機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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ウィリア・ラーゲン。情報を司るバンディット。弟を氷河族に嵌められ、殺された彼女は復讐の為に組織に所属し、攻撃している。
今回は番外編。ウィリア・ラーゲンの復讐の物語。
※残酷描写有。


第六十二話 リヴェンジャー・ウィリア

 ウィリア・ラーゲン。バンディット。C.W(クリスタルウォー)159年生まれ。

容姿端麗であり、黒のロングヘアーと、紫の澄んだ眼が特徴的である、美女。両親を戦争で亡くし、唯一の肉親が、弟だった。

戦後になり、ユニバーシティにいく学費が欲しいが為に、働き詰めだった姉の代わりに収入を得ようと、氷河族の情報を知ろうとした。その結果、その惨い制裁を受ける事となった。

それが彼女の人生を大きく変えた。今、ウィリアはバンディット……それも、情報分野に特化した形で依頼を受けている。その上で、組織に入っているのだ。全ては、弟を嵌めた人間に対して復讐を果たす為に。

彼女が追う人物。ノード・ベルン。北欧にあるクレーディト・メカニクス社の社長を務める人間であり、氷河族と密接な関係を築いている男だ。この男は自社のMSであるファドゥームをあらゆるジャンク屋、テロ組織、武装勢力などに売りつけ、その利益を確保していった。

今、彼女はギィルと共にオスロに居た。オスロ市内にある、ホテルの一室にて。シーツ越しに裸姿の彼等の、会話があった。外は時期と地形もあってか、雪が僅かに降っている。

「様子は?」

「全く動きが無いわね。GPSの点滅している光が全然動いてくれないの。目的はあくまでもノード・ベルン。しかし、動く気配がない……妙な事だわ。」

ウィリアは、端末を確認しながら情報を見ている。そこに映っていたのは、小さな光が点滅している画面だ。

「にしてもお前は危険な真似をよく出来るもんだ。逆探知されたら襲撃されて終わるぞ?」

「そうならないように、小細工をしているのよ。発信機の位置はこことは全く違う場所。所謂ダミー。それも、三箇所。組織の人間がそこを襲撃したとしても、もぬけの殻という訳。あの時の失敗があったとしても、私は予め準備をしていたという訳。」

ウィリアは、以前ローマでノードと交戦した際に、ノードの身体の一部に触れていた。それこそが、発信機であり、GPS機能を用いて彼の場所を追う事が出来るように仕組みを作っていた。以前はギィルを負傷させてしまい、ノード・ベルンの暗殺に失敗はした。だが彼女は次のチャンスを活かす為に、入念な準備を行っていたのである。

「音声情報も連中に聞かれることは無い。何故ならば、音源は三箇所の“どれか”に置いているから。つまり、ここは安全なの。後はノードがどう動くのかを、見るだけ。」

ウィリアの機転は両者を救った。もし、何も準備をしていなければ、今頃組織に殺されていただろう。

「流石は情報分野を扱うバンディットといった所だな。その上で組織に所属しているってのも、妙な話だがな。」

「貴方を危険に巻き込んで申し訳ないとは思っているわ。先に謝らせて。ごめんなさい。」

ウィリアは、深く、頭を下げた。

「お前から金は得ている以上、こっちとしても仕事はする。ただ、気になるのは連中の動きだ。奇妙と言える程に、動きがない。」

彼等が見ている情報。それは変化のない、GPSの動きだった。ノードの動きを見ている彼等だが、全くと言って良い程動きがない。これは、一体……?

「仮説を立てるとすれば、オスロ内にあるクレーディト社本社に奴は居るのかも知れないわ。」

ウィリアが、言った。

「本社の状況は全く分からない。情報も謎に包まれている。その中で、奴の場所だけが点滅しているのは妙な話ではあるけれどね。」

GPSも万能という訳ではない。戦争状態である世界情勢。ビーム粒子が飛び交う戦場において、こうしたものは“ラグ”が生じる可能性がある。所謂位置情報のエラー等だ。ウィリアがノードに対して装着した、発信機は彼自身に装着してはいるのだが、その正確な情報が完全に把握出来ているという訳ではない。もしかすれば、違う位置にいる可能性も否定出来ない。

「GPS自体が原始的で古いやり方ではあるが、まあ、大まかな場所を特定するのには良いのかも知れないな。結局、そこから詳細を知るには人間の言葉が必要って訳か……」

ギィルが言った。実際、ウィリアはホルステブロにてマレースにノードの居場所の情報を聞いた。その結果で、彼女は動いている。しかしローマでの失敗が尾を引き、今に至るという訳だ。

「だから私は多くの男と性行為を繰り返した。情報を聞き出す為に。その中でも、貴方との交渉は時間を要した。けどその腕は間違いなく本物よ。だから、貴方の事は信頼もしている。」

ウィリアの美貌は武器だ。それによって情報を吐いた人間は数知れない。実際、彼女はその美貌で今の地位を築いていると言っても過言ではない。それも、彼女が以前に言っていた“信頼されるポジション”を得る為の一つの手段と、言えるだろう。

「ま、以前はヘマを踏んじまったが……何にしても、男ってのは本能に従い易い生き物だからな。誘惑されたら抗えねぇんだろうな。ま、それとこれとは話が別だ。」

ギィルが腕を組み、天井を見上げていた。

「にしてもお前と一緒に行動していて思ったのが、クレーディト社と氷河族がこれ程密接に絡んでいるってのが気になる話だ。アルメジャン紛争をきっかけに株価を上昇させて、利益を得続けているんだろ。クレーディトは。」

「ええ、そう。それが気になって、私は情報を知ろうとした。恐らく……いえ、確実に彼等は手を組んでいるわ。実際、ファドゥームがアルメジャン紛争後で各地の武装勢力やテロリストに行き渡る様になって行ったもの。この時点で、“黒”よ。」

アルメジャン紛争後、クレーディト社は株価を軒並み上昇させ、利益を得ていた。その背景にある、ファドゥームの展開。更に、それらと関連している氷河族の存在。こうした情報を照らし合わせた結果、ウィリアは、氷河族とクレーディトが密接に絡んでいるものと、断定したのであった。

「お前が言うように、仮にクレーディト社の売り上げや、氷河族の行動を繰り返して行って巨万の富を築いていたとして……俺等の、“ボス”は何がしてぇのかが分からないな。」

疑問に至る、彼等のボスの存在。彼等は氷河族に所属はしているが、そのボスの狙いそのものが不明だ。姿形も分からない存在。ただ、命令通りに動く事しか出来ない彼等。その存在に疑問を抱く事自体、禁忌ではある。

「ああ見えていろいろ使っているのよ。恐らくだけど……ね。ボスがもし、これ程に事業を展開していて、多くの金を得るのは、別の理由があるのかも知れない。」

「分からねぇな。維持費の為か?」

「それは、一つあるでしょうね。」

ウィリアは静かに言った。

「……けど、仮に氷河族のボスがクレーディト社を始めとした事業展開し、これ程に巨万の富を築いているのには単なる維持費で済むとは思えないわ。」

ウィリアが言った。天井を見上げていたギィルが、ウィリアの方向を見る。

氷河族のボスが金を集めるのは単なる維持費ではない。ウィリアはこう考えている。では、一体何にこれ以上金を使うのだろうか。

「それで……これは推測になるんだけど、ボスにはもっと別の、目的があるのだろうと考えている。そんな気がするの。」

「別の、何か?」

「ええ、恐らくは。」

ここでウィリアは仮説を立てた。それは、ボスの目的だった。氷河族と言う裏社会のトップであるボスは巨万の金を搔き集め、私設軍隊を作り出そうとしているのではないかと、考えていたのだ。

「あながち、あり得ない話ではないと思う。戦後に成り上がった組織の人間が普通、MSなんて作ると思う?彼の野望が何かは分からないけど……私設軍隊を作って新生連邦や国連に反旗を翻す可能性は……ゼロではないと思う。じゃなかったら普通、こんなに金は集めない……その為にクレーディト社の社長であるノードを利用してMSを売り込むような事業展開をしている……そう、思うの。」

彼女の立てた仮説に対し、ギィルは言う。

「有り得る話かも知れねぇな。それで、今の世界情勢に参入するって魂胆な訳か?第三勢力、氷河族って形で。」

「それは分が悪すぎるわ。それだったら、新生連邦か平和国が疲弊しきった所を狙う方がよっぽど賢いわ。東洋の国、日本の言葉で言う、“漁夫の利”ってやつよ。」

仮説とはいえ、氷河族がクレーディト社を利用して事業展開するなら、それは辻褄が合う。

「組織の目的がどうであれ、私はやる事をやるだけよ。ここまで来た。もうすぐ、仇を打てるかも知れない状況なの。弟を嵌めて亡き者にしたあの男、私は許さない……!」

ウィリアの怨念の言葉が部屋に響く。一枚のシーツ越しに、その、長い指先は屈曲しており、いつしか握り拳を作っているのだ。

「恨みの為にここまで動けるってのは、ある意味凄ぇもんだがな。にしても、ノード・ベルンは何をしているのか……」

「恨みは行動原理に則るわ。人間の本能の一つかも知れない。そう考えると、人はやはり、感情で動く生き物と言えるわね。」

ふと、ウィリアはギィルの顔を見た。

「例えば、目の前に居る貴方に対して協力して欲しいと思う事も、ある意味感情を抱いているからなのだと思う……」

じっと、ギィルの顔を見つめるウィリア。その美貌は、彼の心を捉える。弟を大切に思っていた女性は、いつしか多くの男を虜にして来た魔性の女と呼べる人間へと変貌していたのだ。

 それに対し、ギィルは手を伸ばそうとする。彼女を、自らのものにしたいという欲が芽生えたのだろうか。

「聞きたい事があるのだけど、ギィルは私をどう思っている?」

「え?随分と突然だな……」

突然の質問に、ギィルは躊躇う様子を見せた。

「復讐に囚われ過ぎていて何も分からない女ってところか。でもお前の事は嫌いじゃない。」

そう言った時、ウィリアは寝返りを打つように彼と、顔を反対向けた。

「……少し、シャワーを浴びてくるわ。貴方の汗が少し、身体に纏わり付いてるから。」

だが、突如ウィリアは立ち上がり、裸のままベッドから起き上がり、歩いて、浴室へ向かった。残されたギィルは、その後ろ姿を眺めるだけだった。

 

 

 

シャァァ

 

浴室にて。全身にボディソープを塗って、泡立てているウィリア。やがて彼女はシャワーを全身に浴びた。水滴を垂らすシャワーは、女の身体に纏う泡を全て流していく。

(これから……か。どうなるんだろう。あの男を始末する事……私は結局、その為にしか生きる事が出来ない人間って事なのね。)

俯きながらウィリアは思った。全ては弟の復讐の為。その為に、多くの人間を利用してきた。その終止符が打たれるかも知れない。

 

―――――――――――復讐に囚われ過ぎていて何も分からない女――――――――――

 

ギィルの先程の言葉が彼女に響く。いつしか、弟の仇討ちが彼女の生き甲斐と化している状態だ。

だが、それが自分の人生なのか。復讐の為に生きる事が自分の人生というのも、複雑な心境と言えた。

(私は、所詮……エゴイストなのかも知れない……多くの人間を利用して……そして、今、近くにいる人間までも……)

 

―――――――――――――でもお前の事は嫌いじゃない――――――――――――――

 

その言葉も、ウィリアには響いた。“嫌いではない”という言葉に対し、ウィリアは素直に喜びを抱くことが出来ていた。

(不思議ね、多くの男に抱かれていても、結局人に対して思う事が出来る感情、私にはあるんだ。そんな気持ちなんて、とうの昔にどこかに捨てたと思ってたのに。)

 

キュッ

 

止めたシャワーの水滴が静かに零れ落ちる。水溜りに映るのは、復讐と言う感情と、愛情という感情で揺れ動く彼女の美しい顔貌。ノード・ベルンを殺す事で満たされる復讐心と、ギィル・オカザキに愛情を抱いてしてしまった悲しき女の顔が、水滴によって形を変えながら映し出していたのだった。

 

 

 

 シャワーを浴びたウィリアは、全身をタオルで拭き、髪を乾かす。その際、ギィルが彼女の側に現れた。引き締まった身体に、銃弾で撃たれた傷跡が幾つも残る。彼がスナイパーとして生きて来た証とも言える、その傷跡はある意味、象徴として残っている。

「どうしたの?」

「裸で女がうろついていて手を出さない男が居る訳ねぇだろ。それに、お前の依頼のせいで死ぬかも知れねぇんだ。」

「それは、私の台詞でもある……結局、ギィルは私のせいって言っちゃった。」

「裸で居る女相手に本心を隠さずに居れるか。」

「そうね……それが、男だもの。でも、私も女だわ……」

髪を乾かすのを中断したウィリアは、ギィルの唇を奪った。舌を絡ませていき、ヒートアップしていった両者はそのまま、ベッドの海に沈んでいくのであった。

 感情とは、人の生きる源なのだろうか。彼等の仕事への情動は、ある意味、本能から成り立っていると言っても過言ではないのだろうか。

 

 

 

その頃、オスロ付近上空を移動している新生連邦軍の艦が五隻あった。いずれもマドラ級で、小規模の艦隊と見られる。

現在この艦は前方にある一機のMSの姿を確認した。見るからに怪しげな黒い機体である事が確認できる。デスゲイズだ。メイド・ヘヴンが登場している。しかしなぜそこにいるのかが分からない。

「こちらJ-64部隊B班。前方に一機のMSの存在を確認。ライブラリ照合の結果、分かりません、未確認MSです。どうしますか、中佐。」

「ふむ……よく分からぬ奴だ。様子を見よう。迂闊に攻撃は仕掛けられない。MSを展開しておけ。他の艦にも伝えるように。」

そして五隻の艦から無数のジョゼフやエグゼマーが発進された。エグゼマーはMAの状態で、大型ビームライフルの方向をそのMSに向けている。

十分な態勢の中、士官はMSのパイロットに対して言った。

「そこのMSのパイロット。何者だ。名乗れ。」

不審に思うのも無理は無い。まず今までに見たことの無い機体である事、そして不自然に堂々と新生連邦軍の航路の前に立ち塞がっていると言う事。明らかに挑戦しているようにも見えたが、冷静な判断を下している新生連邦は様子を伺っている。そして、士官が聞いてもパイロットは反応無し。無言だった。

「答えないか。貴様が何者か分からぬ以上、こちらも強硬手段に出ざるを得なくなる。それとも素直に捕虜になるか。」

士官が述べた次の瞬間、パイロットは静かに口を開けた。

 

「てめえらが望むなら名乗ってもいいぜェ。アホ共」

 

「なんだ、いきなり喋っただと……?」

動揺を隠せない様子の士官。メイドの言葉に対して新生連邦のMSはそれぞれ所持する武器を構えた。

「そうだなぁ、強いて呼んでもらうとしたら……

地獄の使者ってところかねぇ!!!」

 

ビゴォン

 

次の瞬間、死の旋風は目覚めた。機体のモノアイか輝いた時、デスゲイズの両前腕部に備え付けられている有線式ビームサーベルが触手のように動き出し、瞬く間に六機のMSを貫いた。

「こ、攻撃しろ!叩き落とせ!」

小隊長が攻撃指令を下した。言われるままにビームライフルの雨がデスゲイズに向けられる。が、ビームは全て弾かれた。

「ビーム、マッガーレ。」

メイドの言うように、ビームライフルはデスゲイズに近付いた瞬間に別の方向へ曲がるように向かい、蒸発した。デスゲイズにはその機体全体にバリアーフィールドジェネレーターが展開されている為である。

「馬鹿な!?なんだこいつは?」

ためらう兵士。だがその瞬間にデスゲイズの前腕部にある二連装ビームキャノンに撃ち抜かれた。

更にデスゲイズは猛威を振るう。ビームサーベルはシンギュラルタイプである彼の意思通りに動き、容赦無く新生連邦のMSを攻める。

「ハハァ!」

するとデスゲイズは変形した。それと同時にバックパックの先端からビームが放出される。バリアーフィールドが搭載されていない、新生連邦のMSは次々と破壊されていった。

MAに変形しても有線式のビームサーベルが猛威を振るう。容赦の無い攻撃は次々にMSを破壊していった。

 

グォンッ

 

すると、突如再びMSに変形した。怪しげなモノアイは相変わらず輝き続けている。直後に、デスゲイズはマドラ級に攻撃を加え始めた。腹部が輝いたかと思えば、メガビームカノンが放出された。そして、それは艦を一撃で葬り去った。マドラ級はただの残骸と化し、大爆発を起こして撃墜した。

「いちィ!」

デスゲイズの存在に動揺しつつも攻める新生連邦のMS部隊。

ビーム粒子による攻撃が通用しないのならば、実弾攻撃を加えるまで。だがその肝心な実弾も、デスゲイズの堅牢な装甲の前ではほぼ、無力だった。

ジョゼフやエグゼマーの実弾兵器はあくまでも補助兵器として利用されている為、まともなダメージを与えることが出来ない。その上デスゲイズの機動性もあって、当たらないのだ。

擦れ違う際、六機が破壊された。そしてデスゲイズから放たれる無数のビームの嵐。これらによって新生連邦は甚大なダメージを受けていた。

「MS部隊60%ロスト!このままではあの機体に壊滅させられます!」

「ええい!たった一機に何を手こずるか!応戦しろ!」

遂には、戦艦からの集中砲火も浴びることになったデスゲイズ。だが相変わらずビームは弾き、実弾は避ける。

やがてデスゲイズは二隻目のマドラ級をビームサーベルで串刺しにし、破壊。有線は展開した後に本体に収納されていく。

「にィ!」

続いて三隻目を破壊しようとした矢先、ある、一機のジョゼフがビームサーベルを展開したまま迫ってきた。メイドはそれを見て微笑み、ジョゼフの頭上からビーム刃を突き刺した。串刺しの状態で、そのままジョゼフは破壊された。

「ば……化け物かッ!?」

後退しつつ、実弾兵器を撃ち続けるエグゼマーとジョゼフ。しかしデスゲイズにそれらは一切通用しない。

「オラァ!もっと本気出して見せろアホ共ォ!」

多くのMSを破壊したことで、勢い付いたメイド。その瞬間腹部から再びメガビームカノンが放出された。凄まじい破壊力で、一度に二隻の艦を貫き、破壊する。

「さァン、よォン!!」

最早、“無双”と呼ばんばかりの強さを見せるデスゲイズ。一機のMSの凄まじい力を見せ付けられて新生連邦軍は撤退を余儀なくされた。しかしデスゲイズは撤退する新生連邦軍に対して追い討ちを掛けるように有線のビーム刃を展開し、撤退するジョゼフを串刺しにした。

その直後、デスゲイズは変形し、怪鳥の姿になった瞬間。元々腹部だった部分が突き出て、そこに徐々にエネルギーが集中しているのが見えた。

「死にさらせェ!!」

次にメイドがスイッチを押した瞬間、それは放出された。

ヴァイダーガンダムのルイーナシステムと同様の原理で作られているデスゲイズ最強の兵器、デス・ランチャー。それが放出された瞬間に、前方で戦線から離脱しようとしていたマドラ級を含むMS部隊は全て消滅した。

余りに、一瞬の出来事だった。ただ青白い一筋の光が過ぎ去っていくのは肉眼でも確認は出来る。

「ごぉ。……また、つまらんものを切ったり撃ったりしてしまったぁぁ!!うひゃあああ!やっぱ戦争はこーでねぇとなァァァァァッ!!!」

たった一機で、これらを全滅させたメイド。デスゲイズは新生連邦にその力を見せつけた。

 そもそも、何故、デスゲイズがこの場所に居たのかは不明だ。まるで、彼等を壊滅させた

事を愉悦と感じているメイド。以前のシュネルギアへの襲撃も去る事ながら、この男の身勝

手な暴走行為は、次第にエスカレートしていく可能性が、高いと言えた。

 

 

 

 ウィリアとギィルが行為を終え、横たわっている。ウィリアにとって異性との性交渉はあくまでも、情報を得る為の手段に過ぎなかった。だが、それが違う形となったのはギィルと居る時が初めてだったのだ。

 それは、ギィルも同様だった。彼自身も女性相手に特別な感情は抱いていなかった。だが、ウィリアに対しては違う。特別な感情が、彼を支配していたのだ。

「貴方と“した”のは今回が初めてだけれど、激しさを感じた。求められるって感じなのかな、これが。」

「やらしい女だ。……少し気になったけどさ、お前、“印”はないのか?」

ギィルが言った、“印”。それは、ゼオンが以前組織の存在を否定する為に自らを傷つけるきっかけとなった、存在である。

「事情があってね。貴方にはあったわね。……右のお尻に。」

「氷河族の象徴らしいからな。よく分からんが、まああんまり気にはしていないけどな。」

「印……あの印が貴方に付いているのね……ん?」

 

 

ガタンッ

 

互いが行為の余韻に浸っており、尚且つウィリアがギィルの右臀部に付いている印の存在に疑問に思った時。物音が聞こえた。

彼等のように、裏社会を生きて来た人間はこうした音に敏感だ。自分達を襲う、“何か”が来るかも知れないと、最初に警戒をするのだ。

「今の音は……?」

「警戒するに、越したことはねぇな。銃を持ってドアの前に立っておけ。」

「ええ……」

ギィルの命令通りに動く、ウィリア。拳銃を持ち、ドアの横に待ち伏せするように、立つ。

 ホテルに突然の来客が来る事は、本来有り得ない。ルームサービスなどのアポイントを取っているのならば話は別だが、彼等がそうしたアポイントを取る必要はない。なら、先程の音は明らかに“異質”な存在の音だ。

「誰だと思う……?」

「俺等を追ってきた奴等か?いや、だがここがばれるとは考えにくい。」

ウィリアの仕掛けたGPSは逆探知をされても世界中の別の箇所に発信源が特定されるようになっている筈。ならば、何故ここに彼等の場所が分かったというのか。

 ギィルの言うように、彼女達は追われても仕方のない立場だ。クレーディト社の社長を暗殺しようとした事は既に、知られている。その保険を掛けたウィリアだが、もし別の方法で敵が彼女達の情報を知っていたとすれば、それは意味を成さなくなる。つまり、今の状況は危険だという事だ。

 ここは窓のないホテルの一室。外からの侵入は、防音も備わっている筈の部屋なのに、音が鳴る事自体が、おかしい。どういう事なのか。

「ギィル、その可能性は、否定した方が良いかも。」

「だろうな――」

 

ダダダダダダダ

 

銃声が響いた。彼等の予感は的中した。機関銃による強引な突破。暗殺のような隠密な殺し方ではない。明らかに、派手に殺す気でいるやり方だ。

 ノードの暗殺未遂で彼等を報復で殺そうとするのなら、もっと確実な方法があるだろう。サイレントガン等によって、静かに殺す方法だ。その方が確実である。だが何故、このように、事を荒立てるような事をするというのか。

 少しして、男が入って来た。それも、二人。彼女達を殺そうとする者達だ。間違いなく、先の暗殺未遂に対する報復だろう。

 

パァンッ

 

この瞬間、一人の男の頭部をウィリアが撃ち抜いた。突然の攻撃を受け、男は即死。頭部からは血が溢れんばかりに噴き出ており、ウィリアの足に付着した。もう一人の男はこれに驚愕し、銃を構えるが、ギィルが頸部に銃を突き付け、脅した。

「てめぇ、誰の差し金だ?」

「てめぇらが知ってるだろうが……!」

男が、言った。

「ノード・ベルンか。」

「知ってんじゃねぇか……!」

やはりノードの差し金だった。報復で、彼等は狙われたのだ。

 だが何故この場所が分かったのか。それが一番の疑問であった。

「何故ここが分かったの。」

「社長がてめぇの事を知っていたからに決まってんだろうがマヌケ!どの道てめぇらは終わりだよ。既にここはほとんどの人間が殺されてるんだ……!」

「どういう事……?」

何を言っているのかが、理解出来ない。目の前に居る男は、何を言っているのかが不明だ。

「ここのホテルが氷河族の管轄だって気付かなかったようだな……!ウィリア・ラーゲン……!」

「何ですって……!?」

男が語る、真実。それは、ここが氷河族の管轄のホテルという事だ。

 密会などで使用される事の多い建造物。そこは確かに、情報のやり取りなどにはうってつけと言える場所だ。彼女達はノード暗殺の次の一手に備える為に、安全な場所を探したつもりとなっていた。それが、甘かったのであった。

「氷河族管轄の施設で情報を筒抜けにしていること自体がマヌケって事だぜ!このアマァ!」

男が叫んだ。しかし、その時にギィルは機転を利かし、男の両足に向けて発砲したのであった。

「ぎゃあああっ!」

激痛が男を襲う。撃たれた衝撃で血が溢れる。その上で、ギィルは再び男の頸部に銃口を突き付けたのだ。

「つまり逃げ場はないって事だ。ならば話は早い。戦うしかないって事だ。お前、命は惜しくないか?」

ギィルは男を脅し始めた。その目的は、ただ、一つ。

「ウィリアの言っていた、GPSの逆探知対策が失われて、俺達はまんまと氷河族の巣に入っちまったんだ。じゃあ、原始的な情報収集を行うまでだぜ。ノード・ベルンは何処にいる?」

「知ってどうする気だぁ……いでぇ……いでぇぇぇ……」

「口を割らなきゃてめぇを殺すぞ?早くしやがれ!どの道このままじゃ出血多量で間に合わなくなって死ぬぞ!」

激痛を訴える、男。その上でノードの居場所を吐かせようとする、ギィル。最早GPSの効力が成さないものと考えていた為、直接聞くしかないと、考えていたのだ。

「ギィル、私がやるわ。多分、もっとしないと口を割らないでしょうし。」

そう言った時、ウィリアは側にあった鋏を所持した。それを使い、何をしようと言うのか。裸の美女はそのまま腰を下ろし、鋏を突き立てる――

 

グサッ

 

勢い良く、銃が撃たれた箇所に下ろされた。激痛で悶えていた男は更に痛みを訴え、叫んだ。

「ぎゃあああ――!」

男は暴れようとするが、それを更に、抑える為に鋏で刺し続けるウィリア。その度に、血液や肉片が飛び散る。躊躇いなくこのような行動が出来る彼女は、ある種、冷酷と呼べるのかも知れない。

「ねえ、教えて。ノード・ベルンは何処に居るの?」

ウィリアの目が虚ろだ。ある種の恐怖さえ感じる。どこか恐ろしい、この女を前に、男はただ、怯えるばかり。

「み、南だ……!」

「そ。ありがとう。」

 

チュッ

 

ウィリアは、男に対して接吻を交わした。激痛の中、美女にされる接吻と言うのはどのような感触なのだろうか。痛みは、この行為だけで和らぐと言えるのだろうか?

 

パァンッ

 

だが、行為の後で男は絶命した。ウィリアが自らの手で引き金を引き、殺害したのであった。情報を吐かせた上で、彼女は氷河族の構成員と思わしき人間を殺した。生かす事なく、無

慈悲に。

「セックスした後で別の男とキスをするか?お前は、どこか人間的に壊れている所があるな。」

ギィルにもこの行為に呆れられてしまっていた。殺害した事よりも、一連の行為に対しての理解が追い付いていない様子だったのだ。

「私はそうやって生きて来たの。貴方もそれを分かった上で私と一緒に居てくれているのでしょう?嫉妬したの?」

「お前みたいな女を相手にするのに真面目な感情で居られるか。けど呆れてるんだよ。その異常性に。」

「弟を殺されてから、私はとっくに異常者よ。それより逆探知対策も意味がなかった事が分かったわ。もう、ここには居られない。恐らく別の刺客がここに来るでしょうね。」

下手をすれば殺されていた、彼女達。殺されるのならば、守るしかない。それが今の彼等に出来る事。そして、進むしかない。

 幸い、口を割った男は組織に対する誇り、忠誠心は然程無い様子だった。故に、ノードの居場所を話したのだ。そこから得られた情報、ヴェストラン。そこに彼女の仇が居る事が、明らかになったという訳だ。

「行きましょう、ギィル。」

「具体的な場所の検討が付いていないのにか?」

「いえ、南部には心当たりがあるの。あくまでも、“賭け”だけれども。」

狙われているのならば、動くしかない。仇のいる場所である南の場所。そこが次なる目的地だ。このまま籠り続けていても刺客に殺されるだけ。ならば、そこに向かうしかない。

無論、虚偽の可能性も有り得るが、今は行動するしか、ないのだった。

 

 

 

 ウィリア達はホテルを脱出した。脱出する際、多くの遺体が目についた。彼等を殺害する為だけに、恐らく多くの人間達が虱潰しの如く、殺されたのだろう。やがて彼等は車に乗り込み、ホテルを後にし、南部へ向かった。

 南へ向かう途中、ギィルが運転席から聞いた。ノード・ベルンが居るとされる南部の地に、ウィリアは心当たりがあるというのだが、それは何なのかを、確認する。

「心当たりがあるっていうのはどういう事だ?」

「オスロのオークションの話、聞いた事ない?」

「聞いた事は……あるな。詳しい事は分からんが。」

首都オスロの南部に位置する場所にて行われているその闇オークション。客の中には物好きな貴族や、表向きでは有名な政治家の姿が多々見られる。一般市民が参加出来るようなオークションでは決してない。

それは、競り出される品は基本的には膨大な額の商品が多い。まず、市場では出回らないような価値のある品物が競り出される。ただ、そのオークションは極秘に行われている。貴族が主催することもたまにあるが、基本的には氷河族等の裏の組織が主催している。極秘故に、厳重な警備が施されている。入口には訓練されている組織の一員や、バンディット等がこの役をする事がある。

その歴史は、新しい。戦後になり、一般的に知られていない娯楽の形として政治家や貴族の間で楽しまれているオークションだ。主催者は、氷河族のような犯罪組織が絡んでいるのだが。

一度行われれば、法外な額が動く、そのオークション。その収益金は、氷河族の活動資金として存在している。クレーディト社や、氷河族の行っている事業である特殊麻薬の普及などに並ぶ、収益方法の一つだ。だが、それは毎日行われている訳ではない。だが、海上の存在は決まっているのだ。

「現代の娯楽の一環としてそのオークションが定期的に行われているという話を聞いたことがあるの。ノード・ベルンがクレーディト社の社長であり、氷河族と密接な関係を持っているのならば、恐らく、オークションは行われている可能性が、高い。」

「願ってもない、チャンスって訳か。」

「どの道私達は動かなければならないわ。でないと殺される。なら、せめて奴を倒すだけ。ごめんなさい、ギィル。私の為に貴方を巻き込んでしまったわね。」

ギィルは雪降る中を、静かに運転しながら言った。

「こういうのは、一心同体って言うんだろうが。別に俺は組織に忠誠を誓った訳じゃねえ。やれる仕事はするだけさ。こういう時の愛情っつーのは、武器になるな。」

「分かりやすい人ね、ギィル……」

「“人間”だからだろうな。組織の人間であれ、俺は人間だ。」

組織の人間同士の恋愛と言うのは、彼等以外にもあった。同じ所属の、ニーアとケネールがそれらに該当する。常に死と隣り合わせの環境であるが故に、互いの感情が高ぶり易いのかも知れない。

 

 

 

 オークションの会場が見えてきた。だが、その周囲は厳重な警備がされている。雪国の中で、異彩を放つその建造物は住民が見ても、違和感が凄いだろう。ウィリアの言うように、恐らくここに彼等の標的、ノード・ベルンが居る可能性は、高いと考えられた。

 だがそもそも、この会場に入る事は出来るのか。それが問題だった。厳重な警備兵達が居る状況の上、彼等は特別な許可書などを持っていない。こうした場所は会員証等が必要とされることが多い。それらを持ち合わせていないのに、どうやって中に入る?強行するのは死と同義だ。

だが憎むべき仇が見えているのに、ここで引き下がる事など、出来る筈がなかった。車の中で、彼女達は話をする。

「どうやって入る気だ?それに、あの中に“標的”が居ない事も視野に入れないと行けないぞ。あくまでもあの男が言ったのは“南”にノードが居ると言っただけに過ぎない。実際に居るかどうかは、分からないぞ。それにあの警備だ。正面突破等、無理も良い所だぞ。」

「それは分かっているわ。でも確認しなければならない。」

「どうやって?」

「……ねえ、良い考えがあるかも。」

「考え?」

ウィリアの突然の言葉に、疑問を抱くギィル。

「外見だけでは、あの中を突破するのは不可能。でもね、所詮あそこにいるのは人間……それを利用するの。」

「人間を利用する……?どういう事だ?」

何を言っているのか……と、首を傾げるギィル。

「私に任せて。少し待っていてもらえるかしら。」

そう言った後、ウィリアは車内で突然着替え始めた。

 すぐに、彼女の姿は先程までの普段着ではなく、黒地のドレス姿を纏った。外見だけの印象を見れば、どこかの貴族か、VIPの令嬢に見える。その美しい姿に、ギィルは少しばかり、見惚れてしまう。

「お前、何を考えている?」

「ちょっと……ね。」

美しい笑みを浮かべた後、ギィルと接吻を交わしたウィリアはその姿のまま、オークション会場の入口へ歩みだす。この時、ギィルは、彼女の指示に従う事しか出来なかった。

 彼女の行動自体、賭けと同義だ。だが彼女達は、行動しなければ組織に殺される身でもある。ならば、行動して、弟の仇を討つまで。ウィリアの復讐劇が、幕を開けようとしていたのだ。

 

 

 

ドレス姿のウィリアは、堂々と入口の前に現れた。彼女が移動した先には、スキンヘッドの重装した男が、銃を構えている。だが、ウィリアはそれに脅えることなく兵士に近付いていく。

「参加者の方ですか。参加状を拝見致します。」

渋い口調で男は口を開いた。だがウィリアは笑みを浮かべている。

「私はね、オークションの会場なんてどうでも良いの。それより、貴方に興味があるの……。」

「……はぁ?」

美女に〝興味がある〟と言われて戸惑いと同時に嬉しさが込み上げてくる男。男の方は笑みが絶えず、戸惑いつつも高圧的な態度を崩さない。

「何の……つもりだ……?」

「少しお話がしたいの……私、貴方に興味があるから。ね?」

男にウインクをすると、男は顔を赤めた。硬派な印象を持つ男だったが、恐らく、女性に弱いのだろう。ウィリアはそのまま男の手を握り、人気の少ない場所に男を誘導する。ドレス姿という軽装ではあるが、重武装した相手にも引けを取らず、堂々と男を翻弄するウィリア。

会場の入口から少し離れた場所で、男女がいる状況。重武装した男は顔を赤め、笑みを浮かべる。明らかに浮ついた様子だ。

それを見たウィリアは、まず、男の唇に向けて接吻を交わした。そして、そのままぐいと壁側に押し寄せるウィリア。その間重武装している男は何も出来なかった。ただウィリアの思うままに何もできない様子だった。強面の男とはいえ、美女からのテクニックには叶わないと言うのだろうか。

やがて互いの唇を離すと、男は身に纏っていた武装を脱ぎ、軽装になる。こうとなれば、男はウィリアの虜も同然だ。

「お前……何を考えている?」

「言っているでしょう?私は貴方に興味があるって。ウフフ……」

美しい笑みは男を虜にした。男はどうすれば良いか分からず、ただただウィリアに翻弄され続けた。今、この場におけるイニチアティブは彼女が握っていると、言える。

「はぁ……この女……すげえ……」

「そう……?ありがとう……」

その後に再び、熱い接吻を交わす両者。ウィリアは男との行為を躊躇いなく行っている。これも、復讐の為の行動の一環なのだろうか。

 

ジャキッ

 

接吻の最中、ウィリアは突然、手錠を取り出した。男はキスに夢中でそれに気づいていない。

やがて互いの行為が行われている最中で、男に気付かれる事のないまま、ウィリアは男の両手を手錠で縛った。

激しい接吻行為の後で、茫然としていた男だったが、両手が動けないのを確認した時、まるで目を覚ましたかのように困惑していた。その姿を見て、嘲笑うウィリア。その笑みはどこか妖艶で、色香を漂わせている。

「あ……いや……俺は……こう言うプレイは趣味じゃないんだが……でもあんたが気に入ってくれるなら……喜んで応じるよ。」

「嬉しいわ。」

その時、ウィリアは右手で男の股間部に触れる。明らかな痴女的行動であるが、男は喜んでいる様子だ。潜在的なマゾヒストなのだろうか。

しかしこの時、ウィリアは左手を差し伸べ、ポケット内から、一枚の紙を奪った。その行動に気付いた男は、すぐに反応し、声を荒げた。

「貴様!?」

「ごめんなさい、貴方に恨みはないわ。でも……このオークションを主催しているであろう、人間に対して恨みはあるの。そしその手錠、もう外れないようになってるもの。下手に暴れない事ね。さもないと、手錠自体が爆発して、腕がなくなっちゃうわ。アハハ……じゃあね。」

最後に、ウインクをして、ウィリアは去った。

彼女が用意した手錠は特殊なもので、爆弾が組み込まれている。多少の衝撃でも手錠のセンサーが反応して爆発する仕掛けになっているのだ。この罠は彼女の美貌と、その淫靡な行動と相性が良く、彼女の狙いの成功に繋がったのである。

だが、ウィリアが手に入れた紙とは何か。それを持ち、彼女は車へ戻っていく。

 

 

 

ドレスを着たウィリアがギィルの元へ戻って来ると、そこで得たものを彼に見せた。

ただの紙に見える、それを見て、疑問を抱くギィル。

「それは?」

「オークションの招待状。警備の男から奪ったわ。これがあれば、中に入る事が出来る。」

「随分と、前時代的だな。もっと、デバイスとか端末とかを利用するんじゃないのか?」

紙の正体は、招待状だった。だが、この時代に紙を使った招待状など、ギィルが言うように、明らかに古典的と言えた。

「ところが、それがそうでもないの。」

それを否定する、ウィリア。

「貴方の言うように、紙媒体は情報としては古過ぎると言っても過言ではないの。でも、こうした闇のオークション等の、あまり公にしたくない事に関しては、話は別よ。」

このオークションで並ぶ品はいずれもが市販、ネットなどで手に入るような代物ではない。裏ルートから取り寄せたものばかりが出品される。酷いものならば、生物の遺体や、人体の一部等。

 氷河族が行っている事の一部が、この闇のオークションによって出品されるのだ。無論、こうした倫理的な問題のある内容はネット等ではほぼ、確実にマークされる。それに参加する人間も同罪だ。故に、参加者は紙を配られる。それも、一見何の意味も持たない紙だ。しかし、それが招待状なのである。その内容も、至ってシンプルだ。側から見た人間がそれに気付かないようになっている。つまり、このオークションに参加する人物は、相当、限られた人間になると言う事になる。

「この紙さえあれば、中に入る事が出来る。機械仕掛けのセキュリティにしていない理由は、外部からのハッキング等の対策をしている為よ。万が一有名な貴族や政治家がこのような悪趣味なものに参加しているって発覚したら、それこそスキャンダルになり兼ねないわ。主催している組織にも悪影響を及ぼす可能性があるから。」

「成程な、“風の噂”程度の話題にするって訳か。原始的な方法にする事で。」

「これだけ情報が氾濫している時代に堂々と闇オークションを開くには、原始的な方法が手っ取り早いと言う訳ね。でも、これが私達にとっては幸運と言える……」

彼女にとってオークションはどうでも良い。その主催者であるかも知れない、標的の男を今度こそ暗殺し、弟の仇を取る事が目的だ。

「んで、俺はどうすれば良いんだ?」

ギィルは頭を掻きながら、言った。

「私が中に入って中の様子を見る。そして、標的を見つけた時……合図を送るわ。」

「待て。中の様子も知らないのに合図なんて送れるか?」

「あの建物の形状を見て。」

ウィリアは車の窓から、オークション会場を見る。そこに映る、一つの窓。これを見て、彼女は笑みを浮かべた。

「大抵、ああいった建造物の中心部が会場となっている事が多いの。もし、今回の客が貴族や政治家を相手にするならこじんまりとした部屋では非常に失礼に当たるわ。なら、大広間を用意するのが組織としても丁寧でしょう?その上で莫大な利益を上げるのだから、当然よ。」

「流石の洞察力と言うべきか。」

つまり、ギィルの配置は決まったも同然と言えた。その窓を狙い、標的が現れれば撃てば良いのだ。

「あそこが会場だとすれば、主催者は必ず現れる。その男がノード・ベルンなら、狙い撃てば復讐は果たされる……ギィル、最後まで付き合って。」

「任せろ。」

「中の様子は適宜伝えるから。」

ウィリアの懸命な願いは、男の士気を高める。いつしか互いに恋に落ちており、その関係は互いのモチベーションを高める効果を持つと、言えた。

 再び接吻を交わした後に、両者は行動を開始する。ウィリアは会場内に潜入、ギィルは、窓から狙撃出来る位置への移動だ。クレーディト社社長、ノード・ベルンへの復讐が、幕を開けた。

 

 

 

オークション内部にて。天井にシャンデリアが吊り下がっており、独特の形状をした電球が多く見られた。来賓用の椅子も柔らかく、座り心地が良い。その光景は、闇のオークションとは思えなかった。

その上で、客人は、麗しいドレスや厳かであり、勇ましい印象を受けるスーツを着用している男性や女性の姿が多く見られた。彼女の場合は、黒いハイヒールに黒いドレスと、基本的には黒一色で自分を魅せている。ピアスやネックレス等のアクセサリはダイヤモンドを宿した類の物を着用し、自らをオークションに招かれた“ゲスト”として振舞う、ウィリア。 

この、美麗な彼女の容姿を見て、声を掛ける男が多数見られたがウィリアはそれらに対して全部冷静に対応している。

「貴女はお一人ですか?よければ、私と談話しませんか?」

紳士的な振る舞いをしてはいるが、ただの軽率な声掛け行為に過ぎない。それに対してウィリアは

「ごめんなさい、私、一人の方が良いの。」

と、寂しげな女を演出した。男は素直に諦め、元居た場所へ戻る。

しかし、こうした会場で、一人で居る事は返って目立つ。と言うのも、ウィリア以外の他の人間は二人以上で行動していたのだ。だがウィリアはそれでも焦る様子もなく冷静に会場全体を見つめている。

(あの男が居ない……?いや、そのような事はない筈……)

現在、会場にいる人間の数は三十人程度。その中で、周囲を見渡すも、ノード・ベルンの姿はどこにも見当たらなかった。

まさか変装しているのか?違う。このような場所で変装する理由が無いからだ。そこで、彼女は考えた。そこで、近くにいた身なりの良い男に尋ねてみた。

「あの」

「はい」

白い髭が多く生えている、紳士的な男性だった。上品な印象を持つ、この男性。だがこのような人間が闇オークションに参加していると考えると、一概に外見だけで判断は出来ないものだ……と、考えてしまう。

「このオークションに参加される主催者の事を、何かご存知でしょうか?」

「いえ、詳細は私も伝えられておりません。」

「そうですか……。」

有益な情報は掴めなかった。しかし、間違いなくどこかにノードがいると、彼女は確信していた。オークションの開始までまだ時間があったため、身だしなみを整える為に、一度化粧室へ向かった。

 

 

 

化粧室で一人、髪を整えていると、彼女はそっと溜息を吐いた。確かに今回で憎きノードを殺すことができる。しかし、それと同時にギィルを危険な目に遭わせ兼ねないのだ。

出来る事なら、犠牲になるのは自分だけで良いと考えていた。ギィルはただ、殺してくれれば良い。後は自分の仕事。彼女は、ノードをおびき寄せるだけで良いのだ。ノードに接触する分、彼女の方が危険な状況と呼べる。ギィルの前では笑みを見せるウィリアだが、今の彼女に余裕の表情はない。

(ついに、ここまで来た……私のたった一人の弟を嵌めたあの男がここに居る……絶対に……許さない!)

ぐっと拳を作る。やがて拳銃を取り出し、弾を入れてそれを彼女の華奢な大腿部のホルスターに入れる。いつでも簡単に銃を取り出すことが出来るようにする為だ。実際に殺すのはギィルだが、万が一と言う事を考えての行動である。

不確定要素が多い中行動をするのは危険が多い。主催者が標的でなかったらという不安も、ある。しかし、その可能性は否定したい。何せ、彼女達は氷河族に襲撃をされている。その事から、敵としても彼女達を殺したいであろう。暗殺未遂であったが故に、その報復をするのは至極当然。となれば、敵の情報も割れているも当然。この場所が敵の居る場所である可能性は、十分に高い。

 ただ、残念だったのは彼女が念の為に仕掛けた筈の、逆探知行為のダミーが見破られていたという事だ。ノードに付けた筈の発信器は、役に立たないと言える。そこを見抜けていなかったウィリアは、ただ、それだけが情けないと思っていたのだった。

 

 

 

会場に戻ってきたウィリア。客の数は先程見た時と比べて増えていた。

皆が席に座り始めていたので、彼女も座ることにした。しかし美女が一人孤独でいることは、どうしても目立ってしまう。

背後で、男が彼女の話をしているのが聞こえた。さしずめ、美女が一人でオークションに参加しているのが気になった……と、言うべきか。だがウィリアの中で、気になるのはノードの存在、ただ一人である。主催者ならば、出て来い……と、言わんばかり。彼女は内心で、期待していた。

 

ガタンッ

 

照明が消えた。と同時に、一人の人物がライトアップされた。派手なノードの登場……と思われた。だが、違ったようだ。

(あの男じゃない……?)

彼女にとって、知らない人物だった。いや、まだ主催者が出る時間ではないのかも知れない。ただ、その時を待つしかない。男が祭壇上に現れた時に、ギィルが狙撃をすれば良い。

(これは序盤。恐らく何らかの時間の時に奴が現れる筈。それまでは待つしかない。)

状況が動くには時間を要しそうだ。自らが潜入し、標的の死ぬ瞬間を見届けるまで、彼女は粘る。万が一の為の銃も持っている。万全だ。恐らくは。

「ようこそ、道楽好きの皆さん!オークション会場へ!今回、司会を務めさせていただきます、マンディ・ノーランと申します。短い時間ですが、何卒、宜しくお願いします。」

客達は疑う様子もなく拍手をした。その中、一人ウィリアは拍手をしなかった。無言で無表情だったがどこか殺気が感じられる。鈍感な客達はそれに気付かず、目当ての品を得る為に準備をしていた。

 

 

 

「十番の方が上がりました!」

「更に上乗せ!」

オークションが開催された。出品されている商品は世に出せないような代物ばかり。ホルマリン漬けにされている生物の死骸という悪趣味なものや、市場に出回らないような貴金属類等。ありとあらゆる品物が出品される、闇のオークションだ。これらも、恐らく氷河族が絡んでいるのだろう。何よりも気味が悪いのは、こうした出品に対する司会者のテンションが常に高いという事である。生物の遺体や身体の一部という、一見倫理的に問題のある商品であれ、そのトーンを下げる事はない。これが気味悪く、そして参加者も皆が高揚しているという状況。側から見れば如何に異常であるかが伺える。この模様を、ウィリアは、一切手を上げることなく様子を見ていた。

(……あれは……?)

ふと、彼女は上を見た。そこには、窓があり、男が数人いる姿が見えた。遠くに見えた為に、どのような顔つきなのかは分からないのだが、一つ、確かな事が分かった。

 忌むべき敵、ノード・ベルンがそこに居たのである。つまり、彼女の予想は当たった。主催者かはさておき、少なくともオークション会場には忌むべき敵が居るという事が明らかとなったのだ。

 

 オークションは進んでいく。やがて休憩時間になった時、司会の男、マンディがある、男と話しているのが見えた。その姿を、ウィリアは見逃さなかった。

 ノード・ベルンが目の前に居る。間違いなかった。恐らく、何らかの打合せだろうか。願ってもないチャンスが、彼女の前に訪れた。ウィリアは今、眼前にいる憎き男を見て冷静を装いつつも激しい憎しみを覚えていた。

 やがて、ウィリアは静かに呟いた。

「見える?今、祭壇の端で司会の男と話をしているわ。」

『見えてるぜ。撃つか?』

「少し、我儘を言って良い?」

ウィリアの言葉にギィルは疑問を抱く。

『どういう事だ?』

「あいつには聞きたい事がある。即死しないように。でも、相手が動けなくなるように撃って。」

『オイオイ、そりゃ無いぜ。危険を承知でやってるのに。』

呆れた様子のギィル。それと当然の事だ。ウィリアの復讐劇なのに、何故即死させないのか。この場における彼女の言葉は、我儘以外の何者でもない。

「凄腕のスナイパーなら、出来るでしょう?我儘、聞いてくれたら貴方と、もっと一緒に居る時間増やしたいと思う。」

『……そう言われたら叶わねえわ。』

男という生き物は単純だ。美女に良い言葉を言われたら、断れない。それが土壇場の我儘であったとしても。それが自らを危険に追い遣る状況であると言え、美女の我儘を承諾するのだ。

やがて、雪が降る中で、ギィルは標的、ノードを暗殺用スナイパーライフルで狙撃するため、準備を始めた。片目に神経を集中させ、一人の人間を狙う。ウィリアの言うように、殺さない程度に。そして狙いを絞ったギィルの指は、引き金に近付けて、引く。

 

ピシュンッ

 

そして静かに、銃弾が放たれた。銃弾は火薬の派手な音を鳴らさず、静かに標的に向けて放たれる。それは、ノードの胸部に直撃したのだ。

「ぐああっ!?」

ノード・ベルンの激痛に悶える声が会場に聞こえた。何が起きたのかと、騒然とするこの場。

突然の出来事に皆は動揺していた。女性は叫び出し、他の客も何が起きたのか、と騒めいている。司会者の隣に居た男が、何者かに撃たれた事実は目を疑う光景だった為である。驚き騒めく観衆。その時、司会のマンディが幕を下ろすように指示をした。  

騒々しい状況の中で、ウィリアは一人、無表情だった。その上で幕が降りた状況は、彼女にとって好都合だった。血を流しているノードに対し、“聞きたい事”を聞く為に、彼女は混乱している会場の中を、一人走って舞台に上がった。

 

舞台上では次第に血が広がっていき、ノードは身動きが取れなくなっていた。しかし、辛うじて生きている。苦しそうに、撃たれた胸部分を押さえている。銃弾は心臓は外れており、その上で痛みを与えている。まさに、生かさず殺さずといった状況だ。ギィルの狙撃の腕は確かで、男に対して致命傷を与えない方法が、成功した。彼女の計画は順調に進んでいたのだ。

やがて、この男に立ちはだかるように、ウィリアが姿を現した。

「だ……誰だ……」

激しく息を漏らし、苦しみながらもそっと黒いドレスを纏った美女の姿を見る。呆然とウィリアを見た後、ウィリアは口を開けた。舞台には、ノードとウィリアの二人。司会の男、マンディはノードを助ける為に、場所を離れていた。彼女にとっては、今が絶好の機会だ。

「大丈夫?致命傷じゃないから死ぬことはないと思うけど……動けないでしょう?」

「女……?お前が……まさか……いや、しかし……見えなかった……女が撃ったようには……」

「ええ、その通り。私は撃っていない。」

血で塗れているノードを見つめるウィリアは、恐ろしくも美しく見えた。幕を下ろされ、今、舞台に居るのは二人だけ。この状況で彼女は銃を構え、ノードの頭部に銃を突き付ける。

「何の……つもりだ……?」

「私ね、貴方が許せなかった。今まで、ずっと貴方を憎んでいた。貴方は忘れているかもしれない。でも貴方に私の弟を嵌められた。そこから私は動いた。弟の仇を討つ為に、貴方に復讐する為に、この身を汚し続けた。全部貴方のせいよ。貴方が私を狂わせた。」

冷淡に語りつつも、その手は怒りに震えている。当然だ。目の前に弟を嵌め、彼女の人生そのものを歪めた男が居るのだ。許せないと思うのは当然だろう。

「な、何の事……だ……?」

「貴方は覚えていないのね。残念だな。ホントに。まあ、加害者は普通、何も覚えていないものだから。でも、ね、被害者やその家族はね、覚えているの。今、やっとそれが晴らせる。貴方を殺す為に、どれだけ人を陥れて来たか。」

そのまま見下すようにノードを見る。ノードは彼女の眼に対し、恐怖を覚えている。

「でもね、一番聞きたい事があるの。何故、弟を嵌めたのか。貴方がそれをしなければ、弟は死なずに済んだ。骨粉にならずに済んだ。苦しむ事なく、今頃はユニバーシティに通う事だって出来たかも知れない。」

「し、知らない……お前も、その、弟も知らないぞ!」

この言動が奇妙だった。今、この男は彼女が憎んでいるような男に見えない。ただの、命乞いをする情けない男にしか見えない。たった一人の肉親を嵌めるような真似をした、男の筈なのに、何故これ程情けない言動を行うのか。

「貴方、こんな状況なのに……どうして……どうしてこうもとぼけることが出来るの……?せめて、理由さえ教えてもくれないなんてね……そんな人間、存在して良い筈がない……」

ウィリアの目から、静かに涙が流れ落ちた。この男に対する憎しみと、絶望と、哀れみが一度に込み上げてきた為だ。手は震え、今にも、引き金を引きたくてうずうずしている。しかし、この男から理由を聞かなければ、納得出来ない。せめてその末路を見送りたい。彼女の中で、天秤が揺らぐ。今、この男は彼女の目の前で苦しみもがいている。

「よ、よせ……よすんだ……」

「貴方がこれ以上とぼけるのなら、もう必要はない。理由を聞けないのは残念だけれど……今度こそ……今度こそ貴方を……この手で……」

ウィリアはノードの眉間に対し、銃を突きつける。零距離の状態で、示指を引き金に絡ませ、静かに屈曲させていく――

 

パァンッ

 

銃声が会場全体に響いた。それと同時に、ノード・ベルンは昇天した。脳実質が液体の如く溢れ、その衝撃を物語る。惨たらしい光景であったが、これが彼女の仇。今、彼女の目的は果たせたのだ。

(ゲーン、仇は討てたよ……私、これで――)

 

ピシュンッ

 

「うあっ!?」

その直後だった。余韻に浸っていたウィリアを、静かな銃弾が襲った。ドレスの腋窩下部を掠れ、傷を受けた、ウィリア。

急いで、銃弾が撃たれた方向を見る。恐らく、彼女を撃ったのは暗殺用の銃であろう。ノードの部下が撃ってきたのなら、対処するしかないと、考えたウィリアは銃を構えた。

「なっ……!?」

だがそこで見た光景は、目を疑うような光景が広がっていた。嘘だ……としか、言い様がない出来事だ。

 

そこには先程目の前でとどめを刺した筈の、ノード・ベルンがそこに居たのだ。

 

「死ぬ事を覚悟してやっているんだろう。ローマで俺を殺そうとしていたものな。社長って立場は常に命を狙われる立場だから辛いものだぜ。」

「どういう事……なの……?」

訳が分からない。ノード・ベルンは殺した筈だ。なのに、なぜこの男が居るのか?幽霊?いや、そのような者がいる筈がない。ならば、何者?まさか――

「なんだ、そんなに驚いた顔をして。まあ、無理もないだろうが。同じ顔がいるんだからな。お前が憎いと思っている、その男の顔と俺の顔が!」

ノード・ベルンがもう一人居た。では、彼女が殺した人物とは何者なのか。ウィリアの動揺が止まらない。唾を飲み、体を震わせる。ただ、錯乱するばかりだ。

「俺達はさ、一卵双生児の双子なんだよ。お前が殺したその男はノード・ベルンじゃない。弟のナーダ・ベルン。そして……俺がノード・ベルンだ。」

「まさか……そんな……」

彼女が殺した男はノードではなく、弟だった。信じられない様子で、彼女は、〝本物〟のノードの方を見ていた。

「弟はな、影武者なんだ。社長の俺は簡単に殺される訳には行かないのでね。幸い、弟の存在は役に立ったというわけだ。元々俺と弟は仲が悪い。しかし金の話をすればすぐに食らいついた。そして、俺の影武者になってくれたと言う訳よ。」

同じ顔、同じ身長、同じ性格の男が居るという妙な状況。それと同時に、ローマでの違和感の正体も、理解出来た。

 ローマで向かいのホテルに居た筈の男が、何故かウィリアとギィルを先回りしているかの如く移動していたという事実。それが、彼等が双子であるのならば説明が付く。

「貴方が狙われている事は既に知っていたと言う事……?」

「そう。ローマでお前達が暗殺をしようとしていたのは既に知っていた。だから、罠を仕掛けた。それから俺を殺そうとするのは知っていたよ。ならば、返り討ちに遭わせてやろうとしたまでって事だ。ま、こういう事になると言う事を考慮した上での影武者だったから、結局は役に立ったと言うことだ。まあ、感謝しないとな。」

弟が影武者として扱われていた。肉親を簡単に扱い、尚且つそれを悔いる様子もないこの

男を、彼女が許す筈がない。

「お……前!」

ノードへの怒りが込み上げてきた時、ウィリアは男に対して銃を撃とうとした時――

 

パァンッ

 

「ぐぅぅ!」

油断をした。ノードの背後に居たスーツを着た男が、ウィリアを狙ったのだ。頬を掠れ、僅かなダメージを負った彼女。

 この状況は不利だ。逃げなければ……逃げようとするウィリア。だが、そこへ更に、その後も銃を持っている男達が続々と現れた。危機的状況に陥った彼女は、すぐに、逃げ道を探そうと状況を見る。

 舞台裏。そこへ行けば、この状況はやり過ごせるかも知れない。今は逃げる事を考えなければ。憎い男への対処法は、それからでも考えられる。

(一か八か……)

考えたその瞬間、ウィリアは素早く走り去った。男達は躊躇う事無くもなく銃を連射し、彼女を襲う。間一髪、それらを回避することが出来、舞台裏へ逃げ切ることが出来た。

「追えよ。あの女を殺せ!」

部下に命令するノード。クレーディト社の社長であるこの男は、肉親を利用し、身代わりにした上でウィリアを殺そうとしているのだ。

 

 

 

舞台裏は広く、綺麗に整理されている。物陰に身を潜めていた時、表舞台からは悲鳴が聞こえた。恐らく、ギャラリーが銃を撃たれた可能性が高い。最早、見境のない行動と言える。

(待って……これってつまり、ギィルが危ないって事じゃ……)

ふと、彼女は思った。ノードが彼女達を嵌めたというのならば、当然、外から狙撃したギィルに危険が及ぶのは当然だ。急いで連絡を取り、逃げるよう指示をしなければならないと、思った――

「しまった……!さっき撃たれた時に……」

あろう事か、ピアスに搭載していた小型の盗聴器を壊されたのだ。頬を掠った銃弾が、偶発的にもその役割を果たしたのだ。

 となれば、ギィルの無事を祈るしかない。その上で、彼女は脱出しなければならない。

だが、そこへノードの手下が迫った。物陰に隠れていたウィリアだが、見つかるのは時間の問題と言える。

「女!居るのは分かってんだよ!」

と、言いながら男は、小型の爆弾を投げた。その音に反応したウィリアは急いで物陰から離れる。

 直後に爆弾は爆発。倉庫に火が放たれた。この時に彼女の姿を見た男が二人、銃を構え、容赦なく銃弾を放った。ウィリアは軽やかに右に移動して避け、彼女も男に向けて銃を撃った。いずれも肩にダメージを与えており、男達は肩を押さえた。

「てめぇ!」

激しい銃撃戦。敵は二人。脱出口を探しながら、ウィリアは敵の足止めを考える。出来るなら殺す事が望ましいが、そうは行くだろうか。

 ウィリアは再び物陰に隠れ、一人の男の足を狙った。文字通り、足止めをする為である。

 

パァンッ

 

銃声が鳴ったと同時に、男は痛みを訴えた。これは逃げるチャンスだ。無駄な弾を撃つ事は出来ない。予備のマガジンはあるが、脱出するまでに弾が尽きれば命取りとなる。

彼女は、素早くこの場を去った。

 

 

 

少し移動し、廊下に出たウィリア。だがその直後に、彼女から見て右側の通路から、身長2メートルはあろう、スーツを着た大男が一人現れた。大男は機関銃を構えており、一目見て、危険な存在だと判断出来た。

だがこの男を無視して先には進まない。その為、ウィリアはすぐに行動に移った。大男の右肩を狙い、銃を撃つ。撃った時、男は怯む様子を見せたが、すぐに平気な顔をして彼女を見た。

「効かない!?」

驚愕するウィリア。更に足止めをしようと、今度は脚部を撃っても男は平然としてウィリアに近付いてくる。彼女にとって本意ではなかったが、心臓を狙っても、男は平然としていた。やはり、防弾の“何か”を仕込んでいるに違いないと、言えた。

 

ダダダダダダダダダダダ

 

機関銃の音が聞こえた時、ウィリアは素早く横に避ける。だが連射する射撃は彼女の腰部を掠り、これが痛みに変わっていった。

「クッ……!」

苦しむ彼女。それに対し、笑みを浮かべながら近付いて来る男。何度撃っても倒れないこの大男を倒す手立ては、今の彼女にはない。今はその場から離れる為に彼女は逃げ出した。しかし男は彼女を追い掛けて来る。その際にまるで狂喜乱舞している様子のその男に、ウィリアは恐怖を覚えていた。

「ヒャハハハハハ!どこへ逃げる!?可愛い猫ちゃんよぉ!」

血を一滴も流さず、男は追いかけて来る。それも、機関銃を持ちながら。逃げ場所を考え、彼女は走りながらやり過ごせそうな場所を探し始めた。

走っていると、幸い、倉庫らしい部屋が見えてきた。慌ててウィリアはそこへ飛び込む。無論、その姿は男に見えており、男も同様に倉庫の中へ入っていく。

 

逃げた倉庫の中は薄汚かった。白い粉を含んでいる袋が多数見られ、何かの機械らしき物体も、多数見られた。だが、今はそれを気にしている場合ではない。

ウィリアは、ふと小さな箱を見つけた。何かの機械を入れる為のものだろうか。しかし今の彼女は躊躇っている時間も惜しい。急いでその中へ入り、やり過ごそうと考えたのである。

華奢なウィリアにとって、小さな箱は身を潜めるのに丁度良いと言えた。それこら数秒後に男が入ってきても、彼女の居場所は全く分からない。これを機に隙を見つけてウィリアは脱出を試みた。

「どこにいる!?女ぁ!」

大声を出して男は威嚇する。無論反応などある筈が、ない。男が別の方向を見ている隙に、ウィリアは息を潜め、脱出の機会を図る。

(血が出てる……ここに居てはバレるのは時間の問題ね……)

撃たれた箇所から流れる血は、男が追うのに十分な証拠となり得る。それだけは、避けなければならない。ならば、すぐにでもこの場から逃げるだけ。だが、どうやって?

(勿体無いけれど、マガジンを捨てるしかないか……)

大腿部には銃を入れるホルスターを備えているウィリア。その中にある、マガジンを利用して、この場を抜けようと、考えていたのである。

 やがてウィリアはマガジンを持ち、そのまま、男のいる方向にそれを投げた。

 

カランッ

 

音が聞こえたと同時に、男は機関銃を放つ。これが、良い機会を与えてくれた。機関銃の音はウィリアの脱出を助けたのだ。すぐに倉庫から逃げるウィリア。だが、不運な事にその姿は男には見えてしまっていた。

「逃すかよ!女ァ!」

男は、ウィリアを抹殺する為に更に追跡を開始した。防弾対策をしている強敵。おそらく、脱出する為にはこの男を倒す事は、避けられないだろう。

 

逃げ続けたウィリアだったが、いつしか、先程までオークションが行われていたホールに戻ってきていた。しかしそこでウィリアが目にしたのはあまりに醜い光景だった。

「これって……そんな……」

オークションに参加していた客達が、皆殺しにされていたのだ。無残に広がる死体の山。余りに酷過ぎる光景に、改めてノードに対する怒りを感じていた。彼等は貪欲な客ではあったが、直接罪のない人間達ばかりだ。そのような人間達が、瞬く間に殺されてしまったのである。

しかしその束の間、大男が再び現れたのだ。しかもそれだけではない。他にも四人の男が銃を構えてウィリアを狙っていた。死体が置かれている会場で、男達はウィリアに向けて銃弾を発砲した。不意打ちだったのか、回避する暇もなくウィリアは肩に銃弾を浴びてしまう。

「ぐぅっ!」

右肩を撃たれたウィリア。血が流れる中、彼女は急いで男達の死角になると思われる場所へ走った。

幸い、近くに隠れられる場所があった為、そこに身を置く事が出来た。しかし肩からは多量の血が流れている。必死に押さえて少しでも痛みを抑えようとするが、無駄だった。

 状況は不利だ。武装している男と、軽装の女。ドレス姿での銃撃戦というのは、こうもハンデが大きいのか。魅惑的な衣装も、銃を持ち、殺意を持った人間相手では効力を成さない。

「あ……ああ……うっ……」

何か、血を止める事が出来るものを探さなければ。せめて、ハンカチか何か帯状のものが無いかを、探すウィリア。それも、物音を立てずに、静かに。痛みは伴うが、声を出しては男に発覚してしまう。

幸運にも、近くにあった遺体が着ていたスーツのポケットの中に、ハンカチらしき布切れが目に見えた。装飾が施されている、高価なハンカチ。平時なら使う事さえ躊躇うそれを、躊躇う事なく持ち、自分の右肩に巻いた。

物陰になる場所と言い、包帯と言い、僅かではあるが幸運続きである事が救われた。

(感謝……するべきなのかな……)

そう思っている間も傷が痛む。だが今は痛がっている場合ではない。迫ってくる敵から逃げる事が彼女の目的だ。そして、ギィルの様子も気になる。その上で、憎むべき敵であるノード・ベルンの存在も。

(ギィル、無事でいて……)

心の中で願うウィリア。しかしその直後――

 

「猫ちゃん、みぃつけたぁ!」

あろう事か、機関銃を持った大男に見つかってしまった。覗き込むようにしてウィリアを見る、その男。

 それに反応するように、他に居た四人の男達が大男の側に近寄る。物陰に隠れている状況で、男四人に囲まれてはまず、勝ち目がない。不利な状況が、続く。

 この状況を打開する方法は、目の前にいる大男をどうにかするしかない。銃には弾は残っている。ならば、この男を殺して逃げるしかない。頭さえ撃ち抜ければ、勝機はある。

(弾はまだある。あの男を倒すには頭を打ち抜けば良い……。)

そう思った直後に行動を開始した。もう、彼女は迫る敵に容赦はしなかった。

 だが、男は攻撃をする訳でもなく、ウィリアき近付き、顔に触れてきたのである。その行動に理解が追い付かない。戸惑う、ウィリア。

「こんな美人に狙われているなんてな……社長も随分モてるねぇ。」

いつでも殺せるという意図でその台詞を吐いたのかは不明だが、彼女の美貌が不利な状況を救った瞬間だった。本来ならば撃ち殺されてもおかしくない。なのに、男は攻撃をせず、ウィリアと会話をしようとしている。

 命の危機に瀕している状況で、人は生きる為に他者を殺めなければならない。戦場と呼ばれる場所なら、尚更そうだ。それはMSに乗っていても言える話だが、今の状況でも同様の事が言える。

「それは……どうもッ!」

次の瞬間、この男の愚業に対し、ウィリアは長い脚を利用し、男の顔に向けて回し蹴りを行った。痛みが伴う中での、決死の行動。一か八かと呼べる状況で、彼女は賭けに出た。

まさかの攻撃に、戸惑う男。この時、男は機関銃を落とした。これが、彼女を優位に立たせてくれたのだ。

銃を持たない大男など、ただの大きな的だ。いくら防弾対策をしていようが、頭が剥き出しならばそれは意味を成さない。殺してくれと、言っているようなものだ。用意していた銃を構え、ウィリアは至近距離で男の側頭部に向け、銃弾を撃った。その勢いは強烈で、一秒にも満たないスピードでウィリアは返り血を浴び、妙な生暖かさを感じてしまった。

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

撃たれた男は赤く染まった脳を飛び散らせ、即死。ウィリアの肩が赤く染まったが、それを不快に思う余裕はない。

男が残した機関銃はウィリアを優位に立たせる為に存在しているようにも見えた。所持していた銃をすぐに大腿部に収納し、機関銃を持ち、残りの四人の男と戦う。連射出来る分、機関銃の方が優位だ。

怪我をしているウィリアだが、強力な武器を持つ事が出来れば状況を打開できる可能性は、十分にある。会場内を走り出し、男達を翻弄する。四人の男は銃を放つが、当たらない。この時、彼女は何故か一瞬、笑みを浮かべた後、一人の男に対して機関銃を放った。その男が倒れた後、すぐに別方向から迫るもう一人の男にも機関銃を放つ。残り、二人だ。

会場の椅子が弾避けになりながらも、ウィリアはただ、ひたすらに機関銃を放つ。これによって三人目が倒れた。残りは一人だ。

最期の一人の男は発砲を続けているが、相手が一人ならば弾は簡単に当たらない。彼女の華麗なステップで、それらを回避していく。怪我をしているとは思えない、動き。傷ついていても、人は本能的に守ろうとすれば、その傷を感じない程に動く事が出来るというのだろうか。

やがて彼女は男の背後に回り込み、後頭部に向けて機関銃を放った。男は血を吹き出し、死亡した。

会場内の敵は全滅。それは良かった。だが、彼女自身も傷を受けている状態だ。ここに至るまでに銃弾によるダメージを受け続けたウィリア。体力の消耗も激しく、傷ついた腰部を抑えている。先程までの動きが出来たのは、ある意味奇跡的と言えた。

出来る事なら、立ち止まりたい。休んでいたい。傷が疼く。苦しい。しかし止まれない。ギィルの事が心配だから。今は、外に出なければ。ウィリアは、雪が降る会場の外へ出る。

 

 

 

黒地のドレスには血が染みついている。恐らく彼女自身の血と、男達から浴びた血だろう。ウィリア自身も男達から受けた返り血を浴びている状態。それでも、動く。傷跡が疼く中、呼吸を荒げ、外に出た、彼女。

外は雪が降っていた。その際、ウィリアは後ろを見た。戦場となったオークション会場を見て、妙に物悲しい気持ちになった。自分の都合で戦場と化した会場。そして、犠牲になった人々を見て、白い息を吐いていた。

「……今は……ギィルを探さなきゃ……」

だが今は気にしている場合ではない。気掛かりなのはギィルの安否。彼女は無事であることを切に願っている。

しかし自分が置かれた状況も危うい。ノードの手下達が容赦なく襲いかかってくる以上、迂闊に安易な行動など出来る筈がなかった。うすらと雪が降り積もる中、ウィリアはドレス姿のまま、移動する。

 

ビゴォン

 

その時だ。空から、ファドゥームがモノアイを輝かせ、降りて来たのだ。それらは、そのまま、オークション会場に向けてバズーカを放出した。一機だけではない、五機、居た。それらがあろうことか、一斉に射出してきたのだ。位置や距離からして、明らかに、ウィリアを狙っているのが分かる。

「MS……!?どうして……?」

流石のウィリアでも生身の人間だ。MSに勝つ事等、出来る筈がない。その巨体に翻弄され、恐怖する中、バズーカの弾は会場を直撃し、その爆風が傷ついたウィリアに迫って来たのだ。

「あああああっ!」

雪の上に放り出され、激痛を訴える。その間にも、ファドゥームは動き続けている。恐らく、ウィリアを殺す為の行動なのかも知れない。

 生身の女性を殺す為に、MSまで出すという状況。明らかに異常である上、彼女に危機が迫っている。

「こんな……まさかノードが……MSを使ってまで私を殺す気なの……?」

ノード・ベルンはクレーディト社の社長という立場だ。自身を守る為に護衛を派遣した可能性は高い。それが、この五機のファドゥームとすれば、それは非常に危うい。

恐らくファドゥームは躊躇いなく攻撃を続けるだろう。仮に周囲の町が破壊される事があっても、ウィリアを殺す為に動くだろう。だが、ここで引いていられない。ファドゥームの中を彼女は走らなければならない――

「あああっ!」

だが、ウィリアに痛みが襲い掛かった。先の爆風の衝撃は彼女の身体に大きなダメージを与えたのだ。この衝撃で、元々右肩を負傷していたウィリアは、更にダメージを負い、右肩を動かす事が出来なかったのである。

「はあ……うっ……ああっ……」

撃たれた箇所が痛む。特に右肩は、恐ろしい程に痛い。骨性のものか?それとも筋性のものか?痛みの種類は分からない。骨が折れた感触は無かった。ならば、筋肉をやられたのかも知れない。とにかく動かそうとすれば、今までに味わったことのない激痛がウィリアを襲った。

肩を抑えつつ、立とうとするウィリアだが、痛みが邪魔をして力が入らない。この場所にいれば死ぬ事は分かっているのに、それが出来ないのは余りにも無力だった。

ギィルの安否とノードの居場所……この内の一つも情報がつかめていないウィリア。今は、冷たい雪上で一人血を流し、ただ身動きが取れなくなるばかりだ。

 

ギュルルルルル

 

 ファドゥームの内の一機が突如、爆発した。この時、ウィリアは何が起こったのか理解出来なかった。肩を抑えながら、空を見上げてみれば、そこには漆黒の、大型MSの姿があった。その機体は前腕部から有線を伸ばし、ファドゥームを貫いていたのだ。

「あれは……メイドの……?」

その機体には見覚えがあった。メイド・ヘヴンのMS、デスゲイズだ。だが何故ここにメイドが居るのだろうか、全く分からない。だが、これは彼女にとって幸運だった。

メイドがファドゥームの相手をしている間に、彼女はここから離れるように立ち上がった。左腕に体重をかけ、静かに体を起き上がらせて雪の上を歩く。背後には、デスゲイズと戦うファドゥームの姿が見られた。残り、四機だ。

 

ファドゥームは有線クローを展開し、デスゲイズに襲い掛かる。だが、デスゲイズはそのような攻撃を簡単に避ける。ファドゥームよりも一回り大きいデスゲイズだったが、メイドの腕のおかげで傷一つ付いていない。巨大な的である筈なのに、一つも攻撃が当たっていないのだ。

「やべ、テンション上がって来た」

コクピットでは、メイドが一言そう呟いた。オークション会場から離れようとするウィリアの姿を見送りつつ、ファドゥームと交戦を開始する。

デスゲイズは前腕部の二連装ビームキャノンを放出した。それによりファドゥームの右腕部が破壊され、次に、触手のように動く有線式ビームサーベルでファドゥームを貫いた。この攻撃により、一度に二機のファドゥームを破壊する事が出来た。僅かな時間でこれらの機体を破壊するデスゲイズ。それは機体性能と、メイド・ヘヴンだからこそ、成せる業と言えた。

「何なんだよ!?」

ノードの手下と思われる男が、焦っている様子でデスゲイズにバズーカを撃っている。しかし動きを見切られている為、そのような攻撃など当たる筈もない。この機体に向け、メイドは二連装ビームキャノンを撃ち、破壊した。残りは一機だ。

デスゲイズは怪鳥の姿に変形し、飛び回る。これに対し、急いでクローを展開し、そこからビームを放出するファドゥーム。しかバリアーフィールドジェネレーターを搭載しているデスゲイズに、ビーム兵器は通用しない。

「てめぇの攻撃なんてッ!無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーーーーーッ!!!」

バリアーフィールドにより掻き消されるビーム。怪鳥は更に、先端や前腕部からビームを連射した。その上有線ビームサーベルを展開してファドゥームに襲い掛かる。単機だったが、その実力は圧倒的だった。

ウィリアは逃げつつも、その様子を見ていた。その中で、ふと疑問に感じたのである。

(メイド……私の方向に機体の爆風が来ないようにしてくれている……?ただの気まぐれじゃないって事……?)

痛む右肩を押さえながら気になったのは、ファドゥームの爆風が彼女の方に来ないと言うことだ。普通、無差別に機体を破壊するなら辺り一帯の被害も尋常ではない。しかしウィリアのいるエリアのみ、爆風の被害に遭っていないのだ。

メイドに心の中で感謝しつつ、静かに、彼女は歩いて行く。背後ではノードの手下の乗るファドゥームと、デスゲイズが激闘を繰り広げている。

だが、しばらく彼女が歩いていた時。前方から銃を構えた男が数人現れたのである。今、重傷を負っている彼女が、この男達を相手にするのは無理に等しい。万事休すと言うやつか。

「こんな……!」

銃を構えようにも、痛みが邪魔をする。左手を使い、慣れない様子でホルスターに手を差し伸べようとした時だ。

それを見た男達は、容赦なく発砲した。ウィリアはそれに気付き、横転し、弾丸を避ける。その時――

 

パァンッ

 

彼女は何もしていないのに、男達の内の、一人が血を流して倒れた。白い雪が血によって赤く染まっていく。何が起きたのか分からず、周りを静かに見回す、ウィリア。

やがて、一人の男の姿がそこに現れた。その男には、既視感があった。ギィルだ。生きていた。無事だったのだ。それに、怪我もしていない。

「ギィル……!」

光明が見えた瞬間だった。彼女を守ってくれる状況があるというのは、幸運だ。

(でも、どうして……ここに……?)

だが、逃げた筈のギィルがここに居るのは何故?疑問に思うウィリアだが、ギィルは彼女の言葉を無視し、他の男達を躊躇いなく撃った。冷静な様子で次々と男を殺害するギィル。発砲する隙すら与えない。

 迫って来た男達は全滅。命の危機さえあった状況で、ウィリアはギィルに救われたのだ。

「……あり……がとう……」

今のウィリアから語られる、純粋な言葉だ。心底からウィリアはギィルに感謝をした。嬉しさも、この一言から聞き取れる。

「盗聴で聞いていた。まさか、奴が双子だったとはな。想像すらしなかった。」

雪の中、会話をする二人。自身はメイドに守られ、その上ギィルにも守られている。それ以上にない、幸運。ただ、喜びを噛み締めるウィリア。

「なら、お前が発信器を付けたのはどっちになる?」

「……分からない……でも、奴の弟は何も知らないって言っていたから……」

「じゃあ、お前が付けた方が本物の“ノード・ベルン”って訳か。」

ギィルは舌打ちを打った。狙撃した筈の男は双子の弟と言う、標的違い。それは彼のプライドをも傷付けたのだ。

「それにね、ギィル……あのまま殺せたら良かったのにね……結果的にね……私のせいで……会場の人達は全滅したの。」

と、言いながら背後のオークション会場痕を見る、ウィリア。彼女なりに、それに対して罪悪感を抱いている。何せ、個人の復讐の為に、予想しなかった双子の男の殺害が失敗し、結果的にMSまでもが出現しだす状況だ。妙に感じるのも、当然と言える。

「なら改めて、その“敵討ち”をしないとな――」

 

                 パァンッ

 

ウィリアが次に見たギィルは、赤く染まっていた。

赤い液体は雪に混ざり、一人の男の心臓から溢れている。男の目は見開いたまま、声を出せないでいた。

「ギィル!!!」

ウィリアがそう言っても、手遅れだ。撃ち所が悪く、微かに息をしている程度。もう彼が助かる気配はない。

「お……お……前の……手で……奴……を……」

ギィル・オカザキは今、ウィリアの腕に抱かれて、死んだ。寂しく降る雪が、悲しみを誘う。今の彼女には自分の痛みなどなかった。死んでしまったギィルの痛みを感じるしか、出来なかったのだ。

 同じ組織に所属していながら、互いに存在を意識し、やがて恋仲に落ちた両者。全ては、ウィリアの弟、ゲーン・ラーゲンの敵討ちの為に行動した結果だった。その結果、ギィルは命を落とすという結末を迎えてしまったのだ。

 凄腕のスナイパーとして、多くの組織に雇われていた男が、こうも呆気なく死んでしまう。これが、現実なのだ。

「ギィル……ギィル……どうして……どうして貴方まで……どうして貴方が死なないといけないの……?」

ウィリアの目の前で撃ち殺されたギィル。目を疑うような光景に、ウィリアはショックを受けるしか出来ない。

やがて、涙を流す彼女は銃声がした方向を見た。涙で濡れて視界が悪かったが、段々と近付いて来る、影が見えた。やがて、そこにいた男は残忍な笑みを浮かべて、ウィリアを見る。

「ょう。」

ギィルの死体を踏み、忌むべき敵であるノード・ベルンが現れた。何の護衛もなく、一人。不用心なのが謎だが、試している可能性もあった。この男の姿が現れた時、ウィリアは真っ先に銃を、左手で構え、撃った。

 

パァンッ

 

だが、銃弾はノードの頬を掠るだけ。痛みと悲しみの余り、手が震えて狙いを定められなかったのだ。利き腕でない左手が災いを招いた瞬間と言えた。

「人……殺し……人殺しぃ!!!」

泣き叫ぶウィリア。戦場で武装した男達を殺してきた女の台詞とは、思えない。

「ギィルは……ギィルは関係なかった!私の問題なのに!なのに!」

「ああ……そうそう。あの“オークション”の事は勿論、その周りにいる人間は皆殺しだ。情報漏えいは嫌だからな。クレーディト社としても、そういうのは困るのよ。増してや、お前みたいな、氷河族に所属している身でありながら、バンディットであるお前に知られる事は、あってはいけない事な訳で。本来、お前は一番殺さなきゃいけないんだが……あえて今は殺さないでおこう。しかしあの、巧妙なスナイパーオカザキと組んで俺を殺すとはねぇ……。」

ノード・ベルンの嫌味たらしい声が聞こえる。彼を殺そうとしていた事は、既に分かっていた。故に、彼女達は嵌められた。それがまさに、オスロ市内のホテルの出来事だ。

「しかし……こんな目に遭って、なんで俺を殺そうと考えたんだ?まあ、美人に追われるのは悪い話じゃないけどなぁ。」

ノードの言葉に、ウィリアは腹を立てた。全ては弟の復讐の為。その為に、ここまで戦って来たのに、その一言で全てが無駄になってしまう気がしたからだ。

「俺を殺そうと考えた……ですって?当たり前だわ……貴方は私の弟を奪った!そんな人間を生かしておけると思っているの?弟は唯一の肉親だった……それが、貴方に嵌められた!」

憎しみを吐露するウィリア。その怒り方は、尋常ではない思いを男に向け、ただ、伝え続けるばかり。

「覚えがないな。お前のようなバンディットに恨まれる覚えも、その、お前の弟の事も。」

被害を受けた側と言うのは、加害者の事を覚え続けている。逆に、加害者は何も覚えていない。それが無自覚な物であれば、尚の事怒りを覚えるのは当然だ。

余りに冷たいと言えるノードの一言は、余計に彼女を悲しく、そして怒りに導いていく。

「氷河族と提携していた貴方は……恐らく資金を欲していたのでしょうね……だから情弱を集めて……その身柄を奪って……身体を解体して……私にあんな惨い動画を送り付けて……制裁のつもりで行ったのでしょうね……全てはあの狂った“オークション”での利益にする為に……!」

ウィリアは、忌むべき男に対して自らの考えを伝えた。弟が死ななければならなかった理由。それとオークションの関係。それに、制裁。これらが一致する事……それは。ノード・ベルンの独善だ。

「ああ……そうか、お前は五年前の秘密を知ろうとした愚か者の弟の姉か!それで、今日まで復讐を企てていたって訳か!成程なぁ!話が繋がった!」

 

パァンッ

 

その直後、ウィリアの右膝から血が流れた。ノードが、所持していた銃を撃ったのだ。憎しみが隙を生んでしまい、ノードにチャンスを与えてしまったのだ。

「あああああっ!」

叫ぶ、ウィリア。忌むべき敵に銃を撃たれる。これ程の屈辱があるだろうか。

「ご苦労だな、その為に復讐を思い付いたってワケかよ。ちなみにあれはな、誰でも良かったんだよなぁ。戦後になって一部の猟奇的な金持ちを相手にしたり、多くの事業に手を出した中の一つだったんだよ。ボスも、喜んで投資してくれてさぁ。お陰でクレーディト社は大きくなれた。ボスのお陰でもあるんだぜ?」

「ボス……」

それは、氷河族のボスの事だ。組織の人間でも極、一部にその存在が知られている存在。顔は愚か、その性別すらも不明な存在、ボス。その秘密、正体を知る事は当然ながら死を意味する。

 ノード・ベルンはボスに密接すると言っても過言でない存在だ。彼の事を知る事は、ある意味、氷河族のボスにも繋がると言えるのだ。

「それより、俺は一気に殺すのは好きじゃないんだよ。出来れば拘束して、じっくりと味見して……それから殺したいね。せっかくの美人をこのまま殺すのも惜しい。あえて足を撃ったのは迂闊な事を出来ないようにする為だ。次は腕を狙うか?」

「そんな事の為に、わざわざ生かさせるの……?最低な人……うああっ!」

口答えも許されない。痛みがウィリアを襲い、迫る。

「男だったら美女を見たらいろいろな妄想が湧くもんだ。俺だって同じ。さて、じわじわいくか。」

 

パァンッ

 

動けないウィリアに対し、今度は左肩を撃ち抜いた。あまりの痛さに、血の流れている部分を右腕で押さえるものの、肝心な右腕もダメージを受けている。両方ともダメージは大きかったが、先程撃たれた部分の方が危険だと察知し、痛みに耐えながらもその部分を反対の腕で押さえた。

「うあっ……ああ……」

「見ていて心地良いぞ。爽快だ……美女がこうやって倒れている姿はぞくぞくする。」

動けないウィリアに対して破廉恥な台詞を浴びせるノード。これが、一企業の社長なのだ。なんと、歪んでいる事であろうか。

精神的にも、肉体的にもダメージを負っているウィリアは、ただ絶望の中で喘ぎ声を上げながら耐えるしか出来なかった。

「組織の秘密は絶対なんだよ。クレーディト社の事も、氷河族の事も。戦後ここまで拡大し、今、戦争が起きて更に巨大になりつつある状況で、お前如きに殺されてたまるかって話なんだよ!俺は利用するものは利用する!例え双子の肉親の弟であろうと!俺はそうやって成り上がった!あのクソみたいな戦後からな!!」

この男の過去は、恐らくデウス動乱によって様々な経験をしている事が由来しているのだろう。それと氷河族のボスとの関係は不明だ。それを知る事もなく、ウィリアの意識は、次第に朦朧としていく。

その中で、彼女は弟のゲーンと、殺されたギィルの事を考えた。

(何も……出来ないまま……ゲーンとギィルを殺されて……目の前の仇も討てないまま……死んで行くなんて……惨めね……今までの苦労は何だったんだろう……どうしてギィルを犠牲にしてまで戦ってきたんだろう……憎んでいる男に好き勝手されるなんて……もう、こんな屈辱は他にない……)

涙が溢れた。悔しさと情けなさと、そして大切な人を失った悲しさが一つになり、彼女は泣いた。そしてこのまま、自分も身動きがとれず、ただ死を待つのみと考えると余計に悔しくなってくる。麗しい涙は雪の上に、血と共に流れ落ちた。

「言っておくけど簡単には殺さない。血まみれでもがき苦しむ美女を見るのは快感でね。いやあ、いいものを見せてくれる。やっぱりお前は最高だ。こんな美女、生涯であんたぐらいだ。変人とでも何とでも思ってくれて構わない。俺は俺のやりたい事をするまで。」

明らかに異常だった。ウィリアはこの男に対して苦しみながらも言葉を言った。

「い……や……貴方みたいな……男に……好き勝手されるのなんて……」

「へえ、そう言うんだ。お前には決定権が無いこと分かってる?うーん、今ので俺の気分は悪くなった。いっそ殺しちゃおうか。そうすれば楽になれるだろう?秘密も、知られる事は無い。」

笑っているが、明らかに怒っている様子だった。この男の恐ろしい表情を見て、ウィリアは遂に覚悟を決めた。

(ゲーン、ギィル……もう……いいよね……?私……頑張ったよね……?もう頑張らなくても良いんだよね……?悔しいな……こんか最期迎えるなんて……でも……もう……)

身動きがとれない状態で、そっと深呼吸をした。綺麗な涙が、再び頬を伝った。

その上で、静かに目を瞑った。今、自分は死を迎えようとしている。だが彼女は恐怖を感じなかった。それは、大切にしていた、弟の元へ行くことが出来る喜びから来ているのかも知れない――

 

                パァンッ、パァンッ

 

だが銃声が聞こえた時、ウィリアはどこも撃たれていなかったのだ。奇妙に感じた彼女は段々と、目を開ける。段々と雪景色が見えてきたかと思えば、眼前には銃を無くしているノードの姿があった。そして右の方を見れば、銃を構えたメイドの姿があった。

「メ……イ……ド……?」

朦朧とする意識の中、その名前を呼んだ。デスゲイズに乗って闘っていたはずのメイドが、ここにいることが不思議でならなかったのだ。

「お前……お前……誰だよ!?」

怒るノードはメイドに言った。そして、メイドは笑って答えた。

「はっはー。地獄の使者ってところかね。うげえ、やっぱこのセリフ自分で言っててなんか恥ずいし痛過ぎだなぁ。中二病丸出しなのがネック!痛い!」

「何を、ふざけてやがる……?」

「おいおい、弱ってる人間に対して銃向けてる時点でてめえの方が〝何をふざけてやがる……?〟だろォ?こっちは気分よくあのクソハサミMS狩ってたのによォ、モニターで見えたお前がウィリアを銃で撃つ姿見て気分悪くなっちまった。ま、クソハサミ野郎共は全滅させたけど。」

メイドが助けに来てくれたのかも知れない……と、ウィリアは思った。朦朧とする意識の中で、彼女はこの二人のやり取りを見ていた。肩を押さえ、メイドの方を見る。

「大の男が一人の女に何やってるんだよ。アホ丸出し。勘弁してくれよ。俺そういう……ピンチの女を助ける……なんつーかドラマのヒーローみたいな立場好きじゃねえっつーの。ひつまぶし……ちゃうわ、暇潰しで来てんのにさ。俺をそんなキャラクターに仕立て上げてんじゃねーよクズがよ。」

「……生憎だが、この女は秘密を知ろうとした。そして、お前もこの場に居るという事は、秘密に直面しようとしている!それはあってはならない!当然ながら、こんな素晴らしい女であろうと、死んでもらわないとダメだろう?」

ノードの表情に曇りが見え始めた。先程までの狂気的に明るい表情は見られない。額からは少量の汗を流し、苦笑いを浮かべてメイドを睨む。

「そもそも……地獄の使者とやら。お前はこの女の何だ?何の関係がある?」

メイドは歯を出して笑いだす。

「ははぁ?んなもんどーでもいいだろうが!」

傷ついたウィリアに、それを追い詰めようとしていたノード。そこへ加わった奇妙なテンションのメイド。彼は空気が読めていない。この場にいる目的が謎なのである。何故わざわざこの場所へ現れる必要があったのかも不明。だが傷ついているウィリアにはメイドは頼もしい存在に見えた。

この絶体絶命の状況を打開したこの男は、次にどのような行動を起こすのか……ウィリアは歪んだ意識の中、考えた。何故彼がここにいるのかを聞きたかったが、ギィルが死んだ時には悲しみのあまり感じなかった激痛が彼女を襲い、言葉を話すこともままならない。

「じゃあどういった経緯でここに来た?まさか何の目的もなしで来た訳じゃないだろう?」

「悪ぃな。俺は空気を読まねえ人間なんだぁ!」

メイドの言葉に対し、ノードは明らかに躊躇う。彼の言葉自体は不真面目だが、表情は固い。

「な、何をふざけている……?」

「別にィ。俺はな、楽しむために来てるんだ。狩りをね。でも見苦しい光景があったから、それを阻止しにきたって訳だよ!一狩り行こうぜ!」

 

パァンッ

 

銃声が響いた。その直後にノードは腕を押さえた。メイドが撃ったのだ。その音は一回に留まらなかった。三回は聞こえた。その時にはノードはウィリアと同様、動けない状態になっていた。

「てめえさっきまで健康だったのにねぇ。こんだけでもう不健康。あんさ、人間ってのは一瞬で不健康になれるんだよ。所詮アホ丸出しのゴミ屑なんだよ。だから一度は兄者と滅ぼしたくもなったんだよ。けどゴキブリ並に湧いてくるしうんざりして飽きたからもう何もしてねー訳でしてさァ。いいゾ~コレ」

デウス動乱時代、兄と共にデウスの傭兵をしていた時に、人類に絶望した兄がメイドに言った言葉を、今、彼は発している。人類を憎んでいた兄と、それをただ、信じた弟。今の彼はそのような事など関心はないが、そこに兄へのリスペクトが、ある意味見受けられる。

「おま……え……!!!」

「まあ、俺は俺のやりたい事をしてるだけ!けどなぁ、一つお前を殺したい理由が実はあるんだよ。よくもオカザキを殺しやがったなてめえ!」

怒号と同時に、再び銃声が。今度はノードの腹部を直撃し、そこから多量の血を流した。おびただしい量の血液が流れ、見るに堪えない光景になっていた。

「俺はな、てめえがいくら人を殺そうが、いくら秘密を知ったから殺そうが俺の知ったことじゃねー。でもな、やっぱりオカザキは殺されるとさすがにショッッキングなんだよ。お前を殺したい動機の一つがそれ。でも、俺はあえててめーをすぐに殺さねぇんだわ。」

すると、メイドは自らの銃をウィリアに持たせたのである。痛みがある中、左手に銃を手渡しする、メイド。

「後はお前がやれやウィリア。詳しい事情は知らんけど話聞いてる限りじゃあ、このアホが仇なんだろ?今討てや。パニッシャーとしての手伝い、やってやんぜぇ。」

「メ……イド……」

せめてもの彼の気遣いなのだろう。憎き仇の事情を知っているから成せる、メイドの思いやりだ。ウィリアは心底感謝をし、激痛をこらえながら銃を構えようとした。しかし激痛は彼女を容赦なく襲う。

「ぐぅっ……!」

それを見て、メイドはそっと手をのばして持ってやった。ノードを狙いやすいように、ゆっくりと。

「おっほっほ~……珍しいシチュエーションだよな。殺す手伝いしてるんだぜ!?すげえじゃないかぁ!」

「……ありがとう……私もこれで……残酷になれる……」

狙いは完璧と言えた。メイドが支えてくれるので外す心配はまずない。震える指で、ゆっくりと引き金を引いていく。今彼女が狙っているのは、動けないノードの眉間だ。

「よせ……!やめろ……!俺を殺すな……!」

「さよう……なら……」

 

パァンッ

 

ウィリアの長い指を伝い、引き金は引かれた。ノードは眉間から血を放出し、そのまま死んだ。だがウィリアも引き金を引いた瞬間に完全に意識を失ってしまった。その場で無傷なのは、メイドだけだった。

(ゲーン……ギィル……もう……私……悔いはないよ……)

引き金を引いた時、彼女が思っていた言葉である。この男の為に犠牲になった二人。そして、多くの人々。彼女はその人々の仇を討つことが出来た嬉しさで満ちていた。その為か、動けなくなったウィリアは少し嬉しそうな表情をしている。

「あ~あ。俺らしくね~な。鬱な気分にさせやがってよォ……珍しいんだぜ?俺が兄者以外に気分が鬱になれるのって……さァ。あーあ、鬱設定は嫌いなんだよ。そーいうのは漫画だけにしとけって。鬱な展開の漫画やアニメは大抵、ヒットしてるから鬱は需要はあるけど現実ではなんかだりぃから困る。」

言葉はどこか剽軽ではあるのだが、その時の彼は、少し物悲しい表情を浮かべていた。やがて、ゆっくりと雪の上を歩き、デスゲイズの元へ戻っていく。

普段、メイドは人が死のうと無関心な表情を浮かべている。寧ろ人殺しを誇りに思えているぐらいに危険な人間だ。だが彼はウィリアが倒れた時の彼の表情は明らかに悲しげだった。それは、彼女がメイドにとって許せた人間であったからなのかも、知れない。

「死んでんじゃねぇよ。糞が。」

メイドは一言そう言った。命尽きたと思われたウィリア。今、雪の上で彼女はぴくりとも動いていない状態だ。

 この時、メイドは自らが羽織っていたジャケットをウィリアに着せた。分厚いジャケットは雪の上で動かない彼女を優しく覆う。彼なりの配慮なのだろうか。

「なんか鬱だわほんま。寒っ」

一切身動きが取れなくなったウィリアを見て、メイドは静かにその場を去り、デスゲイズに向かっていった。

 

 

 

 ノード・ベルンが死亡した情報はすぐに氷河族のボスの耳に入った。とある部屋の一室にて、暗い部屋でモニターを前に座っている一人の人間が居た。その男こそが、ボス。クレーディト社の社長と密接な関係を持っていたこの人物は、ノードの死を聞き、ただ、溜息を吐いていた。

「貪欲の果ての死という訳か。まあ、良いだろう。それよりも、これで私への秘密が大きく知られる危険性が増したという訳だな……氷河族の秘密。それを知られる事は、あってはならない。世界が安寧に満ちた時の為にも、その“制裁”は受けて貰うぞ、連帯責任としてな……」

この人間の言う、“制裁”とは何か。何を思い、その言葉を発するのだろうか。

 やがてその人物は、一人の人間に連絡を入れた。静かに口を開き、語る、その人物。

「仕事だ。裏切り者が出た。組織の人間へ“制裁”を加えろ。一部組織のリーダーであり、“パニッシャー”のお前ならば安い仕事だ。」

と、言った後、相手の人間は

『OK、ボス。その仕事、引き受けましょ。』

と、言った。

 やがて連絡は途切れ、その人物は、暗い部屋の中で一人、呟いた。

「秘密を知りたがる人間と言うのは、困りものだな。だから信用出来ない。けれども信用しなければならない人間も居る。面倒臭いな、人間というのは……」

人物は天井を仰ぎ、そっと溜息を吐いた。

 




第六十二話、投了。
所謂スパイものである銃撃戦とかを中心に描いています。今回はMSは脇役。メインからは外れますが、こんな話もありますって事で。
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