第六十三話 オスロのミシェ
レイはリルムと、自身の部屋で会話をしている。彼の隣の部屋がリルムの部屋だった為、すぐに会いに行けるのだ。セイントバードはオスロに向かっている最中、恋人同士となっていた彼等は同じ部屋で、会話をしている。
一通りメンバーに彼女の事を紹介したレイ。皆がリルムの事を快く受け入れてくれた事は、レイにとっても、リルムにとっても幸運と言えたのだ。
「改めて思うけど、レイって本当にこんな環境で頑張っていたんだね……MS……だっけ。あのロボットに乗って、戦ってたなんて信じられない。」
「ただ、必死だったんだ。でも、ここの人達が助けてくれた。だから、自分に出来る事をしなきゃって思って。」
「でも、それって人を殺してるって事なんだよね……」
どきんと、した。それは事実ではある。だがリルムにそう言われると、どこか複雑だ。
無論、意図的ではない。彼自身人殺しを楽しんでいる訳ではない。攻めてくる敵がいるから、守る。ただ、それだけなのだ。
「私ね、さっきまでいてた戦艦で友達が出来たんだよ。確か、国連の兵隊さんって言ってたっけ。」
アステル家に保護されていたリルムから語られる言葉に驚愕する、レイ。
「そんな人が居たんだ……」
「でもその人は襲って来るロボットを倒して喜んでたの。なんだか、それが信じられなくて。それって人を殺したって事なのに、なんで喜んでるんだろうって思って。」
平和な環境で生きて来たからこそ、その価値観が分からない。当然と言えば当然だ。
レイにとって、これに対して肯定は出来ない。だからと言って、否定してしまえば自分の今までの必死だった戦いはどうなるというのか。ごく普通の、平穏な環境で育ってきた筈の両者。だがそれは、MSという存在が大きく変えてしまったのだ。
ツヴァイという新たな機体で、これまでレイは様々な戦場を戦い抜いてきた。機体性能はもちろん、彼の天才とも言える技量が支えになっていた。それでセイントバードは愚か、先のヒパック村でも貢献が出来た。感謝をされているのも事実。
「リルム、聞いて欲しい事があるんだ。」
「え?」
もう、隠し事はしたくないと思った。既に自分の事を故郷で話している以上、リルムに隠し事はしない。堂々と、言うべきだと思った。
「僕は守る為に、人殺しをせざるを得ないと思ってる。だって、動かなきゃやられちゃうから。僕は攻める戦いなんてしたくない。それが我儘って言われたって、構わないと思う。」
ヒパック村で、村長のメナスに言われた言葉を思い出したレイ。我儘な戦い方と言われ、その際はショックを受けた。だが、彼は必死に村を守った。守る為の戦いは、功を成したと言える。
「それって、正当防衛ってやつなのかな……」
リルムが、そっと呟いた。
「リルムが受け入れられないって気持ちになるのは分かる。僕だって、最初は怖かった……ガンダムに乗った時に人を殺してしまった時……元気でなかったから……」
最初、アインスガンダムに乗った時の事を振り返るレイ。その際に彼は迫る敵を、ビームサーベルで倒した。中に居たパイロットは当然ながら死亡している。その際は、自らを守る為に戦った。それがきっかけで、彼は学校を休んだ事もあった。精神的なショックは、計り知れないのだ。
「去年だったよね?確か……そうだ、レイが落ち込んでた時、あったなぁ。」
それを言われ、リルムは思い出したように言った。落ち込んでいた彼を励まそうと、モークと三人でカラオケにいった時。あの時、レイは励まされたのだ。
「あれからだったんだね……全然知らなかった……レイがこんな風にロボットに乗って戦ってたなんて。」
「必死になってただけだよ。うん、ただ、必死になってた――」
ゴゥンッ
その時、セイントバードが揺れた。気流の流れに翻弄されているのだろうか。それに伴い、両者は姿勢を大きく崩し、そのままベッドに横たわるような形を取ってしまったのだ。
「れ、レイ……?」
その構図は、まるでレイがリルムを押し倒しているように見える構図だ。それを見て、驚愕してしまうリルム。そして、レイは自らを恥じた。
「ご、ごめん!僕……!」
すぐに姿勢を戻すレイ。目の前にあったリルムの顔を見て、恥じらいを感じてしまったのだ。恋人同士である筈の両者なのだが、やはりどこか、幼馴染という関係性から脱する事が出来ていない印象を持つ。寧ろ、共に居る時間が長すぎたが故にその先に進展が出来ていないと、言うのだろうか。
「い、いいよ……そ、それよりレイ。」
「ん?」
リルムは、少し、考える素振りを見せた。
「その……私、ここに居させてもらって何か手伝えることってないのかな?みんな優しいし、せめて恩返しとかしたいと思ってるの。」
突然のリルムの言葉にレイは戸惑った。彼に言われても、解決出来ない話である為である。
「うーん、それは分からないよ。今は大人しくしていた方がいいかも。この艦には非戦闘員だって何人かいるから、大丈夫だよ。」
「そうなんだ……うーん。」
そうは言うが、彼女はどうしても何かを手伝いたい様子だった。しかしレイには決定権などある筈もなく、ただこのように言うしか出来ない。
ウィィィィン
その時、入り口のドアが開いた。そこにはエリィの姿があった。何度も見慣れた光景ではあるが、今回違うのは、部屋にリルムが居るという事である。
「あら、二人共。今からご飯の時間で、呼びに来ようと思ったんだけど……ウフフ、お邪魔だったかなぁ?」
まるで小馬鹿にするような台詞を吐くエリィに対し、レイは言った。
「そ、そんな事ないですよ!リルム、行こう!食堂でご飯を食べよう!」
「あ……えと……あ、ありがとうございます!」
リルムはエリィに礼を述べ、二人はそのまま部屋を出る。レイが連れて来た幼馴染であり、恋人の少女、リルム。レイとリルムが並ぶその姿は、どこか微笑ましく、その上でエリィは見守っていたのだった。
セイントバードの食堂は至って広い。食事をする際には怪我をしていない時以外は常にここで彼等は食事をとる。パイロットはもちろん、砲撃手や整備士もここに一斉に集まるため、広い食堂も狭く感じられてしまう。
プレーンがこの艦にクルーとして来るまではエリィは一人で皆の食事を作っていた。しかし今ではプレーンやエレンが手伝ってくれているのでエリィの負担は大きく減った。だが、プレーンの場合はこれもガーストが言ったから行っているだけであり、彼が何も言わなければ恐らく何もしなかっただろうとされる。
だがレイはここに来て、奇妙な光景を見てしまう事になる。と言うのも、何故かプレーンがチャイナドレスを着用していたからだ。色気のあるチャイナドレス姿のプレーンは、男達を魅了していく。
「ニーハオ!今日は中華ネ!私得意中の得意ヨ!」
口調も去ることながら、彼女は本当の中華系の人物に見えた。しかし、彼女の出身地は不明なのである。コロニー生まれなのかも分からない。その上プレーン自身は、昔の記憶が無いので彼女も自分の出身地が分からないのだ。
「うわぁ……プレーンさん……」
妖艶とも言えるその姿にレイは思わず見とれてしまう。普段はガーストに、まるで接着剤でも付いているのかと言える程に密着していて内心快く思っていなかったが、今のプレーンは特別だった。今回の食事には麻婆豆腐や餃子等の料理の姿が見られる。これらは全て彼女の手作りなのだ。
エリィは今回、食事には関与していない。しかしこれを食べるには長い行列を並ぶ必要があった。というのも、セイントバードの食事はセルフサービスであるためである。十分程度並び、ようやくレイの番になった。その時、列を並ばないで側にいたプレーンはレイに話しかけてきた。
「レイ!調子どうネ?今、幸せカ?」
ガーストからリルムの事を聞いていたプレーンが、言った。
「えと……まあ……。それより風邪はもう平気なんですか?」
「もう、治ったヨ!ガーストの看病のお陰ネー!!」
と、笑顔で料理を振る舞うプレーン。
「それよりもレイは幸せネー!私と一緒!一生大事にして結婚するネ!」
「け、結婚……!?」
リルムとレイは互いに苦笑いを浮かべている。“結婚”と言う言葉を言われても、実感が湧かない。
それからレイの順番が回ってきた。腹が減っていたレイは、いつも以上に食事の量を多くした。
その後、ガーストの順番になった。その時、突然プレーンが現れてガーストの食器に麻婆豆腐を山盛りに入れ、溢れんばかりの餃子を乗せ始めた。
「ガーストにはサービスネ!」
「おい!セルフサービスだから俺が入れるんだよ!それにこの量、何だよ!他の人も食べるんだから考えろ!」
「えぇ……たくさん食べてもらいたかったのに……だから私わざわざガーストの為に入れたネ!」
「こんなに俺は食べないよ!でも……プレーンのご飯は本当に美味いからな。」
「わぁ!ガースト好き!」
そう言ってガーストに抱擁するプレーン。その光景を見て様々な感情を抱く、パイロットや、整備士の数は知れない。周りの目を気にするガースト。だが、それでも彼女はガーストにぞっこんである。周囲の視線が、刺さる様に彼等を見ている。
「あらあら、相変わらず仲が良いわね。」
食堂の端ではエリィが密かに笑っていた。隣にはネルソンの姿もあった。
「ああいうカップルの存在は必要だ。若さを感じる。若々しい事は良い事だからな。殺伐としている世界情勢を見ていても、あのようなカップルを見ればどこか、落ち着く。」
恋人同士と言うのはいつの時代においても重要だ。それが実ればやがては配偶者となり、子孫を生む。それが繰り返される事で、人は時代を築いていく為である。
「あらら、大尉はもう、年なんですか?そんな年輩の方のような台詞を吐くなんて。」
「何を。私はまだ若いと思いたい。しかし、彼等ほど若くはない。しかし……個人的には、レイは恋愛をするには若過ぎると思うのだが。あの少女がレイのガールフレンドと知った時は驚いたよ。」
何故か恋愛について語り出したネルソン。やがてレイの恋愛についても突っ込みを入れ始めたのだ。
「恋愛は自由ですよ?年齢なんて関係ありません。歳の差だってあって良いと思いますし。レイ君が“誰か”と付き合っていても良いと思いますけど。」
エリィ自身がレイに対して抱いていた感情を込めて言った。
「まあ……そうなのだが……」
「何か、ありますか?」
「……いや、気にしないでくれ。いかん、私はどうも少年少女の恋愛を拒む癖があるようだ。ガーストのような青年なら責任が持てるが、どうもレイのような少年では……ティーンエイジャーの恋愛は本当の愛を知らないような気がするのだ。」
長々と語るネルソンに、エリィは言った。
「でも、少年少女は彼等なりに、ぎこちないながらも愛の表現はしていると思いますよ?ジュニアハイスクールの恋愛が成就して、結婚に至ったって話もよく聞きますけどね。ガースト君がプレーンさんに出会ったのもレイ君と同じ年でしたよ。」
「何、そうなのか!?」
と、食べていた餃子を思わず口から零してしまい、慌てた様子で皿に餃子を置き、タオルで口元を拭く。
「その様子ですと、少年期に恋をしたことが無いみたいですねー。」
「……どうやら、私に恋愛は語る資格はなさそうだな。」
彼等が話している間に、ガースト達の抱擁は終わっていた。その間に食堂にいた何十人もの整備士やパイロットは、様々な感情を抱いた事だろう。その中に、スバキや、ゼオンやエレンの姿もあった。ゼオンはこの二人の仲の良さに対し、どこか不快感を抱いている様子だった。
「何だよあいつ、頭おかしいんじゃないの?」
「ゼオン!そう言う事言うものじゃないの!」
「だってよ!あいつの部屋から夜になったらなんかエロい声が聞こえてくるんだよ!お前等やらしい事してんだろ!青少年の悪影響になる事しやがって!」
「ゼオン!お前な!そういう事を公然の前で言うもんじゃないって!」
「じゃあいつも夜何やってんだよ!」
「それは……こんな所で言えるか!」
ガーストとゼオンの台詞。この様子から、ゼオンはセイントバードのメンバーに馴染んできているのが分かる。氷河族と言う組織から逃げて来た彼だったが、比較にならない程に、良い環境であると、言える。
今の時間は、明らかに温和と言えた。こうして皆で食事が出来ることも、戦争が起きている現在では幸せの外にならない。
やがて全員が食事を終えた後、リルムは一人廊下を出ようとするエリィの元を尋ねた。何かを聞きたがっているのだろうか、エリィはそれを察して優しそうに聞く。
「あら、どうしたのかな?リルムさん。」
「あの……私、ただで食事とかさせてもらって……何もしないなんて申し訳がないと思いまして。あの、何か手伝えることありませんか?」
恩返しがしたい……リルムの考えはそれだけだった。しかしエリィは笑みを浮かべて言った。
「大丈夫。リルムさんは部屋でゆっくりすればいいよ。心配は御無用!まあ、強いて言えば砲撃手とか……いや、違うな。そうだね、料理を作ったり洗ったりしてくれる人が欲しいぐらいだけど……問題ないでしょ!うん、心配なんてしなくていいよ!」
「そうですか……」
何かを手伝って少しでも恩返しがしたいと思っていた彼女だったので、その言葉は非常に残念に聞こえた。少し声を低くして一言お礼を述べた後、廊下に出た。その直後――
「れいー!」
眼前でレイが、メナンに抱き付かれている姿を見た。それを見てリルムはじっと、幼女を見ている。
「おお、レイのかのじょのねえちゃんよろしくな!ねーちゃん名前なんてーの?」
独特の喋り方をするメナンに思わずリルムは笑ってしまった。首を傾げるメナン。それに対し、リルムは一旦咳払いをして笑いを押さえ、自己紹介をした。
「えっと、私はリルム・エリアス!貴方は、メナンちゃん……だっけ?」
確認する、リルム。メナンはこれに対し、答えた。
「おぉ!リルムか!えーなまえだ!メナンのなまえか?メナンだ!そのまんまだ!!」
リルムにはこれが非常に面白かったらしく、どっと笑ってしまった。ますます首を傾げるメナンに対し、レイは笑いながら言ってあげた。
「フフッ……メナンが面白いから、リルムお姉さんが笑うんだよ。」
「そーなんか!リルムはおもしろいから笑うんか!しょーらいメナンはげいにんやな!」
どっと大笑いし、メナンは満面の笑みを浮かべた。いつの間にかセイントバードのクルーとなっていたメナンだったが、現在のこの艦のムードメーカーとしては、必要な存在なのかも知れないと思うレイだった。
時間が経過し、もうすぐ、セイントバードはオスロに辿り着いたとしていた頃。部屋でくつろいでいたレイは一人、ベッドの上で天井を眺めていた。
思えば不思議なものだ。故郷で共に過ごしていた筈のリルムがこの場に居るという事が、信じられない。それも、彼自身の行動が招いた結果だとでもいうのだろうか。不思議な感覚ではある。
(結果的に、僕はリルムを巻き込んでしまってるんだなぁ……スバキの言うように、僕は人を呼び寄せる何かがあるのかも知れないような……)
シュネルギアからセイントバードに戻った時、スバキに言われた言葉を思い出した、レイ。
――――――――レイ、お前人を引き寄せる“何か”を持ってるよな―――――――――
「多分、偶然だと思う」
何気なく、レイは呟いた――
ウィィィィィン
その時、ドアが開いた。誰かと思い、その方向を見るレイ。すると、そこには大勢の人間が居た。皆が、ぞろぞろと部屋に入ってくるのだ。
レイの部屋に入って来た人間達……それは、リルム、エレン、ゼオン、メナン、スバキの五人だった。
「うわっ!?なんでみんなが……?」
何故ここに彼等が入って来たのかは謎だ。共通するのは、皆がレイを介してチームのメンバーになった人間達ばかりである。この偶然とも言える出来事に、レイは驚愕していた。
皆が集まる事自体、珍しい事であった。けれども、それぞれが一体何の為にレイの部屋を訪れたのかが分からない。そこでレイは最初に、エレンに質問を問い掛けた。
「あの、エレンさんはどうしてここに?あとゼオンも。」
エレンがその質問に答えようとするが、代わりにゼオンが答えた。
「俺が、用があるんだよ。姉ちゃんは付いてきただけ。別に来なくてもいいのにさ……あのさ、俺らの部屋のシャワールームが潰れててさ、だからレイのところ貸して欲しいと思ったんだけどさ。」
「あ、それなら全然使ってくれていいよ。でもエレンさんはどうして?」
「この子の事だから、レイに迷惑をかけるんじゃないかと思って……。」
「そ、そうなんだ……」
わざわざ弟を心配する姉を見て、姉弟(きょうだい)愛を感じるレイだが、極端な気さえもした。シャワーぐらいはゼオン一人が来て、仮に迷惑をかけたとしても問題はないと思われるのだが、それでもエレンはゼオンの事が心配なようだ。
「スバキはどうしてここに?」
疑問の矛先がスバキに移った。突然言われたことで動揺するスバキだったが、躊躇いつつも口を開けた。この時、何故か視線が泳いでいる様子だった。
「ちょ、ちょっとさ、き、気になったことがあったんだよ。実はさ、私、お前が故郷にいる間にアインスに乗ってたんだけど、あの機体の水中仕様ってビームライフルがないよな。あれ、なんでなんだ?ビームを付けた方が強いに決まってるのに。」
ふとした疑問だった。この様子から、スバキは彼のいない半年間、多くの戦場を経験している事になる。だが、肝心な事を理解していない様子だったのだ。
スバキは戦闘のフィールドを、陸地か空中しか殆ど経験しておらず、水中戦等、実戦では皆無に等しい。故に、ビーム粒子の事が理解出来ていない様子だったのだ。
「僕からも質問だけど、水中ではビーム兵器が殆ど効力を成さないっていうのは知ってる?」
「えっ!?そうなのか?」
意外そうな表情を浮かべるスバキ。どうやら、ビーム粒子の理論等に関しては詳しくない様子だった。この様子から、彼女は水中での戦闘を多く経験していない事が分かる。それは、レイも同じではあるが。
「うん。実はそうなんだ。水中では、ビームライフルみたいに、ビーム粒子を放出するような兵器は全く役に立たないって言われてる。水の低温によってビームが蒸発してしまうから。だから、水中でアインスを用いる時は、腕部にアクアグレネードを装備してる。そうする事で、地上や空中で言う、ビームライフルの代わりになるからね。」
「アクアグレネードって実弾だよな?実弾なのに、ビームライフルの代わり?よく分からないな……」
首を傾げるスバキに対し、レイは更に答える。
「ビームライフルは早い話、MSにおいて一番使われる主な武器でしょ?その代役が、実弾兵器なんだよ。」
「でもさ、ビームサーベルってあるだろ?あれは何で使えるんだよ?」
「それはね、エネルギーの基部になってる部分から直接放出される粒子だからだよ。ビームサーベルは粒子そのものを固定に変化させていて、その熱の集合体なんだよ。でも、サーベルラック等のジェネレーター直結した上でのビーム粒子を展開しているから、水中で減衰はあれど高エネルギー装置として利用する事が――」
武装に関して詳しいレイ。ジュニアハイスクールで、ビーム粒子物理学の授業で周囲を驚かせただけの事はある。しかし――
(レイ、まるで科学者みたい……)
側に居たリルムがレイの説明を聞き、驚愕していた。幼馴染がこれ程詳細に武装に説明している姿を見て、喜ぶ半面、どこか、複雑な様子だったのだ。
「な、何となくだけど理解出来た気がするよ!あ、ありがとう……」
それは本当なのかは分からないが、とにかく、スバキは理解出来たようだ。それを見て、一安心する様子のレイ。だが、この時スバキはどこか視線が泳いでいる。それが、少しばかり気になったのだ。
「えっと、後はメナンだよね?」
武装の事について説明した後で、最後に、メナンに部屋に来た理由を尋ねた。その答えは単純明快で、メナンらしいと言えた。
「れいにあいたかったんだ!な、そうだろ!な!?ちがうか?」
ただ、レイに会いたかっただけのメナン。彼は溜息をついてメナンに言った。
「ぼ、僕も会えて嬉しいよ!」
満面の笑みを浮かべ、メナンを抱き、抱えるレイ。それをされ、喜ぶメナン。
この時、メナンはリルムの方向を見た。じっと彼女の目を見つめ、目を、パチパチとさせている。
「りるむねえちゃんはしゅねるぎあ……?よーわからんけどそこにおっただろ!」
「え……?」
自分が居た場所を、当てられた。何も喋っていないのに、何故?
「凄い……この子、何か透視能力みたいなもの持ってるのかな?だって、レイとその……付き合ってるって事も言ってないのに言われたし。」
恥じらいながら皆の前で恋人宣言をするリルム。それは普通ならば何気ないやり取りの一つではあるのだが、一人、それを聞いて表情を変える人物が、居た。
スバキである。先程レイと話した時より、明らかに困惑しているのが分かった。誰も見てはいないが、唇を震わせ、視線が下方を向いているのが分かった。
「うん……どうして、メナンはこんな力を持っているんだろうかって思うんだよ。」
と、言った時、スバキが言った。
「あれだよ!ほら!メナンもシンギュラルタイプなんだろ!レイと私がそうであるように!やっぱり力を持つって不思議だよな!なんか、特別な感じがしてさ!アハハ……」
まるで誇張するかのようにスバキは声を出して言った。メナンの不思議な力を総称して、“シンギュラルタイプ”と発言するスバキ。
それは自分とレイが同じような人種である事を強調したいが故の発言なのだろう。力を持つ者同士だからこそ、感じ取れるセンシティヴな感覚。それは、他者に入る事の出来ない会話。それを、独占したいという彼女のエゴがこの言葉から出てくるのだ。
「シンギュラルタイプ?レイ、それって、何?」
リルムにとっては聞き覚えのない言葉だ。それを言われ、彼自身も困惑する
「そんなの、分からないよ……僕だって自覚のない事だから……」
無理もない。初めて戦場に出た時に脳内が活性するような感触に包まれたレイは、幾度となく、その力によって窮地を脱して来た。その中で多くの、同様の力を持つ人間に出会ってきた。今この艦内で同様の力を感じるのは、エリィとスバキ、ガーストの三人。メナンは幼過ぎるが故に、その感覚が同様の物であるのかは不明だが、恐らくその可能性は高いだろう。
「ごめん、正直に言うとね、僕はこんな力なんてなくても良いと思ってる。スバキはどう思ってるかは知らないけど、本当に必要な力なのかなって。確かに、何度か助けられたりしたけれど、そもそもこの状況自体が普通じゃないし……」
レイの本心は、あくまでも“普通でいたい”と言う事だ。別に特別な力など求めていない。生きる為に必死に戦った結果、身に付いた力だ。
不思議な感覚であり、自身を助けた力。しかしそれを悪用する者も居たのもまた、事実。レイの経験上ではマサアキがそれに該当する。そして、スバキもマサアキの被害者だった。
世界規模で見れば、強化モデル等がそれに該当する。人間を強化し、人工的にシンギュラルタイプと同等か、それ以上の力を身に付けるという非倫理的な行為。それをしてまでも、人は力を得たいというのだろうか。それは、レイの意思とは相反している。
ガッ
その時だ。スバキはレイの胸倉を掴み始めたのである。余りに突然の出来事に、驚愕する、レイ。
「お前、今はパイロットやってるんだろうが!それで力を要らないなんて事抜かしやがって!私はどうなる!?私だってこんな力、最初は要らないって思ってた!でもお前が居てくれたから変わったんだぞ!セイントバードのメンバーとしてやって行けてるのはお前が力を持っているお陰でもあるんだぞ!なのに、その言い方はどうなんだよ!?」
「スバキ……?」
怒るスバキ。自身に備わっている力を利用される事に絶望していた彼女は、レイを通して変わった。レイ自身も力を持つ存在であるが故に、分かり合える人間だと、思っていた為である。
その立腹は多くの感情が渦巻いた結果生じたものだ。シンギュラルタイプという、特異な人間であると言う事、レイが同様の人間であるにも関わらず、それを否定するような事を言った事。そして、レイへの思慕。
「……クソっ!」
その行為をしてしまい、我に返ったのか、すぐにレイの胸倉から手を離した。自分でも、何をやっているのだろうと思うスバキ。
この状況を一番理解出来なかったのはリルムだ。そもそも力を持っている人間という言葉が何なのかが不明であり、レイがそれに該当するという事も、理解が追い付かない。この二人の会話や、怒りの理由が不明だ。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
その時、艦内に警報が鳴った。敵が現れたのかと思い、スバキとレイは表情を曇らせる。しかしその次に、インクの声が響いた。降下準備を知らせるものだったのだ。
「間も無く降下フェイズに移行!各員はショックに備えて下さい!」
それを聞き、胸を撫で降ろす。この時、レイは静かに、言った。
「皆、それぞれの部屋に居た方が良いかも……なんか、ごめん……スバキ。」
「私こそ……どうかしてたと思う……じゃあ、な。」
頭に血が上り、レイを怒ってしまったスバキはそのまま部屋を去る。次に、ゼオンとエレンが。最後に、リルムが。この時、リルムはメナンを連れようとしていた。
「多分、この子は一緒の方が良いのかなって。ごめんね、レイ。」
先程の複雑な状況を配慮した上での行動だろう。幸い、メナンはリルムを嫌がる事はしなかった。そのまま、手を繋ぎ、部屋を後にする彼等。
それから数分後、セイントバードはオスロの地に着陸したのであった。
オスロ。北欧、ノルウェーの首都に該当する都市。その近郊に、彼等は着陸した。ネルソンの知人である、ミシェという人物がいるとされるこの地。
時期は十二月という事もあり、雪が降っている。都市部のビルと、雪が幻想的な光景を作り出しているこの地に降りた目的。それは、セイントバードの戦力強化である。今後の世界情勢を見越し、ネルソンが提案したものだ。
この地に着いた時、早速メナンの事をヒパック村に居る家族に伝えなければならなかった。だがそれを任されたのは、あろう事か、レイだったのである。
「こういうのって、普通はエリィさんとかがやるものじゃないんですか?」
セイントバードの艦長がエリィなら、それを行うのは当然だ。だがエリィは言った。
「前にジェルヴァチームと交流した時にね、なんていうのかなぁ。凄く、レイ君あの人達と仲良さそうにしているのを見たの。だったら、レイ君が連絡をした方が良いのかなって思ったの。多分、安心してくれるんじゃないかな。」
「そうでしょうか……?」
疑問を抱くレイだったが今は早くメナンの安否を伝えなければならない。下手をすればこれは誘拐行為に思われても反論できない事である為である。
ピピピピピピピピピピッ
その時だ。レイのEフォンに着信があった。誰かと思い、画面を見ると、そこにはシャルアの文字が浮き出ていた。まさに、連絡を取ろうとしたタイミングでの、出来事と言えた。
「はい、もしもし?」
電話越しに聞こえてきたのは、聞き覚えのある女の声だった。
『やっほー、奴隷!久し振り!元気してる?』
(久し振りじゃないような気が……)
相変わらず、レイの事を奴隷呼ばわりするシャルア。これに対し、思わず溜息を吐いてしまうレイだったが、その声が彼女には聞こえていた。
『あんた、何溜息吐いてんの?せっかく美人が電話掛けてあげたのにそれはないんじゃないの!?』
どうすればこれ程自分の事を褒めることが出来るのか、レイはある意味彼女を尊敬した。レイが出会ってきた女性の中で、ここまで自分を褒める人間は見た事が無かったのである。
だが、エリィも自分に自信がある事を口零す事はある。だが、シャルア程ではない。
『……まあいいわ。あのね、メナンそっちに居るでしょ?元気にしてる?』
肝心な話題を持ち出してきたシャルア。だが、彼女は余り焦っている様子を見せていないようだ。その様子に違和感を覚える、レイ。
「ええ、確かにセイントバードに居ますけど……あの、驚かないんですか?急に妹さんが居なくなって、心配とかじゃないんですか?」
ここでレイは疑問を口にした。何故シャルアが心配そうにしないのか。
『ああ、無事なら心配ないわよ。変な連中に誘拐された訳じゃないからね。セイントバードなら大丈夫でしょ。』
確かに、誘拐した訳ではないのだが、六歳の妹が側に居ない状況を見て、心配にならないのだろうかと思う、レイ。
「え、でもそれってどうなんですか?メナン、近くに居ますし、モニターモードにして見ます?」
『じゃあそうするぅ。』
Eフォンは回線さえ安定していれば、音声だけでなく、モニターとして開く事が可能だ。レイの提案もあり、モニターモードにしてEフォンを開く。
「おー!おねえちゃん!げんきか?」
モニターを覗き込む、メナン。
『それ、あたしの台詞なんだけど……ま、無事は確認出来た訳ね。いなくなった時は一瞬、びっくりしたけど。』
互いの姿を確認し、安心している様子のシャルア。声だけでなく、姿が分かる事は、人を安心させる効果がある。
『けどさ、メナンね、相当あんたに惚れたみたいなのよ。あんたさ、もしロリコンだったら今の彼女捨ててメナンと付き合ってあげたら?』
モニター越しで、冗談交じりでレイをからかう。だがこの台詞に対し、顔を赤め、本気に捉えてしまったレイはうっかり
「僕はロリコンじゃありません!リルムを手放す気はありませんからね!」
と、真面目に答えてしまった。シャルアはモニター越しで指を指し、大笑いをする。
『アハハハハ!何マジに捉えてんのよ!受けるわーアハハハハ……!』
相変わらずレイを小馬鹿にする様子のシャルアを見て、レイは頬を膨らませる。
『てかさ、あんたってホント、もてるよね。』
「え、な、何を言っているんですか……?」
突如、話を持ちかけてきた。まるで、レイと話したいと言わんばかりの言葉だ。
『いや、あんたの艦ってさ……まず面倒見の良い、艦長の綺麗なお姉さんがいるでしょ、メナンもあんたのこと好きだし。あんたはリルムって女の子を彼女にしてるし……その上ジェルヴァの女クルーもあんたのことやたら可愛いって言ってたよ。実際、クリアとニアも関心あるっぽいし。あんたの人気どんだけー……みたいな!?!?』
「僕は……別に格好良くもないですし、ただMSに乗れるだけですし……何の取り柄もないですよ。」
『そんな事、無いと思うな。』
急に表情を変えたシャルア。どこか優しく、それでいて愛らしく見える。彼女のペースに、飲まれていく、レイ。これも、彼女の演技なのか。それは、分からない。
『そもそもあんた、顔が女みたいだし、その……弄られキャラみたいだし、可愛いし。その上でMSに乗って戦えるなんて。そりゃ、モテるわよ。あんたみたいな、マンガに出てきそうな綺麗で可愛い顔なんて、世の中探しても滅多に見られないわよ。その美貌、親に感謝しないと駄目よ!ま、容姿以外にもあるんだけどね。何だろうな、言葉じゃ言い表せない“魅力”があるんだろうなー。』
褒めていたり、所々小馬鹿にしているような言葉が出てくる。彼女の言う、“魅力”について不思議に思うレイ。だが彼自身が思う、〝自分の魅力〟とは何だろうか。何も知らないレイは、そのような事を言われても戸惑うだけだった。
「あの、僕の魅力って……?」
それを聞く、レイだが、シャルアは答えようとしない。
『何真面目に気にしてんのよ!早い話が、女運がいいってことでしょ?いいじゃない、それって得よ!うーん、でも同性からは批判を浴びる可能性があるわね。モてる男ってさ、同性から妬まれ易いからさ。モてる人はモてる人で悩むものなのよねぇ。例に上げれば、私とかさ。あ、私は女だけどね!けどよく言い寄られたりしたなぁー』
「は、はあ……そうですか……。」
シャルアの言いたい事が、よく分からない。結局はメナンの安否を伺ったのだろうが、何故かレイをやたら褒める内容になっている。
その様子を気になっていたエリィは、そっと、モニターを覗き込むように見た。
「あの、シャルア・ジェインさん?」
『は、はい!?』
エリィの姿を見て、急に表情を一変させたシャルア。レイと会話していた時とは違い、表情を固めている。
「艦長のエリィですー。どうもー。あの、ごめんなさいね、メナンちゃん、どうしましょう?ヒパック村に向かいたい気持ちはあるんですけど、ちょっと色々と、時間が掛かっちゃうかも知れないの。」
オスロに着いたセイントバード。今、そこから戦力増強の為に準備をしなければならない。故に、ヒパック村に戻るとすれば時間が掛かるのだ。
『そ、それなら、大丈夫です!そちらの事情優先で!お母さんにも言っておきますから!じゃ、じゃあ!レイ、メナンを宜しくー!』
そう言って、シャルアから連絡が切れた。何故これ程慌てる様子を見せるのかは不明だが、メナンはセイントバードで引き続き保護する形となった。然程心配していない様子に違和感はあれど、メナンの事に関しては了承して貰えたようだった。
「レイ君、本当にモテモテなんだね。でも、その方が希少価値があるって言うか……」
何気ない言葉を言うエリィ。それに、反応するレイ。
「今、何か言いました!?」
「ううん、何でもないよ。フフ!」
結局、シャルアからの電話は何が目的だったのかは不明だ。まるで、レイと話をしたいかのような振舞い。メナンを保護する事は決まったとはいえ、レイの心境は、どこか、複雑だったのである。
セイントバードはオスロ近郊にあるジャンク屋に停泊していた。そこからメンバーは艦から降りて、ジャンク屋の中へ入っていく。
そこには、様々な部品やMSの残骸等、武装等が置かれていた。その中には、デウス軍で使用されていたと思われるMSの姿もあった。その中で、ネルソンはある、一人の人物と出会う。
「随分久しぶりだなネルソン。もう四年になるか。全然見なかったが、元気そうで何よりだな。」
ネルソンの目の前に現れたのは、目つきが鋭く、渋い声を持つ格好の良い印象を持つ、高身長の男だった。格好良いと言っても、アイドルグループ等のような爽やかな印象の若者ではなく、独特の渋さを醸し出している中年の男だ。しかし顔つきは凛々しく、そして、ネルソンよりも年上の印象に見えた。
「本当ですね、ハルッグを貴方から受け取って早、四年ですか。」
「にしても、まだハルッグを使ってくれていたとはな。お前は、MSは大切に使う方か?」
「まあ……そうなりますね。その上で戦争状態になってしまった、この世界情勢の中でも生き延びる事が出来るなんて、運が良いと、思っていますよ。」
ネルソンが言った後、エリィが男を見て、挨拶をした。
「お元気でしたか?ミシェさん。本当にお久しぶりですね!」
男の名前は、エリィの言うようにミシェと言った。ミシェ・ジンバルド。整備士の男。この様子から、エリィ達とは旧知の仲と言える。
「あぁ、この通り、元気だ。それにしても……エリィ、お前、随分性格が明るくなった気がするな。」
「え!?そ、そうですか?」
「四年前とは比べ物にならない。いや、別人かと思ったぞ。」
この四年の間に、エリィの性格が変わったと思われる台詞が出てきた。彼女の変貌は、アレンやガーストも驚いていたのをレイは覚えている。その間に何があったのだろうかと、レイは一人、考え事始めた。
「性格変化も不思議な事だが……やっぱり相変わらず凄いと思うのは、ここのクルーだ。わざわざ連邦のヒエラクス級を奪って、それを母艦にしているんだ。並のMS乗りがするようなことじゃないぞ。俺はそれに感心した。そんな大胆な事が出来る程に立派になるとは、大した奴だ。」
クルーの数は、それまでのエリィとネルソンの成長を表しているのだろう。ミシェは渋い声でエリィをやたらと褒めた。
「いえ……そんな……これも皆のおかげですよ。私はただ艦の指揮をしているだけですし。」
「あくまで自分達がここまでチームを大きくしたとは言わないか。なかなか堂々としないな。性格が明るくなったのだから少しぐらい堂々とすればどうだ?」
「いえ、本当の話ですよ?」
笑いながらエリィは喋っていた。このようなエリィの姿も、恐らく四年前では見られなかったのだろう。
四年前と言えば、レイはエレメンタルスクールに通い、ごく普通のスクールライフを送っていた。その一方でエリィ達は、既にMS乗りとして活動していたのだ。世界は常に動いているのだと、レイは内心、感じていた。
「まあ、せっかく来てくれたんだ。ゆっくりしていってくれよ。なぁに、そんなに急ぐ必要はないだろう。」
ミシェは堂々とした振る舞いをする。このように、ジャンク屋がセイントバードと知人関係である事は彼等にとっては非常に有り難い。
ホルステブロの過ちで、迂闊なジャンク屋に入る事は危険である事が判明した以上、やはり信用できる場所に居る事は非常に大切である事を痛感しているチーム。故に、ミシェの存在は彼等にとって大きな存在と、言えた。
「そうですね。適度に休憩をして貰いながら作業も進めて行きます。うちは軍じゃないですし、準備をしっかり進めていきたいと思います。一度クルーを集めて、皆に確認していきます。」
ジャンク屋に寄った事で、まずはこれからのスケジュールの確認をしなければならない。
その後、エリィはクルーの招集を行った。その際に、言葉を発した。
「えーっと、皆さん。お疲れ様でした。本艦はここで暫くの戦力増強の為に補給や武装強化を行って行きます。その間、各員は交代で作業を行って下さい!勿論、非戦闘員の人達にもお仕事はありますから!では、解散!」
エリィが指示を出した後、各々が、各自、自由行動を行った。オスロの観光に行く者や、作業をする者等、それぞれが、様々な行動を取る。パイロット達はMSの整備に携わっている。非戦闘員であるエレンやゼオン、リルムはエリィに確認し、オスロの町まで買い物に行く事を決めた。それが、彼女にとって少しでも役に立つ事だと、感じていたのだ。
その中で、レイその場にぽつんと残っていた。何せ、今彼の愛機であるツヴァイの姿がない。作業が出来ない状態だ。
「ああ、レイ君。そっか、MSはジャンヌさんの所に預かって貰ってるもんね。そうだ、せっかくなんだしここのMSでも見せてもらったらどうかな?」
「え、良いんですか?」
レイは、少しばかり嬉しそうな顔をした。それもその筈。彼は元々MSオタクと呼べる程にMS好きな少年である。
この時、その様子が気になったのか、ミシェはエリィに突然聞いた。
「 MSに興味のある女の子とは、珍しいな。まあ、一定数女性の整備士も居るから、それは別に不思議な事ではないが……」
それはレイを意味していた。無論、レイは男である。よって、彼のいつもの反論が始まった。
「あの、僕は男ですよ!ああ、どうしていつも女の子に間違えられるんだろう……。」
「あらあら。レイ君は典型的な女顔の男の子だから無理もないわね。」
優しいエリィの言葉だったが、レイは複雑な表情を浮かべていた。
「そうかそうか。失礼だったな。男の子か。名前は?」
ミシェに聞かれ、レイは言った。
「レイ・キレスと言います。MSパイロットとして、ここでお世話になっています。」
レイの言葉を聞き、耳を疑う様子を見せたミシェ。
「パイロット……?こんなガキ……いや、子供が……?歳は?」
「えっと、十五歳です。」
その瞬間、ミシェは考え事をし始めた。目の前に居る少年が、MSパイロット……つまり、少なくとも死線を潜って来たという事だ。
確かにMSは兵器だ。ミシェ達ジャンク屋は、その、兵器の残骸等を売ったりして生活している。金さえ払えば、MS乗りの戦艦修理も行う。勿論、MSの修理も金さえ払えば行う。
それをレイのようなあどけない少年が扱っていると言う事実が信じられない様子だった。
「デウス動乱時に英雄って呼ばれていた、当時十五歳の少年兵が戦い抜いたと言う話は聞いたことがあるけどな。俺はそんなガキが戦争を勝ち残ることなどデマだと自分に言い聞かせてきた。まさか、本当に十五歳MSを扱うとは……だが、それは実際に見てみないと信用できない話だな。」
アレンの事だ。それは事実であるが、ミシェはそれを信じていない。
「え、そんな……」
ミシェに驚かれた時は若干優越感に浸っていたレイ。しかしそれを否定されて落ち込んでしまった。メナスの時もそうだが、やはりレイは信用されないような顔つきをしているのだろうか。少女のような顔立ちであるレイからすれば、所見でMSに乗り、戦うことが出来るという事は疑われやすいのだろうか。
「まあ、万が一の緊急時にはMSで戦っている姿を見せてくれ。それが本当なら、アレン・レインドとやらも信じることにしよう。戦争の兵器を子供が扱うなど、全く信じられない話だけどな……」
ミシェがそう呟くと、側に居た、ネルソンが突然喋り出した。
「ミシェさん、お言葉ですが彼の活躍は幾度も見てきました。彼の実力は、本物ですよ。天才と言っても過言ではない。」
「へぇ、ネルソン。お前がそう言うのか。」
ネルソンの言葉を聞き、目を見開かせたミシェ。一人の人間の言葉では信じられないと言われようとも、第三者の言葉があれば信憑性は大きく増す。
「幾度も彼には助けられました。今、彼の乗機はセイントバードにはありませんが、彼はガンダムに乗って戦ってきました。」
「へぇ。それは。」
と、やや、関心を抱く様子を見せるミシェ。この時、ネルソンはポケットに入っていた煙草を吸い、それを咥えながら、持っていた箱の中から一本の煙草を取り出し、ミシェに渡した。
やがて、ミシェもネルソンと同様、煙草を吸い始めた。その姿は、ミシェの独特の渋さもあってか、似合っているように、見えた。
男同士が煙草を吸い、語っている姿はどこか、“大人”を連想させる。レイはこの姿に、どこか格好良さを感じていた。
「ミシェさん、実際に少年兵と言うのは存在していますよ。例えMSに乗っていなくとも、武装勢力の先兵として幼い少年少女が銃を持ってゲリラ行動を行って、敵を攻撃するといった光景も珍しいものではないんです。多くの世界を見てきましたけど、実際にあどけない少年少女がMSに乗って戦う姿は事実の一つなんです。」
ある意味、それは人間の可能性の一つなのか。バイク屋車の運転が年齢制限されているとはいえ、実際、それを覚えれば、理論上、誰でも取り扱う事は可能なのだ。ただし、事故の補償は出来ない。
レイがプチモビルスーツ大会に参加したのも、特別な年齢枠がなかった為だ。それには、新生連邦の思惑も関係しているのだが。
「俺の石頭もアップグレードしないと行けないって訳だな。ネルソンに言われて、考えないと行けないって思ったよ。」
ミシェは煙草を吐き、白い煙を放った。
「それより、お前が言っていた、ハルッグの強化はいつ行う?」
ここで、話題が戻る。今回オスロへ来た目的はセイントバードチームの戦力強化だ。その中の一つに、ハルッグの改修がある。ネルソンは思い出したように、側にあった空き缶の中に吸い殻を入れ、言った。
「セイントバードの中にありますよ。移動させます。」
「了解だ。それは良いがどのように改造するんだ?お前の機体だからな、迂闊な改造は出来ない。」
「お任せしますよ、ミシェさん。ハルッグを思う存分、改造して下さい。」
愛機を任せるというあたり、ミシェに対して余程の信頼があると、見える。
「人任せか。まあ、最近退屈してたところだから大丈夫だ。まあ、任せておけ。」
ハルッグが初めてレイの前に姿を現したのは、レイがチェーニ姉妹と戦って敗北した瞬間だった。突然現れたMA形態のハルッグはアインスガンダムを奪っていき、以後、ネルソンと共に出撃するようになった。ロングビームライフルを持つ上、可変機構を兼ね備えている強力なMSであるハルッグは、今回どのように生まれ変わるのであろうか。
それからミシェ達はハルッグの改修の為に、セイントバードから機体を運び出す作業を始めた。ネルソンの愛機の改造に時間は要するだろう。だが、これは確実なチームの戦力増強に一役買うと言えた。
この時、レイは側に居たエリィに対し、疑問を投げかけた。
「あの、エリィさん。」
「ん、どうしたのかな?」
レイは疑問に感じていたことを打ち明ける。
「ミシェさんとはどういう関係なんですか?ネルソンさんとも交流ある感じでしたし、昔から知ってる感じっていうか……」
レイはこのチームの事を多くは知らない。今回ミシェと話をしていた時、ふと、それが気になったのであった。
「あの人はね、私がMS乗りとして戦わせてくれるきっかけを与えてくれた人なの。」
この時、ミシェが、偉大な人物だという事をレイは知った。これはエリィの性格変化と何か関係があるかも知れないと、少し考えていた。
「きっかけですか……?」
「いわゆる、今のセイントバードチーム結成の原点ね。あの人がいなかったら今のセイントバードチームは存在していなかったかな。私が戦うきっかけ=セイントバードチームの結成だから!」
この話に、レイは魅かれた。エリィを艦長とする、今のこのチームが成り立った理由を彼は知りたかったのだ。そして思わず彼は口にした。
「あの、エリィさん。良かったらで良いんです。セイントバードチームって、どうやって結成したんですか。」
別に自分にとって何か有利になる話でも何でもない。ただの起源の話だ。だがレイは何かの過去というものに関心を持つ趣向がある。エリィの過去やネルソンの過去に関しても興味を示していた。そして今回もセイントバードチーム結成のきっかけを聞こうとしていたのだ。いつもならすんなりと応じるエリィだったが、今回は様子が違っていた。
「……ごめんね、ちょっと、言えない……かな。」
「え……?」
まさかの返答にレイは唖然とする。自分の過去の話は出来るのに、何故セイントバードチーム結成の理由を話さないのか、理解が出来なかった。
「それはどうしてですか?」
「……だって、話が長過ぎるもの!そんなに長い話をしたら、朝になっちゃうよ?ちょっとオーバーだけど。」
取り繕うエリィ。だがレイは感付いていた。エリィは何かを隠しているという事を。セイントバードチーム結成の理由が何故語られないのか……レイは疑問を感じていた。
「そうですか……。」
とはいうが、本人が語りたくないと言っている内容について無理に問うのも悪いと思い、あえて手を引いた。明らかに、取り繕った笑みを浮かべているエリィが、どこか物悲しく見える。
「それよりさ、外に出てみる?そう言えば全然レイ君とデートしてなかったなぁ~。」
ぐいと顔を近付けてレイを見るエリィ。レイは少しばかり驚いたが、その言葉を真に捉えてしまって、
「僕にはリルムがいますから……で、デートは……」
それが冗談だという事が通じなかったレイ。その言葉はエリィに笑いを誘った。
「あはははっ!もう、まさか私の事一人の女として見てくれてたの?今の私達は、お姉さんとその弟って事で!」
エリィの言葉はどこか、重く聞こえる。やはり、ロンドンでの告白が大きく影響しているのだろうか。
―――――――――――――私はね、君のコトが好きだったんだよ――――――――――
あの時の言葉が、エリィとレイの関係を断ち切る関係になったのならば、それは良い事なのか、悪い事なのかは不明ではあるが、彼女の中では踏ん切りがついている事なのだろうか。
「ま、いいや!どうする?少し、お出掛けしますか?雪も止んでるみたいだし!」
「い、行きます?」
リルムと交際しているレイにとっては、どこか複雑な状況だ。だが彼女が言うように、“姉と弟”という立場で居るのならば問題なくいられるだろうと、言い聞かせる。とは言え、奇妙な気持ちでいたレイは、そっと溜息を吐かずにいられなかった。
「うん、行こうよ!あー、レイ君と歩くのって何ヶ月振りかなあ?」
「は、はあ……」
外は、辺り一面が白く染まっており、幻想的な雪景色が続いていた。雪が降り積もる中を歩くというのは、不思議な感覚だ。
「うぅー、雪だねぇ。やっぱり、寒いなぁ。」
歩き続ける中で、エリィが何気なく、言った。
エリィと共に歩くレイ。だが今でもレイは複雑な心境にあった。まさか、一度告白されている人間とこのように、二人だけで歩く事になるとは思いもしなかった為だ。増して、今、レイには恋人がいる状況。どこか、気まずい。気まずいというか、何故この状況になっているのかが分からない。
(やっぱり、引き返そうかな……?でもエリィさんに申し訳が無いしなあ。)
レイは様々な事を考えつつも、徐々にジャンク屋からその身を離していく。気が付けば、既に振り向いてもジャンク屋の姿が見えなかった。知らない間に結構な距離を移動していたことに気付き、レイは驚いた。
「結構、歩いちゃったね。ねえ、もし吹雪が強くなって、遭難とかしちゃったら、どうしようか?レイ君と二人きりで、雪の中……フフ、どうなるんだろう?」
ここでも何気なくエリィが言葉を発する。挑発するような、彼女の言葉。
「そ、遭難なんて!そんなの!」
「フフ、やっぱりレイ君はその反応が可愛らしいな。やっぱり、レイ君は私が頂いちゃえば良かったのかなぁ……」
あの時、自身の想いの全てを吐き出す勢いで告白をし、彼との別れを告げるような言い方をしておきながら、そのような言葉を発するエリィ。やはり彼女は意地の悪い女だ。悩んでいる彼を誘惑する、“悪い大人”と言える。
「エリィさん、やっぱり最低です……」
「あら。私は最低な大人ですよ?フフ……」
戸惑うレイを弄ぶかのように、エリィがそっと顔を近付ける。自らを“悪い大人”と称してレイに近付く、エリィ。しかしその時――
「うわぅっ!」
後ろに下がった時、レイは何かに引っ掛かり、そのまま転んでしまった。尻餅を付き、痛みを訴えるレイ。
「えっ!?大丈夫?」
「は、はい……」
すぐに立ち上がり、ついた雪を手で払う。だが、この時彼は奇妙に感じていた。何故今になって、雪で躓くのか?レイは疑問に感じた為、引っ掛かった場所を見てみる。だがそれを見た瞬間、レイの顔は青ざめた。
「えっ……?これって……」
無理もなかった。何せ、そこにあったのはスーツを着ていた人間の足だったからだ。更に見ていくと、腹部から血を流しているのが見える。そして最後に顔が見えた。紛れもなく、人間の死体だ。
「遭難……?いや、それは違う?着ている服が正装だわ……しても血を流すなんて……」
エリィもこの光景には目を疑った。しかも、この死体はこれだけに留まらなかった。辺りを見れば、この死体以外にも多くの死体が放置されていたのだ。
「一体……何が……?」
倒れている死体は、いずれも黒いスーツを着ていた。パーティ会場などで使用される服装だ。何故スーツ姿でこの場所に死んでいるのか、彼等にとっては不可解で仕方がない。
その上更に彼等は目を疑う光景を目撃した。前方を見れば、そこにあったのはMSの残骸だった。MS、ファドゥームの残骸である。
「MS乗り同士の交戦があったのかな?でも、この人たちは黒いスーツを着ているなんて奇妙だし何だろう。」
「そうですね……一体何があったんだろう?」
武装勢力か、犯罪組織か。いずれにしても、MSの存在が奇妙だ。ただの抗争にMSが出動する理由が分からない。
奇妙な光景を目の当たりにしているレイ達だったが、ふと、レイは足元を見た。すると、そこにはジャケットで覆われている一つの物体が見えた。誰かの落とし物かと思い、レイはそれを持ち上げる――
「うわあ!?」
思わず、感嘆の声を上げるレイ。無理もなかった。そこには、ドレス姿の女性が倒れているのが見えたのだから。黒く、美しいドレスが印象的で、そこから固まっている血も見えた。
「女の……人……?」
血の存在は恐怖だったが、顔つきは問題なかった。美しい女性が倒れているのが目に見える。この女性も死んでいるのかと思うと、不思議で仕方がなかった。レイはこの女性は実はまだ生きているのではないかとさえ思った。それ程に、この女性が美しい印象を抱いたのである。
だが次の瞬間だった。レイがふと目を離したとき、女性の足がピクリと動いたのだ。しかし、レイはそれに気付いていない。そして次に女性の手が動いた。これにはレイは気付き、そして、再び尻餅をついた。
「うわあああ!!!」
無理もなかった。死んでいると思っていた人間が、僅かに動いているのだ。これを見たエリィは、驚愕する様子を見せず、すぐに女性の頸部の脈を測った。その結果、動いている事が判明した。だが雪という環境の上で、血を流している状況。それが危険な状態である事に、変わりはない。
「レイ君、この人は生きてるわ。死んではいないよ。辛うじてだけど……」
「え……あ……あ、そうですか……」
驚くレイの表情は徐々に治まっていく。その一方で、エリィは真剣な様子でこの女性を見ていた。
「ひどい怪我……早く手当てしないと命が危ないわ。レイ君、負ぶれるわよね?」
「え……あ、はい!」
エリィに言われるまま、レイは女性を負ぶった。この時、エリィはEフォンでネルソンにこの女性の手当を依頼した。予想しなかった、緊急事態だ。
その後、レイには出来るだけ小走りで雪道を歩くように言った。けれども歩きにくい雪道を小走りで歩くのは無理があり、何度も転びそうになった。しかしそれをエリィが支えてくれるので、どうにか転ばずにはいれた。
必死に負ぶっている際、女性僅かに目を開けた。
(私……私……今は……どこ……?ここは……どこ……?私……空を飛んでる……?)
自分を死んだと思っているのか、レイが負ぶっているという事など全く気付いていない。
その一方で、レイは無我夢中で走っていた。一刻も早くこの女性を救うために。レイは女性の呟きが聞こえていなかった。
(でもこの人、どこかで見た事がある……誰だったかな。)
エリィはふと、思った。どうやら彼女は見覚えのある様子だった。しかし、誰かは覚えていなかった。見た事がある……としか思い出せないのだ。
(この人の顔、どこかで……)
レイも、エリィと同様に思っていたのであった。
急いで戻って来て、レイは女性の身体をネルソンに預けた。この時レイは異常な量の汗を掻いていた。コートを羽織ったまま走ったという事もあってか、レイは汗のせいで強烈な寒気を覚えていた。
「うぅ……寒いや……」
ぶるぶると体を震わせながら、レイはリルム達を探すために一度セイントバードへ向かおうとしていた。だが、そこへエリィが暖かいコーヒーを持ってきてくれたため、彼はエリィに一礼してカップを持ってそれを飲んだ。
「お疲れ様。体力あるじゃない。」
「あ、ええ……まあ。パイロットやっていたら自然に付くものですかね……ハハ……」
レイは彼女の差し入れが嬉しかった。しかし、内心では女性の心配をしていた。あの状況で、辛うじて生きていた美しい女性。生き延びることが出来たのに、もしここで死んでしまえば彼の苦労は水の泡となる。それだけでなく、純粋に一人の人間として生き残ってほしいと彼は願っていた。それも全てネルソンの医師としての腕に掛かっている。
「あの人……大丈夫ですかね?」
「分からないわ……けど、あの雪の中でずっと倒れていて脈があるって言う事は……ある意味奇跡かも知れない。もしかすれば、可能性はあるかも知れないね。」
「出来れば無事でいてほしいです。何があったかは知りませんけど、それでも無事に生き延びたんですから、ここで死なれても悲しいだけですよ……。」
全く知らない他人なのに、それでも相手の心配が出来るレイを見てエリィは感心した様子だった。レイの持つ優しさは、エリィの心を揺るがす。
「レイ君、優しいね。」
咄嗟に彼女はレイを褒めた。とは言っても、今、褒められても複雑だ。もしあの女性が死んでしまえば、褒め言葉も何もなくなってしまうからだ。
「……大丈夫、きっとあの人は治る。確証はないけど……ね?」
何故だろうか、どうしてもあの女性には生きていてほしい気がしてならなかった。レイはそのまま口を開かなくなった。今はひたすら、手術が無事に終わることを祈るしか出来ない。
ネルソンが女性の手術している際、ネルソンは何かを思い出している様子でその手術に臨んでいた。
(この女性は……間違いない、ウィリア・ラーゲンだ。だが何故ここに彼女がいるのだ……?)
エリィとレイが助けたこの女性はウィリアだったのだ。オスロでノード・ベルンと激しい激闘を繰り広げ、意識を失った彼女は死んだように見えたのだが、奇跡的に生きていた。
それをレイ達が助け、今に至る。ネルソンは彼女を知人として見ているようだった。エリィもこの女性を見た事があると言っている為、恐らく何らかの関係があるのだろう。ネルソンは不思議に思いつつ、引き続き手術を行った。
それから何時間が経過しただろうか。ウィリアの手術が終わる頃には日が変っていた。手術は無事に成功。その知らせを聞いたレイはそっと胸を撫で下ろす。
手術を終えた後、ジャンク屋の一室でミシェとネルソンがお互い煙草を吸いながら会話をしていた。ネルソンが手術をした女性、ウィリアの話についてである。
「とりあえず手術はご苦労さん。お陰で少々ハルッグ改造は長引きそうだ。まさか、こんなところであの女に会うとはな。偶然にしても出来過ぎているな。」
ミシェは睨むようにネルソンを見た。特に憎んでいる訳ではなかったが、彼の目つきの悪さがネルソンにそう見えたのだ。
「確かに。それに彼女には何度も撃たれた傷が見られました。何かあったのでしょうね。」
「何らかの抗争に巻き込まれたのかも知れないな。この辺りは有名なオークションがある場所だからな。しかし傍にMS。しかも、クレーディト社の機体があったとなると……?」
「氷河族の可能性は、十分に有り得るでしょうね。以前もあの機体が置かれているジャンク屋を訪れて、酷い目に遭いましたから。」
「連中、問答無用で売りつけてるらしいからな。ファドゥーム……だっけ。あの左手鋏のMS。」
「ミシェさんの所にも売り込みはあったんですか。」
「あったよ。断ったけどな。うちはそう言うのは置かないってよ。怪しい連中だったからな。ああいう押し問答みたいな売り方するアコギな商売は嫌いだ。」
「成程……。」
煙草が短くなり、灰皿にそれを置いた後、ミシェは一回深呼吸を行った。
「ま、何にしても、事情を知るには、ウィリアが目を覚ましてからだな。」
ミシェは渋く低い声でネルソンに言った。その時、ミシェは何かを察したようにドアの方を見た。だが、何もいなかったので再び会話の姿勢を戻した。
「どうした?」
「いや、別に。何かがこの話を聞いている気がしたんだが気のせいだったようだ。まあ、聞かれても問題はないんだが。」
ネルソンには分からなかったこの反応。ミシェは鋭い人間という事が、彼の中で印象づいた。ネルソンは内心驚いていたが、冷静さを取り戻し、ハルッグの話題を持ち出す。
「ああ、本当にハルッグ改造が長引きそうだ。セイントバードの修理は順調だというのに。
すまないミシェさん。恐らくここで年を越す事になりそうだ。」
今は年末だ。明日はクリスマスイヴで、もう数日経てば来年になる。現在はP.C0006年。来年で、P.C0007年となる。平和世紀と名前がついて、わずか五年で平和が破られた。これに関してネルソンは若干の憤りを感じていた。彼は来年になる事を、あまり嬉しく思っていないようだった。
「ゆっくりすればいい。けれども一つ気をつけて欲しいのが、ここもMS乗りやテロリストの連中に狙われる可能性があるという事だ。お前らみたいな優しいMS乗りならいいが、野蛮な奴は金も払わず力ずくでここを利用しようと考えやがる。そう言う奴がいれば、お前らが迎撃してくれよ。それと、お前らの中で気になる存在がいるんだがな。」
ミシェの言う、〝気になる存在〟という言葉に耳を傾けるネルソン。何が気になるのかと尋ねようとしたが、先にミシェが口にした。
「レイ……だったか?あの少女みたいな顔をした少年だ。本当にMSを操って戦う事が出来るのかが見たい。出来れば敵が来て欲しいぐらいだぜ。」
「物騒な事を言わないで頂きたいものだ……。」
今敵に出てこられても困るだけだ。ネルソンは苦笑いを浮かべ、冷や汗を掻いた。
「はは、冗談も通じないか。俺だって来てほしくないんだよ。」
「そ、そうですよね……」
そう言った後にネルソンは側にあったコーヒーを啜り始めた。頭を二回掻いて、静かに膝に手を置いた。
今、彼等はウィリアの回復を待っている。ウィリアとネルソンとエリィ……彼等は一体どのような関係を持っていたのだろうか。
翌日になった。クリスマスイヴの本日は、平和な時ならば、町にはカップルの姿が多く見られ、子供達はサンタクロースを待ち望んで楽しみにしている穏やかな日なのであるが、平和ではない現在、そのような娯楽であり、大切な日でもあるその日を楽しんでいる余裕がなくなってきている状況と言えた。
セイントバードの一室にて。そこで、瀕死のウィリアが遂に目を覚ましたのだ。自分は雪の中で倒れ、そのまま死んだ筈なのに、なぜここにいるのか理解できない様子でいた。
「ここ……は?」
目をこすり、辺りをキョロキョロと見回す。彼女にとって見慣れない空間に、若干の違和感を覚えていると同時に自分が生きているという状況が信じられないでいた。
「私、生きているの……?まだ……」
ウィィィィィン
その時だ。部屋の自動ドアが開いた。そこからは金色の髪色をしている、女顔の少年が姿を現した。彼女の事を助け、尚ずっと心配していた健気なレイはウィリアの起きている姿を見て目を輝かせていた。
「無事だったんですね!良かった……」
「え……ああ……?」
思わずレイはウィリアに近寄った。何が起こっているのかがさっぱり分からないウィリアは、咄嗟にレイにここがどこなのかを尋ねる。喜んでいる様子で、レイは笑みを絶やさずに答えた。
「安心して下さい!ここはセイントバードの艦内ですよ!僕、貴方が生きていて本当に嬉しいです!確か、前に助けてくれましたよね……?」
レイは喜び続けた。しかし一方でウィリアは呆然とした表情を続けていた。
「……どうしました?」
「あ……いえ。貴方……どこかで……あ、思い出した……ホルステブロで確か……」
「そうですよ!まさか、あんな所で倒れているなんて、思いもしませんでしたから……」
徐々に意識がはっきりとしていく中、ウィリアはレイの事を思い出していった。レイにとっては、ホルステブロでゼオンと共に助けられた。まさか、ここで会った女性があの時のウィリアだという事は、全くの偶然と言えたのだ。
その時、レイは気を遣うように言った。
「あの、寒くありませんか?一応暖房は効かせているんですが……」
「あ……ええ……少し。」
正直な意見をレイに述べた。すると、レイは笑みを浮かべて部屋から出ようとする。と、思い出したように足を止めた。
「分かりました、あの……名前を聞いていませんでしたね。失礼ですけど宜しいでしょうか?」
ウィリアに、名前を尋ねるレイ。
「私は、ウィリア・ラーゲン。……貴方……は?」
「僕はレイ・キレスと言います!あの、ウィリアさんが快適に過ごせるように僕が出来る限りサポートします。では、何か温かい飲み物を持ってきますね!」
自ら進んでレイは暖かい飲み物を探しに行った。何故彼がウィリアに対してここまで親身になれるのかは全く分からないが、ウィリアはレイの姿を見て思わず笑顔になった。
「まさか、以前に助けた子に、助けられる事になるとは……ね。」
ウィリアは何故か二回相槌を打った。憎むべき敵を殺し、本来であれば自分自身も死んでいるはずの身。しかし彼女は生きている。セイントバードチームが救出した彼女の命。ウィリアはまだここがどこかを把握できていなかったが、どのような組織やMS乗りであれ、感謝をする姿勢を崩す様子はなかった。
しばらくして、レイが再び入室してきた。彼はココアを持ってウィリアの寝ているベッドの側の棚に白湯を置いた。
「どうぞ!」
満面の笑みで白湯をウィリアに手渡し、彼女はそっと白湯を飲んだ。温かさが体の中を流れ、寒気が無くなった。
「暖かい……身体を温めるには、丁度良いかも……」
「良かったです!」
思わず笑みを零す、レイ。
だが、この時ウィリアは妙にそわそわとしている事に気付いた。歩きたいのだろうか?何かに対して急いでいるのだろうか。それを感じたレイは、思わず声を掛ける。
「あの、安静にしていた方が良いですよ……?」
「分かってはいるんだけど……グッ……」
傷が痛む。それに、手術後という事もあり、体力が大きく低下している感触を、感じていた。
さらにそこへ、ネルソンが部屋に入って来た。医者として、彼女の容態を確認する為だ。
「どうだ、様子は。意識はあるようだな。」
「……」
その途端、ウィリアは黙り込んだ。直後に、ネルソンは咳払いをしてウィリアと会話をした。
「随分と久しぶりだな、ウィリア・ラーゲン。」
どうやら、ネルソンはウィリアの事を知っているようだ。一方のウィリアも、ネルソンの事を知っている様子だ。
「元デウス帝国軍大尉のネルソン・アルビュース。今貴方はこんなところで医者をしていたとはね。」
「知っての通りだが、今は私は医師免許は持たないよ。これも、無免許で手術をしたに過ぎない。技術だけはあるからな。それに私はMS乗りだ。MSのスクラップや部品などをジャンク屋に売って資金を稼いでいる。戦後だからな、貧しいのだよ。平和になってから少しずつ豊かになろうとした時に、また戦争が始まった。それよりも具合はどうだ?」
「痛みが伴うわ……にしても、貴方にオペをされたのは二回目ね。今回の場合は完全な、処置だけれど。そして、どうして私が、生きているのかが不思議なぐらいだわ。」
明らかに、慣れている様子の両者。彼等の過去に、何があったというのだろうか。
「痛みは仕方がない。どうしても痛みが続くようなら痛み止めを処方しよう。」
「ありがとう。所で、話が変わるけど、エリィは元気なの?」
ウィリアはエリィの話題も持ちかけてきた。ネルソンとエリィを知っている彼女。何故彼女は二人の事を知っているのだろうか。
「艦長か。元気過ぎるぐらいだ。」
“艦長”という言葉を聞き、ウィリアは大きく反応した。
「へぇ、あの子、今じゃ艦長なんだ。随分偉くなったのね。」
「呼んでこようか。君をここに連れて来たのはそこにいるレイと、艦長だからな。」
「へぇ、まさかあの子に助けられるなんて……それと、君もありがとう……」
ウィリアの言葉対しに、レイは静かに、お辞儀をした。
「レイ、彼女を見ていてくれ。艦長を呼んでくる。」
「あ、はい。」
ウィリアの要望を聞き入れ、ネルソンはエリィを呼ぶ為に一度部屋から出た。彼等の加巌聞いていると、ミシェに続き、ウィリアもセイントバードチーム結成に何らかの関与をしていた可能性がある。
数分後、エリィがウィリアのいる部屋にやってきた。最初、ウィリアの姿を見て考える様子を見せるエリィだったが、じいっと見ている内に、ようやく思い出す事が出来たようだ。
「ウィリアさんだ!やっと思い出した!」
この台詞にウィリアは呆然とした。そして、エリィの姿をじっと見る。それを見て、エリィは首を傾げた。
「え、あの、どうしました?」
「あ……いえ……その……随分変わったわね……。何があったのかしら……?」
「え、そうですかぁ!?あー、でも昔に比べればおしゃれとかにも気を遣うようにはなりましたし、昔よりもウエストも痩せたんですよ!おかげでどんな服でも着こなせるようになりまして!」
「あ……そうなんだ……」
どうやら、昔のエリィと違う事に驚きを隠せないらしい。暫く会わない間に何が起こったのか、ウィリアは気になっている様子だった。
この様子からも、レイは改めて、昔のエリィはやはり違う性格の人物なのだと、認識したのであった。
「艦長……少しはしゃぎすぎでは?」
異様なテンションの高さに驚くネルソンは、思わず言った。
「え……あ、ああ!そうですか!?すいませーん……」
ウィリアは首を傾げ続けた。目がエリィのみを見ており、じっと凝視しているように見えるが、どこか遠くを見ているようでもあった。エリィの変化が相当気になっているらしい。
「あの、どうしましたか?」
「あ……いえ……。」
「さっきから、少し表情が暗いですよ?」
「そんな事は……ないけど……あの、貴方本当にエリィ・レイス?」
やはり信じられないらしく、念を押すように確認した。けれども何度彼女が疑問に抱いたところで、相手がエリィであることには変わりない。
「はい、私はエリィ・レイスですけど?」
「はあ……そう……。」
エリィが別人のように性格が違っていたことに関して、ウィリアは戸惑い続けていた。
その姿を見ていたネルソンは、静かに、微笑していた。
「……でも、本当に感謝している。本当だったら死んでいた筈の私をわざわざ助けてくれたんだから。」
「あの状況で瀕死状態の人を見過ごすほど私も冷たい人間じゃないですよ?それに、実際に貴方を運んだのは私じゃなくてレイ君ですし。」
「あ、ええ……知ってるわ。彼、わざわざ看病してくれたもの。」
と、言ってレイの方を見る、ウィリア。
今、彼女はどのような場所であれ、助けてもらえればそれで良いと考えていた。しかし、その上助けてくれた人間が、信頼に値する人間だという事も知り、彼女は自身の悪運の強さに感謝した。どういう繋がりかは分からないが、彼女はエリィともネルソンとも仲が良い。更に、まだここでは会ってはいないがミシェとも面識があると思われる。知人がいる、安心できる環境に置かれたことで、彼女は安心して過ごすことが出来るのだ。
これも、全てはレイが引き合わせたようなものだ。偶然とはいえ、この幸運に感謝をする、ウィリア。
「何よりも、元気そうなら何よりだ。ウィリア、すまないが一度私は退出させてもらう。またここに来るつもりだ。ゆっくりと休め、ウィリア。」
直後に、ネルソンとエリィの両者が一度に立ち上がる。
「あら、何処へ行くの?」
「機体の改修の手伝いをしなければならんのでな。それに病み上がりなのに大人数で押し寄せるのは良くないだろう?艦長もレイにも、部屋を出て貰う予定だ。」
と、言った後で、三人は部屋を後にした。痛みは残るが、それよりも助けられ、この、暖かな部屋で保護されているという状況が、今のウィリアにとっては有難いものと、言えたのだ。
だが急に人が居なくなるというのは、寂しささえも感じる事がある。彼女は先の戦いでギィルを失った。それと引き換えに、忌むべき敵であるノード・ベルンを倒した。彼女の復讐は、成し遂げられた。だが、この先はどう生きて行けば良いのだろうと、ふと、考えていた――
ウィィィィン
しかしその寂しさもすぐに止むことになる。と言うのも、彼女を訪ね、また別の人間がひょっこり姿を現した。ゼオン・ニーマードである。この場に、氷河族の人間同士が集う事になったのだ。
「あら、ゼオン。どうしてここに?」
「ここに保護されてる。それより、まさかここにウィリアが来るなんて、びっくりしたよ。」
同じ組織同士であるが故に、会話が成り立つ。ゼオンは彼女がここに居る話を聞いており、落ち着いたタイミングを見計らって部屋に来たのだ。
「あの時は、ありがとうな。お礼も兼ねてここに来たんだよ。」
「そんなの、別に良いわよ。でも、結局ここで再会する形になるなんて思わなかったけどね。」
ホルステブロで囚われていた時、ウィリアがゼオンを助けた。それだけでない。彼が氷河族を抜け出すきっかけを作り出したのも彼女だ。ゼオンからすれば、彼女の存在は紛れもなく、恩人と呼べる存在だ。
「ここに居れば恐らく、安全な筈よ。お姉さんも一緒?」
「ああ、そうだよその……あいつが姉ちゃんを守ってくれた。それもあって、今、ここで居られる。有難いっていうか、何ていうか。」
それは、レイの事だ。結局、彼の存在が多くの人間を引き合わせたという事になる。恐らく、レイ自身はそれを意識してはいない。だが彼が多くの人間を助けたのは、紛れもない事実だ。
「レイ・キレス……か。不思議な子ね。私も彼に救われたし、こんな、良い環境に恵まれた。あとは痛みさえ取れて、歩く事が出来れば良いんだけど……ね。」
救われたとはいえ、ウィリアは重傷を負っている身だ。寝返り一つ打つにも苦労する状況。その中で、誰かの暖かい言葉と言うのは染み入るのだ。
その後ネルソンはハルッグの改修に携わった。その最中、MSデッキでは整備長としてハルッグの改修に携わる、シンの姿があった。そこへ訪ねて来たのが、ネルソンとミシェだった。何故来たのかと言えば、ネルソンが整備士として優秀なシンをミシェに紹介する為だった。
「ミシェさん、紹介します。うちの整備長のシンです。優秀な整備士ですよ。」
「ほぅ、なかなか凛々しい顔付きだな。」
ミシェは率直な感想を述べた。それに対しシンは若干照れる様子を見せる。
「あ、どうも。ミシェさん……でしたっけ?」
「ああ、俺はミシェだ。同じ整備士同士、仲良くしようじゃないか。」
と、ミシェはシンに握手を求めてきた。それに素直に応じ、シンも握手をする。
「シン、ミシェさんは整備士の大先輩だ。何か分からないことがあれば聞くといい。」
「あ、了解です、大尉。」
優秀とも言える整備士を連れ、ハルッグの改修は進んで行こうとしていた。この時、機体のカラーリングは元の白系統から、青い系統の色合いに変更しようとしていた。作業は遅れながらも順調だ。しかしその時、ミシェがシンに対し、喋り掛けてきた。
「ところで、お前は妻がいるか?」
「……はい?」
作業とは全く関係のない話を持ちかけたミシェ。突然の話題に、シンは呆然とするしか出来ない。
「どっちか答えろ。」
「あ、はあ……いや、俺、未婚なんですよ。やっぱりそろそろ結婚……っていうか、彼女が欲しい……っていうか。俺、彼女いない歴二十五年なんですよ。まあ、つまりは年齢=彼女いない歴です。昔から女運が全く無くて……」
「へえ~意外だな。ま、俺も人の事は言えんが。」
「え!?ミシェさんもまさか……今まで付き合ったことが無いんですか!?」
「いや、お前の言う〝彼女いない歴〟が二十五年というだけだ。軽く女性とは付き合ったことはある。ま、こんな話もあれだ、空しくなるだけだろう。」
(自分で言っておいて……ん、この人今何歳だ!?)
恋人がいない経歴を話す両者。その最中に疑問に感じたシン。ミシェの経歴に少し興味を示したようだ。
「何をぼさっとしてるんだ、話は終わり。作業続行!」
「は、はあ……」
会話は途切れ、結局そのまま作業を続けるしか出来なかった。作業を続けるミシェの、無言でいる姿が返って恐ろしく感じられた。
しかしその時、作業を続けるミシェの背後を何者かが通った。その際、ミシェはすぐに反応した。そして、近くにいた整備士に機材を渡して、すぐに走り出した。明らかにおかしな様子だったので、シンも疑問に感じ、それに、付いて行く。彼も機材を近くの整備士に渡し、ミシェの後を追う。
「なんだ……?何かあるぞ……?」
と言うのも、ミシェが向かったのはセイントバードの方向だったのだ。セイントバードクルーのシンが気にならない筈が、なかった。
第六十三話、投了。
オスロでの一連の出来事の話でした。