機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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ゼオン・ニーマードの死を受け、暗いムードの艦内。
その中で、レイはエレンと話をしようとする。
そして、エリィから語られるセイントバードの起源とは――


第六十五話 セイントバードの起源

 ゼオンの死から、二日が経った本日は十二月三十一日。一年の最後を飾る日だ。皮肉にも、年末には悲劇が相次いだ。クリスマスイヴには氷河族の襲撃でシンが死に、そして二日前にもゼオンと言うあどけない少年が責任を感じたのか、ナイフで自らの首を切り裂くと言う、あまりに猟奇的なやり方で死を遂げた。その状態で、本来は信念に向けて楽しむべき、年末という時間を悲惨な状況で迎えてしまったのだ。クルーは皆憂鬱な気分だった。無理もない。

その中でも、ハルッグの改修作業は続いていた。どんなに辛い思いをしていても、やるべきことはしなければならない。ミシェ達ジャンク屋は必死にハルッグの改修作業を続け、やがて午後には完成したのだ。

カラーリングは前回の茶褐色系統のものから青系統のものに変化し、肩部のビーム砲は更に二門追加されており、左右合わせて計六門に増えた。その分一度に多方にビーム砲を放出することが出来る。更に、ミサイルポッドも追加されている。その上でロングビームライフルの構造も変化し、バックパックには僅かなウイングも追加された。背部に新たに追加された大型のブースターは、今回の最大の改良点である。

型式番号DMS-T87HMC。ハルッグの高機動カスタム。強化されたその機体は、今後の戦闘においてどのような活躍をしていくというのだろうか。

「気に入ったか、これが生まれ変わったハルッグだ。名前はハルッグHMC(ハイモビリティカスタム)。その名前の通り、機動性に優れている機体だ。あと、武装の強化の他、更に踵部にも兵器を用意しておいた。」

「踵部?」

「まあそれは実戦で使ってみれば良い。あえて俺は言わないがな。それより早く乗りたくてうずうずしているんじゃないのか?」

ミシェは、少し笑みを浮かべながら言った。しかしネルソンはそれに対し、笑う事はなかった。

「……いえ、やはり、今は……」

「ああ、そうか。大事なクルーだったもんな……。」

ここでもネルソンは殺されたシンや、自殺したゼオンの事を思い出す。静かに目を瞑り、ただじっとその場に立っていた。

「泣きたきゃ泣け。……俺だって実際は悲しい。でもやるべき事があるんだ、泣けるかよ。」

「やるべき事……か。」

「どうした?」

ミシェの言葉で、ネルソンは何かに気付いた気がした。その瞬間に目が開かれ、じっと生まれ変わったハルッグの姿を見ていた。

「私がやるべきこと……それは自身が強くなることだと私は思うんです。」

「へぇ、俺はそんなつもりで言ったわけじゃないが、まあそう思った方がいいかも知れないなァ。」

感心した様子で、ミシェはネルソンを見ていた。次に、ネルソンはミシェの方向を見て言った。

「セイントバードのクルーをこれ以上死なせない努力もしなければならない、何よりも、大切にしたい人を守れるだけの強さが私には欠けていると思うのだ。」

「それはお前の元恋人か?」

「違う、もっと身近にいる……“誰か”ですよ。」

ミシェは首を傾げたが、数秒後、閃いたように首を元に戻した。何か思い当たる節があったのだろうか。

「成程……なぁ。」

彼はネルソンに聞こえないよう、一人静かに呟いた。

 

 

 

レイは、先の出来事からのショックから、立ち直る事が出来ていた。だが、リルムやエレンは精神的に強いショックを受けていた。その中でも、特にエレンは強いショックに見舞われている。

唯一の弟がまさかの自殺を遂げたという衝撃的な出来事もあり、エレンは自身の部屋に、部屋に籠っている状態だ。もう、かれこれ二日間食堂に出てきていない。強いショックを、受け続けているのだ。それは、リルムも同様だったのだ。これに対して不安を抱いたエリィ。そこで、彼女はある提案をレイにする事にした。

「私が、リルムさんの部屋に朝食を運ぶわ。でも、レイ君はエレンさんの部屋に、朝食を届けるついでに様子を見て欲しいの。」

「どうして、僕がエレンさんの部屋に?」

「貴方の方が一緒に居た時間が長いと思ったからだよ。私は艦長としてリルムさんに色々と言っておきたい事もあるし……お願い、出来る?」

「はい……」

そうは言うが、暗い気持ちになっている少女の部屋に入るというのは、荷が重い。だが、この作業は非常に重要な事だ。

先のゼオンも、死傷者が出た後でずっと部屋に籠っていたが故に、いつの間にか自死をしてしまっていた。今回、彼女達に万が一の事があってはならないと判断したのである。

 

 

 

 まず、エリィはリルムの部屋に入り、朝食を置いた。相変わらず、ベッド上で俯いているリルム。自身に起きた出来事や、先日のゼオンの事も重なり、更に他者と交流を避けるようになっていたのである。

「ねえ、リルムさん。」

エリィが静かに、それでいて優しく、語り掛けた。

「私が怖い?」

エリィはウネフを殺した。その姿を見てしまったのだ。恐怖するのは当然と、言える。

「……分からないです……本当に、分からない……どうしてこんなに死ぬところばかりを見るのかも、分からないんです……それが怖いのかも知れないし……」

リルムはベッドの上で、三角座り姿勢のまま、ただ、俯くばかり。

「そっか……でもね、私、みんなが本当に心配なの。その……先日の出来事もあったから、尚の事。ここのメンバーは軍じゃないから、当然、死を経験した事のない人だっている筈なの。リルムさんも、そうでしょう?」

それは、間違いない。だから、リルムは恐怖しているのだ。人の死……それも、若い人間の死が近いという、ごく普通になりつつある、この環境が怖いのだ。

「心配なのに、人を殺したんですね……ここに来る前に会った友達も、それを喜んでました。私、おかしくなってきてるのかなって……その上で、つい先日まで話してた男の子が自殺なんて、そんなの、信じられる訳がないです……」

死が当たり前に有り得る状況と、そうでない者の差は計り知れない。それが日常と非日常の違いなのだ。リルムはそれを、特に感じている。少なくとも、レイ以上に感じているのだ。

「私ね、貴方に謝らないと行けないと思ってるの。怖い思いをさせてしまって、ごめんなさい。ああしないと、皆が守れなかったとか、そんな言葉を言うつもりは一切ありません。」

エリィは、純粋な想いを伝えた。言い訳をしないで、ただ、彼女は謝罪するのだ。リルムと言う少女に対しても、大人としてのプライドが邪魔する事なく、ただ、謝るだけ。

「だって、人が死ぬ所なんて、見た事ないもんね……貴方は本当に、平和な環境で過ごして来ただけだものね……なのに、連行されて……そこから親元を離れる事になって……辛いよね……ごめんね……本当に、ごめんなさい……」

エリィは涙を流した。それは、先日までの出来事が溢れ出た瞬間でもあった。多くの感情が渦巻き、大人である筈のエリィが泣いたのだ。

「私、分かってると思うんです……その……艦長さんがわざとじゃないって事も、守る為に身を挺してくれたって事も、分かってる筈なんです……多分、私が平和ボケしてただけなんです……なのに、艦長さんが謝る事なんてないですよ……」

「そんな事ないわ……私、艦長ですもの……貴方自身の気持ちになってあげる事は出来ない……でも、せめて話を聞く事は出来るから……貴方は私を怖がるかも知れない……けどね、私は貴方の事を大切に思いたいと、思います……貴方だけじゃなく、クルー達の事を……もう、あんな悲劇は起こしたくない。だから……」

エリィの決死の思いだ。感情で訴えかけるエリィ。その強い意志は、艦長であるが故なのかも知れない。

「艦長さんは、ああいうの、ずっと経験してきてるんですか……?」

リルムが、聞いた。それに対し、エリィが答える。

「ええ……戦時中から、死体は見続けて来たから……でも、貴方はそれを見る必要なんて、本来は無かった筈なのに……こんな事になるなんて……怖い思いもさせてしまって……そして、油断していた所を襲撃されて、クルーを死なせてしまって……艦長、失格だなって思う……」

エリィはそう言った後に、傍にあったデスクに朝食の乗ったプレートを置き、ベッドに腰掛けた。

「私、全然ここの事詳しくはないんですけど……多分、艦長さんはとても良い人なんだと思うんです……」

リルムの視線の角度が、少しずつ上がっていく。

「どうして、そう言うの?」

「だって、私の目、塞いでくれましたよね。私、直接あの男の子の死体とか見てないんですけど、もし見てしまったら……不謹慎な事言ってごめんなさい……でも……」

訃報を聞く事と、直接死に立ち会うのとでは、当然ながらその衝撃は大きく異なる。身近な人間であれば特にそうだ。今回、リルムは身近な人間という訳ではないのだが、その惨い光景を見せる訳には行かないと思った、懸命なエリィの判断は、リルムに好意的に捉えられたのであった。

「私は良い人でも何でもない。ただ、艦のクルーを守りたい……ただ、それだけなの。それは、貴方も含めて。ごめんね、ご飯、覚めちゃうかも。少しでも栄養取って欲しいと思って持って来たから……」

そう言って、エリィはベッドから立ち上がろうとした――

 

ギュッ

 

その際に、リルムがそっと、エリィを抱き締めた。まるで姉のような感触。実の姉という訳では勿論、ないのだが、その暖かさを感じ取ったリルムは、自ら行動を起こした。

「艦長さん、私、艦長さんが人を撃ったのを見て混乱してました……凄く、怖い人だと思ったんです……」

「分かってるよ……それは……貴方の立場なら当然だよ……」

「でも、本当は、怖くない人なんだって、思いました……だから、レイが慕うんだなって思ったんです……」

レイの話をし始めたリルム。それは幼馴染であるが故の言葉だろうか。

「私のやった事は許されない事だよ。警察が居たのなら、そのまま逮捕されて、裁判になったりしているぐらいの事なんだよ。当然、それを正当化する気はないわ。それでも貴方は怖くないって言えるの?」

今度は、エリィがリルムに質問をした。

「法律とか、倫理とかそんなので許されないかも知れないんですけど、人を守ると言う意味では許されると思います……じゃなかったら、艦長さんとして慕われていないと思うから……」

ここに来たばかりの人間であるリルムにも分かる、エリィの人間性。それを伝えたエリィ。彼女はそれを聞き、安寧の表情を浮かべた。

「そっか……嬉しい事、言ってくれるんだね。嫌われると思ってた。でも、それでも構わないとは思ってた。生きていてくれれば、それで……良いって。」

「艦長さん……」

そのまま、再びリルムはエリィを抱き締める。抵抗のない、ごく、自然な様子で。

「エリィでいいよ。リルムさん。」

「エリィさん……ありがとうございます。」

「貴方こそ、生きてくれて、ありがとう……」

クルーを心配する艦長。その務めを少しでも果たさんとする、彼女。その強い想いを受け取ったリルム。短い期間であるが、エリィの優しさに触れたリルムは、少しずつだが元気を取り戻しつつ、あったのだった。

「ねえちゃん!だいじょうぶか?」

突如、その部屋にメナンとスバキが入って来た。リルムが塞ぎ込んでいる中、メナンの面倒をスバキが彼女が見ていたのである。スバキ自身も強いショックを受けていたが、彼女もパイロットという立場の経験もあり、惨い死体は見慣れている過去を持つ。それ故の、精神の回復の速さなのかも知れない。

「スバキさん、メナンちゃんの面倒を見てくれてありがとう。」

エリィが、言った。

「その……メナンがリルムの事、心配だって言ってたから……」

スバキの、リルムに対する感情は複雑だ。様々な感情が渦巻いている。しかし、精神的にショックを受けているのは間違いない。その中で、自分に出来る事をしなければならないと思い、彼女はメナンの面倒を見ていたのである。

「スバキさん……ごめん……私……」

リルムが、言った。

「何、謝ってるんだよ……でも、その様子だとエリィが色々と話をしてくれてたみたいだな。」

リルムの表情を見て、スバキが言った。ここに来てまだ間も無いリルム。まさかの事態にショックを受けるのは当然だ。こうした場合、スバキといった、セイントバードに長く居る人間の存在は頼りになる。それは、エリィも感じている事なのだ。

「みんな、少しずつだけど現実を受け入れて来ている。スバキさんも色々あったけれど、今がある。でも、リルムさんが少しでも元気を取り戻してくれたのは、とても嬉しい事だから。今は、この艦のクルーと、してね。」

エリィの優しい笑顔が、リルムに伝わった。空を見て、僅かに笑顔を浮かべるリルム。それを見て、どこか、遠くを見るように視線を落とす、スバキ。

「いかついおねーちゃんおもろいぞ!」

それは、スバキの事を指している。メナンの言葉を聞き、スバキは怒るように言った。

「誰がいかついんだよこのバカ!」

「おこっとる!それよりレイどこいった?あいたいぞー!」

スバキとメナンという意外な組み合わせだが、彼女達はある種、力を持つ存在という共通点がある。それがどこか、調和したのか、互いに仲が良い様子だった。その上で、メナンの恐れ知らずな性格が幸いしているのかも知れない。

今、メナンはレイを探している。彼は今、エレンの部屋にいる。彼女の様子を見る為に朝食を渡しに行っている。それを聞き、様子が気になった彼女達は、一度部屋を出る事にしたのであった。

 

 

 

 エリィがリルムを諭している時、エレンの部屋ではレイが朝食を運んでいた。だがその間もエレンは暗く俯いた表情で、僅かに涙を流しているのが見える。励まそうとしても、それが返って彼女を傷つけるだけだと理解していたレイは、そっと、朝食が置かれているプレートを、エレンが座っているベッドの傍にある、テーブルに置いた。

「……」

レイは何も言わず、悲しい表情を浮かべながら、その場を離れようとした――

 

ガッ

 

その時、突然エレンは立ち上がり、レイに抱き付いてきたのである。その拍子に朝食は倒れてしまい、その中にあった牛乳はベッドのシーツに染み付いてしまった。

「え……!?」

突然の抱擁に目を疑うレイ。一方でエレンは先程とは違い、大きく泣いていた。背の高さがレイと同程度であった為、彼の肩程の高さから延々と大粒の涙を滴らせていた。レイはこれに対しても何も言えないでいる。

「レイ……私……私……どうすれば……どうすれば……!」

弟を自死で失うという惨劇を経験したエレン。その衝撃は凄まじいものだ。二日前にエレンからゼオンの事について話を聞いたばかりであるが故に、余計にその衝撃が大きい。

だが、レイの場合、エリィと違い、言葉を話すことが出来ない。励ましの言葉も、恐らく、安い言葉になってしまうだけ。それならばと、ただ、そっと彼女を抱き締めてやるぐらいしか出来ない。これで良いのか……と、確認をするかのように、レイはそっと、抱擁をする。その経験は、リルムとさえない。抱擁の経験は、エレンが初めてだ。

やがてエレンとレイが、互いに抱擁を交わしている形となった。エレンは誰かを抱き締めたい気持ちで居る中、レイは、彼女の悲しみを少しでも和らげる為に、抱擁を行う。それが正解なのかは分からない。いくらセイントバードのパイロットとはいえ、悲しみに暮れる人の心を癒す力は、レイにはない。

と、暫くして、エレンが泣き止んだ時だった。

「レイ……ありがとう……心配してくれたんだね……」

「う、うん……ゼオンの事も、あったから……」

泣き止んだ彼女の表情は、不謹慎にも、どこか美しく見えた。

「ごめんなさい……せっかく持ってきた朝ご飯、台無しにしてしまって……」

「あ……ううん、いいんだよ……。」

やはり迂闊な事など言える筈が無い。レイの心境は複雑なままだ。

「レイ、今、無理してるでしょ……?」

「あ……え……?」

「いいの、無理しなくて良いの。私が悲しんでいることを考慮してくれているんでしょ。だからあえて何も喋らない……それぐらい分かるよ……。」

レイの考えはエレンには分かっていた。だからと言って今から〝大丈夫?〟や〝元気を出しなよ〟等と言った言葉を掛けられる筈が無い。そのような発言をしても、彼女が悲しむだけだ。

「レイも、私の為に気を遣う必要なんてないの。セイントバードの人達って本当に優しい人が多いね。でも、……みんな憂鬱な表情しているのが見える。それは、分かってるの。レイ、私は構って欲しいなんて思っていないよ。」

「そう……なの……?」

エレンの言葉が不思議に思えた。実の弟を失い暗い雰囲気になるのは当たり前の筈なのに、それを彼女は嫌がっているのだ。暗い事は続いているとはいえ、その為に悲しい表情をしないで欲しいというのが、エレンの本望なのである。

 とは言え、クルーの肉親が死んだ状態の人間を見て、どう、振る舞えば良いかなど、分かる筈がない。この時、レイはどう対応すれば良いか困っていた。

「ねぇ、レイ。このままで居て欲しい……人が恋しいの、ねえ、お願い……私……私……うぅ……う……」

「えと……う、うん……」

ぎこちない抱擁は続く。失意の中で行われている行為は、果たして彼女の癒しとなり得ているのか。それは全く分からない。ただ、レイは自分に出来る事をしているだけであった。その様子は、少女同士が抱擁し合っているようにも、見えた。

 

                ウィィィィィン

 

その時、エリィとリルムとスバキが、メナンを連れて部屋に入って来た。合計四人。その中で相変わらずメナンは明るい表情で、リルムとスバキはやや暗い表情で姿を見せた。しかし、リルムの表情はエリィのお陰で二日前と比べれば、明るくなっているのが見えたのだ。

ただ、今の状態をリルム達に見られる事は、非常にまずかったのである。

「レイ……?」

「リルム?スバキも……あぁ!?」

「あら、レイ君……」

今、レイとエレンが抱擁を交わしている状態だ。エレンは少し申し訳ないことをしたような表情で下を見た。それを見て、最初は驚くエリィ。傍に居たリルムは、頬を膨らませてレイに近付く。これと同時に、レイはエレンから距離を置いた。しかし、リルムは怒っている。

「レイ!何をやってるのよ!?」

「違うよリルム!ご、誤解だよ!」

慌てるレイ。だがこの時、リルムの表情はやや、明るさを取り戻しているのに気付いていた。しかしエレンと抱擁している様子のレイを見て、今度は怒りの感情が浮かんできたのだ。

「お前なぁ!!!」

だが、それに代わり、レイに対して怒りをぶつけたのはスバキだったのである。彼女はレイの胸倉を掴んだ。

「ちょ、スバキ……?」

「お前!何抱き付いてんだよ!最低なヤツ!リルムはどうしたんだよ!ふざけんなよお前!!!」

まるでリルムの代わりと言わんばかりに本気で怒っている様子のスバキ。これを見て、笑うメナン。

「おぉ~!れいうわきか!うわきよくないぞれい!しゅらばったやつやな!さすがモテモテレイ!」

「う、浮気!?な、ち、違う!何言ってるの……というか、なんでメナンが!?」

「まさか……レイ君、そういうのは、ちょっと、これは……駄目なんじゃないかなぁ?」

メナンとエリィが浮気と煽るものだから、スバキは余計に怒り、レイの胸倉を更に、勢い良く引き寄せる。

「ふざけんなよ!大体エリィも何メナンと同じように煽ってんだよ!明らかにお前の人選ミスじゃねえか!」

「それは……ごめんなさい……」

と、エリィはスバキに言われ、謝った。一回り程歳の違う少女に怒られるという事。それは情けない事だと、エリィは感じていた。

その一方で困惑するレイ。何故スバキはこれ程に怒りを見せているのか。それは、リルムという恋人が居ながらエレンと抱擁したということに対する、ふしだらな印象を持った為か。それとも、自分自身がその立場になり得る筈なのに、それがなり得ないという、彼女の控えめな愛情が持つ現実故の、苛立ちなのか。

「あの!待って……レイは何も悪くない……!悪いのは私……私から抱き付いたの!」

その言葉を聞き、四人はエレンの方を見た。信じられない事に、悲しんでいる筈の彼女が声を荒げて言った……それが不思議でならなかったのだ。

「リルムには悪いとは分かってた……でも、誰かに傍にいて欲しいって思っただけなの!ごめんなさい……私……」

自らの行為を省みるエレン。それを聞き、リルムはやや、困惑しつつも静かに頷く。

「あえー、けんかせえへんのか?うわきれい!うわきしたつみはおもいぞ!!しゅらばおもろいなぁ!」

メナンの言葉が、部屋に響いた時、その中で、誰かが、ぷっと吹き出す声を出した。その声の主を、最初、誰かが探す。

 やがてそこには、口周りを手で覆っていたエレンの姿があったのだ。

「プッ……ふふ……あははっ……アハハハハハハハハハ!!!」

先程までレイと抱擁し、涙を流していた筈のエレンはいつしか、大笑いをしていた。弟を失ったばかりの筈の彼女が、笑っているという状況。それに驚愕する、四人。

「アハハハハハハ……ご、ごめんなさい、つい……だってね!だって……面白かったもの!この子の言葉!浮気とか修羅場とか!そういうドラマとか見て来たのかなって!アハハハハ!」

一番悲壮に暮れている筈の本人が笑うという事は、どこか、許される空気になりつつあるという事でもある。エレン自身は、無理をしている様子はない。寧ろ、メナンの言葉を聞いて笑みに満ちている様子だったのだ。

多くの人間が死に、全体的に暗いムードの中、このようなコミカルなワンシーンは非常に有り難いものであると、レイは思っていた。

「メナン、ありがとうね!なんだか私、元気が出てきた!やっぱり笑うって大切だなぁ……」

「メナンなにもしてないぞ!」

無邪気なメナンはそう言うが、彼女の存在がエレンを救ったのは間違いないと、言えた。

「……まあ、エレンが笑っているのならもう良いのかもな……」

腕を組み、睨むようにレイを見るが、レイ自身はどう反応すれば良いか分からない。ただ、笑顔を浮かべている彼女の存在は、やがてこの場に居た皆が自然な表情を取り戻すきっかけとなって行く。

「いつまでもくらかったらしあわせなんてこねーぞみんな!」

これをどう捉えるかは個人の解釈に寄るだろう。子供の戯言と一蹴にする事も出来る。だが穏和な空気を生み出しているのも彼女である事に変わりはない。

 メナン・ジェイン。レイを好き過ぎるが故にセイントバードに合流した幼女は、クルーにとってムードメーカーとなりつつあったのだった。とは言え、彼女を早くヒパック村に戻さなければならない事に変わりはないのだが。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

しかし、その僅かな喜びの時間も、すぐに踏みにじられることになってしまう。突如、警報を知らせる音が聞こえて来たのだ。それと同時にインクの声が聞こえてきた。

「小型の熱源を数十体確認!こちらに向かってきています!恐らくMSです!パイロットは各MSに待機して下さい!繰り返します!」

思えばヒパック村以来敵と戦っていなかったため、随分と久し振りの戦闘となる。このアナウンスを聞いた時、レイは戸惑った。何せ、自身のMSが無い為である。

「そんな、こんな時にMSがないなんて……」

予想外の強襲に戸惑う、レイ。彼はパイロットではあるが、そのMSがない状況で戦う事は不可能だ。その時――

「お前、アインスに乗れよ。」

「え……?」

突然の、スバキの言葉に驚愕する、レイ。何故、彼女はレイに自らの機体を譲ったというのだろうか。

「多分、みんなが部屋に戻る事になった時、お前がもし、エレンと一緒の部屋に居たらさっきみたいになるの、困るからな!早く行け!」

まさかの言葉。彼がアインスに乗る事になるという、意外な状況だ。

「リルムはメナンと一緒に居るんだよ!エレン、お前の側には私が居てやるからな。レイ!早く行け!絶対に死なないで帰ってこい!セイントバード、守ってくれよ……」

強気な言葉の中に見えた彼女のどこか切ない言葉。それを聞き、レイは言う。

「うん、じゃあ……お言葉に甘えて……」

そう言って、レイは部屋から去った。それに伴い、エリィもブリッジへ向かう。敵勢力の確認の為だ。

 やがてその場に残された四人。リルム、メナン、スバキ、エレンの少女達。レイを通じて知り合った彼女達は、この数日間で多くの出来事を経験していたのだ。

「レイってさ……本当、不思議な奴だよな。」

ふと、スバキが言った。

「あいつが居なかったらここでみんなに会う事、無かったのに。そして、こうやって喋る事も無かったし……リルムもそうだろ?お前の場合は、あいつと幼馴染だもんな。そして、恋人……」

どこか、切なげな様子のスバキ。リルムはそれに対し、言った。

「まさかレイがあんなロボットに乗るなんて思わなかった。でも、実際に乗って、戦ってるんだよね……今からも、戦うんだよね……?」

「あいつ、あんなにふしだらだとは思わなかったけどな。本当、バカな奴……」

と、言いながら視線を落とす、スバキ。

「とにかく、戦闘になるみたいだから部屋に戻った方がいいぜ。固まるより、自分の部屋に行った方がいい。エレン、一緒に居よう。な?」

「え、ええ……」

スバキが、ひたすらに彼女達を仕切る。セイントバードのクルーとして、長いスバキ。その上彼女はパイロットを務めている。その強さが、そうさせるのだろうか。

 だが一方でレイへの控えめな慕愛は、隠しているようで、隠し切れていないのだった――

 

 

 

今、このジャンク屋に敵が迫ってきている……敵機は左腕部が人の手のようなマニピュレーターではなく、鋏状になっているMSである、ファドゥームだった。この事から、今回の敵勢力は新生連邦でも国連でもなく、氷河族と言う事が分かる。

「まさかこれを早く導入できるとはな。」

ミシェは、苦笑いを浮かべながら無線を遣ってコクピット内のネルソンに対して言った。

「ある意味幸運ですよ。性能を確かめられるんですからね。ただ、まさか実戦で使う事になるとは。敵はテストすらやらせてくれないようだ。万が一の為にパイロットスーツを着用して正解ですね。」

ハルッグのカスタム機は相当な機動性を要する。故に、正規兵が着用するようなパイロットスーツの存在は必要不可欠だ。今のネルソンはデウス動乱以来の、パイロットスーツを着用している。それはセイントバードの一室にあったものを利用しているのだ。

「奴さん等も必死なんだろうさ。ま、奴等の狙いはセイントバードだろうな。さしずめ、新生連邦の戦艦を強襲といった所か。」

「実際は只のMS乗りですがね。まあ、何にしても戦いますよ。ここは守って見せます。」

「頼んだぜ。反社会組織如きが、調子に乗りやがって……」

静かに愚痴を零した後、溜息を吐くミシェ。それにネルソンも妙に納得しているようだった。

「確かに……な。だが私にとっては、これはテストですね。」

「せいぜい死なないようにな。これ以上憂鬱な気分にさせてくれんなよ。」

「生き残る自信、ありますよ。」

すると通信が切れた。それと同時にエリィがセイントバードから待機中のMSのパイロット達に対して言う。

「ここ数日間で、多くの人達が死んでしまいました……ですから私からお願いがあります。死なないで下さい。誰一人もこれ以上失いたくありません。以上です、健闘を祈ります。」

エリィの切実な願いが込められた、短い通信だった。ネルソンはそれに対して静かに頷いた。

 だがその時、モニターに映るレイの姿を見て、パイロット達は皆が驚愕した。ツヴァイはアステル家に預かっている状態の筈。なのに、何故レイがそこに居るのか。

「レイ!?それはアインスガンダムか?何故君が……?」

「スバキに言われたんです、僕が代わりに乗る様にって。」

それに対する、詳しい事情を聞かなかった。つまり、スバキは今艦内に居るという事になる。敵が迫ってきている状況ならば、それに応じなければならないのだ。

「私に提案があるが、その装備で行くよりは、砂漠仕様で出た方が良いだろう。」

「え、砂漠仕様ですか……?」

ネルソンの言葉に驚く、レイ。何故砂漠仕様なのか。ここは雪原であり、砂漠とは関係ない筈……

「雪原の雪が積もる場所は足元が掬われ易い。脚部のバーニアの存在は雪上の移動に一役買うと予想できる。ミシェさんに頼んで換装してもらおう。先に出撃する、後から頼む。」

「あ、はい!」

そのやり取りが終わった後に、ネルソンは静かにモニターを見て、前方を見た。

「さて、ハルッグ出るぞ!」

 

ビゴォン

 

新たに生まれ変わったハルッグが動き出す。ロングビームライフルを所持し、モノアイを輝かせ、カタパルトから発進した。それに続くように、ガーストのエスディアも出撃した。この他、トルクス四機がゾーリドカスタムに乗って出撃する。

その後、すぐにレイのアインスは砂漠仕様に換装を終え、カメラアイが輝いた。

 

キシィン

 

「アインスガンダム行きます!」

やがてカタパルトからアインスが発進した。そして、ファドゥームが多数いる戦闘域に向かっていく。それを見ていたミシェは、静かに一言呟いた。

「あいつがガンダムに乗って戦うの、本当らしいな、期待してるぜ。」

その時に妙な笑みを浮かべていた。その真意は定かではない。

 

 

五機のファドゥームが一斉に有線クローを展開してセイントバードチームに襲い掛かる。一斉に展開するトルクス。多くの戦場を経験してきたその機体だが、既に機数は六機しかない。これ以上の戦力削減は、出来る事ならば避けたい所だ。その中で、ネルソンのハルッグが猛威を振るう。

ハルッグは最初、新たに肩部に追加されたビーム砲、計六門を一斉に放出。それらは一機のファドゥームに直撃して破壊された。それを見た別のファドゥームがバズーカで狙い撃ってくるが、素早い動きでこれを回避。続いてハルッグを狙うように有線クローやバズーカが撃たれるも、ハルッグはMAに変形して全てを素早い動きで避ける。

「くっ……なんて機動性だ……私自身が耐えられるか……」

大気圏内で高機動の機体を操る時、相当なGが掛かる。それは本来、訓練された兵士でなければ耐えられない代物だ。それをハルッグの改修機で行うというのだから、ある意味自殺行為な行動ではある。

 しかし、中身はハルッグだ。その要領は、全て把握している。ネルソンは強力なGにも負けず、パイロットスーツの恩恵も受け、敵を翻弄している。

 敵機体の内の三機が、一斉にクローを展開し、ハルッグに迫る。だが、ハルッグはこれを容易に避けた。以前のハルッグとは、比較にすらならない。

「貴様らの相手は私だ、まとめてかかって来い!」

そう言った後、ハルッグは変形した。改修されてから初めての変形だった。肩部のビーム砲が増えた上に、ウイングが追加されたことにより、以前よりも荘厳で迫力のあるMA形態になっていた。その上機動性も遥かに高い。凄まじい動きでファドゥーム三機を惑わせる。

「私のMSだ!」

 

バシュゥゥゥゥゥ

 

次の瞬間、先端に取り付けられたロングビームライフルからビームが発射され、ファドゥーム一機を撃墜した。続いて新たに追加された武装の一つである肩部のミサイルポッドからミサイルを放出し、それによってもう一機のファドゥームが破壊された。

「馬鹿なっ!?噂のガンダムタイプでもない、たった一機にやられてるだと!?」

残されたファドゥームはビームサーベルを有線クローで掴み、ハルッグに特攻をかけた。だがハルッグも再びMSに変形し、手部マニピュレーターを駆使してビームサーベルを構えようとしたが、ここでネルソンはミシェの言葉を思い出した。

 

―――――――あと、武装の強化の他、更に踵部にも兵器を用意しておいた――――――

 

「……試してみるか。」

と、ビームサーベルを使うのを止め、そのままファドゥームに向かって行った。そして、踵部にある武器を使う事にしたのである。

 

ブイイイイン

 

すると、踵部からはビーム刃が放たれた。最初ネルソンは驚いたが、それも一瞬の出来事で、すぐさまファドゥームのコクピット目掛けてハルッグの足底部を上げ、そのまま下ろした。その時ファドゥームは機体が頭部から縦割れ状態になり、爆発した。いわゆる〝踵落とし〟で敵MSを破壊したネルソンは、驚きつつも笑っていた。

「ほほう、踵落としか。ミシェさんもなかなかユニークだ。ビームヒールと言ったところか?だが、こうやって使う武器では無いな……。敵機に接近された時に使う、カウンター武器と言ったところか。」

ミシェが隠していたハルッグの新たな武器、ビームヒールの威力を実感したネルソンはやや満足そうだった。だが、油断はできない。彼は引き続き敵の迎撃に移る。

 

 

 

戦況はセイントバードチームが優勢だった。新たに改修されたハルッグを筆頭に、セイントバードのMS乗りが奮闘している。

エスディアはビームバズーカをファドゥームに対して狙い撃ち、引き金を引いてビームを撃ち続けている。それと同時に、腰部のミサイルで敵機に対し、牽制を行っている。

「これは……凄く奇抜な機体だな。」

ガーストはそっと呟き、ファドゥームに狙いを絞ってビームバズーカを撃つ。見事に命中し、ファドゥームは一撃で破壊された。それに続くようにハルッグが高機動でファドゥームに迫って肩部のビーム砲を放出する。

「ふぅ、少し慣れてきたか……」

最初は凄まじい機動性に翻弄されていたネルソンだったが、徐々に慣れつつあったようだ。これもベテランパイロットとしての技量が生かされているのか、それは分からなかった。生まれ変わったハルッグの機動性の高さを見て、ガーストは驚きを隠せない様子だった。明らかに敵を翻弄しており、素早い動きで一つ、また一つと敵機を破壊しているのだ。

「チッ、来る!?」

その時、エスディアのレーダーに別方向から機体の存在を確認した。それも、三機。彼がシンギュラルタイプとは言え、三機同時に相手するのには一苦労と言えた。

 

ドォォォォォォッ

 

その時、地上からアインスがビームランチャーを構え、狙いを絞り、ファドゥームを破壊したのだ。援護射撃に感謝するガースト。だがこの時、彼はアインスのパイロットをスバキと思っていた為、ガーストはアインスに対して注意をした。

「おい、スバキ!前に出過ぎるな!出来るようになったからって……あれ……なんでレイが?スバキは?」

「実は、ちょっと事情があって、僕がアインスに乗っているんです!」

ガーストは、ネルソンとレイのやり取りを知らないまま出撃した為、その事実に驚愕していた。何せ、レイが一度故郷に帰ってからはスバキがアインスを駆っていた為、ガーストから見ればそれは違和感にしか思えないのだ。

「そう言えば、それは元々お前の機体だったっけな!」

会話しながらも、迫るファドゥームと交戦するガースト。展開したビーム刃はファドゥームの構えるビーム刃と拮抗し、その出力を上げ、勢いで敵を圧倒し、迫る。

 やがて腹部を貫き、ファドゥームは撃破された。しかし、地上に居るアインスに、別のだドゥームが迫っている。これに反応したレイは、後方へステップ移動し、ビームサーベルを展開して迫った。

「やああああああ!」

アインスはビームサーベルを用いて、ファドゥームの腹部を切り裂いた。だが、切り裂いた部分は腹部であり、胸部にあるコクピットには直撃していなかった。その為、上半身のみで稼働する事が出来る。それにより右手部に把持しているバズーカでアインスに向けて連射を続けた。

「クソッ、負けるかってんだよ!くたばれ!」

それを見たレイは驚きと同時に怒りを感じた。

「生きてた!?……じゃあ攻撃なんてしないで下さい!」

攻撃を加えてくるのなら容赦をする訳にはいかなかった。アインスはファドゥームに対してビームランチャーを構え、狙い撃った。それはコクピットに直撃し、パイロット諸共命を散らした。

「攻撃しちゃ……ダメなのに……」

抵抗するから、レイは敵を殺した。セイントバードを守る事を、常に考えて戦うレイは、敵が抵抗して攻撃してくる事を一切許さないのだ。

しかし、彼を別のファドゥーム二機が襲った。左腕部のクローを展開し、それぞれアインスの両腕部に巻きついたのだ。

「わぁっ!?」

線が巻き付く上、クローで固定されているため、身動きが全く取れない。それをバズーカで狙い撃とうとする二機。レイはピンチに陥ってしまった。抗うように、頭部機関砲で威嚇射撃をするが歯が立たない。

「うぅ、このままじゃ……」

迫るバズーカの弾。もし直撃すれば大ダメージは逃れられない。最悪の場合死に至る危険もある。アインスの装甲は最新鋭機に比べてどうしても劣ってしまうので、ファドゥームのバズーカでも致命傷になり兼ねないのだ。

その時、二つのバズーカ弾の内、一つが撃ち落とされた。落としたのはネルソンの青いハルッグだった。そのついでに片方の有線クローを切り裂いた。

「大丈夫か、レイ。」

「ネルソンさん!バズーカが!」

だがもう一つのバズーカ弾が襲う。幸い有線クローが切り裂かれたのはアインスを縛っていた左腕部だった為、シールドを使う事が出来た。バズーカによる衝撃は、それで防ぐことが出来た。

シールドを展開した事により、ダメージを負う事は避けられた。それを見届けた後、ハルッグはビームサーベルを展開し、有線クローを切り裂いた。そして、アインスは自由になる。そうなれば反撃に出ることが出来た。ビームライフルで狙い撃ち、レイを苦しめたファドゥーム一機を破壊した。次にネルソンがビームサーベルでもう一機のファドゥームを切り刻み、破壊した。

 彼等の活躍もあり、迫るファドゥームの数は、少しずつ減って来ている。この調子ならば撃退も出来そうだった。

 

 

 

 セイントバード内の、エレンの居る部屋にて。スバキが隣で彼女と話している。弟を失ったばかりのエレン。失意の底にあった筈の彼女は、メナンの存在によって笑みを浮かべた。それを機に、先と比較しても暗い表情では無くなっている。

 一方のスバキも母親を亡くしている。戦争で父を亡くし、新生連邦によって母を亡くした彼女もまた、天涯孤独の身。エレンと同じだ。頼れる親戚も、いない。だからここが彼女の居場所。それは互いに同じなのだ。

「家族が死ぬのって……何だろうな、考えられないよな。事情は色々とあれど。」

それを言えるのは、スバキ故だ。彼女でなければ言えない台詞である。

「スバキも、家族さんを亡くした事あるんだ……」

「うちは両親だ。一人っ子だったし、戦争で父親が死んで、母親も今年に死んだ。エレンと同じように塞ぎ込んでたよ。でも、あいつが居てくれたから立ち直さなきゃって思った。」

「それって……レイの事?」

スバキは静かに頷いた。

「あいつは不思議な奴だ。女みたいな顔してて、本当にナヨナヨしてる。家族も故郷に居てるから、一見すれば恵まれてる奴だけど、不思議なのは、あいつは行動する時は本当にするんだよ。あいつが居なかったら今頃私はずっと孤独だったと思う。新生連邦に良いように利用されてたと、思う……」

強気なスバキから語られる言葉に、エレンは興味を抱く。

「あの行動力というか、変な所で正義感がある所なのかもな……それが、あいつの魅力なんだろうなって思った。」

それ以上の言葉は言い辛そうにしている。恥ずかしいのだろうか、どこか、言葉が止まっているようだ。

「あいつ、幼馴染の彼女も居るんだぜ。あんなナヨナヨ野郎に彼女がいるなんて、ホントびっくりっていうかさ!」

いつしかレイの事ばかりを語っているスバキ。彼女自身も、何故これ程彼の事について語るのかが不思議で堪らない。

「なのにあいつは、その……お前から抱き付いたとは言え、あんな、ふしだらなところ見せやがった。それも腹が立つっていうか……」

スバキは怒りを見せれば行動に移す人間だ。一見すれば、分かりやすい人間に見える。しかし、その裏にある愛慕は上手く表現が出来ない人間でもあるのだ。

「私ね、レイに恋人が居ようと関係ないと思ってる。」

「え?」

スバキは、驚く様子を見せた。

「レイは私の話を聞いてくれた。それに、氷河族に囚われている時も身を挺して動いてくれたの。とても、嬉しかった。それもあるのかな。私、レイの事を純粋に好きで居たいって思ったのは。」

「好き……?な、何言ってんだよ!あいつにはリルムが居るんだぞ?」

「居たとしてもそんなの、関係ない。」

この言葉はエレンの強さなのかも知れない。リルムが居て、諦めるスバキと、それでも慕うエレン。彼女達の違いが、露呈した瞬間だった。

「人間は心の中で何かを想うのは自由だよ。仮に叶わなくても良いと思うの。私はレイの事、好きだよ。それを伝えたとして、別にどうのこうのじゃないよ。好きと言ってその人との、関係性が破綻するのかな?嫌いならまだしも。」

それは個人に寄るかも知れない。不快に思う人間から好意を示されれば、それは嫌に捉えてしまうかも知れない。

 だが純粋な気持ちは違うと考えられる。今まで言えないでいた、“好き”という感情を伝えられて、それを不快に思う人間は恐らく少ないだろう。無論、全てではないが。

「分かんねえよ……そういうの、疎いし……」

普段強気な人間であるスバキは、レイに対し、改まった感情を見せる事は出来ないと、自分で壁を作ってしまっていたのである。それを崩す事は、恐らく、難しい。

「スバキって怖い人だと思ってた。でも、違うんだ。女の子なんだ。やっぱり。それが良いと思うよ、うん……」

「そんなの言われても、知らない……」

スバキの中の感情は混乱している。いつしかレイに対して芽生えてしまった感情が、彼女という人間を混乱させている。幼馴染という壁を破り、交際に至ったレイとリルム。その壁を破るのは、一層難しい。増してや、自分というキャラクターが出来上がってしまっている状況で、相手に想いを伝えるなど、出来る筈が、ないのだ。

(私は……クソッ……こんなの……)

スバキは、余計に混乱しつつあった。その中で、彼女はセイントバードを守る戦士として、戦って行かなければならないのであった――

 

 

 

それから時間が経過し、最終的には敵のファドゥームは三機残して撤退していった。その後全員帰還し、皆MSデッキに戻っていた。その際、戦いに出たセイントバードクルーの内ミシェはネルソンとレイを呼び出した。

「どうだった、あのハルッグは。」

「あれは並のパイロットが使っては危険ですね。機動性が高すぎる。慣れるのには時間を要しますよ。」

「あれはお前だからこそ……あれは扱えたと言ったところか。」

「どうだろうか、なんなら貴方が乗ってみますか?」

ネルソンは冗談混じりで言った。

「俺は昔から整備士だ。戦闘用のMSに乗った事は実はあんまりない。ましてやそんな高機動MSなんて乗れるか。どう見てもエース用じゃねえか。」

多少笑いながらミシェは言った。同様にネルソンも微笑する。だが次にレイを見た時、ミシェの表情は元に戻った。

「お前の実力、見ていたけど……確かだったな。先日は疑って悪かったよ。」

「いえ、そんな……」

少しレイは照れた様子だった。

「さて、ハルッグの試験も出来ました。戦力の補充も感謝しています。ミシェさん、改めて礼を申し上げます。ありがとうございます、それと、お気をつけて。」

と、ネルソンが言った時、ミシェは咳払いをして、言った。

「何勝手に別れさせてるんだよ。俺はな、ここを離れてセイントバードの整備士をやる予定だ。もうすぐな。」

「……え!?」

二人とも同じ驚き方をした。ミシェの言葉に耳を疑った。

「それも俺だけじゃない。昨夜セイントバードに付いて来る人間は居ないかってメンバーに声を掛けたら、殆どが付いて来るって言ってくれたんだぜ。ありがてぇ話だろ?」

ミシェの、やや強引な決断が、セイントバードの新たな仲間を作る事になった。

先日の、氷河族の襲撃によってセイントバードの整備士は、大半が死んでしまった。中でも整備士長だったシンの死は、チームには大きな損失と言えた。

今回、ミシェ達率いるジャンク屋のメンバーが整備士として入ってくれれば、補充要員と言った形で確かにセイントバードとしては助かる。だが、ネルソンはやや複雑そうな表情をしていた。

「大丈夫……なのですか?」

「問題はねえな。少なくても。後はエリィがどう判断するかだぜ。」

「……なら、後で艦長に聞いてみます」

レイもミシェの突然の新入クルー宣言に驚きを隠せない様子だった。今の彼には、この宣言を堂々としたミシェの姿を呆然と眺めるしか出来なかった。

 

 

 

 ミシェの宣言を、エリィは快く受け入れた。シン亡き今、セイントバードの新しい整備長が加わるのは非常に有り難い。それも、彼等の馴染みのある人間である、ミシェが加わる。それに祝福する者や、戸惑う者も居るだろう。

「ミシェ・ジンバルドだ。死んじまったあいつの分、キビキビ働くからな。俺の事知っている奴と、知らない奴がいるだろうが、とにかく、仲良くすりゃ良い。宜しく頼むぜ。」

ミシェの言葉が聞こえた。MSデッキ内は拍手が鳴り響く。

 セイントバードの戦力の増強が完了した状態で、残る、やるべき事はメナンをヒパック村に送る事だ。それを行い、無事に完了すれば彼等の仕事は終わり、旅立つ事が出来る。

 レイは再びシャルアに電話を掛けた。メナンをヒパック村に戻したいと、伝える為である。

「あの、シャルアさん。すみません。メナンの事なんですけど――」

と、レイが言った時――

『ごめん、そっちで預かって貰って良い?』

予想外の言葉が出てきた。何故?どういう事なのか。

「え?どうしてですか?」

『ヒパック村がね、またしても氷河族の構成員に襲われたの。幸い大きな損害は無かったけど、やっぱりまだまだ安心できる状況じゃないわ。下手に動いて何かあっても危険だし、セイントバードで暫く預かって置いて貰える?世界情勢も不安定だし、多分、まだそっちの方が安全だと思うから。』

まさかの言葉だった。とはいえ、シャルアがそう言うのなら仕方がない。不安定な世界情勢で、いつ何時戦闘に巻き込まれるか分からない。それならば、今、この艦にいる方が安全だ。それを理解した上で、レイは静かに言った。

「……分かりました。」

『ねえ、奴隷。絶対にあんた、死ぬんじゃないわよ。それだけは言っておくわ。じゃあね。』

と言った後で電話は切れた。最後の言葉は、彼の事を心配するが故の言葉なのだろうか。

「おーねえちゃんなんかゆうてたか?」

「暫くここで預かる事になるって。メナン、お姉さんの所行けないけど、大丈夫?」

普通、肉親の側を離れている事は寂しさを感じるものだ。特に彼女のような幼女ならばそれは著明に見受けられるだろう。

 しかし、メナンは表情を変える事なく、言った。

「れいそばにおるからええぞ!りるむねえちゃんとか、いかついねえちゃんとかもおるしな!ほかにもいろいろ!ここ、メナンのてんごく!」

それは幸いだった。どうやらこの場所を気に入っているようだ。それに、救われた。万が一メナンがここを嫌がるようだったら、この先の航行もどこか気まずいものになっていただろうからである。

「これはこれで、良いんだろうけど、なんだか、なぁ……」

レイはそっと、溜息を吐いた。それでも構わず、メナンはレイの足元に寄り、そのまま抱き付いている。彼の事が、余程気に入っているのだろう。

 

 

 

やがて夜になった。今年最後の夜は、大抵は夜中の0時にカウントダウン等のイベントで盛り上がり、楽しむものであるとレイは当たり前のように思っていた。彼自身、MS乗りとして戦う以前はごく普通にこの日をのんびりと過ごしていたのである。しかし今はその事をしている余裕等、無かったのだ。

明日にはセイントバードは飛び立つ。ここで起きた様々な出来事は忘れない。忘れたくても、忘れられないのだ。多くの悲劇があったこのオスロの地の最後の夜。そして、何よりも今年最後の夜でもある、この日。今、レイは自身の部屋のベッドの上で、天井を呆然と見つめていた。

 

ウィィィィィン

 

その時、部屋に誰かが入って来た。ふと、その方向を見てみればエリィがそこに居た。それを見て、すぐに体制を整える、レイ。ベッド端坐位姿勢を取り、彼女に視線を合わせた。

「やあレイ君。ハッピーニューイヤーだね!」

「エリィさんですか……あの、まだ年は明けてませんよ?」

「気分は年明けだよ!本当に、今年は色々とあったけれど、生きて年を越すことが出来るのは本当、有難い事だからね……」

明るい表情と、どこか憂いを帯びた表情。その両者が照らし出されている状態。

それと同時に、エリィはレイの傍に寄り、彼と同じ姿勢を取った。

「あのね、レイ君。」

腰掛けたと同時に、エリィが話をし出す。

「先日にね、セイントバード結成の秘密が知りたいって言ってたよね?」

その言葉は、エリィ自身が発言を拒否した言葉だ。セイントバード結成の秘密。レイは気になっているようだったが、彼女は話をしなかった。それを、自ら掘り下げたのである。

「あ……はい。あ、でもそれでしたら前に言って下さった通りですよ?話せないのでしたら、無理をして話して貰わなくても……」

「ううん、もう隠す必要が無くなったから。」

「……え……?」

予想外の言葉に、レイは驚愕した。

「前は長過ぎるから言えないって言ったでしょ?あれ、嘘。長いと言えば長いけど、極端には長くないよ。それにね、レイ君はせっかくクルーとして今まで頑張ってセイントバードを守ってくれてるのに、何も知らないなんて嫌だよね。だからさ、もう、この際だし言っちゃおうっと。」

以前聞いた時は〝言えない〟ときっぱり断ったエリィ。だが隠す必要が無くなったと言って、自分から過去を明かすようになっていた。これは一体どう言う事なのか、当然レイに理解できるはずがなかった。

強いてきっかけがあるとすれば、クリスマスイヴに襲ってきた氷河族と過去に何らかの関係があった事か。それを機に喋るようになったとしか、考えられなかった。

「あの、先日に襲って来た氷河族……」

次に彼女が言った台詞は、口元が震えていて若干おかしく聞こえた。それ程に、その“言葉”を読み上げるのが辛いのだろう。

「あの氷河族の中にいる人間の一人にウネフっていたでしょ。あの人ね、実は戦後になって数日間だけど憧れていた事があるの。そうね、あの人と出会った時ぐらいから大尉と出会った。」

語られていく、彼女の過去。戦前の事は以前、キプロス島にて語っていたのだが、戦後今に至るまでの話は聞けていない。エリィの隠された過去が、明らかになって行く。

「戦後間もない頃ね、私は軍を辞めて学校の先生になろうとしていたの。戦争の悲惨さを伝えていくには、教師が一番良いのかなって思ってた。地球連邦軍を退職した際の、退職金を元手に教育機関で教師の資格を取ろうと、地球で過ごしていたの。」

「前、言ってたやつですか……?」

「そう。」

フロリダで彼女が言っていた言葉。戦後に教師になろうとしていた事。それが今、再び語られた。レイへの家庭教師を行った事も、この経験が由来なのだ。

「でも、戦後の状況で荒れていた地球上は、生き残った荒くれ達が暴動を起こしていた。私が通っていた学校の国は、一時的とはいえ無政府状態になっていたというのもあってね、結局学校は破壊されちゃった。だから、結局教師の夢は諦めざるを得なかったの。当時臆病だった私は、ただ、何も出来なかった。元軍人の癖に、情けない話だよ。」

デウス動乱後の世界と言うのは、荒んだ世界だ。レイ達はそれを、肌身を持って体験することは無かったが、別の場所ではこうした現実があるのも、事実なのだ。

「でも、それとウネフって人とどういう関係が……?」

「まあ、ここからだよ。」

エリィは、引き続き過去を語っていく。

「それで目的を見失っていた頃に寄ったバーで、あの人に出会ったの。ウネフ・ミカハラ。彼女はその時、医者をやっていて、偶然隣に居た彼女と、私はすぐにあの人と仲良くなった。けれどもその正体が、氷河族だなんて夢にも思わなかったけどね。」

戦後の混乱期を経て世界中に勢力を拡大している犯罪組織、氷河族。その時はまだ組織自体が大きく成り立っていない頃であったとは言え、十分、犯罪組織として蠢いている頃だ。エリィとウネフがそこで出会ったのは、ある意味偶然であり、運命だったのである。

「その時、既に彼女と大尉が同じ医者同士で、地球上で困っている人々に対して治療を行っていたの。大変な状況でありつつも、人の為に役立っている彼女達の姿が格好良いなって、思えた。」

この時、ウネフとネルソンは知り合っていたのだ。そして、同じ医者の好として、ネルソンの場合は医師免許が無い中で人の為に動いていたのだという。

 しかしウネフはその目的が大きく異なっていた。彼女の場合、医療行為で得たその金銭を組織への上納金や、自らの悦楽の為の資金にしていたのだ。純粋に人間の為に活動しているネルソンと、思惑のあるウネフの価値観の違いは、やがて二人を対立させていく事になる。

とはいえ、“憧れていた”と言う辺り、当時のエリィから見たウネフの印象はそれ程悪いようには見えない。だが今のエリィは紛れもなく、ウネフに対する憎しみを表しているような表情を浮かべていた。今は亡きウネフ・ミカハラ。彼女がエリィに与えた悪夢は、一体、どのようなものだったのだろうか。

「戦後になって人の為に献身的になっている人達を見て、自分にも出来る事をしたいと思っていた私だったけれど、ウネフは私の想いを踏み躙った。彼女の行っていた“医療”というのはね、人を意図的に解剖して、それらを組織に献上するという事だったの。」

ウネフ・ミカハラは医者である。だがその行為は明らかに医療倫理からかけ離れている行為だ。人を解剖し、それを組織に売り、そして資金としているという、残虐な人間。戦後と言う状況で人間の数が減った状況を利用したビジネス。その悪質極まった事を、当時から行っていたのだ。

「戦後の世界で人間の数が少なかった時だから、人間の“身体”というのは大変貴重だった。ウネフは自らの立場を利用して、弱った人間の身体を売りさばいて行った。それを知る事になった事があってね。そこから私は逃げたの。全ては、氷河族に繋がる事だったから。人を平気で殺し、それを売り物にするという残酷な行動。彼女はそれを平気で行った。」

「そんな……」

現代でもウネフはアスーカルの違法な取り立てを行ったり、ホルステブロでも人身売買に貢献したりと悪業の限りを尽くしていた。そのような人物が医者だというのだ。ネルソンのようなモグリの医者とは雲泥の差である。

「でも、大尉は私を支えてくれた。それを見ていた大尉がウネフから距離を取ってくれたの。彼女は残酷に人を殺してそれを商品としていた。あの時は、ただ、逃げるしか出来なかった……同じ医者だと、思えなかったから。恐ろしいとさえ、感じたから……」

それから彼女達は会う事なく、経過していた。しかし何の因果か、この場で再会し、クルー達を負傷させた女に対し、制裁を加えるが如く、エリィが引き金を引き、女の一生を終わらしたのだ。全ては、クルーを守る為に。

「そんな事があって、一度大尉とは別れたの。もう、忘れるようにと言われた。でも……何の因果かな。それから、ウィリアさんとミシェさんに出会ったの。今から四年前。その間、実は大尉とは半年ぐらいメッセージのやり取りをしていて、突然向こうから久し振りに会ってみないかって誘われて。」

ウネフの一件の後で、起きた事を話すエリィ。そこで出てくる、“ウィリア”や“ミシェ”というワード。

「久し振りに大尉と会った時……突如、町がMS乗りに襲われたの。デウス帝国のMSに乗って突然町をビームライフルなどで攻撃してきて……町の人のほとんどが死んじゃった。ならず者だったの。金目当ての酷い人間達だった。逃げるしかない状況だった。ただ、ひたすらに。」

MS乗りにも様々な人間がいる。セイントバードのように、無意味な略奪行為は行わず、スクラップなどを売却して生き残っている者もあれば、当時のMS乗りのように町を襲って罪のない人間達を抹殺し、金や食糧を奪う盗賊行為を行う者もいる。レイはセイントバードが優しい人間達で構成されていると言う事を再認識した。

「でもね、その時にウィリアさんが助けてくれた。避難用の地下シェルターの場所を知っていて、避難させてくれたの。その際、大尉が近くにあったMSに乗って盗賊達と戦い始めたの。町は襲わせないって言って……その時は驚いたな。彼が元デウス軍と言うのをそこで知ったのだから、無理もないか。」

過去の時点で、ネルソンはMSに乗っていた。そして、戦っていたのだ。

「でも戦後以来MSに乗っていなかったあの人には、やはりブランクがあって……お陰で大尉も盗賊に殺されそうになってた。でも、その時にミシェさんが率いるMS乗りが助けに来てくれて……盗賊達は撤退したんだよ。」

「その頃から、ミシェさんって居たんですね。」

全ては偶然だったのだ。彼等がこうして出会って行ったのは、紛れもない、偶然。

「ちなみに、ミシェさんは当時あるMS乗りのボスをしていたのよ。そこからミシェさん達が大尉を助けて、私もその時助けてもらって、数日間だけど彼が指揮する艦に滞在させてもらったことがあったな。聞けばウィリアさんはミシェさんと知人関係で、色々と情報を教えて貰ったりしていたそうなの。」

情報を扱う人物であるウィリア。彼女はこの頃から、ノード・ベルンの事を収集していた。その上で、氷河族に所属していた。皮肉にも、あのウネフ・ミカハラと同じ組織に所属していたのである。

「私はミシェさんのMS乗りとしての行動を見て、何かをする人間に対して憧れを抱くようになった。大尉達が行っていた、医療行為に対しても憧れがあったけれど、やはり、改めて誰かの為に、何かをしたい、自分にとって今できる何かをと、思ってた。幸い、元軍人と言うキャリアがあるのなら、それを利用してMS乗りとして戦っていくのも悪くないって思うようになって……その考えに真っ先に乗ってくれたのが大尉だったの。」

「じゃあ、それから……MS乗りを始めた訳ですか?」

「ううん、実はその時はまだ。考えただけ。その事をミシェさんに相談したんだけど、よく反対されたっけ。」

苦笑いを浮かべながらエリィは語り続けている。

「それでね……しばらく滞在していた時、補給の為に艦がある町にやってきた時。当時の地球連邦軍が、何故か町を蹂躙していたの。そこはかつてのデウス帝国の領土だった。けれど、もうそこは本来デウス帝国の存在が居なくなって、機能していない筈だったのにも関わらず、地球連邦軍は民間人の言葉に耳を傾ける事はしなかったの。デウスの残党狩りとか言って、容赦なく民間人を抹殺していった。あれは、デウス帝国に相当な恨みを持つ人間達による独断と見て間違いなかったわね。」

デウス動乱終結後の世界では、敗戦国、デウスに恨みを抱く人間は居る。それらの領土となっていた町は、地球連邦軍からすれば格好の餌食だったのだ。これにより罪なき民間人が殺されるという残酷な光景。敵対している者同士が引き起こす、残酷な行動。これが人と言う存在の行う愚かな行為なのだ。

 そして、それは今の時代になっても、あろう事か同じ地球上の人間同士で行われているのである。

「ミシェさん達はこの様子を見て即座に自分たちのMS乗り達を発進させた。それは良かったんだけど……やっぱり連邦軍は正規軍というだけあって、力が圧倒的過ぎた。結果、MSは全滅。私達は戦艦から脱出して、どうにか一命は取り留めた。けど……まさか元々所属していた地球連邦がこんな事をしていたと言う事実に衝撃を受けたことには変わりがない。それから、無論、連邦はこの事実を抹消した。SNSでもネットでもこの情報は流れないよ。今もそうだけれど、当時から存在していた情報部の存在によって、連邦軍にとって都合の悪い事実を抹消するからね。」

足をバタバタとさせ、エリィは語り続けている。自らの過去や、そこからセイントバードの結成に至るまでの、話を。

レイはそれを聞き、耳を疑った。あまりに身勝手な連邦のやり方に、苛立ちを覚えていた。

「抹消って……そんなの勝手じゃないですか……昔からそうだったんだ……連邦軍って、何なのかな……僕は地球で暮らして来たから、地球の為にデウス帝国と戦っているとばっかり思ってました……」

新生連邦になってから軍備増強が更に進んだと思われたが、それ以前から一部の連邦軍がこうした身勝手な行為を行う事で、殺されていた人も存在する。所謂残党狩りという連中であり、デウスに恨みを持つ者が集まり、それらを根絶やしにするという残酷な行為。そこに正義も悪もない。純粋な虐殺行為だ。それを、当時の連邦軍が行っていた。

「結局は一部の人間がそうした事を行うから、憎しみが続くんだろうね……それは今の時代で更に広がって行っているけれど。民間人が殺されたって情報が拡散されたら、当然ながら軍にとっても不具合なの。だからこうした情報は全て抹消して自分達の都合のいいようにする。現地の人間の声なんて、SNSで発信した所で伝わらない。当人にしか、それは分からない。それが当時の連邦や、今の新生連邦も一緒。元軍人という立場からすれば、これ程悔しいことは無かったな。」

彼はただ、俯いて黙るしか出来なかった。新生連邦に対して文句を言いたくても、その人間がこの場にいないからだ。

「私がね、MS乗りになりたいって思ったのは、地球連邦のその襲撃がきっかけだったかな。ミシェさんは負けてしまって戦艦を連邦に奪われて……この屈辱を晴らしたい上で、もっと人の為に役立つ事をしたい。それらを合わせたMS乗りになって、行動していきたいって、決めたの。そして、戦後で荒れ果てた世界情勢の中で、ならず者やテロリスト、武装勢力、そして連邦軍等によって蹂躙されていった人々に対する、慈善活動のような事をしていこうと考えていたの。」

MS乗りの目的は人それぞれだ。純粋にジャンクパーツを集める者や、縄張り争いを行う者も居る。その中で、エリィ達は、人の為に役立つ事をしたいと、考えていたのである。

「それを聞き入れてくれたミシェさんはここ、オスロでジャンク屋を営むようになった。その際だよ、大尉がハルッグを彼から貰ったのは。そして、ウィリアさんは既に旅立った後だった。」

「あの人、ずっとここで……」

その町が連邦に襲撃されたのは現在から約四年前。それ以来オスロでジャンク屋として働いているミシェ。

「そうした事も経験して、今の自分ではダメだって真剣に悩んだ時があったの。だから明るく振る舞えるように、精一杯努力しなきゃって思うようになって……今の私、十分に明るく振舞えているかな……?」

ここで、彼女のきっかけが明らかになった。戦後から、多くの経験をしてきたエリィ。そして、協力者として存在していたネルソンやミシェ、そしてウィリア。これらの出会いが、彼女を大きく動かしていったのである。

「最初は普通に元デウス軍の陸上戦艦で活動していて……でも、新生連邦政府が樹立した後に、様々な場所を移動する為に新たな空中戦艦が必要になった私達は、新生連邦から何らかの戦艦を奪取しようとする作戦を思いついたの。」

「もしかして、それがセイントバードですか?」

エリィは、自らの指をぱちんと鳴らし、示指をレイに向けた。

「そう!その通りだよ。何故あの戦艦を選んだのか。あれを選んで、私達の活動拠点にしたのか。それは、更に行動範囲を広げたいという理由もあったし、何よりも、自分達が慈善活動を行うに当たって、強い戦艦が必要だと、思ったんだよ。」

ヒエラクス級と言う、超大型の空中空母を奪うという行動を起こしたエリィ。その行動自体が、ある意味非常識と言える行動だが、あろう事か、彼等はその奪取に成功したのである。

 大気圏内の連邦軍の所持する戦艦の中で最大規模を誇るヒエラクス級。何かを守ったり、救っていく中でその絶対的な強さが必要だと考えていたエリィは、当時のクルー達を集め、セイントバードを奪取したのである。これは、ある意味デウス領であった町の人々を皆殺しにした連邦軍への報復とも言える、行動だったのである。エリィ自身にその意図はなかったのだが。

「その中に偶然あったのが、ジャスティス十二機。大尉のハルッグを合わせれば十三機。セイントバードが最初に始まったのはその戦力から。メンバーは、各地から集めたよ。その際にインクやスラッグ、シン君も居てくれた。でもやっぱり、強襲をされたりすれば命はいくつあっても足りない。何度か殺されかけたし、機体も損傷しつつ、どうにか今日までやって来れたの。」

それが、セイントバードのエピソードゼロと言わんばかりの出来事であった。つまり、元々別のMS乗りをしていた彼等が、連邦軍の強襲をきっかけとしてセイントバードを盗み、それを使って世界各地に非営利活動を行っていたという事なのである。

「それから、セイントバードは独自の機体にカラーリングを変更したり、改修しようって話になった。あのジャスティスを改造して、別の機体に出来ないかと思ったから、そこからフラッグシップMSとしてトルクスに改造したという訳なんだよ。」

「そうだったんですね……」

セイントバードオリジナルMSであるトルクス。その機体の性能はジャスティスの改修機と言ったレベルではあるが、セイントバードチームには欠く事の出来ない存在として、今日まで至っているという訳なのだ。

「ただ……活動していくにあたって資金面の問題があったの。ミシェさんのコネクションがあったりして、各地に知人は出来たし、日本にいるシュアーさんとかも、彼と繋がりがあるが為に援助とかして貰ってた。でも、やっぱり活動していくにはお金が必要。その為には何かしらスポンサーが必要になっていたの。それが、氷河族……」

エリィの声が、小さくなっていく。セイントバードが母艦になるにあたり、連邦とも衝突していく可能性も十分に考えられる。その上で隠れながら活動していくには、金銭の存在は必要不可欠。

 当時から裏社会を牛耳りつつあった氷河族という、背景が不透明なスポンサーを付けつつも、活動していきたいと、考えていたエリィ。

 だが実際はアスーカルが経験したように、法外な上納金を収める事をしなければならないという現実。下手をすれば、非人道的な行動さえしなければならない可能性も出て来た。彼女の意向としては、そのような真似は避けたい。金を得る為に他者を蹴落とすような事はしたくない。その中で、彼女達は慈善活動を続けていたのだ。戦後の復興等を助けるMS乗りとして、在り続けた。荒れていた時代を少しでも支える存在として、在るべきと考えた。

「もしかして、あの時この事を喋りたくないって言ったのって……」

レイは、聞いた。恐らく……いや、間違いない。その、組織がセインドバードに一時的とは言え絡んでいた過去があったからだ。

「レイ君の察しの通りだよ。慈善事業としてやっていこうとしているのに、その出資者が反社会行動をしている組織っておかしい話でしょ?でも、一度関係を持ってしまえばその縁を断ち切るのは難しい。多分、一生付き纏うと思う。ある意味、セインドバードの、“黒歴史”ってやつだね。」

スポンサーの存在というのは、信用問題に大きく関わる。その組織が信用出来ない存在であれば、いくら“慈善事業”と言っても胡散臭いと思われてしまうのは当然。エリィは、それをレイに隠したかった。しかし、先の出来事を経験したエリィは、もう隠す必要がなくなったと、判断したのだ。

「MS乗りは社会的信用なんて皆無に等しい。増してや、戦後と言う状況で荒れた世界でそれに出資をする組織なんて存在し得ない。だから、裏社会の存在を頼るしかなかった。」

エリィの視線が、一度床を向く。セイントバードに実際にあった、過去。レイが彼女達と出会う前の、出来事だ。

「人間が生きていくのって難しいんだよ。お金を出資してくれる人が居るのは良いかも知れないけど、その人間が悪い事で利益を納めてしまっている組織であれば、その存在そのものが怪しく思われてしまう。一人の人が幾ら戦後の復興の為に行動しているとは言え、その背景に反社会組織が絡めばそこの信用は無くなってしまう。純粋な善意と、生きていく為の行動というのは違う。純粋な善意だけで、人は生きられないんだよ。だから、私って悪い大人なの。セイントバードチームは慈善活動を行う為に活動しているのに、結局は悪い組織から出資されていた過去がある。これも矛盾なんだろうな。うん。」

旧世紀より、資産が豊潤にある大国がその経済力を利用し、近隣国を牛耳るという事はあった。大国の経済力に魅入られた、近隣国の議員等はその大国の為に有利になる様に内部工作を行って行き、自国を腐敗させる原因を作っていった。そして、その大国そのものは侵略行為を容易に行い、武力によって他の近隣国を制圧していく。それは、新生連邦に於いても言える事であり、新生連邦に加盟しない国は武力行使を行ったり、その経済力を使って内部から腐敗をさせる事もしてきた。

 信用出来る組織と信用出来ない組織というのは、人の存在が大きく関わってくる。組織のトップが信用出来なければ、その瞬間、信用出来ない存在として在り続ける。今のレヴィー・ダイル、ギルス・パリシムがそれに該当する。

「そして、氷河族から金銭を受け取りながらも行動をしてきた私達だったけれど、幸い、それを見ていたジャンク屋のチーム達が協力してくれる事があったの。この協力がなければ、今でも氷河族に貪られていたのかも知れない。彼等は一度スポンサー契約してしまえば、骨までしゃぶり尽くすから。知人のMS乗りもそれで破綻してしまって、他のMS乗りにやられた事があったから。」

(アスーカルさんだ……)

彼は、アスーカル・エスペヒスモの台詞を思い出した。

 

―――――――――――――相手を騙してでも!相手を傷つけてでも!相手が不幸になる結果になったとしても!それでも狩り続けなきゃならねェのよ――――――――――――

 

彼は戦後の混乱を経てMS乗りを結成した。だがその出資者が悪かった。氷河族だったのである。故に、貪られた。そして、敵を狩らなければならない状況に陥った。やがて彼は全てを失い、死んだ。

「その氷河族の中に居たのが、あのウネフ……彼女とは思わぬ形で再会したという訳なの。結局は組織の人間として、あらゆる活動をしてきたのよね。あの人は。そうした事もあって、今があるの。あの時、モントリオールでアインスガンダムを回収して、そこからレイ君と出会って……これが、セイントバードチームのオリジンってところ。お話、長くなっちゃったね。」

全てを知ったレイは、この一連の物語にただ、関心を抱いていた。セイントバードが今に至るまで。その間、彼女達は慈善活動を行いつつ、様々な勢力と戦ってきたのだ。それ自体が矛盾と言われようとも、チームを守る為に、その力を付けた。彼女達の活動の中で、強力な戦艦の存在が必要だった。それこそが、連邦軍のヒエラクス級という訳だ。

 彼等は戦闘に巻き込まれたりして、慈善活動行為を行う事が出来ない期間もあった。それが、新生連邦に寄る襲撃が相次いだ時だ。アレクサンドリアを出発した時や、日本を離れようとした時……等。しかしレイが故郷に居る間や、ヴァイダーガンダム襲撃からの期間等は、彼等なりに活動を、合間を縫って行っていたのである。その内の一つが、ヒパック村の復興という訳だ。

「ありがとうございます。色々とお話してくれて……大変だったんですね、本当に……でも、このチームがここまで居続けられたのって、エリィさんの人間性もあるのかなって、思ったりします。皆がエリィさんに付いて来ていますから……凄いですよね。本当に――」

 

ギュッ

 

この時、レイはその、シルクのような手に顔が覆われる感触を覚えた。その事に、驚くレイ。

「まさかレイ君を再び抱き締めちゃうとは思わなかったな。もう、こういうのはしないでおこうと思ってたのに。」

「……え、どうして……」

「なんかさ、こんな駄目な艦長なのに優しく言ってくれるレイ君に感謝しないと行けないって思った。それだけだよ。フフ……」

何故だろうか、エリィの優しい言葉はレイを喜ばせている。

 彼女との出会いは一年前。生死を彷徨っていた時に目覚めたレイは、エリィと同じ、力を持つ人間として認識されていった。そこから互いに意識を始めて行く。それはまごう事なき、不思議な、感覚と言えた。

「おやすみなさい、レイ君。もうすぐ年明けだね。来年も宜しくね。」

今のエリィは、どこか垢抜けているように見えた。今まで語れていなかった事を語った為だろうか。セイントバードは、多くの人間が関係し合い、成り立っている戦艦である事を、レイは改めて実感するのだった。

 

 

 

やがて、今年は終わった。P.C0007年の幕開けである。この時、メディアの中継で新生連邦本部の様子が映し出されていた。本部の周りには多数の量産型MSが存在し、色鮮やかな花火が無数に打ち上げられていた。戦争中の兵士に対する気休めなのかは知らないが、レイはこれを見てあまり快く思わなかった。花火の美しい色も、今のレイには純粋に見ることが出来ない。新生連邦の暴虐を、今まで目の当たりにしてきた為である。

 しかし、今は夜中だ。眠気もある。レイはそのまま、ベッドで眠りに就こうとしていた――

 

ピピピピピピピッ

 

部屋の中にあるモニター電話に反応があった。それを確認する、レイ。そこにはエリィの姿が映し出されていたのだ。

「ハッピーニューイヤー、レイ君!でも今はそれどころじゃないや。ごめんなさい、おやすみなさいって言ったばかりなのに悪いけど寝る前にブリッジに来てもらえる?」

「え?は、はい!」

突然のエリィからの連絡に動揺しつつも、急いでレイはベッドから立ち上がり、走ってブリッジに向かうのだった。

 

 

 

ブリッジに行くと、エリィを始め、ネルソンやスバキ、ガーストといった、セイントバードの主要パイロットが集まっていた。その中にはミシェの姿もあり、皆を集めている〝何か〟に対してじっと視線を注目させている。

「集まってくれてありがとうございます。つい先程、ジャンヌさんから連絡がありました。今から皆さんにデータを見て貰いたいと思います。」

夜中にも関わらずクルー達を呼び出したエリィ。クルーが集まるのを確認した後、彼女は目前に置かれていたコンピュータを操作する。

すると、ホログラムが突然現れた。その姿はジャンヌ・アステルに酷似している……いや、彼女本人だった。

「え……!?これは……」

その存在に驚くレイ。何度か瞬きをし、本物そっくりに見えるそれをじっと、見ていた。

『セイントバードの皆さん、こんにちは。ジャンヌ・アステルです。このホログラムデータがそちらに届く時間帯は不明な為、時間帯に応じた挨拶が出来ない事が正直残念です。』

挨拶の事について言うジャンヌ。その様子は、明らかに真剣な表情そのものだ。

 彼女が口にする内容は、恐らくヴァイダーガンダムの事だろう。あの恐るべきジェノサイド・マシンがオーストラリアに現れたという事は聞いている。その詳細について話があると、予想出来た。

『オーストラリアに居る平和国連盟の人物と連絡を取り、そこにいる巨大兵器を始めとした大部隊を、新生連邦軍は編成中です。これを止める為には、シュネルギアもそうですが、セイントバードチームの力も必要になります。そして、その中のツヴァイガンダムの力も必要不可欠と、言えます。この場にレイが居るのならば、お伝えしたい事があります。ツヴァイの修復は完了しています。後は貴方が決めて下さい。乗るか、乗らないのかを。』

まるで、以前のレイに対する当てつけの如く放った言葉はレイを戸惑わせる。喋っているのはホログラムの筈なのに、何故だろうか。それが、ジャンヌの形をしているからであるが故なのだろうか。

 

――――――――――――私達は本当に平和を望んでいます―――――――――――――

 

彼女が言った台詞が思い出される。しかし、レイはジャンヌを認めた訳ではない。彼女は自分を……いや、チームを利用している。その目的の為に、利用する事を彼の前で言った。それが許せないでいる。この時、レイは静かに握り拳を作った。

『では、オーストラリアの地にてお待ちしております。ご武運を祈りますわ。』

そこで、ホログラムが切れた。

 ジャンヌの思惑は以前聞いた。それに納得出来ない、レイ。だが一方であの、殺戮兵器が再び動き出すかも知れない。そうなった場合、犠牲者は出る。それは避けたい。それを出来るのがツヴァイ。そして、そのパイロットである、レイ。

 だがそれはジャンヌに利用される事も承知の上だ。しかし、守る為の戦いをしてきたレイにとって、もう、これは迷っている場合ではない事だ。

「エリィさん、オーストラリアへ行きましょう!あのガンダムが暴れる姿を見るのは見たくないですし……僕が、ツヴァイに乗って、戦います。」

ロンドンの二の舞は絶対にあってはならない。迷いがある中で、レイは決意を決めた。今回の彼の決意は固かった。それを聞き、エリィは大きく頷いた。

「どうやらレイ君をブリッジに呼んで正解だったみたい。やっぱりあのガンダムが関係しているとは思っていたから。」

ツヴァイをシュネルギアに渡した時点で、ジャンヌからの知らせはその関係になる事は容易に考えられた。だからこそ、話はスムーズに進む。

この数日間、様々な出来事があった。いずれも悲しい出来事が多かったが、新たなる目的地が決まった以上、彼等は動くしかない。

「さて、セイントバードは日の出と共に出発します。それまでは皆さん、しっかり寝て下さいね!解散!」

エリィの指示に寄り、クルーは各々の部屋に、戻っていく。その際、ミシェは言った。

「MSも数機ここに搬入させておく。俺達は徹夜で手伝うわ。パイロットの連中はしっかり休んでおけよ。ネルソンに、残りのガキ達もな。」

それは、ガーストとスバキとレイの事を指している。皆がミシェにとっては新参パイロットだ。パイロットはいつ敵と出会うか分からない中で、戦わなければならない。故に、休むように促すのだ。

「ミシェさん、お任せします。私は眠らせて頂きますよ。」

「仕事があるのはありがたいからな。よし、取り掛かるか。エリィも無理するなよ。」

セイントバードに参入するミシェだが、いつのまにか、仕切っているように見える。この様子から、ミシェが元MS乗りである事が分かった。

 

 

 

翌朝になり、クルーは眠りから覚めた頃、ミシェ率いる整備士達はジャンク屋内のMSの搬入を終え、疲れ切っていた。その為、セイントバードの一室で眠りについていた。一方で、眠りから覚めたエリィ達は眩しい初日の出を背景に今、動き出そうとしていた。

「スラッグ君!準備は?」

「いつでも行けます!」

「よし、セイントバード発進!」

短いようで長かった数日間が過ぎ、聖鳥が羽ばたこうとしている。エンジンの轟音が鳴り響き、やがて点火し、セイントバードは動き出した。そして、地上から段々離れていく。高度は徐々に上がっていき、やがてジャンク屋の姿が見えない所まで至った。

P.C0007年一月一日、新たな年を迎え、次なる目的地、オーストラリアの大地に向け、セイントバードが飛翔した。

 




第六十五話、投了。
これにてオスロ編終了です。セイントバードチームの結成の秘密が語られた回でした。
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