機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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新生連邦の強化モデル、ガウル・ベネツィアがメナスの下に訪れ、村の実効支配を行おうとしている。それを阻止する為、躍起する村の物語。


第五十六話 ヒパック村防衛戦

 セイントバードは、今、航行を続けている状況だった。行方不明になったレイを探す為に、エリィ達は捜索を続ける。しかし、レイの姿は艦の中からは感知など、出来る筈がないのだ。

「レイ君は、今何処に……。」

艦長席に座る中で、溜息を吐いているエリィ。

デスゲイズに襲われ、敗北したレイは何処へ行ったのか。レイを見つける為、セイントバードを低空で動き、彷徨っている。

「生きていることを信じてゆっくり探しましょうよ。」

と、励ますように言う、インク。

「でもさ、早く探さないと戦力が厳しいんじゃねえか?今は大尉とガーストとスバキ達が中心になって、何とかなってるけどさ。」

スラッグの台詞だ。それは、悲しい事だが現実の問題として生じている。ツヴァイは、セイントバードの戦力の要だ。絶大な火力で、敵を圧倒していた。その機体が居ない状態で、不安定な世界情勢を生き抜くのは、やはり危険と言える。

 

ウィィィン

 

その時、ネルソンがブリッジに入ってきた。そして真っ先にエリィの元へ向かってきた。

「艦長。少し話がある。」

「大尉、何でしょうか?」

エリィが首を傾げた。

「このまま、オスロに先に向かう事は出来ないか。レイの行方が不明である以上、そこに時間を要するのは我々自身の危険にも繋がる。」

ネルソンの言葉は、エリィを困惑させた。レイを放置など、出来るものかと、彼女の中で意思が込み上げてくる。

「そんな!レイ君はどうするんですか!?」

ヒパック村に居るレイなのだが、Eフォンでの連絡も取れない状況で、彼を探すのは難しい。だからと言って、彼を放置するなど、したくもない。

「実際の所、たった一人の少年を探すのに、この広大な北欧地区のどこかを、探すのは無理がある。Eフォンの連絡も付かないしな……」

分かってはいる。だが、諦めたくないのも、また事実だ。

「故に、レイを探すのは無理に等しいのだ。先にミシェさんの居るオスロに行って、戦力強化を図った方が良い。それに、行方不明である以上は、彼の事を、残念ながら諦めざるを得ないかも知れない……」

ネルソン自身、この言葉は言いたくなかった。だが現実問題、レイが何処にいるのか分からないのに、捜索を続けるというのは無理がある。

 その間に襲撃を受けるかも知れない。そして、受けた所で仮に補修したとしても、ホルステブロのような事が有り得るかも知れない。

「レイ君を諦めるなんて私には出来ません!大切な仲間なんですよ!?」

エリィの言葉は、一層感情が込もっている。それは、やはり一度は好意を伝えた人間であるが故なのだろうか。

「艦長の気持ちは良く分かるが、万が一の事も考えなくてはならない。君は艦長だろう……!それぐらいは分かって欲しいものだが……」

そう言うネルソンの表情は、どこか焦っている。言葉と表情の、矛盾がある。

「しかし……レイ君を諦めるなんて……」

だが、現状は何も分からない。だからこそ、彼等は困惑しているのだろう。

「艦長……率直な疑問だが、貴方の、“感覚”はレイを感じる事が出来るか?」

突如、ネルソンが言った。それは、エレナのシンギュラルタイプの力を指す。彼女の力が、もしかすれば役立つかも知れないと、何気なく彼は言った。

「今は、感じません……でも、もしかしたら……って事はあるかもです。」

それは、オールドタイプでは分からない“感覚”だ。どこに彼が居るのかが不明な以上、頼りになるのは、シンギュラルタイプ等の、力を持つ人間達という事になるのかも知れない。

「艦長だけじゃない、スバキやガーストも確か、そうだったな。あまりレーダーのように君達を扱うのは気が引けるが、その、“感覚”があるのならば、彼を見つけ出せるのかも知れない。」

シンギュラルタイプの感覚とは分からないながらに、ネルソンが言った言葉。それは、彼女を勇気付けるきっかけとなったのである。自らの力を使えば良いではないかという発想を、忘れていたのだ。

「そっか……私はシンギュラルタイプ……それで、レイ君を探せるかも。」

自らの感を使う時が来た。可能性があるならば、そのような力さえも使いたい。藁をも掴む気持ちで、彼女は艦長席に座ったのである。

「私が、レイ君を探すんだ!私の力が役立つなら!」

人の感覚と言うのは未知数だ。人間は視覚、聴覚、味覚、嗅覚、感覚、意外にも第六感と呼ばれる感覚があるかも知れないとされる。それが、シンギュラルタイプを始めとした人間達の、“感覚”なのかも知れない。

 実際、彼女は何度かレイを感じた事がある。それがもし可能なら、彼女の力はレイの捜索に役立つに違いない。彼女は、それを信じて、動き出す。自らの力を、センサーとして、活動する為に。

 

 

 

レイはシャルアの玩具と言わんばかりの扱いを受けた。女装をさせられ、写真を撮られる、身体を触られるといった、ある種の“逆セクハラ”とも呼べる行為をしてきた女。

彼女は昨夜、レイをずっと揶揄っていた。この事が原因でレイは昨夜一睡も睡眠が出来ていない。憎い筈のシャルアの事が思い出されてしまう。そして、何をされるのか分からないまま、レイは不安な夜を過ごすのだ。その上、今の彼の格好は昨夜の女装姿。シャルアはレイから寝巻きを奪ったまま、この恥ずかしい姿で一夜を過ごさざるを得なかったのである。

 しかし、戦争状態でいつ死ぬかも分からない事を考えれば、今の時間は豊かな時間と言えるだろう。慌ただしい中ではあるが、ある種の束の間の平和。レイはそのように捉えるべきと、自分の中で言い聞かせた。

 

バッ

 

その時、襖が開いた。恐らくシャルアだろう。だがレイは反応しなかった。狸寝入りをして、誤魔化そうとしていたのだ。

「起きてるんでしよ。あたしの事がムカつくから、寝れないんでしょ。」

シャルアが、口を開けた。しかしレイは反応しない。彼女の言葉は当たっている。このままシャルアが去るまで寝ていてやろうと考えていた時――

「あれー?Eフォン要らないんだー。狸寝入りの奴隷さん。」

Eフォン。そうだ。レイは思い出した。彼女にEフォンを預けていた事を。それを、届けに来たというのだろうか。

「せっかく直してやったのに何よ、狸寝入りしてんじゃないわよホント。結構、時間掛かったんだから……」

今の時間は何時だ?明け方?夜中?暗い部屋の為、どこに時計があるか分からない。だが、声の様子からシャルアは随分と眠たそうだ。もしかすれば、彼女は一睡もせずにレイのEフォンを直していたのかも知れない。

「ほれ、返してあげるわよ。もう、直ったし。」

すると、シャルアは レイの枕元にEフォンを、優しく置いた。その直後、シャルアが欠伸をする声が聞こえた。

 やはり、彼女は一睡もせずにレイのEフォンの修理をしていたのだ。レイはこの時、目を合わせる事をしなかったのだが、彼女の行動に内心、感謝をした。

「もー寝よ。ふぁぁ、眠たー」

そう言った後で、襖をバンと閉めるシャルア。

 昨夜彼の事を揶揄っていたのは何だったのだろうかと言わんばかりの掌返し。レイとの時間を過ごしつつも、する事はきちんとしていた。この時、レイは彼女の存在が余計に分からなくなっていたのだった。

 

 

 

 朝になり、密かにレイはEフォンを起動させた。それは、すぐに起動した。本当に、直っていたのだ。眠気眼にEフォンの明かりが眩く、感じられた。

「凄い、直ってる……」

データも無事だ。全てが、復旧している。その直後に、レイはエリィからのメッセージを見た。それが、何十件も履歴で残っている。これで、レイは安心した。自分が生きている事を伝えられる。セイントバードとも合流が可能になるだろう。

 連絡が取れる事は、レイにとってこれ程幸運な事は無いと言える。普段使用しているデバイス、端末が故障すれば誰とも連絡が取れない。その瞬間、人は不安に陥る。ジェルヴァに救われてからのレイが、正にこれだったのだ。レイは、すぐにエリィにメッセージを送った。無事である事と、今、ヒパック村に居るという事を。

「奴隷!起きたでしょ!さあ、掃除!」

そこへシャルアが襖を開けて来た。それに反応するようにレイは身体を起こし、シャルアの方を見た。その手には、Eフォンが握られていた。

「Eフォンを持ってるって事は、やっぱり夜中に起きてたんじゃない。本当に寝てたらそんなもの触らないわよ。」

と言うシャルアの言葉に対し、レイは

「ありがとうございます。直してくれて。」

と言った。

「べ、別にお礼なんて要らないわよ。あたしの仕事と思ってやっただけよ。さて、掃除!早く起きる!」

 シャルアの口調が元に戻った。いつものシャルアだ。高圧的な態度でレイを翻弄し、彼を奴隷と罵り、掃除をさせる彼女。だがEフォンを直してくれた。それも、徹夜で。シャルアの方も眠そうにしているのを見て、レイは彼女なりの優しさを感じ取っていた。

「あ、そうそう。そのまま掃除ね!コスプレメイドみたい!アハハ!」

「そんな!僕の服を返して下さいよ!」

「嫌よー。つべこべ言わずに掃除しなさいよ!」

自身の服を着せて貰えないレイは、ただ、彼女の命令に従うしか出来なかったのであった。

 

 

 

レイは雑巾を掛け、掃除をしている。何故このような旧世代の方法で掃除をしなければならないのかと思うレイだが、今は彼女の指示に従うしかない。彼が履いているスカートは丈が短い。その上で下着も女性物の下着。もし見られれば、変態扱いは避けられない。それが、嫌で仕方がないのだ。幸いなのは、レイの場合は外見が余りに少女と、瓜二つである事ぐらいだろうか。

 

やがて彼が掃除している時、眼前に、幼い少女の姿が目に映った。推定年齢は五から六歳程度だろうか。

その少女はレイをじっと見つめ、動かない。彼は少し戸惑いつつも掃除を続けようとした。だが、そこで幼女が口を開けた。

「あれ、おねえちゃん、もしかして、うちおねえちゃんにそうじさせられてるのか?」

「え?」

幼女は、今確かに〝おねえちゃん〟と言った。その事からして、シャルアの妹であることが認識できた。だが今のレイは少女の姿。妹から見れば、シャルアの知人が掃除をしているように見えるのだ。

「き、君は、シャルアさんの妹さん?」

「おお!そーそー!おねえちゃんの妹だ!名前はぁ、メナン!」

独特な喋り方をするシャルアの妹、メナン・ジェイン。レイは掃除をしつつ、苦笑いを浮かべて、少女に挨拶をする。

「僕は、レイ……訳があってこんな格好してるけど、一応男だよ……」

もう、どうにでもなれと言わんばかりにレイは自身が男である事を明かす。何を思われても構わない。構うものかと言わんばかりだ。

「おねえちゃん、おとこか!あー!そーいえばきのうのあさごはんのとき、おとこのかっこうしてたなあ!」

男の恰好というが、彼は男だ。しかし今のレイは、見た目が完全に、女子である。

「なぁ!」

その時だ。突如メナンが大声を出した。それに、ぴくりと反応する、レイ。

「うちのおねえちゃん、ガサツか?」

「が、ガサツって……?」

「らんぼーか?ぼうりょくてきか?ひどいか?」

何故だろうか。レイに興味を持っているようにも見えるメナン。次々と溢れ出て来るメナンからの質問に始め彼は困惑したが、冷静になって考えてメナンに話し掛けた。

「うん、まあ……ね。」

濁す言い方をしたが、それはレイの本心と言える。

「そうか!やっぱりそうか!おねえちゃん普段からたいど悪い!」

「え、そうなの?」

「おねえちゃん、じぶんより弱そうでなよなよしてるやつ見たらすぐいじる!たち悪い!どれいとかゆってる!どれいってむかしおおさまがいじめてたひとのこというだろ!」

(シャルアさん、この子の前でもそんな事、平気で言うんだ……)

メナンの言葉から、シャルアが如何に元からサディストのような性格をしているのかが、分かる。今まで彼女はどのような生活をしていたというのだろうか。この時、彼は疑問を感じていた。

「おにいちゃんそんなかっこうさせられてるじてんでおねえちゃんに目つけられたな!かわいそ!」

的中したことを言われ、彼は心が串刺しになった気分になった。

「そういやおにいちゃんの名前きいてないな!なまえなんてーの?ねんれいも教えて!」

シャルアの妹に名前を聞かれ、早速、レイは答えることにした。

「僕は、レイ・キレス。十五歳だよ。」

「レイ……れいか!じゅうごさい?あたしはろくさい!」

「六歳……か。僕の妹より年下だ。ミィスは確か九歳だったかな。」

「れい、いもうとおるんか!?」

その時、メナンは何故かテンションを上げてレイの側に近寄ってきた。彼の存在に興味を持ったのだろうか。

「うん。今頃学校は休みだから、家にいるんじゃないかな……」

この時、レイは故郷の事を考えていた。家族はどうしているのか。世の中が戦争状態と言う大変な状況で、今自分は何故か女装させられた上で掃除をさせられている。この妙な状況であるのだが、どうにか生きている。その事を、噛み締めているレイ。

「でも、僕は今はやる事をやるだけだから……ごめん、お話は後でしよっか。」

苦笑いを浮かべるレイ。だが――

「メナンもやるー!」

と、メナンは突如雑巾を持ち出し、そのまま、床を吹き始めたのだ。突然の行為にレイは何度か目を瞬きさせた。彼女の厚意なのだろうか。だが、それが嬉しく感じられたのだ。

 

 

 

ようやく掃除を終えたレイは、自室でメナンと共にと時間を過ごす事にした。朝食を食べたい気持ちはあったが、今の恰好では人前に姿を見せられる筈がない。その隣では、レイに対して興味を抱いている、小さなメナンがレイの方向をじっと見て目を輝かせている。

戦時中とは思えない団欒とした光景。それに対し、レイは安心を感じていたのだ。

「れい、かのじょいるだろ!?」

「え、どうしてそんな事を……?」

突然の質問に、レイは困惑する。言い当てられたためだ。

「い、いることにはいるけど……全然会えないって言うか……何と言うか……」

動揺しつつも、レイはメナンの質問に、答えた。

「えんきょりれんあいってやつか?大変だな!」

「まあ、遠距離といえば遠距離だけど……」

自分の恋人であるリルム。しかし今、彼女はアステル家に保護されているという。それは、良いのだが彼女の心境は今、どうなのだろうか。

 

「へぇ、あんた彼女いるんだぁ。」

その時、背後からシャルアの声が聞こえてきた。そう言うなり、彼女は和菓子を食べながら、床に座る。

「でたな!おねえちゃん!」

「人を怪人みたいな扱いすんな。」

この様子から、メナンとシャルアは仲が良い事が伺える。彼の寝室に、少女が二人。それも、姉妹だ。女装しているレイを含めれば、三姉妹が一つの部屋に居るようにも見える。

「にしても意外ね。あんたの彼女、見てみたいかも。画像、無いの?」

そう言って、レイの側に寄るシャルア。これも拒否すれば、何をされるか分からないと判断したレイは、写真を見せる事にした。

 その写真は、学園祭の時に皆で撮った写真だ。五人が集まる写真の中に、リルムの姿が映る。

「あ、可愛い。ん?あれ……この子、見た事ある……ような……?」

「え?」

シャルアの意味深な言葉に、レイは思わず反応する。だがその時――

 

『アステル家、新生連邦軍と戦闘状態に入る』

 

Eフォンには速報ニュースを知らせる機能が備わっている。アステル家が新生連邦との交戦に入った情報が、今、入ったのだ。

(アステル家が……え……待てよ……リルム!?)

そう、彼は肝心な事を思い出した。アステル家には、リルムが保護されている。これが何を意味するのかは、容易である。リルムが、危ない――

 

ダッ

 

レイは慌てて廊下に出た。緊急事態だ。リルムは無事なのか、それを確かめなければならない。アステル家が襲われているのならば、尚の事だ。今の状況はどうなっているのか。それは、実際に彼女に聞かなければ分からない。

 

 

 

「リルム!お願い!電話に出てよ!」

レイはリルムに電話を掛ける。アステル家と新生連邦が戦闘に入ったという情報は彼を困惑させた。もし、彼女の身に何かがあれば、彼はもう、立ち直れないかも知れない。無事でいてくれと、ただ、願うばかり。電話で、彼女の声さえ聞き、無事ならばそれで良い。お願いだ、繋がってくれ――

だが、残念な事に、回線は繋がらなかった。それも、その筈。アステル家には妨害電波装置が搭載されている。Eフォンの回線は繋がらない仕組みとなっているのだ。故に、レイは一層心労を蓄積する事になった。

 

 

 

 リルムの事が不安になりつつも、シャルアとメナンが居る、自身の寝室に戻って来たレイ。この時、レイの表情は明らかに不安げだ。リルムは無事でいてくれるのか。ただ、その事ばかりが気がかりなのである。

「どおした?げんきないぞ?」

心配そうに、メナンが聞いた。

「ううん、何でも……無い。」

リルムの事が心配なレイ。それを見たシャルアが、レイの傍に寄り、額を示指で触れたのだ。

「何となく、分かる。彼女の事でしょ。心配なんだよね。大丈夫よ、きっと。」

「シャルア、さん……?」

心配をしてくれている?あの、シャルア・ジェインが?珍しい事だと、感じていた。昨日まで散々“奴隷”と罵っていたのにも関わらず、今の彼女はこれ程に優しいのだろうか。

「それより、服、着替えなよ。あたしの部屋に行けばあんたの服、あるから。なんか、嫌でしょ。今の心境で女装するのは。」

何故これ程に急に配慮するようになったのだろうか。疑問を抱きつつも、レイは彼女の謎の配慮に感謝し、部屋を出た。

 

 すぐにレイは着替え、戻って来る。彼は元の姿に戻る事が出来たのだ。

「根拠とかそう言うのは無いけど、大丈夫だと思うよ。うん、あたしが言うんだから間違いないって。心配は要らないと思うよ。」

妙な優しさだった。だが、今のレイにはその優しさが染みる。リルムの身に何かあったら大変だ。もし、死ぬような事があれば目も当てられない。どうか、無事でいて欲しいと、願うばかり。

「……ありがとうございます。確かに、心配ばかりはしてられませんね。」

不本意だが、今はアステル家に奮闘してもらう事を祈るしかない。彼等が倒されれば、リルムは死んでしまう為だ。どうか、無事でいて欲しい。頼む。それが、レイの精一杯の願いだ。

「そおいえば、れいはえーすパイロットなんだよな!」

「え、えーす……?と言うかそれをどこで?」

余りに突然の出来事と言えた。メナンは、彼がパイロットであることを指摘したのである。

「がんだむにのってたたかうんだろ!知ってる!お姉ちゃんが言ってた!」

恐らく、帰って来た初日にシャルアがメナンに言ったのだろう。確かに、それは事実ではあるが、余り伝えて欲しくない事実でも、あったのだ。

エースパイロットと言えば聞こえは良いが、実際に行っているのは人殺しだ。その、人殺しを行ってきた自分が恋人を心配するという状況も、傍から見れば滑稽に思われても仕方がない事である。

メナンのような少女に人殺しである事を言われるのは気が引けてしまう。それが、レイには辛い。彼は昔から、少々の事を気にしてしまう少年だ。その為に、普通人が気にしないようなことでも人一倍気にして悩んでしまう。リルムの事と、その事が災いしているせいで、メナンの前で素直に笑えないでいたのだ。

「僕は、エースパイロットでも何でもない。ただ、守る為に戦ってるだけなんだ。」

そっと、レイが呟く。その言葉はメナスに言われ、“我儘”と一蹴にされた彼の価値観だ。

「レイ、たたかっててのうみそかっせいかするんやな!しんぎゅらるたいぷみたいに!」

「うん、そうなんだ――えええええ!?」

それは、余りに突然過ぎた。何せ急にメナンが彼の力の事を言い出したのだから。今まで一切言葉にしていないその言葉。もしかしたらシャルアから教わったのかもしれないと思うのだが、どうしても驚く。

「そ、それをどこで……?あ、シャルアさんから聞いたの?」

シャルアに話を振るが、彼女は首を横に振った。

(聞いていない……?この子……一体……?)

どうやら姉には聞いていないらしい。それが彼を一層驚かした。

(透視能力?やっぱり不思議だ……何なんだろう。)

メナンの持つこの不思議な感覚は村長と同じだった。この時、レイはシャルアの言葉を思い出した。

 

―――――――でも……妹が少し興味あるのよね。たまに透視されるのよ――――――

 

不思議でならない、メナン。一体彼女は何者なのか。彼女も、村長と同じシンギュラルタイプの力を持っていると、言うのだろうか。

 その実態も謎に包まれている存在。レイも同種かも知れない。奇妙な縁を、彼は感じている。そして、レイはエリィに言われた言葉を思い出した。

 

――――――――――――――力を持つ存在同士は惹かれ合う――――――――――――

 

(本当に、そうなのかも知れない……)

レイは、自身に起きた妙な感覚を改めて確かめていた。力を持つ存在同士が、この家に三人いる。村長、メナスと、シャルアの妹、メナン。そして、レイ。

「だからレイとおなじかんじ、わかる気がしたー!すげえすげえ!わーい!レイ好きー!」

これがきっかけとなり、メナンはレイに近付き、抱き締めた。奇遇ではあったのだが、シャルアと違い、メナンは純粋にレイの事を気に入った様子だったのだ。

「へぇ、良かったじゃない。メナンに気に入られたわね。あたし以上に手を焼くことになるよー。じゃあねー。朝食食べてくるわー。」

「え?へ?」

何を言っている?手を焼く?レイはまだ、この言葉の意味が理解出来ていなかったのであった。

 

 

 

 暫くして、レイはメナンと遊びに付き合う事となってしまった。メナンはゲームが好きなのだが、肝心のレイは、それに興味を示す様子がない。それも、熱中すれば彼女はそればかりをする。同じゲームの繰り返し。レイは相手になるのだが、これが苦痛なのだ。

「れい!てぇぬくな!」

「抜いてない!」

小さな暴君、メナン・ジェイン。ある種、シャルア以上に厄介な人物と言える彼女。先程までの不安は何処へ行ったのか。今、レイはこの小さな少女を相手に遊ばなければならなかったのだ。それも、シャルアの言う、“奴隷”に該当するというのだろうか。

 

 

 

 今、村長の家の前に軍用車が五台停車している。側にはディーストが一機存在している。寒冷地用のディーストだ。実弾ライフルを装備しているその機体。

彼等は神聖連邦軍だ。だが、何故彼等はここに集まって来たというのだろうか。

そこに、一人の男が軍用車から降りてくるのが見えた。若干の髭に、茶髪の男。肩幅が広く、筋肉質な印象を持つ、その男。外見の年齢は、推定代といった三十代といった印象を持つ。

 何よりも、この男、この極寒の地であるにも関わらず半袖姿なのだ。他の兵士が厚着のジャケットを羽織っているにも関わらず、何故このような格好が出来るのだろうか。

「こちらです、ベネツィア大尉。」

と、兵士に案内され、その男は降りる。

 男の名は、ガウル・ベネツィア。階級は大尉。新生連邦軍の士官だ。辺境の田舎の土地であるここに、軍車が五台存在しているという状況。そして、軍人の男。彼等が、現在ヒパック村を弾圧している軍の人間なのだろうか。

「随分と、小さな村ではないか。そのような村のレジスタンス如きに新生連邦が、苦戦しているようでは世も末だな!」

と、高らかに語るガウル。やがて、そのまま彼は村長、メナスの家の門の前に移動するのだ。

 

 

 

 メナンと遊んでいる最中のレイだったが、その時、彼はシャルアに呼び止められ、一度部屋に戻る様に言われた。レイは彼女の指示に従うが、何が起きたのかは把握出来ていない。

 この時のシャルアの表情は険しい。先程までの意地の悪い表情を浮かべていない。

「あの、何かあったんですか?」

「新生連邦の連中がうちに来たのよ。」

「え、どうして……?」

新生連邦に抵抗している彼等。なのに、何故新生連邦軍が家に来るというのか。今、彼女達は身を潜める事しか出来ない。

「村のような集落が軍備を持っているなんて連中に知られたら大変な事になるのよ。恐らくあれは見回りか、交渉かどちらかね。」

「そう言えば、気になっていました。ジェルヴァって村のレジスタンスが集まって出来ているMS乗りのチームなのに、どうして村から離れているのかな……て。」

村が新生連邦に襲われているのならば、村に戦力を常備する筈だ。だが彼等はそうでなく、ジェルヴァは村から離れた場所を周回している。その理由を、レイは分かっていない。

「あんた馬鹿ね。普通に考えて管轄下に置こうとしている村にMSとか軍備があるって知られたらそれこそ武力行使されちゃうわよ。そうならないようにあたし達は離れないと行けないの。あたし達は、あくまでもMS乗りとして氷河族とか新生連邦と戦っているに過ぎない。万が一、村自体に戦力が持っているなんて知られたら大変な事になる。だからその事だけは、絶対に連中に知られちゃ行けないの。前に見たディエルも、今は隠している筈。」

事情を把握したレイ。ジェルヴァチームは、村の外から村を守っているという事なのだ。あくまでも、村とは関係ない。

「そう。昨日は久し振りにここに戻ってきたのは良かったわ。でも、恐らくあんな感じで定期的に軍の連中が確認しに来てるんでしょうね。早くこの場所をその手に収めたいと思っているだろうから。」

ヒパック村は一見、平和な雪国の村に見えるのだが、実際は違う。新生連邦軍に、いつ武力行使されるのか分からない状況だったのである。

「けどさっき入って来たあの半袖の筋肉軍人、なんか変な奴だった。目元が変っていうか。なんていうか。」

その男こそ、ガウルだった。新生連邦軍の軍人の中で、独特の雰囲気を醸し出しているこの男は一体何者なのだろうか。

 

 

 

 メナスの部屋で、こたつが境界線の如くガウルとメナスが対峙している。メナスは一人、一方のガウルは二人の兵士を連れており、一対三の状況が出来上がっていた。

「随分と、“和”が目立つ環境ですね。極東の国、日本を思い浮かべるようです!ハッハッハ!」

異様なテンションの男。これに対するメナスの対応は冷静だ。

「新生連邦軍の方が、村に何の御用で?」

「単刀直入に言います!新生連邦にこの村を差し出して下さい!尚、この条件を飲めない場合は数日以内に武力行使を行わせて貰います!」

新生連邦樹立後、村への弾圧は少しずつではあるが行われていた。だが村人に大きく影響するような内容ではなかった。だが今回、ガウルは強硬手段に出た。直球に、武力行使を行うと言い出したのである。

「随分と強硬手段に出られたものだ。今までの軍の人間はここまで強硬手段に出る者は居なかった。」

新生連邦樹立後も村が在り続けられたのは村の護衛の為に密かに存在しているジェルヴァチームの存在を隠す事が出来た為である。彼等と村はあくまでも別物という事。それは新生連邦に知られる事なく動く事が出来ていた。武力を持たない自治体に対して強硬手段に出る事は軍としてもあってはならない。その上、村を優先的に勢力下に置く必要性は低かったのだ。その間も新生連邦から度々村へ交渉はあったが、いずれも強硬手段に陥る事なく動く事は出来ていた。

 だが今は新生連邦が平和国連盟に宣戦布告をしている。つまり、更なる軍事力が欲しい状況となった。故に、この村にも新生連邦の脅威が迫っている状況という事になるのである。

 今回、ガウル・ベネツィアが村長宅へ交渉してきたのは、早急にヒパック村を傘下に入れたいという新生連邦側の思惑があった為だ。

(この男、何やらわしと同じような感性を感じる。だが気になるのはどこか人為的というか、まるで紛い物だ。噂の新生連邦の司令官がシンギュラルタイプなのは、本当の事のようだな。)

この時、メナスはガウルから妙な感覚を感じ取っていた。男の発する言葉の一つ一つが違和感のあるものであり、明らかに、“異質”と呼べるものだ。

「四十八時間以内に返答を下さい!それで受け入れられないのならば!相応の行使をさせて頂こうと考えています!」

この言葉に、メナスは動揺した。村が攻撃される……それも、新生連邦に。今まで平和で在ることが出来た村が戦禍に包まれる事は、あってはならない。

「噂で聞いたのですが、この村の周辺にMS乗りが居るそうですね!しかも、徘徊しているとか。何か、関係があるのですか?」

村の有志が集まったレジスタンスの戦艦等、言える筈がない。だがガウルはそれを察しているかの如く話をしている。

「そのような話は存じ上げませんな」

と、メナスは否定する。

「村長、“嘘”はバレますよ!分かっているんですよ!この村にレジスタンスの存在が在る事も!私は分かる!私には、分かる!!そのような存在がある村など、“脅威”ですからね!」

この男、一見張り切っている様子を見せるのだが村長が隠している事を見抜いていた。それは彼が力を持つ人間であるが故なのかも知れない。しかし、ガウルの放つ感触は、明らかに特殊だ。純粋な力とは言えない、力だ。

「では、これにて――」

と言った時、ガウルは何かを察したように、視線を泳がせた。

「気のせいだろうか!この家、別の、“感覚”を感じるような!気がしますね!では、良い返事をお聞かせ下さい!」

そう言った後、ガウルは立ち上がり、兵士と共に去って行った。まるで、嵐が来て、それが去って行ったような時間。今、この家にその時間が訪れたのだった。

 ガウルの言うように、四十八時間後に村が火に包まれるかも知れないという状況。これは、明らかに由々しき事態と言えた。

 

 

 

 ガウルが村長宅で交渉をしていた頃。兵士達は彼の事で密かな噂をしていた。メナスが言うように、人為的な感覚を持つ男、ガウル。彼の存在は兵士達の中で噂になっていた。

「ガウル・ベネツィア。階級は大尉。この人間の最大の問題点は、“強化モデル”ってところなんだよな。」

「ただ、戦う為の兵士がなんで上官なんだよって話だ。こんなクソ寒い田舎村で半袖で肌見せられるのはあの男が強化モデルで身体強化されている為なんだぜ。」

兵士の一人が言った。彼の言うように、ガウルは純粋なシンギュラルタイプでない。彼は、強化モデル。戦う為の、兵士だ。

「さて、あの野郎が上官になって、果たして新生連邦はどう動くのか……だな。この田舎村を早急に制圧するのかも知れない。」

「やりかねないよな!“強化モデル”なら!」

強化モデルに関しては、兵士達からも良い噂を聞かない。人為的に作られたシンギュラルタイプという存在を気味悪く感じる人間が、多い為だ。

 先のヴァイダーガンダムによる襲撃でも、パイロットはリノアスだった。特殊強化モデルの彼女の事は兵士の中でも伝わっており、故に、強化モデルの存在を毛嫌いする人間が多いのだ――

「私の話をしていたな!」

その時、彼等の背後に一人の男の姿があった。びくりと反応する、兵士達。

 ガウルだ。メナスとの交渉を終え、戻って来た彼がここに居た。そして、彼ははっと息を飲み、声を荒げて行った。

「私はシンギュラルタイプだ!それ以上でもそれ以下でもないぃぃぃっ!」

自らを“シンギュラルタイプ”と言い張るガウル。それが、彼の誇りであり、拘りなのだ。それを聞いた兵士達は、ただ、黙るしか出来なかったのだった。

 

 

 

 ガウルが村長宅に来た後、彼はゲイルを呼び出した。ジェルヴァで休憩をしていた彼は艦を近くまで移動させる。緊急の会談を行う事を決めたのだ。

 新生連邦が四十八時間後に武力行使を仕掛けてくるという現状。これは、村にとって由々しき事態である。だからといって村を明け渡す事になれば、彼等の住処が無くなる。そのような事はあってはならない。

「非常事態だ。新生連邦の人間が先程わしのところに来てな、四十八時間後に村を襲撃するという。」

「随分と、急な展開ですね。」

ゲイルの表情が変わった。

「ゲイル、我々はどうすれば良いと思う?村人を避難させるには時間はある。わしは無論、欲求を飲む気はない。しかし奴等は武力行使をすると言っておる。厄介だぞ。」

メナスの言葉に、ゲイルは

「戦いましょう。あくまでも、“MS乗り”として。」

と、言った。

「だが、連中はこの村にレジスタンスが居る事を見抜いている。指揮官のあの男、察する事が得意なようだ。あの禍々しい感覚は純粋なシンギュラルタイプとは思えんかった。人為的な感覚だった。」

人為的な感覚という言葉に、ゲイルは反応する。

「強化モデルというやつですか。」

「詳細は分からんが、人間をシンギュラルタイプに近付ける、非人道的な方法で戦力にするという話は聞いた事がある。」

強化モデル自体はデウス動乱時から確立した人工的に力を持つ人間を作り出すというプロジェクトだ。戦後になってからは新生連邦がスルース・ディアンが中心となって、特殊強化モデルといった人種を生み出していた。

「気になるのは、その男が強化モデルだったとして、何故、指揮官を務めているのかというところですね。噂ですが、強化モデルは情緒不安定に陥り易い面があるという話を聞きます。新生連邦は、何故強化モデルを現場の指揮官という立場に置こうとするのでしょうかね。」

「連中の、一種の実験なのかも知れんな。このような小さな村の制圧程度ならば強化モデルのような、人工で作られた人間に指揮を任せても良いだろうという魂胆だろう。舐められているとしか、言い様がない。」

メナスは置かれている茶を啜り、言った。

「そもそも指揮官というのは感情に溺れてはいかん。いくら後天的に力を得ようとも、己がエゴを優先させるような指揮をすれば全てが崩れる。ガウルとか言ったあの男は恐らく、四十八時間も待たんよ。所詮は感情のコントロールが出来ん人間と見た。それぐらいの覚悟で、動いていった方が良さそうだ。」

メナスは男の行動を読んでいた。それはシンギュラルタイプであるが故か。それとも、彼の経験故なのか。

「すぐに、メンバーを集めます。あとは、村人のジェルヴァへの避難ですね。」

この後、すぐにゲイルはジェルヴァチームを集める事になる。新生連邦の指揮官、ガウル・ベネツィアの言葉を信じてはいけないと思う彼等。そうなれば、早急にクルーを集め、戦力を補充しなければならないのだ。

「手配は任せる。わしも出来るだけの事は尽くす。

 

 

 

 新生連邦が攻撃を仕掛けてくるという情報は瞬く間に村に伝わった。パニック状態になる村。その中で、ジェルヴァチームのクルー達は家族や近所の人間を集め、ジェルヴァに避難させる準備を始めていた。

 ガウルが四十八時間以内に村を攻撃すると宣言してから六時間後。ジェルヴァに村人の大半が集まった。だが、そこに居たのは全ての村人ではない。幾人かは村に残る人間も居たのだ。危険である事を分かった上で、留まる者も数名居た。覚悟を決めたものや、両親の介護等で動けない者も居たという。

 問題はそれだけでない。村の中で唯一の医療機関では、絶対安静の患者の姿も数名居たのである。こうした問題があり、全ての人間の避難は完了出来ていないのだ。

 避難してきた人間の中には、レイの姿もあった。無論、シャルアも。この時、妹のメナンも一緒に着いて来ていたのだ。

「みんないっしょ!れいもいっしょ!」

と、笑顔を振り撒くメナンだが、状況は良くない。

「子供は良いわよね。こういうのも遠足みたいな気持ちなんでしょ?」

「でもメナンちゃんは嬉しそうだねー!レイ君の事、気に入ったの?」

「そう。こいつの事随分気に入っちゃったの。ま、レイは子供に好かれそうな雰囲気あるしね。」

少女達がそれぞれ、会話をしている。非常事態にも関わらず、彼女達はどこか、朗らかだ。

「ねえ、レイ君。ちょっと聞きたい事があるんだけどねぇー。」

「はい?」

突然のニアからの質問に、驚くレイ。

「気になったんだけどさ、シャルアの事、どう思ってるのー?なんか、凄く仲良さそうにしていたし!」

この状況で、何故このような話をするのだろう。レイには、理解が追い付いていない様子だったのだ。

「どう思ってるって言われても……というか、そんな事、今聞きます!?」

と、返事をした時、今度はクリアがレイに話しかけてきた。

「ううん、少しでも、朗らかな話をして、リラックス……それはとても大事だと、思う。敵が来るかも知れないのは分かるけど、こんな時だからこそ、緊張したままなのは、良くないと思うから……」

「クリアさん?」

そう語るクリアの表情は、どこか、暗い。それだけでない。その暗さの中に、憎しみを秘めているようにも見える。

「私、両親を新生連邦に殺されたから……レジスタンスとして活動する事になったのは、それがきっかけ……ニアはあんな性格だけど、私の親友。一緒に居てくれる、仲間だから。」

クリアの過去が、この時語られた。彼女は両親を新生連邦発足時に軍の人間に殺されている。その際に天涯孤独となった彼女はそれからジェルヴァチームの一員になった。その中で、友人の存在を見つけ、彼女なりに戦っているのだという。

「そう、だったんですね……」

「だから、今は少しでも雑談は大切。気を紛らわせたりするのは……大切だから。」

クリアの小さな声は、この場にいるメンバーに聞こえた。この、何気ない会話は戦場では難しい。故に、大切と言えたのだ。

「それに……あの格好のレイ、凄く似合ってたし……可愛いって思った……」

「あー、あれねー!良いもの見せてもらったよー!本物の、女の子みたいだよね!」

突如、ニアとクリアが笑いだす。それは、何なのか。意味深な発言をする二人。

「え?あれって……まさか……!?」

レイは側にいたシャルアを睨むように見た。そこには、口元を手で覆っている彼女がいた。今にも、吹き出しそうな表情を浮かべている。

「プッ……くくく……あれ、二人に送っちゃった……!くくくくく!」

その瞬間、レイの顔は赤く染まった。女装姿の写真。恐らく以前の夜に撮られたものだ。レイの許可なく、シャルアはこの二人に送ったのだ。

「おんなのこのれいー!」

メナンまでレイを揶揄う始末だ。この時、レイは更に顔を両手で塞ぐ事になるのであった。

(いっそ、死んでしまいたい……)

 

 

 

 その後、ゲイルがクルー達に向けて現状の説明を行った。

「えー、皆、集まってくれて、ありがとう。聞いての通りだが、四十八時間後……もうあれから六時間は経っているから、後四十二時間後に新生連邦軍が村に攻撃を仕掛けてくるという警告を受け取った。無論、俺達は連中と戦う。この村を守る為に。もし降伏をしたら、住処を追われるどころか、どのような扱いを受けるのかも分からない。少なくとも、今以上に過酷な生活が待っていると予想出来るだろう。」

ゲイルの声が響いた。クルー達は、MSデッキにてゲイルの言葉を聞き、今後の事を考えている。

 新生連邦に支配され、自由が奪われる事はあってはならない。村を守るのは、村人自身だ。その為に、ジェルヴァチームは戦う。

「その為、急遽だがMSの整備を行おう。今、うちにある機体は八機。あとはあの、レイ君のガンダムタイプぐらい。だがあれは今、使える状況ではない。うちにある戦力で、連中を迎えるしかない。どのような手段で来るかは予想出来ないが、俺達に出来る事をしよう。」

と、ゲイルが言った後、シャルアが口を開いた。

「キャプテン。どれ……レイのガンダムですけど、急ピッチで改修をやっていこうと思うんですけどー。」

シャルアの提案。それは、ツヴァイを急遽形を作るというものだ。だがパーツも揃っていない状況でどうやって半壊状態のツヴァイを組み上げるというのか。

「それ、早く出来そうかい?」

「間に合わせますよ。人数揃えれば、多分!」

突然の提案はレイを驚愕させる。ツヴァイの改修等、簡単に出来るものなのだろうか。

「出来るんですか!?確かに、あれがあれば敵にも対抗できるかも知れないですけど……」

「あんたのガンダムでしょ?あんたが乗る機体を作って、活躍してもらうのよ。完成はさせるわ。その代わり、噂のサイコミュ兵器の実力、見せなさいよね。」

腕を組み、レイを見るシャルア。

「シャルアさん……」

彼女の家で散々な思いをしてきたレイであったが、今の彼女の言葉は頼もしい。今は使えないツヴァイだが、形だけでも完成させることが出来れば敵を迎える事は出来る。レイは、ジェルヴァチームの為に、戦いたい気持ちで一杯だ。

「じゃあ、シャルアの方は任せる。俺達は、俺達で出来る事をやろう。各員、準備を。新生連邦の連中に一泡吹かせてやろう!」

村の為に戦うジェルヴァチーム。新生連邦の支配に負けない為にも、レジスタンスとして闘う彼等。四十八時間後に迫るとされる、新生連邦からの攻撃。それまでに、彼等は準備を進めて行かなければならないのだ。

 

 

 

 やがて時間が経過し、それぞれがMSの整備や、戦闘準備を進めて行く中、ツヴァイガンダムの改修作業が開始される。この時、ツヴァイは左上腕部をジョゼフのものに適合させようとしていた。破壊された部分のパーツなど、ない。ならば、今あるジャンクパーツを利用し、せめて適合させる事を進める必要がある。

 幸い、今のツヴァイはブリッツファンネルは生きている様子だった。だが半数は数が失われており、右半分のみにファンネルが存在している状態だった。形状だけ見れば、バランスが良いとは言えない。しかし、今は一秒でも早く、ガンダムの完成を急ぐ必要がある。ジャンクパーツを組み合わせた機体であろうとも……だ。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

ジェルヴァ艦内にサイレンが鳴り響く。緊急事態が発生した、音だ。

「全クルーへ!敵機体襲撃!各自待機をお願いします!」

 イヤー・メゾッソの甲高い声が、聞こえた。まだ、四十八時間は経っていない筈なのに、何故警報音が鳴ったのか。敵が来ている?どこから?今のタイミングで新生連邦が来るという事は、それは紛れもなく約束を破っているという事だ。

「イヤー、敵の所属は?新生連邦が約束破りをしてきたのか?」

「違います、ライブラリ照合しましたが、これは前に戦った奴です!ファドゥームタイプの機体です!」

「どこから来る?」

「裏の氷河付近から本艦に接近中!」

幸い、避難が終わっていない村が襲われる事はなかったようだ。しかし、この状況で敵が現れるのは余りにタイミングが悪い。

「チッ、どうやら、またあの連中と戦わないと行けないらしいな。やれやれ!!」

呆れた様子で、ゲイルは言った。今回の敵は新生連邦でなかったのだ。以前彼等が交戦した、氷河族の構成員である可能性が、高いのだった。

非常事態に対応するように、クルー達は戦闘態勢に入った。ブリッジにはオペレーターが集まり、砲撃手も居る。そして、MSデッキには各機体のパイロットが乗り込むのだ。

 ニアやクリアが各機体に乗り込み、レイも、先日の戦闘で乗ったジョゼフに乗り込もうとした時――

「まったぁ!」

突如、幼女の大声が聞こえた。それは紛れもなく、メナンの声だった。

「れいもびるすーつ乗るんか?メナンも乗る!」

何を言っているのか。メナンがMSに乗る事で、何があるのか?危険極まりない事だ。そのような事等、許される筈がない。

「メナン!アホか!あんたは大人しくしてなさい!」

シャルアが止める。これは、当然の事と言える。

「れいいないとさびしい!だから行く!」

「戦闘するのよ?下手したら死ぬよ!いいの?嫌だったら家で大人しくしてなさい!」

「嫌だ!れいと一緒がいい!」

「自己中!もっと周りの事考えなさいよ!死んだら家族みんな悲しむわよ!」

姉妹喧嘩を始めた二人。緊急事態なのに厄介な事になったと思ったレイは

「む、無理だよ!危険すぎる!大体どうして……」

と、メナンを止める。しかし、メナンは我儘を言うばかりだ。

「れいといっしょがいい!」

この状況で、メナンが我儘をいうものだから、シャルアはメナンを叱った。

「メナン!!ふざけんじゃないわよ!死ぬ気なの!?大人しくしてなさいよ!」

姉妹喧嘩だ。この光景を、クルーの誰もが見ている。しかし、メナンは引くどころか、更に暴れ始めてしまった。

「うるさい!あたしはれいといっしょにいくんだぁーーーーーーーーーーー!!!」

そう言った時、メナンは走り出した。それを見てシャルアは追いかけるが、時、遅し。メナンはレイの手中にいたのだ。

「こ、困る!戦闘が終わったら遊んであげるから……ね?」

「じゃあれいしんだらどーする?しんだら遊べない!!だからいっしょにいく!」

メナンはレイと一緒に行動したいという、ただ。それだけの気持ちだったのだ。だが幼さが原因であるためか、戦闘の事を把握できていない。要するに自己中心的にメナンは動いているのだった。

困り果てるレイ。すぐにでもシャルアに身柄を渡したいのだが、どうしてもメナンは嫌がるのだ。だがもう間もなく発進が始まろうとしている最中。メナンを引き渡す時間も、無い。

「仕方がない……メナンを乗せるしか……」

苦肉の策だった。我儘状態のこの幼女をどうにかするには、ジョゼフのコクピットにメナンを乗せるしかない。非常時に更に非常が重なるという状況で、レイは戦わなければならないのだった――

「シャルアさん、この子を乗せます!今は時間もありません!」

レイがそう言った後、シャルアが叫んだ。

「ああもう!絶対に死なないでよね!メナン!後でお仕置きだかんね!!」

非常時にまさか姉妹の痴話喧嘩を聞かされるとはよもや思いもしなかっただろう。レイは、ただ、そっと溜息を吐き、ジョゼフのコクピットに、メナンと共に乗り込むのだった。

「レイ!!!しぬな!!!しんだらメナンもしぬぞ!!!」

「分かってるよ!」

余裕のないレイは、緊張した様子で、コクピット内の電源を入れるのだった。

 

やがてモニターが360°展開され、スクリーンが真下まで見られるようになった。それを見て、感動する様子のメナン。

「おーすげえ!」

「メナン、大人しくしていてね……」

そっと息を飲み、待機するレイ。久し振りの戦闘。ヒパック村の僅かな日常を謳歌したレイ。不快に思う事、妙な体験をした彼だが、今は村を、そして、目の前に居るメナンを敵勢力から守る為、動こうとしていた。

レイはそっと深呼吸をする。彼はジョゼフを駆り、一度失敗したことがあった。その際はゼルに助けられたが、同じ事は通用しない。

 機体は新生連邦の量産機体。故に、スペックがガンダムタイプと異なる。同様のスペックと認識して戦う事はあってはならない。更に、コクピットにはメナンも居る。レイはそれらの事を理解した上で、今回の戦闘に臨まなければならないのだ。

 

 

 

戦闘が始まった。敵は氷河族の構成員。ファドゥームばかりが目立つ。左手部の鋏型のクローを展開しては、ジェルヴァチームのMSに容赦無く襲い掛かる。

レイの駆るジョゼフはこれらを回避し、頭部機関砲で牽制する。

「うわお!れいすげえ!かっこいいぞ!」

「ごめん、少し黙ってて!」

「あおあ、すまねえなぁ!」

彼女独特の感動詞を聞いても、今の彼は戦闘に集中している。が、どうしても集中力が欠けてしまう。メナンがいることで動きが鈍る。

それが悪手となってしまった。ジョゼフの動きが異常であると見抜いた、一機のファドゥームがクローを展開してレイに攻撃を仕掛けてきた。クローが脚部に直撃し、攻撃を加えられる。

「うぁ!しまった!」

焦ったレイは振り切るため、ビームサーベルを展開し、を振るい、クローを切り裂く。だが脚部は若干の損傷を受けてしまい、脚部から放出されるバーニアの出力が弱まってしまった。このため左右のバランスが取れず、彼は不安定な状態で戦わなくてはならなくなった。

「くぅ……これじゃとても……」

「れいがんばれ!てきおるぞ!」

不利な状況に対し、メナンがやたらとテンションが高いので焦りを隠せないレイ。脚部のバランスも悪く、上手く動かし辛い。

と、ファドゥームがレイのジョゼフに向け、バズーカを放出してきた。急いで回避を取る、ジョゼフ。この後、クリアのディープシーがガトリングを放ち、バズーカの弾を撃墜してくれた。チームの連携で、敵の攻撃を防ぐ事が出来たのだ。

だが、敵はレイを待ってくれない。ファドゥームは容赦の無い攻撃を繰り出す。彼の前に二機のファドゥームが出現し、バズーカを放出した。急いで回避するジョゼフ。だが、別のファドゥームのクローが彼を襲った。クローは左前腕部を挟み、ジョゼフの身動きを封じる。

「くぅぅっ!」

これに対し、レイのジョゼフはビームライフルを構えてファドゥームに対して放出。飛び出たビーム粒子はファドゥームを直撃し、撃破したのだ。メナンが居る、ハンデキャップを背負っている状況であるにも関わらず、レイはチームの撃破に貢献したのである。

「しまっ……動けない……」

「れいどうした!?がんばれ!」

自身の命の危機を知らずに、メナンはレイを応援した。だがレイにその声は聞こえていない。そしてバズーカの弾は刻一刻とツヴァイのコクピットを狙ってくる。このままではレイとメナンは確実に殺されてしまう。機体がジョゼフだった事が災いしてしまって瞬間だった。これでは、対処する手段が、無い。

 

バシュウウウ

 

そこへ、一閃のビーム粒子が飛んだ。バズーカの弾を撃ち抜き、その爆発に乗じるようにファドゥームに接近したのは、ジョゼフであった。

 困惑する機体に向け、ビームサーベルを展開し、攻撃を行った。それはコクピットを貫き、瞬く間に撃破された。

「今のは……」

危機を脱したレイ。しかし――

 

ガキィン

 

「あううっ!?」

あろう事か、レイのジョゼフは彼をバズーカ弾から守ったジョゼフに蹴られたのである。その反動で機体は激しく揺れ、衝撃が、コクピット全体に伝わった。

 衝撃吸収の為のクッションが展開される。これにより、頭への打撲、損傷を抑えられるレイと、メナン。

「邪魔なんだよてめぇ!」

声が聞こえた。ゼルの声だ。彼はメナンがコクピットに居るのを知った上で、レイのジョゼフを蹴り飛ばしたのだ。

 その事が、レイにとってはショックだった。だが、その中でそして、彼はそのまま反応してしまう。

「どうしてこんな事をするんですか!メナンが乗っているのに!」

レイの言葉。それを聞き、ゼルの表情が変わった。

「何!?ガキを乗せて戦っているだと……!?」

彼の言葉からは、怒りが込められているのが理解出来た。本来、メナンのような幼女がMSに乗る事など、あってはならない。死の危険があるにも関わらず……だ。

「てめぇ、何様のつもりだ!?何を考えてやがる!?」

「違います……!メナンが乗りたいって言って!仕方なく!」

レイの言い分も、ゼルに通用しない。メナンがコクピットにいるのは事実なのだから。

「シンギュラルタイプだか何だか知らないが、それで得意になって敵に対して舐めプレイしてるって訳かよ!?ふざけんじゃねえぞ!!たった数日前に……しかも助けられた分際で……

調子乗った行動してんじゃねえぞ!!!このボケが!!!」

この一言が、より一層レイに衝撃を与えた。

 仕事の最中や有事の時に放たれる言葉は当人へ大きく影響する。本人の中では必死に戦っている事でも、それを他者のたった一言が調子を狂わせ、時に人を迷わせ、困惑させる。

 ゼルの事情をレイは余り知らない。父親から名前を聞いていた程度だ。だが彼の言葉は明らかに、“暴力”と同義の言葉と言えた。

 更に最悪と言えたのは、レイと共にメナンがコクピットにいるという事だ。これがいかに危険であるかは当然、分かる。しかし、レイ自身も言葉を選べる状況ではなかったのであった。

やがて通信は途切れた。その後、ゼルの駆るジョゼフはジェルヴァの周辺に群れるファドゥーム達に攻撃を仕掛ける。ビームライフルにビームサーベル、そして前腕部グレネードランチャー。搭載されている、あらゆる武器を使い、ファドゥームを倒していく。

「れい!くるぞ!」

「ハッ!?」

レイの方も、ショックを受けている場合ではない。メナンの言うように、敵が迫っていた。ファドゥームが有線クローを展開し、レイのジョゼフに迫るのだ。

「しまっ――」

油断をしたレイは、クローの攻撃を許す事となった。右肩部にクローが食い込み、破壊せんと、迫ってくる。動けない。物理的に押さえつけられている為だ。

 

ズバァァァ

 

だが、有線が何者かによって切り裂かれた。その機体は、ディープシーである。クリアの機体がレイを守ったのだ。

その瞬間に挟まれていたクローのパワーは弱まり、ジョゼフはクローを外すことが出来た。直後にクリアがレイに声を掛ける。

「大丈夫?」

「あ……クリアさん。ありがとう……ございます。」

「無理なら、後退して。てか、どうしてメナンが……?」

驚愕するのも当然だ。戦場に幼女が居るなど、有り得るものか。

「すみません、事情があって。」

「と、とにかく……仕方がない。とりあえず距離を置いた方が、良い……」

そう言った後に、クリアのディープシーは去って行く。

「レイ君!メナンちゃんを守ってね!戦いが終わったらまたトークしようよ!私達だって、やれるんだからー!」

そこへニアのディーストがビームライフルを連射し、ファドゥームに攻撃を仕掛けた。敵がいる状況にも関わらず、表情一つ変えない彼女は、ある種の実力者なのかも知れない。

 レイはこの二人を見て、今は出来る事をしなければならないと、考えていた。メナンを守りながらも、自身を守り、そしてジェルヴァを守る。だが先程ゼルによって蹴られた衝撃が大きく、期待を立ち直らせるのに、僅かに時間を要したのだった。

「あいつえらいおこってたな!」

「……うん。」

不本意な事が続き、レイは本調子を出せないでいた。ツヴァイが改修中である為、ジョゼフに乗っているのは良い。だがそこへ六歳の幼女に気を遣って戦うというのは、戦闘を行う上で重荷であったのだ。

 だが、少ししてファドゥームは、一斉に撤退を開始したのだ。警戒態勢を行っていたジェルヴァチームだったが、予想外の敵の去り方に唖然としている。一体、彼等は何だったのか。何故、急に撤退を開始したのか?

「敵が、去って行く……?」

敵の動きに違和感を覚えたレイ。何故、急に敵が去って行くのか――

 

「れい!うしろおるぞ!」

「!?」

この時、メナンの脳内に電流が流れ、すぐに反応をした。撤退に見せかけた一機のファドゥームが、レイのジョゼフに襲い掛かろうとしていた。ビームサーベルを展開するファドゥーム。これに対し、咄嗟に反応してはビームサーベルを展開し、胴体を貫いた。直後にファドゥームは爆発を起こし、雪が噴出するように、飛び出した。

 今の反応は、メナンが居なければやられていた。レイはこの時、メナンの力に助けられた。今回の戦いはレイにとってはハンデキャップを背負っている一方、そのハンデキャップとなっていたメナンにも助けられるという、皮肉な勝利を収める事になったのである。

 

 

 

今回の戦いは、ゼルがその猛威を振るい、チームの勝利に貢献した。デッキに戻ってきたジェルヴァのMS乗り達。その中にレイの姿はあった。

彼と同時に降りて来たメナン。そして、シャルアはメナンに対し、思いきり恫喝するのだ。

「バカメナン!死んだらどうするのよ!バカ!!!」

「うぅ……うわあああああああああああああん!!!」

叱る姉に、大泣きする妹。だがこの叱責も当然と言えた。下手をすれば死んでいた状況で肉親を心配するのは至極当然だ。

一方のレイは元気が無い。ゼルの言葉が非常に印象に残っている為だ。

 

――――――調子乗った行動してるんじゃねえぞ!!!このボケが!!!――――――

 

事情が事情とは言え、メナンを乗せて戦うという判断をしたのは彼だ。それが、今のレイを苦しめる。シャルアも怒り、自身もこのような思いをするならば、いっそあの時、メナンを突き放すべきだったと、心底考えていた。

 自分は愚かだ。幼いメナンを巻き込んで戦闘に参加させるなど、どうかしている。だが先の戦闘ではメナンがいなければ死んでいた。彼女の中にある力が、レイを救った。シンギュラルタイプなのかも知れない力。それを、レイは感じ取っていたのである。

(僕は、何をやっているんだろうか……)

守るべき者の為に戦う事が、彼の意思と伝えた時に村長のメナスに言われた、言葉。

 

 

―――――――――――――それはただの我儘。それが答えだ――――――――――――

 

守る者の為に戦う事。それは、元々はアインスガンダムを新生連邦から奪った時にはクラスメイトや幼馴染、家族を守る為だった。それが、次にはセイントバードを守る事に繋がり、様々な経験をし、今はジェルヴァチームを守る為に戦っている。

 しかし、全ては自分のエゴだと感じ、無力さを感じたのは今回だ。自分には望んでいなかった“力”がある。それで、幾度も苦境を乗り越えてきた。だが今回、ジョゼフと言う機体を駆る事でそれが如何に無力かを痛感した。所詮、自分はガンダムと言う特殊な機体に頼っていただけに過ぎない。その上で緊急時になってメナンと言う幼女の我儘も渋々聞いたのは、彼自身に守る力があるものだと過信した結果だ。

 その過信は、言ってみれば我儘そのものだ。自分の力があればメナンを守れるという、気持ちが自分の中であったからこそ、レイはメナンをコクピットに入れたという甘さがあったのだろう。辛うじて生き残る事は出来たが、その結果が現状である。

 我儘。所詮、自分は力を過信し過ぎているに過ぎない。望んでいない力を行使しているだけの、我儘。それは本当の強さと言えるのか?守るべきものを守りたいという言葉も、本当なのか?レイは、苦悩する。この状態でジェルヴァチームを、そしてヒパック村を守れるのか?

 

――――――調子乗った行動してるんじゃねえぞ!!!このボケが!!!――――――

 

とどめとも言える、ゼルの言葉はレイを失意に追い遣るのだ。しかし、それも自分の中にある我儘が原因ならば、それも無理はないのだろう。

 

その時、目の前にシャルアの姿があった。怒られるかも知れないと、レイは思った。妹を危険な目に遭わせたのだ。当然だろう。だが――

「ありがとう。メナンを守ってくれて。もう、あの子はあたしが預かってるから。あんたは仮眠室で休んでて。」

褒められた。それが、意外に思えたのだ。あれだけレイを奴隷と罵っていた彼女が純粋に褒める事自体が、珍しい事だと、言えた。

「それに、あたし、用事があるから。」

レイを素通りするように、シャルアは去って行った。

 

 

 

「ゼル」

「シャルア。」

シャルアは、ゼルの方に向かい、じっと睨んでいる。彼女達は幼馴染のような関係であるのだが、この場では空気が明らかに重い。

「見たよ。あんたのジョゼフ……最低だね。」

「何がだよ。」

「ふざけないでよね。あんたが蹴り飛ばしたジョゼフの中にはレイも、メナンも居たの。味方に殺されるかも知れなかったのよ。あんたのせいで妹まで死ぬところだったのよ!」

シャルアが、怒っている。ゼルと言う、クルーでも気を遣われている人間に対して、純粋な怒りを見せている。それは妹を酷い目に遭わせた事が原因か、はたまた、仲間である筈のレイを攻撃したことが原因か。

「何故、機体の中にお前の妹が居た……?その事の方が、明らかにおかしいだろうが……!」

女性の怒りは膨大なエネルギーを生み出す。それは、力を持つとされる男性とは比にならない力。言葉の力だ。女性が怒りを込める時の言葉の力は、忌み嫌われ、避けられる人間であろうとも力に翻弄されていく。

「メナンが居た、居なかったも何も、関係ないのよ!あんたチームの仲間を攻撃したって、これがどういう意味か分かってんの!?」

「お前には関係ないんだよ!!」

ゼルの感情。それは、シャルアには理解出来ない事だ。何故レイのジョゼフを攻撃したのか。メナンが居る、居ないに関わらず。それが、彼女の疑問である。

「何が関係ないよ!味方を殺そうとした癖に!」

だがゼルの真意も不明だ。メナンが居ると分かり、明らかに動揺はしたが、レイに攻撃をする必要性は無かった。

「ああ!そうだよ!だからどうした!?大体あんな奴に気を許したってのかよ!?あの男女野郎に!チームの事を何も知らない外部のヤローの味方をするのか!お前は!!!」

この発言の意図が不明だ。ゼルは、チームをどう認識している……?

「何逆ギレしてんの?ばっかみたい……見損なったわ。分かった。あんたさ、もうあたしに話しかけないで。」

シャルアは、ゼルから離れていった。他者を揶揄い、強引に振り回す彼女が本気で見せる怒り。それを、ゼルに見せた。

「誰も俺の気持ちなんて分からない……俺は……」

ゼルは只一人、呟いた。理解をされようとしないのか、あえてそう振舞うのかは不明だが、彼なりの考えが、あるようにも見える。

 

 

 

 戦闘が終了してから三時間余りが過ぎた頃。ヒパック村の郊外にある場所にて。それは、新生連邦軍の陸上戦艦、シャーディア級の戦艦だった。その中に、先程村長と交渉をした男、ガウル・ベネツィアの姿があったのだ。

「先の戦闘であの村に戦力がある事が確認出来た!先遣隊のMSが撮影した映像!これは我が軍のMSを鹵獲したものと確認!これは、由々しき事態である!」

半袖の筋骨隆々のガウルが、兵士達にデータを見せた。ジェルヴァチームがファドゥームと交戦している姿が、そこには映っている。これが何を示すのかは、明確だった。

 ファドゥームに乗っているのは氷河族の構成員であり、彼等とは立場は別物だ。だが、新生連邦はこの組織に対し、情報を探る様に報奨金を与えたのだ。その結果が、先の戦闘だったという訳である。

 そして今回。新生連邦はヒパック村に戦力が存在している事を確認した。これはつまり、武力を村が持っていると、新生連邦が一方的に判断する事が出来るという事なのである。

「軍が許可していない武力を一自治体が所持している事は、あってはならんと言う事!我々は動かなければならん!四十八時間待つという口約束は、軍の許可なく存在している野蛮な村の戦力には不必要だ!各機出撃準備!私も出るぞ!」

あろうことか、ガウルは村長との約束を破る事を宣言した。これは同時に、村長がガウルの行動を読んでいたという事に繋がる。

 やがてシャーディア級戦艦からはMSが次々と出撃する。寒冷地仕様のディーストが、モノアイを輝かせ、雪上をスキーヤーの如く、駆け抜けるのであった。

 その中で、ガウルは自身のMSの前に立ち、腕を組み、眺めている。そこには、彼専用のMSである、ウルスブランが存在していた。

 機体名、ウルスブラン。型式番号NFMX-PP5。サイズは全高20メートル越えの大型MSである。ガウル・ベネツィア専用の機体として存在するこのMSには、サイコミュ兵器が搭載されているのだ。

だが、本格的なブリッツファンネルはガウルのような、強化モデルに扱うことは難しいとされる為、本人への身体及び精神面に対して負担の少ない簡易的なサイコミュである、簡易負担型ブリッツファンネルを搭載している。この武装の特徴としては、レイがツヴァイに搭乗した際に使用するファンネルと異なり、ビーム粒子が発射されるまでに時間を要するという問題点がある。つまり、相手の隙を突く事でこの兵器の有用性が見出されるという事だ。

 やがてガウルはウルスブランに乗り込む。白いカラーリングをしているその機体は、その体躯も含め、獰猛な“白熊”に見えた。

「さあ、村の戦力の殲滅に貢献しよう!このウルスブランの機体性能を確かめる良い機会でもあるからな!ガウル・ベネツィア!ウルスブラン!出るぞ!」

 

ビゴォン

 

ウルスブランが出撃した。大型MS、ウルスブランはサイコミュ兵器を始め、強力な武器を内蔵している機体である。バックパックのバーニアを展開し、雪上を滑らせるようにヒパック村へ向かう。

 

 

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

再び、非常事態を知らせる警報が鳴り響いた。先の戦闘から僅か三時間余りしか経過していない状況での警報は、クルー達を休める事を知らない。

「イヤー、敵勢力は分かるか?さっきの氷河族の連中か?」

艦長室にてゲイルが聞いた。しかし――

「識別確認!新生連邦軍です!」

敵は新生連邦だった。四十八時間が経過していない状況で、敵は攻めてきた。やはり新生連邦は彼等の約束を守る気など、毛頭なかったのである。

「奴等め!やはり口約束は破る手筈か!」

悔しがるゲイル。両手をガシと合わせ、その怒りの表情をモニター越しに見せた。

「キャプテン、村長から入電!」

イヤーが応答した。このタイミングでメナスからの連絡。急いで繋ぎ、対応するゲイル。

「奴等が攻めてきた。やはりわしの思った通りだな。村が戦場になるのは避けられん。」

メナスが彼に連絡をしているのは、医療機関の中からだった。つまり、今新生連邦が迫っている中で、メナスは避難出来ていない状態でゲイルと話をしているのだ。それを指摘する、ゲイル。

「村長!何故避難を終えていないのですか!?敵が来る事は分かっていた筈ですよ!?どうして家に……?」

当然の指摘だ。しかし、メナスは静かに、言った。

「村人の中に事情があり、逃げることが出来ん人間も居る。それらが集中しているのが医療機関だ。そうした人間が居る中で、村長であるわしが尻尾を巻いて避難しろと言うのは人としての心を捨てろという事か、ゲイル?」

村長としての拘り。メナスにはそれがあった。村の長という立場として、彼は村から逃げる事をしなかった。せめて、今、避難出来ないでいる医療機関の人々にせめて携わろうと、していたのである。

「しかし、村長!連中は村の存在を残すとは思えません!奴等の目的は村人の強制退去及び村の土地を利用しての基地化です!医療機関の襲撃も考えられます!住民の死さえ問わないでしょう!」

「だから!病気を持っており、尚且つ今にも出産を間近に迎えていて動けん人間も居るのだ!その状態でわしだけ逃げるような腰抜けの真似をしろというのか!?」

メナスの言葉に、ゲイルは黙ってしまった。医療機関の存在や、様々な事情で動けない者達。ゲイルは、それ等の存在を失念してしまっていたのであった。

「わしはな、この村を守りたい。奴等の横暴に折れるぐらいなら、死んだ方がましだ。だからせめて、お前達に託したいと思う。」

 連絡はここで切れた。村長としてのせめてもの役目を全うしようとするメナス。彼の目を見たゲイルは、覚悟を感じ取っていた。

「クソッ……そうした事情の人間に対しても容赦なく、敵が攻めてくるのかよ……!」

身動きが取れる人々は、既にジェルヴァに避難出来ている。しかし安静にしなければならない病人が居る医療機関に人が集まっている状況では、彼等は何も出来ない。だからと言って、このまま村を蹂躙されるのを待つのもおかしな話だ。ゲイルは、考える。

「そうだ……攻撃せず、守るだけなら出来る……!各員に通達!武器を一切使用するな!医療機関の警備に当たれ!そこだけは、なんとしても守るんだ!!」

彼の指示で、クルー達に第二種戦闘態勢が伝えられる。それと同時に、ゲイルが皆に言った。

「皆。この村が戦場になる。今まで住んでたり、世話になった建物が壊されるかも知れない。かし今は、一人でも命を助ける事が優先だ。護衛する機体を選び、医療機関を守ってくれ。連中は容赦なく村を蹂躙すると予想できる。他にも人がいるかも知れないのは分かっている……しかし、今は医療機関の護衛が最優先だ。絶対に、破壊だけはされないように……!」

ゲイルの言葉が詰まる。今まで守ってきた村が蹂躙されて、残された人々が死ぬかも知れないという状況。彼は、この村を守らなければならないという決意を胸に秘め、戦うのだ。

 

 

 

 シャルア達は急ピッチでツヴァイガンダムの改修を進めている最中だった。形は出来てきた。後は、左上腕部を何かで補えば良い。以前の形状を作る事は出来ていないが、人々が集まり、修復を行う事で機体は形を成す。急造でも、戦う力として存在するのならば、それを利用するまでだ。

「余っているジョゼフのパーツ、使えるんじゃないの?」

「規格が合うか分かんないぜ?」

「何もやらないよりはマシよ!あいつの為に急いでやらないと行けないのよ……!おじいちゃん、無事で居てよ……!」

シャルアの目がいつになく真剣だ。村が襲われる状況。更に、自分の祖父もどうなっているか、この時のシャルアには分かっていない。今まで住んでいた村を襲われる事は、あってはならない。だがその現実が迫っている。なら、自分に出来る事をしよう。レイのガンダムを形作り、それを使えるようにする。それが、今の彼女の役目なら、果たすまでだ。

 やがてジョゼフのパーツが装着され、ツヴァイガンダムは、形を取り戻したのである。だがそのツヴァイは左半分がジョゼフのパーツで構成されている機体であり、尚且つプラズマキャノンもない状態だ。そして、最大の特徴ともいえるブリッツファンネルの存在が右半分にしかない。そして、左手部マニピュレーターにはバズーカが装備されている。これは、ジェルヴァの中にあったジャンクパーツを組み合わせて作った急造品であったのだ。

 

「シャルアさん。」

そこへ、レイが声を掛けてきた。振り向く、シャルア。

「ツヴァイ、形が出来たんですね……ありがとうございます。」

そこにあるツヴァイの姿を見て、レイは感謝した。形状は元と大きく異なってしまってはいるが、伝説と言われるガンダムタイプである事に、変わりはない。

「急ピッチで完成させたわよ。名付けて、ツヴァイガンダムイージー。元々あったかもしれない武装の大半が使い物にならないから、ジャンクパーツで固めたわ。あと、ビーム粒子に関してはうちも補給出来てない状態だから、武装を使う時は、慎重にね。ビーム兵器をバンバン撃ったらすぐエネルギー切れ起こすから。」

シャルアの説明を聞き、レイは静かに頷く。彼の戦う意思は、固い。

先の戦闘でゼルに言われた事が気になっている彼だったが、守る為に戦いたいという一心は、紛れもないものだ。

「んで、守る為だっけ?あんたが戦う目的って。」

「……はい。」

“我儘”“調子に乗った行動”と言われても、レイの思いは強い。今、迫る非常事態で自分に出来る事をしたいのは、ゲイルも同じだが、レイも同じだ。

「じゃあ、守ってよ。この、ガンダムで。」

シャルアの本気の眼差しを見たレイは、静かに頷く。

「ありがとうございます。シャルアさんも、無理しないで下さい。」

「あんたこそ、死なれたら困るのよ。あんたは、あたしの……お、玩具なんだから!」

この場で発した台詞は、周囲に居た人間を驚愕させる。玩具?人間を相手に“玩具”という発言は、意味深である。

 だがその言葉を汲み取ったレイは、静かに

「……はい。」

とだけ言った。

「あと、これも。」

シャルアは、レイにあるものを手渡した。それは、ツヴァイに乗る時に装着する、装置だ。それを耳輪部に引っ掛け、そのまま、レイはシャルア達が急造したツヴァイに乗り込むのだった。そのまま、戦場と化しつつある、ヒパック村に向けて発進をする準備を行うのだ。

 今回、ジェルヴァの機体は全てが腰部に武装をマウントしている状態で出撃する。人が多く集まる、医療機関の護衛をする為だ。そこが新生連邦に攻撃される事があれば、目も当てられない事になる。

 本来、こうした出来事は新生連邦等の軍が優先的に行う事であるのだが、今の新生連邦は村人の命より、この土地を優先している。つまり、村人の生死は問わないという事だ。そこに、身動きが取れない村人が居たとしても……である。これが如何に異常である事か。新生連邦と言う組織が、これ程残酷な組織だったとは。残された村人を一人でも守る為、彼等は戦うのであった――

 

 

 

 戦闘が始まった。ジェルヴァチームには合計九機のMSが居る。レイのツヴァイを含む機体達。いずれもが、今、武装を装備していない。出来るだけ村の建物に傷を付けないように、スラスターの出力を最低限にした状態で移動する、彼等。

 やがて目標である医療機関に辿り着く。そこにはクリアの乗るディープシーが立ち止まった。彼女が、護衛を行う予定だ。

「私が……ここを守る。皆は別の所へ。」

と言った時、そこへツヴァイが降り立ったのであった。

「レイ……?」

「僕にも、ここを守らせて下さい!体の不自由な人とかが居る所を狙うなんて、絶対にさせません!」

純粋なレイの意思を、クリアは感じ取っていた。ガンダムに乗っているレイ。ここを敵に襲撃させる訳には、行かない。

「レイが居れば、心強い……ガンダム、とても頼もしいよ。」

クリアが笑みを浮かべた。冷静で物静かな印象を持つ彼女。いつしか、レイに対して心を開いている。その状態のまま、両者は医療機関の前に立つ。いつ、敵が来ても良い様に……だ。

「レイ、本当にありがとう……村の事情なのに、協力してくれて。」

クリアの優しい言葉を聞いたレイ。敵が迫るかも知れない状況で、僅かな会話を行う両者

「僕は、ただ恩返しがしたいだけなんです。でもそれは、もしかすれば我儘かも知れません。」

「我儘……?」

「僕は人を助けたいって気持ちがあるだけで、結局それが自分の中で正当化されてるのかも知れないって考えたんです。自分が何かを助ける事が、結局は自分自身を安心させてるだけなのかな……って。何かをしないといけない気持ちがあるのは、僕自身がただ、焦っているだけで、何か行動をする事で安心を得ようとしているだけ。それって、我儘な事なのかなって思ったんです。」

何故だろうか。レイは胸中をクリアに語った。誰かに、聞いて欲しいという気持ちが、それは、彼の中にあったのかも知れない。

「私に、そんな事言うんだ……」

「迷惑、でしたか?」

同じ地点を守る者同士がここに居る状況で、レイはクリアに話しかけた。ただ、それだけなのだ。

「ううん。迷惑なんかじゃない。何かの為に、行動する事が我儘なんて事はないよ……うん。レイ、頑張ろうね……この村を、守ろう。」

「クリアさん……」

もしかすれば、それは他者に寄るのだろうか。人の為に何かをしたいという気持ちがエゴとして扱われる事もあるのかも知れない。しかし、今、レイはクリアに感謝されている。それは紛れもない、事実だ。

 

ピキィィィ

 

その時、レイの脳内に電流が流れた。そして、彼は一瞬冷や汗を掻く。

 何か、近くに得体の知れない存在を感じる。彼が感じた感覚は、次第に大きな存在となっていく――

(う……?何だろう……この感じ……シンギュラルタイプがいる近く……?いや、これは純粋な力じゃないような……?)

既に強化モデルが敵に居る事を、認識したレイ。この違和感は間違いなく、ガウルによるものと言えた。敵が迫ってきている状況ではあるが、今、ツヴァイは動けない。ツヴァイの後ろに広がる医療機関を守る為である。だが――

「この村は、戦力を持っている!それ即ち、制裁の対象!新生連邦軍が行うのは弾圧ではない!これはれっきとした、戦力の無力化である!我々は正義の名の下に!それを遂行する!そして、これに反対する勢力は例え民間人であろうとも軍への反乱行為に同情したものと見做し、我々は制裁を加えるものとする!!!」

その時、ガウルが声を荒げて言った。村を襲撃する新生連邦。あろう事か、ガウルはそれを正当化しようとしているのだ。

 よりもよって、その言葉を村全体に響くように、ガウルはスピーカーで言ったのだ。

「狂ってる……あれが指揮官の男の台詞……わざわざスピーカーで言う台詞とは思えない……」

遠くから、村に接近しようとしているウルスブランの存在を確認した、クリアとレイ。

展開されているディーストよりも大型機体のそれの機体色は白色。そこに、青色のモノアイが重なり、不気味なシルエットを描いているのだ。

「あれが、敵……始めて見る機体だ……」

レイは、そっと呟き、ウルスブランを見る。その機体から感じる得体の知れない感触は、レイ自身を緊張に追い遣るのだった。

 

 

 

別方向から、新生連邦は寒冷地用ディーストを展開し、実弾ライフルで襲撃してきた。それらに負けずに、ジェルヴァチームは新生連邦に攻撃を加えている。実弾は建物を破壊していき、蹂躙する。それに負けじと、チームの機体はビーム刃で抵抗を試みる。もしかすれば、いるかも知れない村人を守る為に。

だが敵は射撃攻撃を、躊躇なく行う。これが、彼等の行動をやり辛くさせているのだ。

「くぅぅ!容赦ないんだからぁ!」

ニアが苦しげな声を上げた。だが敵のディーストは攻撃を加えない事を良い事に、実弾ライフルで迫ってくる。シールドで防御をし、これらに備えるニアのディースト。

 この他にも、実弾ライフルが躊躇なく迫る。しかし、逃げ遅れた人々がいるかも知れない状況でこちらが攻撃を加える事は、出来れば避けたい。

「せ、せめてビームサーベルでぇ!」

そう言った後、ニアのディーストはビームサーベルラックからビーム刃を展開した。射撃兵器以外ならば、被害を大きく出すことは無いだろうと考えた結果だ。だが、これに対しても躊躇なくライフルを放つ敵のディースト。

 この時、新生連邦のディーストの足元に居た人はライフルから落ちた弾を頭に受け、そのまま意識を失った。いや、死んだというべきか。頭部からは血を流し、腹臥位姿勢で倒れている。逃げ遅れた人間の一人が、そこに居たのである。

「あああ……なんて事!」

いつもは朗らかなニアも、これには怒った。罪なき民間人が殺された瞬間を見て、ビームサーベルを振るい、ディーストに迫ったのである。

「我が軍の機体を利用する不届き者め!」

ディーストのパイロットが言った。

「そっちの方が、よっぽど悪じゃないかー!!!」

怒るニアはそのディーストに向け、ビームサーベルを展開し、迫る。拮抗しようと、そのディーストもビーム刃を展開した。

 

バヂィィィ

 

互いに拮抗し合うビーム刃は激しくスパークを散らす。だがこの時のスパークも、うすらと積もっている雪に弾け、溶かす。雪のあった場所は一瞬で蒸発した。ビーム粒子の熱は、あまりに高熱であり、近寄る者を躊躇なく、焼くのだった。

「やああ!」

それから、ニアのディーストはビームサーベルを水平に持ち替え、敵のディーストの胴体を切り裂き、撃破した。爆発を起こさぬよう、コクピットのみを的確に切り裂いたのである。

 

 

 

 レイとクリアは迫るウルスブランに警戒している。ディーストとは異なる形状をしている大型機体。それがどのような攻撃をするのかは、予想出来ない。仮に攻撃を仕掛けてきても、迂闊に手は出せない――

「そこにいるのは分かる!貴様、ガンダムタイプに乗っているな!シンギュラルタイプか!私と同じだな!」

見つかった。いや、元々察知されていたというべきか。だが彼等は動かない。後ろには村で唯一の医療機関の存在がある。それを守る為に、彼等は防御姿勢を取るのだ。

「何故、動かない!?ん?後ろにあるのは……成程な!健気だ!」

ガウルは彼等が守っているものを察したようだ。その瞬間、あろう事か、ウルスブランは両手部を展開した。そして――

 

バシュゥゥゥ

 

ビーム砲を展開した。明らかに、彼等が守っている建物である医療機関への攻撃だ。

「そんな!MSに攻撃をしないなんて!」

「どうかしてる……」

悪質だ。敵戦力を奪う為に機体を攻撃するのならば分かるが、よりにもよって医療機関へ攻撃を加えるという凶行に出た、ガウル。間一髪、ツヴァイの左前腕部のシールドがこれを防ぐ事に成功したのだが、この一撃を受けてシールドは破壊されてしまう。

 ウルスブランは強力な兵器を持っている。それも、村で使って良いような兵器ではない。攻撃されても、反撃できない状況。不利な中で、レイ達はこの機体と戦わなければならないのだ。

 

ガキィン

 

そこへ、新生連邦のディーストが降り立った。ウルスブランよりも医療機関に近い位置に居る、その機体は、あろうことか、施設に向けてライフルを構えていた。引き金が引かれれば、弾が施設を貫通する、危険な状況だ。

「聞いて……!」

このディーストを止めたいと思うクリアは、パイロットに向けて回線を開いた。パイロットの意志を確認したいと、思った為である。

「ここにいる人は医療を受けている人達……身動きが取れないの……!そんな罪ない人に銃を向けるの、おかしいと思わないの……?」

少女の声に、ディーストのパイロットは動揺しているようだ。兵士は、あくまでも命令をされて動いているだけ。そこで、クリアの声を聞き、彼は困惑し始めていた。

 引き金を引けば施設に攻撃が出来る。だが、罪なき人を殺して何なる?兵士は、躊躇い、迷う。

「命令なんだ……命令で動いているだけだ……俺だって家族が居る……その為に、やる事をやるだけだ!」

「命令でも、家族が居たとしても、人の心があるなら、それはやめるべき……!」

戦闘とはいえ、無差別に人を殺めて良い筈がない。兵士もそれは理解している。故に、迷う。自身が何をすべきかを。彼は命令と良心の狭間で迷い、もがいていた。

 

ズバァァ

 

だが、兵士の乗っていたディーストはビーム粒子の一撃を受けた。ウルスブランのビーム砲は収束したビーム刃としての機能を果たし、あろう事か、部下であるディーストのパイロットを殺めたのである。

「敵の指図を受ける!これは二流の兵のする事!敵性勢力は排除!これが戦闘の基本!それに加担する者全て排除!これも戦闘の基本!」

ガウルの攻撃は冷酷そのものだ。味方の犠牲さえ厭わないこの男は異常だ。

「貴方……!」

クリアは怒り、攻撃を仕掛けようとする。だが、後方にある施設を巻き込む訳には行かない。故に、ディープシーは攻撃が出来ない。

 しかし、ウルスブランは攻撃を仕掛けてくる。頭部から展開されるビーム機関砲は、その粒子の熱で医療機関を襲う。この攻撃を通せば、建物に被害が出る。病院に居る者達をこれ以上見過ごす訳には行かない――側に居たレイは、動く事を決めた。

「レイ……!」

クリアは、それをただ、見守るだけ。彼が、ウルスブランと交戦する事を決めたのだ。レイはツヴァイを、医療機関と関係ない方向に移動させ、それに追従するようにウルスブランも追ってくるのだ。

 

 

「お前がシンギュラルタイプか!若い感覚だ!私と同じ感覚の者と戦えるのは光栄だな!」

ガウルは接近するツヴァイを見て、言った。一方のレイは、ガウルから感じる人為的な感触に違和感を覚えていた。

「違う、この感じはシンギュラルタイプのような純粋なそれじゃない!」

力を持つレイは、男が発する感覚を感じ取り、声に出した。平気で医療機関へ攻撃出来るこの男を、無視は出来ない。レイは、戦う事を決めた。

 せめて、建造物を破壊せぬように対策を考える、ツヴァイ。側腰部からメガビームセイバーを展開するが、その出力を抑えた。今、ビーム粒子残量も多いとは言えない状況。武装を扱う時は慎重に行動しなければならないのだ。

「ビームの剣!なら、私もそれに応じよう!」

ガウルが言った後、ウルスブランは腰部から棒状の物体を把持した。やがて、それはウルスブランの全高程度まで展開され、その先端部がビーム刃を展開する。

 それは、ハルベルトと呼ばれる兵器に変形したのだ。ウルスブランが持つ武装、ビームハルベルト。それが、レイの前に襲い掛かる。

周囲に建造物があるにも関わらず、それを振るうウルスブラン。この一撃で建造物に被害が及んだ。瓦礫で埋まり、周囲は積もっていた雪が飛び散る様に広がった。

 ツヴァイは一度、機体を上昇させようとする。そこからビームセイバーでウルスブランに切り掛かるのだが、ウルスブランはこれを回避。

「シンギュラルタイプが使える武装!それを見せてやろう!」

 

ピシュンッ

 

「あれは……!?」

彼が目にしたのは、小型の飛翔体だった。その存在に、レイは不安を覚えた。見覚えのあるその形状に、レイの不安はより、現実のものとなっていく。

飛翔体は、展開されて数秒後にビームを放った。建造物がある、場所でそのような事を行うのだ。それは、ウルスブランに搭載されているサイコミュ兵器だった。簡易負担型ファンネル。その文字通りに、搭乗者への精神的負担を考慮して作られた兵器であるが、扱う為には搭乗者の空間認識能力が求められる兵器である。ガウルは強化モデルであるが、そのコントロールを完全なものにするには、時間を要するようだった。

「こんな所でビームなんて!」

レイは叫んだ。敵の攻撃は、明らかに躊躇がない。こちらが守っている事を良い事に、敵は容赦なく攻めてくる。ブリッツファンネルを使いたいという衝動に駆られたが、今、それを使う訳には行かない。この場でそれを使うのは、危険だ。

 

ギュルルッ

 

更に、ウルスブランはバックパックから三本、有線式のビームケーブルを展開し始めた。先端部にビーム粒子が覆われているその兵器は、触れたものをビーム刃で貫くかの如く、攻撃を加える兵器である。

それにより、レイの駆るツヴァイを切り刻もうとしてきた。バックパックに装備されているそれは、基本的には一対多数で使用する際に有効の武器であるのだが、この状況ではツヴァイを破壊する為に、容赦の無い攻撃を続ける。

「ダメだ、容赦がなさすぎる……周りに人がいないのなら、せめて!」

このままでは防戦一方だ。せめて、何かを使い、反撃をしなければと考えるレイ。

 彼は、ツヴァイの武装を駆使して攻めようとした。ビーム兵器は貫通力が高い。建造物を破壊してしまう。ならば、実弾兵器が有効か。胸部マシンキャノンでウルスブランを攻撃するのだが、その装甲を貫く程、ウルスブランは柔い装甲ではなかったのだ。

「本気でないガンダムタイプ等、相手にならん!」

その時だ。ウルスブランはバーニアの出力を上げ、レイの視界から消えたのだ。

 どこへ行く?それをレーダーで追う、レイ。だがウルスブランはあろう事か、先程の医療機関に移動を始めたのだ。ツヴァイはそれを、急いで追いかける。市街地の移動を、バーニアの出力を抑えて移動するのだ。

 

 

 

 レイ達が守っている医療機関の中は、外の戦闘で皆が不安に陥っている。絶対安静の患者の姿もあれば、出産を間近に控えた妊婦の姿もある。ヒパック村で唯一のそこは、一通りの診療の対応出来る総合機関となってはいるが、人の少ないヒパック村という環境もあり、設備が多く整っていない。ただでさえ予断を許さない状態であるのに、外で戦闘が行われているという異常事態。逃げるにも、逃げられない患者や医者、看護師等の医療従事者達。

 その中を、村長のメナスが産婦人科にて、激励を行っている。彼自身に出来る事として、不安に陥っている人々を励ます。唯一の手段だったのだ。

「村長はどうして逃げないのですか……?」

ある、妊婦が彼に言った。

「新しい命を宿している者がいるのに老いぼれのわしが尻尾を巻いて逃げるような真似を出来る訳がないだろう!ここがどうなろうと、わしは動かん。絶対にな。」

妊婦は精神的に不安を抱えている。更に、新生連邦が迫る状況ではその不安は更に拡大される。それでは、本人の意思が持たない。特に、逃げられない状況ならば尚の事だ。

「おじいちゃん!」

そこへ、一人の少女が現れた。その人間こそ、シャルアだったのである。

「何故ここに居る!?ジェルヴァには行かんのか!?」

「おじいちゃんを見捨てるなんて出来る訳ない!みんな戦ってくれてるのに!あたしだって出来る事をする!」

シャルアはレイのガンダムを形とはいえ完成させている。その上で、祖父であるメナスの元に来たのだ。何かをしたいという思いが、彼女を突き動かした。シャルアはサディストではあるが、善意を持っている人間と言えたのである。

 

ドオオオオオッ

 

施設内が揺れた。恐らく攻撃を受けたのだろう。不安になる、妊婦達。

「あいつら……ここに人が居るって分かってて攻撃してる……ふざけてんじゃないわよ……!」

シャルアの言葉がこの空間に留まる。正規軍が村への武力行使を行うという異常。だが今は、この嵐が過ぎるのを待つしか出来ない。

「シャルア、ここは任せるぞ。」

その時、メナスが静かに頷き、去って行った。一体、何処へ向かっていくというのか。彼女は、ただ、不安に満ちていた。

 

 

 

 ウルスブランはビーム機関砲で攻撃をしていた。その後、医療機関の前に移動。そこにはクリアの乗るディープシーが、その場を守る為に立ち止まっていたのだが――

「邪魔だ!」

と、ビームケーブルを展開してディープシーに攻撃を加え始めたのだ。攻撃をされればダメージは避けられない為、一度後方へ下がるディープシー。反撃をせんと、ビームサーベルを展開しようとするが――

「戦いをする上で厄介なこの存在には消えて貰わなければならない!反政府勢力となり得る村の存在に加担する医療機関など、不要!」

 

ビゴォン

 

ウルスブランのビームハルベルトが、医療機関に振り下ろされようとしていた。この攻撃が通れば、守るべきものが無くなってしまう。それだけは避けなければならないのに、ガウルは躊躇なく、それを行おうとするのだ。

「駄目……!それは……」

クリアが止めようとする。だが、ハルベルトは振るわれようとしていた――

 

「待て!」

 

すると、医療機関の前に一人の老人の姿があった。村長であるメナス・ジェインだ。両手を広げ、大型機体であるウルスブランを前に、堂々と、守ろうとせんと立ち塞がるのだ。

「村を攻撃する気なのなら、村長であるわしを殺せ!それで貴様の気が済むのならな!」

村長として、ヒパック村を守る。それが、彼の務めと思っていた。今、メナスは多くの動けない人が居る医療機関を、己が身で守ろうとしているのだ。これが、村長という存在である。

村の危機に瀕しても、年齢を重ねようとも、己が身を差し出し、命を削る。彼の行動は、正に命懸けだった。

「健気だ!まさに人間の鑑!という訳で絶命してもらおう!」

この行動を前に、それでもガウルは狂刃を振るう。それが、強化モデル故の残酷さなのだ。

 ビーム粒子で覆われた長い柄は、メナスを蒸発させようとしている。それが振るわれれば、彼の身体は瞬く間に消えてしまうだろう――

 

ガキィン

 

そこへ、ツヴァイがウルスブランの胴体を両手部で把持し、そのままスラスターを上空へ移動させたのだ。戦場を変える事を決めたレイが、間一髪、メナスを守ったのであった。

「させない!!」

「チッ!シンギュラルタイプの小僧が私の邪魔をした!」

上空に移動すれば、建造物に気を遣うことは無い。戦場さえ変えれば、彼等は戦うことが出来る。村を蹂躙されるぐらいならば、こちらから戦場を変えてしまえばよい。住民がいるかも知れない状況ではなく、それらが居ないとされる場所――雪原に、移動をすれば脅威は止められるのだ。

「あの、少年が戦っているのか……」

ツヴァイの行動を見て、それを、ただ見上げるだけのメナス。

「レイ……!」

それと同時に、クリアはレイの行動に感銘を受けた。そして、この直後に別のディーストが、医療機関の前に立つ。それも、二機。

「クリアはあのガンダムを追って!ここは私達が!」

別の人物がクリアに言った。敵のディーストが迫るかも知れない状況で、二機のジェルヴァのディーストが護衛に入るというのだ。

「ありがとう……私、行く。」

クリアは感謝の言葉を述べ、二機にこの場を任せる事にした。そして、戦場を変える事に成功する彼等。これらに吊られるように、他の新生連邦のディーストも村から移動し、ガウルの居る方向へ向かうのだ。

 今回の指揮官はガウルである。つまり、彼が何らかの作戦を立てていない限りはガウルの方向にディーストが集まるのは至極当然と言えた。こうなれば、残りの機体を村から離れさせ、場所を移動させる。爆発や実弾、ビーム粒子による熱線。それらの被害から残された村人を守る為、彼等は動くのであった。

 

 

 

 郊外にて戦闘を行うツヴァイとウルスブラン。ここならば、人はいない。遠慮する必要も、無くなる。レイは、先程までの鬱憤を晴らさんとばかりに、ウルスブランへ攻撃を仕掛けるのだ。

「やああっ!」

ビームセイバーが再び展開された。刃を敵へ向け、攻撃を仕掛ける。だが、ウルスブランはこれを回避し、ビームケーブルを展開し、ツヴァイに迫るのだ。更に、再びファンネルを四基展開するウルスブラン。

 この間、ツヴァイはビームケーブルによる攻撃や、ハルベルトの攻撃を回避しなければならない。ビーム刃は躊躇なくツヴァイに迫る。ただでさえ、元のスペックよりも劣っているツヴァイガンダムイージー。更に、ビーム粒子の制約もある。急造されたその機体を扱うだけでも、辛うじた状態なのに、ウルスブランは容赦ない。

 

バシュゥゥゥ

 

更に悪い事に、ファンネルからビームが放たれた。急ぎ、防御手段を考えるレイ。左前腕部にビームシールドが無いのならば、右前腕分に存在しているとされるバリアーフィールドの展開を祈るだけ。頼む、壊れてないで――

 

バイイイイイン

 

それは、展開された。ジェネレーターは生きていたのだ。不幸中の、幸いだった。ビーム兵器を防ぐ事は、出来る。戦う事は、可能だ――

「あっ――」

だが、安心したのも束の間だった。レイの眼の前に、青いモノアイを輝かせ、ビームハルベルトを装備したウルスブランの姿があった。背中のビームケーブルを展開した状態で、今にもツヴァイを切り刻もうとしている。雪原の大地に、白い大型機体による強襲を受けた、レイ。

「ここまでだ!シンギュラルタイプの小僧!」

突然の強襲にレイはどうすれば良いか、分からないでいた。“白熊”による処刑が、今、行われようとしていた。

 




第五十六話、投了。
村の医療機関を躊躇なく襲うガウル。搭乗MS、ウルスブランに対して戦う、ジェルヴァチームのメンバーと言う話でした。
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