機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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新生連邦軍の月面基地、シン・ナンナを訪れた総司令、レヴィー・ダイルはそこに蠢く“影”の存在に着目していた。


第五十九話 蠢くデウス

 新生連邦軍総司令レヴィー・ダイルはソフィアと共に月に居た。チャール・ポレク、並びにギルス・パリシムとの対談以降公に姿を見せていなかった彼。平和国連盟が新生連邦に攻撃を仕掛けるようになった状況となった世界。だが、総司令は何故、月に身を置いているのだろうか。

それは、以前に月面基地、シン・ナンナに置かれていたX-9が破壊された事について調査をする為であった。何者かによってそれが破壊され、しかもそれを映す監視カメラも全て破壊されていることから、テロリストによる仕業と思われていた。だがそれは間違いで、本当は水面下で動いているデウス帝国残党軍による仕業であった。

そのような事情を知る由もない新生連邦軍は総司令の指揮の下調査を続けていた。だが一向に犯人像が突き止められていない。

月面基地、シン・ナンナのメインコントロールルームにて。総司令が部屋に入ってくると部屋にいた兵士全員が敬礼をした。その中に居た、司令官の男であるフェイク・バリスタは敬礼を行い、総司令に挨拶をする。

「地球からの移動、遥々、ご苦労様です。」

フェイク・バリスタ。新生連邦軍の少将に当たる人物。月面基地、シン・ナンナの司令官を任されている人物ではあるが、どこか気弱な印象を受ける、この男。

「バリスタ少将。X-9が破壊された話は伺っております。果たして、その犯人の姿は確認出来ましたか?」

「それが……まだ確認出来ておりません。ですが、先日テロリストと交戦していたと思われる機体の音声データが残されています。これが、気になる内容ではありますが……ただ、殆どの音が飛んでおり、詳細は分かっておりません。」

そう言って、フェイクは総司令に音声データの入った機械を渡した。それを再生する、総司令。

 

『こ……うヲ……た……に……ぽ……わ……デウ……の……い……ヲ……よ……』

 

一体何が語られているのか、全く分からない。その音声が何を示すのかも、謎だ。

「ありがとうございます。X-9に関してですが、仮にテロリストの仕業だとしても、特定するには時間がかかるもの。しかしこれを放置していてはまたいつか月面にある別のXシリーズが破壊される可能性も考えられる。それにテロリストはその他にも、貯蔵しているCメタルを強奪してくる可能性も考えられる。可能な限り急いで下さい。」

「了解しました、総司令。」

総司令はフェイクをはじめ、兵士達を急がせる。彼のその表情には、焦りが見られた。

(今や平和国連盟の最高議長がチャール・ポレクに代わり、ギルス・パリシムが平和主義を破ってまで我々に先制攻撃を仕掛ける状況となってしまった……国連がこのような行為を行うとなっては非常に厄介だ。その上でのX-9の破壊。厄介な事が続く……宇宙の状況の確認が出来ていなかった私も迂闊だった。だが、今は、こちらを先に片付けなければならない。宇宙に、何が居るという?新生連邦の脅威となる存在が居るというのか?だとしたら、何者……?)

若い彼にとって総司令と言う重要な役職は荷が重過ぎたのかも知れない。新生連邦軍全体の理解、平和国との外交や戦闘についての議論、そして宇宙の問題。それらは彼の考えていることのほんの一部に過ぎない。実際はまだまだ把握しきれていない事柄が無数に存在するのだ。いくら新生連邦軍総司令と言う立場に立ったとは言え、まだまだ彼の課題は多い。

また、若き総司令はあまり信用されていないと言うのも事実である。それが浮き彫りになる事は、今までも何度かあった。例を挙げるならば、無断での外部への委託や、巨大MS、ダッゲインの暴走の真相の隠蔽等。しかも、それらの真相に至る事なく、彼は動いてしまっている。

新生連邦と言う組織は膨大だ。故に、多くの管理が必要となる。そして、それらを統括するには信頼も必要となる。それが出来ていない時点で、組織としての在り方というのは難しいのかも、知れない。

しかし地球上でも国連が正式に敵勢力となり、更に別の脅威が迫っている状況となれば、彼自身も行動範囲を広げざるを得ないのである。

 

 

 

総司令は少しの間フェイクと話した後で、基地内にある部屋に戻り、シャワーを浴びた。余程、疲れているのだろう。目元が虚ろであり、視線を下に向け、はぁと溜息を吐く。

シャワーを止めた後、金色の髪からは湯が滴り、水滴音が彼の耳に聞こえた。

そのままバスローブ姿に着替え、部屋を出ると、側近であるソフィア・ブレンクスが彼を待っていた。

「レヴィー様。疲れが見られるようですが……」

多方面の状況の確認をしなければならないという事もあり、彼の表情に疲労が見えていた。だが、それでも総司令は気丈に振舞った。

「いや、大丈夫。総司令である者、これぐらいは耐えないと。」

髪を拭きながら、彼は語る。

「地球の事はアルナス司令官に任せているし、僕は月で起きた事の調査に乗り出せる。彼が地球に残ってくれる事は、有難い。」

彼は宇宙に行く際、別の司令官に全任している。様々な出来事や作戦の現場指揮官として、ジーク・アルナスという人物に一任しているのだ。

「新生連邦は、僕が纏める。祖父、ダディー・ダイルのような在り方では、今後現れる脅威に対応出来ない。力を使ってでも、地球圏の統一をしていかなければ、ならないのだから。その為にも、脅威は排除しなければならない。国連にしても、この、宇宙にしても。」

彼の祖父、ダディー・ダイルは旧連邦軍を指揮する偉大な総司令であった。だが戦時中に殺され、彼の跡を引き継ぐ形となったレヴィー・ダイル。彼が掲げた方法こそ、軍備増強。以前の地球連邦軍以上の戦力増強を行い、脅威となる存在を排除するのが彼の考え方。それ故に犠牲になる者がいようと、それは関係ない。彼は、突き進むのみなのだ。

 

「総司令、非常事態です。至急、いらして貰えますか。」

その時、メインコントロールルームから、彼を呼ぶ、オペレーターの声が聞こえた。それを確認した総司令は

「……分かりました、すぐに向かいます。」

とだけ、言い、すぐに着替え始めた。休まる時間すらないまま、彼は動く。ソフィアは、彼の後姿を、ただ見るだけだ。

 

 

 

非常事態と聞き、詳細を聞く総司令。そこで、兵士である女性が彼に対し、言った。

「モニターをご確認下さい。」

兵士に言われてモニターを見る総司令。そこに映っていたのは、デウス帝国軍のMS、ゴルモンテであった。それも、二機映っている。何故このような場所にデウス帝国の機体があるというのだろうか。

「デウス帝国の機体であるゴルモンテタイプがどうしてこんな場所に?」

「詳細は分かりません。ですがもしこちらに攻撃を仕掛けてきたらどうしますか。」

このような場所にMSが確認できるという事自体が妙な話だ。何かがあると判断した総司令は

「一応、様子を見ておいたほうが良さそうです。私がナパームに乗って調べてきましょう。」

と、自らが出撃しようとした。だが、それをフェイクが止めたのである。

「何を仰いますか!総司令自らが行くようなことではありません!ディーストなら待機させてあります。それらに出撃させるのが宜しいかと。」

「なら、そうしましょう。先遣隊に偵察をさせ、経過を見ましょう。その機体が何の為に動いているのか、その確認は行う必要があるでしょう。」

フェイクの提案を受け入れ、総司令はその場で待機した。

「了解しました。ディースト、発進スタンバイ。」

突如現れたMS、ゴルモンテの調査をするためにステーションから六機のディーストが出撃した。現在では新生連邦軍の中ではそれほど優秀でないディーストであるが、デウス動乱時の量産機体と比べてみれば性能は上である。ディースト達は警戒しつつ前進した。いくら敵が旧式とは言え、どのような攻撃を仕掛けてくるのかは未知数だ。故に、警戒を怠ることはない。

やがて、チームの一人が一機のゴルモンテを確認した。ビームライフルを構えつつ、無線でその機体を確認しようと試みた。

「貴様、何者だ?」

兵士達の誰もが、ゴルモンテをテロリストの機体だと思っている。所属を確認しようとする、パイロット。だが、ゴルモンテは何も答えずにそのまま逃げるように、バーニアの出力を上げ、姿を消した。

「待て!」

姿を消したことにより、新生連邦兵達は逃げた方向へ追い掛けた――

 

ドオオオッ

 

だが、突如そのディーストは爆発を起こした。一瞬の内にディーストのスクラップが出来上がったのである。

 それだけでなかった。残り五機のディーストとも連絡が取れなくなっていたのだ。彼等が出撃してから、僅か三分程度の出来事だ。一体、これはどういう事なのか。

「ディースト全機ロスト!」

「ん?一体何が……?」

焦る、メインコントロールルーム内。そして、フェイクは苦渋に満ちた表情を浮かべている。

騒然とする中、総司令は、ある疑問を抱いた。

「やはり、あれはデウス帝国なのでは?」

そう、呟いた時、フェイクが彼に言った。

「総司令、それは有り得ないでしょう。デウス帝国は今から五年前に連邦に壊滅させられています。そもそもあの帝国のコロニーは今や新生連邦の管轄。この五年で多くのコロニーの偵察部隊を向かわせましたが、反乱分子になり得る存在は認めませんでした。せいぜい、テロリストが関の山と言った所でしょうか。連邦に歯向かう愚か者と、言うべきでしょうな。」

デウス帝国の力は潰えたと思われていた。だがそれでも総司令は、軍備増強を続けた。故に、彼等は絶対的な力を自分達が持っている者だと、過信している。それ故に、新生連邦内ではデウス帝国と言う存在はないものと、認識されていたのである。

「……やはり、私自身が確かめる必要は、ありそうですね。」

そう言った後、彼は行動を開始した。総司令を止めようとする者が居たのだが、今の彼は止まらない。三分で六機のディーストが破壊された。これは、由々しき事態だ。何が、起きている……?

そのまま彼は急いでMSデッキへ向かった。その際、廊下でソフィア擦れ違れ違い、彼は言った。

「ソフィア。すぐに戻る予定だ。バリスタ少将達と共にコントロールルーム室で待機していて。」

「お気をつけて……レヴィー様。」

そのまま走り去る総司令。ソフィアは、彼の後姿をただ、見守るだけ。宇宙と言う空間で、見知らぬ敵勢力と戦う総司令。それは、彼にとっては随分と久方振りの事と言えたのだ。

 

 

 

 やがて、ガンダムナパームに乗って出撃をした総司令。バーニアの出力を上げ、先遣隊が撃墜された場所へ向かう。その時、後続から五機のディーストが護衛と言わんばかりにナパームに追従していたのだ。

「護衛の機体は先行し過ぎないように。敵機体がどこに潜んでいるのかも、確認しなければならないから……」

そう言って、ナパームは一度その速度を止めた。周囲を確認する、総司令。異様な静けさを感じる、その空間で、彼は違和感を覚えていた。月の引力に惹かれるかの如く、先程撃墜されたディーストが緩やかに宙域を彷徨っている。先程の状況は、一体何だというのだろうか。

「妙だ。あまり時間が経っていない筈なのに敵がいない――?」

 

ピキィィィ

 

(機影が五機!?ビームが来る……)

総司令の中の、シンギュラルタイプの力が発動した瞬間だった。彼の脳内に電流が流れ、接近してきているであろう、敵の存在を確認した。そして、次の瞬間に、総司令は後続のディーストのパイロットに伝えた。

「逃げろ!囲まれている!」

だがそう言った時には既に遅かった。突如、ビームの嵐がガンダムナパームを含む六機に襲ってきたのである。総司令の機体はこれらを全て避けるが、強襲に耐えられなかったジョゼフの方は二機が破壊されてしまった。他の機体も損傷は警備ではあるが傷をを負っている。

「罠か!」

彼等の周りにはゴルモンテタイプの機体やディエルタライプなどと言った旧式の機体もあれば、最新鋭の機体であるゴルモンテMk-Ⅱも居た。その数は、合計五機。総司令は、その中に居たゴルモンテMk-Ⅱの形状を見て、一人、違和感を覚えていた。

「テロリストのカスタム機体とは思えない……やはり、何かが絡んでいると見た!」

そう呟いた後、総司令は躊躇なくこれらに攻撃を開始した。その後、ナパームは簡易変形し、ビームライフルを連射して次々と敵MSを撃破していく。

「こんな簡単に!やられると思っているのか!」

シールドビーム砲も駆使し、易々とこれらの機体を撃墜していく。これらの攻撃により、五機いた敵機体の数は減った。いつしか数はゴルモンテMk-Ⅱ二機のみとなった。だが、更にゴルモンテは抵抗を加える。ビームバズーカを放つが、ナパームはこれを回避し、ビームライフルを二発発射。内一発が直撃し、動きを失う、ゴルモンテMk-Ⅱ。そこへ、別のディーストがビームサーベルで切り裂き、破壊した。

「残り一機は私が。」

残す一機を確認した総司令。だが、機体は抵抗を続ける。これに対し、ナパームのバーニアの出力を上げて接近を試みた。

 

ガキィン

 

ゴルモンテに追い付いたナパーム。その際、ナパームの脚部に搭載されているクローを展開し、ゴルモンテの胴体部に食い込ませるように攻撃を行ったのだ。

 身動きが取れなくなったゴルモンテ。そこへ、総司令が聞く。

「貴方方は何者です。私は新生連邦政府軍総司令官、レヴィー・ダイル。そちらの所属を述べて頂きたい。どの道貴方の負けは見えています。命が惜しくば所属を述べて下さい。」

だが、ゴルモンテのパイロットは何も喋らない。それが、どこか不気味に感じられるのだ。

「このまま連行をします。」

ゴルモンテをそのまま基地へ連行しようとする、総司令。そこからパイロットを引きずり出し、情報を聞こうとしていたのだ。

「いや……この機体、まさか……」

ふと、彼の脳裏に予感が過った。このゴルモンテは、何かをしようとしている。そう、直感したのだ。

「自爆か……!」

その時、ゴルモンテの機体が光を放ち始めた。間違いない、自爆だ。自らの命を絶ち、情報を隠蔽しようというのだろうか。何という、愚業であろうか。

 憐れむ暇もなく、機体は爆発を起こした。この時、ナパームはクローを離しており、機体自体は無傷で済んだ。これにより、基地に接近していたMSは全てが撃墜された。

だが、謎は残る。結局、シン・ナンナに接近した機体の所属は何者だったのだろうか。それが分からないまま、情報を得られずに宙域の敵を倒してしまったのだ。

 

 

 

 謎の敵勢力を倒した総司令達。帰還した後で、彼は部屋に戻る。そこで待っているのは、ソフィアの姿だった。笑顔を浮かべ、総司令の帰りを待つ、ソフィア。

「お帰りなさい、レヴィー様。」

「ただいま、ソフィア。結局、敵の正体は分からずだ。彼等は、何者なのだろうか。」

疲労が蓄積している様子の総司令は、静かにソファーに座り、天井を見上げる。基地内は重力調整がされており、殆ど地球上と変わらないような生活を送る事が、可能なのだ。

「ソフィア、聞きたい事がある。」

「何でしょう?」

今度はソフィアの方を見て、口を開いた。

「もし、デウス帝国の残党軍が居たとすれば、これから地球圏はより、混沌とした世界になって行くと思わないか?」

何気なく、彼は言った。地球が混迷に陥る事。それは、彼にとってはあっては行けない事だ。

「それでも、私はレヴィー様のお側に居たいと、思っています。私にとって、貴方は全て……貴方の行動に、私は付いて行くだけです……」

ソフィアは、そう言いながら彼の側に近付く。隣のソファーに座り、疲れている総司令を、支えようとする。

「ダメだな、僕には……やはり荷が重いのだろうか……世界を導くものと言う立場と言うのは。」

「貴方が少しでも癒えるのなら……私は……」

互いの距離が、近くなる。両者の関係と言うのは、一体どのような関係だというのだろうか。

「ソフィア。君は何故これ程に僕の言葉に従順なのか。ロンドンの襲撃を決行した時でも君は反対しなかった。あれで多くの犠牲者が出る事も、既に知った上で僕は行動した。なのに……」

ソフィア・ブレンクスは総司令の側近を務める少女。その実態は謎に包まれている。ただ、総司令の行動を肯定し、彼の動きを見守るだけだ。それ自体が妙であり、謎であるのだが、それでも彼女は彼を否定する事は、一切しない。

 それが彼の行動を作り出して来たのだ。否定をせず、ただ、肯定する。その存在。まるで、従順な人形のように。だがそれでも、総司令は彼女に居て欲しいと考えている。そして、大切に感じているのだ。

「私は、レヴィー様に必要とされるのならば、幸せなのです。ただ、それだけなのです……」

「僕自身も、君が必要だ……じゃなければ、恐らく倒れているかも知れない。今日は側に居てくれ。ソフィア。」

「レヴィー様が、望まれるのなら。」

 レヴィー・ダイル。新生連邦総司令。人前で見せない弱さを抱えている青年。若くして新生連邦と言う巨大組織のトップに君臨する彼を疎む者も居る中、彼は行動し続ける。

 権力者というのは孤独なものだ。民衆から時に疎まれ、時に命の危機に脅かされる。側近と言える存在にも裏切られる事は、歴史上の権力者にはある事だ。同盟関係を築けなければその時点で敵。責任は本人に降り掛かる。その中で、彼は前線で戦っている。こうした多忙の中を、生きているのだ。

 そうなれば癒しは必然的に必要となる。それこそ、彼の存在を肯定するソフィア・ブレンクスなのだ。可憐な少女の存在は総司令を癒し、次なる活力へと進めて行く。

 

 

 

 彼等の関係と言うのは特異的だ。愛人関係と呼べるものなのか。それとも、恋人関係?パートナー?依存関係?性愛関係?友人関係?男女が作る関係性というのは人に寄り、様々だ。ただ、そのフィーリングが一致した時、人は人を求める。友人としてならば、友人として。愛人としてならば、愛人として。互いに共に居る時、人は寂しさを忘れる。孤独を恐れる人は人を求め、孤独と言う恐怖から逃げる。

 彼の友人であるアレンの場合、最愛の人物としてココットが居る。一方で、ジャンヌとも接吻を交わす関係だ。このように、多種多様な異性関係と言うのが、存在する。

「人は、一人じゃ生きていけないのは本当だ。僕は友人と袂を分かつ事になった。上に立つという事は、そういう事なのだろう。友人が僕の邪魔をするのなら、それも排除しなければならない。しかし、君は僕の行動に賛同してくれる。君は、僕をどう思う?」

隣で横になっているソフィアが、言った。

「私は貴方に付いて行くだけです。求める事をするだけ。先の行為も、貴方が望んだ行為です。ですから、応じました。私にとっての全ては、貴方ですから……貴方の幸せは、私の幸せですから……」

「それは、本当に君の幸せなのか?」

「はい、レヴィー様。」

ソフィアは、静かにそう、呟いた。恐らく、それが彼女の望みなのだというのなら、彼はただ、認めるしかないのだ。

「僕には、人が必要なのだろう。」

「その役目を、私がさせて貰えれば……」

ソフィアは、総司令の側に近付く。しかし――

「……ごめん。君とは、そのような関係にはなれない。君の過去を知っているが故に……」

まるで彼女を払い除けるかの如く、総司令はソフィアと支線を合わせようとしない。その意図は、不明だ。

「それでも、私はレヴィー様をお慕いしています。」

「それで、良いんだよ……君と、僕との距離感は、それで……近過ぎても、遠過ぎても行けないと、僕は思っている。」

孤独な総司令、レヴィー・ダイル。彼の心を埋め合わせる存在と呼べるのは、彼女だけなのかも知れない。彼等の過去に何があったのかは分からないが、今の彼を支えるのは、ソフィアだけなのだ。

 

 

 

デウス残党軍機動要塞アポカリプス内にて。X-9と言う脅威が消えたデウス軍は地球侵攻へ向け着実にその手を進めていた。先程総司令達を襲ったのもやはりデウス帝国残党軍によるものだった。

この、デウス残党軍の象徴的存在であるのは大敗したデウス帝国のドレッド・メリクリファーの息子であるナジェラ・メリクリファーである。このナジェラ・メリクリファーは実質、残党軍の皇帝的存在でもある。この時、アポカリプス内では演説が行われていた。それは、ナジェラ・メリクリファー現皇帝によるものである。

「我々は機会を待っていた。連邦政府に対して宣戦布告をする機会を。かつての大戦でどれほどのデウス帝国の勇敢な戦士達が命を犠牲にしたことか。現在は存在しない本国の代わりとなるこのアポカリプスには多くのデウス兵達が私と共に戦おうとしてくれている。私はそれを光栄に思う。今の地球では戦争が起きている。それも同じ地球人同士の戦争だ。連邦政府は新たに新生連邦政府と名を改め、そしてその一方では平和国連盟という組織が出来上がった。だが今では両者が対立し、戦っている。あまりにも愚かな同じ地球の人間同士の戦いだ。このような愚かな地球連邦と平和国連盟によって現在地球圏は支配されている。それで良いのか?所詮は地球の重力から逃れられずに無駄な争いをするアースノイド共に地球圏を任せられるのか?否っ!それは不可能である。何故なら意味の無い戦争を起こすからだ。地球連邦軍は宇宙に進出した我等の先祖に対し、何の援助もすることなく、全く不慣れな宇宙空間で暮らすように命じてきた!その中で多くの命が尽きようとも連中は見知らぬ顔をし続けた!そして我が先祖はデウス帝国を建国し、地球連邦に宣戦布告をした!」

皇帝ナジェラが言うように、元々、デウス帝国は宇宙に進出した人間、スペースノイドが地球連邦との亀裂が生まれた事がきっかけで生じた事で生まれた国だ。その歴史は百五十年以上にも及ぶ。

だがデウス動乱での彼等の敗北により、国としての機能は失われ、今や帝国は新生連邦の支配下に置かれる事になった。その時の屈辱を忘れず、例え、国の形が事実上崩壊したとしても、未だにデウスの呪縛に縛られている者達……それが皇帝ナジェラをはじめとする、現在のデウス残党軍なのだ。

「結果デウスは敗れたが……その後地球連邦をはじめとするアースノイド共は変わったか?変わらない!それどころか同じアースノイド同士で戦争を始める始末だ!そのような人間共に地球圏が任せられるか?そんなはずがない!これからは我々スペースノイドが地球圏を支配しなくてはならない。地球の重力から離れ、地球に住む愚かな人民に教えてやらなければならない。そんな無益で無駄な争いをして何になるのだと。そして今、我々は進行を妨げる脅威を取り除いた。X-9と言う地球連邦の破壊兵器だ。我が軍の勇気ある戦士の行動がこのような事に繋げてくれた。」

デウス帝国というスペースノイドとの戦争が終わっても、現在も国連と戦い続ける連邦に憤りを隠せないナジェラ。彼はその怒りを胸に、熱弁している。

「そして今、我が軍は着実に戦力を充実させている。このまま戦力を充実させていき、やがて地球を愚かなアースノイド共から開放してやる。それが今の、我が軍の最大の目的だ。幸い我が軍はまだ地球連邦には知られていない。奴等にとって我々は亡国も同然の扱いだろう。もうすぐ……もうすぐなのだ!もうすぐ我々はこの長く辛い戦いの日々から抜け出せる!勇気のあるデウスの戦士達よ!力を貸して欲しい!地球を蝕んでいるアースノイド共を地球外へ追い出すための力を。そして地球圏がデウス帝国のものとなる日を祈って……デウスに栄光の輝きを!!!」

その演説を聞いていた兵士達は次々と掛け声を上げた。彼等の目的、それは地球進行。既に過去に連邦によって民間コロニーを殺されたと言う恨みはなくなっていた。今や、彼等は腐敗しきっていた地球圏を統一するという目的の下に、動いていたのだ。

X-9と言う脅威が破壊された今、彼等にとって地球侵攻の機会が訪れたのだ。これにより今までは月の裏側に密かに存在していたデウス帝国だったが、地球圏に徐々に進出して行くことになる。

 

 

 

地球圏進出に向け、着実に一段一段ステップを踏んでいるデウス残党軍。ステーション襲撃は失敗したが、そのまた別の場所でも彼等は活動を行っていた。あくまでも、〝テロリスト〟として。

アポカリプス内ではメイドをここへ呼んだ男、アルメス・ラグナが現在では特殊部隊であるインベーションユニットの指揮官として働いていた。以前から彼は有能な指揮官としての素質があったが、インベーションユニットの指揮官となったことは、その素質が開花した事にもなる。

「ステーション襲撃は失敗らしい。帰還してきた兵の数がゼロだからな。」

アルメスが言った。

「先程我が軍のものとされるゴルモンテMk-Ⅱの残骸が確認されました。まだ破壊されて間もない様子からして、間違いなく襲撃に加わったものと思われます。」

「そうか。やはり、メイド・ヘヴンの力は必要なのかも知れないな。彼の技量は凄まじい。並の人間では使いこなすことの出来ないデスゲイズを瞬く間に乗りこなすのだからな。」

「彼はシンギュラルタイプです。もしやその力が反映したのではないでしょうか。」

「いや、普通のシンギュラルタイプではあの機体を扱うことは出来ない。相当の技量の持ち主……それがメイド・ヘヴンなのだろう。叶わないことだが、もしあの兄弟……天国兄弟が現在も存在するのなら、是非今のデウス軍の主力となって行けるというのに。あの兄弟の力は本物だった。まあ、その片割れと呼べるあの男の力も紛れもない、“強い力”ではあるが。また、必要になる時が来るかも知れないな。」

アルメスは、静かに語った。デスゲイズを提供したこの男。何らかの作戦では、再びメイドを利用しようと考えているのだろう。

「しかし、我々も新しい兵器を開発しているではありませんか。あの機体は恐らくかなり強力な量産機体になると思いますよ。」

デウス残党軍は新しい機体を製作していると言うことが分かった。しかしどのような機体であるのかは謎だ。このような新型機を開発し、再び地球圏に戦禍を、デウス軍は広めようと言うのか。彼等の地球圏侵略は刻一刻と進んでいくのであった。

 

 

 

地球にて。現在、メキシコ湾沖で新生連邦と国連が戦闘を行っていた。新生連邦側の指揮官は、エファン・ドゥーリアだった。彼が指揮する水上艦は、漆黒のカラーリングをしている。 

今回の戦闘も、国連側が攻め込んできたのだ。エファンの指揮する水上艦に対し、国連軍が攻撃を仕掛けてくる。戦艦だけでなく、MSを展開し、攻撃をしているのだ。

たった一隻の水上艦に対し、十隻の戦艦が迫り来る。エファンの率いる水上艦はビーム砲撃を撃ちつつ、後退。それを、まるで敵が逃げているかのように錯覚した国連軍は、追い打ちを掛けるように攻め込むのだ。

敵の数が多い為、流石に以前のように艦の中に居たままでは厳しいと考えたエファンは、MS、アーヴァインに搭乗する事にした。

「アーヴァイン、出るぞ。ジョゼフ隊は私に続け。」

 

ビゴォン

 

彼自身が設計した大型のMSは出撃し、それに続くようにジョゼフが出撃した。ドゥーリア隊がMSを展開したのと同時に国連もMSを展開してきた。

多数のヴァントガンダムは一斉にアーヴァインに対してビームライフルを放つ。だが、バリアーフィールドジェネレーターを搭載しているアーヴァインに、こうした攻撃は通用しない。

「無駄な事を、ガンダム擬きが。」

全てのビームをバリアーフィールドで防ぎ、逆にフロントアーマービームキャノンで次々とヴァントガンダムを破壊していく。

別方向からミサイルを発射し、アーヴァインに迫るヴァントガンダムだが、その体躯とは比較にならない機動性を活かし、これらの攻撃を回避する。

「は、早い!?」

兵士がそう呟いた瞬間、彼はビームサーベルによって切り刻まれた。既にたった一機で、しかも一分足らずで十機のMSを破壊したアーヴァイン。そして彼の行動は更に勢いを増し、国連に水上艦に魔の手が忍び寄る。

280㍉の実弾キャノンをブリッジへ向けて容赦なく放出し、水上艦は脆くも破壊された。

エファンに続き、ジョゼフ達もメガキャノンを撃って援護する。一隻の戦艦から展開される戦力様々な攻撃に、国連は成す術が無い。

「戦いは数という言葉は間違ってはいない。だが、それを凌駕する一騎当千の人間が居るというのは戦場のミラクルと言うべきか。」

そう言って、彼は国連に対し、更に容赦の無い攻撃を続けた。大型のビームライフルを連射し、一撃でヴァントガンダムを墜としていく。更に後続のジョゼフ達もメガキャノンを国連水上艦に攻撃を加え、破壊していく。

国連の兵士達や士官もエファン達の圧倒的な強さに驚きを隠せない。

「くっ……撃て!奴等の母艦さえ沈めば奴等は投降する!」

母艦を狙うのは戦闘では当然ともいえる行動だ。だが、それを防衛するのも、当然の行動である。

「攻守というのは一長一短だ。だが私は全ての領域を手掛ける……」

やがてアーヴァインは実弾キャノンを再び発射させ、水上艦は轟沈。これまでに合計三隻が沈んだ。それにより、国連軍側も、次第に焦りを感じ始めていた。

その一方で、ドゥーリア隊は更なる攻撃を加えていく。戦況は徐々にエファン達が有利に展開していっていた。

「戦力を減らすには確実な方法がある。それは、己が力を使うという事。私の力は、さしずめ、“チート”と言った所だな――」

 

――――――――――――――――――ドクン―――――――――――――――――――

 

そう呟いたその時、彼の体は突然輝き始めた。アドバンスドタイプ独特の力、〝イズゥムルート〟の覚醒である。この光を受け、周囲の国連兵達は戦意を失い、力が抜けていった。

「こういう場での力の行使と言うのは好ましくないが、まあ良い……」

そう呟いた後で、エファンは攻撃を開始する。身動きが取れない敵に対しビームサーベルを展開し、切り裂く。更に別のヴァントに対して手を差し伸ばし、頭部を掴み、ハンドビームキャノンを撃って頭部を破壊しては、それを蹴り飛ばした。動きたくても動けない兵士達はあっという間に死んでいく。そして彼はビームサーベルラックを側腰部から二基展開し、サーベルを展開してそのまま艦へ特攻した。

水上艦は接近されたため、機関砲を撃つのだがアーヴァインの堅牢な装甲にそれは通用しない。ブリッジをビーム刃で切り裂き、破壊した。そして空中に展開し、次の標的を狙う。

別の艦の上に乗り込んで、再びブリッジを切り刻んだ。これで五隻。残り半分である。これまでの時間は、僅か五分だった。

次の標的に対してはフロントアーマービームキャノンを放出。これも撃破。残り四隻。

動けないヴァントを払い除けて行って、続いては大型ビームライフルを連射し、穴だらけになったところを実弾キャノンで沈めた。これで残り三隻となった。

「て、撤退しろ!化け物が出たぞ!」

「全軍撤退!繰り返す、全軍撤退!」

最早、それは“無双”と呼べる動きだった。単機で次々と戦艦を撃墜するその様は、人域を超えていると言っても過言ではない。

空中では、先程まで動けないヴァントが存在していたのだが、現在ではエファンの部下であるジョゼフ達がこれらを破壊し、もはや何も残っていない状態になった。

「こうして、人は文明を簡単に壊せるのだから、悲しいものだ。」

そう呟いた後、エファンは行動に出た。水上艦は後退しつつもアーヴァインに向けてビーム砲を連射している。が、それらはバリアーフィールドが展開されている事に寄り、で全く通用しない。

結局、一隻が実弾キャノンによる攻撃を受けて轟沈した。残りは二隻。エファンは更に、追撃を行う。

「仕上げはまとめると、効率が良い。人は作業をする時効率化を求める。戦争でもそうだ。」

すると、再びビームサーベルラックを繰り出し、ビーム刃を展開。その二隻の艦の間に侵入した――

「こ、このままでは……う、うわああああああああああ!」

次の瞬間、アーヴァインはビームサーベルを二隻のブリッジに突き刺した。これにより、ブリッジは破壊され、艦は轟沈。これで国連の残された艦は全て破壊された事になる。

撤退しようとしていた水上艦にさえ、容赦の無いエファン。彼はその力で、十隻の艦隊を破壊したのだ。

 

 

 

やがてエファン・ドゥーリアは帰還し、再び水上艦は移動を始めた。彼が艦長席に戻ってきた時、彼は祝福を受けた。

「素晴らしいです!あの戦術……あんなものは、並の人間にはとてもとても……」

「当然の結果だ。口程にも無い。」

エファンは自信満々の様子で言った。

「それよりも、指揮官が言っていた場所まで後どのくらいの距離か?」

彼の言う“指揮官”と言うのは、新生連邦政府の将官であり、現場指揮官である、ジーク・アルナスの事だった。歴戦の軍人であるジーク。彼は旧連邦時代から、数多の軍人に尊敬の眼差しで見られている男である。

「もうすぐです。」

「そうか。」

エファンは、その場まで艦長席に座る事にした。MS、アーヴァインを操り、敵艦隊を壊滅させたエファン。その圧倒的な技量は、留まる事を知らない。

 

 

 

やがてドゥーリア隊はジークに指定された場所に辿り着いた。そこはニューオーリンズの新生連邦軍基地で、ドゥーリア隊はそこで補給をするように指示を受けていた。

ジーク・アルナス。階級は中将。総司令、レヴィー・ダイルが任せる程の人物。現在彼が宇宙に上がっている間の現場指揮官である。年齢は五十歳前後。制帽を頭に付け、顎から多くの髭を生やしている歴戦の軍人だ。

彼は、新生連邦軍の中でも、ドゥーリア艦隊を遥かに超える最強の艦隊を率いる人間である。ジークは並の人間は見向きもしない。彼がエファンと言う部下を持つと言う事は、エファンは新生連邦内でも余程の人間であるということになる。

黒い水上艦は補給を受けるためドックに入った。その間、乗員達は下ろされる。その時、エファンは何者かに突然敬礼された。見たことの無い人間だった為、エファンは少々驚いた。

「お前は、何者だ。」

するとその人間は大声を上げた。

「申し遅れました!私はクラリス・デイルと申す者であります!本部の命令により、貴隊の戦力として加わることになりました!これからよろしくお願いします!」

なんと、それはクラリスだった。あろう事か、彼はエファンが指揮するドゥーリア隊に配属する事になったのである。

 数々の失敗をしてきた男ではあるが、何故か、彼はこの部隊に配属される事が、決まったのだ。

「別部隊から派遣されたパイロットか。」

「はい、そうですが。」

「我が部隊に配属されたということは、それ相応の実力を持っているのだろうな。」

エファンはそう言ってクラリスを睨んだ。その気迫に彼は冷や汗を掻く。

「ご、ご期待に答えられる力を発揮したいと思います……。」

妙な感触だ。エファンが放つプレッシャーとでもいうのか。この時、クラリスはエファンに対し、並みならぬ恐怖を抱いていた。

実際、彼の実力と言うのはテストパイロットレベル。実際は多くの機体を任されてはいたが、その実力は、レイと比較しても強いものとは言えないのだ。

(なんて野郎だ……聞いた話じゃ俺と四つしか歳が変わらねえってのに、すげえ気迫だ……只者じゃねえぞこいつ……)」

内心でエファンの事を怯えていたクラリス。冷や汗の量は先程よりも増えた。その時――

「なんて野郎だー。聞いた話じゃー、俺と四つしか歳変わらねえってのにー、すげえ気迫だー。只者じゃねえぞこいつー。」

「!?」

エファンはつい先程にクラリスが心の中で思っていたことを棒読みで述べ始めた。自分の心の中を読まれていると確信した彼は、更に冷や汗を掻いた。そして顔色が余計に悪くなる。

「まさか、別部隊から派遣されたパイロットがそのようなことを考えていたとはな。残念だが実力と年齢は関係無いのだよ。」

クラリスは始めその考えを否定しようとした。しかし相手は彼の言った言葉をそっくりそのまま言ってきた。一文字も間違えていない。否定しても無駄だと考えた彼は大人しく認めた。

「ぶ、無礼な考えを申し訳ありません……?しかし……何故私の考えを?というか、お言葉ですが少佐は何者ですか?」

次の瞬間、エファンはすぅと息を吸って言った。

「私はアドバンスドタイプだ。」

「……はぁ……?」

彼はアドバンスドタイプの存在を知らなかった。一般に、力のある存在と言えばシンギュラルタイプや強化モデルが彼にとって印象強い。しかし全く聞き覚えの無いその言葉に、始めは耳を疑った。

「失礼しますが、シンギュラルタイプの間違いではないのでしょうか?」

シンギュラルタイプの存在は、クラリスの中では疑ってはいる。だが、実際は彼の友人であるマサアキ・アルトがシンギュラルタイプであった事もあり、いつしかそれを、確認の材料にしてしまっていたのである。

「違うな。アドバンスドタイプはアドバンスドタイプだ。シンギュラルタイプの更に上を行く存在。それがアドバンスドタイプ……」

そのような存在がいると言うのか。彼は何度も考えた。何を言っているのかも、分からない。

「そこまで疑うか……まあ、疑うのなら疑えば良い。ただ、シンギュラルタイプの力を遥かに超えた存在は私を含め、数少ない。まあ無理も無いのかも知れんな。知らないのも。」

クラリスはどうしても納得が出来ない様子だった。シンギュラルタイプの上を行く存在?アドバンスドタイプとは何者?シンギュラルタイプでさえ凄まじいものだと感じていたのに、それを超える存在とは?

疑問だらけだ。そして、ドゥーリア隊の人間はこの男をどう思っているのかという疑問も感じられた。側にいるだけで威圧を感じ、プレッシャーとなる、この男。

クラリスはシンギュラルタイプ等の力を持たない。だが、彼のようなオールドタイプの人間でさえも、アドバンスドタイプのエファンから感じる特異な感覚をを感じ取ることが出来た。増して、自身の考えている事を読み取られる不快感。彼は、この男が奇妙に思えて仕方がなかった。

(気味が悪いぜ……これが上司……)

「きみがわるいぜこれがじょうし」

「!?」

再び心の中を読まれたクラリスは動揺する。

「気味悪く思うのは当然だ。心の中を読まれて面白いと思う人間など、ごく少数だろう。そもそも普通の人間に無い能力が存在していると言う事自体が一般的にはありえない存在なのだ。それは仕方が無いことであり、私がお前に考慮しなければならない点だ。だから私に対する侮辱も許す。そして、心を読まれる事を不気味に思うお前も、その一般的な人間の一人と言う事だ。」

「な……あ……?」

エファンは心の中を読み、それが例え自分を侮辱するような内容であっても咎める事は無い。彼は常識を分かっているからこそ、クラリスの無礼な思考を許したのである。

「ああ、そう言えばアドバンスドタイプを知らなかったのだな……」

するとエファンはクラリスの肩をぽんと叩き、その場から過ぎ去ろうとした。その際、次のような捨て台詞を残した。

「アドバンスドタイプが未知なる存在だと思っているお前に良い事を教えてやろう。お前が密かに憧れている、ジャンヌ・アステルもアドバンスドタイプの力を持っているぞ。ファンだろう?秘密を知れて良かったな。」

余りに淡々とした言葉でエファンは、クラリスに言った。

 最初、何の事だか、理解が追いついていなかったクラリス。ジャンヌ・アステルの事や、彼女がアドバンスドタイプの事?いや、そもそもジャンヌ・アステルのファンという情報すら、彼は口外していない。

「嘘!?」

暫くして、クラリスは声を上げた。

先程のエファンに対する疑惑の目は、はどこへ行ったのか。世界的に有名な歌手であり、尚且つファンであるジャンヌがアドバンスドタイプ?そもそも、アドバンスドタイプとは何か?理解の不可能な単語が羅列する。どういう、事なのか?

(アドバンスドタイプって……なんだよ……!意味分からねえ……あいつ……レイの変な力ですら、凄まじいってのに……それより……俺、ここでやって行けるのか……?)

エファン・ドゥーリアという名の、恐ろしい男の下で部下として戦っていく不安と、隠れファンであるジャンヌ・アステルがアドバンスドタイプと言う未知なる存在である衝撃が重なっての出来事である。困惑する、クラリスはそのまま、頭を抱えてしまったのであった。

 

 

 

 エファンは自身の艦が補給を受けている間、ジークと話をしていた。今後の事についてと、次に赴任する場所についてである。

「貴官の活躍は聞いている。先の戦闘でもたった一隻で敵艦隊十隻を沈めたそうだな。」

「敵に大した戦力が居なかっただけです。数だけで押せると思っている敵の思考が見えていたと言うべきでしょうか。私にはそれが筒抜けと、言うべきでしょうか。」

それは文字通りの意味なのだが、ジークにはこれが、比喩表現に聞こえたようで、彼の自信に対して拍手を送った。

「貴官程の実力者ならばあの水上艦の指揮を任せるのは器量に余るだろう。出来る事ならヒエラクス級等の戦艦を与えたいところだが、生憎、数が出てしまっている。マドラ級をそちらに与えよう。搭載数も水上艦とは変わらぬ。今後の戦いでは優位に立つ事が出来るだろう。」

「ありがとうございます。」

今の新生連邦はジークが管轄となり、様々な部隊に対して現場の指揮、決定をする。戦果を残す事が出来れば、それだけ重要拠点を任される事も可能であり、そうでなければ、辺境の地の任務を任される事がある。それらは総司令を交えて決定していたのだが、宇宙に総司令が居るという事で、その決定権は今、ジークにあると言う事になる。

「ところで、そちらに派遣したクラリス・デイルの印象はどうか。」

ふと、ジークはエファンに聞いた。

「面白い男、という印象を受けますね。年相応の若さと無謀さ、そして短気な印象を受けます。」

彼の印象は当たっている。実際、クラリスは短気であり、違反行為等で謹慎処分を受けた事がある。だが、それでも彼は数多の機体を駆り、パイロットとして新生連邦に貢献をしてきた。

「あの男は今まで多くのMSを駆っている。それでいてデータを残している。その上で戦場を生き残っている。あの男の悪運の強さは目を見張るものがある。」

ジークはクラリスを気に入っているのだろうか。確かに、これ程数多くの機体を乗りこなし、生き延びて来た人間と言うのは珍しい。彼の存在は、ジークのような現場指揮官と呼べる人間にまで名前が知られているのだ。

「貴官はあの男をどのように扱うのか……それは、見物だな。」

「ご期待に応えれば……と、思いますね。」

エファンは、口元に指を運び、静かな笑みを浮かべた。

「ところで、貴官に新たに赴任して貰いたい場所がある。貴官の実績を考慮し、豪州への派遣を命じよう」

ここで、ジークがエファンに指示を与えた。豪州。オセアニアの地への派遣を、彼は命じたのだ。

 だがここで、エファンは彼の言葉を遮るように、言った。

「中将。お言葉ですが私に提案があります。」

「提案?」

ジークはエファンの言葉に、耳を傾けた。

「私に、アーステクノロジーの護衛を任せて頂きたいのです。」

突如、男の口から出た言葉。アーステクノロジーの護衛とは、どういう事なのか。

「何故、そう言うのか。アーステクノロジーは私設の軍隊を保持していると聞く。その上で新生連邦の部隊も既に護衛についている筈だが。」

ジークの質問に、エファンは答える。

「私だから、必要なのですよ。恐らく、アーステクノロジーは近い内に国連軍からの攻撃を受けるに違いありません。そうなった場合、守る為には多くの戦力を投入しなければならないのです。その内の一つとして、ドゥーリア隊を派遣する事は如何でしょうか、中将。」

交渉をするエファン。何故、彼はアーステクノロジーに拘るのかは分からない。だが、彼の目は鋭く、ジークを見る。

「貴官がそう言うのなら、やってみるのも良かろう。準備が整い次第、アーステクノロジーへ向かうと良い。」

「有難き幸せ……」

この時、エファンは深く、ジークへ礼をした。この男がアーステクノロジーに関心を抱く理由。それは何かは、分からない。

 エファン・ドゥーリアは、新たなる部下としてクラリスを招き入れ、次なる赴任の地であるアーステクノロジー本社のあるギリシャへ行く準備を、始めていたのだった。その胸中に宿る野心は、何を見るのだろうか。

 




第五十九話、投了。

月面基地に蠢くデウス帝国残党軍と戦う話。そして、エファン・ドゥーリアの下に配属する事になったクラリスは――といった話。
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