青く、もう一人は赤い。赤い髪の方が、戦艦の名前を言ってくれた少女だ。彼女は、ボブショートヘアーの少女である。

もう一人は青色の髪色をしており、セミロングヘアーで、右側が隠れるような前髪になっているのが特徴的だ。そして、どこかミステリアスな雰囲気を醸し出している。

「あの……突然ですみませんが……お二人の名前を教えて頂けませんか?」

訳が分からない状況。だが、助けてくれたのは恐らく間違いない。せめて、恩人の名の把握をしたいと考えていたレイは、彼女達に名前を聞いた。すると、二人はすんなりと答えた。

「うん、良いよ!」

「ええ……良いわ。」

「じゃあ……貴方は?」

そう言ってレイは赤い髪色の女性に指を指した。

「あたしはニア・エグドナ。この戦艦のMSパイロットだよ~。」

「私はクリア・ミーティ……同じく。」

二人は対照的だった。言動からしてニアは明るく、どこか、抜けている印象を持つ少女だ。一方で、クリアはどこか、冷静な印象を持つ。

「僕はレイ・キレスです。よ、よろしくお願いします……。あっ……それとありがとうございます。助けて頂いて……」

「なんの!礼には及ばないよ。」

「今のダジャレ?」

「え、何が?」

「別に……」

ニアはクリアの言葉に首を傾げた。レイも首を傾げる。

「ま、まあそんなのはどうでもいいとして!それより本当にびっくりしたよー。だっていきなり空からガンダムタイプが落ちてきてさ、収納してコクピットを見れば血だらけの女の子……いや、男の子が一人……だから慌てて助けたわけ!」

「お、女の子!?」

咄嗟にレイが反応した。少女に間違えられるレイは、ここでも間違えられてしまったのである。

「あ、いやいや……別に。」

彼は、どこかに助けてもらった事だけが理解できた。するとレイは二人に別の事を聞き出した。

「あ、あと他にも質問があります。すみません、なんだか図々しくて。」

「じゃんじゃんどうぞ!だってさ。目覚めたばかりだし、この艦は始めてなんだから無理もないよね。」

「この戦艦は、今、何処に居るのですか?」

ニアがその質問に答えようとする代わりに、クリアが答えた。

「ジェルヴァは今、恐らくノルウェー国のベルゲン付近に居ると思う今は移動中だし、吹雪も凄いから、具体的な位置とかは分からないけど。」

ノルウェーの土地勘は、レイには無い。、だが、少なくともセイントバードから大きく離れてしまった事は、間違いないと言えるだろう。レイは内心、焦らざるを得なかった。少なくても、彼が気を失う前はから少し離れた場所にいた事を考えると、相当遠い距離を移動したことになる。気にはなったが、それ以上に彼には気になるものがあった。

「あの、ツヴァイは何処にありますか!?MSデッキですよね!?何処に……?」

「つゔぁい?何それ?」

聞き慣れない名前に、ニアは首を傾げた。

「多分、あのガンダムの名前の事じゃない?」

ツヴァイの事を知っている様子のクリア。それを聞き、レイは目を見開かせ、言った。

「それです!この艦のMSデッキは何処にありますか?」

レイにとって、真っ先に気になったのがツヴァイの存在である。必死になって、レイは二人にツヴァイの在り処を聞いた。

「落ち着いてよぉ!大体君、起きたばっかりでなんでそんなに元気なのぉ?」

「それは、分かりません……それより、MSデッキの場所は何処ですか?僕、行かないと――」

と、レイが言った時、クリアがある、“物”を彼に渡したのであった。

「これ、君が付けてた装置みたいだったけど……覚えある?」

それは、サイコミュのコントロールを行いやすくする装置だ。ジャンヌが彼の為に作成した、その装置。幸い、それは損傷しておらず、ほぼ、無傷だ。

「それ、僕の……。」

レイの言葉を聞き、クリアはそれを、そっと手渡した。それと同時に、装置を耳輪部に装着した。

「なんかの装置かな?」

「さあ、知らない」

彼のその姿を二人は並んで見ていた――その時。

「なんだろう、これ……ツヴァイが呼んでるような気が……」

不思議な感触だった。まるで、脳内で機体が呼んでいるような感触だ。サイコミュの力がそうさせるのか。それは、分からない。

 レイの中で、ツヴァイのヴィジョンが見えたのだ。脳内から感じる妙な感触。それを感じた時、レイはすぐに立ち上がった。今、彼は上半身を包帯で覆われている状態であった為、側にあったコートを羽織り、走り去った。

「え!?ちょっと、身体は大丈夫なの!?病み上がりなのに走れるなんて!?」

「不思議な子……」

そう言った二人も、彼の後を追い掛けるのだった。

 

 

 

 装置が導く感触のままに、レイは知らない艦のMSデッキの場所まで移動することが出来た。それは彼が力を持つ人間であるが故に、出来る事なのかも知れない。

ジェルヴァと呼ばれる戦艦の、MSデッキ。そこには、レイにとっては当然であるのだが、全く見慣れない人達が大勢いた。見た事の無い場所に、レイは混乱しそうになる。そして、MSデッキには様々なMSの姿が多数存在した。旧デウス帝国のMSや、新生連邦のMSの姿も、そこにはあったのである。

その中で、レイはツヴァイを探した。ディーストやジョゼフが並ぶ中で、彼はひたすら探した。

そして、MSデッキの端まで走り切った。しかしツヴァイの姿はどこにも見当たらなかった。存在は感じる筈なのだが、何処にあるのかは分からない。

「そんな……僕のツヴァイは何処に……?」

やがてレイは走るのをやめ、ゆっくりと歩き出した。ずっと下を向き、落ちこんでいる。ツヴァイが見当たらないショックはあまりにも大きかった。

 

ポンッ

 

「あのさ、いきなり走られて迷惑なんだけど。何してんのよ。」

と、そこへレイの肩を後から叩く少女が現れた。セミロングヘアーで、揉み上げ部がツイストしている。髪色は瑠璃色。愛らしい一方で、どこか鋭い印象を持つ、その少女。背丈はレイよりも5センチ程度高い。彼女は、迷惑そうな表情でレイに言った。

「あ……その……ごめんなさい……」

と、レイは少女の顔を見て謝罪する。だが、少女はレイの顔を見た時、思い出したように言った。

「あ、もしかして……この前、落ちてきたガンダムのパイロットじゃないの!?」

ずいと、少女はレイの顔に近付き、言った。

「え……?あ、はい。」

「え?身体は?安静にしてないと行けないんじゃないの?」

「もう、大丈夫なんです。」

「へぇ~」

レイの自己再生能力の高さがここでも活かされた。何日寝ていたのかは分からないが、今のレイは身体に支障は無い様子だった。

「それより……僕のツヴァイを知りませんか?」

彼は最後の賭けに出た。これでもし〝知らない〟と言われたらこれから先、レイはどうすれば良いか分からない為である。すると、少女は口を開けた。

「ツヴァイ……?ああ、あのガンダムタイプのコト?」

最初は疑問を抱いたシャルアだったが、すぐに表情を変え、言った。

「それならね、あのシートの中。ただ、損傷が酷くてね。」

と、少女は何かを被せているシートを指差した。彼はそのシートの存在に気付いていなかったのだ。レイは急いで走り、シートの元へ向かった。

その際、少女は他の整備士達にシートを退かせるように命じた。そしてレイは中を見る。

ツヴァイは、あった。だが頭部アンテナは見事と言える程に折れており、カメラアイも粉砕している。ブリッツファンネルがあった場所はほぼ、原形が留めていない。辛うじてプラズマキャノンは原型を留めていた。

総合的に見て、機体損傷は激しい。恐らく墜落した際に大きくダメージを受けたのだろう。だが、白い機体色が輝いている“それ”を見た時、レイは安心し、溜息を吐いた。

「はぁ……良かったぁ……でも、酷いな……」

落ち込む、レイ。機体はあるとはいえ、この状態では復元まで暫く時間を要するだろう。

そうなっては、暫く動く事も出来ない。ツヴァイがなければ、セイントバードと合流する事も出来ない。レイは、途方に暮れてしまっていた。

「ちょいちょい」

少女が、落ち込むレイに対して声を掛けた。少女は、レイの顔をじいと見つめる。

「あんた、なんか色々と大変みたいだけど、ちょっと教えて欲しいんだけどさ。名前、なんてーの?」

突如名前を聞かれたレイ。困惑しつつも、返事をする。

「ええっと……レイ・キレスです。」

「歳は?」

今度は年齢を聞かれた。異様に、関心を抱いている様子だ。

「十五歳、ですけど……?」

それを聞いて、少女は余計にレイに迫ってきた。

「十五歳!?天才だ!絶対、あんた天才!たった十五歳でこんな複雑なスペックの機体を扱えるなんてもはや天才としか言い様が無い!空から降って来たガンダム、そしてその中にいた不思議な少女……いや、少年!これってなんかあれね、ミステリーね!てか……顔、可愛い。まるで女の子みたい。」

「み、ミステリー……?って!僕は女の子じゃなくて男ですよ!」

「ばーか。分かってるわよ。」

どうやら、彼は凄い人間だと思われているらしい。彼女の存在により、レイは困惑せざるを得ない状況に追い込まれ続ける。

すると、次に少女は聞いてもいないのに名前を言い出した。

「あ、そうそう。名乗るのを忘れてたね!あたしはシャルア・ジェイン!ジェルヴァ専属の整備士!ちなみに年齢は秘密!ま、強いて言うならあんたより一つ年上かな?」

(答え言ってる……)

妙なテンションの相手に、レイは困惑する。初対面である筈なのに、異様に馴れ馴れしい印象を持ったのだ。

今の彼が具体的に理解出来ている事。それは、ジェルヴァと言う名の戦艦の中にいて、その艦は今、ノルウェーにいると言うことだけだった。その他の事情に関しては、全く分からない。

「……シャルアさん……ですか?どこかで聞いた覚えがあるような……。」

何処でその名を聞いたのだろうか。何故、彼はその名を知っているのだろうか。それは、今では思い出せないでいた。彼の疑問に対し、シャルアは首を傾げる。

「ん?どうしたのよ?」

「あ、いえ――」

覚えのある名なのに、思い出せないレイ。ただ、彼は戸惑っているばかり。

 

「シャルア!あんまり迷惑を掛けるなよ。」

その時、一人の男の声が聞こえた。颯爽とした印象を持つ、若々しい声だ。

「あ、キャプテン!」

「え、この人が……?」

現れた男は若々しく、見てみると二十代前半の人間に見えた。髪は淡い黄色で、長髪である。その上男は、ジェルヴァのキャプテンであり、艦長だと言う。何やら軍人が着るような立派な衣装を着て、様子を見るためにこのMSデッキにやって来たのだ。

「あぁ、君かぁ。落ちてきた子供というのは。」

妙に爽やかな様子のジェルヴァの艦長に、レイの頭は余計に困惑した。

「困る必要は無いよ。ここは軍じゃないからね、君を責めることはまず無いよ。しかし驚いたな。君はもう1週間ぐらい寝ていたんだよ。もう助からないかと思ったぐらいでね。心配したよ。」

「え!?僕、そんなに寝ていたんですか!?」

「ああ。けどホシェルが手術は成功したって言ってた。それを聞いて聞いて安心したよ。それでずっと目が覚めるまであそこの部屋に寝かせておいたって訳さ。あぁ、申し送れたね。俺の名前はゲイル・ゼノイア・バーダ。ここのキャプテンを務めているのさ。」

男の名前はゲイルと言った。彼はレイと喋る際、髪を掻き上げる癖があった。レイは、これらのような個性豊かなクルーの多い艦に助けられてしまったのだ。

困惑続きのレイに、ゲイルは気を遣うように言った。

「やっぱり慣れないかい?ま、君はここに来て五日経つからね。その間ずっと寝ていたんだ。実質この艦の事を知ったのは今日が始めてなんだからそりゃ無理も無いか。あ、そういえば君はいつ起きたんだい?」

と、突然質問されたので、レイは答えた。

「さっき……です。そしたらここにいて。なんだか訳が分からなくって。」

「無理も無い。そりゃいきなり全く知らない場所に自分がいたら誰だって困るもんだ。それより怪我は大丈夫?包帯巻きっぱなしで無理して。」

「あ、無理はしていません。怪我はもう治りました。痛みもありませんし。」

レイの自己再生能力の高さが活かされた瞬間だ。寝起きで走れ、意識もはっきりとしている彼の存在を見て、ゲイルは驚愕していた。

「もう?君、怪我の回復早くない?まあ、それなら良いんだけど……」

その時、突然ゲイルは思い出したように言った。

「そう言えば、君の名前を聞いていなかったね。名前はなんて言うんだい?」

「僕は、レイ。レイ・キレスです。」

先程シャルアにも歳を言った為、当然のようにゲイルにも言った。

「レイ君……か。よろしくね。」

そう言うとゲイルは微笑みながら握手を要求してきた。レイはそれに応じ、彼と握手を交わす。

「宜しく……お願いします。」

「はは、そんなに固くなるな。もっとリラックス!この艦に悪い人はいないよ。例外は一人いるが……」

(例外……?)

その言葉に妙な感心を抱くレイ。するとゲイルは言葉を奪回した。

「あぁ、気にしないで。大した事は無い……と思う……」

(え、どうして言葉が小さくなったんだろう?)

彼は色々と、疑問や困惑を感じつつも、この艦のメンバーに悪い人間は恐らく居ないと、直感ではあるが感じていた。自分が置かれた環境は、恐らく安心できる場所なのだろうと、彼は感じている。

ゲイルとレイが会話をしている時、先程の整備士の少女の、シャルアが彼の側に寄って来た。

「てかさ、あんたさ、落ちて来た時血まみれだったんだよ?重傷だったのにさ、よく一命取り留められたよね。奇跡的って言うか、何ていうか。」

何度か首を縦に振るシャルア。レイの存在が、彼女にとって余程大きい存在だと見える。

「にしてもこんな女の子がガンダム……それも、ハイスペックの機体を操るなんて……世の中ってのは不思議な事も起こるもんだ。空から女の子が!ってやつだね。まさに。そんなアニメ、あった気がするなぁ。」

と、ゲイルが言った時、レイ思わず反応してしまった。

「僕は男です!」

またしても少女に間違えられたレイ。何も知らないゲイルは少しばかり驚いたが、やがてそれを笑いに変えた。

「あははー、ああ、ごめん、男の子だったのかい。君、女の子みたいな顔してるからさーハハハ……」

「“僕”って言いましたけど……?」

「僕っ子っているだろ?そういう子なのかと思ってたよ。ハハハ。」

笑いながら言われたので、レイは少し頬を膨らませた。

「てかさ、あのガンダム整備してた時に気になったんだけどさ、あれ、サイコミュ兵器が搭載されているんだよね。サイコミュ兵器自体そうそう見ない兵器ではあるけれど……え、待って?あんたまさか、シンギュラルタイプ!?」

シャルアはレイを指差して言った。サイコミュ兵器は、この世界で多くに知られている存在では無い。ツヴァイに搭載されている、脳波コントロールを行う事が出来る兵器の存在を見て、彼女は驚愕したのだ。

「え?その、自分じゃ分からないんですけど……」

彼自身、力を持つ人間ではあるのだろうが、それはシンギュラルタイプと呼ばれる人間なのかは分からない。ただ、彼は話を合わせる為、渋々、頷く事にしたのだ。

「へぇ!シンギュラルタイプかぁ!やっぱり、あんた只者じゃないと思ってたんだ!凄いな!興味あるな!」

どうやら、シャルアは、シンギュラルタイプという存在に対して非常に興味を持っているらしい。その為か、余計にレイに詰め寄ってきた。レイの居た環境が特殊なだけなのだろうか。力を持つ存在という事でこれ程関心を抱かれる事等、予想もしなかったのだ。

「シンギュラルタイプってさ!そもそもどのようにして発生するのか!?遺伝?それとも突然変異!?これは全てにおいて謎の事って言われてる!あたし、こーゆー人間大好きなんだ!あんたがシンギュラルタイプなら、尚の事興味ある!あの、噂のピキーンってやつ!あれもシンギュラルタイプ特有なんでしょ?」

「あ……あの……」

余計に詰め寄られ、レイは更に困惑している様子を顔に出してしまった。それを見たゲイルはシャルアの肩を持ち、そのまま離した。

「シャルア。レイ君が困ってるだろ。あんまり質問ばっかりしてやるなよ。」

「でも艦長!やっぱりシンギュラルタイプって凄く興味あるし……」

未知なる存在、シンギュラルタイプ。その全貌は、謎に包まれている。それ故に、関心を抱かれるのは分かる。だが、彼自身も把握していない事を言われても、ただ、困惑するだけなのだ。

「僕も、分からないんです……気が付いたら、こんな力があって。でも、それって何なのかも分からなくて。ただ、なんか妙な感触があるというか、なんていうか……すみません、説明できないです。」

「ふぅん、成程ねぇ。」

と、シャルアは考える素振りを見せた。自身が分からない事を言われ、レイはそのまま、黙ってしまう。

その中で、ゲイルが話題を変えるように、咳払いをし、口を開いた。

「そうだ、レイ・キレス君。とりあえず君の事について知りたいね。今、俺が分かっている事は君がこのガンダムのパイロットである事と、言い辛いかも知れないが、君がシンギュラルタイプ……なのかも知れないという事だけだ。あと、年齢か。それにこのガンダムの事も色々と知りたいしね。」

ゲイルがそう言ってくれる事で、ようやく今置かれている状況の理解が出来そうだ。レイは、それに対して快く首を縦に下ろした。

「だが、その前に。包帯を剥がしておかないとな。もう大丈夫なんだろう?」

「あ……ええ。」

「じゃあ先に医務室だな。そこにいる女医のホシェル・ゼオードに言えばいい。ただ……その女は……気をつけた方が……」

「え、何がですか?」

意味深な発言。レイは首を傾げた。

「いや、なんでも……ない。じゃ、じゃあ行こうか。」

(何だか嫌な予感がするのは僕だけなのかな……)

艦長のゲイルがやたらと恐れるそのホシェルと言う名の女医。一体、どのような人物なのかは不明だが、彼を手術したのはその女医だという。彼女に会う為に、レイはゲイルに連れられた。

 

 

 

医務室の前に二人は着き、ゲイルはレイに入るように言った。その際にもゲイルはホシェルという人物を恐れている様子だった。

「失礼します。」

しかし部屋を見ても誰もいなかった。後ろを振り向いても誰もいない。レイは首を傾げ、そのまま部屋を出ようとした――

 

「待ったぁ!」

 

その時、突如背後から女性の、甲高い声が聞こえてきた。

「うわっ!?」

急に声を掛けられ、そのまま身体のバランスを崩し、あろう事か、尻餅を付いてしまった。それを見た女性は、慌ててレイを立ち上がらせる。

「あ、大丈夫?」

「あ……はい……」

手を引っ張る女性。その時、彼女の姿を始めて見た。

 白衣を羽織ってはいるが、胸元が大きく開かれている。どこかセクシーな印象を持つその女医。ミドルヘアーで、やや癖毛が印象的なその女性。スタイルは良く、美人と呼べる人間だ。

「あ、貴方が……ホシェルさんですか?」

大きく開かれた胸元はレイを恥じらわせる。

「あぁ……私はホシェルだけど。あぁ、あんたよく見たらあれか!ガンダムタイプに乗ってた可愛い子!」

ホシェルは彼の想像していたよりも、美人で、ゲイルが恐れる理由が全く理解ができなかった。しかしレイは警戒心を失わず、慎重にここに来た目的を言葉にした。

「あ、あの……包帯を剥がして欲しくて……ここに来たんですけど。」

所々言葉を詰らせて彼は喋った。するとホシェルは言った。

「あぁ~、結構、結構。怪我はもう治ったんだって?けどあの怪我じゃ推定全治約二ヶ月はかかると思うだけどなぁ……。まあ良いや。座って。剥がしてあげるから。」

「あ、どうも……」

そう言われてレイは側にあった回転する椅子に座った。ちょこんと座り、ホシェルの指示を待つ。

「後ろ向いて。」

そう言われて回転椅子を利用して後ろを向き、そのままじっとした。ホシェルはそのまま包帯をゆっくりと剥がしていく。やがて見えてくるのは、傷跡どころか、瘢痕すらない、白く、奇麗な肌だった。それを見たホシェルは、何度か瞬きをした。

「え?傷跡も完治?たった五日で?」

全治二ヶ月と診断したホシェル。だが、彼の怪我はそれどころか、急速なスピードで回復を遂げたのである。その事に驚きを隠せない。

 それは、ネルソンと同じ反応だった。医者である彼も、レイの回復力の早さに目を見張っている。しかしその根本的な原因は何なのかは不明だ。

 彼の自己再生能力の早さは、誰もが分からない。医者と言う専門的な知識を持つ人間ですら分からないのだから、理解が出来る筈がないのだ。

「凄い、奇麗過ぎる……こんなに傷跡って残らないもの?いや、オペした時の身体はもっと傷だらけだった筈……一体、あんたは何者……?」

と、言いながらホシェルは彼の背中にそっと、触れた。こそばゆい感覚が、指から伝わり、ぴくりと反応する。

「ひぁっ……!」

思わずレイは声を上げてしまった。

「ふぅん、瘢痕とかも何もない。綺麗。完璧に皮膚が再生してる。こんな人間、始めて見たかも……ねえ、あんた。一通りの運動、してみな。」

どのような運動をすれば良いのかは分からないが、ホシェルの言われるままに、レイは身体を動かす。疼痛の訴えも、何もない。念の為に血圧、脈拍、酸素飽和度等を確認するが、いずれもが正常値だ。

「凄い……健康体そのものじゃん。」

と、言った後、ホシェルはじいとレイの身体を見る。突然の出来事に、レイは戸惑いを見せた。

「にしても、あんた良い身体してるねー。綺麗な身体。怪我人とは思えない身体ねー。」

「へ?」

 

パンッ

 

次の瞬間、ホシェルは突如平手でパンパンとレイの背中を叩き始めた。突然の出来事に困惑するレイ。だが、然程痛みを感じなかった。だが、徐々に彼女は力を入れてくる。

「本当にあんた見た目は華奢だけど良い身体してるわー。」

やがて、その力は徐々に強くなっていく。いつしか、それはレイ自身が痛みを訴える程になっていた。

「あぁっ!痛い!痛いです!やめて下さい!」

あまりの痛さに彼は少し涙ぐんだ。しかしホシェルは反省する様子も無く言い出す。

「うるさいな、良いじゃない。皮膚さえ完治する丈夫な体だったらこれぐらい平気でしょ?」

しかし彼女の平手は非常に威力が高い。加減をする様子は、全く無いようだ。

この時、レイは艦長のゲイルが彼女を恐れる理由が理解出来た気がした。突然人を打つという暴挙に出るこの女医の思考が、分からないレイはただ、痛みに耐えるしか出来なかったのである。

 

 

 

その後、レイは引き続きゲイルに案内された。先のホシェルからの暴力ではあと溜息を吐く、レイ。

「彼女はなんでもやり過ぎる傾向にあるんだよ。初対面である君に対しても、ちょっとね……」

「僕、生まれて初めて医者に叩かれた気がします……」

「そりゃ、そうだよねぇ。」

妙な体験をした、レイ。その間も、ゲイルに連れられ、移動する。

それらの光景は、全く見覚えがない。ただ、レイは戸惑い続けるばかりだ。キョロキョロと見回し、自分にとって全てが珍しい空間を歩きながら、じいと観察している。

「珍しいかい?戦艦の中は。」

「あ、いえ……特別に珍しい訳じゃないんですけど……」

「へえ、じゃあ君は元々どこかの戦艦に所属していたという事になるね?」

レイの身辺を聞こうとするゲイル。レイも、助けて貰った恩もあり、自身の答えられる範囲で様々な事を答えて行こうと考えていた。

「僕、元々MS乗りの一員だったんです。」

レイのその台詞を聞き、ゲイルは驚いた。

「へぇ!君はMS乗りなのか!その割には……あの機体は随分立派なMSだね。MS乗りが与えられる機体とは思えないよ。」

MS乗り。戦後になって存在するようになった野蛮な存在。戦前に使用された機体を中心にバリエーションを作り出しているのが主流だ。砂漠の狩人のディザートディーストや、悪魔の鮫のズボラーナX等。セイントバードのトルクスも該当する。その中で、レイの乗って来たガンダムタイプが存在するというのは非常に珍しい事なのだ。

「やっぱり珍しいですか?ガンダムって。」

「そりゃあもう!ガンダムと言えば、連邦の機体だからな。過去に存在したファースト・ガンダム!あれを模している機体が今、新生連邦で多く生産されているという話は聞くけど、まさかここでその、ガンダムに対面出来るとは思わなかったよ!」

感動している様子のゲイル。その様子から、彼もガンダムタイプに何らかの関心を示している様子だった。

「さて、今から俺の部屋に君を案内しようかな。MS乗りのレイ・キレス君。色々と、君のお話もじっくりと聞きたいしね。」

今からレイは、ジェルヴァのブリッジに案内される。それがどのような環境であるのかは分からないが、見知らぬ戦艦に保護された彼は、ただ、その艦長を務める人間に案内されるばかりだった。

 

 

 

轟々と吹雪が絶えない場所。その為、外の景色がどのような場所を移動しているのかが不明だ。ゲイルの部屋には、そのような光景が見る事が出来る窓が備え付けられていた。

やがてゲイルに案内され、レイは椅子に座った。ゲイルは先にマグカップを二つ用意し、そこに、機械からココアを注入した。

「暖かいココアでもどうだい?」

そう言ってゲイルはマグカップをレイに手渡した。同時に、彼も斜め前に座った。

「あ、ありがとうございます。」

レイは礼を述べた後、淹れたてのココアを少し啜った。思いの外熱かった為か、舌を火傷してしまった。慌ててマグカップを置き、そっと息を吹き掛ける。

「ハハ、火傷したね。慌てて飲むからだよ。」

笑う、ゲイル。レイは内心、恥を感じていた。

「さぁて、一息吐いたところで、色々とお話を聞かせて貰おうかなー。」

「あ……はい。」

ゲイルは話しやすい印象を持つ男性だ。変わったばかりの環境で、緊張しているレイに対しても、自然な様子で会話をしている。それが、レイにとっては有難いと言えた。

「君は元々どんなMS乗りに所属して、今に至るんだろうか。差支えがなければ教えて欲しい。」

情報収集は基本だ。レイが何者かが分からない以上、あえてゲイル自らが聞くのだ。その上、彼は護衛を付ける事をしなかった。

「僕は――」

レイはこれまでの経緯を話した。MS乗りとして各地を移動していた事等。その中で、ガンダムを受け取った話も。そして、デスゲイズとの戦いで敗れ、今に至るという話も。

「へぇ、君はセイントバードと言う戦艦に所属していたという事か。その名前は、聞いた事あるな。」

「え、そうなんですか?」

このような辺境の地と呼べる場所にまで、セイントバードの名前は知られていた。それは、喜ばしい事なのかは定かではない。

「にしても、君の話を聞いていると、うちのチームと生い立ちが似てるような気がするね。」

「チーム?ここの、チームですか?」

「ああ。」

その時、ゲイルは窓の方向を見た。吹雪が続く、酷くも美しい自然の光景を、呆然と見つめる、ゲイル。

「この戦艦もさ、旧連邦軍の地上艦であるシャーディア級の四番艦でね。それを利用させて貰ってる。先の大戦で使われていた戦艦だけど、少し修理をすれば使う事が出来た。」

ジェルヴァがどのような経緯で今に至るのか、大まかではあるが理解したレイ。だが、この艦が何の為にMS乗りをしているのか等と言った目的などは不明だ。

「なんだか、デジャヴを感じているんです。その、前も同じような感じでセイントバードに助けられたから……」

「へぇ、じゃあ君はよく助けられ易い人間って事だね。」

それは否定出来ない。事実だからだ。今までも、何度も助けてもらう経験をし、その度に生き残ってきた。

「そして、君に一番聞きたい事があるんだよ。」

「聞きたい事……ですか?」

その際のゲイルの表情は、どこか真剣だ。先程までのひょうきんな印象を持つ彼とは違う、眼差しはレイを緊張させる。

 人間は核心突いた質問をする時、その表情を変える。例え心理学者でなくとも、本能的にそれを察する事は、実際の会話でも多い。

「あの、ガンダムについてだ。ツヴァイガンダムとか言ったかな。あれに既視感があってね。どこで見たかなぁって考えてたんだけど、思い出したよ。」

そう言った後で、ゲイルはEフォンを取り出し、ある、動画を見せた。

 それは、ヴァイダーガンダムがロンドンを襲撃している動画だ。その中で、ツヴァイがプラズマキャノンをヴァイダーの脚部に放ち、行動不能に追い遣った光景が映し出されていた。

「このガンダムタイプ。今、うちで修理している機体と瓜二つだよね。というか、それ、そのものだよね。」

こういう時、世界中で広がっている動画というのは恐ろしい役割を果たした。一度、SNS上等で上げてしまえば瞬く間に動画は拡散される。ヴァイダーガンダムの襲撃は新生連邦が隠す事のない動画であった為、その惨い光景は世界中が見ることが出来た。故に、そこで交戦しているツヴァイの姿も映るのである。

「それは……」

言い訳が出来ない。その時に戦っていた事は紛れもない事実なのだから。

「セイントバードと言う名前が聞いたことあるのと、君のガンダムがあのロンドン襲撃で戦ったガンダムというのは恐らく、何らかの関係があるんだろう。そして、君はやはり只者ではない。違うかい?シンギュラルタイプかも知れない、レイ・キレス君。」

どこか、ゲイルから怖さを感じた。やはりガンダムに乗って落ちて来たという事は注目されるのが当然と言える。

 最早、隠す事も出来ない。恐らくゲイルが聞きたいのは、ツヴァイガンダムが何処で作られたのか、何故レイが乗っているのか……といった事だろう。出来れば、レイは話したくなかった。それを話す事で、何か不利益が生じても行けないと、考えている為だ。

「そのガンダムは――」

と、レイが口を開けようとした時――

 

「ハハハハハ!びっくりした?迫真の演技!」

「え?」

ゲイルの表情が、変わった。それを見たレイは、何度も瞬きをした。

「君が只者じゃないのは事実だろうけどさ、だからって悪い扱いをする程俺だって悪人じゃないよ!寧ろ、ガンダム伝説のファンとして、ガンダムタイプのパイロットに会えた事が光栄なんだよ!あのガンダムのパイロットだからどうこうするとか、そう言うのは一切興味なくてさ!色々とエピソードを聞きたいだけ!それだけだから!ね?」

まるで、物事を知りたがる子供の如く、ゲイルは笑顔だ。その表情にやや、違和感を覚えるが、レイは直感で感じ取った。彼は、間違いなく悪人ではない――と。

「いや、もし話したくないのなら全然構わない!人間は誰もが知りたくない秘密ってあるからね!土足で人の心に入るのが良くないように、出来るだけ君に丁重にもてなしをさせてもらうよ、レイ君!」

やはり、ゲイルは優しい人間だと、感じたレイだった。

「あの、良いんですか?ガンダムの事とか聞いたりしないんですか?」

「色々事情はあるのは分かるけど、知ったからと言って別に悪いようにする気もないよ。あんまり深入りする事情でもないしね。」

ゲイルは、レイが思っている以上に、あっさりとした性格だった。先程の、ガンダムについて聞く時の表情は何だったのだろうか。

「さて、事情はある程度把握出来た。ありがとう。身体も問題ないみたいだし、君の部屋を用意するよ。少し待ってくれ。クルーに伝えるから。部屋をすぐに用意するからね。君の私服とかも全てそこに置くようにするから。」

と言った後、ゲイルは室内にあった電話を使い、艦内のクルーに、伝えた。

その後、彼はゲイルに連れられ、用意された部屋に移動する事になった。この一連の動きも、以前にセイントバードに助けられた時と、殆ど同じと言えたのだ。

 

 

 

その部屋は、清潔そのものと言えた。その上で、シンプルな作りだった。まるでビジネスホテルの一室のような部屋である。ベッドが一つ窓側に置かれており、その上で、ユニットバスのような作りの浴室がある。ただ、ベッドのサイズはセミダブル程度の大きさだろうか。細身の人間が二人、横になる事が出来るサイズと言えた。

多くの出来事を経験したレイは、ようやく一人の時間を謳歌することが出来たと言えた。ここに来て、確かに助けて貰ったのは有難い事だ。だが、一方で目が覚めてから多くの刺激を一度に受けすぎて、疲労が蓄積してしまったのである。ここ、ジェルヴァの人間達は皆が個性的だ。それは良い面もあるが、初対面のレイからすれば刺激が強いと言えるのだ。

レイは、シャワーを浴びる為に浴室を利用した。そこで用意されていたシャンプーとボディソープを使い、身体の隅々を洗う。

泡立った身体と髪はシャワーによって流される。その際、鏡に映った自らの身体を見て、呟いた。

「本当に、傷跡一つもない……僕の身体って、本当に何なんだろう。」

大怪我をした筈なのに、傷一つ付いていない。皮膚組織の再生が早いのか、それは不明だ。ただ、彼の身体に関してネルソンやホシェルが言うように、やはり特殊なのだろうか。それは、彼自身にも分からないのである。

 奇麗な、白い素肌。それでいて、引き締まっているレイの身体。だが、これが彼にとって不思議だったのだ。

やがてレイは浴室から出る。頭をバスタオルで拭き、下着を着た後でバスローブを羽織り、ベッドに横たる。

 呆然とする、レイ。またしても多くの事を経験した彼は、不思議と感知している自らの身体を不思議に思いながら、Eフォンを取り出そうとした。

 端末は、あった。それを起動させようと電源ボタンを押す。しかし、付かない。何度押しても付かないのだ。疑問を抱くレイ。故障なのか?それは不明だ。ただ、付かないのである。

「こんな、こんなのって!これじゃあエリィさん達と連絡が取れない!母さんとも……リルムとも……」

最悪の状況と言えた。Eフォンがなければ連絡を取れない。何も出来ないも同然。自身の無事をエリィに伝える事も出来ない。はぁと溜息を吐く、レイ。どうすれば良いか分からず、ただ、途方に暮れてベッドに横たわった時だ――

 

ウィィィン

 

「やぁ!」

明るい声が聞こえた。女性の声だ。浴室から出たばかりのレイは、目を疑った。

「……え?」

レイは驚いた。何故ならば、そこには整備士の少女、シャルア・ジェインが居た為である。

「えと……確か、シャルアさん……でしたっけ……えええええ!?どうしてここに居るんですかぁ!?」

レイに関心を抱いている少女が目の前に居た。それも、彼しかいない部屋に。その事に驚愕する、レイ。

「いや、だってさ、あんた部屋の鍵を掛けてなかったでしょ?だから入ったの。不用心にも程があるわよ!」

レイは疲れのあまり、鍵をかけるのを忘れていた。それを見ていたシャルアがこっそりとレイの部屋に入ってきた訳である。だが、そもそも人の部屋……それも、知り合ったばかりの人間の部屋に堂々と入るという事は、余りに失礼であると、言えた。或いは、対人に対する距離感が異様に近い人間だというべきか。

「うぅ、忘れてた……じゃなくて!おかしくないですか!?知り合ったばかりですよね、僕達!?」

と、困惑するレイだが、シャルアは気にする様子を見せない。

「気になってるのよ、シンギュラルタイプのあんたがね!だから、せっかくだしお話しようかなーって思って!あんたみたいなミステリー少年の話を聞く事なんて、機会なかなか無いし、せっかくだから話そうよ!!」

異様にハイテンションのシャルアに困惑するレイ。それと同時に、自身の格好を恥ずかしく思ったレイは着替える為に立ち上がろうとするが、何故かシャルアに止められる。

「え?着替えるの!?」

「勿論ですよ!大体、こんな格好で会話なんて……」

「え、良いの良いの!そっちの方がなんかエロいし!なんか女の子っぽさが目立つって言うか!艶っぽいって言うか!」

(え!?この人……)

シャルアの発言に動揺するレイ。そして、彼女の異様なペースにいつしかレイは飲まれているのを感じていた。

「冗談よ、もう!何引いてんのさ!」

と、言いながらシャルアは、まるで慣れた様子でベッドの上に端坐位姿勢を取る。そのすらりと伸びた足をばたばたとさせ、レイの方を見るのだ。

「さて、レイ・キレス!あんた、何処の出身なの?」

それを聞かれ、レイは答えた。

「えと……モントリオールです。」

〝何処〟と言われ、彼は出身地を答えた。するとシャルアは首を何度か縦に振った。その行動が良く分からないと思うレイは首を傾げる。

「あああ!モントリオール!あのね、そこに友達がいるのよ!一年ぐらい前だったかな!その子、友達との旅行で吹雪が酷くて、行く宛てがない状態でヒパック村に宿泊したんだけど、たまたま出会ったその子と意気投合してさ、それきり仲良くなって!まあ、〝子〟って言ってもあたしより一つ上なんだけどね。その子の出身もあんたと同じ場所だって言ってたわよ。すっごい奇遇~!あたし、モントリオールと何らかの縁があんのかな~?なーんてね!」

一人で盛り上がるシャルアに、レイはただ苦笑いを浮かべるだけだ。どのように対応すれば良いか分からなくて困っている。

「ま、今でもメッセージのやり取りとかたまにするしね!それにしてもその子さ、あたしが整備士やってるって知って凄く驚いてたの!あんまりそんな整備士とかと縁がない生活送ってるらしくてね。いやぁ、都会人は違うな~って思ったよ!」

「そ、そうなんですか……」

またしてもシャルアは一人で盛り上がる。彼はシャルアの話に合わせるように相槌を打つ等工夫して、話を聞くようにしていた。彼女の隣に座るレイ。だが、この時、彼を眠気が襲っていた。瞼が少しずつ、閉じられていく。疲労がピークに達しつつあった――

 

ピシッ

 

だが、それに気付いたシャルアはニヤリと笑い、レイの額を指で弾いた。

「痛っ!」

それによりレイの瞼は見開かれた。その様子を見て、シャルアは笑いながらレイに言った。

「おーい、寝るには早いよ?もっとトークしようよ!あんたの事、色々と知りたいんだけど。」

「うぅ……そんなぁ……」

その後、レイはシャルアと延々トークを続けさせられた。彼女の様々な事を知る事が出来たのだが、その一方で彼は押し寄せてくる眠気と戦わなくてはならなかった為、シャルアと会話をする事が苦痛に感じられてしまったのである――

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

突然、艦内にサイレンが発令された。それは敵襲来の事を意味していた。ジェルヴァのオペレーターが、艦内にいる全員に対して発した。

「敵MS接近!!パイロットは各自MSに乗って出撃の準備を!各員持ち場に移動!急いで!」

オペレーターの名は、イヤー・メゾッソと言った。彼女が艦のクルー全員に向け、非常事態を知らせた。どうやら、MSが迫ってきているようだ。だがこの豪雪地帯の中をMSが迫る事等、有り得るのだろうか。

「クソッ、ゆっくりしてる時に敵が来るなんてね。あんたは待機しておきな。病み上がりだし。急いで向かわないと――」

この状況に、レイは覚えがあった。一番初めに、セイントバードに助けられた時だ。その際も砂漠の狩人率いるMS乗りと交戦した際も、クルーに気を遣われた。自身の怪我は感知していたのだが、無理をするなと念押しされた。そして、一度ネルソンに打たれた。

 今も同じだ。彼の怪我は完治している。そして、彼には戦う力がある。ジェルヴァのメンバーに自らが助けて貰ったのなら、恩を返したい。それが、今のレイに出来る事なのだとしたら?

 レイは、シャルアに対して口を開いた。

「あの!」

「何!?急いでんのよ!」

部屋を出ようとするシャルア。それに対し、レイはその眼差しを彼女に向け、言った。

「僕も、戦います!」

「何言って……え?」

耳を疑ったシャルア。戦う?先程まで医務室で横になっていた筈の少年が?何を言っているのかと、彼女は思った。しかし、レイの眼は真剣そのものだ。

「あんた正気?病み上がりなのに何言ってんのよ!確かにあんたはガンダムタイプに乗ってたかも知れないけど、それはおかしいんじゃないの!?安静にしてなさい!キャプテンだってそう言うよ!」

恐らく、その台詞は言われる事は覚悟していた。だがレイはこの非常事態に対応したいという気持ちが強かった。

 それは、このクルーを守る為である。自身に戦う力があるのに、それを行使しないのは嫌だと、レイの意思は固い。

「僕は大丈夫なんです!怪我だってありません!ツヴァイに乗って、戦います!」

敵がどの勢力かは不明だ。しかし、ガンダムに乗れば倒すことが出来るかも知れない。修理が進んでいるのならば、出撃も可能な筈と、レイは思った。

「ああもう!急ぐし、来るなら好きにしてよね!」

とはいえ今は緊急事態だ。シャルアはそのまま、部屋を出る。一方のレイも急いでバスローブから着替えた。ジャケットを羽織り、カーゴパンツを着用するレイ。そのまま、彼はシャルアの後を追った。その際、彼は走っているのだが、病み上がりとは思えない颯爽とした走り方をしていたのだ。

「あんた本当に病み上がり!?」

シャルアは思わず呟いてしまった。

「付いて行きます!MSデッキですよね!」

「ま、まあいい!とにかく急ぐ!」

シャルア自身、彼の事が不思議で仕方がなかった。怪我をしていた筈の少年が完治し、そのまま走ることが出来る。まるで、怪我などしていなかったような、動きだ。

 

 

 

やがて、すぐにデッキに着き、彼はツヴァイを真っ先に探した。他の機体は既に出撃準備が出来ており、いつでも発進できる状態だった。その中で、彼は自身のMSを探す。

「ツヴァイ!あ……そうだ……修理、出来ていなかった……」

彼は肝心な事を忘れていた。ツヴァイは半壊状態。残念ながら、出撃できる状況ではないのだ。そもそも機体が動くかすらも、怪しいのだ。どうすれば良いかと、焦りを隠せない様子の、レイ。

「あれは……」

その時、彼は一機のMSを見つけた。新生連邦軍のMSである、ジョゼフである。他の機体が出撃する中、レイは余っているこのジョゼフを見つけ、そこへ走っていくのだ。

「あんた、まさかジョゼフに乗る気なの!?」

シャルアがレイを、止めた。

「敵が居るんでしょう!?機体を遊ばせていられませんよ!」

彼には力がある。MSを操る力。レイは人一倍、恩を返したいという気持ちが強い。その気持ちをここで発揮したい。勝手な行動かも知れない。しかし、この戦闘でどの勢力が敵で来るか分からない。それを見過ごす事等、したくないのだ。

「あんた、肝心な事聞くけどキャプテンの許可貰ってから出撃しなさいよ!通信の仕方とか分かってる!?」

「はい!」

レイは新生連邦の機体に乗り込む事自体は初めてだった。だが、今までガンダムタイプを乗ってきているレイ。基本的な構造は同じものだと、考えていた。

「シャルア、あれには誰が乗ってるんだ!?」

一人の整備士が、シャルアに聞いた。

「今日起きた男の子!あいつ、戦うって言って!」

「マジかよ!確かに余ってるジョゼフではあるけど!やれるのか!?病み上がりじゃねえの!?」

「本人はやる気みたいなのよ!」

「キャプテンの許可は!?」

「多分本人が聞くと思う!」

「おいおい!まじかよ!」

明らかに行き当たりばったりのやり取りだ。だが、それでもシャルアはレイをジョゼフに搭乗させる事を選んだのだ。

 やがて、レイはジョゼフのコクピットに乗り込む。スイッチを押し、360°モニターが起動。スクリーンが映し出されるのが確認出来た。この時、レイは回線を開き、ブリッジに繋いだ。これも、彼がアインスやツヴァイに乗っているからこそ成せる事だ。

「ゲイルさん、聞こえますか?」

レイが、ブリッジに繋ぎ、ゲイルと連絡を取る。ゲイルは艦長室に座ってはいたが、まさかそこにレイが居る事等、思いもしなかった様子だった。この出来事は、ブリッジ内に居るクルー達皆が驚愕している。

「その声、レイ君かい!?え、待て!なんでジョゼフに乗ってるんだ!?」

「すみません!でも、僕も戦います!どこの勢力か分からないんでしょう!?僕だってMS乗りです!戦います!」

レイの恩は時に暴走する。本来ならば安静にしなければならない筈の彼が、動くのだ。

その行動を見て、ゲイルは止める事をしなかった。止めても、無駄だと判断したのだろう。

「不思議な子だね、君は。良いよ。その機体で戦ってみてくれ。但し、絶対に死なない事。死んでしまったら何の為に助かったのか分からなくなるからね。」

ゲイルは、渋々発進許可を出した。ブリッジ内は確認の声が飛び交うが、それでもゲイルは許可を出したのだ。レイには力がある。それに、賭けたのだろう。

「ありがとう、ございます。」

やがて、回線は切れ、ジョゼフはカタパルトに移送される。

レイは新生連邦の量産機体を操るのは始めてだった。しかし、今までガンダムタイプを乗りこなしている自分なら、この機体も乗れる筈と、自身に言い聞かせていた。

「えっと……ガンダム!じゃなくてジョゼフだから……レイ・キレス、ジョゼフ行きます!」

 

ビゴォン

 

ジョゼフのモノアイが、輝き、そのままカタパルトから射出した。飛行機能を有するその機体は、すぐに他の機体と合流したのである。但し、外は吹雪が酷い豪雪地帯。その中での戦闘経験自体、レイは初めてだ。その中でどのように振舞うというのだろうか。

 

 

 

今回の敵勢力。それは、ファドゥームのみで編成された部隊だ。ファドゥームを取り扱う組織で有名なのは、クレーディト社と密接に関係のある、氷河族である。右手にはバズーカ、左手は鋏型のクローになっている奇抜なMS。それらを駆り、敵は迫ってくる。だが、何の為に?

今回ジェルヴァに迫ってきているファドゥームは合計、十五機だ。それぞれがモノアイを輝かせ、ジェルヴァのMS乗りに襲いかかる。

ジェルヴァチームの主戦力はディーストやジョゼフ等の新生連邦の機体だった。いずれもが最新鋭の機体であるのだが、新生連邦の軍備増強政策により、こうしたMS乗りにも機体が行き渡っているのが現状なのである。

やがて、一機のファドゥームはクローを展開してきた。ジェルヴァのMS乗りの一人は、これに直撃してしまい、破壊されてしまった。

「う、わあああ!」

破壊されたジェルヴァのMS乗りが乗っていた機体はジョゼフだった。レイはそれを見て、味方機体が破壊されたと判断し、ビームライフルを、先程ジョゼフを破壊したファドゥームに向けた。

 

バシュゥゥゥ

 

ビーム粒子はファドゥームに向けられ、それは直撃する。胴体部に穴が開き、爆発を起こしたのだ。

「ジョゼフって、扱いやすいな。新生連邦が大量に生産する理由が分かる気がする……でも、ガンダムタイプと比べると、やっぱりスペックが劣る……」

彼が現在乗っているジョゼフは吹雪の中でも視界が阻まれる心配のないように、ゴーグルを備え付けている。それはまるでスキーヤーの付けるゴーグルに見える。ゴーグルを装着しているのはレイの乗るジョゼフだけでない、ジェルヴァチームのMS全てにそれらが装着されているのだ。それによって雪がカメラアイに付着しても敵を見失う心配がない。又、そのゴーグルはジェルヴァチームと敵機を判別する為の印でもあった。ジェルヴァチームの、印といったところか。これにより、目視によるフレンドリーファイアの悲劇を防いでいるのだろう。レーダー上では識別信号は味方機であれ、混戦状況では判別が付かなくなる時がある。同様の機体が大量に生産されれば尚の事だ。

レイが機体性能に関心を抱いている時、別方向から二機のファドゥームが出現した。両機共に、クローを展開し、ビームサーベルラックを抜いては、ビーム刃を展開。そのままレイの駆るジョゼフに向け、迫る。

 レイはこれらの動きを確認し、回避運動を図る。間一髪の、回避だった。

「この野郎が!!」

だが、更に敵はクローを展開し、レイに迫る。クローの先端からはビーム粒子が放たれようとしている。

 

ピキィィィ

 

その瞬間、レイの頭の中に電流が走った。二つのクローを、ビームライフルで撃ち落とす。その直後に、ビームサーベルラックを腰部から抜き、サーベルを展開してファドゥームの装甲を貫いた。更にその状態からもう一機にビームライフルを撃った。すると二機が同時に爆発した。残り十二機である。瞬く間の出来事と、言えた。

 

 

 

この様子は他のパイロット達をも驚愕させた。ディーストに乗っていたニアは機敏な動きをするそのジョゼフを見て唖然とするばかりである。

「うわっ……あんなパイロットジェルヴァに居たっけ?」

と、隣には陸戦型ディープシーに乗るクリアがいた。その機体はガトリングガンを装備しており、連射攻撃を得意としている。

「恐らく……さっきキャプテンが言ってた、レイって子だと思う。」

「レイってあのレイ君!?さっきまで怪我人だったのに!?すごっ、一度に二機墜としてる!まるでエースパイロットみたい!」

「どうやら、ガンダムを扱えるだけの事はあるみたいね。」

「よし、あたし等も負けてられないよ!」

と、ディーストに乗ったニアは狙いを絞り、ジェルヴァの上からビームライフルを連射する。しかし闇雲に撃っているだけではまず当たるはずもなく、ニアは悔しそうな表情を浮かべた。

「下手。どいて。」

と、クリアの駆るディープシーが一歩前に出て、ガトリングを構えた。ターゲットに狙いを絞り、スイッチを押す。実弾が延々と放たれ、それらは側にあった小型の雪山を崩壊させる。

 

ドシャアアア

 

予想外の雪害に、ファドゥームは身動きを取れなかった。自然地形を利用した攻撃だ。これにより、雪の質量がファドゥームに直撃し、重量に耐え切れなかった機体はそのまま、破壊される。これで、残るは十一機。

「雪での戦闘は私達の十八番の筈よ、ニア。」

無表情のまま、ピースサインを作るクリア。これに対し、ニアはしかめた表情を浮かべた。

「くぅっ~、なんか劣等感……」

ニアが悔しがっている時、別方向から一機のファドゥームがビームサーベルを展開し、迫って来た。バズーカを腰部に収納し、右手部マニピュレーターにあるサーベルラックからはビーム刃が収束している。

「あ、来る、来る!援護して!」

「了解。」

ファドゥームがディーストに襲いかかろうとするのだが、ディープシーがガトリングを放ち、マニピュレーターに直撃。この衝撃でサーベルラックが手元から離れた。

隙を突いたニアの駆るディーストは、ビームサーベルを展開し、ファドゥームを切り裂いたのだ。残るは十機。

「いぇい!撃破!」

「油断しないで……」

 

 

 

この間、レイの駆るジョゼフも奮闘していたのだが、思いの外、この吹雪が視界を塞ぐ。寒冷地仕様と言えるカスタムを施されているジョゼフだが、レイは強くなる吹雪に次第に翻弄されつつあった。いくらMSのような兵器とはいえ、やはり自然の力は脅威なのだ。

「ダメだ、吹雪が強くて……そんなの言い訳にならないのは分かってるけど――」

 

ブゥンッ

 

後方から、ビーム刃を展開したファドゥームが迫るのに気付かなかった、レイ。吹雪に目を取られ、レーダーの反応に遅れてしまった。急いで回避運動を取るレイだが、ガンダムと比較して反応速度が追い付かない。

それが、量産機とワンオフ機の違いだった。レイは、ワンオフ機に慣れ過ぎていた。危機的状況が、レイに迫る――

 

バシュゥゥゥ

 

その時、そのファドゥームを攻撃した機体が居た。別のジョゼフだ。レイが倒されそうになった所を、間一髪ビームライフルで撃ち抜き、撃破したのである。彼は、助けられたのだ。

「助かった……?」

そのジョゼフのパイロットは何も言わず、去って行く。一体誰だったのかは分からないが、レイは感謝をしていた。

 

 

 

ゲイルの指揮するジェルヴァは弾幕を張り、敵を寄せ付けないように攻撃を行なっていた。ジェルヴァには護衛として、数機のゴーグルを装着したディーストがビームライフルで応戦している。吹雪が激しい気候の中で、躊躇いのない敵の攻撃。それでも、彼等は守る為に戦っている。

「裏切り者のゲイルめ!死ねよっ!」

と、一人の敵機体のパイロットが無線を通じてゲイルに伝えてきたのだ。“裏切り者”とは、何を示しているのか。

その直後に、ファドゥームのパイロットは、クローを展開した。そのままクローはブリッジに向かった。

「引き続き弾幕を張れ!その後でビーム砲展開!奴等をジェルヴァに近寄らすな!」

この砲撃で、クローによる攻撃を回避したゲイル。その際、彼は攻撃をしてきたファドゥームのパイロットに対して言った。

「その声はハックだろう。残念だが、俺だってお前等と分かり合う気はないよ。」

「キザ野郎が!お前が組織を裏切ってから何もかもが滅茶苦茶だ!死んで償え!その戦艦の連中と共に!!」

ゲイルに無線で話し掛けていた人間の名前はハック・ジールと言った。台詞からして、ゲイルとは旧知の仲と呼べる存在だったのであろうが、今は敵対している。彼等の過去に何があったというのか。

「裏切り野郎には死を!ボスを裏切る行為は許されない!」

「何とでも言えよ。俺はお前らと共に行動する気はない!今回襲撃して来たのはお前らだってのは分かってた!邪魔をするなら抵抗するまでだ!」

「もし組織に戻るって選択するならなら命は。少なくともお前は無事じゃ済ませないけどな、生かしてくれるんだぜ?ま、俺はお前を許す気はないけどな!どっちを選ぶかゲイル!?」

組織?ボス?これらの言葉が示すものは、何か。互いに何らかの確執を持っているのは間違いないと、言えた。

「戻る気なんてまんざら無いね!」

それを聞き、激昂したハック。彼の駆るファドゥームは、ジェルヴァのブリッジに向け、バズーカを構え、狙いを定めた。弾幕が張る中で、この機体のみが接近をして来たのである。ハック・ジーンの技量の高さが伺えたのだ。

「接近してくる!?あの機体に集中攻撃を!」

その指示の通りにジェルヴァはビーム砲撃や、他の機体によるビームライフル等でファドゥームを狙わせる。だが、当たらない。まるで、これらの攻撃を見切っているようだ。

 やがてジェルヴァのブリッジに接近をしたファドゥームは、バズーカを構えた。至近距離だ。このまま攻撃を許せば、確実に破壊されてしまう。

「終わりだ、ゲイル!死ね!!」

 

ドォン

 

バズーカから弾が発射された。このまま直撃すればブリッジは壊滅。クルーの死は免れない。危機的状況がジェルヴァに訪れた――

 

バシュゥゥ

 

だが、それは一機のジョゼフによって救われる事になる。

バズーカの弾が突如消えた。そして爆発した。余りに一瞬の出来事だったため、何があったのかは分からない。ゲイルはバズーカ直撃を覚悟して目を瞑っていた。しかし何も起こらない事に疑問を抱き、そっと目を開ける。

彼の目の前には、ジョゼフの姿があった。それと同時に、ジョゼフのパイロットから通信が入った。それに応じるゲイル。その声の主こそ、レイだった。

「ゲイルさん、大丈夫ですか!?」

「レイ君か!?良かった。本気で死ぬかと思ったよ。油断してしまってた。すまない。」

間一髪だった。レイが駆け付けなければ、ジェルヴァは破壊されていただろう。次に、レイのジョゼフはバズーカを放ったファドゥームの方向を、見た。

「なんだてめえ!?ジョゼフ如きが!!」

ブリッジの破壊に失敗し、悔しさを感じたハックは、怒りの矛先をジョゼフに向けた。有線クローを展開し、ビームサーベルラックを把持し、ビーム刃を展開した。

「舐めた真似しやがってよぉ!」

乱暴な言葉遣いでビームサーベルを持ったクローを展開するファドゥーム。ジョゼフは、軽やかにこの攻撃を回避した、この間隙を見つけたレイは、ジョゼフの武装であるグレネードランチャーを、ファドゥームに対して至近距離で撃ったのだ。

そのファドゥームは右前腕部を破壊され、バズーカも同時に破壊された。

「ぐおあっ!」

機体のコントロールが効かなくなった、ハックのファドゥーム。これに対し、レイのジョゼフがビームライフルを構え、放とうとした時だった――

 

バシュゥゥゥ

 

あろう事か、別のファドゥームが有線クローを展開し、そこからビーム粒子を放ったのだ。その標的は、ダメージを受けていたファドゥームだったのだ。まさか、仲間に攻撃されるとは思っていなかった様子の、ハック。

「あぐっ……仲間に……!?」

ビーム粒子はハックのファドゥームを貫いていた。右半身が失われた状態で、辛うじて生きているハック。

 それを見たレイは怒りを覚えた。仲間を攻撃する理由が分からない。何故、今別の機体はハックの機体を攻撃したのか?

「仲間を平気で攻撃するなんて!こんなの、どうかしてる!」

仲間を攻撃できるようなこの集団に対し、怒りを覚えたレイ。ビームライフルを放ち、ハックを撃ったファドゥームを撃破。これで、残り五機。ハックのファドゥームは殆ど戦闘不能状態であった為、実質は四機だ。

更に、レイは別のファドゥームを見つけるや否や、攻撃を仕掛ける。ビームサーベルラックを二つ展開し、それらを連結するという荒業を行った。この様子から、レイは最初、慣れていなかったジョゼフに、少しずつではあるが慣れてきている様子だ。

 二つのビーム刃が展開する状態で、彼のジョゼフはファドゥームを攻撃する。その間、バズーカでジョゼフを狙うのだが、彼は攻撃を見切り、回避するのだ。やがて距離を詰め、円の字にサーベルラックを振るい、ファドゥームの胴体は破壊された。

「クソッ、撤退だ!!」

他のファドゥームのパイロットが異常事態に気付き、撤退を開始した。仲間である筈のハックを残して。

 

ガキィン

 

その時、レイのジョゼフがハックのファドゥームを掴んだ。半壊状態で、いつ爆発してもおかしくないその機体。それを見たハックは、意識が朦朧とする中で、レイに回線を繋いだのだ。

「お前……!何のつもりだ……早く、殺せよ……!」

「仲間に撃たれたのに……そんなの、見過ごせませんよ!」

裏切られたハックを見て、それが気の毒に思えたのだろう。レイは今、彼を助けたいという善意で動いていた。

「強いパイロットは……敵に情けを掛けるってか……?そんなんで生きたって生き恥なんだよ……頼むから、死なせろや……!」

「仲間に裏切られた人を撃つなんて出来ません!」

「俺が迂闊だったんだよ……助からないと思ったら……組織からすりゃ足手まといだ……だから仲間が俺を殺して当然なんだよ……っ!」

 

カチッ

 

その時だ。ハックはコクピット内のある、スイッチを押した。それと同時に、ファドゥームが赤く光るのを確認した。

 異常事態だと、察したレイはファドゥームを離してしまう。そして――

 

ドオオオオオオオオッ

 

爆発が起きた。ハックは自爆し、自ら死を選んだのである。この衝撃で、近くにあった雪山が雪崩の如く、崩れて行く。ジェルヴァはそれを見て船速を早めた。これにより、間一髪ではあるが、雪崩に巻き込まれることは無かった。それにより、周囲に敵機体の存在が確認出来ない事を把握し、チームのMSは艦へ戻っていったのである。

 今回の戦闘はジェルヴァチームが勝利を収めた。他の機体が戻る中で、レイは一人、先程自死を選んだハックの事が気になっていたのだった。

「あの人、どうして……こんな、こんなのって……」

今回迫って来た敵勢力は何者なのか。何故、ジェルヴァチームが襲われなければならなかったのか。幾つか疑問が残る戦闘だった。勝利を収めたとはいえ、レイは複雑な心境だったのである。

 

 

 

艦内に戻った後、レイはジョゼフのコクピットから降りた、その時――

 

ギュッ

 

レイは、シャルアに抱き付かれた。彼女の乳房がレイの顔に当たる。異様なテンションの彼女に戸惑いを隠せない。

「わっ……!?シャルアさん!?」

「あんた、凄いじゃない!結構敵を撃墜したでしょ!やるぅ!」

「そんな、偶然ですよ。ジョゼフを扱ったのだって初めてなのに……」

謙遜するレイだが、シャルアは彼の活躍を見て歓喜している。

「偶然なんかじゃない!やっぱりシンギュラルタイプだから?さすがはあたしが見込んだだけの事は、ある!」

(この人に見込まれてたんだ……いつの間に?)

敵を倒す事は、出来ていたレイだったが、彼は先の戦闘で油断をしている。もし別のジョゼフが攻撃してくれなければ、レイはやられていただろう。

暫くしてから、他のパイロット達も集まってきた。その中には、クリアとニアの姿もあった。彼女達も善戦していたのだが、やはり先の戦闘ではレイの強さが際立っていたと言えた。

「レイ君が乗ればディーストも強くなるんじゃない?」

「ディープシーも。」

「にしてもレイ君、強いねー!流石伝説の機体、ガンダムのパイロット!」

ジョゼフで敵勢力に善戦した彼を讃える声が相次ぐ。褒められるという経験は、嬉しいものだ。だが彼は今、素直にその感情を享受出来なかった。

 まず、彼はジョゼフに慣れていなかった。ガンダムタイプばかりに乗っていた事が災いし、機体スペックを過信し過ぎていた。後半は巻き返したが、油断している状況だった事に変わりはない。

 更に、先の戦闘ではハックの自死の事や、そもそもジェルヴァが攻撃された理由など、不可解な事が多い。ただ、守る為にレイは戦ったが、彼等はそもそも何と戦っているというのか。疑問が残る。褒められるような事は、していないのだ。

 

「てめぇがレイって奴か。」

その時だ。群衆の中で、一人、鋭い口調でレイに言葉を発する少年の姿があった。

「え……?」

突然の出来事に、レイはただ戸惑うばかり。群集も、その存在に動揺している。

その少年の姿を見た時、側に居たシャルアは言った。

「何よゼル。いきなり現れて。」

どうやら、少年と彼女とは知人関係らしい。少年の名は、“ゼル”と言った。水色の髪色で、碧色の眼をしている。その緑は濁りも無く、レイの青く澄んだ目のように、澄んでいる緑だった。目付きは特徴的な鋭さがあったが、彼の目はどこか、美しさを感じされる。レイはその綺麗な眼の少年を見ていた時、彼は喋り出した。

「てめぇさっき殺されかけてた癖にちやほやされて良い気にになってんじゃねえぞ!」

そう言った後、少年は去って行った。この暴言を聞いた群集は、一瞬で静まった。レイ自身も、覚えの暴言に対して混乱している様子だった。

「え……?誰……ですか?」

レイはそっとシャルアに聞いた。シャルアは答える。

「ゼル・アスト・ジェイフォード。あいつ……色々と訳アリなんだ。あの態度はよく分からないけど。」

「あの人もここのクルーですか?」

「そ。ちなみに歳はあたしと同い年。」

シャルアは彼の事を知っていそうな様子だった。だが、レイからすれば覚えのない事に対して怒られているだけであり、理解が追い付かない。戸惑うレイに対し、シャルアは言った。

「あいつ、うちのエースパイロットなんだよね。戦後になってずっとMSに乗ってさ、このクルーの中でも圧倒的に優れている存在。技量は高くて、敵と出会っても負けなしあいつもジョゼフに乗るんだけど、やたら強い。ちなみにさっきも出撃していたよ。四機破壊してたね。まあ、どうしてレイに詰め寄って来たのかはよく分からないんだけどね。」

レイの活躍の裏で、ゼルも敵を倒していたのだ。エースパイロットと呼べる活躍を見せるゼル。

(もしかして、さっき僕を助けてくれた人ってあの人なのかな。)

この時、彼は先の戦闘で油断した際に助けられた事を思い出す。その時にファドゥームを撃ったのが、ゼルのジョゼフだとすれば、ゼルがレイを助けた事になる。

(ん?待って……ゼルって、前にどこかで聞いた覚えがあるような……)

更に、その名も、聞き覚えがあった。だが、何処で聞いたのだろう。全く、思い出せない。

その事で悩んでいる時――

 

「お前達、レイ君は今疲れているんだからあんまり野次馬みたいに近寄ってくるんじゃないよ。彼は病み上がりなのに、頑張ってくれてたんだから。」

艦長のゲイルがこの場に来た。彼の姿を見た時、クルーは皆が敬礼をする。余程、慕われているのだろうか。

「お疲れ様、レイ君。さっきは助かったよ。そして、生きていて良かった。」

ゲイルはレイの活躍に関心を抱いていた。無論、他のクルー達にも労いの言葉は掛けているのだが、その中でもレイはジェルヴァのクルーに助けられた中で、ジョゼフに乗って活躍した人間だ。ゲイルが関心を抱くのは、当然と言える。

「レイ君、今日は休んでくれ。疲れただろう?」

と、ゲイルが言った後、レイは口を開いた。

「あの、ゲイルさん。お話があるんですけど――」

と、言った時。

「ごめん、明日でいいかな?君も疲れているだろう?俺も、少しばかり疲れててね……」

迂闊だと、思った。先程戦闘が終わり、疲労しているのは自分だけではない筈なのに、質問をしてしまった自分が情けないと、感じていた。

「明日、部屋に来てくれたら話をしよう。」

ゲイルの言葉に甘え、レイは休みを取る事にした。

 ここに来て、様々な体験をした。個性的なメンバーに助けられ、ツヴァイは半壊状態とは言え形状は残っている。そして、突然の敵機体の襲来に、それらの迎撃。こうした出来事が重なり、疲労が重なったレイ。ゲイルとの話が明日に伸びた事で、どっと、眠気が襲ってきた。そして、限界を迎えつつあったのである――

 

 

 

 翌朝。レイは自らの部屋で目を覚ました。目覚めてから身体に痛みなどもなく、経過している。彼の身体は紛れもなく、完治していると言えた。

 ジェルヴァの食堂に案内され、朝食が振舞われ、クルー達は一堂に食べた。ここのメンバーはセイントバードと比べても多く、皆がそれぞれ、確実に休憩時間や食事時間を取ることが出来ているようだった。

 やがてレイはゲイルの部屋に向かう。話を、する為だ。

「やあやあレイ君。よく眠れた?」

「はい、ありがとうございます。お陰様で。」

「それで、話って何かな?おっと、ココアも用意しよう。何かを飲みながら話をする方が円滑に出来るだろうし。」

ゲイルはマグカップを用意し、ココアを振舞った。昨日と同様に機械で、それを作る。

 出来上がった暖かいそれを、レイに手渡した。手に、温かさが伝わる。

「あの、聞きたい事があります。ゲイルさんは、どうしてジェルヴァに乗りながら、MS乗りをしているんですか?敵の襲撃も、ありましたし……」

MS乗りになれば、敵と戦う事になるのは明白。弱肉強食の世界と言うのはセイントバードに居た時から知っていた。故に、レイは聞いた。

「うーん、そうだね。圧倒的な強さを振舞った君になら言っても良いかもね。」

ゲイルは自らの長い髪を掻き撫で、言った。

 

「氷河族と戦う為さ。」

 

「えっ……!?氷河族って……まさか、あの氷河族!?」

ここで、その名を聞くとは思わなかった。レイにとっては何度か交流はある組織、氷河族。最初に出会ったのはアレクサンドリアだ。その後も幾度か彼等と会った事はある。最近ではホルステブロにて。そこでは恐怖体験をしたのだが。そして、セイントバードで保護する事になったゼオンも、そのメンバーである。

「おや、知ってるんだね。知ってるなら話は早い。君が何も知らない人間だったならこんな危険な事を言う気は無かったんだけどね。でも、今の俺にとっては敵だし。俺達の敵は、そいつらなのさ。」

この言葉から、彼が氷河族と何らかの関係を持っている事が分かる。

「じゃあ、昨日襲って来た敵って……」

「そう。氷河族の構成員だ。あの特徴的な機体はクレーディトメカニクス社のオリジナルMSでね。世界中のテロ組織や反政府活動とか、武装勢力にあの機体を売っている。勿論、氷河族にもね。所属は違えど、結局元を辿れば諸悪の根源は同じって訳。」

明らかになっていく事に、レイはただ、驚愕していくばかり。だが、ゲイルは何故このような危険な組織と戦っているというのだろうか。

「デウス動乱後に急速に成長した組織は瞬く間に裏社会を圧巻する存在へと頭角を現していった。組織は汚れ仕事関係は勿論、主要人物の暗殺や金融関係の大元として、君臨して行った。表向きには今、戦争状態になっている新生連邦軍と平和国連盟が世界の勢力図となっているけど、氷河族の存在は、裏の怪物と言っても過言じゃない。そして、その仕事内容は汚い仕事ばかり。今思えばあんな汚れ仕事をやり続けていてよく人の心を失わなかったなって思うよ。」

この言葉を聞き、レイは目を見開かせた。

「それって、どういう意味ですか?まるでゲイルさんが氷河族に所属していたかのような……」

レイの言葉に対し、ゲイルは再び髪を掻き撫でる。そして、熱いココアを一口啜った後に言った。

「あーそうそう。俺さ、元々氷河族のリーダーを勤めていた人間なんだよね。」

「……」

「……」

互いの会話に間が出来た。氷河族のリーダーという言葉を、ゲイルが言った。それが何を示すのかを理解するのに、レイの脳は処理が追い付かなかったのである。まるで、フリーズした旧式のコンピュータ。思考制止状態と言うのは、こういう事を言うのだろうか。

 そして、情報が統合されるのに時間を要して、レイが最初に放った言葉が次の言葉。

「えええええ!?」

人間は予想外の事が起きた時、冷静でいられない。それはどのような偉人であれ、いくら机上の空論を作り出したとはいえ、それが現実に起きた時、思考を制止せざるを得ない。そして、そこに対する感想と言うのは稚拙なものになってしまうのだ。

「あ、やっと言葉出て来たね。ま、驚かれるのも当然かな。ま、ここのメンバーはこの事を知ってるんだよ。俺が氷河族の一部組織のリーダーをしていたって話は。まあ、それがかえって都合が良いんだけど。」

都合が良い?それはどういう事なのか。

「都合が良いって……?え、じゃあ今は裏切ったって事になるんですか!?」

「そーだね。だってあそこは簡単に足を洗えないよ。ボスに忠誠を誓うようなものだし。あれだよ、旧世紀のマフィアのボスへのオメルタって知ってる?あれを裏切るから、当然組織から死の制裁は来る訳で。」

オメルタ。別名血の掟。組織を裏切る事があればその家族も根絶やしにするという事。氷河族にもそうした掟は存在している。故に、組織が成り立つ。裏切りは死を意味する。それはゼオンも該当するのだ。その関係者も巻き込まれるのは、分かり切っていた。

 だが、ゲイルは裏切った。それも、リーダーと言う立場であるにも関わらず。

「じゃあ、どうして裏切ったりしたんですか?殺されるかも知れないって、分かってて……」

と、聞くレイ。それは、当然の質問と言えた。

「俺の場合、汚れ仕事に嫌気が差した。それだけだよ。」

思いの外、彼の中の裏切りの動機はあっさりとしているものだった。だが、数々の汚れ仕事を嫌に思う人間も居るだろう。ゼオンがそれに該当したのだ。故に、組織に追い掛けられ、人身売買の被害に遭う所だったのだから。

「ちなみに昨日ジェルヴァに襲撃してきたのは俺がリーダーを務めていたメンバー達なんだよ。あいつらが、俺を攻撃してきたって訳。あいつら、組織が抱える殺し屋みたいな奴に脅されたものだから、それに従ってるんだよ。最も、俺はその殺し屋みたいな奴に半殺しにされた過去があるけどね。……あれは、壮絶だったなぁ。」

“半殺し”と言葉を発した時、ゲイルはどこか、震えているように見えた。その体験は、余程怖かったのだろうか。レイはふと、疑問を抱く。

(余程だったんだろうか……)

その表情を察したレイは、口を開き、言葉を言った。

「じゃあ、元々の仲間に追われていたって事なんですか!?」

「まあ……ね。まさに、〝昨日の友は今日の敵〟みたいな?ただし俺に付いてきてくれた奴も何人かいたんだけどねー。残念ながら、全員組織の追手に殺されてしまったんだけど。そして俺は今氷河族という存在に対して、抵抗を続けている。奴等の横暴は無視できないからね。」

想像以上の過去の持ち主であるゲイルにレイはただ唖然とするしかできなかった。更に、それを明快に話すゲイルを、レイは、ただ、凄いとしか思うことが出来なかった。

「でも、それとこの戦艦ってどういう関係なんですか?ゲイルさんが氷河族のリーダーという事と、MS乗りってどういう関係なんだろう……?」

疑問が生じるのも当然だった。ゲイルが組織の裏切り者で、何故今ジェルヴァの艦長を務めているのか。その上で氷河族と戦っていると言えるのか。

「そう、ここのメンバーと俺はある、“契約”を交わしている。俺は組織から金を奪っていて、その金を使い、ある、小さな村の人間と交渉をしたんだよ。」

「交渉……?」

それは、何を意味するというのか。

「名前はヒパック村。北欧の山の中にある小さな田舎の村だ。元々そこは戦後、治安も良いとは言えない場所でね。デウス動乱後にMS乗りやならず者が略奪の為に襲ってきたりした事もあった。その時に話を聞いたけど、それが別の氷河族の連中だったって話もある。」

この時点で、氷河族は横暴を行っていたという。村の人間からすれば、氷河族も敵だという事になる。

「それから時が経って、新生連邦樹立して、あろう事か、軍の人間は住民に対して弾圧をし始めたって話だ。」

ここで、新生連邦の話が出てきた。氷河族のリーダーと、新生連邦に支配されている村。これらが、どう関係するというのか。

「だが、この新生連邦の横暴行為に対して、ヒパック村には新生連邦に対するレジスタンス組織の存在が密かに結成されていたんだよ。住民の有志で、新生連邦と細々と抵抗を続けていたんだよ。」

ヒパック村と言う言葉。これも、レイはどこかで聞き覚えがあった。だが、やはり思い出せない。

 彼はジェルヴァに来てから、既視感を感じてばかりだった。だがいずれも思い出せない事が、歯痒い気持ちを作り出す。

「だがそれは俺にとって好都合だった。懸命に新生連邦と戦うレジスタンスと組む事と、彼等は過去に氷河族によって凄惨な経験をしている。俺の経験が、こうした連中に対抗する力にもなるんじゃないかなって考えるようになったって訳。それから彼等と交渉した。幸い、彼等には力があった。あのジェルヴァも彼等が旧連邦の陸上戦艦を上手く利用して、今でも新生連邦に抵抗しているからね。俺はそこに目を付けた。村の人間からすれば抵抗する為の資金も得られるし、その上で指導者に当たる人間も見つかる。これは、互いにとって良い条件だったんだよ。村の村長も納得した上で、俺にジェルヴァを任せてくれた。これが、ジェルヴァチーム結成のきっかけで、それが今も動いているって訳さ。」

この一連の話が、ジェルヴァチームの結成の秘密だった。つまり、彼等はゲイルが裏切った氷河族とも戦っているが、一方で新生連邦軍とも戦っている事になる。

 話の内容より、村の人間からすれば氷河族の存在は因縁ある存在だ。それによって被害も出た事がある為である。故に、ゲイルの存在は重宝された。かつての氷河族のリーダーという立場。その立ち位置は、村のレジスタンス組織にとっても好都合だったのである。

「ちなみにここのメンバーの大半はヒパック村の出身のメンバーばっかりだ。整備士のシャルアも、レジスタンスの一人。」

「あの人が……」

“レジスタンス”と聞き、レイは自身の世間知らずさを情けなく感じた。日常に身を置いていたレイからすれば、そう言った単語は架空の組織の印象を受ける。だが実際にこうした組織は存在する。弾圧に抵抗する組織として存在するレジスタンスは、あらゆる箇所で抵抗運動を続けているのだ。それが暴徒化したのがテロリストや武装勢力。ジェルヴァのメンバーの場合、これらには該当しない。

「ま、最初は凄く警戒されたよ。何せ村人に犠牲者を出した組織のリーダーをやっていた人間だったからね。恨まれても当然だろう。けど時間を掛けて、皆が徐々に心を開いてくれた。信頼を得るには、行動をしないと行けないって身をもって経験したよ。でも結果、今、チームは新生連邦とも、氷河族とも戦ってくれている。皆にとって、有難い状況になって来たって訳。」

沈黙が始まった。それも数秒ではなく、数分。その間に窓の吹雪は轟々と音を立て、激しく地面を白く覆い尽くす。

 今、ジェルヴァはフィヨルドの周辺を移動していた。大自然が作り出す芸術ともいえる存在、フィヨルド。氷河による、浸食作用によって形成された複雑な地形。その中を、ジェルヴァは移動しているのだ。

一連の話を聞き、このチームの目的、動き、敵を知ることが出来たレイ。ゲイルという人物がどのような人間であるのか、このチームが何の為に戦っているのか。それらが理解出来、彼は、今どのように動くべきなのかを、今一度、考えた。

「今はこんな状況ではあるけれど、もし、新生連邦の問題や氷河族関連の問題が片付く事があれば、いっそ、このメンバーで旅にでも出たいなぁとは思ったりするけどねぇ。」

何気ない言葉を、ゲイルは呟いた。この時、レイは然程気にする様子を見せず、ゲイルの表情を見ている。

 そこから僅かな時間だが沈黙があり、ゲイルが口を開いた。

「まあ、色々とややこしい事情の中で、君が空から落ちてきた。そして、今、俺達と共に戦ってくれている。俺の勝手が招いた事と、メンバーが新生連邦に対してレジスタンスとして、戦っているという事。ある意味、これは運命的なんじゃないのかなって思うんだよね。」

そう言った頃、ゲイルの淹れたココアは既に常温にまで温度が下がってしまっていた。熱弁が続いたが故なのだろうか。

「ゲイルさん、僕、そこまで言ってくれて嬉しいです。僕自身も、助けられた中でただ、一生懸命だったのに……なんだか、すみません。ここまで語って下さるなんて思いもしませんでした。」

「いや、お礼を言うべきなのは俺さ。君が昨日、戦ってくれたお陰で俺達は生き残れた。その敵の中に、かつての仲間も居たんだけどな……ハックって奴。あいつは氷河族時代の俺の友人のような存在だったけど、俺が組織を裏切る事になってから牙を向いてしまった。」

ハック。昨日、仲間に撃たれた後にレイが助けようとした人間だ。そして、自死を選んだ男。この時、レイは氷河族と言う組織が余計に分からなく感じていた。

 オメルタのような血の掟がありながら、仲間同士で攻撃する者もいるという事なのだろうか。それは、どう言った真相なのかは分からない。

「ゲイルさん、氷河族って仲間同士で殺し合ったりする事って、あるんですか?」

何気なく、レイは聞いた。

「それは組織に寄るかも知れない。絆の深い組織もあるだろうし、そうでない組織もある。母体が巨大な分、多くの人間が関与するんだから、それぞれトラブルがあったりするだろうな。俺みたいに……な。」

ゲイルの言葉を聞き、レイは、察した様子だった。この事から、氷河族の存在は危険なのかも知れないと、感じた。

「さて……と。レイ君。これだけ語ったなら、俺達は仲間になったも同然だ。所で、そう言えばブリッジを見せてなかったね。一度、見て行くかい?」

「え?良いんですか?」

ゲイルは先程の真剣な表情から一転し、表情を明るくさせた。ここに来てであった時のような表情に戻ったゲイルは、レイをそのままブリッジに案内する事にしたのである。

 

 

 

 ジェルヴァのブリッジはセイントバードよりも人員が多い。恐らくこのクルー達皆がヒパック村のレジスタンスなのだろうか。

ブリッジに入るや否や、艦長席に座る、ゲイル。そして、彼はオペレーターであるイヤーに聞いた。

「ヒパック村までは後どれぐらい?」

彼の問いに、返事をする、女性の声が聞こえた。

「あと三十分程度ですかね。ただ、吹雪が続いてるので、スピードはそんなに出せませんよ。」

「ま、落ち着いて行こう。敵も居なさそうだ。村長達が待っているだろうし。」

この時、ジェルヴァの目的地の話をしたゲイル。レイは、把握した。今、この艦は先程話に出て来た、ヒパック村の話をしているのだ――と。

(ヒパック村……どんな所なんだろうか。)

雪が延々と降り注ぎ、吹雪も止まぬこの過酷な自然環境の中、ジェルヴァは進んでいく。

レイ達の次なる目的地は、小さな村であるヒパック村だ。小さな田舎町。それは、レイにとって初めての体験なのであった――

 




第五十四話、投了。
極寒の大地を移動するジェルヴァチームに助けられたレイの話。
新生連邦から鹵獲したMS、ジョゼフを駆ってもその強さを見せつける、レイの才能が開花する話でもあります。
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