機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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オーストラリア大陸に向かい、飛翔するセイントバード。その途中で新生連邦軍の襲撃に遭う。その中で、リルムは自らに出来る事をしようとするが――


豪州編
第六十六話 リルムの行動


 P.C0006年末、オーストラリアにて。そこにはフーク・カズロブ率いる新生連邦軍が滞在していた。豪州地区司令官として赴任することになった彼は、今、基地内部のシンギュラルタイプ研究所にいた。リノアス・クリストルを、カプセルに入れ、そこへ、得体の知れない緑色の液体を注入した。彼女の口元には、呼吸を出来るようにマスクを設置した。周囲には研究員が大勢いており、彼女を何らかの形で強化していこうとしているのだ。

「……あれから2ヶ月余りか。ヴァイダーガンダムは完全に修復し、今や戦える状態ではある。後は、リノアスを“完全”なものにするだけ。彼女を究極のマシンインターフェースに仕立てる為には……」

以前に戦闘マシーンとなってしまったリノアス。だが、彼はそれを更に強化しようと考えていたのだ。その具体的な内容は不明であるが、不穏な様子であるのは間違いないと、言える。

「失礼します」

そこへ一人の兵士がフークの部屋に入って来た。それと同時に、リノアスがカプセルの中で眠っている姿を見て、一歩引いた。

「何かね。」

「あ……いえ……豪州地区における国連に対する作戦に関してですが。」

オーストラリアは現在、国連と新生連邦とで勢力が分かれている。今回、新生連邦はオーストラリア全土を勢力下におこうと考えていたのだ。フークは、その為にリノアスを強化している。

フークは現在、豪州地区の司令官として赴任している。以前はロンドン襲撃の司令官をしていたが、今回は豪州。そこに居る、リノアスの存在と、ヴァイダーガンダム……つまり、ロンドンと同じ悲劇が起こる可能性が考えられた。

「あぁ、すまないがリノアスが復帰するまで待っていてくれたまえ。それに関してだが、ヴァイダーを投入し、短期決戦で臨むつもりだ。あの機体があればオーストラリアなど我々新生連邦の手に落ちたも同然。戦いはこれから激しくなっていくだろう。それに備えるためにも、国連軍は尽く潰していかなければならない。」

「で、ですが彼女の復帰を待っている間にもし敵から先に襲撃を受けてしまったら……?」

「あぁ、確かに今の国連は非常に獰猛だな。以前はこちらが攻撃しなければ反撃してこなかった。しかし、国連も攻撃を仕掛けるようになったからな。ギルス・パリシムだったか?あの代表になってから彼等も随分と戦争が好みになった。」

「あ、あの……大佐?」

話が逸れていることについて疑問を投げかける兵士。その時、フークは睨みつけるように兵士を見た。

「ヴァイダーがいなくても我々にはガンダムがいるだろう。今回の作戦の為に本部から支給された特殊強化モデルの乗る三機のガンダム……あれだけでも十分戦力になり得る。他にも、それなりに有能な姉妹の乗るガンダムもいる。これだけで計五機。その上我が軍の多く種類のMSがいるではないか。心配には及ばない。もし今襲撃されても対処は充分可能だ。奴等は戦力を多数保持しているとはいえ、我が軍には遠く及ばんよ。」

今回の作戦の為に、ガンダムタイプを集結させた新生連邦軍。こうした背景もあり、彼は例えヴァイダーガンダムがなくとも、新生連邦の絶対的な勝利を確信している様子だった。

「大佐!ジーク・アルナス中将がお見えになられています。」

そこへ、別の兵士がフークに声を掛けた。それに反応する、フーク。

「アルナス中将が?」

と言った直後。そこへジークがフークの前に姿を現したのだ。すぐに彼は敬礼を行う。

「中将。遥々と豪州までご苦労様です。」

彼の言葉を聞きつつも、ジークは部屋の様子を鋭い目つきで見まわした後、口を開く。

「フーク・カズロブ大佐。貴官は豪州地区の司令官としてここにいる。それは構わない。だが……あのような少女を何に使うつもりなのか、それを教えてもらいたいものだ。言っておくが、私個人の意見としては、強化モデルと言う非人道的な存在はあってはならないものだと考えている。」

ジークは強化モデルと言った存在を否定している。戦争において勝利するという事は必要不可欠ではあるが、人為的にシンギュラルタイプと同様の力を身に付けるという事は、明らかに人道を逸脱している行為である為である。

しかし、この部屋にはカプセルの中で静かに眠っているリノアスの姿がいるのだ。これを見てジークは不快になった。

「中将。お言葉ですが、以前ヴァイダーガンダムを使ったロンドン襲撃があったでしょう。あれはこのパイロットがいてこそ成り立った作戦。おかげで国連に大規模なダメージを与えることができました。そして今回、オーストラリアで国連の基地を破壊し、オーストラリアを新生連邦の領土にし、厄介な国連に脅威を見せつけてやるのです。いかに彼等が無力で、新生連邦に立ち向かう愚かさを教えてやる……これもいわゆる教訓ですよ。それと同時に我らも支配域が増える。オーストラリアのような、二大勢力が存在している地域は早く無くしていかなければならないのです。最も、これは新生連邦本部と平和国連盟本部があるアメリカの地に於いても言える事ですが。」

「確かに、脅威を見せつけることはできた。しかし甚大過ぎるのではないか。先のロンドンだけでも兵士が十万人以上、民間人は五百万人以上が死傷していると言う情報がある。敵軍の事ならまだしも、民間人の事まで考えることは嫌いかね。」

「戦時中に民間人の事など考えている暇はありませんよ。戦争に勝ち、そして支配を強めた上で民間人の事を考えれば良いのです。」

フークらしい、冷徹さが伝わる台詞だった。ジークは黙り込み、静かに目を瞑った。その時に突然ジークは口を開けた。

「ところで、貴官は知っているかな?」

「何を。」

「総指令がテロリストに破壊されたX-9の様子を見るため、月の傍にある衛星ステーションに行った、その時に新生連邦兵がかつてデウス帝国が使用していたMSによって全滅させられた話を。総指令はこれらを撃墜したそうなのだが……」

「いえ、それは知りませんでした。」

初めて聞かされた内容を知り、フークは相槌を打った。

「総指令が撃墜したデウス軍のMSの中に、最新鋭機と思われる機影が確認されている。そして、ある一機のジョゼフが最期に映した映像の中にあった。恐らくデウス軍の機体、ゴルモンテの改良型だと思われる。」

「あの機体は使い勝手は良いらしいですからね。改修機体も存在してもおかしくはないと思われますが。」

「それならば構わないのだが、どうも引っかかるのだ。私が思うに、もしかすればX-9を襲撃したのはデウス帝国の残党部隊ではないのかと思ってね。」

ジークの言葉に、フークはピクリと反応した。耳を疑った様子だったが、そっと言葉を聞く。

「まさか。デウス帝国の残党が?そんな、馬鹿な事があり得ますかね。」

「確定したわけではないが、可能性は高い。X-9は国連が破壊したと言う可能性もあるが、あの辺りには国連の基地は存在していない。ならばX-9を破壊する必要がある勢力は普通存在しない筈だ。テロリストが破壊したと言う事になっているのだが、あれが気になるのだ。デウス残党にとってX-9が脅威になっている可能性もある。そしてそれが破壊された今、デウス軍にとって新生連邦に対する侵攻の準備を整え易くなった……と考えられないか。」

ジークの言葉は間違っていない。デウスが地球圏に迫っていることは事実なのだ。だがデウス帝国と言う存在がいるはずが無いと否定するフークはこの言葉に耳を貸さない。

「何を仰いますか。デウス帝国は先の大戦でその力を失いました。仮に残存勢力が残っていたとしても、まさかそんな少ない規模の軍備で我々新生連邦に戦いを挑むなど……愚かとしか言いようがありません。」

「あくまでも私の推測だが。もし、これが本当なら新生連邦は非常に不利になる危険性がある。国連の上、デウス軍とも相手にしなければならないのだから。」

「仮にそうなったとしても、我々には多数のガンダムタイプが存在します。その上ヴァイダーもいる。他にも多数の量産機体……少なくとも、これらを負かす事等、不可能と言っても過言ではないと思いますが。」

自身に満ち溢れているフーク。そんな彼を見て、ジークは少々呆れている様子だった。話し合いの余地がないと考えたジークはそのまま部屋を後にしようとした。だが、その時に口を開けた。

「貴官に言っておこう。指揮官とは常に最悪の状況を想定しておくことが大切だ。豪州地区の総司令官は貴官だったな。」

「はい、そうですが。」

「確かに軍備では我が軍の方が有利だ。これははっきりと言える。だが、有利だからと言って我々が負けないと言うわけではない。自信は己を殺すことになる。私の立場として言えるのはこれだけだ。検討を祈るよ、カズロブ大佐。」

するとジークは部屋から去って行った。同時に護衛の兵士も去る。そして、部屋に入って来た兵士も去った。一人部屋に残されたフークは、不気味にも、一人笑っていた。

「ク……クク……ククク……面白い……デウス残党が地球圏に迫ってきている……?あの方もなかなか面白いことを仰せになる。しかし!私は負けんよ。リノアス……お前さえいれば私は負けん。ヴァイダーは究極の破壊兵器……それが国連如きに負けるなど!ありえるものか!こちらには大部隊があるのだ。負けはせぬ……!」

彼は自信に満ち溢れていた。平気で民間人を巻き込む作戦をも躊躇わない冷酷な司令官、フーク・カズロブ。だが有能であるのは確かであり、彼を慕う人間も多い。その一方、やはり非道な作戦を容赦なく実行する性格もあり、軍内部で忌み嫌われている人間でもある。

作戦を実行するのはリノアスが目覚める来月中旬。その時に、再び殺戮兵器が起動する。新たな戦乱を呼ぶ引き金となった兵器が再び目を覚ますのだ。その時まで、豪州の人々は短い平和を過ごす事になるのである。

 

 

 

新生連邦同様に存在する、オーストラリア内の国連基地にて。フーク達がヴァイダー襲撃の準備をしている中、彼等も準備をしていた。と言うのも、ヴァイダーガンダムがここオーストラリアに運ばれている姿を目撃した為、ロンドンの二の舞になってはならないと判断した豪州地区指揮官であるワーゲイン・スロウムは側にいた副司令官であるローフ・ワーザムと会話をしていた。

彼等は国連軍が現在のように別れる、地球連邦時代からのベテランの指揮官であり、部下からの人望も厚い。ワーゲインは白い髭を生やしている壮年の男性だ。一方のローフはワーゲインと比較して若さはあるが、顔全体に皺が見える歴戦の指揮官といった印象を受ける。ローフはワーゲインを慕っており、新生連邦の今後の動きについて話し合っていた。

「大佐、彼等は、“例の兵器”を投入する可能性が……」

「充分にあり得るな。何せロンドンを壊滅に追い遣った化け物だぞ。奴等なら平気で民間人をも巻き込んででも容赦せずに攻めてくるだろう。そうとなれば……早めに叩いておきたいところだが……ク……」

「どうなされました?」

「いや……やはり国連軍が攻めると言う事が考えられ無くてな。フ、やはり戦争か。このまま放置して向こうから攻めてくるのを待っても結局民間人も何もかもが死ぬよ。だからと言ってこちらから攻めると言う事も気が気でない。だがその上で軍備を整えているというのも、これも矛盾か……」

「自分も、同感です。」

少々俯いた様子で、ローフは喋った。ワーゲインの国連に対する思いが、しみじみと伝わったようにも見える。

「大佐……いつになれば、戦争が終わるのでしょうね。せっかく平和になったと思えば、すぐにまた戦争ですよ。平和世紀という名前に意味はあるのでしょうか……。」

次に、ローフがワーゲインに尋ねた。その質問の回答を見出すのに、少々時間がかかった様子だった。

「うむ……分からぬ。ただ、一つ言える事は、平和世紀という名前自体に、疑問を抱いている人間が多く居るのも事実だ。何故だか分かるか、中佐。」

ローフは軽く首をかしげ、考えた。しかし何を言えば良いか分からなかったため、正直に話す。

「いえ……私には。」

「実際に本当に平和なのかと言う事だよ。何もかもが。戦争が無ければ平和と言う単純な考えの人間は良いだろう。しかし旧世紀からの戦争が無い状況においても貧困や、水不足や食糧不足……家族関係の崩壊や経済面での不利……更には今でも起こっている差別。それで平和世紀と、時代の名前を付けるのも個人的にはあまり好かないな。」

「確かに……仰せの通りです。」

以前、エイゲルとジャンヌが平和について語り合った事があった。だがそれ自体は答えのないものだ。だがそれを語り合うという事も、また、大切な事なのだ。

「現に、この世界は戦後の混乱期で貧困が各地で起こっている。更に、問題なのは平和国連盟の加盟国の中にも、国民の為や、経済面における補助が必要とされる人間が居る筈なのに、あろう事か、自らの私腹を肥やす為に国民から税金を巻き上げ、国民の貧困に見て見ぬふりをする者がいるのも事実。それ故に、無能な政治家しか集まっていないのは大きな問題と言える。平和国連盟の一部代表の中にも、今は無き平和主義の維持費を未だに国民から徴収して私腹を肥やしている存在も居るという。」

組織に属する全ての人間が秩序を守っている人ばかりとは限らない。一部の悪行に満ちた人間が居ようと、政治家と言う立場である以上は反論も効かない。その利権を使い、私腹を肥やし、自らの快楽の為に金銭を惜しみなく使う。そうした存在が平和国連盟の中に居るのも、また、一つだ。それが国の代表をしているというのだから、恐ろしいものなのである。

「更に平和国連盟の一部の国は新生連邦に多額の金銭を出資し、その上で破廉恥な事に、新生連邦に対して高級娼婦を送り付け、自分達の身辺の安全を保証させているという。ケースは違えど、一部代表の人間が新生連邦に命乞いのような行動をするケースもある。平和国連盟や国連内部も腐敗は進んでいるといっても過言ではないだろう。」

ワーゲインは静かに、言った。

「それを考えると、ギア・ジェッパー代表はそれに屈せず、よくしようと考えてくれている。何せあの、アステル家当主のジンク・アステルと交友関係というではないか。それ故に今回、アステル家の協力を得られたそうだ。」

既にその情報は、国連軍にも伝わっていた。ジンクの友人であり、豪州の平和国連盟の一部代表であるギア・ジェッパーが彼等に伝えたのだ。

「大佐としましては、この矛盾だらけでありつつも平和だった世界が破られた事に対して、尚且つ、新たなる戦いが始まろうとする現状に対し、ご不満といったところでしょうか。」

副官のローフが言った。

「……そうだな。しかし敵の“あの兵器”を止めるには、彼女らの協力も必要なのだ。先程の言葉と矛盾が生じるが、今は言葉を並べていてもどうにもならないと言う事だな……。」

そう言うワーゲインはただ、俯くばかりだった。副官のローフはそれを黙って見ることしか出来なかった。

 

 

 

時間が経ち、P.C0007年となり、世界は新たなる年を迎え、新年を祝するパーティーが、新生連邦本部にて開かれた。無数のディーストやジョゼフが並ぶ中、若き総司令は、演説台に立ち、言葉を発した。宇宙での偵察を終えた彼は年末に地球に戻り、その上で演説を行うのだ。

「P.C0007年。今、我々は新しい年を迎えました。思えば昨年は様々な出来事がありました。中でも一番大きかったのは平和国連盟へ宣戦布告です。平和世紀と年号が付いているのにも関わらず、戦争を行った事は確かに大きな矛盾です。しかし、これに早く終止符を打つ努力をすることも我々の使命ではないでしょうか。破られた平和は再び修復しなければなりません。一刻も早い早期終結を迎え、世界が一つになるよう、新生連邦は全力を尽くそうと考えています。」

これはメディア中継で世界中に放映されている。当然新生連邦を悪と見なしている人間が見ているならば、これに反発するだろう。しかしそれによって武力行使をするなら、新生連邦は容赦なくそれに対して攻撃を加える。無論、何の罪もない民間人を巻き込んで。これによって死んだ人々のデータは、新生連邦の情報部によって削除される。つまり、なかったことにされるのだ。

結局それら情報はメディアに報道される事なく、被害者達は永遠に闇へと葬り去られるのだ。

しかしそれに対して尚も事実を伝えようと必死に記事を書く人間もまた、存在する。彼等はジャーナリストと呼ばれ、新生連邦が隠ぺいした情報を暴くため、危険な戦場で写真を撮っている。レイの父、ジュナス・キレスもジャーナリストで、この仕事をしているのだ。

だがそれはもし新生連邦に発覚すれば当然削除の対象になり、抹殺されるリスクが高い。新生連邦政府はあらゆる手段を使って自分達にとって不利になる情報を抹消しようと考えているのである。当然レイの父親も彼等に見つかれば殺されるのは分かり切っている。しかし、ジャーナリストとして仕事をする以上は、それは覚悟の上で行わなければならないのだ。

総司令が話をしている最中、一人のジャーナリストが彼の姿を写真に収めていた。その男こそ、ジュナス・キレスである。

「早期終結……ねえ。結局は自分達が不利になるようなことがあればそれを抹消しようとしている連中がそんな事を言うんだから驚きだ。幸い、俺はまだ削除の対象にはなっていないけど、いつ殺されるんだろうかね。さて、次はオーストラリアだ。ロンドンで現れたガンダムが運び込まれたって話だからな。もし死者が多数出ても新生連邦は当然死人のデータを誤魔化すに決まってる。そんなこと、させるものか。」

そう言ってジュナスはその場から姿を消した。新生連邦に明らかな反抗心を抱いている彼は、今もどこかで戦っているだろうとされる息子、レイの安否を心配しつつも次なる目的地へ渡る準備を始めていた。

 

 

 

エファン・ドゥーリア率いるドゥーリア隊は新生連邦本部のあるロサンゼルスの沿岸部に滞在していた。その周辺にあるMS基地に彼等はいる。強化モデルになったクラリスもそこにいた。何故そこにいるのかと言えば、あるMSを受け取る命令を受けたためである。

「ようこそ、ドゥーリア少佐。」

中にいたのはMSの整備士、ヘリン・マディックだった。女性で、足が長く、すらりとしている。整った顔つきをしている、その女性。

彼女は、ここの整備長を務めている。見た目は若いのに、整備長を務めていると言う事実にエファンは少しばかり驚いた。

「ああ、どうも。だが君のような女性が整備長とは。」

「いえ、そんな。それより、新型MSが完成しましたので、是非見て頂きたいと思います。」

(私が以前にアーステクノロジーに言った機体か?にしては早すぎるな。恐らく別のMSだろう。)

エファンがアーステクノロジーに開発させたガンダムタイプのMSの完成には当然時間がかかる。しかも、今度のガンダムは彼が直々に設計・開発したMSであり、それ程に力を入れているのが分かる。

「こちらです。」

ヘリンはエファンを案内し、布に隠されたMSを見せた。

そこには、青く輝く美しい重MSの姿があった。大きさも隣にあるジョゼフと比べても一回り、大型である。また、カメラアイの種類は、近年の新生連邦軍に合わせるように、モノアイタイプだった。

「NFMS-P1600グランシェです。主にエースパイロット用の機体として開発されました。武装も豊富で、最大の特徴は、今まではコストの関係上ヴェーチェルガンダムやエクルヴィスガンダムの強化発展型のものにしか装着出来なかったビームシールドが、このようなMSにでも張ることが出来るようになった事です。実体シールドはメガビームキャノンとして機能することが出来、その上ビームシールドで防御すると言う戦法も可能です。また、このMSは月面にある我が軍の基地にも配備されているらしく、近々試験運用テストを行う予定だそうです。ただ、大気圏内でのグランシェの実用はまだ確認できていません。」

グランシェ。型式番号NFMS-P1600。指揮官クラスの機体として開発されたMS。その大きさはディーストやジョゼフと比較してもやや大型であり、武装面も豊富な機体である。

「で、その強力なMSを我が部隊に試させろと言う訳か。」

「そうです。ドゥーリア隊は非常に優秀な実績を収められています。これも、総司令の命令だそうです。」

「総司令が……我々も随分期待されているな、クラリス。」

「はい、そうですね。」

今のクラリスに、エファンに対する嫌悪感はない。感じるとすれば、強化主であるエファンに対する絶対忠誠である。そしてその絶対主であるエファンによって告げられた偽りの言葉……彼は、もう前に戻ることはできない。完全な強化モデルとして、生まれ変わったのだから。

「今日中に配備させて頂く予定です、宜しくお願いします。」

「ああ、頼む。それだけ優秀だと言うのなら期待も出来よう。」

それを言った直後、エファンは何かを思い出したようにすぐに口を開けた。

「そう言えば、オーストラリアに例の大型MSが運び込まれたそうだな。」

「あ、はい。ヴァイダーガンダムです。正直……私はあまりあのMSは好きにはなれません……多くの人を殺害して……それでもまだ活動するなんて……」

彼女もまた、新生連邦の一方的な虐殺を拒む人間なのである。

 だがその時、エファンは、咄嗟に言った。

「君はあのガンダムだけでなく、ガンダムタイプと言う存在、そのものを嫌っているようだな。」

「え……何故それを?」

彼女は、ガンダムと言う存在が好きではない事を言い当てた。ヘリンは非常に驚いた様子で、エファンに聞く。

「さあ、どうだろうな。それよりも……他に一つ言えることがある。君はガンダムと言うMSを嫌うだけでなく、憎んでいるな。」

「え……」

またしても、当てられた。ヘリンは動揺しかできず、何も言う言葉が無くなった。

「少し、人気の少ない場所に移動して話をしよう。クラリス、そこで待機していろ。」

「ハッ」

側に居たクラリスは敬礼をし、彼の命令を聞きながら待機した。

 

 エファンはヘリンを、そこから少し離れた場所に連れて行き、先程の続きを語った。人に聞かれてはまずい話をする予定なのか。それが気になる様子の、ヘリン。

「さて、話の続きだが……君は元々デウス軍のMSを整備していた……ガンダムを嫌いになった理由は、当時連邦が開発していたガンダムタイプのMSに弟が殺されたから。それなのに何故戦後になって敵側の新生連邦政府の整備士をするようになったのか……それは自身が生きていく為。ジャンク屋をやっていては碌に金を稼ぐことが出来ず、その腕を、新生連邦に雇われ、デウス出身と言う身分を隠しながら生きている。そこで出世していき、整備士長になる事が出来たが、近年増加しつつあるガンダムタイプを見て、内心ではストレスを抱えている……そんな所か。」

全てが、当たっている。ヘリンはただ茫然とした。彼が人気の少ない場所に彼女を呼んだのは、“デウス出身”と言う事を他の兵士に聞かれないようにした為だ。

「どうして、その事を分かるんですか……私……その……デウス出身の事は、隠しているんです……もし発覚すればどうなるか分かりません……私だって、嫌なんです。でも、生きていく為には……」

「健気だな。私はそれを否定しない。組織だけで一括りにし、一個人を見ない事に私は反対だからな。」

その言葉を言った直後、ヘリンは、笑顔を見せた。

「す、凄いです……ドゥーリア少佐は、ただの人間ではありませんね!?」

「大したことは無い。アドバンスドタイプとして言っているだけだ。」

「え……?あ、うー……?」

どうやら、アドバンスドタイプと言ってもヘリンには伝わらなかったようだ。つまり、あまりその能力に関しては知られていないと言う事になる。

「知らないのなら知らなくてもいい。簡潔的に言えば、シンギュラルタイプよりも優れた人間とでも思ってくれればいい。」

ヘリンはその言葉に呆然としたが、それでも笑みは絶やさなかった。

「でも、私シンギュラルタイプとかそんな力のある人って憧れます!同じ人なのに、どうしてあんなに優れた実績や成績を残せるのかなぁって思いまして!」

「いや、生きていれば不思議な人間に出会うもの。超能力者だって世の中に入る。それを警察の捜査に役立てているケースもあるのだからな。まあ、そう言うものだ。私をどのように思ってくれても構わない。」

「凄い……です!」

感激した様子でヘリンは言った。目を輝かせており、エファンを憧れの眼差しで見つめていた。だがその一方で、エファンはあまり彼女に興味がない様子だった。

 

 やがて新型機体、グランシェの搬入は終わった。それらがエファンに与えられたマドラ級に搭載され、彼等は新たなる戦力を得たのである。その後、エファンはクラリスに対し、言った。

「私は少しばかり休暇を取る。後はお前に任せる、クラリス。」

「ハッ。」

突然彼が休暇を取ると言いつつも、それに対して一切疑う様子を見せないクラリス。彼は完全に、強化モデルとしてエファンの傀儡へと成り果てた。この短い期間で、クラリスはエファンを絶対的な存在として、認識するようになっていたのであった――

 

 

 

セイントバードは順調にオーストラリアへ向け航行を続けていた。セイントバードは、そのままユーラシアルートを通りつつ、オーストラリア、ダーウィンに向かうルートで向かっていた。今回ジャンヌ達に招集されたのは、ダーウィンであり、そこにいくまでのルートを模索し、セイントバードは気流の流れなどを見て動いていた。

その中で、ガーストはプレーンと共に会話をしていた。それは、自身のMSについてである。彼の機体、エスディア。セイントバードに合流して以来、大きなダメージを受ける事なく戦力として活躍して来たMSではあるが、先のハルッグの改修等を受け、今後の世界情勢を考えてた時、強化したいと、考えていたのである。

「シュアーさんがくれた機体だけど、やっぱり、そろそろ役不足感が出てきたような印象を受けるな。ミシェさんにお願いして強化依頼をするべきだったか……?」

セイントバードチームのMSは徐々に強くなりつつある。ハルッグも最近になって強化され、それに伴い、エスディアも強化をしていきたいと、呟くガースト。別にエスディアに拘るという訳ではないのだが、何か、違うスペックの機体も必要なのではないかと、考えていた。

「無理にガーストが出しゃばらなかったら良いネ!私、ガーストが生きてさえくれればそれで良いネ!」

「そうは言うけどな……正直、あの機体じゃあいつとも渡り合えない……」

それは、アレンの事を示していた。オペレーション・デモリッション・クリエイションの件以来、アレンに対する感情は複雑なものだった。彼等は戦争の終盤で仲間になり、そして、戦後再会した時、ガーストは大いに喜んだ。

 しかしそれから彼等が会うことは無かった。再会したかと思えば、アレンはサイコミュのコントロール不全の為、ブリッツファンネルをガーストとレイに向けるという事をしてしまう。

 それが事故という事は理解していた。だが、それでも彼の中で、アレンとどう、接するべきかが分からないで居たのだ。

「アレンの事カ?」

プレーンが、そっと覗き込む様にガーストを見た。

「いくら事情があったとはいえ、俺はあいつとまともに喋られるのかも分からない。多分、次にオーストラリアに行ったらあいつと再会するだろう。でもどう話すべきか。正直、前みたいにフランクに居られる自信は無い。それに、あいつの機体も強力だ。共闘ってなってもあいつと共に戦えるかも怪しい。色々と、考えてしまう。」

やはり攻撃を加えられたことが、ガーストの中で大きく渦巻いていたのだ。誤解は解けた筈なのに、いつ、アレンが攻撃を加えてくるのかが分からない。それが彼の中で、どこか恐怖に感じられるのだ。

「ガースト。その気持ちは捨てた方がいいネ。それはガーストがアレンを受け入れないと多分永遠に続くネ。」

プレーンが、的確なアドバイスをした。相手の誤解を理解しているのなら、それを受け入れる。それは重要な事だ。いがみ合いは何も生まない為である。

 しかしそこに個人の感情が加われば、ややこしくなってしまう。今、ガーストは旧友に対してどう在るべきなのか。それが、分からないでいた。

「レイの事を責められないな。あいつはジャンヌ達の事を快く思っていない。俺は大人として、対応しなければならないのは分かってるけど、それでも……行けないな。」

言葉を出せば出すほど、アレンに対する複雑な心境が露呈していく。誰も悪くないのは分かっていても、攻撃された事実に対する傷は、そう簡単に消えないのだ。

「……あいつ自身が機体のコントロール出来ているって保証もないし、そもそもあいつがあの時無差別に攻撃を加えたから、新生連邦も報復でロンドンを襲撃したんじゃないかって。」

その発言は明らかに捻くれているようにしか聞こえない。無論、全否定こそ出来ないが、友人である筈のガーストがそれを言うのはどうなのだろうか。

「ガースト!」

 

パシッ

 

この言葉が、プレーンを怒らせた。普段彼の前では懐く猫の如く寄り添い、公然の前で接吻を交わす程の仲であるプレーンだが、こういう時はきちんと、彼女は意見を言うのだ。

彼女の想定外の行動に、彼はただ、驚いていた。

「プレー……ン……?」

「アレンは別に悪くないネ。その捻くれてる言い方は良くない!」

「……分かってる……分かってると……思うんだけど……」

ガーストは悩んでいた。いつまでもこうして憎んでいる必要があるのか。プレーンの言うように、アレンに対してもう、許すべきなのだという事は頭では分かっていた。

 しかし、まだどこかで不安になっているのも、事実なのだ。だがそれは埒の空かない話だ。今は、彼はただ悩み、苦悩するしか出来なかった。その間にもアステル家と合流する為にセイントバードはオーストラリアに向かっているのだから。

 

 

 

 セイントバードがオーストラリアへ向かっている最中、レイは艦の廊下を歩いていた。その際、彼はある事を考えていたのだ。

 それは、万が一この艦が襲われた時、何に乗って戦えば良いかという事である。今、手元にツヴァイガンダムはない。アインスはスバキが乗るだろうから、彼の機体は何になるのだろうか。ミシェの厚意で予備機体を搬入しているとはいえ、それらを乗って戦えるのかといった事を、考えていた。

やがて呆然と考えながら歩いていると、廊下でウィリアに会った。この時、廊下の手すりを持ち、支持物を把持しながら、静かに歩行をしているが、以前の状態と比較し、痛みは落ち着いている様子だった。本来ならば誰かの監視が必要なのであるが、人手不足の状態である為、彼女はネルソンが簡単に指示した内容のリハビリを、独自に行っていたのである。

「あ、ウィリアさん。こんにちは。」

「こんにちは、レイ君。それにしても、空飛ぶ戦艦なんて素敵ね……今まで乗ったことなかったから。」

「え、そうなんですか?あ、それより歩いて大丈夫ですか?安静にしていた方が……」

「いいえ、ネルソンにも言われているの。今の内に歩く練習とかしていた方が良いでしょう?いつまでも厄介になる訳には行かないしね……とにかく、歩けるようにならないと……」

歩くという行為は個人には寄るが、人間にとっては必要な行動だ。だが何らかの事情で歩く事自体が出来ない人間も居る。彼女は幸い、五体満足である。怪我も、外傷のみだ。ならばと、一日でも歩く為に、工夫しなければと、考えるのだ。

 歩行の専門家が居ない状態ではあるが、彼女なりの独自の方法で、少しずつでも体重を乗せ、痛みを堪えつつ、歩行を行うのである。

「ところでこの戦艦、今からオーストラリアに向かうんでしょう?」

「え、ええ……。」

突如、目的地を聞いてきたウィリア。レイはやや首をかしげながらも、彼女の話を聞く。

「確かロンドンを壊滅状態にした恐ろしいMSと戦うんですってね。私は見る事しか出来ないけど……頑張って、レイ君。」

「……はい!」

激励を貰い、レイはともかく笑顔で彼女を見た。同様にウィリアもレイを笑みで見つめている。互いに助けられた者同士、互いに、笑顔を見られることで安心している様子だった――

 

           ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

だが、その安心も再び潰されることになる。艦内に、警報音が流れると同時に、インクの声が響いたのだ。つまり、再び敵が現れたと言う事である。

『敵MS本艦に接近中!数多数です!』

艦内に響く警報音は、穏やかだった環境を一転させる。皆がそれを聞き、危機感を抱く。

「そんな!?こんな所で……?」

焦りを抱くレイ。自らの搭乗機体が無い中、どうすればよいのか……

「君も、戦うの?」

ウィリアが、言った。レイは慌てた様子で、静かに頷いた。

「は、はい……多分……」

「そう。気をつけてね……」

はっきりと“はい”と言えなかったのは、自身の機体であるツヴァイが無い為である。アステル家に機体を預けている為、自分の愛機が使えない状態と言うのは辛いものだった。

まさか、自身の機体が無い状態で敵襲を受けるとは思わなかった。しかし、迷っていられない。今は、自分の出来る事を探す為に、レイはMSデッキへ向かう事にしたのだ。

 

 

 

セイントバードに迫る敵は新生連邦軍だった。マドラ級が二隻。それらに搭載されているMSの数は合計十二機。彼等は既に出撃準備を終えており、いつでもセイントバード襲撃が可能な状態だった。ただ一人を除いては。

「少尉!何をやっているか!出撃だぞ!」

ある、一隻のマドラ級の艦内の一室にて。その部屋は棚にMSのプラモデルやフィギュアが飾られており、明らかにマニアが飾ったようにしか見えなかった。そしてその奥からある一人の男性が姿を現した。その男は眼鏡をかけていて、顔立ちも整っている美青年だった。

 その彼を、指揮官の男が自ら声を掛けてきたのである。

「ああ、すみませんね。また新しいプラモデルを作っていた所だったんです。」

「少尉……本気でやる気があるのか……?」

苛立ちを見せる、指揮官の男。

「ええ、MSの腕には自信はある方ですから。」

「全く、あんたの操縦技術の高さは確かに優秀だ。あんたは、最近開発された新型のMSのパイロットにも選ばれてるんだからな。」

「ああ、あれのプラモデルも早く欲しいと思ってますよ。グランシェ……でしたっけ。」

「そう、グランシェ。って!どうでもいいが早く出撃準備をしてくれ!シーア・マックス少尉!」

悠長にプラモデルを組み立てている男の名前はシーアと言った。シーア・マックス。彼は新生連邦のエースパイロットであり、去年の1月に入隊して以後、様々なミッションを成功させてきた。欠点はこのように、出撃間際でも、休日に買ってきたプラモデルを組み立てて、楽しんでいる点である。

彼の場合、仕事の合間に趣味活動を行うという、ある種常識外れな事をしている。それは許されない行為なのだが彼の場合はエースである為か、そこまで厳しい処罰は下らないのだ。

「分かりましたよ。で、敵は?」

「ヒエラクス級三番艦、セイントバードだ。去年モントリオールから奪われたとされる、アインスガンダムや、オペレーション・デモリッション・クリエイションやロンドンの侵攻の際に姿が確認されている戦艦だ。」

それを聞いた時、シーアの態度が変わった。そして、自然に笑みが溢れた。

「マジかー。それ、早く言って下さいよ。絶対に手応えある相手じゃないですか。よし、早速出撃!」

気が変わったように、彼はすぐに走り、ロッカー内に置いてあるパイロットスーツに着替え、MSデッキへ向かった。

そこにあった、彼用のエグゼマーに乗り込み、出撃準備は完了した。既に他のジョゼフやエグゼマーが出撃した後であり、彼の出撃は遅れる形となったのだった。

 

 

 

敵機が出撃したのを確認した時、既にセイントバードの各パイロットはそれぞれが乗るべきMSに乗り込んでいた。その中には、ジャンク屋から運ばれたジョゼフやディーストの姿もあり、パイロット達は張り切ってそれらに搭乗し、出撃する準備をしていた。その際、エリィの声がそれぞれのコクピットに聞こえた。

「今回の戦いでは大尉のハルッグが主戦力となります。それに続くようにスバキさんのアインスガンダム、そしてガースト君のエスディア……後のパイロットは主に大尉の援護に回るようにして下さい!後、敵は四部隊に分かれ、迫って来ています。各機、ご武運を!」

次の瞬間にそれぞれのMSが発進した。最初にゾーリドカスタムに乗ったトルクスが五機、それに続いてMA形態のハルッグHMCが出撃した。その次にジャンク屋から運び込まれた、ディーストやジョゼフが、トルクスと同様に出撃する。アインスガンダムは空戦装備で出撃し、エスディアもやがて出撃した。パイロット全員が出撃したように見えたが、その中でレイだけ一人取り残されていた。

「どうしよう……僕のMSは……?」

ツヴァイが無い以上、何に乗れば良いかずっと考えていたレイにとってこれ程辛い状況はなかった。自身の乗る機体が無い中で、まさか敵勢力が出現したのだから、どうすれば良いか分かる筈がなかった。その時、ミシェがレイに声をかけた。

「結構旧式ではあるが、デウス動乱時に使われた、デウス軍のMSを使ってみるか?」

「えっ……?」

と、ミシェが指差したMSは、かつてデウス軍が使用していたMS、デイテールだった。

デイテール。型式番号DMS-83。ディエルタイプの上位種とも呼べる機体であり、右腕部にあるヒートロッドが特徴的な武装として存在して機体色は水色系統で、デウス動乱当時は指揮官用の機体として使われたのだが、終戦間際になるに連れ、この機体に代わってドラグネスやゴルモンテと言ったMSの配備が進み、次第に前線で活躍する事はなくなっていったのである。

「確か、デウス動乱時に少し使われただけって聞いた事のある機体だけど……結構旧式だよね……?大丈夫かな……」

古い機体と言うのは、現在の戦場において不安要素の一つだ。彼が以前にジェルヴァにて搭乗したジョゼフなどのような機体ならばどうにか振舞えるかもだが、旧デウス帝国の機体となれば話は変わってくる。

「なぁに、前線に出なきゃいいんだよ。お前はガンダムに乗っていないんだから、前線はネルソン達に任せて、援護すればいい。ガンダムに乗っていた時は、今まで前線で戦っていたんだろ。だったらたまには援護するぐらいの事はしないとな。」

「は、はい!そうですね!」

確かに彼は、今までガンダムタイプにばかり乗っていた。その為常に前線で戦い、敵を圧倒していた。

だが今の彼にそれは出来ない。その上今からレイが乗るMSは明らかに旧式で、いくらレイの腕があっても前線で戦う事は非常に危険である。

「……よし、乗ります!」

「じゃ、乗りな!」

早速、彼はデイテールに乗り込む。明らかに旧式ではあるが、旧世代のMSを知らないレイにとっては新鮮に感じられた。

コクピット内は現在と違い、360°のフルモニタータイプではない。それでも基本的な構造は現代のMSと変わらないため、彼でも安心して動かすことが出来た。起動する際、デイテールのモノアイが赤く輝く。

 

ビゴォン

 

やがてゾーリドカスタムに乗り込み、カタパルトから発進しようとしている――

「デイテール行きます!」

旧式MS、デイテールが出撃した。右の手部マニピュレーターにはビームライフルが装備されている。バックパックにビームサーベルラックがあり、頭部には機関砲。レイは、この機体が旧式と言う事を頭の中に入れて置いて、そのまま出撃した。

 

 

 

セイントバードと新生連邦軍の戦いが始まった。新生連邦側は新しいMSの存在は見られないものの、エースパイロットのシーア・マックスが厄介な存在となり得る可能性が高い。敵機の、ジョゼフやエグゼマーが先に攻撃を仕掛けてきた。敵機の中にディーストやディープシーの姿は見当たらない。その中、三機のジョゼフが合わせるように前腕部グレネードでセイントバードチームに攻撃をする。セイントバードのパイロットは全員これらの攻撃を回避し、反撃をするようにビームライフルを放出した。

飛び交うビームの嵐。これにより、新生連邦軍のジョゼフが二機破壊される。その中、全てのビーム砲撃を避けて特攻してくる一機の、MA形態のエグゼマーの姿があった。ビーム砲撃が止んだ後に、セイントバードに向けて大型ビームライフルを放出した。しかし、その射撃もハルッグがビームライフルを撃つことで相殺された。

「凄い!あんなMS初めて見た!」

MSマニアであるシーアはハルッグに興味を示し、そのまま単機でハルッグに向かって移動を始めた。すると、あろうことか回線を開き、ネルソンに話し掛けたのだ。

「ねえ、そのMSはハンドメイドの機体?なかなか、良いセンスしてるじゃない。」

「な、なんだ……?」

「あ、驚かしてごめんなさい、俺、MSオタクなもんで。それってドラグネスをベースにした可変機でしょ。なかなかいい技術使ってるじゃない。」

「な……戦闘中に何を……!?」

確かに、ハルッグがドラグネスをベースに作られている事は当たっている。だがシーアはそれを戦闘中に言い出す為、ネルソンは困惑するばかりだ。敵が突然馴れ馴れしく話してくるのだ。無理もなかった。

しかも更に不思議なのが、この間に攻撃をしてこないと言う事だった。つまり、シーアはただMSに興味を示して近づいて来たのである。

「冗談ではないッ!」

ネルソンは怒ってロングビームライフルをシーアのエグゼマーに向けて射出した。だがシーアのMSを操る腕は確かなもので、これを軽々と回避した。

「何か言ってくれでもすれば良いのにさ。残念だなぁー。」

すると、彼のエグゼマーはMSに変形し、ビームサーベルを展開。ハルッグに襲い掛かる。

「ま、悪くは思わないで。」

切り裂かれると思われたが、今のハルッグにはビームヒールによるビーム刃攻撃があった。MAで活動しているハルッグは、ビームヒールを使った近接戦闘が可能になっている。従って、切り払う事が出来た。

「へぇ、やるね。それ相応に。」

「このパイロット、やる……!」

シーアに続くように、ジョゼフや他のエグゼマーも攻撃を始めた。この一斉射撃で、セイントバードチームのMSが二機破壊されてしまった。破壊された機体は、いずれもがディーストである。

「う、うわああああ!」

一人はビーム射撃による攻撃、もう一人は――

「生憎、ディーストは見飽きてるんで。」

シーアによって殺された。それに向け、一機のトルクスがビームライフルを放つ。

「あれは見たところジャスティスのカスタムか。MS乗りはMS乗りなりに工夫してるなー。」

戦闘中に言う台詞とは思えない台詞を連発するシーア。やがて、彼の次なる標的は、アインスだった。

 

 

 

アインスに乗るスバキは順調に敵機を撃破していた。ビームライフルを駆使し、敵機の手足部を破壊した後にビームサーベルで切り裂く戦法を使って破壊した。

「よし、順調だな!」

しかしその余裕を見せたのも束の間。シーアのエグゼマーが迫って来たのだ。レーダーに映るそれを見て、危機感を抱くスバキ。

 

ピキィィィ

 

その瞬間、頭の中に電流が走り、すぐにエグゼマーの大型ビームライフルによる攻撃から回避する事は出来た。

「そんな所から!?」

次の瞬間、エグゼマーはアインスの肩部を、マニピュレーターを駆使し、掴み始めた。その為、身動きが取れない。自分の不覚を呪うスバキ。このまま攻撃をされる――覚悟を決めた。

だが、パイロットのシーアは回線を開き、スバキの姿を確認した。

「噂のアインスガンダムのパイロットは……あら、女の子?」

「な、なんだこいつ!?」

「へえ、まさかアインスガンダムを奪った人間が女の子だったなんて……意外だ。しかもその外見を見る限り、ハードポイントシステムの搭載も本当らしい。いやあ、感激だ!さて、このまま捕獲しようか。」

「冗談じゃねえよ!」

とは言え、必死に離そうとするが、離れない。その上シーアのエグゼマーはアインスの前方に回り込み、あろうことか、アインスの腹部に蹴りを入れた。幸い、装甲が機体を守ってくれたのだが、この一撃を受けて激しく、機体が揺れてしまう。

「あうう!」

その惨い状況を見たレイのデイテールはすぐに駆け付け、ビームライフルでエグゼマーを狙った。それは直撃したものの、大したダメージは負っていない様子だった。デイテールの姿に気付いたシーアは、アインスを離し、デイテールに近付く。

「スバキ、大丈夫?」

レイが心配する様子を見せる。それに気付くスバキ。

「あ、ああ……なんとか。けどあいつ、強い。その機体で大丈夫なのか心配だけど……お前も気をつけろよ。」

「うん、なんとか……。」

が、一瞬の内にデイテールの眼前にシーアのエグゼマーがビームライフルを構えて出現したのだ。慌て、レイもビームライフルを構えようとするのだが、それをシーアが止めた。それと同時に回線を開いてレイの顔を見た。

「デイテールなんて旧式のMS。マニア向けの機体じゃないか。MS乗りは資金繰りも大変なご様子で!だが性能は雲泥の差だよ――」

「――!?」

レイの眼には、眼鏡を掛けた青年が映っていた。一方で、青年には少女のような顔貌の少年であるレイの姿が映った。互いに驚き合っている様子で、少しの間呆然としていた。

 何故なのか。互いに見覚えがあった為だ。しかし、どこで?何処で会った?分からない。彼等は一体、どこで出会ったというのか。

(……いや、気のせいか……なんだろう、このパイロット以前に見た事がある……?)

シーアは一人で考えた。しかし思い出せない。複雑な心境のまま、シーアは喋る。

「その艦には、女の子が多いなぁ!ハーレムでも築いているのかい!?」

「ぼ、僕は女の子じゃありませんよ!?」

「冗談さ。外見がそうなんだよ。女の子そのもの。君が男なのは知ってるって。」

それを分かった上で挑発する、シーア。

「馬鹿にしてる……!?」

反応する、レイ。

「てかさ!MS乗るのにパイロットスーツを着ないのって、おかしくないか?」

「あ……えと……そうなんですか?」

「いや、普通っしょ。いやまあ君らがMS乗りって言うのもあるのかは知らないけどさ。俺らは軍人だからちゃんとパイロットスーツを着てるんだよ。正規軍として!身を守るものとして!」

セイントバードチームは、基本的に地球上で行動するチームの為、パイロットスーツと言ったたぐいのスーツを着ることは無い。ネルソンを除いて……だが。

 大気圏内ではパイロットスーツを着て戦う事は確かに、身の安全に直結する。しかしそれ以上に、視界が狭まる、呼吸した際に息苦しさを訴える事もある。それが煩わしいが故に、大気圏内では基本的にパイロットスーツを着用しない者が多い。それは特に、MS乗りにおいては著明に見られるのだ。

 

バシュゥゥゥゥゥ

 

よく分からない慣れ合いが続いたかと思えば、その次にエグゼマーがビームライフルを放出した。幸いこれが放たれる前にレイの頭の中に電撃が走り、シーアの行動を読めていた彼は避けることが出来た。

「そんな!突然攻撃何て!」

「あのさ、俺は敵だよ?けど君、なかなか面白いね。しかも今の攻撃を避けるとは……只者じゃないと見た。」

「くぅ!!」

反撃と言わんばかりに、デイテールの特徴的武器であるヒートロッドを繰り出した。それはエグゼマーの左前腕部に巻き付き、電流を浴びせる事が出来たのだが、エグゼマーの装甲に、通電は通用しない。絶縁シートが施されており、パイロットに十分なダメージを与えられない為だ。

「ふふん、少し痺れたけど……この程度とはね。やっぱり旧式だ。いくらパイロットの腕が良かろうが!」

確かに性能差は圧倒的だ。デイテールはあくまでも旧式。そのMSが最新式のエグゼマーに勝つなど、非常に難しい話だった。

 

ブゥンッ

 

だが、そこへガーストのエスディアが助けに来てくれた。ビームサーベルを駆使し、エグゼマーをデイテールから遠退かせた。

「レイか!?」

「ガーストさん!……この機体、やっぱり現代では通用しませんよね……」

「まあな。けどまさかデイテールに乗るとはな。昔、俺が乗ってたMSじゃないか。」

「え、そうなんですか!?」

自分が乗っている機体を、まさか過去にガーストが乗っていたなど思いもしない話だった。その事に驚いているレイだったが、敵機はそれをさせてくれない。シーアのエグゼマーの他に、ジョゼフが二機ビームライフルで攻めて来たのだ。

「ここは戦場だからな、会話はあんまり出来ないんだよな!レイ、デイテール壊すなよ!死なれても困るし、また機会があれば動かしてみたいからさ!」

「は、はい!」

と、頷いた後でガーストとの回線は切れた。デイテールで前線に出るのは危険だと判断し、彼はビームライフルを撃ちつつ少しずつ後退していく。エスディアはビームバズーカでジョゼフを各個破壊していき、順調に数を減らしていく。

後方から攻められた時はガーストのシンギュラルタイプとしての能力が発揮され、素早く振り向いてバズーカを放出し、破壊する。他にもフロントアーマーからのミサイルを六発、一斉に展開して敵機にダメージを与えて行く。

そこへ別の敵機がエスディアに迫ってきた。エスディアはモノアイを輝かせた後、機敏な動きでビームセイバーによる格闘戦をこなし、迫る敵機を撃破する。

「この調子だ……やれる!」

ガーストは意気揚々と戦場を駆け抜ける。そして新生連邦に攻撃を与えていく。

だが、そこへシーアの乗るエグゼマーが姿を現した。シーアはエスディアに対してビームライフルを撃ち、更には回線を開いて話しかけてきた。

「そのMSはハンドメイドか何かかい?」

まるで戦闘中とは思えない様子でガーストにも会話を試みたシーア。

「エグゼマーのパイロット……!?」

「俺、MSオタクだから興味があるんだよ。やっぱセイントバードは違うね、MSのバリエが多いや。戦ってて楽しいし。あの機体だってジャスティスのカスタムだろ。」

〝あの機体〟と言うのはトルクスの事だった。戦闘中なのに馴れ馴れしいシーアに対し、ガーストは眉を顰め、狂犬が吠えるが如く、激怒した。

「ふざけんなぁっ!」

「おっと、失礼男前。」

さりげなく褒め言葉を言ったのだが、侮辱された気分になっているガーストにそんな言葉など通用するはずがない。

(そう言えば白いガンダムがいない?あれが一番見たかったのに……まあ、いいか。)

エスディアはシーアのエグゼマーに対してビームバズーカを連射し続ける。が、シーアはそのような事を考えつつも回避を行い続ける。

「さて、一通りの見物は終わりだね。じゃあ本命を叩きに行くかなッ!」

 

グォンッ

 

そう言った後、エグゼマーはMAに変形をした。直後にセイントバードへ単機、攻撃を開始するのだった。

 

 

 

セイントバードも奮闘している状況だった。今回迫って来た敵が新生連邦と言うだけあり、気も抜けない状況である。

「全面に弾幕集中!一番、二番ビーム砲を90°回旋させて発射!」

エリィの指示の下、ビームが放たれ、別の敵機体に直撃し、破壊される。

だが命令を下したのも束の間。直後にインクの声が焦って聞こえた。

「艦長!一機の機影がこちらに向かってきます!」

「突破されたの?近接用に機関砲展開!」

「数が足りません!砲撃手不足!」

「そんな!」

困惑するブリッジ。その間にも接近するエグゼマー。弾幕を張るように指示をするが、エリィが言うように、艦に備わっている全ての機関砲が使える訳ではない。砲撃手が、不足しているが為である。

何より、そのエグゼマーの動きは素早くて強い。MA形態の状態で、ビームライフルを連射し、セイントバードの外壁にダメージを与えていく。

 

 

 

艦内は当然激しく揺れた。中にいたエレンやリルム、そしてウィリアはこれにより倒れてしまう。ウィリアは手すりを把持していたものの、痛みがその邪魔をし、膝を付いてしまった。自室まで遠い状況。安静に出来ない。事故で行っていたリハビリ行為が裏目に出てしまったのだ。

「うぅっ!」

まだ完治していない足。以前より力は入る様になっているとはいえ、痛みは残る。起き上がろうとするにも、時間を要した。

しかし、幸いにも側にリルムが居た。そこで、倒れているウィリアの姿を見かけたのだ。

「あの!大丈夫ですか!?」

「え、ええ……何とか。ありがとう……痛!」

痛みが邪魔をして、思うように力を乗せられない。彼女の利き足は右。ならばと左足に力を掛ける。が、これも痛みが強い。手すりを頼りに立とうとするも、これも痛みが邪魔をするのだ。

「わ……私、手伝います!」

リルムは咄嗟に言い出した。そう言った後、彼女はウィリアに手すりを持つように促し、彼女の臀部を把持し、その勢いで立ち上がりを促した。

 やがて姿勢は元に戻った。予想外の転倒をしてしまったウィリアだが、どうにか痛みをこらえ、姿勢を起こす事が出来ている。

「ありがとう。助かったわ。けど貴方大丈夫なの?部屋に戻らないで……」

「えっと……大丈夫です!あの、ウィリアさんも早く戻った方がいいと思いますよ?」

「ええ、私は戻るつもりだったわ。けどさっきの揺れで……ああ、足が自由に動くことが出来れば……」

足が動かせないと言うのは、それだけ不便だと言う事……リルムはウィリアの今の姿を見てただ、辛く感じるしか出来なかった。そして、彼女は言った。

「あの、一緒に部屋まで行きましょう!支えます!」

「……いいの?」

「はい、その方がいいでしょう?」

ウィリアは、その言葉に甘えて行動させてもらう事にした。確かに一人でいるよりはもう一人人間がいた方が安全に行動できる。

「さすが、あの子の彼女ね。優しい……」

「え、ああ……レイ……ですか?そんな、私はそんな事無いですよ?」

その様子を見て、ウィリアは自然に笑みを浮かべた。それと同時に、嵌められ、惨い殺され方をした弟や、愛してしまった男が殺された悔しさが、まるで嘘のような感触に陥っていた。

(私は幸せになれない運命。だけれど、この、優しい子には幸せになってもらいたい。その為にも……死んでは駄目よ、レイ君。)

心の中から、レイの無事を祈った。リルムに自分と同じ悲しみを味わって欲しくなかった為であった。

やがて、リルムに誘導されるように部屋へ向かう。この時も、ずっとウィリアは笑みを浮かべていた。しかし、その一方でリルムは別の事を考えていたのだ。

 

 

 

外の戦闘は激しさを増すばかりだ。シーアのエグゼマーの猛攻は幸いネルソンに止められた。しかしシーアの凄腕がネルソンを苦しめ続ける。

「ちぃっ!」

「良い機体だ!機動性も高い!動きを読むのに時間を要するね!でも、技量は俺の方が上手かな?」

「私とて元デウスの兵士だ……こんな所で!」

するとハルッグはMSに変形し、ビームサーベルを展開し、エグゼマーに切りかかった。MAのエグゼマーはこれを回避し、こちらもMSに変形した。やがて、互いのビーム刃が弾き合い、粒子を零す。

「かつてはデウス軍……今はMS乗りなのか!デウス帝国の誇りってやつを失って、野蛮なMS乗りになるなんて!やっぱりデウスは差別が酷いんだね!」

その言葉はネルソンを煽る他ない。中傷と、同義だ。

「黙れ!私はこれ以上……戦争に関与するようなことはしたくない……しかし、今は戦うしかないのだ!」

「いいじゃない、兵隊だったなら兵隊を続けるのも生き方の一つだと思うよ!所属を変えて戦士として戦い続けた人間の話だってあるんだからさ!貴方もそんな生き方してみたいと思わない??そらっ!」

余裕を持って話をするシーア。一方でネルソンは常に真剣な表情でシーアの話を聞いていた。そしてシーアの技量が伴い、強さを見せるエグゼマーは、強化されたハルッグですら苦しめる。

「くぅっ……」

「よし、行ける!」

ビームサーベルの出力が若干弱まってきたところで、エグゼマーは急にビームライフルを構え始めた。そしてハルッグのコクピットを狙って狙い撃つ。ネルソンに危機が訪れた。

 

ジュゥゥゥ

 

だが、ネルソンは幸い救われた。彼を救ったのは、レイの乗るデイテールだ。エグゼマーのビームライフルを、シールドでガードに成功する。しかしその出力の高さの余り、シールドが破壊されてしまった。

「すまない、レイ。油断をした……。」

「せめて、援護します!」

この時のレイの言葉に、ネルソンは助けられた。後衛とはいえ戦闘に参加し、チームに貢献が出来ている。これは、彼にとっては有難い事と、言えた。

「頼む。」

レイがいなければネルソンは確実に死んでいた。つまり、彼を死に追い遣ることが出来る程シーアの実力は相当なものである。

「さっきの女顔の子かい?」

「さっきの人……!」

「君が女なら放っておかないんだけど……残念だ、デイテールで生き残れている様子だと、やっぱりそれ相応の実力はあるね。名前を聞かせてもらってもいいかな?」

「戦闘中にそんな馴れ合いなんか!」

レイは怒った。これ以上馬鹿にされたくない気持ちが高ぶり、それが怒りに変わったのだ。だがシーアは全く動じず、余裕の表情を見せ続ける。

「あ、怒った?ごめんごめん。ってね!」

不意打ちを狙って、ミサイルを放出してきた。シールドを破壊されているデイテールは逃げ続けるしか出来ない。ネルソンはこのミサイルを狙い撃つために、肩部のビーム砲を動かして放出した。デイテールにエグゼマーのミサイルが直撃すれば、最悪死は免れない。レイは必死だった。

「くぅ……!逃げつつミサイルの迎撃をしないと!」

後退しつつも、デイテールもビームライフルでミサイルを狙い撃った。が、ミサイルのスピードが想像以上に早く、そして迫ってくるので迎撃が間に合わない。

「そんな!?」

このままではデイテールが破壊され、レイは死んでしまう。彼はすでにミサイルの動きは見切っているのだが、機体が追い付いてくれないのだ。

しかし幸いな事にネルソンがこれらのミサイルを全て撃ち落としてくれた。結果的に彼は生き延びることが出来た。

「ありがとうございます!」

「やはり旧式では無理があるな……もういい、後退しろ。我々でどうにかする。」

「でも!僕も戦います!」

彼も必死だった。助けられた恩を返そうと、戦いを続けようとする。

「機体性能が違い過ぎるのだ!デイテールで戦うのはもうよした方がいい。後退しろ!」

「は……はい……」

言われるまま、レイは後退することにした。あくまでも、自分は期待されており、セイントバードに欠かせない人材だと自覚しているレイはネルソンの言葉を嫌に思う事無く、寧ろありがたく思って帰還を始めた。それを追おうとするシーアだが、ネルソンがそれを阻止する。

「邪魔はさせん!」

先程レイを襲ったミサイルと同様にネルソンもミサイルを放出した。エグゼマーはこれを見た瞬間に、MAに変形しては一度その戦闘域から離れた。

「く、厄介だな……」

このままでは危ういと感じたシーアは、一度セイントバードに近づくことを諦め、前線から後退して行った。が、ネルソンはそれを許さず、追い討ちを掛ける為に追い続ける。

「あの機体は放置しておけば犠牲者が他に出かねない。それだけパイロットが優秀と言う事か……。変わり者であることに変わりはないのだが。」

そう言いつつも、肩部のビームキャノンでエグゼマーを狙う。が、エグゼマーは素早い動きで避け続ける。その直後にジョゼフが三機、ハルッグの前に現れた。

いくら改修されているハルッグとはいえ、流石に、三機を目の前にして戦うのは辛い。ネルソンは追撃を中断し、目標をこれらに変更した――

 

ガキィン

 

その瞬間だった。MA形態のハルッグの背後から、別のエグゼマーがハルッグのバーニアを掴んだのだ。その為身動きがとれず、変形しようにも出来ない。その上バーニアを押さえられているので振り切ろうにも振り切れないのだ。

「クッ……油断したか!」

操縦桿を引いても無駄だった。全く動じないのである。その間にも、三機のジョゼフはそれぞれがモノアイを輝かせ、ビームライフルやビームサーベルを構えて、ハルッグを破壊しようとしていた。

 

 

 

ネルソンが襲われる数十分前、戦闘中にも関わらずリルムは再び部屋を出ていた。ウィリアを部屋に送った後、一人走ってブリッジに向かっていたのだ。理由は単純だった。何か恩返しがしたい……ただそれだけなのだ。そして彼女は前にエリィが言っていた台詞を思い出していた。

 

―――――――――まあ、強いて言えば砲撃手が足りないぐらいだけど――――――――

 

つまり、彼女は砲撃を行おうとする為にブリッジでエリィと話をしようと考えていたのだ。自分も何かの役に立ちたい、ただ恩を受けるだけは嫌だ……リルムの想いが、この行動を起こすのだった。

「あの!」

やがてリルムはブリッジに着き、さっそくエリィに話をした。

「リルムさん!どうしたの?今は戦闘中なのに……危ないよ!部屋に戻って……」

「あの、砲撃手……だっけ?確か前に、足りませんって言ってましたよね?」

「え……?」

確かに彼女はそれを言った。しかし何故リルムがその台詞を言うのか、疑問に思えて仕方がなかった。

「あの、私お手伝いがしたいです!砲撃手、やらせて下さい!」

まさか、リルムがこのような台詞を述べるなど誰が予想しただろう。誰も予想しなかったに違いない。だが彼女は自ら志願して砲撃手をしたいと言ったのだ。スラッグとインクはこれに目を見開かせるばかりだが、その中をエリィは冷静に言った。

「あのね、リルムさん。人殺しってしたことある?」

「え……!?」

今度はエリィが、信じられないような台詞を言った。リルムは動揺し、首を横に振った。

「そりゃそうだよ。貴方の置かれた環境だったなら、普通は、少年犯罪とかでもしない限り人殺しなんてしない。当たり前だよ。でもね、貴方は砲撃手をしたいって言ったよね。それってつまり人殺しをしたいって言っているようなもの。あのMS達は人間が操縦している。つまり狙い撃てば中の人間を殺す事になるかも知れない。それ、意味が分かるかな?」

それは、レイが行ってきている事だ。彼はチームを守る為に、敵を殺している。それはエリィが今まで行ってきた、チームの為に人を殺しているという事と同義である。

 リルムはそれを聞き、困惑した。何せ、最初自らが否定していた事を、行おうとしているのだから。

 チームの為に役立つという事。今は不足している砲撃手を行うという事。だが全く経験のない自分がやれる事なのかと、最初、躊躇った。

「セインドバードの機関砲はある程度オートマチックであって、機械が分析して狙ってくれる部分はある。けれど、正確な射撃は難しい。戦闘時はMSでの運用が前提で作られている戦艦だからね。だから敵が迫った時、人が必要なの。混戦状況とかで敵機体を攻撃する時とかは、特に。それでも砲撃手をやりたいのなら、やっても良いよ。けど……後悔するかどうかは……自分で考えて。」

彼女は必死に悩んだ。恩返しはしたい。しかし人殺しはしたくない。この揺れ動く天秤は彼女を惑わす。けれども、リルムはどうしても手伝いをしたいという気持ちが強かった。

 オスロでの一件でエリィの事を理解出来た。そして、ここが大変な状況とは言え、困難を乗り越えようとしていると理解した。だからこそ、何かをしたい。

無論、このまま大人しく部屋に戻る事も出来る。しかし、それでは何も出来ないまま終わる。彼女はそれが嫌だったのだ。彼女の中で、揺れ動く心。その間にも敵機体は迫る。攻撃を受けているセイントバードを守るには、行動しかない――リルムは悩んだ挙句、答えを述べた。

「お役に立てるかは、分かりませんけど……。」

「本気みたい……だね。」

すると、エリィは側にあったコンピュータを使い、部屋の名称を読み上げた。

「ここから30メートル先、左側通路奥。そこが今、使えていない場所。行くかどうかは、貴方が決めて。」

エリィの言葉を聞き、リルムは頷き、すぐにブリッジを去った。

 

 

 

エリィに言われた場所は、グリップが複数置かれている場所だった。そこのフロアには、数人程度だが、懸命にグリップを握り、砲撃を行っていた。余りに真剣に敵を攻撃する人達のその光景を見て、リルムは若干怯えてしまった。しかし、自分で決めた事なのだから、それを今更訂正する訳にはいかないと、思っていた。

ここにいる殆どは、手の空いた整備士達である。普段は温厚な整備士達であったが、この状況では温厚とは言い難いものがあった。整備士長のミシェはMSデッキから離れられない状況であり、彼等が人員を割き、敵機体へ攻撃を仕掛けているのだ。

「おい!そこの子、何しにしている!?大人しく部屋に戻ってろ!!」

整備士の厳しい言葉はリルムを驚かせ、足を一歩引かせた。表情の雲行きも怪しくなり、彼女は震え上がっていた。しかし、それでも恩を返さない訳にはいかなかった。彼女は勇気を出して言った。

「わ……私にも手伝わせて下さい!お願いします!」

「な……何を言ってる!?」

一人の整備士は驚かずにいられなかった。このような少女が、砲撃を手伝いたいと言い出すのだ。普通なら整備士はすぐに断る。しかし、人手が足りないのは、事実だ。

 セイントバードの機関砲は正確な射撃に特化していない。オートマチックに対応しているのは単体のMSのみ。確実に敵を迎撃するには人の力が必要。故に、人手不足になる。

 だから、砲撃手の存在必要で、藁をも掴む存在だ。故に、はっきりと断る事が出来ない。

「クソ、人手不足だから……手伝ってくれるなら、覚悟しておけよ、お嬢ちゃん。」

静かに整備士は言った。リルムははっきりとした声で

「……はい!」

と、言った。だが状況が不安なのには、変わりがない。

 

 やがて整備士に案内され、リルムはそこに座らされた。今まで握った事のないグリップを握る、リルム。

「いいか、砲撃に関してあんたみたいなお嬢ちゃんがこんな真似をするなんて危険過ぎる。だから気をつけろよ。やめたくなったらいつでも言え。」

「は……はい!」

その後、整備士は砲撃についての説明を軽く済ませた。リルムはそれをどうにか理解し、空いていた砲座に座り、ゴクリと唾を飲んで、スコープを覗き込んだ。

そこには、三機のジョゼフに囲まれたハルッグの姿があった。

「えっと……白色で、一つ目の方を狙えばいいんですよね?しかも三体も居る……」

「それはジョゼフだな。見えている機体がそれならそれを狙うんだ。くれぐれも、味方には絶対に当てるなよ。」

リルムは、MSの事に関してはアインスやツヴァイの事程度しか知らない。MSに関しては全くと言って良い程詳しくないのだ。しかし、今目の前にいる敵は倒さなければならない。リルムは、冷や汗を流して狙いを絞った。

 

カチッ

 

より良く狙いを絞った後、リルムはスイッチを押した。すると機関砲が発射され、それは敵機であるジョゼフに直撃し、機体を退かせた。

「きゃああ!」

今まで感じた事のない両手への振動は尋常ではない。スイッチを押した瞬間に感じた手の震えは尋常ではなく、これが実弾を放つという事だと、彼女は感じたのである。

そして、彼女が機関砲を放った瞬間というのは、丁度ネルソンがジョゼフに襲われていた時であった。それを、リルムが救ったのだ。突然の機関砲による攻撃に困惑したジョゼフは、その場を離れ、またハルッグのバーニアを掴んでいたエグゼマーもそこから離れたのである。

「あの人を助けられた!?よ、よし……」

恐怖はあったが、この行動でネルソンは助かったのである。自分が、少しでも貢献することが出来た。この喜びを噛み締め、引き続き、次の敵を探す為に再びスコープで覗き込んだ。

が、その時だった。敵のエグゼマーが機関砲に向け、攻撃を仕掛けてきた。ミサイルでそれらを破壊した時、別の砲座に座っていた整備士は爆死した。ミサイルが当たった部分には穴が開き、剥き出しになってしまっていた。

「う……嘘……」

リルムは恐怖を覚えた。今自分のやっている事は、人を殺すことでもあり、殺されることでもあるのだ、と、本能で感じ取ったのである。この光景を見た彼女は震え上がり、何も出来なかった。

「ちぃ、もう部屋に戻れ!その年で死にたくねぇだろ!」

「あ……は……はい……」

今回は素直に整備士に従った。その部屋から離れ、急いで自室へ戻っていく。今まで、戦いと言う言葉は、彼女にとっては他人事だった。しかし今、その光景を目の当たりにしている。リルムは恐怖心で満たされてしまっていた。

 結局、僅かな行動しか出来なかったリルム。不幸中の幸いか、彼女は人を殺さなかった。だが、人が死ぬ危険性のある場所であると痛感したリルムは、その恐怖に支配されていたのである。

 

 

 

戦況はネルソンやガーストの活躍もあってか、徐々に有利になりつつあった。しかし敵側のエース、シーアのエグゼマーが脅威であることには変わりがない。レイのデイテールも援護射撃を行う程度に留まり、自身の行動を自重していた。

スバキのアインスも順調に敵機を破壊していく。しかしある一機のジョゼフをビームサーベルで破壊した時、敵戦艦であるマドラ級の収束ビーム砲がアインスに向けて発射された。シールドを構えてどうにかそれを防ぐのだが、この攻撃を受けてシールドが破壊されてしまった。戦艦の主砲の威力が高かった為だ。

「うぅっ!こんなもんでやられるか!」

シールドを失ったが、それでも戦うスバキ。数が減りつつある敵機に対してミサイル攻撃を加えていく。それと同時にビームライフルを連射し、ジョゼフを破壊した。

この時、敵戦艦のマドラ級が急に宙域から離脱しようとしていた。その為か、敵機が次々と後退していき、撤退していく。当然、その中にはシーアのエグゼマーの姿もあった。

「セイントバード……はは、恐ろしい戦艦だ。興味が湧いてきた。また、会えたら会いたいな。それより……さっきのデイテールのパイロット、見た事があるんだよなぁ。うーん。」

独り言を呟きつつ、エグゼマーは撤退。これに次いで、ジョゼフの部隊も撤退を開始した。

 

 

 

やがて戦闘は終了。この戦いで数名が命を落とした。突然の新生連邦の強襲は、今の彼等にとって非常に辛いものがあった。艦にとってのエースであるレイだが、今はツヴァイガンダムが無い状況では大きく貢献が出来ない。

「お疲れ様だな。デイテールで死ななかっただけでも大したもんだ。」

戦闘中は必死に砲撃手としてセイントバードから砲撃を続けていたミシェ。パイロット達が戻ってきたと同時に彼も姿を現し、デイテールに搭乗していたレイに対して褒めた。

「いえ……でも……やっぱり役に立てなかったです。デウス帝国の旧式だからでしょうか……」

普段ならツヴァイやアインスで敵機を撃破していたレイ。だが、今回ばかりはどうしても役に立てなかった。それが彼にとって悔しかったのである。

「今更そればっかり嘆いていても仕方がねえだろうが。お前はよくやった。あの機体で生き残れただけでも優秀だってことだ。普通デウスの旧式で最新鋭の連邦のMSとやり合うなんて余程の熟練パイロットじゃないと無理な話だぞ。それをお前はやったんだ。それだけでも十分だってことだ。ま、落ち込むなよ。次にもし敵が現れたら、またデイテールで出撃するか砲座に座ってセイントバードの主砲の手伝いでもしてくれればいい。早い話が、オーストラリアに着くまではお前の出番はないってことだな。」

「え、ええ……」

それは理解出来ていたが、やはり彼の中では悔しいものがあった。皆は頑張ってセイントバードを守っているのに、今は、大きく貢献出来ない。それがどうしても歯痒く感じていたレイは、ミシェに頭を下げた後にその場から離れた。

そのすぐ後、ミシェはガーストの元に寄って来た。丁度彼はエスディアから降りようとしていたところで、声をかけられたガーストは目をぱちぱちとさせてミシェを見る。

「御苦労。しかしその機体もそろそろ敵のMSに対応できていないんじゃねえか?さっきの戦いを見る限り、エグゼマーに苦戦していたな。あのエグゼマーのパイロット、それ相応の実力を持っていると見えた。」

「はい……まあ……強いですよ、あのパイロットは……変でしたけど。」

「変?」

「ええ、何でも、俺のエスディアに対してやネルソンさんのハルッグに対しても何やら妙な通信回線を開いて、それぞれのMSに対して自分の感想を述べていたんです。おかしいと思いませんか?」

ミシェは少し考えるように下を向いた。何か思い当たることがあるのか、その時間が長かった。そこへネルソンがやって来た。ミシェはすぐさまネルソンの方向を見る。

「お疲れ。ハルッグの調子は?」

「どうにか。しかしあのエグゼマーのパイロットが気になりますね。」

「お前もか。そんな妙な奴が連邦に居るんだな。連邦も人材不足なのか?」

「さあ、分かりかねます。」

ネルソンと接する時はまるで人が変わったように表情の切り替えが早かったミシェだが、妙な会話を持ちかけてきたエグゼマーのパイロット、シーア・マックスの話題になると再び考え事を始めた。無論、彼等はそのエグゼマーのパイロットがシーアである事など知るはずが無い。そもそも、シーア・マックスと言う名前自体を、彼等が知る筈がないのである。

 

 

 

やがて時間が経過した。その間に敵に出会う事が無かった為、クルー全員は平穏に過ごすことが出来た。とは言え、受けたダメージは、まだ残っている。特に、新生連邦のエグゼマーによってダメージを受けた、機関砲の部分は内部から補強はしているが、それでも脆い状態であることに変わりはない。一発でも何らかの衝撃が加われば爆発を起こし、更に被害が誘発してしまう危険性がある。しかしそれ以外はそれ程大したダメージを受けていない。唯一、それが救いだった。

 レイは自室のベッドの上天井を眺め、呆然とした状態で、先の戦闘で戦ったパイロットの事を思い出していた。シーア・マックス。戦闘中にMSの事についてやたらと聞いてくる妙な青年の存在。何故、敵である筈の彼に対して既視感を覚えていたのだろか……と、思っていた。

「あの人、やっぱり見覚えがある……でも、思い出せない……会った事があるのかな……?」

敵である筈なのに、何故既視感を覚えているのかは不明だ。初対面の筈なのに覚えのある人間。それが、彼には分からない。

 

ウィィィィィン

 

その時、扉が開いた。すぐにその方向に目を向ける、レイ。

 そこに居たのは、リルムであった。どこか、虚な表情を浮かべている彼女。やがてそのままレイの側に寄り、そして、ベッドに座る。

「どうしたの、リルム。」

慌てた様子で起き上がり、ベッド端座位姿勢をとる、レイ。

「あのね、レイ。レイは、戦ってて怖くないの?」

「え……?」

突然開かれた、リルムの口から聞こえてくる言葉。あまりに突然過ぎる内容だったので、最初レイは彼女が何を言っているのかが分からなかった。数秒間、間を開けると、レイはようやく彼女の言いたい事が理解できた。

「……うん、怖い。とても……怖い。」

そうは言ったものの、リルムから見て、レイはあまり恐怖を感じているようには見えなかった。これは何度も戦ってきたレイの慣れなのか、リルムはレイに対し、違和感を覚えている。

「本当に怖いの……?」

彼女が抱く戦いに対する恐怖と、レイの抱く戦いの恐怖では余りに差がありすぎた。つまり、これは慣れの差である。

レイは何度も戦場に出て、戦い抜いてきた。一方のリルムは初めての砲撃で、そこに撃ち込まれたミサイルによって人が死ぬ姿を目撃している為ただ、震えているだけだ。

人を殺める行為自体、戦場と関係のない平和な環境からすれば非人道的行為だ。だが戦場となればそうは言っていられない。それを行う場合、最初は慣れていない為に、苦悩する。レイも、そうだった。

しかしレイは今、どこか、慣れてしまっている節がある。それは何も感じなくなってしまう。守りたいものを守る為に戦うと言うレイなのだが、人を殺すことに関して罪悪感は、最初にアインスに乗った時よりも非常に薄れていた。

「あの、リルム……戦いが怖いって突然言ったけど……それはどうして?」

「え……っと……」

「あ、さっきも言ったけど無理には言わなくても良いよ。でも……僕としては言って欲しいかも。だってそれだけだとよく分からないから。」

確かにリルムの言いたい事がレイに伝わる筈がない。それは分かっていた。しかしどうしても言い辛いのだ。とは言え、このまま何も言わなければ意味が分からないまま終わってしまう。だから、リルムは勇気を出して、唾を一口飲んで静かに口を開けた。

「あのね、私さっきの戦闘で砲撃手をやってみたの。機関砲の……砲撃手。」

「リルムが!?」

まさかの発言だった。彼の幼馴染であり、ごく普通に育って来た筈の彼女が、砲撃手?信じられる筈がない。だが、彼女はその口から言葉を発したのである。

「私、どうしてもお手伝いがしたくて、それで……エリィさんは砲撃手が不足してるって話をしてたから、それを聞いて……実際に砲座に座ったの。でもね……でも……その時に敵のロボットの攻撃を受けて、人が死んだ瞬間を見てから……怖くなって……」

語る時、身体を震わせている、リルム。先の出来事が、思い出されているのだ。

「……レイは常に死ぬ事を考えて戦ってるんでしょう?それで……怖くないのかなって思って……」

リルムの言いたい事が理解できた。彼女の手伝いたいと言う、健気な思いは結局恐怖を与えることに繋がってしまったのだ。それで、悩んだリルムは言い辛そうな仕草を見せつつも、レイにそれを打ち明けた。彼はそれを聞き、戸惑いを見せながらも答えた。

「そりゃ、死ぬとなったら誰だって怖いよ。でもね、戦わなきゃみんなが危ない。だから僕は戦う。みんなを守るために……怖がってなんていられないよ。僕自身、何回も死にかけた。でもその度にいろんな人に助けられている。僕が、ただ悪運が強いだけなんだろうけど、それでもやっぱり怖がってなんていられないんだ。」

彼女は、長年レイと一緒にいる。幼馴染である為だ。だが、このような立派な姿のレイを見たのは初めてだった。

幼い頃から彼は大人しく、気弱な性格だった為にからかわれたりすることも多々あった。だがそのような、レイが、このような言葉を言ったのだ。長い間一緒に居る筈のリルムにとっては、信じがたい様子だった。

「なんかね、レイじゃないみたい。」

「え!?」

「レイって凄いよね。一度でもそんな風に死にかけたりしたら普通は怖がって戦いなんてしたくないと思うよ?」

「それは……僕がただおかしいだけなのかも。普通だったらどんなに僕より明るくて積極的な人でも死にかけたりしたらもう戦いとかしたくないものだと思う。でも……僕は違う。何て言うのか……怖いはずなのに、死に対して恐怖心を持っていないのかも知れない。そりゃ、敵の攻撃がコクピットに迫ってきたら怖い気持ちにはなる。でも、それ以外では悪いようには考えない。何でだろう……よく分からない。怖い筈の死が怖くないって……変だよね……」

今までの戦いで、レイは自分から戦いを拒むことはなかった。本来それは勇敢で、名誉な事なのだが彼はそれを自慢げに話すどころか、悲観的に話している。

普通は誰もが感じる、死の恐怖。しかし戦いにおいてレイは死を間際にしても恐怖を覚えない。ただ、仲間を守らなければならないと言う使命感が彼を動かしているのだ。

軍等に身を置いても一度でも死ぬような思いをすれば誰もが恐怖を覚え、二度とそのような思いをしたくないと考えてそこから逃げ出したい気持ちになる者も多いだろう。しかし彼はそのような気持ちにならないどころか、自分からMSに乗って戦っている。

ジェルヴァに世話になっていた時でも、ジョゼフに乗って出撃し、活躍し、褒め崇められた。それが、優越感を得ると同時に彼の中で不安が生じていた。それが、人とは違うと言う事である。

何故、彼は一度ならず何度も死ぬような思いをしているのに、恐怖を覚えず自らMSに乗る事を拒まないのか。それは、彼自身にも分からない。怖さは、ある筈なのに。ある意味、恐怖よりも使命感が上回っているから、そうなるのかも知れない。

「いいじゃない。」

リルムは、それに迷うレイに対してそっと言った。

「レイがそう感じるなら、それでいいと思う。レイがそんな風に志の強い人なら、それでいいじゃない。臆病じゃないなら、それでいいじゃない。臆病である事が普通かもしれないけど、そう感じないのならそれでいいと思う。それで……ね。私、レイがね……そんなに勇敢な……性格なんて思わなかったもん……」

リルムの目元から、次第に涙が溢れてきた。先の戦闘の怖さが、今になって伝わってきたのだろうか。彼に事実を伝え、それが感情を零したのか。

「初めて……知った……本当に……始めて……それに比べたら私なんて……臆病だなぁ……怖いよ……死にたくない……」

その涙が指すものを、レイは察することが出来た。それと同時に自分が情けなく思えてしまった。死の恐怖をまともに感じられなかったからだ。今のレイには、彼女を慰める事など出来ない。どうすれば良いか、分からない。

「リルム……」

「わ、私……何泣いてるんだろう……泣くことなんてないのにね……?臆病だから、泣いちゃうのかな……?」

死への恐怖をまともに抱く少女と、それを恐怖と分かっていてもまともに抱くことが出来ない少年。幼馴染である二人だったが、お互いの感性が明らかになったのは、この場が初めてだった。幼馴染だからと言って、お互いの事を何でも知っているとは限らないのである。 

何も考えずに過ごしていた過去とは違い、今は様々な事を不器用ながらも複雑に考えられる。それは良い事と同時に、辛い事でもあるのだ。真実を知ることになる為である。

こういう時、抱擁をするべきなのか。それも、分からない。幼馴染であり、恋人であるリルムが困惑しているという事実に、彼はどうすれば良いのだろう。

この状況では、リルムよりも寧ろレイの方が辛かった。何も言葉を掛けてあげられなかったからだ。とにかく今は側にいてやり、ただ、黙って過ごすしか出来なかった。

 




第六十六話、投了。

リルムは自分に出来る事をしようと健気に動きますが、やはり戦場の恐ろしさを感じてしまい、恐怖に怯えてしまう回でした。
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