機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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場面は変わり、アステル家のターン。国連のイェブレ基地より救援要請を受けたアステル家は、新生連邦と対峙する。


北欧、欧州の戦闘、抗争編
第五十八話 イェブレ基地にて


 アステル家の襲撃から時間が経った頃。シュネルギアは今、北欧の地域に艦を移動させていた。場所はイェブレ。スウェーデンの首都、ストックホルムの北側に位置する都市であり、国連のスウェーデン基地の中で一番規模が大きなものである。スウェーデンは新生連邦と平和国の領土が食い込むように存在している。

今、アステル家に対してイェブレ基地がシュネルギアにSOSを要請していたのだ。現在、新生連邦による激しい攻撃を受けているイェブレ。このままでは危機的状況に陥ってしまう。これは、ギルスが新たな平和国連盟の議長になってから初めての、シュネルギアの応援活動と言えたのである。

 現在、シュネルギアは標高約7000メートルの場所に居た。外気温およそ‐50℃。その上凄まじい吹雪がシュネルギアに襲い掛かっている。艦の中にはアレン達を始めとするメンバー以外にも、リルムの姿もあった。アステル家が襲撃された事をきっかけに、いつまでも預ける事は危険であると、ジャンヌが判断したため、彼女をシュネルギアで保護する事に決めた為だ。

 では、何故シュネルギアはこの地に向かう事になったのか。それは、イェブレの指揮官がジンクと知人関係であり、そうした関係もあり、救援を要請したという訳だ。

 アステル家は軍に所属している立場ではない。故に、行動がし易い。アステル家の戦力を宛にしている人間が居るのも、また、事実なのだ。

その中で、アレンはシミュレーションをし、いつ敵に出くわしても戸惑わないように訓練をしている。

 シミュレーションは非戦闘時においても有用だ。コクピット内で敵勢力との戦闘を想定した交戦を行う。敵との戦闘データを読み込んだ上でその動きや攻撃パターンをコンピュータに読み込ませ、戦うのだ。

今、アレンはシミュレーションを終わらせた所だった。うんと欠伸をし、目からは欠伸の涙が出る。

「ふぅ、疲れた。」

アドバンスドタイプである彼の成績は、圧倒的と言えた。普通の兵士の得点を遥かに上回る点数であったため、周りで見ていた兵士はは驚きを隠せない。

「あんた、やっぱり凄いな。本当に同じ人間か?」

それに対しアレンは丁寧な言葉で会話した。いくら彼はエースパイロットとは言え、周りの人間の方が年上なのである。

「い、一応人間ですよ?これにズルなんてできませんし。」

やがて、アレンはその場を離れた。他の兵士から見れば彼の戦績は凄いものなのだが、彼自身は納得がいかない様子だったらしく、一目散に部屋へ戻っていった。

 

 

 

 アレンが部屋へ戻ると、ココットがいた。まるで、彼が戻って来るのを待っていたかのように、目を輝かせ、微笑みながら言う。

「あぁ、ごめんね、勝手に入っちゃって。」

「いいよ、大丈夫だから。」

「さっきまでシミュレーション?」

「うん、でもちょっと調子が悪い。全然スコアが出なくて。これじゃあ敵に襲われた時に話にならない。」

先のアステル家強襲の事が引っ掛かっているのだろうか。アレンの心境に、どこか焦りがあった。スコアとしては一般兵よりも圧倒的に上ではあるが、それでも、彼自身の実力とは程遠いのだ。

「大変だね、アレンも……。」

彼にも、明らかに彼女が無理をしているのが理解できた。どのように対応すればよいか分からず彼はただ、ちょこんとその場に座り込んだ。

五分程、沈黙している状態が続いたが、その沈黙を破ったのはアレンだった。

「あの……さ。」

「どうしたの?」

何気ない様子でアレンの言葉に応じるココット。彼女の輝く瞳がアレンをじっと凝視する。

「ココットってさ、あの時に比べて、本当に成長したなぁって思ってさ。」

「え……それってどう言う事?」

ココットは首を傾げ、聞く。

「デウス動乱時の事だ。あの時、ココット何も出来なかったけど、今はできる。何かの役に立とうとしてくれている。それって、すごい成長なんだよなってふと、思ってさ。」

それは、アレンなりの誉め言葉のつもりだったらしいのだが、不適切だと判断したココットは、頬を膨らませ、怒った。

「その言い方は酷くない!?それじゃあ私、あの時は何の役にも立たないお荷物だったみたいじゃない!酷いよ……」

「あ……その……違う!違うよ!だからさ……ココットは必要だったんだよあの時から、ずっと。なんて言うか……その……俺を……迎えてくれる存在……として?」

動乱の時と今とで比較をするアレン。その言葉に、どこか躊躇いを抱いている。恥ずかしさが、アレンの中に込み上げてくるのだ。

すると、それを聞いたらココットは少しずつ微笑み、やがて、大きく笑った。

「アハハハハハ!アレンらしくない!何その言い方!?まるで、ホストみたい!ホストでも下手って言われそう!アレンにキザな言い方はねぇ……」

「なっ……似合ってないって言うの?」

「全然似合ってないよ!カッコつけてるだけじゃない!アハハ!」

「う……」

アレンは傷付いた。しかしココットに言われたことなのであまり悔いることは出来ない。

それは、互いに最愛の人間同士ではあるが、互いに距離が近くなってきている証拠なのかも知れない。戦後、日本に行くまでは出会う事のなかった人間同士であるが故に、共に行動する時間も増え、互いにフランクになって行っているのだろうか。

「でも……そういう意味で言ったのなのなら、ちょっと嬉しいかも。アレンにそう言ってもらえて。」

「そ、そう……?」

先程の傷は癒え、逆に嬉しさが彼を喜ばせた。このことから分かるように、結構、アレンは単純なのである。しかし彼自身はその事に気付いていない。

(アレンって、単純な人……でも、あ私は本当に役に立つ事が出来ているのかな……)

彼女は内心で思っていたが、アレンの事を考慮し、敢えて何も言わなかった。

 

 

 

やがて、シュネルギアは国連の基地があるイェブレの上空に着いた。ここまで来ると降下体勢に入り、徐々に艦は高度を下げていく。それと同時に外気温も僅かではあるが上がっていった。

急な降下だった為、艦は揺れた。ジャンヌがブリッジで降下に関して警告をしてくれたのだが、それでも揺れた。その揺れが収まり、シュネルギアはイェブレ基地に到着した。

極寒と呼べる寒さの中にある、イェブレ基地。イェブレは首都、ストックホルム程ではないが、活気のある町であり、雪が降っていても都会の方は灯りが多い。基地自体は都市から離れた場所にある為、イェブレの中心に住んでいる人々が被害を受ける事はあまりない。シュネルギアは基地から発進される誘導光に沿って、基地が指定する場所に艦を着陸させた。

シュネルギアのクルーは早速、降りた。そして、ジャンヌは一人でイェブレ基地の司令官であるアズサ・グーニー中佐に会う事にした。彼こそ、ジンク・アステルと交流のある人物である。アレンを含む他のクルーは基地の人間によって案内をされている。

アズサとジャンヌはシュネルギアの前で会話を始めた。イェブレ司令官のその男は顎に程良い髭を生やしており、身長もアレンより高い。見るからに威厳が感じられる、そのような印象を持つ男だった。

「遥々、イェブレまできて頂き、感謝の気持ちで一杯です。」

「いえ、グーニー中佐とお父様は旧知の仲という事は伺っております。それに、アステル家はあくまでも国連と協力関係にありますから。それよりも……先に貴方に是非お伺いしたい事がございまして。宜しいでしょうか。」

「ええ、構いません。わざわざ、来て頂いたのですから、先にお聞きしましょう。」

「ありがとうございます。では……」

軍人として礼儀正しく、アズサは丁寧な口調で応じた。そしてジャンヌは自分の言いたい事をアズサに告げた。

「平和国連盟……並びに国連の平和主義は具体的には、どうなってしまったのでしょうか。以前に国連側が新生連邦に対して攻撃を加えたと言う話をお聞きしましたが。」

それが始まったのは、メキシコ湾での国連軍の攻撃だ。これを皮切りにして、国連軍が武力行使を行うようになった。そのニュースは、彼等にも衝撃を与えたのである。

彼女の質問にアズサは少し視線を下に向けた。そして五秒して、口を開けた。

「これも……ギルス・パリシム議長のご命令なのです。」

「そんな……」

「亡くなられたチャール・ポレク議長は素晴らしく、良い人でした。何よりも平和を望み、争いを望まない。そして武力行使などしようとしない。それ以外は自己防衛に徹底しています。絶対に国連からの攻撃など有り得ないのです。しかし今の議長は違う。〝平和〟を力で作るものだと盲信し、それにより今後どれだけの犠牲者が出るか……そしてこれにより戦争は益々悪化していくことでしょう。」

次々と突きつけられる現実に、彼女は既に言葉すら出なかった。彼女の顔色はいつに無く険しく、そして恐ろしかった。

「世界は、変わって行っているのですね……」

真剣な眼差しを見て、アズサはどこか、ジャンヌに恐ろしさを感じていた。それを見て、彼は話題を変えんと、現状の説明を行った。

「ジャンヌ嬢、話題を変えさせて頂いて恐縮ではありますが……我が軍の事情を我がイェブレ軍は現在新生連邦による攻撃を度々受けております。その度重なる攻撃によって、多くの兵士達が犠牲となり、戦力がほとんど失われてしまいました。援軍もなかなか来なく、このままでは新生連邦によって壊滅させられるのが目に見えています。ですから……とにかく貴方方に頼らざるを得ない状況なのです。」

「何故、援軍は来ないのでしょうか。」

「来ないと言うよりは……気候の影響で動けないと言ったほうが良いかも知れません。情報によれば、敵勢力は北欧地区には辿り着いたと言う事です。出来れば貴方方にはその援軍が来るまでイェブレまで居て頂きたいのですが、さすがにそれは厳しいのではないでしょうか。」

彼はあくまでもチャールの言葉を信じたいと思っている為、自ら新生連邦を攻めるような真似はしたくないと考えている。ジャンヌはその事を既に理解していた為、納得した様子で頷いた。

「ええ、分かりました。」

ジャンヌは快く受け入れた。と言うのも、現在の平和国連盟及び国連の状況を説明してくれたお礼を兼ねている為である。

「ありがとうございます!敵はいつ襲ってくるか分かりません。基本的には天候の恵まれた日に敵は攻めて来ることが多いです。今日は吹雪が強いですね。幸い敵が来ることは恐らく無いでしょうが、万一晴れの場合は気をつけて下さい。あと、機体の整備なら我々の整備士を派遣させますので人数不足の心配は無いと思います。」

「安心して下さい。必ず守ります。必ず……」

ジャンヌはそう言ってアズサの手をぐっと握った。先のアステル家の強襲の事が思い出されたのだろう。故に、その握る手は力強く、込められていた。

 

 

 

基地に着き、早速MSの整備に取り掛かるイェブレ基地の整備士達。シュネルギアの整備士と合同作業のため、通常より早く仕事が終わる事だろう。シュネルギアの機体の一機ずつ入念にメンテナンスを行い、更に切り札であるブライティスに関しては二十名以上がメンテナンスを行うという念の入れ様だった。しかもアズサはシュネルギアに対し、お礼と言わんばかりに数機だがヴァントガンダムを送ってくれた。それにより、以前よりも戦力が充実したシュネルギア。これでいつ敵と遭遇しても戦力が増えた事で、有利に戦うことが出来るだろう。

各パイロット達も各々の機体のメンテナンスを手伝う。アレンもブライティスガンダムのコクピットに入って調整などを行い、いつでも起動できるようにチェックを入念にした。

「よし、異常は無しか。」

そう言って彼はブライティスから降り、そっと呼吸を一回した直後。整備士の恰好をしたジャンヌが彼の側に寄ってきた。

「アレン。」

「ジャンヌ。さっきはお疲れ様。」

有名なジャンヌの存在は整備士達の視線を釘付けにした。彼女は世界的女優。そのような存在が整備士達の居る環境に居る。そして、彼女が喋っているのは自分達より若い青年。それに、少し納得がいかないと感じる整備士の姿もあった。

「ブライティスの調子はどうですか。」

「もう少しすれば終わりそうだ。」

「なら、私もお手伝いしましょう。大切な機体ですものね。」

彼女は、最初からブライティスガンダムのメンテナンスを手伝う為に、整備士の恰好をしていたのだ。歌姫とは思えない恰好ではあるが、それでも彼女は機体のメンテナンスを手伝う。腕まくりをし、機体の駆動系を見る彼女の姿はとてもではないが、アステル家の令嬢という印象を受けない。

ジャンヌの整備能力の高さには、その場に居た全員が驚きを隠せない様子でいた。最終的にブライティスの整備を三十分程度で終わらせ、次にドラグネスアサルトやヴァントガンダムのMSを確認していく。そして欠陥部分を見つけたらすぐそこを修正したのだ。

「おい、ジャンヌ嬢って……」

一人の、整備士が言った。

「ああ、ジャンヌ様は凄い人だよ。基本的に何でも出来る。あんなの軽い軽い。艦長としての役目も大変だろうに、わざわざ俺達を手伝ってくれるんだよ。あの腕はかなりの腕前でさ、俺達プロでも顔負けさ。」

「マジで!?いや、デウス動乱が終結する前から噂では聞いていたが……これ程とは。」

感心するイェブレの整備士に対し、ジャンヌの事に対して誇らしげな様子のシュネルギアの整備士。この事から、彼女が慕われているのが良く分かる。

「で、お前はそのジャンヌ嬢のその素晴らしい才能に惚れたのか?」

何気なく、イェブレの整備士は聞いた。

「いや、そう言うのじゃないさ。アステル家には恩がある。その中で、俺はやるべき事を果たすだけだ。」

シュネルギアの整備士は、アステル家に対して忠誠を誓っている様子だ。それ故に、その表情は真剣そのものだ。

「そりゃ、強い意志だことで。」

と、整備士は何度か頷きながら言った。

「ま、色々と事情があれど、お互い整備士なんだ。仲良くやろうぜ。それよりシュネルギアはすぐにイェブレを去る予定なのか?」

イェブレの整備士の質問に対し、整備士は若干困惑気味で言った。

「いや、分からない。全てはジャンヌ様が決める事だからな。」

「出来れば援軍が来るまで居て欲しい所だ。何せ、今は戦力ほとんど無いに等しいから。」

「ジャンヌ様なら大丈夫だと思うぞ。彼女は、今までこういった事態は見逃したこと無いからな。ま、それまでは酒でも飲んで仲良くしようぜ。」

「ああ、短い間かも知れないけどよろしくな。」

このように、シュネルギアが援助に行くことによって新たな友情が芽生えることもあり、補給物資も受けることが出来るためプラスになる事は多い。しかしその反面、いつ死ぬか分からない状況に置かれる事も考えなくてはならない。戦場では死と隣り合わせ。このように友情が芽生えたとしても、儚くそれが消えてしまう事は多々有り得るのだ。いくら整備士とは言え、戦争では敵によってMSデッキが強襲されることもある。それほど、戦争と言うのは恐ろしい物なのである。

シュネルギアとイェブレ基地は、新生連邦が襲って来るまでの間、少しでも安らぎの時間を満喫するために彼等は会話を楽しんだ。

整備の終わったパイロットは各自の部屋へ行き、疲れた体を休めるために眠る者もいれば友人同士で携帯ゲーム機を楽しむ者もいた。しかし、それは常に死と隣り合わせと言うことを自覚した上での行動だった。

暫くして、アレン達も整備を終えて彼等は各自の部屋へ戻って羽を休めることにした。

迫るかも知れない、敵を待ちながら。

 

 

 

基地の一室にて。ジャンヌは疲れた彼に熱い茶を注ぎ、差し出す。茶からは湯気が溢れ、それは熱さを表している。

今、ジャンヌとアレンは二人で部屋に居る。だがそれは、互いに特別な関係という訳ではない。あくまでも、彼等は仕事仲間として、今ここに居るのだ。

「ありがとう。」

「どうやら、相当お疲れのご様子ですね。」

疲労が溜まっている様子のアレンを見て、覗き込むようにジャンヌが見た。

「うん……休憩無しで整備していたから。」

アレンは用意されたカップの取手を持ち、そっと息を吹きかけてそのまま口に持っていった。そのまま飲むより熱さは緩和されたが、それでも舌に熱さは伝わった。

口からそれを離すと、アレンは口を閉じたまま舌を巻き、熱さでざらざらとする舌を舐めた。

「休まずにお疲れ様です。けれども……いつ新生連邦軍が攻めて来るか、それが分からないのが恐ろしいですわね。」

「ああ……確かに。イェブレの部隊が新生連邦の攻撃を受け続けている状況だとするのなら、俺達が頑張るしかない。」

この時アレンは、既にジャンヌがイェブレを尋ねた理由を知っていた。新生連邦の強襲。それは先のアステル家の襲撃や、ロンドン襲撃を思い出す。それにより多くの犠牲者が出た。今度は、被害を出さない為にも、彼等が動いていくしかないのだ。

「俺達がしっかりしなきゃ……ダメなんだ。新生連邦の猛攻を少しでも阻止するために。」

「援軍は北欧に入ったそうです。数日間ここに滞在すればきっと来る筈でしょう。それまではここで戦う事になります。」

「そっか……」

先程から、アレンはどこか、緊張している様子だった。ジャンヌはそれを察してか、話題を変えた。

「貴方が先程から心配している事……恐らく、あの大型ガンダムの事ですね。」

「……やっぱり分かった?」

ジャンヌが自分の考えを分かっていた事に対し、アレンはあまり驚いていなかった。その話について、ジャンヌは口を開けた。

「私は、思うのですが……国連の戦力だけであのガンダムを止められるとは、私はどうしても考えにくいのです。」

先の戦いで、ヴァイダーはヴァントガンダムを薙ぎ払った。その圧倒的な火力で束になっても太刀打ちできなかったヴァントガンダム。成す術もなく、ロンドンの町は蹂躙されるだけだったのだ。

「あの時は、貴方のブライティスとレイのツヴァイが協力する形で撃退する事が出来たでしょう。つまり、万が一あのガンダムが出現した場合は……」

彼女が言いたい事はこの時、既にアレンには理解出来た様子だった。

「つまり……レイに協力をして貰うって事だ。」

「そうですね。彼の力……いえ、彼だけではありません。エリィさん達の力が必要になります。微力かも知れませんが、彼等はガンダムタイプを二機、所持しています。彼等の力は私達にとって、非常に重要なものとなり得ます。ヴァイダーガンダムに関しても、そして、今後の世界に関しても。」

ジャンヌは険しい眼差しでアレンを見る。不安定な世界であるが故に、動いて行かなければならない。だが、その為には協力する事が必要だ。

 しかしレイはアステル家を毛嫌いしている状態だ。その事は、ジャンヌ自身も理解していた。

「でもあいつは……俺達を快く思っていない。結局あの戦いでもあいつの一撃があのガンダムを倒すきっかけとはなったけど、それからあいつとは口も利いていない。」

「……エリィさんと、一度連絡を取るのも有りかも知れませんわね。」

ふと、ジャンヌが口を開いた。

「また、協力するって事?」

「いえ、まだその時ではありません。そもそも、情報が入っていませんから。しかし、ヴァイダーガンダムがいつ、どこで現れるかは分かりません。その為にも、事前に彼等とはコンタクトを取っておきたいと、思っております。そして、確実にレイの事も巻き込んでおきたいのです。」

巻き込む?それはどういう意味なのか。

「もし彼が私達と協力をしない方向であれど、協力をして貰わければならない時が必ず来ます。そうなった場合、私は例え、彼にとって“悪”と見做されても良い様にしていかなければなりません。」

「悪と見做す……?」

アレンは、視線を下に向け、考える素振りを見せた。

「それは、後々に分かる事です。その上で動いていく事。それは、亡きお母様へのある意味の弔いでもあるのです。貴方なら、理解出来るでしょう?」

ジャンヌの母、ターナ・アステルはエファンによって殺された。その事は、今の彼女の動力として、生きているのだ。

そして、アレンに対して言った、レイから見て“悪”と見做すとは、どういう事なのか。彼女の胸中は、この時は分からなかったのである。

 

 

 

やがて一夜が明けた。イェブレは雪が降っていたものの、太陽が照っている。アレン達は基地内部にあった宿泊施設に泊めさせて貰っていた。施設の一室でアレンはカーテンを開け、その幻想的な光景を見て一息吐く。それを見た後で彼はシャワーを浴びた。シャワーから溢れ出る水滴が彼の目覚めを手助けする。それにより目覚めたアレンはすぐに服に着替える。

この一方で、リルムも基地内に泊めさせて貰っていた。彼女の場合はアイリィと友人関係となっていた為、以前程苦に感じる事は、無くなっていたのである。

「おはよう、リルム!眠れた?」

「アイリィさん!」

仲良くなっていた両者。レイに会えない寂しさを埋めようとせんと、リルムはアイリィに接する。最初の出会いは良いものとは言えなかったが、友人になれた事は、リルムにとって何よりの幸運と、今では言えるのだった――

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

だがその時、基地全体に警報が鳴ったのである。間違いなく新生連邦の襲撃によるものであった。

「警告!敵、接近!各パイロットは直ちにMSに搭乗願います!繰り返す――」

非常を伝える音が、鳴り響く。それが聞こえた時、アイリィはリルムに対し、言った。

「ごめん!敵が来ちゃった!必ず戻って来るからね!」

と言って、アイリィはその場を去って行った。朝の挨拶は、僅かな時間で終わり、再びリルムにとっては恐怖と寂しさの時間が始まろうとしていたのだった。

 

 

 

警報が鳴っている間に、イェブレ基地のパイロットや、シュネルギアのパイロットが、それぞれのMSに乗り込んだ。その中でアレンは昨日徹底的に整備をしたブライティスに乗り込んだ。アイリィも急いでヴァントガンダムに乗り込み、戦闘態勢に入る。

「早速か。でもやれる!」

以前のアステル家襲撃以来となる今回の戦い。前回の戦いの事もあり、アレンは気が抜けない様子だった。以前は襲撃によって大規模なダメージを受けたアステル家。今度こそ、今度こそ守るべき場所を守ってみせると誓ったアレン。青く美しいウイングを持ったブライティスは再びカメラアイを輝かせ、戦場へ飛び立つ。

「アレン、ブライティスガンダム行きます!」

 

キシィン

 

その掛け声と同時にブライティスは出撃した。それに続くように、アステル家のMSやイェブレ基地のMSが出撃する。ブライティスが先頭に立ち、他の機体もビームライフルを一斉に構えた。

 

 

 

今回の敵は以前のアステル家襲撃時ほど多くはないが、数としては多いである。マドラ級空中戦艦が五隻。それに対して無数のジョゼフが確認された。国連はこれから迎撃に入る。

ジョゼフが急に一斉射撃を開始した。これに対してブライティスはブリッツファンネルとブラスターファンネルを一斉に展開し、攻撃を加える。

「行けっ……!」

 

ピシュンッ ピシュンッ ピシュンッ

 

彼の念じた通りに、ファンネルは躍動する。その飛翔体はビーム粒子を放ち、ジョゼフを一機ずつ破壊していく。続いてブラスターファンネルも。

この時、アレンはコクピット内で、右腕を思い切り振った。ブラスターファンネルに攻撃命令を下しているのである。彼の命令通り、ブラスターファンネルはジョゼフに攻撃を加えて破壊していった。しかし、その数もほんの一部に過ぎない。ブライティスはファンネル以外にもビームライフルで攻撃を仕掛けていった。とは言え、ブライティス一機だけでは多数のMSに対応出来ないのだ。

彼の援護に、アイリィが駆け付けた。ヴァントに乗っているアイリィはビームライフルやミサイルなどでアレンの援護をする。

「アイリィ!」

「アレンさん!大丈夫ですか?」

「ああ、平気。でも数が少し多いな。でも今回こそ成功させないと……。」

「援護しますから、どんどん敵陣突破しちゃって下さい!」

そう言うとアイリィのヴァントガンダムはビームライフルを連射した。それに続くように、イェブレ基地のヴァントも援護射撃を行ってくれた。アレンはそれに感謝しつつ、ブライティスのウイングを展開し、そこからビームキャノンを放出した。この攻撃を受け、損傷する敵機体。それを受け、反撃せんと、一機のジョゼフがビームライフルを放った。だが、ブライティスは回避する事なく、左前腕部を差し出す事でバリアーフィールドジェネレーターを展開。ビームライフルを放つ、敵によるビーム攻撃は全てバリアーフィールドが防いでくれる。

その最中、MAのエグゼマーが現れた。太いビームがブライティスに対して容赦無く襲い掛かる。バリアーフィールドでそれらを防ぎつつ、アレンは突き進んでいく。そしてエグゼマーの上に乗り、そのままビームセイバーでそれを貫いて破壊した。

イェブレ基地のヴァントもアレンに負けず奮闘していた。彼等の活躍によって徐々に敵機数は減っている。だが奮闘しても命を絶やす人の数も決して少なくないのである。

「幸い、強敵はいないみたいだな。」

するとアレンは一気に攻撃に出た。敵にエースパイロットがこの戦場にいないと把握した為である。

単体で戦場を駆け抜けるブライティス。そこで、一隻のマドラ級に対して攻撃を開始した。無論これを守る為に多くのMSが援護するのだが、ブライティスはバリアーフィールドを延々と展開し続け、ウイングに装備されたファンネルやビーム砲で戦艦に集中砲火を浴びせた。

「艦長!損傷率が60%オーバーしました!このままでは……」

「……総員速やかにこの艦から退避せよ。俺はいい……」

「そんな!艦長も逃げて下さい!」

「艦長たる者、艦の最期を見届けるのが当然だろう。いいから逃げろ。そして生き延びろ。」

だが、クルー全員が逃げ切る前にブライティスのファンネルが冷たい閃光を放ち、その、マドラ級はそのまま破壊され、海の藻屑と成り果ててしまったのだ。

 

 

 

 シュネルギアはその場を動く事なく、ブリッジから彼女は指示を出している。迫る新生連邦に対する対抗手段として、彼女は指揮をしている。

「アレンは散開し、十時方向から迫る部隊の迎撃に向かって下さい。ヴァントガンダム隊、ドラグネス隊に護衛を二時方向へ。残りはアレンの護衛に回って下さい。」

アレンのブライティスを中心とした部隊が展開される。それに追従するように迎撃を行うドラグネスとヴァントガンダム。そのフォローは的確なものと言えた。迫るジョゼフやエグゼマーを、確実に攻撃していく。この間、シュネルギアに敵機体が迫る事は、無かったのである。

 

 

 

アレンが善戦する中、アイリィ達も奮戦していた。ヴァントガンダムは脚部からミサイルを放出し、迫るジョゼフを倒していく。しかし一方的に倒しているというわけではなく、無論反撃も受けている。アイリィは持ち前の運の良さが今になって輝いているのか、これらの攻撃を紙一重で回避している。しかし他のMSは運悪く直撃してしまい、大破に至ってしまう。

「あぁ!あの機体!」

味方がやられたことで、アイリィのヴァントはビームライフルを連射した。その光は味方機を撃ったエグゼマーに直撃し、爆発する。

新人兵士として入隊して早二ヶ月。彼女は、当初とは比べ物にならないぐらい成長していた。立ち振る舞いや動き方も新人時と違い、的確になってきているのだ。

「よし!いい感じ!次だぁ!」

ビームライフルを構え、それを射出するアイリィのヴァント。標的は動いていないジョゼフだ。絶好の機会と感じたアイリィは最初に一発撃つがそれに気付いたのか、回避される。次に一発。これも回避される。三発目。これも駄目だった。

「なんで!?くっそー!」

自棄になったアイリィはそのジョゼフに対してビームライフルを連射し続けた。ビームライフルだけでなく、接近しながら脚部からミサイルを放出するなど別の攻撃も加えた。

その内ビームサーベルも側腰部から繰り出し、機動性に勝るヴァントはジョゼフに追いついて擦れ違い際に切り裂いた。見事にコクピット部分に命中し、ジョゼフは破壊された。

しかし次の瞬間だった。アイリィは三機のエグゼマーに囲まれてしまったのである。

「嘘!?しまった……!」

周りのエグゼマーは既に戦闘態勢に入っている。その勢いに対応できなかったアイリィ。その内の一体がビームライフルを放出した。それはシールドで防御できたものの、残りの二つが彼女を襲う。

それぞれ右脚部、バーニア部にダメージを与え、ヴァントは激しく揺れた。

「あううっ!」

一体では不利な状況に陥ったアイリィ。とにかくこの場から逃げようとするが、バーニアがやられてしまっていて彼女の思うように動いてくれない。

「動いてよ!この!!!」

その時、一機のエグゼマーがアイリィ機に向かってミサイルを放出した。コクピットを狙って、ミサイルは高速で迫ってくる。

バーニアを起動させようと必死にレバーを動かすも、なかなか動かない。その間にもエグゼマーのミサイルが迫ってくる。

「動け!」

その瞬間、ヴァントは動いてくれた。もう少し遅れていれば確実に落とされていたに違いない。間一髪ミサイルを回避した彼女は、反撃に脚部ミサイルを放出した。だがそれは簡単に回避されてしまう。

三機のエグゼマーとアイリィの乗るたった一機のヴァント。成長したとは言え、まだまだ未熟な彼女にとってこの状況は非常に厳しい状況と言えた。

厄介なのは、このエグゼマー三機に搭乗していたのは普通の新生連邦兵ではなく、普通の兵士以上に訓練された優秀なパイロットである。

「フォーメーションを組む!たった一機とは言え油断は出来ない!」

「了解。」

すると、エグゼマーは三機共MAに変形した。独特の形に変形し、機動性が上昇したエグゼマーは一直線になり、そのままヴァントの前を旋回する。それが続くと思われたが彼女の勘違いらしく、突然エグゼマーはフォームを崩し始め、それぞれの機体が分散し始めた。

「フォーメーションデルタ!」

「一気に仕留める!」

三機の内の一機はヴァントに接近した瞬間にMSに変形し、ビームサーベルで切り刻もうとする。アイリィはこれに対してビームサーベルを展開し、鍔迫り合いを行う事で攻撃を防いだ。

だがこれだけでは終わらない。続いてもう一機が背後からMA形態のままビームライフルを連射。別の方向からはミサイルとビームライフルを両方発射する機体が見えた。

つまりこのフォーメーションデルタは、特攻用の一機が接近戦を試み、残りの二機がビームライフル等の中・遠距離攻撃を仕掛けると言う戦法である。

確実にアイリィのヴァントを仕留めたように思われた。だがこれらに既に気付いていたアイリィはビームサーベルラックを腰に戻してシールドを構えつつその場から離れた。それによりビームライフルによる攻撃を弾くことが出来、どうにか大したダメージを受けずに済んだ。バーニアが壊れているにも関わらず、それでも、それは起動したのだ。

「三機なんて卑怯だ!あいつらに一人でもやれるって所見せてやるんだから!」

三機で一機に対して容赦の無い攻撃を続ける敵に対して怒りを覚えたアイリィは行動に出た。突然やられているバーニアをどうにか動かしつつ一機のエグゼマーに突撃を開始したのだ。血迷ったようにも見えるその光景だが、彼女には考えがあった。

接近してくるので、ビームサーベルを構える一機のエグゼマー。やがてサーベルの攻撃範囲に入ったヴァントを切り刻むためにそのエグゼマーがサーベルを振った瞬間に、急にヴァントは壊れているバーニアを駆使してエグゼマーの上に移動し、上手くバーニアをコントロールするためにそのエグゼマーの頭部を踏みつけた。つまり、エグゼマーを踏み台にしたのである。

「お、俺を踏み台にしたのか!?」

踏まれた勢いは大きく、エグゼマーは一度、コントロールを失った。

アイリィはそのままビームサーベルを再び繰り出し、目前にいたMAエグゼマーを切った。普通なら避けられる筈の攻撃だが、急なアイリィの登場により行動することが間に合わなかったのだろうか、そのエグゼマーはビーム刃に切り裂かれ、撃墜されたのだ。

「ぐ……わあああ!」

「よぉし……次!」

すると踏みつけられたエグゼマーに対してビームライフルを放出し、そのままそれは爆発した。残る一機は未だにMA形態に変形している。

「よくも!こいつは許さん!!!」

怒りに身を任せ、MA形態のまま特攻を図るエグゼマー。その際にビームライフルを連射し続けるが当たらない。

ヴァントは特攻するエグゼマーの上に乗り、ビームサーベルでコクピットを貫いて破壊した。直後に、爆発を起こす最後のエグゼマー。急いで脚部から離れ、脱出するヴァントガンダム。

彼女は、たった一機でエグゼマー三機を仕留める事に成功したのだ。それは、考えが半分で、運が半分入り混じった彼女の作戦の成功を意味していた。

「ふぅ……助かったぁ……」

強敵を倒し、とりあえず落ち着くアイリィ。しかしまだ油断は出来なかった。他にも敵が潜んでいるかも知れない為である。

バーニアが壊されており、次の敵に会敵すれば確実に仕留められる可能性が高い。その為に彼女は一旦シュネルギアに後退した。後はブライティスや、ドラグネスアサルト、他のヴァントガンダムにこの戦況を任せて。

 

 

 

アイリィが奮戦した後、アレンはアイリィから帰還する内容の通信を回線にて把握していた。彼女が三機のエグゼマーに苦戦している間に、彼は別の戦艦やMSを破壊していたのである。

アレンのブライティスが放出するファンネルは的確に敵機を狙い、確実に破壊していく。

マドラ級空中戦艦もアイリィが奮戦している間に二隻破壊され、残る艦は二隻となったその時――

「撤退だ!奴等は強過ぎる!相手が悪いとしか、言い様がない!」

「国連の隠し玉か……!」

負け惜しみの如く台詞を発し、マドラ級は撤退信号を発射。同時に、ジョゼフやエグゼマーはそれぞれの艦へ撤退をしていったのであった。

 今回の戦いはアレン達の活躍により、最小限の犠牲で済む事が出来た。これも、先のアステル家強襲やヴァイダーガンダム強襲の教訓が活かされたが故に出来た事なのかも知れない。

 

 

 

基地に戻った後、アレン達はアズサに激励された。これもシュネルギアが奮戦したお陰と言えた。ブライティスの火力を中心としたMS部隊は、その強さを新生連邦に見せつける事に成功したと、言えた。

「戦死者は出てしまったが、被害は今までの中でも最高に少ない。貴方方はよくやってくれました。心から感謝したいと思います。君達がいなければあれだけの戦力には恐らく、対処できなかったでしょう。」

その言葉に対し、ジャンヌは口を開く。

「いえ、言われた以上はきちんと使命を果たすまでです。ね、皆さん?」

今回の功労者達に向け、ジャンヌは微笑んだ。それを見て心が和らぐ人間の姿が多々見られた。

「中でも今回活躍をして下さったのはアイリィ・トゥールさんです。一対三の状況で、あの動きを出来るとは……貴方には隠された実力が込められているのかも、知れませんわね。」

その場で、ジャンヌはアイリィを讃えた。シュネルギアの艦長であるジャンヌに名指しで讃えられ、アイリィは大きく喜ぶ顔を見せた。

「わああああ!ありがとうございます!私、頑張ります!」

兵士ではあるが、中身は17歳のティーンエイジャー。純粋に、喜ばれる事に対して嬉しさを感じている。

「ジャンヌ様の的確な指揮は目を見張るものがあります。流石、ジンク様の令嬢と言うべきでしょうか。私は彼と友人関係である事を誇りに思います。」

「いえ、私達は成すべき事をしたに過ぎません。」

謙遜する、ジャンヌ。

「少しの間、こちらでゆっくりとされてはいかがでしょうか。それなりの、待遇をさせて頂きます。」

アズサは物腰柔らかな様子で彼等に言った。イェブレ基地が守られた事。それは、彼等にとって

「それは、有難いですわ。しばしの休息を頂けるのなら、光栄です。」

戦闘というのは体力、精神力を削る。それが連戦となれば、それだけ彼等にとって負担となる。その為、休息を貰える事は何よりの褒美と言えるのだ。アズサの厚意が、彼等を喜ばせる。束の間の休息。その時間は、かけがえのないものと、なるだろう。

 

 

 

「リルム!やったよー!MS三機撃墜!一機で三機撃墜だよ!凄くない!?」

アイリィはリルムの居る部屋に向かい、先の戦闘での報告をした。実戦で敵を倒す事が出来たアイリィは、喜びを噛み締めている。自分もやれるんだと、感激している様子だった。

「アイリィさん、それって……あのロボットに人が乗っていたんだよね?アイリィさんは、殺したって事になるんだよね……?」

リルムの言葉で、アイリィの表情が次第に変化していく。人を殺した。アイリィには、その実感が無かったのだ。彼女の喜びと対比しているリルムの表情は、どこか、恐怖を感じているように見えた。

「え?そりゃ、そうなるけど……」

アイリィとリルムの乖離が見えた瞬間だった。ティーンエイジャー同士とはいえ、リルムは今まで人殺しとは無縁の生活を送って来た少女。一方のアイリィは、あどけないとはいえ、軍人だ。軍人が敵を殺す事で讃えられるのは、戦場では至極当然。対照的にリルムは違う。民間人だ。民間人が人を殺せばそれは犯罪だ。その価値観の違いは、互いに迷わせるきっかけとなるのだった。

「ごめん、アイリィさん。私、喜んで人殺した!なんて気持ち、分からない。そんなの嬉しくない。友達のハズなのに、人を殺した事を自慢されたって……」

リルムは事情を知らなさすぎる。今が、戦争状態という事を。だが先のアステル家襲撃の出来事もあり、今はアステル家に保護している状態が危険である為、彼女はシュネルギアで共に行動している。

 当然、そうなれば戦闘に巻き込まれるだろう。守る為に敵を倒すだろう。だがそれが、リルムには理解出来ない世界だったのだ。

「戦争が人を殺す事で成り立つっていうのは勉強してるし、歴史とかでもなんとなく分かってる。けど、それを喜んで自慢するのって違うと思う。ごめんね、多分、アイリィさんはそう言う風に育てられてるんだと思う……」

過ごしてきた環境の違いは価値観の違いを生む。特に、人を殺めるという価値観は当然ながら繊細に扱わなければならない内容だ。本来、それはあってはならない事なのだから。

 だが有事では奇麗事で片付かない。彼等はイェブレ基地を守る為に戦った。そして、敵を殺した。それは、真っ当であった。

「そっか、リルムは人殺すなんて、する訳ないもんね……」

そう言われた時――

「当たり前だよ!!!」

リルムは怒鳴ってしまった。仲良くしていた筈の人間に対して。

「そんな経験なんてある筈がないよ!平和ボケしてるって言われたらそれまでかもだけど!私からしたら、その考えが理解出来ない……なんで、人を殺して喜べるの?アイリィさん……」

撃墜スコアを上げる事は軍人としては光栄の事だが、それは人殺しと同義。だからといって、戦場において不殺というのは難しい。戦う力を一時的に失った所で、兵士は別の機械で殺しにかかる可能性がある。ならば、その息の根を止めなければならない。それが、軍人だ。アイリィは愛らしい人間ではあるが、軍人なのだ。

「ちょっと、部屋、出るね。」

気まずいと感じたアイリィは、部屋を出る事にした。リルムは、そっと、一人でベッドに端坐位姿勢で過ごしていた。

 軍人と民間人の立場の違いが、このような価値観の乖離を生み出してしまったと言えた。

 

 

 

シュネルギアのブリッジ内でジャンヌが休憩をしていた時。オペレーターの一人が言った。

「ジャンヌ様、入電です。」

「繋げて下さい。」

突如入った入電に応答するように、ジャンヌが指示をした。そこに映っていたのは、彼女の父、ジンク・アステルだった。荘厳な印象を持つ男は、娘である彼女に対しても威厳を崩す様子を見せない。

「ジャンヌ。イェブレでは活躍したそうだな。ご苦労だった。休息している所だろうが、緊急でお前達に伝えなければならん事がある。」

「それは、何でしょうか。」

“緊急”と言う言葉は彼女達を緊張させる。

「私の友人のギア・ジェッパーに仕える者が、ある写真を撮影した。その画像データをそちらに送る。」

ギア・ジェッパー。オーストラリアの平和国連盟の一部代表を務める人物だ。その人物とジンクは旧知の仲であり、友人関係である。

 やがてジンクからシュネルギア宛に画像データが送られた。そこに映っている“モノ”を見て、ジャンヌの表情が、変わった。

「これは……」

五隻のマドラ級の戦艦に運ばれる、巨大な黒い影が、映し出されていた。これが何を示しているのかは、彼女の想像に、易い。

「ジャンヌ、お前の想像通り、これはロンドンを壊滅に追い遣ったあの殺戮兵器の可能性が高い。何せ新生連邦のマドラ級を五隻も使い、運搬しているのだ。相当な大型機体と見えるだろう。これがオーストラリアに運ばれている姿を確認された。……これがどういう事か分かるか?」

ジェノサイド・マシン、ヴァイダーガンダム。まさか、その姿をこの場で見る事になるとは思ってもみなかった。

 ジャンヌに、先の衝撃が蘇る。グレートブリテン島に亀裂を入れ、ロンドンの町を蹂躙し、数多の人を殺害した巨大兵器。それが、まだ居るという事実。それは、別の都市が蹂躙される可能性があるという事を、示唆していた。

「新生連邦が、国連を襲撃する……お父様、この写真はオーストラリアで撮影されたのですね?」

それが示すものは、一つ。次の戦場はオーストラリアになるという事だ。

「平和国連盟の最高議長が変わり、平和主義を破り、容赦のない攻撃をするようになった現在、新生連邦も早期決着を求めているのかも知れない。その為には、早めに国連の勢力を潰していく必要がある。その為にこの兵器を投入する可能性があるだろう。」

恐れていた事が、現実になった瞬間と言えた。イェブレに到着した時、アレンとジャンヌはヴァイダーガンダムの事について語っていた。まさか、再びその悪魔の如き巨体の姿を見る事になるとはと、彼女は思っていた。

「そうとなれば、対処法を考えなければならん。イェブレを去り、一度ローマに戻れ。アズサには私から伝えておく。」

やがて、ジンクからの回線が切れた。ロンドンを破壊した殺戮兵器、ヴァイダーガンダムが再び動き出そうとしている。これは、由々しき事態だ。何としても、止めなければならない。

「あのガンダムが再び動き出そうとするのならば……私達は行かなければなりません。その準備も、進めて行かなければなりません。」

ジャンヌの決意は、固い。この後に迫るヴァイダーガンダムの脅威を防ぐ為に、彼女は戦う意思を固めていったのだ。

 

 

 

 やがて、シュネルギアはイェブレの地から去った。アズサはジャンヌ達に敬礼をし、シュネルギアを見送った。新生連邦に寄る脅威が減った状況となり、イェブレ基地が襲撃を受け、壊滅させられる可能性は低くなった。アステル家の力が、彼等を助ける事に繋がったのであった。

 シュネルギアの艦内にて、ジャンヌはブリッジにアレン達を集め、今後の話をしていた。それは、まず、彼等はセイントバードと接触を図るという事だ。その上で、ツヴァイの存在を確認し、状況を見せ改修作業を行うという。やがてはセイントバードにオーストラリアに移動してもらい、共にヴァイダーガンダムを迎撃する事を考えていたのだ。

「先にセイントバードをアステル家に来てもらうよう、要請する必要があります。その上でツヴァイを私達が預かります。プラズマキャノンは戦力の要となる為です。」

ヴァイダーガンダムと戦うにはツヴァイの存在が必要不可欠だ。それを理解した上で、ジャンヌは言った。

 だが、そこでアレンが言った。

「問題がある。レイがそれを承諾するかだ。あいつ、色々とややこしい状態だからな……」

ツヴァイを操る事が出来るのは、レイだけだ。故に、彼への説得は非常に大切なものとなる。だが一度生まれた確執を無くす事は、並みならぬ努力が必要だ。それをどう、ジャンヌは考えているというのか。

「それに関してですが、貴方にもお伝えしたように、私に考えがあります。」

それは、二人で話していた時に言った言葉だ。

 

――私は例え彼にとって“悪”と見做されても良い様にしていかなければなりません――

 

「悪と見做すって話?」

「ええ、そうです。実際に彼に会うことが出来れば、話は進むでしょう。まずはセイントバードとの接触を。彼等がどこにいるかに寄りますが、ツヴァイガンダムも一緒に在る事が条件です。その確認をしなければ、なりませんわね。」

「もし、やられていたとしたら?」

それは、想像したくない事だった。万が一ツヴァイが何者かに倒されていれば、この計画は頓挫する事になる。迫る、ヴァイダーガンダムの脅威を打ち破るには、ツヴァイの存在が必要不可欠なのだ。

「それは即ち、セイントバードの敗北を意味しますわね。」

どういう事なのか。そもそも何故セイントバードにツヴァイを詰め込ませたのか。そこには、ジャンヌなりの“意図”があったのだ。

「そもそも、セイントバードにツヴァイを預ける理由があったのか?それだけ重要になるなら、こんな、ややこしい事をする必要は……」

アレンの意見。ツヴァイガンダムが必要な存在ならば、アステル家で確保しておけば良いだけの話だ。だが、これに対してジャンヌが答える。

「セイントバードのスポンサーとしてアステル家が存在しています。その上であのガンダムを彼等に託す事。それは、重要機密の分散にも繋がるのです。万が一、あの機体が倒される事になれば、頼りになるのは貴方だけです。」

要は、リスクを分散させたのだ。アステル家が開発したガンダムタイプを同箇所に置いておくのは、先のアステル家襲撃の事もあり、危険だ。故に、セイントバードを、彼女は利用したのである。

「倒されている事がないように、祈るしかないのは間違いないのですが……」

こればかりは、運が絡んでいる。確実ではない。エリィ達と連絡が取ることが出来れば、可能性は広がる。そこから情報も聞くことが出来るだろう。

「だから、セイントバードに連絡を取るという訳か。」

「ええ。私達は、戦わなければなりません。ロンドンの二の舞だけは防がなければなりません。新生連邦の蹂躙だけは、これ以上許されないのですから。」

例え、利用する事になったとしても、それは犠牲者を出さない為。ジャンヌは、あの無残な光景を思い出し、より、決意を固めて行く。忌々しい巨体が町を滅ぼし、数多の人が犠牲になる事は、決してあってはならないのだ。

 

                   ドオオオオッ

 

だがその時。突如シュネルギアは大きく右に動いた。その影響でブリッジは揺れ、クルー達は姿勢を制御しなければならなかった。

「ぐぅっ!なんだ!?」

何が起きたのか。突然の揺れ。まるで、何者かに攻撃されたかのような出来事だ。

「ジャンヌ様、後方より攻撃を受けました!大型の熱源!詳細不明!」

「突然の攻撃……?一体、何者ですか……?」

「射程外からの攻撃と思われます!モニター、拡大します!」

オペレーターの一人が、後方カメラのモニターを拡大する。

 そこに、一つの影が映っていた。何者なのかは分からない、その影。正体を知る為にモニターを拡大させていくと、そこにはMAらしき影が映っていた。急ぎ、解析を行うクルー達。

だがライブラリを照合させても見られないMAの存在。一機、それは何者なのだろうか。

「今のは一体……?」

アレンは、ジャンヌに聞いた。

「分かりません。恐らく、モニターに映ったMAが攻撃を仕掛けてきた可能性は高いと見られます。」

シュネルギアが狙われるのは、分かる。だが問題は敵戦力が、何処の所属であるかだ。新生連邦なのか、それとも氷河族なのか。それらが全く不明である以上、迂闊な動きは危険だ。

「ジャンヌ様、敵MAより入電!受信、受け入れますか?」

オペレーターが言った。それを聞き、ジャンヌは

「許可を。」

と、言った。

 それは、音声のみで再生された。恐らく、そのMAのパイロットが喋っているのだろう。声が籠っており、やや聞き取り辛い印象を持つ、その声。

『そちらの艦は射程に入っている……撃たれたくなければそちらの青いウイングのガンダムのみの出撃を要請する……尚、応じなければ貴艦の撃墜をさせて貰う。』

明らかに罠の可能性が高い。“青いウイングのガンダム”という言葉から、シュネルギアの事情を把握している者が発言していると考えられた。

 だが心当たりがない。一体どこの勢力がこのような真似をするのか。少なくとも、新生連邦ではない事は、確実と言えた。

「ジャンヌ、ブライティスに乗り込むよ。」

敵の要求に応じようとする、アレン。しかし――

「アレン。敵の正体が分かっていない状態で迂闊な動きは危険です。罠の可能性も考えられます。」

ジャンヌの言葉は間違っていない。敵の存在が何者であるのか、不明な状況。迂闊な動きは死に直結する。それも、分かっている筈だった。

 だが、アレンはその忠告を無視した。

「何もしなければ奴はシュネルギアを狙う!そんな事、させるか!」

そう言った後、ジャンヌの制止を無視し、自身の愛機であるブライティスガンダムのある、MSデッキへ向かったのだ。この様子を、ココットは一人、見送っていた。

 そもそも、今回の敵は一体どこから砲撃を行ったのか?本当に一機だけなのか?それとも複数なのか。全てが謎に包まれている、敵MA。セイントバードとの接触を図る前に、厄介な敵が出現した瞬間だった。

 

 

 

 アレンはブライティスのコクピットに乗り込んだ。そのまま、発進許可をジャンヌに求める。しかし――

『アレン、発進許可には応じられません。敵の目的が不明な以上、迂闊な動きは危険です。』

それは、分かっている。しかしこのままではシュネルギアが破壊されるかも知れないのは目に見えているのだ。

「迎撃するだけだ!俺は死なない!」

とはいうが、彼女は止めるのだ。

『詳細な情報を得られてから発進許可を出します。それまではシュネルギアから様子を伺います。』

そう言われ、アレンは歯痒い気持ちで居た。敵が攻めてくるかもしれない状況なのに、何も出来ない。その空しさが、アレンを包むのだ。

 だが、状況が一転したのは次の敵からの言葉だった。

『要求に応じない場合は貴艦の撃沈をすると言った。』

と、敵が再び口を開いた。すると――

 

ドオオオオッ

 

再び、シュネルギアは揺れた。敵からの攻撃を受けたのだ。このままでは危険だ。艦が撃墜される可能性が高い。

『止むを得ません……ブライティスに発進許可を。その上で、援護射撃を行って下さい。アレン、気をつけて……』

ブライティスのモニター越しで、ジャンヌはアレンに言った。

『アレン、気をつけてね。』

次に、ココットが言った。彼女等の言葉を聞き、アレンは操縦桿を握る。ブライティスのカメラアイが輝き、カタパルトから機体が発進した。

 

 

 

シュネルギアから発進したブライティス。この時、レーダーに映るMAの存在に警戒しつつ、ブライティスのウイングを広げて敵を待つ。

やがてビームライフルの射程圏内に入ってきて、アレンはMAに向かってビームライフルを放出した。だが、ビームは黒いMAの前で弾かれた。それを見たアレンは目を疑う。

「バリアーフィールドか!?あのMAは一体……?」

冷や汗を掻くアレン。次の瞬間、MAから触手のように有線が展開された。それらの先端にはビーム刃展開されている。計六本のそれらは、ブライティスに容赦無く襲い掛かる。

「うわっ!?」

彼の中に備わっているアドバンスドタイプとしての能力を生かし、それらを辛うじて回避するが、次々来るビーム刃はアレンを苦しめ続ける。時折彼もビームセイバーを腰から抜いて有線のビームサーベルに応戦する。

次に、ブライティスはウイングからブリッツファンネルを放出し、迫った。ビーム刃を展開し、迫るのだが、そのMAは回避を行った。

「この機体……強い……一体どんなパイロットが……?」

敵は何者なのか。強襲を受けたブライティス。未知なる機体がアレンを襲う。

 やがて敵MAとの距離が近くなった。モニター越しで分かる、その機影。カラーリングは黒系統だ。ウイングが展開されており、両手部マニピュレーターが剥き出しになっている奇抜なデザインのMA。

 

グォンッ

 

次の瞬間、MAは形状を変え、MSに変形したその奇怪な姿をしたMSは、ブライティスよりも一回り大きく、モノアイを輝かせる。その時、無線でアレンのコクピットに対し、言葉を発したのだ。

「ハハー!イェアアアッ!!随分と久し振りだなァ!アレン・レインドォォォ!」

「!?この声……まさか……」

「そうだよ!ハハッ!やあ、元気にしてたかい?……俺だよ!メイドだよォ!」

漆黒のMSのパイロットの正体は、メイド・ヘヴンだった。という事は、この機体はデスゲイズである。だがアレンはこの機体の存在に驚きを隠せない様子だった。無理もない。ブライティスが、未知なる機体であるデスゲイズと交戦するのは初めてなのだから。

「てめぇに煮え湯を飲まされたままお陀仏になるかって話なンだよねぇ!!こいつぁグラントロールなんかと比べたら死ぬぜぇ?ワイルドだろォ?こんな風になァァっ!」

 

ドバアアアアアアアアアアアアッ

 

その時、デスゲイズの腹部からビームカノンが放出された。回避できる距離ではなかったため、咄嗟にバリアーフィールドを展開してそれを防ぐが、出力が凄まじい為、防ぎきった後に機体が激しく揺れてしまう。

「クッ……さっきまでの射撃はこれだったのか……?」

防いだ後、ブライティスは両側腰部からブラスターファンネルを射出した。ブリッツファンネルよりも大型のブラスターファンネルは、デスゲイズに向かってビームを放出した。

バックパックを狙うのだが、それもバリアーフィールドで防がれる。

「機体全体にバリアーフィールド!?なんてMSなんだ……。」

「そう!そいつみてェによォ、手を伸ばさねえと発動しないバリアーとは違う!こっちはな、全体にバリアーが張られてるんだよ。つまり!ビームは無意味!無駄なんだよ!くたばっちまいなァ!」

乱雑な言葉遣いでメイドは叫んだ後、再び主力武器である有線式ビームサーベルを放出した。

この武器が脅威で、アレンでも避ける事に必死だった。

「こ……のぉ……!」

アレンの方も、ファンネルをビーム刃に形状を変え、応戦する。デスゲイズは六本のサーベルだが、これに対し、ブライティスは計十基のファンネルを持っている。数ではブライティスの方が勝っていた。だが、メイドは余裕の笑みを見せる。

「そんな変な物体如きにコイツがやられると思ってんのかァ!?てめぇとタイマンを張る為にリベンジさせて貰うんだぜェ!」

「そんな事の為に戦うのか!」

メイドがアレンに戦いを挑んだ理由は、至極単純。純粋な力比べだ。デスゲイズという新たな力を手にしたメイドは、その力を振るい、アレンに戦いを挑む。彼等はヴァイダーガンダムを止めなければならないのだが、この男はその事情など気にする事なく、戦いを挑むのだ。

「楽しいだろォォォ!戦いってのはよォォォ!」

その時、両前腕部の二連装ビームキャノンを連射してファンネルに攻撃する。その攻撃もあってか、ブリッツファンネル二基が破壊されてしまった。この際、残りのブリッツファンネルはブライティスの元へ戻る。

「ヒャハハハ!プギャー!ざまぁー!!!」

「クッ!」

強力な攻撃に、苦戦を強いられるアレン。この、ビーム刃の嵐に対抗しようと、腰部からビームセイバーを展開した。緑色のカメラアイを輝かせ、デスゲイズに攻撃を仕掛ける。

「ハハー!慌て過ぎだぜ、少し……頭冷やそうかァ!」

そう言ってデスゲイズは、六本の触手のようなビームサーベルをうねうねと動かし、ブライティスに迫る。怪奇な動きで、ブライティスを攻め続けるデスゲイズ。機体から放たれる有線はアレンの予想を上回る動きをするのだ。

「ダメだ……もう少し反応してくれないと……追いつかない……!」

「オラオラ、逃げないと串刺ししちゃうよ~?ハハッ!どんどん逃げてね!」

奇妙な台詞を吐きながら攻めるメイド。不気味な演出でアレンに精神的なダメージを与える。演技をしているつもりなのか、していることと台詞のギャップの激しさに恐怖すら感じられる。デスゲイズの有線式ビームサーベルはアレンのブライティスに容赦しない。シンギュラルタイプ以上の力を持つアレンだが、それでも回避することに精一杯だ。

「まじ強えぇわコレ。チョーイイネ!サイコー!機体性能に頼る訳じゃねえけどさァ!オラァ!もっとてめえのご自慢のファンネル撃ってみせろやボケナスゥ!」

その瞬間、デスゲイズは変形した。それでも有線式ビームサーベルによる攻撃は止まない。

避けきれないビームサーベルの群れを、ビームセイバーで切り払う、ブライティス。

「強い……このMS……」

「だろうな!何故なら、これは、特別な存在だからなんです。ってかァ!?ハハー、ファンネルなんざ目じゃねえぜ!?今度こそてめえが殺した兄者の敵打ちが出来るんじゃねえか?なァ!?」

メイドの兄を殺したのはアレンだ。本当ならデウス動乱時、兄弟共にアレンが倒した筈なのだが、何故か弟のメイドだけが生きていた。そして、氷河族に入り、デウス残党に協力した末、凶悪なMS、デスゲイズを手に入れ、今に至る。兄を殺された、メイドの敵であるアレンを打てるという事で、彼は一層高揚していた。

「お前だって……俺の父さんを殺した癖に!」

メイド・ヘヴンと彼の兄であるフロード・ヘヴンは元々コロニー破壊活動の工作員だった。

その際にアレンの父親を殺害しており、彼から見てメイドの存在は敵なのだ。憎しみ合う同士の戦い。一方は青い翼をもつMSで、一方は黒い翼をもつ怪鳥のようなMS。両者とも引く様子はない。互いの敵を目の前にして、両者共に目が真剣だった。

「今までもさぁ、散々邪魔してくれたよなぁ……全てはてめぇが兄者を殺したからなんだよォ!!!」

「そっちだって人の事を言えるのか!」

「うっせえんだよ!おかげで俺はぼっち!兄者こそ俺の生き甲斐!けどてめえが兄者を殺しやがった!本来ならあの時俺は死ぬべきだったんだよ!けどなァ!俺は何故か生きてんだ!兄者が死んで俺だけ生きてんだ!僕等はみんな生きている!生きているから笑うんだーって!笑えるかよぉ!昔は良かったぜ、兄者がいたからな。兄者こそ俺の生きがいってわけよ。けど今はいねェ。だから自由にさせてもらうぜェ!!!」

「く……!」

ビームセイバーと、有線式ビームサーベルの打ち合いが始まった。だが、それに時間を掛けている場合ではない。すぐに他の有線式ビームサーベルがアレンに襲ってくる。

それを察知し、アレンは急いでデスゲイズと距離を空けた。触手のように襲ってくるビームサーベルは、六つだけには見えなかった。避けるたび、無数に触手がブライティスのコクピットを目掛けて襲ってくる。

(ダメだ、避けきれない……このままじゃ破壊されるのが目に見えてる……どうすれば良い……?)

歯を食い縛り、操縦桿を引き、上空へ向かった。そこで再びブリッツファンネルを二基発射させたように見せかけ、それらをビーム刃状にしてデスゲイズへ襲わせる。実質三基のファンネルが展開されたが、メイドはそれに気付かない。

「無駄やーゆーねん。無駄無駄無駄ァ!」

ファンネルはアレンの意識で、有線式ビームサーベルを回避しつつ動いている。だがデスゲイズの有線式ビームサーベルは更にそれを追う。

その際、デスゲイズは前腕部から二連装ビームキャノンを放出。このためファンネルが二基破壊されてしまった。が、この二基は陽動目的で発射したファンネルであり、予め展開していた一基のブリッツファンネルはデスゲイズの左後部ウイングに直撃した。

「おうっ!?……ふ……ははははは!中々面白れぇなァ……面白れェぞ!!!けどなぁ!甘めェんだよォ!!!」

すぐにそのファンネルはデスゲイズの有線式ビームサーベルによって破壊された。その勢いで有線式ビームサーベルは触手の如く近付いてくる。必死に回避するアレンだが、この攻撃が非常に厄介だった。デスゲイズの猛攻に苦戦するアレン。しかしその瞬間、デスゲイズは再び怪鳥のようなMAに変形しては、腰部から巨大なランチャーのようなものを出現させた。デスゲイズの最強の武器、デス・ランチャーを放出しようとしているのだ。

「ビームサーベルを展開してガンダムの注意を引き寄せ、あの戦艦のやや内角を狙い、えぐり込むようにして……撃つべし!!!みたいな!?ハハー!やっぱ甘めェなクソ野郎がァ!!!」

その矛先はシュネルギアに向けられた。このままでは戦艦が破壊され、ジャンヌやココット、リルムやアイリィ等、他のクルー達が死んでしまう。それは一刻も阻止しなければならない事だった。

「死ねやァァァ!」

「やめろぉぉ!」

 

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 

 

青白く、尚且つ凄まじい火力を誇るデス・ランチャーが発射された。だが、それはシュネルギアに向けられたように見えた――が、ランチャーはそれを通り越した。

少しの時間を置き、遠くの方で規模の大きな爆発が発生した。何が起こったのか、アレンには理解出来ない様子だった。

「え……?」

「邪魔しそうになってたクソ連邦の艦隊が居たからぶっ壊してやったまでよォ!こっちは戦いたくてウズウズしてんだよォ!レディーゴー!」

 

ギュルルルッ

 

再び、有線式ビームサーベルが展開された。メイドはアレンとの戦いを楽しんでいる。戦闘狂の男は、MSでの殺し合いを喜びと見做しているのだ。

「お前に構っている暇なんて、無いのに!」

「では素晴らしい提案しよう、お前も戦闘狂にならないか?」

「誰が!」

当然の如く、拒否をするアレン。

「つまんねぇ野郎だなオイィ!!」

展開される有線は触手の如くうねり、ブライティスの周囲を巡る。メイドは、シュネルギアを狙う気配を見せない。彼の狙いは、あくまでもブライティスのみだ。

 単体でMSを駆り、その上で戦いを挑むという異常な行動。非合理的以外の何者でもない。この男は、純粋に戦いを楽しんでいる。最早これは、狂気以外の何者でもない。

 MS戦の在り方は様々だ。一対多数になる事もあれば、少数で基地を守る事もある。アレンのブライティスは一対多数を想定して作成されたガンダム。一方のメイドのデスゲイズも同様だ。ある種の、オールレンジ攻撃を可能とした機体同士の激突は熾烈を極めている。

「てめぇらが何の為に動いてるかは知らねぇが!てめぇらが強ければ強い分こっちも戦争し甲斐があるってもんだぜェ!前に倒したクソガキのガンダムは思いの外大した事なかったからなぁ!」

「ガンダム……?」

メイドが発する言葉の中に、“ガンダム”という単語が出てきた。これが示す言葉の可能性。それは、新生連邦のガンダムなのか、セイントバードのガンダムか。どちらかだ。

「てめぇと同じファンネル持ちのガンダム!めんどくせぇ野郎だったが俺が倒してやったんだぜぇ!ハーハッハハハハハハハハ!」

「何だと……!?」

衝撃の言葉だった。“ファンネル持ちのガンダム”と聞いてそれを浮かべる機体は、ツヴァイかブライティスか、ヴァイダーしかない。ヴァイダーは恐らくありえない事を考えると、この中で最も可能性が高いのは、ツヴァイと言えた。

「今頃あの世で泣き喚いてンじゃねぇか?ハーハハハハハ!」

嫌な予感がした。レイが倒されたかもしれない。目の前に居る、この戦闘狂いの男に。

 その予感は信じたくない。それはつまり、セイントバードの崩壊の可能性も考えられる。そうとなれば、この戦いは短期決戦で臨まなければならない。

「まさか、こいつがレイを……!?」

戦闘中、アレンが聞いた。すると――

「あー、そんな名前だっけなァ!?死んだんじゃないの~?」

人の死に対する態度とは思えない、メイド。本人としてはユーモアに言っているつもりなのだろうが、自身が殺しておいて、その発言は余りに責任感が無いと、言える。

「つぅかよぉ!!今のてめぇには関係ねぇだろうがァ!」

その上で、躊躇なく迫るデスゲイズ。

「とにかく、今はセイントバードに連絡を取る必要がある……事実を確認しなければ……その上でこいつを止めるには……!」

アレン達にはメイドと交戦している時間さえ、惜しい。レイはどうなったのか。セイントバードは?その上で、この男を止めるにはどうすれば良いのか。戦意を喪失させる方法が、恐らく早い。だが、どうやって?

(そうか……!イズゥムルート!だが、一か八かのギャンブルにはなるけど……!)

戦闘狂が戦闘行為に対して高揚しているのならば、それを止めれば良い。アレンには、その力がある。だが、その発生条件を達成するにはリスクが高い。死の危険さえ、伴う事だ。

「メイド・ヘヴン!俺を殺したいんだろう!だったら、殺してみろ!」

あろうことか、アレンはメイドを挑発し始めた。アレンへの殺意を持っているメイドは、それを聞き、歯を剥き出しにして迫った。

「挑発のつもりかよ!おもれェぞ!」

自らもやられる訳には行かない。だが、説得して撤退するような人間でもない。ならば、その、“間”を取れば良い。アレンの考えは、こうだった。

 デスゲイズはビームキャノンを連射。その際、ブライティスはバリアーフィールドを展開した。だが、その後でビームサーベルの群れがブライティスに迫った。

 この攻撃を読んだアレン。メイドの攻撃を確実に見極め、際どい部分で辛うじて、回避する。その間にも、連続で迫る、デスゲイズのビームサーベル。

 これらを回避し続けていると、ある、一つの攻撃がブライティスのコクピットに直撃した。幸い、アレン自身は傷付いていないのだが、この攻撃でコクピットが剥き出しになった。

「てめぇ、わざと当たっただろうが!?」

だが、この行動はメイドに見られていた。彼は戦闘狂。故に、行動パターンを読み、相手が戦闘中に何を考えているのかは経験で分かるのだ。先の行動で当たりに行った事も、動きで分かったのである。

「死ねや!」

触手が、アレンに迫る。コクピットを剥き出しになっている今、これを受ければ生命の危機が及ぶ――

 

――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――

 

イズゥムルートが、発動した。碧色の光はブライティスを覆う。接近していたデスゲイズにもそれは影響を与えた。美しい光は戦闘狂であるメイドの戦意を、失わせていく。

「うごぉぉぉ!こいつ!これがある……の……忘れて……た……」

頭を抱えるメイド。この間、アレンは動く事が出来ない。敵に襲われれば危機的状況に陥るだろう。だが幸い、デスゲイズも動いていない。メイドが戦意を喪失しているからだ。

「クッソー、やる気なくなった……」

苦しむメイドは、この場から去る為にデスゲイズを変形させ、手を震わせながら、操縦桿を握り、この場から去ったのだ。バーニアの出力を最大にし、全力で漆黒の怪鳥は、撤退したのであった。

「はぁ、はぁ……ぐぅ……!」

一か八かの賭けは成功した。だが、これは一対一のみ使える手段であり、一対多数の戦場では危険極まりない行動だ。今はここから去り、セイントバードとの交流をしなければならない。その為にも、メイドの相手はしていられないのであった。

 

 

 

 シュネルギアに帰還したアレン。頭を抱えつつも、彼はよろよろと歩きだす。そこで待っていたのはココットだった。心配そうに見つめる、彼女。

「大丈夫……?」

「ああ、怪我はない……それよりも、セイントバードに早く連絡を……」

「それは、ジャンヌさんがやってくれていると思うけど……」

「連絡さえ、繋がれば……!」

セイントバードは無事なのか、レイも無事なのか。それだけが気がかりの、アレン。だが、イズゥムルートを発動したが故に、アレンの身体はやや、ふらついている。脱力したかのように、身体が動き辛かったのである。やがてアレンはそのまま床に座り込んでしまった。極度の疲労と倦怠感が、アレンを襲ったのだろう。

「アレンは、休んでて……立てる?」

「少し、このままで居させてくれれば大丈夫。それより、連絡は……」

今はセイントバードとの連絡が優先だ。自身の事は、今はどうでも良い。繋がりさえすれば、良い――

 




第五十八話、投了。
後半はメイド・ヘヴンのMS、デスゲイズとの交戦。そして、セイントバードと合流は果たしてできるのでしょうかといった話でした。
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